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知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10155号 判決 2014年1月27日

原告

日進医療器株式会社

訴訟代理人弁理士

山本文夫

関根由布

津国肇

柳橋泰雄

生川芳徳

被告

株式会社ミキ

訴訟代理人弁護士

乾てい子

訴訟代理人弁理士

宇佐見忠男

主文

特許庁が無効2011-800069号事件について平成25年4月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた判決

主文同旨。

第2事案の概要

本件は,特許無効審判請求不成立審決の取消訴訟である。争点は,①引用発明認定の誤りの有無,②本件発明と引用発明との相違点認定の誤りの有無及び③当該相違点判断の誤りの有無である。

1  特許庁における手続の経緯

(1)  訂正前発明

原告は,名称を「車椅子」とする発明についての本件特許(特許第3993996号)の特許権者である。(甲1)本件特許は,平成13年10月23日に出願した特願2001-325007号に係るものであり,平成19年8月3日に設定登録(請求項の数3)された。(甲1)

(2)  審判の経過

ア 一次審決

原告が,平成23年4月22日付けで本件特許の請求項1に係る発明についての特許の無効審判請求(無効2011-800069号)をしたところ,被告は,平成23年11月24日付けで訂正請求をし,特許庁は,平成24年3月1日に「訂正を認める。特許第3993996号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(一次審決)をした。(甲2,12,50)

一次審決について,被告は,その取消しを求めて知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(平成24年(行ケ)第10132号)を提起するとともに,平成23年法律第63号による改正前の特許法126条2項に規定する法定期間内に,平成24年7月6日付けで訂正審判請求(訂正2012-390089号)をした。(甲51,75)

上記訂正審判請求について,特許庁は,平成24年11月9日に「特許第3993996号に係る明細書を,本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決をし,同審決は平成24年11月19日に確定した。(甲73,76)

上記訂正の確定登録によって本件発明が減縮訂正されたため,知的財産高等裁判所は,平成24年12月19日,一次審決を取り消す旨の判決をし,同判決はそのころ確定した。(甲75)

イ 二次審決

一次審決が取り消されて審判官に差し戻されたことから,特許庁は,更に審理をし,平成25年4月26日に「本件審判請求は,成り立たない。」との審決(二次審決)をし,その謄本は同年5月9日原告に送達された。

二次審決について,原告は,その取消を求めて本件訴訟を提起した。

ウ 訂正審決

二次審決が認定しその判断の前提とした発明と,二次審決時に確定登録されていた本件特許の請求項1に記載されていた発明とが異なっていたことから,被告は,その一致を図るため,平成23年法律第63号による改正前の特許法126条2項に規定する法定期間内に,平成25年7月18日付けで訂正審判請求(訂正2013-390103号)をし(本件訂正),特許庁は,平成25年8月16日に「特許第3993996号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決をし,同審決は,そのころ確定した。(乙10,11)

これにより,二次審決がその審決時の発明と異なる発明を認定し判断の対象とした瑕疵は治癒された。

2  本件発明の要旨

上記平成25年7月18日付け審判請求書による訂正(本件訂正)後の本件特許の請求項1の発明(本件発明)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。(乙10,11)

「【請求項1】左右側枠を一個または二個以上のX枠で連結した構造であって,該X枠は中央で相互回動可能に結合され,下端部を該左右側枠下部に枢着した一対の回動杆からなり,該一対の回動杆の各上端には上側杆がそれぞれ取り付けられ,各下端には下側杆がそれぞれ取り付けられ,該上側杆は上記左右側枠に具備されている座梁部に取り付けられている杆受けにそれぞれ支持されるように設定されており,該回動杆の下側杆は左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介して該左右側枠下部に枢着されており,該左右側枠下部には前後一対の下側杆取付部が取り付けられており,該下側杆取付部には,該左右側枠に沿う方向を向き,かつ該枢軸を支持するための軸穴がそれぞれ複数個上下に相対して配列して設けられており,該回動杆下端の下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて,該車椅子の使用者の体形に応じて調節される巾に対応して該下側杆取付部の複数個の軸穴のうちの一つを選択して該軸穴に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させることによって,該X枠の上端部は該左右側枠に対して上下位置を変えることなく,かつ該X枠の長さを変えることなく該車椅子の巾を調節可能にしたことを特徴とする車椅子。」

なお,後記当事者の主張の理解の参考として,ここに甲1の図2,図5及び図6を掲記する。

file_2.jpgfile_3.jpgfile_4.jpg(273  審決の理由の要点

(1)  引用発明

ドイツ連邦共和国実用新案第29721699号明細書(引用例〔甲3の1・2〕)には,次の発明(引用発明)が記載されている。

「2つのサイドフレーム部材21はクロスバー28によって互いに接続されており,

クロスバー28は,交差点で回転ジョイントによって互いに接続された2つのリンクである,ダブルリンク29,29’と,シングルリンク30とからなり,

それら2つのリンクは,それぞれの上端部に,上側フレームパイプ22に固く取り付けられた係止部33と形状結合的に係合するためのシートパイプ32を備えており,また,それら2つのリンクは,それぞれの下端部に,サイドフレーム部材21の下側フレームパイプ23に沿った方向に,固く接続された軸受パイプ41を備えており,

当該各軸受パイプ41の端部は,軸受ブロック42に枢着され,さらにサイドフレーム部材21に支持されており,

当該軸受ブロック42は,サイドフレーム部材21の上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えば前記穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって固く着脱可能に接続して用いられて,各リンクの下端部に接続された軸受パイプ41を異なった高さ位置でサイドフレーム部材に枢着せしめることにより,

座部の高さを変えることなく,かつ,クロスバー28の長さを変えることなく,車台フレームの幅を調整してユーザの体格に適応可能とした,車椅子。」

上記記述の参考として,甲第3号証の1の図2a,図3及び図4を掲記する。

file_5.jpgfile_6.jpg(2)  相違点

本件発明は,①下側杆の枢支態様が,「左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介して」なされるものであり,②下側杆の支持態様が,「枢軸を支持するため」の「軸穴」を,「下側杆取付部」に「複数個上下に相対して配列して」設け,「下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて」,「該軸穴に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させる」ものであるのに対し,

引用発明は,①軸受パイプ41(下側杆に相当)の枢支態様が,軸受パイプ41を2つの軸受ブロック42に掛け渡して枢支するものであって,「引き抜き可能に挿通支持」する「枢軸を介して」枢支を行うものでなく,また,②軸受パイプ41の支持態様が,それを枢支する軸受ブロック42を,サイドフレーム部材間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えばねじによって固く着脱可能に接続するものである点。

(3)  無効理由1(引用発明との同一性)についての判断

本件発明と引用発明とには上記(2)の相違点があるから,本件発明は引用発明でない。

(4)  無効理由2(引用発明と周知技術に基づく容易想到性)についての判断

ア 下側杆の枢支態様について

引用発明において,軸受パイプ41の端部を,2つの軸受ブロック42に枢着する態様に代えて,軸受パイプ内部に軸棒を挿通し,軸受パイプを枢動可能に支持する,すなわち,下側杆の左右側枠下部への枢支態様を,本件発明のごとく「左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介して」なされる態様に変更することは,当業者が適宜なし得る事項であるといえる。

イ 下側杆の支持構造について

審決は,引用発明に上記アの改変を加えたことを前提にする次のような更なる改変を行うことについての記載や示唆のある刊行物はなく,同改変は当業者にとって容易ではないとした(なお,必要に応じて本判決の略語等に読み替えている。)。

「本件発明の支持構造の要部は,“下側杆を,左右側枠下部に取り付けられている前後一対の下側杆取付部間に位置させ,前記下側杆に挿通せしめられる枢軸を支持するため,前記下側杆取付部に設けられている軸穴に,該枢軸を引き抜き可能に挿通して支持する”(以下「本件発明支持構造」という。)というものである。

一方,引用発明の軸受パイプ41(下側杆)を車椅子に支持するための構造は,…“軸受パイプ(下側杆)の支持部材である軸受ブロックを介して支持されるものであって,当該軸受ブロックはサイドフレーム部材(左右側枠)に着脱可能に固く接続される構造”(以下「引用発明支持構造」という。)である。

この引用発明支持構造に対して上記アで述べた事項に係る変更を行うならば,前記の引用発明支持構造は,軸受パイプ(下側杆)内に,当該軸受パイプを枢動自在に支持する枢軸を設けるように変更されるものの,その枢軸は,左右側枠に沿った方向に配設され,前記枢軸の支持部材となる何らかのブロックを介して支持され,当該ブロックはサイドフレーム部材に着脱可能に固く接続される構造に変更されるにすぎない。

そうすると,引用発明支持構造を変更して本件発明支持構造とするためには,枢軸の支持部材となる何らかのブロックを廃し,軸受パイプをサイドフレーム部材の保持コンソール間に位置せしめられるようにして,枢軸を直接支持するための穴を,サイドフレーム部材の保持コンソールに対向して設ける,というさらなる改変を行う必要があるといえる。」

(5)  無効理由3(引用発明と,特開2001-245935号公報〔甲46〕,特開平11-318988号公報〔甲79〕,特開平11-192266号公報〔甲80〕及び米国特許第6227559号明細書〔甲81〕に記載の発明に基づく容易想到性)についての判断

上記(4)と同旨。

(6)  まとめ

本件発明は,特許法29条1項3号及び2項のいずれの規定に違反して特許されたものでもないから,同法123条1項2号に該当して無効とすべきものであるということはできない。

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(引用発明認定の誤り)

①  審決は,引用発明の構成を,「それら2つのリンクは,それぞれの下端部に,サイドフレーム部材21の下側フレームパイプ23に沿った方向に,固く接続された軸受パイプ41を備えて(いる)」と認定する(10頁6~8行目)。

しかしながら,引用例には「リンクの下端部に,軸受パイプがそれぞれ固く接続されて(いる)」(訳文〔甲3の2〕2頁11行目)と記載されており,軸受パイプ41が下側フレームパイプ23に沿った方向に固く接続されていることはない。

②  審決は,引用発明の構成を,「当該各軸受パイプ41の端部は,軸受ブロック42に枢着され(ている)」と認定し(10頁9行目),また,「軸受パイプ41の端部は,『軸受ブロック42に枢着され,さらにサイドフレーム部材21に支持され』るものであることからして,…『軸受ブロック42』は軸受パイプ41を枢支する」と認定し(17頁5~7行目),軸受パイプ41の端部自体が軸受ブロック42に直接枢着されているとし,軸受パイプ41には軸がないとしている。

しかしながら,[1]引用例には,「軸受パイプ41の端部は,軸受ブロック42に軸が固定されているが,回動可能に支承されている。」(訳文3頁24~25行目)と記載されていること,[2]引用例の図3(Fig.3)と図4(Fig.4)には,軸受パイプ41と軸受ブロック42が受けている軸がはっきりと図示されていること,[3]引用例の図2a(Fig.2a)と図2b(Fig.2b)には軸受パイプ41と軸受ブロック42とがほぼ同一の直径で記載され,軸受パイプ41と同径の軸受ブロック42が軸受パイプの端部を枢支できない構成となっており,[4]引用例には「軸受パイプ」及び「軸受ブロック」と記載されており,その記載のとおり,いずれも軸を受けるためのパイプ及びブロックと解釈すべきことが認められる。

したがって,軸受パイプ41と軸受ブロック42とのいずれもが軸を受けており,引用発明の軸受パイプ41は,この軸を軸受ブロック42に固定することで回動可能に支承されているものである。引用例の「axialfest」(原文8頁〔頁数は右上欄のものによる。以下同様。〕19行目)は,「軸が(axial)固定されている(fest)」との意味と,引用例の「in Lagerbröcken 42」(原文8頁19行目)は,引用例の図2a(Fig.2a)と図2b(Fig.2b)に軸受パイプ41の両端部が軸受ブロック42の中に入っていないように図示されていることから,「軸受ブロック42に」との意味とそれぞれ解するべきである。

③  審決は,「各軸受パイプ41の端部は,軸受ブロック42に枢着され,さらにサイドフレーム部材21に支持されて(いる)」と認定する(10頁9~10行目)。

しかしながら,引用例には,「軸受ブロック42は,保持コンソール36から車椅子内側に突出し,かつこれらの保持コンソールと公知の態様で固く,しかし,例えば穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって着脱可能に接続されている。」(訳文3頁25~27頁)と記載されており,軸受パイプ41を支持しているのは,サイドフレーム部材21ではなくて保持コンソール36である。

④  審決は,「『上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間に延在する保持コンソール36』からなる『2つのサイドフレーム部材21』」と認定する(16頁13~15行目)。

しかしながら,引用例には,「図1に示される車台フレーム1は2つのサイドフレーム部材2を具備し,サイドフレーム自体は上側フレームパイプおよび下側フレームパイプ3,4を1つずつと,これらを互いに接続する前側フレームパイプおよび後側フレームパイプ5,6とからなる。」(訳文2頁31~33行目)との記載と,「図2~図4に示された本考案に係る車台フレーム20は,図1に示された車台フレーム1と全く類似に,2つのサイドフレーム部材21を有し,これらのサイドフレーム部材は,それぞれ1つの上側フレームパイプおよび下側フレームパイプ22,23と,これらを互いに接続する前側フレームパイプおよび後側フレームパイプとからなる。」(訳文2頁50行~3頁3行目)」との記載がある。これら記載及び図1(Fig.1)によれば,保持コンソール36は,2つのサイドフレーム部材21の構成要素ではなく,2つのサイドフレーム部材21に取り付けられた別部材である。

⑤  以上のとおり,審決の引用発明認定には,誤りがある。

2  取消事由2(相違点認定の誤り)

①  審決は,本件発明と引用発明との相違部分を導くに当たり,本件発明は「下側杆の枢支態様が,『左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介して』なされる」と認定している(18頁14~15行目)。

しかしながら,引用発明の軸受パイプ41は,2つのサイドフレーム部材21に沿った方向に配設されており,この軸受パイプ41に挿通された軸を軸受ブロック42で固定することで回動可能に支承されている。

したがって,上記認定部分は,引用発明との相違点には含まれない。

②  審決は,本件発明と引用発明との相違部分を導くに当たり,本件発明は「下側杆の支持態様が,『枢軸を支持するため』の『軸穴』を,『下側杆取付部』に『複数個上下に相対して配列して』設け(る)」と認定している(18頁15~17行目)。

しかしながら,引用発明の保持コンソール36及び軸受ブロック42は,いずれも軸受パイプ41を2つのサイドフレーム部材21に取り付けるための部材であり,本件発明の「前後一対の下側杆取付部」に相当する。そして,引用発明の保持コンソール36の穴38は,軸受ブロック42に固定された軸受パイプ41の軸に掛かる荷重を支持している。

したがって,上記認定の相違部分中,相違点に含まれるのは,[1] 本件発明は,枢軸を軸穴に直接支持させているのに対し,引用発明は,軸受パイプ41の軸を軸受ブロック42を介して穴38に支持させている点(相違点1)と,[2]本件発明の軸穴は左右側枠に沿う方向を向き相対しているのに対し,引用発明は,保持コンソール36の穴38が2つのサイドフレーム部材21に沿う方向と90°に交差する方向を向いている点(相違点2)に限られる。

③  審決は,本件発明と引用発明との相違部分を導くに当たり,本件発明は「『下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させ…』(る)」と認定する(18頁17行目)。

しかしながら,引用例の図2a(Fig.2a)と図2b(Fig.2b)によれば,引用発明の軸受パイプ41は,軸受ブロック42及び保持コンソール36との間に位置している。

したがって,上記認定部分は,引用発明との相違点には含まれない。

④  審決は,本件発明と引用発明との相違部分を導くに当たり,引用発明は「軸受パイプ41(下側杆に相当)の枢支態様が,軸受パイプ41の端部が2つの軸受ブロック42に枢着されるものであることからして,軸受パイプ41を2つの軸受ブロック42に掛け渡して枢支するものであって,『引き抜き可能に挿通支持』する『枢軸を介して』枢支を行うものではな(い)」と認定する(18頁20~24行目)。

しかしながら,引用発明は,軸受パイプ41に挿通された軸を軸受ブロック42で固定することで回動可能に支承されている。

したがって,上記認定の相違部分中,相違点に含まれるのは,本件発明は,軸穴に枢軸を引き抜き可能に挿通支持させるのに対し,引用発明は,軸受パイプ41の軸を軸受ブロック42を介して穴38に支持させている点(相違点3)に限られる。

⑤  審決は,本件発明と引用発明との相違部分を導くに当たり,引用発明は「軸受パイプ41の支持態様が,それを枢支する軸受ブロック42を,サイドフレーム部材間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えば,ねじによって固く着脱可能に接続する」と認定する(18頁24~27行目)。

しかしながら,引用発明の軸受パイプ41は2つのサイドフレーム部材21に沿った方向に配設されており,この軸受パイプ41に挿通された軸を軸受ブロック42で固定することで回動可能に支承されている。

したがって,上記認定の相違部分中,軸受パイプ41が軸受ブロック42に枢支されているとする点は本件発明との相違点に含まれない(なお,その余の相違する部分については上記②と同旨である。)。

⑥  以上のとおり,審決の相違点認定には,誤りがある。

3  取消事由3(相違点判断の誤り)

(1)  下側杆の枢支態様に係る判断について

審決の下側杆の支持構造に係る判断(19頁8~13行目)は,引用発明が軸受パイプ41の端部を2つの軸受ブロック42に枢着する態様を採用しているという誤った前提であったため,その相違点判断も誤りである。

(2)  下側杆の支持構造に係る判断について

引用例には,引用発明の技術思想が「サイドフレーム部材をクロスバーによって互いに接続した車台フレームでは,本考案の一展開形態により,リンクの下端部とサイドフレーム部材との枢着点の高さが変更可能であるように形成することが合目的的であることが明らかになった。車台フレームの幅調節は,クロスバーリンクの下端部をどの高さポジションで車台フレームのサイドフレーム部材に枢着するかに依存して行われる。」(訳文1頁41~45行目)ものであるとする記載があり,この記載を引用発明に当てはめれば,引用発明のダブルリンク29,29’とシングルリンク30の下端部に接続された軸受パイプ41に挿通された軸の支持位置の高さを変更可能であるように形成し,この軸の両端部を固定する軸受ブロック42を保持コンソール36のいずれかの穴38に着脱自在に接続することが該当する。

結局,軸受パイプ41に挿通された軸の支持位置が高さ方向に変更可能であればよいのであって,軸の支持構造は,実施形態に記載された軸受ブロック42を介した支持構造に限らず,本件特許出願前の周知技術を広く適用することができる。

したがって,当業者であれば,軸受パイプ41に挿通された軸を保持コンソール36の穴38で直接支持して回動自在に又は回動可能に取り付けることは,極めて容易である。そして,引用発明の軸受パイプ41に挿通された軸を保持コンソール36の穴38に枢着又は枢支するのであれば,サイドフレーム部材21の前後に取り付けられた保持コンソール36の向きは,軸の両端部を支持するために必然的に90°変更されることになり(なお,引用発明の保持コンソール36には,複数個の穴38が既に設けてあり,審決のいうような「枢軸を直接支持するための穴を,…保持コンソールに対向して設ける」〔20頁5~7行目〕という改変手順は必要ない。),軸受ブロック42も当然に廃されることになる。この結果,引用発明は本件発明と全く同一の構成になる。

また,本件発明の作用効果(本件明細書【0005】~【0008】【0022】)は,引用発明の作用効果と何ら変わりがない。

したがって,審決の相違点判断には,誤りがある。

第4被告の反論

1  取消事由1(引用発明認定の誤り)に対して

①  審決は,引用発明の構成に関して,「『(クロスバー28の)の2つのリンク』は,下端部に,サイドフレーム部材21の下側フレームパイプ23に沿った方向,すなわち,サイドフレーム部材21に沿った方向に設けられた軸受パイプ41を備えて(いる)」と認定している(17頁2~5行目)。

したがって,審決は,リンク29,29’と30のそれぞれの下端部は,当該下端部に接続された軸受パイプ41を備えており,当該軸受パイプ41は,サイドフレーム部材21の下側フレームパイプ23に沿った方向に配されていると認定したのである。

②  [1]引用例(原文8頁18~19行目)には,「Die Enden der Lagerrohre 41 sind in Lagerbröcken 42 axialfest,」(軸受パイプ41〔Lagrrohre〕の端部〔Enden〕は,軸受ブロック42の中に〔in Lagerböcken 42〕,軸的に固定されている〔axialfest〕)と記載されている。「axial」(軸的に)は,回転中心が固定されていることを意味し,実際に軸という部材が存在するわけではない。独語で軸を意味する用語は「Achse」である。[2]引用例の図3(Fig.3)と図4(Fig.4)に図示されたリンク29,30の下端部の部材は,図2a(Fig.2a)と図2b(Fig.2b)を参照すると,明らかに軸受ブロック42と認められる。引用例の図3(Fig.3)と図4(Fig.4)には,軸受ブロック42の側面が示されているのであり,軸受ブロック42の側面に貫通して現れた軸受パイプ41の側面が示されているのではない。[3]引用例の各図面は,設計図ではなく説明図であり,図示されたものの形状,方法や配置が正確に表示されているものではない。[4]上記[1]の部分の正確な訳は,「支承チューブ41(Lagerrohre 41)の両端部は,支承ブロック42(Lagerbröcken 42)の中に,軸的に固定されている」であり,支承チューブ41には軸が具備されていないことは明確である。

③  審決は,「『各軸受パイプ41の端部は,軸受ブロック42に枢着され,さらにサイドフレーム部材21に支持され』る,という構造,すなわち,“軸受パイプ(下側杆)の支持部材である軸受ブロックを介して支持される構造”であって,『当該軸受ブロック42は,サイドフレーム部材21の上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えば前記穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって固く着脱可能に接続して用いられ』るもの,すなわち,“当該軸受ブロックはサイドフレーム部材に着脱可能に固く接続される構造”である。」と認定し(19頁23~31行目),また,「軸受ブロック42は,サイドフレーム部材21の上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えば前記穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって固く着脱可能に接続して用いられ(る)」と認定し(10頁11~15行目),保持コンソール36に触れている。

④  引用例には,「両サイドフレーム部材21には,クロスバー28の両側に,ダブルリンク29,29’およびシングルリンク30のそれぞれの下端部を枢着するためのそれぞれ同様に形成された保持コンソール36が2つずつ,走行方向に離間して配置されている。」(訳文3頁12~14行目)との記載があり,これによれば,引用発明のサイドフレーム部材21の構成要素として保持コンソール36を入れることは,何ら差支えがない。

⑤  以上のとおり,審決の引用発明認定には,誤りはない。

2  取消事由2(相違点認定の誤り)に対して

①  引用発明の軸受パイプ41内に引き抜き可能に挿通される軸があるとは認められない。

②  原告の前記第3,2②の主張は,争う。

③  審決は,本件発明は,「『下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて』」かつ「『該軸穴に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させる』」のに対して,引用発明は,「軸受パイプ41を2つの軸受ブロック42に掛け渡して枢支するものであって」かつ「『引き抜き可能に挿通支持』する『枢軸を介して』枢支を行うものではな(い)」と認定しているのであり(18頁14~27行目),本件発明の「下側杆を前後一対の下側杆取付部間に位置させる」構成のみを個別に対比して相違点を導いているのではない。

④  引用発明の軸受パイプ41内に引き抜き可能に挿通されている軸があるとは認められない。

仮に軸受パイプ41内に挿通されている軸が存在していたとしても,当該軸は軸受ブロック42に固定されており,引き抜き可能に挿通されていないのであるから,本件発明の下側杆の枢支態様と引用発明の軸受パイプ41の枢支態様とが相違するとした審決の認定に誤りはない。

⑤  原告の前記第3,2⑤の主張は,争う。

⑥  以上のとおり,審決の相違点認定には,誤りはない。

3  取消事由3(相違点判断の誤り)に対して

(1)  下側杆の枢支態様に係る判断について

軸受ブロック42に引き抜き可能に挿通されている軸は存在しないので,原告の主張は失当である。

(2)  下側杆の支持構造に係る判断について

① 審決が引用発明として認定したのは,引用例の実施態様に開示されている技術であるから,引用例の実施態様に開示されていない技術を引用発明とすることなどはできない。

② 引用発明の構成を本件発明の構成に改変するには,[1]軸受ブロック42を廃すること(改変1),[2]保持コンソール36に軸を直接支持するための軸穴を対向して設けること(改変2),[3]軸受パイプ41に引き抜き可能に挿通する軸を具備すること(改変3)という3段階の改変が必要である。本件発明は上記3つの改変によって,引用発明からは予測できない作用効果を奏するものである。

③ 審決が,引用発明の軸受パイプ41(下側杆)を支持するための構造に改変を加えて本件発明の支持構造を採用することについての記載やその示唆をする刊行物がないとしたことに,誤りはない。

[1] 米国特許第6,227,559号明細書(甲81)に記載の車椅子(甲81発明)は,クロスブレイスメンバー38の上下端をサイドフレーム12に接続するために,サイドフレーム12の上下のサイドレール28,30にグロータブ72,58を取り付け,上下のグロータブ72,58のそれぞれに横方向に一定の間隔を置いて複数個の孔84,68を設け,複数個の孔84,68のいずれかに合わせてファスナー98,70を挿通して止めることによって高さを変えずに巾を調節するものである。

しかしながら,甲81発明においては,X枠の回動杆に相当するクロスブレイスメンバー38が,直接グロータブ58の孔68の1つに枢着されるのに対して,本件発明においては,X枠の回動杆下端部が下側杆と枢軸とを介して下側杆取付部の軸穴の1つに枢着されるのであり,甲81発明には本件発明の下側杆に相当するものが存在しない。

したがって,甲81発明は,本件発明や引用発明とは,全く目的,構成,機能,ひいては技術的意義が異なる発明であり,引用発明に甲81発明の下側グロータブ58を適用しても本件発明にならない。

[2] 実公昭43-3460号公報(甲65)に記載の歩行補助車(甲65発明)は,本件発明のX枠の回動杆に相当する金具7,7’が,下側杆に相当する連結管4に取り付けられておらず,枢軸に相当する支軸8に直接取付けられている(第1頁右欄19~23行目)。また,下側杆取付部に相当する部材も存在しない。

したがって,甲65発明は,本件発明とは,構成,作用効果,機能,ひいては技術的意義が全く異なる。

[3] 実願昭50-41068号(実開昭51-120804号)のマイクロフィルム(甲8)に記載の椅子の折り畳み装置は,巾調節を目的としたものではない。

[4] 特開昭59-108550号公報(甲9)に記載の身体障害者用折り畳み式ひじ掛いす(甲9発明)は,車椅子の支持枠の側板7,7’を斜支柱16,16’で連結したものであるが,斜支柱16,16’の下端は,筒状スリーブ26を介して側板7,7’の下縁に取り付けられているものの,筒状スリーブ26は上下位置を固定されている。この発明の骨子は,両側板と斜支柱とを緩衝部材で連結することにある。

したがって,甲9発明の筒状スリーブは,本件発明の下側杆とは,機能,ひいては技術的意義が全く異なる部材である。

[5] 特開平11-318988号公報(甲79)に記載の椅子(甲79発明)は,リンク9,10の端部に枢軸11~14を連結し,枢軸11~14を座受板28の両側片の通孔30,31に挿入し,該枢軸11~14にピンボルト32,33を差し込み,枢軸11~14の螺軸端にナット34,35をねじ込む構成を有するものであるが,ピンボルト32,33はナット34,35によって固定され,本件発明の枢軸のように引き抜き可能となっていない。またピンボルト32,33の通孔30,31も縦に複数個並設されておらず,該枢軸11~14は上下位置を固定されている。

したがって甲79発明の枢軸は,本件発明の下側杆とは,課題,構成,作用効果ひいては技術的意義が全く相違する。

第5当裁判所の判断

1  認定事実

(1)  本件発明について

ア 本件明細書の記載

平成21年11月6日付け訂正請求書,平成23年11月24日付け訂正請求書(甲12),平成24年7月6日付け訂正審判請求書(甲51)及び平成25年7月18日付け訂正審判請求書(乙10)によって訂正された本件発明に係る明細書及び図面(本件明細書)には,次の記載がある。

「【発明の詳細な説明】

【0001】

【産業上の利用分野】

本発明は巾調節できる車いすに関するものである。

【0002】

【従来の技術】

従来巾調節可能な車椅子は提供されていない。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】

…使用者の体形に応じて車椅子(9)の巾を調節しなければ,車椅子(9)に乗った人が車輪(91)を手で回す時,車輪(91)の巾が広すぎたり狭すぎたりして車輪(91)を回し易い位置に手をおくことが出来ないという問題点があった。」

「【0005】

【作用】

本発明では車椅子(1)の左右側枠(3,3)は前後一対のX枠(11,12)により連結され,該X枠(11,12)の回動杆(11A,11A,12A,12A)を中心Cを支点に回動させれば,…X枠(11,12)の巾,すなわち左右側枠(3,3)間の巾を調節することができる。このとき該X枠(11,12)は縦巾も変化するが,該回動杆(11A,11A,12A,12A)下端部の該左右側枠下部取付け位置が車椅子の所望の巾に対応して上下調節可能にされているので,縦巾が変化してもそれに対応して該左右側枠(3,3)を連結でき,該回動杆の上端部の上下位置,即ち座の上下位置は変化しない。

【0006】

具体的には該回動杆(11A,11A,12A,12A)下端部は,枢軸(26)を介して該側枠(3,3)下部に取り付けられており,該枢軸(26)は該側枠(3,3)下部に設けられた上下に配列している複数個の軸穴(13A,13B,13C)のうちの一つに支持されるのであるが,該回動杆(11A,11A,12A,12A)下端部を複数個の該軸穴(13A,13B,13C)のうちの一つを選び該軸穴に合わせて該枢軸(26)を挿通することによって枢着して座の高さを変えることなく該側枠(3,3)間の巾すなわち車椅子(1)の巾を段階的に調節できる。」

「【0009】

【発明の実施の形態】

…車椅子(1)の本体(2)は左右一対の側枠(3,3) からなり該側枠(3,3) は座梁部(4),前後脚柱部(5,6),アームレスト部(7),背柱部(8),フットレスト支持梁(9)および下梁(10)からなり,該側枠(3,3) は前後一対のX枠(11,12) によって結合されている。」

「【0012】

左右の側枠(3,3)を連結している前後一対のX枠(11,12)は図5に示すようにそれぞれ一対の回動杆(11A,11A)および一対の回動杆(12A,12A)からなり,該一対の回動杆(11A,11A,12A,12A) はそれぞれ中心Cを支点に相互回動可能に結合しており,該一対のX枠(11,12)の上端において一対の円筒状の上側杆(17,17)が,下端においては一対の円筒状の下側杆(18,18)が差し渡され溶接されている。」

「【図5】

file_7.jpg」

「【0013】

また図6に示すように該側枠(3)下部の下梁(10)には前後一対の角柱状の下側杆取付け部(13,13)が溶接され,該下側杆取付部(13,13)には左右側枠(3,3)に沿う方向を向き,かつ枢軸(26)を支持するための軸穴(13A,13B,13C) が複数個(3個)上下に配列して設けられている。…また該側枠(3)の座梁部(4)には前後一対の杆受け(16,16)が取り付けられている。」

「【図6】

file_8.jpg」

「【0015】

該X枠(11,12)により該側枠(3,3)を連結するには,該X枠(11,12)の円筒状の下側杆(18)を下側杆取付部(13,13)のいずれかの軸穴(13A,13B,13C)例えば軸穴(13A)に合わせ,該左右の側枠(3,3)に沿った方向に配設されている軸である枢軸(26)を,該軸穴(13A,13A)および円筒状の下側杆(18)の内部に挿通して支持する。この時該X枠(11,12)の上側杆(17)は座梁部(4)の杆受け(16,16)に支持される。」

「【0018】本実施例の車椅子(1)の巾を調節するには,…枢軸(26)を下側杆(18)および軸穴(13A)より引き抜く。そして…X枠(11,12)の回動杆(11A,11A,12A,12A)を中心Cを支点に回動させてX枠(11,12)の巾を調節しつつ,これに合わせて側枠(3,3)を移動させて車椅子(1) の巾を調節する。

【0019】このときX枠(11,12)の巾を狭めると,X枠(11,12)の縦巾は大きくなり,X枠(11,12)の巾を広げると,X枠(11,12)の縦巾は小さくなる。そしてX枠(11,12)の下側杆(18,18)を軸穴(13A,13B,13C)のうちの適切な軸穴を選んで位置を合わせ,該枢軸(26)を該軸穴(13A,13B,13C)および該円筒状の下側杆(18,18)の内部に挿通して該X枠(11,12) を支持させる。」

「【0021】本実施例では軸穴およびネジ孔は3個であり,巾は3段階に調節できるが,該軸穴およびネジ孔は2個あるいは4個以上であってもよい。

またX枠は1個または3個以上であってもよい。

また軸(26,31,32)は必ずしも枢軸やネジである必要はないが,枢軸やネジであると下側杆やリンクアームが回動可能で…車椅子を折り畳むことが出来る。

【0022】

【発明の効果】

本発明では,座の高さを変えることなく車椅子の巾を調節できるので,使用者が最も操作しやすい巾に調節できる。あるいはメーカーにとっては巾の異なる多種類の製品を製造しなくて済む。」

イ 本件発明の特徴

本件明細書の上記記載によれば,本件発明は,①車椅子が使用者の体形によっては適切でないことに対して,巾調節が可能な車椅子を提供することを目的とするものであり(【0001】【0003】),②その実現のため,車椅子の左右側枠(3,3)と,この左右側枠(3,3)間に配置され,中心を支点に回動可能なX枠(11,12)とを備え(【0005】【0009】【0012】),このX枠(11,12)の上端に取り付けられた円筒状の上側杆(17,17)を,左右側枠(3,3)を構成する座梁部(4) に取り付けられた杆受け(16)に支持させ(【0012】【0013】),一方,X枠(11,12)の下端に取り付けられた円筒状の下側杆(18,18)は,左右側枠(3,3)の下部に取り付けられた下側杆取付部(13,13)に上下に配列している複数個の軸穴(13A,13B,13C)のうちの一つの位置に,枢軸(26)を挿通することで支持する(【0006】【0013】【0015】)との構成をとることによって,③X枠(11,12) の回動によってその横巾を変化させることで車椅子の巾を変化させつつ,これに伴うX枠の縦巾の増減は,下側杆(18,18)の支持位置を変えることで調整し,上側杆(17,17)の高さ位置がそのままに維持されることになり,④その結果,座の高さを変えることなく車椅子(1)の巾を調整するという効果を有するものである(【0005】【0006】【0018】【0019】【0022】)。

(2)  引用発明について

引用例(甲3の1)には,次の記載がある(訳文は,原文8頁18行目の“Die Enden”から同19行目の“axialfest,”までを除く部分を甲3の2,同除かれた部分につき甲3の2,5,乙1,7,9の1,12,13,弁論の全趣旨による。)。

「(原文2頁〔頁数は右上欄のものによる。以下同様。〕1~13行目,訳文1頁1~7行目)本考案は,車台フレームを備え,該車台フレームが下側フレームパイプと上側フレームパイプとをそれぞれ有する2つのサイドフレーム部材を具備し,該フレーム部材には走行方向に離隔して駆動輪とキャスタとが1つずつ支承されており,フレーム部材は,該フレーム部材に枢着され角度をなして互いに調整可能な支柱によって,離隔した使用位置と近接した折りたたみ位置との間で互いに向かって移動可能であり,かつ少なくとも使用位置において固定可能になっており,フレーム部材と接続された側方部材とバックレストとによって画成される座部をさらに備えた,折りたたみ式車椅子に関する。」

「(原文2頁1~23行目,訳文1頁14~25行目)互いに溶接されたパイプからなるサイドフレーム部材には,一方の側に,通常,後側駆動輪が1つずつと,他方の側に,垂直軸を中心に回動可能な前側キャスタが1つずつ支承されている。この車椅子では,クロスバーが,互いに交差するパイプまたはリンクからなり,これらのパイプまたはリンクは,交差点に関節状に互いに接続されており,下端部がサイドフレーム部材の下側フレームパイプにそれぞれ枢着されている。クロスバーをなすパイプまたはリンクのそれぞれの他端とシートパイプとが固く接続されており,このシートパイプには,通常,丈夫な帆布からなる座部の長手方向縁部が固定されており,使用位置において,サイドフレーム部材の上側フレームパイプと係止可能である。

この車椅子では,例えば潜在的ユーザの体格の違いといった種々の要求に適応できないか,または少なくとも非常に適応し難いため不十分である。したがって,本考案の基礎となる課題は,種々の要求に対する適応性を改善した折りたたみ式車椅子を提供することである。」「(原文2頁24行~3頁8行目,訳文1頁26~33行目)上記課題は,車台フレームを異なった幅の少なくとも2つの使用位置に調整するために,サイドフレーム部材がそれらの間隔に関して互いに調節可能であり,それぞれ1つの使用位置に対応する調整ポジションでロック可能であることによって解決される。

したがって,本考案は,車台フレームの両サイドフレーム部材の間隔を変更することによって車椅子の使用位置をユーザのそれぞれの要求に適応させることであり,その場合に,フレーム部材を少なくとも2つの異なった間隔に調整することができる。これらの調整位置間での調整だけでなく,さらに調整できることが可能であり,しかもフレーム部材間隔を段階的または連続的に変更することができる。」

「(原文3頁23行~4頁11行目,訳文1頁41行~2頁5行目)サイドフレーム部材をクロスバーによって互いに接続した車台フレームでは,本考案の一展開形態により,リンクの下端部とサイドフレーム部材との枢着点の高さが変更可能であるように形成することが合目的的であることが明らかになった。車台フレームの幅調節は,クロスバーリンクの下端部をどの高さポジションで車台フレームのサイドフレーム部材に枢着するかに依存して行われる。この場合,それぞれの使用位置での係止は,例えば,使用位置において,サイドフレーム部材の上側フレームパイプから突出する係止部が形状結合的に係合する,リンクの上端部と接続されたシートパイプによってそのまま変わらない。

車台フレームの幅の調整と,ひいては座幅調整は,この展開形態では,それぞれの使用位置において,互いに交差するクロスバーのリンクがなす角度が変更されることによって行われる。その場合,座部の高さは変わらない。」

「(原文4頁12行~5頁8行目,訳文2頁6~20行目)他の有意義な展開形態では,リンクの下端部が,異なった高さ位置でサイドフレーム部材に固定可能な軸受ブロックによってサイドフレーム部材に枢着されている。この軸受ブロックは,サイドフレーム部材の上側フレームパイプと下側フレームパイプとの間に延在する保持コンソールに収容され,かつ垂直方向に互いに離隔した所定の調整ポジションで保持コンソールに固定可能であり得る。

この展開形態では,リンクの下端部に,軸受パイプがそれぞれ固く接続されており,該軸受パイプは,サイドフレーム部材の上側フレームパイプおよび下側フレームパイプに対して平行位置に延在し,かつそれぞれのリンクから両側に突出するならば,そしてリンクの両側で,サイドフレーム部材の上側フレームパイプおよび下側フレームパイプと接続されたそれぞれ1つの保持コンソールが設けられ,該保持コンソールには軸受パイプの一端をそれぞれ支承するための軸受ブロックが収容されているならば合目的的であることも判明した。

さらに,保持コンソールが所定の垂直方向の間隔を離間させて配置された,リンクを枢着するために利用される軸受ブロックを固定するための孔を備えているならば,保持コンソールでの軸受ブロックの特に簡単な高さ調整が可能である。」

「(原文7頁7行~8頁18行目,訳文2頁50行~3頁24行目)図2~図4に示された本考案に係る車台フレーム20は,図1に示された車台フレーム1と全く類似に,2つのサイドフレーム部材21を有し,これらのサイドフレーム部材は,それぞれ1つの上側フレームパイプおよび下側フレームパイプ22,23と,これらを互いに接続する前側フレームパイプおよび後側フレームパイプとからなる。

サイドフレーム部材21はクロスバー28によって互いに接続されており,クロスバーは,交差点で回転ジョイントによって互いに接続された2つのリンクと,ダブルのリンク29,29’と,これらと交差するシングルのリンク30とからなる。クロスバーリンクは,それぞれの上端部に,上側フレームパイプ22に固く取り付けられた係止部33と形状結合的に係合するためのシートパイプ32を備えている。

先行技術の車台フレーム1とは異なり,車台フレーム20は,車椅子のそれぞれの使用位置において両フレーム部材21間の間隔と,ひいては座幅を調節するための装置を備えている。

この目的で,両サイドフレーム部材21には,クロスバー28の両側に,ダブルリンク29,29’およびシングルリンク30のそれぞれの下端部を枢着するためのそれぞれ同様に形成された保持コンソール36が2つずつ,走行方向に離隔して配置されている。金属形材として形成された保持コンソール36は,垂直方向に延在し,それぞれの両端部で止め輪37により,それぞれのサイドフレーム部材21の上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23とに固定されている。保持コンソール36の各々は,同じ数の穴38を備えており,これらの穴は,保持コンソール36の取付け位置において垂直方向に離隔して配置されており,車台フレーム20に配置された全保持コンソール36のそれぞれ対応する穴38が水平面上に延びる。

ダブルリンク29,29’およびシングルリンク30は,それらの下端部に軸受パイプ41をそれぞれ備えており,この軸受パイプは,それぞれのリンクの長手方向に対して垂直に,かつ取り付けられた状態で,上側もしくは下側フレームパイプ22,23に対して平行に延びる。」

「(原文8頁18~20行目)軸受パイプ41の両端部は,各軸受ブロック42で軸方向に固定されるが,それでも回動できるように,支承されている。」

「(原文8頁20行~9頁18行目,訳文3頁25行~3頁40行目)軸受ブロック42は,保持コンソール36から車椅子内側に突出し,かつこれらの保持コンソールと公知の態様で固く,しかし,例えば穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって着脱可能に接続されている。

図3および図4に示されるように,それぞれの軸受ブロック42を固定するために設けられた穴38は,それぞれの使用位置においてサイドフレーム部材21間の間隔を決定する。図3において,軸受ブロック42は,下側フレームパイプ23の領域に直接配置された穴38に固定されている。このことにより,使用位置において,ダブルリンク29,29’およびシングルリンク30と水平線との角度が略30°になり,したがって比較的狭い座幅になる。

これに対して図4に示された調整位置では,ダブルリンク29,29’およびシングルリンク30を保持コンソール36の穴38に枢着するために軸受ブロック42が固定されており,穴は,それぞれの上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間の略中央に配置されている。使用位置においてリンク29および29’もしくは30と水平線とがなす角度は,図3に示される例よりもはるかに平坦であり,略15°である。したがって,この調整位置では,両サイドフレーム部材21間の間隔と,ひいては座幅が図3の調整位置での場合よりも大きい。」

「(図面)

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2  取消事由1(引用発明認定の誤り)について

(1)  軸の存否の主張を除く点につき(前記第3,1①③④)

① 原告は,審決は引用発明の軸受パイプ41が下側フレームパイプ23に沿った方向に固く接続されていると認定した旨を主張する(前記第3,1①)。

しかしながら,審決が「それら2つのリンクは,それぞれの下端部に,サイドフレーム部材21の下側フレームパイプ23に沿った方向に,固く接続された軸受パイプ41を備えて(いる)」(審決10頁6~8頁)と認定したのは,「それら2つのリンクは,それぞれの下端部に…固く接続された軸受パイプ41を備えて(いる)」という趣旨であり,軸受パイプ41が下側フレームパイプ23に沿った方向に固く接続されたことをいうものではない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

② 原告は,審決が軸受パイプ41を支承しているのをサイドフレーム部材21と認定したのは誤りである旨を主張する(前記第3,1③)。

しかしながら,保持コンソール36は,その両端がサイドフレーム部材21に固定されているのであるから(訳文3頁14~17行目),当該認定部分(審決10頁9~10行目)で,審決が軸受パイプ41が軸受ブロック42を介してサイドフレーム部材21に固定されている保持コンソール36に支持されていると認定しなかったことが,誤りになるものではない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

③ 原告は,審決が保持コンソール36をサイドフレーム部材21の一部と認定したことが誤りである旨を主張する(前記第3,1④)。審決は,引用発明の認定中で明示的には保持コンソール36がサイドフレーム部材21の一部とは認定してはいないが(審決10頁11~16行目),原告の指摘箇所(審決16頁13~15行目)によれば,上記の旨の認定を前提としていることがうかがわれる。しかるに,引用例における用語の意義自体としては,サイドフレーム部材21には保持コンソール36は含まれていない(訳文1頁1~2行目,2頁31~33行目,2頁50行~3頁3行目参照。なお,被告の指摘する訳文3頁11~14行目の記載は,サイドフレーム部材21に保持コンソール36を配置するとの趣旨にすぎない。)。

しかしながら,保持コンソール36はその上下端がサイドフレーム部材21である上側フレームパイプ22と下側フレームパイプに固定されているのであるから(訳文3頁14~17行目),その構成に着目して,審決が保持コンソール36をサイドフレーム部材21の一部と認定したことが誤りであるとまではいえない。

したがって,原告の上記主張は採用することはできない。

(2)  軸の存否の主張の点(前記第3,1②)

原告は,軸受パイプ41には軸が挿通されているにもかかわらず,軸が存在しないものとして引用発明を認定した審決には誤りがある旨を主張する。

前記1(2)のとおり,引用例には,「(原文8頁18~20行目)軸受パイプ41の両端部は,各軸受ブロック42で軸方向に固定されるが,それでも回動できるように,支承されている。」との記載があるとしか認められないところ,この記載からは,軸受パイプ41の端部自体が軸受ブロック42に枢着されているとも,軸受パイプ41に軸が挿通され,軸受ブロック42に固定された軸を介して軸受パイプ41が軸受ブロック42に枢着されているとも,両様に解し得る。

そこで,以下,引用例の図面の内容について検討する。

① 引用例の図2a(Fig.2a),図2b(Fig.2b),図3(Fig.3)及び図4(Fig.4)には,円形の軸受パイプ41の両端の外径と,かまぼこ型の軸受ブロック42の内接円の外径とが一致していることが見て取れる。このように軸受パイプ41の直径と軸受ブロック42の内接円の直径とが同一である場合には,軸受パイプ41の端部を受け入れるための穴を軸受ブロック42に形成することは,機械設計上あり得ないことである。

② 引用例には,「(訳文3頁25~27行目)軸受ブロック42は,保持コンソール36から車椅子内側に突出し,かつこれらの保持コンソールと公知の態様で固く,しかし,例えば穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって着脱可能に接続されている。」との記載があり,また,引用例の図面3(Fig.3)及び図面4(Fig.4)には,軸受ブロック42の上下方向の中心線と保持コンソール36の穴38の上下方向の中心線とが一致していることが見て取れる。

このことを前提に,引用例の図2a(Fig.2a),図2b(Fig.2b),図3(Fig.3)及び図4(Fig.4)を見てみると,仮に軸受パイプ41の端部を受け入れる穴が軸受ブロック42に形成されてあるとした場合,軸受パイプ41を軸受ブロック42に対して回動可能とするためには,軸受パイプ41の端部と,軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじとが干渉しないように,ねじを極めて浅い位置までしか挿入できないこととなる。一方で,軸受ブロック42は車椅子に搭乗する人間の体重を支えるものであるから,保持コンソール36とのねじ止めは一定の強度が必要とされるところ,上記のような浅い位置までの挿入によっては十分な強度を得られないものと予想される。したがって,軸受パイプ41の端部を受け入れる穴を軸受ブロック42に形成することは,機械設計上極めて困難なことである。

③ 引用例の図3(Fig.3)及び図4(Fig.4)は,図示された内容から断面図であるものと理解されるが,軸受パイプ41に対応する部分に大小三つの同心円からなる円形が描かれている。この同心円が軸受パイプ41の断面を表していることは明らかであるから,大きな円は,軸受パイプ41の外周線を,中間の円は,軸受パイプ41の内周線を表しているとみるのが自然である。そうすると,小さな円は,軸受パイプ41の内部に挿入された部材を表す線とみるのが相当であるところ,これは,引用例に軸受ブロック42が軸受パイプ41を回動可能に支承すると記載されていることからみて,軸受パイプ内に挿通された軸と解するのが合理的である。

以上①~③の点からみて,引用発明の軸受パイプ41は,サイドフレーム部材21に沿った方向に配設されている軸を介して軸受ブロック42に枢着されていると認定するのが相当であり,前記明細書(訳文)の記載を前提として,引用例の図面に接した当業者も,そのように理解するものといえる。

これに対して被告は,引用例の図面が説明図にすぎず正確なものではない旨を主張する。しかしながら,引用例の図面は,図面1(Fig.1)をみても明らかなように,かなり写実的なものであり,形状,寸法,配置等に正確性を欠く模式図のような類のものとはいえず,当業者が上記認定のとおりに理解することの妨げになるようなものではない。しかも,引用例における文言上の記載とも矛盾するものではないから,被告の上記主張は,採用することができない。

したがって,審決が,引用発明の構成について「各軸受パイプ41の端部は,軸受ブロック42に枢着され(る)」と認定した部分は(10頁9行目),誤りであり,この点において審決は取り消されるべきである。

ただし,事案にかんがみ,上記の点を改めて引用発明を認定した上で,本件発明と引用発明とに相違点が認められるか否かについて,更に検討することとする。

3  取消事由2(相違点認定の誤り)について

審決が認定した本件発明と引用発明との相違点(18頁14~27行目)は,下側杆の枢支態様と下側杆の支持態様の観点から整理すると,次のとおりである。

【相違点①】

下側杆の枢支態様が,[1]本件発明は,左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介してなされるものであるのに対し,[2]引用発明は,軸受パイプ41を2つの軸受ブロック42に掛け渡して枢支するものであって,引き抜き可能に挿通支持する枢軸を介して枢支を行うものでない点。

【相違点②】

下側杆の支持態様が,[1]本件発明は,枢軸を支持するための軸穴を下側杆取付部に複数個上下に相対して配列して設け,下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて,該軸穴に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させるものであるのに対し,[2]引用発明は,軸受パイプ41(下側杆に相当)を枢支する軸受ブロック42を,サイドフレーム部材間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えばねじによって固く着脱可能に接続するものである点。

ところで,上記2に認定判断のとおり,引用発明の軸受パイプ41は,サイドフレーム部材21に沿った方向に配設されている軸を介して軸受ブロック42に枢着されていると認定するのが相当であるから,上記相違点①は,引用発明との相違点ではなくなり,審決の相違点認定には誤りがある。

そして,相違点②は,引用発明の軸受パイプ41がサイドフレーム部材21に沿った方向に配設されている軸を介して軸受ブロック42に枢着されていると認定されたことを前提とすると,次のとおり修正される。

【相違点②´】

[1] 本件発明は,枢軸を支持するための軸穴を下側杆取付部に複数個上下に相対して配列して設け,下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて,該軸穴に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させるものであるのに対し,[2]´引用発明は,軸受パイプ41(下側杆に相当)に挿通される軸を枢支する軸受ブロック42を,サイドフレーム部材間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えばねじによって固く着脱可能に接続するものであり,また,軸受パイプ41に挿通した軸は引き抜き可能かどうか不明である点。

上記までの認定判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。

一方,原告は,上記相違点②´の認定と異なり,<1>引用発明の保持コンソール36及び軸受ブロック42が,本件発明の下側杆取付部に相当し(前記第3,2②),<2>引用発明の軸受パイプ41(本件発明の下側杆に相当)は,保持コンソール36及び軸受ブロック42(本件発明の下側杆取付部)の間に位置している(前記第3,2③)旨を主張する。しかしながら,引用発明は,軸受ブロック42を保持コンソール36に着脱可能に接続することによって車椅子1の巾調整をするものであるから,両者を一体の部材とみなすことは矛盾しており,その主張は,いずれも採用することができない。

以上のとおりであり,審決の認定した相違点には誤りがあり,その限りで取消事由2には理由があるが,進歩性の有無の観点から,上記に認定した本件発明と引用発明との新たな相違点について,更に検討を加えることとする。

4  取消事由3(相違点判断の誤り)について

(1)  相違点判断の構成

上記3に認定判断したとおり,審決の認定した相違点①は存在せず,相違点②´のみが存するので,以下,相違点②´(相違点①に係る部分を改変したことを前提にした相違点②)の容易想到性の有無について検討する。

(2)  引用刊行物の記載事項

本件特許出願前に頒布された刊行物である甲46刊行物(甲66と同じ。)及び甲81刊行物(甲67と同じ。)には,以下の記載がある。

① 甲46刊行物(特開2001-245935号公報)の記載事項

「【0013】…サイドフレーム10には座部20に設けられた支持ロッド30が支持される支持手段40が設けられている。前記座部20は,折り畳み可能な交差フレーム21の上端に車椅子の前後方向に左右対称的に配設された側端フレーム22から構成されている。前記交差フレームは,X状に交差して連結された一対のフレームから構成されている。また,交差フレーム21の各々下端には貫通孔21aが形成されている。そして,これらの交差フレーム21間に支持手段40が配設されている。」

「【0014】次に,上記した支持手段40について図2に基づいて説明する。

【0015】前記支持手段40は,円筒部材41と,この円筒部材41の両端部に嵌合される前蓋42と後蓋44とにより構成されており,かかる円筒部材41の両端部が車椅子200の前後方向となるようにサイドフレーム10の下側後端部に一体形成されている。図示するように,前蓋42には,支持ロッド30の前端部が挿入される調整孔43が縦方向に3箇所穿設されている。図3に示すように,前記調整孔43のうち,下部調整孔43cは,略水平方向に設けられており,中間部調整孔43bは,前記下部調整孔43cよりも車椅子の前方向に向かって上向きになるように設けられており,上部調整孔43aは,中間部調整孔43bよりもさらに車椅子の前方向に向かって上向きになるように形成されている。

【0016】また,図4に示すように,後蓋44には,支持ロッド30の後端部を支持する支持孔45が一つ穿設されている。かかる支持孔45は,後蓋44の外壁端部44aから前蓋方向に徐々に縦方向に広がる楕円形状に形成されている。このように支持孔45を縦方向に長い楕円形状に形成したことにより,支持ロッド30の後端を支点として支持ロッド30の前端を前蓋42に穿設された上部調整孔43a乃至下部調整孔43cのいずれかの調整孔43に挿入させることができる。以上にように構成された支持手段40においては,図1に示すように,支持ロッド30を後蓋44の支持孔45から前蓋42の任意の調整孔43にわたって挿通させるとともに,前蓋42及び後蓋44から突出する支持ロッド30の前後端をワッシャを介してナットによって締付け固定させる。このように構成された支持手段においては,例えば,支持ロッド30の前端を前蓋42に形成された下部調整孔43cに挿入されることにより,側端フレームを水平に固定することができる。また,支持ロッド30の前端を中間部調整孔に挿入させることにより,側端フレームの前端を後端よりも高く位置に固定することができる。このように支持ロッドを前蓋42に穿設された任意の調整孔43に挿通させることによって,座部20の高さを調整することが可能となる。」

「【図2】

file_12.jpg‘at 30」

「【図3】

file_13.jpg42 meee 43a 43b 43c」

「【図4】

file_14.jpg45 44 44a」

② 甲81刊行物(米国特許第6,227,559号明細書)の記載事項「(原文第3欄13~39行目,訳文は審決による。)図3に示すようにクロスブレイス14は,一般に,ピボット40によって接続されている,38で示される2つの部材を含む折りたたみ機構である。各クロスブレイス部材38の上下端52,46は,対応する上下のサイドレール28,30に,対応する上部および下部グロウタブ72,58によって接続されている。

一対の下部グロウタブ58(図4)のそれぞれは,下側レール30に接続されている第1端64を有する。相互に整列した開口部68は,各下部グロウタブ58の第2端66に至るまで,多数存在している。3つの開口部のみが示されているが,任意の適切な数の開口部を提供することができる。下部グロウタブ58の開口部68は,整列するように適合されている。下部グロウタブ58は,その間に,前後方向に空間を空けて,縦チャネル62を提供するように配置されている。チャネル62は,クロスブレイス部材38の下端46を受け入れるように適合される。クロスブレイス部材38の下端46に設けられている開口部69は,下部グロウタブ58の相互に整列した開口部68の1つと相互整列するように適合されている。相互に整列する開口部68,69のペアは,クロスブレイス部材38の下端46を枢支するために,留め具70を受容するように適合されている。下側レール30間の間隔は,…各クロスブレイス部材38の下端46の,下部グロウタブ58に対する相対位置を変えることにより,変化させることができる。タブの開口部68は,下側レール30間の間隔を均等に増分調整できるように,均等に離間させることができる。」

「(図3)

file_15.jpg」

「(図4)

file_16.jpg」

(3)  容易想到性について

[1] 本件発明と引用発明とは,次のとおりに審決が認定する共通点(審決17頁36行~18頁11行目)を有し,X枠の長さを変えずに,かつ,左右側枠に対するX枠上端部の上下位置を変えずに車椅子の巾を調節可能にするための構成として,下側杆を支持するための軸穴を下側杆取付部に相対して設けるとともに,下側杆の支持部を複数設けるとの構成は,引用発明にも開示されている。

「…左右側枠下部には前後一対の下側杆取付部が取り付けられており,該下側杆取付部には,該左右側枠に沿う方向を向き,かつ下側杆を支持するための軸穴が相対して設けられており,該車椅子の使用者の体形に応じて調節される巾に対応して,左右側枠に複数個上下に配列した下側杆の支持部のうちの一つを選択して該X枠の上端部は該左右側枠に対して上下位置を変えることなく,かつ該X枠の長さを変えることなく該車椅子の巾を調節可能にした車椅子。」

[2] また,上記2,3の認定判断のとおり,本件発明と引用発明とは,下側杆を左右側枠下部に枢着し,下側杆に挿通され左右側枠に沿う方向に配設されている枢軸を有する点でも共通する。

その結果,引用発明は,下側杆の支持構造として,下側杆に挿通され左右側枠に沿う方向に配設されている枢軸が,左右側枠に沿う方向を向く下側杆取付部の軸穴に支持され,下側杆取付部が左右側枠に複数個上下に配列して設けられた軸穴に支持されるとの一連の技術的機構を備えているものと理解できる。

[3] 上記[1][2]の点にかんがみると,結局,相違点②´(相違点①に係る部分を改変したことを前提にする相違点②)に係る本件発明の構成は,本件発明の技術課題と直接的な関連を有するものではなく,軸,軸受ブロック,ねじなどを用いた軸受支持構造に代えて,部材の数を低減させ,軸と両端取付部を用いた軸受支持構造を採用したものであるといえる。

[4] しかるに,上記(2)の認定によれば,甲46刊行物及び甲81刊行物には,両端部に縦貫する穴を有する部材を穴を有する対向二片部間に配置するとともに,対向二片部の穴に軸を通してナット等で着脱可能に接続することで,対向二片部の穴がその間に挿入された穴を有する部材を回動可能に支持する構造が開示されている。このことからも明らかなように,穴のある軸受部材に着脱可能な軸を接続して軸受部材間に配置された別部材を回動可能に支持する構造は,本件特許の出願当時,広く一般的に用いられている周知技術であると認められる。

[5] そうすると,引用発明における軸受支持構造に代えて,部品数を低減させて同等の構成を実現した上記周知技術の軸受支持構造を採用し,相違点②´に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものといえる。

(4)  被告の主張に対して

被告は,引用発明の構成を本件発明の構成に改変するには,3段階の改変が必要である旨を主張する。

しかしながら,改変された部分を更に改変することが複数段階の改変に該当するのであり,改変された部分の数をもって複数段階の改変というものではないところ,被告の主張する改変1(軸受ブロック42を廃すること)と改変2(保持コンソール36に軸穴を対向して設けること)とは,改変1又は改変2の改変部分に対して更に改変2又は改変1の改変を適用するものではなく,一方が改変された場合にはおのずと他方も改変されるという関係にあるから(それゆえに同一の相違点に含まれるものとして整理されているものである。),被告の上記主張は採用することができない(なお,改変1に係る主張は前記までの認定判断のとおり前提を欠くので,失当である。)。

その余の被告の主張も,いずれも採用することができない。

(5)  小括

以上のとおりであるから,本件発明が容易想到ではないとした審決の判断には誤りがある。

したがって,取消事由3は理由がある。

第6結論

以上によれば,原告が主張する取消事由1~3はいずれも理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)

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