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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10338号 判決 2013年3月25日

原告

株式会社ノバレーゼ

訴訟代理人弁理士

橘和之

被告

常磐興産株式会社

訴訟代理人弁護士

工藤舜達

前川紀光

訴訟代理人弁理士

清水千春

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2012-890028号事件について平成24年8月21日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は,登録商標を,上段に片仮名の「モノリスタワー」,下段に欧文字の「Monolith Tower」を横書きした商標(以下「本件商標」という。)とし,指定役務を第43類「宿泊施設の提供,飲食物の提供,会議・集会のための施設の提供」及び第44類「入浴施設の提供」とする,商標登録第5402293号に係る商標権(平成22年9月30日登録出願,平成23年4月1日設定登録。)の商標権者である(甲1)。

原告は,平成24年3月9日,本件商標の指定役務中,第43類「宿泊施設の提供,飲食物の提供,会議・集会のための施設の提供」につき無効審判(無効2012-890028号事件)を請求し,同年8月21日,請求不成立の審決がされ,その謄本は同月30日,原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,要するに,本件商標は,商標登録第5059090号(平成18年10月19日登録出願,平成19年6月29日設定登録)に係る欧文字の「MONOLITH」を横書きした登録商標(以下「引用商標」という。)と,外観,称呼及び観念のいずれの点においても非類似であるから,商標法4条1項11号に該当しないとするものである。

第3取消事由に関する当事者の主張

1  原告の主張

(1)  審決は,本件商標は,上段,下段の各文字部分がそれぞれ一体不可分のものであると判断するが,この判断には誤りがある。

ア 一般に,「親しまれた語」と「親しまれていない語」との組合せからなる商標において,「親しまれた語」は自他役務の識別力がないか極めて弱いのに対し,「親しまれていない語」は需要者の注意を引き,役務の出所表示機能が強いといえる。本件商標は,親しまれていない語である「モノリス」及び「Monolith」の部分が需要者の注意を引く部分であり,「モノリス」及び「Monolith」の部分から「モノリス」という名称の建物であると認識,理解される。したがって,本件商標は「モノリス」の称呼を生じ,引用商標と類似する。

「東京タワー」や「横浜マリンタワー」が「東京」や「横浜マリン」と略称されないのは,いずれも親しまれた語と親しまれた語との結合に係る名称であり,「東京」や「横浜マリン」では識別力が発揮できないのと同様である。

イ 「Monolith」の部分と「Tower」の部分との間にはスペースがあり,各部分は最初の文字のみが大文字で,他は小文字で表記されている。したがって,本件商標は,外観的にも前半部と後半部とを分離して観察することができるのであって,各部分を分離して観察することが取引上不自然であるといえるほど,不可分に結合しているものではない。

ウ 商標を構成する語において,指定商品等と密接に関連するものを意味する語は,指定商品等との関係で識別力がない。本件商標において,「タワー」及び「Tower」の部分は,指定役務との関係で,役務の質(内容)を直接的に表示するものではない。しかし,指定役務の提供を受ける者の利用する施設(建物)の形状を示す語であるから,指定役務と密接に関連するものを意味する一般的・普遍的な文字であり,識別力はない。

(2)  以上のとおり,本件商標は,「モノリス」及び「Monolith」の部分が需要者の注意を引く部分であり,この部分と引用商標とを対比すると,本件商標は引用商標に類似する。したがって,本件商標は商標法4条1項11号に該当する。

2  被告の反論

親しまれた語あるいは親しまれていない語の組合せからなる商標において,「○○○タワー(Tower)」が,建造物の名称に使用された場合には,「タワー/Tower」の語は,常に結合された「○○○」の語に従属するため,建造物の名称として理解・認識されるのであって,よほど冗長な名称でない限り,一連一体に称呼される。本件商標の「モノリスタワー」の称呼は,冗長な名称ではないから,一連一体に称呼される。

また,「タワー」及び「Tower」の語は,指定役務との関係で,その役務の質(内容)を直接的に表示するものではない。

本件商標は,全体として「モノリスタワー」という建造物の名称としての観念を生じさせるものであるから,「タワー」及び「Tower」の部分のみが分離され,この部分に識別力がないということはできない。

したがって,本件商標は,上段,下段の各部分がそれぞれ一体不可分なものである。

原告は,「タワー/Tower」の語は,親しまれている語であって,識別力がないか極めて弱く,結合する「タワー/Tower」以外の単語にのみ識別力が発揮されると主張する。しかし,同じ役務で「○○○タワー」の結合商標と「○○○」の語のみとが重複して登録されている事例は少なからず存在し,原告の主張によると,これらが登録された理由が説明できない。

第4当裁判所の判断

1  本件商標と引用商標との類否の判断の方法について

商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最三小判昭和43年2月27日・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最一小判昭和38年12月5日・民集17巻12号1621頁,最二小判平成5年9月10日・民集47巻7号5009頁参照)。

上記の観点から,本件商標と引用商標の類否について検討する。

2  本件商標の外観,称呼,観念

本件商標は,上段に片仮名の「モノリスタワー」,下段に欧文字の「Monolith Tower」を,横書きに2段に表記した商標である。本件商標中の片仮名「モノリスタワー」は,同じ大きさ及び同じ間隔で,標準文字により表記されている。本件商標中の欧文字「Monolith Tower」は,「Monolith」部分と「Tower」部分の,それぞれ先頭の文字が大文字,その他の文字が小文字で表記され,各部分の間には,空隙がある。本件商標は,上記のとおりの外観を呈している。

本件商標は「モノリス」及び「Monolith」の部分と「タワー」及び「Tower」の部分を結合させた商標である。

本件商標からは,「モノリスタワー」の称呼を生じる。

本件商標のうち「モノリス」及び「Monolith」は,「特に建築・彫刻用の一枚岩,一本石」などを意味する英語であるが,一般に親しまれた語ではないことから,特定の観念を生じない。また,本件商標のうち「タワー」及び「Tower」は,「塔」ないし「搭状の造形物」の意味を有する語である。

そうすると,本件商標から,「モノリス」との名称の「塔」ないし「搭状の造形物」との観念を生じる。

3  引用商標の外観,称呼,観念

引用商標は,欧文字の大文字の「MONOLITH」を横書きしたものであり,上記の外観を呈している。

引用商標からは「モノリス」の称呼を生じる。また,「MONOLITH」は「特に建築・彫刻用の一枚岩,一本石」などを意味する英語であるが,一般に親しまれた語ではないことから,特定の観念を生じない。

4  類否の判断

(1)  判断

本件商標のうち「タワー」の部分は,本件における商標登録の無効審判請求の対象とされている指定役務「宿泊施設の提供,飲食物の提供,会議・集会のための施設の提供」との関係では,直接的な意味を有するものでない。また,「モノリス」及び「Monolith」の部分が,取引者,需要者にとって,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる証拠もない。さらに,片仮名の「モノリスタワー」は,同じ大きさ及び同じ間隔で,標準文字により表記されていること,「モノリスタワー」や「Monolith Tower」の称呼は「モノリスタワー」と6音で短いことからすると,取引者や需要者は,本件商標における「モノリスタワー」や「Monolith Tower」を一連一体のものと認識するといえる。

そうすると,本件商標が上記指定役務に使用された場合,その出所識別機能を有する部分は,「モノリス」及び「Monolith」のみに限られるものではなく,「タワー」及び「Tower」の部分を含めた全体であるというべきである。

以上によると,本件商標と引用商標との類否の判断をするに当たっては,「モノリスタワー」及び「Monolith Tower」のそれぞれと引用商標とを対比すべきである。

「モノリスタワー」及び「Monolith Tower」のそれぞれと引用商標とを対比すると,上記のとおり,外観,称呼,観念のいずれにおいても相違し,本件商標は,引用商標とは類似しない。したがって,本件商標は商標法4条1項11号に該当しない。

(2)  原告の主張に対して

原告は,一般に,「親しまれた語」と「親しまれていない語」との組合せからなる商標においては,「親しまれた語」は自他役務の識別力がないか極めて弱いが,「親しまれていない語」は需要者の注意を引き,役務の出所表示として,強く機能するとして,本件商標のうち需要者の注意を引く部分は,「モノリス」及び「Monolith」の部分のみであると主張する。

しかし,結合商標等を構成する部分が「親しまれた語」であったとしても,指定商品又は指定役務の品質(質)や用途等との関連性を欠く場合には,「親しまれた語」は,格別,自他役務等の識別力がないか又は極めて弱いとはいえない。したがって,原告の主張は,主張自体失当である。

5  結論

以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,審決には,これを取り消すべき違法はない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)

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