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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10254号 判決 2013年5月29日

原          告

クゥアルコム・インコーポレイテッド

訴訟代理人弁理士

蔵田昌俊

中村誠

福原淑弘

赤穂隆雄

堂前俊介

被          告

特許庁長官

指定代理人

長島孝志

飯田清司

樋口信宏

堀内仁子

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2009-20464号事件について平成24年2月27日にした審決を取り消す。

第2前提となる事実

1  特許庁における手続の経緯等

原告は,発明の名称を「切換えアンテナ送信ダイバーシティ」とし,平成15年12月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年12月11日,米国)を国際出願日とする出願(以下「本願」という。)をした。原告は,平成21年6月18日付けで,本願の拒絶査定を受け,拒絶査定不服審判(不服2009-20464号事件)を請求し,平成24年1月6日付けで手続補正(甲12。以下,同補正による補正後の本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)をした。特許庁は,同年2月27日,本願発明は,当業者が甲1(特開2002-26796号公報。以下「引用例」という。)に記載の発明(以下「引用発明」という。)から容易に発明することができたとして,審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年3月13日,原告に送達された。

2  本願発明の内容は,次のとおりである(甲12)。

第1のアンテナを通して信号を送信することと,

基地局からの信号送信に関係するフィードバックを受信することと,

フィードバックの関数として,第1のアンテナか,第2のアンテナかを選択することと,

選択されたアンテナを通して信号を送信することとを含む通信方法であって,

フィードバックが,第1のアンテナを通る信号送信の品質に関係するパラメータを含み,パラメータが,電力制御信号を含み,電力制御信号が,第1のアンテナを通る信号送信の品質が第1の閾値よりも低いときは,信号送信電力を増加する要求と,第1のアンテナを通る信号送信の品質が第2の閾値よりも高いときは,信号送信電力を低減する要求とを含み,電力制御信号が信号送信電力を低減する要求を含むときは,前記電力制御信号の積算値とは無関係に第1のアンテナが選択される通信方法。

3  審決が認定した引用発明の内容は,次のとおりである。

アンテナ801を通して信号を送信することと,

基地局装置からの信号送信に関係するフィードバックを受信することと,

フィードバックの関数として,アンテナ801か,アンテナ802かを選択することと,

選択されたアンテナを通して信号を送信することとを含む通信方法であって,

フィードバックが,アンテナ801を通る信号送信の品質に関係するパラメータを含み,パラメータが,送信電力制御信号を含み,送信電力制御信号が,アンテナ801を通る信号送信の品質が閾値3よりも低いときは,送信電力を大きくする情報と,アンテナ801を通る信号送信の品質が閾値3よりも高いときは,送信電力を小さくする情報とを含み,送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報の積算値に基づいて,他方のアンテナに切り替えるか,そのままのアンテナを用いるかが選択される通信方法。

4  審決が認定した本願発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりである。

(1)  一致点

第1のアンテナを通して信号を送信することと,

基地局からの信号送信に関係するフィードバックを受信することと,

フィードバックの関数として,第1のアンテナか,第2のアンテナかを選択することと,

選択されたアンテナを通して信号を送信することとを含む通信方法であって,

フィードバックが,第1のアンテナを通る信号送信の品質に関係するパラメータを含み,パラメータが,電力制御信号を含み,電力制御信号が,第1のアンテナを通る信号送信の品質が第1の閾値よりも低いときは,信号送信電力を増加する要求と,第1のアンテナを通る信号送信の品質が第2の閾値よりも高いときは,信号送信電力を低減する要求とを含む通信方法。

(2)  相違点

アンテナを選択する方法に関して,本願発明においては,「電力制御信号が信号送信電力を低減する要求を含むときは,前記電力制御信号の積算値とは無関係に第1のアンテナが選択される」ものとされているのに対し,引用例記載の発明においては,「送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報の積算値に基づいて,他方のアンテナに切り替えるか,そのままのアンテナを用いるかが選択される」ものとされている点。

第3取消事由に係る当事者の主張

1  原告の主張

(1)  引用発明の認定の誤り及び一致点の認定の誤り(取消事由1)

引用例の【0082】によれば,引用例にいう「送信電力制御情報における制御値」とは,2情報の場合,「送信電力を大きくする」又は「送信電力を小さくする」のいずれかであることがうかがえる。

もっとも,引用例の記載からは,引用例の【請求項7】・【0090】の「送信電力制御情報を積算する」の意味は不明である。仮に,「積算」について,「送信電力を大きくする」との情報の複数回を積算することを指すと解釈するならば,引用例の【請求項7】の発明は,「積算値」が所定の閾値を超えたとき送信電力を大きくする(すなわち,アンテナを他方に切り替える)趣旨と理解できる。しかし,関連する【図12】とその説明(【0092】)では,「積算値」が閾値2を超えたとき(【図12】のYES)に「そのままのアンテナを用いる」とされ,逆に,送信電力を大きくするとの情報の積算値が閾値2を超えないとき(【図12】のNO)に他のアンテナを選択する(アンテナを切り替える)とされ,【請求項7】の記載内容と整合しない。このように,引用例の記載には整合しない内容を含むことから,「送信電力制御情報」がどのような情報なのか明らかでなく,「送信電力制御情報の積算値」に基づいてアンテナをどのように制御するかについても明らかでない。

審決は,引用例の【請求項7】と【0092】及び【図12】等とが対応していないことを認めた上で「いずれにせよ,引用例には,送信電力制御信号の積算に基づいてアンテナの切り替えを行うことが記載されている」と認定した。

しかし,上記認定は,引用例の具体的な記載に基づくことなく,上位概念化したもので,誤りである。

また,引用発明において積算される「送信電力制御情報」がどのようなものか不明であるから,引用発明の「送信電力制御信号」が本願発明の「電力制御信号」に相当するとした審決の認定も誤りである。

(2)  容易想到性判断の誤り(取消事由2)

審決における引用発明の認定を前提としたとしても,その相違点を単なる設計的事項とした上で本願発明は容易に想到できるとした審決による相違点の判断は誤りである。

引用発明は,送信電力を大きくする情報を受信する「傾向」にあるのか,逆に少なくする情報を受信する「傾向」にあるのか,「傾向」を判定するものである。複数を積算するものでなければ「傾向」は判定できないから「傾向」を判定するためには時間的に異なるタイミングに到来する複数の送信電力制御情報を積算することが必要である。これに対して,本願発明は,「傾向」を判定するのではなく,「電力制御信号が信号送信電力を低減する要求を含む」か否かを判断するものである。

この点について,審決は「アンテナ切り替えの応答性をできるかぎり高める」ために引用発明の積算回数を「積算することなく1回分のみの値」に基づいて判定を行うことにより本願発明が得られると結論付けているが,引用例には「アンテナ切り替えの応答性をできるかぎり高める」という課題についての記載も示唆もなく,そうである以上,引用発明について「積算すること」を「アンテナ切り替えの応答性をできるかぎり高める」ために「積算しないこと」に変更するという動機付けを見出すことはできない。

仮に「アンテナ切り替えの応答性をできるかぎり高める」ことが本願出願当時における課題として存在したとしても,「積算すること」と「積算しないこと」との間には,ある傾向が続くことを判定するのか,それとも特定の要求があるか否かを判定するのかの本質的差異に対応するものであって,単なる設計的事項の改変であるということはできないから,その課題を解決するために引用発明の「積算すること」を「積算しないこと」に変更することが単なる設計的事項にすぎないということはできない。引用発明において「積算しない」構成とすることには阻害要因があるというべきである。

また,引用発明の「送信電力制御情報」がどのような情報であるかが不明であること,引用発明における「送信電力制御情報の積算値」の意味も明らかにされていないことを勘案すれば,引用発明から本願発明への変更が「単なる設計事項に過ぎない」ということはできない。

2  被告の反論

(1)  引用発明の認定の誤り及び一致点の認定の誤り(取消事由1)に対して

引用例の【0082】の記載によれば,制御情報が2情報の場合,「送信電力制御信号」は,送信先の受信電力が閾値3よりも大きいときは基地局からの送信電力を小さくするように制御信号を生成し,受信電力が閾値3よりも小さいときは基地局からの送信電力を大きくするように制御信号を生成している。

また,引用例の【0060】には,「受信品質測定結果(SIR)が閾値1よりも大きい場合はそのままのアンテナを用いる。一方,SIRが閾値1よりも小さい場合はアンテナを切り替える。例えば,アンテナ数が2本の場合は,他方のアンテナに切り替える。」と記載されている。

【0082】の「送信先の受信電力」は,例えば「受信電界強度」に基づく値であり,これは【0059】の記載によれば,「受信品質測定結果(SIR)」(【0060】)と等価な値である。また,受信品質が「良い」か「悪い」かということと,アンテナを「切り替える」か「切り替えない」かということの対応関係は,【0060】の記載を含む「実施の形態1」でも【0082】の記載を含む「実施の形態2」でも同様であり(【0099】,【0100】),受信品質が「良い」場合(受信品質測定結果(SIR)が閾値1よりも大きい場合)には,アンテナを「切り替えない」(そのままのアンテナを用いる)動作を行い,受信品質が「悪い」場合(SIRが閾値1よりも小さい場合)には,アンテナを「切り替える」動作を行うと解される(【0103】)。上記の理解は,電波状況の良いアンテナに切り替えるという「切り替えダイバーシチ」の本来の目的に合致する合理的な解釈である。

そうすると,【0082】の記載における「測定した電力が閾値3よりも大きい場合」というのは,受信品質が「良い」場合に相当するのであり,「送信電力を小さくするように制御信号を生成」するとともに,アンテナを「切り替えない」動作を行うと解され,「測定した電力が閾値3よりも小さい場合」というのは,受信品質が「悪い」場合に相当するから,「送信電力を大きくするように制御信号を生成」するとともに,アンテナを「切り替える」動作を行うと解される。

引用例(の実施の形態2)の「送信電力を小さくするよう」な「制御信号」と,「送信電力を大きくするよう」な「制御信号」とが,具体的にどのようなものなのかは明らかでないが,その「積算値」を「閾値」と比較していることに照らすならば,数値化された信号であると解される。

「送信電力を小さくするよう」な「制御信号」と「送信電力を大きくするよう」な「制御信号」を,便宜上どのような数値情報(乙1記載の具体例の場合は,「0」,「1」であり,乙2記載の具体例の場合は,「+1」,「-1」である。)とするかによって,「積算値」と「閾値」の大小関係が異なってくるのであり,引用例の【請求項7】と【0092】のどちらかの記載が誤っていると断定することはできない。また,引用例には,送信アンテナ切り替えダイバーシチを行うという技術思想が明示されている。

上記の点に照らすならば,「いずれの記載を採用したとしても,『送信電力制御情報の積算値に基づいて,そのままのアンテナを用いるか,他方のアンテナに切り替えるかが選択される』ものであるということができる。」とした審決の認定に誤りはない。そして,引用例記載の発明における「送信電力制御信号」(「送信電力を小さくするよう」な「制御信号」あるいは「送信電力を大きくするよう」な「制御信号」)は,受信品質が「良い」場合には「送信電力を小さくするよう」な「制御信号」となり,受信品質が「悪い」場合には「送信電力を大きくするよう」な「制御信号」となるものであるから,引用例記載の発明における「送信電力制御信号」が本願発明における「電力制御信号」に相当するとの審決の認定に誤りはない。

(2)  容易想到性判断の誤り(取消事由2)に対して

引用発明は,送信電力を大きくする情報を受信する「傾向にある状態」にあるのか,それとも逆に少なくする情報を受信する「傾向にある状態」にあるのか,どちらの「傾向にある状態」にあるのかを判定するものであり,複数回の積算値に基づいて判定を行うのは,1回の測定値のみに基づいてアンテナの切替え動作を行うと,瞬間的な受信不良やノイズに過ぎない場合でも頻繁にアンテナの切替え動作が行われ,いわゆるバタツキ状態となって好ましくないので,それを避けるためであるといえる。

仮に,アンテナ切替えの応答性をできる限り重視するのであれば,1回の測定値のみに基づいてアンテナの切替え動作を行うことが好ましいのであり,その点は,当業者に自明である。

この点,原告は,「引用例には,『アンテナ切り替えの応答性をできるかぎり高める』という課題については,特段の記載も示唆もない」等と主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,引用例には「積算しない」構成を排除するような記載は存在せず,むしろ,引用例の【請求項5】と【請求項7】の関係(積算する構成も積算しない構成も含まれる【請求項5】の実施態様として【請求項7】が記載されている)から理解できるとおり,引用例には,積算する構成を具備せず単に送信電力制御情報に基づいてアンテナの切替え動作を行う構成も開示されていることに照らすならば,原告の主張は,失当である。

(なお,本願発明が規定する「電力制御信号が信号送信電力を低減する要求を含むときは,前記電力制御信号の積算値とは無関係に第1のアンテナが選択される」との構成によれば,受信品質が高い場合にアンテナをそのまま用いる選択をすることができる。これに対して,引用発明では,1回の測定値に基づく制御信号を受信した時点では,アンテナを「そのままとする」か「切り替える」かの判断をすることができないため,その時点までに用いていたアンテナを「そのまま」継続せざるを得ないことになる。本願発明と引用発明とは,最初の「制御信号」の時点でアンテナを「そのまま・・・用いる」選択をする場合に,現象的には相違しないものの,その技術的意義は異なる。そのような点に鑑みて,審決のした,第2の4のとおりの相違点の認定は,正確な表現がされているというべきである。)

また,原告は,両発明には,「傾向を判断するか,増減要求の有無を判断するか」の点において,解決課題上の相違があると主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,本願に係る明細書(甲2。以下「本願明細書」という。)に「電力制御信号の積算値とは無関係に第1のアンテナが選択される」ことに関する格別の課題解決は,開示又は示唆がなく,【0018】「履歴情報・・における変化・・のような,制御値における変化を判断してもよい。」との記載からみて,本願発明は「電力制御信号により第1のアンテナを選択するならば,積算値を用いても用いなくても良い」としており,解決課題に相違があるとする原告の主張は,失当である。のみならず,引用例の【0005】,【0006】の記載と本願明細書の【0003】の記載によれば,両者の課題はともに「送信アンテナ切り替えダイバーシチ(送信アンテナダイバーシティ)」をいかにして行うかという解決課題において同一である。

第4当裁判所の判断

1  認定事実

(1)  本願明細書には,次のとおりの記載がある(甲2)。

「【技術分野】

【0001】本発明は,概ね,通信に関し,とくに,切換えアンテナ送信ダイバーシティを用いた通信装置に関する。」

「【発明の開示】

【発明が解決しようとする課題】

【0003】モバイル応用における高速フェージングを軽減する別の技術には,多数のアンテナを使用し,アンテナの空間ダイバーシティによって,信号の利得を増加するものがある。現在,デュアルアンテナ構成をもつ多数の市販の移動装置がある。しかしながら,これらの移動装置は,受信信号のみに空間ダイバーシティ合成技術を採用し,送信には1本のアンテナを使用している。これらの移動装置において,両者のアンテナを使用して,送信アンテナダイバーシティを実現する方法を採用することが好都合である。

【課題を解決するための手段】

【0004】本発明の1つの態様では,通信方法は,第1のアンテナを通して信号を送信することと,信号伝送に関係するフィードバックを受信することと,フィードバックの関数として,第1のアンテナか,第2のアンテナかを選択することと,選択されたアンテナを通して信号を送信することとを含む。」

「【0012】基地局104は,個々の応用および全体的な設計上の制約に依存して,任意の数のアンテナを備える。図1に示されているCDMA通信システムでは,基地局104は,1本の送信アンテナ110と,2本の受信アンテナ112aおよび112bとを含む。基地局104は,2本の受信アンテナ112aおよび112bを使用して,加入者局108から信号伝送を受信する。このアプローチは,受信アンテナ112aおよび112bの空間ダイバーシティと,基地局104が採用する合成技術とによって,信号伝送の利得を増加する。」

「【0014】図1に示されている例示的な実施形態では,2本のアンテナ114aおよび114bは,順方向リンク伝送において受信信号に空間ダイバーシティを与えるのに使用される。」

「【0015】制御手続きは,個々の応用,全体的な設計上の制約,および/または他の関連する要素に依存して,種々のやり方で実行される。加入者局の少なくとも1つの実施形態では,基地局104からのフィードバックを使用して,2本のアンテナ114aおよび114b間で信号伝送を最適に切換える。フィードバックは,種々の形をとるが,一般的に,逆方向リンクの信号品質の指標を与える。フィードバックは,基地局において計算される逆方向リンクの品質の測定基準であり,空中トラヒックまたはオーバーヘッドチャネルによって加入者局へフィードバックされる。逆方向リンクの品質の測定基準の例は,ビットエネルギー対雑音密度(bit energy-to-noise density, Eb/Io),ビット誤り率(bit error rate, BER),フレーム誤り率(frame error rate, FER),搬送波対干渉比(carrier-to-interference rate, C/I),または他の既知のパラメータを含む。」

「【0016】図2は,電力制御ループを支援する例示的な基地局104の簡素化された機能ブロック図である。基地局104は,受信機202に接続された2本の受信アンテナ112aおよび112bを含む。・・・

【0017】復調器206は,合成信号から,逆方向リンク伝送の受信信号強度指標(received signal strength indicator, RSSI)を生成するのにも使用される。RSSIは,電力制御モジュール210へ供給され,ここで電力設定点と比較され,電力制御信号が生成される。電力制御信号は,フィードバック信号として加入者局によって使用され,RSSIが電力設定点よりも小さいときは,逆方向リンク伝送電力を増加し,RSSIが電力設定点よりも大きいときは,逆方向リンク電力を低減する。電力設定点は,通常,復号信号のFERから判断されるので,逆方向リンクの信号品質に直接に相関する。・・・

【0018】電力設定点は,測定信号強度(この実施形態では,具体的には,RSSI)と比較される閾値である。別の実施形態では,信号強度または信号品質の別の測定値を使用し,別の閾値の測定基準を採用してもよい。1つの実施形態では,多数の閾値を使用して,逆方向リンクにおける伝送電力の増加または減少,あるいはこの両者を判断する。例えば,1つの閾値を使用して,伝送電力の低減を判断し,異なるより低い閾値を使用して,伝送電力の増加を判断する。別の例では,伝送電力の調節に関する制御情報と関係付けられた多数の範囲を採り入れてもよい。このやり方では,測定RSSIが所与の範囲内であるときは,このような範囲は,伝送電力における所定量の増加を示す。他の範囲は,他の調節量を示してもよい。」

「【0025】加入者局の少なくとも1つの実施形態におけるアンテナ選択モジュール314の目的は,最良の逆方向リンクの信号品質になるように,送信アンテナを選択することである。加入者局108がセルラ領域(または,セクタ)を移動すると,基地局104は信号の変動を経験するので,最良の逆方向リンクの信号品質が可能なアンテナは,時間にしたがって変化する。アンテナ選択モジュール314は,基地局104からのフィードバックを使用して,最良の逆方向リンクの信号品質の送信/受信アンテナを選択する。送信/受信アンテナを選択するのに使用される実際の手続きは,コストと性能との兼ね合い,および他の設計上の制約のような,種々の要素に基づいて変化する。アンテナ選択モジュール314の少なくとも1つの実施形態では,電力制御信号を使用して,逆方向リンクの信号品質への見通しを得る。より具体的には,電力制御信号が,基地局104がより多くの電力を要求していることを示すと,アンテナ選択モジュール314は,送信機304を他方のアンテナ114a,114bに切換え,電力制御信号によって,基地局104が電力の低減を要求しているかどうかを監視する。電力を低減する要求は,この選択されたアンテナからの逆方向リンクの信号品質がより良いことを示す。この手続きは,通話時間中,続く。」

(2)  引用例には,次のとおりの記載がある(甲1。図は別紙のとおり。)。

「【請求項5】周波数分割複信における通信相手からの送信電力制御情報に基づいて送信信号を送信するアンテナを切り替える切替手段と,切り替えられたアンテナから送信信号を送信する送信手段と,を具備することを特徴とする無線通信装置。

【請求項6】送信電力制御情報は,通信相手の受信品質情報に基づいて決定されることを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。

【請求項7】切替手段は,送信電力制御情報における制御値を積算し,積算値が閾値よりも大きい場合に,他のアンテナに切り替えることを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。」

「【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,複数のアンテナを備えた無線通信装置に関する。」

「【0005】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来の技術には以下の課題がある。すなわち,TDD方式では,上り回線及び下り回線とも同じ周波数を利用するので,上記のように受信信号に基づいて送信アンテナを決定することができるが,FDD(Frequency Division Duplex)方式では,受信を行う周波数と送信を行う周波数が異なるため,送信アンテナ切り替えダイバーシチを行う場合に,上記のように受信信号に基づいて送信アンテナを決定することができないのが現状である。

【0006】本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり,FDD方式の通信において,受信信号に基づいて送信アンテナを決定することができる無線通信装置及び無線通信方法を提供することを目的とする。」

「【0045】(実施の形態1)図1は,本発明の実施の形態1に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。ここでは,無線通信装置が基地局装置である場合について説明する。」

「【0051】図2は,本発明の実施の形態1に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。ここでは,無線通信装置が端末装置である場合について説明する。

【0052】アンテナ201で受信された信号は,送信と受信で同一のアンテナを用いるためのアンテナ共用器202を通じて受信RF回路203に送られ,そこで増幅され,更に中間周波数又はベースバンド周波数へ周波数変換される。周波数変換された信号は,復調回路204で復調される。同時に,受信RF回路の出力信号は受信品質測定回路205に送られ,そこで受信品質が測定される。

【0053】この受信品質としては,例えば,受信電界強度,所望波受信電力,受信信号電力対干渉電力比(SIR),受信信号電力対干渉電力+雑音電力比(Signal-to-Interference pulse Noise Ratio,以下SINRと省略する)がある。受信電界強度は,受信RFの電力を測定すれば良い。これにより,回路構成が最も簡単となる。また,干渉波が存在しないような環境で用いることができる。」

「【0057】これらの方法で算出した受信品質測定結果は多重回路206へ送られる。多重回路206では,送信データと受信品質測定結果を送信スロットに割当てる。このような送信データを変調回路207で変調し,送信RF回路208で周波数変換し,増幅する。そして,この送信信号をアンテナ共用器202を通じてアンテナ201から送信する。

【0058】このように,図1に示す無線通信装置(基地局)のアンテナから送信された下り回線の信号の受信品質測定結果を図2に示す無線通信装置(端末)で測定し,上り回線で基地局に報告する。基地局においては,上り回線で受信した端末装置が測定した受信品質測定結果に基づいて送信するアンテナを切り替える。」

「【0073】(実施の形態2)図8は,本発明の実施の形態2に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。ここでは,無線通信装置が基地局装置である場合について説明する。

【0074】この無線通信装置においては,アンテナ801で受信した信号は,送信と受信で同一のアンテナを用いるためのアンテナ共用器803を通じて受信RF回路805に送られる。受信RF回路805では,受信信号が増幅され,中間周波数又はベースバンド周波数に周波数変換される。」「【0076】それぞれ周波数変換された信号は,ダイバーシチ合成回路807でダイバーシチ合成される。・・・次いで,ダイバーシチ受信を行った結果が復調回路808で復調される。復調結果は,分離回路809に送られ,分離回路809で受信データと送信電力制御信号に分離される。

「【0076】それぞれ周波数変換された信号は,ダイバーシチ合成回路807でダイバーシチ合成される。・・・次いで,ダイバーシチ受信を行った結果が復調回路808で復調される。復調結果は,分離回路809に送られ,分離回路809で受信データと送信電力制御信号に分離される。

【0077】アンテナ切り替え制御回路810では,送信電力制御信号に基づいてアンテナ801とアンテナ802のいずれかで送信するかを選択し,選択されたアンテナに切り替える信号を切り替え器813に送る。アンテナ切り替え制御回路の動作については後で説明する。

【0078】送信については,送信データを変調回路811で変調して送信RF回路112に送る。送信RF回路では,送信データを周波数変換し,更に増幅して切り替ええ器813に送る。切り替え器813では,アンテナ801とアンテナ802のいずれかを切り替え,切り替えられたアンテナから送信信号を送信する。

【0079】図9は,本発明の実施の形態2に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。ここでは,無線通信装置が端末装置である場合について説明する。

【0080】アンテナ901で受信された信号は,送信と受信で同一のアンテナを用いるためのアンテナ共用器902を通じて受信RF回路903に送られ,そこで増幅され,更に中間周波数又はベースバンド周波数に周波数変換される。周波数変換された信号は,復調回路904で復調される。同時に,受信RF回路の出力信号は,送信電力制御値算出回路905に送られ,そこで送信電力制御信号が決定される。

【0081】この送信電力制御信号は,例えば,受信電界強度,所望波受信電力,受信信号電力対干渉電力比(SIR),受信信号電力対干渉電力+雑音電力比(SINR)に基づいて決定する。また,送信電力信号として送る情報量は,送信電力を大きくする/小さくする,の2情報の場合や,大きくする/そのまま保持/小さくする,の3情報の場合や,4情報以上にして前記以上に制御量を細かく設定する場合がある。

【0082】まず,制御情報が2情報の場合について説明する。受信電界強度に基づく場合は,受信RFの電力を測定する。そして,測定した電力が閾値3よりも大きい場合は基地局からの送信電力を小さくするように制御信号を生成し,測定した電力が閾値3よりも小さい場合は基地局からの送信電力を大きくするように制御信号を生成する。このような受信電界強度に基づく方法は回路構成が最も簡単である。また,干渉波が存在しないような環境で用いることができる。」

「【0084】所望波受信電力の測定回路を図10に示す。この回路では,受信信号の既知パタン部分を取り出し,基地局が持つ既知パタンを複素共役回路1002で複素共役演算し,複素乗算回路1001で複素乗算を行い,電力測定回路1003で電力を測定する。そして,比較回路1004で測定した電力が閾値3よりも大きい場合は基地局からの送信電力を小さくするように制御信号を生成し,測定した電力が閾値3よりも小さい場合は基地局からの送信電力を大きくするように制御信号 を生成する。」

「【0086】次に,制御情報が3情報の場合について説明する。3情報の場合は,閾値として閾値3と閾値3よりも大きい閾値4を用いる。測定した電力比が閾値3よりも小さい場合は基地局からの送信電力を大きくするような制御情報を生成する。測定した電力比が閾値3よりも大きく,かつ,閾値4よりも小さい場合は,基地局からの送信電力をそのまま保持するように制御情報を生成する。測定した電力比が閾値4よりも大きい場合は,基地局からの送信電力を小さくするように制御情報を生成する。

【【0087】更に,制御情報が4情報以上の場合は,閾値数を(制御情報数-1)に設定して,複数の閾値の大小関係に基づく閾値判定により細かく分けられた制御情報を決定する。

【0088】これらの方法で算出した送信電力制御情報は多重回路906へ送る。多重回路906では,送信データと送信電力制御情報を送信スロットに割当てる。このような送信データを変調回路907で変調し,送信RF回路908で周波数変換し,増幅する。そして,この送信信号をアンテナ共用器902を通じてアンテナ901から送信する。

【0089】このように,図8に示す無線通信装置(基地局)のアンテナから送信された下り回線の信号の受信品質に基づいた送信電力制御信号を図9に示す無線通信装置(端末)で生成し,上り回線で無線基地局に報告する。基地局においては,上り回線で受信した端末装置が測定した送信電力制御信号に基づいて送信するアンテナを切り替える。

【0090】ここで,アンテナ切り替え制御回路の動作について詳しく説明する。図12はアンテナ数が2本の場合のフロー図である。報告された送信電力制御情報を積算する。そして,送信電力制御情報の積算値と閾値2を比較する。この閾値は送信機の限界値又は送信電力を大きくすることによって生ずる下り回線の干渉量にしたがって決定する。」

「【0092】送信電力制御情報の積算値が閾値2よりも大きい場合はそのままのアンテナを用いる。閾値2よりも小さい場合はアンテナを切り替える。アンテナ数が2本の場合は,他方のアンテナに切り替える。」

「【0099】また,送信電力制御情報と共に,実施の形態1で説明した方法で,端末装置から受信品質情報を報告しても良い。なお,端末装置から基地局装置への報告や,そのタイミングについては,実施の形態1と同様である。

【0100】そして,アンテナ切り替え制御は,通常は送信電力制御情報の積算値に基づいて行い,端末装置側の受信品質が急激に悪くなった場合は,端末装置側から受信品質情報を基地局装置に報告し,基地局装置においてアンテナ切り替え制御を行う。」

「【0102】上記実施の形態1及び2においては,図1及び図8に示す無線通信装置が基地局装置であり,図2及び図9に示す無線通信装置が端末装置である場合について説明しているが,本発明においては,図1及び図8に示す無線通信装置が端末装置であり,図2及び図9に示す無線通信装置が基地局装置である場合についても適用することができる。

【0103】

【発明の効果】以上説明したように本発明の無線通信装置及び無線通信方法によれば,受信品質が悪くなった時点を起点としてアンテナ切り替えを行うことができる。」

2  当裁判所の判断

(1)  取消事由1(引用発明の認定の誤り及び一致点の認定の誤り)について

ア 引用例における「送信電力制御信号」の意義について

前記1(2)のとおりの引用例の記載によれば,引用例には送信電力制御信号に関連して,【図9】の無線通信装置(端末装置)において,【図8】の無線通信装置(基地局装置)のアンテナ801を通る信号送信の品質である受信電界強度が閾値と比較され,受信電界強度が閾値より小さい場合であって【図8】の無線通信装置(端末装置)の送信電力を大きくさせる送信電力制御信号又は【図8】の無線通信装置(端末装置)の受信電界強度が閾値より大きい場合であって送信電力を小さくさせる送信電力制御信号のいずれかを生成する旨が記載されていると認められる。

すなわち,引用例は,無線通信装置が複数のアンテナを備え(【0001】),送信アンテナ切り替えダイバーシチを行う場合(【0005】)に,受信信号に基づいて送信アンテナを決定する無線通信方法(【0006】)に関する技術が記載されている。そして,引用例では,受信信号に基づいて送信アンテナを決定する具体的な方法について,実施の形態2として,【図9】の無線通信装置において,受信電界強度,所望波受信電力,受信信号電力対干渉電力比(SIR),受信信号電力対干渉電力+雑音電力比(SINR)等(【0053】,【0081】)である受信品質が測定され,これに基づいて送信電力制御信号が決定され,複数のアンテナを備えた【図8】の無線通信装置がこの送信電力制御信号を受信して送信アンテナが決定される形態(【0073】ないし【0101】)が説明されている(なお,【図8】の無線通信装置は端末装置であり,【図9】の無線通信装置は基地局装置であることも可能であるとされている(【0102】)。)。そして,【0082】及び【0084】においては,【図9】の無線通信装置(端末装置)において,受信電界強度を閾値と比較して,これが閾値より大きい場合に【図8】の無線通信装置(基地局装置)からの送信電力を小さくする制御信号を生成し,これが閾値より小さい場合に【図8】の無線通信装置(基地局装置)からの送信電力を大きくする電力制御信号を生成するとされており,【図8】の無線通信装置(基地局装置)における送信電力の制御は,【図9】の無線通信装置(端末装置)における受信電界強度と閾値との比較によって生成された電力制御信号を受けて行われる。

イ 引用例におけるアンテナの切替えについて

前記1(2)によれば,引用例には,前記アのとおりの送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報の積算値に基づいて,そのままのアンテナを用いるか,他方のアンテナに切り替えるかが選択される技術が記載されていると認めることができる。

すなわち,引用例の「積算値が閾値よりも大きい場合に,他のアンテナに切り替える」(【請求項7】)あるいは「積算値が閾値2よりも大きい場合はそのままのアンテナを用いる。閾値2よりも小さい場合はアンテナを切り替える。」(【0092】)との記載から,引用例には,送信電力制御情報が積算され,送信電力制御情報の積算値と閾値2の大小に応じて,アンテナの切り替えが行われる技術が記載されていると認められる。

なお,引用例では送信電力制御信号である送信電力を大きくする情報とこれを小さくする情報を具体的にどのような値の信号として実現するかの特定はされず,さらに,【請求項7】では「積算値が閾値よりも大きい場合に,他のアンテナに切り替える」とされる一方【0092】で「閾値2よりも小さい場合はアンテナを切り替える。」と記載されている。しかし,送信電力制御情報の積算値に基づいて,他方のアンテナに切り替えるに当たって,送信電力制御情報の積算値が閾値より大きい場合とするか小さい場合とするかの違いが,何らかの技術的な意義を有するものと認めることはできないから,審決が「いずれの記載を採用したとしても,『送信電力制御情報の積算値に基づいて,他方のアンテナに切り替えるか,そのままのアンテナを用いるかが選択される』ものであるということができる」とした認定に,不合理な点はない。

ウ 以上のとおり,審決が,引用発明について,「送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報の積算値に基づいて,他方のアンテナに切り替えるか,そのままのアンテナを用いるかが選択される」とした認定,及び「引用発明の送信電力制御信号」は「本願発明の電力制御信号」に相当するとした認定に誤りはない。

(2)  取消事由2(容易想到性判断の誤り)について

ア 積算値を用いることの意義について

前記(1)のとおり,引用発明は,送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報の積算値に基づいて,他方のアンテナに切り替えるか,そのままのアンテナを用いるかを選択するものである。

そして,引用発明において,「送信電力制御情報」は,「送信電力を大きくする情報」と「送信電力を小さくする情報」のいずれかであり,このうち「送信電力を大きくする情報」は,受信品質が低いときに端末装置で受信され,「送信電力を小さくする情報」は,受信品質が高いときに端末装置で受信されるものであることを考慮すると,引用発明は,受信品質が低く,送信電力を大きくする情報を受信した際にはアンテナを切り替え,受信品質が高く,送信電力を小さくする情報を受信した際にはそのままのアンテナを用いる技術であるということができる(引用例の【0099】,【0100】及び【0103】にもこの趣旨が現れる。)。

ところで,引用例には,アンテナの切替えに当たって送信電力制御情報の積算値を用いることの作用効果に関する具体的な記載は一切ない。そうだとすると,引用例において積算値を選択したことによる作用効果は,当業者が推測できるものを超える格別のものはないと解するのが自然である。すなわち,積算値を採用した理由としては,瞬間的な受信不良やノイズの影響によりアンテナの切替えが頻繁に発生することを回避できるなどの効果を求めたものと推測される。

のみならず,前記1(2)のとおり,引用例において,【請求項7】では「切替手段は,送信電力制御情報における制御値を積算」するとして「積算値」を必須の構成としている一方,【請求項5】では「周波数分割複信における通信相手からの送信電力制御情報に基づいて送信信号を送信するアンテナを切り替える切替手段」として,積算値を必須の構成としていない点を総合すれば,引用例において,アンテナの切替えに当たって送信電力制御情報の積算値を用いるとの構成は,当業者が任意に選択し得る構成であると評価するのが合理的である。

そうすると,引用発明について,送信電力制御情報を積算することなく1回分のみの値に基づいてアンテナの切替えを行う構成とすることも当業者が任意にし得ることであって,本願発明の「電力制御信号が信号送信電力を低減する要求を含むときは,前記電力制御信号の積算値とは無関係に第1のアンテナが選択される」構成を採用することは,当業者において容易であるというべきである。

以上によると,相違点に係る構成について,容易想到であるとした審決の判断に誤りはない。

イ 原告の主張について

原告は,引用発明は,「傾向」を判定するものであるところ,複数を積算するものでなければ「傾向」は判定できないと主張する。しかし,前記アのとおり,引用発明は「傾向」を判定するものと認められないから,この点の原告の主張は採用できない。

また,原告は,引用発明について「積算しないこと」に変更するという動機付けを見出すことはできないとも主張する。しかし,前記アのとおり,引用例において積算値が用いられたのは,瞬間的な受信不良やノイズの影響によりアンテナの切替えが頻繁に発生する「バタツキ状態」を回避するために,積算値を用いる構成を採用したにとどまるものと認められ,【請求項5】と【請求項7】の対比からしても,積算値を用いるか否かは当業者が任意に選択できる事項であると解すべきであり,原告の主張は採用の限りではない。

(3)  まとめ

以上によれば,相違点に係る構成に想到することが容易であったとの審決の結論は相当であって,審決に原告の主張に係る取消事由があるとは認められない。原告はその他縷々主張するがいずれも採用の限りではない。よって,原告の請求を棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)

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