知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10165号 判決 2013年12月18日
原告
株式会社 ボディワーク ホールディングス
訴訟代理人弁理士
山田文雄
同
山田洋資
被告
新日本製薬株式会社
訴訟代理人弁護士
田中雅敏
同
宇加治恭子
同
髙山大地
同
鶴利絵
同
柏田剛介
同
生島一哉
同
新里浩樹
同
浦川雄基
同
小栁美佳
同
池辺健太
訴訟代理人弁理士
有吉修一朗
同
森田靖之
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 特許庁が無効2012-890077号事件について平成25年5月9日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
(1) 被告は,別紙商標目録1記載の登録商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
(2) 原告は,平成24年9月12日,特許庁に対し,本件商標の指定商品中,第3類「化粧品」の登録の無効を求める審判の請求をし,特許庁は,この審判を,無効2012-890077号事件として審理した結果,平成25年5月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本を,同月17日,原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書写しのとおりであり,要するに,本件商標と,別紙商標目録2記載1ないし3の各商標(以下,順次「引用商標1」,「引用商標2」,「引用商標3」といい,これらを総称して,単に「引用商標」という。)とは,「ラフィネ」の称呼を共通にするが,外観において顕著な差異があって観念においても区別が可能であり,取引の実情を踏まえても出所の混同を生じるおそれがない非類似の商標であるから,本件商標は商標法4条1項11号に当たらず,同法46条1項の規定により,その登録を無効とすべきでないというものである。
第3原告の主張
審決には,本件商標と引用商標との類否についての判断の誤りがあり,この判断の誤りは審決の結論に影響するから,審決は取り消されるべきである。
本件商標と引用商標とは,外観,観念が異なるものの,称呼はともに「ラフィネ」であり全く同一である。そうすると,両商標は聴別することが不可能であるから,商標の称呼をもって商品が特定される対面取引や電話等による口頭の取引では,両商標は出所の誤認混同を生ずるおそれがある。
すなわち,広く一般の消費者を取引者及び需要者とする化粧品では,電話や店頭での口頭取引が存在し,このような口頭取引では称呼「ラフィネ」のみでしか商品を特定できないから,「ラフィネ」の称呼は商品の出所の識別標識として強く認識されているというべきである。特に,化粧品であっても日用品ともいうべき比較的安価な商品については,一般消費者を含む取引者及び需要者が商標について常に細心の注意を払うことは期待できず,称呼のみで商品を特定することが通常行われている。さらに,インターネット上では片仮名表記で検索することも通常よく行われており,需要者が商標の称呼を頼りに商品を特定することも行われている。
そして,称呼が完全に同一であれば,外観や観念を異にするとしてもこれを聴別することはできず,商標の外観や観念上の特徴をよく把握している取引者及び需要者であっても,その称呼から外観や観念の相違を想起することはできない。
以上によれば,化粧品の取引者及び需要者は,両商標について,その称呼が全く同一であれば,たとえ外観や観念が相違するとしても,商品の出所を混同するおそれがある。よって,両商標は類似するというべきである。
第4被告の主張
本件商標と引用商標1及び引用商標3とは,一段書きであるか二段書きであるかという点及び本件商標の3文字目が「F」であるのに対して引用商標1及び引用商標3の欧文字表記の3文字目が「・」となっている点が相違しており,本件商標と引用商標2とは,文字数が異なる点,引用商標2は本件商標に比べて「F」が1文字少ない点及び図形部分の有無という点が相違している。一般消費者が最も注目する語頭の文字についても,本件商標が「R」であるのに対し,引用商標は「L」である。このように,本件商標と引用商標とは,外観が明らかに異なっている。
また,本件商標からは仏単語の意味である「洗練された,凝った」という観念が生じるのに対し,引用商標は造語であり,特定の観念を生じるものではないから,本件商標と引用商標の観念は明らかに異なっている。
そうすると,本件商標と引用商標とは,「ラフィネ」の称呼を生じる点で称呼上は類似するといい得るものの,外観及び観念において著しく相違するものであり,これらの称呼,外観,観念に基づく印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すれば,本件商標と引用商標は非類似と判断されるべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
なお,本件商標以外にも,「ラフィネ」との称呼を生ずる商標が,引用商標の出願及び登録後であっても登録され,それらの商標は本件商標と実質的に同一であると考えられることからしても,本件商標は引用商標とは非類似と判断されるべきである。
さらに,被告は,「RAFFINE」を冠した化粧品を店舗,自社ホームページの物販サイト,その他の物販サイトにて販売し,製品の宣伝広告も,全国70局でのテレビ放映や120種類を超える紙媒体の広告を通じて製品販売の促進を継続的に行っており,これらの被告の営業努力の結果,「RAFFINE」ブランドの製品は,化粧品モイスチャー分野にて,2008年から2011年にかけて,メーカー別シェアで3位,ブランド別シェアで2位の位置を占めている。以上のことから,本件商標の査定時において,「RAFFINE」は被告の販売する化粧品ブランドを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたから,本件商標には著名性があり,その使用実績に照らしても,引用商標との間で出所の混同が生じるおそれはない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,本件商標と引用商標は非類似の商標であり,審決に取り消されるべき違法はないと判断する。その理由は次のとおりである。
1 本件商標について
本件商標は「RAFFINE」の標準文字から成る商標である。
フランス語では,語尾にアクセント記号を付した「raffiné」が「精製された,洗練された,気のきいた,上品な,凝った」などの意味を有する形容詞(白水社「仏和大辞典」参照)である。
しかし,本件商標の「RAFFINE」は,上記のようなフランス語であるため,我が国において一般的に知られた語であるとはいえない。そのため,本件商標からは,特段の観念は生じない。もっとも,フランス語の「raffié」の語は,「ラフィネ」と発音されること,この単語を知らないとしても,一般的にはローマ字読みで「ラフィネ」と発音されるものと考えられることからすると,本件商標からは,「ラフィネ」という称呼が生じるということができる。
2 引用商標について
(1) 引用商標1は,上段に「ら・フィネ」の文字を,下段に「LA・FINE」の文字を二段書きに配して成る商標である。引用商標2は,別紙商標目録2記載2のとおり,「LA FINE」の文字と,その下に配された両端が尖った細長い黒塗り図形から成る商標である。引用商標3は,上段に「LA・FINE」の文字を,下段に「ラ・フィネ」の文字を二段書きに配して成る商標である。
(2) 引用商標を構成する語のうち,欧文字の「LA・FINE」及び「LAFINE」の部分については,イタリア語で,「la」が子音で始まる女性名詞単数の前に付けられる定冠詞であり,「fine」が「終わり,終点,最後,結果,結末」などを意味する女性名詞であるから(なお,男性名詞として用いられる場合,「目的,意図」などの意味で用いられる。以上につき,小学館「伊和中辞典」,白水社「新伊和辞典」参照),「その終わり,最後,結末」との意味を有することとなる。
しかし,引用商標の「LA・FINE」ないし「LA FINE」は,イタリア語であるため,我が国において一般的に知られた語であるとはいえない。そのため,引用商標からは,特段の観念は生じない。
もっとも,引用商標1の「ら・フィネ」の部分及び引用商標3の「ラ・フィネ」の部分については,これらに併記された「LA・FINE」の部分がイタリア語で「ラ・フィネ」と発音されることに照らすと,いずれも「LA・FINE」の部分の読みを表したものと解され,その結果,引用商標1及び引用商標3からは,「ラフィネ」という称呼が生じるということができる。
かかる読みが併記されていない引用商標2についても,上記のイタリア語の称呼が生じ得るといえる。ただし,「la」の語がフランス語の定冠詞とも理解され,「fine」の語が英語で「みごとな,完成された」などの意味を有する(研究社「リーダーズ英和辞典」参照)ことからすると,これらの語を組み合わせた造語と捉えることもでき,この場合には,「ラファイン」という称呼も生じ得ると考えられる。
3 本件商標と引用商標の類否について
以上を踏まえ,本件商標と引用商標とを比較すると,両者はいずれも「ラフィネ」の称呼を生じる点では同一であり,また,どちらも我が国において一般的に知られた語ではないため,必ずしも特段の観念が生じるとはいえず,観念上区別することは困難であると考えられる。
一方,外観については,本件商標が「R」から始まる一続きの欧文字を一段書きにして成るものであるのに対し,引用商標は,欧文字部分については綴りが「L」から始まり「F」の重複がない上,「・」やスペースによって「LA」の部分と「FINE」の部分とに区分されている点で明確に相違するため,それぞれの欧文字の意味が不明であるとしても,両者は明らかに異なる語として認識される。また,引用商標1及び引用商標3については日本語の文字とともに二段書きにされ,引用商標2については文字部分の下に図形部分が存在するとの差異もある。このように,本件商標と引用商標との間には,外観上顕著な差異があり,取引者及び需要者が引用商標の外観から受ける視覚上の印象は本件商標のそれと明確に異なるものということができる。
また,指定商品である化粧品の取引の実情については,取引者及び需要者は,店頭販売,通信販売,あるいはインターネットを介した化粧品の販売においては,商品の外観を見て購入するのが通常であり,その際に商品に付された商標の外観や製造販売元を見て商品の出所について相応の注意を払って購入することが多いと考えられる。また,化粧品については,既に商品自体ないしその出所等を認識している場合には,電話等による取引をすることが考えられるものの,この場合も,取引者及び需要者が商標の称呼のみをもって商品の出所を識別して商品を購入するとは考えにくい。
上記のとおり,本件商標と引用商標とは,称呼が同一であるものの,外観上顕著な差異があることや指定商品に係る上記のような取引の実情を踏まえると,取引者及び需要者が商品の出所を誤認混同するおそれがあるとはいえないから,互いに類似するものということはできない。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
これに対し,原告は,本件商標と引用商標とは称呼が同一であるから聴別することが不可能であり,対面取引や電話等による口頭の取引では,特に日用品ともいうべき比較的安価な商品について,出所の誤認混同を生ずるおそれがあると主張する。しかしながら,化粧品については,取引者及び需要者は,対面取引や電話等による口頭の取引でも,商標の称呼のみをもって商品の出所を識別して商品を購入するとは考えにくく,商品に付された商標の外観や製造販売元を確認して商品の出所について相応の注意を払って購入することが多いと考えられるから,原告の上記主張を採用することはできない。なお,原告は,インターネット上では需要者が片仮名表記で検索することもよく行われていると指摘するけれども,商品の検索の際には称呼を頼りにしたとしても,検索結果から商品を選択する際には,商標の称呼のみならずその外観上の特徴や製造販売元を確認して商品の出所を識別して購入するのが一般的であるから,かかる原告の指摘も採用の限りではない。
4 結論
以上のとおりであり,原告の主張は理由がなく,審決に,取り消されるべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅)
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