知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10362号 判決 2013年6月27日
原告
エヴァーライト エレクトロニクス カンパニー リミテッド
同訴訟代理人弁護士
黒田健二
同
吉村誠
被告
日亜化学工業株式会社
同訴訟代理人弁護士
古城春実
同
宮原正志
同
牧野知彦
同
高橋綾
同訴訟代理人弁理士
鮫島睦
同
言上惠一
同
山尾憲人
同
田村啓
同
玄番佐奈恵
主文
1 特許庁が無効2011-800159号事件について平成24年6月12日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした本件審決の取消しを求める事案である。
1 本件訴訟に至る手続の経緯
(1) 被告は,平成21年3月18日,名称を「発光ダイオード」とする発明について原出願日を平成9年7月29日としてした特許出願(特願平10-508693号。国内優先権主張日:平成8年7月29日,同年9月17日,同月18日,同年12月27日及び平成9年3月31日。以下「最初の原出願」という。)について分割出願(特願2009-65948号。以下「本件出願」という。)をし,平成22年6月18日,設定の登録(特許第4530094号)を受けた(甲22。請求項の数4。以下,この特許を「本件特許」という。)。
なお,被告は,最初の原出願について,平成14年9月24日(第1世代分割出願。特願2002-278066号),平成17年5月19日(第2世代分割出願。特願2005-147093号),平成18年7月19日(第3世代分割出願。特願2006-196344号),平成20年1月7日(第4世代分割出願。特願2008-00269号。以下,この第4世代分割出願を,単に「原出願」という。)にそれぞれ分割出願をしたが,本件特許は,原出願後に,第5世代として分割出願(本件出願)した発明に対して設定登録を受けたものである。
(2) 原告は,平成23年9月5日,本件特許に係る発明の請求項1について特許法29条2項の進歩性欠如並びに請求項1ないし4の全てについて平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「法」という。)36条4項の実施可能要件違反及び同条6項1号のサポート要件違反を理由として,特許無効審判を請求し,無効2011-800159号事件として係属した。
(3) 特許庁は,平成24年6月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の本件審決をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。
本件審決が本件審判の請求は成り立たないとした本件特許の特許請求の範囲の記載は,別紙1のとおりである(以下,請求項1ないし4記載の各発明を併せて「本件発明」という。)。
(4) 原告は,平成24年10月18日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 訂正審判の確定
被告は,本件訴訟係属中の平成24年12月17日,特許請求の範囲1及び2並びに明細書を訂正する審判を請求し,訂正2012-390168号として係属した(乙2の1。以下「本件訂正」という。)。
特許庁は,平成25年2月28日,本件訂正をすることを認める旨の審決をし,同審決は確定した(乙8)
本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,別紙2のとおりであり,下線部がその訂正部分である。
第3当事者の主張
〔被告の主張〕
本件特許を維持する本件審決の取消訴訟の係属中に,本件特許について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定したのであるから,本件審決は,取り消されなければならない。
〔原告の主張〕
本件訂正前の本件発明は原出願の明細書には記載されていないため,本件出願は分割要件違反であり,本件訂正前の本件発明は原出願日ではなく本件出願日を基準に新規性を判断すべきこととなる。そうすると,本件訂正前の本件発明は,原出願の公開公報に記載された発明であるから,特許法29条1項3号により新規性を欠くこととなり特許を受けることができないものであって,本件訂正は独立特許要件を充足しない。したがって,本件訂正審決は違法なものであって,本件訂正も違法であるから,本件訴訟は,違法な訂正審決を前提とすることなく,続行して審理すべきである。
第4当裁判所の判断
1 本件審決は,本件訂正前の特許請求の範囲請求項1ないし4の記載に基づいて各請求項に係る発明を認定し,これを前提に特許法29条2項,法36条4項及び同条6項1号の各規定に違反して特許されたものということはできないと判断して,各請求項に係る発明についての特許を無効とすることはできないとしたものであるが,本件審決の取消しを求める本件訴訟の係属中に,特許請求の範囲の減縮を含む本件訂正に係る審判が請求され,特許庁は本件訂正を認める審決をし,これが確定しているものである。
そうすると,本件審決は,結果として,請求項1ないし4について判断の対象となるべき発明の要旨の認定を誤ったこととなり,この誤りが各請求項についての審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 この点,原告は,本件訂正前の本件発明は原出願の明細書には記載されていないため,本件出願は分割要件違反であり,本件訂正前の本件発明は原出願日ではなく本件出願日を基準に新規性を判断すべきこととなるが,そうすると,本件訂正前の本件発明は,原出願の公開公報に記載された発明であるから,特許法29条1項3号により新規性を欠き特許を受けることができないものであって,本件訂正は独立特許要件を充足しないとして,本件訂正審決は違法であり,本件訂正も違法であるから,本件訴訟は,違法な訂正審決を前提とすることなく,続行して審理すべきである旨主張する。
しかしながら,特許無効審判の審決に対する取消しの訴えにおいてその判断の違法が争われる場合には,専ら当該審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきものである。
本件においては,前記第2の1(2)のとおり,原告は,本件発明の請求項1について特許法29条2項の進歩性欠如並びに請求項1ないし4について法36条4項の実施可能要件違反及び同条6項1号のサポート要件違反を理由として,特許無効審判を請求し,無効審判手続においても,上記無効原因のみが現実に争われ,審理判断されたのであって,本件出願が原出願との関係で分割要件を充足するか及び本件特許が原出願の公開公報との関係で新規性を欠くかについては,本件審決の無効審判手続では何ら審理判断の対象とされていない以上,本件審決の取消しの訴えにおいて,これについて裁判所の判断を求めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 結論
よって,本件審決は取り消されるべきものである。
(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 田中芳樹 裁判官 荒井章光)
file_2.jpg別紙