大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10023号 判決 2013年6月20日

原告

株式会社ナビ

同訴訟代理人弁護士

中村眞一

粟谷しのぶ

山崎岳人

被告

株式会社ウインライト

同訴訟代理人弁護士

原秋彦

中川直政

同 弁理士

原島典孝

板垣忠文

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が取消2011-300679号事件について平成24年12月18日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,後記1の原告の本件商標に係る登録商標に対する不使用を理由とする当該登録の取消しを求める被告の後記2の本件審判請求について,特許庁が同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1  本件商標

原告は,平成15年10月31日,「JanNavi」の欧文字と「ジャンナビ」の片仮名文字を二段に横書きしてなる商標(以下「本件商標」という。)について,第9類「業務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲーム機,硬貨作動式機械用の始動装置,ゲーム機(テレビジョン受像機専用のもの),コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」,第28類「マージャン用具,硬貨投入式麻雀卓」及び第41類「インターネットのネットワークを利用して対戦する麻雀ゲームの提供,通信を用いて行う麻雀ゲームの提供,麻雀の教授,麻雀競技会の企画・運営又は開催,麻雀荘の提供,麻雀大会の企画・運営又は開催,麻雀用具の貸与,娯楽の提供,娯楽情報の提供,ゲームセンターの提供,会員制による教育・娯楽の提供」を指定商品又は指定役務として,登録出願をし,平成16年9月17日,設定登録を受けた(登録第4802600号商標。甲63,64)。

2  特許庁における手続の経緯

(1)  被告は,平成23年7月19日,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが本件商標を指定商品中第9類「業務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲーム機,ゲーム機(テレビジョン受像機専用のもの),コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」(以下「本件指定商品」という。)について使用した事実がないと主張して,取消審判を請求し,当該請求は同年8月2日に登録された。

(2)  特許庁は,これを取消2011-300679号事件として審理し,平成24年12月18日,「本件商標の指定商品中,本件指定商品については,その登録は取り消す。」旨の本件審決をし,同月28日にその謄本が原告に送達された。

3  本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,要するに,原告は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件指定商品のいずれかについて,本件商標の使用をしていた事実を証明したものとは認められないから,本件商標の登録は,商標法50条の規定により,本件指定商品について取り消すべきである,というものである。

4  取消事由

本件商標の不使用に係る判断の誤り

第3当事者の主張

〔原告の主張〕

1  「業務用テレビゲーム機」について

(1) ナビゲーションシステムを搭載した麻雀台「ジャンナビ」(以下「本件麻雀台」という。)の「業務用テレビゲーム機」該当性について

本件審決は,本件麻雀台はゲームセンターやアミューズメントセンター向けの機能である課金用のコイン投入口やカード挿入口等の特徴がないことなどから,「業務用テレビゲーム機」に該当しないと判断した。

しかし,ゲームセンターや遊園地等のアミューズメントスポットでは,入口で接触読み取り型カードを受け取り,それをゲーム機に取り付けてあるアンテナに接触させ,出口で精算をするというシステムを採用しているところもあり,コイン投入口やカード挿入口を備えていることは,必ずしも「業務用テレビゲーム機」としての必須条件ではない。

他方,本件麻雀台は,ゲームセンターやアミューズメントセンター向けに製品化された点棒を使用しない麻雀台であり,自動点数計算システム「ジャンナビ」は,リーチをすると,中央の画面上にゲーム的なアクションが起こるなど,ゲームセンター向けの工夫が凝らされているものである。実際,原告は,平成16年2月,アミューズメントセンターを運営する株式会社ランシステムに本件麻雀台の販売活動を行い,また,平成22年頃には,ラスベガスのカジノ向けにデジタル化した麻雀台の開発をしたいとの引き合いも受けている。

以上のとおり,本件麻雀台は,「業務用テレビゲーム機」として開発されたものであり,課金用のコイン投入口やカード挿入口の有無にかかわらず,その用途及び機能において,「業務用テレビゲーム機」に該当するものである。

したがって,本件審決の判断は,誤りである。

(2) 本件商標を付した麻雀台について

ア 本件審決は,本件商標を付した麻雀台が要証期間(平成20年8月2日から平成23年8月1日まで。以下「本件要証期間」という。)に存在した事実は認められず,そのような麻雀台が販売されたことを証明する証拠もないと判断した。

しかし,原告は,平成23年4月8日,原告のホームページのためにドメインを取得し,同月11日には,あらかじめ制作していたWebデータを用いて,ホームページを開設し,同ホームページ上で「ジャンナビ」と名付けた本件麻雀台を販売,レンタルしており,その事実は A の陳述書(甲39)によって裏付けられている。

なお,本件審決は, A が原告と密接な関係にある人物であることをもって, A の陳述書には信用性が認められないと判断した。

しかし, A は,平成23年4月9日から同年5月31日までの間,原告の代表取締役であり,同年4月当時,ホームページを制作,開設した当事者でもある。その当時, A と原告が密接な関係にあったことは当然であり,かかる事実をもって,同人の陳述の信用性が否定されることにはならない。

イ また,有限会社LSコミュニケーションズ(以下「LSコミュニケーションズ」という。)のアミューズメント事業部長である B の陳述書(甲43)には,概略,「弊社は,平成23年5月1日に,麻雀ゲームジャンナビを記憶させたCD-Rを原告から受け取りました。その後,同年6月3日に,ソフトウェア製品の販売に関する契約に合意し,旧車二輪専門店BANBAN(以下「BANBAN」という。)に対し,ソフトを販売しました。BANBANのホームページには,平成24年6月から麻雀ゲームジャンナビが掲載しています。さらに,同月6日には,販売代理店契約を原告との間で結び,全自動の麻雀台「ジャンナビ」を麻雀店ファーストワンに販売した。」との記載があるが,BANBANのホームページに麻雀ソフトジャンナビが掲載されたのは,「平成23年6月」の誤記である。したがって,LSコミュニケーションズが麻雀店ファーストワンに麻雀台「ジャンナビ」を販売したのは,本件要証期間内の平成23年6月6日である。

ウ 以上のとおり,本件要証期間には,本件商標を付した「業務用テレビゲーム機」が存在し,これが販売されていたものであり,本件審決の判断は誤りである。

2  「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」について

(1) 本件審決は,原告が麻雀店すずめ(以下「すずめ」という。),株式会社AIRCAST(以下「AIRCAST」という。)及びLSコミュニケーションズに対して,麻雀ゲームコンテンツ「ジャンナビ」のソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)を提供した行為は,商品の販売ではなく,商品の貸与又は役務の提供に当たると判断した。

しかし,商標法2条3項3号ないし6号が規定する役務の「使用」の概念は,「役務が無形の財であり,直接標章を付することができないため,有形物を介して「使用」されることとなること,また,需要者の目に触れることにより自他役務の識別商標として機能し得るものを「使用」とすべき」(特許庁編「工業所有権法逐条解説」第16版,発明協会)との考え方に基づくものである。すなわち,CD-R等の役務提供の用に供する物に標章を付する行為は,それ自体が商標法上の「使用」に該当するのであり,原告が,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rに本件商標を付する行為も「使用」(同項3号)に該当するものである。

また,原告が,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを,すずめ,AIRCAST及びLSコミュニケーションズに提供することによって役務を提供した行為も「使用」(同項4号)に該当するものである。

さらに,原告は,ホームページの「ECショップ/販売・レンタル」欄に,本件商標を付して,「麻雀ゲームジャンナビ(PC版)」「麻雀ゲームジャンナビ(携帯版)」を掲載した。かかる行為は,本件商標の広告的使用(同項8号)に該当する。

(2) 原告とすずめとの間の取引について

本件審決は,甲22の物品受領書は原告とすずめとの間の取引書類とは認められず,また,甲51の領収証(控)の信用性も認められないとして,原告がすずめに対し,平成23年4月30日に本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したことを認めることはできないと判断した。

しかし,次のとおり,本件審決の判断は誤りである。

ア 本件審決は,上記物品受領書の宛名や作成者欄の記載からすると,同物品受領書は,すずめと株式会社正成との取引を示すものであって,原告とすずめとの間の取引書類とは認められないと判断した。

しかし,上記物品受領書中,原告の名前が記載されるべきところに「すずめ」と記載されたのは,納品書(控)・請求書・納品書・物品受領書が4枚綴りとなった複写式のものにつき,納品書と物品受領書との間に厚紙を入れて,物品受領書の左上に原告の記名をすべきところを,厚紙を入れ忘れたため,原告がすずめ宛てに交付するために納品書用に記載した「すずめ」が物品受領書の左上にも記載され,その訂正がされないまま,すずめから原告に交付されたことによる。上記物品受領書の「すずめ」の記載は,事務上のミスにすぎない。

イ 本件審決は,上記領収証(控)の伝票番号及び品名が上記物品受領書と同一でないとして,同領収証(控)の記載内容に信憑性があるものとは認められないと判断した。

しかし,物品受領書と金銭の領収書は,異なる書類であり,それぞれの伝票番号の記載方法が異なることは当然にあり得ることである。また,上記物品受領書の品名の記載欄は小さいため,上記領収証(控)のように詳細な記載をすることができなかったものであり,これらの相違は,証拠の信用性を否定するほどの相違ではない。

ウ そして,上記物品受領書の品名に「麻雀ジャンナビソフト貸与 平成23年5月~10月分」との記載があること,この記載が原告とすずめとの間のコンテンツの利用契約書(甲21)や上記領収証(控)の記載と合致することなどからすると,原告とすずめの間では,本件要証期間に本件ソフトウェアの提供に係る取引があったと認められるべきである。

(3) 原告とAIRCASTとの間の取引について

本件審決は,甲53の領収証(控)は信用性が認められないなどとして,原告がAIRCASTに対し,平成23年4月20日に本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したことを認めることはできないと判断した。

しかし,次のとおり,本件審決の判断は誤りである。

ア 本件審決は,原告とすずめとの間の取引に係る領収証(控)(甲51)と同様の理由により,原告とAIRCASTとの間の取引に係る領収証(控)(甲53)の記載内容にも信憑性があるとは認められないと判断した。

しかし,前記(2)と同様に,上記領収証(控)の信用性は認められるべきである。

イ 本件審決は,AIRCASTの代表取締役でもある A の陳述(甲39,50)について, A が原告及びAIRCASTと密接な関係のある人物であることからすると,その陳述のみをもって,原告からAIRCASTに麻雀ゲームが販売されたと認めることはできないと判断した。

しかし, A が原告やAIRCASTと密接な関係にあることのみをもって,上記各陳述書の信用性を否定することはできない。そして,原告とAIRCASTとの間のコンテンツの利用契約書(甲35),物品受領書(甲36)は,原告とAIRCASTとの取引の存在を裏付けるものである。

(4) 原告とLSコミュニケーションズとの間の取引について

本件審決は,原告とすずめとの間の取引に係る領収証(控)(甲51)と同様の理由により,原告とLSコミュニケーションズとの間の取引に係る領収証(控)(甲52)の記載内容にも信憑性があるとは認められないなどとして,原告がLSコミュニケーションズに対し,平成23年5月1日に本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したことを認めることはできないと判断した。

しかし,前記(2)と同様に,上記領収証(控)の信用性は認められるべきであり,本件審決の判断は誤りである。

(5) LSコミュニケーションズとBANBANとの間の取引について本件審決は,本件要証期間に,LSコミュニケーションズがBANBANに対して本件ソフトウェアを販売したとは認められないと判断した。

しかし,平成23年6月にLSコミュニケーションズがBANBANに対して本件ソフトウェアを販売した事実は,原告とLSコミュニケーションズとの間のソフトウェア製品の販売に関する契約書(甲30),販売報告書(甲44),領収証(控)(甲47)等により裏付けられているのであり,本件審決の上記判断は誤りである。

なお,本件審決は,上記販売報告書には報告者の押印がなく,また,その内訳欄には誤記があるとして,同販売報告書が真正に作成されたものとは認められないなどと判断した。

しかし,上記販売報告書は,メールに添付してLSコミュニケーションズから原告に送付されたものであり,報告の内容及びメール添付上の便宜からすれば,必ずしも報告者の押印が求められるものではない。また,「単価」と記載すべき欄を誤って「件数」と記載したのは,ごく軽微なミスにすぎず,このような誤記があることをもって証拠全体の信用性を否定するのは,偏向した判断であるといわざるを得ない。

3  以上のとおり,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,原告及びLSコミュニケーションズは,本件指定商品について本件商標を使用していたものであり,本件商標の不使用に係る本件審決の判断は誤りである。

〔被告の主張〕

1  「業務用テレビゲーム機」について

(1) 本件麻雀台の「業務用テレビゲーム機」該当性について

ア 原告は,本件麻雀台が「業務用テレビゲーム機」に該当すると主張する。

しかし,原告が本件麻雀台と称するものは,甲4及び5に掲載された「ジャンナビ JN01 全自動ナビゲーションシステム台」及び「ジャンナビ JN02 手打ち台」であると見受けられるところ,これらの商品は,いずれも4人で卓を囲んで実物の麻雀牌等を用いて麻雀を行うための台(実機)であり,国際分類第28類に属する「麻雀台」にほかならない。

他方,「業務用テレビゲーム機」とは,ゲームセンターやアミューズメント施設などに設置される,いわゆるアーケードゲームを意味するものである。

したがって,本件麻雀台は,「業務用テレビゲーム機」に該当しない。

イ 原告は,コイン投入口やカード挿入口を備えていることは「業務用テレビゲーム機」としての必須条件ではないとか,ラスベガスのカジノ向けにデジタル化した麻雀台を開発したいとの引き合いを受けたなどとして,本件麻雀台は,「業務用テレビゲーム機」に該当するものであると主張する。

しかし,「業務用テレビゲーム機」は,①テレビモニターとコンピュータゲーム機本体から構成され,コンピュータゲーム機本体でゲームソフトを実行して,テレビモニターを見ながらゲームを楽しむための用途に使用されるものであり,②ゲームセンターやアミューズメントセンターで使用されるため,課金用のコイン投入口やカード挿入口等の機能を有するものである。

しかるに,本件麻雀台は,ゲームソフトを実行してモニターでゲームを楽しむものではない上,課金のための機能も有しないから,「業務用テレビゲーム機」に該当しないことは明らかである。

また,ラスベガスのカジノ向けにデジタル化した麻雀台を開発したいとの引き合いを受けたという事実は, A の陳述書(甲39)に記載されているのみであり,客観的な証拠によって裏付けられたものではないから,そのような事実があったかどうかも疑問である。仮に,そのような引き合いがあったとしても,販売先のいかんによって,麻雀台が「業務用テレビゲーム機」に性質を変えるものではない。

したがって,原告の主張は失当である。

(2) 本件商標を付した麻雀台について

ア 仮に,本件麻雀台が「業務用テレビゲーム機」に該当するとしても,本件麻雀台が本件要証期間に販売された事実はなく,また,本件麻雀台に本件商標が付されていたことの客観的な証拠もない。

イ 原告は,平成23年4月11日に開設された原告のホームページにおいて,本件麻雀台を販売した旨主張する。

しかし,本件麻雀台の販売が行われたことを裏付ける客観的な証拠はない。

そもそも,ドメインを取得しても,コンテンツを掲載していないウェブサイトはいくらでもあり,ドメイン取得の事実を示すのみでは,ホームページの運用開始日が証明されるものではない。

かえって,ホームページの「沿革」欄には,平成16年9月に「ネットワークを利用して対戦する麻雀ゲームジャンナビの提供」と記載されているが,同年7月1日から平成18年5月24日まで,原告は,休眠会社の状態にあったこと, A は,被告に対する平成19年4月10日付け通知書において,原告がネットワークを利用して対戦する麻雀ゲームの提供を行っていないことを認めていること,ドメインの取得時期は, A が原告の代表取締役に就任した時期とほぼ一致していることなどからすると,原告のホームページは,本件審判請求がされた後に,本件商標の使用の体裁を取り繕うために制作されたものであると強く推認される。

したがって,原告の主張は失当である。

(3) LSコミュニケーションズを介した本件麻雀台の販売について

原告は, B の陳述書(甲43)に記載されている本件麻雀台の販売日の記載は誤記であり,正しい記載に基づけば,LSコミュニケーションズは,「平成23年6月6日」にファーストワンに本件麻雀台を販売したものである旨主張する。

しかし,原告の主張を裏付ける客観的な証拠は存在しない。したがって,そのような事実があった旨述べる B の陳述には,信憑性がないといわざるを得ない。

2  「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」について

(1) 原告は,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rに本件商標を付してすずめ,AIRCAST及びLSコミュニケーションズに提供したことをもって,本件商標を「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」に使用した旨主張するようである。

しかし,原告が本件商標を付して提供した旨主張しているのは,国際分類第35類に属する「販売促進策の企画・実施」という役務であり,本件審判請求の対象となっている指定商品である「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」についての使用ではない。

また,甲4,5には,本件ソフトウェアについて,「販売価格:¥500,000」「レンタル(1ヶ月):¥5,000」と記載されているが,このように高額なゲームソフトウェアが「ゲームプログラム」という商品として独立して商取引の対象とされるとは考えられない。

したがって,原告が,「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」である商品に本件商標を付して本件要証期間に販売した事実を認めることはできない。

(2) 原告は,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rに本件商標を付する行為は,商標法2条3項3号の「使用」に該当するとか,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを,すずめ,AIRCAST及びLSコミュニケーションズに提供することによって役務を提供した行為も同項4号の「使用」に該当するなどと主張する。

しかし,商標法2条3項3号及び同項4号に基づく使用は,いずれも役務の提供に際してのものを指すものである。

したがって,原告が本件ソフトウェアを商標法2条3項3号又は4号に基づき使用したことをもって,本件商標を「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」という商品に使用した旨主張するのは,主張自体失当である。

(3) 原告は,そのホームページに本件商標を付して麻雀ゲームを掲載した行為が商標法2条3項8号の広告的使用に当たると主張する。

しかし,原告のホームページの開設時期は立証されておらず,本件要証期間に当該ホームページが閲覧可能であったことの立証もない。

したがって,原告の主張は失当である。

(4) 原告とすずめとの間の取引について

ア 甲22の物品受領書は,その記載自体から,原告とすずめとの間の取引書類とは認められない。同物品受領書は,文面上明らかにすずめと株式会社正成との間の取引書類である。

また,上記物品受領書の品名欄の記載が,同日に作成されたはずの領収証(控)(甲51)の但書欄の記載と一致していないことも不可解である。

さらに,上記領収証(控)の但書欄には,「麻雀ジャンナビソフトの提供及び記憶媒体の貸与として」と記載されており,本件審判請求に係る指定商品の文言に殊更に近似した表現が使用されているのは,極めて不自然である。

イ 原告は,原告とすずめとの間の平成23年4月30日付けコンテンツの利用契約書(甲21)も,両者間で本件要証期間に本件ソフトウェアの提供に係る取引があったことの根拠である旨主張する。

しかし,本件審判手続において,上記コンテンツの利用契約書が提出されたのは,原告による答弁書の提出(平成23年10月24日)から約8か月半も経過した平成24年7月9日であるから,同契約書は,原告が本件商標の使用実績を取り繕う目的で本件審判手続開始後にバックデートで作成されたものと推認され,同契約書に証拠価値は認められない。

(5) 原告とAIRCASTとの間の取引について

ア 前記(4)アで領収証(控)(甲51)について述べたのと同様の理由により,甲53の領収証(控)についても,信憑性は認められない。

また,物品受領書(甲36)の品名欄の記載が,同日に作成されたはずの領収証(控)(甲53)の但書欄の記載と一致していないことも不可解である。

さらに,上記物品受領書の品名からも明らかなように,これは本件ソフトウェアの貸与に関する取引の徴憑である。貸与という役務は商品の取引とは区別されるから,同物品受領書は,そもそも商品の取引に関する徴憑ではない。したがって,仮に,原告が同物品受領書に記載された貸与行為を現実に行っていたとしても,本件指定商品について本件商標を使用したことにはならない。また,同物品受領書に示されている取引は,代表者が同一人( A )の会社間における取引である。したがって,同物品受領書に示されている原告とAIRCASTとの取引は, A の指示又は支配の下で作成されたものであることや,不使用取消しを免れる目的で名目的に使用の外観を作出するために作り出した取引であることが強く推認される。

イ 原告は,原告とAIRCASTとの間の平成23年4月20日付けコンテンツの利用契約書(甲35)も,両者間で本件要証期間に本件ソフトウェアの提供に係る取引があったことの根拠である旨主張する。

しかし,前記(4)イと同様に,本件審判手続において上記コンテンツの利用契約書が提出されたのは,平成24年7月9日であるから,同契約書は,原告が本件商標の使用実績を取り繕う目的で審判手続開始後にバックデートで作成されたものと推認され,同契約書にも証拠価値は認められない。

(6) 原告とLSコミュニケーションズとの間の取引について

前記(4)アで領収証(控)(甲51)について述べたのと同様の理由により,甲52の領収証(控)についても,信憑性は認められない。

また,物品受領書(甲28)の品名欄の記載が,同日に作成されたはずの上記領収証(控)の但書欄の記載と一致していないことも不可解である。

そして,物品受領書の品名からも明らかなように,これは本件ソフトウェアの貸与に関する取引の徴憑である。したがって,原告が同物品受領書に記載された貸与行為を現実に行ったものと仮定しても,本件指定商品について本件商標を使用したことにはならない。

さらに,LSコミュニケーションズは,教育事業,中古車事業及び建築事業を行う会社であり,同社のホームページに麻雀ゲームソフトを設置しても,顧客獲得効果は期待できない。営利を目的とする会社が実際の営利的効果が得られることを期待できないものをわざわざ費用を払って設置することは,およそ考えにくい。

したがって,原告は,LSコミュニケーションズに依頼して本件商標の使用の体裁を取り繕うために本件ソフトウェアを販売したにすぎないことが強く推認される。このような商標の使用は,仮に,それが原告による本件商標の使用と評価できるとしても,不使用取消しを免れるに足りる「使用」ではあり得ない。

(7) LSコミュニケーションズとBANBANとの間の取引について

ア 前記(4)アで領収証(控)(甲51)について述べたのと同様の理由により,甲47の領収書(控)についても,信憑性は認められない。

イ 原告は,販売報告書(甲44)の誤記は軽微なミスであり,これをもって証拠全体の信用性を否定することは本件審決の偏向した判断である旨主張する。

しかし,契約当事者間において枢要な位置を占める販売報告書において,このような明白かつ重要な誤記が看過されたまま数か月にわたって放置されることは,常識では考えられず,同販売報告書は,最近になって原告が捏造したものと推認される。

また,上記販売報告書の備考欄には,「平成23年6月3日付け「ソフトウェア製品の販売に関する契約」に従い麻雀ゲームソフト「ジャンナビ」Web上の提供」と記載されている。同契約は,LSコミュニケーションズが「麻雀ゲームソフト ジャンナビを複製し,当該複製品をインターネット上のサイト,ホームページに組み込み販売する」ことができるというものであるが(第1条),LSコミュニケーションズが自社のサイトにゲームソフトを組み込むことは,原告とLSコミュニケーションズとの間のコンテンツの利用契約書(甲27)で定められているから,上記ソフトウェア製品の販売に関する契約(甲30)にいう「インターネット上のサイト,ホームページ」とは,第三者のサイトやホームページと解される。すなわち,ソフトウェア製品の販売に関する契約は,LSコミュニケーションズが麻雀ゲームソフトを複製し,当該複製品を第三者のサイトやホームページに組み込んだ態様で販売することを定めたものである。

しかるに,上記販売報告書では,「Web上の提供」と記載されており,LSコミュニケーションズが自社のサイトでゲームソフトを提供したことが表示されている。仮に,自社サイトで提供したのではなく,第三者に販売したのであれば,販売報告書における販売報告の対象を単に「Web上の提供」と記載するはずはないから,当該販売報告書の備考欄の記載は,ソフトウェア製品の販売に関する契約内容と整合性がないものである。

さらに,上記販売報告書には,報告者による押印もないことからすると,当該報告書は,最近になって原告によって捏造されたものとみるのが自然である。

ウ 原告は,原告とLSコミュニケーションズとの間の平成23年6月3日付けソフトウェア製品の販売に関する契約書(甲30)も,本件要証期間にLSコミュニケーションズを介してBANBANに対し本件ソフトウェアを提供したことの根拠である旨主張する。

しかし,前記(4)イと同様に,本件審判手続において上記ソフトウェア製品の販売に関する契約書が提出されたのは,平成24年7月9日であるから,同契約書は,原告が本件商標の使用実績を取り繕う目的で審判手続開始後にバックデートで作成されたものと推認され,同契約書にも証拠価値は認められない。

3  よって,本件商標の不使用に係る本件審決の判断に誤りはない。

第4当裁判所の判断

1  「業務用テレビゲーム機」について

(1)  原告は,本件要証期間には,本件商標を付した「業務用テレビゲーム機」が存在し,これが販売されていたなどと主張する。

しかしながら,原告のいう本件麻雀台とは,甲4及び5に記載された「ジャンナビ JN01 全自動ナビゲーションシステム台」を指すものと解されるところ,この麻雀台は,台中央に小さなモニターが備え付けられ,かつ,役牌の判定や点数計算を自動で行う機能を有するものであるとしても,麻雀そのものは遊戯者が実際に台を囲んで行う形態のものであることが一見して明らかである。

これに対し,「業務用テレビゲーム機」は,テレビモニターとコンピュータゲーム機本体から構成され,コンピュータゲーム機でゲームソフトを実行して,テレビモニターを見ながらゲームを楽しむための用途に使用されるものと解されるから,本件麻雀台は,「業務用テレビゲーム機」に該当するものではない。

また,本件麻雀台に本件商標が付されていることを認めるに足りる客観的な証拠もない。

したがって,原告の主張は,採用することができない。

(2)  以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告が,本件要証期間に本件商標を「業務用テレビゲーム機」について使用したと認めることはできない。

2  「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」について

(1)  原告は,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rに本件商標を付する行為は商標法2条3項3号の使用に該当するとか,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを,すずめ,AIRCAST及びLSコミュニケーションズに提供することによって役務を提供した行為は,同項4号の使用に該当するなどと主張する。

しかしながら,商標法2条3項3号及び同項4号は,役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為(同項3号)又は利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(同項4号)を標章の使用と定めているのであって,いずれも役務の提供における標章の使用についての規定であるから,これらの規定に基づき,本件指定商品についての本件商標の使用を認定することはできない。

したがって,原告の主張は,採用することができない。

(2)  原告は,ホームページにおいて,本件商標を付して「麻雀ゲームジャンナビ(PC版)」「麻雀ゲームジャンナビ(携帯版)」を掲載した行為は,商標法2条3項8号に規定する商標の広告的使用に当たると主張する。

しかし,原告のホームページ(甲4,5)には,「ジャンナビ」との標章が付されたパソコン版又は携帯版の麻雀ゲームが掲載されているものの,これらの麻雀ゲームは,パソコン上又は携帯電話の画面上でいわゆるオンラインゲームとして遊戯するものであるから(甲4,5),いずれも本件指定商品である業務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲーム機,ゲーム機(テレビジョン受像機専用のもの)又はコンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体に該当するものではない。

したがって,原告の主張は,採用することができない。

(3)  原告は,本件要証期間に,すずめ,AIRCAST及びLSコミュニケーションズに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した旨主張する(なお,原告は,本件審判手続において,上記すずめらに対するCD-Rの提供は,販売であった旨主張している。)。

そこで,以下,順次検討する。

ア 原告とすずめとの間の取引について

(ア) 原告は,本件要証期間に,すずめに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことの証拠として,甲22,51等を挙げる。

しかしながら,甲22の物品受領書の品名欄には,「麻雀ジャンナビソフト貸与平成23年5月~10月分」と記載されているところ,同物品受領書の左上部にはすずめの名称が記載され,右上部には株式会社正成の名称が記載されるとともに,株式会社正成の押印がされていることが認められ,かかる体裁からすると,同物品受領書は,株式会社正成がすずめに対し,ジャンナビソフトの貸与を受けたことを記載して交付した書面であるといわざるを得ず,すずめが原告から物品を受領したことを裏付ける書面であるということはできない。

次に,甲51及び59は,原告が,すずめから,3万円を受領したことが記載された平成23年4月30日付けの領収証(控)であり,その但書欄には,「麻雀ジャンナビソフトの提供及び記憶媒体の貸与として」との記載がある。

しかしながら,上記領収証(控)の但書欄において,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rについて,本件指定商品の記載に合わせるかのように「記憶媒体」と表記しているのは不自然であるし,そもそも,原告は,前記のとおり,本件審判手続では,すずめに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したと主張しているのであるから,領収証(控)の但書欄に「記憶媒体の貸与として」と記載されているのも不自然である。

また,本件審判手続において,原告は,特許庁から平成24年5月21日付け審理事項通知書(乙1)により,原告が「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」の販売を行っていたとは認め難いとの暫定的な見解が示された後,同年7月9日に上記物品受領書及び領収証(控)を提出している。原告は,平成23年10月24日,特許庁に対し,答弁書と共に本件指定商品に係る使用の証拠(甲1~9)を提出しているところ,上記物品受領書及び領収証(控)は,それ以前の同年4月30日に作成されていたというのであるから,上記答弁書等と共に特許庁に提出することも可能であったのに,特許庁から上記のような暫定的見解が示された後になって初めてこれを提出していることからすると,上記物品受領書及び領収証(控)の内容の信用性には疑問を持たざるを得ない。

したがって,上記物品受領書及び領収証(控)の信用性は乏しいといわざるを得ず,同物品受領書及び領収証(控)をもって,本件要証期間に原告がすずめに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した証拠と認めることはできない。

(イ) なお, A の陳述書(甲39)や,すずめの経営者である C の陳述書(甲42)には,平成23年4月30日,原告が,すずめに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した旨の記載がある。

しかしながら,原告とすずめとの間で,そのような取引があったことを裏付けるに足りる客観的な証拠がない以上,上記各陳述のみをもって,本件要証期間に原告がすずめに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことを認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

イ 原告とAIRCASTとの間の取引について

(ア) 原告は,本件要証期間に,AIRCASTに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことの証拠として,甲36,53等を挙げる。

しかしながら,甲36の物品受領書の品名欄には,「麻雀ジャンナビソフト貸与平成23年4月20日から6ヶ月」と記載されているところ,同物品受領書の左上部には原告の名称が記載され,右上部にはAIRCASTの名称が記載されるとともに,AIRCASTの押印がされていることが認められ,かかる体裁からすると,同物品受領書は,AIRCASTが原告に対し,麻雀ジャンナビソフトの貸与を受けたことを記載して交付した書面であるといわざるを得ず,原告が本件審判手続において主張したように,原告がAIRACASTに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したことを裏付ける書面であるということはできない。

次に,甲53は,原告が,AIRCASTから,3万円を受領したことが記載された平成23年4月20日付けの領収証(控)であり,その但書欄には,「麻雀ジャンナビソフトの提供及び記憶媒体の貸与として」との記載がある。

しかしながら,上記領収証(控)の但書欄において,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rについて,本件指定商品の記載に合わせるかのように「記憶媒体」と表記しているのは不自然であるし,そもそも,原告は,前記のとおり,本件審判手続では,AIRCASTに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したと主張しているのであるから,領収証(控)の但書欄に「記憶媒体の貸与として」と記載されているのも不自然である。

また,上記物品受領書及び領収証(控)は,いずれも平成23年4月20日に作成されたというのであるが,これが本件審判手続において本件商標の使用に係る証拠として提出されたのは,特許庁から平成24年5月21日付け審理事項通知書により,原告が「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」の販売を行っていたとは認め難いとの暫定的な見解が示された後であるから,前記(3)ア(ア)と同様に,その内容の信用性には疑問を持たざるを得ない。

したがって,上記物品受領書及び領収証(控)の信用性は乏しいといわざるを得ず,同物品受領書及び領収証(控)をもって,本件要証期間に原告がAIRACASTに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した証拠と認めることはできない。

(イ) なお, A の陳述書(甲39,50)には,平成23年4月20日,原告が,AIRCASTに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した旨の記載がある。

しかしながら,原告とAIRCASTとの間で,そのような取引があったことを裏付けるに足りる客観的な証拠がない以上,上記各陳述のみをもって,本件要証期間に原告がAIRCASTに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことを認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

ウ 原告とLSコミュニケーションズとの間の取引について

(ア) 原告は,本件要証期間に,LSコミュニケーションズに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことの証拠として,甲28,61等を挙げる。

しかしながら,甲28の物品受領書の品名欄には,「ジャンナビソフト貸与(平成23年5月~10月末)」と記載されているところ,同物品受領書の左上部には原告の名称が記載され,右上部にはLSコミュニケーションズの名称が記載されるとともに,LSコミュニケーションズの押印がされていることが認められ,かかる体裁からすると,同物品受領書は,LSコミュニケーションズが原告に対し,ジャンナビソフトの貸与を受けたことを記載して交付した書面であるといわざるを得ず,原告が本件審判手続において主張したように,原告がLSコミュニケーションズに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したことを裏付ける書面であるということはできない。

次に,甲61は,原告が,LSコミュニケーションズから,3万円を受領したことが記載された平成23年5月1日付けの領収証(控)であり,その但書欄には,「麻雀ジャンナビソフトの提供及び記憶媒体の貸与として」との記載がある。

しかしながら,上記領収証(控)の但書欄において,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rについて,本件指定商品の記載に合わせるかのように「記憶媒体」と表記しているのは不自然であるし,そもそも,原告は,本件審判手続では,LSコミュニケーションズに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したと主張しているのであるから,領収証(控)の但書欄に「記憶媒体の貸与として」と記載されているのも不自然である。

また,上記物品受領書及び領収証(控)は,平成23年5月1日に作成されたというのであるが,これが本件審判手続において本件商標の使用に係る証拠として提出されたのは,特許庁から平成24年5月21日付け審理事項通知書により,原告が「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」の販売を行っていたとは認め難いとの暫定的な見解が示された後であるから,前記ア(ア)と同様に,その内容の信用性には疑問を持たざるを得ない。

したがって,上記物品受領書及び領収証(控)の信用性は乏しいといわざるを得ず,同物品受領書及び領収証(控)をもって,本件要証期間に原告がLSコミュニケーションズに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した証拠と認めることはできない。

(イ) なお, A の陳述書(甲39)及び B の陳述書(甲43)には,平成23年5月1日,原告が,LSコミュニケーションズに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した旨の記載がある。

しかしながら,原告とLSコミュニケーションズとの間で,そのような取引があったことを裏付けるに足りる客観的な証拠がない以上,上記各陳述のみをもって,本件要証期間に原告がLSコミュニケーションズに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことを認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

エ LSコミュニケーションズとBANBANとの間の取引について

原告は,平成23年6月6日,LSコミュニケーションズを介して,BANBANに本件ソフトウェアを販売したと主張する。

しかしながら,LSコミュニケーションズがBANBANに対し,本件ソフトウェアを販売したことを認めるに足りる客観的な証拠はないから,原告の主張は採用することができない。

(4)  以上によれば,原告が,本件要証期間に本件商標を「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」について使用したと認めることはできない。

3  結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 大鷹一郎 裁判官 齋藤巌)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例