大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10168号 判決 2013年11月21日

原告

株式会社インディアン

モトサイクルカンパニージャパン

訴訟代理人弁護士

佐藤雅巳

古木睦美

被告

特許庁長官

指定代理人

大森健司

渡邉健司

守屋友宏

山田和彦

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2011-7459号事件について平成25年4月2日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯等

(1)  原告は,平成14年12月27日,別紙本願商標目録記載の構成からなり,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)の登録出願(商願2002-111431)をした(乙1)。

(2)  原告は,平成18年3月29日付けの手続補正書により,指定商品を第25類「被服」(以下「本件指定商品」という。)と補正した(乙2)。

(3)  原告は,平成22年12月3日付けの拒絶査定を受けたので,平成23年4月8日,これに対する不服の審判を請求した。

(4)  特許庁は,原告の請求を不服2011-7459号事件として審理し,平成25年4月2日に「本件審判の請求は,成り立たない。」とする本件審決をし,同年5月15日,その謄本は原告に送達された。

(5)  原告は,平成25年6月14日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2  本件審決の理由の要旨

本件審判の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,本願商標は,別紙引用商標目録1ないし4記載の各商標(以下,順に「引用商標1」などといい,併せて「引用各商標」という。)との関係で,商標法4条1項11号に該当するから,商標登録を受けることができない,というものである。

3  取消事由

商標法4条1項11号該当性に係る判断の誤り

第3当事者の主張

〔原告の主張〕

1  引用各商標の適格性について

引用各商標は,以下のとおり,いずれも,東洋エンタープライズ株式会社(以下「東洋エンタープライズ」という。)において商品に使用する意思なしに原告の業務を妨害する意図で出願し登録を得たものであり,公序良俗に反し,商標法4条1項7号により登録を無効にするべきものである。

(1) 東洋エンタープライズは,米国において「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが立ち上げられたことを知り,将来日本に「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが導入展開されることを予測し,一切使用する意思なしに,平成3年11月5日に引用商標1の商標を出願し,平成6年3月31日登録を得た。

(2) スコット・カジヤは,平成3年,米国インディアンモトサイクルカンパニーインク(以下「新インディアン社」という。)から,「Indian」商標の出願,登録,ライセンスを含め,日本における全ての権利の譲渡を受け,平成4年2月,「Indian/Motocycle商標」を出願し(平成7年9月29日登録),平成5年6月3日,原告を設立し,「Indian/Motocycle商標」を登録後に,原告に譲渡した。

(3) 平成5年1月から,原告の設立及び「Indian」ブランドビジネスの開始が報じられ,各雑誌でも紹介された。原告は,平成6年1月から「Indianロゴ」等を付したシャツ,ジャケット,帽子等の輸入販売を開始し,大手専門店や雑誌等で紹介され,同ブランドは需要者層である若い男性層に浸透した。

(4) 東洋エンタープライズは,「Indian商標」が原告の企業努力により市場に広く認識されていたことを知って,原告の業務を妨害する目的で,平成6年9月21日,引用商標2及び引用商標3を出願し,平成7年に入って「Indianロゴ」等と類似する商標を使用した,ジャケット,シャツ,帽子等の販売を開始し,原告の警告を無視してこれを継続した。

(5) 原告は,平成8年,東洋エンタープライズに対し,「Indianロゴ」等の使用差止めの訴えを提起したところ,同社は,これに対抗して原告に対し,引用商標1を基にして訴えを提起し,仮処分命令の申立てをしたが,いずれも却下された。しかし,東洋エンタープライズは,同社に対する仮処分決定を受けた直後の平成9年1月14日,引用商標4を含む商標5件を出願した。これらはいずれも,原告の企業努力の成果を収奪し,原告の業務を妨害する意図でしたものである。

(6) その後も,原告の継続した企業努力により,本願商標等の「Indian商標」は,原告の衣類等に使用する商標として,また,「Indian Motocycle」,「インディアンモトサイクル」,「インディアン」,「Indian」は,原告の略称としてなお一層需要者の間に周知となっている。これに対し,東洋エンタープライズは,原告の企業努力の成果に便乗只乗りし,原告の業務を妨害するため,引用各商標と同一性の範囲内にない「Indianロゴ」や「Indian Motocycle」等を使用している。

(7) 本願商標は,原告の略称として需要者取引者の間で周知であるから,本願商標を付した商品の出所について誤認混同を生ずるおそれはない。これに対し,引用各商標は,いずれも東洋エンタープライズにおいて,商品に使用する意思なしに原告の業務を妨害する意図で出願し登録を得たものであり,公序良俗に反し,商標法4条1項7号により登録を無効とすべきものである。したがって,引用各商標は,引用商標としての適格性を欠くものであるから,本願商標は,引用各商標との類比にかかわらず登録すべきものである。

2  本願商標の商標法4条1項11号該当性について

(1) 商標の類比について

商標の類似とは,商品に使用された商標の称呼,外観,観念によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察し,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断して出所の混同のおそれがあることをいうから(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),本願商標が引用各商標と類似するというためには,このような全体的考察,具体的な取引状況に基づく判断により本願商標を付した商品の出所が引用各商標を付した商品の出所と誤認混同されるおそれがなければならない。

(2) 本願商標と引用商標1との類否について

ア 外観

本願商標が引用商標1と外観において全く相違することは,両者の構成から明らかである。

イ 観念

前記1のとおり,周知の商標である本願商標からは,「原告」との観念及び「原告の商品」との観念が生ずる。

ウ 称呼

(ア) 前記判例が示すように,称呼の類否判断においても,各商標を全体として対比すべきであるところ,本願商標からは,その構成に照らし,「インディアン,インディアンモトサイクルカンパニーインク」との称呼が生ずる。

他方,引用商標1からは,「インディアンモーターサイクル」との称呼が生ずる。

したがって,本願商標と引用商標1とは,称呼においても相違する。

(イ) 仮に,本願商標では,「Indian Motocycle」に対応する称呼が生じ,これと引用商標1から生ずる称呼とを対比することが許されるとしても,本願商標中の「Indian Motocycle」から生ずる称呼は「インディアンモトサイクル」であり,「インディアンモーターサイクル」ではない。しかも,「インディアンモトサイクル」は,原告の略称として周知であるから,両者は明瞭に聴取識別される。

したがって,本願商標と引用発明1の称呼は,相違するものである。

エ 本件審決の判断について

本件審決は,引用商標1から生ずる観念と本願商標中の「Indian Motocycle」との欧文字から生ずる観念とを対比して,両者は類似する観念であると認定した。

しかし,本件審決の上記認定は,各商標を全体的に考察するとした前記判例の判旨に反し,違法である。

仮に,本願商標中の「Indian Motocycle」との欧文字と引用商標1とを対比した場合でも,本願商標中の「Indian Motocycle」は,原告の略称として周知であるから,「原告」との観念及び「原告の商品」との観念が生ずる。

他方,引用商標1からは,「北米先住民の自動二輪車」の観念が生ずる。

したがって,本願商標と引用商標1とは,観念において相違するものである。

オ 小活

よって,本願商標と引用商標1とは,非類似の商標である。

(3) 本願商標と引用商標2との類否について

ア 外観

本願商標は,特徴ある筆記体による「Indian」との欧文字を配した羽根飾りを冠した右向きの酋長の図形の下に,筆記体による「Indian Motocycle Co.,Inc.」との欧文字を配してなるものである。

他方,引用商標2は,黒地の右向きのインディアンの図形とその下に配した「MOTOCYCLE」との欧文字からなるが,同図形は,本願商標中の上記図形とは,黒地であることのほか,羽根の中に白抜きの模様が多数入っている点,顔の図形,顔にかかる髪の形状,首の部分の形状,首輪の部分の形状において相違するから,本願商標の上記図形とは,外観において異なるものである。また,引用商標2中のの「MOTOCYCLE」との欧文字は,本願商標中の「Indian Motocycle Co.,Inc.」との欧文字と外観において明らかに異なる。さらに,本願商標は,需要者に周知であり,本願商標中の上記図形も需要者に周知である。

したがって,需要者は,本願商標と引用商標2とを外観において明瞭に識別するのであり,本願商標と引用商標2とは,外観において相違する。

イ 観念

前記のとおり,本願商標からは,「原告」との観念及び「原告の商品」との観念が生ずる。

他方,引用商標2からは,右向きの黒地のインディアンの図形及び同図形中の「Indian」との欧文字に対応して,「北米先住民」との観念が生ずる。

よって,本願商標と引用商標2とは,観念において相違する。

ウ 称呼

本願商標からは,「インディアン,インディアンモトサイクルカンパニーインク」との称呼が生ずる。

他方,引用商標2からは,「インディアン」との称呼が生ずる。

よって,本願商標と引用商標2とは,称呼においても相違する。

エ 本件審決の判断について

本件審決は,本願商標の図形部分及び同図形中の「Indian」との欧文字並びに引用商標2の図形部分及び同図形中の「Indian」との欧文字からは,いずれも,「インディアン」との称呼及び「北米先住民」との観念が生ずるから,外観における相違にもかかわらず,両者は,相互に紛らわしい類似の商標であると判断した。

しかし,本願商標は,原告の全ての商品に使用する社標として,既に需要者の間に周知である。他方,引用商標2は,東洋エンタープライズが原告の業務を妨害する目的でのみ出願し登録を得た商標であり,商品に使用していない。本願商標を使用した商品に接した需要者は,その出所を原告と認識するのであり,他方,引用商標2を使用した商品に接した需要者は,その出所を何人かと認識するのみである。

また,取引者はカタログ等により品番に従って出所を確かめた上で取引をするものである。消費者も自ら商品を手に取り,ブランド,デザイン,色,サイズ,素材,模様等を確かめて商品の購入を決めるのであり,インターネット上で購入する場合も,商品自体が表示され,商標,メーカー,価格等が表示されるのであって,称呼・観念のみで購入を決めたりせず,外観により商標(ブランド)を確かめてから購入するかしないかを決めるものである。

したがって,本願商標を使用した商品と引用商標2を付した商品とで,出所について誤認混同を生ずるおそれはない。

オ 小活

よって,本願商標と引用商標2とは,非類似の商標である。

(4) 本願商標と引用商標3との類否について

ア 外観

本願商標が引用商標3と外観において相違することは,明白である。

イ 観念

前記のとおり,本願商標からは,「原告」との観念及び「原告の商品」との観念が生ずる。

他方,引用商標3からは,「北米先住民」との観念が生ずる。

よって,本願商標と引用商標3とは,観念において相違する。

ウ 称呼

前記のとおり,本願商標からは,「インディアン,インディアンモトサイクルカンパニーインク」との称呼を生ずる。

他方,引用商標3からは,「インディアン」との称呼を生ずる。

よって,本願商標と引用商標3とは,称呼においても相違する。

エ 本件審決の判断について

本件審決は,引用商標3からは,「Indian」との欧文字に対応して,「インディアン」との称呼が生じ,また,同商標中の図形や「Indian」との欧文字から「北米先住民」との観念が生ずるとした上で,本願商標からも,同商標中の前記図形に配された「Indian」との欧文字から「インディアン」との称呼が生じ,また,同図形や「Indian」との欧文字から「北米先住民」との観念が生ずるから,本願商標と引用商標3とは,称呼及び観念において類似し,外観の相違にもかかわらず類似する商標であると判断した。

しかし,前記のとおり,本願商標は,原告の商標として需要者の間に周知であるから,本願商標を使用した商品に接した需要者は,出所を原告と認識するのであり,引用商標3を使用した商品と出所について誤認混同するおそれはない。

そして,前記のとおり,取引者,需要者は,称呼や観念のみによって取引をしたり商品を購入するかしないかを決めたりするのではなく,商品に使用された商標の外観により商標(ブランド)を確かめるものである。

したがって,本願商標と引用商標3とで,出所について誤認混同を生ずるおそれはない。

オ 小活

よって,本願商標と引用商標3とは,非類似の商標である。

(5) 本願商標と引用商標4との類否について

ア 外観

本願商標は,引用商標4と外観において全く相違する。

イ 観念

前記のとおり,本願商標からは,「原告」との観念及び「原告の商品」との観念が生ずる。

他方,引用商標4からは,「INDIAN MOTORCYCLE」との欧文字に対応して,「北米先住民の自動二輪車」との観念が生ずる。

よって,本願商標と引用商標4とは,観念においても相違する。

ウ 称呼

前記のとおり,本願商標からは,「インディアン,インディアンモトサイクルカンパニーインク」との称呼が生ずる。

他方,引用商標4からは,「INDIAN MOTORCYCLE」との欧文字に対応して,「インディアンモーターサイクル」との称呼が生ずる。

よって,本願商標と引用商標4とは,称呼においても相違する。

エ 本件審決の判断について

本件審決は,引用商標4中の「INDIAN MOTORCYCLE」との欧文字と本願商標中の「Indian Motocycle」との欧文字のみを対比し,これらは「北米先住民」の観念において類似し,また,「インディアンモーターサイクル」との称呼と「インディアンモトサイクル」との称呼は類似するとして,本願商標と引用商標4とは類似すると判断した。

しかし,そもそも,本願商標は,原告の商標として需要者の間で周知であるから,本願商標を使用した商品の出所は原告であると需要者に認識される。そして,「インディアンモトサイクル」及び「Indian Motocycle」は原告の略称として周知であるから,仮に,本願商標と引用商標4との類否判断において,引用商標4中の「INDIAN MOTORCYCLE」との欧文字と本願商標中の「Indian Motocycle」との欧文字の称呼,観念を対比することが許されるとしても,「インディアンモトサイクル」との称呼は,引用商標4の「インディアンモーターサイクル」との称呼と明瞭に聴取識別されるし,「Indian Motocycle」からは「原告」との観念が生ずるから,引用商標4の「INDIAN MOTORCYCLE」から生ずる「北米先住民の自動二輪車」の観念とは明瞭に識別される。

したがって,本願商標は,観念及び称呼においても,引用商標4と非類似の商標である。

オ 小活

よって,本願商標と引用商標4とは,非類似の商標である。

(6) 結論

以上のとおり,本願商標と引用各商標とは,いずれも非類似の商標である。

〔被告の主張〕

1  引用各商標の適格性について

原告は,引用各商標の商標登録は公序良俗に反するとして,引用各商標には,商標法4条1項11号の適用において,引用商標としての適格性がない旨主張する。

しかし,原告の上記主張は,引用各商標が商標法4条1項7号に該当するとして,その登録について疑問を呈するものにほかならず,別途,商標登録の無効審判の請求をする際の無効理由にするのであればともかく,本願商標の同項11号該当性を否定する理由とはならない。

よって,原告の主張は,失当である。

2  本願商標の商標法4条1項11号該当性について

(1) 商標の類否の判断基準

商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,許されるものである。

(2) 本願商標について

本願商標は,下部を水平にそろえた長い羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔の図形(同図形の中央部分に,比較的大きく描かれた特徴のある筆記体の書体で表した欧文字「Indian」を含む。)と,その下部に欧文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」を細字の筆記体で表した構成からなる結合商標である。

すなわち,本願商標は,上段の図形部分と下段の欧文字部分とが,一見して明確に分離されて看取されるものといえる。

そして,本願商標の上記図形は,本願商標の主要な部分を占め,図形が印象的であることもあいまって,商品の出所識別標識として強く支配的な部分であるといえる。

また,下段の欧文字部分は,単なる付記的部分といえるほど小さく表されているものではないし,上段の図形部分と常に一体のものと認識されなければならない特段の事情も認められないから,商品の出所識別標識としての機能を十分発揮し得るものといえる。

そうすると,本願商標は,上段の図形部分と下段の欧文字部分とが,それぞれ独立して,自他商品の識別標識として機能し得るものといえる。

してみれば,本願商標は,その構成中,上段の図形部分と,下段の欧文字部分の,それぞれの部分だけを他人の商標と比較することも,許されるというべきである。

そこで,本願商標の称呼及び観念を検討すると,上段の図形部分は,インディアンの図形と特徴のある筆記体の書体で表した「Indian」との欧文字からなるところ,当該文字は,「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」の意味を有する語として広く知られているから,インディアンの図形及び「Indian」との文字部分のいずれからも「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との観念を生じ,また,「Indian」の文字部分から「インディアン」との称呼を生じるものといえる。

他方,下段の欧文字部分のうち,「Co.,Inc.」の文字は,法人組織を意味する「Company Incorporated」の略語として知られ,かつ,一般に用いられていることから,単に株式会社等であることを認識させるにすぎず,当該文字から,自他商品の識別標識としての称呼・観念を生じるとはいい難い。

そうすると,下段の欧文字部分は,構成文字に相応して,「インディアンモトサイクルシーオーインク」,「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼が生じるほか,「インディアンモトサイクル」の称呼をも生じるものといえる。

また,「原野に設けた非舗装のコースを周回するオートバイ競技」が「モトクロス」と一般に称され,「moto」「モト」が「モーター」と同義でその略語として一般に使用されていること,「モーターサイクル」は,英語の「motorcycle」を語源とする「オートバイ」「自動二輪車」を意味する外来語として一般的に認識,理解されていることが認められ,このような実情に鑑みれば,下段の欧文字部分からは,「インディアンモトサイクルという名称のオートバイ(自動二輪車)を扱う会社」との観念を生じるほか,「インディアンのオートバイ(自動二輪車)」との観念をも生じるものというべきである。

(3) 引用各商標について

ア 引用商標1

引用商標1は,「インディアンモーターサイクル」の片仮名を横書きしてなる商標であるから,「インディアンモーターサイクル」との称呼が生じ,前半の「インディアン」からは「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との,後半の「モーターサイクル」からは「オートバイ」「自動二輪車」との観念を生じるので,引用商標1全体としては,「インディアンのオートバイ(自動二輪車)」との観念を生じるものというべきである。

イ 引用商標2

引用商標2は,下部を水平にそろえた長い羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔の図形(同図形の中央部分に,白抜きで比較的大きく描かれた特徴のある筆記体の書体で表した欧文字「Indian」を含む。)と,その下部に欧文字「MOTOCYCLE」を細字の活字体で表した構成からなる結合商標である。

すなわち,引用商標2は,上段の上記図形と下段の欧文字部分とが,一見して明確に分離されて看取されるものといえる。

そして,上段の図形部分は,引用商標2の主要な部分を占めるほど大きく表されているし,特徴あるインディアンの横顔の図形は,ほとんど黒く塗りつぶされていることもあいまって,見る者の目を強く引きつける部分であるから,商品の出所識別標識として強く支配的な部分であるといえる。

してみれば,引用商標2は,上段の図形部分だけを他人の商標と比較することも,許されるというべきである。

そうすると,引用商標2は,上段の図形部分がインディアンの図形と特徴のある筆記体の書体で表した「Indian」との欧文字からなるから,いずれからも「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との観念を生じ,「Indian」の文字部分から「インディアン」との称呼を生じるものといえる。

ウ 引用商標3

引用商標3は,黒塗りの円形図を背景として,その内側中央に,頭部の羽根飾りを前方に突出させた左向きインディアンの図形を配し,同図形の外側に配した白塗りの三重の円弧の図形の外周に沿って,「WORLDS FINEST MOTORCYCLE」と欧文字の活字体で表記し,その下方に,黒塗りの長方形図を背景として,特徴のある筆記体の書体で表した欧文字「Indian」と,白抜きの活字体欧文字「MOTOCYCLE」とを上下2段に表した構成からなるものであるところ,その構成中の欧文字「Indian」は,特徴のある筆記体の書体で,活字体の「MOTOCYCLE」とは,その書体が異なり,また,文字の大きさも,欧文字「Indian」の方が,欧文字「MOTOCYCLE」よりはるかに大きく,ともに看者の注意を引くインディアンの図形と,「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」という観念を共通にしているから,引用商標3を見た取引者,需要者は,引用商標3を,日本人にとって一般によく知られているインディアンを用いた商標として,認識し,理解するものというべきである。

また,インディアンの図形の周りにある「WORLDS FINEST MOTORCYCLE」との欧文字は,引用商標3中の欧文字「Indian」及び「MOTOCYCLE」と比べて,その文字の大きさがかなり小さく,離隔的に見たときに判読が困難なほどであることからすると,補助的な文字標章であり,これを,インディアンの図形,「Indian」及び「MOTOCYCLE」の欧文字と同様に,取引者,需要者の注目を集める顕著な部分であるとみることはできない。

そうすると,引用商標3は,「Indian」との文字部分が商品の出所識別標識として強く支配的であり,この部分だけを他人の商標を比較することも許されるというべきであるから,これより「インディアン」との称呼を生じ,「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との観念も生じるものといえる。

エ 引用商標4

引用商標4は,黒塗りの円形図形を背景として,その内側中央に,頭部の羽根飾りを前方に突出させた左向きのインディアンの図形を配し,当該図形の外周に沿って,「INDIAN MOTORCYCLE」との欧文字を表した構成からなるものである。

そうすると,その構成中の「INDIAN MOTORCYCLE」の文字部分から,「インディアンモーターサイクル」との称呼を生じ,前半の「INDIAN」からは「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との,後半の「MOTORCYCLE」からは「オートバイ」「二輪自動車」との観念を生じるので,引用商標4全体としては,「インディアンのオートバイ(二輪自動車)」との観念を生じるものというべきである。

(4) 取引の実情

本願商標と引用各商標の抵触する指定商品は,いずれも洋服等の被服類であるから,その需要者は,一般の消費者(ファッションに関心を持つ若い男性層を含む。)であり,その需要者を共通にするものといえる。そして,こういった需要者は,必ずしも商標やブランドについて詳しい知識を持つ者ばかりではなく,商品の購入に際し,メーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らないことは,経験則に照らして明らかであり,簡易迅速を尊ぶ商取引の実際にあっては,称呼・観念が共通(又は類似)する商標同士は,互いに混同を生ずるおそれがあるというべきである。

(5) 類否の判断

ア 本願商標と引用商標1及び4との類否判断

(ア) 外観

本願商標と,引用商標1及び4の外観を比較すると,前記(2),(3)ア及びエのとおり,差異を有するものである。

(イ) 観念及び称呼

本願商標の下段の欧文字部分から生じる「インディアンモトサイクル」との称呼と,引用商標1及び4から生じる「インディアンモーターサイクル」との称呼を比較すると,前部の「インディアン」及び後部の「サイクル」は共通であり,その中間において,前者の「モト」が,後者では「モーター」となっている点が相違するにすぎない。そして,相違する称呼のうち,「モ」と「モー」の音は,単に長音を伴っているかどうかで相違するにすぎない。また,「ト」と「ター」の音は,長音を伴っているかどうかで相違するほか,母音においても相違するが,いずれもタ行に属する同質音である。

そうすると,本願商標と,引用商標1及び4を,それぞれ一連に称呼するときは,全体の音感,音調が近似した紛らわしいものとなることが明らかである。

したがって,本願商標と引用商標1及び4とは,称呼において類似するというべきである。

そして,観念において,両者は,ともに「インディアンのオートバイ(自動二輪車)」との観念が生じるものであるから,その観念を共通にするものである。

(ウ) 商標法4条1項11号該当性

以上のとおり,本願商標と引用商標1及び4とは,前記の取引の実情を踏まえて比較すると,外観上の差異を考慮しても,観念を共通にし,称呼において類似するものであるから,互いに相紛らわしい類似の商標というべきである。

そして,本願商標の指定商品と,引用商標1及び4の指定商品とは,同一又は類似の商品と認められるものである。

したがって,本願商標は,引用商標1及び4に類似する商標であって,その指定商品と同一又は類似する商品について使用をするものであるから,商標法4条1項11号に該当するというべきである。

イ 本願商標と引用商標2との類否判断

(ア) 外観

本願商標と引用商標2との外観を比較すると,前記(2)及び(3)イのとおり,両者は,下段の欧文字部分において相違するものの,本願商標中の上段の図形部分と引用商標2中の上段の図形部分は,線書きであるか黒塗りであるかという差異はあるが,その構成,態様は軌を一にしており,各図形部分中に書された「Indian」との文字部分は,ほぼ同様の特徴のある筆記体の書体で表されているから,外観上の近似性を有するものといえる。

(イ) 観念及び称呼

本願商標と引用商標2は,いずれも「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との観念及び「インディアン」との称呼を生じるものであるから,両者の観念及び称呼は共通する。

(ウ) 商標法4条1項11号該当性

以上のとおり,本願商標と引用商標2とは,前記の取引の実情を踏まえて比較すると,外観は近似性を有し,かつ,「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との観念及び「インディアン」との称呼を共通にし,ともに日本人にとって一般によく知られているインディアンを用いた商標として類似性を有している以上,出所について誤認混同を生ずるおそれを否定できないというべきである。

そして,本件指定商品と引用商標2の指定商品とは,同一又は類似の商品と認められるものである。

したがって,本願商標は,引用商標2に類似する商標であって,その指定商品と同一又は類似する商品について使用をするものであるから,商標法4条1項11号に該当するというべきである。

ウ 本願商標と引用商標3との類否判断

(ア) 外観

本願商標と引用商標3との外観を比較すると,前記(2)及び(3)ウのとおり,幾つかの点が相違するものの,本願商標と引用商標3の要部たり得る「Indian」との欧文字部分では,線書き文字であるか縁取り文字であるかの差異があるものの,ほぼ同様の特徴のある筆記体の書体で表されていることからすれば,当該文字部分において,外観上の近似性を有するといえる。

(イ) 観念及び称呼

本願商標と引用商標3は,いずれも「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との観念及び「インディアン」との称呼を生じるものであるから,両者の観念及び称呼は共通する。

(ウ) 商標法4条1項11号該当性

以上のとおり,本願商標と引用商標3とは,前記の取引の実情を踏まえて比較すると,外観において差異を考慮したとしても,ほぼ同様の特徴のある筆記体の書体で表された「Indian」の欧文字部分を互いに有し,かつ,「インディアン(アメリカの先住民ないし北米原住民)」との観念及び「インディアン」との称呼を共通にし,ともに日本人にとって一般によく知られているインディアンを用いた商標として類似性を有している以上,取引の実際において,出所について誤認混同を生ずるおそれを否定できないというべきである。

そして,本件指定商品と引用商標3の指定商品とは,同一又は類似の商品と認められるものである。

したがって,本願商標は,引用商標3に類似する商標であって,その指定商品と同一又は類似する商品について使用をするものであるから,商標法4条1項11号に該当するというべきである。

(6) 結論

以上のとおり,本願商標は,引用各商標と類似する商標である。

第4当裁判所の判断

1  商標の類否判断

商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(前掲最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決参照)。

しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

そこで,以上説示した見地から本願商標と引用各商標との類否について検討する。

(1)  本願商標について

本願商標は,別紙本願商標目録記載のとおり,下部を水平にそろえた長い羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔と羽根飾りの中央部分に筆記体の書体で表した「Indian」との欧文字を配した図形と,その下部に筆記体の書体で表した「Indian Motocycle Co.,Inc.」との欧文字を配した構成からなる商標である。なお,インディアンの横顔及び羽根飾りは線引きで表されている。

上記のとおり,本願商標は,上段の図形部分と下段の欧文字部分とから構成されているところ,上段の図形部分は,羽根飾りを冠したインディアンの横顔という印象的な意匠であり,また,同図形の横幅は下段の欧文字部分と概ね一致しているものの,欧文字部分の上段に,当該欧文字部分の約4倍程度の縦幅をもった大きさで配されていることからすると,外観上,上段の図形部分は,下段の欧文字部分に比して,見る者の注意をより引くものであるということができる。

そうすると,本願商標のうち,上段の図形部分は,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,本願商標のうち,上段の図形部分だけを引用各商標と比較して商標の類比の判断をすることも許されるというべきである。

したがって,本願商標からは,上段の図形部分からも,称呼,観念を生じ得るものというべきである。

(2)  引用商標2について

引用商標2は,別紙引用商標目録2記載のとおり,下部を水平にそろえた長い羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔と羽根飾りの中央部分に白抜きの筆記体の書体で表した「Indian」との欧文字を配した図形と,その下部に筆記体の書体で表した「MOTOCYCLE」との欧文字を配した構成からなる商標である。なお,インディアンの横顔及び羽根飾りは黒塗りで表されている。

上記のとおり,引用商標2は,上段の図形部分と下段の欧文字部分とから構成されているところ,上段の図形部分は,羽根飾りを冠したインディアンの横顔という印象的な意匠であり,また,その横幅は下段の欧文字部分より広く,当該欧文字部分の上段に,欧文字部分の約4倍程度の縦幅をもった大きさで配されていることからすると,外観上,上段の図形部分は,下段の欧文字部分に比して,見る者の注意をより引くものであるということができる。

そうすると,引用商標2のうち,上段の図形部分は,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,引用商標2のうち,上段の図形部分だけを本願商標と比較して商標の類比の判断をすることも許されるというべきである。

したがって,引用商標2からは,上段の図形部分からも,称呼,観念を生じ得るものというべきである。

(3)  本願商標と引用商標2との類否

ア 外観について

本願商標中の上段の図形部分と,引用商標2中の上段の図形部分を対比すると,下部を水平にそろえた長い羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔と羽根飾りの中央部分に筆記体の書体で表した「Indian」との欧文字を配した構成とされた点で一致している。他方,本願商標の図形部分は,インディアンの横顔や羽根飾りが線引きであるのに対し,引用商標2の図形部分では,これらが黒塗りとされているという相違があるほか,引用商標2では,羽根の中に白抜きの模様が入っている点や,顔の図形や顔にかかる髪の形状あるいは首や首輪の部分の形状等においても,若干の相違は存在するものの,前記のとおり,下部を水平にそろえた長い羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔と羽根飾りの中央部分に筆記体の書体で表した「Indian」との欧文字を配するという全体的な構成としては,軌を一にするものであり,外観上の印象は相互に近似するものと認められる。

イ 称呼について

本願商標の上段の図形部分からは,髪飾り中に配された「Indian」との欧文字から,「インディアン」との称呼が生ずる。

また,引用商標2の上段の図形部分からも,髪飾り中に配された「Indian」との欧文字から,「インディアン」との称呼が生ずる。

したがって,本願商標と引用商標2からは,同一の称呼が生ずるものである。

ウ 観念について

(ア) 本願商標の上段の図形部分からは,インディアンの横顔と髪飾り中の「Indian」との欧文字から,「南北アメリカの先住民」との観念を生じ得る(乙7)。

また,引用商標2の上段の図形部分からも,インディアンの横顔と髪飾り中の「Indian」との欧文字から,同様に,「南北アメリカの先住民」との観念を生じ得る。

したがって,本願商標と引用商標2からは,同一の観念が生ずるものである。

(イ) 原告は,周知の商標である本願商標からは,「原告」との観念あるいは「原告の商品」との観念が生ずると主張する。

しかしながら,仮に,本願商標が本件指定商品の取引者,需要者の間で広く知られていたとしても,本願商標の上段の図形部分に表されたインディアンの横顔と髪飾り中の「Indian」との欧文字から,インディアン(南北アメリカの先住民)との観念が生じ得ることは否定できないのであって,同図形部分からは専ら「原告」あるいは「原告の商品」との観念のみが生ずるものと認めることはできない。

エ 以上のとおり,本願商標と引用商標2は,同一の称呼・観念が生じ,外観上も全体の構成として近似した印象を持たせるものであるから,本願商標は,引用商標2と類似するものである。

(4)  商品の類比

本件指定商品は第25類「被服」であり,引用商標2の指定商品は第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着」であるから,両者の指定商品は同一又は類似するものである。

(5)  取引の実情について

前記のとおり,本件指定商品は第25類「被服」であり,引用商標2の指定商品は第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着」である。これらの商品の需要者は,一般の消費者であるところ,一般の消費者においては,必ずしも商標やブランドについて詳細な知識を持つ者ばかりではなく,商品の購入に際して,ブランド名等を常に注意深く確認するとは限らないから,簡易迅速を尊ぶ商取引の実際にあっては,同一の称呼,観念が生じ,外観上も全体の構成において近似する商標である本願商標と引用商標2については,誤認混同を生ずるおそれがあるというべきである。

(6)  商標法4条1項11号該当性

以上のとおり,本願商標と引用商標2とは類似し,かつ,その指定商品は同一又は類似するものであるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当すると認めるのが相当である。

2  原告の主張について

原告は,引用商標2は東洋エンタープライズにおいて商品に使用する意思がないのに原告の業務を妨害する意図で出願し登録を得たものであり,公序良俗に反し,商標法4条1項7号により商標登録を無効にすべきものであるとして,引用商標2は,同項11号の適用に当たり,引用商標としての適格性を欠くものである旨主張する。

しかしながら,商標法は,同法4条において,商標登録出願に際して商標登録を受けることができない商標の類型を規定し,同法46条1項において,商標登録を無効にする審判を請求することができる事由を規定しているように,商標登録を受けることができない事由と商標登録を無効にする審判を請求することができる事由を明確に分けて規定している。そして,同法46条の2第1項本文は,商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは,商標権は,初めから存在しなかったものとみなすと規定している。また,商標登録の無効については,上記無効審判請求ができるほか,商標権者等の権利行使の際に無効主張が認められている(同法39条で特許法104条の3,1項及び2項を準用)が,商標法4条1項11号にいう「商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標」について,当該商標登録が同法46条1項掲記の事由に該当するものでないことを定めた規定はない。

以上のような商標法の構造からすると,商標法4条1項11号にいう「商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標」は,当該商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したものでないのであれば,商標登録を受けようとする商標の同号該当性の判断において,引用商標としての適格性を失うものではないと解するのが相当である。

したがって,原告の主張は,採用することができない。

3  結論

以上の次第であるから,その余の点について検討するまでもなく,原告主張の取消事由は理由がない。

よって,本件審決は相当であって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富田善範 裁判官 大鷹一郎 裁判官 齋藤巌)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例