知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10010号 判決 2013年7月04日
原告
株式会社タートルストーン
訴訟代理人弁理士
川浪順子
飯塚智恵
被告
三浦商事株式会社
訴訟代理人弁護士
浅村昌弘
訴訟復代理人弁護士
安武洋一郎
訴訟代理人弁理士
浅村皓
浅村肇
岡野光男
訴訟復代理人弁理士
大塚一貴
主文
特許庁が取消2011-301114号事件について平成24年12月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
主文同旨
第2事案の概要
本件は,商標法50条1項に基づく不使用取消請求(ただし,一部の指定商品について)を認めた審決の取消訴訟である。争点は,指定商品の使用の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,本件商標権者である(甲19)。
【本件商標】
file_2.jpgasta VIRUS・登録3288564号
・平成6年11月18日出願登録
・平成9年4月25日設定登録
・指定商品:第25類 被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴
(2) 被告は,平成23年12月8日,特許庁に対し,商標法50条に基づき,本件商標の指定商品のうち「被服,運動用特殊被服」について不使用による登録取消しを求めて,審判請求をした(取消2011-301114号)。
(3) 特許庁は,平成24年12月3日,「登録第3288564号商標の指定商品中,第25類『被服,運動用特殊被服』」については,その登録は取り消す。」との審決をし,その謄本は同月13日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
商標権者である原告は,要証期間内に日本国内において,本件商標を使用商品について使用していた旨主張し,甲5ないし16(審判時は乙1ないし12〔枝番を含む。〕であるが,本件訴訟に合わせて読み替える。)を提出する。
(1) 甲5の1ないし5の3について
ア (略)
イ 以上によれば,写真AないしD(写真(ア)ないし(ウ))(判決注:写真AないしDは甲5の1の使用商品の写真であり,写真(ア)ないし(ウ)は写真Aの拡大写真で甲5の2,5の3である。)に示す使用商品は,タグ及びラベルの表示からすると,色がインディゴとブラックの2種類があることが認められるが,写真で見る限りにおいては,使用商品の色彩は同一のように見られなくもなく,インディゴとブラックの相違を見分けることは困難である。そして,タグ及びラベルの表示上,インディゴの小売価格が¥12,800,ブラックの小売価格が¥11,500であること,それぞれの商品に「VIRUS」の文字よりなる商標(使用商標)が付されていたことが認められる。
しかし,写真AないしD(写真(ア)ないし(ウ))は,いずれも本件審判の請求の登録日後の平成24年2月4日に撮影されたものであり,それ自体,要証期間内における本件商標の使用の事実を証明するものではない。さらに,使用商品の色彩について,被告より,写真AないしDによっては,ブラックが存在するとは思えない旨の指摘がされたにもかかわらず,この点について,原告は,新たな写真等の提出により,使用商品の色彩がインディゴとブラックの2種類あることを明らかにすべきところ,タグ及びラベルの表示のみから,使用商品の色彩がインディゴとブラックの2種類あると主張するにすぎず,使用商品の色彩と使用商品に付されたタグ及びラベルの表示とが一致していないのではないかとの疑問を払拭することができない。なお,原告が,使用商品と同種商品であると指摘する乙9の3におけるジーンズパンツは,その色彩がインディゴブルーのみであり,ブラックは存在しない。
(2) 甲6,7(枝番のあるものは枝番含む。)について
ア (略)
イ (略)
ウ 以上によれば,甲6は,商標権者が有限会社ズーティックに対して発行した平成23年10月21日付けの請求書の控えと認められる。また,甲7(判決注:領収書控)の入金先・入金日・入金額は,請求書の控え(甲6)のあて先・請求の日付・税込合計金額と一致していることが認められる。このように,甲6,7の1は,上記一致点が認められるものの,以下の点において,一連の取引があったと推認する証拠としては,極めて不自然なものといわなければならない。
(ア) ~(ウ) (略)
したがって,甲6,7によっては,「VIRUS」ブランドの品番「84002」の「色:インディゴ」の商品3点が,要証期間内である平成23年10月21日に,商標権者からズーティックに販売されたことを推認することはできない。
(3) 甲8の1ないし8の3について
甲8の1ないし8の3は,在庫商品としての「ティーシャツ,タンクトップ,ジャケット」等の写真(撮影日:平成24年2月4日)と認められるところ,これら商品中の「ティーシャツ」に使用商標が付されていることが認められるものの,ほかの商品に使用商標が付されているかは,写真からでは明らかではなく,また,仮に上記「ティーシャツ」以外の商品に使用商標が付されていたとしても,「ティーシャツ」を含む写真に示す商品が,要証期間内に日本国内の市場において,取引に資されたと認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって,甲8の1ないし8の3は,要証期間内における本件商標の使用の事実を証明する証拠とはなり得ない。
(4) 甲5ないし16(枝番を含む。)を総合しても,使用商標が,商標権者により,要証期間内に日本国内において,使用商品について使用されていたものと認めることはできない。
第3原告主張の審決取消事由
原告が平成23年10月21日に「ジーンズパンツ」(使用商品)を販売した事実を認めるべきである。
1 甲5の1ないし5の3の写真についての証拠評価の誤り
審決は,甲5の1ないし5の3の写真には,インディゴとブラックの2種類のジーンズパンツが示されており,平成23年10月21日に販売した「ジーンズパンツ」が特定できないかのごとく判断している。しかしながらこの判断は誤りである。
(1) 使用商品は,甲5の1の最上段の写真右端に表れる「ジーンズパンツ」(型番:PRVCA84002,色:インディゴ,定価:12,800円)と同一モデルの商品である。その拡大写真が,甲5の2の写真(ア)で,一番上の商品が使用商品である。また,本件商標が付されているタグ及び革パッチ部の拡大写真が,甲5の1の2段目中央の写真で,これをさらに拡大したものが甲5の3の写真(イ)である。
(2) さらに,審決は,写真からは色彩の相違を見分けることは困難と判断しているが,甲5の撮影対象商品は,インディゴとブラックの2種類ある。甲23の1の右側,甲23の2の上段のジーンズパンツが,使用商品と同一モデルのインディゴの商品であるのに対し,甲23の1の左側,甲23の2の下段のジーンズパンツが,色・素材違いの商品(型番:PRVFA84002,色:ブラック,定価:11,500円)であり,価格の違いは生地の違いによるものである。
(3) 以上のとおり,本件商標「VIRUS」が,指定商品中「ジーンズパンツ」に,商標として付されていたことは明らかである。
2 甲6(請求書控),7の1(領収書控)について証拠評価の誤り審決は甲6,7の1によっては,原告が,平成23年10月21日に,ズーティックに対し,本件商標を付した「ジーンズパンツ」を販売した事実を推認することはできないと判断しているが,誤りである。
(1) 甲6,7の1で示すように,原告は,平成23年10月21日,原告東京事務所( )において,ズーティック社長Aに対し,Aからの購入の申し出に応じて,本件商標を付した「ジーンズパンツ」(品番:VIRUS 84002,色:インディゴ,サイズ:48)3点を,値引き価格として1点5,000円で販売した(以下,この販売を「本件取引」という)。
しかしながら,審決は,甲6,7の1で示す「請求書の控え及び領収書(控)以外に,上記事実を裏付ける証拠の提出が一切なく,しかも,使用商品に関し,要証期間内に,顧客との取引が上記のもの1回だけであったとすれば,2011年10月21日に行われたとする取引自体極めて疑わしいものといわざるを得ない」と認定している。しかしながら,購入者であるズーティックの社長のAは購入の事実を認め(甲24),ズーティックの社員であるBはAが購入した「ジーンズパンツ」のうちの1点を譲り受けたことを認めている(甲25)。なお,ズーティックは, に存する,衣料品の企画・製造・販売・輸出入を主な事業とする会社である。
また,使用商品の定価と実販売価格が異なるのは,原告はズーティックとは仕事上の取引があり,また在庫限りの商品でもあるので,小売価格とは異なる金額で販売したことによる。
(2) また,審決は,甲6,7の1の認定において,取引書類を形式的にのみ判断しているが,誤りである。
原告の主な事業は,衣料品の企画・製造・販売であるが,販売の主な形態としては,展示会等での受注を主とした全国のセレクトショップへの卸売,直営店舗(渋谷パルコPART3内)での小売,ネットショップ・通信販売・問い合わせに応じた直接販売による小売がある。問い合わせに応じた直接販売による小売が生じる具体的な事象としては,例えば,原告の製造・販売に係る商品は,CMやドラマの衣装として使用するために販売又は貸与の申し出を受ける場合がある。この場合,取引商品数が少ない時には,東京事務所にて商品を手渡し,販売代金又はリース代金を現金で領収する。また,熱心なファンの問い合わせや親しい取引業者の求めに応じて,東京事務所において商品を直接販売することもある。本件取引はこのような形態の取引のひとつであり,特に本件商標に係るブランド「VIRUS」については,原告本社倉庫にて商品を保管し,顧客の求めに応じた在庫限りの商品販売をしているので,現状ではこの形態の取引が多い。そして,このような取引形態の場合には,現金領収の証として「領収書」(控:甲7の1ないし7の3)を渡し,明細を示す請求書が必要な場合には,甲6で示す形式の「請求書」を発行している。
(3) 審決は,甲6について,「・・・という取引形態をとっているのであれば,そもそも比較的詳細事項にまで記載が及んでいる請求書(甲6)が発行されること自体疑念を抱かざるを得ないし,また,請求書に「振込み先」として,口座番号など必要もない事項をわざわざ記載することも不可解であるといわざるを得ない。」としているが,誤った事実認定である。甲6の請求書は,原告が,一般的テンプレートを自社用にアレンジし自社パソコン内に保存している請求書フォームであり,宛先,日付,商品明細,金額を入力して使用する。この請求書は,銀行振込み取引の場合にも使用するので,振込み先口座番号等もあらかじめ記載されているに過ぎないし,そもそも,購入者のズーティックの求めに応じて渡したもので,何ら不可解な点はない。
審決は,「領収書(控)(甲7の1)は,・・・,その内容も極めて粗雑で簡略化されており,これら取引書類は,一連の取引が行われたことを示すものとしては,関連が薄弱といわざるを得ないし,かつ,いつでも簡単に作成することが可能な証拠といえる」としているが,取引の実情を理解しない誤った判断である。
甲7の1「領収書(控)」には販売者である原告の名称・住所等が記載されていないが,自分用の控えとして保持するものだからであり,一般取引上当然あり得ることである。購入者に渡す本証には名称・住所を示すゴム印が押されている(甲7の3)。また,ただし書が「商品代として」となっているのも,このような領収書においては自然なことであり,むしろブランド名や商品内容を具体的に記載してあるほうが不自然である。さらにいえば,審決は,要証期間内の取引回数が1回だけであることをもって本件取引自体を疑わしいと判断しているが,商標法50条2項の規定が,要証期間内の使用の回数を問題とするものでないことは明らかである。
3 小括
よって,原告が,本件商標を付した商品を,要証期間内である平成23年10月21日に,ズーティックに販売した事実は明らかである。
第4被告の反論
1 総論
原告は,平成23年10月21日,原告がズーティックに対して,本件商標の記載されたジーンズパンツを販売して,本件商標を使用したと主張し,その証拠として,本件取引と同時に発行したとされる請求書控(甲6)と領収書控(甲7の1,26(領収書控の写真を原本とするもの),甲33)を提出する。原告は,上記請求書控及び領収書控以外にも,多数の書証を提出しているが,原告の主張する本件取引に関連性を有する客観的な証拠は,これら2種の証拠のみである。
2 甲6について
(1) 原告は,甲6は,本件取引時にズーティックに対し交付された請求書と同内容であると主張する。
しかし,甲6には,数多くの不自然な点があり,本件取引時に作成されたとする点,および本件取引時にズーティックに対し交付されたものであるとする点のいずれも疑わしく,証明力は一切ないといわざるを得ない。
(2) 第1に,原告は,本件商品が在庫限りの直接販売商品であり,商品を引き渡して現金で受け取る取引形態をとっていたと主張する。とすれば,審決も判示するとおり,通常は領収書のみが発行されれば足りるのであり,甲6のような請求書が発行されること自体,不自然であるといわざるを得ない。この点,原告は,現金領収の証として領収書を渡し,明細を示す請求書が必要な場合には,甲6のような請求書を発行しているなどと主張する。しかし,そうであれば,「請求書」ではなく「明細書」を発行するのが通常であるし,また,商品引渡しの場で現金で支払っているにもかかわらず,甲6の下部に振込先の記載があることも不自然である。しかも,顧客の求めに応じて請求書を発行するのであれば,領収書と請求書との対応関係を明確にすることが必要となる。なぜなら,現金取引の場合,領収書以外に入金の有無を確認できないため,請求書と領収書の対応が不明であれば,請求書で請求された金額の入金の有無をめぐって争いになる可能性が残るからである。しかしながら,領収書控(甲7の1)には,請求書の発行の有無,請求書番号等,どの商品又は取引についての領収書であるのか,請求書と領収書を結び付ける情報は一切記載されていない。
そもそも,甲6に記載されている程度の本件商品の情報であれば,上記のような問題が発生し得る「請求書」など発行せずとも,領収書自体に品番や色,サイズを記入すれば足りるにもかかわらず,あえて別途請求書を発行するなどと主張しており,極めて不自然である。
以上の事実から,原告において,現金取引の際に顧客の求めに応じて請求書を発行していたという事実自体が疑わしく,甲6から本件取引があったとは直ちに認定できない。
(3) 第2に,本請求書には,品番の欄に「VIRUS84002」と記載されているところ,本件取引で販売された「ジーンズパンツ」商品の写真として提出された甲5の1及び5の3,甲21の3の写真中のタグには,「PRVCA84002」と記載されており,アルファベット部分が一致しておらず,また,その他,これらの写真中に「VIRUS84002」なる「VIRUS」と番号とを結合した表記は一切存在しない。
この点,「VIRUS」というのは商標登録されている原告のブランド名であり,上記写真においても「VIRUS」の文字は,品番とは別のところ(包装ビニールに添付されたシール,ジーンズパンツ後部のポケットやパッチ)に表示されている。
しかしながら,原告は,ジーンズパンツ以外にもタンクトップやティーシャツ,トレーナーやベスト等,様々な衣類も「VIRUS」ブランドにて製作していた旨を主張しているから,請求書において,単に「VIRUS」と数字とを結合した記載をするだけでは,どの商品に関するものであるのか,同じ商品の中でも色やサイズが何なのか,全く識別できず,品番の意味をなさない。特に,原告によれば,請求書は明細を示すために発行するものであるが,甲6の「VIRUS」との記載では,何が販売されたのか一切わからない。
したがって,甲6の品番の欄の記載には,信用性が全くない。
仮に,本件商品について請求書に記載すべき品番があるとすれば,甲8の3のティーシャツにも,「THVFS52004」「THVDS32015」という,「VIRUS」とは違うアルファベットが記されたタグがついていることから,これらのアルファベットこそが,商品の種類や色を識別する品番であったと考えられる。
とすれば,「VIRUS84002」などという,本件商品に全く表示されていない品番を記載した甲6は,本件審判請求の後に作成され,その際に,本件商標の使用をより印象づけるために,あえて本来の品番と異なり,本件商標そのものである「VIRUS」という記載を含む記載としたことが強く推測される。
(4) 第3に,原告は,本件商品の色はインディゴであり,それが甲第6号証の色の欄に,「indigo」と記載されていると主張する。しかし,本件商品と同じ商品の写真であるとされる甲5の1を見ると,インディゴとブラックの両方が撮影されているものの,その色彩には違いがなく,本当に2種類の色があったのか疑問である。それは,原告が新たに提出した甲23の2を見ても同様である(なお,甲23の1は,タグの表示内容が不明であり,無意味である)。
さらに,甲29の7の2枚目の写真には,ジーンズパンツではない商品に,本件商品と同じ「PRVCA」という品番が記載されたタグが付されているのがわかる。しかも,本件商品はインディゴである一方,この商品の色はブラックであり,それぞれ色彩が違うにもかかわらず,同じアルファベット表記がされているのである。
以上を考えると,タグやシールの記載の色の表示には,もはや全く信用性がないといわざるをえない。
したがって,甲6に「indigo」との記載があっても,甲5の1の商品との同一性が不明であり,甲6に記載されている商品と,本件商品が同一であるかも不明である。
以上から,甲6の記載をもって,本件商品が販売されたとはいえない。
(5) 第4に,甲6の「品番」「色」「単価」の欄は,「VIRUS84002」「indigo」「¥5,000」との記載がちょうど記入できる幅になっている。特に,品番の欄と,単価の欄は,スペースの部分がちょうど均等に一文字分程度となっている。
しかし,甲22の3頁目を見ると,「TOILET」というアルファベット部分が6文字である品番も存在している。とすると,同商品について甲6のテンプレートを利用するには,品番の欄の幅は狭すぎる。その他,原告は,甲7の2の領収書控について,原告の「PiedPiper」ブランド及び「OKIRAKU」ブランドの衣服の販売に利用したと主張しているが,原告が扱うこれらのブランドの商品について請求書を作成する場合には,甲6の品番の欄の大きさからみれば,ブランド名と番号とを結合させて記載は記入できないこととなるのである。また,単価の欄についても,原告の商品のほとんどは1万円以上であると考えられるところ,5桁の数字を記入するには,記入欄の幅が狭すぎる。さらに,甲6には,サイズを示す数字が記載されており,その最小サイズは44であるところ,甲22の3ページ目を見ると,シューズのサイズとして,40から42が存在することがわかる。甲6のような請求書のテンプレートが,商品ごとに別々に存在するとは通常考えられないところ,もしシューズを買った顧客がその場で請求書を求めると,当該フォーマットでは対応できなくなってしまう。
以上から,甲6は,もともと原告にあったテンプレートではなく,本件の証拠提出のためにあえて作られたものである可能性が高いといわざるを得ない。
(6) 第5に,甲6は,請求書の「控え」であるところ,原告は,平成25年3月7日の第1回口頭弁論期日において,甲6は,本件取引の際に作成されたものではなく,原審判が請求された後に出力したものである旨を述べた。
とすれば,平成23年10月21日の取引などなくとも,後日自由に作成可能であるから,甲6は要証期間内の使用との関係では証明力が皆無である。
また,仮に甲6が後日作成されたものでないとしても,本件取引当日に授受された請求書そのものではない以上,本件取引との関連性は認められない。
したがって,同証拠から同日に本件商標が使用されたとの事実を推認することは不可能である。
(7) 第6に,本請求書は,本件取引に関連する重要な書証であるから,本当に本件取引が存在し,請求書が発行されたのであれば,請求書の控えではなく,発行された請求書自体が真っ先に提出されるべき書証である。しかも,原告の主張によれば,本件取引は審判請求のわずか1か月半前に行われたのであるから,証拠保全は容易であった。それにもかかわらず,審判請求後,現在まで,発行された請求書の原本は証拠提出されていない。このような現在までの原告の立証態度も,本件取引の存在に重大な疑問を投げかけるものである。
(8) 以上のように,甲6には,平成23年10月21日の取引の際に交付されたものと考えるには,不自然な点が多数存在する。
したがって,甲6が同日の取引の際に交付された請求書と同様のものであるとは到底考えられず,したがって,商標法50条の「使用」を裏付ける証拠としては,証明力がないというべきである。
3 甲7の1ないし7の3,26,33(領収書控)について
(1) 原告は,甲7の1のズーティック宛の領収書控が,平成23年10月21日の本件商品の取引があったことを示すと主張する。
しかし,同領収書控も,甲6同様,その内容に不自然な点が多く,同日の取引の際に発行されたものか,極めて疑わしく,証明力は皆無であるといわざるを得ない。
(2) 第1に,審決も判示するとおり,甲7の1の領収書控には,「領収書(控)」「入金先 様」「但」「入金日 年 月 日」の各文字が印刷され,その空欄に入金先として「(有)ズーティック」,金額欄に「\15,750-」,但書に「商品代として」,入金日に「2011 10 21」を,いずれも手書きで埋めたものである。
甲6の請求書控が,品番,色,サイズ等,比較的詳細な事項まで記載されている一方,甲7の1の領収書控においては,印字部分以外は手書きで,その内容も粗雑かつ簡易であり,そもそも,本件商標の記載もない。
とすれば,当該領収書と本件取引との関連性が不明であるし,後日自由に作成することすら可能である。
したがって,当該領収書自体では,本件取引があったことを推認することは不可能である。
(3) 第2に,平成25年3月21日第2回口頭弁論期日の際,本件領収書の原本を確認したところ,本件領収書全体について,取引書類として,到底,信用に足るものとはいい難い事実が明らかとなっている。
すなわち,領収書原本(甲33)において,領収書の1枚目には日付すら入っておらず,原告において,領収書発行時に必ず日時を記入する,という企業間取引では当然に行われる実務が行われていなかったことが明らかとなっている。
また,同領収書2枚目の日付は2008年3月18日付となっており,同じ綴りの最後に発行された領収書は2012年1月20日付の株式会社東北新社宛の領収書になっている(甲7の2,甲33)。つまり,約4年間もの間に,当該領収書の綴りは数えるほどしか使われていないことがわかる。加えて,本件領収書の綴りには,ズーティック宛の領収書の前後に,本件商標とは関係のない領収書が綴られている。とすれば,甲7の1ないし7の3も含め,上記の数少ない領収書のなかでも,本件商標に関するものが本当に存在したかすら疑問である。
特に,原告は,要証期間の3年間での本件商標の使用を立証しなければならないにもかかわらず,その使用にかかる領収書が甲7の1だけであり,本件取引1回しか使用の事実がないなどというのは,その取引自体極めて疑わしいことは,審決が判示するとおりである。
さらに,同綴りには,発行者としてモデルと思われる個人名及び住所が記載され,入金先が原告宛になっている「モデル代」等の領収書控が多数含まれている(例えば,平成22年8月20日付領収書等)。すなわち,原告が発行したものだけではなく,第三者が使用し,原告宛に発行されたものと思われる領収書が多数,同じ一冊の領収書に綴られているのである。
そうなると,そもそも同綴りが,実際に原告の商品を販売した際に使用していたものなのかすら不明であり,同綴りに綴られている領収書には,証明力は全くないといわざるを得ない。
(4) 第3に,甲7の3,33をみると,同領収書の未使用部分の一番前の頁にすでに原告のゴム印が押されている。しかし,上述したとおり,甲33の領収書の綴りは,原告が自ら発行する領収書としてだけではなく,第三者が原告宛に発行する領収書としても使用されていたという事実が存在する。かかる事実に鑑みれば,原告以外の会社又は個人が同領収書の綴りを利用して,領収書を発行する可能性があるにもかかわらず,未使用部分にすでに原告のゴム印が押印してあること自体不自然である。このことは,原告がズーティックに交付したと主張する領収書に,原告の社名や住所等が記載されていたことを主張したいがために,原告が,後日あえて未使用部分にゴム印を押して証拠化した可能性を示唆するものである。
そして,審決も判旨するとおり,当該ゴム印がありさえすれば,いつでも簡単に押印できることからも,上記の可能性はさらに強まる。
(5) 第4に,甲7の1,7の2,33を見ると,それぞれ異なる日付の領収書であるにもかかわらず,筆跡,文字の濃さや太さ等が酷似していることがわかる。
かかる事実から,これらの領収書は,それぞれの取引の際に作成されたものでなく,後日,同じ作成者が,同じ筆記具により,同時に作成したものである可能性が高い。
(6) 第5に,本領収書は,本件取引を示す重要な書証であるから,本当に本件取引が存在し,領収書が発行されたのであれば,領収書の控えではなく,真っ先に提出されるべき書証である。
しかも,原告の主張によれば,本件取引は審判請求のわずか1か月半前に行われたものであるから,証拠保全は容易であった。それににもかかわらず,審判請求後,現在まで,発行された領収書の原本は提出されていない。
このような現在までの原告の立証態度も,本件取引の存在に重大な疑問を投げかけるものである。
(7) 以上から,甲7を含めた全ての領収書は,商標法50条の「使用」を裏付ける証拠としては,証明力が皆無であるというべきである。
4 請求書控と領収書控の関連性について
(1) 以上のように,甲6と甲7の1自体から,本件取引の存在を推認することはできない。上記2つの証拠を合わせて評価しても,本件取引の存在を推認できない。
(2) まず,本件取引で実際に取引されている際のやりとりを示すような,直接証拠たる物証は提出されていないことは明らかである。そして,本件取引と関連性がある可能性のある書証は,上記2つの証拠のみであり,両証拠の中で,本件商標と関係があるのは,甲6の「VIRUS」との記載のみである。
しかし,請求書控のみでは,仮に証明力があったとしても,実際に取引がなされなかった可能性があるため,あくまでも,本件取引において,甲6のとおりの請求がなされ,それに基づいて代金が支払われ,甲7の1が発行されたという,相互の関連性が認められなければ,本件取引があったとは認定できない。
(3) そこで両証拠を検討すると,甲6と甲7の1との一致点は,ズーティックという会社名,日付,および税込合計金額のみであり,本件商標ないし本件商品に関する記載の一致点はない。即ち,甲7の1の領収書控には,商品名,品番等は記載されておらず,かつ,その前後の領収書控(甲7の2)との関係からも,甲7の1が本件商標と関係するものであるかは不明である。とすれば,甲6の請求書と甲7の1の領収書控との間に関連性があるのか,すなわち,これらの書面が同一の取引に関するものか,客観的な記載により判断することはできない。
(4) また,甲6の請求書は,被告による取消審判請求以降に出力されたものである以上,その内容も審判請求後に作成された可能性がある。
とすれば,偶然存在した,本件商標とは無関係の領収書控である甲7の1に符合させる形で,本件商標「VIRUS」を記載した請求書である甲6を,後日,新たに作成して証拠提出している可能性も排斥できないのである。このことは,本件商品の定価が本来1万2800円であり,かつAの側から購入を申し出ている(甲24)にもかかわらず,原告は,特に大きな理由もなく,1本5000円というあまりにも減額した金額で売却したという不自然な主張と併せ考えれば,さらに明確となる。すなわち,本件商標とは全く無関係の別の商品を売却した際の1万5750円の領収書について,1本5000円で売却したことにして数字を合わせ,甲6を作成した可能性も残る。実際,原告自身,甲7の2の領収書控の取引は,原告の「PiedPiper」ブランドの商品の販売であること,平成23年10月20日付領収書の取引は,原告の「OKIRAKU」ブランドの衣服の販売代金であると述べている。甲7の1の領収書についても,これら「VIRUS」とは別ブランドの商品であった可能性も否定できないのである。
5 ズーティック社長及び社員の陳述書について
原告は,本件取引の中で本件商標が使用されたことの立証方法として,ズーティック社長のAの陳述書(甲24)と,同社員のBの陳述書(甲25)を提出する。しかし,いずれの内容も不自然な点が散見され,信用性はない。
まず,Aは,陳述書の中で,本件取引の際,「買った商品の内容がわかる明細の入った請求書をもらいました」と述べる。しかし,甲6の品番等の記載を見ても,ジーンズパンツを買ったことなど一切わからない。逆に,購入されたとされる商品のタグに記載されている品番とは異なる表記がなされている。仮に,Aが,買った商品の内容を明らかにするために請求書を要求したのであれば,甲6の請求書の交付を受けても,その明細は一切わからない以上,それで納得するはずがない。したがって,商品の内容を明らかにするために請求書を要求しながら,商品の内容が全く不明な請求書を受領して納得したとするAの陳述内容は,明らかに矛盾しているといわざるを得ない。
また,Bは,陳述書の中で,平成23年10月24日に,平成24年3月20日の合同展示会に着用するユニフォームとして,Aから本件商品を受け取ったと述べる。しかし,通常であれば,本件商品は合同展示会の直前に手渡されるのが当然である。なぜならば,あまり早くに衣装を渡してしまうと,衣装が劣化したり,紛失したりしてしまう可能性が高いことは明らかだからである。とすれば,合同展示会で着用することが事前に予定されている本件商品を,その半年も前に渡されたなどと証言するB氏の陳述内容は,明らかに不自然であり,信用性がない。
さらに,Bの陳述書にあるとおり,AやBが,合同展示会の後に本件商品を私物として持ち帰ったのであれば,その実物の写真を陳述書に添付することも可能であるにもかかわらず,双方の陳述書において添付されている写真は,甲21の1と同じ,単なるサンプル画像に過ぎない。合同展示会から陳述書の作成日時まで1年未満であるにもかかわらず,その双方が滅失ないし紛失することは通常あり得ず,両名の陳述書とも,不自然であるといわざるを得ない。
第5当裁判所の判断
1 使用の事実の認定
(1) 原告が平成23年10月21日に本件商標を使用した証拠として提出している甲6の請求書の「品番」には「VIRUS 84002」とあるところ,甲34の品番・型番一覧表によれば,これが型番「PRVCA84002」のジーンズパンツで,色はインディゴとブラックの2種類あることが認められる(定価はインディゴ1万2800円,ブラックが1万1550円〔甲5の1ないし5の3,21の1ないし21の3,23の1,23の2の写真で確認される商品タグに記載された定価も同じ。〕)。そして,甲5の1ないし5の3,21の1ないし21の3,23の1,23の2,28の3の写真によれば,タグに型番「PRVCA84002」の記載がなされ,色も2種類あることが認められ,少なくとも48,50というサイズが存在し,かつ,同種ジーンズパンツには,ズボンベルト近くの皮革部分には「VIRUS DENIM LINE dl 704」,とバックポケットに「VIRUS STARTED IN 1996.- VIRUS DENIM LINE STARTED IN1997.(中略)THE VIRUS DENIM LINE IS CREATED THROUGH THE INSPIRATION FOUND IN ALL OF THESE THINGS.」と記載されており,本件商標と社会通念上同一の商標が付された商品であると認められる。そして,甲6の請求書の宛名は「有限会社ズーティック」であり,単価5000円,数量3で税込み価格が1万5750円,作成日付は平成23年10月21日であるところ,原告の保有する甲7の1の領収書(控)には「(有)ズーティック様」「商品代として」「¥15,750-」「入金日 2011年10月21日」と記載されており,両書類の記載は,品番や色などが書かれているか否かにおいて違いがあるが,宛先,商品代金及び日付で一致している。
甲35の履歴全部事項証明書及び甲36のホームページによれば,ズーティックは衣料品の販売等を行う実在の会社と認められるところ,同社社長のAは平成23年10月21日に48サイズのインディゴのジーンズパンツを1万5750円で購入した事実を陳述書において自認している(甲24)。同陳述書で,各ジーンズパンツは平成24年3月20日に実施された展示会で社員が譲り受けたと記載されているところ,同社の社員であるBは同譲受けの事実を認めているし(甲25),実際に原告ブランドが参加したか否か,本件ジーンズパンツが使用されたか否かは必ずしも明らかではないものの,少なくとも同日に合同展示会があったことは客観的な事実である(甲37)。
以上の事実によれば,原告が平成23年10月21日にズーティックに対して型番「PRVCA84002」のジーンズパンツを3枚合計1万5750円で売却したことを推認することができる。
そして,甲26の写真及び甲33の領収書綴りによれば,領収書の控えは時系列順に並んでいて,上記甲7の1の領収書もそのように編綴されているうちの1枚として,後から偽造,加工した形跡は認められないし,未使用の領収書には原告の記名印が押捺されたものもあるが,領収書の控えだけが残っているものも多数存在し,全体を概観すると,実際に使用されたもの,未使用のものが混在していると認められるのであって,後日体裁を整えたものとはうかがわれない。また,その領収書綴りの1枚の領収書(控)(甲7の2)には,「(株)リバースプロジェクト様」「お品代として」「¥44,856-」「入金日 2011年10月15日」と記載されているところ,同社の代表取締役であるCは原告の東京事務所において原告の在庫(商標は本件とは別のもの)を半額で買い取った事実を認めており(甲38),この点でも領収書綴りが後日作成されたものでないことが裏付けられる。
(2) この点,原告の提出する証拠の中には,逆に原告が宛名になったり,本来領収書本体を原告が所持すべきなのに控えだけが残っているものが散見される(甲41の1ないし41の4)。しかしながら,ただし書部分を見るとモデル代,アルバイト代金等であり,モデルやアルバイトをした人物が領収書を手元に持ち合わせておらず,代金を支払った際に原告の領収書綴りを用い支払者の原告が控えを所持することになったとしても事実としてあながち不自然とまではいえない。また,一般的に控えの方は切り取れるようになっていないから,領収書と控えを厳密に使い分けなかった点をもって不自然ともいえない。甲41の1の領収書を受け取ったDがモデルをしていたことについては裏付けがあり(甲42,43),このことからしても,宛名が逆である点をもって領収書の信用性を覆すには至らない。
また,原告の提出する領収書綴り(甲33)は枚数にしてみれば使用期間があまりに長い点において不自然さが看取される。しかしながら,この点,原告は,原告の東京事務所において販売した際に使用していた領収書綴りであると説明しているところ,現に記名印の住所は,原告の本店のある横浜市戸塚区ではなく「 」となっており(甲33),東京事務所で受け取ったとする上記Cの陳述内容(甲38)とも合致している。また,原告は,大口の取引については銀行振込を利用しており(甲45),必ずしも領収書を発行する必要がなかった取引があったと認められる上に,甲33の領収書綴り以外の領収書を使用していた事実(甲48の1,48の2。甲48の2の取引については裏付けのメモ〔甲50〕や,取引された商品の売却に関するホームページ〔甲51の1,51の2〕が存在する。)もまた認められるから,この点をもって必ずしも不自然とはいえない。
さらに,本件取引では定価である1万2800円を大幅に下回る5000円で3本売却されたことになる。しかしながら,本件取引以外にも,原告の東京事務所で行われた上記Cに対する売却代金は半額であったというし(甲38),原告の主張するように値下げの理由が在庫処分ということであれば,値下げの動機はあり,3本というまとめ買いであったことも合わせ考えると,売却価格の点においても不自然とはいえない。
被告は,甲6の請求書控えが,被告による無効審判請求以降に出力されたことをもって,後日新たに作成した可能性を指摘するが,請求書の原本は,請求を受けたズーティックの手元に渡っていて原告が所持していなくても不自然ではないし,後日にデータの内容を書き換えたないし新たに作成したという具体的根拠を欠く。いずれにせよ被告の批判は当たらない。
2 小括
以上によれば,上記推認を覆すだけの事実関係は認められず,原告が平成23年10月21日にズーティックに対して本件商標が付されたジーンズパンツを売却した事実が認められ,商標法2条3項2号に該当する使用の事実があったと認めることができる。
第6結論
以上より,本件審判請求の登録前3年以内に原告が本件商標を使用した事実を否定した審決は誤りであり,原告の請求は理由がある。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 池下朗 裁判官 新谷貴昭)