知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10174号 判決 2014年2月26日
原告
株式会社ミクニ
訴訟代理人弁護士
小林幸夫
同
坂田洋一
訴訟代理人弁理士
國分孝悦
同
栗川典幸
同
関直方
同
佐久間邦郎
被告
株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士
碓氷裕彦
同
井口亮祉
主文
1 特許庁が無効2012-800141号事件について平成25年5月20日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は,平成12年5月19日にした特許出願(優先権主張日平成11年11月1日,特願2000-147238号)の一部を分割して,平成15年7月11日,発明の名称を「回転角検出装置」とする発明について新たに特許出願(特願2003-273606号。以下「本件出願」という。)をした。
被告は,平成17年2月10日付けの拒絶理由通知(乙3)を受け,同年4月20日付けで本件出願の願書に添付した特許請求の範囲及び明細書について手続補正(以下「本件補正1」という。乙4)をした後,更に平成18年4月17日付けの拒絶理由通知(乙5)を受け,同年6月21日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正(以下「本件補正2」という。乙6)をし,同年8月25日,特許第3843969号(請求項の数1。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録(甲12)を受けた。
(2) 原告は,平成24年8月31日,本件特許に対して特許無効審判(無効2012-800141号事件)を請求し,被告は,同年11月30日付けで本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正請求(以下「本件訂正」という。乙8)をした。
その後,特許庁は,平成25年5月20日,上記無効審判事件について,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月30日,その謄本が原告に送達された。
(3) 原告は,平成25年6月25日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 設定登録時のもの
本件特許の設定登録時(本件補正2の後のもの)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】 磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,
前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」
(2) 本件訂正後のもの
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。下線部は訂正箇所である。)。
「【請求項1】
磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,
このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と, 2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,
前記磁気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子であり,前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置されて3つの端子は前記磁気検出素子の同一面より引き出され,
前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
要するに,本件訂正は,訂正事項aないしcからなり,訂正事項aは,特許請求の範囲の減縮を目的とし,本件特許の設定登録時(本件訂正前)の請求項1を本件訂正後の請求項1のとおりに訂正し,訂正事項bは,明瞭でない記載の釈明を目的とし,訂正事項aの特許請求の範囲の記載の訂正に整合するように,本件訂正前の明細書(以下,図面を含めて,「本件明細書」という。甲12)の段落【0009】の記載を訂正し,訂正事項cは,本件明細書の段落【0048】の記載の誤記を訂正するというものであるが,いずれも特許法134条の2第1項ただし書の規定に適合し,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するとして,本件訂正を認めた上で,①本件補正1は,本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。乙2)に記載した事項の範囲内のものであるから,本件特許には,特許法17条の2第3項違反の無効理由(同法123条1項1号)は認められない,②本件特許には,特許法36条6項1号(サポート要件)違反又は同条4項1号(実施可能要件)違反の無効理由(同法123条1項4号)は認められない,③本件訂正発明は,本件出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明と実質的に同一であるとはいえず,また,本件訂正発明は,甲1に記載された発明に基づいて,甲1及び甲2に記載された発明に基づいて又は甲1に記載された発明及び甲2ないし6に記載された周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえないから,本件特許には,特許法29条1項3号又は同条2項違反の無効理由(同法123条1項2号)は認められないというものである。
なお,甲1ないし6は,以下のとおりである。
甲1 「特開平5-157506号公報」
甲2 「実願平1-61302号(実開平2-150585号)のマイクロフィルム」
甲3 「特開平9-294060号公報」
甲4 「特開平8-135466号公報」
甲5 「子供の科学1984年5月号(誠文堂新光社,昭和59年5月1日発行)」
甲6 「子供の科学1985年7月号(誠文堂新光社,昭和60年7月1日発行)」
(2) 本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。),本件訂正発明と甲1発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 甲1発明
「永久磁石15が固定され,スロットルバルブに連動して回動するロータ5と,
この永久磁石15の磁界を受けて前記スロットルバルブの回転角度を検出し,同じ配列の4つの端子を有し,かつ同形状を有する2つのホール素子21,22と,
2つは前記ホール素子21,22の出力を外部に取り出し,また1つは前記ホール素子21,22に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記ホール素子21,22を外部に接地するための,4つのターミナル24(すなわち,検出信号出力端子24a,24b,電源供給用端子24c,接地用端子24d)とを備えた非接触式のスロットルポジションセンサであって,
前記ホール素子21,22の4つの端子は,一対の電流端子及び一対の電圧端子であり,前記2つのホール素子21,22は,ロータ5の回転軸に沿った面に平行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設されて4つの端子は前記ホール素子21,22の同一面より引き出され,
前記2つのホール素子21,22がそれぞれ有する前記4つの端子はいずれも同一方向に引き出されて,4つの端子を有するホール素子21は,プリント基板27上でセンサ回路50を形成することで,3つの端子(すなわち,電源供給用端子24c,検出信号出力端子24a,及び接地用端子24d)に接続され,同様に,4つの端子を有するホール素子22は,前記プリント基板27上でセンサ回路60を形成することで,3つの端子(すなわち,電源供給用端子24c,検出信号出力端子24b,及び接地用端子24d)に接続されているスロットルポジションセンサ。」
イ 本件訂正発明と甲1発明の一致点
「磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,
このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の複数の端子を有し,かつ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,
前記磁気検出素子の複数の端子は,素子に電流を流すために必要な端子及び出力信号を素子から取り出すために必要な端子であり,複数の端子は前記磁気検出素子の同一面より引き出され,
前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」である点。
ウ 本件訂正発明と甲1発明の相違点
(相違点1)
本件訂正発明においては,各磁気検出素子は3つの端子を有し,それらは,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子であるのに対し,甲1発明においては,各ホール素子21,22は,4つの端子を有し,それらは,一対の電流端子及び一対の電圧端子である点。
このことに関連して,本件訂正発明においては,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されている」とあるように,複数の磁気検出素子がそれぞれ有する3つの端子のうちの信号入力用端子及び接地端子については,事実上,同じ方向へ引き出されて外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子に接続されているのに対し,甲1発明においては,「前記2つのホール素子21,22がそれぞれ有する前記4つの端子はいずれも同一方向に引き出されて,4つの端子を有するホール素子21は,プリント基板27上でセンサ回路50を形成することで,3つの端子(すなわち,電源供給用端子24c,検出信号出力端子24a,及び接地用端子24d)に接続され,同様に,4つの端子を有するホール素子22は,前記プリント基板27上でセンサ回路60を形成することで,3つの端子(すなわち,電源供給用端子24c,検出信号出力端子24b,及び接地用端子24d)に接続されている」とあるように,4つの端子を有するホール素子21,22は,それぞれ,プリント基板27上でセンサ回路50,60を形成することで,3つの端子である電源供給用端子24c,検出信号出力端子24a,24b,及び接地用端子24dに接続されている点。
(相違点2)
本件訂正発明においては,「複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置されて」いるのに対し,甲1発明においては,「2つのホール素子21,22は,ロータ5の回転軸に沿った面に平行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設されて」いる点。
第3当事者の主張
1 原告の主張
(1) 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)
本件審決は,本件訂正の訂正事項a(特許請求の範囲の記載(請求項1)を前記第2の2(1)から(2)のとおりに訂正するもの)のうち,請求項1に「前記磁気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子であり,」及び「…配置されて3つの端子は前記磁気検出素子の同一面より引き出され,」との構成を付加する訂正は,磁気検出素子が有する3つの端子について,それぞれ,その種類を限定するとともに,その配置を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる,この訂正は,本件明細書(甲12)の発明の詳細な説明の段落【0030】の「そして,図5および図7(a)に示したように,2個のホールIC31,32のリード線36,37と信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地用端子43とを電気的に接続する。」との記載,段落【0040】の「図5および図6に示したように,2個のホールIC31,32を,並列に180度逆方向で配置することにより,リードフレーム33を含めた2個のホールIC31,32の組み付けが簡単になる。」との記載,図5ないし7(別紙1参照)の記載を根拠とするものであるから,訂正事項aは,本件明細書に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない旨判断した。
しかしながら,本件審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア 本件訂正の訂正事項aは,本件特許の設定登録時(本件訂正前)の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」,磁気検出素子の2種類の各端子が端子毎に同じ方向へ引き出されるものであったのが,本件訂正後の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」と訂正され,磁気検出素子の少なくとも1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のものも含み得ることになり,実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条6項に違反する。
また,別紙1の図5ないし7に記載されているのは,並列に180度逆方向に並べられた磁気検出素子の一番内側の信号入力用端子同士のみの端子毎の同じ方向の引き出しであって,磁気検出素子の真ん中の接地用端子を端子毎に同じ方向へ引き出すものではなく,本件明細書には,接地用端子を端子毎に同じ方向に引き出して外部接続端子に接続する構成の記載がないから,この構成を請求項1に含める訂正事項aは,本件明細書に記載した事項の範囲内のものではなく,新規事項の追加に当たり,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項に違反する。
イ 被告は,この点に関し,本件訂正の訂正事項aは,磁気検出素子の端子の内,端子毎に同じ方向に引き出されて外部接続端子と接続する端子は,信号入力用端子か接地用端子の「少なくともいずれか」であることによって,事実上,信号入力用端子と接地用端子の2種類であることを明らかにしたものである旨主張する。
しかしながら,本件訂正後の請求項1記載の「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」の「少なくともいずれか」の文言は,「前記信号入力用」の端子又は「前記接地用」の端子のいずれか単独の端子の場合も明らかに含むものと読めるから,本件訂正後に「端子毎に同じ方向に引き出される」端子は,2種類ではなく,1種類でもよいこととなる。
したがって,被告の上記主張は失当である。
ウ 以上のとおり,本件審決には,訂正要件の判断を誤り,本件訂正を認めた誤りがあり,この誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(2) 取消事由2(特許法17条の2第3項の補正要件の判断の誤り)
本件審決は,本件出願当初の請求項1に「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のいずれかと接続されていること」との発明特定事項(以下「構成1」という。)を追加する本件補正1について,構成1の「同じ方向へ引き出され」る「端子」は,「外部接続端子」ではなく,磁気検出素子から直接伸びている端子(当初明細書等の発明の詳細な説明中ではリード線36,37とされているもの)であり,また,「3つの端子の内の各磁気検出素子の2つの同一位置に配置された各端子」とは,事実上「2つ」の「同一位置」に配置された端子,すなわち2種類の端子を指すものと認められ,構成1は,当初明細書等の発明の詳細な説明の段落【0022】,【0030】及び別紙1の図5ないし7に記載したとおりのものにほかならないから,本件補正1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえず,本件特許は,特許法17条の2第3項に違反する補正をした特許出願に対して特許されたものとはいえない旨判断した。
しかしながら,本件審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア 本件補正1は,次のとおり,本件出願当初の請求項1について,構成1の文言などを追加して補正したものである。
(本件出願当初の請求項1)
「【請求項1】
磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出する複数の磁気検出素子と,この磁気検出素子の出力を外部に取り出すための外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,
前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置されていることを特徴とする回転角度検出装置。」
(本件補正1後の請求項1)
「【請求項1】
磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,少なくとも1つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,または1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための3つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,
前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記3つの外部端子のいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」(下線部は補正1による補正箇所である。)
イ 本件補正1後の請求項1の「2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」とは,「並列に180度逆方向で配置」されていることを前提とするものであり,「端子毎」の文言,当初明細書等(乙2)の段落【0040】の記載などからすると,少なくとも2種類の端子は,別紙2の甲7の3の斜視図に示すように,間に別の端子を挟むことなく,端子毎に別々の方向に引き出され,まとめて外部端子に接続されることを意味すると解される。
しかるところ,当初明細書等の図6(別紙1参照)は,磁気検出素子を「並列に180度逆方向で配置」することを前提とした図面ではあるが,これを斜視図にした別紙2の甲7の1を参照すると明らかなとおり,3種類の端子が全て真っ直ぐ下方に引き出されているものであって,とりわけ,真ん中の接地用端子同士は,間に信号入力用端子を挟み込んでいるので,端子毎の引き出しとはなっていない。
そうすると,別紙1の図6を含む図5ないし7は,「2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」という技術的事項について,開示するものとはいえず,本件補正1の根拠となり得るものではない。また,当初明細書等の他の箇所に,当該技術的事項を開示する記載はない。
したがって,本願出願当初の請求項1に「2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」の構成を追加した本件補正1は,当初明細等に記載のない新規事項を追加するものであるから,特許法17条の2第3項に違反する。
これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(3) 取消事由3(本件訂正発明に係るサポート要件及び実施可能要件の判断の誤り)
本件審決は,本件訂正発明に係る構成1(前記(2))は,本件訂正後の明細書(以下,図面を含めて「本件訂正明細書」という。乙8)の発明の詳細な説明の段落【0022】,【0030】及び別紙1の図5ないし7に記載したとおりのものであり,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されており,また,発明の詳細な説明には,本件訂正発明に係る構成1に対応する発明の実施の形態についての記載があるといえるから,本件特許には,特許法36条6項1号のサポート要件違反及び同条4項1号の実施可能要件違反は認められない旨判断した。
しかしながら,本件訂正後の請求項1の「2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」の意義は,前記(2)イで述べたとおり,少なくとも2種類の端子が,別紙2の甲7の3の斜視図に示すように,間に別の端子を挟むことなく,端子毎に別々の方向に引き出され,まとめて外部端子に接続されることを意味するものであるが,本件訂正明細書には,当該技術的事項の開示はない。また,そもそも,別紙1の図5ないし7には,前記(1)アで述べたように,接地用端子を端子毎に同じ方向に引き出して外部接続端子に接続する構成の記載がない。
そうすると,本件訂正発明は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載がなく,また,本件訂正明細書に実施例の記載がないため,実施不能であるといえるから,本件特許は,サポート要件及び実施可能要件に違反する。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
(4) 取消事由4(本件訂正発明の容易想到性の判断の誤り)
本件訂正明細書(乙8)には,本件訂正発明は,「磁気検出素子および外部接続端子の組み付けを簡単にすること」(段落【0008】)を課題とし,その課題を解決するための手段として,2つの磁気検出素子を「並列に180度逆方向で配置」し,「2つの同一位置に配置された各端子…の少なくともいずれかは…同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて…外部接続端子…と接続されている」との構成を採用することにより(別紙1の図5ないし7,別紙2の甲7の1参照),「リードフレーム33を含めた2個のホールIC31,32の組み付けが簡単になる」(同段落【0040】)という効果を奏することが記載されている。
本件訂正発明の課題は,回路素子の配置・配線に関する一般的な課題であり,回転角検出素子に特有の課題ではなく,また,別紙1の図5ないし7に示されるような,複数の3端子素子の配置・配線は,磁気検出素子やこれを用いた回転角検出装置に特有のものではなく,例えば,3端子素子のトランジスタについて,複数のトランジスタを回路に使用して,各3端子素子を回路に効率よく配置し,組み付けを容易にするということは,素子の配置・配線において常在する課題である。
そして,本件審決が認定するように,複数の素子の同一位置に配置された各端子の一方を共通の接続端子に接続することは,一般に,回路構成として周知・慣用技術(甲5,6)である。
しかるところ,本件訂正発明と甲1発明との相違点は,要するに,磁気検出素子の磁気検出面を重ねたか,同じ平面上に並べ内側の端子を共通化したという点にあるにすぎない。
そうすると,当業者であれば,2つの磁気検出素子(ホール素子)を配置・配線する技術について開示する甲1発明において,甲2ないし4記載の2つの磁気検出素子(ホール素子又はホールIC)を配置・配線する技術及び上記周知・慣用技術を適用する動機付けは十分にあるといえるから,甲1発明にこれらを適用して本件訂正発明に想到することは容易であったというべきである。
したがって,本件訂正発明は,甲1に記載された発明及び甲2ないし6に記載された周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の判断は誤りである。
2 被告の主張
(1) 取消事由1に対し
ア 本件訂正は,本件訂正前の請求項1の複数の磁気検出素子の端子と外部接続端子との接続構造について,①磁気検出素子の「3つの端子」が「電源電圧を印加する信号入力用端子,信号出力用端子及び接地用の端子」であることを明らかにし,②「3つの端子」は磁気検出素子の同一面より引き出されるものであることを疑義なくし,③磁気検出素子の端子のうち,端子毎に同じ方向に引き出されて外部接続端子と接続する端子は,信号入力用端子か接地用端子の「少なくともいずれか」であることによって,事実上,信号入力用端子と接地用端子であることを明らかにし,同様に,外部接続端子のうち,磁気検出素子の端子毎に同じ方向に引き出された端子と接続する端子も,信号入力用端子か接地用端子の「少なくともいずれか」であることによって,事実上,信号入力用端子と接地用端子であることを明らかにし,特許請求の範囲に限定を加えたものである。
イ 原告は,本件訂正前の磁気検出素子の2種類の各端子が端子毎に同じ方向へ引き出されるものであったのが,本件訂正によって,磁気検出素子の少なくとも1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のものも含み得ることになったから,本件訂正は実質上特許請求の範囲(請求項1)を拡張したものである旨主張する。
しかしながら,本件訂正の前後にかかわらず,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子」の種類は「少なくとも2つ」あり,本件訂正は,この「少なくとも2つ」ある「端子の種類」が「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」であることを明確にすることによって,2つの同一位置の端子の種類を信号入力用及び接地用の端子に限定したものである。
したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張するものではないから,原告の上記主張は,理由がない。
次に,原告は,本件明細書には,「接地用端子」を端子毎に同じ方向に引き出して外部接続端子に接続する構成の記載がないから,この構成を請求項1に含める本件訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内のものでなく,新規事項の追加に当たる旨主張する。
しかしながら,本件明細書記載の実施例1(段落【0022】,【0030】,【0038】及び図5ないし7)では,別紙1の図6に示すように,磁気検出素子であるホールIC31,32の隣接部に位置する各信入力用端子が,外部接続端子であるリードフレーム33の信号入力用端子40に接続され,かつ,ホールIC31,32の中央部に位置する各接地用の端子がリードフレーム33の接地用端子43に接続され,ホールIC31,32の信号入力用端子及び接地用端子の各端子が端子毎に同じ方向に引き出されている。
したがって,本件明細書の実施例1には,「接地用端子」を端子毎に同じ方向に引き出して外部接続端子に接続する構成が開示されているから,原告の上記主張は,理由がない。
ウ 以上によれば,本件訂正の訂正事項aは,本件明細書に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2に対し
原告は,本件補正1後の請求項1の「各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出され」の構成の意義は,少なくとも2種類の端子が,別紙2の甲7の3の斜視図に示すように,間に別の端子を挟むことなく,端子毎に別々の方向に引き出され,まとめて外部端子に接続されることを意味する旨主張するが,同請求項1の文言に基づかない独自の見解であって,失当である。
そして,本件補正1後の請求項1の上記構成は,前記(1)イで述べたのと同様に,当初明細書等の実施例1(段落【0022】,【0030】,【0038】及び図5ないし7)に開示されているから,本件補正1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがて,本件補正1は特許法第17条の2第3項に違反しないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3に対し
本件訂正後の請求項1の「2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」の構成の意義に関する原告の主張は,前記(2)で述べたとおり,失当である。
同請求項1の上記構成は,本件訂正明細書の実施例1(前記(1)イ)に示されているように,「磁気検出素子31,32の夫々の3つの端子が何れも一方向に延びて電源電圧を印加する信号入力用端子又は接地用端子が隣接する構成」を意味するものであり,原告が主張するような,「まとめられた2種類の端子は同じ方向ではなく,別々の方向に引き出される構成」は含まない。
したがって,本件審決のサポート要件及び実施可能要件の判断の誤りをいう原告主張の取消事由3は,その前提において理由がない。
(4) 取消事由4に対し
本件訂正発明は,2つの磁気検出素子が隣接配置され,かつ,2つの磁気検出素子の電圧印加・接地用端子が共通の外部接続端子に接続可能であることを踏まえて,2つの磁気検出素子が同じ配列の3つの端子を有し,かつ,同形状であること,この2つの磁気検出素子を並列に180度逆方向で配置した際,3つの端子が磁気検出素子の同一面より引き出されることを利用して,4つの外部接続端子と磁気検出素子との組み付けを簡単にしている点に特徴がある。例えば,本件訂正明細書の実施例1が示すように(別紙2の甲7の1参照),磁気検出素子の3つの端子は2つの磁気検出素子で夫々同じ位置に配置されているため,並列に180度逆方向に配置すれば,一方の磁気検出素子の端子と他方の磁気検出素子の端子とが同種の端子同士で隣り合うこととなる。そして,磁気検出素子の3つの端子のうち電源電圧用の端子と接地用の端子とは2つの磁気検出素子で共用することができるので,隣同士に並べられた電源電圧印加用の端子又は接地用の端子は,外部接続端子にまとめることができ,その結果として,電源電圧印加用の端子又は接地用の端子の残りの端子の外部接続端子への接続も簡単となる。
甲1及び甲3記載のホール素子は,基板に実装されているが,甲1及び甲3には,本件訂正発明の磁気検出素子に対応する「センサ回路」(甲1)や「無接点型磁気スイッチ」(甲3)に関しては外部接続端子との接続構造が示されていない。
また,本件審決が認定するように,本件訂正発明に係る3つの端子を有する複数の磁気検出素子を,並列に180度逆方向に配置する構成については,甲1ないし6のいずれにも示されていない。仮に甲1又は甲3記載のホール素子に複数の素子の同一位置に配置された各端子の一方を共通の接続端子に接続するという周知・慣用技術(甲5,6)を適用できるとしても,相違点1及び2に係る本件訂正発明の構成に想到し得るものではない。
したがって,本件訂正発明は,甲1に記載された発明及び甲2ないし6に記載された周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由4は理由がない。
第4当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について
(1) 本件明細書の記載事項等
ア 本件発明の特許請求の範囲(本件特許の設定登録時の請求項1)の記載は,前記第2の2(1)のとおりであり,また,本件訂正発明の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)の記載は,同(2)のとおりである。
イ 本件明細書(甲12)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図1ないし7は別紙1を参照)。
(ア) 「【技術分野】
本発明は,被検出物の回転角度を検出する非接触式の磁気検出素子をロータコアに設けられた磁石に対向して配置した回転角度検出装置に関するもので,例えば自動車の回転弁の回転角度を検出するホール素子,ホールIC等の非接触式の磁気検出素子を備えた回転角度検出装置に係わる。」(段落【0001】)
(イ) 「【背景技術】
従来より,スロットル弁等の回転弁の回転角度を検出するスロットルポジションセンサとしては,特開昭62-182449号公報および特開平2-130403号公報に開示された構造のものがある。先ず,特開昭62-182449号公報で開示されたスロットルポジションセンサは,スロットル弁のシャフトの先端に可変抵抗体部を有する絶縁基板が固定されてスロットル弁のシャフトの回転に伴ってシャフトと一体的に回転し,センサケース側に固定された固定端子と接触することで,外部へ出力するものである(第1従来例)。」(段落【0002】)
「また,特開平2-130403号公報で開示されたスロットルポジションセンサは,スロットル弁のシャフトの先端に磁界発生源である永久磁石とヨークを保持部材を介して固定してスロットル弁のシャフトと一体的に回転するように構成され,スロットル弁のシャフトの回転角度を検出するホール素子と信号処理回路部は基板に配置され,リードフレームを介してコネクタに接続され,外部へ出力するものである(第2従来例)。…」(段落【0003】)
(ウ) 「【発明が解決しようとする課題】
ところが,第1従来例のスロットルポジションセンサのセンサケース側には,樹脂一体成形等で配設された入出力用のコネクタピンと樹脂成形後に何らかの機械的手段で固定された固定端子とが設けられているが,上記の絶縁基板との組み付けに関し,センサケース側に特別な工夫を施した構成を有していない。これにより,センサケース側の固定端子とスロットル弁のシャフトと一体的に回転する絶縁基板との位置関係がズレ易く,スロットル弁の開度の検出精度が低下するという問題があった。」(段落【0004】)
「一方,第2従来例のスロットルポジションセンサにおいて,基板,リードフレーム,コネクタ等の電気部品は樹脂による一体成形でモジュール化され,スロットルボディにねじ固定される。このとき,スロットルボディ側にはモジュールの収容部の取り付け精度を上げるための機械加工が成されている。このような組み付けでは,スロットル弁のシャフトのスラストガタの影響が残るという問題や,種々の部品組み付けに先立つ加工の精度や加工工数が必要となるという問題がある。」(段落【0005】)
「ここで,ホール素子等の磁気検出素子と永久磁石を用いて被検出物の回転角度を検出する回転角度検出装置が知られている。この回転角度検出装置の構成部品であるステータコアについて,磁気回路の効率アップを図る上で,ステータコア間を磁気的に遮断し,且つ一定幅の磁気検出ギャップを規制するために,ステータコアが2分割されてステータコア間を樹脂製のスペーサにより固定するか,あるいは樹脂のインサート成形により固定する方法がとられている。」(段落【0006】)
「また,ステータコアと他の部品との結合(固定)を行うためには,磁気回路上不要となる部分についても,磁性材料(磁気回路部と同一材料)にて形成することが必要となる。これらのステータコアの構造では,部品点数が増えコストアップにつながる上,磁気回路上重要となる複数のステータコア間やロータコアとの位置精度(エアギャップ等)を高精度に確保することが困難となると共に,磁気回路の効率を低下させる原因となるという問題がある。」(段落【0007】)
「本発明の目的は,磁気検出素子および外部接続端子の組み付けを簡単にすることのできる回転角度検出装置を提供することにある。」(段落【0008】)
(エ) 「【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明によれば,磁石の磁力を受けて被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子を,並列に180度逆方向で配置し,複数の磁気検出素子が夫々有する3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて外部接続端子のいずれかと接続することにより,外部接続端子を含めた磁気検出素子の組み付けが簡単になる。」(段落【0009】)
(オ) 「【発明を実施するための最良の形態】
〔第一実施例の構成〕
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1ないし図7は本発明の第1実施例を示したもので,図1は回転角度検出装置の主要構成を示した図で,図2は内燃機関用吸気制御装置を示した図で,図3および図4はセンサカバーを示した図である。」(段落【0010】)
「本実施例の内燃機関用吸気制御装置は,内燃機関(エンジン)への吸気通路を形成するスロットルボディ(本発明のハウジングに相当する)1と,このスロットルボディ1内に回動自在に支持されたスロットル弁(スロットルバルブ)2と,このスロットル弁2のシャフト部であるスロットルバルブシャフト(以下シャフトと略す)3と,シャフト3を回転駆動するアクチュエータ4と,このアクチュエータ4を電子制御するエンジン制御装置(以下ECUと呼ぶ)とを備えている。」(段落【0011】)
「そして,内燃機関用吸気制御装置は,自動車のアクセルペダル(図示せず)の踏み加減に基づいてエンジンに流入する吸入空気量を制御することでエンジンの回転速度をコントロールするものである。なお,ECUには,アクセルペダルの踏み加減を電気信号(アクセル開度信号)に変換し,ECUへどれだけアクセルペダルが踏み込まれているかを出力するアクセル開度センサが接続されている。また,内燃機関用吸気制御装置は,スロットル弁2の開度を電気信号(スロットル開度信号)に変換し,ECUへどれだけスロットル弁2が開いているかを出力する回転角度検出装置5を備えている。」(段落【0012】)
(カ) 「回転角度検出装置5は,所謂スロットルポジションセンサで,磁界発生源である円筒形状の永久磁石6と,樹脂成形品(センサカバー)7側に一体的に配置された2個のホールIC31,32と,これらのホールIC31,32と外部のECUとを電気的に接続するための導電性金属薄板よりなるリードフレーム(複数のターミナル)33と,2個のホールIC31,32への磁束を集中させる鉄系の金属(磁性材料)よりなる2分割されたステータコア34とから構成されている。」(段落【0019】)
「永久磁石6は,スロットル弁2およびそのシャフト3と一体的に回転する鉄系の金属(磁性材料)製のロータコア17の内周面に接着剤等を用いて固定され,あるいは樹脂と一体モールドにより固定され,回転角度検出装置5の磁気回路に磁束を与える部品である。本実施例の永久磁石6は,着磁方向が径方向(内周側がN極,外周側がS極)の半円弧形状の磁石部分と,着磁方向が径方向(内周側がS極,外周側がN極)の半円弧形状の磁石部分とから構成されている。なお,ロータコア17には,シャフト3に対してアイドルリング位置に取り付けるための位置決め用孔18が開設されている。」(段落【0020】)
「2個のホールIC31,32は,本発明の非接触式の磁気検出素子に相当するもので,永久磁石6の内周側に対向して配置され,感面にN極またはS極の磁界が発生すると,その磁界に感応して起電力(N極の磁界が発生すると+電位が生じ,S極の磁界が発生すると-電位が生じる)を発生するように設けられている。本実施例では,図5および図6に示したように,2個のホールIC31,32を並列に180度逆方向で配置している。」(段落【0021】)
「リードフレーム33は,図5および図6に示したように,コネクトホルダー35およびセンサカバー7内に埋設されて位置決め保持されており,導電性金属(銅板等)よりなり,信号入力(VDD)用端子40,2枚の信号出力(OUT1,OUT2)用端子41,42および接地(GND)用端子43等から構成されている。信号入力用端子40は,電源電圧(例えば5Vのバッテリ電圧)を2個のホールIC61,62にそれぞれ印加する導電板である。」(段落【0022】)
「また,信号出力用端子41,42は,本発明の外部接続端子に相当するもので,2個のホールIC31,32の出力,つまりスロットル弁2の開度(スロットル開度)信号を取り出すための導電板である。なお,信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地用端子43は,各端子間の距離を所定の間隔に保つように複数の連結片44,45を有し,これらの連結片44,45は,2次成形前に切断される。なお,2個のホールIC31,32のリード線(リードワイヤ)36,37とリードフレーム33との接続部分は,PBT等の熱可塑性樹脂よりなるコネクトホルダー(第1樹脂成形品:1次成形品)35により被覆されている。」(段落【0023】)
「ステータコア34の中央部には,平行磁場を形成するための一定幅の磁気検出ギャップが直径方向に貫通するように形成され,具体的には,ステータコア34が一定幅の磁気検出ギャップを形成するように2分割されて磁気検出ギャップの幅がコネクトホルダー35によって規制され,その磁気検出ギャップに2個のホールIC31,32が配置されている。」(段落【0024】)
「そして,2分割されたステータコア34は,コネクトホルダー35の外周にそれぞれ嵌め合わされて固定されている。ステータコア34には,2個のホールIC31,32との間に例えば0.2mmのクリアランスを確保するための溝部38,およびコネクトホルダー35の外周に嵌合される嵌合部39が設けられている。なお,コネクトホルダー35は,2分割されたステータコア34間に磁気検出ギャップの幅を形成するための樹脂製のスペーサを構成する。」(段落【0025】)
「センサカバー7は,図2に示したように,スロットルボディ1の開口側を閉塞すると共に,軽量で製造容易,且つ安価で,回転角度検出装置5の各端子間を電気的に絶縁するPBT等の熱可塑性樹脂よりなる樹脂成形品(第2樹脂成形品:2次成形品)が採用されている。このセンサカバー7は,スロットルボディ1の開口側に設けられた凸状部46に嵌め合わされる凹状部47を有し,図示しないクリップによってスロットルボディ1と締結により組み付けられている。」(段落【0026】)
「したがって,凸状部46と凹状部47とを嵌合するようにスロットルボディ1とセンサカバー7とを組み付けることにより,センサカバー7側に配置固定された2個のホールIC31,32とスロットルボディ1に回転自在に支持されるシャフト3と一体的に回転するロータコア17の内周に配置固定された永久磁石6との位置関係のズレを解消できる。」(段落【0027】)
「そして,センサカバー7の側面には,コネクタ49が一体的に設けられている。そのコネクタ49は,センサカバー7の側面に一体成形された絶縁樹脂製のコネクタシェル50,リードフレーム33の信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地用端子43の先端部(コネクタピンを構成する)51~54,およびモータ9のモータ用通電端子22の先端部(コネクタピンを構成する)55,56等から構成されている。」(段落【0028】)
(キ) 「〔第1実施例の組付方法〕次に,本実施例の回転角度検出装置5の組付方法を図1ないし図7に基づいて簡単に説明する。ここで,図5は2個のホールICとリードフレームを示した図で,図6は2個のホールICとリードフレームとの接続部分を示した図で,図7(a)は2個のホールICとリードフレームを示した図で,図7(b)は1次樹脂成形品を示した図で,図7(c)はステータコアを示した図である。」(段落【0029】)
「導電性金属薄板をプレス成形することによって所定の形状のリードフレーム33を形成する。そして,図5および図7(a)に示したように,2個のホールIC31,32のリード線36,37と信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地用端子43とを電気的に接続する。」(段落【0030】)
「そして,図7(b)に示したように,2個のホールIC31,32のリード線36,37,信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地用端子43よりなる電気配線部品の一部(接続部分)を,例えばPBT樹脂による一体成形(射出成形)によって一体化する(1次成形工程)。このとき,2個のホールIC31,32は,第1樹脂成形品(コネクトホルダー)35の図示上端面より感面を露出するように突出した状態で第1樹脂成形品35に保持されている。これにより,第1樹脂成形品35に,2個のホールIC31,32およびリードフレーム33が一体化される。」(段落【0031】)
「そして,図7(c)に示した2分割されたステータコア34を第1樹脂成形品35の外周にそれぞれ嵌め合わせて固定する(組付工程)。このとき,2個のホールIC31,32は,2分割されたステータコア34によって囲まれるように覆われている。これにより,第1樹脂成形品35に,ステータコア34が固定され,2個のホールIC31,32との間に例えば0.2mmのクリアランスが確保される。」(段落【0032】)
「そして,図1に示したように,2個のホールIC31,32のリード線36,37,信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地用端子43,ステータコア34,モータ用通電端子22を,例えばPBT樹脂による一体成形(射出成形)によって一体化する(2次成形工程)。これにより,第2樹脂成形品(センサカバー)7に,2個のホールIC31,32,リードフレーム33,ステータコア34およびモータ用通電端子22が一体化(モジュール化)される。」(段落【0033】)
(ク) 「〔第1実施例の効果〕
以上のように,スロットル弁2へ直接組み付ける構成の回転角度検出装置5においては,2個のホールIC31,32とリードフレーム33の信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地用端子43との配置構成と樹脂成形を行う1次成形工程,その後のステータコア34の配置構成(組付工程)と,第2樹脂成形品(センサカバー)7との樹脂成形を行う2次成形工程の各成形工程で,2個のホールIC31,32に樹脂成形時や組み付け時の熱や力(成形圧等)を加えないようにすることができると共に,2個のホールIC31,32の配置位置を高精度に確保することができる。」(段落【0038】)
「それによって,2個のホールIC31,32,リードフレーム33,ステータコア34,モータ用通電端子22を樹脂一体成形によって一体化してなるセンサカバー7を,スロットル弁2へ組み付けた際に,スロットル弁2のシャフト3側に固定された永久磁石6とセンサカバー7側に一体化された2個のホールIC31,32との間のギャップを容易に確保することができる。また,2個のホールIC31,32と永久磁石6との位置関係のズレを防ぐことで,スロットル弁2の開度を高精度に検出することができる。」(段落【0039】)
「また,本実施例のスロットル弁2へ直接組み付ける構成の回転角度検出装置5では,図5および図6に示したように,2個のホールIC31,32を,並列に180度逆方向で配置することにより,リードフレーム33を含めた2個のホールIC31,32の組み付けが簡単になる。」(段落【0040】)
「ここで,2個のホールIC31,32を使用する理由は,一方のホールICが故障しても他方のホールICによりスロットル開度を検出できるようにするためと,一方のホールICの誤作動を検出できるようにするためである。」(段落【0042】)
ウ 前記ア及びイによれば,本件明細書には,①従来のホール素子等の磁気検出素子と永久磁石を用いて被検出物の回転角度を検出する回転角度検出装置においては,構成部品であるステータコアの構造上,磁気回路上重要となる複数のステータコア間やロータコアとの位置精度(エアギャップ等)を高精度に確保することが困難であるとともに,磁気回路の効率を低下させるなどの課題があったこと,②本件発明は,磁気検出素子及び外部接続端子の組み付けを簡単にすることのできる回転角度検出装置を提供することを目的とし,上記課題を解決するための手段として,磁石の磁力を受けて被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子を,並列に180度逆方向で配置し,複数の磁気検出素子が夫々有する3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて外部接続端子のいずれかと接続する構成を採用し,これにより,外部接続端子を含めた磁気検出素子の組み付けが簡単になる効果を奏することが開示されているものと認められる。
(2) 訂正要件の判断の誤りについて
ア 原告は,本件訂正の訂正事項aは,本件特許の設定登録時(本件訂正前)の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」,磁気検出素子の2種類の各端子が端子毎に同じ方向へ引き出されるものであったのが,本件訂正後の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」と訂正され,磁気検出素子の少なくとも1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のものも含み得ることになり,実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条6項に違反する旨主張するので,以下において判断する。
(ア) 本件訂正前の請求項1の記載は,
「磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,
前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」というものである。
上記請求項1の記載によれば,「複数の磁気検出素子が夫々有する3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」にいう「少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」とは,各磁気検出素子がそれぞれ有する3種類の端子のうち,少なくとも2種類の各端子を意味し,本件発明では,磁気検出素子の2種類の各端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,4つの外部接続端子のいずれかと接続されていることを理解できる。
(イ) 一方,本件訂正後の請求項1の記載は,
「磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,
このロータコアの磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,
前記磁気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子であり,前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置されて3つの端子は前記磁気検出素子の同一面より引き出され,
前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。」というものである(下線部は本件訂正による訂正箇所である。)。
まず,上記請求項1の記載によれば,本件訂正により,「磁気検出素子が夫々有する3つの端子」が「電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子」の3種類であることが特定されるとともに,「磁気検出素子が夫々有する3つの端子」が引き出される起点が「磁気検出素子の同一面より」であると特定されたことを理解できる。
次に,上記請求項1の「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれかと接続されている」との文言によれば,磁気検出素子の「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」の端子が,「前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれか」と接続されていることを理解できる。
そして,「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」にいう「少なくともいずれか」とは,「前記信号入力用」の端子及び「前記接地用」の端子の「少なくともいずれか一つの端子」を意味し,また,「前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれか」にいう「少なくともいずれか」とは,「電源電圧を印加する信号入力用端子」及び「接地端子前記信号入力用」の「少なくともいずれか一つの端子」を意味することは,文理上,一義的に明白である。
したがって,上記請求項1の記載によれば,本件訂正発明は,磁気検出素子の「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子のいずれか一つの端子と接続されている構成のものを含むものと理解できる。
そうすると,本件訂正前の請求項1では,磁気検出素子の2種類の各端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,4つの外部接続端子のいずれかと接続されている構成であったのが,本件訂正により,本件訂正後の請求項1では,「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子のいずれか一つの端子と接続されている構成を含むものとなり,磁気検出素子の「信号入力用」及び「接地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のものも特許請求の範囲に含み得ることになった点において,本件訂正は,本件訂正前の請求項1について,実質上特許請求の範囲を拡張するものであると認められる。
(ウ) 被告は,この点に関し,本件訂正の前後にかかわらず,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子」の種類は「少なくとも2つ」あり,本件訂正は,この「少なくとも2つ」ある「端子の種類」が「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」であることを明確にすることによって,2つの同一位置の端子の種類を信号入力用及び接地用の端子に限定したものであるから,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張するものではない旨主張する。
しかしながら,本件訂正前の請求項1の記載と本件訂正後の請求項1の記載を対比すると,本件訂正により,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」が「信号入力用及び接地用の端子」の2種類に特定されたことは認められるが,本件訂正後の請求項1の「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」の文言は,この2種類に特定された端子の「少なくともいずれか一つ」を意味することは,文理上,一義的に明白であるから,被告の上記主張は,採用することができない。
イ 以上のとおり,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから,本件訂正は,特許法134条の2第9項において準用する同法126条6項に違反する。
これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(3) 小括
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,本件訂正が訂正要件に適合するとして,本件訂正を認めた本件審決の判断は誤りである。
そして,本件訂正を認めた本件審決の判断の誤りは,発明の要旨認定の誤りに帰することになるから,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。
2 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるから,本件審決は取消しを免れない。
したがって,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富田善範 裁判官 大鷹一郎 裁判官 齋藤巌)
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file_3.jpg別紙2