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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10257号 判決 2012年11月21日

原告

株式会社モンテローザ

同訴訟代理人弁護士

玉井信人

淺枝謙太

同弁理士

中畑孝

市橋俊一郎

三田大智

被告

株式会社三井商事

同訴訟代理人弁理士

丹羽宏之

西尾美良

中村英子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2011-890080号事件について平成24年6月4日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,後記1の本件商標に対する後記2のとおりの手続において,被告の商標登録を無効にすることを求める原告の審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1  本件商標

本件商標(登録第3112184号商標。甲44)は,「モンテローザ」の片仮名文字を横書きしてなり,平成4年9月30日,平成3年法律第65号附則5条1項に基づき登録出願され,第42類「茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」を指定役務(以下「本件指定役務」という。)として,平成7年7月6日に登録査定された後,平成8年1月31日に設定登録され,平成18年7月7日に存続期間の更新登録がされて,現に有効に存続しているものである。

2  特許庁における手続の経緯

原告は,平成23年9月27日,特許庁に対し,本件商標の登録を無効にすることを求めて審判を請求した。特許庁は,これを無効2011-890080号事件として審理した上,平成24年6月4日,「本件審判の請求は,成り立たない」との本件審決をし,その謄本は,原告に対し,同月12日,送達された。

3  本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,要するに,①本件商標は,商標法4条1項7号,16号及び19号に違反して登録されたものではないから,同法46条1項1号により,無効とすることはできず,②本件商標の登録がされた後において,同法4条1項7号及び16号に該当するものでもないから,同法46条1項5号により,無効とすることもできない,というものである。

4  取消事由

(1)  商標登録査定時において,本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした判断の誤り(取消事由1)

(2)  商標登録後において,本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした判断の誤り(取消事由2)

(3)  商標登録査定時において,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした判断の誤り(取消事由3)

(4)  商標登録後において,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした判断の誤り(取消事由4)

(5)  本件商標が商標法4条1項19号に該当しないとした判断の誤り(取消事由5)

第3当事者の主張

1  取消事由1(商標登録査定時において,本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした判断の誤り)について

〔原告の主張〕

次のとおり,本件商標は,外国の著名な地名であるモンテローザ高峰や外国の著名な商標である「Monte Rosa」の信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしたものであり,このような商標の登録を認めることは,国際信義に反するものである。

(1) 本件商標と国際信義との関係について

ア 外国地名としての「モンテローザ」について

(ア) 本件審決は,「モンテローザ」を単に「スイスとイタリアの国境にそびえるアルプス山脈中の高峰」と判断した。

しかし,上記認定は,広辞苑(第6版)の記載をそのまま引用したものであるが,モンテローザ高峰がモンブラン高峰に次ぐアルプス山脈第2の高峰である事実や,マッターホルン高峰を含む山群としても周知である事実,アルプス山脈,モンブラン高峰,マッターホルン高峰との関係を全く判断していない。

したがって,本件審決の上記判断には脱漏がある。

(イ) 本件審決は,本件商標の登録査定時において,「モンテローザ」が世界的に著名な山の名称として,日本国内において広く一般に知られていたものとは認められないと判断した。

しかし,前記(ア)のとおり,モンテローザ高峰についての本件審決の判断には脱漏があり,これを前提とする上記判断は誤りである。

また,秩父宮親王がモンテローザ高峰を大縦走したことを伝える大正時代の新聞記事があること,昭和13年にイタリア軍の研究所が存する場所としてモンテローザ高峰が紹介されている新聞記事があること,昭和40年代にはスイスを紹介する書籍のアルプスに関する箇所には必ずモンテローザ高峰の名が記載されていたこと,登山に関する書籍にモンテローザ高峰はアルプス第2の高峰として記載されていたこと,昭和41年にモンテローザ高峰を舞台とする映画「アルプスの若大将」が公開され,400万人近くの観客がこの映画を見たこと,「モンテローザ」の語は,広辞苑第4版(平成3年11月15日発行)で「アルプス山脈中の高峰」として掲載され,大辞林(平成2年9月1日発行)でも,「アルプス山脈第2の高峰」として掲載されていること,モンテローザ高峰は標高4634mであり,マッターホルン高峰やスイスのツェルマット等の様々な場所から日本人登山客,観光客が目にすることができること,モンテローザ高峰には,長期間,多くの日本人観光客が訪れていること,イタリアにおいても,マルゲリータ王妃がモンテローザ高峰を眺めるためにグレソネイ渓谷に城を構築していること,総滑走距離180kmのコースがあるモンテローザスキー場やビラというスキー場からモンテローザ高峰を見ることができることなどからすると,本件商標の登録査定時において,「モンテローザ」の語は,スイス又はイタリアの地名(高峰名,観光地名)として,取引者,需要者に広く一般に知られていたことは明らかである。

(ウ) 本件審決は,本件商標の登録査定時において,モンテローザ高峰が何らかの料理の提供地として,日本国内において広く一般的に知られていたものとは認められないとして,本件商標のモンテローザ高峰に対するフリーライドを否定した。

しかし,取引者,需要者が商標を地名として認識する場合には,その地名が示す土地において現実に指定商品が生産され又は販売されていることを要しないから(最高裁昭和60年(行ツ)第68号同61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁),取引者,需要者が「モンテローザ」をスイスとイタリアの国境にそびえる高峰名として認識できるのであれば,現実にモンテローザ高峰が何らかの飲食物の提供地として広く知られていなくても,取引者,需要者が何らかの飲食物が提供されているであろうと認識するのみで足りる。

そして,前記(ア)及び(イ)記載の事実や日本人のアルプス山脈やイタリア語に関する知識等を総合勘案すれば,取引者,需要者が「モンテローザ」をスイス又はイタリアの地名として容易に認識することは疑う余地がない。

したがって,「モンテローザ」の語が地名であることを認めながら,その地名が何らかの飲食物の提供地として広く一般的に知られていたか否かをフリーライドの判断基準とした本件審決の判断は誤りである。

イ 外国商標としての「Monte Rosa」について

(ア) 本件審決は,本件商標の登録査定時において,「Monte Rosa」がホテルの商標として日本国内において広く一般に知られていたものとは認められないと判断した。

しかし,1855年からツェルマットにある「Monte Rosa」ホテル,1909年からイタリアのキアヴァリにある「Monte Rosa」ホテル,フランスのパリにある「Monterosa」ホテルは,いずれもミシュランの「レストラン・ホテルガイド」(2011年版)に掲載されて高評価を得ており,各ホテルの名称は世界的に著名な商標である。特に,ツェルマットの「Monte Rosa」ホテルは,同地で最初に建てられたホテルであり,モンテローザ高峰やマッターホルン高峰への登山客,観光客の拠点として,150年以上の間,世界一流のホテルとして名を馳せている。また,同ホテルは,1865年7月14日,エドワード・ウィンパーが同ホテルを出発してマッターホルン高峰への初登頂を果たしたことでも有名であり,世界中の登山客,観光客の間で広く知られている。さらに,遅くとも昭和55年には,同ホテルには日本から直接予約ができるようになっており,日本からアクセスしやすい世界一流ホテルとして知られていたものである。

したがって,「Monte Rosa」はホテルの商標として,日本国内においても広く知られていたことは明白であり,本件審決の上記判断は誤りである。

(イ) そして,「モンテローザ」を商標として選択した被告が,ツェルマットの「Monte Rosa」ホテルの名称を知らないはずはなく,現に,被告は,本件商標と同時に,紋章を付して商標を使用する同ホテルの手法を模倣して,甲34記載の商標を出願,登録している。

また,被告の関連会社である株式会社三陽物産は,文字の一部を渦巻き状にした書体で「Monte Rosa」と表した商標を使用しているが,この商標は上記「Monte Rosa」ホテルが使用する商標と酷似している。これもただの偶然とはいい難く,被告が「Monte Rosa」ホテルを知らなかったということはできない。

(ウ) したがって,被告が上記「Monte Rosa」ホテルに化体した信用,名声,顧客吸引力等へのフリーライドという不正な意図により本件商標を出願,登録し,これを使用していることは疑いようがない。

ウ 以上のとおり,本件商標は,外国の著名な地名と外国の著名な商標の信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしたものである。このような商標の登録を認めることは,国際信義に反し,公の秩序又は善良な風俗を害するものである。

(2) 本件商標と公正な取引秩序との関係について

次のとおり,本件商標は,被告固有の自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものであり,また,飲食物の提供の役務における慣用商標となっていて,独占適応性を有しないものであるから,本件商標の登録状態を維持することは,公正な取引秩序を乱すものである。

ア 本件審決は,「モンテローザ」はアルプス山脈中の高峰の一つの名称であることは認められるとしても,著名な地名とはいえず,何らかの料理の提供地を認識させるものでもないから,本件商標を本件指定役務に使用しても,自他役務識別標識としての機能を果たし得ると判断した。

しかし,前記のとおり,外国地名としての「モンテローザ」に対する本件審決の判断は誤りであり,この誤った判断に基づく上記判断も当然に誤りである。

イ 本件審決は,日本国内において,「モンテローザ」との商標を使用して飲食物の提供を行っている者が全国各地に多数存在していたとしても,それらは,あくまでも自他役務識別標識として使用されているというべきであると判断した。

しかし,本件商標は,外国の著名な地名や商標を社会通念上同一の形態で表示する商標であり,日本国内において,被告の商標としては自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものである。そうであるからこそ,日本国内では,原告を含め,「モンテローザ」との商標を使用して「飲食物の提供」を行っている者が多数存在している。本件商標は,飲食物の提供の役務における慣用商標となっていて,独占適応性を有しないものであるから,そのような本件商標の登録状態を維持することは,日本国内における公正な取引秩序を乱すものである。

(3) 小括

よって,本件商標は,登録査定時において,商標法4条1項7号に該当するから,同法46条1項1号により,登録を無効にすべきである。

〔被告の主張〕

(1) 本件商標と国際信義との関係について

ア 外国地名としての「モンテローザ」について

原告は,本件商標の登録査定時において,「モンテローザ」が世界的に著名な山の名称として,日本国内において広く知られていたと主張する。

しかし,本件商標の商標登録以降,現在に至るまで,「モンテローザ」との商標は,多数商標登録されている(乙1の1~7,乙2の1~4)。

これらの商標は,商標法3条1項3号の規定により拒絶されることなく登録されており,「モンテローザ」高峰が著名な観光地であるという原告の主張と矛盾する。

したがって,本件商標の登録査定時において,「モンテローザ」が著名な観光地ではないことは明らかである。

イ 外国商標としての「Monte Rosa」について

原告は,本件商標はツェルマットの「Monte Rosa」ホテル,キアヴァリの「Monte Rosa」ホテル,パリの「Monterosa」ホテルの商標の信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしたものであると主張する。

しかし,本件商標の登録査定時において,これらの商標が,周知,著名だったという事実は見当たらない。

(2) 本件商標と公正な取引秩序との関係について

原告は,日本国内においては,「モンテローザ」との商標を使用して「飲食物の提供」を行っているものが多数存在しているから,本件商標は,「飲食物の提供」の役務における慣用商標となっていると主張する。

しかし,被告が,店舗開店から現在に至るまで40年以上にわたり,本件商標を継続して使用してきた結果,本件商標には,「被告が商標権を有する「モンテローザ」商品を提供する店舗」であるという信用が化体され自他役務識別標識としての機能が備わっていることは明らかである。本件商標が「飲食物の提供」の役務における慣用商標となっており,自他役務識別標識としての機能がないとする原告の主張は正当性がない。

(3) 小括

よって,本件商標は,登録査定時において,商標法4条1項7号に該当しない。

2  取消事由2(商標登録後において,本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,商標法46条1項1号に基づく同法4条1項7号についての判断は,同法46条1項5号に基づく同法4条1項7号の判断にも,そのまま当てはまるとして,本件商標は商標登録がされた後において,商標法4条1項7号に該当するものとなっているとは認められないと判断した。

しかし,以下のとおり,本件審決の判断は誤りである。

ア 本件商標と国際信義の関係について

(ア) 前記のとおり,モンテローザ高峰やその麓のツェルマットには,多くの日本人登山客,観光客が訪れている。また,現在では,新潟県妙高市がツェルマットと姉妹都市として交流を進めており,より多くの日本人がツェルマットを訪れている。さらに,大手旅行会社がモンテローザ高峰を観光コースに取り入れた旅行商品を販売したり,山旅専門旅行会社がモンテローザ高峰に特化した旅行商品を販売したりするなど,日本国内におけるモンテローザ高峰の周知,著名性は日々増大している。

(イ) また,前記のとおり,「Monte Rosa」はホテルの商標として,日本国内において広く知られている。

(ウ) したがって,本件商標が商標登録されていることは,商標登録後の現在において,外国の著名な地名や著名な商標との関係で国際信義に反するものである。

イ 本件商標と公正な取引秩序との関係について

(ア) 前記のとおり,「モンテローザ」が被告固有の商標であるとの認識は現在でも定着していないし,独占適応性も有しない。

しかも,被告は,原告と争った審決取消訴訟(知財高裁平成23年(行ケ)10081号)での和解交渉に際し,原告が「モンテローザ」商標の共有又は譲受けを申し出たところ,商標権の譲受けとしては異例の高額費用を要求してきたように,金銭請求目的のために本件商標の登録を維持していることは明白である。

このような商標登録を半永久的に放置すれば,日本国内の飲食店業界の取引秩序が乱れ,取引者,需要者を混乱に陥れることとなる。

(イ) また,原告は,昭和58年から多数の飲食店を運営,管理し,飲食物の提供を行う会社であるところ,その売上高が外食産業において有数であることなどから,日本を代表する外食チェーンストアとしてマスメディアにも取り上げられ,その結果,「モンテローザ」は,飲食業界において,居酒屋経営業務を行う原告の著名な略称ないし商標として認識されるに至っている。

他方,被告及び三陽物産は,コーヒー,ケーキ等の提供を主とする飲食店を神奈川県内を中心に出店しているものである。

上記のとおり,「モンテローザ」は原告の略称ないし商標として居酒屋経営業務において著名性を有しているところ,居酒屋経営業務と被告の喫茶店業務とは類似するから,被告が本件商標を使用して居酒屋業務を行えば,原告との間で出所混同及び役務の質の誤認が生じ,公正な取引秩序を乱すおそれがある。

(ウ) 以上のとおりであるから,本件商標は,原告を含む全国の「モンテローザ」商標を使用する事業者との関係で公正な取引秩序を乱すものである。

(2) 小括

よって,本件商標は,商標登録後において,商標法4条1項7号に該当するから,同法46条1項5号により,無効にすべきである。

〔被告の主張〕

(1) 本件商標と国際信義との関係について

原告は,本件商標が商標登録されていることは,商標登録後の現在において,外国の著名な地名や商標との関係で国際信義に反すると主張する。

しかし,現在でも,「モンテローザ」は,単に「スイスとイタリアの国境にそびえるアルプス山脈中の高峰」であると認識され,「著名な観光地」ではないことは明らかである。

また,「Monte Rosa」ホテル等の名称が,現在,周知,著名になっている事実も見当たらない。

(2) 本件商標と公正な取引秩序との関係について

ア 原告は,「モンテローザ」が被告固有の商標であるとの認識は現在でも定着していないし,独占適応性も有しないと主張する。

しかし,前記のとおり,本件商標に自他役務識別標識としての機能がないとする原告の主張は正当性がない。

イ 原告は,原告の会社の名称の一部「モンテローザ」が,著名な略称ないし商標として認識されるに至っていると主張する。

しかし,原告が経営する飲食店名は,白木屋,魚民,笑笑等であり,「モンテローザ」は会社の名称の一部にすぎず,「モンテローザ」が原告経営の飲食店名として認知されていないことは明らかである。

(3) 小括

よって,本件商標は,商標登録後において,商標法4条1項7号に該当しない。

3  取消事由3(商標登録査定時において,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,「モンテローザ」の語は本件指定役務に係る何らかの役務の特質や役務の提供地等を想起させるものではないから,本件商標を本件指定役務に使用しても,需要者をして,役務の質について誤認を生じさせるおそれはないと判断した。

しかし,本件商標は,外国の著名な地名であるモンテローザ高峰と社会通念上同一の形態で表示する商標であるから,取引者,需要者に対し,モンテローザ高峰によって表される役務の内容や提供場所等を認識させ,役務の質の誤認を生じさせる。

また,本件商標は,外国の著名な商標である「Monte Rosa」と社会通念上同一のものでもあり,取引者,需要者に対し,「Monte Rosa」ホテルによって想起される役務の内容や提供場所等を認識させ,役務の質の誤認を生じさせる。

したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

(2) 小括

よって,本件商標は,登録査定時において,商標法4条1項16号に該当するから,同法46条1項1号により,無効にすべきである。

〔被告の主張〕

(1) 原告は,本件商標が外国の著名な地名であるモンテローザ高峰又は外国の著名な商標である「Monte Rosa」と社会通念上同一の形態で表示する商標であるから,取引者,需要者に対し,モンテローザ高峰又は「Monte Rosa」ホテルによって想起される役務の内容や提供場所等を認識させ,役務の質の誤認を生じさせると主張する。

しかし,「モンテローザ」は,単に「スイスとイタリアの国境にそびえるアルプス山脈中の高峰」であると認識され,「著名な観光地」ではないことは明らかであり,「モンテローザ」の語が,何らかの料理の提供地として認識されることはない。

また,「Monte Rosa」ホテル等の名称が,周知,著名であった事実は見当たらないので,「モンテロ-ザ」の語は,特定の提供場所を認識させるものでもない。

(2) よって,本件商標は,登録査定時において,商標法4条1項16号に該当しない。

4  取消事由4(商標登録後において,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,商標法46条1項1号に基づく同法4条1項16号についての判断は,同法46条1項5号に基づく同法4条1項16号の判断にも,そのまま当てはまるとして,本件商標は商標登録がされた後において,商標法4条1項16号に該当するものとなっているとは認められないと判断した。

しかし,前記のとおり,本件商標は,外国の著名な地名あるいは著名な商標と社会通念上同一の形態で表示する商標であるから,取引者,需要者に対し,これらの地名や商標によって想起される役務の内容や提供場所等を認識させ,役務の質の誤認を生じさせるものである。

(2) また,本件審決は,本件商標をケーキの提供に使用したとしても,需要者をして,役務の質について誤認を生じさせるおそれはないと判断した。

しかし,「MONTE ROSA」又は「モンテローザ」の語は,日本国内において,朱色の果実を載せたチーズケーキ等の名称として周知,著名である。

したがって,本件商標をケーキの提供に使用した場合,そのようなケーキを提供する店として誤認され,役務の質の誤認を生ずる。

(3) 本件審決は,居酒屋業務で著名な原告の「モンテローザ」の商標を,コーヒー店の業務を主とする被告が居酒屋業務に使用しても,役務の質の誤認は生じない旨判断した。

しかし,飲食業界において,「モンテローザ」は原告の略称ないし商標として著名であり,原告の行う居酒屋業務と本件指定役務の喫茶店業務とは類似の役務であるから,被告が本件商標を居酒屋業務に使用した場合には,出所混同とともに,役務の質の誤認を生ずるのは明らかである。

(4) 小括

よって,本件商標は,商標登録後において,商標法4条1項16号に該当するから,同法46条1項5号により,無効にすべきである。

〔被告の主張〕

(1) 原告は,本件商標はモンテローザ高峰によって表される役務の内容や提供場所等を認識させ,役務の質の誤認を生じさせると主張する。

しかし,前記のとおり,「モンテローザ」の語は,何らかの料理の提供地として認識されるものではなく,特定の提供場所を認識させるものでもない。

(2) 原告は,「MONTE ROSA」又は「モンテローザ」の語は,日本国内において,朱色の果実を載せたチーズケーキ等の名称として周知,著名であるから,本件商標をケーキの提供に使用した場合,そのようなケーキを提供する店として誤認され,役務の質の誤認を生ずると主張する。

しかし,本件商標の登録後において,イチゴ等の朱色の果実を載せたチーズケーキが,「モンテローザ」チーズケーキとして周知,著名になっている事実は見いだせない。

(3) 原告は,「モンテローザ」は原告の略称ないし商標として著名であり,原告の行う居酒屋業務と本件指定役務とは類似の役務であるから,被告が本件商標を居酒屋業務に使用した場合には,出所混同とともに,役務の質の誤認を生ずると主張する。

しかし,本件商標を居酒屋業務に使用するときは役務の質の誤認を生じるとする原告の主張も正当性がない。

(4) 小括

よって,本件商標は,商標登録後において,商標法4条1項16号に該当しない。

5  取消事由5(本件商標が商標法4条1項19号に該当しないとした判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,本件商標の登録査定時において,「Monte Rosa」との商標が宿泊施設の提供等の役務を表示する商標として日本国内又は外国における需要者の間において広く認識されていたものとは認められず,また,本件商標が不正の利益を得る目的等の不正の目的をもって使用するものであるとは認められないとして,本件商標の登録は,商標法4条1項19号に違反してされたものということはできないと判断した。

しかし,前記のとおり,「Monte Rosa」は,ホテルの商標として,我が国を含む世界中で周知,著名である。

そして,本件商標は,「Monte Rosa」を片仮名文字で表示したものであり,当然に上記商標と類似する商標である。

また,前記のとおり,被告が「Monte Rosa」ホテルを知らなかったはずはないから,被告は,上記「Monte Rosa」との商標が日本で登録されていないことを奇貨として,本件商標の登録出願をしたものであり,本件商標は,上記「Monte Rosa」との商標に化体した信用,名声,顧客吸引力等へのフリーライドを目的として使用する商標にほかならない。

(2) 小括

よって,本件商標は,商標法4条1項19号に該当するから,同法46条1項1号により,無効にすべきである。

〔被告の主張〕

(1) 原告は,本件商標は外国商標としての「Monte Rosa」に化体した信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドするとの不正の目的をもった登録であり,商標法4条1項19号に該当すると主張する。

しかし,本件商標の登録出願時において,「Monte Rosa」ホテル等の名称が周知,著名だったという事実は見当たらない。

被告は,これらのホテルの存在を知ることもなかったのであるから,不正の利益を得る目的その他の不正の目的をもって本件商標を使用するものではないことは明白である。

(2) 小括

よって,本件商標は,商標法4条1項19号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。

第4当裁判所の判断

1  認定事実

後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  本件商標の構成等

ア 本件商標は,「モンテローザ」の片仮名文字を横書きしてなるところ,「モンテローザ」の語は,「(「ばら色の山」の意)アルプス山脈中の高峰。スイス・イタリアの国境にそびえる。標高4634メートル。」の意味を持つものである(広辞苑第6版。甲7の1)。

イ 本件指定役務は,第42類「茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」であり,本件指定役務の需要者には,広く一般の需要者が含まれる。

(2)  モンテローザ高峰について

ア 大正15年8月24日付け及び同年9月9日付けの東京朝日新聞には,秩父宮親王がモンテローザ高峰に登山したとの記事が掲載されている(甲20の1・2)。

イ 昭和13年8月2日付け及び同年8月25日付けの東京朝日新聞には,イタリア軍の研究所が存する場所として,モンテローザ高峰に言及されている(甲21の1・2)。

ウ 昭和41年に公開された映画「アルプスの若大将」は,アルプスを舞台とする映画であり,劇中で「モンテ・ローザ」と題する楽曲が使用されている。公開時の観客数は,約380万人であった(甲30の1)。

エ 昭和43年4月25日に河出書房が発行した「世界の旅13 スイス/オランダ/ベルギー」には,モンテローザ高峰の写真やモンテローザ高峰の紹介文が掲載されている(甲22)。

オ 昭和43年6月1日に日本文芸社が発行した「先蹤者」という書籍には,モンテローザがアルプス第2の高峰であるとの記載がある(甲23)。

カ 平凡社が昭和56年4月20日に発行した世界大百科事典(甲7の2)では,モンテローザ(Monte Rosa)について,ペンニン・アルプスの主峰であること,アルプス第2の高峰であること,マッターホルン,リンプィッシュホルン,アルプフーベル,ドームなどを含めてモンテ・ローザ山群と呼ぶことがあることなどが記載されている。

キ スイス政府観光局が平成20年12月に作成した「スイスポケットガイド」という日本語のパンフレットや,平成22年9月に作成した「スイス花の旅」という日本語のパンフレットではモンテローザ高峰への言及があり,同観光局の平成23年8月30日時点のホームページでも,ヴァレー地方ツェルマット周辺の地図中にモンテローザ高峰が記載されている(甲8の1~3)。

ク 平成23年8月当時,スイスにある新モンテローザ・ヒュッテの看板には,日本語での案内文の記載がある(甲8の4)。

また,モンテローザ高峰への登山の拠点となるツェルマットの飲食店や土産物店等にも,平成24年8月現在,日本語での案内等が掲示されている(甲29の1~16,弁論の全趣旨)。

ケ 現在,新潟県妙高市は,ツェルマットと姉妹都市・友好都市の関係にある(甲36)。

また,国内の旅行会社では,モンテローザ高峰を観光コースに取り入れた旅行商品だけでなく,モンテローザ高峰やモンテローザ山群に特化した旅行商品も販売している(甲37の1~12)。

(3)  「Monte Rosa」の名称を用いた外国のホテルについて

ア ツェルマットには,1855年から「Monte Rosa」ホテルがある。また,キアヴァリには,1909年から「Monte Rosa」ホテルがある。さらに,パリには,「Monterosa」ホテルがある。これらのホテルは,いずれもミシュラン社が発行した平成23年版の「レストラン・ホテルガイド」に掲載されている(甲9の1・2,甲10,甲11,甲12の1~3)。

イ 1865年,イギリス人の登山家エドワード・ウィンパーは,ツェルマットの「Monte Rosa」ホテル出発してマッターホルン高峰への初登頂を果たしている(甲33の1~4)。

ウ 昭和55年当時,ツェルマットにある「Monte Rosa」ホテルは,日本から電話で宿泊等の予約ができるホテルとして旅行雑誌に紹介されていた(甲26の1・2)。

2  取消事由1(商標登録査定時において,本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした判断の誤り)について

(1)  商標法4条1項7号について

商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合でなくても,当該商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため,登録を認めることが国際信義に反し,又は公正な取引秩序を乱すような場合も含まれるものである。

(2)  原告は,本件商標は外国の著名な地名であるモンテローザ高峰や外国の著名な商標である「Monte Rosa」の信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしたものであり,このような商標の登録を認めることは,国際信義に反するものであると主張するので,以下検討する。

ア モンテローザ高峰の周知,著名性について

前記1(2)のとおり,モンテローザ高峰は,アルプス山脈第2の高峰であり,マッターホルン,リンプィッシュホルン,アルプフーベル,ドームなどを含めてモンテ・ローザ山群と呼ばれることがあるものであるから,アルプス山脈のあるスイスやイタリアにおいては,周知,著名な地名であるということができる。

しかしながら,本件商標について登録査定がされた平成7年頃までの日本国内においては,モンテローザ高峰については,本件証拠上,百科事典における記載や,大正15年あるいは昭和13年に発行された新聞記事での記載,スイスやイタリアを紹介した旅行用の書籍中での記載,昭和41年に公開された映画の舞台の一部として使用されたことなどが確認されるにとどまるから,スイスやイタリアを訪れる日本人旅行者には知られている地名であったとしても,広く一般の需要者にも知られていたと認めることはできない。

イ 「Monte Rosa」ホテルの周知,著名性について

前記1(3)で認定したとおり,ツェルマットの「Monte Rosa」ホテルやキアヴァリの「Monte Rosa」ホテルは,いずれも創業から数十年以上の長い歴史を有するものであるから,「Monte Rosa」の語は,本件商標の登録出願当時,少なくともスイスやイタリアでは,ホテルの名称として,周知,著名であったといえる。

また,日本国内においても,昭和55年当時,ツェルマットの「Monte Rosa」ホテルは,日本から電話で宿泊等の予約をすることができるホテルとして旅行雑誌に紹介されていたのであるから,海外への旅行者には同ホテルを知る者があったということはできる。

しかしながら,上記旅行雑誌の記載のほかに,本件証拠上,本件商標の登録出願時やその登録査定時において,「Monte Rosa」ホテルの名称が日本国内で紹介,宣伝等されていたことをうかがわせる事情は見当たらないから,その当時,これらのホテルの名称が日本国内において周知,著名であったと認めることはできない。

ウ 以上のとおり,本件商標の登録出願や登録査定の当時,日本国内において,モンテローザ高峰や「Monte Rosa」ホテルの名称は,いずれも周知,著名なものであったということはできない。

そうすると,仮に,被告がモンテローザ高峰や「Monte Rosa」ホテルの名称に依拠して本件商標を構成し,これを登録出願したものであったとしても,これらの名称が日本国内において周知,著名であったとはいえない以上,被告が,これらの名称の有している信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしたものとはいえないし,また,本件全証拠によっても,本件商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあったとも認められない。

したがって,原告の上記主張は採用できない。

エ なお,原告は,前掲最高裁昭和61年1月23日判決を引用して,本件審決が,「モンテローザ」の語が地名であることを認めながら,その地名が何らかの飲食物の提供地として広く一般的に知られていたか否かをフリーライドの判断基準としたのは誤りであると主張する。

しかしながら,当該判決は,商標登録出願に係る商標が商標法3条1項3号にいう「商品の産地,販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され,又は販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商標の表示する土地において生産され,又は販売されているであろうと一般に認識されることをもって足りると判断したものであり,したがって,本件商標が外国の地名の周知,著名性にフリーライドするものであるか否かが問題とされる本件とは事案を異にするものであり,原告の主張は失当である。

(3)  原告は,本件商標は被告固有の自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものであり,また,飲食物の提供の役務における慣用商標となっていて,独占適応性を有しないものであるから,本件商標の登録状態を維持することは,公正な取引秩序を乱すものであると主張する。

しかしながら,前記(1)のとおり,当該商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため,登録を認めることが公正な取引秩序を乱すような場合も商標法4条1項7号に該当するものであるが,原告の主張する上記事由が上記の著しく社会的相当性を欠くことを裏付ける事由ということはできないし,前記(2)ウのとおり,本件商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあったとも認められない。

したがって,原告の上記主張は採用できない。

(4)  小括

よって,取消事由1は理由がない。

3  取消事由2(商標登録後において,本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした判断の誤り)について

(1)  原告は,本件商標の商標登録後である現在,日本国内におけるモンテローザ高峰の周知,著名性は日々増大しているなどと主張する。

しかしながら,一般に,外国の著名な地名に類似した商標の商標登録が,当該地名の名声を利用して不正の利益を得る目的その他不正の目的をもってなされたものと認められるときには,公正な取引秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものとして,公序良俗を害する行為に該当し,商標法4条1項7号によって当該商標の登録を受けることができない場合があるとしても,その登録出願当時には,当該地名が日本国内において著名でなく,それゆえ,当該登録出願がそのような不正の目的を伴うものでなかった場合には,その登録出願後に当該地名が日本国内において著名になったとしても,それゆえに直ちに当該商標に係る商標権を保有することが公序良俗を害するものになるということはできない。商標登録を受けることができない商標として,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用するもの」を掲げる商標法4条1項19号の規定は,登録出願時に同号に該当しない商標については適用されないこと(同条3項),商標登録がされた後の事情に基づき商標登録を無効にすることについて審判を請求することができるとする同法46条1項5号の規定に同法4条1項19号に該当する事由は含まれていないことに照らしても,上記のように解するのが相当である。

したがって,本件商標の登録出願当時に比して,現在では,日本国内におけるモンテローザ高峰の名称の周知,著名性が増大しているとしても,それゆえに直ちに本件商標が公序良俗を害するものになるということはできないし,前記2(2)ウのとおり,本件商標の登録出願当時に被告が不正の利益を得る目的その他不正の目的をもっていたとは認められず,本件商標の出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあったとも認められない以上,本件商標の商標登録を維持することが国際信義に反するものとして,公序良俗に反するということはできない。

(2)  また,前記2(3)のとおり,本件商標は被告固有の自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものであり,また,飲食物の提供の役務における慣用商標となっていて,独占適応性を有しないとの原告の主張事由が著しく社会的相当性を欠くことを裏付ける事由ということはできないから,この点に関する原告の主張も理由がない。

なお,原告は,別件の審決取消訴訟における和解交渉で,被告が商標権の譲受けとしては異例の高額費用を要求したとして,被告が本件商標を保有するのは金銭請求目的であることが明らかである旨主張する。

しかしながら,原告が主張するような和解の交渉経過があったことを裏付ける客観的な証拠はないし,和解交渉において,商標の譲受けのために金銭の支払を求めることが,直ちに当該商標の保有が金銭請求目的であることと結び付くものでもない。

したがって,原告の上記主張は採用できない。

(3)  さらに,原告は,「モンテローザ」は原告の略称ないし商標として居酒屋経営業務において著名性を有し,居酒屋経営業務と被告の喫茶店業務とは類似するから,被告が本件商標を使用して居酒屋業務を行えば,原告との間で出所混同及び役務の質の誤認が生じ,公正な取引秩序を乱すおそれがあると主張する。

しかしながら,商標法4条1項15号は「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」と規定し,同項16号は「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」と規定しているように,商標法は,出願人からされた登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない商標を同法4条1項各号で個別具体的に定めている。このことに照らすと,登録出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては,特段の事情のない限り,当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであり,同法4条1項15号又は同項16号の該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら,当該条項の該当性の有無によって判断すべきである。

これを本件についてみると,原告は,自己の商号の一部である「モンテローザ」が著名であるとした上で,被告が本件商標を使用して居酒屋業務を行えば,原告との間で出所混同及び役務の質の誤認が生ずると主張しているものであり,上記特段の事情の有無について何ら主張,立証するものではないから,原告の上記主張は,商標法4条1項15号又は16号の該当性の有無として検討されるべきであって,同項7号の主張としては失当であるといわざるを得ない。

(4)  小括

よって,取引事由2も理由がない。

4  取消事由3(商標登録査定時において,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした判断の誤り)について

(1)  原告は,本件商標について,外国の著名な地名であるモンテローザ高峰と社会通念上同一の形態で表示する商標であるから,取引者,需要者に対し,モンテローザ高峰によって表される役務の内容や提供場所等を認識させ,役務の質の誤認を生じさせるとか,外国の著名商標である「Monte Rosa」と社会通念上同一のものであり,取引者,需要者に対し,「Monte Rosa」ホテルによって想起される役務の内容や提供場所等を認識させ,役務の質の誤認を生じさせるなどと主張する。

しかしながら,前記2(2)ア及びイのとおり,本件商標の登録査定当時,モンテローザ高峰やツェルマットの「Monte Rosa」ホテル等の名称は,日本国内において,広く知られていたとは認められないから,本件商標に接した取引者,需要者に対し,モンテローザ高峰や「Monte Rosa」ホテルによって表される役務の内容や提供場所等を認識させ,役務の質の誤認を生じさせるものということはできない。

また,「モンテローザ」の語は,本件指定役務に係る何らかの役務の特質又は役務の提供地等を想起,認識させるものでもないから,本件商標を本件指定役務に使用しても,その取引者,需要者をして,役務の質について誤認を生じさせるおそれはない。

(2)  小括

よって,取消事由3も理由がない。

5  取消事由4(商標登録後において,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした判断の誤り)について

(1)  前記4(1)のとおり,「モンテローザ」の語は,本件指定役務について,何らかの役務の特質又は役務の提供地等を想起,認識させるものではないから,本件商標を本件指定役務に使用しても,取引者,需要者をして,役務の質について誤認を生じさせるおそれはない。

(2)  原告は,「MONTE ROSA」又は「モンテローザ」の語は,日本国内において,朱色の果実を載せたチーズケーキ等の名称として周知,著名であるから,本件商標をケーキの提供に使用した場合,そのようなケーキを提供する店として誤認され,役務の質の誤認を生ずると主張する。

しかしながら,海外のインターネットでは,イチゴ等の朱色の果実を載せたチーズケーキやトルテを「MonteRosa」あるいは「Monterosa」などと称することがあり(甲16の1・2,甲17の1~3),日本国内でも,朱色の果実を載せたチーズケーキやトルテについて,「モンテローザ」との商品名を付ける例が散見されるものの(甲41の1~3),このようなチーズケーキやトルテを「モンテローザ」と称することが,日本国内において周知,著名であるとまで認めるに足りる証拠はない。

したがって,本件商標をケーキ類の提供に使用した場合に,取引者,需要者において,役務の質について,誤認を生ずるものということはできない。

(3)  原告は,飲食業界において,「モンテローザ」は原告の略称ないし商標として著名であり,原告の行う居酒屋業務と本件指定役務の喫茶店業務とは類似するから,被告が,本件商標を居酒屋業務に使用するときは,出所混同とともに,役務の質の誤認を生ずるのは明らかであると主張する。

しかしながら,商標法4条1項16号にいう「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」とは,商標を構成する文字,図形等がその指定商品又は役務と不実の関係にあるため,需要者に商標の使用に係る商品や役務が商標に表示された商品又は役務のごとく錯誤に陥るおそれのあるものをいうのであり,商品の品質,役務の質等の誤認のおそれの有無は,商標自体から判断すべきものである(大審院大正15年(オ)第164号同年5月14日第二民事部判決・大審院民事判例集5巻6号371頁)ところ,原告の上記主張は,本件商標の構成自体に基づくものではなく,要するに,被告が本件指定役務と類似する居酒屋業務に本件商標を使用した場合には,その顧客は,被告の業務に係る役務との誤認を生じ,その結果,原告における居酒屋業務との質の誤認が生ずるというものであって,役務の出所について誤認混同が生ずるとの主張にほかならず,本件商標の商標法4条1項16号該当性に係る主張としても失当である。

(4)  小括

よって,取消事由4も理由がない。

6  取消事由5(本件商標が商標法4条1項19号に該当しないとした判断の誤り)について

(1)  前記2(2)ウのとおり,被告は,「Monte Rosa」ホテルの名称の有している信用,名声,顧客吸引力等にフリーライドしたものとはいえないし,その他,本件全証拠によっても,本件商標の登録出願当時,被告が,不正の利益を得る目的で本件商標を使用するものであったとは認められない。

また,本件商標の登録出願当時,被告が他人に損害を加える目的その他不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる証拠もない。

(2)  小括

よって,取消事由5も理由がない。

7  結論

以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 髙部眞規子 裁判官 齋藤巌)

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