知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10285号 判決 2013年1月24日
原告
井村屋グループ株式会社
同訴訟代理人弁理士
後藤憲秋
被告
特許庁長官
同指定代理人
谷村浩幸
小林由美子
守屋友宏
主文
1 特許庁が不服2011-16950号事件について平成24年6月5日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1の商標登録出願に対する後記2のとおりの手続において,原告の拒絶査定不服審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求めた事案である。
1 本願商標
原告は,平成22年7月5日,「あずきバー」という標準文字からなる商標(以下「本願商標」という。)につき,指定商品を第30類「あずきを加味してなる菓子として商標登録を出願した(乙1。商願2010-052888)。
2 特許庁における手続の経緯
原告は,本件出願について平成23年4月5日付けで拒絶査定(乙5)を受けたので,同年8月5日,これに対する不服の審判を請求した(乙6)ところ,特許庁は,これを不服2011-16950号事件として審理し,平成24年6月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同年7月11日,原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,①本願商標を指定商品のうち「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」に使用しても,その商品の品質,原材料又は形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから,商標法3条1項3号に該当する,②本願商標が,その指定商品について使用された結果,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとは認められないから,同条2項の要件を具備しない,③本願商品を「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」以外の商品に使用するときは,その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある商標であるから,同法4条1項16号に該当する,というものである,
4 取消事由
(1) 商標法3条1項3号該当性に係る認定判断の誤り(取消事由1)
(2) 商標法3条2項該当性に係る認定判断の誤り(取消事由2)
(3) 商標法4条1項16号該当性に係る認定判断の誤り(取消事由3)
(4) 審判における手続違背(取消事由4)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性に係る認定判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 本件審決は,広辞苑に「小豆アイス」が掲載され,棒状のアイス菓子を「アイスバー」と称し,その商品の原材料と「バー」を組み合わせて「○○(原材料バー」のように使用されている事実があり,「あずきバー」の文字が,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」であることを表示するためのものとして,取引上,普通に使用されている事実があることから,本願商標が,これに接する取引者,需要者に「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」を容易に認識させるものであり,その指定商品中「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」に使用しても,その商品の品質,原材料又は形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるとする。
(2) しかしながら,「バー」の語は,菓子商品関係ですら,「(和)菓子バー」や「ケーキバー」のほか,「スナックバー」と総称されるジャンルでは,「キャンディバー」その他多数が広く知られているから,多義的な意味を有する語である。したがって,「○○(原材料)アイスバー」という用例があり,これが「アイス菓子」又は「棒状」という意味を暗示させるとしても,「バー」は,「アイスバー」と等価ではなく,「○○バー」すなわち「○○(原材料)アイスバー」と一義的に判断することはできない。
むしろ,菓子商品関係で「○○バー」と称するものにはアイス菓子でも棒状でもないものもあるから,本願商標(「あずきバー」)に接した「菓子」の分野における取引者,需要者は,「あずきを加味してなる菓子」と認識するものである。現に,本願商標と称呼及び指定商品が同一である商標(3件)について,原告は,商標登録を取得している。
(3) 「あずきバー」の語をグーグル検索した結果の圧倒的多数は,原告が昭和47年に発売を開始した「あずきバー」という名称の小豆入り氷菓子(冷菓)商品(棒状のアイス菓子。以下「本件商品」という。)に関するものであるから,「あずきバー」の文字を「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」であることを表示する他社のホームページの記載が数点あるからといって,「あずきバー」の文字が,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」であることを表示するものとして取引上普通に使用されているとはいえない。むしろ,他社のホームページによる上記記載は,「○○あずきバー」というものであって出所混同を生じるものではないか,原告が出所混同防止措置を図ろうとしているものなどであるにすぎない。
(4) 本願商標は,「ぜんざいを固める」という新しいコンセプトに基づく本件商品のために独自に作り出された造語であって,ぜんざいという日本古来の食物を表す「あずき」と「棒のように固い」印象を英語の「バー」によって表現し,これらを結合したという必然性のない特別かつ恣意的な組合せによるものであって,意外性のある固有の特別顕著な語であり,それ自体,自他商品識別機能を有する。「あずき(の)棒」との標章ですら,粒状の「あずき」と「棒」の組合せに必然性がなく,必ずしも商品の品質,性質,形状等を表すものと認識されるとは限らないから,「棒」の部分を英語の「バー」に置換した本願商標は,本願の指定商品の品質,原材料,効能又は用途などの商品の由来を直接的に記述・表示するものと取引者,需要者により認識されるとは到底考えられない。
また,本願商標は,長音を含む4音と短く,全体の語調・語感がよいことから,全体を一体かつ一連に「アズキバー」として称呼されるとともに,そのままの意味で「アズキバー」と観念される。とりわけ,「菓子」の分野における取引の実情を考慮すると,本願商標から「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」などという小難しい観念や意味合いを取引者,需要者が認識して取引することはない。
そして,「あずきバー」の語をグーグル検索した結果の圧倒的多数は,本件商品に関するものであるから,本願商標は,特定の者(原告)の業務に係るものであるとして取引者,需要者に認識されていることが窺い知れる。
(5) 以上のとおり,本願商標は,それ自体としての自他商品識別機能を有しており,商標法3条1項3号には該当しない。
〔被告の主張〕
(1) 商標法3条1項3号がそこに所定の商標について登録を認めないのは,当該商標が,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによると解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号 同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁)。そして,同号は,取引者,需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき,それ故に登録を受けることができないとしたものであって,当該表示態様が,商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか,現実に使用されている等の事実は,同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべきである。したがって,判断時点において,出願に係る商標が指定商品の品質を表すものと取引者,需要者に広く認識されている場合はもとより,将来を含め,取引者,需要者にその商品の品質を表すものと認識される可能性があり,これを特定人に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときには,当該商標は,同号に該当するものと解するのが相当である
(2) 本願商標のうち,「あずき」の文字は,あん・菓子などの材料となる「小豆」を,「バー」の文字は,「棒」の意味を有するものである。そして,小豆は,アイスクリームやアイスキャンデーの原材料として使用されており,棒状のアイス菓子を「アイスバー」と称し,その商品の原材料を「バー」と組み合わせて,「○○(原材料)バー」と称することは,広く行われている。さらに,「あずきバー」の文字は,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」であることを表示するためのものとして,原告以外によっても使用されている。
以上によれば,「あずきバー」との標準文字からなる本願商標は,これに接する取引者,需要者に,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」を容易に認識させるにとどまるものといえるから,その指定商品中「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」に使用するときは,その商品の品質,原材料及び形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというべきである。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。
(3) なお,本願商標を構成する「あずき」及び「バー」の語は,いずれも極めて平易な語であるから,前記の事情を踏まえると,本願商標は,原告の創作に係る語であったとしても,格別な意外性はなく,これに接する取引者,需要者に「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」を容易に認識させるものとみるのが自然といえる。したがって,本願商標は,その指定商品中「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」に使用するときは,自他商品の識別標識として認識されるとはいえない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性に係る認定判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 本件審決は,原告には本件商品の販売期間,販売数量,宣伝広告等について相当程度の実績があると認められるものの,使用に係る商標が本願商標と同一の商標と認めることができず,また,実際に使用している商品が「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」のみであるから,本願の指定商品と同一の商品であると認めることもできないものであるため,本願商標が,その指定商品について使用された結果,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとは認められないとする。
(2) しかしながら,本願商標は,昭和47年に発売開始された本件商品の商標で,以後40年以上にわたり,原告により独占的に広く販売されているロングセラー商品であり,平成21年度の日本食糧新聞社による「ロングセラー賞」を受賞したものである
本件商品は,日本国内のスーパーの9割以上の店で売られているナショナルブランドであって,平成19年ないし平成21年の夏場のアイスキャンデー売上げ日本一を記録しており,本件商品の出荷数は,平成17年度が1億3700万本,平成19年度が1億7700万本,平成23年度が2億5800万本であるほか,平成23年度以降,年間3億本態勢へと設備の増強を図っている。
平成22年7月には単行書『あずきバーはなぜ堅い?』(おいしい雑学研究会編・株式会社オレンジページ)が刊行されるなど,本件商品の商品名(「あずきバー」)及びその商品イメージは,一般に広く浸透している。
本件商品のテレビコマーシャル(15秒ないし16秒のスポット広告)は,平成元年以降,親しみやすいタレントや子役を起用しつつ,中断を挟んで20年間にわたって放映されているが,その放映料は,毎年約1億円で推移しており,累計約20億円に上る。本件商品のテレビコマーシャルは,全国で,例えば平成24年4月に合計354回,同年5月に合計446回,同年6月には合計358回,同年7月には合計326回,それぞれ放映されており,本件商品の映像が流されるのは当然として,長音を含む4音と短く,全体の語調・語感がよい「あずきバー」との音声が必ず流されており,全体を一体かつ一連に「アズキバー」として称呼されるとともに,音声情報として聴者に強い聴覚上の印象を与えている。本件商品のテレビコマーシャルで放送される「あずきバー」の音声は,「あずきバー」商標すなわち本願商標について文字の形(フォント)やロゴに関わりなく広告的使用がされている事実を証明するものである。このことは,平成24年6月から同年7月の福岡市及び鹿児島市での大型ビジョン画面の街頭広告及び例えば平成22年6月のラジオコマーシャルについても同様である。
さらに,本件商品については,平成16年6月から,毎年6月又は7月に,東北・上越新幹線及び東海道・山陽新幹線の車室内や,平成9年以降,JR名古屋駅,同博多駅,同広島駅,名古屋地下鉄高畑駅,近鉄名古屋駅,同津駅,JR水道橋駅,東京メトロ後楽園駅,JR東海新幹線東京駅,同豊橋駅,JR仙台駅,同新大阪駅等の駅構内で広告が行われているほか,平成15年以降,都営バスのバスラッピング広告も行われている。また,「あずきバー」の語をグーグル検索した結果の圧倒的多数は,本件商品に関するものであり,「あずきバー」の語が,原告と強い関連性を有しており,広く取引者,需要者の間に浸透していることが分かる。
(3) 以上のとおり,本願商標は,昭和47年以降継続して本願の指定商品である「あずきを加味してなる菓子」に使用された結果,現在においては,取引者,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものである。
また,本件商品に使用されている商標の態様は,原告が商標登録を受けた「丸文字体の一種といえる書体により「あずき」の文字を縦書きし,その「き」の文字の左下に「あ」「ず」「き」の各文字の約4分の1程度の大きさで丸文字の一種といえる書体による「バー」の文字を縦書きした構成からなるもの」(以下「本件ロゴ書体」という。)に限られるものではなく,本願商標は,例えば,原告の「和風アイス」の商品一覧や,インターネットの楽天市場,ヤフーショッピング及びアマゾンの画面その他において使用されているから,本件ロゴ書体のみが使用されているとの本件審決の認定は,誤りである。そして,近年の情報デジタル化やソフト産業の隆盛に伴って,商品を購入する取引者,需要者は,映像,音声又は文字データによって商品を取捨選択することが一般的となっているという取引の実情があるから,本願商標は,現に使用されている商標と同一又は同一の範囲の商標であるというべきである。
さらに,「バー」との語は,前記のとおり多義的であり,「アイスバー」を意味するとは一義的にはいえないから,殊更に「棒状の」又は「アイス菓子」とする必要はない。むしろ,原告は,本願商標(「あずきバー」)を本願の指定商品である「あずきを加味してなる菓子」(本件商品)に使用している。
(4) 前記のとおり,「あずきバー」の語をグーグル検索した結果の圧倒的多数は,本件商品に関するものであるから,「あずきバー」の文字を「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」であることを表示する他社のホームページの記載が数点あるからといって,「あずきバー」の文字が,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」であることを表示するものとして取引上普通に使用されているとはいえない。むしろ,他社のホームページによる上記記載は,「○○あずきバー」というものであって出所混同を生じるものではないか,原告が出所混同防止措置を図ろうとしているものなどであるにすぎない。
(5) 以上のとおり,本件商品の販売期間,販売数量,広告宣伝等としては相当程度の実績があるものと認められ,使用に係る商標は,本願商標と同一の商標と認められ,また,実際に使用している商品は,「あずきを加味してなる菓子」であるから,本願の指定商品と同一の商品であると認められる。
したがって,本願商標は,本願の指定商品について商標法3条2項の要件を満たしているものであるから,商標登録がされるべきである。
〔被告の主張〕
(1) 出願に係る商標が商標法3条2項に該当するか否かは,使用に係る商標及び商品,商標の使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願に係る商標が使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかどうかによって決すべきものであり,その場合,出願に係る商標及びその指定商品は,原則として使用に係る商標及び商品と同一であることを要するものというべきである。
(2) 原告は,「あずきバー」という名称の「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」(本件商品)を開発して,昭和47年にその販売を開始し,これを現在に至るまで全国で多数販売しており,広告宣伝の実績も,相当程度高いとみて差し支えない。
しかしながら,原告が本件商品について使用する商標は,本件ロゴ書体等であって,一般に用いられる活字体の文字とは異なるものというべきである。他方,本願商標は,「あずきバー」の文字を標準文字で表してなるものであり,上記実際に使用している商標とは文字の構成態様が明らかに異なるから,原告は,本願商標と同一の商標を使用しているということはできない。
(3) 「菓子」とは,「アイス菓子」に限定されるものではなく,例えば商標法施行規則別表においても,「菓子」には「アイスキャンデー,アイスクリーム」のほかに多様なものが含まれている。そして,本願商標の指定商品は,「あずきを加味してなる菓子」であるから,「アイス菓子」には限定されず,「もなか」や「ようかん」その他のあずきを加味してなる多様な菓子を含むことになる。しかるところ,原告は,本件商品として「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」に関する証拠を提出するのみで,それ以外の「あずきを加味してなる菓子」について本願商標を使用していることを証明する証拠を何ら提出していない。したがって,本願商標の指定商品は,原告が実際に使用する商品以外の商品を含むものであり,実際に使用している商品と同一の商品であるということができない。
(4) 前記のとおり,「あずきバー」の文字は,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」であることを表示するためのものとして,原告以外によっても使用されている。
(5) 以上のとおり,本件商品の販売期間,販売数量及び広告宣伝等については,相当程度の実績があるといえるものの,原告が実際に使用している商標は,本願商標と同一ではなく,原告が実際に使用している商品は,本願商標の指定商品と同一の商品であるということもできないばかりか,原告以外にも「あずきバー」の文字を使用する者がいることを総合して考慮すると,本願商標は,その指定商品について使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとはいえない。
よって,本願商標は,商標法3条2項の要件を具備しないというべきである。
(6) なお,テレビコマーシャルやラジオコマーシャルによる「あずきバー」という音声の放送は,商標法2条3項8号所定の「使用」には該当しないから,この点に関する原告の主張は,失当である。
また,原告は,本件ロゴ書体のほか,本願商標と同視し得る「あずきバー」との標章もわずかに使用しているが,当該標章は,極めて小さく,例えば「BOXあずきバー」のように他の語と一連一体となって使用されているから印象に残り難いばかりか,長期間にわたって全国的に,継続的に使用されていることを確認できない。さらに,上記標章は,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」の放送に使用されているだけであるから,本願商標の指定商品と原告が実際に使用している商品とが同一であるということができない。
3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性に係る認定判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 本件審決は,本願商標が,これに接する取引者,需要者に「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」を容易に認識させるものであるから,それ以外の商品に使用するときは,その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある商標であるとする。
(2) しかしながら,前記のとおり,本願商標の「バー」の部分は,「棒状のアイス菓子」の意味を一義的に認識させるものではなく,本願商標は,原告が最初に使用した標章であり,意外性のある固有の特別顕著な語であることに加えて,「菓子」の取引の実情や,インターネットにおける「あずきバー」の語の検索結果が全て原告に関連していることに照らすと,本願商標を「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」以外の商品を含む,本願の指定商品である「あずきを加味してなる菓子に使用しても,その商品の品質に付いて誤認を生じさせる恐れはなく,したがって,本願商標は,品質に誤認を与える商標について登録商標としての保護を与えることが公益に反する場合には該当しないことが明らかである。
(3) よって,本願商標が商標法4条1項16号に該当するとした本件審決の判断は,誤りである。
〔被告の主張〕
前記のとおり,「あずきバー」との標準文字からなる本願商標は,これに接する取引者,需要者に,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」を容易に認識させるにとどまるものといえるから,それ以外の商品に使用するときは,その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある商標であるというべきである
したがって,本願商標は,商標法4条1項16号に該当する。
4 取消事由4(審判における手続違背)について
〔原告の主張〕
(1) 本件審決は,商標法3条2項に係る判断として,審判手続で原告が提出した証拠において示された商品が「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」のみであり,それ以外の「菓子」に使用していることを証明する書類が提出されていないから,本願商標の指定商品(「あずきを加味してなる菓子」)が,原告の使用する商品以外のものを含むものであり,使用している商品と同一の商品であるとは認めることができないとする。
(2) しかしながら,本件審決の前記認定判断は,商標法3条2項の適用に関し,拒絶査定とは異なる新たな拒絶理由であって,原告の意見を求める必要があるものである。しかるに,原告は,上記拒絶理由に対して意見を述べ,補正をする機会を与えられていないから,これをもって審決の判断理由とすることは,求意見手続違反である。
(3) よって,本件審決には,商標法55条の2第1項で準用する同法15条の2に違反するという手続違背があるから,本件審決は,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
原告は,商標法3条2項所定の要件について立証責任を負っているところ,審判段階から,本願商標が「小豆入りの氷菓子(冷菓)」に一貫して使用されていることを自覚しており,指定商品の表示を補正する機会があったにもかかわらず,自らの意思によって本願商標の指定商品を「あずきを加味してなる菓子」としているのであるから,原告は,当該指定商品について本願商標が「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」ことを立証しなければならないといえる。
しかるに,原告は,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」に関する証拠のみを提出し,それ以外の「あずきを加味してなる菓子」についての証拠を提出しない。
本件審決は,以上の経緯から,本願商標が商標法3条2項の要件を具備しないと判断したのであって,そのことには何らの違法もない。あたかも被告に拒絶理由を通知する義務があるかのような原告の主張は,原告自身が立証すべきことを立証していないことを度外視するものであって,失当である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性に係る認定判断の誤り)について
(1) 本願商標の構成及び指定商品について
ア 本願商標は,「あずきバー」という標準文字からなるものであるが,「あずき」という語は,一般的な辞書に,「【小豆】マメ科の一年生作物。」であって,「あん・菓子などの材料とする。」などと記載され,併せて,複合語として「あずきアイス(小豆アイス)」,「あずきがゆ(小豆粥)」,「あずきめし(小豆飯)」及び「あずきもち(小豆餅)」という用例が紹介されている。これらの中で,「あずきアイス(小豆アイス)」については,「小倉アイスに同じ。」と記載され,同じ辞書の「小倉アイス」の欄には,「小豆の粒餡をまぜたアイスクリーム。小豆アイス。」と記載されている。(乙9,11。広辞苑第6版)。このように,「あずき」という語を食物の名称の冒頭に付して複合語とした場合,当該複合語は,一般に,小豆又はそれから作られた成分を含有する食品を意味するものと理解される。
また,「バー」という語は,一般的な辞書に,「棒。横木。」などと記載されている(乙10。広辞苑第6版)ほか,菓子類に関する辞典には,「原義は棒,棒状のもの。①棒状の菓子や氷菓のスティックタイプのこと。」と記載されている(乙8)から菓子類の名称の一部として用いられた場合,棒状の形状を有する菓子を意味するものと理解される。
イ そして,本願商標の指定商品は,第30類「あずきを加味してなる菓子」を指定商品とするものであるところ,菓子業界では,アイスキャンデー等の棒状の氷菓子のほか,棒状の形状を有するそれ以外の菓子に,「○○(原材料又は風味等)バー」と称するものが存在することが認められる(甲1~35,37~57,63~67,乙8,13~22,弁論の全趣旨。なお,枝番は省略する。以下同じ。)。
ウ したがって,本願商標(「あずきバー」)が指定商品(「あずきを加味してなる菓子」)について使用された場合,これに接した菓子の取引者,需要者は,小豆又はそれから作られたあんを含有する棒状の菓子を想起し,本願商標が商品の品質,原材料又は形状を表しているものと認識すると認められる。
エ そして,本願商標は,「あずきバー」という標準文字からなるものであるにすぎないから,指定商品の品質,原材料又は形状を普通に用いられる方法で表示したものというほかない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,菓子商品関係で「○○バー」と称するものには棒状ではないものもあるから,本願商標に接した取引者,需要者が「あずきを加味してなる菓子」と認識するものであり,現に,本願商標と称呼及び指定商品が同一である商標について登録がされていると主張する
しかしながら,原告主張のように,本願商標に接した取引者,需要者が「あずきを加味してなる菓子」として認識するというのであれば,それは,本願商標がまさに商品の品質,原材料等を表しているからにほかならないから,原告の上記主張は,それ自体失当である。
イ 原告は,本願商標が,「あずき」と「バー」という必然性のない特別かつ恣意 的な組合せによる意外性のある語であって,それ自体に自他商品識別機能があると主張する。
しかしながら,前記のとおり,「あずき」の語は,食物の名称の冒頭に付して複合語とした場合,当該複合語は,一般に,小豆又はそれから作られた成分を含有する食品を意味するものと理解されることに加えて,「バー」の語は,菓子類の名称の一部として用いられた場合,棒状の形状を有する菓子を意味するものと理解されるから,両者の組合せには特段の独創性も認められず,それ自体に自他商品識別機能があるとは認められない。
よって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 原告は,取引者,需要者が,本願商標が原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして認識すると主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,商標法3条2項に関するものとして別途検討する余地があるものの,前記のとおり,本願商標それ自体に自他商品識別機能があるとは認められない以上,同条1項3号該当性に関する主張としては,失当である。
よって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 小括
以上のとおり,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものというべきであるから,本件審決は,その結論において相当である。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性に係る認定判断の誤り)について
(1) 本願商標の周知性について
ア ある標章が商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するか否かは,出願に係る商標と外観において同一とみられる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の販売数量又は売上高等,当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである。
イ これを本件についてみると,原告は,昭和47年に,「あずきバー」という商品名のあずきを加味してなる棒状の氷菓子(本件商品)の販売を開始し,本件審決の時点に至るまで,全国の小売店等でその販売を継続しており,その販売数量も,平成17年度に1億3700万本,平成19年度に1億7700万本,平成21年度に1億9700万本,平成22年度に2億5800万本となっている。また,原告は,毎年7月1日を「井村屋あずきバーの日」と定め,平成元年以来,本件商品について中断を挟みながらも本件審決の時点に至るまでテレビコマーシャルを放映しており,その放映料は,少なくとも平成20年以降,毎年1億2000万円を超えているほか,新聞その他の媒体等を通じて全国で広告を実施している。
原告は,本件商品の発売以来,本件商品の包装に原告の会社名とともに,本件ロゴ書体,これを横書きにしたもの又はこれと社会通念上同一と見られる標章を付しており,上記の宣伝広告等においても当該包装が映った写真又は映像を使用することが少なくなく,当該宣伝広告等においては,ほぼ常に原告の会社名を重ねて紹介している。
このような本件商品の販売実績及び宣伝広告実績により,本件審決の時点までには,「あずきバー」との語でインターネット上の検索を行うと,表示される多数のウェブページではいずれも本願商標が原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして使用されているほか,原告とは直接の関係が認められない著者により,「あずきバーはなぜ堅い?」との表題の書籍(平成22年7月16日刊行)が執筆・出版されるに至っている。
以上のような本件商品の販売実績及び宣伝広告実績並びにこれらを通じて得られた知名度によれば,本件商品の商品名を標準文字で表す「あずきバー」との商標(本願商標)は,本件商品の販売開始当時以来,原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして取引者,需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたことが容易に推認され,本件審決当時でも,本件商品を意味するものとして価格表や取引書類等で現に広く使用されている。
(以上につき,甲1~31,33~35,37~57,63~67)
ウ なお,「あずきバー」との商標は,証拠上確認できる範囲内では,原告以外に3社が自社の商品に使用しているが,いずれも,「玄米あずきバー」(乙20),「十勝あずきバー」(乙21)及び「セイヒョー金太郎あずきバー」(乙22)という各商品の名称の一部として使用されているものである。しかも,これらのうち,「セイヒョー金太郎あずきバー」も,自社名を商品に付していることで差別化を図っていることがうかがえるばかりか,「玄米あずきバー」の広告ウェブページには,「ライバルは井○屋!!」との大きな記載があり,原告と本件商品との関係を強く意識した内容となっており,このことは,とりもなおさず本件商品が原告の製造・販売に係る商品として高い知名度を獲得していることを裏付けるものであるといえる。
エ 以上のとおり,本件商品は,「あずきを加味してなる菓子」に包含される商品であるところ,遅くとも本件審決の時点において,我が国の菓子の取引者,需要者の間で原告の製造・販売に係る商品として高い知名度を獲得しているものと認められ,これに伴い,本件商品の商品名を標準文字で表す「あずきバー」との商標(本願商標)は,「あずきを加味してなる菓子」(指定商品)に使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められる。
(2) 被告の主張について
ア 被告は,原告が本件商品について本願商標を使用しておらず,あるいは本願商標を使用する場合にも印象に残り難い方法で使用しているにすぎないと主張する。
しかしながら,前記(1)イに認定のとおり,本願商標は,本件商品の販売開始時以来本件審決の時点に至るまで,原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして取引者,需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたものと認められる。
よって,被告の上記主張は,採用することができない。
イ 被告は,本願商標の指定商品がアイス菓子に限定されないのに,原告がアイス菓子以外の「あずきを加味してなる菓子」について本願商標を使用していないから,本願商標が実際に使用している商品と指定商品が同一ではないと主張する。
しかしながら,本願商標の指定商品は,「あずきを加味してなる菓子」として特定されているところ,本件商品は,アイス菓子ではあるものの,「あずきを加味してなる菓子」であることに変わりはなく,かつ,本願商標は,前記(1)に認定のとおり,使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められるから,商標法3条2項の要件を満たすといって妨げはないのであって,上記のように特定された本願商標の指定商品を更にアイス菓子とそれ以外に区分して判断すべき理由はない。
よって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3) 小括
以上のとおり,本願商標は,商標法3条2項の要件を満たすものであるから,同項該当性に関する本件審決の認定判断には誤りがあるというべきである。
3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性に係る認定判断の誤り)について
(1) 本願商標(「あずきバー」)は,前記1(1)に説示のとおり,指定商品(「あずきを加味してなる菓子」)について使用された場合,これに接した菓子の取引者,需要者が小豆又はそれから作られたあんを含有する棒状の菓子を想起し,本願商標が商品の品質,原材料又は形状を表しているものと認識すると認められる一方,本願商標には,それ以上に商品の品質について特段の観念を生じさせる部分が存在しない。
そうだとすると,本願商標は,商品の品質の誤認を生じるおそれがある商標ということはできない。
(2) 被告の主張について
被告は,本願商標が「あずきを原材料とするアイス菓子」を認識させるから,それ以外の商品に使用するときにはその商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあると主張する。
しかしながら,ある商標が品質について誤認を生じさせるおそれがあるか否かは,当該商標の構成自体によって判断すべきところ,本願商標は,それ自体から「あずきを原材料とするアイス菓子」を直ちに認識させるものではないから,被告の上記主張は,失当である。
(3) 小括
以上のとおり,本願商標は,商標法4条1項16号に該当するものではないから,同号該当性に関する本件審決の認定判断には誤りがあるというべきである。
4 取消事由4(審判における手続違背)について
原告は,本件審決が本件商品以外の菓子に本願商標を使用したことを証明していないと指摘した点について,これが拒絶査定とは異なる新たな拒絶理由であるとして,その審判手続には原告に補正する機会を与えなかったという手続違背があると主張する。
そこで検討すると,特許庁審査官は,原告に対し,本願商標の出願に係る平成22年12月6日付け拒絶理由通知書(乙2)において,本願商標が商標法3条1項3号等に該当する旨を通知したところ,原告は,平成23年2月16日付け意見書(乙3)において,主位的に本願商標が同号に該当しない旨を,予備的に本願商標が同条2項に該当する旨を各主張し,この点に関する証拠資料も提出した(乙4)。特許庁審査官は,これに対して,平成23年4月5日付けで拒絶査定(乙5)をしたが,そこには,「出願人(原告)は,「あずきバー」商標の使用実績資料を提出していますが,しかしながら,本願商標は,前記資料を考慮しても,前述の通り,自他商品識別機能を果たし得ない商標と言わざるを得ません。」との記載があった。
このように,原告は,審判において,商標法3条2項について主張立証の機会を与えられていたものであり,現に,本件商品に本願商標を使用したことに関する証拠を提出しているところである。
したがって,商標法3条2項に係る判断に当たって,原告が本件商品以外の菓子に本願商標を使用したことを証明していないことも理由とした本件審決は,上記拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由に基づいてされたものとはいえず,審判において拒絶理由を通知する必要はなかったから,これをしなかった本件審決の審判手続に違法はない。
よって,原告の取消事由4に関する主張には理由がない。
5 結論
以上の次第であって,原告主張の取消事由2及び3には理由があるから,本件審決は,取り消されるべきものである。
(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 井上泰人 裁判官 荒井章光)