知財高等裁判所 平成25年(ネ)10103号 判決 2014年12月04日
平成25年(ネ)第10103号 特許権侵害差止等請求控訴事件
平成26年(ネ)第10020号 同附帯控訴事件
(原審 東京地方裁判所平成22年(ワ)第17810号)
控訴人兼附帯被控訴人
東都フォルダー工業株式会社
(以下「控訴人」という。)
訴訟代理人弁護士
湊谷秀光
訴訟復代理人弁護士
金山裕亮
訴訟代理人弁理士
井澤幹
補佐人弁理士
井澤洵
同
茂木康彦
同
三谷祥子
被控訴人兼附帯控訴人
イエンセン デンマーク アクティーゼルスカブ
(以下「被控訴人イエンセン」という。)
被控訴人兼附帯控訴人
株式会社プレックス
(以下「被控訴人プレックス」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士
大場正成
同
近藤祐史
同
小林豪
上記2名訴訟代理人弁理士
藤谷史朗
主文
1 本件控訴について
(1) 原判決主文第2項及び第3項のうち被控訴人プレックスの請求に係る部分を次のとおり変更する。
ア 控訴人は,被控訴人プレックスに対し,2億3693万7507円及びうち8750万円に対する平成22年5月28日から,うち1億4943万7507円に対する平成24年4月17日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 被控訴人プレックスのその余の請求を棄却する。
(2) 民事訴訟法260条2項の申立てについて
ア 被控訴人プレックスは,控訴人に対し,321万9573円及びこれに対する平成25年10月4日から返還済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 控訴人の被控訴人プレックスに対するその余の金銭支払請求を棄却する。
2 本件附帯控訴について
(1) 当審における拡張請求に係る部分を除く被控訴人イエンセンの本件附帯控訴を棄却する。
(2) 当審における拡張請求について
ア 控訴人は,被控訴人イエンセンに対し,975万円及びこれに対する平成25年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 控訴人は,被控訴人プレックスに対し,9061万9458円及びこれに対する平成25年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 被控訴人らのその余の拡張請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用及び第1項(2)の裁判に関する費用を含む。)は,これを50分し,その43を控訴人の負担とし,その余は被控訴人らの負担とする。
4 この判決は,第1項(2)ア並びに第2項(2)ア及びイに限り,仮に執行することができる。
5 被控訴人イエンセンに対し,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1控訴の趣旨及び附帯控訴の趣旨
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分につき,被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) (民事訴訟法260条2項の申立て)
ア 被控訴人イエンセンは,控訴人に対し,4199万4599円及びこれに対する平成25年10月4日から返還済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 被控訴人プレックスは,控訴人に対し,2億6576万5753円及びこれに対する平成25年10月4日から返還済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 被控訴人イエンセン
ア 原判決主文第1項を次のとおり変更する。
イ 控訴人は,被控訴人イエンセンに対し,4615万円及びうち1625万円に対する平成22年5月28日から,うち2990万円に対する平成24年4月17日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人ら(当審において請求の拡張)
ア 控訴人は,被控訴人イエンセンに対し,1690万円及びこれに対する平成25年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 控訴人は,被控訴人プレックスに対し,9910万6228円及びこれに対する平成25年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 本件は,発明の名称を「アイロンローラなどの洗濯処理ユニットへフラットワーク物品を供給するための装置」とする特許(特許番号 特許第2690256号。以下「本件特許」という。なお,平成25年1月28日に特許期間が満了した。)の特許権者であった被控訴人イエンセン及びその専用実施権者であった被控訴人プレックスが,控訴人の製造販売する原判決別紙物件目録(1)ないし(3)記載の布類展張搬送機(以下,順次「控訴人製品1」ないし「控訴人製品3」といい,これらを併せて「控訴人製品」という。)が本件特許に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を侵害すると主張して,控訴人に対し,平成20年12月から平成24年2月末日までの控訴人製品の販売による逸失利益相当額の損害賠償として,被控訴人イエンセンは9230万円及び遅延損害金の支払を,被控訴人プレックスは2億7015万1208円及び遅延損害金の支払を,それぞれ請求する事案である。
原審は,控訴人製品がいずれも本件特許権を侵害すると認め,被控訴人イエンセンについては,民法709条に基づき,3770万円及びうち1625万円に対する訴状送達の日の翌日である平成22年5月28日から,うち2145万円に対する訴え変更申立書が陳述された日の翌日である平成24年4月17日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,被控訴人プレックスについては,民法709条,特許法102条1項に基づき,2億3993万7507円及びうち8750万円に対する訴状送達の日の翌日である平成22年5月28日から,うち1億5243万7507円に対する訴え変更申立書が陳述された日の翌日である平成24年4月17日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める限度で被控訴人らの請求を認容し,被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決が請求を一部認容した部分を不服として控訴するとともに,民事訴訟法260条2項に基づき,原判決の仮執行宣言に基づき給付したものの返還を求める申立てをし,被控訴人イエンセンは,原判決が控訴人製品の海外販売分に係る同人の損害賠償請求を棄却した部分について附帯控訴した。さらに,被控訴人らは,附帯控訴により当審において請求を拡張し,平成24年3月から特許期間満了日である平成25年1月28日までの控訴人製品の販売による逸失利益相当額の損害賠償として,被控訴人イエンセンが1690万円,被控訴人プレックスが9910万6228円,及びこれらに対する同月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた。
2 前提となる事実,争点,争点に関する当事者の主張は,原判決を次のとおり補正し,当審における当事者の主張を後記第3のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」第2の2及び3並びに第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁6行目の「6月27日」を「8月29日」と改める。
(2) 原判決7頁18行目の「アイアンローラ」を「アイロンローラ」と改める。
(3) 原判決10頁16行目の「相当するか」の次に「,及び,投入クランプ取り付けベース12bに付着した投入クランプ11が「昇降移動自在のスライド(16)の一対のクランプ(17,18)」に相当するか」を加える。
(4) 原判決11頁8行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「(6) 仮執行宣言の付された原判決認容額の支払
控訴人は,原判決に基づき,仮執行宣言による執行を免れるため,平成25年10月3日,次のとおりの支払をした。
ア 被控訴人イエンセンに対し,4199万4599円
イ 被控訴人プレックスに対し,2億6576万5753円
なお,上記金額は,いずれも平成25年10月3日までの遅延損害金を加えたものである。」
(5) 原判決12頁10行目の「移動できる」を「移動することができ」と改める。
(6) 原判決17頁21行目の「被告製品は」を削る。
(7) 原判決18頁18行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「 なお,控訴人は,本件特許のパリ条約による優先権主張の基礎となるデンマーク国特許出願0106/92号の明細書(以下「基礎明細書」という。)には,中央展開方式以外の展開方式は開示されていないと主張するが,上記のとおり,キャリッジがどのような移動経路をたどるかは本件発明の構成要件に含まれていないから,基礎明細書にそれ以外の展開方式についての説明がないとしても不思議ではない。」
(8) 原判決19頁24行目の「向かって」の次に「共に」を,同行目の「請求項1」の次に「記載」を,それぞれ加える。
(9) 原判決20頁21行目の「この引用した」から同頁22行目の「違うという解釈となるのか,」までを,「これと控訴人製品の展開方式とが異なるという解釈となるのか,」と改める。
(10) 原判決21頁19行目の「カーテン展開方式」の次に「(控訴人が主張するその内容は,後記(控訴人の主張)(2)のとおりであり,これを,以下「カーテン展開方式」ということがある。)」を加え,同頁22行目の「両端」を「展張レールのいずれかの端部」と改める。
(11) 原判決22頁5行目の「カーテン方式」を「カーテン展開方式」と改める。
(12) 原判決23頁10行目の「改正前のもの」の次に「。以下,同じ。」を加える。
(13) 原判決24頁7行目の「本件特許発明」を「本件発明」と改める。
(14) 原判決26頁18行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「カ 基礎明細書の記載
基礎明細書には,請求項1に「キャリッジ対のキャリッジを運搬ベルトの前面端のほぼ中心の点から延長線上にある位置へと離間させるように設計されている。ここでクリップは,運搬ベルトの前面端の中心に対して対称的にあり,」と記載され,明細書に「始動信号が出ると,キャリッジを任意の出発位置から動かして3個ある挿入ステーション14の1個の前に持って行くことができるようになっている。またキャリッジを一緒に集めてレール7の中心に持って行くことができるようにもなっている。最後に,キャリッジをレールの中心からお互いに対称的になるように動かすことができるようにもなっている。」と記載されており,中央展開方式以外の展開方式は開示されていない。それにもかかわらず,本件発明においてカーテン展開方式が技術的範囲に属するとするのは不合理である。」
(15) 原判決29頁10行目の「特許法」を「旧特許法」と改める。
(16) 原判決30頁14行目の「ブラウン・アルファ」を「ブラウン社製スプレッダーフィーダー機「ブラウン・アルファ4SSF」(以下「ブラウン・アルファ」という。)」と改める。
(17) 原判決33頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「 さらに,本件発明は,本件特許の優先日当時の無数の公知技術の中からブラウン社製スプレッダーフィーダー機「MP4SSF」(以下「MP4SSF」という。)のレールの構成とほぼ同じ構成を選択したものにすぎず,仮に「周回」する方式が公知技術であったとしても,本件明細書に記載がない以上はこれを選択しなかったというべきであり,にもかかわらず「周回」する方式が本件発明の技術的範囲に含まれるというのは不合理である。」
(18) 原判決33頁18行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「オ 基礎明細書にも,「スライドは上方向に動き,クリップ対17,18がクリップ10,11を通過し,洗濯物の角がつかまれる。スライドはすぐに元に戻され,」「スライドはクリップ10の前を通過して走行し,洗濯物がクリップ17から引き出され,…スライドはクリップ10の前を通過して元に戻る。」と記載されており,「周回」する装置に言及した記載は一切ない。」
(19) 原判決33頁26行目冒頭に「ア」を加え,同34頁8行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「イ 「昇降移動自在のスライド(16)の一対のクランプ(17,18)に挿入され」における「スライド」が,レール手段に沿ってスムーズに昇降移動する移動体を指すことは,構成要件K及びL並びに本件明細書の記載から明らかである。フラットワーク物品がレール手段に沿って移動することを要求するのは,スライドが一定の軌道に沿って移動して正確に所定の位置で延伸装置のキャリッジのクランプに受け渡しできるようにするものである。スライドがレールに沿って移動することは,それをコンピューター制御でコントロールするためにも必要である。」
(20) 原判決36頁22行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「エ 控訴人は,投入クランプ取り付けベース12bが「スライド」に該当しないと主張する。しかしながら,「レール手段に沿って」スライドが昇降走行することが重要なのであるから,「何かに接触して移動しなければスライドでない」という控訴人の主張は成り立たない。
また,仮に,「何かに接触して移動しなければスライドでない」と解したとしても,投入クランプ取り付けベース12bは,車輪12gを通じて溝付き部材12aに接触しながら移動しているのであるから,やはり「スライド」に該当する。」
(21) 原判決37頁16行目冒頭の「イ」を削り,同頁19行目の「本件特許発明」を「本件発明」と改め,同頁20行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「イ 「昇降移動自在のスライド(16)の一対のクランプ(17,18)」の意味につき,一対のクランプはスライド(16)を介してレール手段に沿って滑るものであると解される。」
(22) 原判決37頁21行目末尾に「(「昇降手段のレール手段(15)」の存否について)」を加える。
(23) 原判決39頁6,7行目の「投入クランプ防止カバー」を「投入クランプ脱落防止カバー」と,同頁14行目の「隙間部材」を「溝付き部材」と,それぞれ改める。
(24) 原判決39頁17行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「(3) 本件発明と控訴人製品との対比(「昇降移動自在のスライド(16)の一対のクランプ(17,18)」の存否について)
控訴人製品においては,投入クランプは投入クランプ取り付けベースに取り付けられる。そして,この投入クランプ取り付けベースは,チェーンとの連結部材に密着しており,周回運動するチェーンの動きに伴い,チェーンの旋回外周に沿う楕円軌道を周回するものの,チェーンの運動範囲を確保する溝などの他の部材と擦れ合うことはなく,滑り運動,すなわち「スライド」運動を行わない。
よって,投入クランプ取り付けベースは「昇降移動自在のスライド(16)」とは異なるから,控訴人製品は「昇降移動自在のスライド(16)の一対のクランプ(17,18)」を欠き,構成要件Kを充足しない。」
(25) 原判決40頁16行目の「従前の販売台数」の次に「についての自白」を加える。
(26) 原判決41頁18行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「ウ 仮に,被控訴人イエンセンの損害について,特許法102条3項ではなく民法709条によるべきであるとしても,控訴人が海外向けに販売した控訴人製品について,被控訴人プレックスとの関係で損害額算定の基礎とするのであれば,被控訴人イエンセンとの関係でも損害額算定の基礎とするべきである。
これに対し,海外向け販売分について,被控訴人イエンセンとの関係では相当因果関係がないとして損害額算定の基礎としないのは,控訴人の侵害行為がなければ被控訴人プレックスが販売できたであろう台数について,同一手続にある被控訴人らのそれぞれに対する関係で異なる認定をすることになり,極めて不自然であるし,独占的通常実施権を設定した特許権者について,特許法102条3項に基づく請求が認められることとのバランスを欠く。また,海外の具体的な競合関係の立証を求めることは,実質的な妥当性も欠いている。
むしろ,特許法102条が実現しようとした趣旨は,専用実施権を設定した特許権者についても同様に当てはまるものであり,その請求について同条3項に基づく請求を否定するとしても,特許権者が民法709条によって約定実施料の賠償請求を行う場合には,専用実施権者に対する推定等を反映して,侵害行為と特許権者の損害との間の相当因果関係は問題とされることはないというべきである。」
(27) 原判決43頁5行目の「トーカイ系列以下」を「トーカイ系列以外」と,同頁13行目の「工場所在」を「工場所在地」と,それぞれ改め,同頁17行目の「フラットワーク」の次に「物品」を加える。
(28) 原判決43頁22行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同頁23行目冒頭の「エ」を「オ」と改める。
「エ 「単位数量当たりの利益の額」を算定する際に控除されるべき費用について
控訴人の主張する費用の控除はいずれも争う。
(ア) 運賃荷造費について
計算鑑定書の「他経費」に含まれる。
(イ) 販売促進費,直接販売費,交際費及び広告宣伝費について
被控訴人製品の販売は,特定の販売店や商社に売り渡し,販売店や商社がユーザーに売り渡す取引形態であり,被控訴人プレックスとしての販売促進費や,手数料・仲介料などの直接販売費,具体的販売に当たっての交際費は発生していない。また,一般的な製品の広告は行っているものの,これに係る費用は個々の販売毎に発生する変動経費には該当しないし,具体的販売においては広告宣伝費は発生していない。
(ウ) 従業員教育費について
被控訴人プレックスは,被控訴人製品の製造を外部の製造者に発注しており,具体的販売は特定の販売店や商社への販売であるから,その製造販売のための従業員教育費は発生していない。
(エ) 金型費,消耗品費及び消耗工具費について
被控訴人製品の製造に必要な金型は,外部の製造者の負担となっており,被控訴人プレックスは金型の支給も貸与もしていない。消耗品費や消耗工具費も,材料費や外注費に含まれており,被控訴人プレックスがさらに負担すべき理由はない。
(オ) 納品先での組立て,試運転,点検のための労務費について
これらは全て,計算鑑定書の「労務費」に含まれる。
(カ) CEマーク取得費用を含む輸出に要する一切の費用について
CEマークについては,欧州連合地域向けの受注があれば取得することに問題はない。その費用は200ないし300万円を要するのが全てであるが,販売毎に発生する費用ではないから,控除する理由はない。」
(29) 原判決44頁5行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同頁8行目冒頭の「オ」を「カ」と改める。
「 また,控訴人は,先行技術との比較において本件発明が優越する点の価値判断を行って本件特許の対象を限定しようとするが,このような解釈が適切ではないことは論を俟たない。」
(30) 原判決46頁8行目の「カーテン方式」を「カーテン展開方式」と改める。
(31) 原判決47頁22行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同頁23行目冒頭に「次に,」を加える。
「 被控訴人プレックスに,実際の販売実績に加え,これとほぼ同じ台数の被控訴人製品の製造販売能力があったと考えることは合理的ではなく,特別の資本投下がない限り,被控訴人プレックスには,控訴人による控訴人製品の販売台数に相当する台数の被控訴人製品を製造し販売する能力はない。よって,控訴人による控訴人製品の販売台数の全てについて,「販売することができないとする事情」が存在するから,被控訴人プレックスに損害は発生しない。」
(32) 原判決48頁15行目の「損害は発生していない。」を「損害は発生しておらず,また,少なくとも,控訴人製品の販売台数のうち50%については,「販売することができないとする事情」があったから,損害額から控除されるべきである。」と改める。
(33) 原判決48頁19行目末尾に,次のとおり加える。
「また,被控訴人プレックスは,被控訴人イエンセンとの間の専用実施権設定契約において,許諾された発明を日本国外で実施することを禁じられており,被控訴人イエンセンからかかる実施の許可を得た事実はなく,許諾された発明を使用したフィーダーを日本国外で販売した事実も主張されていない。」
(34) 原判決50頁20行目の「適用されてはならない。」を「適用されてはならず,また,同月以前の控訴人製品1の販売台数28台のうち,少なくとも14台分については,「販売することができないとする事情」があったから,損害額から控除されるべきである。」と改める。
(35) 原判決51頁20行目冒頭から同52頁4行目末尾までを,次のとおり改める。
「(ウ) 被控訴人製品の製造販売に係る運賃荷造費,販売促進費,直接販売費,広告宣伝費,交際費及び従業員教育費は,被控訴人プレックスの平成21年3月期から平成24年3月期までの年平均売上げ13億0302万円に対して被控訴人製品の売上げが占める割合を33.33%とし,同社が平成20年12月から平成24年2月までの約3年間に被控訴人製品を74台販売していることを踏まえて,下記aないしfのとおり計算され,その合計額は,被控訴人製品1台当たり54万4044円である。
また,被控訴人製品の製造に係る金型費,納品先での組立て,試運転,点検のための労務費,消耗品費及び消耗工具費,CEマーク取得費用を含む輸出に要する一切の費用は,下記gないしjのとおりであり,被控訴人製品1台当たり合計50万円を下らない。
これらの費用は,被控訴人製品の販売に係る「単位数量当たりの利益の額」から控除されなければならない。
a 運賃荷造費
荷造運賃は,販売台数が増えれば増加する経費であるから,原価として計算されなければならない。そして,被控訴人製品の売上げに対する運賃荷造費の平均割合を1.00%として,被控訴人製品1台当たりの運賃荷造費は,次のとおり,17万6066円となる。
1,303,020,000×0.3333×0.01=4,342,965
4,342,965÷(74÷3)=176,066
b 販売促進費
製品を販売するために,相当額の費用をかけて販売促進活動を行うことは当然のことであり,一般に,販売台数と販売促進費とは正の相関関係があると考えられるから,販売促進費は利益から控除されるべきである。そして,被控訴人製品の売上げに対する販売促進費の平均割合を0.62%として,被控訴人製品1台当たりの販売促進費は,次のとおり,10万9161円となる。
1,303,020,000×0.3333×0.0062=2,692,638
2,692,638÷(74÷3)=109,161
c 直接販売費
被控訴人プレックスは,スプレッダーその他,リネンサプライ・クリーニング関連の省力機器の製造販売を行う会社であり,直接販売費が個々の製品毎に区分できないとしても,販売に必要な費目であることは明らかである。ここに直接販売費とは,販売手数料,すなわち,一般に商品・製品の販売やサービスの提供に関して,あらかじめ定められた契約等に基づいて,取引数量又は金額などに応じて代理店などの販売受託者,仲介人などに支払われる手数料・仲介料その他の費用を管理するための勘定科目であり,製造販売量の増加に伴って増加する。
そして,計算鑑定書によれば,その割合は売上げの0.5ないし0.9%であるから,これを0.9%として計算すると,被控訴人製品1台当たりの直接販売費は,次のとおり,15万8459円となる。
1,303,020,000×0.009=11,727,18011,727,180×0.3333÷(74÷3)=158,459
d 広告宣伝費
被控訴人製品の売上げに対する広告宣伝費の平均割合を0.31%として,被控訴人製品1台当たりの広告宣伝費は,次のとおり,5万4580円となる。
1,303,020,000×0.3333×0.0031=1,346,319
1,346,319÷(74÷3)=54,580
e 交際費
交際費は,販売先との商談等に際して生じるものであるから売上げとの相関があり,被控訴人製品の売上げに対する交際費の平均割合を0.20%として,被控訴人製品 1 台当たりの交際費は,次のとおり,3万5213円となる。
1,303,020,000×0.3333×0.002=868,593
868,593÷(74÷3)=35,213
f 従業員教育費
被控訴人プレックスの平成20年12月から平成24年2月までの間の被控訴人製品の販売台数は74台であるのに対し,控訴人による同時期における控訴人製品の販売台数は前記(1)アのとおり71台である。
そうすると,被控訴人プレックスが,実際の販売台数の2倍の被控訴人製品を製造販売するためには,新たに従業員を採用することが必要であり,その従業員教育費は,被控訴人プレックスの売上げに対する平均割合を0.02%として(専ら被控訴人製品の製造販売に割り当てられる。),次のとおり,被控訴人製品1台当たり1万0565円となる。
1,303,020,000×0.0002=260,604
260,604÷(74÷3)=10,565
g 金型費
金型は消耗品であり,一定数量の製造を行うと摩耗等することから,修理あるいは作り替えが必要となる。したがって,金型製造費は原価として計算され,利益額から控除されなければならない。
h 納品先での組立て,試運転,点検のための労務費
被控訴人製品の納品先での組立て,試運転,点検等のための労務費及びこれに伴う諸費用は,販売台数が増えればその増加に伴って増額するものであるから,利益額から控除されるべきである。
i 消耗品費及び消耗工具費
消耗品費及び消耗工具費は,製造販売台数が増えれば当然に増えることが推測される費目であるから,利益額から控除されるべきである。
j CEマーク取得費用を含む輸出に要する一切の費用
製品を輸出するためには,輸出に特有の費用が必要である。また,欧州連合地域及びその近隣国の一部(以下「欧州連合地域等」という。)に輸出するためには,CEマークの取得が必要であり,取得には相当額の費用を要する。よって,かかる費用は,利益額から控除されるべきである。」
(36) 原判決54頁1行目の「本件発明は,」から同頁5行目末尾までを,次のとおり改める。
「 本件発明は,大型の洗濯物を作業の容易な低い位置でクランプに挟み込んで高い位置に機械的に上げることで,作業効率を高めることを目的としており,このような目的は控訴人製品では投入ステーション部分(投入装置1)において実現されるから,本件発明は同部分に限定されるべきである。
また,本件特許の優先日当時の公知技術を見るに,AMKO社製スプレッダーフィーダー機「TRIOFEED SUPER」は,シーツ類を掴ませ機械に投入するためのクランプが三対配置され,左右両側のクランプの展開動作の軌道と中央のクランプの展開動作の軌道を異ならせることにより,クランプ同士の衝突を回避し,挿入装置が互いに邪魔になることを防ぐ効果を奏している。また,MP4SSFは,シーツ類を把持させた投入クランプがレールに沿って上昇し,その投入クランプが拡げクランプと対向する位置においてそのシーツ類を拡げクランプに受け渡し,その後投入クランプがレールに沿って同一のレール上を下降するという,本件発明とほぼ同一の構成を採用し,昇降作動する投入クランプを用いることでシーツ類を引きずることなく高く持ち上げるという本件発明と同一の課題を解決している。さらに,このような課題は,ブラウン・アルファにおいても解決されている。
これらの公知技術と本件発明との相違点は,構成要件Jの「当該位置が,前記昇降手段の少なくともいくつかについて前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と対向する位置からずれており,」の点であるが,投入クランプ同士の衝突防止のためにそれぞれの投入クランプの軌道をずらしていることは,単なる設計事項というべきわずかな相違にすぎない。よって,本件発明は,これらの公知技術の改良発明にすぎず,仮に,控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属するとしても,控訴人製品における本件発明の寄与は極めて小さいというべきである。」
(37) 原判決54頁16,17行目の「①特許2827157(乙37)」を「①特許2827175(乙37)」と改め,同頁20行目末尾に「よって,仮に,これらの特許と本件特許の寄与率が同じであったとしても,本件特許の控訴人製品全体に対する寄与率は,2%以下(10%÷6=1.666%)であるというべきである。」を加え,改行の上,さらに次のとおり加える。
「(ウ) 被控訴人製品においては,本件発明のみならず,少なくとも前記オ(オ)の②,③,⑥,⑦,⑧及び⑫の各特許に係る発明が実施されており,これらの特許権の全てを侵害したとしても,それにより生じた損害の額は,製品の利益×販売台数を上回ることはない。そうすると,これらの特許権のうち本件発明に係る本件特許権一つのみを侵害した場合には,損害額は利益額の6分の1に限られるというべきである。」
第3当審における当事者の主張
1 本件発明に係る特許の無効(この主張は,原判決「事実及び理由」第2の2(5)のとおり原審において撤回された無効理由の主張とは,異なるものである。)
(控訴人の主張)
(1) 無効理由1
本件発明に係る,本件特許の特許請求の範囲の請求項1(以下,単に「請求項1」という。)には,以下のとおり不明瞭な記載があるから,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはいえず,旧特許法36条5項及び6項の要件を具備しない。よって,本件発明に係る特許には同法123条1項4号に該当する無効理由がある。
ア 「フラットワーク物品」との記載(以下「記載1」という。)は,本件明細書にその用語の定義や説明がなく,一般的な用語でも技術用語でもないから,技術常識及び発明の詳細な説明の記載を参酌しても明確ではない。
イ 「該装置はコンベヤベルトからなり」との記載(以下「記載2」という。)は,該装置がコンベヤベルトそのものであるとの意味であるが,請求項1や発明の詳細な説明に該装置が「延伸装置」等のコンベヤベルト以外の部位を備えると記載されていることと矛盾する。
ウ 「コンベヤベルトの正面側端部」との記載(以下「記載3」という。)は,「正面側端部」が「正面側にある端部」と「正面の側端部」のいずれの意味であるのか,あるいは両方を意味するのか把握することができず,本件発明に係る装置における対応部位を特定することができない。
エ 「延伸装置」との記載(以下「記載4」という。)は,「延伸」の語からフラットワーク物品をより薄くより長くなるように引き延ばすとの意味と,単にフラットワーク物品を広げたり開いたりするとの意味のいずれもが想起でき,「延伸」がいかなる技術的意義を有するのか理解し難く,発明の詳細な説明や図面の記載を参酌しても,「延伸装置」の機能,目的,作用を把握することができない。
オ 「前記コンベヤベルトの反対側のレール手段」との記載(以下「記載5」という。)は,「レール手段」が何に対して「前記コンベヤベルト」と反対側にあるのかが記載されておらず,発明の詳細な説明や図面の記載を参酌しても,「レール手段」の位置を理解することができない。
カ 「前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と好ましくは反対側の地点から延長した位置」との記載(以下「記載6」という。)は,「前記コンベヤベルトの正面側端部」が示す部位が不明瞭であり,「反対側」が何に対して反対側であるのかや「延長」の向きも記載されておらず,その位置を明確に特定することはできない。
キ 「フラットワーク物品の上端部が延伸され」との記載(以下「記載7」という。)は,「フラットワーク物品」の意味や本件発明に係る装置における「延伸」の意味が不明であるから,不明確である。
ク 「フラットワーク物品と接触するのに適しており」との記載(以下「記載8」という。)は,適しているか否かの判断基準が請求項1にも発明の詳細な説明にも記載されていないから,不明確である。
ケ 「コンベヤベルトの正面側端部の中央と対向する位置」との記載(以下「記載9」という。)は,「コンベヤベルトの正面側端部」が示す部位が不明瞭であり,発明の詳細な説明や図面にも,上記「位置」を明確に特定するための記載はないから,意味が不明である。
コ 「操作位置より実質的に高い位置」との記載(以下「記載10」という。)は,「実質的に」が「高い位置」をどのように限定しているのかを理解することができず,発明の詳細な説明や図面の記載を参酌しても,その位置を明確に把握することができない。
(2) 無効理由2
前記(1)のとおり,請求項1には,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌しても不明瞭な記載があるから,発明の詳細な説明には,本件発明に係る装置の各構成について,その定義や,いかなる範囲の態様が該当するのかについて,また,各構成が本件発明の目的・作用に照らしてどのような技術的意義を有するのかについて,当業者が理解できる程度の記載がないというべきである。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が容易に本件発明の実施をすることができる程度に発明の目的,構成及び効果を記載したものではなく,旧特許法36条4項の要件を具備しないから,本件発明に係る特許には同法123条1項4号に該当する無効理由がある。
(3) 無効理由3
本件発明は,本件特許の実際の出願前に頒布された刊行物である欧州特許公開公報EP0523872A1(以下「乙67文献」という。)に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当する。
また,本件発明は,乙67文献と,欧州特許公開公報EP0339430A1(以下「乙69文献」という。),特開昭62-211100号公報(以下「乙71文献」という。)及び実開平3-114197号公報(以下「乙72文献」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項に該当する。
さらに,本件発明は,本件特許の実際の出願前に,日本国内において公知となっており,特許法29条1項1号に該当する。
よって,本件発明に係る特許には,特許法123条1項2号に該当する無効理由がある。
ア 本件特許につき優先権主張の効果が生じないこと
本件特許の出願は,基礎明細書をパリ条約による優先権主張の基礎として行われた(優先権主張日 1992(平成4)年1月29日)。
しかるに,本件明細書と基礎明細書とを比較すると,基礎明細書には,本件発明に係る装置における「フラットワーク物品を供給するための装置」,「前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と好ましくは反対側の地点から延長した位置に移動させて離間せしめるのに適した駆動手段」,「前記フラットワーク物品の上端部が延伸され」との特徴は記載されておらず,また,本件明細書【0007】の「コンベヤベルトの中央からずれていることによって達成される。昇降手段をジョイント(すなわち,中間点)まで持ち上げないことにより,この領域でのスライド間の衝突の危険性が除去される。」との効果及び請求項1における「操作位置より実質的に高い位置」の意義も,基礎明細書には記載されていない。
さらに,基礎明細書には,本件明細書【0019】の「スライド16は,クランプ10をわずかに通過するまで移動するが,同時にクランプ10がシリンダー20によって閉じられる。」という点,「これにより,クランプ10は,22で示される位置,すなわちコンベアベルト5からわずかに離れた位置でフラットワーク物品を掴む。」という点,及び「クランプ10によりしっかりと把持されているフラットワーク物品21はクランプ17から解放される。」という点に対応する記載,すなわち,どのようにクランプ17,18に取り付けた洗濯物がどのような状態でクランプ10,11に受け渡されるかについての記載に相当する記載はなく,請求項1の「前記一対のキャリッジが,昇降手段のいずれかと対向する位置においてフラットワーク物品と接触するのに適しており,」という記載がない。
加えて,本件発明の構成要件Eがカーテン展開方式を含むとすれば,基礎明細書にはかかる展開方式の記載もない。
そうすると,本件発明と基礎明細書に記載された発明とは同一ではないから,本件発明に,基礎明細書を基礎とするパリ条約による優先権主張の効果は生じない。よって,本件発明の新規性,進歩性の判断基準時は,本件発明に係る特許の実際の出願時(平成5年1月28日)である。
イ 本件発明が乙67文献に記載された発明(以下「乙67発明」という。)であること
本件特許の実際の出願前に頒布された刊行物である乙67文献には,「布製品送出器 sheet feed apparatus」と「コンベヤ conveyor」からなる「布製品展開器 the sheet spreader」が記載されている。
そして,同文献には,布製品が,布製品展開器において互いに隣接して設けられる複数の「挿入部材(セットステーション) loadingstations」の「挿入位置A loading position A」において「クリップ手段 clipping means」に吊されて「引き渡し位置B transfer positionB」に向けて昇り,同位置にて,水平方向に直線状に延びる軌道上を移動する「展開器キャリッジ carriages」に取り付けられた「クランプclamps」に移され,クランプに掴まれた布製品が展開器の軌道に沿って展開された後,コンベヤを経てアイロン掛け装置に運ばれることが記載されている。
さらに,同文献には,挿入位置Aを人間工学的な理由によって調節できること,上記装置の目的,効果として,複数の操作者を効果的に配置することができるような布製品の取り付け位置を設けること,布製品をクランプへ高速に引き渡し,布製品を高速で展開することが記載されている。
そうすると,乙67文献に記載された装置は本件発明の構成を全て有するから,本件発明は乙67発明と同一である。
ウ 本件発明が乙67発明及びその他の公知文献から容易に想到し得たものであること
仮に,乙67文献には「昇降移動自在のスライド」が明記されていないことなどから,本件発明と乙67発明との間に微差があったとしても,乙67文献に記載された装置の目的や機能を変えずにその細部を変更することは,当業者にとって技術的に困難なものではない。また,本件発明の目的や効果は,乙67文献に記載された範囲内にあり,しかも,下記のような乙69文献,乙71文献及び乙72文献の記載によれば,業務用洗濯装置にとって一般的なものにすぎない。
よって,本件発明は,乙67発明と,乙69文献,乙71文献及び乙72文献のいずれか1以上に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
(ア) 乙69文献
乙69文献には,洗濯物をしわ伸ばし機に送るための駆動式コンベヤを備えた装置が記載されており,同装置は,長い洗濯物を比較的容易な方法で,あるいは簡単な手段で吊すことを課題の一つとし,送り装置に設けられた載物台によって洗濯物を自由に懸垂させることでこの課題を解決している。
(イ) 乙71文献
乙71文献には,ランドリー機械のスプレッダー,フィーダ等に適用される布片の展開方法とその展開装置が記載されており,従来技術の問題点として,アイロン装置又はその補助装置前でのリネンの展開作業が作業者にとって重労働であることが記載され,発明の効果として,矩形布を自動的に展開し,布片の相隣接する角を保持してコンベヤで搬送することによって上記問題点等を解決することが記載されている。
(ウ) 乙72文献
乙72文献には,布の自動皺伸装置が記載されており,同装置においてメッシュベルトの内側に真空ポンプに接続された吸気箱があり,これにより布がメッシュベルトに吸着されること,同装置では自動的に布の皺伸ばしを行い,同装置をアイロン掛けの前処理に用いることにより,労力の軽減とスピードアップが図られることが記載されている。
エ 本件発明が本件特許の出願前に公知の技術であったこと
被控訴人イエンセンは,1992(平成4)年6月11日から同月16日までの間に開催された第14回国際クリーニング機器展「ENTEX’92」において,本件発明の実施品であるJENFEED LOGICを公開しており,本件発明は,同展示会を視察した控訴人従業員の日本への帰国により,本件特許が実際に出願された平成5年1月28日の以前に,日本国内において既に公知となった。
(4) 無効理由4
本件発明は,乙71文献,1991年12月23日付け日本クリーニング新聞(以下「乙47文献」という。),「BRAUN社製ALPHA1200,Spreader/Feederシリーズ MP4SSF型装置カタログ」(以下「乙48文献」という。),米国特許公報US4967495号(以下「乙78文献」という。),米国特許公報US4106227号(以下「乙79文献」という。)及び実開平1-138398号公報(以下「乙80文献」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項に該当する。
よって,本件発明に係る特許には,特許法123条1項2号に該当する無効理由がある。
ア 乙71文献に記載された発明(以下「乙71発明」という。)の内容
乙71文献には,「矩形布片の1端部を保持して吊り下げる第1工程と,第1工程で吊り下げられた布片の最下端部を保持する第2工程と,第1及び第2工程で保持した保持点の一方を吊り上げ,他方の保持点に隣接する端部を保持する第3工程と,第1及び第2工程での保持点の一方を解放する第4工程とを具備したことを特徴とする布片の展開方法。」(特許請求の範囲の請求項(1))との発明が記載されている。
乙71文献の記載内容と本件発明とを対比すると,乙71文献には,①本件発明の構成要件Cのうち,リネンSが次工程へ搬送される位置が「該コンベヤベルトの正面側端部」であること,チャック120及び124が走行するレールが「前記コンベヤベルトの長手方向を横切って」走行すること,②同構成要件Eのうち,チャック120及び124がリネンSを展開した位置が「当該キャリッジを前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と好ましくは反対側の地点から延長した位置」であること,③同構成要件Fのうち,チャック120及び124の配置が「該延長した位置でクランプがコンベヤベルトの中央に関して対称に位置づけられ(た)」配置であること,④同構成要件Gのうち,リネンSの搬送先が「コンベヤベルトの正面側端部」であること,⑤同構成要件Jの全て,についての記載がないものの,その余の本件発明の構成は全て記載されている。
イ そして,上記①ないし⑤に係る本件発明の構成は,次のとおり,乙47文献,乙48文献,乙78ないし80文献(以下「乙47文献等」という。)のいずれかに記載されている。
(ア) 上記①及び④の構成について,乙47文献,乙48文献,乙78文献及び乙79文献には,「コンベヤベルトの正面側端部」において洗濯物が移動すること,コンベヤベルトを備える送出装置において,乙71発明のチャック120及び124に相当する把持部分がコンベヤベルトの長手方向を横切るレールに設けられていることが記載されている。
(イ) 上記②の構成について,乙79文献及び乙80文献には,乙71発明のチャック120及び124に相当する把持部分が,リネンを保持した後にレールの中央すなわちコンベヤベルトの幅方向の中央の位置からレールの端部に延長する向きに互いに遠ざかることが記載されている。
(ウ) 上記③の構成について,乙79文献及び乙80文献には,洗濯物の展開が完了した時点で,洗濯物の把持部分が,装置の正面に向かって見ればレールの中央すなわちコンベヤベルトの幅方向の中央の位置から対称にあることを示している。
(エ) 上記⑤の構成について,乙79文献には,乙71発明のチャック120及び124に相当する把持部分が,レールの端の方すなわちコンベヤベルトの幅方向の端に寄った位置で洗濯物を受け取ることが記載されている。
ウ 乙71発明の展開方法を用いた展開装置を用いる場合には,必ず,この展開装置から次の工程にリネンSを送る送出装置が必要となるところ,乙71文献には,このような送出装置がベルトコンベヤを有することが記載されているから,乙47文献等に記載された洗濯物の展開・送出装置は,乙71文献に記載された送出装置に相当する。
したがって,乙71発明の展開装置に必要となる送出装置を設計しようとする当業者からすれば,乙47文献等に記載された上記①ないし⑤に係る本件発明の構成は,いずれも送出装置の構成として容易に適用可能なものである。
そして,洗濯物が床から離れた状態で展開され,ベルトコンベヤ上に移送されることによる作業効率の向上という本件発明の効果をもたらすのは,低い位置にある挿入クランプから機械的にこれより高い位置にある拡げクランプに洗濯物が移動し,機械的に洗濯物が展開されるという手段によってであるところ,乙71発明もかかる手段を備えているから,乙71発明に上記①ないし⑤に係る本件発明の構成を付加することによって,当業者の意図しない顕著な効果が生じることもない。
よって,本件発明は,乙71発明及び乙47文献等に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができる。
(被控訴人らの主張)
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立て
控訴人の主張する本件発明に係る特許の無効理由は,いずれも原審の初期段階において主張することが可能だったものであり,このような主張を許せば訴訟経済を著しく害することとなる。
よって,これに関する主張立証は,いずれも時機に後れた攻撃防御方法に当たり,却下されるべきである。
(2) 無効理由1について
当業者が請求項1の記載を見れば,仮に個々の用語に多少不適切な部分があったとしても,同請求項全体の構成,本件明細書の他の記載や図面により,その意味を容易に理解することができるのであって,誤解することはあり得ない。よって,請求項1の記載が旧特許法36条5項及び6項の要件を満たさないとはいえない。
ア 記載1について,当業者にとっては,「フラットワーク物品」との用語が平たい洗濯物を意味することは自明であり,「アイロンローラなどの洗濯処理ユニットへフラットワーク物品を供給するための装置」との説明からも,この装置の処理対象がシーツ,テーブルクロス,ベッドカバーなどの平たい洗濯物であることを理解することができる。
イ 記載2について,「なり」が記載されている構成要件だけでなくその後に続く全ての構成要件が本件発明の構成要件であることについて,特許実務家や当業者が誤解することはない。
ウ 記載3について,請求項1の記載の全体を見れば,「コンベヤベルトの正面側端部」は,フラットワーク物品が延伸装置からコンベヤベルトに移動する場所として示されているのであるから,「コンベヤベルトの(装置の)正面側の端部」のことであることは,当業者にとって明らかである。
エ 記載4について,本件発明に係る延伸装置では,フラットワーク物品の上端の両隅をクランプで挟んで吊り下げてたるんだ状態から,クランプが延伸レール上を相互に反対方向に走行することで上端が張るようにすることを「延伸」と表現し,その結果,フラットワーク物品全体が展張されるのである。これらの点について当業者が誤解することはあり得ない。
オ 記載5は,請求項1の記載を見れば,複数の挿入装置が延伸装置のレール手段を挟んでレール(コンベヤベルト)と反対側にあることを意味していることを容易に理解することができる。このことは,発明の詳細な説明や実施例の図を見れば,さらに自明である。
カ 記載6は,駆動手段によって一対のキャリッジが離間したレール上の位置が,当該コンベヤベルトの正面側の端部の中央とほぼ対向する点を中心として両側に距離を置いた位置になることを説明するものであり,「反対側」が「対向」という意味も有していることや,フラットワーク物品がコンベヤベルトに移るときのセンタリングを意識した記載であることからすれば,記載6の意味は当業者には自明である。
キ 記載7について,「フラットワーク物品」及び「延伸」の意味が上記ア及びエのとおり明確である以上,この記載が全体として不明瞭であるということはできない。
ク 記載8について,「接触するのに適」するとは,レール上の一対のキャリッジはフラットワーク物品と接触していないとこれを受け取ることができないことから,これを受け取ることができる位置に移動することができるようになっているという意味であり,不明瞭な点はない。
ケ 記載9について,「コンベヤベルトの正面側端部」の意味が明確であることは前記ウのとおりであるから,記載9は不明瞭ではない。
コ 記載10について,本件発明の解決すべき課題に照らせば,作業員がフラットワーク物品を通常の作業位置で挿入できる高さは「操作位置より実質的に高くない位置」であるのに対し,作業員の作業位置として高すぎて作業が困難又は不可能な位置は「操作位置より実質的に高い位置」ということになるから,不明瞭な点はない。
(3) 無効理由2について
請求項1の記載に不明瞭な点はなく,本件明細書の記載も,これと同様であるから,実施可能要件を具備しないとはいえない。
(4) 無効理由3について
パリ条約に基づく優先権が認められるための要件である,第二国出願に係る発明と第一国出願に係る発明との間の発明の同一性は,第二国出願の発明と実質的に同一と認められる発明が第一国出願に記載されていれば足りる。
そして,本件明細書と基礎明細書の記載全体を見ると,控訴人が基礎明細書に記載がないとする本件発明の構成について,基礎明細書には実質的に同じ記載があり,本件発明と実質的に同一の発明が基礎明細書に含まれているから,本件特許出願に係る優先権主張が無効とされることはない。
よって,優先日後に頒布された乙67文献の存在を理由に,本件発明の新規性や進歩性は失われない。
(5) 無効理由4について
本件発明の特徴・新規性は,複数の挿入装置が昇降手段を備え,かつフラットワーク物品の受け渡し場所が中央の一箇所に集中せず,受渡しをそれぞれの昇降手段の位置で行うことにある。
しかるに,控訴人が挙げる先行文献に記載の発明は,下記のとおり,いずれも本件発明の上記特徴を含むものではないから,当業者がこれらの発明をどのように組み合わせても,本件発明に容易に想到できたとすることはできない。
ア 乙71発明は,フラットワーク物品の一つの角をクランプに挿入させれば,他の角も掴持され,当該フラットワーク物品を自動的に広げることができるというものである。しかしながら,同発明に係る装置は本件発明の扱う装置と大きく異なり,挿入装置自体を有しておらず,本件発明の特徴に関連するような構成を一切有していない。
イ 乙47文献及び乙48文献に記載されたMP4SSFと本件発明との相違点は,前者が4つの挿入手段からのフラットワーク物品の受渡しを延伸レール中央に集中しているのに対し,本件発明では各昇降手段の位置で行っている点にあるが,かかる相違は本件発明とブラウン・アルファとの間にも認められるものであり,本件発明がブラウン・アルファに対して進歩性を有する以上,MP4SSFとの間の上記相違点に係る本件発明の構成にもこれと同様に進歩性が認められる。
ウ 乙78文献には,フラットワーク物品を直接クランプにセットするタイプのフィーダーに関するもので,バキュームを用いてクランプからコンベヤベルトにフラットワーク物品を受け渡すことが示されている。
しかし,乙78文献の装置は挿入装置を備えておらず,本件発明の新規性・特徴に係る構成を一切有していない。すなわち,乙78文献に係る発明は,本件発明の新規性・特徴とはおよそ無関係な発明である。
エ 乙79文献は,フラットワーク物品を直接クランプにセットするタイプのフィーダーに関するもので,左右にある一対のクランプが一度中央に移動し,その後左右に展開することが示されている。乙80文献も,同様にフラットワーク物品を直接クランプにセットするタイプのフィーダーに関するもので,フラットワーク物品を掴持したクランプが中央まで移動したときに駆動ベルトに取り付けてあるドグによりロックが外され,そこから左右展開に動きが切り替わることが示されている。
しかし,両文献に係る装置は,ともに挿入装置を備えておらず,本件発明の新規性・特徴に関連する構成を一切有していない。すなわち,乙79文献及び乙80文献に係る発明は,本件発明の新規性・特徴とはおよそ無関係な発明である。
2 平成24年3月から平成25年1月28日までの控訴人製品の販売に係る被控訴人らの損害
(被控訴人らの主張)
(1) 控訴人製品の販売台数
平成24年3月から平成25年1月28日までの間の控訴人による控訴人製品の販売台数は,控訴人製品1及び2が22台(国内向け11台,海外向け11台),控訴人製品3が4台(全て国内向け)の合計26台である。
(2) 被控訴人イエンセンの損害
前記(1)のとおり控訴人による控訴人製品の販売により,被控訴人イエンセンに生じる損害の額は,控訴人製品1台当たり65万円として,65万円×26台=1690万円である。
(3) 被控訴人プレックスの損害
上記期間において控訴人製品1及び2に対応する被控訴人製品1ないし3(被控訴人製品4の販売はない。)を販売することにより得られた1台当たりの平均利益額は,360万8500円である。
また,上記期間において控訴人製品3に対応する被控訴人製品5及び6を販売することにより得られた1台当たりの平均利益額は,492万9807円である。
そうすると,被控訴人プレックスが特許法102条1項に基づいて請求することができる額は,
控訴人製品1及び2の販売による損害として,360万8500円×22台=7938万7000円
控訴人製品3の販売による損害として,492万9807円×4台=1971万9228円
の合計9910万6228円である。
(控訴人の主張)
上記期間における控訴人製品の販売台数は認め,その余の被控訴人らの主張はいずれも否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人イエンセンの請求(原請求部分)は原判決主文第1項の限度で一部理由があるが,その余は理由がなく,その余の被控訴人らの請求(当審において拡張した部分を含む。)は,主文第1項(1)ア,同第2項(2)ア及びイの限度で一部理由があるが,その余は理由がないと判断する。
その理由は,次のとおり,原判決を補正し,当審における当事者の主張に対する判断を付け加えるほか,原判決「事実及び理由」第4の1ないし7に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,同7(5)クを除く。)。
2 原判決の補正
(1) 原判決55頁24行目の「クランプ10,11の」の次に「下の」を加える。
(2) 原判決57頁7行目冒頭から同58頁11行目末尾までを,次のとおり改め,同頁12行目の「すなわち,」を「この点,」と改める。
「(2) 控訴人は,構成要件Eを満たすためには,キャリッジがまず中央部に移動し,その上で,両側に移動するもの(中央展開方式)でなければならないところ,控訴人製品におけるキャリッジの移動は中央展開方式ではなくいわゆるカーテン展開方式であるから,控訴人製品は構成要件Eを充足しないと主張する。」
(3) 原判決58頁22行目の「請求項1」の次に「記載」を加える。
(4) 原判決59頁6,7行目の「カーテン展開方式を除外する」を「中央展開方式に限定される」と改める。
(5) 原判決59頁19行目の「被告のような主張」を「控訴人の主張するような解釈」と改め,同頁25行目の「主張するが,」の次に「拡張リボン自体は本件発明を構成するものではない以上,かかる主張は,」を加え,同頁26行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「 加えて,控訴人は,本件特許のパリ条約による優先権主張の基礎となる基礎明細書には,中央展開方式以外の展開方式は開示されていないと主張するが,構成要件Eの内容それ自体の解釈は,基礎明細書の記載内容によって左右されるものではないから,かかる控訴人の主張も採用することができない。
以上によれば,構成要件Eのうち「前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と好ましくは反対側の地点から」の部分は,「延長した位置」にかかる文言で,専らキャリッジの移動の終点が「延長した位置」であることを指すものと解するのが相当であり,これとは異なり,上記「反対側の地点」がキャリッジの移動の起点を指すと解することを前提に,構成要件Eにおけるキャリッジの展開方式を中央展開方式に限るものということはできない。よって,この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。」
(6) 原判決60頁1行目冒頭の「(4)」を「(3)」と改め,同頁6行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「 なお,控訴人は,控訴人製品の一対のキャリッジの移動はカーテン展開方式であると主張するのに対し,被控訴人らは,控訴人製品の一対のキャリッジは布類の展張の際にいったん中央に向かって移動し,その後中央から反対方向に移動しているから,控訴人製品の一対のキャリッジの移動はカーテン展開方式ではないと指摘する。
しかるに,構成要件Eにおけるキャリッジの展開方式が中央展開方式に限られないのは前記(2)のとおりであるから,控訴人製品のキャリッジの展開方式が中央展開方式に当たるかカーテン展開方式に当たるかについては,判断を要しない。」
(7) 原判決63頁20行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「 次に,控訴人は,本件発明は,公知技術であるMP4SSFのレールの構成と同じものを選択したにすぎず,周回する方式を選択しなかった以上,構成要件Hに周回する方式が含まれるというのは不合理であると主張する。
しかしながら,仮に,本件明細書の実施例におけるレールの構成がMP4SSFのシールの構成と同じであるとしても,前記(4)のとおり「昇降作動」が本件明細書の実施例の構成に限定されるものではない以上,これをもって,周回する方式が構成要件Hから意識的に除外されたということはできない。」
(8) 原判決64頁1行目の「という。」を「といい,作業効率の相違を裏付けるとする証拠(乙92,93)を提出する。」と改め,同頁13行目の「とされており,」の次に「同一の構成要件の範囲内にあると認められる具体的な装置の構成毎の,」を加え,同頁15行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同頁16行目冒頭の「(7)」を「(8)」と改める。
「(7) 控訴人は,基礎明細書には「周回」する装置への言及は一切ないと主張するが,構成要件Hの内容それ自体の解釈が基礎明細書の記載内容によって左右されるものではないことは,構成要件Eに関して説示したところ(前記2(2)と同様である。)」
(9) 原判決68頁15行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同頁16行目冒頭の「(8)」を「(9)」と,同69頁1行目冒頭の「(9)」を「(10)」とそれぞれ改める。
「(8) 次に,控訴人は,構成要件Kの一対のクランプ(17,18)はスライド(16)を介してレール手段に沿って滑るものであると解されるところ,控訴人製品における投入クランプ取り付けベースは滑り運動すなわち「スライド」運動を行わないから,同取り付けベースは「スライド」に当たらない,と主張する。
しかしながら,「スライド」は,スライドの一対のクランプに挿入されたフラットワーク物品を一対のキャリッジの方へ持ち上げるために昇降移動するものであることからすれば,レール手段に沿って昇降移動する移動体という程度の意味に解するのが相当である。
そして,前記(6)によれば,控訴人製品における投入クランプ取り付けベース12bは,車輪12gを介して溝付き部材12aに随時接触しながら移動していると認められるから,上記の意義の「スライド」に当たるということができる。」
(10) 原判決72頁1行目の「被告の「布類整形装置」」を「控訴人代表者を特許権者とし,発明の名称を「布類投入機における布類整形装置」とする特許発明」と改め,同頁11行目の「「SONIC-ES4-EX-33」は被告製品1に,」を「「SONIC-ES3V-EX-33」」と,同頁18行目の「「SONIC-ES4-EX-33」」を「「SONIC-ES3V-EX-33」」と,同頁24,25行目の「と主張する「SONIC-ES4-EX-33」」を「と主張する「SONIC-ES3V-EX-33」」と,それぞれ改める。
(11) 原判決73頁26行目の「アイアンローラ」を「アイロンローラ」と改める。
(12) 原判決74頁10行目の「などと主張する。」を「などとして,平成22年10月以前に販売された控訴人製品1について,特許法102条1項の適用を争い,あるいはその半数分につき損害額から控除されるべきであると主張する。」
(13) 原判決75頁7行目の「損害は発生しない,」を「損害は発生せず,また,少なくとも,控訴人製品の販売台数のうち50%分については損害額から控除されるべきである,」と改め,同頁10行目の「否定されず,」の次に「控訴人が販売した控訴人製品の全ての台数に関して,」を加える。
(14) 原判決75頁15行目末尾に,次のとおり加える。
「控訴人はこれを争うが,被控訴人プレックスが同期間に販売したとする83台(甲27)と71台を合わせても,同期間(39か月)中の1か月当たりの平均販売台数は3.9台程度であるのに対し,被控訴人プレックスは同期間中に1か月当たり5ないし7台を販売したことがあるとされており(甲27),これを覆すに足りる証拠もないことからすれば,被控訴人プレックスの実施の能力については,上記のとおり認定するのが相当である。」
(15) 原判決77頁1行目の「高いのであるから,」を「高い傾向にあること,控訴人が指摘する被控訴人プレックス全体の平均利益額は限界利益の額ではなく,さらに固定費等が控除される純利益の額であることなどからすれば,」と改める。
(16) 原判決77頁6行目冒頭から同頁13行目末尾までを,次のとおり改める。
「ウ 控訴人は,被控訴人製品の製造販売に係る以下の各種費用が,「単位数量当たりの利益の額」から控除されなければならないと主張する。
(ア) 運賃荷造費について
計算鑑定申立書に添付された別紙1と同内容の計算表(甲17の2)及びその説明資料(甲17の1。これらを併せ,以下「甲17資料」という。)には,「他経費」の内容について,「製品運送費・製品の設置工事を行うための出張旅費・部品を仕入れる際に支払ったメーカーからの送料」との記載があり,計算鑑定書における「他経費」もこれと同旨であると解される。
そうすると,運賃荷造費については,ここにいう「製品運送費」に含まれるというべきであり,これを覆すに足りる証拠はないから,運賃荷造費を利益の額からさらに控除する必要があると認めることはできない。
(イ) 販売促進費,直接販売費,交際費及び広告宣伝費について
直接販売費については,計算鑑定書に「イージーホーク(判決注・被控訴人製品を指す。)を販売するための直接販売費と認められるものは見いだせなかった。」と記載されており,他にかかる費用の発生を認めるに足りる証拠はないから,これを利益の額から控除する必要があると認めることはできない。
販売促進費,交際費及び広告宣伝費については,いずれもその支出額を的確に認めるに足りる証拠はない上,個々の被控訴人製品の販売との間に直接の相関関係を認めることも困難であるから,これを変動経費として利益の額から控除する必要があると認めることはできない。
(ウ) 従業員教育費について
控訴人は,被控訴人プレックスが実際の販売台数の2倍の被控訴人製品を製造販売するためには,新たに従業員を採用する必要があり,その従業員教育費を利益の額から控除すべきである旨主張する。
しかるに,被控訴人プレックスは,被控訴人製品の製造を外部の製造者に委託しており(計算鑑定書,甲27),製造台数の増加に伴って,被控訴人プレックス自身が新たに従業員を採用すべき必要性があるということはできないし,被控訴人製品の販売台数の増加によって新たに従業員を採用する必要性があったと認めるに足りる証拠もない。
よって,控訴人の主張する従業員教育費を,利益の額から控除する必要があると認めることはできない。
(エ) 金型費について
被控訴人製品の製造に必要な金型の製作に要した費用は,控訴人の指摘する製造台数の増加に伴う摩耗等の可能性を考慮しても,被控訴人製品の販売台数の増大に伴って直ちに増大するようなものと認めることは困難である。
また,被控訴人プレックスが被控訴人製品の製造を外部の製造者に委託しているのは前記(ウ)のとおりであり,金型の製作費については,仮に被控訴人プレックスにおいて負担している部分があるとしても外注費として評価されていると考えるのが相当であり,これを利益の額からさらに控除する必要があると認めることはできない。
(オ) 消耗品費及び消耗工具費について
甲17資料には,「材料費」の内容について,「機械を構成している機械部品・電機部品の購入費用」と記載され,また,「外注費」の内容については,「機械・電機部品の製作,組立を外注している費用」と記載されている。そして,計算鑑定書における「材料費」及び「外注費」もこれらと同旨であると解される。
そうすると,被控訴人製品の製造のための消耗品費及び消耗工具費については,このような材料費又は外注費として評価されていると考えるのが相当であり,これを覆すに足りる証拠もないから,これらの費用を利益の額からさらに控除する必要があると認めることはできない。
(カ) 納品先での組立て,試運転,点検のための労務費について
甲17資料には,「労務費」の内容について,「外注で組み立てられた機械を出荷前に点検・調整を行うための費用」と記載されており,計算鑑定書における「労務費」もこれと同旨であると解すると,控訴人の指摘する納品の際の労務費は,これに含まれないとも考えられる。
しかるに,「他経費」の中に「製品の設置工事を行うための出張旅費」が含まれることは前記(ア)のとおりであり,計算鑑定書においてこのような旅費が経費として評価されているにもかかわらず,これに係る労務費が評価されていないというのは不自然である。
よって,甲17資料における上記の記載にもかかわらず,同資料や計算鑑定書の「労務費」には控訴人の指摘する納品の際の労務費も含まれているとみるのが相当であり,他にこれを覆すに足りる証拠もない。
したがって,かかる費用を利益の額からさらに控除する必要があると認めることはできない。
(キ) CEマークの取得費用を含む輸出に要する一切の費用について控訴人は,欧州連合地域等に製品を輸出するために必要となるCEマークの取得費用その他の輸出に要する費用は,利益額から控除されるべきであると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,欧州連合地域等に製品を輸出するためにはCEマークの取得が必要であると認められ,この点は被控訴人製品についても同様であるということができるものの,被控訴人製品については,実際には欧州連合地域等向けの受注がなく,CEマーク取得のための費用の支出はされていない。そして,かかる費用は販売台数の増加により直ちに増加する性質のものとは認められず,変動経費に当たるとは解し難いものの,控訴人製品の代わりに被控訴人製品を輸出していれば被控訴人プレックスにおいて当然に発生したであろう費用であると考えられる。そうすると,平成24年2月以前に欧州連合地域等向けに販売された控訴人製品4台分(乙91によれば,控訴人製品1が2台(ドイツ及びノルウェーに1台ずつ),控訴人製品3が2台(ドイツ及びポーランドに1台ずつ)であることが認められる。)に代わる被控訴人製品の販売において直接必要な費用として,これに係る利益額から控除するのが相当である。
そして,その額については,被控訴人プレックス従業員の陳述書(甲27)には取得に当たり200ないし300万円が必要であるとの記載があること,原審の被告準備書面(19)には,控訴人製品100台分で353万8500円であった旨の記載があることに照らし,300万円をもって相当と認める。
これに対し,その他の輸出に要する費用については,これを的確に算定することのできる証拠はなく,認めることができない。」
(17) 原判決80頁10,11行目の「限定されるところ,」を「限定されるべきであり,また,本件発明は公知技術の改良発明にすぎないから,控訴人製品における本件発明の寄与は極めて小さいというべきであるところ,」と改める。
(18) 原判決80頁19行目の「発明ではないから,」を「発明ではなく,公知技術を参酌しても,本件発明の構成の一部に限定して侵害の有無を論じるべき根拠となるものではないから,」と改める。
(19) 原判決81頁3行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「ウ 控訴人は,被控訴人製品においては,本件発明のみならず被控訴人プレックスを特許権者とする複数の特許に係る発明が実施されていることからすれば,本件特許権侵害による損害額は,利益額の一部に限られるべきであると主張する。
(ア) この点,証拠(甲17の1,乙42ないし44)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人プレックスは,少なくとも下記aないしfの各発明について特許を有していることが認められ,それぞれの特許に係る発明(以下「被控訴人プレックス発明」という。)が,被控訴人製品の全機種又は一部の機種において実施されていることがうかがわれる。
a 「布類展張搬送機」(特許第3459365号)
b 「布類展張搬送機」(特許第3208120号)
c 「布類展張搬送方法及び布類展張搬送機」(特許第4185353号)
d 「布類展張機」(特許第4043346号)
e 「布類展張方法及び布類展張機」(特許第4043345号)
f 「布類展張搬送機」(特許第5101914号)
(イ) 上記のとおり,被控訴人製品においては,本件発明のみならず被控訴人プレックス発明が実施されており,これらが全体として被控訴人製品を構成しているということができる。
とはいえ,本件発明は,スプレッダーフィーダー装置全体の発明として被控訴人製品の本質的構成をなしており,その装置としての性能や被控訴人製品に対する顧客吸引力は,専ら本件発明に負っているということができる。これに対し,被控訴人プレックス発明は,その内容に照らすと,いずれも被控訴人製品において付随的に設けられている機構に関するものにすぎず,仮にそれらの発明が実施されていないのであれば被控訴人製品を購入しないと考える需要者がそれなりに存在すると認めるに足りる証拠もない。
これらに照らせば,被控訴人製品に被控訴人プレックス発明が実施されていることをもって,寄与率による減額をすべき事情と認めることはできず,この点に関する控訴人の上記主張は,採用することができない。」
(20) 原判決81頁4行目冒頭から同頁15行目末尾までを,次のとおり改める。
「(7) 被控訴人プレックスの損害について
以上によれば,被控訴人プレックスの損害は,以下のとおりである。
控訴人は,平成20年12月から平成24年2月までの間に,控訴人製品1及び2を合計61台販売していたところ,被控訴人プレックスが被控訴人製品1ないし4を同一数量販売することにより得べかりし利益の額は,1台当たり321万7327円,合計1億9625万6947円である。
また,控訴人は,上記期間において,控訴人製品3を合計10台販売していたところ,被控訴人プレックスが被控訴人製品5ないし6を同一数量販売することにより得べかりし利益の額は,1台当たり436万8056円,合計4368万0560円である。
これらの合計額である2億3993万7507円から,欧州連合地域等に輸出するために必要となるCEマークの取得費用として300万円を控除した2億3693万7507円が,被控訴人プレックスの損害と推定され,この推定をさらに覆すに足りる事情はない。」
(21) 原判決82頁12行目から同頁22行目までを,次のとおり改める。
「 他方,海外向けに販売された控訴人製品13台分について,民法709条に基づく損害賠償請求の要件事実である違法行為と損害の発生との間の相当因果関係の立証があるかどうかを検討すると,被控訴人イエンセンは附帯控訴状において,被控訴人製品と競合する製品を製造販売する業者は控訴人のほかには1社しかなく,当該1社も被控訴人イエンセンから実施権を得て同種製品を製造販売していると指摘するものの,これを裏付ける的確な立証はなく,控訴人製品や被控訴人製品と海外の市場において事実上競合する可能性のある製品の有無については,定かではないといわざるを得ない。また,控訴人製品の海外向け販売に必要な諸条件等についても明らかではない。
そうすると,被控訴人イエンセンの損害に関する限り,控訴人製品の販売がなかったならば被控訴人プレックスが被控訴人製品を同一数量販売することができ,被控訴人イエンセンが対応する実施料を取得することができたとの立証があったということは困難である。
これに対し,被控訴人イエンセンは,被控訴人らのそれぞれ毎に異なる事実を認定することの不自然さや,独占的通常実施権を設定した特許権者について特許法102条3項の適用を認めることとの不均衡を指摘する。しかしながら,立証責任の所在が異なる以上,同一手続内であっても証拠関係により結果的に当事者毎に異なる認定となることは特段不自然なことではないし,特許権者は,独占的通常実施権を許諾した場合であっても,第三者への実施許諾権限自体を喪失するものではないことからすれば,専用実施権の許諾の場合と比較して,特許法102条3項の適用の可否に差が生じることはやむを得ないものである。」
3 当審における当事者の主張について
(1) 本件発明に係る特許の無効について
ア 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて
被控訴人らは,控訴人の主張する本件発明に係る特許の無効理由の主張及び立証は,時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たり,却下されるべきであると申し立てた。
しかるに,控訴人の上記主張については,いずれもその当否を直ちに判断することができるものであるから,これにより本件訴訟の完結を遅延させることとなるものと認めることは困難である。よって,これらの主張及び立証を却下することなく,その当否について判断することとする。
イ 無効理由1について
控訴人は,本件発明に係る請求項1には不明瞭な記載があるから,請求項1は旧特許法36条5項及び6項の要件を具備していないと主張する。
しかしながら,控訴人が指摘する請求項1中の記載がいずれも不明瞭であるということはできないのは以下のとおりであるから,これを理由に本件発明に係る特許の無効をいう控訴人の主張は,採用することができない。
(ア) 記載1について
控訴人は,本件明細書には「フラットワーク物品」の定義や説明がなく,この語は一般的な用語でも技術用語でもないと主張する。
この点,「フラットワーク」は英語の“flat work”を片仮名表記したものであり,「フラット」は「平らな」,「ワーク」は「作業」や「加工」という意味を観念できる外来語として,いずれも我が国において一般的に知られた語であると認められる。
そして,洗濯業界においては,ロール式アイロンで処理するシーツやテーブルクロス,布団カバーなどのような平たい洗濯物は「平物」と呼ばれていること(甲22),本件発明における「フラットワーク物品」は「アイロンローラなどの洗濯処理ユニット」に供給されるものであることからすれば,本件発明に係る技術分野の当業者は,「フラットワーク物品」が「平物」,すなわち,ロール式アイロンで処理するシーツ等の平たい洗濯物を指すことを,極めて容易に理解することができるというべきである。
よって,記載1が不明瞭であるとの控訴人の上記主張は,採用することができない。
(イ) 記載2について
控訴人は,「該装置はコンベヤベルトからなり」との記載が,本件発明に係る装置がコンベヤベルト以外の部位を備えるとの記載と矛盾すると主張する。
しかるに,「該装置」が「コンベヤベルト」のみならず「延伸装置」等のコンベヤベルト以外の機械要素を含めて構成されていることは,請求項1の記載や本件明細書の発明の詳細な説明,あるいは図面の内容に照らして明らかである。
よって,記載2があることをもって,請求項1が全体として不明瞭であるということはできず,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 記載3について
控訴人は,「正面側端部」との記載が「正面側にある端部」と「正面の側端部」のいずれの意味であるのか,あるいは両方の意味であるのか把握することができないと主張する。
しかしながら,請求項1の「該コンベヤベルトの正面側端部において,フラットワーク物品が,…移動することができる。」及び「フラットワーク物品の上端部をコンベヤベルトの正面側端部に移動する」との記載に照らせば,「コンベヤベルトの正面側端部」は,フラットワーク物品の上端部がコンベヤベルトに移動する部分であるから,「コンベヤベルトの正面側の端部」を意味することは明らかである。
よって,記載3が不明瞭である旨の控訴人の上記主張は,採用することができない。
(エ) 記載4について
控訴人は,「延伸」は引き延ばすとの意味と単に広げたり開いたりするとの意味のいずれも想起できるからその技術的意義が理解し難く,「延伸装置」の機能,目的,作用を把握することができないと主張する。
しかるに,本件発明に係る装置は「アイロンローラなどの洗濯処理ユニットへフラットワーク物品を供給するための装置」であり,アイロンローラによるアイロン掛けを行うための前処理として,フラットワーク物品を広げることを目的とするものである。そして,請求項1の「該コンベヤベルトの正面側端部において,フラットワーク物品が,前記コンベヤベルトの長手方向を横切って走行しかつ引き外し自在のクランプが設けられた一対のキャリッジを有するレールからなる延伸装置から移動することができ,…当該キャリッジを…延長した位置に移動させて離間せしめ…該延長した位置で…前記フラットワーク物品の上端部が延伸され,フラットワーク物品の上端部をコンベヤベルトの正面側端部に移動する」との記載に照らせば,「延伸」とは,フラットワーク物品の上端部をコンベヤベルトの正面側端部に移動できる程度にのばしてまっすぐにすることをいうものと解され,「延伸装置」とは,そのための装置であると解することができる。
よって,記載4に不明瞭な点はなく,控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 記載5について
控訴人は,「レール手段」が何に対して「前記コンベヤベルト」と反対側にあるのかが記載されておらず,「レール手段」の位置を理解することができないと主張する。
しかしながら,「前記コンベヤベルトの反対側のレール手段」は,これに続く「の側に」と相俟って,「挿入装置」が設けられる場所を指す記載であり,請求項1の他の記載を考慮すると,「挿入装置」は,「前記コンベヤベルトの長手方向を横切って走行」するレールの側に設けられることとなるから,ここにいう「反対側」とは,コンベヤベルトと,上記のとおり走行するレールとが「対向する」位置関係にあることを表すものと理解することができる。
よって,記載5に不明瞭な点はなく,控訴人の上記主張は採用することができない。
(カ) 記載6について
控訴人は,「前記コンベヤベルトの正面側端部」が不明瞭であり,「反対側」が何に対して反対側であるのか及び「延長」の向きが記載されていないから,記載6の「位置」を明確に特定できないと主張する。
しかるに,「前記コンベヤベルトの正面側端部」が不明瞭であるとはいえないのは前記(ウ)のとおりである。そして,請求項1の「フラットワーク物品が,前記コンベヤベルトの長手方向を横切って走行しかつ…一対のキャリッジを有するレールからなる延伸装置から移動することができ,…前記フラットワーク物品の上端部が延伸され,フラットワーク物品の上端部をコンベヤベルトの正面側端部に移動する」との記載によれば,記載6における「延長した位置」とは,フラットワーク物品の上端部をコンベヤベルトの正面側端部に移動できる程度にのばしてまっすぐにした際の,一対のキャリッジのレール上の地点を指すと理解することができる。
よって,控訴人が指摘する各記載はいずれも明確であり,控訴人の上記主張は採用することができない。
(キ) 記載7について
控訴人は,記載7における「フラットワーク物品」や「延伸」の意味が不明であると主張する。
しかるに,控訴人が指摘する上記の語がいずれも不明瞭であるとはいえないことは,前記(ア)及び(エ)のとおりであり,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ク) 記載8について
控訴人は,「フラットワーク物品と接触するのに適しており」との記載は,適しているか否かの判断基準が請求項1に記載されておらず不明確であると主張する。
しかし,「接触するのに適して」とは,「引き外し自在のクランプが設けられた一対のキャリッジ」がフラットワーク物品と接触しないと挿入装置からフラットワーク物品を受け取れないから,接触して受け取れるようになっているという程度の意味であって,特段不明確なものではない。
よって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ケ) 記載9について
控訴人は,記載9における「コンベヤベルトの正面側端部」が示す部位が不明瞭であると主張する。
しかし,「前記コンベヤベルトの正面側端部」が不明瞭であるとはいえないのは前記(ウ)のとおりであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
(コ) 記載10について
控訴人は,記載10における「実質的に」が「高い位置」をどのように限定しているのかを理解することができないと主張する。
しかしながら,「操作位置より実質的に高い位置」は,本件明細書の「本発明の目的は,…フラットワーク物品をコンベヤベルトの運ばれる高さに持ち上げることなく挿入しうるように操作ステーションを設計できる可能性を有すると共に,延伸操作中フラットワーク物品が自由に垂れ下がる可能性を有する装置を提供することである。」(【0004】)との記載や,「本発明によれば,横方向のレール(は)延伸されたフラットワーク物品がキャリッジのクランプから実質的に自由に垂れ下がることができるような高さで設けられる。」(【0011】)との記載に照らせば,必然的に理解することができるものである。
よって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 無効理由2について
控訴人は,請求項1に不明瞭な記載がある以上,発明の詳細な説明には本件発明の構成について当業者が理解できる程度の記載がなく,本件明細書は旧特許法36条4項の要件を具備していないと主張する。
しかしながら,請求項1に不明瞭な記載があるということはできないのは前記イのとおりであるから,このことを理由に本件明細書が旧特許法36条4項の要件を満たしていないとの控訴人の上記主張は,採用することができない。
エ 無効理由3について
控訴人は,本件発明と基礎明細書に記載された発明は同一ではないから,本件発明には基礎明細書を基礎とする優先権主張(優先権主張日 1992(平成4)年1月29日)の効果は生じないとし,本件発明は,これに係る特許の実際の出願(平成5年1月28日)前に頒布された刊行物に記載された発明と同一ないし当該発明から容易に想到することができ,さらに,本件特許の実際の出願前に既に公知になっていたと主張する。
(ア) パリ条約4条Hは,「優先権は,発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては,否認することができない。ただし,最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。」と定めている。
これによれば,第一国での出願に基づき第二国での出願について優先権を主張するためには,第一国での出願に係る発明と第二国での出願に係る発明が内容的に同一であることが必要であるものの,ここにいう発明の同一性は,特許請求の範囲だけでなく,明細書や図面等から同一と判断されれば足りると解される。
そこで,本件発明が,基礎明細書の特許請求の範囲や明細書,図面等に照らして,基礎明細書に記載された発明と同一であるといえるかどうかを検討する。
(イ) 控訴人が提出した基礎明細書(1992(平成4)年1月29日出願の,発明の名称を「例えばアイロンローラのような洗濯処理ユニットに洗濯物を供給するための装置」とする,デンマーク王国特許局に対する特許出願の明細書である。)の日本語訳(乙74)によれば,基礎明細書の特許請求の範囲には,次の記載がある。
「1.例えばアイロンローラのような洗濯物処理装置内に洗濯物を挿入する装置であり,本装置は,運搬ベルトから成り,該運搬ベルトの前面端において洗濯物が前記運搬ベルトの縦方向に走行し,かつ取り外し自在のクリップがついた対になっているキャリッジを有するレールから成り,洗濯物の角をオペレータが操作する一連の挿入装置によって該クリップ内に挿入することができ,この挿入装置は,運搬ベルトの反対側のレールに置かれ,該レールのキャリッジ対は駆動手段を持ち,キャリッジ対のキャリッジを運搬ベルトの前面端のほぼ中心の点から延長線上にある位置へと離間させるよう設計されている。ここでクリップは,運搬ベルトの前面端の中心に対して対称的にあり,洗濯物の上端を運搬ベルト正面端へ送る手段があるので,洗濯物の上端がそこで広げられる。
本装置において,レールは,運搬ベルトの前面端の前にあるクリップに対して固定されている。本装置は,運搬ベルトの前端部で上側にあるローラの下部に位置する二つの地点間で可動な装置を含む。この可動な装置は,2つのローラを含む。2つのローラのうち1つは,運搬ベルトの最上部の下側かつやや後方の位置と,展開される洗濯物とわずかに接触する前に突き出した位置とから,移動できる。もう1つのローラは,前記ローラがある2つの地点のベルトが張るような方法で二つの地点の間を移動できる。各手段はサクションケースを含む。サクションケースは,下方壁,後方壁,下方壁と最初のローラの間にある壁で閉鎖される。運搬ベルトは,孔あきベルト又は間隔を空けて互いに並列する比較的幅の狭いベルトで成っている。以上の特徴を有する装置。」
「4.請求項1,2または3による装置であり,
運搬ベルトへの洗濯物の送り出しをするためのレールと手段が,オペレータに対して高く位置づけられ,挿入方向に上向きに傾斜して走行している運搬レーンを含み,運搬レーンが,洗濯物をオペレータの作業場所からクリップ対に持ちあげることで特徴づけられている。」また,基礎明細書の図面(Fig.1及びFig.2)は,本件明細書の図面(図1及び図2)と同一のものである。
(ウ) 控訴人は,基礎明細書には本件発明に係る装置における「フラットワーク物品を供給するための装置」,「前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と好ましくは反対側の地点から延長した位置に移動させて離間せしめるのに適した駆動手段」,「前記フラットワーク物品の上端部が延伸され」との特徴は記載されていないと指摘する。
しかるに,「フラットワーク物品」が平たい洗濯物を指すことは前記イ(ア)のとおりであるところ,上記のとおり,基礎明細書の請求項1には,「洗濯物処理装置内に洗濯物を挿入する装置」,「この挿入装置は,運搬ベルトの反対側のレールに置かれ,該レールのキャリッジ対は駆動手段を持ち,キャリッジ対のキャリッジを運搬ベルトの前面端のほぼ中心の点から延長線上にある位置へと離間させるよう設計されている。」,「洗濯物の上端がそこで広げられる。」との記載があり,これらの記載は,いずれも,控訴人が指摘する本件発明に係る請求項1における上記各記載と同旨であることは明らかである。
また,控訴人は,本件明細書【0007】に記載の本件発明の効果及び請求項1の「操作位置より実質的に高い位置」の意義が,基礎明細書に記載されていないと主張する。
しかしながら,基礎明細書の発明の詳細な説明には,「大容量を得るため,好ましく選ばれた設計では,挿入装置の3本の運搬レーンが平行して置かれ,洗濯物は装置の中心点から外れたキャリッジ対と出会う場所に送られる。このように配列することでキャリッジ対内のクリップに渡す際,挿入装置が互いに邪魔になることが防げる。」との記載があり(乙74・4枚目最終行ないし5枚目3行目),この記載は,本件明細書【0007】の「コンベヤベルトの中央からずれていることによって達成される。昇降手段をジョイント(すなわち,中間点)まで持ち上げないことにより,この領域でのスライド間の衝突の危険性が除去される。」との記載と同旨であると認められる。また,基礎明細書の発明の詳細な説明には,「レール7が高い位置に置かれることは,本装置の重要な詳細部分である。というのは,これにより洗濯物が展開操作の間は自由に垂れ下がることが可能となり,…」との記載があり(乙74・6枚目4,5行目),この記載は,前記イ(コ)において説示したとおりの本件明細書の記載から理解することができる「操作位置より実質的に高い位置」の意義と同旨であると認められる。
さらに,控訴人は,基礎明細書には,どのようにクランプ17,18に取り付けた洗濯物がどのような状態でクランプ10,11に受け渡されるかについての記載に相当する記載や,請求項1の「前記一対のキャリッジが,昇降手段のいずれかと対向する位置においてフラットワーク物品と接触するのに適しており」(構成要件I)との記載がないと主張する。
しかしながら,基礎明細書の発明の詳細な説明には,「キャリッジ8には,クリップ10が据え付けられており,これは空気圧シリンダ20によって作動する。…クリップ17には洗濯物が挿入されており,挿入装置のレール15に沿ったスライドの上向き移動によって,洗濯物22は上に移動し,同時にシリンダ20によって始動するクリップ10に捕まえられる。スライドはクリップ10の前を通過して走行し,洗濯物がクリップ17から引き出され,クリップ10が閉まった後は,さらに十分なスペースが発生し,スライドはクリップ10の前を通過して元に戻る。洗濯物は,その後,22で示された位置に移る。」との記載があり(乙74・7枚目下から3行目ないし8枚目5行目),この記載は,本件明細書に記載された本件発明のクランプ17,18に取り付けられた洗濯物がクランプ10,11に受け渡される経過と,同旨の内容を開示していると認められる。
また,基礎明細書の請求項1には「取り外し自在のクリップがついた対になっているキャリッジを有するレールから成り,洗濯物の角をオペレータが操作する一連の挿入装置によって該クリップ内に挿入することができ,」との記載があり,かかる記載は,挿入装置とクリップの付いたキャリッジとが,前者から後者に対して洗濯物を受け渡すことが可能な位置関係にあることを当然の前提にしていると解されるから,本件発明の構成要件Iと実質的に同旨であるということができる。
(エ) これに加えて,基礎明細書の請求項1及び4には,本件発明のその余の構成についても概ね記載されていると認められること,本件明細書の図面と基礎明細書の図面とが同一のものであり,両明細書の実施例についての記載を比較しても,ほぼ同一の構成が示されていることからすれば,本件発明が基礎明細書に記載された発明と同一のものであることは優に認められるというべきである。
よって,本件発明に基礎明細書を基礎とする優先権主張の効果が生じないことを前提に,本件発明が,本件特許の実際の出願(平成5年1月28日)以前であるが優先権主張日(平成4年1月29日)以後である1993(平成5)年1月20日に頒布された刊行物である乙67文献(乙67)に記載された乙67発明と同一であるか,同発明及びその他の公知文献に記載された発明から容易に想到することができること,あるいは,平成4年6月に公知になっていたことを理由に,本件発明に係る特許に無効理由があるとする控訴人の主張は,採用することができない。
(オ) なお,控訴人は,基礎明細書には,キャリッジ対の移動方式に関して中央展開方式以外の展開方式や,昇降手段に関して周回する方式は開示されていないと主張しており,これを本件発明と基礎明細書に記載された発明との同一性を争う主張と解したとしても,以下のとおり,控訴人の主張する点をもって本件発明と基礎明細書に記載された発明との同一性は否定されない。
すなわち,キャリッジ対の移動方式については,本件発明の「当該キャリッジを前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と好ましくは反対側の地点から延長した位置に移動させて離間せしめるのに適した駆動手段」との記載が,基礎明細書の請求項1における「該レールのキャリッジ対は駆動手段を持ち,キャリッジ対のキャリッジを運搬ベルトの前面端のほぼ中心の点から延長線上にある位置へと離間させるよう設計されている。」との記載と同旨であることは前記のとおりであること,基礎明細書の請求項5には,「キャリッジ対は,展開動作が始まる前に一緒にレールの中心に向かって動作するよう設計されており,」との記載があり(乙74),この請求項においてはキャリッジ対の移動方式を特に中央展開方式に限定していると解されることからすれば,基礎明細書の請求項1の発明は,本件発明と同様に,キャリッジ対の移動方式を中央展開方式に限定するものではないということができる。
また,基礎明細書の特許請求の範囲や発明の詳細な説明には,昇降手段について,同じ軌道上を往復上下する方式に限定する旨の記載や,周回する方式を除外する旨の記載は認められないから,基礎明細書に記載の発明は,周回する方式を昇降手段から除外するものではない。
よって,控訴人の主張は採用することができない。
オ 無効理由4について
控訴人は,本件発明が,乙71発明を主たる引用発明として当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
(ア) しかるに,乙71文献(乙71)には,「矩形布片の1端部を保持して吊り下げる第1工程と,第1工程で吊り下げられた布片の最下端部を保持する第2工程と,第1及び第2工程で保持した保持点の一方を吊り上げ,他方の保持点に隣接する端部を保持する第3工程と,第1及び第2工程での保持点の一方を解放する第4工程とを具備したことを特徴とする布片の展開方法。」(特許請求の範囲の請求項(1)),及び「短形布片の1端部を保持して吊り下げながら搬送する第1チャックコンベアと,第1チャックコンベアで搬送された布片をしごきながらその最下端部を保持して搬送する第2チャックコンベアと,第1及び第2チャックコンベアで搬送された布片の一方の保持点を吊り上げ,他方の保持点に隣接する端部を保持する第3チャックコンベアと,第1及び第2チャックコンベアの一方の保持点を解放し,布片の相隣接する端部を保持して搬送する第4チャックコンベアとを具備したことを特徴とする布片展開装置。」(同(2))との発明が記載され,この発明に係る実施例として,三種類のチャック114,120及び124並びにしごき装置117及び121を必要とする旨が開示されている。そうすると,上記発明は,矩形布片を展開する方式が,本件発明の「前記一対のキャリッジには,当該キャリッジを前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と好ましくは反対側の地点から延長した位置に移動させて離間せしめるのに適した駆動手段が設けられ,該延長した位置でクランプがコンベヤベルトの中央に関して対称に位置づけられ,前記フラットワーク物品の上端部が延伸され,」との方式とは全く異なるものである。
したがって,乙71発明は,矩形布片(乙71文献の発明の詳細な説明には,シーツ,タオル,包布等のリネンが挙げられており,本件発明における「フラットワーク物品」に相当するものであると認められる。)を展開する装置である点で本件発明と共通するものの,その方式が全く異なるものであるから,本件発明とは異質な発明であり,本件発明と対比される発明として用いることは困難である。
(イ) また,本件発明の構成要件Hの「挿入装置(14)が…昇降手段であって,互いに隣接して設けられ,フラットワーク物品を一対のキャリッジ(8,9)の方へ持ち上げる複数の昇降手段からなり,」,同Iの「前記一対のキャリッジが,昇降手段のいずれかと対向する位置においてフラットワーク物品と接触するのに適しており,」及び同Jの「当該位置が,前記昇降手段の少なくともいくつかについて前記コンベヤベルトの正面側端部の中央と対向する位置からずれており,」との各文言に照らすと,本件発明における一対のキャリッジは,その少なくともいくつかがコンベヤベルトの正面側端部の中央と対向する位置からずれた位置にある複数の昇降手段とそれぞれ対向する位置において,フラットワーク物品を各昇降手段から受け取るとの構成が示されていると認められ,これによれば,該一対のキャリッジは,フラットワーク物品を各昇降手段から受け取るため,各昇降手段と対向する位置まで移動可能であることとなる。
しかるに,控訴人が摘示する各引用文献は,いずれも,このような構成を開示するものではない。
すなわち,乙71発明は,前記(ア)のとおりの構成であり,布片の端部を保持するチャックとは別に,布片を該チャックの方へ持ち上げる複数の昇降手段からなる挿入装置を有するものではないから,これと対向する位置まで該チャックが移動可能との構成は導き得ない。
また,乙47文献(乙47)及び乙48文献(乙48)が開示するMP4SSFは,一対のキャリッジが延伸レールの中央部分に位置し,洗濯物の挿入装置である複数の昇降手段はいずれも当該中央部分に向かって延び,該中央部分において洗濯物を一対のキャリッジに受け渡すものと認められ,一対のキャリッジ自体が昇降手段と対向する位置まで移動可能との構成ではない。
さらに,乙78文献(乙78),乙79文献(乙79)及び乙80文献(乙80)も,いずれも挿入装置を備えた構成を開示するものではなく,これらの文献から,一対のキャリッジが挿入装置と対向する位置まで移動可能との構成を導くことはできない。
そうすると,控訴人が摘示する各引用文献の記載をどのように組み合わせても,本件発明の一対のキャリッジに関する上記の構成を導くことはできず,また,かかる構成が,これらの文献や技術常識等を踏まえても,当業者にとって容易想到であるとは認められない。
(ウ) よって,本件発明は乙71発明等に基づいて進歩性を否定されることはなく,この点に関する控訴人の主張は採用することができない。
(2) 平成24年3月から平成25年1月28日までの控訴人製品の販売に係る被控訴人らの損害
ア 控訴人製品の販売台数
上記期間における控訴人による控訴人製品の販売台数が,控訴人製品1及び2が22台(国内向けが11台,海外向けが11台),控訴人製品3が4台(全て国内向け)の合計26台であることは,当事者間に争いがない(なお,乙91によれば,上記海外向け販売分に欧州連合地域等向けのものは認められない。)。
イ 被控訴人イエンセンの損害
補正後の原判決「事実及び理由」第4の7(8)ア及びイのとおり,被控訴人イエンセンは,特許法102条3項により実施料相当額を損害額と推定する基礎を欠いていると解されるものの,民法709条の原則に従った損害賠償を求めることができるというべきである。
そして,同イにおいて説示したとおりの事情によれば,被控訴人プレックスは,控訴人による侵害行為がなければ,前記アの控訴人による控訴人製品の販売台数のうち,国内向けに販売した台数と同じ数量(15台)の被控訴人製品を製造販売することができ,その結果,被控訴人イエンセンは,1台当たり65万円の実施料を取得することができたと認められる(甲16,計算鑑定の結果,弁論の全趣旨)。
そうすると,被控訴人イエンセンは,控訴人による侵害行為により,被控訴人プレックスから合計975万円の実施料を取得する機会を失ったのであるから,同額を民法709条に基づく控訴人の侵害行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
ウ 被控訴人プレックスの損害
(ア) 被控訴人プレックスは,上記期間において被控訴人製品1ないし3を販売することにより得べかりし利益は360万8500円,被控訴人製品5及び6を販売することにより得べかりし利益は492万9807円であると主張し,これを裏付ける証拠として,被控訴人プレックス従業員の陳述書(甲25,27)を提出する。
しかるに,被控訴人プレックスが主張する上記額の相当性については,計算鑑定人の評価を経ておらず,検討資料としての被控訴人プレックスの会計資料なども提出されていないから,これを直ちに認めることはできないといわざるを得ず,計算鑑定が行われた平成21年1月から平成23年12月までの被控訴人製品の販売による利益額(ただし,平成25年6月28日付け補充鑑定書において考慮対象となっている,平成22年8月10日発表のリコールに係る費用については,考慮の必要はないものと考える。)の限度で,被控訴人プレックスの得べかりし利益と認めるのが相当である。
そうすると,計算鑑定書によれば,被控訴人プレックスが販売した被控訴人製品1ないし3(合計49台)全体の平均利益額は,下記のとおり,1台当たり331万8505円となる。
(5,796,148+49,514,320+107,296,300)÷49=3,318,505また,被控訴人製品5及び6(合計19台)全体の平均利益額は,下記のとおり,1台当たり440万3087円となる。
(53,141,924+30,516,721)÷19=4,403,087
(イ) 被控訴人プレックスが,被控訴人製品1ないし3を,前記アのとおりの控訴人による控訴人製品 1 及び2の販売台数と同じ数量(22台)販売することにより得べかりし利益の額は,合計7300万7110円である。
また,被控訴人プレックスが,被控訴人製品5及び6を,前記アのとおりの控訴人による控訴人製品3の販売台数と同じ数量(4台)販売することにより得べかりし利益の額は,合計1761万2348円である。
これらの合計額である9061万9458円が,被控訴人プレックスの損害と推定され,この推定をさらに覆すに足りる事情はない。
4 民事訴訟法260条2項の申立てについて
(1) 被控訴人プレックスに対する申立てについて
補正後の原判決「事実及び理由」第4の7(7)によれば,被控訴人部プレックスの請求(原請求の部分)は,控訴人に対し,民法709条,特許法102条1項に基づき,2億3693万7507円及びうち8750万円に対する訴状送達の日の翌日である平成22年5月28日から,うち1億4943万7507円に対する訴え変更申立書が陳述された日の翌日である平成24年4月17日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
そうすると,控訴人は,平成25年10月3日当時,被控訴人プレックスに対し,上記損害賠償元金及びこれに対する遅延損害金の合計額として,下記のとおり,合計2億6254万6180円の支払義務を有していたと認められる。
236,937,507+87,500,000×0.05×(3+129/365)+149,437,507×0.05×(259/366+276/365)=262,546,180
一方,補正後の原判決「事実及び理由」第2の2(6)のとおり,控訴人は,同日,被控訴人プレックスに対し,2億6576万5753円を支払っているところ,控訴人が,その翌日である同月4日,原判決に対する不服を理由に控訴を提起したこと(当裁判所に顕著である。)と併せて見れば,かかる支払は,単なる任意弁済ではなく,民事訴訟法260条2項の「仮執行の宣言に基づき被告が給付した」に当たるというべきである。
よって,控訴人は,被控訴人プレックスに対し,同項に基づく給付したものの返還として,2億6576万5753円と2億6254万6180円との差額である321万9573円及びこれに対する上記支払をした日の翌日である同月4日から返還済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
よって,控訴人の被控訴人プレックスに対する民事訴訟法260条2項に基づく申立ては,上記の限度で理由があり,その余は理由がない。
(2) 被控訴人イエンセンに対する申立てについて
民事訴訟法260条2項に基づく申立ては,本案判決の変更されないことを解除条件とするものであるところ,補正後の原判決「事実及び理由」第4の 7(8)によれば,控訴人の被控訴人イエンセンに対する本件控訴は理由がないから,同被控訴人に対する申立てについては,判断をしない。
5 結論
(1) 以上のとおりであり,被控訴人らの各請求及び控訴人の申立て(控訴人の被控訴人イエンセンに対する原状回復の申立ての部分を除く。)は,次の限度で理由があり,その余は理由がない。
ア 被控訴人イエンセンの請求
(ア) 原請求部分
民法709条に基づき,3770万円及びうち1625万円に対する訴状送達の日の翌日である平成22年5月28日から,うち2145万円に対する訴え変更申立書が陳述された日の翌日である平成24年4月17日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
(イ) 当審における請求拡張部分
民法709条に基づき,975万円及びこれに対する本件特許の特許期間満了日の翌日である平成25年1月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
イ 被控訴人プレックスの請求
(ア) 原請求部分
民法709条,特許法102条1項に基づき,2億3693万7507円及びうち8750万円に対する訴状送達の日の翌日である平成22年5月28日から,うち1億4943万7507円に対する訴え変更申立書が陳述された日の翌日である平成24年4月17日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
(イ) 当審における請求拡張部分
民法709条,特許法102条1項に基づき,9061万9458円及びこれに対する本件特許の特許期間満了日の翌日である平成25年1月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
ウ 控訴人の原状回復の申立て
被控訴人プレックスに対し,民事訴訟法260条2項に基づき,321万9573円及びこれに対する支払日の翌日である平成25年10月4日から返還済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
(2) したがって,原判決は,前記(1)イと異なる限度で相当ではないから,本件控訴に基づき,その限度で変更し,控訴人の民事訴訟法260条2項に基づく申立ては,前記(1)ウの限度で理由があるからその限度で認容し,被控訴人らの当審における拡張に係る請求は,前記(1)ア(イ)及び同イ(イ)の限度で理由があるから,本件附帯控訴に基づき,その限度でそれぞれ認容し,控訴人の被控訴人プレックスに対するその余の申立て及びその余の本件附帯控訴は理由がないから,いずれも棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井忠雄 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅)