知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10175号 判決 2014年2月27日
原告
東洋ナッツ食品株式会社
訴訟代理人弁護士
三山峻司
同
松田誠司
訴訟復代理人弁護士
清原直己
訴訟代理人弁理士
西藤征彦
同
井﨑愛佳
同
西藤優子
被告
株式会社福楽得
訴訟代理人弁理士
石崎剛
同
小泉妙子
同
小林恵美子
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2012-890085号事件について平成25年5月22日にした審決を取り消す。
第2前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は,別紙商標目録記載の商標(以下「本件商標」という。)につき,指定商品を第30類「コーヒー及びココア,菓子及びパン,コーヒー豆,穀物の加工品」とする商標権(登録第5385844号。平成22年8月6日出願,平成23年1月21日設定登録(以下「本件商標登録」という。)。)を有している(甲1)。
原告は,平成24年10月2日付けで,本件商標は商標法4条1項11号に該当するとして,指定商品中,第30類「菓子及びパン」につき商標登録を無効にすることを求めて,審判(無効2012-890085号事件)を請求した(甲31)。特許庁は,平成25年5月22日,請求不成立の審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。
2 審決の理由
審決の理由は別紙審決書写しに記載のとおりであり,その要旨は,以下のとおりである。
すなわち,本件商標は,「美実PLUS」の文字(その構成中の「美」,「実」及び「PLUS」の各文字は,横線部の一部が水平に連続するよう表記され,また,「L」及び「U」の両文字は,その一部が重なるように表記され,さらに,「実」の文字の右斜め上方の近接する位置には,黒色の木の葉様の図形が配されている。)と「PLUS」の文字の下方に「びみぷらす」の文字が配されている。下方の「びみぷらす」の文字は,その文字の構成及び配置に照らせば,上方に位置する「美実PLUS」の文字の読みを特定するものとして理解され,「びみぷらす」の文字から生じる「ビミプラス」の称呼も,よどみなく一連に称呼し得る。そうとすると,本件商標は,構成全体をもって一体不可分のものとして認識されるとみるのが相当であり,「ビミプラス」の称呼を生じ,また,本件商標を構成する「美実PLUS」の文字及び「びみぷらす」の文字は,いずれも特定の観念を想起させるものとはいえない。
登録第5339875号(甲2。平成21年11月10日出願,平成22年7月23日設定登録。指定商品 第30類「菓子及びパン」。)に係る別紙引用商標目録記載の商標(以下「引用商標」という。)は,「TON’S」の文字部分と「美実」の文字部分が分離,独立して認識される場合もあり,「トンズビミ」及び「トンズビジツ」の称呼のほか,「トンズ」「ビミ」「ビジツ」の称呼も生じ,特定の観念は生じない。したがって,本件商標と引用商標は,称呼,外観及び観念のいずれの点から見ても類似するとはいえず,本件商標は商標法4条1項11号に該当しない。
第3取消事由に関する当事者の主張
1 原告の主張
(1) 本件商標の称呼,観念の認定の誤り(取消事由1)について
審決は,本件商標はその構成全体をもって一体不可分のものとして認識されるとみるのが相当であり,「ビミプラス」の称呼を生じ,また,本件商標を構成する「美実PLUS」の文字及び「びみぷらす」の文字は,いずれも特定の観念を想起させるものとはいえないと判断したが,同判断は,以下のとおり誤りがある。
ア 「PLUS」の文字部分,「びみぷらす」の文字部分及び葉様の図形部分
本件商標は,「美実」,「PLUS」及び「びみぷらす」の文字と「実の文字の右上に配置された葉様の図形」を組み合わせた結合商標である。
しかし,本件商標の「PLUS」及び「びみぷらす」の文字部分や図形部分は,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分に結合しているものとは認められない。
以下の理由によれば,本件商標の「PLUS」,「びみぷらす」の文字部分及び葉様の図形部分からは,出所識別標識としての称呼,観念は生じない。すなわち,
(ア) 「PLUS」の文字部分
欧文字の「PLUS」の文字部分は,ありふれた語であり,その語の有する意味から,造語のような強い識別力を有する語と結合させて商標として用いた場合には,その識別力を有する語からなる商標を付した商品と比較して,グレードやバージョンを異にする商品又は原料が付加された商品であることを意味する。本件商標において,「PLUS」の文字部分は,「美実」の文字部分と比較して小さく表記されており,「PLUS」の文字部分が需要者に与える影響は弱いといえる。
(イ) 右下方の「びみぷらす」の文字部分
右下方の「びみぷらす」の文字部分は,「美実」の文字部分の17分の1以下の面積で表記され,その部分に独立して出所識別機能が生じることはない。
また,本件商標が指定商品である「菓子及びパン」のような比較的小さい低廉な日常品に付される場合,需要者は直感的に購入するという取引の実情があり,その点を考慮すると,「びみぷらす」の文字部分は,需要者から文字として認識されることはない。
(ウ) 葉様の図形部分
葉様の図形部分は,「実」の文字の右上に小さく表示されている。「実」と組み合わせた表記態様から,植物の果実を想起することがあるとしても,それ自体からは出所識別標識としての称呼,観念は生じない。
上記のとおり,本件商標の「PLUS」の文字部分,「びみぷらす」の文字部分及び葉様の図形部分からは,出所識別標識としての称呼,観念が生じない。
イ 「美実」の文字部分
本件商標の「美実」の文字部分は,以下のとおり,取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える。
本件商標の「美実」,「PLUS」及び「びみぷらす」の文字部分は,それぞれ漢字,欧文字及び平仮名で記載され,また異なる大きさで表記されているが,「美実」の文字部分が,他の文字部分より大きく表記されている。
「美実」の文字部分は,造語であることから,外観上,看る者の注意を最も惹き,また需要者に強い印象を与える。
なお,原告は,アーモンド及びナッツの商品に,「美実」の文字部分を大きく表記して,引用商標を使用していること,原告は,平成22年に,テーブルナッツ市場において18.9%の市場占有率を有し,その後も維持されている。
ウ 以上のとおりの事情を総合すると,本件商標の各文字部分及び図形部分は分離されて認識されると解すべきであり,その要部は「美実」の文字部分であると解すべきである。
(2) 本件商標と引用商標の類否判断の誤り(取消事由2)
本件商標と引用商標とは,以下のとおり類似する。
ア 本件商標は,「美実」の文字部分を特徴的部分と理解して,引用商標と対比すべきであり,本件商標と引用商標は類似すると判断されるべきである。
イ 仮に,本件商標について,全体構成をもって一体不可分のものとして認識されるとみるのが相当であると解したとしても,本件商標の「美実PLUS」の文字部分と引用商標の「美実」の文字部分とを対比するならば,以下のとおり,両商標は,類似すると判断される。
(ア) 外観
本件商標の「美実PLUS」の文字部分のうち「美実」の文字部分は,横線部を4本有する漢字「美」と「実」とからなり,「美」と「実」は横書きされているものの,「美」の上から4本目の横線と,「実」の上から3本目の横線とが連続するように位置をずらした状態で表記されているため,横書きであるにもかかわらず,縦長の印象を与える。引用商標の「美実」の文字部分は,縦長文字を特徴とする金文体で縦書きされていることから,縦長の印象を与える。引用商標と本件商標とは,いずれも縦長の印象を与えるものであり,外観が類似する。
(イ) 称呼
本件商標の「美実PLUS」の文字部分からは「ビジツプラス」,「ビミプラス」の称呼が生じるが,「PLUS」の文字部分は,それ自体独立して出所識別標識としての称呼が生じないものであるから,「ビジツ」,「ビミ」の称呼も生じる。これに対し,引用商標の「美実」の文字部分からは「ビジツ」,「ビミ」の称呼が生じる。
(ウ) 観念
本件商標の「美実PLUS」の文字部分からは,「美しい果実」,「良い果実」等のグレード,バージョン違い又は原料の付加された商品との観念を生じる。これに対し,引用商標の「美実」の文字部分は造語であるが,同部分から,「美しい果実」,「良い果実」等の観念を生じさせる。
以上のとおり,本件商標と引用商標は,本件商標の「美実PLUS」の文字部分と引用商標の「美実」の文字部分とを対比すると,称呼が同一であり,外観及び観念が類似するから,両商標は,類似する。
ウ 仮に,本件商標と引用商標の類否判断に当たり,本件商標の「美実PLUS」の文字部分と引用商標の「美実」の文字部分とを対比するほか,①本件商標全体と引用商標全体,②本件商標全体と引用商標の「美実」の文字部分,③本件商標の「美実PLUS」の文字部分と引用商標全体とを対比したとしても,両商標は類似すると解すべきである。
すなわち,本件商標の右下の「びみぷらす」の文字部分と葉様の図形部分は,出所識別標識としての観念,称呼を生じないものであり,また,これらの部分は小さく表記され,外観に与える影響もほとんどないこと,引用商標の「TON’S」の文字部分は,「『TON』の」との観念を生じ,また,小さく表記されて,外観に与える影響はほとんどないことからすると,本件商標と引用商標は,称呼が同一又は類似し,観念,外観も類似しているから,類似しているといえる。
エ 以上によれば,指定商品に係る取引を行う需要者は,本件商標と引用商標の付された商品の出所は同一であると認識する可能性が高く,本件商標を付した商品は,引用商標を付した商品のグレード,バージョン違いの商品,又は原料等が異なる商品であると認識する可能性があり,需要者に出所の混同を生じさせる。
オ 取引の実情
本件商標について登録無効審判の対象とされている指定商品と引用商標の指定商品は,ともに「菓子及びパン」であり,商品の性質,用途,目的及び流通経路は共通する。また,取引者及び需要者並びに購買態様も共通する。
本件商標は,商品「無塩ローストアーモンド」にも使用されており,引用商標は,商品「食塩無添加(ロースト)アーモンド」に使用されている。ナッツ類は,従来,商品の品質を商品パッケージに示すだけで,特定の商標を使用してブランドを確立することはほとんどなかったことに鑑みると,本件商標は,ナッツ類の商品に使用された場合,引用商標と混同する。また,両商標を付した商品は,同一店舗の近接した場所に陳列して販売されることも珍しくなく,需要者である消費者の一般的な注意力をもっても,混同を来しやすいといえる。
2 被告の反論
(1) 本件商標の称呼,観念の認定の誤り(取消事由1)に対して
ア 本件商標は,外観上,文字と図形がまとまりよく一体的に表記され,また,5音の短い称呼を生じることから,その一部のみを分離して認識することはできない。
原告は,本件商標の「PLUS」,「びみぷらす」の文字部分や図形部分からは,出所識別標識としての称呼,観念が生じない旨主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は誤りである。
(ア) 「PLUS」の文字部分
指定商品「菓子及びパン」のうち「甘栗」において欧文字の筆記体による「file_2.jpg」からなる登録商標が登録されている例を挙げるまでもなく,社会通念上,「PLUS」の文字は,指定商品「菓子及びパン」において,出所識別標識としての称呼・観念が生じる語であるといえる。
本件商標の「美実」の文字部分と「PLUS」の文字部分との面積比は,10.75対7.6である。「美実」の文字部分は画数が多いのに対し,「PLUS」の文字部分は,画数が少なくシンプルなため,文字自体の大きさは小さくても,文字を構成する線と線との間隙が「美実」の文字部分よりも大きいことから,「PLUS」の文字部分は,需要者・取引者に明確に認識される。
「PLUS」又は「プラス」の語は,指定商品である「菓子及びパン」の品質等を直接的かつ具体的に認識させるものとはいえないから,指定商品の品質等を表示するものとして,取引上普通に使用されている文字表記ではない。また,「PLUS」の文字部分が,商品のバージョンやグレードを示すという取引の実情は存在しない。
したがって,「PLUS」の文字部分は,前後の語と一体的に認識され,本件商標の指定商品「菓子及びパン」との関係において,出所識別機能を有し,出所識別標識としての称呼及び観念が生じる。
(イ) 「びみぷらす」の文字部分
本件商標の「ぴみぷらす」の文字部分は,「美実PLUS」の文字部分の読みを特定するものとして,無理なく看取,理解されるものであり,「文字」として認識されており,本件商標の指定商品「菓子及びパン」との関係において,出所識別標識としての称呼,観念を生じる。
(ウ) 葉様の図形部分
葉様の図形部分は,「葉」と認識できるから,「葉」の観念及び「ハ」の称呼が生じる。また,本件商標中,葉様の図形部分は,「実」の右斜め上方に近接する位置に配されているため,文字部分と一体となって「葉のついた果実」との外観及び観念を生じる。
指定商品「ミント菓子」において葉が一枚の図形からなる商標が,指定商品「菓子及びパン」において葉と湯飲茶碗の図形からなる商標が登録されている例があることに照らすならば,本件商標においても,葉様の図形部分は,本件商標の指定商品「菓子及びパン」との関係において,出所識別標識としての称呼,観念を生じる。
イ 原告は,本件商標の特徴的部分は,「美実」の文字部分であると主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は誤りである。
漢字,欧文字,平仮名を組み合わせた表記において,漢字及び平仮名を「全角」で,欧文字を「半角」で表記する例は一般的に行われており,また,文字が若干小さいからといって欧文字部分が認識されないということはない。本件商標の「PLUS」の文字部分は,「美実」の文字部分よりも文字を構成する線の間隙が広いことから,「PLUS」の文字部分は,明確に認識できる。
ウ 以上のとおり,本件商標は,「美実」の文字部分が取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは認められず,また,「美実」の文字部分以外の構成である「PLUS」,「びみぷらす」の文字部分及び葉様の図形部分からも,出所識別標識としての称呼,観念を生じ得る。したがって,本件商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することは許されない。
(2) 本件商標と引用商標の類否判断の誤り(取消事由2)に対して
ア 引用商標の特徴的部分について
(ア) 「美実」の文字部分について
引用商標は「TON’S」の文字部分と「美実」の文字部分から構成されている。このうち,「美実」の文字部分中,漢字「美」は「美味しい」,「味がよい」,「美しい」を意味し,漢字「実」は「果実」を意味することに照らすならば,指定商品「菓子及びパン」との関係では,出所識別機能は極めて弱い。
指定商品「菓子及びパン」において,美脳,美菓など辞書に記載のない「美○」(「○」には漢字が一文字入る。以下,同様とする。)からなる造語を構成要素とする商標であっても,互いに類似でないと判断されて,複数の商標権者によって登録されている例が多数存在する。また,指定商品「菓子及びパン」において,極実,豊実など辞書に記載のない「○実」からなる商標において,互いに類似でないとの判断の下に,複数の商標権者によって登録されている例が存在する。
このような例に照らすならば,指定商品「菓子及びパン」において,取引者,需要者は,「美○」からなる商標及び「○実」からなる商標について,「美○」や「○実」単独ではなく,その前後に付した他の構成部分と一体不可分なものと認識した上,その全体構成から商品の出所を識別することが行われていると理解できる。
引用商標中の「美実」の文字部分は,指定商品「菓子及びパン」との関係で出所識別機能に欠ける「美味」の語の「味」を「実」に置き換えたものにすぎず,極めて出所識別機能の弱い語である。引用商標における「美実」の文字部分は,他の語と結合して,一体不可分にのみ認識されると解するのが相当である。
(イ) 「TON’S」の文字部分
引用商標は「TON’S」の文字部分と「美実」の文字部分から構成されている。このうち,「TON」の文字部分は,原告が長年使用を継続しているいわゆるハウスマークであり,その識別力は極めて強い。原告は,指定商品「菓子及びパン」において,それ自体では出所識別機能を有しない文字に,ハウスマークである「TON」又は「TON’S」を付加する方法により,登録商標を得ているが,引用商標もその一例である。
需要者・取引者は,このような商標である引用商標において,その出所について,出所識別機能の弱い「美実」の文字部分のみにより認識することはなく,原告のハウスマークである「TON’S」の文字部分を付加した「TON’S美実」により認識すると認められる。なお,審決は,引用商標は「TON’S」の文字部分と「美実」の文字部分を分離,独立して認識し得ると判断したが,審決のこの点の判断は前提を欠くものであり誤りである。
イ 本件商標と引用商標との対比
以上のとおり,本件商標と引用商標は,いずれもその全体が一体不可分であるとして対比すべきである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,観念,称呼,外観のいずれにおいても非類似であり,両商標は混同することはない。また,指定商品「菓子及びパン」における取引の実情を考慮しても,同取引は一般商品の取引であり,商標の外観,称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察した非類似との判断に,何ら影響しない。
原告は,本件商標と引用商標の類否判断に関し,4つの類型を主張するが,そのように判断する根拠を欠き,失当である。
第4当裁判所の判断
商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標がその外観,観念,称呼によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察し,商品の取引の実情に基づいて判断すべきであり,以下,この観点から判断する。
1 事実認定
(1) 本件商標について
ア 外観
本件商標は,漢字と英語からなる「美実PLUS」の文字が横書きにより大きく表記され,平仮名からなる「びみぷらす」の文字が「PLUS」の文字の下方に横書きにより小さく表記され,また,「美実PLUS」の文字全体の中央部で,かつ漢字「実」の右斜め上方に,木の葉様の図形が表記されている。
「美」,「実」及び「P」の3文字は,水平に描かれた直線を共有するように表記され,また「L」及び「U」の2文字は,文字の一部が互いに交差するように描かれている。また,漢字「実」の「ウ冠」は,丸みを帯びるよう描かれている。
本件商標は,中央上部に木の葉様の図形を配置し,「実」の「ウ冠」部分,「P」,「U」及び「S」の丸みを帯びるような曲線でバランス良く描かれた点にデザイン上の特徴があるといえる。
上記のとおり,本件商標は,まとまりのある調和のとれた文字と中央に配置された葉様の図柄からなり,全体として一連一体のものとしての外観を有する。
イ 称呼及び観念
平仮名からなる「びみぷらす」の文字が「PLUS」の文字の下方に横書きで小さく表記され,同文字部分は,称呼を示していると理解されることに照らすと,本件商標から「ビミプラス」の称呼を生じる。
また,本件商標から,何らかの確定的な観念を生じさせるか否かは不明である。指定商品との関係では,「ビミ」との称呼により「美味」が連想されることから,全体から「美味しさを増した」ほどの観念を生じる余地があり得るといえる。
(2) 引用商標について
ア 外観
上段に「TON’S」の文字を,太字により横書きで小さく表記し,中央に「美実」の文字を,金字体と称される書体で大きく縦書きに(上下に)表記された商標である。
イ 称呼
引用商標は,「TON’S」の文字からは「トンズ」の称呼を,「美実」の文字からは「ビジツ」,「ビミ」の称呼を生じ,また,全体を併せると「トンズビジツ」,「トンズビミ」を生じ得るといえるが,確定的な称呼を生じるとまではいえない。
ウ 観念
取引の実情をも踏まえて,判断する
(ア) 「TON’S」の文字部分について
原告の会社概要によれば,原告の商号「東洋ナッツ食品株式会社」の先頭に「TON’S」「トン」との表示が併記されていること,原告の事業内容として,「世界の木の実(ナッツ,ドライド・フルーツ類)の製造販売,トンブランドの製造販売」が説明,記載されていること,会社沿革によれば,既に昭和34年には,「トンブランドの製品」の発売を開始したこと,昭和40年にトンブランド・ゴールデンミックスナッツ等の販売を開始したこと,製品の運搬に用いられるトラックには「TON’S BRAND」と表記されている旨説明されていること,原告各商品紹介のためのウエブサイトには,ほぼ例外なく「TON’S BRAND」との表記がされていること,原告は「TON」や「TON’S」を含む商標を複数登録していることが認められる(甲34の3ないし34の6,乙17ないし24)。
(イ) 「美実」の文字部分について
「美実」の文字部分中,漢字「美」は「美味しい」,「味がよい」,「美しい」を意味し,漢字「実」は「果実」を意味する。特に,原告の会社概要によれば,原告は,木の実(ナッツ,ドライド・フルーツ類)の製造,販売を主として実施している実情があり,そのような点をも考慮するならば,需要者は,「美実」の文字部分について,美味しい木の実(果実)ほどの意味であると認識,理解するものと解される。
(ウ) そうすると,引用商標について,需要者は,「TON」「トン」(すなわち原告である「東洋ナッツ食品株式会社」)の製造,販売に係る美味しい木の実(果実),又は木の実(果実)の含まれた「菓子及びパン」を連想するものと解される。
2 本件商標と引用商標の類否について
上記の認定に基づき,取引の実情を考慮して,本件商標と引用商標の類否について判断する。
(1) 外観
本件商標は,漢字と英語からなる「美実PLUS」の文字が大きく横書きで表記され,平仮名からなる「びみぷらす」の文字が「PLUS」の文字の下方に横書きで小さく表記され,また,「美実PLUS」の文字の中央部で,漢字「実」の右斜め上方に,木の葉様の図形が表記されている。これに対し,引用商標は,上段に「TON’S」の文字が,太字により横書きで小さく表記され,中央に「美実」の文字が,金字体と称される書体で縦書きにより大きく表記されている。本件商標と引用商標とは,外観において類似しない。
(2) 称呼
本件商標からは,「ビミプラス」の称呼を生じる。これに対し,引用商標からは,「TON’S」の文字からは「トンズ」の称呼を,「美実」の文字からは「ビジツ」,「ビミ」の称呼を,全体からは「トンズビジツ」,「トンズビミ」の称呼を,それぞれ生じ得るといえるものの,確定的な称呼を生じるとまではいえないが,いずれの称呼が生じるとしても,本件商標と引用商標とは,称呼において,類似する点はない。
(3) 観念
本件商標からは,指定商品との関係では,「ビミ」との称呼から「美味」が連想されることから,全体から「美味しさを増した」ほどの観念を生じる余地がないとはいえないが,何らかの確定的な観念を生じさせるか否かは不明である。これに対し,引用商標は,指定商品である「菓子及びパン」に,「出所を示すブランド名」と「食品の材料及び品質を示す文字」とが併記されるものであることから,引用商標からは,需要者は,「TON」「トン」(すなわち原告である「東洋ナッツ食品株式会社」)の製造,販売に係る美味しい木の実(果実)又は木の実(果実)を含んだ「菓子及びパン」を連想するものと解され,両商標は,類似しない。
(4) 原告の主張について
この点,原告は,引用商標の特徴的部分は,「美実」にあることを前提として,本件商標と引用商標が類似する旨を主張する。
しかし,前記認定したとおり,引用商標は「TON’S」の文字部分と「美実」の文字部分から構成されているが,「美実」の文字部分は,「美味しい果実」であるとの品質等を意味する文字の組合せであって,その出所識別機能は極めて弱いものであるのに対し,上段の「TON’S」の文字部分は,原告の製造,販売に係る商品に長年にわたり使用を継続していた表示であり,同文字部分が出所を識別する機能を有する部分であると解するのが合理的である。また,上記のとおり,本件商標は,まとまりのある調和のとれた文字及び中央に配置された葉様の図柄から構成され,全体として,一連一体の文字(図柄を含む。)からなる商標と解される。したがって,原告の主張は,採用の限りでない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも採用できない。
(5) 小括
以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても,類似するとはいえず,両商標を同一又は類似の商品について使用しても,商品の出所について誤認を生じさせるおそれがあるとはいえない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。
3 結論
以上のとおり,原告の主張は理由がない。よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)
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