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知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10030号 判決 2013年7月18日

原告

株式会社ファランクス

訴訟代理人弁護士

江森史麻子

呰真希

被告

特許庁長官

指定代理人

渡邉健司

守屋友宏

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2012-18863号事件について平成24年12月11日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,後記1の商標登録出願に対する後記2のとおりの手続において,原告の拒絶査定不服審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙とおり)には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求めた事案である。

1  本願商標

原告は,平成23年8月22日,別紙本願商標目録記載の構成からなる本願商標について,第25類「フットサル用の運動用特殊衣服,フットサル用の運動用特殊靴」を指定商品として,商標登録出願をした(甲1)。

file_2.jpgSAMURAI JAPAN Tudoroarea fut2  特許庁における手続の経緯

原告は,平成24年5月30日付けで拒絶査定を受けたので,同年9月10日,これに対する不服の審判を請求した。

特許庁は,これを不服2012-18864号事件として審理したが,同年12月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,平成25年1月7日,原告に送達された。

3  本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,要するに,本願商標と別紙引用商標目録記載の商標(以下「引用商標」という。)とは,外観の差異が称呼及び観念の共通性を凌駕するものとはいい難い,相紛らわしい類似の商標であって,本願商標の指定商品が引用商標の指定商品に含まれるから,本願商標は商標法4条1項11号に該当するというものである。

4  取消事由

本願商標と引用商標の類否判断の誤り

第3当事者の主張

1  原告の主張

(1)  商標の構成部分の一部を抽出して類否判断をした誤り

ア 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などの特別な事情がない限り,商標の構成部分の一部を抽出して類否判断をすることは許されないというべきである(最高裁判所平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

しかるところ,本願商標は,細丸ゴシック体風の英字で「SAMURAI JAPAN」と「Tudo:para futsal」との上下2段の文字部分から構成された商標であるが,上段・下段とも使用されている書体が同じで,上段・下段の幅がほぼ同じであり,全体として,まとまりよく一体のものであるから,本願商標の上段の「SAMURAI JAPAN」の文字部分は,本願商標の指定商品との関係において,取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。

また,本願商標の下段の「Tudo:para futsal」の文字部分のうち,「Tudo」の語は,ポルトガル語で「すべて」,「あらゆるものごと」を,「parafutsal」の語は,ポルトガル語で「フットサルのために」を意味するから,「Tudo:para futsal」の文字部分から「フットサルのためのあらゆるものごと」という観念が生じるものであり,「SAMURAI JAPAN」の文字部分以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合にも当たらない。

したがって,本願商標について,上記特別な事情が存在しないのであるから,本願商標の構成全体と引用商標との類否判断を行うべきであるのに,本件審決には,本願商標の構成部分の一部である「SAMURAI JAPAN」の文字部分のみを抽出し,引用商標と比較し,商標そのものの類否判断を行った誤りがある。

イ この点に関し,本件審決は,本願商標について,上段の「SAMURAI JAPAN」の文字は,下段の「Tudo:para futsal」の文字よりも顕著に表されており,上下の文字は視覚上分離して看取されること,その上で,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際にあっては,取引者,需要者は,その構成中に顕著に表され印象に残る「SAMURAI JAPAN」の文字部分に着目し,当該文字部分が取引に資することも決して少なくないことを本願商標から当該文字部分のみを抽出した理由として挙げる。

しかしながら,前述したとおり,本願商標は,上段・下段とも全体として,まとまりよく一体のものであり,視覚上も一体不可分のものとして看取されるものである。

また,原告は,平成17年から,フットサル分野において「SAMURAI JAPAN」ブランドを立ち上げてフットサル用品の商品を販売していること,「日本ホッケー協会」も,「さむらい JAPAN」という商標の商標登録をしていることなどからすると,「SAMURAI JAPAN」あるいは「サムライジャパン」は,スポーツ業界では,親しみやすいことばであるといえる。加えて,「Google」の検索エンジンにおいて,「SAMURAI JAPAN」のキーワードで検索すると,1番目に原告のウェブサイトである「フットサルショップSAMURAI JAPAN」が,2番目に引用商標に関する検索結果が表示され,また,「サムライジャパン」のキーワードで検索すると,1番目に米国メジャーリーグベースボール(略称「MLB」)機構とMLB選手会が主催する野球の国際大会である「ワールド・ベースボール・クラシック」(World Baseball Classic。略称「WBC」)に関する結果が,2番目に原告の上記ウェブサイトが表示され,このほか,「侍ジャパン(野球日本代表)公式サイト」や,「男子日本代表チーム/JHA日本ホッケー協会」(サムライジャパン)などが表示されることからすると,需要者にとって,「SAMURAI JAPAN」あるいは「サムライジャパン」だけでは,野球なのか,ホッケーなのか,フットサルなのかを区別することができず,識別力が弱いといえるから,本願商標の構成中,「SAMURAI JAPAN」の文字部分も識別力が弱いというべきである。

さらには,本願商標の指定商品は,基本的にはインターネットによる通信販売又はフットサル大会の会場で販売されるものであり,その取引は,簡易,迅速を尊ぶ取引に該当しないし,仮に本件審決が述べるように「簡易,迅速を尊ぶ取引の実際」があったとしても,簡易,迅速を尊ぶなら,むしろ,商品に付された商標の外観の違いが最も影響が大きいはずであり,「SAMURAI JAPAN」の文字部分のみに着目すべき合理的な理由はない。

したがって,本件審決が挙げる諸点は,理由がない。

(2)  本願商標を引用商標の類似の商標と判断した誤り

ア 外観

本願商標は,前述のとおり,細丸ゴシック体風の英字で「SAMURAI JAPAN」と「Tudo:para futsal」との上下2段の文字部分から構成された商標である。

一方,引用商標は,左側に着物・袴を着用し,手に野球のバットを持った人物のシルエットが書かれ,その右横に,ひげ飾りのある書体による勇ましさを印象づけた「SAMuRAI」と「JAPAN」との2段書きがあり,「JAPAN」の右に文字より若干大きめの日の丸を連想させる赤い丸が描かれている。左側の人物のシルエットは,商標全体の半分程度の大きさである。

引用商標は,一見して,日の丸の赤い色が目立ち,左側の人物のシルエットが印象的であるのに対し,本願商標は,細丸ゴシック体のアルファベットのみで,上下2段に書した商標であり,文字数も28文字と,引用商標の12文字に対し2.33倍となっており,本願商標と引用商標は,外観上,明らかに相違するものである。

イ 観念

本願商標は,「SAMURAI JAPAN」の文字部分から「日本の侍」という観念が生じることに加え,「Tudo:para futsal」の文字部分から「フットサルのためのあらゆるものごと」という観念が生じる。

そして,本願商標の「SAMURAI JAPAN」の文字部分とその下の「futsal」の文字部分から,原告が平成17年から販売を開始していたフットサル用品「SAMURAI JAPAN」ブランドのユニフォーム又はシューズを想起させること,本願商標の「Tudo:para futsal」の文字部分から,「フットサルのためのあらゆるものごと」という観念が生じることからすると,本願商標から,伝統あるフットサル用品「SAMURAI JAPAN」ブランドが,「フットサルのためのあらゆるものごとを提供するSAMURAI JAPAN」,「フットサルのためにすべてをかけるSAMURAI JAPAN」というような観念も生じる。

一方,引用商標は,文字部分は「SAMuRAI JAPAN」のみからなり,図として左側に商標全体の半分程度の大きさで,着物・袴を着用した武士らしき人物のシルエットが,「JAPAN」の右横に日の丸が配置されており,引用商標から「日本の侍」との観念が生じる。また,左側の人物のシルエットが野球のバットを持っていることから,引用商標は,野球に関連する商標であると誰にでも連想させ,「野球」とい う観念も生じる(後記のとおり,引用商標は,WBCにおける日本代表チームを表すマークとして周知である。)。

以上のとおり,本願商標と引用商標は,「日本の侍」という観念が生じる点で共通するものの,本願商標は「フットサル」,引用商標は「野球」といった全く異なるスポーツの観念をも生じさせるのであるから,両者は観念においても全く異なる。

ウ 称呼

本願商標から,「サムライ ジャパン トゥード パラ フットサル」,「サムライ ジャパン」,「サムライ」,「トゥード パラ フットサル」,「トゥード」,「パラ フットサル」などの称呼が生じる。

一方,引用商標から,「サムライ ジャパン」,「サムライ」の称呼が生じる。

したがって,本願商標と引用商標は,「サムライジャパン」,「サムライ」という限度で称呼が共通する。

エ 取引の実情

(ア) 原告は,平成17年から,自社のウェブサイトにおいてオンラインショップ を開設するとともに,「楽天市場」のウェブサイトにも出店し,フットサル用品を専門的に取り扱い,フットサル愛好家向けに本願商標を付した商品を直接販売している。上記商品の需要者は,老若男女のフットサル愛好家であり,商品の購入に際しては,上記ウェブサイトに直接アクセスして,注文している。

(イ) 一方,引用商標の現在の権利者である一般社団法人日本野球機構(以下「日本野球機構」という。)は,株式会社電通(以下「電通」という。)が有していた引用商標を譲り受けたものである。電通が平成20年10月29日に引用商標の商標登録出願をしたのは,WBCに関連する商品を,野球ファンに対して販売するためであり,引用商標が付された商品の需要者は,野球ファンである。

WBCは,平成18年に第1回大会が開催された後,平成21年3月に第2回大会が開催されたが,引用商標は,専ら第2回大会の日本代表チームを表すマークとしてデザインされた。引用商標の商標登録出願後の平成20年11月12日,日本代表チームの正式な愛称を「SAMURAI JAPAN」とすることが,引用商標とともに,発表された。その後,引用商標は,第2回大会の際に日本代表チームのマークとして用いられたほか,平成25年に開催された第3回大会においても,日本代表チームのマークとして用いられ,WBCにおける日本代表チームを表すものとして,既に周知となっている。

加えて,現在の引用商標の権利者である日本野球機構の法人の目的は,野球に関するものに限定され,その目的を達成するために行われる事業は全て野球に関する事項であること(甲10)からすると,日本野球機構が野球以外のスポーツに関連する事業を営むことは,その目的の範囲外の行為として無効(民法34条)となるから,引用商標が,野球以外のスポーツに関連する事業に用いられることはあり得ない。

(ウ) このように,①本願商標と引用商標は,フットサルのユニフォーム又はシューズと野球に関連する商品という全く違うスポーツに関するものであって,本願商標が付された商品を購入する需要者と引用商標が付された商品を購入する需要者が全く異なり,しかも,本願商標が付された商品を購入する需要者は,インターネットにおいて 上記二つのウェブサイトのいずれかにアクセスして通信販売の形でこれを購入することになるが,引用商標が付された商品を購入する需要者は,少なくとも,フットサル愛好家向け専門のネットショップにおいてこれを購入しようとする可能性は全くない,②引用商標はWBCにおける日本代表チームを表すマークとして周知性を獲得している上,引用商標の商標権者である日本野球機構が野球以外のスポーツに関連する事業を行うことは,その目的の範囲外の行為として無効となることからすると,引用商標が野球以外のスポーツに使用されることは今後もあり得ない,という取引の実情がある。

オ 小括

以上のように,本願商標と引用商標とは,「日本の侍」という観念及び「サムライジャパン」という称呼が生じる点では共通するものの,それを凌駕する外観上の大きな相違があり,しかも,本願商標からは「フットサル」,引用商標からは「野球」といった全く異なるスポーツの観念をも生じさせ,本願商標からは「サムライジャパントゥードパラフットサル」などの称呼をも生じさせる点で,観念及び称呼の点においても異なるものであり,さらに,前記エの取引の実情を考慮すると,需要者において,本願商標及び引用商標が使用された商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるものとはいえないから,本願商標は引用商標と類似していない。

したがって,本願商標が引用商標と類似の商標であるとした本件審決の判断は誤りである。

2  被告の主張

(1)  本願商標について

本願商標における「SAMURAI JAPAN」の文字部分と「Tudo:para futsal」の文字部分は,容易に分離して観察され,本願商標は,一見して,「SAMURAI JAPAN」と「Tudo:para futsal」の二つの文字部分から構成されると看取し得るものといえる。また,上段に表された「SAMURAI JAPAN」の文字と下段に表された「Tudo:para futsal」の文字との観念上の結びつきは,認められない。

そして,本願商標の構成中,「SAMURAI JAPAN」の文字は,比較的着目されやすい上段において,全て大文字で,1文字1文字が大きく,太くかつ顕著に表されており,また,「SAMURAI JAPAN」は,読みやすいものであるし,極めて親しまれた語である「SAMURAI」及び「JAPAN」から構成されているから,「日本の侍」の意味合いが容易に理解される。

他方で,本願商標の構成中,「Tudo:para futsal」の文字は,比較的着目され難い下段において,最初の1文字を除き小文字で表されており,1文字1文字が小さく,細くかつ薄く表されており,また,「Tudo:para futsal」は,「SAMURAI JAPAN」に比べると,「Tudo」や「para」の語が広く一般に親しまれているとはいえないことも相俟って,親しまれた語から構成されるものとはいい難く,ここから直ちに何らかの意味合いが理解されるとはいえない。

そうすると,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際にあっては,本願商標に接する取引者,需要者は,本願商標の構成中,上段に大きく,太い文字で顕著に表されることにより,印象に残り,かつ,読みやすく親しまれた語である「SAMURAI JAPAN」の文字に着目して,当該文字より生ずる称呼及び観念をもって,取引に資することも決して少なくないと判断すべきである。

この点に関し,原告は,「SAMURAI JAPAN」あるいは「サムライジャパン」の語は識別力が弱いから,「SAMURAI JAPAN」の文字部分も識別力が弱い旨主張する。

しかしながら,識別力は,自他商品を識別する機能のことであるから,識別力について検討するのであれば,指定商品ごとに,当該商標が多くの事業者によって使用されている事実を示して,自他商品を識別することが困難であることをいう必要があるところ,原告提出の証拠からは,「SAMURAI JAPAN」,「サムライジャパン」の語が本願商標の指定商品について多くの事業者によって使用されているとまではいえないから,原告の上記主張は理由がない。

以上によれば,本願商標は,「SAMURAI JAPAN」の文字部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものといえるから,本願商標と引用商標との類否判断の際には,本願商標のうち「SAMURAI JAPAN」の文字部分だけを引用商標と比較することも,許されるというべきである。

(2)  引用商標について

引用商標の構成中の図形と文字とは,容易に分離して観察され得るものといえる。また,引用商標における「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分は,読みやすいものであり,極めて親しまれた語でもあるのに対し,図形と赤色の円は,これらのみでは,いかなる絵図が表されているかを容易に把握されるとまではいい難い。

そうすると,引用商標に接する取引者,需要者は,「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分に着目し,これより生ずる称呼及び観念をもって取引に資する場合も決して少なくないと判断すべきである。

以上によれば,引用商標は,「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものといえるから,本願商標と引用商標との類否判断の際には,引用商標のうち「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分だけを本願商標と比較することも,許されるというべきである。

(3)  本願商標と引用商標の類否について

ア 本願商標と引用商標は,外観において差異を有するといえるが,いずれもその構成中に,同じ綴り字からなる「SAMURAI JAPAN」又は「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字を有してなるものである。

また,本願商標と引用商標は,「サムライジャパン」の称呼,「日本の侍」の観念が生じる点で共通する。

イ 本願商標の指定商品「フットサル用の運動用特殊衣服,フットサル用の運動用特殊靴」と,引用商標の指定商品中「運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く)」は,いずれも,インターネット上で購入できるものであり,格別に高価なものともいい難く,これらの商品は,一般的な需要者も,インターネット等を通じて,比較的気軽に購入し得るものというのが自然であり,簡易かつ迅速に取引が行われていると考えられる。このような取引の実際にあっては,商標に接する取引者,需要者は,その構成中に顕著に表され印象に残り,かつ,読みやすく親しまれた語に着目して,当該文字より生ずる称呼及び観念をもって,取引に資することも決して少なくないといえる。

そして,前述のとおり,本願商標に接する取引者,需要者は,その構成中,印象に残り,かつ,読みやすく親しまれた語である「SAMURAI JAPAN」の文字部分に着目し,また,引用商標に接する取引者,需要者は,その構成中,「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分に着目するというべきである。現に,本願商標は「SAMURAI JAPANのロゴ」,引用商標は「侍ジャパン」と指称されていることがうかがわれる。

この点に関し,原告は,本願商標は,フットサル用の商標であるのに対し,引用商標は,野球関連の商標であって,野球関連以外の商品・役務に使用されることはないなどの取引の実情がある旨主張する。

しかしながら,引用商標の指定商品は,本願商標の指定商品を包含する「…運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く)…」であって,野球用に限定されていないから,引用商標が,野球関連以外の商品・役務に使用されることはないということはできないものであり,原告の主張は,理由がない。

ウ 以上のとおり,本願商標と引用商標は,「サムライジャパン」の称呼及び「日本の侍」の観念が生じる点で共通するのみならず,外観において,いずれも同じ綴り字からなる「SAMURAI JAPAN」の文字又は「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字を有する点においても共通性を有すること,取引の実情を考慮すれば,本願商標と引用商標は,同一又は類似の商品に使用されるときは,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから,互いに類似の商標というべきである。

したがって,本願商標は,引用商標に類似する商標であり,かつ,引用商標の指定商品と同一の指定商品について使用するものであるから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。

第4当裁判所の判断

1  本願商標及び引用商標について

(1)  本願商標について

本願商標は,「SAMURAI JAPAN」の欧文字と「Tudo:para futsal」の欧文字とを上下2段に書してなる結合商標である。

そして,本願商標の構成中,上段の「SAMURAI JAPAN」の文字部分は,全て大文字であって,下段の「Tudo:para futsal」の文字部分と比べて,1文字1文字が大きく,太く表されており,外観上,下段の「Tudo:para futsal」の文字部分と明瞭に区別することができる。

また,「SAMURAI」,「JAPAN」の語が広く一般に使用されており,「SAMURAI JAPAN」の文字部分から,「サムライジャパン」の称呼及び「日本の侍」の観念が自然に生じるのに対し,「tudo」,「para」の語は,いずれもポルトガル語であって(甲3),「SAMURAI」,「JAPAN」の語のように広く一般に使用されているものとはいえず,「Tudo:para futsal」の文字部分から,「トゥードパラフットサル」の称呼や,「フットサルのためのあらゆるものごと」といった観念が自然に生じるものとはいい難い。

以上によると,本願商標を構成する「SAMURAI JAPAN」の文字部分と「Tudo:para futsal」の文字部分とは,それぞれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず,本願商標においては,「SAMURAI JAPAN」の文字部分が取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものといえるから,これを要部と認めるのが相当である。

この点に関し,原告は,本願商標は,上段・下段とも使用されている書体が同じで,上段・下段の幅がほぼ同じであり,全体として,まとまりよく一体のものであり,視覚上も一体不可分のものとして看取されるものであること,「SAMURAI JAPAN」あるいは「サムライジャパン」の語は,スポーツ業界では親しみやすいことばであって,識別力が弱く,本願商標の上段の「SAMURAI JAPAN」の文字部分も識別力が弱いことからすると,上記文字部分は,本願商標の指定商品との関係において,取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではないなどと主張する。

しかしながら,前記のとおり,本願商標の構成中,上段の「SAMURAI JAPAN」の文字部分と下段の「Tudo:para futsal」の文字部分とは明瞭に区別することができるものであって,これらが視覚上一体不可分のものであるとはいえないし,また,「SAMURAI JAPAN」の文字部分は取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものといえる。なお,商品の出所識別標識としての機能は,当該商品の指定商品との関係において検討すべきであるところ,「SAMURAI JAPAN」あるいは「サムライジャパン」の語が,スポーツ業界では親しみやすいことばであるからといって,本願商標の指定商品(「フットサル用の運動用特殊衣服,フットサル用の運動用特殊靴」)に使用された場合に,商品の出所識別標識としての機能が弱いということはできない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(2)  引用商標について

引用商標は,別紙引用商標目録記載のとおり,袴姿の人物が細長い棒状のものを片手で持っているとみられるシルエット図形(以下,単に「シルエット図形」という。)を表し,その右に,「SAMuRAI」の欧文字と「JAPAN」の欧文字及び赤色の円とを2段に表してなる結合商標である。

そして,引用商標の構成中,「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分とシルエット図形及び赤色の円とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。

また,前記(1)のとおり,「SAMURAI」,「JAPAN」の語が広く一般に使用されており,「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分から,「サムライジャパン」の称呼及び「日本の侍」の観念が自然に生じるものといえる一方,シルエット図形及び赤色の円からは特定の称呼や観念が直ちに生じるものではない。もっとも,「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分と相俟って,シルエット図形から「侍」を,赤色の円から「日の丸」をそれぞれ連想させるものとはいえるが,これらは,上記文字部分から生じる「日本の侍」の観念を補充的に説明しているとの印象を与えるものにすぎない。

以上によると,引用商標においては,全体の構成中「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分が商品の出所識別標識として取引,需要者の注意を強くひきやすい部分であり,これを要部と認めるのが相当である。

2  本願商標と引用商標の類否について

(1)  本願商標の要部である「SAMURAI JAPAN」の文字部分と引用商標の要部である「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分とは,「SAMURAI JAPAN」の文字部分が1段で表されているのに対し,「SAMuRAI」及び「JAPAN」の文字部分が上下2段で表されている点で,外観が相違するものといえる。

しかしながら,本願商標の要部及び引用商標の要部を構成する各文字が外観上共通性を有し,しかも,「サムライジャパン」の称呼及び「日本の侍」の観念という同一の称呼及び観念が生じるものである。

(2)  そして,本願商標の指定商品は「フットサル用の運動用特殊衣服,フットサル用の運動用特殊靴」であるが,これらの商品の需要者がフットサルの愛好家に限られるとの取引の実情があることを認めるに足りる証拠はないから,フットサルの愛好家以外のスポーツに興味を持つ一般的な消費者なども,インターネット上のウェブサイト等を通じてこれらの商品を購入することがあり得るというべきである。

一方,引用商標の指定商品である「運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く)」の需要者が野球ファンに限られるとの取引の実情があることを認めるに足りる証拠はない。

この点に関し,原告は,①本願商標が付された商品を購入する需要者はフットサルの愛好家であるのに対し,引用商標が付された商品を購入する需要者は野球ファンであって,需要者が全く異なり,しかも,本願商標が付された商品は,フットサル用品を専門的に取り扱う原告が自ら運営するウェブサイト又は出店する「楽天市場」のウェブサイトのいずれかにアクセスして通信販売の形でこれを購入することになるが,引用商標が付された商品を購入する需要者は,少なくとも,フットサル愛好家向け専門のネットショップにおいてこれを購入しようとする可能性は全くない,②引用商標はWBCにおける日本代表チームを表すマークとして周知性を獲得している上,引用商標の商標権者である日本野球機構が野球以外のスポーツに関連する事業を行うことは,その目的の範囲外の行為として無効となることからすると,引用商標が野球以外のスポーツに使用されることは今後もあり得ない,という取引の実情がある旨主張する。

しかしながら,前記のとおり,本願商標が付された商品及び引用商標が付された商品の需要者が全く異なることを認めるに足りる証拠はなく,フットサルの愛好家以外のスポーツに興味を持つ一般的な消費者なども,本願商標の指定商品をウェブサイト等を通じて購入することがあり得るというべきであるから,原告の上記①の主張は理由がない。

次に,証拠(甲6,7,9,11の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,「SAMURAI JAPAN」,「侍ジャパン」の語が,野球の国際大会であるWBC(「ワールド・ベースボール・クラシック」)の第2回大会(平成21年3月開催)及び第3回大会(平成25年3月開催)に出場した日本代表チームの愛称として用いられてきたことは周知であり,また,少なくとも野球の愛好家において引用商標が上記日本代表チームのロゴとして用いられてきたことは周知であるものと認められる。しかし,このことは,引用商標が,別紙引用商標目録記載の指定商品中,野球に関連する指定商品に限定されて使用されることに当然に結びつくものではなく,証拠(乙16ないし19)及び弁論の全趣旨によれば,現に,日本野球機構は,野球と直接関連性のない「印鑑」(ホーム印),「箸」等の商品に引用商標を使用して販売していることが認められる。また,日本野球機構は,平成23年3月1日に設立された一般社団法人であるところ,その定款には,「この法人は,わが国における野球水準を高め,野球が社会の文化的公共財であることを認識し,これを普及して国民生活の明朗化と文化的教養の向上をはかるとともに,野球事業の推進を通してスポーツの発展に寄与し,日本の繁栄と国際親善に貢献すること」を目的とすること,その目的を達成するために行う事業として,「(1)野球試合日程の編成および審判」,「(2)野球試合の主催および開催支援」,「(3)野球規則の制定および野球技術の研究」など野球に関するもののほかに,「(10)野球または野球をふくむスポーツの振興またはその援助を目的とする公益的団体への資金的援助」,さらには,「(13)その他目的を達成するために必要な事業」が記載されており(甲10),日本野球機構がその経済的基盤を確立するために野球に関連する商品以外の商品を販売することも,「その他目的を達成するために必要な事業」に該当するものといえるから,その目的の範囲内の行為であるものと解される。

したがって,原告の上記②の主張も理由がない。

(3)  以上によれば,本願商標の要部と引用商標の要部は,外観において相違する点があるものの,称呼及び観念が同一であること,本願商標を使用する商品と引用商標を使用する商品の需要者が全く異なるとの取引の実情も認められないことなどからすれば,本願商標及び引用商標が本願商標の指定商品に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるものといえるから,本願商標と引用商標とは全体として類似しているものと認められる。

したがって,本願商標が引用商標に類似する商標であるとした本件審決の判断に誤りはない。

3  結論

以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 大鷹一郎 裁判官 齋藤巌)

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