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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10331号 判決 2013年5月29日

原         告

ジャパンレントオール株式会社

訴訟代理人弁護士

澤田恒

中上幹雄

森崇志

太田悠子

髙橋淳

訴訟代理人弁理士

石井久夫

被         告

共進産業株式会社

訴訟代理人弁護士

藏冨恒彦

石井雄介

訴訟代理人弁理士

松波祥文

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2011-800264号事件について平成24年8月14日にした審決を取り消す。

第2前提となる事実

1  特許庁における手続の経緯等

被告は,発明の名称を「家具の脚取付構造」とする特許第3474265号(平成6年7月6日出願,平成15年9月19日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。原告は,平成23年12月23日,本件特許について無効審判請求(無効2011-800264号事件)をした。これに対して,特許庁は,平成24年8月14日,「本件審判請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月24日,原告に送達された。

2  特許請求の範囲

本件特許の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(請求項の数1。以下,この発明を,「本件発明」という。甲23(以下「本件明細書」という。))

【請求項1】

テーブル等の家具の脚部を,天板等の家具本体に着脱自在に取付ける為の構造であって,

家具本体1に固定させる基盤6に,有底短筒状の嵌合突起8を下向きに突設した固定部4と,

脚部2の上端に設けられて,前記嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とから成り,

前記嵌合突起8の底面8aには,筒の径方向に伸びるスリット9を設けると共に,底面8aの上面は,前記スリット9の両側端9a,9aから夫々筒周方向に上向きに緩やかに傾斜する斜面aに形成し,

前記嵌合孔10の底部11には,前記スリット9に挿嵌させ得る形状を備えて,その上端に前記斜面aに当接させる掛止部12bを設けた掛止部材12を突設し,

前記掛止部12bを前記スリット9に挿通させたうえ,前記脚部2をその軸周りに回動させると,前記掛止部12bが前記斜面aを次第に締付けて,前固定部4と被固定部5とが強固に掛合される様にしたことを特徴とする家具の脚取付構造。

3  審決の概要

(1)  審決の理由の概要

審決の理由は別紙審決書写に記載のとおりである。審決は,要するに,本件発明は,甲1に記載の発明(以下「甲1発明」という。)と同一のものとは認められず,また,本件発明は,甲2に記載された発明,甲3に記載された発明,甲17ないし19記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとも,甲1発明,甲3に記載された発明,甲17ないし19記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとも,甲3に記載された発明,甲4ないし6に示唆された設計事項,甲1の教示することに基づいて当業者が容易に発明することができたものとも認められないから,本件特許は,請求人(原告)の主張及び証拠方法によっては無効とすることはできないというものである。

(2)  審決が認定した甲1発明及び本件発明と甲1発明との一致点・相違点

ア 甲1発明

天板下面に固着される支脚取付板に中央に長形の開口を備えた下方膨出部が形成されて,該開口両側が袋部を構成しており,該袋部の内底面は周方向で開口近接側よりも同遠方側が高位置にあり,一方,支脚の頂端面に前記膨出部を収容可能な凹所が形成され,該凹所の中央に凹所底面より高位置で直径方向両側へ延出する係止片を備えた連結部材が固着され,該係止片が前記開口より膨出部内へ嵌入した状態で該支脚を約90°回転させることにより,旋回した係止片が袋部内に侵入してその高位置の内底面に圧接すると共に,支脚の周縁部と支脚取付板の周囲部とが圧接し,支脚が天板下面に連結固定されるように構成してなる支脚の取付装置であって,

[1] 支脚(3)を天板(2)に着脱自在に取り付けるための構造で,

[2] 天板(2)に固定させるための支脚取付板(4)に,膨出部(5)を下向きに突設した固定部材,

[3] 支脚(3)の上端に設けられて,膨出部(5)を収容する凹所(12)を備える被固定部材,

[4] 下方膨出部の底面に開口(6)を設け,

[5] 該袋部の内底面は周方向で開口近接側よりも同遠方側が高位置にあり,傾斜面をなして,

[6] 開口(6)に挿嵌させ得る形状を備えて,その上端に係止片(15a)(15a)を設けた連結部材(15)を設け,

[7] 支脚(3)の上端と取付板(4)とを係止片(15a)(15a)が開口(6)から膨出部(5)内へ嵌入するように当接し,この当接状態で矢印(S)の如く支脚(3)を回転させると,固定部材と被固定部材とが強固に掛合する状態となる,支脚の取付装置。

イ 一致点

テーブル等の家具の脚部を,天板等の家具本体に着脱自在に取付ける為の構造であって,

家具本体に固定させる基盤に,嵌合突起を下向きに突設した固定部と,

脚部の上端に設けられて,前記嵌合突起を挿嵌させる嵌合孔を備える被固定部とから成り,

前記嵌合突起の底面には,底面の面方向に伸びるスリットを設けると共に,

底面の上面は,スリットの近接側よりも遠方側が高位置となるように傾斜する斜面を有し,

前記嵌合孔の底部には,前記スリットに挿嵌させ得る形状を備えて,その上端に前記高位置となる面に密接させる掛止部を設けた掛止部材を突設し,

前記掛止部をスリットに挿通させたうえ,脚部をその軸周りに回動させると,掛止部が高位置となる面に締付けて,固定部と被固定部とが強固に掛合される様にしたことを特徴とする家具の脚取付構造。

ウ 相違点1

本件発明は,嵌合突起が「有底短筒状」であり,嵌合孔が「嵌合突起8を緊密に挿嵌させる」ものであり,スリットの伸びる方向が「筒の径方向」であるのに対し,甲1発明は嵌合突起が「短筒状」でなく,嵌合孔が「嵌合突起を緊密に挿嵌させる」ものでない点。

エ 相違点2

本件発明は,底面の上面が「スリットの両側端から夫々筒周方向に上向きに緩やかに傾斜する斜面」であり,掛止部を密接させる面が「斜面」であり,脚部をその軸周りに回動させると「掛止部が前記斜面を次第に締付け」るのに対し,甲1発明は,底面の上面が「周方向で開口近接側よりも同遠方側が高位置となるように傾斜する斜面」であり,掛止部を密接させる面が「高位置の内底面」であり,脚部をその軸周りに回動させると「係止片が・・・袋部内に進入してその高い位置の内底面に圧接する」ものである点。

第3取消事由に係る当事者の主張

1  原告の主張-相違点1に関する容易想到性判断の誤り

(1)  甲1発明における膨出部5と凹所12の機能に関する誤り

審決は,甲1発明の支脚(3)の回転は,「円形輪郭(6a)」で支障なくされているものであり,甲1発明の膨出部(5)及び凹所(12)が,積極的な意味で回転を支障なくするための機能を要求されるものでないと判断する。

しかし,審決の上記判断は,「係止片(15a)(15a)を有する連結部材(15)が支脚(3)とは関係なく,旋回するもの」との誤った認定をしたことによるものであり,誤りである。

すなわち,甲1には,係止片15aを有する連結部材15は「長穴(13)には略U字状で両側上端より外側へ水平に延出する係止片(15a)(15a)を備えた連結部材(15)が回転不能に嵌合され,且つボルト挿通孔(14)に下方側から挿通したボルト(16)とねじ孔(15b)との螺合により締付け固定されており,この固定状態で係止片(15a)(15a)は凹所(12)の底面から離間した上方に位置している。・・・この当接状態で矢印(S)の如く支脚(3)を90°回転させればよい。すなわち,この回転操作により係止片(15a)(15a)は取付板(4)の膨出部5内で90°旋回し,」と記載されている。同記載によれば,係止片15aが支脚3の回転動作に伴って旋回することは明らかであり,係止片15aと支脚3とは,積極的な意味で回転を支障なくするための機能が要求される。

(2)  本件発明における嵌合突起8と嵌合孔10の機能に関する誤り

審決は,本件発明に係る特許請求の範囲の「嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10」との構成の意義について,嵌合突起8が嵌合孔10に挿嵌されても,被固定部5の上面と内側面が,固定部4に「緊密に接触」していることと理解した上で,甲1には,「緊密に挿嵌させる」ことを示唆する記載がないと判断する。

しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。

すなわち,本件発明において,固定部4と被固定部5とを強固に掛け合わせる機能を果たすために,両者が「緊密に挿嵌」されることが必要となるわけではない。本件発明の課題(【0003】,【0017】)によれば,本件発明は,固定部と被固定部とが嵌合突起に形成した斜面が呈する楔作用によって,十分な連結強度を確保できることに発明の特徴がある。嵌合突起8の側面外周と嵌合孔の内周面との間に形成される隙間は,固定部に被固定部を掛け合わせる作用効果(十分な連結強度の確保)とは直接関係せず,固定部に対し嵌め合った被固定部を回転させるためのものである。

特許請求の範囲の「嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10」との構成は,被固定部5の掛止部12bを固定部4のスリット9に挿通させるガイド機能を果たすためのものであるから(【0012】,【0013】),固定部4と被固定部5とは固定部の嵌合突起8の基部に被固定部5の嵌合孔10の先端部が嵌め合えば十分であり,嵌合突起8の側面外周全体に嵌合孔の内周面が緊密に接触する必要はない。むしろ,脚部を回転させるためには,嵌合突起8と嵌合穴10は遊嵌状態でなければならず,嵌合孔10の内周に発生する錆などを考慮すると,緊密に挿嵌されないのが好ましい。また,本件発明は,次第に締め付けることにより,強固に掛合されることに特徴があり,緊密に挿嵌されることは,本件発明の作用効果と直接関連しない。

取付状態を安定化させることは,脚部を着脱可能とするテーブルにおける周知の課題であり,本件発明において固定部4と被固定部5とが強固に掛合されると同様の機能を発揮するように甲1発明の膨出部(5)の形状を工夫することは設計事項である。はめあいの具体的構造は,当業者が選択する設計事項にすぎない。

(3)  甲1発明の膨出部5の形状を「短筒状」とすることの容易想到性の判断の誤り

脚部を着脱可能とするテーブルにおいて,取付状態を安定化させるためには,テーブルと脚部との連結部材間の「隙間」を小さくすることが重要である。

甲1には,「隙間」を小さくする手段として,「支脚を約90度回転させることにより,旋回した係止片が袋部内に進入してその高位置の内底面に圧接すると共に,支脚が天板下部に連結固定させる」という手段が明示されているから,支脚を回動させることにより「隙間」を埋めるという技術思想は開示されている。

また,甲1発明では,凹所12の形状が「短筒状」であるから,支脚3の回動以前の「隙間」をできる限り小さくするため,凹所に挿嵌される「膨出部」の形状を凹所の形状に対応する「短筒状」に置換することは,当業者が容易に想到できる。

2  被告の反論-相違点1に関する容易想到性判断の誤りに対して

(1)  甲1発明における膨出部5と凹所12の機能に関する誤りに対して

審決は,甲1発明について,「支脚(3)の上端と取付板(4)とを係止片(15a)(15a)が開口(6)から膨出部(5)内へと嵌入するように当接し,この当接状態で矢印(S)の如く支脚(3)を回転させると,固定部材と被固定部材とが強固に掛合する状態となる」と認定した上で,同構成は,本件発明における「掛止部を前記スリットに挿通させたうえ,前記脚部をその軸周りに回動させる」ことに相当すると認定した。

審決の上記認定は,「係止片(15a)(15a)を有する連結部材(15)が支脚(3)とは関係なく,旋回するもの」との認定を前提とするものではないから,この点に関する原告の主張は,その前提において誤りがある。

(2)  本件発明における嵌合突起8と嵌合孔10の機能に関する誤りに対して

甲1発明においては,「係止片(15a)(15a)が袋部(9)(9)の低位置の内底面(9a)(9a)から高位置の内底面(9b)(9b)側へ摺接移動することによって支脚(3)全体が距離(t)だけ上方に引き付けられ,これにより支脚(3)の周端部(11a)が取付板の周辺部(4a)に圧接する」という連結方法を採用したことにより,袋部(9)(9)を作るための膨出部(5)が必要となり,そのことから,支脚(3)の周端部(11a)が取付板の周辺部(4a)に圧接するために,膨出部(5)を収容するための凹所(12)が必要となる。

甲1発明においては,膨出部(5)が凹所(12)に収容することさえできればよく,膨出部(5)の外周側面と凹部の内周側面とが触れることは要求されていない。

これに対して,本件発明は,掛止部12bが斜面aを次第に締め付けるという連結方法を採用していることから,固定部4と被固定部5とを強固に掛け合わせるためには,掛止部12bが左右それぞれの斜面aに均等に締め付けられる必要がある。そこで,本件発明においては,嵌合突起を嵌合孔に緊密に挿嵌して被固定部5の上面と内側面とを固定部4に緊密に接触させることによって,脚部2及び掛止部12bの回動の軸を決定し,回動中も軸を固定して軸がブレないようにすることで回転制御を行っている。

また,本件発明は,甲1発明のように脚部の被固定部上面にフランジ部(11b)が存在しないため,取付状態において被固定部5の上面が固定部4に接触している面積が狭い。そのため,取付状態において脚にかかる側面方向からの力により固定部4と被固定部5とがずれないように強固に掛け合わされるためには,被固定部5の内側面と固定部4とが緊密に接触していることが好ましく,かかる意味においても,嵌合突起と嵌合孔とが緊密に挿嵌されることが必要である。

なお,課題が当業者に周知であるとしても,課題を解決するための解決手段が設計事項であることにはならないから,課題が当業者に周知であることを根拠とする原告の主張は,失当である。

(3)  甲1発明の膨出部5の形状を「短筒状」とすることの容易想到性の判断の誤りに対して

甲1ないし19には,甲1の膨出部(5)及び凹所(12)を相互に緊密に挿嵌させることは示唆されていない。甲1発明に甲3ないし17の周知技術を適用しても相違点1に係る構成に到達することは容易ではない。

第4当裁判所の判断

1  本件発明及び甲1発明の内容について

(1)  本件発明の内容

本件発明の特許請求の範囲は,第2の2のとおりであり,また,本件明細書の記載は次のとおりである(図は別紙のとおり。)。

「【発明の詳細な説明】

【0001】

【産業上の利用分野】本発明は,不使用時には,家具本体からその脚部を簡単に取外せて,家具の保管・移動に便であり,使用時には,極めて簡単且つ強固に脚部を取付けられる様にした,テーブル等の家具の脚取付構造に関する。」

「【0003】

【発明が解決しようとする課題】・・・本発明の目的は,不使用時には脚を取外して,保管・運搬の便を図る様にしたものに於いて,脚部の取付及び取外しを,極力簡単・迅速,且つ確実に行える様にした家具の脚取付構造を提供するにある。

【0004】

【課題を解決するための手段】上記の目的を達成する為の,本発明による家具の脚取付構造は,テーブル等の家具の脚部を,天板等の家具本体に着脱自在に取付ける為の構造であって,家具本体1に固定させる基盤6に,有底短筒状の嵌合突起8を下向きに突設した固定部4と,脚部2の上端に設けられて,前記嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とから成り,前記嵌合突起8の底面8aには,筒の径方向に伸びるスリット9を設けると共に,底面8aの上面は,前記スリット9の両側端9a,9aから夫々筒周方向に上向きに緩やかに傾斜する斜面aに形成し,前記嵌合孔10の底部11には,前記スリット9に挿嵌させ得る形状を備えて,その上端に前記斜面aに当接させる掛止部12bを設けた掛止部材12を突設し,前記掛止部12bを前記スリット9に挿通させたうえ,前記脚部2をその軸周りに回動させると,前記掛止部12bが前記斜面aを次第に締付けて,前固定部4と被固定部5とが強固に掛合される構成とした。

【0005】

【作用】家具本体1に脚部を着脱自在に連結させるには,家具本体1に固定された固定部4の,基盤6に下向きに突設した嵌合突起8に,脚部2の上端に設けた被固定部5の嵌合孔10を嵌め込み,その掛止部12bを,嵌合突起8のスリット9に挿通させる。そして,脚部2をその軸周りに所定角度回動させると,掛止部12bが,底面8aの上面に形成された斜面aを次第に締付けるので,固定部4と被固定部5とは,殆どワンタッチ操作で強固に掛合される。脚部2を取り外す時には,脚部2を連結時とは逆方向に回動させればよい。」

「【0017】

【発明の効果】以上の説明によって明らかな様に,本発明による家具の脚取付構造によれば,以下に列挙した如き実用上の優れた効果を奏する。

(a) 家具本体に脚部を取付け,又,取外すには,家具本体に固定された固定部の嵌合突起に,脚部の上端に設けた被固定部の嵌合孔を嵌め込んだうえ,脚部をその軸周りに正・逆回転させるだけで足りる。

(b) その為,ボルト・ナットを使って脚部を固定する従来技術に比べて,脚部の着脱操作を遥かに簡単・迅速に殆どワンタッチ操作で行える。

(c) 又,外したナットを一々保管する煩わしさも無くなる。

(d) その上,スバナ等の着脱用工具は一切使わなくても済む。

(e) 固定部と被固定部とは,嵌合突起に形成した斜面が呈する楔作用によって,十分な連結強度を確保出来る。」

(2)  甲1の記載

甲1には,次のとおりの記載がある(図は別紙のとおり。)。

「2 実用新案登録請求の範囲

天板下面に固着される支脚取付板に中央に長形の開口を備えた下方膨出部が形成されて,該開口両側が袋部を構成しており,該袋部の内底面は周方向で開口近接側よりも同遠方側が高位置にあり,一方,支脚の頂端面に前記膨出部を収容可能な凹所が形成され,該凹所の中央に凹所底面より高位置で直径方向両側へ延出する係止片を備えた連結部材が固着され,該係止片が前記開口より膨出部内へ嵌入した状態で該支脚を約90°回転させることにより,旋回した係止片が袋部内に侵入してその高位置の内底面に圧接すると共に,支脚の周縁部と支脚取付板の周囲部とが圧接し,支脚が天板下面に連結固定されるように構成してなる支脚の取付装置。」

「この考案はテーブル等の天板下面にその支脚を着脱自在に且つ確実に取付けるための支脚の取付装置に関する。

従来,テーブルの支脚を不使用時に天板側に折り畳むものが知られるが,機構的に複雑で故障等を発生し易くまたコスト高となると共に,折り畳み状態であっても支脚部分が収納等に支障をきたすことが多い。また,これに対して支脚を取外し可能なものも存在するが,支脚頂部に設けたねじ部を天板側に螺合させる構造が一般的であり,着脱に手間を要すると共に,取付状態の安定性に難がある。」(2頁2~15支行脚)

「支脚取付板(4)は略四角形で一角部を斜めに切欠いた形状の金属板からなり,中央部に略円形の下方膨出部(5)が形成され,この膨出部(5)には直径方向に長い略矩形で中央部分両側が円形輪郭(6a)を有する開口(6)が開設されている。」(3頁3~7行)

「この固着状態で開口(6)の両側の膨出部(5)は袋部(9)(9)を構成する。また各袋部(9)は,周方向で開口(6)に近接する位置の内底面(9a)よりも,同遠方側の位置すなわち開口(6)の長手方向に対して位相が90°異なる位置の内底面(9b)が距離(t)だけ高くなるように膨出部の(5)の下方突出度合を部分的に変えてある。」(3頁14行~4頁2行)

「一方,支脚(3)は,略四角筒状でその一稜部に他の側面と45°の角度を持つ帯状面を形成した支脚本体(10)の上端開口部に,合成樹脂成形物からなる封口部材(11)を挿入して接着している。」(4頁3~6行)

「封口部材(11)の上端面には取付板(4)の膨出部(5)を収容可能な大きさの円形凹所(12)が形成され,更に凹所(12)の底面中央に長穴(13)が凹設され,この長穴(13)の底面中央から封口部材(11)の底面側へ透通するボルト挿通孔(14)が形成されている。しかして長穴(13)には略U字状で両側上端より外側へ水平に延出する係止片(15a)(15a)を備えた金属製連結部材(15)が回転不能に嵌合され,・・・」(4頁11~18行)

「支脚(3)を天板(2)の下面に連結固定するには,第8図(A),(B)で示すように,支脚(3)の上端と取付板(4)とを係止片(15a)(15a)が開口(6)から膨出部(5)内へ嵌入するように当接し,この当接状態で矢印(S)の如く支脚(3)を90°回転させればよい。すなわち,この回転操作により係止片(15a)(15a)は取付板(4)の膨出部(5)内で90°旋回し,第9図の如く袋部(9)(9)内へ進入して終端壁(5a)(5a)内面に当接して停止するが,係止片(15a)(15a)が旋回に伴ない袋部(9)(9)の低位置の内底面(9a)(9a)から高位置の内底面(9b)(9b)側へ摺接移動することにより支脚(3)全体が距離(t)だけ上方へ引き付けられ,支脚(3)の周縁部すなわち封口部材(11)の周端部(11c)が取付板(4)の周囲部(4a)に圧接する。従って支脚(3)は,係止片(15a)(15a)と袋部(9)(9)との係合により抜出不能に天板(2)と連結すると共に,係止片(15a)(15a)および周端部(11c)の圧接により強固かつ安定した固定状態となる。

尚,開口(6)の円形輪郭(6a)は連結部材(15)の回転を支障なくするために形成されている。」(5頁5行~6頁6行)

「この考案によれば支脚をワンタッチ操作で天板に取付けることが可能であり,しかも取付状態が確実且つ強固となり,更にテーブル等の不使用時には支脚を同様のワンタッチ操作で取外して収納等に支障を与えないようにすることができる。また13取付装置自体は非常に簡単な構造であるため,故障の惧れがなく,組立容易であると共に低廉に製造できる利点がある。」(7頁3~11行)

2  取消事由についての判断

(1)  容易想到性の有無について

ア 甲1発明の膨出部(5)と凹所(12)の機能について

甲1発明において,支脚(3)を天板(2)の下面に連結固定する際の動作は,次のとおりである。すなわち,支脚(3)の上端と取付板(4)とを係止片(15a)(15a)が開口(6)から膨出部(5)内へ嵌入するように当接させ,この当接状態で矢印(S)の方向に支脚(3)を90°回転させることにより,係止片(15a)(15a)は取付板(4)の膨出部(5)内で90°旋回し,第9図のように袋部(9)内の低位置の内底面(9a)(9a)から高位置の内底面(9b)(9b)側へ摺接移動することにより支脚(3)全体が距離(t)だけ上方に引きつけられ,支脚(3)の周縁部すなわち封口部材(11)の周縁部(11c)が取付板(4)の周囲部(4a)に圧接する。これによって,支脚(3)は,係止片(15a)(15a)と袋部(9)(9)との係合により抜出不能に天板(2)と連結するとともに,係止片(15a)(15a)及び周端部(11c)の圧接により強固かつ安定した固定状態となる。

甲1発明における上記連結固定動作によれば,甲1発明の膨出部(5)と封入部材(11)に設けられた凹所(12)の嵌合については,膨出部(5)が凹所(12)に収容可能とされることの外に,何らの限定がないものと理解される。甲1の第8図(A)及び第9図によっても,支脚(3)が,90°回転されて封口部材(11)が取付板(4)の周囲部(4a)に圧接して支脚(3)が固定状態とされる際に,凹所(12)の一部である封口部材(11)の周縁部(11c)は,取付板(4)の膨出部(5)の形成が始まる根本部から外側の平面部にかけて圧接することになる場合があり,この場合には支脚(3)と取付板(4)との中心軸のずれに対する位置決めは,支脚(3)の上端と取付板(4)とが当接する際に,封口部材(11)の周縁部(11c)と膨出部(5)の斜面部により案内されて行われることがあり得るものと理解することができるに留まる。

以上によれば,甲1発明においては,支脚(3)と取付板(4)との中心軸のずれの位置決めは,膨出部(5)と凹所(12)との嵌合によって行われるのではなく,封口部材(11)の周縁部(11c)と膨出部(5)の斜面部により案内されて行われ得ることが認められる。

イ 甲1発明の円形輪郭(6a)と連結部材(15)の機能について

甲1には,円形輪郭(6a)の作用について,「連結部材(15)の回転を支障なくするために形成されている」ことが記載されているのみである。また,甲1発明の実施例を示す第9図をみると,連結部材(15)の固定部である底部から係止片(15a)(15a)に向かって伸びる部分(略U字状の直線部分)と,膨出部(5)の開口(6)との間には明らかな隙間があり,開口(6)の円形輪郭(6a)との間には,さらに大きな隙間部分がある。

そうすると,甲1には,円形輪郭(6a)について,輪郭形状により,連結部材(15)の回転を妨げないようにするもの,すなわち,支脚(3)を支障なく回転させるようにしたに留まり,それ以上に,支脚(3)の回転の軸の位置決めを実現する作用を裏付ける構造は,何ら示唆されていない。

ウ 本件発明の嵌合突起8と嵌合孔10の機能について

本件発明は,前記第2,2の特許請求の範囲の記載のとおり,家具本体1に固定させる基盤6に設けられて,有底短筒状の嵌合突起8を下向きに突設した固定部4と,脚部2の上端に設けられて,前記嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とから成り,前記嵌合突起8の底面8aには,筒の径方向に伸びるスリット9を設けるとともに,底面8aの上面には,前記スリット9の両側端9a,9aから夫々筒周方向に上向きに緩やかに傾斜する斜面aを形成し,前記嵌合孔10の底部11には,前記スリット9に挿嵌させ得る形状を備えて,その上端に前記斜面aに当接させる掛止部12bを設けた掛止部材12を突設し,前記掛止部12bを前記スリット9に挿通させた上,前記脚部2をその軸周りに回動させることにより,前記掛止部12bが前記斜面aを次第に締め付けて,前固定部4と被固定部5とが強固に掛合される様にしたものである。

本件発明においては,斜面aに当接させる掛止部12bが,前記斜面aを次第に締め付けて,前固定部4と被固定部5とが強固に掛合される様にすることを必須の構成としている。上記のとおり,掛止部12bが斜面aを次第に締め付けると記載されていることに照らすならば,掛止部材12bは,円滑な回転動作を担保するものでは足りず,斜面aの締め付けを開始する時点から,掛止部材12bの締め付け力が継続して働く構成を有するものであることが必須となることはいうまでもない。

そして,本件発明では,基盤6に設けられた有底短筒状の嵌合突起8を下向きに突設した固定部4と,脚部2の上端に設けられて前記嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とからなる構成が要件とされている。したがって,脚部2は,固定部4の有底短筒状の嵌合突起8と嵌合孔10とが緊密に挿嵌された状態で,回動することになるから,嵌合突起8と嵌合孔10の作用により,掛止部12bを前記スリット9に挿通させて,斜面aの締め付けを開始する時点から支脚3の回転軸の位置決めを行うことができるとの効果,及び,掛止部12bが斜面aを次第に締め付けることにより,前固定部4と被固定部5とが強固に掛合されるとの効果が生じるものと解される。

エ 本件発明と甲1発明との対比

上記ウのとおり,本件発明は,基盤6に設けられた有底短筒状の嵌合突起8を下向きに突設した固定部4と,脚部2の上端に設けられて,前記嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とからなる構成を採用していることから,掛止部12bを前記スリット9に挿通させて,斜面aの締め付けを開始する時点において支脚3の回転軸の位置決めを行うことができるとの効果,及び,掛止部12bが斜面aを次第に締め付けることにより,前固定部4と被固定部5とが強固に掛合されるとの効果を奏するものである。

これに対し,上記アのとおり,甲1発明は,支脚(3)と取付板(4)との中心軸のずれを防止するための位置決めは,膨出部(5)と凹所(12)の嵌合によって行われるのではなく,封口部材(11)の周縁部(11c)と膨出部(5)の斜面部により案内されて行われ得るにすぎない(前記イのとおり甲1発明の円形輪郭(6a)も回転軸の位置決めを行うものではない。)。甲1発明は,本件発明のような,掛止部12bを前記スリット9に挿通させて,斜面aの締め付けを開始する時点において支脚3の回転軸の位置決めを行うことができるとの効果,及び,掛止部12bが斜面aを次第に締め付けることにより,前固定部4と被固定部5とが強固に掛合されるとの効果を得るための前提を欠く。

甲1発明と本件発明とは,中心軸のずれを防止するための位置決めに係る効果の有無,すなわち,解決課題及び解決手法の有無において,大きく相違する。

そうすると,原告の指摘に係る甲2等に,下向きに突設した有底短筒状の嵌合突起8と,嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を設けるはめあい構造が記載されていたとしても,当業者が甲1発明と本件発明との相違点1の構成に至ることはなく,相違点1を容易に想到することができたとはいえない。

以上のとおりであり,審決の結論に違法はない。

(2)  原告の主張について

ア 原告は,審決が,係止片(15a)(15a)を有する連結部材(15)が支脚(3)とは関係なく,旋回するものと誤解していると主張する。

しかし,審決は,甲1発明について,「支脚(3)の上端と取付板(4)とを係止片(15a)(15a)が開口(6)から膨出部(5)内へと嵌入するように当接し,この当接状態で矢印(S)の如く支脚(3)を回転させると,固定部材と被固定部材とが強固に掛合する状態となる」と認定し,これが本件発明の「掛止部を前記スリットに挿通させたうえ,前記脚部をその軸周りに回動させる」ことに相当するとし,それらの構成は本件発明と甲1発明の一致点であるとしており,原告が主張するような「係止片(15a)(15a)を有する連結部材(15)が支脚(3)とは関係なく,旋回する」ものであるとしているものではない。

したがって,原告のこの点の主張は前提において失当である。

イ また,原告は,本件発明において脚部3を回転させるためには,嵌合突起8と嵌合孔10は遊嵌状態でなければならず,嵌合孔10の内周に発生する錆などを考慮すると,緊密に挿嵌されないのが好ましい,また,本件発明は,次第に締め付けることにより,強固に掛合されることが重要であり,緊密に挿嵌されるか否かは本件発明の作用効果と直接関連せず,当業者が変更可能な構造であるとも主張する。

しかし,前記のとおり,本件発明において,基盤6に設けられた有底短筒状の嵌合突起8を下向きに突設した固定部4と,脚部2の上端に設けられて前記嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とからなるとの構成を採用したのは,脚部2が,固定部4の筒状の嵌合突起8が嵌合孔10に緊密に挿嵌させられた状態で,回動することにより,回転軸の位置決め効果を実現するためであるから,嵌合突起8と嵌合孔10は,そのような位置決めが可能な程度の緊密さで挿嵌されていることが必要であるというべきであり,原告のこの点の主張は失当である。

さらに,原告は,取付状態を安定化させることは,脚部を着脱可能とするテーブルにおいては周知の課題であり,本件発明において固定部4と被固定部5とが強固に掛合されると同様の機能を発揮するように甲1発明の膨出部(5)の形状を工夫することは設計事項であると主張する。

しかし,仮に,脚部を着脱可能とするテーブルにおいて,取付状態を安定化させることが課題として周知であり,かつ,当業者において,甲1発明の膨出部(5)の形状を工夫することを指向することがあったとしても,本件発明のような下向きに突設した有底短筒状の嵌合突起8と嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える構成とすることが容易であるとすることもできないのであり,原告のこの点の主張も失当である。

ウ 原告は,甲1には,「隙間」を小さくする手段により支脚を回動させることにより「隙間」を埋めるという技術思想は開示されていると主張する。

しかし,前記のとおり,甲1発明には,本件発明のように下向きに突設した有底短筒状の嵌合突起8と,嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を設ける動機付けがないから,本件発明の構成に係る相違点1が甲1発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。

原告の主張は失当である。

エ 原告は,甲1発明において,支脚(3)の回動以前の「隙間」をできる限り小さくため,凹所に挿嵌される膨出部の形状を凹所の形状に対応する「短筒状」に置換することは,設計事項であり,当業者が容易に想到できるとも主張する。

しかし,前記のとおり,甲1発明においては,支脚(3)と取付板(4)との中心軸のずれの位置決めは,支脚(3)の上端と取付板(4)とを当接する際に,封口部材(11)の周縁部(11c)と膨出部(5)の斜面部により案内されて行われることがあり得るものと理解することができるに留まるもので,膨出部(5)の形状を「短筒状」に置換する動機付けはないから,この点の原告の主張も採用できない。

(3)  まとめ

以上によれば,審決には,原告の主張に係る違法はない。原告は,その他縷々主張するがいずれも採用の限りではない。よって,原告の請求を棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)

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