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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10429号 判決 2013年8月09日

原告

エスケーテレコム株式会社

訴訟代理人弁理士

梶良之

須原誠

内田和宏

被告

特許庁長官

指定代理人

山本章裕

石井研一

樋口信宏

大橋信彦

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2011-7951号事件について平成24年7月31日にした審決を取り消す。

第2前提事実

1  特許庁における手続の経緯等(争いがない。)

原告は,発明の名称を「加入者基盤のリングバックトーンサービスにおける個人情報送出方法」とする発明につき,平成16年10月20日を国際出願日とする特許出願(特願2006-554014号。パリ条約に基づく優先権主張・2004年2月20日,大韓民国。以下,「本願」という。)をした。原告は,平成22年5月24日付けで拒絶理由の通知を受けたので,同年8月31日付けの手続補正書により,特許請求の範囲及び明細書の補正をした(この補正後の明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)。原告は,同年12月10日付けで拒絶の査定を受け,平成23年4月14日,拒絶査定に対する不服の審判(不服2011-7951号)を請求した。

特許庁は,平成24年7月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年8月15日,原告に送達した。

2  特許請求の範囲の記載(甲5,6)

補正後の本願の特許請求の範囲(請求項の数16)の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。)。

「着信端末機の着信交換機への登録の際,ホーム位置登録機から上記着信交換機に,上記ホーム位置登録機に既に設定されているリングバックトーン代替有無に関する第1の情報,及び音源提供手段へのルーティングのための第2の情報を提供する段階;

発信端末機が上記着信端末機との通話を要請する場合,上記着信交換機から上記第1及び第2の情報に従って上記音源提供手段に呼接続を要請する段階;及び

呼接続の要請を受信する場合,上記音源提供手段が上記発信端末機に呼接続し,上記着信端末機に対応して設定された特定音源を検出し,検出された特定音源を上記発信端末機に提供する段階;を含み,

上記特定音源は,着信加入者を識別させるか特徴を表すことができる特定情報に関する個人情報音源と,上記着信加入者により設定されたリングバックトーン共通代替音源との組み合わせから生成されており,個人情報音源及び一般のリングバックトーンの順,個人情報音源,代替音源及び個人情報音源の順,代替音源,個人情報音源及び代替音源の順,個人情報音源,第1代替音源,第2代替音源及び個人情報音源の順,第1個人情報音源,第1代替音源,第2個人情報音源及び第2代替音源の順,並びに,第1代替音源,第1個人情報音源,第2代替音源及び第2個人情報音源の順のうちの1つ以上を含むように,順次配列されていることを特徴とする加入者基盤のリングバックトーンサービスにおける個人情報送出方法。」

3  審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開2003-283660号公報(甲1。以下「引用公報1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に,韓国登録実用新案20-0313671号公報(甲2。以下「引用公報2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)を適用することにより容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項により特許を受けることができないとしたものである。

審決が認定した引用発明1の内容,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点(後記原告主張の取消事由に係る部分に限る。)は以下のとおりである。

(1)  引用発明1の内容

「既設定されたリングバック・トーンの代替可否に対する第1情報と,音源提供手段でルーティングするための第2情報とを,そのホーム位置登録器から,呼が着信した交換機に提供する第1段階と,

前記着信交換機において,前記提供された第1情報及び前記第2情報に基づいて,前記呼の発信者にリングバック・トーンを提供し,または,前記音源提供手段にトランク呼接続を要請して着信加入者識別情報を提供する第2段階と,

前記音源提供手段において,前記着信加入者に対して既指定された音源を探索して,その探索された音源をリングバック・トーンの代わりにトランク呼接続された前記着信交換機を通して前記発信者に提供する第3段階を含む

加入者基盤のリングバック・トーンサウンドの提供方法。」

(2)  一致点

「着信端末機の着信交換機への登録の際,ホーム位置登録機から上記着信交換機に,上記ホーム位置登録機に既に設定されているリングバックトーン代替有無に関する第1の情報,及び音源提供手段へのルーティングのための第2の情報を提供する段階;

発信端末機が上記着信端末機との通話を要請する場合,上記着信交換機から上記第1及び第2の情報に従って上記音源提供手段に呼接続を要請する段階;及び

呼接続の要請を受信する場合,上記音源提供手段が上記発信端末機に呼接続し,上記着信端末機に対応して設定された音源を検出し,検出された音源を上記発信端末機に提供する段階;を含む

加入者基盤のリングバックトーンサービスにおける情報送出方法。」

(3)  相違点

「『音源』に関し,本願発明は『特定音源』であって,『上記特定音源は,着信加入者を識別させるか特徴を表すことができる特定情報に関する個人情報音源と,上記着信加入者により設定されたリングバックトーン共通代替音源との組み合わせから生成されており,個人情報音源及び一般のリングバックトーンの順,個人情報音源,代替音源及び個人情報音源の順,代替音源,個人情報音源及び代替音源の順,個人情報音源,第1代替音源,第2代替音源及び個人情報音源の順,第1個人情報音源,第1代替音源,第2個人情報音源及び第2代替音源の順,並びに,第1代替音源,第1個人情報音源,第2代替音源及び第2個人情報音源の順のうちの1つ以上を含むように,順次配列されている』のに対し,引用発明1は単に『音源』である点。」

第3原告主張の取消事由

以下のとおり,審決には相違点についての容易想到性の判断の誤りがあり,違法として取り消されるべきものである。

1  本願発明は,個人情報音源とリングバックトーン共通代替音源とが別々に順に再生されるというものである。これに対し,引用発明1は,着信加入者に対して既指定された音源をリングバックトーンの代わりにトランク呼接続された着信交換機を通して発信者に提供するものであり,引用発明2は,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽が合成されたリングバックトーンを発信者に提供するもの,すなわち,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽とが同時に再生されるものである。

したがって,引用発明1と引用発明2とを組み合わせたとしても,リングバックトーンの代わりに,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽などの音源とが同時に再生されるだけで,本願発明のように,個人情報音源とリングバックトーン共通代替音源とが別々に順に再生されることはなく,本願発明に到達することはできない。

また,引用発明2では,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽とが同時に再生されるので,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽との配列の順というものが存在しない。したがって,引用発明2において,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽との配列の順に想到することは,当業者にとって容易ではない。

2  本願発明の「個人情報音源」や引用公報2の「ユーザー情報を提供する音声」は,着信者に関する情報に対応する音源であるのに対して,特開昭57-87661号公報(甲3)の「トーキー」や,特表平9-506232号公報(甲4)の「アナウンス」は,第三者によって決定され,着信者が正しいか否かを判断することはできない。したがって,上記公報に記載されているような周知技術は,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽とが同時に再生される引用発明2において,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽との配列の順に想到する動機付けとはならない。

3  引用公報2において,本願発明のリングバックトーン代替音に対応する音声を「『背景』音楽」と呼ばれていることから,引用発明2の「ミキシング」は,音声が再生されている後ろで背景音楽が再生されている,すなわち,音声と背景音楽とが重ね合わせて再生されるものであると解釈するのが自然である。したがって,音声と背景音楽の二つのデータを重ね合わせて一つのリングバックトーンデータに合成することは含むが,音声と背景音楽の二つのデータをつなぎ合わせて一つのリングバックトーンデータに合成することは含まれない。

また,音声と背景音楽とを重ねて合わせて再生するという場合,通常は,背景音楽の再生中に音声が再生され,背景音楽の切れ目には音声は再生されないと解釈するのが自然であり,引用公報2では音声のみが再生される期間は存在しない。したがって,引用公報2では,「音声と背景音楽とがともに再生される期間」と「音声が再生されず背景音楽のみが再生される期間」とが交互に並ぶこととなり,本願発明の構成と異なっている。

4  引用公報1は,リングバックトーン代替音だけを再生するもので,引用公報2は,背景音楽を再生し,背景音楽の再生中に音声を重ねて再生するものにすぎない。また,引用公報1及び2には,リングバックトーン代替音として用いる複数の音源を順に並べることについて何ら示唆はない。

したがって,被告の主張する周知技術を考慮したとしても,引用公報2を引用公報1に適用する場合には,リングバックトーン代替音に音声を重ねる構成とするのが自然であり,リングバックトーン代替音と音声とを順に再生する構成とすることは当業者にとって容易ではない。

第4被告の反論

1  引用発明2の具体的な態様では,音声データと背景音楽の2つのデータが,ミキシング(複数の音声を,相互にバランスをとり,また組合せを変えて一つにまとめる操作)により一つのリングバックトーンデータに合成されるものである。そして,引用発明2のミキシングにおいて,(1)音声データと背景音楽の二つのデータを重ね合わせて一つのリングバックトーンデータに合成するか,(2)音声データと背景音楽の二つのデータをつなぎ合わせて一つのリングバックトーンデータに合成するかは単なる設計的事項にすぎず,引用公報2にはその両者の態様が示唆されている。

2  仮に,引用発明2のミキシングが,音声データと背景音楽の二つのデータを重ね合わせて一つのリングバックトーンデータに合成することに限定されるとしても,音声の合間に背景音楽だけが再生される期間が存在し,また背景音楽の切れ目に音声だけが再生される期間が存在するので,本願発明との差違は格別なものとはいえない。

3  一般に,音声と音楽とを再生する方法として,同時に再生することも,順次に再生することも,ともに広く慣用されてきた技術常識である。そして,両者の間には技術的に有意な格別の差違を認めることもできないから,どちらの再生方法を採用するかは,聞く側の聞き取りやすさや,受ける印象などを考慮して従来から適宜選択されてきたというのが当業者における技術水準であり,この点は,リングバックトーンにおいても一般の音声と音楽の再生の場合と変わるところはない。

以上の事情を踏まえ,審決は,引用発明2を引用発明1に適用するにあたって,引用発明2は二つの音源の合成であるから音源の「組み合わせ」であるといえ,これを二つの音源を順次に再生する構成とすることは適宜選択される程度の事項であり,またその順序は,内容などに応じて適宜に設計できる事項であることから,「引用発明2の『リングバックトーン』は,これら2つの音源を合成して発生するのであるから,『組み合わせ』から生成されており,・・・,その2つの音源の配列の順は当業者であれば必要に応じ適宜に定め得る設計的事項というほかはない。」と判断したのであって,その判断に誤りはない。

第5当裁判所の判断

当裁判所は,原告の取消事由の主張には理由がなく,その他,審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  引用公報1について

引用公報1は,「着信加入者が所望する特定サウンドを発信者にリングバック・トーン・・・で提供する,加入者基盤のリングバック・トーンサウンドの提供方法及び提供装置に関する」ものである(甲1,【0001】)。そして,同公報には前記第2の3(1)の内容の発明が記載されているものと認められる(甲1)。

2  引用公報2について

(1)  引用公報2には,「ユーザー情報を提供する音声と背景音楽が合成されたリングバックトーンの発生システム」を内容とする考案が記載されているものと認められる(甲2)。

(2)  そして,引用公報2(甲2)には,以下のとおりの記載がある。

ア 「本考案は,移動通信端末のユーザー情報を提供する音声と背景音楽が合成されたリングバックトーンの発生システムに関するものである。」(2頁13~14行)

イ 「近年,・・・待機時送出されるリングバックトーンをユーザーが希望する歌謡やポップソング等の背景音楽で送出するサービス・・・が開発され,移動通信端末ユーザーに非常に好評を得ている。

しかし,通常のリングバックトーン又は背景音楽が送出されるリングバックトーンだけを聞く限りでは,電話をかけた相手が自分が電話をかけた相手であることを確認することができないため,発信者が間違い電話をかけた場合,不要にも相手に失礼を犯すことになるが,このようなことが頻繁に発生している。・・・」(2頁18ないし28行)

ウ 「考案が解決しようとする課題

上記のような問題点を解消するため,本考案の目的は,現在の移動通信事業者が提供する背景音楽のリングバックトーンのほかに,受信者の移動通信端末の電話番号と受信者の名前,別名,または商号などの受信者情報を背景音楽と一緒に電話をかけた発信者に聞かせるようにすることで,発信者が誰に電話をかけているかを正確に案内するようにして,誤った通話を事前に防止しようとするところにある。

また,リングバックトーンで送出される受信者の情報を移動通信端末のユーザーが直接指定できるようにすることで,自分の個性を表現したり,広報することができる通話便利を向上するための移動体通信付加価値サービスの方法を提供することができる。」(2頁29行ないし3頁2行)

エ 「図2は,本考案の実施例によるコンバートサーバー(40)のダイアグラムである。・・・コンバートサーバー(40)は,伝達されたテキストを文字-音声変換を通して音声データに変換し,ユーザーが選択した上記背景音楽と上記音声データをミキシング(mixing)して,最終段階のリングバックトーンデータを生成する。

上記コンバートサーバー(40)は,・・・ユーザーが入力したテキストを・・・音声データに変換する文字-音声変換エンジン(41)・・・によって変換された音声データと背景音楽リーダー(43)が読み込んだ背景音楽をミキシングするミキサー(Mixer,45)・・・リングバックトーンデータを生成する。・・・」(3頁31ないし43行)

(3)  以上によれば,引用発明2は,通常のリングバックトーン又は背景音楽が送出されるリングバックトーンに替えて,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽がミキシングされたリングバックトーンを用いることにより,前記(2)ウの課題を解決するものであると認められる。

そして,「ミキシング」とは,複数種類の音声データを組み合わせて合成することを意味する語であるが,引用公報2には,背景音楽と音声データ(受信者情報)を「一緒に・・聞かせる」こと,及び「背景音楽」と「音声データ」を「ミキシング」して,「リングバックトーンデータを生成する」ことについて,「背景音楽」と「音声データ」をどのように組み合わせて合成するかについて具体的な記載はない。

3  周知技術について

(1)  リングバックトーンにつき,特開昭57-87661号公報(甲3)には,「呼出信号送出手段と,トーキー音送出手段を有し,これ等の信号送出は・・・交互に送出又は重畳して送出する」(特許請求の範囲),「第3図(a)は呼出信号音RBT送出のない時間にトーキー音TKE送出を行うもので・・・」(2頁右上欄3行~4行),「第3図(b)の場合は発呼加入者に対する呼出信号音はトーキー音のバックグランドとして送出し,トーキー音も連続して送出する」(2頁右上欄16行~18行)との記載がある。また,特表平9-506232号公報(甲4)には「メッセージ再生器16は再生すべきアナウンスの種類とそれを再生する順序を決める」(25頁8~9行)との記載がある。

(2)  以上によれば,リングバックトーンにおいて,複数の音声データを「組み合わせて合成」する場合に,複数の音声データを同時に重ね合わせる態様に加えて,複数の音声データを順次配列する態様も周知技術であり,いずれを採用するかは,聞く側の聞き取りやすさや受ける印象などを考慮して,必要に応じて当業者において適宜選択可能な設計的事項にすぎないものと認められる。

4  容易想到性の判断について

前記1~3に認定したところに照らすと,引用発明1に引用発明2及び周知技術を適用して本願発明の構成に想到することは容易であるといえる。したがって,審決の判断に誤りはない。

5  原告の主張について

(1)  原告は,引用発明1と引用発明2とを組み合わせたとしても,本願発明のように,個人情報音源とリングバックトーン共通代替音源とが別々に順に再生されることはなく,本願発明に到達することはできないとか,引用発明2では,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽とが同時に再生されるので,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽との配列の順というものが存在せず,引用発明2において,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽との配列の順に想到することは,当業者にとって容易ではない,などと主張する。

しかし,前記3認定のとおり,複数の音声データを「組み合わせて合成」する場合に,複数の音声データを同時に重ね合わせる態様に加えて,複数の音声データを順次配列する態様も周知技術であり,いずれを採用するかは,必要に応じて当業者において適宜選択可能な設計的事項にすぎないものと認められる以上,引用発明1に引用発明2及び上記周知技術を適用して本願発明の構成に想到することは容易であるといえ,原告の上記主張を採用することはできない。

(2)  原告は,特開昭57-87661号公報(甲3)の「トーキー」や,特表平9-506232号公報(甲4)の「アナウンス」は,引用発明2において,ユーザー情報を提供する音声と背景音楽との配列の順に想到する動機付けとはならない旨主張する。

しかし,前記3認定の周知技術は,リングバックトーンとして用いる複数の音源を種々の順序で配列することに関するものであり,引用発明2と共通する技術分野のものである上に,引用公報2,特開昭57-87661号公報及び特表平9-506232号公報に,引用公報2に上記周知技術を適用することや,上記周知技術において着信者に関する情報に対応する音源を採用することを阻害する記載もない。さらに,前記3認定のとおり,複数の音声データを「組み合わせて合成」する場合に,複数の音声データを同時に重ね合わせる態様に加えて,複数の音声データを順次配列する態様も周知技術であり,いずれを採用するかは,必要に応じて当業者において適宜選択可能な設計的事項にすぎないものと認められる以上,原告の上記主張を採用することはできない。

(3)  原告は,引用発明2の「ミキシング」は,音声と背景音楽とが重ね合わせて再生されるものであると解釈するのが自然であるので,音声と背景音楽の二つのデータを重ね合わせて一つのリングバックトーンデータに合成することは含むが,音声と背景音楽の二つのデータをつなぎ合わせて一つのリングバックトーンデータに合成することは含まれないとか,音声と背景音楽とを重ねて合わせて再生するという場合,通常は,背景音楽の再生中に音声が再生され,背景音楽の切れ目には音声は再生されないと解釈するのが自然であり,引用公報2では音声のみが再生される期間は存在しないので,引用公報2では,「音声と背景音楽とがともに再生される期間」と「音声が再生されず背景音楽のみが再生される期間」とが交互に並ぶこととなり,本願発明の構成と異なる,などと主張する。

しかし,引用発明2の「ミキシング」に,音声と背景音楽の二つのデータをつなぎ合わせて一つのリングバックトーンデータに合成することが含まれないとか,引用発明2においては,「音声と背景音楽とがともに再生される期間」と「音声が再生されず背景音楽のみが再生される期間」とが交互に並ぶこととなると解するとしても,前記3認定のとおり,複数の音声データを「組み合わせて合成」する場合に,複数の音声データを同時に重ね合わせる態様に加えて,複数の音声データを順次配列する態様も周知技術であり,いずれを採用するかは,必要に応じて当業者において適宜選択可能な設計的事項にすぎない以上,引用発明2に上記周知技術を適用することは容易であり,原告の上記主張を採用することはできない。

(4)  原告は,引用公報1は,リングバックトーン代替音だけを再生するもので,引用公報2は,背景音楽を再生し,背景音楽の再生中に音声を重ねて再生するものにすぎないし,引用公報1及び2には,リングバックトーン代替音として用いる複数の音源を順に並べることについて何ら示唆はないので,被告の主張する周知技術を考慮したとしても,引用公報2を引用公報1に適用する場合には,リングバックトーン代替音に音声を重ねる構成とするのが自然であり,リングバックトーン代替音と音声とを順に再生する構成とすることは当業者にとって容易ではない旨主張する。

しかし,前記(1)に認定したところと同様の理由により,原告の上記主張を採用することはできない。

6  まとめ

以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。また,他に審決に取り消すべき違法もない。

第6結論

よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 西理香 裁判官 神谷厚毅)

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