知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10086号 判決 2013年11月14日
原 告
マイクロソフト コーポレーション
訴訟代理人弁理士
阿部豊隆
谷義一
阿部和夫
梅田幸秀
新開正史
窪田郁大
稲綾子
被告
特許庁長官
指定代理人
仲間晃
田中秀人
樋口信宏
堀内仁子
主文
特許庁が不服2011-6890号事件について平成24年11月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
主文同旨。
第2事案の概要
本件は,拒絶査定不服審判不成立審決の取消訴訟である。争点は,①本願発明と引用発明との相違点認定の誤り([1]引用発明認定の誤り,[2]本願発明と引用発明との対比の誤り,[3]本願発明と引用発明との一致点認定の誤り,[4]本願発明と引用発明との相違点認定の誤り),②本願発明の容易想到性判断の誤り([1]相違点判断の誤り,[2]発明の効果判断の誤り)である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「階段化されたオブジェクト関連の信用決定」とする発明について,平成16年7月22日を国際出願日として特許出願(パリ条約による優先権主張の優先日・平成16年2月17日,優先権主張国・米国,国際公開・WO2005/081666,国内公表・特表2007-522582〔甲5〕,請求項の数66)をしたが,平成22年3月2日付けで拒絶理由通知を受け(甲6),同年6月8日付けで手続補正をし(甲8),同年7月12日付けで拒絶理由通知を受け(甲9),同年10月20日付けで手続補正をし(甲11,請求項の数52),平成22年11月30日付けで拒絶査定を受けたので(甲12),平成23年4月1日,不服の審判請求をした(不服2011-6890号〔甲13〕)。
特許庁は,平成24年11月13日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴のための附加期間90日),その謄本は同年11月27日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
上記平成22年10月20日付け手続補正書による補正後の請求項1の発明(本願発明)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲5,11,段落符号は本判決で付した。)。
【A】 ウェブページに関連付けられたオブジェクトを検出することと,
【B】 前記オブジェクトがユーザによって開始されたかどうかを判定することと,
【C】 前記オブジェクトがユーザによって開始されていないと判定された場合,複数の信用レベルのうちのどのレベルが前記オブジェクトに与えられるかを査定し,前記与えられた信用レベルに基づいて前記オブジェクトを抑制することと,
【D】 前記オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するためのモードレスプロンプトを表示することと
【E】 を備えることを特徴とする方法。
3 審決の理由の要点
(1) 刊行物1発明
園田道夫,「基礎から固めるWindows セキュリティ 第1回 ActiveX コントロールとスクリプトの危険性 悪用されやすいIEの標準機能 実行条件を制限し安全を確保」,日経Windows プロ,第73号,第98~102頁,日経BP社,2003年4月1日(刊行物1〔甲1〕)には,次の発明(刊行物1発明)が記載されていることが認められる(段落符号は本判決で付した。)。
【Ⅰ】 Webページに関連付けられたActiveX コントロールを検出することと,
【Ⅱ】 前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定することと,
【Ⅲ】 複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制することと,
【Ⅳ】 前記ActiveX コントロールが抑制された場合,前記ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示することと
【Ⅴ】 を備える方法。
(2) 一致点
本願発明と刊行物1発明との一致点は,次のとおりである。
【ア】 ウェブページに関連付けられたオブジェクトを検出することと,
【イ】 前記オブジェクトがユーザによって操作されたかどうかを判定することと,
【ウ】 複数の信用レベルのうちのどのレベルが前記オブジェクトに与えられるかを査定し,前記与えられた信用レベルに基づいて前記オブジェクトを抑制することと,
【エ】 前記オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するための表示を表示することと
【オ】 を備える方法。
(3) 相違点
本願発明と刊行物1発明との相違点は,次のとおりである。
ア 相違点1
本願発明の構成【B】は,オブジェクトがユーザによって「開始」されたかどうかの判定を行っているのに対し,刊行物1発明の構成【Ⅱ】は,オブジェクトがユーザによって「開始」されたかどうかの判定を行うことについて,明確には記載されていない点。
イ 相違点2
本願発明の構成【C】は,まず判定を行い,判定の結果オブジェクトがユーザによって操作されていないと判定された場合に,複数の信用レベルによる査定を行っているのに対し,刊行物1発明の構成【Ⅲ】は,判定と複数の信用レベルによる査定をどのような条件及び順番で行うかについて,明確には記載されていない点。
ウ 相違点3
本願発明の構成【D】は,「プロンプト」であるのに対し,刊行物1発明の構成【Ⅳ】は,「ダイアログ」である点。
エ 相違点4
本願発明の構成【D】は,「モードレス」であるのに対し,刊行物1発明の構成【Ⅳ】は,そのように構成されているか不明である点。
(4) 相違点の判断
ア 相違点1について
審決は,次のとおり,サイトの開始はユーザによる当該サイト登録操作に先立つので,ユーザによる当該サイト登録操作に基づく刊行物1発明の安全性の判定を当該サイト開始の有無に基づく本願発明の安全性の判定に置き換えることは設計事項であって,相違点1は格別のものではないとした。
「刊行物1の・・・・・登録とは,オブジェクトの実行が抑制されないようにするために,利用などを通して安全性を確かめたサイトに対してユーザが行う操作であり,その結果操作が行われたサイトにおけるオブジェクトは実行可能であるとの判定がなされることになるものである。そして,サイトの利用は通常サイトの開始によりなされるものであるから,開始がなされていないものは,安全性について確認されていないということができる。したがって,開始されたかどうかにより安全性の確認を行う,すなわち『開始』されたかどうかの判定を行うことは,当業者が適宜なし得る事項である。」
イ 相違点2について
審決は,次のとおり,刊行物1発明においても,ユーザによる[信頼済みサイト]へのサイト登録操作の有無の判定が,オブジェクトのユーザによる操作(開始)がされたかどうかの判定であり,また,査定の内容は設計事項であって,相違点2は格別のものではないとした。
「刊行物1・・・・・(には)ActiveX コントロールの種類に関して『信頼済みサイト』の区別における設定が他の区別のそれよりActiveX コントロールの実行に対する許可の度合いが高い(・・・・・)ことが示されていることから,そのために,4種類のアクセス先の区別のうち少なくとも『信頼済みサイト』の区別による設定については『インターネット』『イントラネット』『制限付きサイト』の区別による設定よりも先に,区分による設定がされているかの判定を行っているものであり,よって[信頼済みサイト]へ登録が行われていない場合には,まず『信頼済みサイト』の区別による設定をもとに,オブジェクトがユーザによって操作されたかどうかの判定を行い,判定の結果オブジェクトがユーザによって操作されていないと判定された場合に,『インターネット』『イントラネット』『制限付きサイト』の複数の区別のうちどの区分が与えられるかの査定を行うものと解される。
してみれば,オブジェクトがユーザによって操作されたかどうかの判定を行い,判定の結果オブジェクトがユーザによって操作されていないと判定された場合に,複数の信用レベルのうちのどのレベルが与えられるかの査定を行うようにすることは,当業者が適宜になし得ることである。」
なお,上記記述の参考として,甲1の100頁表1(全体)を掲記する。
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ウ 相違点3について
審決は,次のとおり,プロンプトの表示は周知技術であって,相違点3は格別のものではないとした。
「一般にインターネット等の情報技術分野において,情報提示のためにプロンプトを表示することは本出願前周知であるから・・・・・,刊行物1発明の表示において上記周知の技術であるプロンプトを用いることは,当業者が容易になし得ることである。」
エ 相違点4について
審決は,次のとおり, 「Google Toolbar Options Help, [online], December 4, 2003,Retrieved from the Internet:URL:http://toolbar.google.com/popup_help.html, [retrieved on November 7, 2005]」(刊行物2〔甲2の1〕)から表示をモードレスとすることは容易になし得るので,相違点4は格別のものではないとした。
「刊行物2には,インターネットブラウザ内で用いられるGoogle ツールバーの一機能であり,Web サイトにアクセスしたときに自動的に開く新しいウィンドウを防ぐ『ポップアップブロッカー』において,当該ポップアップブロッカーが新たなウィンドウによる広告表示を防ぐと,ツールバー上のポップアップブロッカーボタンのアイコンの表示によってユーザに知らせること,及び,所定の操作によりポップアップの表示を許可できることが記載されている。また,刊行物2に記載のツールバーは,ブロックしたポップアップの数などの情報を表示したり,表示しているサイトのポップアップを見たい場合やホワイトリストに追加したい場合に操作を行うものであり,情報表示を確認のみしたり,ポップアップの表示やホワイトリストへの追加を行わないのであれば何ら操作する必要がなく,よってその表示によりユーザの操作が中断することのないようになされているものであり,これはモードレスに相当するものである。
してみれば,刊行物1発明において,前記事項を参酌することにより,オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するための表示をモードレスにすることは,当業者が容易になし得ることである。」
オ 発明の効果
本願発明の構成により奏する効果も,刊行物1発明,刊行物2に記載された発明(刊行物2発明)及び周知技術から当然予測される範囲内のもので,格別顕著なものとは認められない。
(5) 審決判断のまとめ
本願発明は,刊行物1発明,刊行物2発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
第3原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本願発明と刊行物1発明との相違点認定の誤り)
(1) 刊行物1発明認定の誤り
ア 構成【Ⅱ】について
審決は,刊行物1の記載(101頁左欄4~23行目)から,「Webページに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること」が読み取れるとした(審決5頁8~20行目)。
しかしながら,刊行物1において[信頼済みサイト]に登録されるのはActiveX コントロールを実行してもよいWebページであってActiveX コントロールではないから,ActiveX コントロールが[信頼済みサイト]に登録されることはなく,刊行物1発明の構成【Ⅱ】の判定は,あくまでWebページがユーザによって[信頼済みサイト]に登録されたかどうかである。
そうすると,刊行物1発明の構成【Ⅱ】を,「Webページに関連付けられたActiveXコントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること」と認定することはできない。
したがって,審決には誤りがある。
イ 構成【Ⅲ】について
審決は,刊行物1の記載(99頁右欄2行目~100頁右欄1行目)から,「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること」が読み取れるとした(審決5頁21行~6頁11行目)。
① しかしながら,刊行物1におけるActiveX コントロールの実行可否の判断は,ActiveX コントロールが検出されたWebページが属するアクセス先の区別を判定し,それに加え,判定された区別ごとに設定される複数の実行条件のうちどの実行条件がActiveX コントロールに与えられるかを査定すること(アクセス先の区別と当該区別ごとの設定される実行条件との組合せ)によって行われるのである。
そうすると,刊行物1発明の構成【Ⅲ】を,「複数の実行条件に関する区別のうちどの区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定」すると認定することはできない。
② 刊行物1において,ActiveX コントロールは,設定内容により,実行されるか又は実行されないのであり,[ダイアログを表示する]が設定されダイアログが表示される場合は,むしろActiveX コントロールを実行することを前提に万が一のために備えてダイアログの表示をする場合であるから,[ダイアログを表示する]が設定され,かつ,ActiveX コントロールが実行されない場面をとらえて,ActiveX コントロールの実行が抑制されていると読み取ることはできない。
そうすると,刊行物1発明の構成【Ⅲ】を,「与えられた実行条件に関する区別に基づいてActiveX コントロールを抑制すること」と認定することはできない。
③ 以上のとおり,審決には誤りがある。
ウ 構成【Ⅳ】について
審決は,刊行物1の記載(99頁右欄2行~100頁右欄1行目)から,「設定によって[ダイアログを表示する]が選ばれるとActiveX コントロールを実行しようとする場合に確認を求めるダイアログが表示され・・・・・当該ダイアログはActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに表示している」とした(審決6頁12~32行目)。
しかしながら,刊行物1において,[1]ActiveX コントロールの実行が抑制されるのは[無効にする]が選択されている場合であるが,この場合にはダイアログがそもそも表示されないのであり(99頁右欄2行~100頁右欄1行目),当然ながらActiveX コントロールが抑制されたことを通知することはなく,また,[2]ダイアログの表示は,ActiveX コントロールが実行はされていないことを表示するものの,ActiveX コントロールが抑制されたことは通知していないのであり,[3]ダイアログの表示は,ActiveX コントロールに対する実行条件が[ダイアログを表示する](実行許否の機会を提供すること)であることをユーザに通知するものであって,ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知するものではない。
そうすると,刊行物1発明の構成【Ⅳ】を「ActiveX コントロールが抑制された場合,前記ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知する」と認定することができない。
したがって,審決には誤りがある。
(2) 本願発明と刊行物1発明との対比の誤り及び一致点認定の誤り
ア 構成【Ⅱ】と構成【B】との対比
審決は,刊行物1発明の構成【Ⅱ】「Webページに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること」が,本願発明の構成【B】「オブジェクトがユーザによって開始されたかどうかを判定すること」と,上位概念において,「オブジェクトがユーザによって操作されたかどうかを判定すること」(【イ】)である点で共通すると判断した(審決8頁22~28行)。
しかしながら,上記対比は,前記(1)アのとおり誤った刊行物1発明の認定を前提にされている。
前記(1)アによれば,刊行物1発明の構成【Ⅱ】は,「Webページが複数のアクセス先の区別のうちのどの区別に属するかを判定すること」となり,この刊行物1発明の認定によれば,刊行物1発明と本願発明とが,Activex コントロールに相応する「オブジェクトがユーザによって操作されたかどうかを判定すること」(【イ】)で一致するものとはいえない。
したがって,審決には誤りがある。
イ 構成【Ⅲ】と構成【C】との対比
審決は,刊行物1発明の構成【Ⅲ】「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること」は,本願発明の構成【C】「複数の信用レベルのうちのどのレベルが前記オブジェクトに与えられるかを査定し,前記与えられた信用レベルに基づいて前記オブジェクトを抑制すること」に相当すると判断した(審決8頁29行~9頁3行目)。
しかしながら,上記対比は,前記(1)イのとおり誤った刊行物1発明の認定を前提にされている。
前記(1)イによれば,刊行物1発明の構成【Ⅲ】は,「(Webページが属すると)判定された(アクセス先の)区別における設定内容により複数の実行条件のうちのどの実行条件がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,与えられた実行条件に基づいてActiveX コントロールを実行するかまたは実行しないこと」となり,この刊行物1発明の認定によれば,刊行物1発明と本願発明とが,「複数の信用レベルのうちのどのレベルが前記オブジェクトに与えられるかを査定し,前記与えられた信用レベルに基づいて前記オブジェクトを抑制すること」(【ウ】)で一致するものとはいえない。
したがって,審決には誤りがある。
ウ 構成【Ⅳ】と構成【D】との対比
審決は,刊行物1発明の構成【Ⅳ】「ActiveX コントロールが抑制された場合,前記ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示すること」は,本願発明の構成【D】「オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するためのモードレスプロンプトを表示すること」と,上位概念において,「オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するための表示を表示すること」(【エ】)である点で共通すると判断した(審決9頁4~14行目)。
しかしながら,上記対比は,前記(1)ウのとおり誤った刊行物1発明の認定を前提にされている。
前記(1)ウによれば,刊行物1発明の構成【Ⅳ】は,「実行条件が[ダイアログを表示する]であり,ActiveX コントロールが実行されない場合,ActiveX コントロールに対する実行条件が[ダイアログを表示する]であることをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示すること」となり,この刊行物1発明の認定によれば,刊行物1発明と本願発明とが,「オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するための表示を表示すること」(【エ】)で一致するものとはいえない。
したがって,審決には誤りがある。
(3) 本願発明と刊行物1発明との相違点認定の誤り
ア 相違点1について
審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点を「オブジェクトの抑制のための判定の方法として,本願発明は,オブジェクトがユーザによって『開始』されたかどうかの判定を行っているのに対し,刊行物1発明は,オブジェクトがユーザによって『開始』されたかどうかの判定を行うことについて,明確には記載されていない点。」(相違点1)とした(審決9頁28~32行目)。
しかしながら,この相違点1の認定は,誤った刊行物1発明の認定を前提にされた本願発明と刊行物1発明との対比から導出されたものである。
前記(1)アによれば,本願発明と刊行物1発明とは,「オブジェクトについての判定が,本願発明においては,前記オブジェクトがユーザによって開始されたかどうかを判定することであるのに対し,刊行物1発明においては,前記Webページが複数のアクセス先の区別のうちのどの区別に属するかを判定すること」との点で相違するものである。
イ 相違点2について
審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点を「オブジェクトの抑制のための判定と複数の信用レベルによる査定の関係として,本願発明は,まず判定を行い,判定の結果オブジェクトがユーザによって操作されていないと判定された場合に,複数の信用レベルによる査定を行っているのに対し,刊行物1発明は,判定と複数の信用レベルによる査定をどのような条件及び順番で行うかについて,明確には記載されていない点。」(相違点2)とした(審決9頁33行~10頁5行目)。
しかしながら,この相違点2の認定は,誤った刊行物1発明の認定を前提にされた本願発明と刊行物1発明との対比から導出されたものである。
前記(1)イによれば,本願発明と刊行物1発明とは,「オブジェクトの抑制のための判定と複数の信用レベルによる査定の関係として,本願発明においては,前記オブジェクトがユーザによって開始されていないと判定された場合,複数の信用レベルのうちのどのレベルが前記オブジェクトに与えられるかを査定し,前記与えられた信用レベルに基づいて前記オブジェクトを抑制することであるのに対し,刊行物1発明においては,Webページが複数のアクセス先の区別のうちのどの区別に属するかを判定することと,判定された区別における設定内容により複数の実行条件のうちのどの実行条件がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,与えられた実行条件に基づいてActiveX コントロールを実行するかまたは実行しないこと」との点で相違する。
ウ 相違点3及び相違点4について
審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点を「オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するための表示について,本願発明は,『プロンプト』であるのに対し,刊行物1発明は,『ダイアログ』である点。」(相違点3)及び「<相違点3>と同じくアクティブ化の機会を提供するための表示について,本願発明は,『モードレス』であるのに対し,刊行物1発明は,そのように構成されているか不明である点。」(相違点4)と認定した(審決10頁6~14行目)。
しかしながら,これら相違点3及び相違点4の認定は,誤った刊行物1発明の認定を前提にされた本願発明と刊行物1発明との対比から導出されたものである。
また,審決は,本願発明にかかるモードレスプロンプトに関して,これをプロンプトとモードレスとに分離して,それぞれを相違点3と相違点4と認定している。しかしながら,本願発明は,モードレスプロンプトを表示するものであって,プロンプトとモードレスとが分離して表示されるわけではないから,審決の相違点3及び相違点4の認定は誤りである。
上記によれば,本願発明と刊行物1発明とは,「ユーザに対する表示が,本願発明においては,前記オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するためのモードレスプロンプトを表示することであるのに対し,刊行物1発明においては,実行条件が[ダイアログを表示する]であり,ActiveX コントロールが実行されない場合,ActiveX コントロールに対する実行条件が[ダイアログを表示する]であることをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示することである点」で相違する。
2 取消事由2(本願発明の容易想到性判断の誤り)
(1) 相違点1について
① 刊行物1発明における[信頼済みサイト]へのサイトの登録操作は,サイトの開始や利用を必要としておらず,その運用に応じて,ユーザの判断と意思によって行われるから,登録操作にサイトの開始や利用が先立つわけではなく,[信頼済みサイト]に登録されているサイトと開始されているサイトとは同一ではない。
そうすると,[信頼済みサイト]にサイトが登録されているかどうかの判定が,サイトが開始されたかどうかを判定したことになるわけではないから,刊行物1発明の「登録」を本願発明の「開始」に置き換えることはできない。
② ユーザによってサイトが開始されたとしても,そのサイトに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって開始されていたとは限らない。
そうすると,サイトがユーザによって登録されているかどうかの刊行物1発明の判定を,開始されたサイトに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって開始されたかどうかの本願発明の判定に変えることはできない。
③ 刊行物1には,安全性の確保のために[信頼済みサイト]への登録を最も有効な手段とする記載がある(101頁左欄4~23行)。
そうすると,当業者が,刊行物1発明のこの最も有効とされる手段を廃止して,オブジェクト(ActiveX コントロール)がユーザによって開始されたかどうかという本願発明の判定に変更する動機付けはない。
④ [信頼済みサイト]にサイトを登録した場合でも,[信頼済みサイト]におけるActiveX コントロールの種類に対する実行条件の設定次第ではActiveX コントロールが実行されないことになり,また,サイトの登録は,[制限付きサイト]のように危険と指定したサイトに対しても行われるものである。
そうすると,刊行物1発明におけるサイトの登録は,ActiveX コントロール(オブジェクト)の実行を抑制するためのものといえないし,サイトの安全性を確認するためにされるものともいえず,審決の説示は妥当でない。
⑤ 刊行物1発明において,Webページを[信頼済みサイト]に登録することでActiveX コントロールが実行可能であると判定できるのであれば,Webページが[信頼済みサイト]に登録されているかどうかだけを判定するだけでよく,ActiveXコントロールの開始がされたかどうかの判定を行う必要はない。
そうすると,刊行物1には,本願発明のようにオブジェクト(ActiveX コントロール)が開始されたことがあるかどうかを判定する構成とする動機付けがない。
⑥ 刊行物1発明を,ActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定するものとみた場合,ActiveX コントロールが登録されたとの判定結果が得られた場合には必ずActiveX コントロールが実行されることになる。刊行物1発明を,オブジェクト(ActiveX コントロール)がユーザによって開始されたかどうかの判定を行うように変更した場合でも,上記同様になる。
ところで,刊行物1には,サイト(アクセス先)が登録されているとの判定結果が得られても,アクセス先の区別におけるActiveX コントロールの種類に対する実行条件の設定によってはActiveX コントロールが実行されない(ダイアログが表示される)ケースが存在する(101頁左欄4~23行目)。
そうすると,いずれにせよ,刊行物1発明の判定をオブジェクト(ActiveX コントロール)がユーザによって開始されたかどうかの判定にした場合には,ActiveXコントロールの実行に関連する設定(例えば[ダイアログを表示する])など,安全性をより高めるためのユーザの設定が意味をなさなくなるから,当業者が,刊行物発明1に上記の変更を行うことはない。
⑦ 以上のとおり,審決には誤りがある。
(2) 相違点2について
① 審決の認定するように,刊行物1発明が,まず[信頼済みサイト]の区別による設定をもとにオブジェクトがユーザによって操作されたかどうかの判定を行っているとすれば,[信頼済みサイト]へ登録が行われていない場合には,オブジェクトがユーザによって操作されたかどうかの判定を行うことはなく,また,行うこともできないことになる。
そうすると,審決の認定は妥当ではない。
② 審決の認定するように,刊行物1発明のActiveX コントロールの実行条件に関する区別が,本願発明の複数の信用レベルに相当するとすれば,[信頼済みサイト]にサイトが登録されている場合には,[信頼済みサイト]への登録は判定であるから,[信頼済みサイト]に登録されたサイトに関連付けられたActiveX コントロールには,更に上記の複数の実行条件に関する区別の査定が行われないことになってしまう。
しかしながら,刊行物1発明では,[信頼済みサイト]にサイトが登録されている場合でも,ActiveX コントロールの種類に対する設定内容に基づく実行条件を査定する必要がある。
そうすると,審決の認定は整合していない。
③ 刊行物1には,[インターネット][イントラネット][制限付きサイト]の3つの区別による設定よりも[信頼済みサイト]の区別による設定についての判定を先に行うことを示す記載はないし,刊行物1発明においてActiveX コントロールを実行するかどうかは,アクセス先の区別ではなく,アクセス先の区別における各設定内容に基づいて判断されるものである。
そうすると,[インターネット][イントラネット][制限付きサイト][信頼済みサイト]のどの区別について先に判定しても,ActiveX コントロールの実行を許可するかどうかの判断に影響はない。
以上のとおり,審決には誤りがある。
(3) 相違点3及び相違点4について
審決は,本願発明のモードレスプロンプトをモードレスとプロンプトを分離したため,刊行物1発明のダイアログに代えてモードレスプロンプトを採用することが容易想到であることの判断をしていない。
したがって,審決には誤りがある。
(4) 相違点3について
① プロンプトは,ユーザに対して何らかの行為を求めるメッセージを表示するものにすぎず,アクティブ化の機会を提供するものとはなり得ない。
そうすると,当業者が,ダイアログをアクティブ化の機会を提供するプロンプトに変更するようなことは想定されないし,このようなプロンプトを刊行物1発明のダイアログに代えて用いても,本願発明のプロンプトに至らない。
② プロンプトに刊行物1発明のダイアログと同等以上のセキュリティ確保を求めるのであれば,プロンプトを表示する場合においても,実行する又は実行しないなどの選択的な入力手段が付設されると解するのが自然である。
そうすると,プロンプトは,ダイアログとは何ら変わらないこととなり,当業者が,敢えてダイアログをプロンプトに変更する積極的な動機付けがない。
③ 以上のとおり,審決には誤りがある。
(5) 相違点4について
① 刊行物1発明のダイアログは,対話式に,ActiveX コントロールの実行を有効にするか又は無効にするかを選択させるものであり,この刊行物1発明のダイアログをモードレスに変更するならば,ActiveX コントロールの実行についてのユーザの選択とは無関係に,次のステップに移行してしまうことになる。
そうすると,刊行物1発明のダイアログをモードレスとすることは当業者が容易になし得ることではない。
② 刊行物2のツールバーの表示は,ユーザに何らオブジェクトのアクティブ化の機会を提供するものでない。したがって,刊行物1発明に,刊行物2に記載された発明を組み合わせたとしても,本願発明には至らない。
③ 以上のとおり,審決には誤りがある。
(6) 本願発明の効果について
本願発明は,刊行物1発明と異なり,①Webページを[信頼済みサイト]などに登録する必要がなく,②また,ユーザが何の気なしにアクションをアクティブ化してしまう可能性を減少する(本願明細書【0020】)という顕著な作用効果を奏する。なお,①の効果は刊行物1の記載と本願明細書とを対比すれば自明である。
したがって,審決には誤りがある。
第4被告の反論
1 取消事由1(本願発明と刊行物1発明との相違点認定の誤り)に対して
(1) 刊行物1発明認定の誤り
ア 構成【Ⅱ】について
刊行物1の記載からは,安全性を確かめたサイトのActiveX コントロールに実行を許可するとの設定がされているかどうかの判定を行うことが読み取れるところ,ActiveX コントロールはWebページに一体に埋め込まれたものであり,[信頼済みサイト]へのWebページの登録は,当該Webページに関連付けられたそれらActiveX コントロールに対する実行許可のために行うものであり,[信頼済みサイト]への登録から,Webページに関連付けられたActiveX コントロールの実行を許可するものかどうかの判定をすることが読み取れる。
したがって,審決に誤りはない。
イ 構成【Ⅲ】について
① 刊行物1には,複数の実行条件に関する区別のうち,どの区別で,どのような場合にActiveX コントロールを実行してよいかが記載されており,どのような場合にActiveX コントロールを実行してよいかの設定がされているかを判断していることは読み取れるので,これをもって,審決では「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定」することと認定している。これは,ActiveX コントロールに対してアクセス先の区別自体が設定されていることを意味せず,また,アクセス先の区別とその区別におけるActiveX コントロールの実行に関連する設定内容との双方の組合せによって,ActiveX コントロールの実行が決定されることに相反するものではない。
② コンピュータ装置において判定結果によって異なった処理を選択的に実施することは常套手段であるところ,この前提によれば,審決が,ActiveX コントロールの実行を抑制し又は抑制しなかった場合の一方の場合だけが存在するとしていないことは十分に理解できる。審決は,ActiveX コントロールを抑制するために[ダイアログを表示する]が設定されている場合以外を否定したものではない。
③ 以上から,審決に誤りはない。
ウ 構成【Ⅳ】について
刊行物1において,[1][無効にする]が選択されダイアログが表示されないならば,ダイアログがActiveX コントロールを抑制したことを通知していることが否定されているともいえないわけであり,[2]ダイアログが表示され,ActiveX コントロールを実行するか又は実行しないかを確認することは,その確認まではActiveX コントロールは実行されていないのであるから,ActiveX コントロールが抑制されているといえ,[3]ダイアログは表示のための機能であり,ダイアログに表示された情報がユーザに通知されていると解するのが自然であるから,[ダイアログを表示する]が選択されていることをダイアログがユーザに通知することはなく,上記のとおりダイアログが表示されることがActiveX コントロールが抑制されていることを意味するとすれば,ユーザはダイアログの表示によりActiveX コントロールが抑制されたことを通知されているといえる。
したがって,審決に誤りはない。
(2) 本願発明と刊行物1発明との対比の誤り及び一致点認定の誤りに対して
ア 構成【Ⅱ】と構成【B】との対比
審決がした刊行物1発明の構成【Ⅱ】の認定に誤りはないから,これに基づき本願発明の構成【B】との間でした対比判断にも誤りはなく,一致点の認定にも誤りはない。
イ 構成【Ⅲ】と構成【C】との対比
審決がした刊行物1発明の構成【Ⅲ】の認定に誤りはないから,これに基づき本願発明の構成【C】との間でした対比判断にも誤りはなく,一致点の認定にも誤りはない。
ウ 構成【Ⅳ】と構成【D】との対比
審決がした刊行物1発明の構成【Ⅳ】の認定に誤りはないから,これに基づき本願発明の構成【D】との間でした対比判断にも誤りはなく,一致点の認定にも誤りはない。
(3) 本願発明と刊行物1発明との相違点認定の誤り
ア 相違点1について
審決のした一致点の認定に誤りはないから,相違点1の認定にも誤りはない。
イ 相違点2について
審決のした一致点の認定に誤りはないから,相違点2の認定にも誤りはない。
ウ 相違点3及び相違点4について
審決のした一致点の認定に誤りはない。
モードレスとプロンプトとを必ずしも一体的な表示の特徴として捉える必要性はないから,相違点3及び相違点4の認定に誤りがあったとはいえない。
また,モードレスとプロンプトとに分けて容易想到性判断を行ったことで,その判断に遺脱が生じたともいえない。
2 取消事由2(本願発明の容易想到性判断の誤り)に対して
(1) 相違点1について
① 刊行物1から読み取れる[信頼済みサイト]へのサイトの登録は,「何度も利用して安全性を確かめたサイト」(101頁左欄4~23行目)に対してするものであり,これは,[1]サイトを開いてActiveX コントロールの安全な実行を確認した状態のものを登録することや,[2]以前の利用により安全性を確かめたサイトをそのアドレスだけを後に指定して登録することを含んでいると解されることから,いずれにしてもサイトの利用を通してサイトの登録を行っているものと解される。したがって,このようなユーザによる利用を通して登録がされたかどうかを判定することを,サイトの利用がされたかどうかを判定すること,すなわち,利用に係る開始がされたかどうかを判定するようにすることは,当業者が適宜なし得ることである。
② 審決は,刊行物1発明の登録がされたかどうかの判定を,Webページに一体に埋め込まれたActiveX コントロールに対して行われているものとしているのであり,この審決の前提の下においては,サイトの開始とActiveX コントロールの開始との相違を区別する必要がない。
③ 審決は,サイトの登録が利用を通して行われるという点にかんがみて,オブジェクトの利用に基づいてされた操作がなされているといえる刊行物1発明の判定を,オブジェクトの利用によるものである開始がなされているかどうかという本願発明の判定にすることは適宜なし得たとしたまでであり,この判定の変更が,サイトの利用の結果であるサイトの登録の機能までをも代替できるとはしていないのであるから,判定の変更によって刊行物1発明の[信頼済みサイト]への登録の構成が廃されることにはならない。
④ 審決は,刊行物1の記載をもとに,オブジェクトの実行を許可する方向の運用に当たっての刊行物1発明におけるサイトの登録の意義に基づき判断したのであって,この前提の下にあっては,アクセス先の区別の中での設定内容は実行を許可する内容である場合に基づくものとなり,また,審決は,[制限付きサイト]に対する登録の場合までを含めて説示を加えているのでもない。
⑤ サイトの登録は,通常,利用を通して行われるから,刊行物1発明のサイトの登録の判定は,利用の判定に関連するものであり,これを本願発明のように利用によるものである開始がされたかどうかを判定するようにすることは,当業者が適宜なし得ることといえる。
⑥ 審決は,刊行物1発明を,ActiveX コントロールが登録されたとの判定結果が得られた場合には必ずActiveX コントロールが実行されることになるものであるとは認定していない。
⑦ 以上のとおり,審決に誤りはない。
(2) 相違点2について
① [信頼済みサイト]への登録が行われていないサイトの場合には,判定結果が否となるだけあって,逆に否と判定される以上,実質的に判定は行われているといえる。
② 審決は,本願発明の複数の信用レベルに対応するものとして,刊行物1の[インターネット][イントラネット][制限付きサイト]の3つの区別のみを取り出したものであり,この部分に関しては,査定よりも先にオブジェクトがユーザによって操作されたかどうかの判定がされている。
オブジェクトがユーザによって操作されたと判定される場合以外の場合には,単に[信頼済みサイト]の区分においてActiveX コントロールをどのような場合に実行してよいかが設定されているかによるにすぎない。
③ 刊行物1発明に係るInternet Explorer のセキュリティ設定においては,[信頼済みサイト]におけるアドレス指定によって指定されたサイトについては,他の[インターネット][イントラネット][制限付きサイト]の設定に関わらず,[信頼済みサイト]の設定によりActiveX コンポーネントの実行許可をするかどうかの判断がされるのであるから,少なくとも,[インターネット][イントラネット][制限付きサイト]の3つの区別における設定での判断より先に,[信頼済みサイト]の区別におおける判断を行うようにすることは自明のことである。
④ 以上のとおり,審決に誤りはない。
(3) 相違点3及び相違点4について
ユーザに対して入力(クリック)可能な状態であることを表示すること(プロンプト)とその表示の具体的形式をどのようにするか(モーダルにするかモードレスにするか)は,分けて検討可能な事項であり,モードレスとプロンプトとを必ずしも一体的な表示の特徴として捉える必要性はない。審決は,周知例から,ダイアログが果たしている表示としてプロンプトを用いることは容易とし,その上で,刊行物2に記載の事項を参酌して,ダイアログが果たしている表示の機能をモードレスにすることは容易としたものである。
また,モードレスプロンプトに当たる技術自体もよく知られたものであり,相違点3と相違点4に分けて判断を行ったことで,判断遺脱が生じたものとはいえない。
したがって,審決に誤りはない。
(4) 相違点3について
① 審決が周知としたのは,情報提示一般においてプロンプトを表示することであり,プロンプトにアクティブ化の機会を提供する機能を持たせることは当業者が適宜なし得ることであるし,アクティブ化の機会を提供する機能を持たせたプロンプト表示は周知である。
② 原告の主張するようにプロンプトとダイアログとが表示手段として共通するのであれば,なおさらのこと両者を適宜変更することに困難性はなく,動機付けを損なうこともない。
③ 以上のとおり,審決に誤りはない。
(5) 相違点4について
① ユーザに対する表示として,ダイアログとモードレスとは技術が相反するものではなく,ユーザの利便性のために,ダイアログを刊行物2記載の方法で表示する構成に変更することは当業者が容易にできることである。
したがって,審決に誤りはない。
② 刊行物2には「あなたが見たいと思うポップアップ画面を有するサイトを見つけたら,ポップアップブロッカーボタンをクリックして,あなたのホワイトリストにそのサイトを追加します。」と記載されており,「ホワイトリストにそのサイトを追加」することは,後に見たいと思うポップアップ画面を見ることを可能とするものであるから,刊行物2のツールバーは,オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するものに当たる。
③ 以上のとおり,審決に誤りはない。
(6) 本願発明の効果について
Webページを[信頼済みサイト]などに登録する必要がないとの原告主張の本願発明の効果は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,明細書にもその旨の記載はない。また,ユーザが何の気なしにアクションをアクティブ化してしまう可能性を減少するとの原告主張の効果も,最初はすべてのActiveX コントロールの実行を禁止する設定から始める刊行物1発明の効果よりも小さい。
したがって,審決に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 本願発明について
ア 本願明細書の記載
平成22年10月20日付け手続補正書による補正後の明細書(本願明細書〔甲11〕)には,次の記載がある。
「【技術分野】【0001】本発明は,ウェブページに関連付けられたアクティブ化可能なオブジェクトの信用分析を実施するための技術を対象とする。」
「【背景技術】【0002】インターネット上またはイントラネット上でのブラウジング体験の質は,ウェブマスター,ウェブ管理者,およびウェブサイトをコーディングできるその他の人に左右されることが多い。すなわち,このような人は,ウェブページにオブジェクトを関連付けて,インターネット用またはイントラネット用のブラウザにウェブページがロードされるとオブジェクトのアクションがアクティブ化されるようにすることができる。このようなオブジェクトは,ウェブページのコードに埋め込むことができ,あるいはウェブページにリンクさせることもできる。このようなオブジェクトの例には,広告ソフトウェア(「アドウェア」)およびウイルスプログラム(「ウイルス」)が含まれる。アドウェアおよびウイルスのオブジェクトは,ダウンロード可能なコード,リンク,URL,ポップアップウィンドウ,データファイル(例えばグラフィック,ビデオ,オーディオおよび/またはテキスト)を含むことがある。このようなオブジェクトのアクションがアクティブ化されると,ユーザのコンピューティングデバイスが,有害な,望ましくない,不要な,そして/または気付かれない要注意ソフトウェアにさらされることが多い。」
「【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0003】前述のように,このようなオブジェクトのアクションは,オブジェクトが関連付けられているウェブページをインターネットまたはイントラネットブラウザがロードしたときに,自動的にアクティブ化されることがある。あるいは,ブラウザがウェブページをロードしたときにモーダルダイアログを表示して,ユーザがアクションをアクティブ化することを受諾または拒否することができるようにすることもある。このようなダイアログを表示する意図は,アクティブ化を拒否するオプションを隠蔽したり,除去したりすることによって,ユーザをだましてアクションをアクティブ化させることである場合がある。結果として,ダイアログとのどんなユーザ対話(interaction)も,アクティブ化を受諾する結果になる。さらに,アクティブ化を拒否しようとするユーザの試みの度にモーダルダイアログを再表示することによって,ユーザにアクティブ化を受諾させる意図がある場合もある。この場合,ユーザがモーダルダイアログをブラウザから除去しようと無駄な試みによるフラストレーションのせいで,ユーザがアクティブ化を何の気なしにまたは意図的に受諾してしまうことがある。」
「【発明を実施するための最良の形態】【0007】・・・・・【0016】図3に関して,ウェブページ207がコンピューティングデバイス105上のインターネット用またはイントラネット用のブラウザ上にロードされると,オブジェクト208はウェブページ207に関連付けられていることが検出される(310)。オブジェクト208の検出310は,オブジェクト208のコードを査定して,オブジェクト208のコンテンツ,ソース,アクションのうちの少なくとも1つを判定することを含む。本明細書に述べる実施形態は,インターネット用またはイントラネット用のブラウザに決して限定されるものではないことに留意されたい。例えば,マルチメディアドキュメントの任意のリーダまたはプレーヤを組み込むこともできる。しかし,この例示的な実施形態は,このような例が限定的なものではないという理解とともに,インターネットおよびイントラネットブラウザに関して述べる。」
「【図3】
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」
「【0017】オブジェクト208のアクションがユーザによって開始されたか否かについてのさらなる判定を任意選択で行うことができる(315)。すなわち,ブラウザ設定を査定して,ウェブページ207がブラウザにロードされるのに先立ってまたはその間に,オブジェクト208のアクションがコンピューティングデバイス105のユーザによって以前に要求されたか,そうでなければ開始されたかどうかを判定することができる。例えば,オブジェクト208に対応する証明書がコンピューティングデバイス105上の既存のプログラムの証明書と同じであるとみなされる場合にコンピューティングデバイス105上の既存のプログラムをアップグレードするためのファイルをオブジェクト208が含むと検出されるものとすることができる。」
「【0018】アクティブ化の機会320は,オブジェクト208のアクションを自動的にアクティブ化することとしてもよい。代替の実施形態では,モーダルプロンプトを表示してオブジェクト208のアクションのアクティブ化を対話式に受諾または拒否する機会をユーザに提供することができ,またはモードレスプロンプトを表示して,行われようとしているアクションについてユーザに通知することができる。アクティブ化の機会320に対するこれらのオプションのいずれかに対応するように,コンピューティングデバイス105のセキュリティ設定および/またはブラウザ設定を構成することができる。」
「【0019】図3のこの例では,オブジェクト208のアクションがユーザによって開始されたと判定されたとき(315),そのアクションを自動的にアクティブ化することができる。しかし,ますます多くの要注意ソフトウェアがネットワーク110の間で流通することに鑑みて,オブジェクト208のアクションのアクティブ化が行われようとしていることをユーザに通知するためのプロンプト,および/またはこのようなアクティブ化をキャンセルする最後の機会をユーザに提供するためのプロンプトを表示することによって,追加の警戒措置を講じることができる。プロンプトは,モーダルプロンプトであってもモードレスプロンプトであってもよい。」
「【0020】モーダルプロンプトは,ユーザがオブジェクト208のアクションのアクティブ化を対話式に受諾または拒否することを要求する。一方,モードレスプロンプトは,アクションについてユーザに単に通知し,それによりユーザが何の気なしにアクションをアクティブ化してしまう可能性を低減する。モードレスプロンプトは,オブジェクト208のアクションのアクティブ化を対話式に受諾または拒否する機会をユーザに提供しないが,オブジェクト208の説明を表示することができ,これにより,ユーザがアクションのアクティブ化を対話式に受諾または拒否するためのさらなる機会を促す。このようなモードレスプロンプトの詳細は,さらに図8A,8B,9に関して提供する。」
「【0056】図8Aに,図1~7の例示的な実施形態を参照して述べたユーザインターフェース800の例示的な一実施形態を示す。具体的には,ユーザインターフェース800は,ブラウザツールバー802およびモードレスプロンプト805を含み,図3~7に関して述べたアクティブ化の機会320またはオブジェクトのブロック320について表示することができる。このような場合,モードレスプロンプト805が表示されて,オブジェクト関連のアクションが抑制されていることをユーザに通知し,さらに,抑制されたオブジェクト関連のアクションのアクティブ化を対話式に受諾または拒否する機会をユーザに提供する。」
「【0057】より具体的には,ツールバー802は,コンピューティングデバイス105上でインターネットまたはイントラネットをブラウズするのに使用することのできるMicrosoft(登録商標)Internet Explorer などのブラウザの一部として表示される。図3~7の処理フローに関連して,モードレスプロンプト805は,オブジェクト208のアクションが抑制されることの通知をユーザに提供するためのテキストフィールドを備える。ユーザの注意を引くために,モードレスプロンプト205のテキストフィールドは,ウェブページの一部の上に表示されるのとは対照的にウェブページ207に取って代わってもよい。さらに,モードレスプロンプト805中のテキストは2行に折り返してもよく,省略記号(ellipses)を提供して何らかの内容が欠けているかどうか示してもよい。このように,Microsoft(登録商標)Internet Explorer に関する図8Aの例に示すように,モードレスプロンプト805中のテキストは,「Internet Explorer は信用できないソフトウェアのダウンロードをブロックしました。コンテンツは正しく表示されない場合があります。ダウンロードするにはここをクリックして下さい・・・」と示している。ただし,このような実施形態は単に例として提供され,限定するものではない。」
「【0059】モードレスプロンプト805,特にメニュー810の例示的な実施形態では,オブジェクト208のアクションのアクティブ化を対話式に受諾または拒否するためのさらなる機会をユーザに提供することができる。具体的には,カーソル807がメニュー810中の選択されたオブジェクトの上をホバーすると(ユーザがポインタをアクティブ化する必要があってもなくてもよい),モーダルプロンプトを表示することができる。このように,カーソル807がホバーしている所の記述に対応するオブジェクト208のアクションのアクティブ化を対話式に受諾または拒否する機会がユーザに提供される。」
「【0060】図8Bに,図1~8Aの例示的な実施形態を参照して述べたモーダルプロンプト840の例を示す。具体的には,モーダルプロンプト840は,図3~7に関して述べたアクティブ化の機会320またはオブジェクトのブロック320のために表示することができ,また図8Aに関して述べたオブジェクション208のアクティブ化を対話式に受諾または拒否するためのさらなる機会として表示することができる。このような場合,ユーザの対話式の選択を要求するモーダルプロンプト840を表示して,抑制されたオブジェクト関連のアクションのアクティブ化を受諾(845)するか拒否(850)する。」
「【図8A】
file_4.bmp
」
「【図8B】
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」
イ 本願発明の特徴
上記アによれば,本願発明は,ウェブページに関連付けられた広告ソフトウェア(アドウェア)及びウイルスプログラム(ウイルス)が含まれるアクティブ化可能なオブジェクトの信用分析を実施するための技術を対象とする。
従来技術として,オブジェクトが関連付けられているウェブページをブラウザがロードしたときにモーダルダイアログを表示して,ユーザがアクションをアクティブ化する機会を受諾又は拒否するものがあるが,アクティブ化を拒否するオプションを隠蔽するなどによって,アクティブ化させる場合や,アクティブ化を拒否しようとするたびにモーダルダイアログを再表示することによって,ユーザがアクティブ化を受諾してしまうことがあった。
本願発明では,ウェブページがブラウザ上にロードされると,オブジェクトのアクションがユーザによって以前に要求や開始されたかを判定して,アクティブ化の機会を与えるものである。
オブジェクトのアクションのアクティブ化の通知や,アクティブ化をキャンセルする機会を提供するためのプロンプトは,モーダルプロンプトであってもモードレスプロンプトであってもよいと記載されている。
そして,このうち,モードレスプロンプトは,オブジェクト関連のアクションが抑制されていることをユーザに通知し,抑制されたオブジェクト関連のアクションのアクティブ化を対話式に受諾又は拒否する機会をユーザに提供するものであり(他の操作を受け付ける。),モーダルプロンプトは,ユーザの対話式の選択を要求するモーダルプロンプトを表示し,抑制されたオブジェクト関連のアクションのアクティブ化の受諾又は拒否をユーザに選択させるものである(他の操作は受け付けない。)。
(2) 刊行物1発明
ア 刊行物1の記載
刊行物1(甲1)には,次の記載がある。
「(98頁右欄17行~99頁左欄3行目)Webブラウザは,ハイパーリンクをクリックしたりURLを入力したりするとリクエストを発信する。それを受け取ったWebサーバーは,HTML文書やJPEGやGIFといった画像データをファイル単位で返信する。この仕組みの中でより高度な表現を実現しようと付加された機能が,今回取り上げるActiveX コントロールとスクリプトである。
ActiveX コントロールはWebサーバーから小さなソフトウエアをダウンロードしてIE上で実行する仕組みである(図1)。動画などストリーム・データの再生やマクロメディアのFlash などはActiveX コントロールで実現されている。」
「(99頁右欄2行~100頁右欄1行目)セキュリティに問題があるActiveX コントロールへの対策を,マイクロソフトが全くしていないわけではない。例えば,ActiveX コントロールの実行条件は,IEの[ツール]-[インターネットオプション]にある[セキュリティ]タブで制限できる(図2)。これにより,ActiveX コントロールが無条件に実行されることを防いでいる。
『インターネット』『イントラネット』『信頼済みサイト』『制限付きサイト』の4種類にアクセス先を区別し,それぞれについてどのような場合にActiveX コントロールを実行してよいかを設定する(表1)。インストール済みのActiveX コントロールを実行するかどうか,『署名済み』や『安全だとマークされている』ActiveX コントロールを実行するかどうか,といった内容を設定できる。
ここで,[無効にする]を選択すればその条件ではActiveX コントロールを実行しないようになる。逆に[有効にする]を選択すれば実行するという設定になる。[ダイアログを表示する]を選ぶと,ダウンロードや実行しようとするたびに確認を求めるダイアログを表示するようになる(図3)。」
「(101頁左欄4~23行目)このような状況を考えると,最初はすべてのActiveX コントロールの実行を禁止する設定をお勧めする。確かに不便さはあるが,悪質なウイルスや不正アクセス・プログラムなどが侵入する可能性を考えると,なるべく安全な運用から始めたほうがよい。その上で,何度も利用して安全性を確かめたサイトについてのみ実行を許可する運用が安心である。
その運用では,[信頼済みサイト]の設定を活用するとよい(図4)。ここに,ActiveX コントロールを実行してもよいサイトを登録し,さらに万一のために[ダイアログを表示する]という設定にして運用すれば比較的安全であろう。
信頼済みサイトは『http://www.itfrontier.co.jp/』のように指定する。こうすると『http://www.itfrontier.co.jp/sec/』のようなそのサイトに属するページにも[信頼済みサイト]の設定が適用される。情報検索に慣れてくるとアクセスするサイトなどは限られてくるため,この設定方法でそれほど不便なく使えるはずだ。」
「(101頁図3)
file_6.bmp
」
100頁表1については,前記第2,3(4)イに掲記のとおり。
イ 刊行物1発明の特徴
上記アによれば,刊行物1発明は,ActiveX コントロールはWebサーバーから小さなソフトウェアをダウンロードしてインターネットエクスプローラ上で実行する仕組みであるところ,セキュリティに問題があるActiveX コントロールへの対策として,ActiveX コントロールの実行条件を,インターネットエクスプローラの[セキュリティ]タブにおける設定で制限することができ,これによりActiveX コントロールが無条件に実行されることを防ぐことができるとしている。
そして,[インターネット][イントラネット][信頼済みサイト][制限付きサイト]のアクセス先の区別ごとに,どのような場合にActiveX コントロールを実行してよいかを設定することができ,ここで[ダイアログを表示する]を選ぶと,ダウンロードやActiveX コントロールを実行しようとするたびに確認を求めるダイアログが表示されるようになることを示している。
さらに,[信頼済みサイト]の中でActiveX コントロールを実行してもよいサイトを登録し,[ダイアログを表示する]という設定にして運用すれば比較的安全であること,[信頼済みサイト]は「http://www.itfrontier.co.jp/」のようにURLを指定することを紹介している。
2 取消事由1(本願発明と刊行物1発明との相違点認定の誤り)について
(1) 刊行物1発明認定の誤りにつき
ア 構成【Ⅱ】の点
(ア) 検討
審決は,刊行物1の記載(101頁左欄4~23行目)から,「・・・・・設定によりActiveX コントロールを実行してもよいと許可されるためには,その前提としてWebページに関連付けられたActiveX コントロールの検出を行い[信頼済みサイト]に登録されているか否かの『判定』を当然に行っているといえる。・・・・・『Webページに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること』がよみとれる。」と認定し(審決5頁8~20行目),刊行物1発明は,「Webページに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること」との構成(【Ⅱ】)を有していると認定した(6頁33行~7頁9行目)。
しかしながら,刊行物1において,[信頼済みサイト]の設定に際してActiveX コントロールを実行してもよいサイト(Webページ)を登録し,安全なサイトについてのみActiveX コントロールの実行を許可する運用を行うとは,サイトがユーザによって[信頼済みサイト]に登録されているか否かの判定を行うことを意味するのであり,ActiveX コントロールそれ自体がユーザによって登録されることや,ActiveX コントロール自体がユーザによって登録されたかどうかを判定することは刊行物1には記載されていない。そうすると,刊行物1発明が,「Webページに関連付けられたActiveX コントロールがユーザによって登録されたかどうかを判定すること」との構成(【Ⅱ】)を有しているとはいえない。
したがって,上記審決の認定は誤りである。
(イ) 被告の反論に対して
被告は,サイトを[信頼済みサイト]に登録することはそのWebページに一体に埋め込まれたActiveX コントロールの実行許可を目的とするものであるから,サイトの登録はActiveX コントロールの実行許可の判定と同視できるとの趣旨を主張する。
しかしながら,刊行物1において,[信頼済みサイト]に登録されるサイト(Webページ)は,URLで特定されるものであるのに対し(101頁左欄4~23行),ActiveX コントロールは,当該サイト(Webページ)からダウンロードされるソフトウェアであるから(98頁右欄17行~99頁左欄3行目),サイトの登録の有無は,サイト又は所定のWebページに対して行われるものであるのに対し,ActiveX コントロールの実行許可の判定は,そのサイト又は各Webページに関連付けられた個々のActiveX コントロールに対して行われるものであって,両者の判定は技術理念としては異なるものであり,その判定の目的とするところが同一方向にあるからといって,サイト(Webページ)とActiveX コントロールとを同一視することはできない。
したがって,上記被告の主張は,その余の点も含めて,採用することができない。
(ウ) 小括
以上から,審決の刊行物1発明の構成【Ⅱ】の認定には誤りがある。
イ 構成【Ⅲ】の点
(ア) 検討
審決は,刊行物1の記載(99頁右欄2行~100頁右欄1行目,100頁表1)から,「・・・・・4種類のアクセス先の区別によるサイトの設定によって決定されていることから,そのために当該Webページに関連付けられたActiveX コントロールが4種類のアクセス先の区別のどれにより『設定されている』かの『判断』を当然に行っているといえ,・・・・・『複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること』がよみとれる。」と認定し(審決5頁21行~6頁11行目),刊行物1発明は,「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること」との構成(【Ⅱ】)を有していると認定した(6頁33行~7頁9行目)。
しかしながら,上記アにて認定判断のとおり,刊行物1において登録されるのはActiveX コントロールではなくWebページであり,アクセス先の区別もWebページの区別により設定されるものであるから,刊行物1に,「複数の実行条件に関する区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられる」との記載があるとはいえない。そうすると,刊行物1発明が,「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること」との構成(【Ⅲ】)を有しているとはいえない。
したがって,上記審決の認定は誤りである。
(イ) 被告の反論に対して
被告は,ActiveX コントロールに与えられる「複数の実行条件に関する区別」はWebページに与えられる4つのアクセス先のことを意味するものではないとの趣旨を主張する。
しかしながら,審決は,上記のとおり,「・・・・・4種類のアクセス先の区別によるサイトの設定によって決定されていることから,そのために当該Webページに関連付けられたActiveX コントロールが4種類のアクセス先の区別のどれにより『設定されている』かの『判断』を当然に行っているといえ,・・・・・『複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,ActiveX コントロールに与えられる区別を査定・・・・・すること』がよみとれる」と認定しているから,審決が,ActiveX コントロールに与えられる区別としたのは,4つのアクセス先の区別のことである。
したがって,上記被告の主張は,その余の点も含めて,採用することができない。
(ウ) 小括
以上から,審決の刊行物1発明の構成【Ⅲ】の認定には誤りがある。
ウ 構成【Ⅳ】について
(ア) 検討
審決は,刊行物1の記載(99頁右欄2行~100頁右欄1行目,101頁左欄4~23行目)から,「・・・・・[ダイアログを表示する]が選ばれるとActiveX コントロールを実行しようとする場合に確認を求めるダイアログが表示され,・・・・・また実行が許可される前では当然に実行が許可されていないすなわち抑制されているといえ,その結果として当該ダイアログはActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに表示していることになり,・・・・・『ActiveX コントロールが抑制された場合,ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示すること』がよみとれる。」と認定し(審決6頁12~32行目),刊行物1発明は,「ActiveX コントロールが抑制された場合,前記ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示すること」との構成(【Ⅳ】)を有していると認定した(6頁33行~7頁9行目)
しかしながら,刊行物1において,ダイアログが表示されるのは,ActiveX コントロールの実行の可否をダイアログによってユーザに選択させることにより,ActiveX コントロールが実行されるか又は実行されないかを選択させると記載されている(99頁右欄2行~100頁右欄1行目,101頁図3)。したがって,ダウンロードやActiveX コントロールを実行しようとするたびにユーザの対話式の選択を要求するというものであるから,ダイアログによる選択の前に積極的にActiveX コントロールの実行を抑制する判断が経由されているものではなく,このようにダイアログが表示されることを根拠として直ちにActiveX コントロールの実行が抑制されていると評価することはできない。そうすると,刊行物1に,ActiveX コントロールが抑制された場合にその旨をユーザに通知するとの記載があるとはいえず,刊行物1発明が,「ActiveX コントロールが抑制された場合,ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示すること」との構成(【Ⅳ】)を有しているとはいえない。
したがって,上記審決の認定は誤りである。
(イ) 被告の反論に対して
被告は,ダイアログ表示はActiveX コントロールが抑制されたことを通知すると解するほかないとの趣旨を主張する。
しかしながら,その主張の前提のダイアログの表示がActiveX コントロールが抑制を意味するとの点が採用できないことは上記のとおりであるから,上記被告の主張は,その余の点も含めて,採用することができない。
(ウ) 小括
以上から,審決の刊行物1発明の構成【Ⅳ】の認定には誤りがある。
エ 小括
以上のとおりであり,審決は刊行物1発明の認定を誤っており,上記誤認により,直ちに,相違点1から相違点4までに係る本願発明と刊行物1発明との対比並びに一致点の認定及び相違点の認定に誤りが生じることが明らかである。
(2) 本願発明と刊行物1発明の相違点認定の誤りについて
進んで,相違点3及び相違点4の相違点認定の誤りについて判断する。
ア 相違点3及び相違点4につき
(ア) 検討
審決は,刊行物1発明の構成【Ⅳ】と本願発明の構成【D】とを対比し,「刊行物1発明の『実行許可』は,本願発明の『アクティブ化』に相当し,刊行物1発明の『ActiveX コントロールが抑制された場合,前記ActiveX コントロールが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記ActiveX コントロールの実行許可の機会を提供するためにダイアログを表示すること』は,本願発明の『オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するためのモードレスプロンプトを表示すること』と,上位概念において,『オブジェクトが抑制された場合,前記オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するための表示をすること』である点で共通する。」とし(審決9頁4~14行目),その上で,本願発明と刊行物1発明との相違点を「オブジェクトが抑制されたことをユーザに通知するとともに,ユーザに前記オブジェクトのアクティブ化の機会を提供するための表示について,本願発明は,『プロンプト』であるのに対し,刊行物1発明は,『ダイアログ』である点。」(相違点3)及び「<相違点3>と同じくアクティブ化の機会を提供するための表示について,本願発明は,『モードレス』であるのに対し,刊行物1発明は,そのように構成されているか不明である点。」(相違点4)と認定した(審決10頁6~14行目)。
しかしながら,本願明細書には,前記1(1)イのとおり,モードレスプロンプトは,オブジェクト関連のアクションが抑制されていることをユーザに通知し,抑制されたオブジェクト関連のアクションのアクティブ化を対話式に受諾又は拒否の機会をユーザに提供するものであり,モーダルプロンプトは,ユーザの選択を要求するプロンプトを表示し,抑制されたオブジェクト関連のアクションのアクティブ化の受諾又は拒否をユーザに選択させるものであるとし,オブジェクトのアクションのアクティブ化の通知や,アクティブ化をキャンセルする機会を提供するためのプロンプトは,モーダルプロンプトであってもモードレスプロンプトであってもよいと記載されている(【0019】【0020】,図8A,図8B)。したがって,本願発明の構成【D】において,「モードレスプロンプトを表示する」としているのは,上記本願明細書に記載されたモーダルプロンプトとモードレスプロンプトのうち,モードレスプロンプトを表示することを特定していると認められる。そうすると,本願発明は,モードレスプロンプトをひとまとまりの技術事項としているのであるから,本願発明の表示の特徴であるモードレスプロンプトを殊更にプロンプトとモードレスとに分離して判断の対象とすべき理由が見当たらない。
したがって,上記審決の認定は誤りである。
(イ) 被告の反論に対して
被告は,本願発明のモードレスプロンプトを,モードレスとプロンプトに分けて判断を行ったことで判断に遺脱が生じたといえない旨主張するが,刊行物1発明の表示にプロンプトを採用すること及び刊行物1発明の表示にモードレスを採用することが容易想到であることを示しても,刊行物1発明の表示にモードレスプロンプトを採用することが容易想到であることが当然に示されたことにはならないのであり,モードレスプロンプトとすることの容易想到性については,審決において判断がされたとはいえないから,被告の上記主張は採用することができない。
イ 小括
以上から,審決は相違点3及び相違点4の認定には誤りがある。
第6結論
以上によれば,審決の判断過程には誤りがあり,取消事由2について判断するまでもなく,審決には取り消すべき違法があることが明らかである。
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)