知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10334号 判決 2013年1月31日
原告
有限会社エム・ワイ・シー
同訴訟代理人弁理士
和田成則
小松秀彦
被告
株式会社ビームス・
デザイン・コンサルタント
同訴訟代理人弁理士
平野泰弘
杉本明子
主文
1 特許庁が無効2012-890024号事件について平成24年8月22日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,被告の後記1の本件商標に係る商標登録を無効とすることを求める原告の後記2の本件審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,本件審決の取消しを求める事案である。
1 本件商標
本件商標(登録第5378262号)は,別紙商標目録記載のとおりの構成からなるものであり,平成22年7月30日に商標登録出願され,第37類「建築物・土木構造物の工事監理」及び第42類「建築物・土木構造物の設計,建築物・土木構造物の耐震性調査及び診断,電子計算機のプログラムの設計及び開発」を指定役務として,平成22年12月24日に設定登録されたものである(甲1の1・2)。
2 特許庁における手続の経緯
原告は,平成24年2月28日,特許庁に対し,本件商標の登録を無効にすることを求めて審判を請求した。特許庁は,これを無効2012-890024号事件として審理し,同年8月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同月30日,原告に対して送達された。
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件商標が,後記アないしエに記載の登録商標(以下,「引用商標1」ないし「引用商標4」といい,これらを併せて「引用商標」という。)とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標と判断するのが相当であるから,商標法4条1項11号に該当しない,というものである。
ア 引用商標1(登録第4849984号)
「BEAMS」の欧文字を書してなり,平成16年10月4日に商標登録出願され,別紙引用商標指定役務目録1に記載の役務を指定役務とし,商標権者を原告として,平成17年3月25日に設定登録されたもの(甲2の1・2)
イ 引用商標2(登録第4166104号)
「BEAMS」の欧文字を書してなり,平成8年10月4日に商標登録出願され,別紙引用商標指定役務目録2に記載の役務を指定役務とし,商標権者を原告として,平成10年7月10日に設定登録されたもの(甲3の1・2)
ウ 引用商標3(登録第4849985号)
「ビームス」の片仮名を書してなり,平成16年10月4日に商標登録出願され,別紙引用商標指定役務目録1に記載の役務を指定役務とし,商標権者を原告として,平成17年3月25日に設定登録されたもの(甲4の1・2)
エ 引用商標4(登録第4166103号)
「ビームス」の片仮名を書してなり,平成8年10月4日に商標登録出願され,別紙引用商標指定役務目録2に記載の役務を指定役務とし,商標権者を原告として,平成10年7月10日に設定登録されたもの(甲5の1・2)
4 取消事由
商標法4条1項11号に係る認定判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1 本件審決は,本件商標のうち,「片方を尖らせた楕円様の青色の輪郭線を左右に2つずつバランスよく組み合わせ,その内の3つに若草色を施した構成からなる図形」部分(以下「本件図形部分」という。)について,軸線を中心に左右に同程度の広がりをもって全体が植物の複葉の葉を表したような図形であり,その一部に確かに「B」の文字様の特徴を有する部分があるとしても,当該部分以外の部分も顕著に表され,捨象して認識されるとはいえず,全体として「B」の文字を印象付けるものとはいうことができないとした上で,本件商標が植物の葉を表した本件図形部分と文字部分とからなるものと把握され,「eams」の文字部分から「イームス」の称呼のみを生じ,当該文字が何らの意味を有するものではないから,格別の観念も生じないとの判断を前提として,本件商標が引用商標とは類似しないとする。
2 しかしながら,被告は,ホームページにおいて,本件商標の構成について「筆記調の文字に合わせた「B」の部分に特徴的なデザインをまとわせ」と紹介して,本件図形部分が特徴的なデザインの「B」であると印象付けようとしており,その後の「eams」の文字に結合させて「Beams(ビームス)」と称呼・観念させようとしていることが明らかである。
また,被告は,ホームページにおいて,その会社名が「ビームス・デザイン・コンサルタント」又は「Beams Design Consultant Co.,ltd」であることを取引者,需要者に広告・宣伝し,被告の名称が「Beasm(ビームス)」であることを印象付けようとしていることが明らかである。
さらに,被告は,ホームページに求人広告を掲載するに当たり,自社を「Beams」と記載するとともに本件商標を使用しており,本件商標をもって被告を表す商標として印象付けようとしている。
しかるところ,本件審決は,これらの証拠を考慮しておらず,本件図形部分に関する前記認定は,誤りである。
3 むしろ,本件図形部分のうち左辺の部分は,右辺の「B」の図形とは隔離し,分離・独立して鏡像又は影のように認識されるものであるから,捨象して判断されるべきものであって,本件図形部分は,欧文字「B」を図案化したものである。
そして,本件商標は,欧文字「B」を図案化した本件図形部分と「eams」との文字が結合して「Beams」と構成された結合商標であるのに対し,引用商標1及び2は,大文字で「BEAMS」と構成されており,このうち「EAMS」が小文字の「eams」に外観上類似していることは,容易に想到できるから,本件商標と引用商標1及び2とは,外観が類似している。
次に,本件商標は,本件図形部分と文字部分とにより「Beams」と構成された商標であるから,「ビームス」との称呼を生じさせるのに対し,引用商標は,いずれも「ビームス」との称呼を生じさせることが明らかであるから,本件商標と引用商標とは,称呼が同一である。
そして,本件商標と引用商標とは,その構成から,いずれも「梁」又は「光線」の意味を生じさせるから,観念が同一である。
さらに,本件商標の指定役務は,引用商標の指定役務を含むものである。
4 なお,被告の前記ホームページの記載によれば,通常の注意力を有する取引者,需要者は,本件商標をもって「Beams」又は「ビームス」と称呼・観念されて取引に供されていると解釈するのが自然であり,通常の注意力を有する取引者等が本件商標をもって,例えば「eams」又は「イームス」とのみ称呼・観念されている事実はない。
5 以上によれば,本件商標は,引用商標と類似するものであって,商標法4条1項11号に該当するものであるから,同法46条1項1号の規定により無効とすべきものであって,これに反する本件審決は,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
1 商標の類否判断は,商標が使用される商品又は役務の主たる需要者その他商品又は役務の取引の実情を考慮し,需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならないのであり,本件商標からいかなる称呼が生じるかは,被告の思いと無関係に判断されるものである。したがって,被告のホームページの記載がどのようなものであれ,それは,被告が記載したものであり,取引者,需要者が本件商標の称呼をどう特定するかは,取引者,需要者の判断に委ねられるべきである。
また,商標に含まれる図形からどのような文字が認識・理解・想起・連想されるかは,その図形の図案化の程度に依存して変化する。そして,本件図形部分から欧文字「B」の図形が認識されるか否かは,当事者である原告及び被告の意図ないし主観に基づいて決せられるべきではなく,その称呼の特定は,取引者,需要者の判断に委ねられるべきである。本件図形部分からその一部分を自己の解釈上都合よく分離し捨象するのは,本件商標が原告の登録商標である引用商標と同一に違いないという誤った先入観に基づくものである。
2 本件商標は,左側に青色の輪郭線を有する本件図形部分を配し,これに密着させるように右側に青色の輪郭線と同色,同程度の太さをもって「eams」の欧文字を筆記体にて表した構成よりなり,これにより本件商標全体が青色で彩色されたまとまりある一体的な印象を与えるものである。
そして,本件図形は,その輪郭内の4箇所のうち3箇所を若草色に配してなるとともに植物の葉の特徴を思わせる左右対称のごとき形状を有しているため,これに接する取引者,需要者に一見して植物の葉を想起させるものである。
仮に,本件図形部分が欧文字の「B」を表す構成であるとしても,「B」を極端に変更・図案化したものであって,これに接する取引者,需要者が一見して直ちに欧文字「B」を表すとは認識できない。
他方,引用商標は,「BEAMS」又は「ビームス」の文字からなるものである。
したがって,本件商標と引用商標とでは,構成上顕著な差異を有し,外観において相紛れるおそれがない。
3 本件商標及び本件図形部分の外観は,前記のとおりであるところ,仮に,本件図形部分の中に「B」の文字様の特徴を有する部分があるとしても,本件図形部分は,軸線を中心に左右に同程度の広がりを持って全体が植物の複葉の葉を表したような図形であって,一体的な特徴が認められるから,その中から一部分を分離し捨象して認識できるものではない。
したがって,本件商標から通常の注意力を有する取引者,需要者が称呼・観念する文字部分は,せいぜい「イームス」ないし「eams」であることが明らかである。
他方,引用商標は,その構成文字に応じて「ビームス」の称呼が生じるものである。
そして,「イームス」(本件商標)と「ビームス」(引用商標)とでは,第2音ないし第4音を共通にするが,いずれも短い4音構成からなり,称呼の識別上重要な位置を占める語頭において,「イ」と「ビ」の音の差異を有し,十分に識別できるものである。
したがって,本件商標と引用商標とでは,称呼においても相紛れるおそれはなく,類似するものではない。
4 本件図形部分は,植物の葉を想起させるものであるが,「eams」の部分自体は,特定の観念を想起させるものではなく,また,本件商標全体からも,特定の観念が生じるとはいえない。
他方,引用商標は,いずれも我が国において「梁」又は「光線」などの意味を有する英語又は外来語としてよく知られているものである。
したがって,本件商標と引用商標とは,観念においても相紛れるおそれはなく,類似するものではない。
5 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からも相紛れるおそれがない非類似の商標であることが明らかであって,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした本件審決の認定判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1 商標の類否の判断基準について
商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)。
2 取消事由(商標法4条1項11号に係る認定判断の誤り)について
(1) 本件商標について
ア 本件商標は,片方を尖らせた楕円様の青色の輪郭線を左右に2つずつバランスよく組み合わせ,その内の3つに若草色を施した構成からなる図形部分(本件図形部分)の右側に接着して,本件図形部分の下半分を占める高さで,「eams」との欧文字を青色の筆記体で横書きして配置した構成からなるものである。
イ 本件商標のうち,本件図形部分は,それ自体に着目した場合,これが文字であるとは直ちにいえず,例えば単に植物の葉を図案化したものとみることも可能である。したがって,このように本件図形部分を植物の葉等の何らかの物体を図案化したものと把握した場合,本件商標からは,文字部分に対応する「イームス」又は「イーエーエムエス」との称呼が生じるほか,当該文字部分に対応する英語又は日本語は,直ちに想起し難いから,特定の観念が生じないとみる余地も,ないではない。
しかしながら,英語では固有名詞を書き表す際などに頭文字のみを大文字で書く場合があることは,我が国でも周知であるところ,本件商標の上記文字部分は,いずれも欧文字の小文字で書かれており,本件図形部分の下半分を占める高さで本件図形部分に接着して配置されている。しかも,本件図形部分は,上記文字部分と接着する右側部分が,主に片方をとがらせた2つの楕円様の青色の輪郭線で構成され,その左側部分よりも大きく描かれ,かつ,左側部分とはわずかに離れて配置されているばかりか,本件図形部分の輪郭線及び当該文字部分は,いずれも同じ青色で構成されている。
以上のような本件図形部分と文字部分(「eams」)との配置関係や本件図形部分の構成及び配色に照らすと,本件図形部分は,当該文字部分と一連一体となって,「Beams」という「梁」又は「光線」を意味するものとして我が国でも周知の英単語を書き表すために,欧文字の大文字である「B」を筆記体ふうに図案化したものであるとみることができる。したがって,このように本件図形部分を欧文字の大文字である「B」を図案化したものと把握した場合,本件商標からは,「ビームス」との称呼が生じるほか,その英語の意味に従い,「梁」又は「光線」との観念が想起されるというべきである。
ウ 以上によれば,本件商標からは,「イームス」又は「イーエーエムエス」との称呼が生じ,特定の観念が生じないとみる余地もあるが,同時に,「ビームス」との称呼が生じ,「梁」又は「光線」との観念が想起されるものと認められる。
(2) 引用商標について
引用商標は,前記第2の3アないしエに記載のとおりのものであるところ,これらからは,いずれも「ビームス」との称呼が生じ,「梁」又は「光線」との観念が想起されることが明らかである。
(3) 本件商標と引用商標との類否判断について
ア 以上を基に本件商標と引用商標との類否を検討すると,まず,本件商標と引用商標3及び4とでは,外観を異にすることが明らかであり,本件商標と引用商標1及び2とでは,いずれも欧文字で「Beams」又は「BEAMS」と記載されている点で共通するものの,文字の大小,その書体及び図案化の程度がいずれも異なっていることから,外観がかなりの程度異なるということができる。
他方で,本件商標と引用商標とでは,いずれも「ビームス」との称呼が生じ,「梁」又は「光線」との観念が想起されることで一致している。
イ 引用商標の指定役務は,別紙引用商標指定役務目録1及び2に記載のとおりであるところ,これらのうち,引用商標1及び3に関する同目録1に記載の第37類「建築工事に関する助言」は,本件商標の指定役務である第37類「建築物・土木構造物の工事監理」と,同一又は類似のものである。
また,引用商標2及び4に関する同目録2に記載の第42類「建築物の設計」及び「測量」は,本件商標の指定役務である第42類「建築物・土木構造物の設計」と,同目録2に記載の第42類「建築又は都市計画に関する研究」及び「土木に関する試験又は研究」は,本件商標の指定役務である第42類「建築物・土木構造物の耐震性調査及び診断」と,同目録2に記載の第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」は,本件商標の指定役務である第42類「電子計算機のプログラムの設計及び開発」と,いずれも同一又は類似のものである。
ウ 以上のとおり,本件商標の指定役務は,いずれも引用商標の指定役務と同一又は類似のものであるが,本件全証拠によっても,これらの役務に係る取引に当たり,取引者,需要者が本件商標及び引用商標から出所の異同を識別できる実情があるとは認められない。
(4) 被告の主張について
被告は,本件図形部分に接する取引者,需要者が一見して直ちに欧文字「B」を表すとは認識できず,また,一体的な特徴を有する本件図形部分から一部分を分離し捨象して認識できるものではないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件図形部分と文字部分(「eams」)との配置関係や本件図形部分の構成及び配色に照らすと,本件図形部分は,当該文字部分と一連一体となって,「Beams」という英単語を書き表すために,欧文字の大文字である「B」を図案化したものであるとみることもできるのであって,これに反する被告の上記主張は,採用できない。
(5) 小括
以上のとおり,引用商標は,いずれも本件商標の商標登録出願日前に商標登録出願がされた原告の登録商標であるところ,本件商標と引用商標とは,その称呼及び観念が一致し,指定役務も同一又は類似するものであって,当該指定役務に係る取引に当たり,取引者,需要者が本件商標及び引用商標から出所の異同を識別できる実情があるとは認められないから,本件商標は,引用商標に類似する商標であって,引用商標の指定役務又はこれに類似する役務について使用するものであるというべきである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に違反して登録されたものであって,本件審決は,その認定判断を誤るものである。
3 結論
以上の次第であって,原告主張の取消事由には理由があるから,本件審決は,取り消されるべきものである。
(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 井上泰人 裁判官 荒井章光)
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