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知財高等裁判所 平成25年(ネ)10117号 判決 2014年7月16日

控訴人

株式会社東京機械製作所

訴訟代理人弁護士

松本好史

鈴木雅人

松井保仁

岸野正

被控訴人

三菱重工印刷紙工機械株式会社

訴訟代理人弁護士

大野聖二

飯塚暁夫

清水亘

訴訟代理人弁理士

鈴木守

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,別紙被控訴人製品目録2記載の製品を製造,販売及び販売の申出をしてはならない。

3  被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成23年10月18日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。

5  仮執行宣言。

第2事案の概要等

なお,呼称は,審級による読替えを行うほか,原判決に従う。

1  事案の概要

本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人による別紙被控訴人製品目録1記載(1)~(9)の各ガイドローラー及び被控訴人製品2の製造,販売及び販売の申出が控訴人の有する2件の特許権の侵害に当たる旨主張し,特許法100条1項に基づき被控訴人製品2の製造等の差止めを求めるとともに,特許権侵害につき,不法行為に基づく損害賠償金の一部である1億円及びこれに対する不法行為日以降の日である訴状送達日の翌日以降の民法所定の年5分の割合による金員の支払を求めた事案である。

原審は,平成25年11月28日,控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡したところ,控訴人は,同年12月6日に全部控訴した。

2  前提事実

次のとおり原判決を補正するほか,原判決2頁10行目から8頁2行目に判示したとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決2頁11行目の「ない」の後ろに「か,証拠により容易に認められる」を付加する。

(2) 原判決3頁5行目の「成り」の後ろに,「(甲2)」を付加する。

(3) 原判決4頁9行目の「成り」の後ろに,「(甲4)」を付加する。

第3争点及びこれに関する当事者の主張

次のとおり原判決を補正するほか,原判決8頁3行目から同19頁8行目までのとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

1  原判決10頁9行目から12行目を次のとおり改める。

「d 被控訴人製品(3)及び(5)は被控訴人製品(1)と同様であり,被控訴人製品(4)及び(6)は被控訴人製品(2)と同様である。また,被控訴人製品(7)~(9)は,被控訴人製品(2)と小径及び大径が近似しており,被控訴人製品(2)の測定結果と同様の結果になると考えられる。したがって,被控訴人製品(3)~(9)におけるV/R3,ω,V/R4の関係は,被控訴人製品(1),(2)の測定結果と同様であり,被控訴人製品1は,全て本件不等式を充足する。」

2  原判決11頁17行目の末尾に,改行の上,「(c) 輪転機の料紙速度Vとガイドローラーの回転速度ωを同時計測する必要はない。印刷速度の測定結果(甲6の2,6の3)を見ると速度変化が生じていることは否定できないが,0.127%,0.037%程度というわずかなものであるし,印刷胴が定常状態で回転して大きな慣性が働いており,駆動力も定常状態の回転維持のための動力を付与している。テンションの変動が印刷速度の変動に与える影響はほとんどない。」を付加し,更に改行の上,「料紙の厚さを考慮に入れる必要はない。料紙の厚さが速度へ与える影響は,ガイドローラーの直径が120mmで,料紙の厚さの中心面まで0.03mmであることからすれば,0.05%の影響にとどまる。また,構成要件1Dの不等式において,ωは料紙が介在してないガイドローラー表面の計測から得られる角速度であるから,料紙の厚みの影響はない。」を付加する。

3  原判決12頁7行目の末尾に,改行の上,「被控訴人製品1は本件不等式を満たさず,構成要件1Dを充足するとは認められない。」を付加する。

4  原判決12頁8行目の末尾に,改行の上,「ガイドローラーが大径部と小径部を有していれば,必ず料紙とガイドローラーの外周面との間のすべりが生じ,本件不等式を満たすということはできない。そして,被控訴人製品(1)において大径及び小径が約120mm,大径と小径との差が約0.6mmであることからすると,大径部と小径部の周速差はわずか約0.5%であり,本件不等式を充足するか否かを判断するためには極めて微小な速度差を計測する必要があるが,控訴人の測定方法や測定機器は当該目的を満たす上では不適切である。しかも,控訴人の測定結果は,控訴人の社員が実施したものであり,中立性を欠く。」を付加する。

5  原判決12頁11行目の「接触させ」の後ろに「,しかも一定の力で押し付け」を挿入し,「あるが,」の後ろに「すべりや」を付加する。

6  原判決12頁16行目の末尾に,改行の上,「料紙の走行速度とガイドローラーの回転速度を同時に計測していない,料紙の走行速度を曲面上で計測しており,料紙の厚みが考慮されていない点も問題である。」を付加し,更に改行の上,「被控訴人製品1における大径部と小径部の面積比からすると,ωの値は小径部の影響を強く受けると考えられ,V/R4の値に近くなると考えられるにもかかわらず,控訴人の測定結果は,いずれもωがV/R3とV/R4のちょうど中間値付近となっており,このような不自然な結果自体が,控訴人の測定結果の問題点を示すものである。」を付加する。

7  原判決12頁18行目の「本件ドップラ速度計」と「が」の間に,「による測定は,振動に敏感な方法である上に,同速度計」を挿入する。

8  原判決12頁最終行の「被告は,」と「また,」の間に,「公証人立会いの下で,控訴人が実験に使用したとする新聞用オフセット輪転機「DIAMONDSPIRIT」を稼働させ,」を挿入する。

9  原判決15頁24行目の末尾に,改行の上,「フォーマーAF1,AF2,BF1,BF2をそれぞれ「1つ」として数えるのは誤りである。審査経過の意見書(乙4)段落【0006】において,控訴人は,個々のフォーマーの数を述べている場合には「図23には4個」と表現し,「図23には4つ」とは述べていない。他方,同段落及び段落【0007】には「2つのフォーマー」という表現が用いられているが,これは2個1組のフォーマーが機能的には1つのものであるという前提で,上下2段の右側2個のフォーマー,左側2個のフォーマーを各1つと数えたものである。」を付加する。

10  原判決17頁3行目の「乙11」の後ろに,「,特許第2822166号公報」を付加する。

11  原判決17頁24行目の末尾に,改行の上,「控訴人は,フォーマーの数に関し,「1つ」と「1個」を使い分けていると主張するが,本件明細書2(甲4)や意見書(乙4)には,両者を異なる意味で使うという説明や両者の関係についての記載がなく,控訴人の解釈には根拠がない。」を付加する。

12  原判決18頁16行目の「乙11」の後ろに,「,特許第2822166号公報」を付加する。

13  原判決19頁8行目の「争う」の前に,「事実は否認し,法的効果は」を挿入する。

第4当審における当事者の主張

1  控訴人

(1)  本件発明1について

ア 原判決が,小径部周速と料紙速度が一致することまであり得るかのように判示したのは誤りである。被控訴人製品1のように,大径部よりも小径部の面積比率が相当大きくなった場合は,小径部が広いため,「押付け力」によって下方にたわんだ料紙が小径部と広く接した状態であり,大径部と小径部の双方に広く面接触し,構成要件1Cを満たす。大径部は狭くなっても,通過する料紙に小径部と同様の押付け力が働いているので,料紙と接しないということはあり得ない。この場合,料紙は,必然的に周速の異なる大径部と小径部双方から摩擦力を受け,料紙速度(V)は小径部周速(V4)と大径部周速(V3)の間のどこかの速度でバランスを取ることになるが(V4<V<V3),このうち「V4(=ω・R4)<V」部分は「ω<V/R4」と,「V<V3(=ω・R3)」部分は「V/R3<ω」と同義であるから,「V4<V<V3」は本件不等式と等価といえ(甲33参照),構成要件1Dを満たすことになる。大径周面と小径周面の面積比率が1:3を超えて小径周面の面積が広い被控訴人製品1では,料紙と小径部の間にすべりが生じていない(V=V4)という推認を裏付ける証拠はない。

イ 控訴人による接触式の測定結果は十分信用できる。速度計を用いて日常的に0.05%前後の速度差調整を行う品質保証業務に22年間携わっている熟練者が,適切な角度・圧力で測定ホイルを押し付けて測定し,その最大値を採用する測定方法は,理論的に正しいアプローチである。また,押付け力の過不足や押付け角度の誤差は,いずれも速度計測ホイルがすべり,数値を過小評価する方向に働くものであるから,最大値を機械的に測定することで,誤差を極力排除することができる。

本件不等式の充足性を判断するのに必要な測定は,料紙速度と大径部周速,小径部周速の大小関係であって,各速度の正確な数値は必要なく,接触式測定において3度の測定で安定的に大小関係の測定ができており,非接触式においても振動や料紙のぶれによるノイズを拾いながらも安定した大小関係の測定ができている以上,十分な信頼性がある。

(2)  本件発明2について

本件発明2は,給紙部,印刷部,フォーマー部,裁断折畳機構という「1つの構成単位」の輪転機で多媒体の同時印刷を行うため,1つの折畳部の複数の裁断折畳機構を個別駆動可能とし,そのいずれか1つと整合するように個別駆動可能な駆動ローラーを備えた「機能的」に裁断折畳機構と同数以上のフォーマーを持たせるという技術思想に出たものである。この技術思想の具現化としては,①従来,2個一体であったフォーマー上の駆動ローラーを2本に切り離すことにより,「機能的」に2つのフォーマーを確保する例と②単純に2個一体のフォーマー1つと駆動ローラー1本のペアをもう1組増設することにより,「機能的」に2つのフォーマーを確保することも可能であり,被控訴人製品2はまさに②そのものである。

2  被控訴人

(1)  本件発明1について

ア 構成要件1Cを充足すれば,当然に構成要件1Dを充足するという控訴人の主張は,特許請求の範囲の記載と相容れない上に,構成要件1Dが,拒絶理由通知(乙18)を受けて補正で追加された要件であることからすると,その存在意義を失わせるような解釈は失当である。本件明細書1の記載(段落【0009】,【0010】)は,大径周面と小径周面の半径の差や,大径周面と小径周面の面積比率,接触面積,摩擦係数等の要素次第では,料紙とガイドローラーの外周面との間ですべりが生じない場合があることを前提としたものである。

イ 控訴人の測定結果の信用性は疑わしい。測定対象の輪転機を高速で稼働させると相当な振動があり,人間の手で高速走行する料紙とその料紙の走行に連れて高速で回転するガイドローラーに同じ力で正確な方向に押し当てることは至難の業である。控訴人の接触式測定の実施者であるAは,ドラグローラーやインフィードローラーの周速合わせの熟練者とのことであるが(甲32),本件で問題となるガイドローラー上を走行する料紙の速度の測定に熟練しているという事情はうかがわれないし,同人が回転速度計の精度0.08%を上回る精度で測定できるという評価自体,その確認方法に疑義がある。また,控訴人の主張するように,各速度の測定値の最大値を採用しても,回転速度計の押付け力や方向で測定値自体が大きく変わってしまうから,測定の際に同じ条件といえなければ本件不等式を立証したことにならない。

本件不等式が「V4<V<V3」と等価であることは認めるが,被控訴人製品1の小径部の直径は大径部の直径の99.5%であるから,料紙速度は0.5%の範囲に収まらなければならないことになる。しかし,本件ドップラ速度計の測定誤差は±0.2%であり,充分な精度を有しているとはいえない。実際の控訴人の測定結果において,ωとV/R4の差はわずか0.06%であり,本件ドップラ速度計の測定誤差を下回っているから,かかる差は正確に測定された値とはいえない。

(2)  本件発明2について

本件明細書2に「個」と「つ」を使い分ける旨の記載はなく,フォーマーの個数を「機能的」に数えることを裏付ける記載もない。実際,フォーマーの個数を数える際に「個」を用いた箇所は,本件明細書2にはない。したがって,「機能的に1つ」のフォーマーが「2個一体」のフォーマーであってもよいという控訴人の主張は,失当である。

控訴人の述べる②単純に2個一体のフォーマー1つと駆動ローラー1本のペアをもう1組増設することにより,「機能的」に2つのフォーマーを確保するという技術思想は,単に従来技術の構成を並べただけであって,本件発明2の技術的範囲に属することはあり得ない。

第5当裁判所の判断

1  当裁判所は,控訴人の当審における追加主張を踏まえても,被控訴人製品1,2は控訴人の本件発明1,2を侵害しておらず(被控訴人製品2については均等侵害を含む。),控訴人の差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がなく認められないから,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は棄却されるべきものと判断する。

その理由は,次のとおり原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決23頁25行目の末尾に,「なお,測定値の5桁目は切り捨てて記録された。」を付加する。

(2) 原判決24頁14行目の「乙」の後ろに「1,」を挿入する。

(3) 原判決24頁20行目の「0.005」を「0.0005」と改める。

(4) 原判決27頁24行目の末尾に,改行の上,「確かに,控訴人の提出する意見書(甲33,37)は,大阪大学接合科学研究所招聘教授であるBによって作成されたものであり,鉄鋼や塑性に関する専門的知見に基づくものと認められる。しかしながら,被控訴人製品1のガイドローラーを流れる料紙が大径周面と小径周面の両方と接触している場合であっても,大径部と小径部の材質が同じであり,大径部と小径部の大きさにほとんど違いがなく,大径部面積と小径部面積の比に極端な片寄りがあるようなときには,料紙と小径部との間にすべりが生じず,大径部の摩擦力が現実に作用しないことが起き得ると考えられるのであって,このような場合には,料紙の速度Vが小径部周速V4と一致し,これは「V/R4=ω」と等価であるから,本件不等式を必ずしも満たさないことになる。ウェブハンドリング技術を専門とする東海大学教授であるCの意見(乙26)は,このことを指摘したものと評価できる。したがって,小径部と大径部を有する断付きガイドローラーでは,理論的にいって,料紙の速度Vは必ず大径部周速(V3)と小径部周速(V4)の間の値となるとする,Bの意見を採用することはできない。」を付加する。

(5) 原判決29頁11行目の末尾に,「とりわけ,すべりや手ぶれによる影響は,本件で測定しなければならない精度の範囲を大きく超える場合が多分に考えられるところ,控訴人の測定結果の信頼性を肯定する前記意見書(甲33,37)では,上記影響を無視できる理論的根拠が示されていないというほかない。」を付加する。

(6) 原判決29頁17行目の末尾に,改行の上,「さらに,上記(ア)記載の0.46~0.51%という極めて高い精度誤差の範囲で料紙等の速度測定するに当たって,輪転機におけるテンションや速度変動も無視できないし,料紙の走行速度とガイドローラーの回転速度を同時に計測していないという問題点も看過できない。しかも,大径と小径の差が約0.6mmしかないことからすると,0.06~0.07mmという料紙の厚みも無視できず,この点を考慮していない点も問題である。」を付加する。

(7) 原判決30頁8行目から14行目を次のとおり改める。

「 被控訴人が行った非接触式の測定結果(乙5)において,ωがV/R4よりも大きくなった2つの場合(T1走行紙ラインの2分5秒~2分35秒,2分30秒~3分のNo.10)が報告されているが,この場合はωが同時にV/R3よりも大きくなっており,ガイドローラーからの摩擦力以外には力を受けない料紙の走行速度が,ガイドローラーの小径部分の周速度,大径部分の周速度のいずれよりも大きい測定結果を示すものであり,自然法則上はあり得ない結果が生じているといえ,被控訴人の測定方法自体に疑問が呈されないわけではない。

しかしながら,そもそも,被控訴人の測定結果は,控訴人の測定結果の反証のために提出されたものであり,上記(イ),(ウ)で説示したとおり,控訴人の測定結果に根本的な疑義がある以上,被控訴人の測定結果の信頼性に対する疑義があるとしても,本件不等式を充足することを直ちに意味しないというべきである。なお,被控訴人は,反射テープと輪転機フレームに固定した台に設置した光電センサを用いた非接触方式を用い,人為的な誤差の発生を防止する措置を講じた上で(乙5),料紙とガイドローラーの速度の測定を行ったが,本件ドップラ速度計の測定精度に照らせば,直ちに信用できない結果とはいえないのであって,他の報告例の結果と併せてみると,ωとV/R4が等しいこと,すなわち,料紙の走行速度と小径部の周速度が同じで,料紙と小径部の間にすべりが生じていない場合の測定結果を示していると評価しても矛盾ない。

この点,控訴人は,被控訴人の測定結果について,料紙の伸び率を0.1%として計算し直すと,本件不等式を満たすことになると主張し(甲19),被控訴人の測定結果をもって,本件不等式の充足の根拠とする。しかしながら,控訴人が,0.05~0.15%とされる料紙の伸び率(甲18)のうち0.1%を選択した合理的根拠は不明であって,本件不等式を満たすように結果を先取りして恣意的な数値を設定したとの疑念を払拭できないから,かかる控訴人の主張は採用の限りではない。」

(8) 原判決31頁1行目の「すべりが生じていないと推認することが可能である。」を「すべりが生じていないことと矛盾しないのであって,少なくともωとV/R4との大小関係が常に一定となるような決定的な事情はうかがわれないことになる。」と改める。

(9) 原判決31頁14行目の「記載されており,」の後ろに,「記載された文言上,」を付加する。

(10) 原判決32頁15行目の末尾に,「確かに,本件明細書2(甲4)には,「【0057】【発明の効果】折畳部を構成する複数の裁断折畳機構にそれぞれ別個の駆動手段を設け、又、複数の駆動ローラーを、それぞれの裁断折畳機構に別個に設けた駆動手段のいずれかによって、又は各駆動ローラーにそれぞれ別個に設けた駆動手段によって、裁断折畳機構のいずれか1つと整合して駆動されるようにし、かつ全ての印刷部それぞれに別個の駆動手段を設けたことにより、折畳部の各裁断折畳機構及び各印刷部を個別に駆動することが可能となった。【0058】そのため予め定めた印刷部、折畳部の裁断折畳機構を駆動制御手段により整合した状態で、駆動制御することができるので、折畳部の裁断折畳機構の数だけ印刷工程が可能となり、折畳部の裁断折畳機構、印刷部、給紙部の休止状態を減少させ有効に利用することができるので、輪転機の稼働率を非常に向上させることが可能となった。【0059】また、別々に異なる印刷工程が可能となり、印刷速度も自由に選択でき、互いの印刷工程が版替えによる機械停止、断紙や紙流れによる機械停止などの影響を受けない互いに干渉されない印刷が可能となるので、異なるページ数の印刷物が楽にでき、印刷部数は自由に選ぶことが可能である。そのため、印刷物の生産性が極めて向上する。」と記載されており,本件発明2が,2つ以上の裁断折畳機構を有する輪転機において,各裁断折畳機構を個別に駆動可能とするとともに,運転状態においていずれか1つの裁断折畳機構と整合できる駆動ローラーとフォーマーを設け,互いに干渉されない2種類以上の印刷工程を行うことを可能にしたことを示したものともいえる。これに対し,本件発明2が,駆動ローラーの数がフォーマーの数を下回る場合を含むと解すると,使用しない給紙部や印刷部を有効に利用する手段がないという本来の課題(段落【0016】)を解決しない構成を含むことになる。したがって,本件発明2がかかる構成を予定していたとは考えられず,駆動ローラーの数がフォーマーの数を下回らないことが本件発明2において必須というべきであって,「個」と「つ」とを使い分けていたという控訴人の主張とは相容れないものとなる。」を付加し,更に改行の上「しかも,審査経過の意見書(乙4)段落【0006】,【0007】の記載は,引用発明と本件発明2の違いを説明するためのものであるが,「個」と「つ」を同一の意味に解しても理解することが可能であって,特許請求の範囲を記載するに当たって,控訴人の主張するように「個」と「つ」とを使い分けていたことを裏付ける根拠とならないことも指摘できる。」を付加する。

(11) 原判決32頁16行目の冒頭に「以上のとおり,」を付加する。

2  控訴人の当審における主張に対する判断

(1)  本件発明1について

ア まず,控訴人は,小径部周速と料紙速度が一致する場合を認める原判決の説示は誤りであり,料紙が大径部と接触すれば,必ず,料紙は大径部と小径部の両方から摩擦力を受けるから,料紙速度はその間に調整され,被控訴人製品1は本件不等式を充足する旨主張する。

しかしながら,大径部が料紙に接触しても,小径部に比して大径部の面積がごくわずかな場合,ガイドローラーの材質による摩擦力,大径と小径の差の大きさといった他の要素の影響も併せた結果,大径部の摩擦力を受けずに料紙が送られ,小径部と料紙速度が一致することが考えられるから,控訴人の主張は理由がない。

イ 次に,控訴人は,控訴人による料紙速度の測定結果の信頼性に問題はなく,被控訴人製品1は本件不等式を充足する旨主張する。

確かに,本件不等式は「V4<V<V3」と等価であり,同不等式の充足の判断に当たって,V3,V,V4の各値を正確に把握できなくても,3つの大小関係が把握できる場合があるものと認められる。ただし,これは,理論的に3つの数値の大小関係が導き出される場合や,あるいは,実際に測定した結果,それぞれが比較的離れた値であり,各数値の測定誤差を踏まえても大小関係が一定と判断できる場合に限られる。本件において,上記アのとおり,大径部と小径部の面積比次第で,小径部のすべりが生じない場合が考えられるから,理論的にV3,V,V4の大小関係が当然に導き出されるわけではない。また,被控訴人製品1における大径部と小径部の差は大径部を基準として0.46~0.51%と非常小さく,V,V3,V4の各値の差も非常に小さいことが容易に推認され,測定誤差が各値の差を凌駕しない程度に小さくなければ,VがV3とV4の間に入るという上記不等式の成立を証明できないことになる。そして,被控訴人製品では,小径部のすべりが小さい場合にはVがV4にかなり近い値を取ると考えられるから,実際の測定器の測定誤差(接触式で0.08%(控訴人の主張による。)に人為的な影響が更に加味された値,非接触式で0.2%)を下回る場合もあると考えられ,当然にVとV4の大小関係を明らかにすることはできず,よって,上記不等式が成立しているとはいえない。

なお,実際に測定を実施した控訴人の従業員が,速度差調整を行う業務に長年従事し充分な経験を有していたとしても,その押付け力が一定であることを裏付ける証拠はなく,精度誤差を下回る精度の測定を実施できる合理的な根拠はない。そうすると,測定しなければならない精度を下回る測定精度しかない測定器を用いて何度測定を繰り返しても,許容できる誤差の範囲内の速度を測定できないという問題点が解消されるわけではなく,接触式測定結果の信頼性に対する根本的な疑問は払拭できない。

(2)  本件発明2について

控訴人は,本件発明2は,裁断折畳機構と同数以上のフォーマーを持たせるという技術思想に出たものであり,単純に2個一体のフォーマー1つと駆動ローラー1本のペアを増設することも含まれ,被控訴人製品2がこれに該当する旨主張する。

しかしながら,かかる主張は,実質的には,本件明細書2において「個」と「つ」という用語の使い分けをいうものであって,かかる解釈が取り得ないのは,原判決説示(31頁24行~32頁17行)のとおりである。本件発明2の特許請求の範囲には,各フォーマーのすぐ上流に,当該フォーマーに対応して,フォーマーと同数以上の駆動ローラーを設けることが,必須の要件となっているといえ,本件明細書に控訴人主張の上記態様が含まれている旨の記載もない。

したがって,控訴人の主張は,特許請求の範囲や明細書の記載に基づかないものというほかなく,採用の限りではない。

第6結論

以上より,控訴人の請求はいずれも理由がなく,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 新谷貴昭 裁判官 鈴木わかな)

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