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知財高等裁判所 平成25年(ネ)10021号 判決 2013年9月05日

控訴人(原告)

株式会社 高木

訴訟代理人弁護士

鈴木隆

山下善久

片山宏之

被控訴人(被告)

株式会社 TASAKI

訴訟代理人弁護士

内間裕

弘中聡浩

中原千繪

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が,商標登録第3055972号,商標登録第3307639号,商標登録第3335194号又は商標登録第3344966号の商標権のいずれに基づいても控訴人がその店舗内に別紙店舗掲示標章目録記載の各標章を掲示することを差し止める権利を有しないことを確認する。

3  被控訴人が,前項の商標に係る商品等表示について不正競争防止法3条1項に基づき控訴人がその店舗内に別紙店舗掲示標章目録記載の各標章を掲示することを差し止める権利を有しないことを確認する。

4  被控訴人は,控訴人に対し,2億5410万円及びこれに対する平成24年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  第4項について仮執行宣言。

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  本件請求の要旨

控訴人は,被控訴人との間で被控訴人商品の売買取引をしていた者であり,被控訴人は,指定商品に同商品を含む商標権を有する者であるが,被控訴人が控訴人店舗壁面等に掲示されていた標章の掲示の中止を要求するとともに被控訴人商品付属品の供給を中止したことから,控訴人は,被控訴人に対し,商標権又は不正競争防止法のいずれに基づいても被控訴人が控訴人に対して差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに,上記取引に係る債務不履行に基づき損害賠償金2億5410万円及び附帯金の支払を求めている。

(2)  原審の判断

原審は,①被控訴人は控訴人に対して上記控訴の趣旨第2項及び第3項に係るものと同旨の差止請求権をいずれも有する,②被控訴人に上記基本契約の債務不履行はない,として,控訴人の請求をいずれも棄却した。

2  前提となる事実

(1)  当事者

控訴人は,昭和51年10月に設立された各種アクセサリー製造及び販売並びに貴金属の加工及び販売等を目的とする資本金1000万円の株式会社である。(争いのない事実,甲29,弁論の全趣旨)

被控訴人(平成24年2月1日「田崎真珠株式会社」から商号変更)は,昭和34年12月に設立された宝石及び貴金属の輸入,加工,販売に関する業務等を目的とする資本金1億円(平成22年2月26日201億6494万8855円から75億円に減資し,さらに平成24年3月1日減資した後)の株式会社である。(争いのない事実,弁論の全趣旨)

(2)  商標権に係る差止請求に関して

ア 商標権

被控訴人は,次の商標権を有する。(乙30~33)

① 図形商標1(乙33)

file_2.jpg【登録番号】  第3055972号

【出願日】  平成4年6月 1日

【登録日】  平成7年6月30日

【商品及び役務の区分並びに指定商品】

第14類  貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダ-・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶及び水盤,貴金属製針箱,貴金属製宝石箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製靴飾り,貴金属製コンパクト,貴金属製喫煙用具,身飾品(「カフスボタン」を除く。),カフスボタン,宝玉及びその模造品,宝石の原石,時計,記念カップ,記念たて

② 文字商標1(乙30)

file_3.jpgFA Mer FB【登録番号】  第3307639号

【出願日】  平成7年5月22日

【登録日】  平成9年5月16日

【商品及び役務の区分並びに指定商品】

第14類  貴金属,身飾品(「カフスボタン」を除く。),宝玉及びその模造品,宝石の原石,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器,こしょう入れ,砂糖入れ,塩振出し容器,卵立て,ナプキンホルダー,ナプキンリング,盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶及び水盤,貴金属製針箱,貴金属製宝石箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製靴飾り,貴金属製コンパクト,貴金属製喫煙用具,カフスボタン,時計,記念カップ,記念たて

③ 図形商標2(乙31)

file_4.jpg【登録番号】  第3335194号

【出願日】  平成7年5月22日

【登録日】  平成9年7月25日

【商品及び役務の区分並びに指定商品】

第14類  貴金属,身飾品(「カフスボタン」を除く。),宝玉及びその模造品,宝石の原石,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶及び水盤,貴金属製針箱,貴金属製宝石箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製靴飾り,貴金属製コンパクト,貴金属製喫煙用具,カフスボタン,時計,記念カップ,記念たて

④ 文字商標2(乙32)

file_5.jpgTASAKI SHINIU【登録番号】  第3344966号

【出願日】  平成7年5月22日

【登録日】  平成9年9月5日

【商品及び役務の区分並びに指定商品】

第14類  貴金属,身飾品(「カフスボタン」を除く。),宝玉及びその模造品,宝石の原石,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器,こしょう入れ,砂糖入れ,塩振出し容器,卵立て,ナプキンホルダー,ナプキンリング,盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶及び水盤,貴金属製針箱,貴金属製宝石箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製靴飾り,貴金属製コンパクト,貴金属製喫煙用具,カフスボタン,時計,記念カップ,記念たて

イ 使用標章

① 別紙店舗掲示標章目録の左上図,左中図及び左下図のとおり,白鳥の図形部分(図形標章1)を左側に,「TASAKI」の文字部分(文字標章2)を右側に並置させた標章と,②別紙店舗掲示標章目録の右図のとおり,称呼・観念不詳の図形(図形標章2)を左側に,「田崎真珠」の文字部分(文字標章1)を右側に並置させた標章の2つ(構成は4つ)である。(争いのない事実,弁論の全趣旨)

ウ 標章の使用

控訴人は,遅くとも平成8年11月1日以降,被控訴人から宝飾品を仕入れ,別紙店舗一覧表記載の控訴人店舗及び髙島屋立川店内に存する控訴人立川店でこれを販売していた。

そして,控訴人は,[1]遅くとも平成11年ころから平成23年12月までの間,別紙店舗一覧表記載1①の店舗(大宮店)の店舗内壁面に図形標章1及び文字標章2を掲示し(甲29の別紙②,乙27),[2]遅くとも平成17年ころから平成23年12月までの間,別紙店舗一覧表記載1③の店舗(横浜店)の店舗内壁面に図形標章1及び文字標章2を掲示し(乙27),[3]平成18年9月から平成23年12月までの間,別紙店舗一覧表記載1④の店舗(泉北店)の店舗内壁面に図形標章1及び文字標章2を掲示し(甲29の別紙①,乙27),[4]遅くとも平成11年ころから平成23年12月までの間,別紙店舗一覧表記載1②の店舗(柏店)の店舗内のディスプレイに図形標章2及び文字標章1を掲示し(乙27),[5]遅くとも平成11年ころから平成23年12月までの間,立川店(髙島屋立川店内)の店舗内のディスプレイに図形標章1及び文字標章2並びに図形標章2及び文字標章1を掲示し(甲29の別紙⑬),もって,商品に関する広告にこれら標章を付して展示していた。

(争いのない事実,甲29,乙27)

なお,控訴人は,被控訴人から宝飾品を仕入れてこれを販売していた別紙店舗一覧表記載2の店舗(上大岡店)及び同3の店舗(新宿店)においては,図形標章1,図形標章2,文字標章1又は文字標章2のいずれも店舗内に掲示してはいない。(甲29,乙27)

エ 商標の同一性又は類似性

図形商標1(スワンマーク)と図形標章1(白鳥)は,同一である。

文字標章1(田崎真珠)と文字標章1(田崎真珠)は,同一である。

図形商標2と図形標章2は,同一である。

文字商標2(TASAKI SHINJU)と文字標章2(TASAKI)は,類似する。

(以上につき,弁論の全趣旨)

オ 指定商品の同一性

被控訴人の販売する商品は上記アの各商標の指定商品に含まれる。(弁論の全趣旨)

カ 侵害のおそれに係る事情

控訴人は,控訴人がその各店舗内に図形標章1,図形標章2,文字標章1又は文字標章2を掲示する権利があると主張している。(顕著事実)

(3)  不正競争に係る差止請求に関して

ア 商品等表示及び周知性

図形商標1,図形商標2,文字商標1及び文字商標2は,いずれも,被控訴人の業務に係る商標として被控訴人の商品等表示であるとともに,需要者の間に広く認識されている。(争いのない事実)

イ 使用標章及び標章の使用並びに商品等表示の同一性又は類似性上記(2)イ及びウ並びにエと同旨。

ウ 営業の混同

控訴人が図形標章1,図形標章2,文字標章1又は文字標章2をその各店舗内に使用することは,控訴人と被控訴人の営業との混同を生じさせる。(弁論の全趣旨)

エ 営業上の利益の侵害又はそのおそれに係る事情

上記(2)カと同旨。

(4)  確認の利益に関して

被控訴人は,控訴人に対し,控訴人が図形標章1,図形標章2,文字標章1又は文字標章2を別紙店舗目録記載の各店舗で使用することの中止を求めている。(争いのない事実)

(5)  債務不履行に関して

ア 本件基本契約

控訴人と被控訴人は,平成8年11月1日ころ,次のとおりの販売基本契約(本件基本契約)を締結した(契約書中の当事者の表記は本判決のものに改めた。)。(乙1)

「第1条(目的)

被控訴人は,本契約の定めるところに従い,控訴人に対し被控訴人の商品を売渡し,控訴人はこれを買い受けて販売することを約する。

第2条(個別契約)

被控訴人が控訴人に売渡す商品の品名,品質,単価,数量,価格,売渡条件,その他販売に必要な条件については,本契約に定めるものを除き,販売の都度定めるものとする。

第3条(危険負担)

・・・・・

第4条(商品検収)

・・・・・

第5条(商品の所有権の留保)

・・・・・

第6条(返品)

・・・・・

第7条(支払)

・・・・・

第8条(期限の利益の喪失)

・・・・・

第9条(契約の有効期間)

本契約の有効期間は,平成8年11月1日から1年間とする。

②前項の期間満了1ヵ月までに,当事者の一方または双方より書面による変更・解約の申入れのない場合には,本契約はさらに1年間更新されるものとする。

第10条(契約解除)

控訴人または被控訴人は,前条の有効期間中であっても,書面による2ヵ月前の予告をもって,本契約を解除できる。

②・・・・・

第11条(紛争の解決)

・・・・・ 」

イ 本件解約

平成22年9月22日ころ,被控訴人は,控訴人に対し,本件基本契約9条2項の約定に基づき本件基本契約の解約を申し入れる旨の書面を送付し,同書面は同月30日ころ控訴人に到達した。(争いのない事実,乙2)

以下,図形商標1,図形商標2,文字商標1及び文字商標2を総称して「本件商標等」と,本件商標等に限定されない被控訴人の商標等を「被控訴人商標等」と,図形標章1,図形標章2,文字標章1及び文字標章2を総称して「本件標章」という。

3  争点

(1)  本件商標等の使用許諾の有無

(2)  使用許諾契約終了の有無

(3)  権利濫用の有無

(4)  債務不履行責任の有無

(5)  損害の有無及び額

第3当事者の主張

(1)  争点(1)(本件商標等の使用許諾の有無)について

ア  控訴人

(ア) 契約による許諾

控訴人は,平成3年1月ころ,被控訴人との間で,①被控訴人が控訴人に対し継続的に宝飾品を販売し,控訴人は被控訴人から買い受けた宝飾品をデパートその他に開設した店舗において小売販売する,②被控訴人は,控訴人に対し,上記宝飾品を小売販売する店舗内に本件商標等を掲示することを認める,③控訴人の店舗内で販売する宝飾品には,控訴人が被控訴人から直接仕入れたものに限らず,被控訴人が第三者に販売し,当該第三者から控訴人が買い受けた商品も含まれるとの内容を明示又は黙示に含む基本契約(以下「控訴人主張の基本契約」という。)を口頭にて締結し,あるいは,被控訴人商品の売買契約に当然に附帯するものとして本件商標等を控訴人店舗内に掲示することの許諾を得た。本件基本契約書(乙1)は控訴人主張の基本契約を改めて書面化したものにすぎない。

(イ) 黙示の許諾

仮に上記(ア)の主張が認められないとしても,控訴人は,平成3年1月から20年以上にわたって本件標章を控訴人店舗内に掲示して被控訴人商品を販売しており,被控訴人もこのことを認識しながら何ら異議を述べることがなかったのであるから,本件商標等の使用について黙示の許諾があった。

イ  被控訴人

(ア) 契約による許諾に対して

被控訴人が控訴人との間で締結した基本契約は,本件基本契約のみであり,控訴人主張の基本契約などは存在しない。

本件基本契約は,被控訴人商品の販売に係る基本契約にとどまり,本件商標等を控訴人店舗内の掲示に利用することの許諾を含むものではない。また,被控訴人商品を被控訴人商品であることの表示を付して顧客に売買することの許諾があったからといって,当然に本件商標等を店舗内の掲示に利用することの許諾が与えられたことになるものではない。

(イ) 黙示の許諾に対して

本件標章を控訴人店舗内に掲示していたことを控訴人が認識していたとしても,それは黙認されていたにすぎず,過去の本件商標等の使用についての損害賠償責任を問われることはないという効果を生じることはあるとしても,将来にわたり本件商標等を控訴人が使用できることについて許諾が得られたことにはなるわけではない。

(2)  争点(2)(使用許諾契約終了の有無)について

ア  被控訴人

(ア) 本件解約

仮に本件基本契約に本件商標等を控訴人店舗内に掲示することについての許諾が含まれるとしても,本件基本契約は,本件解約により平成22年10月末日をもって終了した。

(イ) やむを得ない事由の必要性に対して

本件基本契約は,期間を1年とする契約であって契約期間の満了が当初から予定されており,控訴人が主張するような継続的契約ではないから,その終了に当たってやむを得ない事由を必要とするものではない。

(ウ) やむを得ない事由

仮に本件基本契約の解約にやむを得ない事由を要するとしても,以下のとおり,本件解約は,合理的な理由の下に合理的な措置を付してされたものであり,解約に当たりやむを得ない事由が存した。

① [1]被控訴人が平成21年7月に控訴人を含めた被控訴人商品の取引先に対して被控訴人商標等を付した被控訴人商品の販売中止を要請したのは,厳しい経営環境の中でブランドの刷新を通じたブランドイメージの統一及び強化を行うためであり,[2]被控訴人は,被控訴人商品の取引先からの要望を受け,平成22年4月末日時点で保有する被控訴人商品の在庫に限り,かつ,被控訴人店舗又は被控訴人コーナーであるかのように誤認されない場合に限って,同年5月以降も被控訴人商標等を付した被控訴人商品の販売を継続することを認め,これに必要な範囲に限った販売ツール(ケース,証明書〔保証書〕等)の供給も行うこととした。一方で,[3]控訴人は,平成22年5月以降も,被控訴人の事前の書面による承諾もなく控訴人店舗において本件標章を店舗内に掲示するなどして控訴人店舗が被控訴人店舗又は被控訴人コーナーであるかのように誤認させる状況を継続し,[4]被控訴人からの度重なる上記掲示の中止要請にもかかわらず,これに応ぜず,かえって,百貨店において被控訴人商標等を冠した催事を複数回にわたり開催した。

本件解約はこのような経緯からされたものである。

② [1]控訴人は,本件基本契約終了後も約2年間にわたって被控訴人商品の販売を継続し,投下資本の回収の機会は十分に与えられており,[2]また,控訴人新宿店及び上大岡店が店舗内に本件標章の掲示を現に行っていないこと,控訴人店舗では独自のブランドを展開して宝飾品の販売を行っており,その中には被控訴人商品よりも控訴人独自のブランドの商品の方が売り上げの大きい店舗もあることからすれば,本件標章を店舗内に掲示しなくとも被控訴人商品を控訴人店舗で販売することは可能であり,[3]控訴人が主張する被控訴人商品の在庫量は明らかに過大であるほか,被控訴人商品でないものも含まれており,その在庫量について根拠は認められない。

現段階において,控訴人に法的に保護されるべき合理的期待と経済的利益は存在しない。

以上のとおりであり,本件解約にはやむを得ない事由がある。

(エ) 信義則違反に対して

上記(ウ)のとおりの本件解約の理由及びその経緯並びに控訴人の合理的期待と経済的利益からすれば,本件解約が信義則違反にあたることはない。

イ  控訴人

(ア) 本件解約に対して

控訴人主張の基本契約は終了していない。

(イ) やむを得ない事由の必要性

控訴人主張の基本契約は,継続的取引契約であり,その解約若しくは更新拒絶にはやむを得ない事由を要する。

(ウ) やむを得ない事由に対して

控訴人は,被控訴人の経営が厳しいために被控訴人の生き残りを図るという専ら被控訴人自身の都合のため,本件商標等の使用を一方的に禁止し,そして控訴人がこれに従わないことを理由として控訴人主張の基本契約を解約若しくは更新を拒絶する旨の意思表示をするとともに,販売ツールの提供を中止した。他方,控訴人は,本件商標等を掲示した店舗で被控訴人商品を販売することができることを前提に被控訴人商品を被控訴人から仕入れていたのであるから,仮に控訴人主張の基本契約が解約若しくは更新拒絶されれば,約5億1000万円相当の在庫商品を販売することができなくなり,莫大な損害を被る。なお,控訴人の新宿店や上大岡店では被控訴人商標等の掲示はないものの,それがあればもっと多額の売り上げがあったはずである。また,被控訴人から販売ツールの供給がなくなれば,被控訴人商品の販売は困難な状況となる。

したがって,控訴人主張の基本契約の解約若しくは更新拒絶には,やむを得ない事由は存在しない。

(エ) 信義則違反

上記(ウ)の事実関係からすれば,控訴人主張の基本契約の解約若しくは更新拒絶は,信義則に反し無効である。

(3)  争点(3)(権利濫用の有無)について

ア  控訴人

仮に被控訴人主張の基本契約の解約若しくは更新拒絶が有効であるとしても,上記(2)イ(ウ)の事実関係からすれば,被控訴人の差止請求権の行使は権利の濫用である。

イ  被控訴人

上記(2)ア(ウ)のとおりの本件解約の理由及びその経緯並びに控訴人の合理的期待と経済的利益からすれば,被控訴人の差止請求権の行使は権利濫用にあたらない。

(4)  争点(4)(債務不履行責任の有無)について

ア  控訴人

控訴人は,被控訴人との間で,平成3年1月,控訴人主張の基本契約を締結した。控訴人主張の基本契約には,被控訴人が,控訴人に対し,被控訴人製品を販売するのに必要な販売ツールを提供する約定も含まれていた。

基本契約が控訴人主張のように平成22年10月末日に終了していないことは,上記(2)イのとおりであるところ,被控訴人は,同年12月24日以降控訴人に対する被控訴人商品の売り渡しを止めるとともに,平成23年10月11日以降販売ツールの提供も拒否した。そのため,控訴人といわゆる「消化仕入取引契約」(店子が顧客に商品を販売したと同時にデパートが店子から同商品を仕入れて顧客に販売したとみなす契約。甲29別紙⑤)を締結している髙島屋は,販売ツールの付いていない商品を髙島屋が販売することはできないとして,本件標章を控訴人店舗から取り外すとともに,被控訴人商品を控訴人店舗から撤去するよう指示した。これにより,控訴人は,別紙店舗一覧表記載1の各店舗から本件標章を取り外すとともに,被控訴人商品を控訴人店舗から撤去し,控訴人は,周知著名な本件商標等を付した掲示の下での販売活動ができなくなった。

イ  被控訴人

上記(2)アのとおり本件基本契約は平成22年10月末日をもって終了した。

その後も,被控訴人は控訴人に対して販売ツールの提供を行っていたが,控訴人が本件標章の店舗内における掲示の中止をせず,また,控訴人が被控訴人商標等を使用した催事を無断で敢行し続けたことから,被控訴人は,やむを得ず,販売ツールの提供も取りやめた。したがって,販売ツールの供給の中止を招いた原因は控訴人にあり,被控訴人に帰責事由はない。

(5)  争点(5)(損害の有無及び額)について

ア  控訴人

控訴人には,上記(4)アとおりの被控訴人による控訴人主張の基本契約の債務不履行により,次のいずれか又はその合計の損害が生じた(本件請求額として下記①と②の合計額に相当する2億5410万円を限度とする。)。

① 不良在庫商品価額 6910万円

被控訴人商品の在庫品の販売価額合計4億6200万円から,仕入価額合計1億8500万円,デパートへの支払分1億6170万円及び一般管理販売費合計4620万円を控除した額として。

② 仕入価額 1億8500万円

被控訴人商品の在庫品を販売することにより補てんされるべき仕入価額が補てんされ得なくなったことによる。

③ 未処分商品の取得価額 7713万8756円

平成24年9月30日の時点で控訴人が被控訴人商品の在庫として所持している商品の仕入価額。

④ 平成23年度の得べかりし利益 3665万6795円

控訴人店舗における平均売上金額(平成18年~平成22年)から平成23年度の売上金額を控除した額を平成23年度の売上減少金額とし,同額から,平均仕入価額,デパートへの支払分の平均額及び平均一般管理販売費を控除したもの。

イ  被控訴人

控訴人は,合理的な理由なく損害額に係る主張を変遷させるなどしており,その主張は不合理である。

被控訴人が販売ツールの供給を停止したのは平成23年10月12日のことであって,控訴人が主張する損害の大半(同年9月分まで)は,供給の停止より前の時期のものであり,控訴人の主張する債務不履行事由と相当因果関係を有する損害となり得ない。

第4当裁判所の判断

1  事実経過に関する認定事実

下記掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  取引の概要

平成8年11月1日ころ,控訴人と被控訴人は本件基本契約を締結した。

控訴人は,遅くとも同日以降,被控訴人から商品を仕入れて販売する取引を行っていた。また,控訴人は,被控訴人又は第三者から半製品,金具等を仕入れてこれを加工し,これに被控訴人商標等を付して控訴人店舗内で販売をしていたこともある。

被控訴人は,控訴人が被控訴人から仕入れた商品を販売するに当たって,被控訴人商標等の付された商品を譲渡等することや,控訴人が被控訴人商品に被控訴人商標等が表されたタグや値札を付すことや,控訴人が被控訴人から仕入れた半製品に被控訴人商標等を付すことを認めており,被控訴人が控訴人に対して本件商標等に係る清刷りを交付したこともあった。

控訴人は,被控訴人から直接仕入れた商品その他商品の販売に当たって,控訴人店舗内の壁面などに被控訴人商標等の掲示を行っていた。

一方で,控訴人は,控訴人店舗内で,控訴人独自のブランドである「FELLINI」に係る商品も販売していた。

(甲3,29,乙1,2,16,27,28)。

(2)  被控訴人の業績悪化

被控訴人は,業績低迷から平成19年10月期まで3年連続で連結純損失を計上し,平成20年,第三者割当増資を実施し投資ファンドの傘下に入ったが,拠点統廃合などの合理化に伴い棚卸資産の評価損など91億円を新たな特別損失に計上し,平成20年10月期の連結純損益予想を28億円の赤字から159億円の赤字に大幅下方修正した。また,合理化のために正社員の3分の1以上にあたる約450人の希望退職者を募集し,平成21年10月31日までに被控訴人社員532名が希望退職した。(乙4~7,28)

(3)  本件商標等の使用終了通知

被控訴人は,ブランドの整理刷新のため,平成21年7月27日ころ,控訴人を含む全国の取引先約460社に対し,内容証明郵便にて,次の内容の「商標使用終了のご連絡」を送付した。(乙8~10,12,28)

「弊社は,より魅力のある宝飾ブランドとして生まれ変わるため,現在,新商品の開発,知的財産戦略の改革を進めております。

つきましては,弊社商標等の知的財産一切(TASAKI,TASAKI SHINJUのロゴ,スワンマーク等一切)の貴社における使用を平成22年4月末日をもって終了いただきたく,本書面をもって,通知いたします。」

(4)  新ブランドの発表

平成21年9月,被控訴人は,新たなTASAKIブランドを発表した。(甲29,乙8)

(5)  本件確認書の送付

平成22年1月28日ころ,被控訴人は,控訴人を含む各取引先に対し,同年4月末日時点における控訴人の被控訴人商品の在庫に関する対応につき,次のとおりの内容の「平成22年5月以降の弊社商標付商品の貴社在庫に関する販売についての確認書」(以下「本件確認書」という。)を送付し,同意を求めた(甲29の別紙⑩,乙13)。

「1,貴社が平成22年4月末日時点で保有する弊社商標付商品の在庫につきましては,平成22年5月以降も販売を継続していただいて結構です。

2,弊社商標付商品の販売にあたり,ケース,証明書などの弊社商標付商品に付随して弊社が供給した販売ツールは,そのままご使用ください。

3,ケース・証明書などの弊社商標付商品に付随する販売ツールの供給は4月末日をもって終了させていただきます。つきましては,貴社が保有する在庫につきまして必要と思われるケース・証明書の数量を平成22年2月末日までに弊社担当者までお知らせ下さるようお願いします。

4,店頭および催事における弊社商標付商品のディスプレーは,弊社店舗やコーナーとして誤認されない最小限の範囲での設置をお願いします。特に,書体の如何を問わず,欧文字表記による「TASAKI」又は「TASAKI SHINJU」の記載はご遠慮ください。

また,漢字で「田崎真珠」と表記することをご希望する場合は,事前に弊社担当者にご連絡の上,弊社法務担当者の書面による事前承諾をお取りください。

・・・・・

5,雑誌・DM・インターネット等の各媒体への記載につきましても「TASAKI」,「TASAKI SHINJU」,「田崎真珠」を含む弊社の登録商標の使用をご希望される場合は,添付の商標掲載依頼書に必要事項をご記入の上,その原稿全文を添付し,事前に弊社法務担当者までご連絡いただき,弊社法務担当者の書面による事前承諾をお取りください。

もし事前承諾の手続きが無く,不当な商標使用を行われた場合は,法的措置を採らざるを得ない事態にもなりかねませんのでご注意ください。」

(6)  販売ツールの注文

平成22年4月7日ころ,控訴人は,被控訴人に対し,販売ツールとして,ケースにつき,ネックレス分1441個,ペンダント分1225個,イヤリング分1269個等を,備品につき,ピンク巾着1500枚,ピンクショッパー大2591枚,ピンクショッパー小4663枚等の注文をした。(甲29の別紙⑪)

上記数量は,被控訴人が把握している商品の納品個数と大きくかい離していたため,控訴人と被控訴人との間で交渉が行われ,その後に所定数が納品された。(乙28)

(7)  特約店契約の締結交渉開始

平成22年5月から同年9月にかけて,被控訴人と控訴人は,控訴人が被控訴人の特約店となるための契約交渉を行った。この特約店交渉は,控訴人ほか10社以上の候補企業との間で行われたものである。(甲29,乙18,28)

一方で,控訴人は,上記(3)の通知書や同(5)の本件確認書の送付を受けた後も別紙店舗一覧表記載1の各店舗において,本件標章を控訴人店舗内の壁面に掲示し又はディスプレイに掲示していた。(甲29,乙27)

これに対し,平成22年7月,被控訴人は,控訴人に対し,控訴人店舗における本件標章の使用停止の申入れをした。(乙2,3,甲29)

(8)  本件解約

平成22年9月22日の本件解約申入れは,上記特約店契約締結交渉の過程でされたものである(前記第2,2(5)イ)。

被控訴人名義の本件解約申入れを含む書簡の内容は次のとおりである。(乙2)

「9月3日付で貴社より特約店契約書(以下本契約書と言います)の内容を承諾の上,受諾するので本契約書を申請する旨の書面を頂戴いたしました。

貴社よりの申請に基づき,本契約書2通をお送りいたしますので・・・・・10月4日月曜日までに当社までご返送下さいますようお願い申し上げます。

なお,本契約の開始日は,平成22年11月1日といたします。

・・・・・

なお,今後,本契約書別紙Bに記載すべき対象店舗の選定についての協議が必要となりますが,本契約書の締結をもって,貴社ご提案の店舗を対象店舗として承諾すべき義務が弊社に生じるわけではないことを念のためお知らせ申し上げます。

また,現在貴社との間において平成8年11月1日付で締結しております販売基本契約書は,同契約書第9条第2項に基づき解約の申入れをさせていただきます。また同契約に関連して今まで貴社が製造販売されてきた弊社ブランドが付された商品(田崎真珠商品)の製造販売につきましても,平成22年10末日をもちまして終了することをご通知いたします。」

他方,被控訴人と控訴人との間の上記(7)の契約交渉においては,被控訴人の旧ブランドを付した被控訴人商品を売り場からなくすこと,被控訴人商品の年間規定買受額,預託金などの条件が折り合わず,特約店契約の締結には至らなかった。(甲29,31,32,乙28)

(9)  商品販売の停止

平成22年4月以降,被控訴人から控訴人に対する商品販売は激減し,同年10月以降,被控訴人は,控訴人に対し,アフターサービス(紛失した部品を補充するための部品販売など)を目的とするなどの特別な商品販売を除き,新規の商品販売を停止した。平成23年における控訴人と被控訴人との間の取引額は月額20万円を超えていない。(甲29,30,32,乙18)

(10)  立川店撤退

平成22年11月18日,被控訴人の髙島屋立川店出店計画に伴い,髙島屋は,控訴人に対し,控訴人立川店の「田崎真珠コーナー」の表示を「FELLINI」に変更するよう求めた。(甲29)

平成22年12月9日,控訴人は,被控訴人が髙島屋立川店出店を計画していることに対して,被控訴人に対して次の内容の抗議書を送付した。(甲29の別紙⑫)

「ご承知のとおり,(株)髙島屋の婦人雑貨部に於いて田崎真珠の取引先口座は(株)高木が取得しているにもかかわらず,特選雑貨部からのTASAKI立川店出店は弊社としては到底,納得出来るものではありません。

・・・・・・

よって弊社,立川店撤退に伴う賠償請求を行うべく,田崎真珠(株)より購入しました(株)高木の所有する田崎真珠立川店,一切の商品在庫の返品を受理していただきますよう申し上げます。」

平成23年2月8日,控訴人は,髙島屋立川店から撤退した。(甲29の別紙⑬)

平成23年2月14日,控訴人は,被控訴人に対し,控訴人立川店の在庫等の引き取りとして,真珠及び金製品のほか,被控訴人が取り扱っていない琥珀を含めたそれらの顧客への販売価額合計8838万1000円と什器の減価償却残44万8756円の支払を求めた。(甲29の別紙⑭,乙27)

(11)  標章撤去に至る経緯

① 平成23年4月13日ころ,被控訴人は,控訴人に対し,控訴人立川店及びその余の店舗の被控訴人商品の在庫処理及び掲示撤去費用について協議に応じる用意があるので,これに関する資料の提出を要望するとともに,本件標章の使用停止を申し入れ,さらに,平成23年5月2日ころ,被控訴人は,控訴人に対し,配達証明郵便にて,控訴人店舗における本件標章の使用停止を求めた。(乙3,14)

② 平成23年6月28日ころ,控訴人は,被控訴人に対し,髙島屋新宿店における「田崎真珠パールフェア」と記載された催事の企画書を送付した。これに対して,平成23年7月8日ころ,被控訴人は,控訴人に対し,内容証明郵便にて,[1]控訴人店舗における本件標章を付した看板等の撤去と本件標章の使用停止,[2]被控訴人の表示を冠しての催事の実施及びその広告宣伝の中止,[3]被控訴人の表示が付された商品の明細の提出をそれぞれ求めた。(争いのない事実,乙3)

③ 平成23年9月20日,控訴人は,被控訴人の申立てによる本件標章の撤去を命じる仮処分命令発令の可能性を考慮し,これを事前に阻止するため,本件訴えを提起した。(甲32,顕著事実)

④ 平成23年9月ころ,控訴人は,髙島屋高崎店において,被控訴人の事前通知及び了承を得ないで,「田崎真珠フェア」と称した催事を敢行し(乙15,18,27,29),さらに,同年10月から11月にかけて,髙島屋玉川店,髙島屋大宮店及び髙島屋柏店において「田崎真珠」を冠した催事を開催しようとした。なお,上記髙島屋高崎店において開催された「田崎真珠フェア」の広告中にある「秋の新作」なるものを被控訴人が控訴人に販売したことはなく,これは,控訴人が被控訴人から仕入れたルース(裸石)にデザインを施して自ら製品化したものである。(乙16,18,27,弁論の全趣旨)

⑤ 平成23年10月7日ころ,被控訴人は,控訴人に対し,被控訴人の表示を上記催事に使用することの中止を求めるとともに,次の内容の書面を送付した。(乙17)

「・・・・・当社は,貴社に対し,口頭及び書面において,繰り返し,店頭及び催事において,当社店舗やコーナーとして誤認を生じさせ得る行為をすることがないよう要請してきました。・・・・・当社が貴社に対して販売した商品の在庫に対するケース・証明書等の販売ツールの供給は,貴社が,百貨店の店頭及び催事において,当社店舗やコーナーとして誤認を生じさせないことを前提として行われているものです。本件催事の開催は,当社の再三にわたるこのような要請や前提を無視するものです。従いまして,当社は,貴社に対し,本書面により,本件催事において通知人表示を使用しないよう再度求めます。」

⑥ 平成23年10月12日以降,被控訴人は,控訴人に対する販売済みの商品の修理加工の受注を停止し,さらに,平成23年10月17日ころ,控訴人に対し,被控訴人と控訴人との間の信頼関係が回復不可能な程度に破壊されているとして,ケース・保証書等の販売ツールの供給を取りやめる旨を通知した。(甲15,甲29の別紙⑮,31,乙18,28)。

⑦ 控訴人は,髙島屋から被控訴人商品を撤去し「FELLINI」の商品に変更することを求められたことから,平成23年12月から平成24年1月ころまでに,別紙店舗一覧表記載1の各店舗における本件標章に係る掲示をすべて撤去し,被控訴人商品をすべてFELLINI商品に切り替えた。(甲29,32,乙27)

2 争点(1)(本件商標等の使用許諾の有無)について

(1)  契約による使用許諾につき

ア 契約の成立の有無

控訴人は,平成3年に締結したとする控訴人主張の基本契約には本件商標等の使用許諾が明示又は黙示に含まれていた旨を主張し,控訴人代表者の陳述書(甲29)にも同旨の記載がある。しかしながら,そのほかに控訴人主張の基本契約の成立及び内容を認めるに足りる的確な証拠はなく,契約書類などの客観的裏付けを欠く控訴人代表者本人の陳述のみでは契約の内容を確定するには足りないから,上記控訴人の主張は理由がない。

控訴人の主張は,本件基本契約に本件商標等の使用許諾が明示又は黙示に含まれていた旨の主張を含むものと解されるが,本件基本契約の記載内容は,前記第2,2(5)アに認定のとおり,控訴人と被控訴人との間で被控訴人商品を買い受ける際の両者間の売買取引条件の基本的・共通事項に関する条項にとどまるものであり,明示的にはいうに及ばず,黙示的にも本件商標等の使用許諾を含むものとは解されず,やはり控訴人の主張は理由がない。

控訴人が主張するところの使用許諾は,その主張から明らかなように,使用範囲も使用条件も使用期限も無限定に等しいものであり,かような商標権者そのものが有する権利に匹敵するような強固な権利の設定が,契約書に明記もされずに口頭で一取引業者にすぎない控訴人に付与されたとするのは,特段の事情が存しなければ是認することができない。しかるに,そのような特段の事情についての控訴人の主張立証は認められない。したがって,被控訴人が控訴人に対して本件商標等の使用許諾をしたものとは認め難い。

イ その他控訴人の主張に対して

控訴人は,被控訴人商品の売買契約に本件商標等の控訴人店舗内での掲示についての許諾が当然に付随する旨を主張する。しかしながら,控訴人店舗内で本件商標等を付した商品を販売することについては,商標権者等である被控訴人によって当然に許諾されていると解されるか若しくはその許諾が強く推定されるのに対し(控訴人の商品販売態様によっては商標権が消尽していることも考えられる。),本件商標等を控訴人店舗内に掲示することの許諾の有無についてはこれとは別途の考察が必要である。このことは,本件商標等が付された商品を譲渡等することの許諾がなければ(あるいは商標権が消尽していなければ)被控訴人商品は被控訴人商品として販売できず,また,被控訴人商品を被控訴人商品として売買しても被控訴人商品の出所識別が誤認されることはないが,本件商標等を控訴人店舗内に掲示すれば,あたかも控訴人が被控訴人商品の出所であるかのように誤認され,かつ,控訴人と被控訴人とが営業主体として誤認混同されるおそれを生じることから明らかである。本件商標等を店舗内に掲示することができないことと,本件商標等が付された被控訴人商品の販売ができることとは矛盾するものではなく,両者は個別に論じられるべきことである。被控訴人商品の売買契約に,本件商標等を控訴人店舗内で掲示することの許諾が当然に付随するものではない。

なお,控訴人は,被控訴人から本件標章の清刷りの交付を受けたことを根拠に本件商標等の店舗内への掲示について使用許諾があった旨を主張するが,この清刷りについては,控訴人において被控訴人商品に本件商標のタグや値札を付する必要のために交付されたものと認められるものの(乙28),本件商標等を店舗内に掲示するために交付されたことまでを認めるに足りる証拠はない。

また,控訴人は,控訴人主張の基本契約に本件商標等を店舗内に掲示する許諾があった根拠として,平成3年10月撮影とするショーケース内の本件商標等に係るディスプレイの写真(甲34の1・2)及び電飾看板の写真(甲34の3)を提出するが,これらがその主張に係る撮影時期に撮影されたことを認めるに足りる証拠はなく,また,上記ディスプレイや電飾看板を設置することを被控訴人が許諾したこと又は被控訴人が作製したことを認めるに足りる証拠もない。

以上のほか控訴人が主張立証する点を考慮しても,控訴人が本件商標等を控訴人店舗内に掲示する許諾を得たことを認めるに足りない。

したがって,控訴人の上記主張はいずれも理由がない。

(2)  黙示の許諾につき

控訴人は,平成3年以降控訴人は本件商標等の使用を継続してきたにもかかわらず被控訴人から異議を述べられたことはなかったから,被控訴人より本件商標等の店舗内の掲示等について黙示の許諾があった旨を主張する。

しかしながら,控訴人と被控訴人との間の取引が継続している間に被控訴人が控訴人による本件商標等の店舗内への掲示に特段の異議を述べなかったとしても,それがその間に関する限り本件商標等の使用に係る責任を免責する効果を生ずるとしても,被控訴人から後日その事実状態の解消を求められたにもかかわらず(上記1(3)(5)(8)(11)),なおその状態を継続することが正当化されるものではない。

したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

(3)  小括

以上のとおり,本件商標等を控訴人店舗内に掲示することについて許諾があったものと認めることはできない。

3 争点(4)(債務不履行責任の有無)について

次に,争点(4)についての判断に進むこととする。

控訴人は,平成3年に締結したとする控訴人主張の基本契約には,被控訴人の控訴人に対する継続的商品等供給義務が約定されたことを前提とする趣旨の主張をしている。しかしながら,控訴人主張の基本契約の成立及び内容を認めるに足りる的確な証拠がないことは上記2(1)のとおりであり,上記控訴人の主張は理由がない。

また,控訴人の主張は,本件基本契約に被控訴人の控訴人に対する継続的商品等供給義務があることを前提とする趣旨の主張を含むものと解されるが,本件基本契約書の記載内容は,前記第2,2(5)アに認定のとおりであって,控訴人と被控訴人との間で被控訴人商品を買い受ける際の売買取引条件の基本的・共通事項に関する条項であり,これらは個別の具体的売買契約が成立する際の約定が中心である。

控訴人が債務不履行として主張するのは,販売ツールの提供義務も本件基本契約の約定に含まれていたことを根拠にするものであるが,販売ツールの提供に関する約定は本件基本契約書に記載はない。前記認定のように交渉が続けられていた特約店契約では販売ツールの提供の約定が盛り込まれることは想定されるものの,この契約締結には至らなかった以上,そのような約定がされたことを認めるべき根拠はないというべきである。

以上のとおりであり,被控訴人に本件基本契約を含む基本契約の債務不履行は認められない。

4 争点(4)(権利濫用の有無)について

上記2に認定判断のとおり控訴人は本件商標等を控訴人店舗に掲示する許諾を得ておらず,また,上記3に認定判断のとおり被控訴人に契約違反も認められないのであるから,被控訴人の差止請求が権利濫用となる余地はない。

控訴人の権利濫用の主張は理由がない。

5 まとめ

以上のとおりであり,前提事実を併せかんがみれば,控訴人が本件商標等を控訴人店舗の壁面に掲示して使用することは,本件商標等に係る被控訴人商標権の侵害であり,かつ,不正競争防止法2条1項1号の不正競争である。そして,控訴人が平成23年12月から平成24年1月までの間に本件商標等の使用を止めているとしても(前記1(11)⑦),控訴人自身が本件標章を控訴人店舗に掲示することについて被控訴人に差止請求権がないことの確認を求める本件訴訟を維持していること自体から,控訴人は被控訴人の商標権を侵害するおそれがあり,かつ,被控訴人の営業上の利益を侵害するおそれがあることが明らかである。したがって,被控訴人は,控訴人に対し,本件商標等に係る商標権に基づいて控訴人が本件標章を控訴人店舗に掲示すること差し止める権利があり,かつ,本件商標等に係る商品等表示に基づいて控訴人が本件標章を控訴人店舗に掲示すること差し止める権利を有し,これら各差止請求権がないことの確認を求める控訴人の債務不存在確認請求は理由がない。

また,被控訴人に債務不履行は認められないから,その余の点について判断するまでもなく控訴人の損害賠償請求も理由がない。

第5結論

よって,本件請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)

(平成25年(ネ)第10021号判決別紙)

店 舗 一 覧 表

(店 舗 名)            (所 在)

1① 大宮店    髙島屋大宮店(さいたま市大宮区大門町1丁目32番地)

② 柏 店   髙島屋柏店(千葉県柏市末広町3番16号)

③ 横浜店    髙島屋横浜店(横浜市西区南港1丁目6番31号)

④ 泉北店    髙島屋泉北店(大阪府堺市南区茶山台1-3-1)

2 上大岡店    京急百貨店上大岡店(横浜市港南区上大岡西1丁目6番1号)

3 新宿店    京王百貨店新宿店(東京都新宿区西新宿1-1-4)

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