大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10060号 判決 2013年9月30日

原告

株式会社ユメックス

訴訟代理人弁護士

影山光太郎

園山佐和子

島岡雅之

伊藤蔵人

被告

株式会社アクセス

訴訟代理人弁理士

吉川俊雄

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2012-890063号事件について平成25年1月29日にした審決を取り消す。

第2前提となる事実

1  特許庁における手続の経緯等

被告は,欧文字「RAGGAZZA」(標準文字)により構成され,第25類「被服,履物」を指定商品とする登録第5170958号商標(平成20年3月3日登録出願,同年8月19日登録査定,同年10月3日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は,本件商標につき,平成24年7月31日,無効審判請求(無効2012-890063号事件)をした。特許庁は,平成25年1月29日,審判請求は成り立たない旨の審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年2月7日,原告に送達された。

2  審決の概要

審決の理由は,別紙審決書写に記載のとおりである。審決は,概ね次のとおり判断して,無効審判請求は成り立たないとした。すなわち,本件商標は,つづりからしてイタリア語の「RAGAZZA」とは相違し,何ら特定の意味を有しない造語というべきであるから,本件商標をその指定商品に使用しても需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標ということはできず,商標法3条1項6号には該当しない。本件商標は商品の品質等を表すものでもないから,商品の品質について誤認を生じる恐れはなく,同法4条1項16号にも該当しない。本件商標は,被告による造語であって,出願経過が社会的相当性を欠くとも,公正な取引秩序を乱すとも,法令に違反するとも,国際信義にもとるとも認められず,きょう激,卑わい,差別的又は他人に不快な印象を与える商標にも該当しないから,同項7号にも該当しない。請求の理由として同法3条1項柱書を追加することは,請求の理由の要旨を変更するものであるから認められないし,職権で審理の対象とすることもしない。

第3取消事由に係る当事者の主張

1  原告の主張

(1)  商標法3条1項6号該当性についての判断の誤り(取消事由1)

商標法3条1項6号に該当する商標であるかどうかは,商標の構成態様が「需要者が何人かの業務に係る商品であると認識することができ」るか否かを具体的に検討し,また,公益上,特定人への独占適応性に欠けるかどうかをも考慮して判断されるべきである。

取引者・需要者は,それ自体は意味を持たない造語ではあるが,意味のある語とつづりがわずかにしか異ならない造語に触れた場合,つづりの間違いを推測し,意味のある語として認識する。本件商標は,造語であるが,本件商標とイタリア語「RAGAZZA」は,見た目に極めて近似し,称呼上では全く同一に「ラガッツァ」と発音される。しかも,「RAGAZZA」は,「少女,(未婚の)若い女性」を意味するイタリア語であり,その語義に基づいて若い女性や少女向けの商品を表すものとしてファッション業界で現実に使用されている。

このように,本件商標は,文字「RAGAZZA」との関係でいえば,取引者・需要者にとってむしろ「RAGAZZA」そのものと認識される商標であるから,直接的には品質等を表示するものではないとしても,イタリア語「RAGAZZA」との関係において,間接的に品質等を表示するものであるから,取引者・需要者が何人かの業務に係る商品であると認識することができない商標というべきである。さらには,本件商標は,公益上特定人に独占させることが不適当と認められるような商標であって同項3号から5号には該当しないが各号の趣旨からして拒絶するのが適当と解されるものにも該当する。したがって,本件商標は,同項6号に該当する。

(2)  商標法4項1項16号該当性についての判断の誤り(取消事由2)

前記(1)のとおり,本件商標は,取引者・需要者にとっては,イタリア語「RAGAZZA」を認識させるもので,使用商品によっては,需要者に品質等を誤らせる可能性の高い商標である。本件商標は商標法4条1項16号に該当する。

(3)  商標法4条1項7号該当性についての判断の誤り(取消事由3)

前記(1)のとおり,本件商標は,商品の品質等を表すイタリア語「RAGAZZA」と近接し,むしろ「RAGAZZA」と認識させる商標である。このような商標を一個人に独占させることは,無用な混乱を生じさせ,国際的な商品流通秩序を乱す行為である。したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当する。

(4)  商標法3条1項柱書についての審理判断の逸脱(取消事由4)

審決は,商標法3条1項柱書について,職権により審理の対象として取り上げなかった。このような判断は,審理の対象として取り上げるか否かの裁量権を逸脱する違法な判断であり,同柱書について審理・判断がされれば,審決の結論に影響することが明らかである。したがって,審決は,違法として取り消されるべきである。

2  被告の反論

(1)  商標法3条1項6号該当性についての判断の誤り(取消事由1)に対して

イタリア語「RAGAZZA」が品質等を示すものとして使用されたことを示す証拠はない。なお,原告は,イタリア語の「RAGAZZA」を商品名として使用していた実績があり,原告も,イタリア語の「RAGAZZA」が自他商品識別力を持つと理解していた。

以上よりすると,原告の主張は理由がないというべきである。

(2)  商標法4項1項16号該当性についての判断の誤り(取消事由2)に対して

本件商標の「RAGGAZZA」とイタリア語の「RAGAZZA」とは相違することが明らかであり,誤認されることもないのであるから,商品の品質等について誤認を生ずる恐れはない。

(3)  商標法4条1項7号該当性についての判断の誤り(取消事由3)に対して

本件商標の「RAGGAZZA」は造語であって,イタリア語の「RAGAZZA」とは相違し,誤認されることもない。

よって,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当しない。

(4)  商標法3条1項柱書についての審理判断の逸脱(取消事由4)に対して

請求の理由として商標法3条1項柱書を追加することは,請求の理由の要旨を変更するものであるから,商標法56条1項において準用する特許法131条の2第1項の規定により認められない。また,被告が,登録査定時に本件商標を使用する意思を欠いていたとも認められないのであるから,職権をもって審理の対象とすることはしないとした審決は正当である。

第4当裁判所の判断

当裁判所は,審決には原告主張に係る取消事由はないと判断する。その理由の詳細は,次のとおりである。

1  事実認定

本件商標は,欧文字「RAGGAZZA」(標準文字)で構成され,第25類「被服,履物」を指定商品とするものである(甲7)。「RAGGAZZA」は,造語である(争いのない事実)。「RAGAZZA」は,少女,(未婚の)若い女性,娘,女の子,恋人,彼女,子供を指すイタリア語であり,イタリア語の辞書では,基本的な単語に分類されている(甲1,2,枝番号の記載を省略する。以下同じ。)。また,本件商標の指定商品の業界を含むファッション業界では,イタリア語が用いられる例があり,「RAGAZZA」は,ファッション用語集にも掲載されている(甲4,19ないし21,24,乙1)。

上記事実を前提として,各取消事由の有無について判断する。

2  取消事由1(商標法3条1項6号該当性についての判断の誤り)について

商標法3条1項6号は,同項1号ないし5号に規定する商標のほか,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標については,商標登録を受けられない旨を規定する。同項6号は,同項1号ないし5号で例示する場合のほかに,いかなる使用態様をしても,また,いかなる宣伝方法を用いたとしても,出所識別機能を発揮し得ない文字や図形等について,独占的な使用を許容することは,混乱を招き,公益に反することから,登録することができないとしたものである。

上記観点から,本件商標について検討する。

まず,本件商標「RAGGAZZA」は,特定の意味を有しない語であるから,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標に該当することはない。また,本件商標「RAGGAZZA」は,イタリア語「RAGAZZA」に近似した文字から構成されることから,本件商標から,「RAGAZZA」の文字を想起させることがあり得たとしても,本件証拠によれば,そもそも「RAGAZZA」の意味を認識,理解できる需要者は,多いとは認められない。さらに,仮に,本件商標から,イタリア語「RAGAZZA」の意味である「少女,(未婚の)若い女性,娘,女の子,恋人,彼女,子供」を想起する需要者がいたとしても,それらの意味と本件商標の指定商品との関係を考慮すると,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であると判断することもできない。

したがって,本件商標が商標法3条1項6号に該当するものではないとした審決の判断は相当であって,審決に原告主張に係る取消事由はない。

3  取消事由2(商標法4項1項16号該当性についての判断の誤り)及び取消事由3(商標法4条1項7号該当性についての判断の誤り)について

前記2のとおり,本件商標は,特定の意味を有することはなく,近似するイタリア語「RAGAZZA」についても,需要者にその意味が認識,理解されていると認めるに足りる証拠はないから,本件商標に接した需要者は,本件商標が商品の品質を表すものとして,認識するとは認められない。

本件商標はイタリア語「RAGAZZA」を想起させるものではないから,本件商標の独占を認めたとしても,無用な混乱を生じさせ,国際的な商品流通秩序を乱すとも認められない。

したがって,本件商標が商標法4条1項16号にも,同7号にも該当するものでないとした審決の判断に誤りはなく,審決に原告主張に係る取消事由はない。

4  取消事由4(商標法3条1項柱書についての審理判断の逸脱)について

無効審判請求の理由として商標法3条1項柱書を追加することは,請求の理由の要旨を変更するものであるから,商標法56条1項の準用する特許法131条の2第1項の規定により,これが当然に認められるものではない。また,これを裁量で審理しなかったことが,裁量権の逸脱であると認めるに足りる証拠は何らない。

よって,この点に関する原告主張も採用できない。

5  まとめ

以上によれば,原告の主張に係る取消事由はいずれも理由がない。原告はその他縷々主張するがいずれも採用の限りではない。よって,原告の請求を棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例