知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10109号 判決 2013年12月25日
原告
ヤフー株式会社
訴訟代理人弁理士
酒井宏明
同
中嶋裕昭
同
新居禎晴
被告
特許庁長官
指定代理人
石川正二
同
金子幸一
同
須田勝巳
同
田部元史
同
堀内仁子
主文
1 特許庁が不服2011-27507号事件について平成25年3月4日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「経路広告枠設定装置,経路広告枠設定方法及び経路広告枠設定プログラム」とする発明について,平成20年1月11日,特許出願したが(以下「本願」といい,本願に係る明細書を図面を含めて「本願明細書」という。)(甲6),平成23年9月21日付けで拒絶査定を受け(甲10),同年12月21日,拒絶査定不服審判(不服2011-27507号事件。以下「本件審判」という。)を請求し,平成25年1月11日,特許請求の範囲を変更する旨の手続補正(以下「本件補正」という。)を行った(甲7)。特許庁は,同年3月4日,請求不成立の審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月19日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
本件補正後の本願に係る特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである(以下,同請求項に係る発明を「本願発明」という。)(甲7)。
「【請求項1】通信ネットワークを介して接続された広告主の端末から,地図上の経路に関する線描写によって前記端末で設定された経路情報を受信する経路情報受信手段と,
前記経路情報受信手段により受信した前記経路情報に広告枠を設定し,記憶部に有する経路データベースに記憶する広告枠設定手段と,
前記経路情報に広告枠が設定された後に,ユーザの端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と,
前記位置情報取得手段により取得された前記位置情報を含む前記経路を,前記経路データベースから特定する経路特定手段と,
前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベースから,前記経路特定手段により特定された前記経路に関連する広告枠の広告情報を抽出して前記ユーザの端末に送信する広告情報送信手段と,
を備える経路広告枠設定装置。」
3 審決の理由
(1) 審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,その要旨は,本願発明は,特開2002-156234号公報(甲1。以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用例1発明」という。),特開2004-30571号公報(甲2。以下「引用例2」という。)の記載事項及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたというものである。
(2) 審決が認定した引用例1発明の内容,本願発明と引用例1発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用例1発明の内容
「広告主に割り当てられた情報端末装置33は,通信回線を介して基地局31のコンピュータ31bと接続され,広告枠の入札条件を基地局31に送信し,
広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応情報を格納するデータベース31cと,
ナビゲーション装置1から送信された現在位置と,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応する広告情報がデータベース31cから読み出されて,ナビゲーション装置1に送信するコンピュータ31bを備える移動体広告システム。」
イ 一致点
「通信ネットワークを介して接続された広告主の端末から,地図上の情報を受信する情報受信手段と,
前記情報受信手段により受信した前記情報に広告枠を設定し,記憶部に有するデータベースに記憶する広告枠設定手段と,
前記情報に広告枠が設定された後に,ユーザの端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と,
前記位置情報取得手段により取得された前記位置情報を,前記データベースから特定する特定手段と,
前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベースから,前記特定手段により特定された広告枠の広告情報を抽出して前記ユーザの端末に送信する広告情報送信手段と,
を備える広告枠設定装置。」である点。
ウ 相違点
本願発明が,広告枠を経路情報に設定し,経路データベースに記憶し,経路データベースによって経路を特定する経路特定手段を有していて,経路特定手段によって特定された経路に関連する広告枠を抽出していて,その経路は線描写で設定されるのに対して,引用例1発明では,広告枠を地図上のエリアに設定して,データベース31cに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報を読み出していて,エリアについてはどの様に設定しているかは明示されていない点。
第3取消事由に関する当事者の主張
1 原告の主張
審決には,手続違背(取消事由1),引用例1発明の認定の誤り(取消事由2),一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由3),引用例2の記載事項の認定の誤り(取消事由4),容易想到性の判断の誤り(取消事由5)があり,その結論に影響を及ぼすから,違法であるとして取り消されるべきである。
(1) 手続違背(取消事由1)
審決の理由と本件審判における拒絶理由通知とは,「本願発明と引用例1発明との相違点の認定」及び「引用例2の記載事項の認定等」において相違するから,審判手続において,新たな拒絶理由通知をすべきであった。新たな拒絶理由通知を欠いた本件審判の手続は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反する。
(2) 引用例1発明の認定の誤り(取消事由2)
引用例1発明は,広告主の広告情報をナビゲーション装置に送信するモードとして,競売モードと自動決定モードを有しており,これらのモードを切り替えて実行する発明である。審決が引用例1発明として認定した「広告主に割り当てられた情報端末装置33は,通信回線を介して基地局31のコンピュータ31bと接続され,広告枠の入札条件を基地局31に送信し」との構成は,競売モードであって,自動決定モードではない。また,審決が引用例1発明として認定した「広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応情報を格納するデータベース31cと,ナビゲーション装置1から送信された現在位置と,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応する広告情報がデータベース31cから読み出されて,ナビゲーション装置1に送信する」との構成は,自動決定モードであり,競売モードではない。
審決は,引用例1発明を「競売モードの構成」と「自動決定モードの構成」とを区別することなく認定しており,同認定には,誤りがある。
(3) 一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由3)
審決は,以下のとおり一致点の認定に誤りがあり,その結果,相違点の認定を看過している。
引用例1には,情報端末装置からサービスセンタに「入札条件」が送信されることの記載はあるが,「広告情報」や「地図上のエリア」が送信されるとの記載はない。「地図上のエリア」は自動決定モードで用いられるものであるから,競売モードにおける「入札条件」と共に送信されることはない。引用例1発明が,本願発明の「地図上の」「情報を受信する」「情報受信手段」に相当する構成を有すると認定することはできない。
また,引用例1発明において,「広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応情報」は,予めデータベースに格納されているものであり,引用例1には,これらが広告主の情報端末装置から送信されるとの記載はない。したがって,引用例1発明が,本願発明の「前記情報受信手段により受信した前記情報に広告枠を設定し,記憶部に有するデータベースに記憶する広告枠設定手段」に相当する構成を有すると認定することはできない。
引用例1発明には,広告主の情報端末装置から受信した情報に広告枠を設定するとの構成は存在しないから,本願発明の「前記情報に広告枠が設定された後に,ユーザの端末の位置情報を取得する」との構成も,「前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベースから,前記特定手段により特定された広告枠の広告情報を抽出して前記ユーザの端末に送信する」との構成も存在しない。
以上のとおり,審決には,一致点認定の誤り,及び相違点看過の誤りがある。
(4) 引用例2の記載事項の認定の誤り(取消事由4)
審決は,広告枠を地図上の経路に対して設定することは,引用例2の記載事項等から,出願前公知であると認定した。
しかし,引用例2には,「道路沿いの位置(地点)」に広告が設定されることが記載されているにすぎず,「広告枠を地図上の経路に対して設定すること」は,記載も示唆もされていないのであって,審決の上記認定には誤りがある。
被告は,引用例2における「道路区間」が本願発明における「経路」に相当すると主張する。
しかし,引用例2における「道路区間」は,単に地理データベースの構造上の区分にすぎず,本願発明のように端末で設定されるものでも,線描写によって任意に設定できるものでもなく,「経路」とは異なる。
(5) 容易想到性判断の誤り(取消事由5)
引用例1発明,引用例2の記載事項及び周知技術から本願発明が容易想到であるとした審決の判断には,以下のとおり,誤りがある。
ア 引用例1発明は,「通信ネットワークを介して接続された広告主の端末から,地図上の情報を受信する情報受信手段」及び「前記情報受信手段により受信した前記情報に広告枠を設定し,記憶部に有するデータベースに記憶する広告枠設定手段」を有しておらず,広告主の端末からの地図上の情報に広告枠を設定するものではない。また,引用例2では,「仮想広告掲示板」は,プロバイダにより予め設定されるものであり,広告主により設定されるものではない。したがって,引用例1発明及び引用例2に記載された事項から,広告主の端末からの地図上の情報に広告枠を設定するとの構成に至るものではない。
イ また,引用例2に記載された事項は,「道路沿いの位置(地点)」に広告が設定されることであるから,引用例1発明に引用例2に記載された事項を組み合わせても,「経路」に広告が対応付けられる構成に至ることはない。
ウ 引用例1発明において,ナビゲーション装置から送信される「目的地」に対して「広告情報」を提供する場合に,「エリアに対応付けられている広告情報」を「経路に対応付けられている広告情報」へ置き換えると,走行している経路とは異なる経路の広告情報が提供されることとなり,「目的地」に関して「エリア」を「経路」に置き換えることには阻害要因がある。
エ さらに,本願発明では,エリアに代えて地図上の様々な経路に広告主が広告枠を設定できることから,広告主の要求に応じて好みの経路に広告を配信することができるという顕著な効果を有する。しかも,広告主の端末で線描画により任意に経路を設定することができることから,広告主がターゲットとするユーザの端末に対して効率的に広告を行うことができる。このような効果は,引用例1発明や引用例2に記載された事項からは,当業者が容易に想起し得ない効果である。
2 被告の反論
(1) 手続違背(取消事由1)に対して
本願発明は,本件補正前の請求項3に記載された発明を「経路情報」等について補正した発明である。特許請求の範囲が補正されたことから,本件審判における拒絶理由通知と審決の理由とでは,引用例1発明との相違点の認定等が表現上異なっているが,容易想到性の判断の内容について,実質的に異なる点はない。審決は,本件審判での拒絶理由を変更したものではない。この点の原告の主張は,失当である。
(2) 引用例1発明の認定の誤り(取消事由2)並びに一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由3)に対して
引用例1には,移動体広告システムは,自動決定モードと競売モードを切り替え可能であること,自動決定モードにおいても,「対応関係情報を設定する際,同一の広告枠に対する複数の広告主の広告情報の競合が生じた際には,広告供給を行う広告主を競売により決定するようにしてもよい」こと(段落【0024】),また,当該競売に対して「広告主が入力した広告枠の入札条件(入札価格等)を示す入札条件情報を基地局31に送信する機能」を有すること(段落【0020】)が記載されている。したがって,引用例1発明は,「広告主の端末から広告枠の設定条件として地図上の情報を発信する」との構成,及び「広告主の端末から受信した情報に広告枠を設定する」との構成を備えている。
審決の引用例1発明の認定に誤りはなく,一致点,相違点の認定にも誤りはない。
(3) 引用例2の記載事項の認定の誤り(取消事由4)及び容易想到性判断の誤り(取消事由5)に対して
本願明細書によると,本願発明における「経路」とは,現在位置から目的地まで移動する場合の,地図上の道路,線路,航路等の「区画」であり,一般的な用語の意味からして「区間」にほかならない。他方,引用例2における,一方のノードから他方のノードに至る「経路」は「道路区間」である。
したがって,引用例2における「道路区間」は本願発明における「経路」に相当する。
また,引用例2の「仮想広告掲示板」は,道路沿いあるいは道路上の特定の位置を通過するエンドユーザにのみメッセージを伝えるものであるから,本願発明と同様に,地図上のエリアではなく,「経路」に応じて広告を設定することを意図したものである。
引用例1発明において,広告枠を設定するエリアをどのようなものにするかは,当業者が任意になし得る設計事項であり,引用例2には「道路に対して広告を設定すること」が記載されていることから,道路が含まれる地図上のエリアに広告枠を設定することに換えて,引用例2に記載された上記技術事項を採用して,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易になし得ることである。
以上のとおり,審決の引用例2の記載事項の認定,容易想到性の判断には誤りはない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,審決には,引用例2の記載事項の認定及び容易想到性の判断(取消事由4,5)には誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 認定事実(本願明細書,引用例1及び引用例2の各記載)
(1) 本願明細書の記載
本願明細書には,以下の記載がある。また,図1及び図3は別紙本願明細書図1及び同図3のとおりである。(甲6)
「【技術分野】
【0001】 本発明は,経路広告枠設定装置,経路広告枠設定方法及び経路広告枠設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】 現状,広告による宣伝がユーザの購買意欲の向上に貢献することから,広告による宣伝は,企業戦略において重要な要素の1つとなっている。このような状況において,より有益な広告をユーザに行うための様々な広告枠の設定方法が試みられている。例えば,車等の移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して,移動体が走行する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を供給すると共に,移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して供給するための広告情報の広告枠を広告主に販売する移動体広告システムが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002-156234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】 特許文献1に記載の移動体広告システムは,移動体の現在位置,目的地又は現在位置から目的地までの経路に応じて広告情報を配信するものであった。よって,移動体の位置や,予めユーザが目的地を登録することにより決定された経路に応じて広告情報を配信するものであった。そして,特許文献1に記載の移動体広告システムでは,配信する広告情報が地図上の各エリアに対応付けられており,例えば,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であればエリアに対応付けられた移動体の移動位置の周辺の広告情報を配信するものであった。
【0004】 本発明は,広告情報の新たな対応付けとして,エリアに代えて地図上の経路に応じて広告情報を配信可能な経路広告枠設定装置,経路広告枠設定方法及び経路広告枠設定プログラムを提供することを目的とする。」
「【0006】(1) 通信ネットワーク(例えば,通信ネットワーク2)を介して接続された広告主の端末(例えば,広告主端末3)から,地図上の経路に関する経路情報を受信する経路情報受信手段(例えば,経路情報受信手段15)と,
前記経路情報受信手段により受信した前記経路情報に広告枠を設定し,記憶部(例えば,記憶部20,220)に有する経路データベース(例えば,経路DB22)に記憶する広告枠設定手段(例えば,広告枠設定手段16)と,
を備える経路広告枠設定装置(例えば,広告サーバ1,201)。
【0007】(1) このような構成によれば,当該経路広告枠設定装置は,通信ネットワークを介して接続された広告主の端末から,地図上の経路に関する経路情報を受信し,受信した前記経路情報に広告枠を設定し,記憶部に有する経路データベースに記憶する。
【0008】よって,広告情報の新たな対応付けとして,エリアに代えて地図上の様々な経路に広告主が広告枠を設定できるので,広告主の要求に応じて,好みの経路に広告を配信することができる。」
「【0012】(3)前記記憶部(例えば,記憶部20,220)は,前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベース(例えば,広告DB26)を有し,
ユーザの端末(例えば,ユーザ端末5)の位置情報を取得する位置情報取得手段(例えば,位置情報取得手段17)と,
前記位置情報取得手段により取得された前記位置情報を含む前記経路を,前記経路データベースから特定する経路特定手段(例えば,経路特定手段18)と,
前記経路特定手段により特定された前記経路に関連する広告枠の広告情報を,前記広告データベースから抽出して前記ユーザの端末に送信する広告情報送信手段(例えば,広告情報送信手段19)と,
を備えること,
を特徴とする(1)又は(2)に記載の経路広告枠設定装置(例えば,広告サーバ1,201)。
【0013】(3) このような構成によれば,当該経路広告枠設定装置は,前記記憶部に,前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベースを有し,ユーザの端末の位置情報を取得するし,取得された前記位置情報を含む前記経路を,前記経路データベースから特定し,特定された前記経路に関連する広告枠の広告情報を,前記広告データベースから抽出して前記ユーザの端末に送信する。
【0014】よって,経路を移動するユーザの位置を取得することで,ユーザに,取得した位置を含む経路に関連する広告枠の広告情報を送信するので,ユーザが予め目的地を登録する等のユーザによる事前の準備を必要とせず,より有益な広告を配信することができる。」
「【発明の効果】
【0041】本発明によれば,広告情報の新たな対応付けとして,エリアに代えて地図上の経路に応じて広告情報を配信可能な経路広告枠設定装置,経路広告枠設定方法及び経路広告枠設定プログラムを提供することができる。」
「【0043】(第1実施形態)
[システムの全体構成]
図1は,第1実施形態に係る経路広告枠設定システム100の機能構成を示す図である。第1実施形態における経路広告枠設定システム100は,広告サーバ1が通信ネットワーク2を介して,広告主端末3及びユーザ端末5に通信可能に接続されている。
【0044】・・・経路とは,ユーザが自ら又は乗物等により移動可能な,地図上の道路,線路,航路等の線上で表される一定区画をいう。また,広告サーバ1は,ユーザ端末5の位置情報を取得してユーザ端末5の位置を把握することで経路を特定し,経路に関連付けられた広告枠により決定される広告をユーザ端末5に送信する装置である。・・・
【0045】広告サーバ1は,制御部10及び記憶部20を備える。広告サーバ1の制御部10は,さらに入札情報受信手段11,入札情報記憶手段12,落札決定手段13,広告枠単価算出手段14,経路情報受信手段15,広告枠設定手段16,位置情報取得手段17,経路特定手段18及び広告情報送信手段19を有する。・・・また,記憶部20は,経路DB(データベース)22,入札DB24及び広告DB26を有する。」
「【0076】[広告配信処理フロー]
次に,広告サーバ1がユーザ端末5に広告を配信する処理の流れを説明する。図9は,第1実施形態に係る広告配信処理のフローチャートである。図10は,第1実施形態に係る広告DB26の例を示す図である。
【0077】図9において,まず,ステップS31では,制御部10(位置情報取得手段17)は,ユーザ端末5の位置情報を受信する。これは,例えば,ユーザ端末5において,位置情報の発信を可能に設定することで,広告サーバ1が取得することができる。
【0078】次に,ステップS32では,制御部10は,ステップS31で受信したユーザ端末5の位置情報に応じた経路を,経路DB22から検索する。そして,ステップS33では,制御部10は,検索結果として受信したユーザ端末5の位置情報に応じた経路が存在するか否かを判断する。経路が存在する場合(ステップS33:YES)には,制御部10は,処理をステップS34に移す。他方,経路が存在しない場合(ステップS33:NO)には,制御部10は,本処理を終了する。」
「【0080】ステップS35では,制御部10は,ユーザ端末5が画像表示が可能か否かを判断する。これは,ユーザ端末5が,表示部6を有しているか否かを判断する処理である。ユーザ端末5が画像表示可能である場合(ステップS35:YES)には,制御部10(広告情報送信手段19)は,処理をステップS36に移し,広告枠に関する広告の画像データをユーザ端末5に送信した後,処理をステップS37に移す。他方,ユーザ端末5が画像表示が不可である場合(ステップS35:NO)には,制御部10は,処理をステップS37に移す。」
(2) 引用例1の記載
引用例1には,以下の記載がある。また,図2及び図4は,別紙引用例1図2及び同図4のとおりである。(甲1)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,移動体に搭載されたナビゲーション装置に広告を供給するための移動体広告システムに関するものである。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで,本発明の第1の目的は,移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して,移動体が走行する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を効率良く供給できる移動体広告システムを提供することである。
【0004】また,本発明の第2の目的は,移動体に搭載された広告出力装置(ナビゲーション装置)を介して供給するための広告情報の広告枠を効率よく広告主に販売できる移動体広告システムを提供することである。」
「【0009】
【発明の実施の形態】図1および図2は,本発明の一実施形態に係る移動体広告システムのブロック図である。この移動体広告システムは,図1および図2に示すように,契約した各移動体(ここでは車両)に搭載された複数のナビゲーション装置(広告出力装置)1と,広告供給を行うサービスセンタ3とを備えている。ナビゲーション装置1が搭載される移動体としては,車両の他に,二輪車(自転車を含む)や,列車,船舶,飛行機等が考えられる。」
「【0017】広告処理部15bは,ナビゲーション処理部15aから前記現在位置,前記目的地および前記経路のうちの少なくともいずれか一つ(ここでは全て)を示す第1の情報を受け取って,その第1の情報を通信部17を介した無線通信によりサービスセンタ3に送信する機能と,無線通信によりサービスセンタ3から送信されてきた広告情報を通信部17を介して受信して表示部11に表示出力する機能とを有する。また,広告処理部15bは,予め登録されている車両の車種を示す第2の情報を第1の情報と共に通信部17を介してサービスセンタ3に送信する機能も有する。なお,この第2の情報は省略可能である。ここで,ナビゲーション装置1からサービスセンタ3に第1および第2の情報が送信される際には,そのナビゲーション装置1を識別するための識別情報も一緒に送られるようになっている。
【0018】サービスセンタ3は,図2に示すように,基地局31と複数の情報端末装置(入札受付手段)33とを備えている。基地局31は,通信部31a,コンピュータ31bおよびデータベース(記憶手段)31cを備えている。このうち,通信部31aおよびコンピュータ31bが本発明に係る供給処理手段に対応している。
【0019】各情報端末装置33は,パソコン等の操作入力および画像表示の可能なものであり,広告情報の供給を行う各広告主に割り当てられている。各情報端末装置33と基地局31のコンピュータ31bとは無線または有線の通信回線(例えば,電話回線等を用いた通信ネットワーク)を介して接続されており,その通信回線を介して情報送受が可能となっている。
【0020】各情報端末装置33の機能には,基地局31が受信した前述の第1および第2の情報が基地局から転送されてくると,その第1および第2の情報を表示する機能と,広告主が入力した広告枠の入札条件(入札価格等)を示す入札条件情報を基地局31に送信する機能とが含まれている。
【0021】基地局31の通信部31aは,無線電話回線等を用いた無線通信によりナビゲーション装置1との間で情報送受をする機能を有している。
【0022】データベース31cには,各広告主が供給する複数種類の広告情報が格納されている。また,データベース31cには,後述するようにコンピュータ31bが自動的に供給対象となる広告情報を選択する際に用いる対応関係情報も含まれている。この対応関係情報とは,前記第1の情報が示すナビゲーション装置1を搭載した車両の現在位置,目的地,および目的地までの経路のうちの少なくともいずれか一つに対応する地図上のエリアと,各広告情報との対応関係を示している。
【0023】コンピュータ31bは,データベース31cに格納されている対応関係情報に基づいて供給する広告情報を自動的に決定する自動決定モードと,供給する広告情報を競売により決定する競売モードとを切り替え可能に有している。
【0024】自動決定モードでは,ナビゲーション装置1から送信されてきた第1の情報が通信部31aを介して受信されると,データベース31cに格納されている対応情報に基づいて,その第1の情報が示す車両の現在地,目的地あるいは目的地までの経路が含まれる地図上のエリアに対応する広告情報がデータベース31cから読み出されて,通信部31aを介してそのナビゲーション装置1に送信される。なお,対応関係情報を設定する際,同一の広告枠に対する複数の広告主の広告情報の競合が生じた際には,広告供給を行う広告主を競売により決定するようにしてもよい。
【0025】競売モードでは,ナビゲーション装置1から送信されてきた第1および第2の情報が通信部31aを介して受信されると,その第1および第2の情報が通信回線を介して各情報端末装置33に送信される。そして,広告情報の供給を希望する広告主の各情報端末装置33から入札条件を示す入札条件情報が通信回線を介して送信されてくると,その受信した各広告主の入札条件に基づいて実際に広告供給者となるべき広告主が自動的に決定されて,その決定された広告主の広告情報がデータベース31cから読み出されて,通信部31aを介してそのナビゲーション装置1に送信される。この場合の入札条件に基づく決定方法としては,例えば最も高い条件(入札価格等)を出した広告主から順に広告枠を割りあててゆく方法が考えられる。
【0026】すなわち,この競売モードでは,各広告主が,基地局31からリアルタイムで送信されてくる車両の目的地等を示す第1の情報,および車両の車種を示す第2の情報に基づいて,広告を行うべきか否か,およびその広告枠の入札価格等をリアルタイムで決定して広告供給を行うことができるようになっている。」
「【0037】
【発明の効果】請求項1に記載の発明によれば,移動体に搭載されたナビゲーション装置からサービスセンタに移動体の現在位置,目的地および目的地までの経路のうちの少なくともいずれか一つを示す第1の情報が送られ,その第1の情報に基づいて移動体の現在位置,目的地および目的地までの経路のうちの少なくともいずれか一つに対応するエリアに対応付けられている広告情報が,サービスセンタからナビゲーション装置に送られて出力されるようになっているため,移動体が移動する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を,ナビゲーション装置を介して効率良く移動体の搭乗者に供給できる。
【0038】また,広告情報の広告主から広告料を徴収し,その徴収した広告料を利用することにより,ユーザがサービスセンタから道路情報等の情報を無線通信により取り寄せる際の通信料を低減させたり,無料にしたすることができ,システムの利用の普及を図ることができる。
【0039】請求項2に記載の発明によれば,移動体に搭載された広告出力装置の広告枠が,入札受付手段が受け付けた入札条件に基づいて競売により決定されるようになっているため,広告出力装置を介して供給するための広告情報の広告枠を効率よく広告主に販売できる。
【0040】請求項3に記載の発明によれば,サービスセンタ側では,ナビゲーション装置から目的地等を示す第1の情報が送られてくると,その第1の情報が通信回線を介して各広告主の情報端末装置に送られるため,各広告主が,その第1の情報に基づいてリアルタイムで広告枠の競売に参加することができ,その結果,広告枠の販売をより効率良く行うことができる。
【0041】また,移動体の経路等を考慮して広告枠の競売が行われるため,移動体が移動する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を,ナビゲーション装置を介して効率良く移動体の搭乗者に供給できる。」
(3) 引用例2の記載
引用例2には,次の記載がある。また,図11は別紙引用例2図11のとおりである。(甲2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,位置に基づく広告,及びエンドユーザの現在位置から該広告に関連した関心ある地点までの経路情報を提供する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
地理的領域を通って移動する人は,異なる種類のモバイル式又は携帯型コンピューティング・プラットフォームを使用して種々の地理関連の特徴及びサービスを得ることができる。地理関連の特徴及びサービスを提供するモバイル式又は携帯型コンピューティング・プラットフォームは,専用の計算装置及び汎用の計算装置を含む。専用の計算装置には,車載ナビゲーション・システム及び個人用(すなわち,携帯用又は手持ち式)ナビゲーション・システムが含まれる。汎用の計算装置には,携帯型パーソナル・コンピュータ(例えば,ノートブック型コンピュータ)及び個人用携帯情報端末(例えば,PDA)のような装置が含まれる。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
地理関連の特徴及びサービスを提供する現在のモバイル式又は携帯型コンピューティング・プラットフォームは,多くの有用な利点がもたらされるものではあるが,改善の余地は引き続き存在する。改善の余地がある一つの領域は,位置に基づいてエンドユーザに情報を提供することに関する。広告のような幾つかの種類の情報は,ある特定の位置にだけ制限される場合,より有効又は有用であり得る。」
「【0060】E.広告地点
位置に基づく広告メッセージの伝達を容易にするための別の方法は,広告メッセージを伝えることができる位置に通行可能な道路沿いの地点を指定することである。この方法により,地理的領域内の道路に沿った「仮想広告掲示板」の位置が設けられる。次に,ナビゲーション・サービス・プロバイダは,広告主と契約を結び,設けられた「仮想広告掲示板」の位置を通過するエンドユーザにメッセージを伝える。この実施形態によると,道路区間沿いの特定位置に仮想広告掲示板の位置を指定することができる。仮想広告掲示板の位置のために選択された位置は,その位置に関連した広告メッセージが交差点に設けられることになる如何なる走行案内も防げないように,交差点から適切に間隔を置いて配置される。
上述の幾つかの実施形態におけるように,ナビゲーション・サービス・プロバイダ328は,合意により広告メッセージをエンドユーザに伝える。この実施形態において,広告メッセージは,仮想広告掲示板の位置を通り越して移動するエンドユーザに伝えられる。次に,エンドユーザは,その広告メッセージに関連した関心ある地点へ移動するための経路情報を要求することができる。
【0061】この実施形態によると,エンドユーザは地理的領域内の道路に沿って移動する際に,ナビゲーション・サービス・プロバイダ328と通信している。・・・エンドユーザが道路に沿って移動している間,エンドユーザの位置が求められる。ユーザ入力などによるエンドユーザのコンピューティング・プラットフォームに関連した測位装置(例えば,GPS,内部センサなど)のような何らかの手段を用いて,エンドユーザの位置が求められる。地理的領域内の道路を表すデータにエンドユーザの位置を突き合わせる。道路を表すデータはまた,広告メッセージが与えられることになる道路沿いの位置(例えば,仮想広告掲示板の位置)を表すデータを含む。エンドユーザの位置が仮想広告掲示板の位置を通過すると,広告メッセージがエンドユーザに与えられる。」
「【0062】この実施形態は,従来の物理的広告掲示板に優る多数の利点を有している。例えば,仮想広告掲示板は,局所的な条例又は用途地域制限の支配を受けない。更に,仮想広告掲示板によって与えられた広告メッセージは,容易に変えることができる。
図11は,この実施形態を示す。」
2 取消事由4,5(容易想到性の有無等)について
上記認定事実に基づき,審決の認定に係る本願発明の引用例1発明との相違点について,引用例2の記載事項及び周知事項により容易想到であるかを判断する。
(1) 本願発明の解決課題及び解決手段について
本願発明は,車等の移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して,移動体が走行する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を提供する移動体広告システムにおける経路広告枠設定装置に関する発明である。従来の移動体広告システムは,移動体の位置や,予めユーザが目的地を登録することにより決定された経路に応じて広告情報を配信するものであったが,配信する広告情報が地図上の各エリアに対応付けられていたため,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうという解決課題があった。本願発明は,エリアに代えて地図上の経路に応じて広告情報を配信可能な経路広告枠設定装置を提供することを目的とするものである。
本願発明における経路広告枠設定装置は,通信ネットワークを介して広告主の端末と接続しており,この広告主の端末から,地図上の経路に関する,線描写によって設定された経路情報を受信し,受信した前記経路情報に広告枠を設定し,記憶部に有する経路データベースに記憶するとの構成を有するものであり,広告主は,地図上の様々な経路に広告枠を設定することができるとするものである。そして,ユーザの端末からユーザの位置情報を取得し,当該位置情報を含む経路を特定して,当該経路に関連する広告枠の広告情報をユーザの端末に送信する。
(2) 容易想到性の有無
引用例1発明は,広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデータベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出して,ナビゲーション装置に送信するという,移動体広告システムの発明であり,本願明細書が言及するとおり,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうとの未解決の課題を残した発明である。
他方,引用例2は,車載ナビゲーション・システム等を使用した,位置に基づく広告の提供方法に関する発明を記載したものである。引用例2には,広告メッセージを伝えることができる位置として,通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,ナビゲーション・サービス・プロバイダは広告主との契約に基づき,設けられた「仮想広告掲示板」の位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの技術事項が記載開示されている。引用例2に記載された上記技術は,通行可能な道路沿いの特定位置を通過するユーザに対して,広告メッセージを伝えるものであり,広告メッセージが送信されるのは,ユーザが特定の位置を通過した時点である。
広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデータベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出して,ナビゲーション装置に送信するという発明である引用例1発明と,通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの引用例2に記載された技術事項を組み合わせたとしても,本願発明における地図上の経路に広告枠を設定するとの構成に至ることはない。また,引用例1発明に引用例2の記載事項を組み合わせても本願発明における上記構成に至らない以上,経路を線描写によって設定することが周知事項であったとしても,引用例1発明に引用例2の記載事項及び上記周知事項を組み合わせることにより本願発明の上記構成に至ることはない。
したがって,広告枠を地図上の経路に対して設定することが引用例2の段落【0060】及び【0061】の記載並びに図11から出願前公知であるとして,経路を線描写によって設定することが周知事項であることを考慮し,引用例1発明の地図上のエリアとして引用例2の記載事項にあるような道路区間(経路)を採用し,相違点の構成とすることが当業者において容易になし得ることであるとした審決の判断には誤りがある。
(3) 被告の主張に対して
被告は,引用例2における「道路区間」は本願発明における「経路」に相当し,引用例2には「道路(経路)に対して広告を設定すること」が記載されているのであるから,引用例1発明に引用例2に記載の技術事項を採用して,相違点に係る構成に至るのは容易であると主張する。
しかし,引用例2に記載された「道路区間」の語は,仮想広告掲示板を設定する「道路区間」沿いの位置を特定する文脈の中で用いられたものであって,広告枠を設定する対象を意味するものとして用いられた語ではない。したがって,引用例2における「道路区間」と本願発明における「経路」とは,技術的意義において相違する。引用例2においては,移動体が当該道路区間上を移動中であったとしても,当該特定位置に至らない限り,広告メッセージは配信されないのであるから,「広告枠を経路情報に設定」することが記載されているとはいえず,被告の主張は失当である。
(4) 小括
以上のとおり,審決の引用例2の記載事項の認定及び容易想到性の判断には誤りがある。
3 結論
以上によると,原告主張の取消事由4及び5には理由があり,その余の点を判断するまでもなく,審決にはその結論に影響を及ぼす誤りがある。よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)