知財高等裁判所 平成25年(ネ)10002号 判決 2013年11月27日
控訴人
大王製紙株式会社
旧商号:ダイオーペーパーコンバーティング株式会社
控訴人
エリエールプロダクト株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士
村林隆一
同
井上裕史
同
田上洋平
同
佐合俊彦
上記両名訴訟代理人弁理士
永井義久
上記両名補佐人弁理士
和泉久志
被控訴人
ユニ・チャーム株式会社
訴訟代理人弁護士
近藤惠嗣
同
萩尾保繁
同
山口健司
同
薄葉健司
訴訟代理人弁理士
古賀哲次
補佐人弁理士
蛯谷厚志
同
森本有一
同
小野田浩之
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ1億円及びこれに対する平成22年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,いずれも発明の名称を「使い捨て紙おむつ」とする特許権(特許第4197179号(以下「本件第1特許」という。)及び特許第4463322号(以下「本件第2特許」という。))を有する控訴人らが,被控訴人が製造・販売する紙おむつは,本件第1特許の特許請求の範囲の請求項1及び3記載の各発明並びに本件第2特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明の技術的範囲に属しており,その紙おむつの製造・販売は上記各特許権を侵害すると主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づき,損害賠償を請求した事案である。原審は,上記紙おむつは,上記各発明の技術的範囲に属しないとして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。控訴人らは,原審の判断のうち,本件第1特許に係る特許権の侵害に基づく請求を棄却した部分のみを不服として,上記の裁判を求めて控訴を提起した。
2 前提となる事実,争点及び争点についての当事者の主張は,次のとおり原判決を補正し,後記3のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1ないし3記載のとおりであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合は,「原告」を「控訴人」と,「被告」を「被控訴人」と,それぞれ読み替える。)。
(1) 原判決2頁17行目冒頭の「ア」,及び同頁24行目冒頭から同3頁4行目末尾までを削る。
(2) 原判決3頁9行目の「とおりであり」を「とおりである」と改め,同頁11行目の「,本件第2特許権」から同頁15行目の「という。)」までを削る。
(3) 原判決4頁19行目冒頭から同5頁24行目末尾までを削る。
(4) 原判決6頁6行目冒頭から同頁8行目末尾までを次のとおり改める。
「(5) 本件第1発明と各被控訴人製品との対比
各被控訴人製品は,本件第1発明1の構成要件AないしC,E1及びGを充足する。」
(5) 原判決6頁11行目冒頭から同行目末尾までを次のとおり改める。
「(2) 各被控訴人製品が本件第1発明の技術的範囲に属するか否か(争点2)
ア 文言侵害の成否(争点2-1)
イ 均等侵害の成否(争点2-2)
ウ 均等侵害の主張は時機に後れた攻撃方法か否か(争点2-3)」
(6) 原判決6頁12行目の「本件第1発明に係る特許」を「本件第1特許」と改める。
(7) 原判決7頁5行目「争点2(各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か)について」を「争点2(各被控訴人製品が本件第1発明の技術的範囲に属するか否か)・争点2-1(文言侵害の成否)について」と改める。
(8) 原判決8頁8行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同頁9行目冒頭の「b」を「c」と,同頁16行目冒頭の「c」を「d」とそれぞれ改める。
「b(a) 被控訴人は,構成要件Dの「サイドフラップ」は,脚回り部位において吸収体の側縁より外側にはみ出している裏面シートからなる部位を指すと主張する。しかし,被控訴人の主張は,本件第1発明の技術的意義を正解しないものである。
すなわち,従来,紙おむつにおける体液漏出防止機能は,紙おむつを構成する裏面シートの側部に弾性伸縮部材を設け,平面ギャザーを構成して体液の漏出防止を図るというものであったが,平面ギャザーのみでは体液を十分に堰き止めることができなかった。そのため,平面ギャザーと不織布を起立させた立体ギャザーを併用する構成を採用し,これより高い体液漏出防止機能を実現することが可能となり,このような平面ギャザーと立体ギャザーを併用する方式が紙おむつの完成形として理解されていた。当業者は,このような平面ギャザーと立体ギャザーを併用する方式の紙おむつにおいて,平面ギャザー(サイドフラップ)が外部にフリル状に突出形成されるという,見栄えについての問題点を認識していたが,平面ギャザーと立体ギャザーの併用という呪縛から脱することができずにいた。かかる状況下において,本件第1発明は,表面シートが吸収体側縁部を巻き込み,また,ギャザー不織布の起立先端部に配置された弾性伸縮部材と吸収体の裏面側両側部近傍に配置された弾性部材の伸縮力によりギャザー不織布と共に吸収体の両側部を起立させた特徴的な構成(構成要件F)を採用した結果,平面ギャザー(サイドフラップ)と立体ギャザーを併用した紙おむつと同等の体液漏出防止機能を実現しながら,平面ギャザーを省略することを実現したのであり,ここに本件第1発明の技術的意義がある。
上記のような本件第1発明の技術的意義に照らせば,構成要件Dの「サイドフラップ」は,体液漏出防止機能を有するような構成を意味し,単なる外形シート(裏面シート)の余剰部を意味するものでないことは明らかである。
(b) 被控訴人は,控訴人らの主張が「平面ギャザー」=「サイドフラップ」であることを前提として初めて成り立つ主張であるとか,控訴人らの主張する構成要件Dの解釈は,「かつ前記裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフラップを無くし」という特許請求の範囲の文言に矛盾するなどと主張する。
しかし,特許請求の範囲には,上記のとおり「ほぼ一致させる」と記載されているのであるから,本件第1発明が裏面シートの余剰部までも完全になくすことを意味しないことは自明である。
(c) 被控訴人は,「脚周りをすっきり」させて「見栄えの向上を図る」という課題解決のために省略すべき対象が体液漏出防止機能を有するものであることが論理必然的に導かれるものではないとも主張する。
しかし,被控訴人の主張は,本件第1発明の課題を正確に捉えていないものであり,理由がない。すなわち,当業者は,本件第1特許明細書の【0003】の記載及び技術常識から,構成要件Dの「サイドフラップ」が平面ギャザーが構成されるような広がりを有するものであり,単なる余剰部でないことを当然に理解する。また,本件第1特許明細書の【0006】に記載されているとおり,本件第1発明は,平面ギャザーを設けることなく十分な体液漏出防止機能(吸収性能)を確保することを主題としており,平面ギャザーが省略できることの同時的な効果として,それまで「脚周りに沿って形成されていたサイドフラップ」,すなわち,従来平面ギャザーを設けるために存在した脚周りのサイドフラップをなくし見栄えを向上させたのである。」
(9) 原判決10頁6行目冒頭から同12頁25行目末尾までを削る。
(10) 原判決13頁18行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同頁19行目冒頭の「b」を「c」と改める。
「b(a) 控訴人らの主張は,「平面ギャザー」=「サイドフラップ」であることを前提として初めて成り立つ主張である。
しかし,本件第1特許明細書においては,「サイドフラップ」は平面ギャザーを構成する要素にすぎず,従来技術の説明において,体液漏出防止機能を担う平面ギャザーと「サイドフラップ」とが同一であるとは説明されていない。発明の詳細な説明における他の記載を見ても,「サイドフラップ」がなくなることにより見栄えの向上が図られることが説明されているだけで,「サイドフラップ」が体液漏出防止機能を有するものに限られ,単なる外形シートの余剰部は「サイドフラップ」に当たらないことをうかがわせるような説明はない。また,控訴人らによる他の特許出願明細書においても,「サイドフラップ」は「平面ギャザー」を構成する要素として説明されており,両者を同一のものとして説明しているものは見当たらない(乙47,48の1~39)。
したがって,「平面ギャザー」=「サイドフラップ」であることを前提とする控訴人らの主張は成り立たない。
(b) 控訴人らの主張する構成要件Dの解釈は,「かつ前記裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフラップを無くし」という特許請求の範囲の文言にも矛盾し,採用の余地はない。
(c) 控訴人らの主張は,「本件第1発明は,構成要件Fを採用した結果,平面ギャザー(サイドフラップ)と立体ギャザーを併用した紙おむつと同等の体液漏出防止機能を実現しながら,平面ギャザーを省略することを実現したところに本件第1発明の技術的意義がある」という理由から,直ちに「構成要件Dの「サイドフラップ」は,体液漏出防止機能を有する構成を意味し,単なる外形シート(裏面シート)の余剰部を意味するものではないとの結論を導くものである。
しかし,体液漏出防止という課題の観点からすれば,体液漏出防止機能を有する平面ギャザー(弾性伸縮部材が配設されたサイドフラップ)が残っていた方がより好ましいことは明らかであり,逆に,サイドフラップを無くさない限り,それが体液漏出防止機能を有していようがいまいが,本件第1特許明細書に明記された「脚周りに沿って形成されるサイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を図る」(【0006】)という課題は解決されないのであるから,「脚周りをすっきり」させて「見栄えの向上を図る」という課題解決のために省略すべき対象が体液漏出防止機能を有するものであることが論理必然的に導かれるものではない。
したがって,控訴人らの主張する本件第1発明の技術的意義の真偽を確認するまでもなく,控訴人らの主張には論理の飛躍があり,失当である。」
(11) 原判決16頁10行目冒頭から20頁2行目末尾までを削る。
(12) 原判決20頁3行目の「本件第1発明に係る特許」を「本件第1特許」と改める。
3 当審における当事者の主張
(1) 争点2-2(均等侵害の成否)について
ア 控訴人らの主張
仮に,各被控訴人製品が構成要件Dを充足しないとしても,各被控訴人製品は,次のとおり,いわゆる均等の5要件を充たしているから,本件第1発明と均等であり,その技術的範囲に属する。
(ア) 非本質的部分(第1要件)
本件第1発明の作用効果は,「コンパクト化等を図りながらも十分な吸収性能を確保する」ことにあり,当該作用効果を奏するのは,本件発明1において,表面シートが吸収体側縁部を巻き込み,また,ギャザー不織布の起立先端部に配置された弾性伸縮部材と吸収体の裏面側両側部近傍に配置された弾性部材の伸縮力によりギャザー不織布と共に吸収体の両側部を起立させるという特徴的な構成(構成要件 F)を採用した点にある。
よって,本件第1発明の本質的な部分は,構成要件Fの具体的な構成にあり,裏面シートに余剰部があるかどうかは,本件第1発明の本質的部分ではない。
(イ) 置換可能性(第2要件)
各被控訴人製品は,本件第1発明と同様に,吸収体側縁部の近傍に配置された弾性伸縮部材9により,吸収体の側縁部が起立し,使用者の肌との間に防壁を構成し,その結果,体液の流れは抑制され,効率的に吸収体に吸収されている。
よって,各被控訴人製品が,本件第1発明の「コンパクト化等を図りながらも十分な吸収性能を確保」していることは,明らかである。
また,見栄えについても,本件第1発明が解決しようとするのは,「フリル状に外部に突出形成される前記サイドフラップSFが見栄えを悪くしているなどの問題」であるから,平面ギャザーを省略した各被控訴人製品は,当該課題を解決している。
よって,各被控訴人製品は,本件第1発明と同一の作用効果を奏しており,構成要件Dに係る上記相違点には,置換可能性がある。
(ウ) 置換容易性(第3要件)
本件第1発明の課題を解決するため,裏面シートの余剰部を全部除去するのではなく,見栄えが悪くならない程度に多少の余剰部を残すことは,各被控訴人製品製造時点で,当業者において,適宜選択可能な事項である。
よって,置換容易性の要件を充足する。
(エ) 公知技術からの想到非容易性(第4要件)
本件第1発明の構成要件Fは,本件第1特許の出願前の公知技術にはない独創的な構成であるから,構成要件Fを備える各被控訴人製品の構成は,本件第1特許権の特許出願前の公知技術から当業者が容易に想到できたものではない。
(オ) 意識的除外等の特段の事情(第5要件)
本件第1特許権に係る特許出願審査の過程で,各被控訴人製品の構成を除外した等の特段の事情はない。
イ 被控訴人の主張
均等論は,特許請求の範囲に記載された構成とは異なる構成が対象製品に存在し,特許発明と実質的に同一の目的を達していることを前提とするものである。しかるに,控訴人らの主張によれば,特許請求の範囲に記載された「脚回りにサイドフラップを無くした構成」と,各被控訴人製品における「脚回りにサイドフラップが存在する構成」とが均等であるというものであり,それは,結局,サイドフラップはあってもなくてもよいということを言っていることになる。そうだとすると,そもそも,本件第1発明においてサイドフラップを無くした構成を採用したことが無意味であったことになるから,均等論の各要件について論じるまでもなく,控訴人らの均等侵害の主張は失当というべきである。
また,各被控訴人製品は,以下のとおり均等論の各要件を充足しないから,均等侵害は成立しない。
(ア) 非本質的部分(第1要件)について
本件第1特許明細書の記載(【0006】~【0008】,【0012】,【0020】,【0030】)からすれば,仮に控訴人らが主張するように,構成要件Fが本件第1発明の本質的部分であったとしても,構成要件Dも本件第1発明の本質的部分であることは明らかである。
また,本件第1特許の出願経過において出された平成20年9月8日付け特許メモ(乙49参照)には,「参考文献には『脚回りにサイドフラップを無く』し,且つ『吸収体の裏面両側部または裏面側両側部近傍に弾性伸縮部材をおむつ長手方向に沿って配設』することが,記載も示唆もされていない。」と記載されていることからして,本件第1発明が,「脚回りにサイドフラップを無く」した点を主要な根拠として特許性が認められたものであることが明らかである。したがって,当該出願経過に照らしても,構成要件Dが本件第1発明の本質的部分であることは明らかである。
そうすると,各被控訴人製品は,本件第1発明とその本質的部分において相違するものであるから,均等論の第1要件を充足しない。
(イ) 置換可能性(第2要件)について
控訴人らの均等侵害の主張は,各被控訴人製品が構成要件Dの「サイドフラップ」を「有する」ものであることを前提とした主張である。そうであれば,「サイドフラップ」を「無くし」たことによる目的ないし作用効果が,「サイドフラップ」を「有する」構成によって達成ないし奏されるはずがないことは自明である。よって,均等論の第2要件を充足しない。
(ウ) 置換容易性(第3要件)について
置換可能性が認められない以上,置換容易性がないことは当然である。よって,均等論の第3要件も充足しない。
(エ) 公知技術からの想到非容易性(第4要件)について
本件第1発明は,米国特許第5919179号明細書(乙35明細書)に記載された発明(乙35発明)に基づく新規性若しくは進歩性欠如の無効理由を有し,また,実公平4-4744号公報(乙36公報)に記載された発明(乙36発明)及び特開平3-111048号公報(乙37公報)に記載された発明(乙37発明)に基づく進歩性欠如の無効理由を有する。
したがって,各被控訴人製品の構成が本件第1発明の技術的範囲に属するのであれば,各被控訴人製品の構成が,本件第1特許の出願時における公知技術と同一又は容易に推考できたものであることは明らかである。
よって,均等論の第4要件も充足しない。
(オ) 意識的除外等の特段の事情(第5要件)について
仮に,各被控訴人製品のように「サイドフラップ(裏面シートのうち,吸収体の側縁よりも外方に延在した部分)を有する」使い捨て紙おむつを本件第1発明の技術的範囲に含めたいのであれば,構成要件Dに係る要件を特許請求の範囲の記載にクレームアップしなければ足りた話である。そして,本件第1特許明細書の【0002】,【0007】等の記載から,「裏面シートのうち,吸収体の側縁よりも外方に延在した部分」を有する構成の候補も開示されているといえる。それにもかかわらず,控訴人らは,あえて,「かつ前記裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフラップを無くし」(構成要件D)という特定の構成のみを特許請求の範囲に記載したのであるから,均等論の第5要件を欠くというべきである。
(2) 争点2-3(均等侵害の主張は時機に後れた攻撃方法か否か)について
ア 被控訴人の主張
控訴人らの均等侵害の主張は,平成22年4月6日の訴状提出から平成24年7月13日原審口頭弁論終結までの2年3か月もの長期間行われた原審において一度も触れられていなかった論点であって,控訴審において新たに提出された攻撃方法であるから,時機に後れたものして却下されるべきである。
イ 控訴人らの主張
均等論の主要な要件である置換可能性(第2要件)は,原審の文言侵害の主張立証でも尽くされているし,非本質的部分(第1要件)の主張立証も,原審で争われた構成要件Dの解釈についての主張立証と実質的に同一であるから,控訴審での均等侵害の主張立証が訴訟の完結を遅延させるものではない。また,均等侵害の主張は控訴理由書においてしており,時機に後れたものではない。したがって,被控訴人の主張には理由がない。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,各被控訴人製品は,本件第1発明の技術的範囲に属しないから,本件第1特許権侵害の不法行為に基づく控訴人らの損害賠償請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 争点2(各被控訴人製品が本件第1発明の技術的範囲に属するか否か)・争点2-1(文言侵害の成否),争点2-2(均等侵害の成否)及び争点2-3(均等侵害の主張は時機に後れた攻撃方法か否か)について
(1) 本件第1発明1について
ア 本件第1特許明細書の記載
本件第1特許明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある(甲2)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,サイドフラップを無くし見栄えを向上するとともに,吸収体両側部を身体側に持上げフィットさせるようにした使い捨て紙おむつに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より,市場に提供されている紙おむつは,図9および図10に示されるように,裏面側に配置されるポリエチレン等からなる不透液性裏面シート51と,表面側に配置される不織布等からなる透液性表面シート52と,これら不透液性裏面シート51と透液性表面シート52との間に配置された略砂時計状の吸収体53とから主に構成され,紙おむつの両側部においては,表面側に設けられた不織布等からなる立体ギャザーシート54と,その内側端縁に沿って配設された弾性伸縮部材55とにより表面側に起立する立体ギャザーBSが形成されるとともに,吸収体53の側縁よりも側方に延在された前記不透液性裏面シート51部分と,前記立体ギャザーシート54の外側シート部分とにより吸収体53の介在しないサイドフラップ部SFが形成され,かつこれらの間に複数条の糸状弾性ゴム57,57…が紙おむつの長手方向に沿って配置されることにより,前記サイドフラップ部SFにひだ状の平面ギャザーGKが形成されている。…」
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述したように従来の紙おむつの構造の場合には,比較的剛性の高い吸収体53の存在によって股間部にゴワ付き感を与えないように,吸収体の平面形状を略砂時計状としているため,体液排出部となる股間部の吸収体幅が他よりも狭くなり体液吸収能力が低下するなどの問題があった。この問題に対処するため,たとえば砂時計状としながらも吸収体を相対的に大きくすることも考えられるが,この場合には図11に示されるように,吸収体側部Aが臀部のカーブ線にフィットしなくなり,逆にもたつき感を与え装着性が悪化するなどの問題があった。
【0004】
一方近年は,持運び性や収容性などの理由から製品のコンパクト化および薄型化などが図られるようになっているが,前述の使い捨て紙おむつの場合には,股間部での吸収体幅が小さく出来ず,コンパクト化等の障害となっていた。
【0005】
他方,前記立体ギャザーBSを乗り越えて漏出する体液を堰き止めるために,脚周りには吸収体側縁よりも外方部分に吸収体の存在しないサイドフラップSFを形成するとともに,弾性伸縮部材57,57…を配設して平面ギャザーGKを形成している。しかし,フリル状に外部に突出形成される前記サイドフラップSFが見栄えを悪くしているなどの問題があった。
【0006】
そこで本発明の主たる課題は,コンパクト化等を図りながらも十分な吸収性能を確保することができ,かつ臀部のカーブ線に沿って吸収体をフィットさせることでゴワ付き感やもたつき感を無くすことにある。また同時に,脚周りに沿って形成されているサイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を図ること等にある。」
「【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明は,…前記吸収体の長手方向両側部において前記透液性表面シートが吸収体側縁部を巻き込んで吸収体の裏面側まで延在して固定されるとともに,前記立体ギャザーを形成するためのギャザー不織布が前記透液性表面シートによって巻き込まれた吸収体側縁部をさらに上側から巻き込んで吸収体の裏面側まで延在して固定され,かつ前記裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフラップを無くし,前記吸収体側縁部を巻き込んで起立するギャザー不織布の起立先端部分に弾性伸縮部材を配設するとともに,少なくとも吸収体の裏面両側部または裏面側両側部近傍に弾性伸縮部材をおむつ長手方向に沿って配設し,前記ギャザー不織布の起立先端部分に配置された弾性伸縮部材と,前記吸収体の裏面両側部または裏面側両側部近傍に配置された弾性伸縮部材との伸縮力により前記ギャザー不織布と共に前記吸収体の両側部を起立させるようにしたことを特徴とするものである。…
【0008】
本発明においては,コンパクト化等を図るために好ましくは吸収体を方形状とし,透液性表面シートを吸収体の側縁部を巻き込んで吸収体裏面がわまで延在させるとともに,立体ギャザー形成用のギャザー不織布についても同様に吸収体の側縁部を巻き込んで吸収体裏面がわまで延在させるようにしている。したがって,脚周りにサイドフラップが形成されないため見栄えが良好となる。」
「【発明の効果】
【0012】
以上詳説のとおり,本発明によれば,コンパクト化等を図りながらも十分な吸収性能を確保することができ,かつ臀部のカーブ線に沿って吸収体をフィットさせることでゴワ付き感やもたつき感を無くすことができる。また同時に,脚周りに沿って形成されているサイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を図ることができる。」
「【発明を実施するための最良の形態】
…
【0020】
前記裏面シート1は略砂時計状とされ,少なくとも脚周りの幅寸法は前記吸収体3の幅寸法とほぼ同寸法とされ,吸収体3の側縁線にほぼ一致した形状となっている。
…
【0025】
前記二重シート不織布によって形成されたギャザー不織布6の内部には,起立先端部分に糸状弾性伸縮部材8が配設されるとともに,吸収体3の側縁部近傍部位に糸状弾性伸縮部材9が配設され,さらに吸収体3の裏面がわ側部に糸状弾性伸縮部材10が夫々配設されている。前記先端部弾性伸縮部材8は,主にはその弾性伸縮力により吸収体側縁部より突出する不織布部分を起立させて立体ギャザーBSを形成するためのものであり,前記糸状弾性伸縮部材9,10は,主にその弾性伸縮力により図4の製品状態図に示されるように,吸収体3の側部を屈曲させ,該側部を上方に持上げるためのものである。前記屈曲部には,図1および図4に▼印で示されるように,吸収体3の側部が屈曲し易いように吸収体3の表面側に屈曲線に沿ってエンボス線11,11を形成するのが望ましい。また,前記屈曲部から吸収体側縁までの起立長さHLは,5~30mm,好ましくは20~30mmとするのが望ましい。前記起立長さHLが5mm未満の場合には,短すぎて吸収体側部を屈曲させることが困難になるとともに,肌に対する十分なフィット性が確保できない。また,起立長さHLが30mmを超えると,起立長さが長過ぎて効果的に屈曲させることができないなどの問題が生じる。
【0026】
なお,前記糸状弾性伸縮部材の配設本数については,立体ギャザーBSを形成するために起立部の先端に配設される糸状弾性伸縮部材8と,吸収体側部を持ち上げるために吸収体3の裏面がわ側部に配設される糸状弾性伸縮部材10との,少なくとも計2本の弾性伸縮部材を配設する必要があるが,好ましくは吸収体側縁部を境界として立体ギャザーBS側に2本以上,吸収体裏面側に2本以上配設するのが望ましい。前記糸状弾性伸縮部材8~10としては,通常使用されるスチレン系ゴム,オレフィン系ゴム,ウレタン系ゴム,エステル系ゴム,ポリウレタン,ポリエチレン,ポリスチレン,スチレンブタジエン,シリコン,ポリエステル等の素材を用いることができる。なお,糸状弾性伸縮部材に代えて,ある程度の幅を有するテープ状弾性伸縮部材を用いるようにしてもよい。
…
【0029】
かかる紙おむつの利点を装着状態を示す図5を参照しながら説明すると,吸収体3の側縁部および裏面がわに配設した糸状弾性伸縮部材9,10が吸収体側部を上方側に持ち上げるために,臀部のカーブ線に沿って吸収体をフィットさせるようになるため,着用者がもたつき感を感じることがなくなり装着性に優れるものとなる。また,吸収体3の上面が全幅に亘って肌と密着し有効な吸収エリアとなるため,吸収性能が格段に向上するようになるとともに,透液性表面シート2が少なくとも吸収体3の側縁部を巻き込んで裏面がわに達しているため,吸収体3の側縁部,さらに吸収体裏面がわ側部に形成したポケットPから尿等の再吸収が図れるため,吸収性能が向上し横漏れしづらいものと出来る。また,これら吸収性能の向上によりコンパクト化および薄型化が可能となる。
【0030】
さらに,脚周りに沿って形成されていた従来のサイドフラップが無くなり,脚周りがすっきりとするため見栄えが向上するようになる。」
イ 本件第1発明の概要
本件第1特許明細書の上記記載によれば,本件第1発明は,概要次のとおりのものであることが認められる。
従来の紙おむつの場合,比較的剛性の高い吸収体53の存在によって股間部にゴワ付き感を与えないように,吸収体の平面形状を略砂時計状としているため,体液排出部となる股間部の吸収体幅が他よりも狭くなり体液吸収能力が低下するなどの問題があった。一方,近年は,持ち運び性や収容性などの理由から製品のコンパクト化及び薄型化が図られるようになっているが,従来の紙おむつの場合には,体液吸収能力を維持する必要から股間部での吸収体幅を小さくできず,コンパクト化等の障害となっていた。他方,従来の紙おむつの場合,立体ギャザーを乗り越えて漏出する体液を堰き止めるために,脚周り部には吸収体側縁部よりも外側部分にサイドフラップを形成するとともに,弾性伸縮部材を配設して平面ギャザーを形成しているが,フリル状に外部に突出形成されるサイドフラップが見栄えを悪くしているという問題があった。
本件第1発明は,以上の課題を解決するために,構成要件B,C,D,E1,E2及びFの構成を採用することにより,コンパクト化等を図りながらも十分な吸収性能を確保することができ,かつ臀部のカーブ線に沿って吸収体をフィットさせることでゴワ付き感やもたつき感を無くすことができるという効果を奏し,また,脚周りに沿って形成されているサイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を図ることができるという効果を奏するものである。
ウ 本件第1発明1の構成要件Dの文言侵害について
(ア) 構成要件Dは,「かつ前記裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフラップを無くし,」というものである。
前記アで認定した本件第1特許明細書の記載及び構成要件Dの上記記載によれば,構成要件Dの「サイドフラップ」とは,吸収体の裏面側を覆う裏面シートのうち,吸収体の側縁よりも外方に延在したものを指すものと認められる。すなわち,従来技術におけるサイドフラップは,吸収体の側縁よりも外方に延在された裏面シートと,立体ギャザーシートの外側シートから形成されていた(本件第1特許明細書【0002】)ものの,本件第1発明においては,「立体ギャザーを形成するためのギャザー不織布が…吸収体側縁部をさらに上側から巻き込んで吸収体の裏面側まで延在して固定され」(構成要件C)るものであるから,サイドフラップとなり得るものは裏面シートだけであること,及び構成要件Dの上記記載のとおり,構成要件Dは,裏面シートの長手方向側縁を,少なくとも脚回り部位において吸収体の側縁よりも外方に延在させずに,吸収体の側縁にほぼ一致させることにより,脚回りにサイドフラップをなくすというものであることからすると,構成要件Dの「サイドフラップ」は上記のとおり,吸収体の裏面側を覆う裏面シートのうち,吸収体の側縁よりも外方に延在したものを指すと解するほかない。
なお,構成要件Dの「裏面シートは…吸収体の側縁にほぼ一致させることにより…サイドフラップを無くし」からすると,サイドフラップが吸収体の側縁からわずかにはみ出していると見られるようなものは,「ほぼ一致させることにより…サイドフラップを無くし」に包含されるものと解される。
(イ) 控訴人らは,「サイドフラップ」とは体液漏出防止機能を有する構成,すなわち,体液をせき止めるために平面ギャザーを形成したような構成を意味し,単なる裏面シートの「余剰部」を意味しないと主張する。
しかし,従来技術の紙おむつにおいて,「サイドフラップ」に弾性伸縮部材を設けて平面ギャザーを構成し,これにより体液漏出防止機能を有しているものが多かったとしても,本件第1発明の構成要件Dにおいて「無くし」とされているものは,平面ギャザーではなく,「サイドフラップ」である。そして,本件第1発明においては,サイドフラップを無くすことにより,脚回り部位の見栄えの向上を図ったものであることは,前記のとおり,本件第1特許明細書において本件第1発明の効果として明確に記載されているところである。従来技術の紙おむつにおいて,サイドフラップに設けられた平面ギャザーが体液防止機能を奏していたとしても,脚回りの見栄えを悪くしているのはサイドフラップであるから,本件第1発明においては,このサイドフラップを無くすことにより(構成要件D),脚回りの見栄えの向上を図ったものであると解するほかない。控訴人らの上記主張は,構成要件Dの「サイドフラップを無くし」を「平面ギャザーを無くし」と読み替えるものに等しく,本件第1特許明細書においては,サイドフラップと平面ギャザーとは異なるものとして明確に書き分けて記載されていることからしても,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
控訴人らは,「サイドフラップ」とは,吸収体の裏面側を覆う裏面シートのうち,吸収体の側縁よりも外方に延在した部分を指すとの上記解釈は,平面ギャザー(サイドフラップ)と立体ギャザーを併用した紙おむつと同等の体液漏出防止機能を実現しながら,平面ギャザーを省略することを実現した本件第1発明の技術的意義を正解しないものであるとも主張する。
しかし,本件第1発明の技術的意義が控訴人らの主張するように,平面ギャザーと立体ギャザーを併用した紙おむつと同等の体液漏出防止機能を実現しながら,平面ギャザーを省略することを実現したところにもあるとしても,本件第1発明の技術的意義は,それだけではなく,「サイドフラップを無くし」との構成により,脚回りをすっきりさせて見栄えの向上を図ったところにもあるのであり,このことは,サイドフラップを無くさない限り奏し得ない作用効果である。
したがって,本件第1発明の体液漏出防止機能という技術的意義を根拠として,「サイドフラップ」が同機能を奏するものに限られるとする控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(ウ) 各被控訴人製品が構成要件Dを充足するかについて
a 被控訴人製品1について
(a) 構成要件Dに対応する被控訴人製品1の構成が次のとおりであることは,当事者間に争いがない。
「裏面シートの長手方向側縁は,吸収体の側縁から以下の①ないし③の各箇所において,それぞれに記載された距離だけ外方に形成され,製品展開状態における裏面シートの長手方向側縁の形状が円弧状になるように形成されている。
① 吸収体側縁から最も距離が短い部分 平均12.2㎜
② 前身頃のレッグ開口始端と股下域の真下との間の二等分線上の箇所 平均36.0㎜
③ 前身頃の一番下(股下域寄り)に設けられた伸縮部材の線上の箇所 平均67.1㎜」
(b) これによれば,被控訴人製品1の裏面シートの長手方向側縁は,脚周り部位において,吸収体の側縁と一致せず,裏面シートの一部は,吸収体の側縁よりも外方に延在して,「サイドフラップ」を形成していることが認められる(この外方に延在している部分を,裏面シートがわずかにはみ出している部分とみることはできない。)。
(c) したがって,被控訴人製品1は,構成要件Dの「裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側縁を前記吸収体側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフラップを無くし」との構成を具備しない。
b 被控訴人製品2について
(a) 構成要件Dに対応する被控訴人製品2の構成が次のとおりであることは,当事者間に争いがない。
「裏面シートの長手方向側縁は,吸収体の側縁から以下の①ないし③の各箇所において,それぞれに記載された距離だけ外方に形成され,製品展開状態における裏面シートの長手方向側縁の形状が円弧状になるように形成されている。
① 吸収体側縁から最も距離が短い部分 平均12.0㎜
② 前身頃のレッグ開口始端と股下域の真下との間の二等分線上の箇所 平均31.6㎜
③ 前身頃の一番下(股下域寄り)に設けられた伸縮部材の線上の箇所 平均70.3㎜」
(b) これによれば,被控訴人製品2の裏面シートの長手方向側縁は,脚周り部位において,吸収体の側縁と一致せず,裏面シートの一部は,吸収体の側縁よりも外方に延在して,「サイドフラップ」を形成していることが認められる(この外方に延在している部分を,裏面シートがわずかにはみ出している部分とみることはできない。)。
(c) したがって,被控訴人製品2は,構成要件Dの「裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側縁を前記吸収体側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフラップを無くし」との構成を具備しない。
(エ) 以上のとおり,各被控訴人製品は,本件第1発明1の構成要件Dを充足しない。
エ 本件第1発明1の構成要件Dの均等侵害について
(ア) 各被控訴人製品と本件第1発明1との相違点
前記ウのとおり,各被控訴人製品は,裏面シートの一部が吸収体の側縁よりも外方に延在していて「サイドフラップ」を形成しており,本件第1発明1の構成要件D「かつ前記裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフラップを無くし,」を文言上充足しない。各被控訴人製品は,少なくともこの点において,本件第1発明1と相違する。
そして,均等侵害については,最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁が示す五つの要件について判断する必要があるところ,本件では,事案の内容に鑑み,まず,置換可能性(第2要件)から判断する。
(イ) 置換可能性(第2要件)について
本件第1発明1は,構成要件Dの「サイドフラップを無くし」との構成により,脚回りをすっきりさせて見栄えの向上を図るとの作用効果を奏するものであることは,前記認定のとおりである。そうすると,前記ウ認定のとおり,裏面シートが吸収体の側縁の外方に延在することにより,サイドフラップを備えた各被控訴人製品が,上記作用効果を奏することがないこと,すなわち,各被控訴人製品が,脚回りをすっきりとさせて見栄えの向上を図るとの作用効果を奏しないことは明らかである。
したがって,各被控訴人製品のサイドフラップを備えた上記構成は,本件第1発明1の構成要件Dと同一の目的及び作用効果を奏するとはいえず,置換可能性(第2要件)を充たすものではない。
(ウ) 非本質的部分(第1要件)について
前記アで認定した本件第1特許明細書の記載(【0006】~【0008】,【0012】,【0020】,【0030】)によれば,本件第1発明の本質的部分すなわち技術思想の中核的部分は,構成要件B,C,D,E1,E2及びFの構成を採用することにより,コンパクト化等を図りながらも十分な吸収性能を確保することができ,かつ臀部のカーブ線に沿って吸収体をフィットさせることでゴワ付き感やもたつき感を無くすことができるという効果を奏し,また,脚周りに沿って形成されているサイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を図ることができるという効果を奏する点にあるものと認められる。
各被控訴人製品は,構成要件Dの「サイドフラップを無くし」との構成を具備せず,サイドフラップを具備することにより,本件第1発明の上記作用効果のうち,少なくとも「脚周りに沿って形成されているサイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を図ることができる」との作用効果を奏するものではない。そうすると,各被控訴人製品と本件第1発明1との差異は,本件第1発明1の本質的部分に当たるといわざるを得ない。したがって,各被控訴人製品は,均等の第1要件も充たさないものである。
(エ) よって,各被控訴人製品について,本件第1発明1との関係において均等侵害は成立しない。
(オ) なお,被控訴人は,控訴人らの均等侵害の主張は時機に後れたものであり却下されるべきである旨主張する。
しかし,控訴人らの均等侵害の主張は,平成25年3月18日の当審第1回口頭弁論期日において陳述された控訴理由書に記載されており,既に提出済みの証拠に基づき判断可能なものである上,当裁判所は,その後2回の弁論準備手続期日(そのうち1回は技術説明会を実施したもの)を経て,同年10月7日の当審第2回口頭弁論期日において弁論を終結したものである以上,上記主張が「訴訟の完結を遅延させる」(民訴法157条1項)ものとまでは認められない。
したがって,控訴人らの均等侵害の主張を時機に後れたものとして却下する必要はない。
オ 小括
以上よれば,各被控訴人製品は,本件第1発明1の技術的範囲に属しない。
(2) 本件第1発明2について
前記(1)のとおり,各被控訴人製品は,本件第1発明1の構成要件Dを充足しない(均等の要件も充たさない。)。本件第1発明1は,本件第1特許権に係る特許請求の範囲の請求項1に係る発明であり,本件第1発明2は,同請求項3に係る発明であるところ,請求項3は「前記ギャザー不織布の吸収体側に対する固定領域を,吸収体側縁部から裏面がわに亘る範囲とする請求項1,2いずれかに記載の使い捨て紙おむつ。」とするものであり,請求項2は「前記吸収体の平面形状を方形状とする請求項1記載の使い捨て紙おむつ。」とするものである。したがって,各被控訴人製品は,本件第1発明1の構成要件Dを充足しない以上,本件第1発明2の構成要件Hを充足しないから,各被控訴人製品は,本件第1発明2の技術的範囲に属しない。
2 以上のとおり,本件第1特許権侵害の不法行為に基づく控訴人らの損害賠償請求はいずれも理由がない。
第4結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 西理香 裁判官 田中正)