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知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10043号 判決 2013年12月18日

原告

新日本製薬株式会社

訴訟代理人弁護士

田中雅敏

宇加治恭子

髙山大地

鶴利絵

柏田剛介

生島一哉

新里浩樹

浦川雄基

小栁美佳

池辺健太

訴訟代理人弁理士

有吉修一朗

森田靖之

被告

株式会社ボディワーク

ホールディングス

訴訟代理人弁理士

山田文雄

山田洋資

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  特許庁が取消2012-300347号事件について平成25年1月9日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯等(特に証拠を摘示しない限り,当事者間に争いがない。)

(1)  被告は,別紙目録1記載1の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有している。

被告の子会社である株式会社ボディワーク(以下「ボディワーク社」という。)は,平成24年4月当時,自社のホームページ

(http://www.bodywork.co.jp/。以下「本件ホームページ」という。)において,自社の通信販売用ウェブサイト(http://www.raffineclub.jp/。以下「本件通販サイト」という。)を表示するためのリンク用看板として,別紙目録1記載2の構成から成るバナー広告(以下「本件バナー広告」という。)を表示していた(甲5)。

(2)  原告は,別紙目録2記載1ないし3の各商標権(以下,その登録商標を順次「引用商標1」,「引用商標2」,「引用商標3」といい,これらを総称して「引用商標」という。)を有している。

原告は,平成24年4月25日,特許庁に対し,本件商標の登録の取消しを求める審判の請求をし,特許庁は,この審判を,取消2012-300347号事件として審理した結果,平成25年1月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本を,同月18日,原告に送達した。

2  審決の理由

別紙審決書写しのとおりであり,要するに,ボディワーク社は本件商標の通常使用権者であり,本件商標と本件バナー広告とは類似しており,本件バナー広告は,本件商標の指定商品に含まれる商品と同一の商品に使用されているものの,本件バナー広告の使用によっては,原告の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたということはできないから,本件商標の登録は商標法53条1項の規定により取り消すべきでない,というものである。

第3原告の主張

ボディワーク社による本件バナー広告の使用は,以下のとおり,原告の販売する化粧品の「RAffINE」ブランドと出所の混同を生じるおそれがあり,この点についての判断を誤った審決は取り消されるべきである。

1  本件バナー広告の外観

本件バナー広告は,1段目に「Raffine」のアルファベット文字が配置され,2段目に「Style」のアルファベット文字と円形図形が配置され,3段目に「ラフィネの通販サイト」の文字が配置されている。

このように,「Raffine」と「Style」の文字部分が二段書きされていること,1段目の頭文字「R」及び2段目の頭文字「S」がそれぞれ大文字で,その余の文字が小文字で表記されており,「Raffine」と「Style」とは一連一体ではなくそれぞれ独立した単語として捉えられることからすれば,「Raffine」と「Style」とは,外観において分離されている。

そして,2段目の文字部分は,単に「スタイル,型,生活様式」等を意味する名詞であり,「○○Style」又は「○○スタイル」の表記に触れた看者は,「Style」を除いた「○○」の部分に注目し,「○○」の部分が有するブランドのイメージ,関連する商品やサービスを強く想起することが極めて一般的であることからして,それ自体識別力がないかあるいは非常に弱い一般的な文字であって,他の単語と組み合わせて使用された場合,「○○のスタイル」といった具合の意味に把握されるにすぎず,「○○」の部分が看者に強い印象を与える要部と把握される。

また,「Raffine」と「Style」を一連一体に捉えた「RaffineStyle」なる単語は特定の意味を有さない造語として認識される一方,「Raffine」はフランス語,「Style」は英語としてよく知られた単語であり,フランス語と英語の単語を組み合わせた形で一連一体のものとして把握することは観念上もあり得ない。

さらに,3段目の「ラフィネの通販サイト」の記載について「Style」や「スタイル」の文字を伴わず「ラフィネ」の文字部分のみが使用されていること,「通販サイト」の文字部分がサービスの質を表示するにすぎないことを考慮すると,一般需要者が「Raffine」及び「Style」の文字部分に触れた場合,1段目の「Raffine」の文字部分にのみ着目することが十分に考えられる。

以上によれば,「Raffine」及び「Style」の文字部分は,外観上まとまりよく表されたものとはいえず,本件バナー広告の要部は,1段目の「Raffine」の文字部分と捉えられ,一般需要者に,原告の業務に係る商品であるとの出所の混同を生じるおそれが十分に存在する。

2  本件バナー広告の意味及び使用状況

(1)  「○○の通販サイト」,「○○の通信販売」等の表記は,「○○」のブランドと関係性のある商品が掲載された形で使用されることがごく一般的であり,「○○の通販サイト」の表記が存在する場合には,「○○」のブランドと関係のある具体的な商品が取り扱われていることを需要者が期待するのが自然である。

本件ホームページや本件通販サイトには,ボディワーク社に係るリラクゼーション分野とは直接的に関係のない商品が掲載され,本件通販サイトで販売を行っていることからすれば,本件バナー広告における「ラフィネ」の文字部分が,ボディワーク社に係る施設の店舗名であると容易に看取されるとは考えられない。

これらに加え,後述のとおり,原告に係る「RAffINE」ブランドが需要者に広く知られたものであることからすれば,本件バナー広告は,「店舗(ラフィネ)が運営する通販サイト」の意味合いとして理解されるものではなく,一般需要者は「ラフィネ」の文字部分から,原告の「RAffINE」ブランドの化粧品を取り扱う通販サイトと認識し,出所の混同を生じるおそれがある。

(2)  本件ホームページや本件通販サイトでは「Raffine」及び「ラフィネ」の文字が高頻度で現れている画面構成となっていることから,本件バナー広告に触れた一般需要者が,「Raffine」の部分のみを認識し,通販サイトにおいて出所の混同を生じる可能性が十分に存在する。また,本件通販サイトに掲載された化粧品を見ると,そのブランドに統一性はなく,また,製品名のみが記載された商品もあり,どのメーカーの商品であるのか本件通販サイトの表示からは不明であるから,本件通販サイトを訪れた一般需要者が,本件バナー広告の存在を根拠に,同サイト上で原告の「RAffINE」ブランドの化粧品を探すことも十分に考えられる。

よって,本件バナー広告の使用状況に鑑みても,原告に係る「RAffINE」ブランドの化粧品と出所の混同を生じるおそれがあると判断されるべきである。

3  原告の化粧品ブランドの周知性

(1)  原告の化粧品ブランド「RAffINE」の商品及び販売実績

原告は,化粧品ブランド「RAffINE」を冠する製品群を「ラフィネシリーズ」として継続的に販売してきており,これら「RAffINE」を冠する製品群はモイスチャー化粧品にとどまらず,その種類はスキンケア分野及びメイクアップ分野を中心に幅広く展開されている。また,原告の製品には,その容器にやや図案化した「RAffINE」の表記がされており,一般消費者や化粧品関連の取引者等多数の需要者が,これら製品の使用や取引に際し,「RAffINE」及び「ラフィネ」なる表記を目にしており,原告の化粧品ブランドの知名度や名声の向上に貢献している。

原告の売上実績を見ると,2007年の総売上金額は109億円だったのが,その後年々増加し,2011年には約2倍の207億円に達しているところ,うち化粧品の売上実績は,2007年に59億円で総売上金額の約50%程度であったのが,2011年以降は,年160億円以上を計上し,総売上金額に占める割合は80%以上を記録している。このような原告の市場における成長は,化粧品事業が担ってきたのであり,化粧品の売上げの大部分は,化粧品事業において中心的な位置づけである「ラフィネシリーズ」の売上げによるものであった。

これらの原告の売上実績及び売上げに占める「RAffINE」ブランド製品群の寄与率を考慮すれば,「RAffINE」ブランドは,原告に係る化粧品を示すものとして,需要者に対して広く認識されているといえる。

(2)  原告の「RAffINE」ブランドに関する宣伝広告活動

原告は,化粧品ブランド「RAffINE」に関して,膨大な宣伝広告費をかけて,全国紙,雑誌等への広告の掲載やチラシ広告の配布,インフォマーシャルや番組間CMなどのテレビCMの実施,ウェブサイト上の広告や通販サイトにおける販売,各種ノベルティグッズの配布,商品カタログの発送,スポーツイベントへの協賛や地域行事への参加による広報活動などを通じて積極的な宣伝広告活動を行い,「RAffINE」や「ラフィネ」ブランドの認知度やイメージの向上に努めてきた。

さらに,原告は,2012年4月時点において,日本全国に17店舗の販売店を展開し,「RAffINE」を冠した化粧品を販売している。

これらの原告の営業努力の結果,「化粧品マーケティング要覧2011年No.1」(株式会社富士経済)によると,化粧品ブランド「RAffINE」ないしその製品は,化粧品モイスチャー分野にて,2008年から2011年にかけて,メーカー別シェアで3位,ブランド別シェアで2位の位置を占めるに至っているなど,そのブランドの認知度は高まっている。

(3)  以上のとおり,原告は化粧品に関して「RAffINE」及び「ラフィネ」の表示を用いた宣伝広告活動を継続的かつ広範囲に行っており,これを見た需要者層に対し,原告に係る「RAffINE」ブランドの印象を強く与えている。よって,「RAffINE」ブランドは化粧品の限られた分野だけでなく,化粧品分野全体で,需要者に十分に広く認識されたものといえるから,ボディワーク社が本件バナー広告を使用した場合に,需要者が出所の混同を生じるおそれは十分に存在する。

特に,原告は,商品カタログの名称として,「RAffINE STYLE」の名称を過去に使用し,その発行部数は累計で930万部以上に及んでいた。このように,原告に係る「RAffINE」ブランドが「Style」を付して使用されていたことから,商品カタログを見たことのある一般需要者が,本件バナー広告に触れた場合には,より一層,混同を生じるおそれが高くなるといえる。

また,原告が通販サイトによりブランドの販売を拡大してきた経緯からすれば,一般需要者に対しても,通販サイトと「RAffINE」ブランドの化粧品との間の関連性が印象付けられているといえる。この状況下で,本件バナー広告を通販サイトに使用した場合,一般需要者が原告に係る「RAffINE」又は「ラフィネ」ブランドの化粧品に何らかの関連があるものと認識する可能性があり,さらに,通販サイトに化粧品が取り扱われていた場合には,出所の混同が生じる可能性はより一層強まる。

4  出所の混同が生じている事実

原告は,「RAffINE」ブランドの化粧品の注文を受けるコールセンターにおいて,ボディワーク社に係るリラクゼーション施設と原告に係る化粧品との関連の有無について問合せを受けることがある。このように,ボディワーク社のリラクゼーション施設と原告のブランド名とが誤認されている状況がある中で,ボディワーク社が本件バナー広告を使用した場合には,一般需要者が,原告に係る「RAffINE」又は「ラフィネ」ブランドの化粧品に何らかの関連があるものと認識する可能性は十分に存在する。

第4被告の主張

ボディワーク社による本件バナー広告の使用により,原告の化粧品ブランド「RAffINE」と出所の混同を生じる余地はなく,審決の判断に誤りはない。

1  本件バナー広告と引用商標との非類似性

仮に本件バナー広告が本件商標の使用であるとしても,本件バナー広告と引用商標とは類似しない。

本件バナー広告の1段目と2段目は,全体としてまとまりよく配置され,一体的に看取できるから,これから生じる称呼は「ラフィネスタイル」とするのが常識的であり,「Raffine」にのみ注目して「ラフィネ」と称呼されることはほとんどないというべきである。よって,称呼上,引用商標とは非類似である。

「Raffine」はフランス語で「上品な,洗練された」の意味であり,「Style」は英語で「表現方法,生活様式,暮らし方」などの意味であるから,両者が一体となった「Raffine Style」では,「上品な,又は洗練された表現,生活様式,暮らし方」を暗示させ,生活全体のスタイルに資するものであるかのような一定の観念を看者に抱かせるものである。これに対し,引用商標のように単なる「RAffINE」などの文字だけでは,単に「上品な,洗練された」の意味しかないから,指定商品「化粧品」に使用すれば,「上品な洗練された化粧品」と看者に観念させるにすぎない。

日本国内での通常の需要者や取引者にとっては,たとえ異なる国の言語の単語の組合せであっても,それぞれの意味合いを組み合わせたものが違和感のない統一的な印象を与えるのであれば,一体不可分の造語として認識・把握するものであるから,本件バナー広告の1段目と2段目が全体としてまとまりよく一体的に看取できる以上,これから生じる称呼は「ラフィネスタイル」であり,引用商標を含む原告化粧品ブランド「RAffINE」と相紛れることはなく非類似である。

原告は「○○Style」の表記は,「○○」というブランドと何らかの関係を持った状態で使用され,通常は「Style」を除いた「○○」の部分で識別されると主張する。しかし,「○○」ブランドの商品を販売あるいは紹介するウェブサイトにおいて「○○Style」が用いられるのであれば,「○○」ブランドに関連する記事がある以上,「○○Style」の表記の中で「○○」に注意が向くのは当然のことである。

本件バナー広告では,リラクゼーション施設の店舗「ラフィネ」が運営する通販サイトを意味する「ラフィネの通販サイト」の文字の上部に「Raffine Style」の文字が表記されているから,「Raffine Style」はリラクゼーション施設の店舗「ラフィネ」が運営する通販サイトであると認識させるだけであり,「Raffine Style」から「Raffine」を認識することはあっても,それはリラクゼーション施設の店舗「ラフィネ」であって,原告の化粧品ブランド「RAffINE」ではない。

2  本件バナー広告の意味及び使用状況について

本件バナー広告が表記された本件ホームページでは,リフレクソロジー,ボディケア,マッサージなどのサービスを行っているボディワーク社の展開しているリラクゼーション施設として「Raffine/ラフィネ」を紹介していること,リラクゼーション施設の「ラフィネ」は全国展開しており,リラクゼーションマッサージの分野では広く知られていることに照らせば,本件バナー広告の3段目の「ラフィネの通販サイト」とは,リラクゼーション施設の「ラフィネ」が行っている通販サイトであると直ちに認識し,その通販サイト名は「Raffine Style」であると理解するのが自然であり,原告の化粧品ブランド「RAffINE」と出所を混同するおそれは存在しない。

本件バナー広告のうち「ラフィネ」の文字が独立して認識されるとしても,この「ラフィネ」と本件商標とは非類似であるから,本件バナー広告の使用は本件商標ないしこれに類似する商標の使用とはならない。

本件通販サイトにおいて紹介されている化粧品については,個別に各メーカーや製品名が記載されているから,本件通販サイトで紹介されている化粧品を原告の化粧品「RAffINE」と誤認して購入することはあり得ない。

3  原告の化粧品ブランドの周知性について

原告は,広告宣伝活動によって,化粧品の需要者に化粧品「RAffINE」ブランドが広く認識されていると主張するが,原告が実際に広告宣伝活動や販売活動で使用しており,その結果需要者に広く知られることになると考えられるものは「RAffINE」ではなく「ラフィネパーフェクトワン」ないし「パーフェクトワン」である。「RAffINE」そのものもある程度は認識されていたかもしれないものの,周知性を獲得しているというのは根拠がない。

4  出所の混同が生じている事実について

原告が指摘する一般需要者からの問合せは,マッサージ店の「ラフィネ」との関係を問い合わせるものがほとんどである。被告は,原告が「RAffINE」ブランドを使用するはるか以前の平成12年からラフィネ関連の商標を登録・使用し,その店舗「ラフィネ」を全国展開してきたため,店頭販売がほとんどなく通信販売を主体とする原告の化粧品の通販サイトや広告を見た一般需要者が,ボディワーク社の店舗と関連があるかのように錯覚するのである。

ただし,互いの商品や役務が異なる以上,実際に間違えて商品を購入したり,役務の提供を受けることはなく,現実には出所の混同のおそれはない。

第5当裁判所の判断

当裁判所は,ボディワーク社は本件商標の通常使用権者であり,本件商標と本件バナー広告とは類似しており,本件バナー広告は,本件商標の指定商品に含まれる商品と同一の商品に使用されているものの,ボディワーク社の本件バナー広告の使用は,いわゆる不正使用には該当せず,原告の業務に係る商品と「混同を生ずるものをした」ということはできないから,本件商標の登録は商標法53条1項の規定により取り消すべきでない,と判断する。その理由は次のとおりである。

1  本件バナー広告が本件商標と類似の商標の使用に当たるか。

(1)  被告及びボディワーク社の業務内容

被告は,昭和62年2月18日に設立され,針,灸,あんま,マッサージ,指圧及び柔道整復の治療,全身美容業,美容法の研究並びにその事業の経営指導,美容機器並びに医療機器の販売,化粧品並びに健康食品の販売等を目的とする株式会社である(甲4)。

被告の子会社であるボディワーク社は,平成20年10月1日に設立され,ボディケア(マッサージ療法),フットケア(足底療法)等のリラクセーション施設の運営,管理,健康食品及び健康器具の販売,化粧品の輸入及び製造・販売等を目的とする株式会社であり,リラクゼーション,ボディケア,マッサージなどのボディケアサービスを行う店舗を全国的に複数の箇所で経営している(甲4,弁論の全趣旨)。

被告は,本件商標権及び別紙目録3記載の各商標権を有しており,これらを自社の営業のために使用し,また,ボディワーク社をはじめとするグループ会社に使用許諾し,その営業のために使用させている(甲41,42,43,乙1ないし7(枝番号を含む。))。

(2)  本件バナー広告の構成

本件バナー広告は,別紙目録1記載2のとおり,緑色の長方形の地の1段目に白抜きの「Raffine」の文字が,2段目に白抜きの「Style」の文字と円形図形(縁部に緑色の「WE LOVE HEARTFULRELAXATION」の文字が環状に配置され,中央部に緑色の四つ葉状ないし花弁状の模様がある黄緑色の円形図形(以下「四つ葉マーク」という。)。ただし,上記環状の文字部分は相当に小さい。),及び,その3段目に配置された細い白抜きの枠内に小さな緑色の文字で「ラフィネの通販サイト」と表記されているものから成る。「Raffine」及び「Style」の部分には同じ字体が使用され,「ラフィネの通販サイト」の文字よりかなり大きく表記されているため,本件バナー広告のうち,目を惹く部分は「Raffine」及び「Style」の文字と四つ葉マークである。そして,本件バナー広告は,上記の構成に照らすと,「Raffine」及び「Style」の文字を二段に表記した部分(以下「Raffine/Style」という。)並びに四つ葉マークが,ひとまとまりのものとして,取引者及び需要者に認識されるものであり,「ラフィネの通販サイト」の部分は,緑色の地の細い白枠の中の小さな文字であり,取引者又は需要者にほとんど認識されないか,認識されるとしても,別個のまとまりのものとして認識されるものである。

(3)  本件バナー広告は被告が有する各登録商標のうちのどの登録商標の使用か。

本件バナー広告中の「Raffine/Style」及び四つ葉マークは,①「Raffine/Style」を緑色の文字で二段に表記し,「Style」の文字の右横に四つ葉マークを配した,被告の有する別紙目録3記載10の登録第5494262号の商標権(以下「被告第10商標権」という。)の登録商標(以下「被告第10商標」という。)と,文字が緑色か緑色の地に白抜きの文字かの差異はあるものの,ほぼ同一の構成であり,また,②「Raffine Style」を緑色の文字で一段に表記し,「Raffine」の文字の左横に四つ葉マークを配した本件商標と,文字が緑色か緑色の地に白抜きの文字か及び二段表記か一段表記か,並びに四つ葉マークの位置の差異はあるものの,各文字と四つ葉マークの構成が同一であり,全体として極めて類似している。

そして,本件バナー広告は,ボディワーク社の本件ホームページの最上部に,その左側の表題部の「BODY WORK」との表示の右側に表示されており(甲5),本件バナー広告をクリックすることにより,ボディワーク社の通信販売用ウェブサイトである本件通販サイト(甲6)に導かれる。本件通販サイトに掲載された商品は,「生活雑貨&インテリア」,「ドリンク&フード」,「睡眠&リラックス」,「コスメティック&ビューティー」,「お風呂グッズ」,「アウトドア&スポーツ」,「ラフィネ関連」に分類されており,そのうち「コスメティック&ビューティー」のページには,平成24年4月当時,様々な種類の化粧品が掲載されており,これらの化粧品は,被告第10商標権及び本件商標権の指定商品(第3類)に含まれるものである。

商標法53条1項の不正使用取消請求の対象となる商標権については,本件のように,被告が多数の登録商標を有し,これらをその子会社に許諾してその事業に使用している場合においては,実際に使用されている商標がどの登録商標の使用に当たるかを決定する必要があるところ,同項が「指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用」と規定していることなどからすれば,実際に使用されている商標が登録商標と構成が同一ないし類似であるか,及び実際に使用されている商品ないし役務が登録商標の指定商品ないしは指定役務に含まれるか,あるいはこれに類似であるか否かに基づいて決定すべきである。

本件においては,本件バナー広告中の「Raffine/Style」を緑色の地に白抜き文字で二段に表記し,「Style」の文字の右横に四つ葉マークを配した標章と,最も類似しているもの(ほぼ同一であるといえるもの)は,被告第10商標であり,その次に類似しているものは本件商標である。そして,いずれもその指定商品に第3類「化粧品」を含むものである。

してみると,本件バナー広告中において使用している上記商標は,被告第10商標とほぼ同一の商標であると同時に,本件商標の類似商標でもあるから,本件商標についてみれば,本件バナー広告の使用は本件商標に類似する商標の使用であるということが可能である。

(4)  なお,本件バナー広告中の「ラフィネの通販サイト」は,緑色の地の下欄の白抜きの枠の中に小さな文字で表記されたものであるから,「Raffine/Style」の文字と四つ葉マークの商標とは,一体ではなく別個の商標であると認められる。そして,「ラフィネ」の標章は,被告が有している別紙目録3記載2の登録第4434162号の商標権(「Raffiné ラフィネ」を二段に表記した商標,指定役務第42類(あん摩・マッサージ等))と同目録記載6の登録第5291245号の商標権(「Raffine ラフィネ」を二段に表記した商標,指定役務第36類,第41類(マッサージに関する知識及び技術の教授等),第44類(あん摩・マッサージ等))の各登録商標と「ラフィネ」において同一である。また,本件バナー広告中の「ラフィネの通販サイト」の「ラフィネ」の商標は,マッサージ等のボディケアを業としているボディワーク社の通販サイトであることを表示しているものであると認められるから,これは被告第10商標あるいは本件商標の使用というよりも,被告が有する上記目録記載2及び6の各商標権の登録商標の使用と解するのが合理的である。

2  本件バナー広告の使用は,商標法53条1項の「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」に当たるか。

(1)  原告がその業務に使用している商標の構成及びその使用状況等

ア 原告が有している引用商標の構成は,次のとおりである。

引用商標1は「RAFFINE」の標準文字から成る商標であり,引用商標2は「RAffINE」の標準文字から成る商標である。引用商標3は,別紙目録2記載3のとおり「RAffINE」の文字から成る商標であるが,うち「ff」の部分はそれ以外の部分とは異なり,やや図案化された字体によって表記されている。引用商標の指定商品は,いずれも第3類(化粧品を含む)等である。

なお,引用商標は,その出願日が最も早い引用商標2でも平成22年8月24日であり,いずれも本件商標及び別紙目録3記載7の登録第5364255号の商標権(甲42)の登録商標の出願日である平成22年6月9日よりも遅く出願されており,仮に引用商標と本件商標あるいは上記目録記載7の登録商標と引用商標とが類似であるとすると,引用商標は,本件商標等の登録が取り消されない限り,商標法4条1項11号に該当し,無効理由を有するものとなる。

イ 原告による化粧品の販売状況や引用商標の使用状況について,証拠(甲15,18ないし20,100,108ないし116(以上につき,枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 原告は,引用商標を付した化粧品を「RAffINE」,「ラフィネ」シリーズとして継続的に販売しており,その商品には,モイスチャー化粧品の「RAffINE Perfect One」,「ラフィネパーフェクトワン」,化粧水の「薬用ラフィネ クリアローション」,美容液の「ラフィネ アイケアエッセンス」,クレンジング剤の「ラフィネ ソリッドクレンジング」,乳液の「ラフィネ クリアミルク」,ファンデーションの「ラフィネ パーフェクトBB」や「ラフィネ スキンケアファンデーション」,メイクアップベースの「ラフィネ クリアプロテクトUV」,フェイスパウダーの「ラフィネ クリアベールパウダー」などがある。

これらの原告の製品には,いずれも容器や包装に引用商標3と同一の標章が表示されている。

(イ) 原告は,「ラフィネ」シリーズの化粧品の販売のため,全国17箇所に直営の店舗を有しているほか,自社又は通信販売サイト運営会社の運営するインターネットの通信販売サイトなどでの販売を行い,また,テレビコマーシャルや新聞や雑誌,チラシでの広告を中心とする宣伝活動によって,売上げの拡大に努めている。

株式会社富士経済の発行する「化粧品マーケティング要覧2011No.1」(甲15の5)によれば,原告ないし「ラフィネ」シリーズは,モイスチャー化粧品の分野において,2010年及び2011年(ただし,2011年は見込み実績)にメーカーシェアで第3位(9%前後),ブランドシェアで第2位(8%前後)の販売実績を上げるに至っており,特にジェルタイプのものの販売実績については,3割程度のシェアを占めている。かかる販売実績を上げたことに関しては,オールインワンジェルである「ラフィネ パーフェクトワン」を基幹商品としてテレビコマーシャルやインフォマーシャルを積極的に行っているほか,規模は小さいものの直営店舗を展開して通信販売以外でも顧客との接点を設けていることで需要の取り込みを進めたことによる,などと分析されている。

ウ 上記イに認定した事実によれば,原告の「RAffINE」ないし「ラフィネ」あるいは「ラフィネ パーフェクトワン」商標は,化粧品の取引者及び需要者間においては,原告の販売するシリーズ化粧品を表す商標として相当程度認識されているものということができる。

(2)  本件商標と引用商標との類否について

本件商標は,「Raffine Style」を緑色の文字で一段に表記し,「Raffine」の文字の左横に四つ葉マークを配したものである。

「Raffine」という語は,フランス語で,語尾にアクセント記号を付した「raffiné」が「精製された,洗練された,気のきいた,上品な,凝った」などの意味を有する形容詞(白水社「仏和大辞典」参照)であるが,我が国において一般的に知られた語ではなく,そのため,「Raffine」や「ラフィネ」は,その外観や称呼がかえって取引者や需要者に独特の印象を与えると認められる。

これに対し,「Style」という語は,英語で「やり方,流儀,方式,…流,…式,構え,態度,様子,風采,でき,格好,形,文体,表現法,様式」などの意味を有する名詞(研究社「リーダーズ英和辞典」参照)であり,これを片仮名で表記した「スタイル」が「すがた,風采,格好,様式,型」(岩波書店「広辞苑」第6版参照)などの意味を有する外来語として広く用いられるなど,我が国においては一般的に知られた語であると認められる。

そして,「Style」や「スタイル」の語は,これを特定の商標と組み合わせて,「○○流」や「○○様式」などの意味合いで「○○Style」や「○○スタイル」のように用いられることは周知の事実であり,この場合には,「○○」商標と同じ商品や役務の出所を表示するものとして用いられているものと認められる。

したがって,本件商標に接する取引者や需要者は,専ら「Raffine」や「ラフィネ」の部分が商品や役務の出所を表示する出所識別標識であり,「Style」や「スタイル」の部分には「…流」「…様式」という意味合いがあるにすぎず,出所識別標識としての称呼,観念は生じないものと認識するのであり,本件商標は,「Raffine」又は「ラフィネ」を出所識別標識とする商標と認識される。よって,引用商標は,本件商標とその出所識別標識となる部分において外観及び称呼においてほぼ同一であり,全体としても類似するものと認められる。

(3)  商標法53条1項の趣旨

商標法53条1項は,商標権者から専用使用権又は通常使用権の設定を受けた者といえども,「登録商標又はこれに類似する商標の使用であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは」,当該商標権者が,その事実を知らず,相当の注意をしていたときを除いて,当該商標登録を取り消すことができると規定している。同規定の趣旨は,専用使用権者又は通常使用権者といえども,登録商標の正当使用義務に違反して,登録商標を使用した結果,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,そのような行為は,他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害するばかりでなく,商標権者もその監督義務に違反するものであるから,何人もその商標登録を審判により取り消しうることとしたものである。

もっとも,登録商標の使用が他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じる場合としては,同条が予定しているような登録商標の不正使用の場合に限らず,登録商標と他人の商標とがもともと類似しているため,そのことに起因して業務上の混同が生じる場合も当然に予想される。このような場合は,他人の業務に係る商品若しくは役務における商標の使用が当該登録商標に係る商標権の侵害行為となることが多いと思われ,このような場合にまで,53条を適用して他人の業務を保護して,登録商標権者を不利に取り扱うことを商標法が予定しているとは到底考えられない。

そうすると,先願登録主義の原則を採用している商標法において,登録商標と他人の商標の同一性ないし類似性のみに起因して業務上の混同が生じ,登録商標の不正使用と認められる事情がない場合においては,53条の規定の適用が認められるべきではなく,同条1項における「登録商標又はこれに 類似する商標の使用であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは」との要件は,専用使用権者又は通常使用権者が「混同を生ずるものをした」と評価される行為により混同のおそれを生じさせた場合を意味し,そのように評価される行為(不正使用行為)がなく,もともと登録商標と他人の商標とが類似していることに起因して混同が生じているにすぎない場合には,「混同を生ずるものをした」との要件を充たさないと解すべきである。

(4)  本件バナー広告の使用が登録商標の不正使用に当たるか。

ア 本件においては,被告のライセンシーであるボディワーク社の使用に係る本件バナー広告の欧文字部分は,「Raffine」と「Style」の二つの文字を二段に表記したものであるものの,「Raffine」の文字と「Style」の文字は文字の大きさは同じであり,特に「Style」を小さく目立たなく表示したものとはいえないし,また,二段に表記しても上記二つの文字は緑色の地の中に白抜きの文字で,いずれもその中心的商標として表示されているのであるから,商標としての一体性を十分に有するものであると認められる。したがって,本件バナー広告中の「Raffine/Style」商標は,「Raffine Style」を一段書きにした本件商標の使用態様として,意図的に「Raffine」を強調したものとは到底いえず,社会通念上,適正な使用の範囲内のものと認められる(なお,被告は,本件バナー広告中のこの商標とほぼ同一の商標については,被告第10商標権としてその登録を得ていることからすると,本件バナー広告中のこの商標は,主に被告第10商標権の登録商標として使用されているのであって,本件商標については,この商標が本件商標の類似商標とみられるため,不正使用取消請求の対象となっているにすぎないものであることも考慮すべきである。)。

イ 本件バナー広告における「Raffine/Style」の欧文字商標の使用が,本件商標の使用として,社会通念上適正な範囲内のものであることは前記のとおりであるけれども,本件商標と,原告が化粧品業務に使用している「RAFFINE」ないしは「RAffINE」の語からなる商標とは,前記認定判断のとおり,そもそも類似しているのであるから,ボディワーク社の本件商標の使用は,これを一段に表記して使用しても,二段に表記して使用しても,原告が引用商標を使用して行っている化粧品販売業務との混同を生じるおそれがあることは否定し難いところである。しかしながら,このような出所の混同のおそれは,前記認定のとおり,被告の本件商標と原告の引用商標とがそもそも類似する商標であることに起因するものであると認められ,本件バナー広告における「Raffine/Style」の欧文字商標の使用が二段に表記されたことによるものではないことは明らかである。仮に,このような場合に,本件商標の不正使用による取消しを認めるとすれば,原告の引用商標よりも先願の登録商標である本件商標権を有し,これを正当に使用している被告の利益を無視するものであり,また,先願主義からすれば,被告の本件商標を引用商標として商標法4条1項11号の無効理由を内包する登録商標(引用商標)を使用している原告を過度に保護する結果となる。

(5)  小括

以上によれば,本件においては,被告の本件商標と原告の引用商標の類似性により,引用商標を使用する原告の業務とボディワーク社の業務との間において広義の混同を生ずるおそれがあるとしても,そもそもボディワーク社において他人の業務との混同を惹起せしめるような登録商標ないし登録商標と類似の商標の不正な使用行為はないのであるから,同社の本件商標の使用は,「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」には該当しないと解すべきである。

なお,ボディワーク社による本件バナー広告における本件商標の使用により,原告の業務と具体的な混同のおそれが生じているとすれば,商標権者のみならず,一般の公衆の利益を害するおそれが生じるのであるが,それは両商標のもともとの類似性に起因するものであることは前記説示のとおりであるから,被告の本件商標と原告の引用商標の各有効性については,商標法4条1項各号が規定するところに従って,無効審判等の手続によってその判断がされるべきである。

3  結論

以上の次第であり,ボディワーク社による本件バナー広告の使用について商標法53条1項の適用があることを前提とする原告の主張は理由がなく,同条項の適用を否定した審決は,その結論において相当である。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅)

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