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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10284号 判決 2013年3月27日

原告

有限会社大長企画

訴訟代理人弁理士

熊田和生

被告

特許庁長官

指定代理人

新留豊

今村玲英子

中島庸子

芦葉松美

主文

1  特許庁が不服2009-13517号事件について平成24年6月18日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は,平成14年10月18日,発明の名称を「強筋肉剤,抗炎症剤」とする発明について,特許出願(特願2002-303877。優先権主張平成13年12月18日,平成14年10月7日。以下「本願」という。)をしたが,平成21年4月7日付けで拒絶査定がなされたため,同年7月28日付けで拒絶査定に対する不服審判請求(不服2009-13517号事件)をするとともに,同日付けで手続補正をした。特許庁は,平成24年2月29日付けで,平成21年7月28日付け手続補正に基づく補正を却下するとともに,平成24年2月29日付けで拒絶理由通知をしたところ,原告は,同年5月7日付けで手続補正をした(以下「本件補正」という。)。特許庁は,同年6月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月9日,原告に送達された。

2  特許請求の範囲

本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(甲12。以下,この発明を「本願発明」という。)。また,本件補正後の本願の特許請求の範囲,明細書及び図面を総称して,本願明細書ということがある(甲1,甲12)。

「【請求項1】A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル

B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体

C.クルクミン

のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」

3  審決の理由

(1)  別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,その優先権主張の日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。

(2)  上記判断に際し,審決が認定した特開2000-103718号公報(甲2。

以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 引用発明の内容

「シムノールサルフェート及びダイズインを含む組成物であって,環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物。」

イ 一致点

両発明は「A.シムノール硫酸エステル,B.大豆イソフラボン配糖体,のA,およびBの成分を含むことを特徴とする組成物」である点。

ウ 相違点

(ア) 相違点1

本願発明が成分「C.」として「クルクミン」を含有するのに対し,引用発明はこれを含まない点。

(イ) 相違点2

本願発明が「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」との特定がなされているのに対し,引用発明が「環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物」である点。

第3当事者の主張

1  審決の取消事由に係る原告の主張

審決は,相違点1に関する判断の誤り(取消事由1),相違点2に関する判断の誤り(取消事由2),本願発明の効果に関する判断の誤り(取消事由3)があり,これらの誤りは結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。

(1)  相違点1に関する判断の誤り(取消事由1)

審決は,相違点1に関し,「引用例1には補血・活血作用を有する生薬の一つとしてウコンが記載され・・・,さらに実施例6において,ウコンエキスと他の補血・活血作用を有する生薬のエッセンス,並びに津液作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて用いることにより,引用発明と同様に,環境ホルモンの排出を著しく促進することも確認されている・・・。したがって,引用発明の組成物にさらに組み合わせる生薬としてウコンを選択し,その有効成分であることが周知であるクルクミン・・・を加えることは,当業者が容易になし得たことである。」と判断した。

しかし,引用例1の実施例6には,「ヘンチクエキス 10 重量部トウキヒエキス 10 重量部ウコンエキス 10 重量部モウトウセイエキス 10 重量部ツキミソウオイル 30 重量部オリーブオイル 30 重量部」が記載されており,この組成物が環境ホルモン排出促進作用を有しているとしても,ウコンを単独で使用するものではなく,ヘンチクエキス,トウキヒエキス,ウコンエキス,モウトウセイエキスの4成分からなるから,ウコンを単独で使用した場合にも環境ホルモン排出促進作用があるということはできない。仮に,4成分の全てに環境ホルモン排出促進作用があるとしても,4成分の中からウコンを選択して引用発明と組み合わせるには動機づけが必要であるが,審決には動機づけについての記載はない。

また,本願発明は,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」に関するものであり,「環境ホルモン」に関する発明ではなく,本願出願当時において「環境ホルモン」に関する作用と「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」が同等であるとする根拠はない。

したがって,相違点1に関する上記審決の判断は誤りである。

(2)  相違点2に関する判断の誤り(取消事由2)

審決は,相違点2に関し,「引用例4~6(判決注:引用例2~4の誤記と認める(以下同様。)。また,「引用例2」ないし「引用例4」は,それぞれ,特開2001-233768号公報(甲3),特表2001-511117号公報(甲4),特開平11-221048号公報(甲5)である。)には,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病・・・,加齢による認識機能喪失・・・,痴呆・・・,喘息・・・,及び心臓疾患・・・の処置に有効であることが記載されている。さらに,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることは,いずれも当業者に周知の事項である」として,「引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得たことである。」と判断した。

しかし,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引きつりに対する効果は,強筋肉剤とは異なる効果であり,引用例1には強筋肉剤の効果に関する記載はない。

また,本願発明は,「A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル,B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,C.クルクミンのA,BおよびCの成分を含む」ことを特徴とする3成分に関する発明であるところ,医薬成分を組み合わせたときにいろいろな問題が生じ(甲13),2つ以上の医薬成分を組み合わせたときに,医薬成分のそれぞれが有する医薬効果が発現されないことがあるから,イソフラボンと他の医薬成分を組み合わせたときに,イソフラボンが有する医薬効果が必ず発現するかどうかは,実際に使用して初めて確認できる。しかるに,イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識機能喪失,痴呆,喘息,及び心臓疾患の処置に有効であり,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引きつりに効果があり,視力を良くする効果があったとしても,「シムノールまたはシムノール硫酸エステルとクルクミン」の2成分と組み合わせたときに,イソフラボンの効果が発現できるという根拠は示されておらず,イソフラボンが有する効果が,他の成分と組み合わせたときに必ずしも発現しないことは,引用例1記載のイソフラボンの医薬効果のうち,「発熱,癒着,糖尿病,虚血性潅流障害,HIV感染を含む免疫障害,早産,骨粗鬆症,強直性脊椎炎,コレステロール-脂質レベルの低下,血管形成の調節,他の血管系の作用,アルコール乱用の軽減,産後の諸疾を治す,筋肉の引きつり,産後の諸風を治す」及び環境ホルモンについては,「シムノールまたはシムノール硫酸エステル,B.大豆イソフラボンまたは大か豆らイなソるフ本ラ願ボ発ン明配で糖は体,,効C果.をク確ル認クしミてンいのなAい,こBとおかよらびもC明のら成か分でをあ含るむ(」甲の13成4)。したがって,引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得たとはいえない。

さらに,引用発明に他の公知技術を適用する場合,その組合せについての示唆ないし動機づけが明らかにされていなければならないところ,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,本願発明の「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」とすべき動機づけが示されていない。また,仮に,引用例1に動機づけが示されているとしても,本願発明には,本願明細書の段落【0050】,甲8の参考資料(甲14)記載の顕著な効果があるから,進歩性が認められるべきである。

したがって,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである。

(3)  本願発明の効果に関する判断の誤り(取消事由3)

審決は,本願明細書の段落【0051】,【0052】記載の効果に関し,「本願発明の『強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤』のいずれかの用途に関連する,あるいは関連すると推測される症状について漠然と,また場合により包括的に,『改善された』,『治った』などと記載されているにすぎないし,上記の相乗作用を裏付けるようなものとも認められない。また,これらのことは,審判請求書に添付された『薬理効果に関するデータ』についても同様である。してみれば,本願発明の効果は,引用例2~4は及び周知技術から当業者が予測しうる程度のことである。」と判断した。

しかし,本願の当初の明細書の段落【0023】,【0025】,【0050】ないし【0052】には,どのような配合の医薬成分を,どのような量投与したときにどのような医薬効果が発現したかということが明確に記載されている。また,甲8の参考資料のデータ(甲14)には,病名,患者の年齢,性別,病名,投与期間,効果,副作用について具体的に記載され,また,有効でなかった医薬効果についても,たとえば,「血小板減少症,緑内障,狭心症・心不全,アレルギー性疾患,高血圧,膠原病,不妊症,寝たきり老人」に有効でなかったことも明確に記載されている。そして,甲14のデータは本願発明の成分であること,また,投与量も甲11の参考資料により明確である。

したがって,本願発明の作用効果に関する上記審決の判断は誤りである。

2  被告の反論

原告主張の取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。

(1)  取消事由1(相違点1に関する判断の誤り)に対し

原告は,①引用例1の実施例6記載の組成物が環境ホルモン排出促進作用を有しているとしても,ヘンチクエキス,トウキヒエキス,ウコンエキス,モウトウセイエキスの4成分からなるから,ウコンを単独で使用した場合にも環境ホルモン排出促進作用があるということはできないし,仮に,4成分の全てに環境ホルモン排出促進作用があるとしても,4成分の中からウコンを選択して引用発明と組み合わせるには動機づけが必要であるが,審決には動機づけについての記載はない,②本願発明は,「環境ホルモン」に関する発明ではなく,本願出願当時において「環境ホルモン」に関する作用と本願発明の「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」が同等であるとする根拠はないとして,相違点1に関する審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

ア 上記①の主張に対し

引用例1の請求項1には,「津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種乃至は2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種乃至は2種以上とを含有することを特徴とする,生体活動改善用の組成物。」が記載され,その具体的態様として,実施例9のダイズイン及びシムノールサルフェートを含む組成物が記載される(甲2の【0033】)。「ダイズイン」は大豆の有効成分であるイソフラボン類であり(甲6),「津液作用を有する生薬の活性成分」に該当し(甲2の【0008】),シムノール硫酸エステルを表す「シムノールサルフェート」(scymnol sulfate)は,胆汁アルコールであるシムノールのエステル誘導体であり(乙1の2532頁左欄17~21行,図1),「補血・活血作用を有する生薬」の有効成分に該当する(甲2の【0009】)。

そして,引用例1の請求項1には,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分,補血・活血作用を有する生薬のエッセンスをいずれも2種以上,組み合わせて用いることもできることが記載されるから,同記載に接した当業者であれば,引用発明に基づき,さらなる組成物を作成するために,引用発明に他の「津液作用を有する生薬」又は「補血・活血作用を有する生薬」を組み合わせようと思うことは自然な発想である。

また,引用例1には,引用発明と同じ健康食品として環境ホルモン排出作用のような経口での作用が確認された(実施例7)組成物として,ほかに実施例6の組成物しか記載されておらず,その中に含まれる「津液作用を有する生薬」は,ヘンチクエキスとトウキヒエキスの2種類のみ,「補血・活血作用を有する生薬」は,ウコンエキスとモウトウセイエキスの2種のみであるから,引用発明との組合せの検討に当たり,そのうちの一つの有効成分から検討することは,引用例1の記載に接した当業者であれば,格別の創意工夫なく行い得ることである。

したがって,引用発明にウコンの有効成分であるクルクミンを加えることについて,引用例1には十分な動機が存在するといえる。

なお,引用例1には,人体に必要な物質は,補血,活血作用により,血管を通じて体内に運ばれ,津液作用により,血管外の組織や漿液においても,能動的に運搬され,両作用が合わさることによって,必要物質の身体全体への移送・分布が達成されることが記載され(【0007】),実施例7(【0029】)の記載によれば,「補血・活血作用を有する生薬」であるウコンエキスが,血液からのフタル酸ジオクチル,すなわち環境ホルモンの排出促進作用を有するといえるから,「ウコンを単独で使用した場合にも環境ホルモン排出促進作用があるということはできない」旨の原告の主張も失当である。

イ 上記②の主張に対し

審決は,本願発明を「環境ホルモン」に関する発明と認定したものではない。

また,審決は,引用発明として「シムノールサルフェート及びダイズインを含む組成物であって,環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物。」を認定した上で,「引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得たことである。」と判断しており,「環境ホルモン」に関する作用と,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」が同等であると認定したものでもない。

ウ 以上のとおり,審決に相違点1についての判断の誤りはない。

(2)  取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)に対し

原告は,①引用例1には強筋肉剤の効果に関する記載はない,②本願発明は,3成分に関する発明であり,2つ以上の医薬成分を組み合わせたときに,医薬成分のそれぞれが有する医薬効果が発現されないことがあるところ,イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識機能喪失,痴呆,喘息,及び心臓疾患の処置に有効であり,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引きつりに効果があり,視力を良くする効果があったとしても,「シムノールまたはシムノール硫酸エステルとクルクミン」の2成分と組み合わせたときに,イソフラボンの効果が発現できるという根拠は示されていない,③引用発明に他の公知技術を適用する場合,その組合せについての示唆ないし動機づけが明らかにされていなければならないところ,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相違点2に関する審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

ア 上記①の主張に対し

仮に,各引用例に,強筋肉剤に関する記載がなかったとしても,本願発明の他の用途については,各引用例及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから,審決の結論に影響しない。

また,本願明細書の段落【0004】,【0050】,【0052】の記載から,本願発明の「強筋肉剤」とは,筋肉疲労回復,筋肉増強等の筋肉に働く薬剤のみならず,加齢による歩行不如意,腰痛,手足の痛み,脱肛等の筋肉障害を治療するための薬剤も含み,しかも当該筋肉障害の大部分が脳指令伝達不十分にあることが明らかである。また,ダイズインを有効成分とする大豆が「筋肉の引きつり」に効果があることは,当業者に周知の事項である(甲6)。筋肉の「ひきつり」とは,「けいれん」(痙攣)のことであり(乙2),「けいれん」は「中枢神経系・反射中枢等の興奮性が異常に亢進したり,あるいは抑制が取り除かれたりした結果おこる」ものである(乙3)ところ,脳指令を伝達する中枢神経系の興奮性が異常に亢進することにより,脳指令伝達が不十分になることは明らかであるから,「筋肉の引きつり」も,脳指令伝達不十分の筋肉障害に該当するものである。

したがって,ダイズインを有効成分とする大豆が,本願発明にいう強筋肉剤と同じ治療用途に有効であるといえる。

イ 上記②の主張に対し

引用例1の段落【0007】の記載によれば,引用例1において,「補血・活血作用を有する生薬」が2種以上の場合も,津液作用及び補血作用・活血作用を促進する物質が共に作用することが前提になっていると解され,引用例1のこのような記載に接した当業者は,津液作用を有する大豆イソフラボン,及び補血・活血作用を有するシムノールサルフェートを含む組成物である引用発明に,さらに補血・活血作用を有するウコンの有効成分であるクルクミンを組み合わせても,それぞれの生理的作用が発揮されると理解するはずである。

また,大豆イソフラボンを有効成分とする大豆は,古くから漢方薬の原料として使われてきたものであり(甲6),漢方薬は種々の原料を調合して作られるものであるから,配合禁忌(甲13)となる特定の例外的な組合せである場合を除けば,大豆イソフラボンを他の成分と配合しても,その生理的作用を発揮する蓋然性が高いものというべきである。そして,漢方(中薬)の辞典(甲6)には,大豆イソフラボンを有効成分とする大豆の配合禁忌について網羅的に記載されているが,大豆イソフラボンがシムノールサルフェートあるいはクルクミンと配合禁忌であるとは記載されないから,このような組合せが配合禁忌であると当業者が考える可能性は,一層低い。そうすると,大豆イソフラボン配糖体,シムノールサルフェート及びクルクミンを組み合わせた場合においても,大豆イソフラボン配糖体の生理的作用が発揮されると,当業者は合理的に予想できる。

なお,原告は,引用例1記載のイソフラボンの医薬効果のうち幾つかが,他の成分と組み合わせたときに必ずしも発現しないことの主張の根拠として,甲8の参考資料(甲14)を挙げるが,これは,上記医薬効果を単に確認していないことを示すにとどまるものである。

ウ 上記③の主張に対し

本願優先日前に,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得ることである。

エ したがって,相違点2についての審決の判断に誤りはない。

(3)  取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤り)に対し原告は,本願の当初の明細書の段落【0023】,【0025】,【0050】ないし【0052】には,どのような配合の医薬成分を,どのような量投与したときにどのような医薬効果が発現したかということが明確に記載され,甲8の参考資料のデータ(甲14)には,病名,患者の年齢,性別,病名,投与期間,効果,副作用について具体的に記載され,また,有効でなかった医薬効果についても,明確に記載されており,甲14のデータが本願発明の成分であること,また,投与量も甲11の参考資料により明確であるとして,「本願発明の効果は,引用例2~4及び周知技術から当業者が予測しうる程度のことである。」とした審決は誤りである旨主張する。

しかし,本願明細書の段落【0050】,【0051】の記載は,引用例及び周知技術から当業者が予測できた効果と同質な効果について述べているに過ぎず,当該記載から本願発明が際立って優れた効果を有するとまではいえない。本願明細書の段落【0052】には,発明の効果が記載されるが,例えば各成分を単独で,あるいは二,三の成分を組合せて使用したことによる効果を数値化して比較するなど,相乗作用を客観的に示す記載は見当たらず,本願明細書でいう相乗作用についても,本願明細書の記載は憶測の域を出ないものであるから,その程度の作用であれば,審決で挙げた引用例並びに周知技術から,当業者が合理的に予測できたものというべきである。

なお,本願明細書の段落【0050】,【0051】の記載は,本願発明の用途のうち,特に抗視力減退剤,抗痴呆剤,強筋肉剤,抗喘息剤及び抗機能性心臓障害剤が,本願発明の3成分に基づく用途であることを確認したものとはいえない。すなわち,本願明細書の実施例4(【0023】)及び実施例6(【0025】)には,それぞれ,前者の錠剤には人参末が,また後者のソフトカプセルには人参エキスが多量に含まれていることが記載されている。人参が漢方薬として古くから,目を明らかにし,智を増し,身を軽くして不老延年するといわれ,また近年の知見として喘息を止め,さらに心筋栄養障害,冠状動脈硬化,心臓神経症,心力衰弱(これらはいずれも機能性心臓障害であるといえる。)等にも有効であることは,いずれも当業者に周知の事項である(乙4)。そして,これらの薬効はそれぞれ本願発明の用途のうち,抗視力減退剤,抗痴呆剤,強筋肉剤,抗喘息剤及び抗機能性心臓障害剤に対応するものである。そうすると,本願明細書の段落【0050】,【0051】に示された事例では,実施例4あるいは6の組成物が用いられていることから,人参末あるいは人参エキスの薬効が発現している蓋然性が高いといえる。

また,甲8の参考資料のデータ(甲14)によっても,本願発明が当業者の予測を超える顕著な効果を奏するとはいえない。すなわち,甲8には,本願明細書の段落【0050】ないし【0052】の記載の根拠が,参考資料(甲14)から明らかである旨記載されており,甲14には本願明細書の段落【0050】ないし【0052】の記載に対応するデータが存在するはずであるが,甲14には,クルクミンを含まない薬剤,あるいは第4の成分として人参が含まれる薬剤を投与したと考えられる患者のデータが多数含まれる一方で,本願発明の3成分からなる薬剤を投与したと考えられる患者のデータについての記載が見当たらないのであり,甲14は,本願発明の3成分からなる薬剤を投与した結果を示すものとは認められず,本願発明の構成に基づく効果を示すものとはいえないし,甲14記載の患者に投与された薬剤の成分,投与量が甲11に添付された「平成24年4月25日付証明書」により明確であるともいえない。

さらに,甲14の「効果」の欄の記載は,従来技術と比較し得る客観性に欠けるとともに,本願発明の用途の少なくとも一部について,有効であることが確認されているとはいえない。

第4当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由2に理由があり,審決を取り消すべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。

1  取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)について

審決は,相違点2に関し,「引用例4~6には,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病・・・,加齢による認識機能喪失・・・,痴呆・・・,喘息・・・,及び心臓疾患・・・の処置に有効であることが記載されている。さらに,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることは,いずれも当業者に周知の事項である」として,「引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得たことである。」と判断した。

これに対し,原告は,①引用例1には強筋肉剤の効果に関する記載はない,②本願発明は,3成分に関する発明であり,2つ以上の医薬成分を組み合わせたときに,医薬成分のそれぞれが有する医薬効果が発現されないことがあるところ,イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識機能喪失,痴呆,喘息,及び心臓疾患の処置に有効であり,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),及び筋肉の引きつりに効果があり,視力を良くする効果があったとしても,「シムノールまたはシムノール硫酸エステルとクルクミン」の2成分と組み合わせたときに,イソフラボンの効果が発現できるという根拠は示されていない,③引用発明に他の公知技術を適用する場合,その組合せについての示唆ないし動機づけが明らかにされていなければならないところ,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである旨主張するので,以下,検討する。

(1)  認定事実

ア 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりである。

イ 引用例1(甲2)には次の記載がある。

【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,生体活動の改善に好適な健康食品や化粧品,医薬品などの組成物に関する。

【0002】【従来の技術】津液作用は,漢方思想に於ける気,血,水の考え方の内,水に関するものであり,本発明者らにより,消化液,唾液,尿等の体液に関する新陳代謝を促進する働きであることが,明らかにされている。この働きは水分を媒体に行われており,この為,津液作用が美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用などの生体活動の改善作用と深く関連していることも明らかにされている。

【0003】又,補血及び活血作用については,酸素,栄養などのエネルギーを中心とする補給の活性化作用であることが既に知られている。

【0004】上記津液作用を有する物質と補血・活血作用を有する物質と組み合わせて,上記生体活動の改善のために投与することは全く行われていなかったし,かかる組合せによって,生体活動の改善作用が著しく向上することも全く知られていなかった。

【0005】一方,上記美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善作用については,高齢化,老人化が進んでいる現代に於いては深刻な問題であり,この更なる改善は大きな問題であり,社会的にも望まれているものであった。

【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は,この様な状況を踏まえて為されたものであり,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善に止まらず,人体機能の発現に関与する物質群の補給システムを中心とした生体活動の更なる改善手段を提供することを課題とする。

【0007】【課題の解決手段】・・・本発明者らは,中国医学理論の更なる解析を通じ,血管外の組織や漿液においても能動的な必要物質の運搬が行われていることをつきとめた。即ち,従来の津液作用についての説明は,従来の技術に記述の如く,体内水分の体外への分泌促進による,必要部分への充分な水分の分配とされていたが,今回,新たに,この様な作用は津液作用の副次的作用に過ぎず,真の作用は目的は体内から体外に向かって形成された水の流れを媒体とした人体機能の発現に関与する物質の能動的な移送であることを,本発明者らはつきとめた。即ち,かかる人体機能発現関与物質を中心とした必要物質の身体全体への移送・分布は補血作用・活血作用のみならず,津液作用が加わって初めて達成されるのである。従って,この2種の作用を促進する物質が共に作用することが,人体の機能発現に重要であると理解できる。・・・かくの如く,補血・活血作用と津液作用とは,両者が同時に促進されることが,人体にとって極めて有用であることを見出したのである。

この新しい,知見に基づき,本発明者らは,皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通改善作用等の従来の津液作用で期待された生体活動の更なる改善を具現するに止まらず,人体機能の全ての発現に必要な物質の,人体全体への満足すべき供給促進手段を見出したのである。即ち,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種乃至は2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種乃至は2種以上とを組み合わせて使用することにより,この様な改善が可能であることを見出し発明を完成させるに至った。更に加えて,津液作用と補血・活血作用の組合せにより,生体内に於ける各種生理活性物質のディストリビューションの改善作用も有することから,上記以外の生体活動の改善作用をも発揮するする事をも見出し,発明を発展させた。・・・【0010】(3)本発明の生体活動改善用の組成物本発明の生体活動改善用の組成物は,上記津液作用を有する生薬のエッセンス及びその有効成分から選ばれる1種乃至は2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンス及びその有効成分から選ばれる1種乃至は2種以上とを含有することを特徴とする。この2種のエッセンスを組み合わせることにより,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動をより一層改善する作用に優れるばかりでなく,難治とされている糖尿病,肝臓病,高血圧等も,人体がそれらの疾病の改善のために発揮する諸機能の発現に必要な物質を充分に供給することによって,結果としてそれらを改善する作用を有する。更に,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も有する。環境ホルモンに関しては,現在のところ生体側の防御手段がないため,この技術により,かかる生体側の防御が可能になるため非常に好適である。これは,上記組合せにより,生体内に於ける各種生理活性物質のディストリビューションの改善作用を発現するからである。本発明の組成物としては,化粧料,健康食品,医薬品等が例示でき,これらの内では化粧料と健康食品が特に好ましい。これは,上記生薬のエッセンスやその有効成分の作用が緩和で長期間投与することが出来,しかも長期間の投与が好ましいためである。

【0029】<実施例7>実施例6の健康食品の効果をマウスを用いて調べた。即ち,5週齢のICRマウス(雄性)1群3匹に14C標識フタル酸ジオクチルを1mg/Kg(100μCi/Kg)を経口投与し,代謝ケージに入れ,その4時間後に実施例6の健康食品のカプセル充填前の組成物及びその改変品を10mg/Kg経口投与し,フタル酸ジオクチル投与後8時間の間に代謝されるフタル酸ジオクチルの量を放射強度として測定した。・・・結果を表11に放射強度の回収率として示す。これより,本発明の組成物が著しく環境ホルモンであるフタル酸ジオクチルの排出を促進していることがわかる。これは,血液からのフタル酸ジオクチルの代謝排泄を活血作用を有する成分が促進し,組織細部にわたったフタル酸ジオクチルの代謝排泄を津液成分が促進しているからと考えられる。

【0033】<実施例9>下記に示す処方に従って,健康食品を作成した。即ち,処方成分を良く混練りし,ゼラチンカプセルに100mg充填密封し,健康食品を得た。このものは,実施例7と同様の検討に於いて73%の放射性回収を得た。

シムノールサルフェート(魚肝の有効成分), 10 重量部ダイズイン(大豆の有効成分), 20 重量部魚肝油 70 重量部

ウ 引用例2ないし4には次の記載がある。

(ア) 引用例2(甲3)

【請求項1】 式I【化1】・・・〔式中,R1およびR4は水素であるか,または一緒になって結合を形成しており,R5,R6,R7およびR8は,互いに独立に,水素,ヒドロキシ,またはメトキシを表し,さらにR7はグルコシド,ルチノシド,マンノグルコピラノシル,アピオシルグルコシドのような糖置換基を表し,R2およびR3は,水素,ヒドロキシル,メトキシ,または【化2】・・・(式中R2’,R3’,R4’,R5’およびR6’は,互いに独立に,水素,ヒドロキシまたはメトキシである。ただしR2またはR3が任意に置換されたフェニル環で表されることを条件とする。)で表される基である。〕で表される化合物およびその製薬上許容される塩の,COX-2,またはCOX-2およびNFκBによって媒介される疾病の治療または予防用の薬剤を製造するための使用。

【請求項5】疾病が,痛み,発熱,炎症,慢性関節リウマチ,変形性関節症,癒着,心臓血管疾患,アルツハイマー病,敗血症および糖尿病からなる群より選択される,請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。

【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,シクロオキシゲナーゼ-2およびNFκB 媒介性疾病,特に関節炎およびアルツハイマー病の治療に有効なフラボン型化合物を包含する。より詳細には,本発明は,シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)およびNFκBを阻害する方法に関する。

【0002】【従来の技術】プロスタグランジンは,多くの場合ナノモルからピコモルまでの濃度範囲において,多方面にさまざまな生物学的効果を生じる極めて強力な物質である。アラキドン酸の酸化を触媒しプロスタグランジン生合成へと導く2つの形態のCOX,アイソザイムCOX-1およびCOX-2の発見は,結局,生理学および病態生理学における上記2つのアイソザイムの役割を明確にするための新たな研究に帰着した。これらのアイソザイムは,異なる遺伝子制御を有し,明確に異なるプロスタグランジン生合成経路を示すことが明らかになっている。COX-1経路はほとんどの細胞で構成的に発現している。この経路は,血管ホメオスタシスにおいて急性の事象を制御し,また正常な胃および腎臓の機能維持に役立つプロスタグランジンを生成するために応答する。COX-2経路は炎症,有糸分裂生起および排卵現象に関連した誘導メカニズムを伴う。

【0003】プロスタグランジン阻害剤は痛み,発熱,および炎症に対して治療法を提供し,さらに,たとえば慢性関節リウマチおよび変形性関節症の治療において有効な治療法である。イブプロフェン,ナプロキセン,およびフェナム酸といった非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は2つのアイソザイムを共に阻害する。構成酵素COX-1の阻害は,結果として,潰瘍および出血を含む胃腸の副作用を生じ,長期にわたる治療にともなって腎臓に問題を生じる。誘導酵素COX-2の阻害剤は,COX-1阻害剤の副作用なしに抗炎症活性をもたらすと考えられる。

【0004】NFκBは慢性炎症性疾患において重要な転写因子である(総説としてNew England J. Med. 336 (1997) p.1066参照)。NFκBは関節炎(変形性関節症および慢性関節リウマチ),喘息,炎症性腸疾患,および他の炎症性疾患のような疾病において炎症反応を媒介する。

【0005】本発明は,COX-2,NFκB,ならびにCOX-2およびNFκBの両者の生合成阻害剤であるフラボン化合物を開示する。

【0010】特に好ましい化合物は,フラボン,・・・ダイゼイン(daidzein),ゲニステイン,ゲニスチン(genistin),・・・からなる群より選択される。

【0023】本発明の組成物は,アルツハイマー病,心臓血管疾患,虚血性潅流障害,炎症性腸疾患,HIV感染を含む免疫障害,敗血症,自己免疫疾患,糖尿病,炎症性疾患,月経困難症,喘息,早産,癒着とくに骨盤癒着,骨粗鬆症,および強直性脊椎炎といった,多くの病気または疾病状態の治療に有効であるかも知れない。

(イ) 引用例3(甲4)

【特許請求の範囲】1. アルツハイマー型痴呆,または加齢による認識機能喪失を治療または予防するための医薬品の調製において,ゲニステイン(genistein),ダイゼイン(daidzein),ビオカニンA(biochanin A),ホルムオノネチン(formononetin),0-デスメチルアンゴレンシン(0-desmethylangolensin),グリシチン(glycitin),およびエコール(equol)からなる群より選択される単離イソフラボノイドを,ヒト患者の血流中の一過的なイソフラボノイド濃度が,少なくとも100ナノモル(nanomoles)/Lになるのに十分な量使用すること。

【発明の詳細な説明】アルツハイマー痴呆および認識機能低下を治療および予防するためのイソフラボノイド発明の背景 本発明は,加齢に伴う痴呆および認識機能の低下を予防および治療するための療法に関する。・・・発明の概要 本発明は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの植物の成分であるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加齢に伴うその他の認識機能低下を治療および予防するために使用することを特徴とする。

・・・

(ウ) 引用例4(甲5)

【特許請求の範囲】【請求項1】イソフラボン,リグナン,サポニン,カテキン,およびフェノール酸から成る群より選ばれた少なくとも2つの植物化学物質で強化されていることを特徴とする植物体由来の組成物。

【請求項17】前記イソフラボンが,主としてゲニステイン,ダイゼイン,グリシテイン,ビオカニンA,ホルムオノネチン,およびこれらの天然修飾体から成る群より選ばれることを特徴とする請求項1記載の組成物。

【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,植物体から抽出される組成物,より詳細には,サポノゲニン,サポニン,カテキン,リグナン,フェノール酸,イソフラボンなどの植物化学物質,特に,大豆,亜麻,茶,ココアなどの所定のファミリーの植物から抽出される組成物,ならびにこれらの組成物を栄養補給剤または食品添加剤として使用する方法に関する。

【0006】・・・イソフラボンはまた,単独で,のぼせや骨粗鬆症など,閉経の開始および持続に関連した種々の症状を軽減または予防する可能性もある。また,イソフラボンは単独で,心臓疾患などの特定の心血管系疾患の治療,コレステロール-脂質レベルの低下,血管形成の調節,および他の血管系の作用に有効な場合もある。更に,イソフラボンは単独で,頭痛,痴呆,炎症,およびアルコール乱用の軽減,ならびに免疫調節に関連して利用されてきた。

【0017】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,イソフラボン,リグナン,サポニン,カテキン,および/またはフェノール酸を,栄養補給剤としてまたはより伝統的なタイプの食物中の成分として各自が摂取する便利な方法を提供することである。

エ 甲6(中薬大辞典第二巻,805,806頁,「1628 コクダイズ」の項)には次の記載がある。

「〔成分〕 比較的豊富なタンパク質,脂肪,炭水化物及びカロチン,ビタミンB1・B2,ニコチン酸などを含む1。さらに以下の成分を含む。①イソフラボン類ダイズインとゲニスチンがある。前者の含有量は0.007%で,加水分解後はダイゼインとグルコースになる。後者の含有量は0.01~0.15%で,加水分解後はゲニステインとグルコースになる2,3。・・・〔薬効と主治〕血を活かす,水を利す,風を去る,解毒する,の効能がある。・・・5[食療本草]中風脚弱,産後の諸疾を治す。・・・心痛,筋肉の引きつり,膝の痛み,脹満を治す。・・・6[本草拾遺]黒くなるまで炒って,まだ煙の出ている熱いのを酒の中に入れる。風痺,・・・四肢不随・・・,産後の諸風を治す。食後半両を服用すれば,心胸煩熱,風熱恍惚を去る,目を明らかにする・・・」

(2)  判断

ア 上記1(1)イ認定の事実によれば,引用例1記載の発明は,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善や,人体機能の発現に関与する物質群の補給システムを中心とした生体活動の更なる改善手段(生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も含む。)を提供することを課題とし(【0005】,【0006】,【0010】),体内から体外に向かって形成された水の流れを媒体とした人体機能の発現に関与する物質の能動的な移送を真の目的とする津液作用と,酸素,栄養などのエネルギーを中心とする補給の活性化作用である補血及び活血作用が,同時に促進されることが,人体にとって極めて有用であることから,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種ないし2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種ないし2種以上とを組み合わせて使用することにより,上記課題を解決するものであること(【0002】ないし【0004】,【0007】)が認められる。

また,引用例1には,実施例においてシムノールサルフェート,ダイズイン等を含む健康食品で,環境ホルモンの排出が促進されたことが記載される(【0029】,【0033】)が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果を示唆する記載はない。

一方,上記(1)ウ,エ認定の事実によれば,引用例2ないし4には,大豆イソフラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,引用例2は,COX-

2  NFκB,ならびにCOX-2およびNFκBの両者の生合成阻害剤であるフラボン化合物を開示するもの,引用例3は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの植物の成分であるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加齢に伴うその他の認識機能低下を治療および予防するために使用することを特徴とする発明を開示するもの,引用例4は,イソフラボン,リグナン,サポニン,カテキン,および/またはフェノール酸を,栄養補給剤としてまたはより伝統的なタイプの食物中の成分として各自が摂取する便利な方法を提供する発明を開示するもの,甲6は,コクダイズの成分,薬効等を開示するものであって,いずれも引用例1記載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用について記載しているとは認められない。

そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,そのような生理的作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用することに想到するとは考えられるが,ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性のない生理的作用を有することにまで,容易に想到するとは認められない。そして,当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載されるアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,ダイズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。

イ  これに対し,被告は,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得る旨主張する。

しかし,上記のとおり,引用発明は,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて使用することにより,課題を解決しようとするものであるから,引用例1に接した当業者が,引用発明の1成分にすぎないダイズインにことさら着目することの動機づけを得るとはいえない。そうすると,たとえ,引用例2ないし4及び甲6により,大豆イソフラボンないし大豆が被告主張の効果を有することが周知ないし公知といえるとしても,当業者において,引用発明から出発して,当該周知ないし公知の知見を考慮する動機づけがあるとはいえず,相違点2に係る本願発明の構成(「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」)に想到することが容易であるとはいえない(まして,本願発明は,引用発明の組成物に加えてクルクミンを含むものであるところ,そのような3成分を含む組成物について,強筋肉剤等の用途が容易想到であることの理由も明らかでない。)。

ウ  したがって,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである旨の原告の主張は理由がある。

2  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由2には理由があり,その余の争点について判断するまでもなく,審決には取り消すべき違法がある。

よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳 裁判官 武宮英子)

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