知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10249号 判決 2013年9月25日
原告
テルモ株式会社
訴訟代理人弁護士
宮寺利幸
訴訟代理人弁理士
千葉剛宏
同
仲宗根康晴
同
大内秀治
同
坂井志郎
同
山野明
同
関口亨祐
訴訟復代理人弁理士
千馬隆之
被告
ルーメンド インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士
鈴木修
同
神田雄
訴訟代理人弁理士
佐久間滋
同
小見山泰明
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 特許庁が無効2011-800109号事件について平成24年5月28日にした審決中,「特許第4653104号の請求項2,9ないし14に係る発明についての審判請求は,成り立たない。審判費用は,その2分の1を請求人の負担とし,2分の1を被請求人の負担とする。」との部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
被告は,発明の名称を「血管閉塞部を開通させるためのカテーテル装置及び方法」とする特許第4653104号(平成16年6月10日出願(パリ条約による優先権主張 2003年6月10日及び同月13日),平成22年12月24日設定登録。以下「本件特許」という。下記訂正に基づく訂正後の請求項の数は28である。)の特許権者である。
原告は,平成23年6月29日,特許庁に対し,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,この審判を,無効2011-800109号事件として審理した。被告は,この審理の過程で,平成23年12月22日,本件特許の特許請求の範囲及び明細書について,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を理由とする訂正請求をした。
特許庁は,審理の結果,平成24年5月28日,「訂正を認める。特許第4653104号の請求項1,3ないし8に係る発明についての特許を無効とする。特許第4653104号の請求項2,9ないし14に係る発明についての審判請求は,成り立たない。審判費用は,その2分の1を請求人の負担とし,2分の1を被請求人の負担とする。」との審決をし,審決の謄本を,同年6月7日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲
前記1の訂正に基づく訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2,9ないし14の記載は,次のとおりである(以下,請求項2,9ないし14記載の発明を,請求項の番号に従い,順次「本件発明2」,「本件発明9」などといい,これらの発明を総称して「本件発明」という。また,上記訂正後の本件特許の明細書を「本件明細書」という。甲16,17)。
【請求項1】
カテーテル装置であって,
編み上げ管状部材を含むカテーテルシャフトであって,少なくとも1つの内側ポリマーライナーが前記編み上げ管状部材の内側面に結合しており,少なくとも1つの外側ポリマーラミネートが前記編み上げ管状部材の外側面に結合しており,前記外側ポリマーラミネートのポリマー材料が前記編み上げ管状部材の中に点在せしめられ且つ前記内側ポリマーライナーの外側面の編み目内に結合している前記カテーテルシャフトと,
前記カテーテルシャフト内の少なくとも1つの内腔と,を含み,
前記外側ポリマーラミネートが,各々が前記カテーテルシャフトの長さに沿った1以上の部分を形成している複数のポリマーを含んでおり,
前記複数のポリマーのうちの1以上が異なるデュロメータ値を有しており,前記複数のポリマーの各々が前記外側ポリマーラミネートの1以上の別個の領域を形成しており,
比較的低いデュロメータ値を有するポリマーが前記外側ポリマーラミネートの末端の別個の領域を形成しており,比較的高いデュロメータ値を有するポリマーが前記外側ポリマーラミネートの基端の別個の領域を形成しており,前記カテーテルシャフトの末端領域が,前記カテーテルシャフトの基端領域よりも相対的に高い可撓性を有していて,前記長さに沿った部分のデュロメータ値が,前記カテーテルシャフトの長手方向末端に向かって減少しており,
前記カテーテルシャフトが蛍光標識装置を含んでいる,カテーテル装置。
【請求項2】
カテーテル装置であって,
編み上げ管状部材を含むカテーテルシャフトであって,少なくとも1つの内側ポリマーライナーが前記編み上げ管状部材の内側面に結合しており,少なくとも1つの外側ポリマーラミネートが前記編み上げ管状部材の外側面に結合しており,前記外側ポリマーラミネートのポリマー材料が前記編み上げ管状部材の中に点在せしめられ且つ前記内側ポリマーライナーの外側面の編み目内に結合している前記カテーテルシャフトと,
前記カテーテルシャフト内の少なくとも1つの内腔と,を含み,
前記外側ポリマーラミネートが,各々が前記カテーテルシャフトの長さに沿った1以上の部分を形成している複数のポリマーを含んでおり,
前記複数のポリマーのうちの1以上が異なるデュロメータ値を有しており,前記複数のポリマーの各々が前記外側ポリマーラミネートの1以上の別個の領域を形成しており,比較的低いデュロメータ値を有するポリマーが前記外側ポリマーラミネートの末端の別個の領域を形成しており,
比較的高いデュロメータ値を有するポリマーが前記外側ポリマーラミネートの基端の別個の領域を形成しており,前記カテーテルシャフトの末端領域が,前記カテーテルシャフトの基端領域よりも相対的に高い可撓性を有していて,前記長さに沿った部分のデュロメータ値が,前記カテーテルシャフトの長手方向末端に向かって減少しており,
基端及び末端を有し且つガイドワイヤの周りをたどる構造とされた単一の内腔を形成している部材を含んでいるシース導入器を更に含んでおり,当該部材は,前記カテーテルシャフト内に挿入される構造とされており,前記部材が一杯まで挿入されたときに,前記部材の末端領域が前記カテーテルシャフトの末端を越えて延びる,カテーテル装置。
【請求項9】
請求項1に記載のカテーテル装置であって,
前記蛍光標識装置が,編み上げ管状部材の内側に第2の標識領域を含んでいるカテーテル装置。
【請求項10】
請求項2に記載のカテーテル装置であって,
前記シース導入器が,前記基端に少なくとも1つのハブを含み,該ハブは,前記シース導入器が前記カテーテルシャフト内に一杯まで挿入されたときに前記カテーテルの基端上のハブ内に係止する構造とされているカテーテル装置。
【請求項11】
請求項2に記載のカテーテル装置であって,
前記シース導入器が,前記部材の末端領域内に蛍光標識装置を更に含んでいるカテーテル装置。
【請求項12】
カテーテル装置であって,
編み上げ管状部材を含むカテーテルシャフトであって,少なくとも1つの内側ポリマーライナーが前記編み上げ管状部材の内側面に結合しており,少なくとも1つの外側ポリマーラミネートが前記編み上げ管状部材の外側面に結合しており,前記外側ポリマーラミネートのポリマー材料が前記編み上げ管状部材の中に点在せしめられ且つ前記内側ポリマーライナーの外側面の編み目内に結合しており,前記内側ポリマーライナーは前記カテーテルシャフト内の内腔を形成している前記カテーテルシャフトと,
基端及び末端を有し且つガイドワイヤの周りをたどる構造とされた単一の内腔を形成している部材を含んでいる導入器を更に含んでおり,当該部材は,前記カテーテルシャフト内に挿入される構造とされており,前記部材が一杯まで挿入されたときに,前記部材の末端領域が前記カテーテルシャフトの末端を越えて延びるようになされている前記導入器と,を含み,
前記外側ポリマーラミネートが,各々が前記カテーテルシャフトの長さに沿った1以上の部分を形成している複数のポリマーを含んでおり,
前記複数のポリマーのうちの1以上が異なるデュロメータ値を有しており,前記複数のポリマーの各々が前記外側ポリマーラミネートの1以上の別個の領域を形成しており,
比較的低いデュロメータ値を有するポリマーが前記外側ポリマーラミネートの末端の別個の領域を形成しており,比較的高いデュロメータ値を有するポリマーが前記外側ポリマーラミネートの基端の別個の領域を形成しており,前記カテーテルシャフトの末端領域が,前記カテーテルシャフトの基端領域よりも相対的に高い可撓性を有していて,前記長さに沿った部分のデュロメータ値が,前記カテーテルシャフトの長手方向末端に向かって減少している,カテーテル装置。
【請求項13】
請求項12に記載のカテーテル装置であって,
前記導入器が,前記基端に設けられた少なくとも1つのハブを更に含んでおり,当該ハブは,前記導入器が前記カテーテルシャフト内に一杯に挿入されたときに前記カテーテルシャフトの基端に設けられたハブ内に係止される構造とされているカテーテル装置。
【請求項14】
請求項12に記載のカテーテル装置であって,
前記カテーテルシャフト及び前記導入器のうちの少なくとも1つが,前記部材の末端領域内に蛍光標識装置を含んでいるカテーテル装置。
3 審決の理由
(1) 別紙審決書写しのとおりであるが,その概要は以下のとおりである。
ア 引用例
(ア) 特開2001-178814号公報(甲1。以下「甲1文献」といい,これに記載された発明を「甲1発明」という。)
(イ) 特開平10-43300号公報(甲2。以下「甲2文献」といい,これに記載された発明を「甲2発明」という。)
(ウ) 国際公開第01/07101号(甲3。以下「甲3文献」といい,これに記載された発明を「甲3発明」という。)
(エ) 特開昭63-238876号公報(甲4。以下「甲4文献」といい,これに記載された発明を「甲4発明」という。)
(オ) 特表平11-500939号公報(甲5。以下「甲5文献」といい,これに記載された発明を「甲5発明」という。)
イ 判断の要旨(訂正後の本件発明2,本件発明9ないし本件発明14についての部分に限る。)
本件発明2及び本件発明9は,いずれも,甲1発明又は甲2発明,及び甲1文献ないし甲5文献に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明10及び本件発明11は,本件発明2をそれぞれ引用するものであり,本件発明2が,甲1発明ないし甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件発明10及び本件発明11も,甲1発明ないし甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明12は,本件発明2と表現上の差異があるにすぎず,その余の点では一致しており,本件発明2が,甲1発明ないし甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件発明12も,甲1発明ないし甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明13及び本件発明14は,本件発明12をそれぞれ引用するものであり,本件発明12が,甲1発明ないし甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件発明13及び本件発明14も,甲1発明ないし甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上により,本件発明2,本件発明9ないし本件発明14は,いずれも,特許法29条2項の規定に基づき特許を受けることができないものとすることはできない。
(2) 審決が,上記結論を導くに当たり認定した,甲1発明及び甲2発明の内容,本件発明2及び本件発明9と甲1発明ないし甲2発明との一致点並びに相違点は,以下のとおりである。
ア 本件発明2及び本件発明9と甲1発明
(ア) 甲1発明の内容
「カテーテルチューブ1及び少なくとも1つの内腔からなる装置であって,
補強層(編組)6を含むカテーテルチューブ1であって,少なくとも1つのフッ素樹脂からなる内層チューブ4が補強層(編組)6の内側面に結合しており,少なくとも1つの熱可塑性樹脂からなる外層7が補強層(編組)6の外側面に結合しており,フッ素樹脂からなる内層チューブ4が補強層(編組)6及び熱可塑性樹脂からなる外層7に対して密着しているカテーテルチューブ1と,
カテーテルチューブ1内の少なくとも1つの内腔と,を含み,
熱可塑性樹脂からなる外層7が,後端側から先端(挿入先端部)側に従って順に,ショアD80のポリアミド系の外層樹脂7a,ショアD60のポリアミド系の外層樹脂7b,ショアD40のポリアミド系の外層樹脂7cから構成され,
外層7を形成する熱可塑性樹脂中には,造影剤として硫酸バリウム,酸化ビスマス,タングステンカーバイト等の微粒子が添加され,
内層チューブ4と外層7の二層構造となっており補強層(編組)6を有しない挿入先端部3は,良好な弾力性及び可撓性を発揮する,
カテーテルチューブ1及び少なくとも1つの内腔からなる装置。」
(イ) 本件発明2と甲1発明との一致点及び相違点
(一致点)
「カテーテル装置であって,
編み上げ管状部材を含むカテーテルシャフトであって,少なくとも1つの内側ポリマーライナーが編み上げ管状部材の内側面に結合しており,少なくとも1つの外側ポリマーラミネートが編み上げ管状部材の外側面に結合しており,外側ポリマーラミネートのポリマー材料が編み上げ管状部材の中に点在せしめられ且つ内側ポリマーライナーの外側面の編み目内に結合しているカテーテルシャフトと,
カテーテルシャフト内の少なくとも1つの内腔と,を含み,
外側ポリマーラミネートが,各々が前記カテーテルシャフトの長さに沿った1以上の部分を形成している複数のポリマーを含んでおり,
複数のポリマーのうちの1以上が異なるデュロメータ値を有しており,複数のポリマーの各々が外側ポリマーラミネートの1以上の別個の領域を形成しており,
比較的低いデュロメータ値を有するポリマーが外側ポリマーラミネートの末端の別個の領域を形成しており,比較的高いデュロメータ値を有するポリマーが外側ポリマーラミネートの基端の別個の領域を形成しており,カテーテルシャフトの末端領域が,カテーテルシャフトの基端領域よりも相対的に高い可撓性を有していて,長さに沿った部分のデュロメータ値が,カテーテルシャフトの長手方向末端に向かって減少している,
カテーテル装置。」
(相違点2-1)
本件発明2では,「基端及び末端を有し且つガイドワイヤの周りをたどる構造とされた単一の内腔を形成している部材を含んでいるシース導入器を更に含んでおり,当該部材は,前記カテーテルシャフト内に挿入される構造とされており,前記部材が一杯まで挿入されたときに,前記部材の末端領域が前記カテーテルシャフトの末端を越えて延びる」のに対し,甲1発明では,そのような構成を有していない点。
(ウ) 本件発明9と甲1発明との一致点及び相違点
(一致点)
本件発明2と甲1発明との一致点と同旨
(相違点1-1)
審決が「実質的な相違点とはいえない」と判断しているため,その記載を省略する。
(相違点9-1)
本件発明9では,「蛍光標識装置が,編み上げ管状部材の内側に第2の標識領域を含んでいる」のに対して,甲1発明では,そのような構成を有していない点。
イ 本件発明2及び本件発明9と甲2発明
(ア) 甲2発明の内容
「カテーテルであって,
強化用編組を含む管状体であって,少なくとも1つの第1のポリマー層が強化用編組の内側面に結合しており,少なくとも1つの第2のポリマー層が強化用編組の外側面に結合している管状体と,
管状体内の少なくとも1つの内腔と,
管状体の先端に接合された円環状の柔軟チップ部材とを含み,
第2のポリマー層が,それぞれのチューブが隣接するチューブに当接し,重ならない位置に配置される第1,第2及び第3のチューブを含んでおり,第2のポリマー層は管状体の先端部において約30D,管状体の手元部において約90Dの硬度とされ,
柔軟チップ部材は,硫酸バリウムまたはその他の放射線不透過フィラーを添加することによって放射線不透過とされ,
柔軟チップ部材が丸くされた末端領域を有する,カテーテル。」
(イ) 本件発明2と甲2発明との一致点及び相違点
(一致点)
「カテーテル装置であって,
編み上げ管状部材を含むカテーテルシャフトであって,少なくとも1つの内側ポリマーライナーが編み上げ管状部材の内側面に結合しており,少なくとも1つの外側ポリマーラミネートが編み上げ管状部材の外側面に結合しているカテーテルシャフトと,
カテーテルシャフト内の少なくとも1つの内腔と,を含み,
外側ポリマーラミネートが,各々が前記カテーテルシャフトの長さに沿った1以上の部分を形成している複数のポリマーを含んでおり,
複数のポリマーのうちの1以上が異なるデュロメータ値を有しており,複数のポリマーの各々が外側ポリマーラミネートの1以上の別個の領域を形成しており,
比較的低いデュロメータ値を有するポリマーが外側ポリマーラミネートの末端の別個の領域を形成しており,比較的高いデュロメータ値を有するポリマーが外側ポリマーラミネートの基端の別個の領域を形成しており,カテーテルシャフトの末端領域が,カテーテルシャフトの基端領域よりも相対的に高い可撓性を有していて,長さに沿った部分のデュロメータ値が,カテーテルシャフトの長手方向末端に向かって減少している,
カテーテル装置。」
(相違点1-2-1)
審決が容易想到と判断しているため,その記載を省略する。
(相違点2-2)
本件発明2と甲1発明との相違点2-1と同旨(ただし,「甲1発明」を「甲2発明」と読み替える。)
(ウ) 本件発明9と甲2発明との一致点及び相違点
(一致点)
本件発明2と甲2発明との一致点と同旨
(相違点1-2-1)及び(相違点1-2-2)
審決が容易想到ないし実質的な相違点とはいえないと判断しているため,その記載を省略する。
(相違点9-2)
本件発明9と甲1発明との相違点9-1と同旨(ただし,「甲1発明」を「甲2発明」と読み替える。)
第3原告の主張
1 取消事由1(本件発明2の認定の誤り並びに相違点2-1及び同2-2に関する甲4発明の認定判断の誤り)
(1) 本件発明2の「シース導入器」の認定の誤り
審決は,本件明細書の記載を参酌の上,「本件発明2の『シース導入器』は,シースカテーテルの末端の先端縁が血管内に進入せしめられるときに,該先端縁による血管の壁のスカイビング(削り取り),すなわち血管の壁の損傷を防止するという課題を達成するために,シースカテーテルの内側を支持しつつ,シース導入器中心ガイドワイヤ内腔365を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従する,すなわちガイドワイヤの周りをたどるという機能を奏するものと認められる。そして,本件明細書には,当該機能を奏するため,シースカテーテルの内径を約1.067mmとするのに対してシース導入器の外径を約0.991乃至1.062mm(シースカテーテルの内径に対するシース導入器の外径の割合は約93~100%)とするとともに,ガイドワイヤの直径を約0.356mmとするのに対してシース導入器の内径を約0.406乃至0.559mm(ガイドワイヤの直径に対するシース導入器の内径の割合は約114~157%)とすることが記載されている。」と認定した。
しかしながら,発明の要旨認定は,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるのが原則であるところ,本件発明2における「シース導入器」に関する記載は,それ自体で技術的意義を明確に把握することができるから,発明の詳細な説明,特にその実施の形態を参酌して限定的に解釈すべきではなく,本件発明2の請求項に記載された文言に従って認定されるべきである。
すなわち,本件発明2の「基端及び末端を有し且つガイドワイヤの周りをたどる構造とされた単一の内腔を形成している部材を含んでいるシース導入器」は,「基端及び末端を有し且つガイドワイヤに沿って進むことが可能な大きさの単一の内腔を有する部材を含んでいるシース導入器」と一義的に理解することができるから,ガイドワイヤの直径に対する「シース導入器」の内径の割合が約114ないし157%であると限定的に解釈すべき理由はない。また,「当該部材は,前記カテーテルシャフト内に挿入される構造とされており」についても,「当該部材」が「前記カテーテルシャフト」にさし入れられる構造とされているという意味に一義的に理解することができるから,シースカテーテルの内径に対する「シース導入器」の外径の割合が約93ないし100%であると限定的に解釈すべき理由はない。さらに,「前記部材が一杯まで挿入されたときに,前記部材の末端領域が前記カテーテルシャフトの末端を越えて延びる」についても,その記載自体で技術的意義を明確に理解することができる。
したがって,審決が,本件発明2の「シース導入器」について,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌することにより,「シースカテーテルの末端の先端縁が血管内に進入せしめられるときに,該先端縁による血管の壁のスカイビング…を防止するという課題を達成するために,シースカテーテルの内側を支持しつつ,シース導入器中心ガイドワイヤ内腔365を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従する」という機能を奏するものであり,シースカテーテルの内径に対する「シース導入器」の外径の割合は約93ないし100%であり,ガイドワイヤの直径に対する「シース導入器」の内径の割合は約114ないし157%であると認定したことは,本件発明2の要旨(技術的内容)の認定を誤っており,審決は,これに起因して,各相違点についての認定判断を誤る結果となったから,上記の認定には,審決の結論に影響を及ぼす違法がある。
(2) 甲4文献に本件発明2の「シース導入器」が開示されていることを看過した誤り
審決は,「甲第4号証の内側案内カテーテル13は,外側案内カテーテル12と協同して,ねじれ血管の詰った狭窄部およびまたは狭窄深部を通過するバルーンカテーテルに対して更なる支持を提供するためのものであって…外側案内カテーテル12が所定位置に来たのち,従来型のより小さな直径の案内ワイヤ46を貫通孔17を介して導入し,所望の血管すなわち狭窄部に向って前述する,案内ワイヤ46が所定位置に来たのち,内側案内カテーテル13を案内ワイヤ46に沿って導入し,さらに内側案内カテーテル13の末端部が外側案内カテーテル12の末端部を越えて伸びるまで貫通孔17に内側案内カテーテル13を導入するものである…。したがって,甲第4号証の内側案内カテーテル13は,…本件発明2の『シース導入器』と同様の課題を達成をするものとも,同様の機能を奏するものとも認められない。また,…シースカテーテルの内径及びガイドワイヤの直径に対する,シース導入器の外径及び内径の関係からみても,甲第4号証の内側案内カテーテル13が,本件発明2の『シース導入器』と同様の機能を奏するとはいえない。したがって,甲第4号証の『内側案内カテーテル13』は,本件発明2の『シース導入器』に対応するものとはいえない。よって,甲第4号証には,本件発明2の『シース導入器』について記載あるいは示唆があるとは認められない。」と認定した。
しかるに,甲4文献の記載に照らすと,甲4発明は,通過することが困難な血管を通り抜けることを可能とするために,内側案内カテーテル13を外側案内カテーテル12内に挿入し,外側案内カテーテル12の末端から内側案内カテーテル13の末端を突出させた状態で,外側案内カテーテル12及び内側案内カテーテル13を血管内で前進させるものであり,外側案内カテーテル12の末端の先端縁が血管内に進入せしめられるときに,内側案内カテーテル13は,外側案内カテーテル12の内側を支持するものということができる。
そして,カテーテルの技術分野において,血管内でカテーテルを前進させる際に,当該カテーテルの内腔に挿通させたガイドワイヤに沿って当該カテーテルを走行させることは技術常識であるから,甲4文献に接した当業者であれば,技術常識に照らして,甲4発明の外側案内カテーテル12と内側案内カテーテル13とを組み合わせた状態で血管内を前進させる際には,内側案内カテーテル13内にガイドワイヤが挿通されており,内側案内カテーテル13が外側案内カテーテル12を内側から支持しつつ,外側案内カテーテル12が当該ガイドワイヤに沿って,すなわちガイドワイヤをたどって前進することが容易に理解される。
以上によれば,甲4発明における内側案内カテーテル13とは,ガイドワイヤが挿通可能な貫通孔19が形成された内側案内カテーテル13であり,当該内側案内カテーテル13は,外側案内カテーテル12の内腔である貫通孔17に挿入可能となっており,外側案内カテーテル12の貫通孔17に内側案内カテーテル13を導入して前進させると,外側案内カテーテル12の末端から内側案内カテーテル13の末端が突出するものである。
この結果,甲4発明における「ガイドワイヤが挿通可能な貫通孔19が形成された内側案内カテーテル13」は,本件発明2の「基端及び末端を有し且つガイドワイヤの周りをたどる構造とされた単一の内腔を形成している部材を含んでいるシース導入器」に対応し,以下同様に,「当該内側案内カテーテル13は,外側案内カテーテル12の内腔である貫通孔17に挿入可能となっており」は「当該部材は,前記カテーテルシャフト内に挿入される構造とされており」に,「外側案内カテーテル12の貫通孔17に内側案内カテーテル13を導入して前進させると,外側案内カテーテル12の末端から内側案内カテーテル13の末端が突出する」は「前記部材が一杯まで挿入されたときに,前記部材の末端領域が前記カテーテルシャフトの末端を越えて延びる」に,それぞれ対応するから,甲4文献には,本件発明2の「シース導入器」についての明確な記載がある。
審決は,本件発明2の「シース導入器」を前記のとおりことさら限定して認定した結果,「シース導入器」に対応する構成が甲4文献に開示されていることを看過するに至ったのであり,かかる看過は,審決の結論に影響を与える誤りである。
そして,甲1発明及び甲4発明は,いずれもカテーテルに関するものである点で技術分野が共通するから,甲1発明に対して甲4発明の内側案内カテーテル13を採用することについて十分な動機付けがあるというべきである。よって,甲1発明に甲4発明の内側案内カテーテル13を採用することにより,相違点2-1に係る構成を導くことは,当業者が容易に想到できたことである。
(3) 本件発明2の「シース導入器」につき発明の詳細な説明を参酌したとしても,「シース導入器」が甲4文献に開示されていること
仮に,本件発明2の「シース導入器」について,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌したとしても,「シース導入器」の本質的意義(第1次的意義)は,シースカテーテルと組み合わせて使用することにより,大きな蛇行を有する血管内でも,シースカテーテルの末端を所望の血管位置まで送給するもの,ということができ,本件発明2の「シース導入器」は,大きな蛇行を有する血管内に追従し,所望の血管位置までシースカテーテルを送給するために,ガイドワイヤが送通可能な内腔を有し,かつシースカテーテルの内腔に挿入可能であり,シースカテーテルの末端を越えて「シース導入器」の末端が延びるように構成されたものと解される。
これに対し,甲4発明における内側案内カテーテル13は,通過することが困難な血管を通り抜けることを可能とするために,ガイドワイヤが送通可能な貫通孔19を有し,かつ外側案内カテーテル12を構成する管状部材16の内腔である貫通孔17に挿入可能であり,外側案内カテーテル12の末端から内側案内カテーテル13の末端が突出するものである。
そうすると,甲4発明における内側案内カテーテル13は,本件発明2の「シース導入器」と同様の機能を有するものであり,甲4文献には,本件発明2の「シース導入器」が明確に記載されている。
なお,本件明細書中,シースカテーテルの内径に対する「シース導入器」の外径の割合及びガイドワイヤの直径に対する「シース導入器」の内径の割合についての記載は,当該段落には血管の壁のスカイビングを防止することについて何らの記載もない以上,血管の壁のスカイビングを防止することとの関連で記載されたものとはいえないから,これらの記載を,血管の壁のスカイビングの防止という課題に関連付けて本件発明2の「シース導入器」の技術的意義を論じた審決の認定は,誤りである。
また,被告は,本件発明2の目的について,蛇行の大きい血管内で,「血管の壁を損傷することなく」シースカテーテルを所望の位置まで進ませることを可能かつ容易とするカテーテル装置を提供する点にあると主張する。しかし,スカイビングを防止することは,シースカテーテルの内側が「シース導入器」で支持されることによって達成されるところ,かかる構成は特許請求の範囲において特定されていない以上,スカイビングの防止は本件発明2の目的とは解されず,「シース導入器」の副次的(付随的)な役割にすぎないというべきである。
(4) 本件発明2の「シース導入器」につき審決の認定を前提としても,同「シース導入器」が甲4文献に開示されていること
仮に,本件発明2の「シース導入器」が審決の認定する内容のものであったとしても,甲4文献によれば,外側案内カテーテル12の内径に対する内側案内カテーテル13の外径の割合は約88%であり,内側案内カテーテル13が外側案内カテーテル12内に挿入された状態(内側案内カテーテル13と外側案内カテーテル12とを組み合わせた状態)では,外側案内カテーテル12の内周と内側案内カテーテル13の外周との隙間は極めて小さいから,内側案内カテーテル13は,外側案内カテーテル12の内側を支持するものであるということができ,審決が本件発明2の課題であると認定した「スカイビング(削り取り)」を回避することができること,内側案内カテーテル13は,その内腔である貫通孔17を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従する,すなわちガイドワイヤの周りをたどるという機能を奏するものであることからすると,甲4文献には,本件発明2の「シース導入器」が記載されていることになるから,「甲第4号証には,本件発明2の『シース導入器』について記載あるいは示唆があるとは認められない。」との審決の認定は,誤りである。
なお,仮に,シースカテーテルの内径に対する「シース導入器」の外径の割合が約93ないし100%であることが発明の詳細な説明に記載されている点を考慮しても,外側カテーテルと内側カテーテルとからなる2重カテーテルにおいて,外側カテーテルの内径と内側カテーテルの外径をどのように設定するかは,当業者が適宜設定し得る設計的事項であり,格別の困難性はない。
被告は,本件発明2と甲4発明との間には顕著な相違があると主張する。しかし,甲4発明における固定具は外側案内カテーテル12の基端側に設けられたルーエル形固定具(ハブ)31と内側案内カテーテル13の管状部材18との間に配置されるから,固定具の配置箇所についての被告の指摘は誤りであるし,バルーンカテーテルの導入や外側案内カテーテルと内側案内カテーテルとの使用手順に関する被告の指摘は,甲4発明において,外側案内カテーテルと内側案内カテーテルとを組み合わせた状態でガイドワイヤに沿って導入する使用形態を無視しており,かかる使用形態こそが本件発明2と対比すべきものであるから,失当である。
(5) 小括
以上によれば,審決の「甲第4号証には,本件発明2の『シース導入器』について記載あるいは示唆があるとは認められない。」との認定及び「よって,甲1発明及び甲第1ないし5号証に記載された技術事項に基づいて,相違点2-1に係る本件発明2の発明特定事項に想到することが,当業者が容易になし得たこととはいえない。」との判断は,いずれも誤りであり,かかる審決の判断の誤りは,本件発明2に係る審決の結論に影響を及ぼす違法がある。
そして,相違点2-1についての甲4発明に関する判断が誤りである以上,相違点2-2についての甲4発明に関する判断もまた誤りであり,かかる判断の誤りは,本件発明2に係る審決の結論に影響を及ぼす違法がある。
さらに,同様の理由により,本件発明2を引用する本件発明10及び本件発明11,本件発明2と実質的に一致しているとする本件発明12,本件発明12を引用する本件発明13及び本件発明14についての審決の判断も誤りであり,かかる判断の誤りはこれらの発明に係る審決の結論に影響を及ぼす違法がある。
2 取消事由2(相違点2-1及び同2-2に関する甲5発明の認定判断の誤り)
(1) 阻害要因についての審決の認定の誤り
審決は,「甲第5号証の内側ガイド60は,ガイドワイヤの周りをたどるという機能を奏するものといえる。しかしながら,甲第5号証は,第1実施形態として,ガイドカテーテル内腔23内に挿通させたトラッキングワイヤ48に沿って移動可能なブレイドレスガイドカテーテル22を開示し,第2実施形態として,ブレイドレスガイドカテーテル22及び内側ガイド60を備えた構成を開示していることからも明らかなとおり,ブレイドを備えた中間層を使用することなく患者の冠状動脈内に効果的に位置決めできるブレイドレスカテーテルを提供することを発明が解決しようとする課題とするものと認められる…。したがって,ブレイドレスの構成を採用することと,2重カテーテルの構成を採用することとは,技術的に関連するものであると認められるから,甲第5号証において,ブレイドレスに係る構成と,2重カテーテルに係る構成とは,互いに独立した技術的事項であるとはいえない。よって,甲1発明は,編み上げ管状部材,すなわちブレイドを有するカテーテル装置に関する発明であるから,甲1発明に,甲第5号証における,ブレイドを有さないブレイドレスカテーテルを実現するための内側ガイド60に関する構成を適用することには,阻害要因があると認められる。」と認定判断し,甲2発明についても同様の判断をした。
しかしながら,内側ガイド60はブレイドレスの構成を実現するための一手段にすぎないのであって,内側ガイド60を採用することが,ブレイドレスの構成を実現するための唯一の手段であるとはいえないから,内側ガイド60の構成とブレイドレスの構成とは技術的に一体不可分であるとはいえず,ブレイドレスの構成とは別個に,内側ガイド60の構成を独立した技術的事項として把握できる。よって,内側ガイド60が適用される対象が,ブレイドを備えないガイドカテーテル22だけに限定される理由はない。
また,本件特許の出願時において,外側カテーテルと内側カテーテルからなる2重カテーテルの構成は周知の技術的事項であるところ,かかる2重カテーテルにおいて,ブレイドを外側カテーテルのみに設けるのか,内側カテーテルのみに設けるのか,あるいは両方に設けるのかは,個々のカテーテルに求められる特性(性能)に応じて適宜選択されるべき事項である。このことに鑑みれば,当業者が甲5発明の内側ガイド60に着目して,当該内側ガイド60を他の外側カテーテルと組み合わせる際に,ブレイドを備えた外側カテーテルと組み合わせるのか,あるいは,ブレイドレスの外側カテーテルと組み合わせるのかは,当業者が任意に決定し得ることである。
したがって,甲1発明ないしは甲2発明がブレイドを備えたカテーテル装置に関するものであることが,甲1発明ないし甲2発明において甲5発明の内側ガイドを採用できない理由とはなり得ない。また,甲1発明の目的は,「優れた注入性や挿入性等を維持しつつトルク伝達性や操作性を向上させた新規なカテーテルチューブの製造方法を提供する」というものであるところ,甲1発明において甲5発明の内側ガイドを採用しても,甲1発明の前記目的に反することにはならないし,甲2発明においても同様である。
よって,甲1発明及び甲2発明において,甲5発明の内側ガイド60に係る構成を適用することに阻害要因があるということはできず,この点に関する審決の判断は誤りである。
なお,甲1発明ないし甲2発明において,甲5発明の内側ガイド60を備えることにより,被告の主張するように製造コストや時間が上乗せされるとしても,そのことは甲1発明ないし甲2発明の目的に何ら反するものではないばかりか,支持,トルク性,ねじれ抵抗が向上するというプラスの面があるから,不都合が高まるだけとの被告の主張には根拠がない。
(2) 甲1発明ないし甲2発明に甲5発明の内側ガイド60を採用することが容易想到であること
甲5文献の記載内容に照らせば,甲5発明の内側ガイド60は外側ガイドカテーテル22よりも長く,ガイドカテーテル22に内側ガイド60が一杯まで挿入されたとき,内側ガイド60の端部がガイドカテーテル22の端部より突出することは明らかである。そして,甲1発明及び甲2発明と甲5発明は,いずれもカテーテルに関するものである点で技術分野が共通するから,甲1発明ないし甲2発明において,甲5発明の内側ガイド60を採用することについて十分な動機付けがあるというべきである。
したがって,甲1発明及び甲2発明において,甲5発明の内側ガイド60を採用することにより,相違点2-1ないし同2-2に係る構成を導くことは,当業者が容易に想到できたことである。
なお,審決は,本件発明2の「シース導入器」について,「シースカテーテルの末端の先端縁が血管内に進入せしめられるときに,該先端縁による血管の壁のスカイビング(削り取り),すなわち血管の壁の損傷を防止するという課題を達成するために,シースカテーテルの内側を支持しつつ,シース導入器中心ガイドワイヤ内腔365を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従する,すなわちガイドワイヤの周りをたどるという機能を奏するものと認められる。」と認定している。
一方,甲5文献によると,内側ガイド60の外径は,ガイドカテーテル22の内腔内に摺動して挿入するように設定されているとともに,内側ガイド60の内径は,0.138mmのガイドワイヤの直径に対して0.150ないし0.154mm(ガイドワイヤの直径に対する内側ガイド60の内径の割合は約109ないし112%)とされている。ここに「摺動」とはこすれて動くという意味であることからすれば,甲5発明の内側ガイド60はガイドカテーテル22を内側から支持していることになり,また,ガイドワイヤの直径に対する内側ガイド60の内径の割合が上記のとおりであれば,内側ガイド60はガイドワイヤの外周上を追従することは明らかである。そうすると,甲5発明の内側ガイド60は,ガイドカテーテル22の内側を支持しつつ,内側ガイド60の内腔を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従する,すなわちガイドワイヤの周りをたどるという機能を奏するものである。
したがって,仮に,本件発明2の「シース導入器」が,審決が上記のとおり認定する内容のものであったとしても,甲5発明の内側ガイド60は,本件発明2の「シース導入器」に対応することになる。よって,本件発明2の「シース導入器」に関し,甲1発明ないし甲2発明において,甲5文献に記載された内側ガイド60を採用することにより,相違点2-1ないし同2-2に係る構成を導くことは,当業者が容易に想到できたことである。
(3) 小括
以上によれば,審決の甲1発明ないし甲2発明に,「甲第5号証における,ブレイドを有さないブレイドレスカテーテルを実現するための内側ガイド60に関する構成を適用することには,阻害要因があると認められる。」との認定判断,及び,甲1発明ないし甲2発明及び甲第1ないし5号証に記載された技術事項に基づいて,相違点2-1ないし同2-2に係る本件発明2の発明特定事項に想到することが,当業者が容易になし得たこととはいえない,との判断は,いずれも誤りであり,かかる審決の判断は,審決の結論に影響を及ぼす違法がある。
また,同様の理由により,本件発明10ないし14についての審決の判断も誤りであり,かかる判断の誤りはこれらの発明に係る審決の結論に影響を及ぼす違法がある。
3 取消事由3(相違点9-1及び同9-2についての判断の誤り)
審決は,相違点9-1について,「甲第1ないし5号証には,…『蛍光標識装置が,編み上げ管状部材の内側に第2の標識領域を含んでいる』点について記載も示唆もされているとは認められない。」「甲第2号証の段落【0024】に『内側ジャケット21の放射線不透過フィラー量は,5重量%以下,好ましくは,1重量%以下であること,さらに好ましくは,0.5重量%以下であることが,最も望ましくは0重量%であることが望ましい。』と記載されていることからみて,甲第2号証では,内側ジャケット21に放射線不透過フィラーを基本的に含まないことを想定していると認められるから,たとえ内側ジャケット21に放射線不透過フィラーが少量含まれるとしても,当該放射線不透過フィラーが『蛍光標識装置』すなわち『蛍光透視法に用いられる標識装置』…として機能し得るとして記載しているものとは認められない。」と認定した。
しかしながら,甲2文献の「内側ジャケット21の放射線不透過フィラー量は,5重量%以下…であることが望ましい。」との記載によれば,内側ジャケット21に放射線不透過フィラーを含み得る余地が残されていることは明らかである。そして,内側ジャケット21に放射線不透過フィラーが含まれる場合には,生体にX線を照射した際に,放射線不透過フィラーによってX線が遮蔽されることによって,放射線不透過フィラーを含む部分が観察可能となるのであるから,当該放射線不透過フィラーが「蛍光標識装置」として機能することは明らかである。
したがって,甲1文献ないし甲5文献には「蛍光標識装置が,編み上げ管状部材の内側に第2の標識領域を含んでいる」点について記載も示唆もないとの審決の上記認定は誤りである。
また,そもそも,放射線不透過材料をカテーテルのどの部分に設けるかは,造影性の発揮に支障がない範囲で当業者が適宜に設定し得る程度のことであるし,しかも,本件明細書には,「編み上げ管状部材の内側に第2の標識領域を含んでいる」点によっていかなる作用効果を生じるのかについて記載がなく,格別の作用効果が得られるものとも認められない。
さらに,カテーテルが内層,外層,中間層からなる場合に放射線不透過材料を含むことは周知の技術的事項であるから,内層に放射線不透過材料を設けることは,単なる設計的事項として,あるいは周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易になし得たことである。
したがって,甲1発明に相違点9-1に係る構成を導くことは,当業者が容易になし得たことである。
結局,審決は,相違点9-1に対する容易想到性の判断を誤ったものであり,また,そうである以上,相違点9-2についての判断もまた誤りである。かかる判断の誤りは,本件発明9に係る審決の結論に影響を及ぼす違法がある。
第4被告の主張
1 取消事由1について
(1) 本件発明2の「シース導入器」の認定について
原告は,本件発明2の「シース導入器」に関する記載は一義的に理解できるものであるから,本件明細書の記載を参酌して本件発明2の「シース導入器」の要旨(技術的内容)を認定した審決には誤りがあると主張する。
しかしながら,本件発明2の「ガイドワイヤの周りをたどる」や「カテーテルシャフト内に挿入される」等の記載の技術的意義は,特許請求の範囲の記載だけでは一義的に明確とはいえない。そこで,審決は,これらの意義を明らかにするため,「シース導入器」の奏する機能を本件明細書の記載を参酌して検討したものであり,甲4発明はかかる本件発明2の「シース導入器」と同様の課題を達成するものでも同様の機能を奏するものでもないことを理由に,甲4発明の内側案内カテーテル13は本件発明2の「シース導入器」に対応するものではないと判断したにすぎない。
審決が,本件明細書に記載されたシースカテーテルの内径,「シース導入器」の外径及び内径,ガイドワイヤの直径のそれぞれの値や相互の割合を認定しているのは,本件明細書に記載された実施例を手掛かりとして本件発明2の「シース導入器」の奏する機能を認定したにすぎず,それらの値や相互の割合を特許請求の範囲を限定する数値として用いるものではないし,特許請求の範囲に上位概念の記載があるところを本件明細書中の下位概念で認定するものでもない。
よって,本件発明2の「シース導入器」に係る審決の認定判断に誤りはない。
(2) 甲4文献には「シース導入器」についての記載や示唆はないこと
原告は,甲4文献には本件発明2の「シース導入器」は明確に記載されていると主張するとともに,本件明細書に記載されたシースカテーテルの内径に対する「シース導入器」の外径の割合及びガイドワイヤの直径に対する「シース導入器」の内径の割合は,血管の壁のスカイビングを防止することとの関連で記載されたものとはいえず,これらの割合を血管の壁のスカイビングを防止するという課題に関連づけて本件発明2の「シース導入器」の技術的意義を論じた審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,本件明細書は,【0042】及び【0087】において,ともに,ガイドワイヤの直径とシースカテーテルの基準内径とに差があること,したがってシースカテーテルの先端縁が血管の壁に対し露出すること,及び,シースカテーテルと「シース導入器」のアセンブリにおいては「シース導入器」がシースカテーテルの内側を支持すること,すなわちガイドワイヤとシースカテーテルの間の環状空間を満たすことを記載しており,このことから,両者は同じ技術的事項について述べていることは明らかである。
そして,本件明細書は,これらの記載を受けて,アセンブリにおけるシースカテーテルの内径に対する「シース導入器」の外径の割合及びガイドワイヤの直径に対する「シース導入器」の内径の割合を記載しているのであるから,これらの割合が血管の壁のスカイビングを防止することとの関連で記載されたものであることは明らかであり,これらの割合を血管の壁のスカイビングを防止するという課題に関連付けて本件発明2の「シース導入器」の技術的意義を論じた審決の認定に誤りはない。
そして,甲4発明が,通過することが困難な血管を通り抜けることを可能とするために実施されるものであったとしても,審決の述べるとおり,シースカテーテルの内径に対する「シース導入器」の外径の割合,及び,ガイドワイヤの直径に対する「シース導入器」の内径の割合の関係からみても,甲4発明の内側案内カテーテル13は本件発明2の「シース導入器」と同様の機能を奏するものではなく,甲4文献に本件発明2の「シース導入器」についての記載や示唆はない。
(3) 甲4文献に,審決の認定する「シース導入器」についての記載はないこと原告は,仮に本件発明2の「シース導入器」が審決の認定する内容のものであったとしても,甲4文献には本件発明2の「シース導入器」が記載されていると主張する。
しかし,本件発明2と甲4発明との間には顕著な相違があるため,甲4文献に本件発明2の「シース導入器」が記載されているとはいえず,甲1発明に甲4発明を適用することで本件発明2に容易に想到することができるとはいえない。
まず,甲4発明においては,外側案内カテーテル12と内側案内カテーテル13の間の空間には,両者をあらかじめ定められた位置に係止し保持するための,また両者の間から血液が漏えいすることを防止するための固定具が存在するのに対し,本件発明2にはこのような固定具はない。すなわち,甲4発明においては,固定具を設けるために外側案内カテーテル12と内側案内カテーテル13の間に一定の空間が必ず存在しなければならないのに対し,本件発明2においては,シースカテーテルと「シース導入器」の空間は極めて狭い旨が本件明細書に記載されているだけではなく,「シース導入器」がシースカテーテルを支持するためには当該空間は極めて狭いものであるべきとされる。この点において,両者には本質的な相違点が存在するのであり,原告の主張は,これを看過している点で失当である。
次に,甲4発明においては,内側案内カテーテルの中にバルーンカテーテルを導入することから,内側案内カテーテルとガイドワイヤ(案内ワイヤ)との間には,バルーンカテーテルを入れるための空間が必要である一方,本件発明2においては,一般的なガイドワイヤの直径と「シース導入器」の内径の間にはわずかな空間しかなく,両者の差は顕著である。すなわち,本件発明2では,シースカテーテルと「シース導入器」のアセンブリを目標とする血管部位まで到達させた後は,「シース導入器」は身体から取り外され,その後切開カテーテルや別のカテーテルが挿入されるのであり,バルーンカテーテルが「シース導入器」の中を通ることは予定されていないし,「シース導入器」は,ガイドワイヤとシースカテーテルとの間の環状空間を満たし,血管壁へのスカイビングを防ぐものであるから,ガイドワイヤと「シース導入器」との間の空間は狭くされる必要があるのである。
さらに,甲4発明においては,外側案内カテーテルを血管内の所定位置に置き,次にガイドワイヤを外側案内カテーテルの貫通孔を介して導入し,その後,内側案内カテーテルをガイドワイヤに沿って導入するのに対し,本件発明2は,まずガイドワイヤを血管内に挿入し,次にシースカテーテルと「シース導入器」のアセンブリを血管内に導入するものであり,両者には顕著な違いがある。この違いは,甲4発明が本件発明2と使用手順が異なることはもとより,甲4発明における内側案内カテーテルは,本件発明2の「シース導入器」のように,大きな蛇行を有する血管において血管の壁のスカイビングを防止しつつシースカテーテルを導入するという目的もなければ,それを達成するための機能を奏することもないことを意味する。
なお,原告は,外側カテーテルと内側カテーテルからなる2重カテーテルにおいて,外側カテーテルの内径と内側カテーテルの外径をどのように設定するかは,当業者が適宜設定し得る設計的事項であり,外側カテーテルの内径に対する内側カテーテルの外径が93%や95%になることに格別の困難性はないと主張するが,原告の主張は,製造者が外側カテーテルの内径や内側カテーテルの外径を自由に決められること,その選択の結果として偶然両カテーテルの空間が狭くなる場合もあり得ることをいうにすぎず,そのことから,本件発明2のように血管壁に対するスカイビングを避けるために,シースカテーテルと「シース導入器」をアセンブリとし,これがガイドワイヤの周りをたどるとの構成とすることが容易に想到されるものではない。
(4) 小括
以上のとおり,相違点2-1についての審決の判断に誤りがない以上,相違点2-2についての審決の判断にも誤りはなく,さらに,本件発明10ないし14についての審決の判断にも誤りはない。
2 取消事由2について
(1) 阻害要因の存在
甲5文献によれば,甲5発明の課題は,ブレイドを備えた中間層を使用することなく冠状動脈内に効果的に位置決めできるカテーテルを提供することであり,このような課題が設定されたのは,ブレイドを備えたカテーテルは製造コストや時間がかかること,ブレイドを備えた中間層の壁厚のためにカテーテルの外径に対する使用可能な内腔直径が制限されることという不都合があるためである。そして,ブレイドを備えた中間層の機能は,ガイドカテーテルを適切に位置決めするために十分なトルク性能とねじれ性能をカテーテルに提供することであるところ,内側ガイド60は,かかるブレイドを備えた中間層を持たないカテーテルに対し,ブレイドを備えた中間層に代わって,ガイドカテーテルの位置決めのための支持,トルク性,ねじれ抵抗を提供するという機能を奏するものである。
そして,甲5文献において,内側ガイド60は,ブレイドを備えた中間層を備えずに適切に位置決めされることが可能なカテーテルの提供という前述の課題を達成するための解決手段として記載されていることは明らかであり,甲5文献に接した当業者は,甲5発明においてブレイドレスの構成を採用することと,内側ガイドを用いた2重カテーテルの構成を採用することとは,技術的に関連するものであって,互いに独立した技術的事項ではないことを読み取るから,内側ガイドを用いた2重カテーテルの構成のみを甲1発明のようなブレイドを備えたカテーテル装置に適用することに容易に想到することはなく,それによって本件発明2に容易に想到することもない。甲5文献には,ブレイドを備える中間層の存在によって生じる製造コストや時間,カテーテルの内径の制限という不都合が明確に記載されているところ,ブレイドすなわち編組の補強層6を備える甲1発明においては,内側ガイドが奏する機能である支持,トルク性,ねじれ抵抗は補強層6によって既に与えられているから,内側ガイドを備えるべき理由がないばかりか,内側ガイドを備えるとその分だけ製造コストや時間が上乗せされ,カテーテルの内径が小さくなり,甲5文献が明記する不都合が高まるだけであるからである。
したがって,甲1発明に甲5発明における内側ガイド60に関する構成を採用することに阻害要因があるとした審決の判断に誤りはなく,取り消すべき違法性はない。
(2) 原告の主張に対する反論
原告は,甲5発明において内側ガイド60はブレイドレスの構成を実現するための唯一の手段ではないから,内側ガイド60の構成とブレイドレスの構成とは技術的に一体不可分とはいえないと主張する。しかし,内側ガイド60の適用対象が一般論としてブレイドを備えないカテーテルだけに限定されるかどうかが問題なのではなく,重要なのは,甲5文献に接した当業者がその技術的事項をどのように読み取るか,その読み取った事項を主引例である甲1発明に適用して本件発明2に想到することが容易かどうかであり,これが容易ではないことは前記のとおりである。
原告は,甲5発明の内側ガイドを採用しても甲1発明の目的に反しないから,阻害要因はないと主張する。しかし,引用発明において課題や目的として直接記載されたものに反する場合のみならず,副引用例等を引用発明に適用しても短所のみが生まれ長所が生まれないと認められる場合は,その副引用例等を引用発明に適用することには阻害要因があるというべきであり,原告の主張は失当である。
原告は,当業者が甲5発明の内側ガイド60を外側カテーテルと組み合わせる際に,ブレイドを備えた外側カテーテルと組み合わせるのか,ブレイドレスの外側カテーテルと組み合わせるのかは,当業者が任意に決定し得ることであると主張する。しかし,一般論として外側カテーテルにブレイドがある場合とない場合とが存在することが,甲5発明の内側ガイド60をブレイドを備えた外側カテーテルと組み合わせるのか,ブレイドレスの外側カテーテルと組み合わせるのかを当業者が任意に決定し得ることの理由とはならず,原告の主張は失当である。
(3) 甲5発明が「ガイドワイヤの周りをたどる」ものではないこと
仮に,甲5発明を甲1発明に適用したとしても,甲5文献は本件発明2における「ガイドワイヤの周りをたどる」ことを記載していないから,本件発明2に容易に想到することはできない。
甲5文献によれば,甲5発明においては,ガイドワイヤ及びカテーテルアセンブリ(ガイドカテーテルと内側ガイドからなる)が大腿部から体内へ挿入され,カテーテルアセンブリが大動脈弓まで進められた後,ガイドワイヤは取り除かれるのであり,その後,カテーテルアセンブリは患者の冠状系内の正しい位置まで到達するが,その際,ガイドワイヤを使用することは記載されておらず,ガイドワイヤの周りをたどって到達するものではない。本件発明2は,大きな蛇行を有する血管において血管の壁のスカイビング(損傷)を防ぐことを目的とするものであり,血管の壁のスカイビング(損傷)は,より細い血管の大きな蛇行をした箇所で発生しやすいものであるから,本件発明2にある「ガイドワイヤの周りをたどる」とは,冠動脈にある血管のように大きな蛇行を有する細い血管においてシースカテーテルと「シース導入器」のアセンブリのガイドワイヤへの追従を可能とするものである。よって,冠動脈においてガイドワイヤを使用しない甲5発明は,本件発明2と同様の機能を奏するものではなく,甲5文献には本件発明2における「ガイドワイヤの周りをたどる」ことが記載されていない。
なお,カテーテルの技術分野においては,カテーテルを冠動脈の入口まで進ませる際には直径の大きなガイドワイヤを使用し,カテーテルが冠動脈の入口に到達した後,直径のより小さな別のガイドワイヤを冠動脈に入れて閉塞部に到達させることがある。甲5発明においては,直径のより小さなガイドワイヤを冠動脈内で使用することが予定されていると想定されるところ,直径のより小さなガイドワイヤの直径は,典型的には0.356mmほどであるのに対し,甲5発明の内側ガイド60の内径は約0.965ないし1.016mmであるから,内側ガイドとガイドワイヤの間には約0.609ないし0.660mmの環状空間を生じることとなる。したがって,ガイドワイヤと「シース導入器」の間に約0.050ないし0.203mmというわずかな空間しかない実施例を開示し,大きな蛇行を有する血管内において「シース導入器」がガイドワイヤとシースカテーテルの間の環状空間を満たす本件発明2とは,顕著に相違する。
また,甲5文献には,内側ガイドの可撓性やガイドワイヤへの追従について何ら記載がないが,これは,甲5発明においては,ブレイドを有する中間層と同じ機能を奏しつつ製造コストや時間を改善しカテーテルの内径を大きくすることにのみ主眼があって,血管壁へのスカイビングの防止,そのためのガイドワイヤの周りをたどるという技術的思想がないことに起因する。
以上からすれば,仮に甲5発明を甲1発明に適用したとしても,本件発明2に想到することはできず,これと結論において同旨の審決の判断に誤りはない。
(4) 本件発明2と甲5発明との目的の違い
本件発明2において「シース導入器」を用いる目的は,蛇行の大きい血管内で,血管壁を損傷することなくシースカテーテルを所望の位置まで進ませることを可能かつ容易とする点にあるのに対し,甲5発明において内側ガイドを用いる目的は,ブレイドを備えた層を有しないガイドカテーテルに対し,ガイドカテーテルを導入及び配置中に,支持,トルク性及びねじれ抵抗を提供することである。このことからすると,甲5文献によって同文献に記載の内側ガイドが公知であったとしても,蛇行の大きい血管内で血管壁を損傷することなくシースカテーテルを所望の位置まで進ませることが記載されたものとはいえず,同文献にはそのような示唆はない。よって,内部カテーテルを有しない甲1発明から出発して,本件発明2の「シース導入器」の構成を採用することは,容易想到ではない。
(5) 小括
以上のとおり,相違点2-1についての審決の判断に誤りがない以上,相違点2-2についての審決の判断にも誤りはなく,さらに,本件発明10ないし本件発明14についての審決の判断にも誤りはない。
3 取消事由3について
原告は,甲2文献の記載によれば,内側ジャケット21に放射線不透過フィラーを含み得る余地が残されているので,審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,甲2文献には,内側ライナー21(内側ジャケット21と同じ)には放射線不透過フィラーを含まないことが望ましいと記載されているから,たとえ内側ジャケット21に放射線不透過フィラーが少量含まれるとしても,当該放射線不透過フィラーが「蛍光標識装置」として機能し得るとして記載されているとは認められないとした審決の認定に誤りはない。また,上記記載に接した当業者は,その記載を根拠とすれば放射線不透過フィラーを含ませない選択をすることが通常かつ合理的であり,その記載と正反対に放射線不透過フィラーを含ませる構成に想到することは容易ではない。そして,他に,相違点9-1及び同9-2に係る構成を示唆する証拠はない。
したがって,審決の判断に取り消すべき違法性はない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はないと判断する。その理由は次のとおりである。
1 取消事由1について
(1) 本件発明2の「シース導入器」の認定について
ア 原告は,本件発明2における「シース導入器」に関する記載は,それ自体で技術的意義を明確に把握することができるから,発明の詳細な説明,特にその実施の形態を参酌して限定的に解釈すべきではなく,本件発明2の請求項に記載された文言に従って認定されるべきであると主張する。
しかし,本件発明2の「シース導入器」との用語については,本件発明が属する技術分野において一義的に明確な意味を有する技術用語であると認めるに足りる証拠はなく,本件明細書にも「シース導入器」を定義した記載はなく,その特許請求の範囲の記載自体から,その意味を理解することは困難である。また,同「シース導入器」は,特許請求の範囲の記載において,「ガイドワイヤの周りをたどる」構造とされているが,その構造も,特許請求の範囲の記載から一義的に明確ではない。したがって,「シース導入器」とその「ガイドワイヤの周りをたどる」構造の意義を明らかにするためには,本件明細書の記載を参酌するのが相当である。
イ 本件明細書には,「シース導入器」に関し,次の記載がある(甲16,17)。
【好ましい実施形態の説明】
…
【0041】
…しかしながら,ある種の冠状の解剖学的構造においてよりしばしば見られるように,血管系がより大きな蛇行を有する用途に対しては,血管閉塞部位へのアクセスを得る代替的な方法が望ましいかも知れない。血管系の蛇行が先端の鈍い切開カテーテル及びシースカテーテルが一つの装置として進むには極端過ぎる場合には,より可撓性の高い給送機構によってシースカテーテルを最初に給送し,続いて,シースカテーテル内を血管閉塞部まで先端の鈍い切開カテーテルを給送することが望ましいかも知れない。シース導入期(ママ)は極めて可撓性のポリマーを含んでおり,従って,シースカテーテルとシース導入器との組み合わせは,アセンブリの末端に高度の可撓性を付与して,シースカテーテルの末端を所望の血管位置に給送しつつ,より高度の血管の蛇行内での追従を許容する。
【0042】
この代替的な方法においては,まず最初に,シースカテーテルが,一般的なガイドワイヤを介して血管閉塞部位へ直接給送される。しかしながら,典型的なガイドワイヤの直径は0.356mm(0.014インチ)であり,シースカテーテルの基準内径は約1.04mm(0.041インチ)であるけれども,シースカテーテルは,ガイドワイヤの周囲に沿って直接及び安全に追従されても良い。なぜならば,シースカテーテルの末端の先端は大きく露出されているからである。この露出された先端縁は,血管内に進入せしめられるときに血管の壁のスカイビング(削り取り)につながるかも知れない。シースカテーテルの先端縁によって血管の壁を損傷から防止するために,シースカテーテルは,(同じく,閉塞具と称される)シース導入器によって内側が支持されている。
【0043】
シース導入器は,シースカテーテルの長さ部分に沿ってシースカテーテル内に緩く嵌合している単一の内腔のスリーブであり且つ標準的な血管ガイドワイヤを収容するためにガイドワイヤ内腔を組み込んでいる。シース導入器の末端部分は,シースカテーテルの末端を越えて約0.5cm乃至3cmまで延びていても良いが,これに限定されない。シース導入器の末端部分は,追従を容易にするための少なくとも1つのテーパーが付けられた末端と,より非外傷性にするための丸くされた先端とを含んでいる。
【0045】
代替的な実施形態においては,シースカテーテル内に位置しているシース導入器スリーブの直径は第1の均一な直径であり,シースカテーテルの末端から延びているシース導入器の末端部分のみが,シース導入器からシースカテーテルへの移行部分が滑らか一(ママ)定の直径を形成するように第2の若干大きくされた直径とすることができる。この構造においては,シース導入器の末端部分は,依然として上記したように終端されていても良い。
【0047】
シースカテーテルを血管内に導入するための調製においては,シース導入器の末端は,シースカテーテルの基端ハブ内へ装填され且つシース導入器がシースカテーテルのハブ内へ圧入されるまで進入せしめられる。この構造においては,シース導入器の末端部分は,ガイドワイヤの周囲に沿う結合されたアセンブリの追従を容易にするために,シースカテーテルの末端を越えて約1ないし5cm延びているが,これに限定されない。ひとたび,所望の血管位置に配置されると,シース導入器及びガイドワイヤは一杯まで後退させ,シースカテーテルは所望の血管部位の定位置に残しても良い。シース導入器の末端部分の直径がシースカテーテルの外径に等しい実施形態に関して,シース導入器の先端は,十分に低いデュロメータ値のポリマーによって製造して,後退時にシース導入器がシースカテーテルから取り外されたときに先端が若干圧縮されても良いようにしても良い。
【0070】
図3aは,シースカテーテル300とシース導入器350とを含んでいる一実施形態によるカテーテル装置を示している。シースカテーテル300とシース導入器350とは,一つの装置として示されているが,これに限定されない。この構造においては,装置は,血管閉塞部位に近接した位置までシースカテーテルの末端330を給送するために,シース導入器350の中心内腔365を介して一般的なガイドワイヤの周囲を追従することができる。…使用中においては,シース導入器ハブ360は,シースカテーテルハブ310内に圧入することができて,シースカテーテル300とシース導入器350とを一緒に係止することができる。この構造においては,シース導入器300の末端部分380は,約0.5cm乃至5cmだけシースカテーテルの末端330から延びているが,これに限定されない。一般的なガイドワイヤの周囲を目標とする血管部位まで追従させることに続いて,ガイドワイヤ及びシース導入器350は取り外されて,シースカテーテル330が血管閉塞部の基端側の定位置に残され,そこで,先端の鈍い切開カテーテル100のような別のカテーテルがその中を通って血管閉塞部へと給送できる導管として機能するように位置決めされる。
【0086】
図4a,4b及び4cに関して,シース導入器は,ハブ360,シャフト370及び蛍光標識バンド385を含んでいる。このシース導入器350は,シースカテーテル300の内部に挿入されて,一杯まで挿入されたときに,シース導入器シャフト370の末端部分が約0.5cm乃至5cmだけシースカテーテル300の末端を越えて延びるようになされているが,これに限定されず,シース導入器の基端ハブ360は,シースカテーテルの基端ハブ310内に圧入されている。シース導入器シャフト370の外径は,先端の鈍い切開カテーテル100とシースカテーテル300との間の嵌合部として上記したシースカテーテル300の内径に対する密接した嵌合部を提供する。
【0087】
アセンブリとして,シース導入器/シースカテーテルは,シース導入器中心ガイドワイヤ内腔365を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従することができる。既に説明したように,シースカテーテル300は概してガイドワイヤの外周上を追従しない。なぜならば,シースカテーテル300の内径は約1.067mm(0.042インチ)の基準直径を有しており,一般的な冠状ガイドワイヤは約0.356mm(0.014インチ)の直径を有しているからである。従って,大きな環状の空隙が存在してシースカテーテルの先端縁を血管の壁に対して露出するからである。シース導入器は,ガイドワイヤとシースカテーテル300との間に2つのカテーテル間の環状空間を満たす物理的な接合面を提供している。
【0088】
一実施形態によるシース導入器シャフト370は,ガイドワイヤの外周での追従を改良し且つひとたび装置が適切な血管部位へと進入せしめられるとシースカテーテル300からのシース導入器350の後退を容易にさせる潤滑性材料を含んでいる。適切な潤滑性材料としては,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),高密度ポリエチレン(HDPE)又は低密度ポリエチレン(LDPE)がある。シース導入器シャフトの典型的な大きさは,約0.406乃至0.559mm(0.016乃至0.022インチ)の内径と,0.991乃至1.062mm(0.039乃至0.043インチ)の外径とを有しているが,この実施形態はこれらの寸法に限られない。シース導入器350をシースカテーテル300内へ一杯まで挿入すると,シース導入器シャフト370の所定の末端部分が,上記したように,シースカテーテル300の末端を越えて伸長する。この長さは,シース導入器350からシースカテーテル300までの滑らかな移行を許容し且つガイドワイヤの外周に沿った追従を容易にさせる。
【0092】
シース導入器の末端は,テーパーが付けられた形状又は丸い形状で終端することができる。先端の形状は,シースカテーテル300の末端の終端に対して説明したものと似た方法で熱成形される。これらの形状は,ガイドワイヤのためのシース導入器末端への滑らかな移行を提供し且つ特に危険な激しく疾患している血管内でのガイドワイヤの外周に沿ったシース導入器の末端の追従を助ける。
ウ 本件明細書の上記記載を参酌すると,本件発明2の「シース導入器」は,血管系がより大きな蛇行を有する用途に対して,血管閉塞部へのアクセスを得る代替的な方法として,シースカテーテルと組み合わせることにより,そのアセンブリの末端に高度の可撓性を付与して,シースカテーテルの末端を所望の血管位置に給送しつつ,より高度の血管の蛇行内でのガイドワイヤの外周上を追従することを許容するものであり,シースカテーテルの末端の露出された先端縁は,血管内に進入せしめられるときに血管の壁のスカイビング(削り取り)につながるおそれがあるため,シースカテーテルの先端縁によって血管の壁をそのような損傷から防止するために,シースカテーテルを内側から支持するものであり,その構造は,シースカテーテルの長さ部分に沿ってシースカテーテル内に緩く嵌合している単一の内腔のスリーブでありかつ標準的な血管ガイドワイヤを収容するためにガイドワイヤ内腔を組み込んでおり,その末端部分は,シースカテーテルの末端を越えて延びていても良く,ガイドワイヤの周囲に沿っての追従を容易にするために少なくとも1つのテーパーが付けられた末端と,より非外傷性にするための丸くされた末端とを含んでいるものであり,さらに,ガイドワイヤとシースカテーテルとの間に2つのカテーテル間の環状空間を満たす物理的な接合面を提供しており,これらの形状により,ガイドワイヤのための「シース導入器」末端への滑らかな移行を提供し,かつ特に危険な激しく疾患している血管内でのガイドワイヤの外周に沿った「シース導入器」の末端の追従を助ける,というものである。
以上に照らすと,本件発明2の「シース導入器」は,シースカテーテルの末端の先端縁が血管内に進入せしめられるときに,該先端縁による血管の壁のスカイビング(削り取り),すなわち血管の壁の損傷を防止するという課題を達成するために,シースカテーテルと組み合わされ,その内側を支持しつつ,その内側とガイドワイヤとの間の環状空間を物理的に満たし,「シース導入器」中心ガイドワイヤ内腔を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従するものと認められ,これと同旨の審決の認定に誤りはない。
また,本件明細書には,シースカテーテルの内径を約1.067mmとするのに対して「シース導入器」の外径を約0.991ないし1.062mm(シースカテーテルの内径に対する「シース導入器」の外径の割合は約93ないし100%)とするとともに,ガイドワイヤの直径を約0.356mmとするのに対して「シース導入器」の内径を約0.406ないし0.559mm(ガイドワイヤの直径に対する「シース導入器」の内径の割合は約114ないし157%)とする実施例が記載されており,この実施例の記載は,「シース導入器」の上記の技術的意義とも概ね整合し,これを裏付けるものであるということができる。なお,審決が,本件明細書に記載されたシースカテーテルの内径,シース導入器の外径及び内径,ガイドワイヤの直径のそれぞれの値や相互の割合を認定しているのは,本件明細書に記載された実施例を手掛かりとして本件発明2の「シース導入器」の奏する機能を認定したにすぎず,それらの値や相互の割合を特許請求の範囲を限定する数値として用いるものではないし,特許請求の範囲の「シース導入器」との記載を本件明細書中の実施例の「シース導入器」の外径,内径等の記載により限定解釈したものでもない。よって,本件発明2の「シース導入器」の要旨認定について,審決に誤りはなく,これに関する原告の主張は理由がない。
(2) 甲4発明における内側案内カテーテルについて
ア 原告は,特許請求の範囲に記載された「シース導入器」に対応する構成が甲4文献に開示されていると主張する。
しかし,本件発明2の「シース導入器」の意義が特許請求の範囲の文言から一義的に明らかであるとはいえず,これを明らかにするためには本件明細書の記載を参酌するべきであること,及び,審決が,本件明細書の記載を参酌した結果,「シース導入器」について,「シースカテーテルの末端の先端縁が血管内に進入せしめられるときに,該先端縁による血管の壁のスカイビング(削り取り),すなわち血管の壁の損傷を防止するという課題を達成するために,シースカテーテルの内側を支持しつつ,シース導入器中心ガイドワイヤ内腔365を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従する…という機能を奏する」と認定したことに誤りはないことは前記(1)認定のとおりである。そして,甲4文献に本件発明2の「シース導入器」に対応する構成が開示されているとの原告の上記主張は,「シース導入器」の奏するこのような機能について全く考慮していない点で既に誤りであるといわざるを得ない。
イ 原告は,甲4文献の記載に照らすと,甲4発明においては,外側案内カテーテルの末端から内側案内カテーテルを突出させた状態で,外側案内カテーテルと内側案内カテーテルを血管内で前進させるものであるから,内側案内カテーテルは外側案内カテーテルの内側を支持するものということができると主張する。
しかしながら,甲4文献には,外側案内カテーテルの末端から内側案内カテーテルを突出させた状態で,外側案内カテーテルと内側案内カテーテルを血管内で前進させるとの使用方法について記載されているとは認められず,むしろ,甲4文献には,内側案内カテーテルは,外側案内カテーテルが血管内の所定位置に来た後に同カテーテル内に導入され,同カテーテル内を前進するという使用方法が記載されていると認められることは,次に認定するとおりである。
(ア) 甲4文献の記載
甲4文献には以下の記載がある(甲4)。
「第1案内カテーテルとこの第1案内カテーテルの先端部を超えて延びる長さを有し第1案内カテーテルの内部に着脱自在に配置される第2案内カテーテルとを備え,上記第1案内カテーテルおよび第2案内カテーテルは,貫通孔を有する柔軟な細長い管状部材とこの管状部材の端部に固定される固定具とを備え,上記第1案内カテーテルの貫通孔は固定具を超えて延びる第2案内カテーテル部分が挿入し得る寸法に設定されていることを特徴とする案内カテーテル装置。」(特許請求の範囲1)
「〔発明が解決しようとする課題〕
本発明の目的は,案内カテーテルの外径を同じにしながら内径を大きくするようにした案内カテーテル装置およびその製造装置を提供することにある。
本発明の他の目的は,案内カテーテルに所望のねじり力を与えるようにした案内カテーテル装置を提供することにある。
本発明の他の目的は,案内カテーテルの肉厚を薄くしながら強度を強くするようにした案内カテーテル装置を提供することにある。」(2頁右下欄3行目ないし13行目)
「〔実施例〕
以下本発明の一実施例を図面につき説明する。
第1図において符号11は案内カテーテル装置であって,この案内カテーテル装置11は外側案内カテーテル12と内側案内カテーテル13とから構成されている。上記内側案内カテーテル13は外側案内カテーテル12の内部に着脱自在に配置され副案内カテーテルとして作用する。上記内側案内カテーテル13は外側案内カテーテル12の長さより長くなっていて,内側案内カテーテル13の端部が外側案内カテーテル12の端部より突出するようになっている。
上記外側案内カテーテル12と内側案内カテーテル13の各々は,貫通孔を有する柔軟な細長い管状部材で形成されており,したがって外側案内カテーテル12は細長い管状部材16の内部に貫通孔17を備え,内側案内カテーテル13は細長い管状部材18の内部に貫通孔19を備えている。」(3頁左上欄15行目ないし右上欄12行目)
「上記内側案内カテーテル13は,外径および壁厚を小さくしたことを除けば外側案内カテーテル12と同じ方法で作られる。管状部材18の外径は内側案内カテーテル13の一部を形成し,その寸法は管状部材16の孔の内径より小さく設定されている。したがって内側案内カテーテル13は,外径が1.75ミリ(0.070インチ)とされ,8フランス外側案内カテーテル12の孔17の内径2ミリ(0.080インチ)の中に挿入される。」(4頁左下欄16行目ないし右下欄4行目)
「特殊な困難な血管に出合った場合,副案内カテーテル,例えば第6図に示すような第2のすなわち内側案内カテーテル13を用いることが好ましい。」(5頁左下欄12行目ないし15行目)
「第2の案内カテーテル13を用いることによって,不可能ではないとしても困難であった第2動脈すなわち動脈の分岐管に対して,標準のカテーテル12を用いて通り抜けることが可能となる。第2のカテーテル13は,第2のカテーテルの末端部により大きな押圧力を加えることによって容易に前進することができる。これらのことは,その内部を第2のカテーテル13が前進する外側案内カテーテル12が,第2のカテーテル13の曲げおよびねじれを防止するよう機能し,それゆえその縦方向の強度を増加させるために可能となる。
このような形状のため,より薄い壁を有する第2のカテーテル13を用いることが可能となり,それゆえより小さな第2のカテーテルを提供することができる。」(5頁右下欄6行目ないし20行目)
「外側案内カテーテル12が所定位置に来たのち,従来型のより小さな直径の案内ワイヤ46が貫通孔17を介して導入され,所望の血管すなわち狭窄部に向って前述する,案内ワイヤ46が所定位置に来たのち,第2のカテーテルを案内ワイヤ46に沿って導入し,さらに第2のカテーテルの末端部が主案内カテーテル12の末端部を越えて伸びるまで貫通孔17に第2のカテーテルを導入することができる。そしてまた,第2のカテーテルは案内ワイヤに沿って前進して所望の狭窄部へ接近する。その後,低い形状のバルーン膨張カテーテルが第2の案内カテーテル内に導入され,そして案内ワイヤ46に沿って狭窄部に前進することができる。案内ワイヤ46は,その後取出すことができる。その後,狭窄部は従来の方法によってバルーン部を膨張させることによって拡大することができる。」(6頁左上欄1行目ないし17行目)
「第2のカテーテル13の主な利点は,外側案内カテーテルと協同して第2のカテーテル13が,ねじれ血管の詰った狭窄部およびまたは狭窄深部を通過するバルーンカテーテルに対して更なる支持を提供することである。」(6頁左上欄20行目ないし右上欄4行目)
(イ) 甲4発明の内側案内カテーテルの意義
甲4文献の上記記載によれば,甲4発明における案内カテーテル装置は,案内カテーテルの外径を同じにしながら内径を大きくすること,案内カテーテルに所望のねじり力を与えること,案内カテーテルの肉厚を薄くしながら強度を強くすることを目的として,第1案内カテーテル(外側案内カテーテル)とこの第1案内カテーテルの先端部を超えて延びる長さを有し第1案内カテーテルの内部に着脱自在に配置される第2案内カテーテル(内側案内カテーテル)とを備えた案内カテーテル装置である。そして,具体的な操作としては,外側案内カテーテルが所定位置に来た後,より小さな直径の案内ワイヤが貫通孔を介して導入され,所望の血管すなわち狭窄部に向かって前進し,案内ワイヤが所定位置に来た後,内側案内カテーテルを案内ワイヤに沿って導入し,さらに内側案内カテーテルの末端部が外側案内カテーテルの末端部を越えて伸びるまで貫通孔に内側案内カテーテルを導入することができ,そしてまた,内側案内カテーテルは案内ワイヤに沿って前進して所望の狭窄部へ接近し,その後,低い形状のバルーン膨張カテーテルが内側案内カテーテル内に導入され,そして案内ワイヤに沿って狭窄部に前進することができ,その後,案内ワイヤを取り出した上で,狭窄部はバルーン部を膨張させることによって拡大させることができるというものである。このように,甲4発明の内側案内カテーテルは,通り抜けることが困難な分岐管等の血管に対して通り抜けることを可能にするものであり,外側案内カテーテルが内側案内カテーテルの曲げ及びねじれを防止するように機能することから,内側案内カテーテルの末端部により大きな押圧力を加えることによって外側案内カテーテル内を容易に前進することができるものである。
(ウ) 検討
前記認定のとおり,本件発明2における「シース導入器」は,より大きく蛇行する血管に対して,シースカテーテルの先端縁による血管の壁のスカイビング(削り取り)を防止するため,シースカテーテルの末端を越えて伸びる状態でシースカテーテルの内側に組み合わされて導入され,シースカテーテルの内側を支持しつつその内側とガイドワイヤとの間の環状空間を物理的に満たすものであるのに対し,甲4発明における内側案内カテーテルは,通り抜けることが困難な分岐管等の血管に対して,外側案内カテーテルが所定位置に来た後,貫通孔を介して導入された案内ワイヤが所望の血管に向かって前進し,所定の位置に来た後に,外側案内カテーテル内に導入され,内側案内カテーテルの末端部が外側案内カテーテルの末端部を越えて伸びるまで同カテーテルの貫通孔に導入されるというものである。
そうすると,本件発明2の「シース導入器」が,血管の壁のスカイビング防止のためにシースカテーテルと組み合わされて血管内に導入されるのに対し,本件発明4の内側案内カテーテルは,外側案内カテーテルが所定位置に来た後,案内ワイヤの所定位置への導入後に,同カテーテル内に導入され,同カテーテル内を前進して同カテーテルの末端部を越えて伸びるという点で使用方法が相違しており,外側案内カテーテルの血管内への導入が内側案内カテーテルの導入に先行する点で血管の壁のスカイビング防止は予定されていないという機能面での相違があると認められる。
また,本件発明2の「シース導入器」がシースカテーテルの内側を支持しつつ,「シース導入器」中心ガイドワイヤ内腔を介して適切な血管部位までガイドワイヤの外周上を追従するものであるのに対し,内側案内カテーテルは,外側案内カテーテルが内側案内カテーテルの曲げ及びねじれを防止するよう機能するものであり,むしろ,外側案内カテーテルによって支持されているということができる。
以上によれば,甲4発明の内側案内カテーテルは,本件発明2の「シース導入器」とはその機能を異にするものであるから,甲4発明の内側案内カテーテルが本件発明2の「シース導入器」に相当するということはできず,したがって,甲1発明に甲4発明の構成を組み合わせたとしても,相違点2-1に係る本件発明2の構成とすることはできず,同様に,甲2発明に甲4発明の構成を組み合わせたとしても,相違点2-2に係る本件発明2の構成とすることはできない。
以上と同旨の審決の認定及び判断に誤りはない。原告の前記主張は,甲4発明の内側案内カテーテルの使用方法についての誤った理解を前提とするものであり,採用することができない。
ウ 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌したとしても,本件発明2の「シース導入器」の本質的意義に照らすと,甲4発明の内側案内カテーテルは,本件発明2の「シース導入器」と同様の機能を有すると主張する。しかしながら,かかる原告の主張は,血管の壁のスカイビングを防止するためにシースカテーテルの内側を支持するという本件発明2の「シース導入器」の技術的意義について考慮することなく「シース導入器」と内側案内カテーテルの異同について論じている点で誤りであることは,前記アと同様である。
エ 原告は,本件発明2の「シース導入器」につき審決の認定を前提としても,外側案内カテーテルの内周と内側案内カテーテルの外周との隙間が極めて小さいことや,内側案内カテーテルはガイドワイヤの周りをたどるという機能を奏するものであることからすると,甲4文献には本件発明2の「シース導入器」が記載されていると主張する。
しかしながら,甲4発明においては,外側案内カテーテルの血管内への導入が内側案内カテーテルの導入に先行する点で血管の壁のスカイビング防止は予定されていないと認められることは前記イ認定のとおりであるから,上記の原告の指摘を踏まえても,甲4文献に本件発明2の「シース導入器」についての記載があるとは解されず,原告の上記主張を採用することはできない。
2 取消事由2について
原告は,審決が「甲1発明は,編み上げ管状部材,すなわちブレイドを有するカテーテル装置に関する発明であるから,甲1発明に,甲第5号証における,ブレイドを有さないブレイドレスカテーテルを実現するための内側ガイド60に関する構成を適用することには,阻害要因があると認められる。」と認定判断し,甲2発明についても同旨の認定判断をしたことにつき,①甲5発明の内側ガイド60はブレイドレスカテーテルの構成を実現するための一手段にすぎないから,内側ガイド60の構成とブレイドレスカテーテルの構成とは技術的に一体不可分とはいえず,内側ガイド60が適用される対象が,ブレイドを備えないカテーテルだけに限定される理由はない,②外側カテーテルと内側カテーテルからなる2重カテーテルの構成は周知の技術的事項であり,かかる2重カテーテルのどちらにブレイドを設けるのかは個々のカテーテルに求められる特性(性能)に応じて適宜選択されるべき事項であるから,甲5発明の内側ガイドを,ブレイドを備えた外側カテーテルと組み合わせるのか,ブレイドレスの外側カテーテルと組み合わせるのかは,当業者が任意に決定し得ることであると主張する。そこで,甲1発明又は甲2発明に甲5発明を組み合わせることに阻害理由があるかどうかについて,次に判断する。
(1) 甲1発明及び甲2発明について
甲1発明は,第2の3(2)アに記載のとおり,カテーテルチューブ及び少なくとも1つの内腔からなる装置であって,カテーテルチューブは,内層チューブが補強層(編組)の内側面に結合し,外層が補強層(編組)の外側面に結合しており,内層チューブが補強層(編組)及び外層に対して密着している構造となっているものである。
また,甲2発明は,第2の3(2)イに記載のとおり,強化用編組を含む管状体のカテーテルであって,強化用編組の内側面と外側面にそれぞれポリマー層が結合している構造となっているものである。
このように,甲1発明及び甲2発明におけるカテーテルは,補強層ないし強化用編組という類似の構造を有する。そして,甲1文献(甲1)には,「一般に,このカテーテルチューブは,血管や尿道等を利用して生体内に挿入されるようになっていることから,特に挿入時において,途中の血管壁や臓器等を傷つけることなく正確に生体内の所定の箇所まで到達できるような高い操作性と安全性が要求されている。」(【0003】),「そのため,従来のカテーテルチューブは,挿入時に血管壁や臓器等を傷つけることなく,かつ曲げやすく弾力性に富んだチューブ挿入先端部と,この挿入先端部を生体内に押し込んで所定の箇所まで確実に到達させるために補強されたチューブ状のトルク伝達部とから構成されている。」(【0004】),「図示するように,このカテーテルチューブ1は,補強されたチューブ状のトルク伝達部2の先端部に,弾力性に富んだ挿入先端部3が連続的に形成された構造となっている。」(【0016】),「このトルク伝達部2は,図1及び図2(A)に示すように,フッ素樹脂からなる内層チューブ4の外側に金属線や繊維等の線材5からなる補強層(編組)6が被覆形成されると共に,その外側にさらに同じく熱可塑性樹脂からなる外層7が被覆形成されたものであり,この補強層6によって潰れや曲げ抵抗が向上して良好なトルク伝達性が発揮されるようになっている。」(【0017】)との記載があることに照らすと,甲1発明における上記の補強層(編組)は,カテーテルに生体内への挿入時におけるトルク伝達性と操作性を付与する機能を有するものと認められる。また,甲2発明における強化用編組も同様であると認められる(甲2)。
(2) 甲5発明について
ア 甲5文献の記載
甲5文献には,甲5発明について,以下の記載がある(甲5)。
「発明の概要
本発明は従来の診断カテーテルまたはガイドカテーテルの機能と同等の機能を有する一方で,ブレイドを有さない簡単な構造を備えたガイドカテーテルまたは診断カテーテルに関する。」(8頁10行目ないし13行目)「ガイドカテーテル及び診断カテーテルの技術的焦点は捻れに対する抵抗及びトルク応答をカテーテル管状部材内に提供するデザインの実現にある。カテーテルは患者の脈管系の曲がりくねった通路に沿って曲げ,かつ案内することと,治療処置を行うべく内腔の開放を維持するとともに,カテーテルの先端チップを治療対象冠状動脈付近に案内し,かつ位置決めすることを実現すべく,カテーテルの基端部分の操作をカテーテルのチップ,即ち先端に伝達する必要がある。これを実現すべく,カテーテルは捻れに対する抵抗及びトルク応答を有する必要がある。
これらの性能的特徴を実現すべく,ガイドカテーテルは同カテーテルの管構造に組み込まれたブレイドまたはコイルを含む3つの層からなる管状部材を一般的に有する。…中間層はトルク制御を実現すべく編組ワイヤ(フィラメント)または螺旋状に包まれたワイヤ(フィラメント)を含む。…ブレイドを備えたカテーテルは製造に更に多くのコスト,時間及び製造空間を必要とする。更に,ブレイドを備えたカテーテルは性能に関する制限を有する。この制限はブレイドを備えた中間層を実現するための更に大きな壁厚を含み,同大きな壁厚は任意の外径に対する使用可能な内腔直径を制限する。
ブレイドを備えた中間層の主な機能は,ガイドカテーテルを冠状動脈内に適切に位置決めすべく十分なトルク性能及び捻れ性能をカテーテル本体に提供することにある。…」(10頁19行目ないし11頁18行目)
「本発明はブレイドを備えた中間層を使用することなく患者の冠状動脈内に効果的に位置決めできるカテーテル(ガイドカテーテルまたは診断カテーテル)を提供する。本発明のガイドカテーテルはトラッキングワイヤの使用を含む。…」(11頁20行目ないし22行目)
「本発明のガイドカテーテル22はブレイドを備えた層を有さない。この結果,本発明のガイドカテーテル22はブレイドを備えた中間層を含み,かつ任意の外径を有する従来のガイドカテーテルより大きい内径を有し得る。外径に対する内径の大きさを最大限にすることにより,ガイドカテーテル22は最大限の染料流量と,カテーテルを挿入するための最大限の内径とを含む高い性能を提供し得る。」(12頁23行目ないし28行目)
「図2を参照すると,本発明の別の実施形態のガイドカテーテルアッセンブリ20が概して示されている。カテーテルアッセンブリ20は,ガイドカテーテル22及び内側ガイド部材60を含む。ガイドカテーテル22の構造は,図1において先に図示及び説明されたガイドカテーテル22の構造と似通い得る。内側ガイド60を備えるカテーテルアッセンブリ20は,従来のガイドカテーテルの機能を奏し得る,簡素なブレイドレスカテーテルのデザインを医師に提供する。」(15頁24行目ないし16頁1行目)
「内側ガイド60の外径は,ガイドカテーテル22の内腔内にて摺動して挿入するように設定されている。内側ガイド60の外径は,患者の冠状アナトミー(coronary anatomy)内にてガイドカテーテル27を配置するための支持,トルク性,及びねじれ抵抗を提供するのに充分な大きさである。内側ガイド60の内腔68の外径は,標準的なカテーテル処置ガイドワイヤを収容するように設定されている。好ましい実施形態において,0.035インチ(0.138ミリメートル)のガイドワイヤを収容するために,内側ガイド60の内腔68の外径は,0.038インチ(0.150ミリメートル)から0.040インチ(0.154ミリメートル)の間である。
内側ガイド60がガイドカテーテル22の内腔32内に挿入されるとき,内側ガイドのハブアッセンブリ70は,ガイドカテーテル22のハブアッセンブリ34に接続する。内側ガイド60のハブアッセンブリ70をガイドカテーテル22のハブアッセンブリ34にロックすることにより,内側ガイド60は,ガイドカテーテル22を冠状アナトミー内の所望の位置へ配置するとともに,トルクを付与するために使用され得る。内側ガイド60は,患者の脈管系内にてガイドカテーテルを導入及び配置中に,ブレイドレスガイドカテーテル22に対して,支持,トルク性,及びねじれ抵抗を提供する。内側ガイド60は,ガイドカテーテル22の先端30から超えて延びても,延びていなくてもよい。」(16頁24行目ないし17頁14行目)
「使用に際して,大腿部の動脈に皮膚を通じて挿入され,患者の脈管系へカテーテルアッセンブリのためにアクセスを提供するために動脈中へ鞘が挿入される。ガイドワイヤは,好ましくは0.035インチ(0.138ミリメーター)のワイヤが大腿部の鞘を通じて患者の脈管系中へ挿入されるとともに,大動脈弓まで進められる。内側ガイド60は,カテーテルアッセンブリ20を形成するために,ハブアッセンブリ70がハブアッセンブリ34にロックした状態で,ガイドカテーテル22内へ挿入される。カテーテルアッセンブリ20は,大腿部導入鞘を通じてガイドワイヤを導くとともに,大動脈弓まで進められる。カテーテルアッセンブリ20が大動脈弓まで進められるとき,内側ガイド60は,ブレイドレスガイドカテーテルに対して,支持,ねじれ抵抗,及びトルク性を提供する。
カテーテルアッセンブリ20が大動脈弓まで進められた後,ガイドワイヤは取り除かれる。…
ここで,カテーテルアッセンブリ20は,同アッセンブリ20が処置を受ける血管の小孔に係合されるまで進められるとともに回転される。一旦,ガイドカテーテル22が所望の小孔内で係合すると,内側ガイド60は取り除かれてもよい。内側ガイドハブアッセンブリ70に取り付けられたルエール(luer)及びカテーテルハブアッセンブリ34はロックされておらず,内側ハブアッセンブリ70はカテーテルハブアッセンブリ34とは非接続状態である。内側ガイド60は引き出され,かつ取り除かれる。
内側ガイド60は,患者の冠状アナトミー内にてガイドカテーテル22を位置決めするために,ガイドカテーテル22に対してトルク性,及びねじれ抵抗を提供する。一旦,ガイドカテーテル22が患者の冠状系内にて正しく配置されると,ねじれ抵抗及びトルク性は不要となり,内側ガイド60は取り除かれる。内側ガイド60の除去後,従来のガイドカテーテルを使用するときのように,医師は,例えばバルーン膨張システムを使用して患部を処置する。」(18頁2行目ないし19頁1行目)
イ 甲5発明における「内側ガイド60」(以下,単に「内側ガイド」という。)の意義について
前記アのとおりの甲5文献の記載によれば,カテーテルは,その操作性を実現するために必要なねじれに対する抵抗及びトルク応答を提供するため,一般的には中間層に編組ワイヤなどからなるブレイドを有するところ,ブレイドを備えたカテーテルは製造に多くのコストや時間等を必要とするとともに,ブレイドを備えた中間層を実現するためにさらに大きな壁厚を必要とし,外径に対する使用可能な内腔直径を制限するという性能上の制約を有することとなるという技術的課題が存在する。そこで,甲5発明は,ブレイドを備えた中間層を使用することなく患者の冠状動脈内に効果的に位置決めできるカテーテルを提供することを目的とし,その態様の一つとして,ガイドカテーテル及び内側ガイドを含むカテーテルアッセンブリの構成が示され,内側ガイドは,ガイドカテーテルの内腔内に摺動して挿入されるように設定され,ブレイドを備えた層を有さないガイドカテーテルの内腔内に挿入されるとき,内側ガイドのハブアッセンブリをガイドカテーテルのハブアッセンブリにロックすることにより,内側ガイドは,患者の脈管系内にてガイドカテーテルを導入中及び配置中に,ブレイドレスガイドカテーテルに対して,支持,トルク性及びねじれ抵抗を提供するという機能を奏するのであり,このような構成を採用することにより,ガイドカテーテルを,ブレイドを備えた中間層を含む場合と比較してより大きい内径とすることが可能となるものである。
(3) 甲1発明及び甲2発明に甲5発明における内側ガイドの構成を適用することに対する阻害要因の有無
前記(2)イのとおりの意義を有する甲5発明の内側ガイドは,外側のカテーテルの内腔内に挿入されて使用されるという点においては,本件発明2の「シース導入器」と共通するものの,内側ガイドは,ブレイドを備えた中間層のないガイドカテーテルに,ブレイドを備えたガイドカテーテルと同様の機能を奏させるために,ブレイドを備えないガイドカテーテル内に挿入され,これに支持,トルク性及びねじれ抵抗を提供するものであるから,ブレイドを備えないガイドカテーテルとは技術的に一体不可分のものであると認められる。そうすると,上記のような内側ガイドを,ブレイドを備えないガイドカテーテルとは独立の構成として位置付けることはできないというべきである。
一方,前記(1)のとおり,甲1発明及び甲2発明においては,カテーテルの中間層に補強層(編組)ないし強化用編組が存在し,これによってカテーテルチューブに生体内への挿入時におけるトルク伝達性と操作性が付与されているところ,このようなカテーテルチューブに,ブレイドを備えないカテーテルに支持,トルク性及びねじれ抵抗を提供する甲5発明の内側ガイドをさらに組み合わせる必要性があるとは認められず,かかる組合せについての特段の示唆も見当たらないから,甲1発明及び甲2発明に甲5発明の内側ガイドを採用する動機付けも認められない。
以上のとおりであるから,甲1発明及び甲2発明に甲5発明の内側ガイドに関する構成を適用することにはいずれも阻害要因があるというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。原告の前記主張はいずれも採用することができない。
3 取消事由3について
(1) 本件発明9は,カテーテルシャフトが蛍光標識装置を含んでいることに加えて,前記蛍光標識装置が,編み上げ管状部材の内側に第2の標識領域を含んでおり,この第2の標識領域を含む点で,甲1発明及び甲2発明と相違点9-1及び同9-2のとおり相違する。
原告は,甲2文献の「…内側ジャケット21の放射線不透過フィラー量は,5重量%以下…であることが望ましい。」との記載によれば,内側ジャケット21に放射線不透過フィラーを含み得る余地があり,当該放射線不透過フィラーが「蛍光標識装置」として機能する以上,「蛍光標識装置が,編み上げ管状部材の内側に第2の標識領域を含んでいる点」について記載も示唆もないとの審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,甲2文献の次の記載(甲2)によれば,甲2文献においては,外側ジャケット及び/又は内側ジャケット(内側ライナー)は,放射線を不透過とする性質を持たせないことが望ましいとの趣旨が記載されているものと認められ,原告の指摘する甲2文献の記載は,甲1発明や甲2発明のカテーテルについて,編み上げ管状部材の内側にも第2の蛍光標識領域を設けるとの構成を採用することへの動機付けになるとは解されない。
(甲2文献の記載)
「本発明のさらに別の実施の形態によれば,本発明は,先端部分と手元部分とその間に内腔を持つ伸長された管状体を有する血管内カテーテルに関する。管状体は,(a)放射線不透過フィラーを本来含まないポリマーと,(b)金属製強化編組とから構成されている。ここで,組み合わされたポリマー材料は,本来放射線不透過フィラーを含まず,また金属製編組は,金属製の強化編組を持たず20%,望ましくは30%以上,より好ましくは30-40%の硫酸バリウムを混入したポリマー材料からなるカテーテルによって得られると同じまたはそれ以上の放射線不透過性の値を持つ。」(【0016】)
「外側ジャケット23と内側ライナー21のポリマー材料は,硫酸バリウム,次炭酸ビスマス,3酸化ビスマス,塩素酸ビスマスといった放射線不透過性フィラーを基本的に含まないことが望ましい。一方,外側ジャケット23および/または内側ジャケット21の放射線不透過フィラー量は,5重量%以下,好ましくは,1重量%以下であること,さらに好ましくは,0.5重量%以下であることが,最も好ましくは0重量%であることが望ましい。…」(【0024】)
「ガイドカテーテルの最先端は柔軟チップ30によって構成される。…柔軟チップ30は,ポリエーテルエステル・エラストマーに15-50重量%の硫酸バリウムを添加することによって放射線不透過とすることができる。勿論,それ以上またはそれ以下の硫酸バリウムまたはその他の放射線不透過フィラーを用いても良い。…」(【0025】)
「ガイドカテーテル10は,管本体20と柔軟チップの間に設けられたステム80を有する。ステム80はステム転換スリーブ51とステムスリーブ52から構成される。…このスリーブは,硫酸バリウムといった放射線不透過性フィラーは含まないことが望ましい。…このステムスリーブは,硫酸バリウムといった放射線不透過フィラーを含まないことが望ましい。…」(【0026】)
(2) 原告は,相違点9-1及び同9-2について,放射線不透過材料をカテーテルのどの部分に設けるのかは当業者が適宜設定し得ることであるとか,いくつかの層からなるカテーテルの内層に放射線不透過材料を含むとすることは,単なる設計的事項あるいは周知の技術的事項として,当業者が容易に行い得たと主張する。
カテーテル装置に対する放射線不透過材料の使用に関しては,甲3文献には記載はなく,甲1文献及び甲4文献には,下記のとおり,カテーテルを構成する外側の層に放射線不透過材料を含むことが記載され,また,甲5文献には,下記のとおり,その内側ガイドに,カテーテル処置中のカテーテルシャフトの視覚化のために放射線不透過材料を含む材料を用いることが記載されている。
しかしながら,これらの文献には,本件発明9のように,カテーテルシャフトが蛍光標識装置を含むだけでなく,その編み上げ管状部材の内側にも第2の標識領域を含むとの構成については,記載も示唆もないから,甲1発明や甲2発明に対し,甲1文献ないし甲5文献の記載事項をどのように組み合わせたとしても,編み上げ管状部材の内側に第2の蛍光標識領域を含むとの構成を容易に想到し得るとまでいうことはできない。よって,相違点9-1及び同9-2に係る本件発明9の構成について,当業者が容易に想到し得たとはいえない旨の審決の判断に誤りはなく,これを単なる設計的事項あるいは周知の技術事項として当業者が容易に行い得たということはできない。
ア 甲1文献(甲1)
「…尚,この外層7を形成する熱可塑性樹脂中には造影剤として硫酸バリウム,酸化ビスマス,タングステンカーバイト等の微粒子を適宜添加しても良い。」(【0022】)
イ 甲4文献(甲4)
「案内カテーテルの少なくとも一部をX線照射の下で見えるようにするために,外面層24の先端部分にタンタル粉末のような適当なX線不透過性粉末が付着される。たとえば案内カテーテル12の先端部4インチに設けられ,案内カテーテル12は実質的にX線に対して不透過性となる。」(4頁左上欄9行目ないし14行目)
「…さらに,案内カテーテルは他の利点を有する。例えば,タンタル粉を含んでいるので,案内カテーテルの端部は血管形成術中直ちに観察することができる。…」(5頁右上欄16行目ないし19行目)
ウ 甲5文献(甲5)
「ガイドカテーテル22のシャフト26は押出し成形された1つの重合体 層38から形成されお(ママ)り,…カテーテル処置中におけるシャフト26の部分的な視覚化を可能にすべく,硫酸バリウムまたは次炭酸ビスマス等の放射線不透過性材料を層38に対して含浸することが好ましい。」(12頁8行目ないし17行目)
「ガイドカテーテル22及び内側ガイド60の比較的に薄い壁に起因して,カテーテル術中にシャフトを可視化するために,内側ガイド60には硫化バリウムまたは次炭酸塩ビスマスのようなX線不透過材料が染み込まされても良い。好ましい実施形態において,内側ガイド60の単層74は,ポリエーテルブロックドアミドまたは比較的に高いジュロメーターを有する20~60パーセントのX線不透過材料が染み込まされたPEBAからなってもよい。」(16頁18行目ないし23行目)
以上によれば,原告の主張はいずれも採用することができない。
4 結論
以上のとおりであり,原告の主張は理由がない。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅)