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知財高等裁判所 平成25年(ネ)10091号 判決 2014年3月13日

控訴人(第1審原告)

株式会社遊気創健美倶楽部

訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

川端さとみ

森本純

山崎道雄

辻淳子

藤野睦子

大住洋

補佐人弁理士

西教圭一郎

被控訴人(第1審被告)

株式会社MTG

訴訟代理人弁護士

櫻林正己

補佐人弁理士

小林徳夫

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載のイ号製品及びロ号製品を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

3  被控訴人は,前項に記載の製品を廃棄せよ。

4  被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成21年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

6  仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,発明の名称を「美顔器」とする特許(特許番号 特許第4871937号。以下「本件特許」という。)の特許権者である控訴人が,被控訴人による原判決別紙被告製品目録記載の美顔器(以下「被控訴人製品」という。)の製造販売が本件特許に係る特許権を侵害するとして,被控訴人製品の製造等の差止め及び廃棄を求めるとともに,被控訴人に対し,損害賠償として1000万円及び遅延損害金の支払を請求する事案である。

原審は,被控訴人製品は本件特許に係る発明の技術的範囲に属せず,また,同製品につき均等侵害も成立しないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が,これを不服として控訴した。

2  前提事実,争点,争点に関する当事者の主張は,原判決を次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」第2の1ないし3のとおりであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合,「原告」を「控訴人」と,「被告」を「被控訴人」と,それぞれ読み替える。)。

(1)  原判決2頁19行目の「本件特許」を「本件特許権」と改め,同頁20行目末尾に「を有する。」を加える。

(2)  原判決4頁17行目末尾に「。」を加え,同頁18行目の「別紙本件明細書図面目録」を「原判決別紙本件明細書図面目録」と,同頁21行目の「別紙被告製品目録」を「原判決別紙被告製品目録」と,それぞれ改める。

(3)  原判決6頁21行目の「別紙被告製品目録添付」を「原判決別紙被告製品目録添付図面」と改める。

(4)  原判決7頁16行目の「本件特許明細書」を「本件明細書」と改める。

(5)  原判決8頁6行目の「円形調圧用摘子」を「円形調整用摘子」と,同行目の「垂直装備」を「垂下装備」と,それぞれ改める。

(6)  原判決9頁6行目の「上側筒体2」を「上側筒体1」と,同行目の「上部面1d」を「上部面1b」と,それぞれ改める。

(7)  原判決9頁13行目から14行目の「本件特許明細書」を「本件明細書」と,同頁16行目の「バネ9」を「バネ19」と,同頁19行目の「本件明細書や図面」を「本件明細書」と,同頁24行目の「明細書」を「本件明細書」と,それぞれ改める。

(8)  原判決9頁25行目,10頁18行目,11頁4行目及び13頁20行目の「本件発明」をいずれも「本件特許発明」と改める。

(9)  原判決11頁3行目の「円形調整摘子」を「円形調整用摘子17」と改める。

(10)  原判決11頁19行目の「22日」の次,及び同頁21行目の「14日」の次に,いずれも「付け」を加え,同頁20行目の「2の15」を「2の16」と改める。

(11)  原判決11頁25行目,12頁4行目,同頁10行目及び同頁17行目の「円形調節用摘子」をいずれも「円形調整用摘子」と改める。

(12)  原判決12頁4行目末尾に「用」を加え,同頁5行目の「食み出し部」を「食出し部」と改める。

(13)  原判決12頁8行目の「内孔12」の次に「に上昇,下降変位自在に設けられる弁杆15であって,弁杆15の上端15aは,押圧杆18の下端18aに当接し,弁杆15の下部は,下降時には内孔12」を加え,同行目の「ノズル甲13」を「ノズル孔13」と改め,同頁10行目の「よって」の次に「,」を加え,同頁12行目の「回転方向」を「反対方向」と改める。

(14)  原判決12頁18行目の「(E)」を「(F)」と改める。

(15)  原判決13頁1行目から2行目の「引例7(特開昭62-226208公報,乙2の5の8)」を「特開昭62-226208号公報(乙2の5の8。以下「引例7」ということがある。)」と改める。

(16)  原判決14頁15行目冒頭から同頁20行目末尾までを,次のとおり改める。

「 「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき」にいう「特段の事情」とは,補正等が拒絶理由を回避するためになされた場合で,かつ,当該付加された要件についてのみ,当てはまる。

しかるに,本件特許の出願に対する拒絶理由通知では,「押圧杆によりガスの供給を可能とする」などの引例7の基本構造部分との関係が抽象的に指摘されたに止まり,弁杆の動作とガス流通経路の開閉の相関関係に関して,「弁杆下降時→ガス流通路形成,弁杆上昇時→ガス流通路遮断」となる構成を含むことが拒絶理由として具体的に指摘されたことは全くなかった。また,控訴人も,引例7に係る拒絶理由を回避するために,ガス流通路の開閉機構から上記の構成を除外したことはなかった。

控訴人が,補正④の際,「新請求項1における「(f)」は,旧請求項1における「ノズル部の弁杆を連動させて炭酸ガス噴出を調整する」との記載を,さらに具体化して限定したものである。」と説明したのは,あくまで当該補正が新規事項の追加に該当しないことを説明する文脈で用いられたにすぎず,拒絶理由を回避する趣旨のものではない。また,「引用刊行物7の装置は,装置全体が密閉され,ガスノズル部や流路を有せず,本願発明の構成(a)および(f)を備えていない。」との説明も,「装置全体が密閉され,ガスノズル部や流路を有せず」という構成の相違を指摘したものにすぎず,「弁杆下降時→ガス流通路形成,弁杆上昇時→ガス流通路遮断」という構成を除外したものではない。

したがって,補正④によって構成要件F及びGに付加された要件は,拒絶理由を回避するために付加されたものと評価することはできないから,被控訴人製品の構成を意識的に除外したものということはできない。」

(17)  原判決14頁26行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。

「 意識的除外が認められるためには,当該補正による限定が客観的に認められれば足り,出願人が拒絶理由を回避するために,あるいはそれによって拒絶理由を回避したものであることは必要ない。

しかも,控訴人による補正は,拒絶理由を回避するためにしたものである。

補正④における弁杆の上下動とガス流通路の開閉についての構成の限定は,客観的に見て,引例7のバルブ構造を回避しようとしたものとしか解されない。」

(18)  原判決15頁1行目及び同頁4行目の「容易想考」をいずれも「容易推考」と改める。

(19)  原判決15頁11行目の「実用新案」の次に「登録」を加える。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も, 被控訴人製品は本件特許発明の技術的範囲に属せず,同製品につき均等侵害も成立しないから,控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,原判決を以下のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」第3の1ないし3のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決16頁19行目「255137」の次に「号」を加える。

(2)  原判決17頁8行目の「21日」を「12日」と改め,同頁9行目の「改める」の次に「こと等を内容とする」を加え,同頁10行目の「収納し」を「カップに収納し」と改める。

(3)  原判決17頁22行目の「特許法29条2項により,」を「公知文献に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであることなどを理由とする」と,同頁23行目の「封印幕」を「封印膜」と,同頁24行目から25行目の「特開昭和62-226208公報」を,「特開昭62-226208号公報」と,それぞれ改める。

(4)  原判決18頁4行目冒頭から同頁7行目末尾までを,次のとおり改める。

「エ 控訴人は,平成22年8月24日付けで,請求項1を改めること等を内容とする補正(補正②)の手続をしたが,旧請求項1のうち「この上側筒体に装着されると共に,回転により前記噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆を連動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調整用摘子」の部分は,「この上側筒体」が「該上側筒体」に,「前記噴出口頭部」が「前記上端噴出口頭部」に,それぞれ改められたのみであった。控訴人は,同日付けの意見書で,出願に係る発明は引例7やその他の上記ウの拒絶理由通知が引用する公知文献と全く異なる技術的課題を解決するためになしたものであり,かつ容易になし得るものでもないと主張した(乙2の7,8)。

これに対し,特許庁審査官は,同年11月9日,補正②につき,新規事項の追加に当たる部分があり特許法17条の2第3項の要件を満たしていないこと,その出願に係る発明は,上記ウの拒絶理由通知と同旨の理由により当業者が容易に発明をすることができたものであることなどを理由とする拒絶理由通知を発した(乙2の9の1)。」

(5)  原判決18頁8行目の「請求項の1を」から同頁9行目末尾までを,次のとおり改める。

「請求項1を次のとおりとすること等を内容とする補正(補正③,下線は補正箇所)の手続をするとともに,同日付けの意見書で,補正後の本件特許発明は単に周知技術を無造作に羅列したものではなく,相互に一体不可分の有機的結合すなわち組み合わされた構成であり,いずれの構成を一つでも欠くことは,同発明に係る美顔器として有利な相乗的効果を期待できず,さらに,その効果も容易に想到できる効果ではないと述べた(乙2の10,11)。」と改める。

(6)  原判決18頁10行目の「収納し」を「カップに収納し」と,同行目の「供給様」を「供給用」と,それぞれ改め,同頁23行目の「ガス供給」の次に「用」を加える。

(7)  原判決19頁10行目から11行目の「併せて拒絶査定をした。」を「併せて,平成22年11月9日付け拒絶理由通知と同旨の理由により,拒絶査定をした。」と,同頁12行目の「同年」を「平成23年」と,それぞれ改める。

(8)  原判決21頁7行目の「新請求項(f)」を「新請求項1の(f)」と改め,同頁10行目の「226208」の次に「号」を加え,同頁15行目の「シール面の」を「シール面に」と,同頁18行目の「本願発明」を「本件特許発明」と,それぞれ改める。

(9)  原判決21頁20行目の「特許庁審査官は,」の次に「同年9月14日,」を加える。

(10)  原判決23頁16行目の「226208」の次に「号」を加え,同頁17行目の「酸素補給器」を「酸素補吸器」と改める。

(11)  原判決23頁19行目及び同頁26行目の「ガス量調節器」を,いずれも「ガス量調整器」と,同頁24行目の「ガス流通路」を「ガス流出路」と,それぞれ改め,同頁26行目末尾に「。」を加える。

(12)  原判決24頁6行目の「柔道ピストン」を「従動ピストン」と,同頁7行目の「ばね46」を「バネ46」と,同頁10行目の「一時圧力ガス」を「一次圧力ガス」と,それぞれ改め,同頁12行目の「7から」の次に「需要側に」を加える。

(13)  原判決25頁4行目から5行目の「自体が下降すると」を「を一方向に水平回転させてこれを下降させると」と,同頁6行目の「株が」を「下部が」と,同行目の「回転して」を「水平回転させて」と,それぞれ改める。

(14)  原判決25頁9行目の「及び図面」を削る。

(15)  原判決26頁5行目の「上昇したときにガス流通路が開通し,下降したときに閉じる構造となっている」を「上昇したときにガス流通路が遮断し,下降したときに開通する構造となっている」と改める。

(16)  原判決26頁15行目冒頭から同頁25行目末尾までを,次のとおり改める。

「 しかし,前記1(1)に認定した本件特許の出願経過を見ると,出願当初の請求項1は,弁杆の上下動あるいは連動とガス流通路の開閉との関係を特に限定していなかったところ,特許庁審査官から,出願に係る発明全体が公知文献から容易想到であるとの拒絶理由を通知され,同発明の構成のうち「押圧杆によりガスの供給を可能とする点」については周知技術であるとして引例7の存在を指摘された。控訴人は,これを受けた補正②の際には,弁杆の連動とガス流通路の開閉との関係について特に補正をせず,専ら本件特許発明が引例7等とは全く異なる技術的課題の解決を目的としているなどと主張して,本件特許発明が容易想到であるとする判断を争ったものの,かかる主張は採用されず,また,本件特許発明の構成が組合せの困難なものであると指摘した補正③についても,誤記があったことから却下された。そこで,控訴人は,補正④において,前記1(1)クのとおり特許請求の範囲を補正するとともに,補正後の請求項1の(f)は,補正前の構成である,「回転により前記噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆を連動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調整用摘子」の構成を,さらに具体化し限定したものであると説明し,その結果,かかる構成については特許庁審査官から特許要件についてさらなる指摘を受けることなく,特許査定に至ったものである。

(2) 上記(1)の経過に加え,前記1(3)認定の公知技術によれば,引例7に係る発明は,弁杆に相当するバルブが上昇した際にガス流通路が閉塞され,バルブが下降した際にガス流通路が開通する機構を有するものであったことに照らせば,控訴人は,引例7の存在を理由とする拒絶理由を回避するために,本件特許発明における弁杆の連動とガス流通路の開閉との関係を補正④のように補正することにより,引例7が開示するのと同様の構成,すなわち弁杆が上昇した際にガス流通路が閉塞され,弁杆が下降した際にガス流通路が開通する構成を除外したものと認めることができる。よって,控訴人は,補正④において,本件特許発明の構成から引例7が開示するのと同様の上記構成を意識的に除外したということができる。

控訴人は,本件特許出願に対する拒絶理由通知では,弁杆下降時にガス流通路が形成され,弁杆上昇時にガス流通路が遮断される構成を含むことが拒絶理由として具体的に指摘されたことはなく,控訴人も,引例7に係る拒絶理由を回避するために,ガス流通路の開閉機構から上記の構成を除外したことはなかったと主張する。

しかし,拒絶理由通知に控訴人の指摘するような具体的な指摘がなく,また,控訴人が,拒絶理由を回避するために補正を行う旨を明示的に述べなかったとしても,上記のとおりの経過や引例7の内容に照らせば,控訴人が,拒絶理由を回避するために,本件特許発明の構成から引例7が開示するのと同様の上記構成を意識的に除外したと認めることができ,他にかかる補正を行った理由について首肯すべき事情は見当たらないから,控訴人の主張は理由がない。」

2  以上によれば,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がなく,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅)

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