大判例

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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10395号 判決 2013年4月26日

原         告

アイリスオーヤマ株式会社

訴訟代理人弁護士

髙橋淳

同      弁理士

大渕美千栄

布施行夫

被         告

株式会社ヤマヒサ

訴訟代理人弁護士

上原健嗣

上原理子

同      弁理士

倉内義朗

宇治美知子

池村正幸

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1請求

特許庁が無効2012-800005号事件について平成24年10月5日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は,発明の名称を「犬のトイレ仕付け用サークル」とする特許第4616162号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。

本件特許は,平成17年12月9日に出願され,平成22年10月29日に設定登録された。

原告は,平成24年1月26日付けで本件特許の請求項1,2に係る発明の特許につき無効審判を請求し,被告は,同年4月16日付けで訂正請求をした。

特許庁は,上記無効審判請求について無効2012-800005号事件として審理し,平成24年10月5日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,同月15日,原告に審決謄本が送達された。

2  平成24年4月16日付け訂正請求に係る特許請求の範囲の記載

「【請求項1】

複数のパネルが連結されたサークル本体の内部で,収容した犬のトイレの仕付けを行う犬用サークルにおいて,

前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,

前記中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されていることを特徴とする犬のトイレ仕付け用サークル。

【請求項2】

請求項1に記載の犬のトイレ仕付け用サークルにおいて。

前記仕切出入口の開放時および閉鎖時にそれぞれ仕切扉を係止する仕切出入口ロック手段が設けられたことを特徴とする犬のトイレ仕付け用サークル。」(以下,【請求項1】,【請求項2】に係る発明を,それぞれ「訂正発明1」,「訂正発明2」という。また,上記訂正請求により訂正された本件特許に係る明細書を「本件明細書」といい,図面と併せて「本件明細書等」という。)

3  審決の理由

別添審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。

なお,請求人(原告)が審判手続において提出した証拠方法は,以下のとおりである。

甲1:杉浦基之監修,「赤ちゃん犬のしつけと育て方」2001年(平成13年)6月22日2刷発行,株式会社主婦と生活社,50,51頁

甲2:実用新案登録第3059475号公報

甲3:特開2003-23904号公報

甲4:大友藤夫,小方宗次監修,「06.07年版 犬の医・食・住」2005年(平成17年)11月29日発行,株式会社どうぶつ出版,114,190,191頁

甲5:特許第3370834号公報

甲6:特許第3409167号公報

甲7:実用新案登録第3059420号公報

甲8:特開昭62-294018号公報

甲9:三村雅文,12to12,畠山孝雄編集,「うさぎパラダイス」1999年(平成11年)2月15日12刷発行,主婦と生活社,102,103頁

甲10:霍野晋吉著,「ハムスター・ウサギ・フェレットなどの飼い方」1996年(平成8年)11月20日発行,成美堂出版,82,83頁

甲11:斉藤久美子監修,「かわいい うさぎ」2004年(平成16年)4月20日発行,株式会社西東社,78頁

甲12:斉藤久美子監修,「かわいい うさぎ」2004年(平成16年)4月20日発行,株式会社西東社,104,105頁

甲13:杉浦基之監修,「赤ちゃん犬のしつけと育て方」2001年(平成13年)6月22日2刷発行,株式会社主婦と生活社,68,69頁

(1)  訂正発明1は,甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)を主引例として,甲1~8に記載された発明,又は甲1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)  訂正発明1は,甲3に記載された発明(以下「甲3発明」という。)を主引例として,甲1~8に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)  上記のとおり,訂正発明1は当業者が容易に発明をすることができたものでないから,訂正発明1を引用し,更に「仕切出入口の開放時および閉鎖時にそれぞれ仕切扉を係止する仕切出入口ロック手段」との構成を有する訂正発明2は,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)  審決が認定した甲1発明,甲3発明,訂正発明1と甲1発明,甲3発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

ア(ア) 甲1発明

「ベッドとトイレを有し,トイレをしつけるための犬用のサークルであって,

人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別し,

犬がベッドとトイレを自由に行き来できるスペースが開けてある

犬用のサークル」

(イ) 訂正発明1と甲1発明との一致点

「サークル本体の内部で,収容した犬のトイレの仕付けを行う犬用サークルにおいて,

前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,

前記中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されることを特徴とする犬のトイレ仕付け用サークル。」

(ウ) 訂正発明1と甲1発明との相違点

「<相違点1>

サークル本体が,訂正発明1では「複数のパネルが連結された」ものであるのに対し,甲1発明ではそのようなものであるかは明らかでない点。

<相違点2>

訂正発明1が,「仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」のに対し,甲1発明には扉が認められない点。」

イ(ア) 甲3発明

「トイレのしつけを行う犬用サークルであって,

床面はA居住エリアとBトイレエリアと2つに分かれており,

3脱着可能な仕切りでA居住エリアとBトイレエリアとの間は仕切られており,

平常時に3脱着可能な仕切りは取り外しておき,

犬の排泄のタイミングに犬をBトイレエリアに入れ,3脱着可能な仕切りをスライド装着する,

ドッグサークル型トイレしつけ機」

(イ) 訂正発明1と甲3発明との一致点

「サークル本体の内部で,収容した犬のトイレの仕付けを行う犬用サークルにおいて,

前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,

中仕切体において,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されていることを特徴とする犬のトイレ仕付け用サークル。」

(ウ) 訂正発明1と甲3発明との相違点

「<相違点3>

サークル本体が,訂正発明1では「複数のパネルが連結された」ものであるのに対し,甲3発明ではそのようなものであるかは明らかでない点。

<相違点4>

中仕切体において,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制される構成に関して,訂正発明1は,「中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来でし,き甲る3よ発う明には或,い「3は脱行き着可来能がな規仕制切さりれでるよA居う住にエ構リ成アさとれBてトいイるレ」エもリのアでのあ間るはの仕に切られており,平常時に3脱着可能な仕切りは取り外しておき,犬の排泄のタイミングに犬をBトイレエリアに入れ,3脱着可能な仕切りをスライド装着する」ものである点。」

第3当事者の主張

1  取消事由に関する原告の主張

審決は,訂正発明1と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の判断を誤り(取消事由1),訂正発明1と甲3発明との相違点4に係る容易想到性の判断を誤った(取消事由2)ものであり,審決の結論に影響を及ぼすから,違法として取り消されるべきである。

(1)  訂正発明1と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1)

ア 相違点2の認定の誤り

審決が相違点2として摘示した点のうち,「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」という部分は,「仕切出入口が開口された中仕切体」による効果であるところ,これは甲1発明も「仕切出入口が開口された中仕切体」を備えているから,訂正発明1と甲1発明との相違点ではない。

したがって,審決の相違点2の認定は誤りである。

イ 相違点2についての判断の誤り

(ア) 甲1の示唆

審決は,訂正発明1の「扉」の用途及び機能が犬のトイレの仕付けに関するものであることを理由として,甲1発明に人間の寝室とトイレの構造を適用することは容易ではないと判断した。

しかし,相違点2は,開口部を有する「仕切」における「扉」の有無であるところ,甲1発明に対する人間の寝室とトイレの構造の適用を検討するに際して,「扉」の用途及び機能を重視することは誤りである。すなわち,人間の住居は,寝室とトイレが区画されており,そこには単に仕切りがあるだけではなく,その出入りを容易にするために「扉」があるのが通例であるから,「人間の寝室のように」という記載に接した当業者が,甲1発明の「仕切」に「扉」を付けることを想到することはむしろ当然であり,審決の指摘する「扉」の用途及び機能の相違は,人間と犬の性質の相違に由来する当然のことにすぎない。審決は,これらの相違が,甲1発明の「仕切」に対し「扉」を付けることを想到することの妨げになることを何ら論証していない。

(イ) 甲2の適用

審決は,甲2の適用に関し,①「巣穴にもぐる習性を有した動物用の特殊な構造をしたペット飼育容器の構成を,犬用のサークルである甲1発明に適用することが当業者にとって容易であるとはいえない」(19頁16行~18行)と述べ,さらに,②訂正発明1は,「犬が元のスペースに戻ることが抑制され,仕切扉を迅速かつ容易に閉鎖できる効果を有する」(同20行~21行)のに対し,「甲第2号証の開閉ドア7はトイレ躾の際にトイレに誘導して閉じるものではないから,当該効果を有するものを容易に想到することはできない」(同22行~23行)と判断した。

しかし,上記①については,前記のとおり,相違点2は,開口部を有する「仕切」における「扉」の有無であるところ,甲2に開示された開口部を有する「仕切」における「扉」自体は何ら特殊な構造ではないから,この点の審決の判断は誤りである。

また,上記②について,甲2が訂正発明1の効果を奏さないことを理由としているが,ここで問題となっているのは,新規性ではなく進歩性であるから,甲2が訂正発明1の効果を奏していないことはむしろ当然であり(甲2が訂正発明1の効果を奏するなら訂正発明1には新規性がないことになろう),これは容易想到性を否定する理由にならない。

発明の効果が進歩性を基礎づけ又は推認させるためには,当該効果が単に先行技術と異質のものであるだけでは足りず,その効果が当業者に予見不可能又は困難であることを要する。これを本件についてみると,仮に,訂正発明1の効果である「仕切扉を迅速かつ容易に閉鎖できる」ことが,甲号各証の効果と異質のものであるとしても,「扉」の閉鎖が迅速かつ容易にできることは,「扉」一般が有する通常の効果であり,訂正発明1のように仕切りに扉を設けた場合,このような効果が生じることは一般人であっても予見可能なもので,当業者は容易に予見可能であるから,この点は,訂正発明1の進歩性を推認させるものとはいえない。

(ウ) 甲3の適用

審決は,「甲第3号証の着脱可能な仕切りは扉ではないから,上記の効果を奏するものではない」(19頁24行~25行)としたが,副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を否定することは,判断枠組み自体誤りである。

また,審決のように「扉」の用途及び機能を重視するのであれば,甲3の着脱可能な仕切りは,出入口を開閉するという機能に着目すれば「扉」であり,さらに,犬のトイレの仕付けに関する用途を有するものであるから,この点を考慮しない審決の判断は誤りである。

(エ) 甲4~8の適用

審決は,「甲第4~8号証に記載されたものからは,訂正発明1の,「犬が住居スペースからトイレスペースに移動する際に,仕切り他の開口部以外は仕切られているため,犬が元のスペースに戻ることが抑制され,仕切扉を迅速かつ容易に閉鎖できる」効果を有するものを容易に想到することはできない」(20頁15行~19行)と判断したが,上記(ウ)と同様,副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を否定することは,判断枠組み自体誤りである。

(2)  訂正発明1と甲3発明との相違点4に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由2)

ア 相違点4の認定の誤り

審決は,訂正発明1と甲3発明との相違点4として,上記第2の3(4)イ(ウ)のとおり認定したが,訂正発明1は物の発明であるから,相違点も物の構造に着目すべきであるところ,この観点から検討すれば,訂正発明1と甲3発明との相違点は,訂正発明1の「仕切」には扉を設けているのに対し,甲3発明の「脱着可能な仕切」はそれ自体扉であるという点である。

仮に,甲3発明の「脱着可能な仕切」はそれ自体扉であるとまではいえないとしても,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無にすぎない。

したがって,審決は,相違点4の認定を誤っており,その誤った認定を前提とする容易想到性の判断が誤りであることは明らかである。

イ 相違点4についての判断の誤り

審決は,容易想到性の判断に関し,訂正発明1は,犬がトイレスペースに移動した場合に,唯一の出入口である仕切扉が閉鎖されているため,住居スペースに戻ることが抑制され,仕切扉を迅速かつ容易に閉鎖できる効果を有するとの判断を前提として,「<相違点2について>で示したのと同様の理由で,訂正発明1の相違点4に係る構成は容易になし得たものではない」(22頁22行~23行)と判断した。

審決のいう「<相違点2について>で示したのと同様の理由」の意味は定かではないが,甲3発明の「脱着可能な仕切」の「脱着可能」のための構成と「扉」とを置換することが,当業者に容易に想到できることであることは,訂正発明1の「仕切」に設けられた「扉」が有する機能と甲3発明の「脱着可能な仕切」の「仕切を脱着可能とする構成」が有する機能とが同一であることに加え,甲1,2,4~8において,仕切に対して「扉」を設けることが記載又は示唆されていることから明らかである。

(3)  補足主張

ア 審決は,結局のところ,「犬のトイレ仕付けのための扉」が開示された文献がないことを理由として,訂正発明1の容易想到性を否定した。

しかし,「犬のトイレ仕付けのための扉」が開示された文献の有無は,訂正発明1の新規性判断においてはともかく,容易想到性判断においては決め手にはならない。審決は,訂正発明1にいう「仕切扉」に「犬のトイレ仕付けのための扉」という用途又は機能を読み込み,特別な意味を持たせることによって,訂正発明1を用途発明と捉えた上で,強引に訂正発明1の容易想到性を否定したものである。

イ 用途発明の特殊性(その1)

(ア) 一般に,公知の物は,特許法29条1項各号に該当するから,特許の要件を欠くが,その例外として,①その物についての非公知の性質(属性)が発見,実証又は機序の解明等がされるなどし,②その性質(属性)を利用する方法(用途)が非公知又は非公然実施であり,③その性質(属性)を利用する方法(用途)が,産業上利用することができ,技術思想の創作としての高度なものと評価されるような場合には,同法2条3項2号の「方法の発明」として特許が成立し得るのみならず,同項1号の「物の発明」としても,特許が成立する余地がある。もっとも,物に関する「方法の発明」の実施は,当該方法の使用にのみ限られるのに対して,「物の発明」の実施は,その物の生産,使用,譲渡等,輸出若しくは輸入,譲渡の申出行為に及ぶ点において,広範かつ強力といえる点で相違する。このような点に鑑みるならば,物の性質の発見,実証,機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて,「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては,個々の発明ごとに,発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容,意義及び有用性,発明として保護した場合の第三者に与える影響,公益との調和等を個々的具体的に検討して,物に係る方法(用途)の発見等が,技術思想の創作として高度のものと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠となる。

(イ) 訂正発明1は,ペットサークルにおける居住空間とトイレ空間の間に仕切扉を設け,その仕切扉の開閉を「犬のトイレ仕付け」に利用するというものである。すなわち,訂正発明1は,仕切扉の利用方法について,排泄が近づけば仕切扉を開いて犬をトイレ空間に誘導する一方,排泄終了までは仕切扉を閉鎖して居住空間に犬が戻ることを防ぎ,排泄完了後に仕切扉を開いて犬を居住空間に誘導するという「犬のトイレ仕付け方法」を提案したことにある。しかし,仕切板自体の着脱(出入りを規制するという,機能的には「扉」と同視できる)を「犬のトイレ仕付け」に利用することは従来技術である(甲3)ところ,両者の相違は,「扉の開閉」と「板の着脱」の相違にすぎず,その有用性は,訂正発明1の方が多少便利になるというにすぎないから,このような犬のトイレ仕付けにおける「仕切扉の利用」というアイディアは,「仕切扉」の利用方法の単なる発見であって,技術思想の創作として高度のものと評価されるものとはいえない。

ウ 用途発明の特殊性(その2)

複数の先行発明の組合せによる発明(以下「組合せ発明」という。)について,組合せの容易性を判断する際に,審決のように,先行発明の技術要素について,訂正発明1の目的(訂正発明1に示された用途)のために利用されることが先行文献に記載又は示唆されていないことのみを理由として容易性を否定し,進歩性を肯定(容易想到性を否定)することは,誤りである。けだし,①容易想到性(進歩性)の判断は,主引例に副引例を適用することの動機づけとなり得るものがあるか否か,副引例の主引例に対する適用を阻害する事由があるか否かなどを総合的に考慮し,動機づけになり得るものがあるか否かは,技術分野の関連性,課題の共通性,作用機能の共通性,引用発明の内容中の示唆等を総合的に考慮して判断するべきものであるところ,審決は短絡的に結論を導いている点に誤りがある上,②審決の前記判断は,組合せ発明全般について容易想到性を否定する帰結に当然につながるおそれが極めて高いといえるからである。審決は,容易性の判断と想到性の判断とを混同しているといわざるを得ない。

審決のロジックに従えば,訂正発明1の特徴部分である「犬のトイレ仕付けのための扉」が記載されていない文献は,全て引例として利用できないことになり,結局,訂正発明1の進歩性を否定するためには,訂正発明1の特徴部分である「犬のトイレ仕付けのための扉」が記載されている文献を提示するほかないところ,そのような文献に記載の発明は,訂正発明1そのものであり,訂正発明1の新規性が否定されることになる。審決は,進歩性欠如という無効理由を事実上否定しているものであり,特許法の予定するところではない。

審決は,訂正発明1にいう「扉」を「犬用のペットサークルの扉であって,犬の仕付けに有用なもの」というように理解しているが,これは,訂正発明1の構成要素である「扉」の技術的意義を認定するに際し,「犬の出入りを規制する……」という他の構成要素を取り入れるものであって,後知恵の危険をおそれるあまり,本件発明の認定を誤ってしまった典型例である。けだし,訂正発明1にいう「扉」を審決のように理解するならば,そのような「扉」を示す文献は,訂正発明1の他の構成要素を開示しているはずであり,訂正発明1の新規性を否定するものとなるから,審決の理解は,進歩性判断と新規性判断とを混同するものというほかない。

2  被告の反論

原告主張の取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がない。

(1)  訂正発明1と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1)に対して

ア 相違点2の認定の誤りに対し

審決は,訂正発明1と甲1発明との相違点2として上記第2の3(4)ア(ウ)のとおり認定したが,原告は,この中から,「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」部分を抜き出して論じるものであり,失当である。

すなわち,訂正発明1の相違点2の構成としては,「仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,」以下に記載されている,「この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」(下線は被告において付加)部分を一連として論じるべきものであり,「この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」点が甲1発明に開示されていないことは明らかである。

原告は,「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」という部分は,「仕切出入口が開口された中仕切体」による効果であると主張するが,「仕切出入口が開口された中仕切体」とは,中仕切体に仕切出入口が単に開口されているだけであるから,これによる効果として,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来することはできても,行き来を規制することはできないのであり,犬の行き来を規制するためには,扉のような規制手段が必須である。

原告は,相違点は,開口部を有する「仕切」における「扉」の有無であると主張するが,相違点は,「仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」点,すなわち,仕切扉を人間の手で開閉して犬が自由に行き来することを規制することができるように構成されている点であって,単に「仕切」に「扉」が存在するか否かではない。

イ 相違点2についての判断の誤りに対し

(ア) 甲1の示唆に対し

審決は,単に訂正発明1の「扉」の用途及び機能が犬のトイレの仕付けに関するものであることを理由としているのではなく,甲1発明における「「人間の寝室のように」とは,単にベッドとトイレの間を板で仕切って区別することが人間の寝室とトイレの間の構造に似ていることを示しているだけ」(19頁1行~3行)であり,甲1発明には,犬用のサークルの仕切りに扉を設けること,ましてやトイレ仕付けのための扉を設けることは示されていないことを理由として,甲1発明に「人間の寝室とトイレの間の構造を用いることが容易であるとは認められない」(同5行~6行)としているのである。

原告は,甲1発明に人間の寝室とトイレの構造の適用を検討するに際して,「扉」の用途及び機能を重視することは誤りであると主張するが,審決が,同検討に際して,「扉」の用途及び機能を重視したものではないことは,上記のとおりである。

また,原告は,人間の住居は「扉」があるのが通例であるから,「人間の寝室のように」という記載に接した当業者が,甲1発明の「仕切」に「扉」を付けることを想到することは当然であると主張するが,甲1における「人間の寝室のように」の記載は,「3 トイレとベッドを置いてサークルを囲う」という項目の説明として記載されている事項であり,ここには,「新聞紙を敷き,……ベッドになるものを置きます。ベッドは赤ちゃん犬の体の1.5倍前後が適当な大きさ。雑誌や木をベッドの下にあてがって床よりも5cmくらい高くすると,ベッドとトイレがより明確に区別できます。人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別するのもよい方法です。この場合,赤ちゃん犬がふたつの部屋を自由に行き来できるスペースを開けておきます」(甲1の51頁。下線は被告において付加)と記載されている。このように,「人間の寝室のように」という記載は,「雑誌や木をベッドの下にあてがって床よりも5cmくらい高くすると,ベッドとトイレがより明確に区別できます」という記載を受けて,ベッドとトイレを区別する方法として,高低差を付ける方法以外にも,「人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別する」方法があることを示唆しているだけである。

したがって,甲1の「人間の寝室のように」という記載に接した当業者は,ベッドとトイレの間を区別する方法として,人間の寝室のように板で仕切って区別することを想到するにとどまり,区別するための板に扉を設け,犬のトイレの仕付けに利用することに容易に想到するということはできない。

(イ) 甲2の適用に対し

甲2は,「ウサギのように巣穴にもぐる習性のあるペットを飼育するのに適したペット飼育容器に関する」(4頁)考案であり,甲2に開示された「扉」は,第1の飼育室と第2の飼育室の間の「壁部」に設けられた「開閉ドア」を意味していると考えられるところ,この開閉ドアは,トイレの「躾」が完了するまでは常時閉鎖しておき,「躾」が完了すれば,その後に常時開放するものであって,このドアの開閉によってトイレの「躾」を行うものではない。

さらに,この開閉ドアは,甲2の【図3】(別紙参照)及び明細書の【0018】に記載されているとおり,「開口部37は,ウサギの大きさに合わせた半円状に形成され,同じく半円状の開閉ドア7によって開閉されるようになっている。図3に示すように開閉ドア7は,壁部35に固定した枢軸53によってその中央部が支持され,この枢軸53の周りを回転するように構成されている」ものであり,ウサギの大きさや習性を考慮して設計されたものであって,極めて特殊な構造を有しているものである。

原告は,甲2が訂正発明1の効果を奏していないことはむしろ当然であり,これは容易想到性を否定する理由にならないと主張するが,審決は,訂正発明1及び甲2のそれぞれの効果のみを比較しているのではなく,「訂正発明1は,犬が住居スペースからトイレスペースに移動する際に,中仕切体の開口部分以外は仕切られているため」(19頁19行~20行)に生じる効果として述べているのであって,訂正発明1と甲2発明との構成が異なっていることを前提として論じているのである。

訂正発明1と甲2発明との構成が異なっていることを前提として論じていない原告の主張は,失当である。

訂正発明1は,進歩性の判断における「引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合」(審査基準)に該当するのであって,審決の判断に原告が主張する誤りはない。

(ウ) 甲3の適用に対し

原告は,副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を否定することは判断枠組み自体誤りであると主張するが,訂正発明1は,「引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合」(審査基準)に該当するのであって,審決の判断に原告が主張する誤りがないことは,上記(イ)で述べたとおりである。

また,原告は,甲3発明の脱着可能な仕切りは,出入口を開閉するという機能に着目すれば,「扉」であり,さらに,犬のトイレ仕付けに関する用途を有するものであるから,この点を考慮しない本審決の判断は誤りであると主張する。

しかし,甲3の【0008】に,「平常時,図2を参照のとおり脱着可能な仕切りは取り外しておきます」と記載されているとおり,甲3発明の脱着可能な仕切りは,平常時は取り外しておいて,犬の排泄タイミングになると,犬をトイレエリアに入れ,脱着可能な仕切りをスライド装着するものである。このように,甲3発明の仕切りは,平常時は取り外され,全てが解放されているサークルの内部空間を,所望の場合にこれを装着して,通行を妨げる機能を有するだけであるから,迅速に開閉可能な扉として機能するものではない。

しかも,原告は,本件審判請求書において,甲3発明の仕切りは,中仕切体に相当すると主張しているのであって,本件訴訟において,仕切りが扉に相当すると主張すること自体,矛盾している。

(エ) 甲4~8の適用に対し

訂正発明1は,「引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合」(審査基準)に該当するのであって,審決の判断に原告が主張する誤りがないことは,上記(イ)で述べたとおりである。

(2)  訂正発明1と甲3発明との相違点4に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対して

ア 相違点4の認定の誤りに対し

(ア) 原告が,本件訴訟において,仕切りが扉に相当すると主張すること自体矛盾していることは,上記(1)イ(ウ)のとおりである。

(イ) 原告は,甲3発明の「脱着可能な仕切り」はそれ自体扉であるとまではいえないとしても,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無にすぎないと主張するが,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無ではなく,訂正発明1は,「中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」点である。

すなわち,仕切出入口が開口されているという中仕切体の構成が,訂正発明1と甲3発明とでは相違するとともに,訂正発明1では仕切扉が設けられている点が,甲3発明と大きく異なっているのである。

イ 相違点4についての判断の誤りに対し

上記ア(イ)のとおり,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無ではなく,訂正発明1は,「中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」点であるから,甲3発明の「脱着可能な仕切」の「脱着可能」のための構成と「扉」とを置換することの容易想到性をもって,訂正発明1の容易想到性を論じること自体が無意味である。

したがって,審決の判断に原告が主張する誤りはない。

(3)  補足主張に対して

ア 原告は,審決は,訂正発明1にいう「仕切扉」に「犬のトイレ仕付けのための扉」という用途又は機能を読み込み特別な意味を持たせることによって,訂正発明1を用途発明と捉えた上で,強引に訂正発明1の容易想到性を否定しているなどと主張する。

しかし,訂正発明1と主引例との相違点は,単に「扉」の有無ではなく,訂正発明1の「中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」点である。

審決は,訂正発明1の認定を行った後,主引例の認定を行い,その後,訂正発明と主引例との一致点・相違点を明確にし,進歩性を肯定する論理づけの判断を行っているものであって,進歩性判断の手法に何ら誤りはない。

しかも,審決は,相違点について,引例中に記載や示唆がないこと,訂正発明1が有する顕著な効果に鑑みて,訂正発明1の容易想到性を否定したものであって,訂正発明1が用途発明であると捉えたものではない。

イ 用途発明の特殊性(その1)に対し

「用途発明」とは,「ある物の未知の属性を発見し,この属性により,当該物が新たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明と解される」(審査基準)ものであって,通常は化学分野に適用されるものである。訂正発明1は,「ある物の未知の属性を発見し,この属性により,当該物が新たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明」,すなわち「用途発明」ではないから,原告の主張は失当である。

訂正発明1の「犬のトイレ仕付け用サークル」とは,「犬のトイレ仕付けに適した構造のサークル」を意味するものであるから,たとえ,訂正発明1における「仕切扉」に「犬のトイレ仕付けのための扉」という用途・機能を読み込ませたとしても,審決は,審査基準における「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮して,その用途限定が請求項に係る発明を特定するための事項としてどのような意味を有するかを把握する」という観点から判断したものであって,誤りはない。

ウ 用途発明の特殊性(その2)対し

原告は,審決のロジックに従えば,訂正発明の特徴部分である「犬のトイレ仕付けのための扉」が記載されていない文献は,全て引例として利用できないことになるなどと主張するが,審決の内容を誤って解釈するものであり,失当である。

第4当裁判所の判断

1  訂正発明1と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1)について

(1)  相違点2の認定の誤りにつき

ア 訂正発明1

(ア) 本件明細書等には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある(甲14,15)。

「【技術分野】

【0001】

本発明は,内部に犬を入れてトイレの仕付けを行う犬のトイレ仕付け用サークルに関する。

【背景技術】

【0002】

犬用サークルは,複数のパネルを連結し,これらのパネルで囲まれた内部に犬を収容するものであって,サークルの内部空間は,仕切られることなく1つ空間として構成されているものが一般的である……。

【0003】

ところで,犬の飼い主は,サークルの中に犬用トイレを置いて使用していることが多い。そして,犬にトイレの仕付けを行う際,飼い主が犬の排泄時が近づいたと察知すれば,まず犬をトイレに誘導し,犬がトイレで排泄を終えると,トイレで排泄ができたことを誉めて学習させるという手順を踏むのが通常である。」

「【発明の開示】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

しかしながら,上記した一般的な犬用サークルにおいてその内部に犬用トイレを置くと,犬の住居空間が狭くなって使い勝手が悪い。その上,犬用トイレの他に食器やベッドを置くと,衛生上好ましくない。このように,犬がサークル内で快適に過ごすことができないという問題があった。

【0005】

また,犬用トイレと住居空間との境界がないので,飼い主が犬をトイレに誘導し難く,たとえトイレへの誘導に成功した場合であっても,犬がトイレの上で静止し難い。このため,犬に対するトイレの仕付けが困難であった。

【0006】

本発明は,このような事情に鑑み創案されたもので,サークル内部が住居スペースとトイレスペースとに区画され,トイレの仕付けが容易で,使い勝手がよく,犬が快適に過ごすことができる犬のトイレ仕付け用サークルを提供するものである。」

「【課題を解決するための手段】

……

【0008】

この発明によれば,サークル本体の内部空間が住居スペースとトイレスペースに区画されているので,トイレスペースを犬用トイレを置くためだけの空間として使用することができる。したがって,サークル本体内に犬用トイレを置いた場合であっても,犬は,住居スペースでゆとりを持って快適に過ごすことができる。また,住居スペースには,食器やベッドを置くことができるので,使い勝手がよい。

【0009】

また,住居スペースとトイレスペースとの間が中仕切体によって仕切られ,この中仕切体には仕切出入口が開口されているので,トイレの仕付けを行う際に,飼い主が犬をトイレに誘導しやすいので,便利である。

【0010】

さらに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されているので,仕切扉の開閉に応じて犬をトイレスペースに誘導したり住居スペースに誘導することができる。

【0011】

本発明は,上記構成の犬のトイレ仕付け用サークルにおいて,前記仕切出入口の開放時および閉鎖時にそれぞれ仕切扉を係止する仕切出入口ロック手段が設けられたことを特徴とする。

【0012】

この発明によれば,仕切出入口の開放時および閉鎖時に仕切扉を係止する仕切出入口ロック手段が設けられているので,仕切出入口を開放状態および閉鎖状態で保持することができる。したがって,閉鎖した仕切出入口の仕切扉を犬が開けるのを防止できるとともに,仕切出入口を開放した状態で犬が住居スペースとトイレスペースとの間を安全で自由に行き来することができる。そして,トイレの仕付けを終えた犬に対しては,仕切出入口を常に開放状態に保持し,住居スペースとトイレスペースとの間を安全で自由に行き来できるようにすることもできる。

【発明の効果】

【0013】

本発明によれば,トイレの仕付けが容易で,使い勝手がよく,犬が快適に過ごすことができる犬のトイレ仕付け用サークルを提供することが可能になる。」

「【0040】

次に,上記構成の犬用サークル1の使用方法の一例について説明する。

【0041】

まず,犬用トイレをサークル本体2のトイレスペース1bに設置する。この際,犬用トイレの外枠をトレー6のトイレ静止用突起64に嵌め込んで,犬用トイレAが不測に動かないようにする。

【0042】

次いで,犬出入口2eを開けて,犬をサークル本体2内に入れる。

【0043】

使用者が犬の排泄が近づいてきたと察知した場合,仕切扉43を開けて,犬をトイレスペース1bの犬用トイレAに誘導する。その後,仕切扉43を閉鎖し,ロックする。

【0044】

犬が犬用トイレAで排泄し終えると,トイレで排泄したことを誉め,仕切扉43を開けて,住居スペース1aに犬を入れる。

【0045】

犬用トイレAのシーツを交換する際には,トイレ出し入れ口5aを開けて,犬用トイレを取り出し,使用者は楽な姿勢でシーツを交換することがでる。」

(イ) 上記記載によれば,訂正発明1は,一般的な犬用サークルの課題(【0004】,【0005】)を解決し,サークル内部が住居スペースとトイレスペースとに区画され,トイレの仕付けが容易で,使い勝手がよく,犬が快適に過ごすことができる犬のトイレ仕付け用サークルを提供することを目的としたもので(【0006】),犬のトイレの仕付けを行う犬用サークルにおいて,サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成され,そのような構成により,トイレの仕付けが容易で,使い勝手がよく,犬が快適に過ごすことができる犬のトイレ仕付け用サークルを提供することが可能になるという効果を奏するものである(【0013】)と認められる。

イ 甲1発明

(ア) 甲1には,以下の記載がある。

①「「トイレ」といっても,トイレをしつけるためにサークルで作るスペースは赤ちゃん犬のお城。眠ったり遊ぶ場所でもあるので,できるだけ居心地よい空間にしてやりましょう。」(50頁)

②「1 トイレの場所を決める

赤ちゃん犬はトイレを場所でも覚えます。……」(50頁)

③「2 サークルで囲うスペースを決める

サークルで囲う赤ちゃん犬のお城には十分なスペースが必要です。……

サークルが狭いとベッドとトイレの区別ができず,オシッコやウンチをベッドの中にしてしまうことがあります。……」(50頁)

④「3 トイレとベッドを置いてサークルで囲う

新聞紙を敷き,ペットシーツをサークルの大きさより少し広めに敷き,ベッドになるものを置きます。ベッドは赤ちゃん犬の体の1.5倍前後が適当な大きさ。雑誌や木をベッドの下にあてがって床よりも5cmくらい高くすると,ベッドとトイレがより明確に区別できます。

人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別するのもよい方法です。この場合,赤ちゃん犬がふたつの部屋を自由に行き来できるスペースを開けておきます。最後に,サークルでベッドとトイレを囲います。」(51頁)

(イ) 上記記載によれば,甲1発明は,トイレをしつけるための犬用のサークルに関するもので,ベッドとトイレを明確に区別するために,人間の寝室のように,ベッドとトイレの間は板で仕切って区別されており,また,犬がベッドとトイレを自由に行き来できるスペースが開けてあるものである。

ウ(ア) 原告は,相違点2のうち「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」という部分は,「仕切出入口が開口された中仕切体」による効果であるところ,これは甲1発明も「仕切出入口が開口された中仕切体」を備えているから,訂正発明1と甲1発明との相違点ではないと主張する。

(イ) 確かに,中仕切体に,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されていれば,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるとはいえる。しかしながら,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されているだけでは,犬の行き来を規制することができないことは明らかである。訂正発明1においては,中仕切体に,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されているだけではなく,さらに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられており,この仕切扉の開閉により,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を行き来できるようにしたり,その行き来を規制したりしているものと認められる(上記ア(ア)の【0043】,【0044】)。

したがって,「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」ことが,中仕切体に犬が出入り可能な仕切出入口が開口されていることによる効果であるということはできず,相違点2の認定誤りをいう原告の主張は,その前提において誤りであり,理由がない。

(2)  相違点2についての判断の誤りにつき

ア 甲1の示唆について

(ア) 原告は,人間の住居は,寝室とトイレが区画されており,そこには単に仕切りがあるだけではなく,その出入りを容易にするために「扉」があるのが通例であるから,「人間の寝室のように」という記載に接した当業者が,甲1発明の「仕切」に「扉」を付けることを想到することは当然であると主張する。

(イ) しかしながら,甲1発明におけるスペース(訂正発明1における「犬が出入り可能な仕切出入口」に相当する。)は,上記(1)ウ(イ)のとおり,犬がベッドとトイレを自由に行き来できるように開けてあるものであり,甲1には,このようなスペースを開けたり,閉鎖したりする必要があることや,そのスペースを開閉する扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することについては,何らの記載も示唆もない。甲1発明のスペースは犬がベッドとトイレを自由に行き来できるように開けてあるものであることを考慮すれば,このようなスペースを閉鎖することは,スペースが設けられた意味を失わせることになるから,むしろ阻害されているものと認められる。

また,甲1の上記(1)イ(ア)④の記載によれば,甲1には,ベッドとトイレをより明確に区別する方法として,ベッドを床よりも5cmくらい高くする方法のほか,人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別する方法もあることが記載されている。しかし,ここでいう「人間の寝室のように」とは,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別すること自体が,人間の寝室の構造に類似していることを意味するにすぎないものであり,実際の人間の寝室の構造を適用できることを示唆するものではないことは,その文脈から明らかである。したがって,甲1の上記記載は,甲1発明に対し,そのような人間の寝室の構造を適用することを動機づけるものとはいえない。

以上によれば,人間の住居に「扉」があるのが通例であるとしても,「人間の寝室のように」という記載に接した当業者が,甲1発明の「仕切」に「扉」を付けることを想到するとは認められない。

イ 甲2の適用について

(ア) 審決は,①「巣穴にもぐる習性を有した動物用の特殊な構造をしたペット飼育容器の構成を,犬用のサークルである甲1発明に適用することが当業者にとって容易であるとはいえない」(19頁16行~18行),②訂正発明1は,「犬が元のスペースに戻ることが抑制され,仕切扉を迅速かつ容易に閉鎖できる効果を有する」(同20行~21行)のに対し,「甲第2号証の開閉ドア7はトイレ躾の際にトイレに誘導して閉じるものではないから,当該効果を有するものを容易に想到することはできない」(同22行~23行)と判断したものである。

これに対し,原告は,

a 相違点2は,開口部を有する「仕切」における「扉」の有無であり,甲2に開示された開口部を有する「仕切」における「扉」自体は何ら特殊な構造ではないから,審決の上記①の判断は誤りである,

b ここで問題となっているのは,新規性ではなく進歩性であるから,甲2が訂正発明1の効果を奏していないことは容易想到性を否定する理由にならず,審決の上記②の判断は誤りである,

と主張するので検討する。

(イ)a 甲2には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。

「【実用新案登録請求の範囲】

【請求項1】ペットを飼育するための第1の飼育室と,前記第1の飼育室の下端部に着脱自在に取り付けられるトレイ部と,を備えるペット飼育容器において,前記トレイ部は,ペットが入れる大きさの第2の飼育室と,当該第2の飼育室と隣接する凹所と,が設けられ,前記凹所から前記第2の飼育室に出入りするための開口部が,当該第2の飼育室を形成する壁部に形成され,前記開口部は,開閉ドアによって開閉されるように構成され,前記凹所の床部は,排泄物を受けるためのペットトイレによって構成され,当該ペットトイレは,前記トレイ部に対して着脱自在に構成されていることを特徴とするペット飼育容器。

……

【請求項3】前記開閉ドアは,半円状に形成され,当該開閉ドアの中心部を支持する枢軸の周りを回転するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載したペット飼育容器。

……

【請求項5】飼育しようとするペットは,ウサギであることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載したペット飼育容器。」

「【考案の詳細な説明】

【0001】

【考案の属する技術分野】

この考案は,ペット(愛玩動物)を飼育するためのペット飼育容器に関し,詳しくは,たとえば,ウサギのように巣穴にもぐる習性のあるペットを飼育するのに適したペット飼育容器に関する。」

「【0003】

【考案が解決しようとする課題】

ペットを飼育するにあたっては,上手に躾ないとペットが飼育容器の至る所で排泄を行ってしまい,清掃しづらいところに排泄されると悪臭に悩まされることになりかねない。ところが,人間の言葉を理解できないペットに排泄の躾をすることは,必ずしも容易なことではない。また,ペットは,種類によって様々な習性を持っており,その習性に合わせて躾る必要がある。逆に,その習性を利用してペットの躾を行えば,習性を利用することなく漠然と行う場合に比べてより効果的な躾ができる,と考案者らは考えた。本考案が解決しようとする課題は,上述したように,ペットの習性,特に,巣穴にもぐる,という習性を利用してペットに排泄の躾を行うことができ,もって,巣穴と排泄場所とが分離された清潔なペット飼育容器を提供することにある。

【0004】

【課題を解決するための手段】

上述した課題を解決するために考案者らは,まず,ペット飼育容器のトレイ部に,巣穴に見立てた第2の飼育室を第1の飼育室とは別個に設けるとともに,この第2の飼育室の入口を開閉できるように構成した。これは,ペットが所定の場所で排泄するようになるまで,つまり,自分の排泄場所を認識するまで第2の飼育室に入ることを禁止し,認識してから入口を開放してペットが第2の飼育室,つまり,巣穴の中に入れるようにした。こうすれば,第2の飼育室の中でペットが排泄することはないので,第2の飼育室内が排泄物で汚れることはなく,したがって,悪臭を発生することがない,というわけである。本考案は,このような観点からなされたものである。……

【0005】

……第1の飼育室は,篭状のケージや合成樹脂製の枠体等によって構成されるのが一般的である。第2の飼育室は,ペットが巣穴として認識できる程度に周りを囲まれた空間のことをいう。……

【0006】

請求項1に記載した考案の作用効果

請求項1の飼育容器は,上記構成によって次の作用効果を生じる。ペットは,第1の飼育室内で飼育され,ペットは,凹部においてペットトイレ上で排泄する。ペットを躾るためには,飼育し始めのときは開口部を閉鎖してペットが第2飼育室内に入れないようにしておき,ペットトイレ上でペットが排泄するようになったら,開口部を開放して第2飼育室内に入れるようにすることが好ましい。開口部の閉鎖と開放は,開閉ドアの開閉によって行う。ペットトイレが排泄物等によって汚れたときは,これをトレイ部から取り外して洗浄すると簡単に汚れを落とすことができる。以上の通り,第2飼育室への出入り制限によるトイレ躾と,ペットトイレの洗浄の容易さ,とによって,ペット飼育容器は常に清潔に保たれ,悪臭を発生させることがない。」

「【0015】

【考案の実施の形態】

……なお,本実施形態のペット飼育容器は,あらゆるペットを飼育するために用いることができるが,ここでは,ウサギを飼育することを前提に説明をする。」

「【0020】

ウサギのトイレ躾方法

ペット飼育容器1を使用すれば,ほとんどのペットを飼育することができるが,ここでは,特にトイレ躾方法について図1を参照しながら説明する。ウサギに限らずトイレ躾は,そのペットの飼い始めが肝心である。既に説明したように,ウサギは巣穴で生活する習性を持っているが,飼い始めのウサギに何も躾を行わないと,巣穴である第2の飼育室31内で排泄するようになってしまう。そこで,飼い始めのウサギを飼育するときには開口部37の開閉ドア7を閉鎖しておき第2の飼育室31に入れないようにしておいて凹所55にて,すなわち,ペットトイレ9の上にて排泄するように躾る。図3に示す開閉ドア7を閉鎖するには,開閉ノブ7nに指を掛けて反時計方向に回転させることにより行う。

【0021】

上述したトイレ躾が完了したら,今度は,開口部37を開放してウサギが第2の飼育室31内に入れるようにする。開口部37の開放は,開閉ドア7を上記とは逆の時計方向に回転させればよい。ペットトイレ9の上で排泄するように躾られたウサギは,第2の飼育室31内で排泄することはなく,排泄するときは第2の飼育室31から出てペットトイレ9の上で行う。これによって,巣穴である第2の飼育室31と排泄場所を完全に分離させることができ,この結果,第2の飼育室31内はもとより,ペット飼育容器1全体が清潔に保たれるので排泄物が発生する悪臭によって飼育者が悩まされなくなる。さらに,前述したように,排泄物によって汚れたペットトイレ9を単独で洗浄できるので,この点からもペット飼育容器1全体を清潔に保つことができる。

【0022】

【考案の効果】

本考案に係るペット飼育容器を使用すれば,ペットの習性,特に,巣穴にもぐる,という習性を利用してペットに排泄の躾を行うことができ,もって,巣穴と併設場所が分離され,これによりペット飼育容器が清潔に保たれる。」

b 上記aの記載によれば,甲2には,①ペット飼育容器は,第1の飼育室と,巣穴に見立てた第2の飼育室と,ペットトイレとを備え,ペットトイレから第2の飼育室に出入りするための開口部が,第2の飼育室を形成する壁部に形成され,その開口部は開閉ドアによって開閉されるように構成されたものであること(【請求項1】,【0004】,【0005】),②ペット飼育容器は,あらゆるペットを飼育するために用いることができる(【0015】)が,ウサギのように巣穴にもぐる習性のあるペットを飼育するのに適したものであること(【0001】),③巣穴にもぐるというペットの習性を利用してペットに排泄の仕付けを行うこと(【0003】),④トイレの仕付けが完了するまでは,開閉ドアを閉鎖して,ペットが第2の飼育室内に入れないようにしておいて,ペットを第1の飼育室で飼育するとともに,ペットトイレ上で排泄するように仕付けること(【0004】,【0006】,【0020】,【0021】),⑤トイレの仕付けが完了したら,開閉ドアを開放して,ペットが第2の飼育室内に入れるようにすること(【0006】)が記載されていると認められる。

(ウ)a 原告の上記(ア)aの主張について

甲2に記載のペット飼育容器は,あらゆるペットを飼育するために用いることができると記載されてはいるものの,第2の飼育室を巣穴に見立てて,巣穴にもぐるというペットの習性を利用してペットに排泄の仕付けを行うとしていることから,実際には,ウサギのように「巣穴にもぐる習性のあるペット」を飼育することを意図したものと認められ,また,具体的な説明も,ウサギについて記載されるのみである。したがって,このような甲2に記載の事項を,「巣穴にもぐる習性のあるペット」とはいえない犬を対象とする甲1発明に適用する動機づけがあるとはいえない。

また,甲2の上記(イ)aの記載によれば,トイレの仕付け中は,ペットは,第1の飼育室とペットトイレとの間を行き来するものと認められるが,第1の飼育室とペットトイレとの間には,訂正発明1における「中仕切体」に相当するものがなく,また,同「仕切出入口」,「仕切扉」に相当するものも存在しない。一方,ペットトイレと第2の飼育室の間には,第2の飼育室を形成する壁部,第2の飼育室に出入りするための開口部,その開口部を開閉する開閉ドア(それぞれ,訂正発明1における「中仕切体」,「仕切出入口」,「仕切出入口を開閉する仕切扉」に相当する。)が存在するものの,トイレの仕付けが完了するまでは,開閉ドアは閉鎖されており,ペットは第2の飼育室内に入れないようになっているから,トイレの仕付け中は,ペットは,開閉ドアを介して第2の飼育室とペットトイレとの間を行き来することはなく,開口部を開閉する開閉ドアは,その開閉により,トイレの仕付け中に,開閉ドアを介して第2の飼育室とペットトイレとの間を行き来できるようにしたり,その行き来を規制したりするものではない。

以上によれば,甲2には,ペットのトイレの仕付けを容易に行う点から,飼育室とペットトイレとの間を「中仕切体」によって仕切ること,また,その「中仕切体」に,ペットが出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して飼育室とペットトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記載されているとはいえない。したがって,甲2は,甲1発明におけるスペースに,そのスペースを開閉する扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することを動機づけるものとはいえず,また,甲2には,ペットのトイレの仕付けを容易に行う点から,飼育室とペットトイレとの間を「中仕切体」によって仕切ることや,その「中仕切体」に,ペットが出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して飼育室とペットトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記載されているとは認められないから,審決の「巣穴にもぐる習性を有した動物用の特殊な構造をしたペット飼育容器の構成を,犬用のサークルである甲1発明に適用することが当業者にとって容易であるとはいえない」(19頁16行~18行)との判断に,原告主張の誤りはない。

b 原告の上記(ア)bの主張について

原告は,甲2が訂正発明1の効果を奏していないことは容易想到性を否定する理由にならないと主張するが,甲1発明の甲2を適用する理由が認められないことは,上記aのとおりであるから,原告の上記主張は理由がない。

ウ 甲3の適用について

(ア) 審決は,「甲第3号証の着脱可能な仕切りは扉ではないから,上記の効果を奏するものではない」(19頁24行~25行)とした。

これに対し,原告は,

a 副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を否定することは,判断枠組み自体誤りである,

b 審決のように「扉」の用途及び機能を重視するのであれば,甲3の着脱可能な仕切りは,出入口を開閉するという機能に着目すれば,「扉」であり,さらに,犬のトイレの仕付けに関する用途を有するものであるから,この点を考慮しない審決の判断は誤りである,

と主張するので検討する。

(イ)a 甲3には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。

「【特許請求の範囲】

【請求項1】犬のトイレのしつけを行うために,犬の反復学習(スリコミ)を利用して,居住部分とトイレ部分を明確に分け,トイレ以外で排泄をしないように習慣づけができるように,その境目に取り外し可能な仕切りを備え,トイレ部分にはトイレシーツが滑りにくく加工した引き出しトレーを備えたドッグサークル型トイレしつけ機。」

「【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明が属する技術分野】本発明は,犬の習性を利用し,犬の排泄場所を特定させるしつけ(以下「トイレのしつけ」とします)を手助けする機器に関するものである

【0002】

【従来の技術】屋内で犬を飼う上で最初に行うしつけがトイレのしつけである。従来ではまず犬のトイレ場所を決め,排泄するであろう時間帯に飼い主が犬を決めた場所に連れて行き,排泄をするまで待つ。これを繰り返す。またドッグゲージに入れて育てようとした場合,ゲージの中にトイレ用シーツを敷きつめ,その上だけで排泄するように繰り返し覚えさせる。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】トイレのしつけを覚えさせる時期は子犬なので,しつけを覚えさせるまでが非常に根気がいる作業です。まして初めて犬を飼う人は,どのようにしつけたらよいかわからないのが現状です。実際には次のような問題が犬を始めて飼う人を煩わせています。

・トイレシーツの上や決まった場所で排泄するように促しても,子犬にとっては「遊んでくれている」としか思いません。

・排泄をするであろう時間(食事後)に飼い主が犬をトイレに連れて行っても,子犬はジャレ動き回り,飼い主が注意をそらしたころに子犬が排泄してしまった事に気づいてしまうことも多く,そのため,ある程度子犬が動き回らないように子犬を小さなドッグゲージ等に入れる必要がある。

・日頃ドッグゲージに入れていない子犬はドッグゲージのような何かに覆われている場所に対し,違和感をもち,排泄をしない。

・日頃からドッグゲージに入っている子犬は,ゲージ全体をトイレとみなし,ゲージ全体で排泄をしてしまう犬が多い。

・またドッグゲージ内にトイレシーツを引いたところでも,その後ジャレ遊ぶことで子犬やゲージ全体が糞尿まみれになり,非常に不衛生である。

【0004】そこで本発明は上述したトイレのしつけの問題点を解消するために提案するもので,犬を初めて飼う人にも本発明を利用することで,短期間で確実に子犬のトイレのしつけができるものである。」

「【0007】この実施の形態に係る子犬のトイレしつけ機は図1に示すように,全体を柵で囲まれています。床面はA居住エリアとBトイレエリアと2つに分かれており。AとBの境目には1段差が設けられています。また3脱着可能な仕切りでAとBの間は仕切られています。例えば3脱着可能な仕切りは網状であったり,板状であったりするもので,犬が容易にA居住エリアとBトイレエリアを通り抜けできないものとします。犬は自らの肉球の感触でそこがどんな場所か判別するので,A居住エリアの床は非常に心地が良い床面(タオル地,カーペット地)で構成されたほうがより高いトイレのしつけ効果を望めます。Bトイレエリアは例えばプラスティック素材や金属,セラミック等の清掃のしやすい素材を使用したほうがよい。3脱着可能な仕切りは両サイドがスライドして上から容易に脱着できます。Bには2引き出しトレイが設けられています。2引き出しトレイはトイレエリア全体に引き出しがついたものです。

【0008】平常時,図2を参照のとおり脱着可能な仕切りは取り外しておきます。犬は自由に走りまわることができます。

【0009】図3のとおり,犬の排泄のタイミングは食後,運動後ですが,そのタイミングに図3のとおり犬をBトイレエリアに入れ,3脱着可能な仕切りをスライド装着します。

【0010】排泄をしたら,犬をほめ,おやつをあげます。そしてA居住エリアに犬を移し,図4のように2引き出しトレイを引き,Bトイレエリアの排泄物の処理をします。

【0011】処理が終わり,3脱着可能な仕切りをはずします。図2のように元に戻します。

【0012】

【発明の効果】上述した子犬のトイレしつけ機はA居住エリアとBトイレエリアの間に1脱着可能な仕切りを設けたことが最大のポイントで,飼い主がトイレのしつけを行う際,子犬はどんなに暴れようが,排泄時にBトイレエリア以外では排泄ができない。そこで排泄をし,その結果を褒め,おやつを与えることで,トイレでの排泄が習慣化し,その結果犬はBトイレエリアを自分のトイレ・排泄場所とスリコミをすることになり,最終的には3脱着可能な仕切りがない状態でも犬は好んでBトイレエリアで排泄をすることになる。また従来の犬用ドッグゲージでは犬はゲージ全体で排泄をするので非常に不衛生であり,掃除用の引き出しトレイは床面全体をカバーするように作られ,大きなトレイは清掃に手間がかかるものであった。しかし,本しつけ機では確実にBトイレエリアだけでの排泄になるので排泄物の後片付けもBトイレエリア内の2引き出しトレイを掃除するだけでよい。」

b 上記aの記載によれば,甲3には,①ドッグサークル型トイレしつけ機は,全体を柵で囲んだもので,犬のトイレのしつけを行うために,居住部分とトイレ部分を明確に分け,トイレ以外で排泄をしないように習慣づけができるように,その境目に取り外し可能な仕切りを備えたものであること(【請求項1】,【0007】),②仕切りは,網状や板状であり,犬が容易に居住部分とトイレ部分を通り抜けできないもので,両サイドがスライドして上から容易に脱着できること(【0007】),③平常時は,仕切りは取り外しておき,犬の排泄のタイミングに犬をトイレ部分に入れ,仕切りをスライド装着し,排泄をしたら,犬をほめ,おやつをあげ,居住部分に犬を移して,トイレ部分の排泄物を処理し,処理が終わったら,仕切りを取り外して元に戻すこと(【0008】~【0011】)が記載されていると認められる。

しかし,上記の仕切りは,網状や板状であり,犬が容易に居住部分とトイレ部分を通り抜けできないものであり,訂正発明1における「仕切出入口」に相当するものがなく,また,同「仕切出入口を開閉する仕切扉」に相当するものも存在しない。したがって,甲3には,上記仕切りに,犬が出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して居住部分とトイレ部分との間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記載されているとはいえない。

そうすると,甲3は,甲1発明におけるスペースに対し,そのスペースを開閉する扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することを動機づけるものとはいえない。

(ウ)a 以上のとおり,甲1発明の甲3を適用する理由は認められないから,審決の判断が,副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を否定したものということはできず,原告の上記(ア)aの主張は,理由がない。

b 「扉」とは,一般に「開き戸の戸」を意味し,本件明細書等においても同様の意味で用いられていると認められるが,甲3に記載の取り外し可能な仕切りは,「開き戸の戸」ではなく,その構造から「扉」といえないことが明らかである。また,上記(イ)bのとおり,このような仕切りには,「仕切出入口」がなく,また,「仕切出入口を開閉する仕切扉」も存在しないから,甲3には,上記仕切りに,犬が出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して居住部分とトイレ部分との間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記載されているとはいえない。したがって,原告の上記(ア)bの主張も,理由がない。

エ 甲4~8の適用について

(ア)a 甲4には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。

「■子犬の部屋

……子犬の部屋はサークルを使って囲うとトイレのしつけがしやすく,大変便利です。

犬は寝床で排泄することを嫌いますから「食事」「寝床」「排泄」の場所をそれぞれ分けられるようにするのが理想的です。」(114頁)

「■トイレの設置

P114の犬の部屋を参考にしてください。サークルを使って,犬の行動範囲を制限する方法が一番無難で,人も犬も苦労しません。

①サークル内のスペース全体に新聞紙,もしくはペットシーツを敷きます。こうしておくと,犬の行動範囲全てがトイレなので,失敗するということがなくなります。

②この状況の中で,犬がどの場所に一番多く排泄するかをよく観察します。

最初は滅茶苦茶でも,次第に好んで排泄する場所が決まってきますから,そこを避けて寝床や運動するスペースを広げて行くのです。

しかし,いきなり広くしてしまうと,また失敗してしまう可能性があるので,少しずつ広げて行くように注意して下さい。

寝床となる部分には,肌触りの異なるもの(……)を敷きましょう。

③自由に動き回れるスペースが相当広くなっても失敗することがなくなれば,まもなくしつけ完了です。後は,サークルの扉を開けたままにし,犬がいつでもトイレに行けるようにしておくか,サークルを取り払うかしましょう。」(190,191頁)

b 上記aの記載によれば,甲4には,①子犬の部屋は,サークルを使って囲うと,トイレのしつけがしやすいこと,②「食事」,「寝床」,「排泄」の場所をそれぞれ分けること,③トイレの設置に関し,114頁の犬の部屋(別紙参照)を参考にすること,④114頁に図示される犬の部屋は,サークルで囲まれており,寝床の場所と排泄の場所が仕切りにより仕切られており,その仕切りには,犬が寝床の場所と排泄の場所を自由に行き来できる程度のスペースが空けてあること,⑤トイレの仕付けの手順に関し,サークル内のスペース全体に新聞紙等を敷き,犬の行動範囲全てをトイレとし,この状況の中で,犬がどの場所に一番多く排泄するかをよく観察し,好んで排泄する場所が決まってきたら,そこを避けて寝床や運動するスペースを広げ,自由に動き回れるスペースが相当広くなっても失敗することがなくなれば,サークルの扉を開けたままにし,犬がいつでもトイレに行けるようにしておくか,サークルを取り払うかすることが記載されていると認められる。

しかし,上記の犬の部屋は,寝床の場所と排泄の場所が,仕切りにより仕切られ,その仕切りには,犬が寝床の場所と排泄の場所を自由に行き来できる程度のスペースが空けてあるものの,そのスペースに,スペースを開閉する扉を設け,その扉を介して寝床の場所と排泄の場所との間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することについて,甲4には記載も示唆もない。

甲4には,上記のとおり,「サークルの扉を開けたままにし」との記載があるが,114頁の図には,扉は示されておらず,具体的にどこに設けられた扉であるのかは明らかでない。甲4の上記記載によれば,トイレに失敗することがなくなった場合に,「サークルの扉を開けたままにし,犬がいつでもトイレに行けるようにしておくか,サークルを取り払うかする」とされていることを踏まえると,上記「サークルの扉」は,犬の部屋を囲うサークルに設けられたものと解するのが自然であり,訂正発明1の「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制される」「仕切扉」を示唆するものとは認められない。

以上によれば,甲4は,甲1発明におけるスペースに,そのスペースを開閉する扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することを動機づけるものとはいえない。

(イ) 甲5には,ラット等の実験動物の視力測定装置と,この装置を用いた実験動物の視力測定方法について,甲6には,小動物交配用ケージについて,甲7には,イタチ科に属するフェレットのような愛玩動物を飼育するためのペット飼育容器に関し,上下段に仕切られた飼育室内という限られた空間をペットの運動領域としてなるべく広く使えるようにすることについて,甲8には,移動柵による養豚法に関し,床面の天地返し作業を行うことについて,それぞれ記載されていると認められる。

しかしながら,甲5~8のいずれにも,ペットのトイレの仕付けを容易に行うとの観点から,住居スペースとトイレスペースとの間を「中仕切体」によって仕切ること,また,その「中仕切体」に,ペットが出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することについて記載はない。

そうすると,甲5~8は,甲1発明におけるスペースに,そのスペースを開閉する扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することを動機づけるものとはいえない。

(ウ) 原告は,副引例(甲4~8)が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を否定することは,判断枠組み自体誤りであると主張する。

しかしながら,甲4~8は,いずれも,甲1発明におけるスペースに,そのスペースを開閉する扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することを動機づけるものといえないことは,上記(ア),(イ)のとおりであるから,これらの副引例は,いずれも訂正発明1の相違点2に係る構成,すなわち「仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」点を想到させるものとは認められない。

したがって,審決の判断を,訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を否定したものということはできず,原告の上記主張は理由がない。

オ 以上のとおり,審決の相違点2についての判断に原告主張の誤りはない。

(3)  よって,取消事由1は理由がない。

2  訂正発明1と甲3発明との相違点4に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について

(1)  相違点4についての認定の誤りにつき

ア 原告は,訂正発明1は物の発明であるから,相違点も物の構造に着目すべきであり,訂正発明1と甲3発明との相違点は,訂正発明1の「仕切」には扉を設けているのに対し,甲3発明の「脱着可能な仕切」はそれ自体扉であるいう点であると主張する。

しかし,上記1(2)ウ(ウ)bのとおり,甲3に記載の取り外し可能な仕切りは,その構造から「扉」とはいえず,原告の主張は,その前提において誤りである。

イ 原告は,仮に甲3発明の「脱着可能な仕切」はそれ自体扉であるとまではいえないとしても,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無にすぎないと主張する。

しかし,訂正発明1と甲3発明とは,いずれも,「中仕切体において,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」ものであるが,その具体的な構成として,訂正発明1では,上記中仕切体には,「犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ」ており,それにより,「この仕切扉を介して」住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されているのに対して,甲3発明では,上記中仕切体に相当するものは,「脱着可能な仕切り」であり,「平常時に3脱着可能な仕切りは取り外しておき,犬の排泄のタイミングに犬をBトイレエリアに入れ,3脱着可能な仕切りをスライド装着する」ことにより,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている点で相違するものであることは,明らかである。審決が認定した相違点4は,これと同旨のものであり,誤りはない。

ウ 以上のとおり,審決の相違点4の認定に,原告が主張する誤りはない。

(2)  相違点4についての判断の誤りにつき

ア 本件明細書等の上記1(1)ア(ア)の記載によれば,訂正発明1は,犬のトイレ仕付け用サークルにおいて,サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成され,そのような構成により,飼い主が犬をトイレに誘導しやすい等,トイレの仕付けが容易である,という犬のトイレ仕付け用サークルとしての効果を奏するものである(【0009】,【0010】,【0013】)と認められる。

イ 他方,甲3の上記1(2)ウ(イ)aの記載によれば,甲3発明は,ドッグサークル型トイレしつけ機に関するもので,床面は居住エリアとトイレエリアと2つに分かれており,脱着可能な仕切りで居住エリアとトイレエリアとの間は仕切られているものであり,平常時に脱着可能な仕切りは取り外しておき,犬の排泄のタイミングに犬をトイレエリアに入れ,脱着可能な仕切りをスライド装着するものであると認められる。

ウ しかしながら,上記1(2)で検討したとおり,甲1~8のいずれにも,犬(又はペット)のトイレの仕付けを容易に行う点から,住居スペースとトイレスペースとの間の「中仕切体」に,犬(又はペット)が出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記載されているとはいえない。

そうすると,甲3発明において,居住エリアとトイレエリアとの間の仕切りとして,脱着可能なものに代えて,仕切りに,犬が出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設けたものを用い,それにより,この「仕切扉」を介して居住エリアとトイレエリアとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが,当業者が容易に想到することということはできない。

エ 原告は,訂正発明1の「仕切」に設けられた「扉」が有する機能と,甲3発明の「脱着可能な仕切」の「仕切を脱着可能とする構成」が有する機能とが同一であることに加え,甲1,2,4~8において,仕切に対して「扉」を設けることが記載又は示唆されているから,甲3発明の「脱着可能な仕切」の「脱着可能」のための構成と「扉」とを置換することは,容易想到であると主張する。

しかし,甲1,2,4~8に,仕切に対して「扉」を設けることが記載又は示唆されているとしても,これらには,犬(又はペット)のトイレの仕付けを容易に行う点から,住居スペースとトイレスペースとの間の「中仕切体」に,犬(又はペット)が出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記載されているとはいえないから,甲3発明において,居住エリアとトイレエリアとの間の仕切りとして,脱着可能なものに代えて,仕切りに,犬が出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設けたものを用い,それにより,この「仕切扉」を介して居住エリアとトイレエリアとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが,容易想到ということはできない。

オ 以上のとおり,審決の相違点4についての判断に原告主張の誤りはない。

(3)  よって,取消事由2は理由がない。

3  補足主張について

原告は,審決は,訂正発明1の「仕切扉」に「犬のトイレ仕付けのための扉」という用途又は機能を読み込み,訂正発明1を用途発明と捉えた上で,強引に訂正発明1の容易想到性を否定したものであるなどと主張する。

しかし,用途発明とは,ある物の未知の属性を発見し,この属性により,当該物が新たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明と解されるところ,「犬のトイレ仕付けのための扉」は「仕切扉」として用いられているのであり,審決もそのようなものとして訂正発明1の容易想到性を判断していることが明らかであって,訂正発明1を用途発明として捉えたものではない。

原告の上記主張は,審決を正解しないものというほかなく,採用することができない。

原告は,そのほかにも審決が訂正発明1を用途発明と捉えたことを前提に縷々主張するが,いずれもその前提が誤りである。

4  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決にはこれを取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳 裁判官 田中正哉)

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