知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10266号 判決 2013年4月26日
原 告
エム.エイ.リヴァルト
インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士
辻居幸一
同
高石秀樹
訴訟代理人弁理士
西島孝喜
同
鈴木信彦
被 告
特許庁長官
指 定 代 理 人
中川隆司
同
伊藤元人
同
藤原直欣
同
氏原康宏
同
大橋信彦
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1請求
1 特許庁が不服2009-16785号事件について平成24年3月14日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2前提事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「自動パッケージピックアップ及び配送に関するシステム及び方法」とする発明につき,平成14年9月10日を国際出願日とする特許出願(特願2003-527661号。以下「本願」といい,本願の公表特許公報(甲8)を「本願明細書」という。)をしたが,平成20年6月12日付けで拒絶理由が通知されたので,同年12月10日付けで誤訳訂正書(甲9),手続補正書(甲10)及び意見書(甲11)を提出したが,平成21年5月7日付けで拒絶の査定がされた。
原告は,平成21年9月10日付けで拒絶査定に対する不服の審判(不服2009-16785号)を請求(甲12)するとともに,手続補正書(甲13)を提出したが,平成23年5月23日付けで手続補正を却下する旨の決定がされ,同年6月7日付けで拒絶理由が通知された。原告は,平成23年9月13日付けで誤訳訂正書(甲15)及び手続補正書(甲16。以下,これによる補正を「本件補正」という。)を提出した。
特許庁は,平成24年3月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月26日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には,次の記載がある(甲16。以下,請求項1記載の発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】
自動パッケージピックアップ及び配送ステーションであって,
ハウジングと,
出荷及び識別情報を受信するために前記ハウジングに結合された,バイオメトリクス入力デバイスと,
パッケージを受領及び取出すように構成され,前記ハウジング内に設置された少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口であって,前記ハウジング内に受領されたパッケージを安全にするためのアクセスコントロール装置を含む,少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口と,
前記少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口のアクセスコントロール装置と前記バイオメトリクス入力デバイスとを結合するコントローラであって,前記コントローラが,パッケージ及び意図された受領人識別情報と受領されたパッケージとを関連付けるように構成され,アクセスコントロール装置の制御オペレーションが,前記少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口内にパッケージの預け入れを可能にさせ,前記コントローラが,意図された受領人の識別を認証するために識別情報を処理し,識別および認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信し,前記少なくとも1つの受領及び取出口からパッケージの取出を可能にするように前記アクセスコントロール装置のオペレーションを制御するように構成されている,前記コントローラは,前記遠隔のセントラルホストデータセンターと適当な通信を提供し,パッケージ受領,配送及び,支払い情報が収集及び維持される,前記コントローラと,
前記ハウジングの場所にいる個人と,その場にいない係員との間での通信を可能にする,前記コントローラに接続しているビデオ会議システムと,を備える
ことを特徴とする自動パッケージピックアップ及び配送ステーション。」
3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりである。その要点は,本願発明は,特開平4-114891号公報(甲1。以下「引用文献」ともいい,これに記載された発明を「引用発明」という。)及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
審決の認定・判断の概要は,次のとおりである。
(1) 引用発明
「宅配ボックス装置Aであって,
宅配ボックス本体Bと,
出荷及び識別情報を受信するために前記宅配ボックス本体Bに結合された,ICカード用リードライト7と,
荷物を受領及び取出すように構成され,前記宅配ボックス本体B内に設置された扉3cを備えたボックス3bであって,前記宅配ボックス本体B内に受領された荷物を安全にするための電子錠3eを含む,扉3cを備えたボックス3bと,
前記扉3cを備えたボックス3bの電子錠3eと前記ICカード用リードライト7とを結合するシステム制御ユニット部2であって,前記システム制御ユニット部2が,荷物及び意図された受領人識別情報と受領された荷物とを関連付けるように構成され,電子錠3eの制御オペレーションが,前記扉3cを備えたボックス3b内に荷物の預け入れを可能にさせ,前記システムユニット部2が,意図された受領人の識別を認証するために識別情報を処理し,前記扉3cを備えたボックス3bから荷物の取出を可能にするように前記電子錠3eのオペレーションを制御するように構成されている,前記システム制御ユニット部2は,遠隔の情報処理装置Dと適当な通信を提供し,荷物受領,配送及び,支払い情報が収集及び維持される,前記システム制御ユニット部2と,を備える
宅配ボックス措置A。」
(2) 一致点
「自動パッケージピックアップ及び配送ステーションであって,
ハウジングと,
出荷及び識別情報を受信するために前記ハウジングに結合された,情報入力デバイスと,
パッケージを受領及び取出すように構成され,前記ハウジング内に設置された少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口であって,前記ハウジング内に受領されたパッケージを安全にするためのアクセスコントロール装置を含む,少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口と,
前記少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口のアクセスコントロール装置と前記情報入力デバイスとを結合するコントローラであって,前記コントローラが,パッケージ及び意図された受領人識別情報と受領されたパッケージとを関連付けるように構成され,アクセスコントロール装置の制御オペレーションが,前記少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口内にパッケージの預け入れを可能にさせ,前記コントローラが,意図された受領人の識別を認証するために識別情報を処理し,前記少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口からパッケージの取出を可能にするように前記アクセスコントロール装置のオペレーションを制御するように構成されている,前記コントローラは,前記遠隔のセントラルホストデータセンターと適当な通信を提供し,パッケージ受領,配送及び,支払い情報が収集及び維持される,前記コントローラと,を備える
自動パッケージピックアップ及び配送ステーション。」
(3) 相違点
ア 相違点1
本願発明においては,情報入力デバイスが,バイオメトリクス入力デバイスであって,バイオメトリクス入力デバイスによる識別情報に関して,識別及び認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信するのに対して,引用発明においては,情報入力デバイスが,ICカード用リードライト7であって,認証のための識別情報を遠隔の情報処理装置D(本願発明の「セントラルホストデータセンター」に相当)へ送信していない点。
イ 相違点2
本願発明においては,ハウジングの場所にいる個人と,その場にいない係員との間での通信を可能にする,コントローラに接続しているビデオ会議システムを備えるのに対して引用発明においては,ビデオ会議システムを有するかどうかが明らかでない点。
(4) 相違点の判断
ア 相違点1について
電子錠の開閉を行うための情報入力デバイスとしてバイオメトリクス入力デバイスを用いることは周知の技術である(周知技術1。例えば,甲2の【0020】及び【0112】並びに甲3の【0009】及び【0024】)。また,バイオメトリクス入力デバイスからの識別情報に関して,識別及び認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信することは周知の技術である(周知技術2。例えば,甲4の【0005】ないし【0009】及び甲5の【0016】)。してみると,周知技術1を参酌しつつ,引用発明において周知技術2を適用して,相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
装置の設置場所にいる個人と,その場にいない係員との間での通信を可能にするようなビデオ会議システムを設けることは周知の技術である(周知技術3。例えば,甲6の【0053】及び甲7の【0037】)。
引用発明と周知技術3はいずれも,情報入力端末を有するものであって,係員のいないところに設置された装置に関するものであることを考慮すれば,利便性の向上を目的として,引用発明に周知技術3を付加して,相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
第3原告主張の取消事由
審決には,本願発明の要旨認定の誤り,相違点の看過(取消事由1),相違点1において,引用発明と周知技術2との組合せの容易性の判断遺漏,及び同判断の誤り(取消事由2),相違点2において,引用発明と周知技術3との組合せの容易性の判断の誤り(取消事由3)があり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明の要旨認定の誤り,相違点の看過)
審決は,以下のとおり,相違点1の認定において,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」が「人体からバイオメトリクス情報を直接取得して入力するデバイス」を意味するものであり,「カードに記録されたバイオメトリクス情報を読み取るだけのICカードリーダ」と異なるものであるという相違点を看過し,相違点1の認定を誤ったものである。このような本願発明の要旨認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(1) 本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義
ア 特許請求の範囲の文言
特許請求の範囲に記載されているように,本願発明は,「パッケージ受領及び取出口のアクセスコントロール装置と…バイオメトリクス入力デバイスとを結合する…コントローラが,意図された受領人の識別を認証するために識別情報を処理し,識別および認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信し,…パッケージの取出を可能にする」発明である。したがって,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義は,「遠隔のセントラルホストデータセンター」に記録されているバイオメトリクス情報と照合するために“人体から直接取得したバイオメトリクス情報を入力する手段”であると理解される。
このような理解と異なり,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」が“バイオメトリクス情報が予めICカードに記録されたバイオメトリクス情報を読み取るだけのICカードリーダ”を含むと解釈すると,本人認証のためにICカードが必須となり,カードの紛失,盗難,改ざんの問題が生ずる。本願発明は,バイオメトリクス情報を「遠隔のセントラルホストデータセンター」で記録しておくことにより,このような問題を回避した発明である。
イ 本願明細書の記載及び補正の経緯
本願明細書(甲8)の段落【0019】には,「実施形態では,積極的な認証は,受託者又は受領者からの情報を識別することを用いて提供される。例えば,そこに適当な識別情報のあるクレジットカード又は他のタイプのカードは,ホストデータベース内に入力された受託者情報と識別情報とを適合させることに用いることができる。同様に,バイオメトリクス情報は,受託者によって提供された指紋や虹彩のようなホストデータベースにストアされた以前に得られた情報と比較する。…」と記載されている。このように,出願当時の本願発明は,①カード内に記録された識別情報とホストデータベース内に入力された受託者情報を対比する態様と,②受託者の指紋や虹彩等のバイオメトリクス情報を以前に得られた情報と比較する態様を含んでいた。
このことは,本願明細書の段落【0008】の記載からも明らかである。すなわち,そこには,「…少なくとも1つの情報入力システムは,クレジット・デビットカードから情報を読みとるためのデータリーダデバイス,タッチスクリーンディスプレィデバイス,ポータブルワイヤレスデータトランスミッタと,及び/又は,バイオメトリクスデータ収集デバイスを含み得る。バイオメトリクス情報は,受領者を一意的に識別するのに用いられ,例えば指紋,サイン,声紋,虹彩パターン,又は顔のパターンを取得するために,スキャナ,カメラ,マイクロフォン,又は他の入力デバイスを含み得る。」と記載されており,出願当時の本願発明は,①カードから識別情報を読みとるためのデータリーダデバイスと,②バイオメトリクス情報を直接取得するためのスキャナ,カメラ,マイクロフォン等のバイオメトリクスデータ収集デバイスを含んでいた。
そして,本願明細書を精査するも,バイオメトリクス情報をICカードに記録して,これをデータリーダデバイスにより読み取るという実施形態は一切記載されていない。
そうであったところ,特許請求の範囲の文言は,出願時の「少なくとも1つの情報入力システム」(甲8)という文言から,平成20年12月10日の手続補正(甲10)及び平成23年9月13日の手続補正(甲16)を経て「バイオメトリクス入力デバイス」と補正されたため,上記①の態様は排除され,現在のクレームは上記②の態様を対象としているものである。
(2) 審決による「バイオメトリクス入力デバイス」の認定
審決が,「バイオメトリクス入力デバイス」について,ICカードに記録されているバイオメトリクス情報をICカードリーダを介して読み込むデバイスを包含するように広く認定していることは,本願発明と引用発明との対比(審決7頁15~17行),及び,相違点1の認定・判断のうち同要件に係る部分(審決8頁3~9行,18~22行)から明らかである。
すなわち,審決は,本願発明と引用発明との対比において,「引用文献記載の発明における『ICカード用リードライト7』は,『情報入力デバイス』という限りにおいて,本願発明における『バイオメトリクス入力デバイス』に相当する」と説示している。かかる説示は,「ICカード」に記憶されている情報を読み取る「ICカード用リードライト」が「情報入力デバイス」に相当するとの認定を前提とするものである。
そして,審決は,相違点1の認定において,「本願発明においては,情報入力デバイスが,…バイオメトリクス入力デバイスによる識別情報に関して,識別および認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信するのに対して,引用文献記載の発明においては,情報入力デバイスが,…認証のための識別情報を遠隔の情報処理装置D(本願発明の「セントラルホストデータセンター」に相当。)へ送信していない点」であると認定しており,相違点1は,①識別情報が「バイオメトリクス情報」であること,②識別及び認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信することの2点である。
審決は,相違点1の判断において,周知技術1として甲2及び甲3を挙げ,甲2及び甲3における「ICカードに記録された情報を読み取る情報入力デバイス」が本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」に相当すると認定しているが,かかる認定は,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」がICカードに記録されたバイオメトリクス情報をICカードリーダにより読み込むデバイスを含むとの誤った要旨認定を前提とするものである。
審決は,相違点1の認定において,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」が「人体からバイオメトリクス情報を直接取得して入力するデバイス」を意味しており,「カードに記録されたバイオメトリクス情報を読み取るだけのICカードリーダ」と異なるという相違点を看過している。
2 取消事由2(相違点1において,引用発明と周知技術2との組合せの容易性の判断遺漏,及び同判断の誤り)
審決は,相違点1として,①バイオメトリクス情報を識別情報として使用すること,及び,②登録されたバイオメトリクス情報をセンターに記憶させておき,センターとの間で送信及び受信することを認定した上,引用発明に周知技術1(甲2及び3)を適用することで①を実現し,このようにして引用発明と周知技術1とを合体させた発明に対し,更に周知技術2(甲4及び5)を適用することで②を実現するという論理付けをしている。
しかし,以下のとおり,審決は,引用発明と周知技術2の組み合わせの容易性判断を遺漏しており,また,引用発明と周知技術2の組合せの容易性判断を誤っている。
したがって,審決の相違点1に係る判断は誤りである。
(1) 引用発明と周知技術2との組み合わせの容易性の判断遺漏
周知技術であっても主引例と組み合わせることの容易性を論理付ける必要があることは当然であり,特に,周知技術と主引例とが異なる技術分野に属する場合は,両者が異なる技術分野に属するにもかかわらず組合せが容易であることを論理付けしない限り,進歩性を否定する論理付けとしては不十分である。
しかるに,審決は,引用発明と周知技術2とが異なる技術分野に属するにもかかわらず,組合せが容易であることを論理付けしていない。すなわち,引用発明は,「宅配ボックス装置」に係る発明である(甲1)のに対し,甲4記載の発明は,金融機関のATMにおいて顧客がATMを操作する際に,ATMに設けられたカメラ等を備えるバイオメトリクス情報取得部により取得されるアイリスデータと,ホストコンピュータのような登録部に記憶されている当該顧客のアイリスデータとを照合するという発明であり(段落【0005】~【0009】),また,甲5記載の発明は,利用者がゲート施設を通過する際に,カメラで利用者を撮影し,これにより取得した利用者のアイリスデータをホストコンピュータに記憶されている当該利用者のアイリスデータと照合するという発明であるから(甲5,段落【0016】,図1),いずれの発明も引用発明とは異なる技術分野に属する。
したがって,審決は,相違点1の判断のうち引用発明と周知技術2との組合せの容易性の判断を実質的に遺漏している。
(2) 引用発明と周知技術2との組み合わせの容易性判断の誤り
引用発明に周知技術2を組み合わせることは,阻害事由が存在するか,少なくとも動機付けが存在しない。
すなわち,引用発明においては,「利用者Nの所持するICカード7aを,宅配ボックス本体BのICカード用リーダライト7に差し込むと,利用者の身元確認が宅配ボックスBにより行われる」から(甲1,4頁左上欄10~14行),これに加えて遠隔地に存在するセンターと通信して利用者の身元確認を更に行うことの動機付けは,甲1においても,甲2及び甲3においても,乙6においても,記載も示唆も存在しない。
そして,甲2及び甲3記載の発明は,いずれも「意図された受領人の識別を認証するための」識別情報としてのバイオメトリクス情報はICカードに記録されており,ロッカー・貸金庫のカードリーダがICカードに記録された情報を読み取るという発明であるから,そのような「引用発明と周知技術1とを組み合わせた発明」に周知技術2(甲4,5)を更に組み合わせて,利用者の身元確認を当該バイオメトリクス情報を使用して行うことは,カメラで撮影した利用者の虹彩等のバイオメトリクス情報とICカードに記録された虹彩等のバイオメトリクス情報とを比較するのみである。それとは別個に,遠隔地に存在するセンターと通信して利用者の身元確認をさらに行うことは,身元確認を強化するという唯一想定され得る利点すらも存在せず,通信時間を浪費するだけであるから,合理的な理由を見出せず,阻害事由が存在することは明らかであり,少なくとも,動機付けが存在しない。
3 取消事由3(相違点2において,引用発明と周知技術3との組合せの容易性の判断の誤り)
審決は,引用発明において,周知技術3(甲6,甲7)を付加して,相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たであると判断している。
しかし,まず,引用発明と周知技術3とは異なる技術分野に属するものである。すなわち,甲6記載の発明は,駐車場における駐車券自動発行装置において,異常事態が生じたときや利用者がわからないことがある場合に監視センタに常駐している監視員とテレビ電話を使って対話することにより問題を解決した発明であり(段落【0053】),また,甲7記載の発明は,双方向型情報提供装置において例えば,「ユーザーは備え付けのテレビ電話機33から直接予約施設に電話する」という発明であって(段落【0037】),いずれも引用発明とは異なる技術分野に属する。
そして,甲6及び甲7記載の発明の課題は,それぞれ「初めての利用者でも速やかに立体駐車装置を利用すること」(甲6,1頁【課題】),「双方向型情報提供装置を提供すること」(甲7,段落【0003】)であり,本願発明における課題,すなわち利用者利便性を向上すると共に,かかる処理に伴うシステムを簡略化し,出荷パッケージの安全性を確保すること(本願明細書段落【0004】)とは全く異なる。また,甲1記載の発明に利便性に問題があるとの記載ないし示唆は存在しないし,問題点が存在しないにもかかわらず導入コストが高いビデオ会議システムを殊更に導入することは,当業者が容易になし得ることではない。したがって,引用発明において,認証システムの一環としてビデオ会議システムを用いる着想は容易であるとはいえない。
加えて,引用発明(甲1)の宅配ボックスにテレビ電話を付加する理由も必要性も存しないところ,甲6及び甲7においてもそのような記載ないし示唆は存しない以上,引用発明に周知技術3(甲6,7)を組み合わせるための論理付けは成り立たず,審決の相違点2に係る判断は,判断を実質的に遺漏しているものであり,少なくとも,かかる判断は誤りである。
本願発明は,宅配ボックスと管理センタとを繋ぐテレビ電話を設置することにより,周知技術3(甲6,甲7)のような単なる通話するためのテレビ電話としての利便性を超えた,テレビ電話を利用した認証機能を実現するという付加価値を実現した発明であるから,顕著な作用効果も認められるものである。
第4被告の反論
1 取消事由1(本願発明の要旨認定の誤り,相違点の看過)に対し
(1) 本願発明は,「バイオメトリクス入力デバイス」によって「バイオメトリクス情報」を取得するものであるところ,「バイオメトリクス情報」は,パッケージの受領人を識別するための情報と認められる(甲8の段落【0008】)。一方,引用発明は,「ICカード用リードライト7」によって「ICカード7aの情報」を取得するものであるところ,「ICカード7aの情報」は,少なくとも,指定配達業者M1を確認するための情報と認められる(甲1の4ページ左下欄19行ないし同右下欄6行)。したがって,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」と,引用発明の「ICカード用リードライト7」とは,共に,パッケージの受領人(指定配達業者M1)を識別する(確認する)ための情報を取得する構成として共通することが明らかである。
審決は,そのような共通性を考慮し,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」と引用発明の「ICカード用リードライト7」とが,「情報入力デバイス」という限りにおいて一致する,すなわち,パッケージの受領人(指定配達業者M1)を識別し認証する(確認する)ための情報を取得する構成の限りにおいて一致するものと認定したものであり,その認定に誤りはない。
(2) また,本願発明における「バイオメトリクス入力デバイス」と,引用発明における「ICカード用リードライト7」の技術的意義が「情報入力デバイス」として共通することは,本願明細書(甲8)において,請求項1に「情報入力システム」と記載され,その下位として,請求項10に「データリーダデバイス」,請求項14に「バイオメトリクス入力デバイス」が記載されていることや,同段落【0019】において,「バイオメトリクス入力デバイス」からの情報が「クレジットカード又は他のタイプのカード」からの情報と同様に識別のための「情報」を「入力」するための「デバイス」として扱われていることからも明らかである。
したがって,本願発明と引用発明との対比において,「バイオメトリクス入力デバイス」と「ICカード用リードライト7」において,共通する技術事項を表現するもの,すなわち,両者の上位概念を表現するものとして「情報入力デバイス」という文言を用いたことに誤りはない。
(3) 審決における相違点1は,「本願発明においては,情報入力デバイスが,バイオメトリクス入力デバイスであって,・・・に対して,引用文献記載の発明においては,情報入力デバイスが,ICカード用リードライト7であって,・・・点」であると認定したように,相違点1として,「情報入力デバイス」が本願発明においては「情報入力デバイス」の下位の概念である「バイオメトリクス入力デバイス」であって,また,引用発明においては「情報入力デバイス」の下位の概念である「ICカード用リードライト7」であるとして区別したものであるから,相違点を看過するものではないことも明らかである。
したがって,原告の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点1において,引用発明と周知技術2との組合せの容易性の判断遺漏,及び同判断の誤り)に対し
(1) 本願明細書(甲8)の段落【0008】,【0014】,【0019】の記載によれば,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」とは,少なくとも,預けられたパッケージを受領(関連するロッカードアを解錠)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を取得することに技術的意義を有するものといえる。
甲1の4ページ左上欄10ないし14行,同頁左下欄13行ないし右下欄6行の記載によれば,引用発明の「ICカード用リードライト7」は,ICカード7aの情報を取得するものと認められるところ,ICカード7aの情報を取得することは,少なくとも,預けられた発送物を受領(発送物が収納されたボックス3bの電子錠3eを解錠)するために,指定宅配業者M1の確認及び認証を目的としていることが明らかである。
してみると,引用発明の「ICカード用リードライト7」と,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」とは,預けられたパッケージを受領(関連するロッカードアを解錠)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を取得するという技術的意義を有する点で共通することが明らかである。
審決は,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」と引用発明の「ICカード用リードライト7」とが,上記技術的意義の点で共通することを踏まえ,周知技術1及び周知技術2を考慮して,相違点1に係る本願発明の構成が容易想到と判断したものであり,誤りはない。
(2) 周知技術1について
審決が周知技術1として例示した甲2の段落【0020】,【0042】及び【0043】,【0101】及び【0102】並びに【0112】等の記載を参酌すれば,甲2には,パッケージ(書留郵便物)を受領(対応する扉を開放)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を「バイオメトリクス情報」として取得する「バイオメトリクス入力デバイス」(指紋,音声,顔の画像,網膜パターン等の読取装置)が開示されていることが明らかである。
また,審決が周知技術1として例示した甲3の段落【0001】,【0009】及び【0024】等の記載を参酌すれば,甲3には,パッケージ(保管された重要物等)を受領(ロッカー式金庫32を解錠)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を「バイオメトリクス情報」として取得する「バイオメトリクス入力デバイス」(指紋,声紋,虹彩等の人証データ入力器)が開示されていることが明らかである。
審決は,「情報入力デバイス」として,甲2で例示した指紋,音声,顔の画像,網膜パターン等の読取装置,甲3で例示した指紋,声紋,虹彩等の人証データ入力器のような「バイオメトリクス入力デバイス」が用いられることが周知の技術(周知技術1)であることを述べたのである。
そして,そのような周知技術1を通常の知識として有する当業者にとって,パッケージを受領(関連するロッカーを解錠)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を「ICカード7aの情報」として取得するか(すなわち「ICカード用リードライト7」を用いるか),又は「バイオメトリクス情報」として取得するか(すなわち「バイオメトリクス入力デバイス」を用いるか)は,必要に応じて適宜選択して採用できる設計事項にすぎないものというべきである。
(3) 周知技術2について
原告は,周知技術であっても主引例と組み合わせることの容易性を論理付ける必要があるところ,審決は,周知技術2に関し,引用発明と同じ技術分野であることにつき一切判断しておらず,かつ,両者が異なる技術分野に属するにもかかわらず組合せが容易であることを論理付けしていない旨主張する。
しかし,そもそも,認証技術は,取引の安全性確保等を目的として,各種技術分野,各種用途で使用され得ることは認証技術に接した当業者には自明であるから,周知技術2を引用発明の認証処理に係る技術として採用することに何ら困難性はない。引用発明が宅配ボックス装置の技術分野に属するものであっても,当該宅配ボックス装置の認証技術として,各種技術分野,各種用途で使用され得る周知の認証技術を適用できないとする特段の事情はない。
(4) 以上のとおりであるから,審決の相違点1の判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点2において,引用発明と周知技術3との組合せの容易性の判断の誤り)に対し
無人システムに関するものである点で引用発明と周知技術3とは共通する技術分野に属する。
無人システムにおいて利用者の利便性を図るために無人システムの管理者との意思の疎通を図りやすくするという課題は周知であって,そのような課題が引用発明の宅配ボックス装置に内在することは自明である。
したがって,引用発明においても,無人システムとして利用者の利便性を図るというような上記課題が内在していることは明らかであるから,引用発明において,周知技術3を適用してビデオ会議システムを導入するようにして,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは,当業者が容易に想到し得ることである。
原告は,周知技術3として例示した甲6及び甲7は,テレビ電話を利用した認証機能を実現するという付加価値を記載ないし示唆するものではない旨主張するが,本願発明は,「ビデオ会議システム」の認証機能を実現するものとして特定するものではなく,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。本願明細書(甲8)の段落【0011】の記載からすると,「ビデオ会議システム」はカスタマーサービスの向上,すなわち,利用者の利便性に図るためにも使用されることは明らかである。必ずしも認証機能を実現するものと限定して解釈する必要はない。
したがって,審決の相違点2の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 取消事由1(本願発明の要旨認定の誤り,相違点の看過)について
(1) 本願発明の概要
証拠(甲8,9,15,16)によれば,本願発明は概要次のとおりのものであることが認められる。
本願発明は,出荷者から出荷されたパッケージを受領するハウジングと,ハウジング内に受領されたパッケージを安全にするためのアクセスコントロール装置と,このアクセスコントロール装置を制御するコントローラとを備えた,自動パッケージ配送及びピックアップステーションに関する発明である。
従来,パッケージをピックアップする際行われる「意図したパーティ」の認証のため,典型的には,PINタイプ認証処理,すなわち,入力されたPIN(個人識別番号)による入力者の認証を採用することできたが,このようなPINタイプ認証処理は不便であり,一意的なPIN番号を割り当て管理する必要が生じるのでシステムを維持するのが複雑である等の課題があった。
本願発明は,これらの課題を解決するために,①出荷及び識別情報を受信するために前記ハウジングに結合されるとともにコントローラにも結合されたバイオメトリクス入力デバイスを備え,②アクセスコントロール装置のオペレーションを制御するコントローラが,パッケージ及び意図された受領人識別情報と受領されたパッケージとを関連付けるように構成されており,③コントローラが,受領及び取出口からパッケージの取出しを可能にするに際して,意図された受領人の識別を認証するために識別情報を処理し,当該コントローラと遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で識別及び認証情報を送信及び受信し,④コントローラが,遠隔のセントラルホストデータセンターと適当な通信を提供して,パッケージ受領,配送及び支払情報が収集及び維持され,⑤コントローラに接続され,ハウジングの場所にいる個人とその場にいない係員との間での通信を可能にするビデオ会議システムとを備えたものである。
(2) 本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義
本願明細書(甲8)の段落【0004】,【0010】,【0019】の記載によれば,本願明細書においては,従来,自動パッケージピックアップ及び配送ステーションにおける認証技術として,典型的にはPINタイプ認証処理が採用されたが,このようなPINタイプ認証処理は不便であり,一意的なPIN番号を割り当て管理する必要が生じるのでシステムを維持するのが複雑である等の課題があり,このような課題を解決するための認証として,「バイオメトリクス入力デバイス」を備えることによって可能となる「バイオメトリクス情報」を用いた認証とともに,「クレジット/デビット又は他のタイプのIDカードから情報を読みとるカードリーダ」を備えることによって可能となる「適当な識別情報のあるクレジットカード又は他のタイプのカード」を用いた認証等が例示されていること,また,これらのような「受託者又は受領者からの情報」を用いた認証ではない認証である「パッケージトラッキング数からの選択されたディジット」を用いた認証,レシートに含まれた各種の「バーコード」を用いた認証についても,パッケージの取出しを行うべくハウジングの近傍にいる者についてのPINタイプ認証処理のような不便がなく管理が必要でない認証であると整理されていること,そして,「バイオメトリクス入力デバイス」は,「クレジット/デビット又は他のタイプのIDカードから情報を読みとるカードリーダ」と同様に,自動パッケージピックアップ及び配送ステーションに備えられた入力装置であって,具体的には「指紋又は虹彩スキャナ,サイン入力パッド,顔識別カメラ,及び/又は,音声認識マイクロフォンを含む」ものであることが認められる。
上記によれば,本願明細書において,「バイオメトリクス入力デバイス」を備えることによって可能となる「バイオメトリクス情報」を用いた認証は,パッケージの取出しを行うべくハウジングの近傍にいる者についてのPINタイプ認証処理のような不便がなく管理が必要でない認証の一つであり,かつ,「クレジット/デビット又は他のタイプのIDカードから情報を読みとるカードリーダ」を備えることによって可能となる「適当な識別情報のあるクレジットカード又は他のタイプのカード」を用いた認証とは区別されたものであることが認められる。
そして,特許請求の範囲における「バイオメトリクス入力デバイス」を備える旨の特定は,パッケージの取出しを行うべくハウジングの近傍にいる者についてのPINタイプ認証処理のような不便がなく管理が必要でない認証としての「バイオメトリクス情報」を用いた認証を行うことを前提として,具体的には「指紋又は虹彩スキャナ,サイン入力パッド,顔識別カメラ,及び/又は,音声認識マイクロフォン」のような入力装置である「バイオメトリクス入力デバイス」を備える旨を特定するものであることが認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,審決が,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義について,ICカードに記録されているバイオメトリクス情報をICカードリーダを介して読み込むデバイスを包含するように広く認定しているとして,このような認定は誤りである旨主張する。
しかし,そもそも審決は,原告が主張するような認定はしていない。すなわち,審決は,「『情報入力デバイス』という限りにおいて」と限定して「ICカード用リードライト7」が「バイオメトリクス入力デバイス」に相当すると認定しており(審決書7頁),これを言い換えれば,審決は,「情報入力デバイス」という点を除けば,「ICカード用リードライト7」は「バイオメトリクス入力デバイス」とは区別されたものとして認定しているのであり,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義について,「ICカード用リードライト7」(原告がいうところの「ICカードに記録されているバイオメトリクス情報をICカードリーダを介して読み込むデバイス」)を包含するような認定はしてはいない。
イ 原告は,審決が本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義について上記のとおり広く認定していることの根拠として,審決は,相違点1の判断において,甲2及び甲3における「ICカードに記録された情報を読み取る情報入力デバイス」が本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」に相当すると認定している旨主張する。
しかし,そもそも審決は,原告が主張するような認定はしていない。すなわち,審決が甲2及び甲3に言及している箇所は,「電子錠の開閉を行うための情報入力デバイスとしてバイオメトリクス入力デバイスを用いることは周知の技術である(例えば,特開平9-330458号公報(判決注:甲2を指す。)の段落【0020】及び【0112】並びに特開2000-145219号公報(判決注:甲3を指す。)の段落【0009】及び【0024】参照。以下,「周知技術1」という。)。」(審決書8頁)という部分のみであるところ,甲2及び甲3の以下の記載からすると,審決が原告の主張するような認定をしているとは認められない。
すなわち,甲2の段落【0020】の「ロッカー制御部20は,ビデオカメラ21,ビデオモニタ22,ディスプレイ23,スピーカ24,マイクロフォン25,操作キー26,カード装置27,帳票プリンタ28および電話機29に結合され,操作制御部2の全体の動作を制御している。このロッカー制御部20の制御により,ロッカー1の物品収納部10~19の扉が個別に開閉される。…」の記載,段落【0042】の「ステップS22では,ビデオカメラ21によりとらえられた顔面の画像,マイクロフォン25により収集された音声等がICカードから読み出された個人の固有情報と照合される。…」の記載,段落【0043】の「ステップS22で,本人を特定することができた場合には,ロッカー制御部20は,ロッカー1の物品収納部10~19の対応する扉を開放する(ステップS24)。受取人は,開いた物品収納部から書留郵便物を取り出して受領し(ステップS25),その物品収納部の扉を閉じる(ステップS26)。…」の記載,段落【0101】の「…指紋読取装置で読みとった指紋とICチップ202から読み出した指紋が一致した場合,ロッカー制御部20は,ステップS81で入力された預り番号に一致する預り番号が内部メモリに記憶されているか否か検索する(ステップS88)。…」の記載,段落【0102】の「ステップS81で入力された預り番号が,内部メモリに記憶されている場合は,その預り番号に対応付けて記憶されている物品収納部の番号を読み出し,その物品収納部の扉を開く(ステップS90)。受取人は,開いた物品収納部から書留郵便物を取り出して受領し,その物品収納部の扉を閉じる。」の記載,段落【0112】の「…また,本人確認用に指紋を使用したが,音声,顔の画像,顔の輪郭,網膜パターン,サインの画像,暗証等の他の情報を使用してもよい。…」の記載からすると,甲2には,パッケージ(書留郵便物)を受領(対応する扉を開放)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を「バイオメトリクス情報」として取得する「バイオメトリクス入力デバイス」(指紋,音声,顔の画像,網膜パターン等の読取装置)が開示されていることが明らかである。
また,甲3の段落【0001】の「本発明は,金庫や保管庫など許可した特定の者にのみ開閉を許すようにして,保管された重要物,薬品,毒物などの安全を保証する錠前の管理システムに関し,特に錠前に管理者を置かずに予め認可された者が自身で開閉するようにした錠前管理システムに関する。」の記載,段落【0009】の「…生体情報データとは,指紋,声紋,虹彩等,人体に備わっていて個人に特有の特徴を表す情報に関するデータをいう。このようなデータは,他人が成り済まして提示することが困難であるから,生体情報データに基づいて本人認証を行うことにより,錠前の安全性はより高くなる。」の記載,段落【0024】の「貸金庫3には,ICカードリーダライタと人証データ入力器を備えた解錠処理装置31と複数のロッカー式金庫32が設けられている。解錠処理装置31は金庫制御インタフェースを備え認証データ照合ソフトウエアを搭載している。金庫32は電気コントローラ付きで遠隔操作により施錠解錠ができる。…」の記載からすると,甲3には,パッケージ(保管された重要物等)を受領(ロッカー式金庫32を解錠)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を「バイオメトリクス情報」として取得する「バイオメトリクス入力デバイス」(指紋,声紋,虹彩等の人証データ入力器)が開示されていることが明らかである。
上記のとおり,「情報入力デバイス」として,甲2には,指紋,音声,顔の画像,網膜パターン等の読取装置のような「バイオメトリクス入力デバイス」が開示されており,甲3には,指紋,声紋,虹彩等の人証データ入力器のような「バイオメトリクス入力デバイス」が開示されている。審決は,これを踏まえて,「情報入力デバイス」として,甲2の上記読取装置や甲3の上記認証データ入力器のような「バイオメトリクス入力デバイス」を用いることが周知技術であることを認定したものと解されるのであって,原告が主張するように,甲2及び甲3における「ICカードに記録された情報を読み取る情報入力デバイス」が「バイオメトリクス入力デバイス」に相当すると認定したものとは解されない。
したがって,審決は,甲2及び甲3における「ICカードに記録された情報を読み取る情報入力デバイス」が本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」に相当すると認定しているとする原告の主張は誤りであり,これを根拠として,審決は,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義について,ICカードに記録されているバイオメトリクス情報をICカードリーダを介して読み込むデバイスを包含するように広く認定しているとする原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上のとおり,審決による本願発明の認定に誤りはない。そして,審決による引用発明の認定について,原告は争っていない。したがって,審決には,原告が主張するような相違点の看過はなく,審決による相違点1の認定に誤りはない。
よって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点1において,引用発明と周知技術2との組合せの容易性の判断遺漏,及び同判断の誤り)について
(1) 相違点1に係る容易想到性
前記1(3)のとおり,「情報入力デバイス」として,甲2には,指紋,音声,顔の画像,網膜パターン等の読取装置のような「バイオメトリクス入力デバイス」が開示されており,甲3には,指紋,声紋,虹彩等の人証データ入力器のような「バイオメトリクス入力デバイス」が開示されている。
これによれば,「情報入力デバイス」として,甲2の上記読取装置や甲3の上記認証データ入力器のような「バイオメトリクス入力デバイス」を用いることは,周知の技術(周知技術1)であると認められる。
そして,このような周知技術1を通常の知識として有する当業者にとって,パッケージを受領(関連するロッカーを解錠)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を「ICカード7aの情報」として取得するか(すなわち「ICカード用リードライト7」を用いるか),又は「バイオメトリクス情報」として取得するか(すなわち「バイオメトリクス入力デバイス」を用いるか)は,必要に応じて適宜選択して採用できる設計事項にすぎないものというべきである。
また,甲4の段落【0005】ないし【0007】の記載及び甲5の段落【0016】の記載に照らせば,バイオメトリクス入力デバイスからの識別情報に関して,識別及び認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信することは,周知の技術(周知技術2)である。
したがって,引用発明に周知技術1及び周知技術2を適用して,相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,引用発明と周知技術2は異なる技術分野に属するにもかかわらず,審決は,両者の組合せが容易であることを論理付けしていないと主張する。
なるほど,バイオメトリクス入力デバイスからの識別情報に関して,識別及び認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信することについて,甲4に開示されているのは,ATMのような自動取引システムに適用された例であり,甲5に開示されているのは,カードレス施設利用システムに適用された例である。
しかし,そもそも,認証技術は,取引の安全性確保等を目的として,各種技術分野,各種用途で使用され得ることは認証技術に接した当業者には自明であるから(この点は,乙6の記載からも裏付けられる。),周知技術2を引用発明の認証処理に係る技術として適用することは,何ら困難なことではない。引用発明が宅配ボックス装置の技術分野に属するものであっても,当該宅配ボックス装置の認証技術として,各種技術分野,各種用途で使用され得る周知の認証技術を適用できないとする理由はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,引用発明に周知技術2を組み合わせることは,阻害事由が存在するか,少なくとも動機付けが存在しないと主張する。
しかし,甲1には,原告が引用する記載(4頁左上欄10行~14行)のほかに,「そして前記利用者Nと同様に,指定宅配業者M1のICカード7aをICカード用リードライト7に挿入して暗証番号をテンキー8で押すと,情報確認・中継装置D4で指定宅配業者M1が確認されると共に,…扉3cが開けられるようになる。」(4頁左下欄下から2行~右下欄6行)との記載,「次に,前記の指定宅配業者M1と同様に予め設定契約を結んだ…等のサービス業者M3の配達方法…指定サービス業者M3のICカード7aをICカード用リードライト7に挿入して,暗証番号をテンキー8で打ち込むと,情報確認・中継装置D4により身元確認が行われると共に,…扉3cが開けられるようになる。」(5頁左上欄17行~左下欄4行)との記載があり,これらの記載によれば,甲1には,利用者の身元確認が宅配ボックスBによって行われる例だけでなく,指定宅配業者や指定サービス業者の身元確認が情報確認・中継装置D4によって行われる例が開示されていることが認められる。
そうすると,引用発明に周知技術2を組み合わせることについては,その動機付けがあることが甲1自体に記載されており,阻害事由が存在するとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 小括
よって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点2において,引用発明と周知技術3との組合せの容易性の判断の誤り)について
(1) 相違点2に係る容易想到性
甲6の段落【0053】の記載及び甲7の段落【0037】の記載によれば,装置の設置場所にいる個人と,その場にいない係員との間での通信を可能にするようなビデオ会議システムを設けることは,周知の技術(周知技術3)であると認められる。
そして,引用発明と周知技術3とは,無人システムである点において,共通する技術分野に属するといえる。また,無人システムにおいて利用者の利便性を図るために無人システムの管理者との意思の疎通を図りやすくするという課題は周知であり,そのような課題が引用発明のような宅配ボックス装置やロッカーシステムに内在することは自明であり(例えば,甲2の段落【0029】),引用発明においても,無人システムとして利用者の利便性を図るというような上記課題が内在していることは明らかである。
したがって,引用発明において,周知技術3を適用してビデオ会議システムを導入するようにして,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 原告の主張について
原告は,引用発明と周知技術3(甲6及び甲7)とは技術分野が異なるし,解決すべき課題も異なる旨主張するが,上記説示に照らして採用することはできない。
また,原告は,甲6及び甲7は,テレビ電話を利用した認証機能を実現するという付加価値を記載ないし示唆するものではない旨主張する。
しかし,そもそも,本願発明は,「ビデオ会議システム」を認証機能を実現するものとして特定するものとはいえない。すなわち,本願明細書(甲8)の段落【0011】には,「ステーション10はまた,カスタマサービスやステーションセキュリティを向上させるためにそこに配置された種々のカメラをも有する。例えば,ビデオカンファレンスカメラ22により,常駐していない案内係と双方向会話をすることができ得る。(後略)」との記載があり,これによれば,「ビデオ会議システム」は,カスタマーサービスの向上,すなわち,利用者の利便性を図るためにも使用されることが認められ,必ずしも認証機能を実現するものと限定して解すべき必要はない。
したがって,原告の主張は,上記(1)の判断を左右するものではない。
(3) 小括
よって,原告主張の取消事由3は理由がない。
4 まとめ
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法はない。
第6結論
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 西理香 裁判官 神谷厚毅)