知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10211号 判決 2014年10月27日
原告
アンチキャンサーインコーポレーテッド
訴訟代理人弁理士
柴田富士子
柴田五雄
被告
特許庁長官
指定代理人
田中晴絵
鈴木恵理子
瀬良聡機
堀内仁子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が不服2010-7401号事件について平成25年3月12日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である(なお,特に断らない限り,証拠番号には枝番号を含む。)。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年(2003年)8月18日,名称を「細胞応答のリアルタイム測定」とする発明につき国際特許出願(特願2004-529559号。特表2005-535348号。優先権主張日:2002年8月16日(以下「本願優先日」という。) 米国,2002年11月18日 米国。甲1,59)をしたが,平成21年12月4日,拒絶査定を受けたので,平成22年4月8日,不服の審判を請求するとともに,同日付け手続補正書(甲1)により特許請求の範囲を変更する手続補正をし,さらに,平成25年1月17日付け手続補正書(甲11)により,特許請求の範囲を変更する手続補正(以下「本件補正」という。)をした。
特許庁は,平成25年3月12日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし(附加期間90日),その謄本は,同月27日に送達された。
2 本願発明の要旨
本願発明に係る明細書(甲1)及び手続補正書(甲11。以下,甲1と併せて「本願明細書」という。)によれば,本件補正後の請求項5(本願発明)は,以下のとおりである。
「【請求項5】
細胞核を標的とする配列と融合した第1蛍光タンパク質,及び標的とするアミノ酸配列を欠く第2蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクトされた生細胞であって,該第1及び第2蛍光タンパク質が異なる波長で可視光を放出し,細胞が増殖を続けている,上記生細胞。」
3 審決の理由の要点
本願発明は,以下の引用例5及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1) 引用発明について
引用例5には,以下の引用発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。引用例5(甲5):Current Biology 1998, Vol. 8,№7 pp. 377-385
“Histone-GFP fusion protein enables sensitive analysis of chromosome dynamics inliving mammalian cells”
「ヒストン-GFP 融合タンパク質が,生哺乳類細胞において,染色体のダイナミクスの感度よい分析を可能とする」と題した文献
① 「H2B-GFP を構成的に発現するステーブルな株を産生するために,ヒトヒストンH2B 遺伝子は,Aequorea victoria の緑色蛍光蛋白質(GFP)をコードする遺伝子と融合され,ヒト HeLa 細胞へトランスフェクトされた。H2B-GFP 融合タンパク質は,細胞周期の進行に影響を与えることなく,ヌクレオソームに取り込まれた。共焦点顕微鏡を用いて,H2B-GFP は有糸分裂染色体及び間期のクロマチン両者の高解像度の像を可能とし,そして,後者は,生細胞における様々なクロマチンの凝縮を明らかにした。」
② 「H2B-GFPは,生細胞における染色体を修飾する
H2B-GFP を発現した細胞は,間期及び有糸分裂におけるクロマチン染色のパターンを決定するために,共焦点顕微鏡を用いて観察された。Figure 5 に示されるように,H2B-GFP は,細胞周期の全てのフェーズにおいて,高感度のクロマチン検出を可能とした。そのような像を得るために,細胞内構造の人工的な破壊を引き起こしかねない細胞の固定及び可透過性化は,必要とされなかった。細胞質において蛍光は全く観察されなかったので,H2B-GFP は核クロマチンに高度に特異的であった。」
③ 「H2B-GFP タンパク質の局在。(a-h)種々の細胞周期フェーズにおける H2B-GFPを発現する生きた HeLa 細胞の共焦点顕微鏡像。(a,c,e,g)GFP の蛍光及び(b,d,f,h)対応する微分干渉コントラスト像が,(a,b)中間期,(c,d)前期,(e,f)中期,(g,h)後期細胞として示されている。」と記載され,Figure 5 には,それぞれ,HeLa 細胞の像が示されており,これらの像から,細胞周期の各フェーズにおける,細胞全体及び GFP の局在の様子(b,d,f,h),並びに,GFP の局在の様子(a,c,e,g)を読み取ることができる。
(2) 本願発明との一致点及び相違点
【一致点】
「細胞核を標的とする配列と融合した第1蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクトされた生細胞であって,該第1蛍光タンパク質が可視光を放出し,細胞が増殖を続けている,上記生細胞。」
【相違点】
「本願発明は,生細胞が,第1蛍光タンパク質に加え,第1蛍光タンパク質と異なる波長で可視光を放出する第2蛍光タンパク質であって,標的とするアミノ酸配列を欠く第2蛍光タンパク質をも産生するように安定的にトランスフェクトされたものであるのに対し,引用例5の生細胞は,そのような第2蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクトされたものではない点。」
(3) 相違点についての判断
ア 構成の容易想到性について
(a1) 細胞周期を観察する場合に,各フェーズにおいて,染色体の形態のみならず細胞全体の形態も合わせて観察することは当業者が通常行うことであり,引用例5の Figure 5 の b,d,f,h からも,細胞周期の各フェーズの,細胞核及び細胞全体の形態がみて分かる。
(a2) 観察対象をより明瞭に観察可能とすることは,当業者にとって自明の技術的課題である。
(a3) 細胞の形態や構造の観察を容易にするために,核と細胞質とを異なる色素で染め分けるパパニコロウ染色法は,本願優先日前の当業者の周知・慣用技術であったことからも,細胞核と細胞質とをそれぞれ色の異なる複数の物質で染め分けるという課題も周知であった。
(a4) 以下の引用例1,2及び6にあるように,発光波長(色)の異なる2つの蛍光タンパク質を,細胞の異なる部位に標的化することで,細胞を固定化させずに,生きたままの細胞の動態を観察するという手法は,本願優先日当時の周知技術であった。
引用例1(甲3):Current Biology 1996, Vol. 6,No. 2,pp.183-188
“Double labeling of subcellular structures with organelle- targeted GFP mutants in vivo”「オルガネラを標的とした GFP 変異体を用いた細胞内構造の生体内における二重標識」
引用例2(甲4):trends in CELL BIOLOGY 1999, Vol. 9,February pp. 52-56,“Dual-color imaging with GFP variants”
「GFB 変異体を用いた二色イメージング」
引用例6(甲6):クロンテクニーク,2000 年 4 月号
“Living ColorsTMSubcellular Localization Vectors”
「細胞生物現象の in vivo 解析を支援する新たなベクター」
(a5) 以下の引用例7,8及び10にあるように,局在化の配列を有さない赤色蛍光タンパク質を発現させることで細胞質を染色することも周知技術であった。
引用例7(甲7):クロンテクニーク,2001 年 7 月号
“Living ColorsTMDsRed2”
「生きた細胞で使用可能な赤色蛍光タンパク質をさらに改良」
引用例8(甲8):クロンテクニーク,2002 年 7 月号
“Living ColorsTMDsRed-Express”
「迅速な蛍光検出のために改良されたベクター」
引用例10(甲10):クロンテクニーク,2000 年 1 月号
“Living ColorsTMDsRed C-Terminal Fusion Vector”
「赤色蛍光タンパクを用いた新規ベクター」
(a6) そうすると,引用例5の,H2B-GFP により核を緑に蛍光染色し,顕微鏡観察により細胞周期の各フェーズにおける細胞核及び細胞全体の形態を観察を可能とする Figure 5 の b,d,f,h の像に接した当業者であれば,より観察しやすい画像を得ることは,容易に着想することである。
(a7) そして,細胞観察の技術分野において,細胞核及び細胞質を異なる物質で染め分けるという課題が当業者に周知であり,さらには,
(a7:ア) 2色の蛍光蛋白質で単一細胞内の異なる部位を染め分けるという技術が周知であったこと,及び,
(a7:イ) 局在化配列を有さない蛍光タンパク質により細胞質を染める技術も周知であったという技術水準のもと,
(a7:ウ) 細胞質部分をGFPとは異なる他の色の蛍光タンパク質で染色しようとすることは,当業者であれば,容易に着想し得たことである。
したがって,上記の相違点は,引用例5に対し,上記の周知技術を適用することで,当業者が容易に導き出せるものである。
イ 効果について
本願発明の細胞増殖(細胞周期)のモニタリング可能となるという効果,及び,様々な薬剤が細胞周期に及ぼす効果を評価することもできるという効果は,細胞を二重に標識したことによる効果とはいえず,引用例5において,細胞周期を,蛍光タンパク質により観察することが可能であることが既に示されているのであるから,予想外の効果ではない。
また,本願発明の細胞が,生存生物中に存在しているうちに観察することが可能であるという効果については,本願発明の生細胞それ自体の効果ではないし,さらに,引用例5において確認されていないものの,引用例5に記載される細胞も本願発明と同じく安定的に蛍光タンパク質を発現しているものであるから,同様に,生存生物中に存在しているうちに観察することが可能であって,本願発明が,この点で,引用例5に比して予想外の効果を奏するものとも認められない。
したがって,本願発明が,引用例5及び周知技術から,予想外の有利な効果を奏するとも認められない。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,引用発明に,前記第2,3,(3)ア(a1)~(a7)に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
1 審決の引用する周知の課題及び周知技術について
(1) 「細胞観察の技術分野において,細胞核と細胞質とをそれぞれ色の異なる複数の物質で染め分けるという課題は周知」(a3,a7)との認定は誤りであること。
ア 審決は,「細胞観察の技術分野において,細胞核と細胞質とをそれぞれ色の異なる複数の物質で染め分けるという課題は周知」(a3,a7)であるとする。
しかし,「細胞観察」は研究や病理診断等を行うためになされるものであり,細胞核と細胞質を異なる物質で染め分けるのは,癌細胞等の異型細胞を検出する等という特定の目的を達成するためのものであるから,何らの目的を特定することなく,技術分野を「細胞観察」に広げることは行きすぎであり,審決の上記認定は,技術分野を広く捉えすぎたものといわざるを得ない。
審決で上記課題が周知であることの根拠として指摘した「パパニコロウ染色法」は,色素で細胞を着色し,エタノール等で細胞を固定化して,死んだ細胞を観測する細胞診という技術分野における周知・慣用技術である。一方,本願発明は,蛍光タンパク質で標識して細胞を生きたまま観測する技術分野に属する。本願発明の課題は,「様々なステージにおける核/細胞質比の変化を使用することによって,細胞周期の観察をも含めて,リアルタイムで生体内又は生体外における細胞の増殖その他の活性を観察できる機会を提供する」ことであり,細胞が増殖を続けられるように,複数の蛍光タンパク質で細胞核及び細胞質を標識することが必要となるものである。したがって,本願発明の技術分野では,細胞を死んだ状態で「染め分ける」ことはしないし,できないのである。
以上によれば,本願発明が属する技術分野において,「細胞核と細胞質とをそれぞれ色の異なる複数の物質で染め分けるという課題が周知」であるとはいえない。
イ また,被告が上記課題が周知であることを示す補充の証拠として提出した乙2~乙4は,審査・審判手続において引用文献として挙げられていなかったものであるから,これを参酌することはできないものである。
仮に,参酌するとしても,乙2~4(その全文は甲41~43)には,「生きた細胞において,細胞核と細胞質を異なる二つの物質で染め分けること」は記載されておらず,まして,本願発明のように「安定的に」染められているものでもない。
(2) 審決の「引用例1,2及び6に示されるように,2色の蛍光タンパク質を,細胞の異なる部位に標的化することで,細胞を固定化させずに,生きたままの細胞の動態を観察するという手法は周知」(a4,a7 ア)との認定は誤りであること。
ア 引用例1(甲3)について
引用例1の図3で使用した nuGFP は,蛍光が弱い上にデキサメサゾン補助がないと核へ完全に移行できず,nuGFP 及び mtGFP(Y66H/Y145F)も一過性に発現されたものである。また,引用例1では,細胞をカバースリップ上に付着させて観察しているから,細胞の大きな変形を観察することは想定していない。
また,引用例1は,「UV 領域で励起され,それぞれ緑色及び青色の光を発する」キメラが使用されているが,「コトランスフェクトしたときに,両方のタンパク質が発現し,ミトコンドリアの蛍光は,GFP と GFP(Y66H/Y145F)との中間の『アクアマリン』色を示した(図 4a)」とあり,それぞれが本来有している蛍光色は観察されないようなキメラが使用されており,このようなキメラでは,二重標識をする意味がない。
したがって,引用例1に記載の複数の蛍光を発する GFP を用いたイメージングは,「生きたままの細胞の動態(ダイナミズム)を観察する」ために使用できるものではない。
イ 引用例2(甲4)について
引用例2の図2を見ると,LBR-10C,GT-W7,H2B-ECFP を別々に観察した像(図2の(a)及び(b)の左側及び中央の写真)では,蛍光の発色は見られず,別々に撮影した結果を重ね合わせて処理した後に,はじめて赤と緑に標識されたことが分かるようになっている。また,図3では,それぞれの GFP が発した蛍光を,所定の時間ごとに別々にコマ撮り撮影しており,「生きたままの細胞の動態」のうち,有糸分裂を十分単位でコマ撮り撮影はできても,細胞の動きを連続的に捉える「マルチカラーイメージング」ができるとはいえない。さらに,引用例2で観察している有糸分裂は1時間もあれば終了するため,一過性に発現できれば十分であり,安定的にGFPを発現したとはどこにも記載はされていないことからすると,安定的に発現したものではない。
したがって,引用例2では,有糸分裂以外の細胞の動態(ダイナミズム)の観察はできない。
ウ 引用例6(甲6)について
引用例6の図2は,細胞を固定化したグレースケールの写真であるから,「細胞を固定化させずに観察したマルチカラーイメージング」の画像ではない。図3は,細胞を固定化処理しており,また,重ね合わせ処理及び彩色処理を施さないと観察できないということは,これでは蛍光強度が低く鮮明な観察が得られないことを示すものである。さらに,図2及び図3における標識は,いずれも一過的なものであり安定的に発現されるようにはなっていない。
したがって,引用例6には,「生きたままの細胞の動態(ダイナミズム)を観察するマルチカラーイメージング」は記載されているとはいえない。
エ 以上によれば,上記文献は,上記の周知技術を裏付けるものとはいえない。
また,周知技術とは,「その技術分野において一般的に知られている技術であって,例えば,これに関し,当時相当多数の公知文献が存在し,又は業界に知れわたり,あるいは例示する必要がない程よく知られている技術」をいう。このため,本願優先日当時の周知技術であるならば,教科書,参考書又は実験の手引き等にも掲載されているはずである。しかし,平成12年から平成16年のこうした書籍を見ても,インデックスにすら,蛍光観察に関連する用語が掲載されておらず(甲38の1~4),周知であったということもできない。
(3) 引用例7,8及び10に示されるように,局在化の配列を有さない赤色蛍光タンパク質を発現させることで細胞質を染色することは周知」(a5,a7 イ)との認定は誤りであること。
引用例7(甲7),8(甲8)及び10(甲10)に記載されるような,局在化配列を含まないベクターでトランスフェクトした細胞では,細胞質のみではなく核も含めた細胞全体を標識することになるから,本願発明の第2蛍光タンパク質のように細胞質のみを染色するものではない。
また,引用例10の図1の蛍光像では,標識された部分以外は全く観察できず,細胞のどの部分が標識されているか不明であり,蛍光タンパク質が「細胞質を染色する」ことは記載されていない。
さらに,引用例7の図3,引用例8の図2及び引用例10の図1,2には,一過的に(一時的に,一過性に)発現させたことが記載されており,本願発明の「安定的にトランスフェクトされた」との文言を無視している。
以上によれば,審決の「局在化の配列を有さない赤色蛍光タンパク質を発現させることで細胞質を染色することは周知」との認定は誤りである。
2 引用発明に周知技術を組み合わせて本願発明とすることは容易ではないこと
(1) 動機付けについて
ア 引用例5において細胞質を蛍光標識することの動機付けがあるとはいえない。
すなわち,引用例5は,「ヒストン-GFP 融合タンパク質は,生きている哺乳細胞中における染色体のダイナミクスの感度のよい分析を可能にする」と題する学術論文である。その目的は,「単に対象物を観察すること」ではなく,高感度な方法を開発して,正常細胞では見られない,癌遺伝子の増幅に関わる無動原体染色体であるDMs(二重微小染色体)の細胞分裂の際の不均等な分配がなぜ起こるのかを検討するために,その不均等な分配に至る重要なファクターである,有糸分裂中の細胞における「DMs の特徴的なクラスター形成の挙動」を明らかにすることである。
引用例5の筆者らが確立したのは,「ヒストン H2B と GFP との融合タンパク質を用いる,生きている細胞中におけるクロマチンの標識のための新規な系」であり,細胞全体の標識のための系ではなく,また,「結果」の欄には,染色体を高解像度で画像化することのみが記載されており,細胞全体の形状を観察することは想定されておらず,記載されてもいない。
確かに,引用例5の Figure5には,蛍光顕微鏡像(a,c,e,g)と,この蛍光顕微鏡像と光学顕微鏡像(微分干渉コントラスト像)とを重ね合わせた像(b,d,f,h)とが対になるように示されているが,これらの像(b,d,f,h)は,染色体が間違いなく染色されていることを確認するためのものにすぎない。
したがって,引用例5においては,細胞全体の形状を観察することは想定されておらず,細胞全体の形状を更に観察しやすくするという必要性がないから,引用例5において,細胞全体の形状を更に観察する目的で,細胞質を何らかの手段で可視化しようとする動機付けがない。
イ 被告は,引用例5に,染色体のダイナミクスを研究するための広範な応用がある旨の記載などを指摘し,細胞全体の形状及び DMs に限定されない染色体全体を観察することが記載されていると主張するが,上記記載は,アポトーシスのリアルタイム分析等の応用が理論上可能であることを示しているにすぎず,実際にできるかどうかはやってみなければわからないのであり,細胞全体を観察することについては根拠となる記載がない。
二色の蛍光タンパク質で標識するといっても,励起波長が大きく異なるGFPバリアントを使用すると,いったん,いずれかの蛍光タンパク質に励起光を照射して発光させ,次いで,異なる波長の励起光を照射してもう一方の蛍光を発光させなければならない。励起波長が低波長側にずれればずれるほど,紫外光を含む割合が上昇するために,測定する試料へのダメージが大きくなる。また,市販されている蛍光顕微鏡で使用できる励起光の波長は,範囲が限られている。
このため,引用例5の Figure 5 の b,d,f,h の像に接した当業者は,蛍光測定の技術的な課題と,それを解決することが困難であったため,より観察しやすい画像を得ることを望むまでで終わっていたのであり,技術を具体化することは極めて困難である。
(2) 阻害要因について
蛍光観察法は,暗視野で蛍光標識の存在を観察することから,蛍光標識された対照物が,バックグラウンドの黒と鮮やかな対照をなして浮かび上がり,高精度の観察が可能となる。染色体を GFP で緑色で蛍光標識し,細胞質を赤色で蛍光標識すると,染色体の背景は黒ではなく赤色となり,小さな DMs の観察が非常に難しくなる。
したがって,引用例5において,細胞質を蛍光標識することは DMs を観察する上での阻害要因となる。
3 顕著な効果の看過があること
本願明細書には,本願発明の生細胞を用いると,「様々な薬剤が細胞周期に及ぼす効果を観察でき,そこから得られる情報が細胞核と細胞質を別々に標識することによって増大する」,「生存および様々な細胞周期のステージを経ている間の細胞を観察できる」,「アポトーシスでのリアルタイムでの視覚化ができる」という優れた効果を奏することが記載されている。
また,本願発明の細胞によって,甲48~50に示されているように,細胞質のみならず細胞核までもが,組織の中や血管内で大きく変形していることが分かる。このようなドラスティックな変形は,2つの蛍光タンパク質を発現している本願発明であればこそ,観察できるものであり,蛍光色素で染色した細胞等ではこのような状態を見ることは決してできない。
審決は,「細胞増殖(細胞周期)のモニタリング可能となるという効果,及び,様々な薬剤が細胞周期に及ぼす効果を評価することもできるという効果は,細胞を二重に標識したことによる効果とはいえ」ないと判断している。
本願明細書には,「細胞増殖のモニタリング」と「細胞の生涯における事象のモニタリング」の両方が可能となると記載されているが,審決の認定では,「細胞増殖(細胞周期)のモニタリングが可能となるという効果」と一まとめにされており,「細胞増殖」と「細胞の生涯」とは異なることを看過している。審決で引用されたいずれの文献にも,「細胞の生涯における事象を観察できる」ということに関する記載もなく,その示唆もない。
したがって,上記審決の効果に関する判断は誤りである。
第4被告の反論
1 原告の主張1に対し
審決のした周知の課題及び周知技術の認定に誤りはない。
(1) 原告の主張1(1)に対し
原告も認めるように,観察対象を明瞭に観察できるようにすることは,当業者が望むものである。これは,観察対象が何であれ,その目的が対象物を観察することであるから,それぞれの観察対象を目前にした当業者にとって,より明瞭に観察可能とすることは,当たり前の技術的課題である。あるいは,観察対象を何にするかは,当業者が必要に応じて選択し得る事項である。
審決は,「パパニコロウ染色法は,本願優先日前の当業者の周知・慣用技術であったことからも」と記載しており,パパニコロウ染色だけでなく,死んだ細胞及び生きた細胞を含め,細胞核と細胞質とをそれぞれ色の異なる複数の物質で染め分けるという課題が周知であると認定したものである。
そして,乙2~4(甲41~43),乙12に記載されるように,生きた細胞において細胞核と細胞質を異なる2つの物質で染め分けることも周知である。
そうすると,これらにより,細胞の生死に関わらず,細胞核と細胞質とを異なる複数の物質で染め分けることは周知の課題であるといえ,技術分野を広く捉えすぎたなどということはない。
(2) 原告の主張1(2)に対し
引用例1の図3には,nuGFP(緑)と mtGFP(青)をトランスフェクトし,生きたHeLa 細胞の核とミトコンドリアを異なる色で染め分けていることが示されている。
引用例2の図3には,重ね合わせ処理した後に,赤と緑に標識されたことが分かるようになっている。像を同日に撮影できず順番に撮影しなくてはいけないとしても,波長の異なる2つの蛍光タンパク質を,核エンベロープマーカーであるラミンB受容体とヒストン2Bをそれぞれ標識して,生きたままの細胞の有糸分裂の様子(動態)を観察することが示されている。
引用例6には,「細胞内における細胞骨格ネットワークやオルガネラの動態を,固定化や化学染色を用いずに細胞を生かしたまま,リアルタイムで研究したい場合に最適です。」と記載されているので,掲載された写真が固定化された細胞のものであっても,「細胞を固定化させずに,生きたままの細胞の動態を観察する」技術が記載されているといえる。
したがって,引用例1,2及び6には,2色の蛍光タンパク質を,細胞の異なる部位に標的化することで,細胞を固定化させずに,生きたままの細胞の動態を観察する技術が記載されているから,審決の認定に誤りはない。
(3) 原告の主張1(3)に対し
審決は,細胞質を染色することが当業者の周知技術であったと認定したのであって,細胞質のみを染色することが当業者の周知技術であったと認定したわけではない。
そして,引用例7(甲7)には,「細胞質局在試験では NIH3T3 細胞に pDsRed1-N1又は pDsRed2-N1 をトランスフェクトしています。DsRed1を発現する核および細胞質の画像ではタンパク質の凝集が見られているのに対し,DsRed2 発現細胞の画像ではタンパク質の凝集は見られません。」(図1の説明の項)と,局在化配列のないDsRed をコードする遺伝子を含むプラスミドをトランスフェクトすることで,「細胞質」の画像が得られたと記載されている。そして,その画像からも(図1下段の2枚の写真),発現後,細胞質を染色したことが確認できる。
また,引用例8(甲8)及び引用例10(甲10)にも,局在化配列を有さないDsRed を用いて,細胞質を染色したことが示されている(特に,甲8の図2,甲10の図1)。
よって,引用例7,8及び10より,局在化配列を有さない蛍光タンパク質を用いて,当該蛍光タンパク質を主に細胞質に発現させることは,本願優先日前の周知技術であると認められる。
さらに,本願優先日前に公知となった一般的な技術を示す刊行物である乙7(26頁左欄3行~右欄3行,及び,図2・2参照)に記載されるように,サイトゾル(cytosol)とは細胞質のことを意味するが,乙2の2の表1(56頁)にも,「サイトゾル容量マーカー」(サイトゾル(細胞質)の容量を量るマーカー)として緑色蛍光タンパク質を用いることが記載されていることからも,局在化配列を有さない蛍光タンパク質を発現させることで,細胞質を染色することは,当業者の周知技術であったと十分にいえる。
加えて,引用例7の図2の説明には,G418 という選択薬剤を用いて計6週間培養しているので,安定的にトランスフェクトしたものと認められる。
したがって,引用例7(甲7)より,局在化配列を有しない蛍光タンパク質を安定的に発現させて細胞質を染色(標識)する技術は周知であるといえる。
2 原告の主張2に対し
(1) 原告の主張2(1)に対し
引用例5には,この報告で紹介した方法が従来の蛍光色素による染色体標識法よりも優れていることが述べられており,「この報告で記載した H2B-GFPの戦略には,染色体のダイナミクスを研究するための広範な応用がある。例えば,トランスフェクションマーカーとして使用し,蛍光顕微鏡を使用して有糸分裂細胞の同定を可能にした。・・・。本方法は,生きている細胞中におけるクロマチンの断片化及び過剰凝縮の可視化を可能にすることによる,アポトーシスのリアルタイム分析,及び腫瘍の進行中の染色体の安定性に対する癌遺伝子の効果の研究に,特に有用であるかもしれない。」という記載があり,図5の細胞を観察した像から,観察対象は「細胞全体」及び「DMs に限定されない染色体全体」を観察することが記載されている。
仮に,DMs のみを観察対象とするのであれば,蛍光染色(標識)された染色体の像である a,c,e,g のみを撮像すればよいにもかかわらず,これらの蛍光画像に対応する細胞全体の形態も示した b,d,f,h を,併せて撮像し並べて示しているのだから,観察対象は細胞全体及び染色体であることは自明である。
したがって,原告も認めるように,観察対象を明瞭に観察できるようにすることは,当業者が望むものであるから,引用例5の Figure 5 の b,d,f,h の像に接した当業者は,必要があればより観察しやすい画像を得ることを望むものである。引用例5では,共焦点顕微鏡を使用して微分干渉コントラスト像が得られることで,細胞全体の形が観察できるものの,例えば,細胞全体の形により着目して,細胞全体の形を更に観察しやすくしようとすることは,当業者が必要に応じて期待することである。
その際には,引用例5の Figure5の微分干渉コントラスト像に代えて,検出感度が他の観察手法に比べて格段に高いことが技術常識である蛍光観察を用いることが動機付けられる。
そして,そのようにして得られた,蛍光タンパク質により多重染色(標識)された細胞は,染色体のみ,細胞全体の形状のみ,あるいは両者を同時に観察することが可能であって(乙13参照),引用例5の主な目的である DMs の観察に特段の悪影響はないことは,当業者にとって明らかである。
そうすると,引用例5の Figure 5 に接した当業者が,より細胞全体の形を観察しやすくしたいのであれば,本願優先日前における上記の周知技術である,2色の蛍光タンパク質で単一の生きた細胞内の異なる部位を染め分ける技術(引用例1,2及び6),及び,局在化配列を有さない蛍光タンパク質により細胞質を染める技術(引用例7,8及び10)を適用して,細胞質に細胞核とは色の異なる第2の蛍光タンパク質を発現させることは,容易になし得たことである。
そして,安定的発現法によれば,一過性発現と異なり,子孫の細胞もその遺伝子による形質が維持されたものとして継続的に使用可能なことが技術常識であるから,既に安定的発現法により,染色(標識)され,染色体のダイナミクスが継続的に観察可能なことが当業者に明らかな HeLa 細胞の像である引用例5の図5に接することで,細胞全体の形状をも蛍光観察するよう動機付けられた当業者が,第2の蛍光タンパク質により細胞質を染色(標識)するに際し,細胞全体の形状も継続的に蛍光観察可能な実験ツールとして使えるように,引用例5において,局在化配列を有さない蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクトさせる技術にかかる周知技術(引用例7)を適用し,「安定的に」発現させることは,当然なのである。
(2) 原告の主張2(2)に対し
乙13に「5-1-3 多重染色標本を観察するときの選択標本が2種類以上の蛍光色素で標識されている場合には,1種類ごとに分けて観察することも可能であり,また,複数の蛍光色素を同時に観察することも可能である(図10)。」と記載されていることから理解できるように,2種類以上の蛍光色素で標識されている場合には,染色体のみ,細胞全体の形状のみ,あるいは,両者を同時に観察することが可能であり,引用例5の主な目的である DMsの観察に特段の悪影響はないことは,当業者には明らかである。
3 原告の主張3に対し
本願発明は,生細胞に係るものであり,これをどのように使用するかは,生細胞自体の構成でも効果でもないから,「細胞の生涯における事象を観察できる」という使用方法に係る効果の原告主張は,前提において失当である。
仮に,それを効果として考慮しても,2つの色の異なる蛍光タンパク質により細胞周期を観察可能とした細胞について,その生涯における事象を観察できることは,引用例5並びに引用例1,2及び6の記載並びに当業者の技術常識から自明の事項である。
したがって,細胞質を核とは異なる色の蛍光タンパク質で染色してなる本願発明が,細胞質全体をも蛍光タンパク質で染色されることで,より細胞増殖(細胞周期)の像を明瞭に把握することができるという本願発明において奏される効果は,引用例5及び上記の周知技術から,予測できる範囲のものである。
第5当裁判所の判断
1 本願発明について
本願明細書(甲1,11)によれば,本願発明について,以下のとおり認められる。
本願発明は,生体内及び生体外における細胞増殖,薬剤感受性,細胞周期位置,その他細胞応答のリアルタイム観察に用いることができる生細胞に関するものである。マーカーとしての蛍光タンパク質の使用による細胞,特に生細胞の直接的観察に際し,細胞周期における細胞の状態は,細胞核及び細胞質を別々に標識することによりモニターすることができる。(【0001】,【0010】)
従来,Aequorea victoria 由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)や珊瑚由来の DsRed野生型及び突然変異体は,多色性レポーターとして広く用いられており,例えば,ヒトのヒストンH2B遺伝子とGFPとの融合タンパク質(H2B-GFP)を用いて,有糸分裂期の染色や間期のクロマチンの凝縮状態を観測すること等が行われている。しかし,二重に標識された細胞は,生体内,生体外のいずれにおいても使用されていない。また,増殖をモニターする従来技術は,正常の細胞代謝の破壊を伴い,細胞死さえ生じさせる(【0002】~【0009】)。
そこで,本願発明の目的とするところは,リアルタイムで生体外及び生体内における増殖その他の細胞活性を観察する手段を提供することにあり,そのために,「細胞核を標的とする配列と融合した第1蛍光タンパク質と,標的とするアミノ酸配列を欠く第2蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクトされた生細胞であって,該第1タンパク質と第2タンパク質が異なる波長で可視光を放出し,細胞が増殖を続けている上記生細胞」とするものであり,本願発明の生細胞は,細胞核と細胞質の両方をそれぞれ異なる色で視覚化できるという効果を奏する(【0010】~【0012】,【0016】,【0022】,【0029】)。
そして,本願発明の生細胞を用いることにより,様々な細胞核-細胞質ダイナミクスをリアルタイムで観察することができ,具体的には,細胞核と細胞質の比を測定することによる細胞周期位置の判定や,細胞核の形態変化を見ることによるアポトーシスの観察,薬剤の細胞周期に及ぼす効果の評価などの「細胞増殖のモニタリング」,及び「細胞の生涯における事象のモニタリング」を行うことができる(【0017】,【0018】,【0029】,【0040】,【0066】)。
また,本願発明の生細胞を,培養中に顕微鏡下で直接観察することもできるし,生存動物にこの生細胞が存在している様子をリアルタイムで観察することもできる(【0032】)。
2 周知の課題及び周知技術について
原告は,審決における周知の課題と周知技術の認定が誤りであると主張するので,まず,この点について検討する。
(1) 審決の「細胞観察の技術分野において,細胞核と細胞質とをそれぞれ色の異なる複数の物質で染め分けるという課題は周知」(a3,a7)との認定について
ア 細胞核と細胞質をそれぞれ異なる複数の物質で染め分けることについて
(ア) パパニコロウ染色について
甲21,22及び24によれば,パパニコロウ染色法は,細胞を固定化した後,正荷電のヘマトキシリン染色液により核を染め,負荷電の酸性色素で細胞質を染めるものであり,細胞診検査に用いられるものとして周知である。
(イ) 甲41の2及び乙2の2(国際公開01/011340号に対応する公表特許公報)には,以下の記載がある。
【請求項1】 神経突起成長を解析する自動化された方法であって,
細胞の位置を報告する少なくとも1つの第1の発光標識したレポータ分子と,前記神経突起成長を報告する少なくとも1つの第2の発光標識したレポータ分子を有し,ニューロンを含む細胞を含む位置のアレイを提供し,
複数の細胞を含む各位置において,前記複数の細胞を画像化または走査して,前記第1および前記第2の発光標識したレポータ分子から発光シグナルを得,
前記発光シグナルを,デジタルデータに変換し,
前記細胞上または前記細胞内の,前記第1および前記第2の発光標識レポータ分子の分布,環境,または活性の変化を自動的に計算し,前記計算した変化が前記ニューロンからの前記神経突起成長の測定値を提供する自動測定に,前記デジタルデータを使用する
ことを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】 前記第1の発光標識したレポータ分子が,DNA結合化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】 前記第2の発光標識したレポータ分子が,細胞質,膜,ニューロン特異的細胞成分,および細胞タンパク質からなる群から選択した細胞成分を選択的に検出する化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【0027】
別の好ましい実施形態において,転写因子活性,・・・細胞形態,微小管構造,アポトーシス,・・・および神経突起成長に影響する化合物を解析し,同定するためのスクリーニングを含めた種々の細胞スクリーニング方法を提供することである。
【0062】
走査細胞アッセイ
図9を参照し,実行されるべきアッセイに基づいて選択されるべき・・・。ある範囲の試料を取り扱う柔軟性のためには,ソウトウェアは,核および細胞質を同定するのに使用される種々のパラメータ設定の選択および異なる蛍光試薬の選択,形態または明るさに基づく注目する細胞の同定,およびウェル当たりの分析すべき細胞の数の同定を可能とする。・・・
【0093】
・・・図10Aは,青色フルオロフォアで標識したその核200および緑色フルオロフォアで標識した細胞質201における転写因子を備えた未刺激細胞を示す。・・・
【0118】
全細胞面積は,DNA標識と組み合わせて,細胞骨格マーカ,サイトゾル容量マーカ,細胞表面マーカを用いて全細胞体または細胞質を標識することによってモニターすることができる。そのような標識(・・・)の例は以下のものを含む。
【0119】【表1】
file_2.jpg(iam RETR [aerae—% = ALEXA ISS 77019 (Molecular Probet, OF Srey “RGEHS OR DPEBAT Ibe ERAS Awet IIe “BCROF/AWEA9 0 BFS FEALIY HR. 7 kORERET DIME SO CORE RMA DAEVFLWF PI AF NAY RBWRY I 7 AIO Lo) BROR PYLE IY DELO L IDEN IFNTAAFULED 64. PM 1-48) mee MITOTRACKER™ Green Fw [2 et bet yay at RUA SRERRUAT IVF SD SOTT IME HEBL IED [:SYPROTMAGEW RMS DAM R—H a RUMAWE SOR CORT APRIL TROP NTHOERT 7 OM, HO COMMA LL IRT ODT ER 4これらの種々の剤での細胞染色のためのプロトコルは当業者によく知られている。細胞を生きたまま,または固定後に染色し,細胞面積を測定することができる。例えば,DiIC16で染色した生細胞は均一に標識された原形質膜を有し,細胞の突出した断面積は色素の蛍光強度によってバックグラウンドから均一に区別される。CMFDA等のサイトゾル染料で染色した生細胞は,細胞の厚みに比例する蛍光強度を生じる。・・・固定細胞は,重合されたアクチンを標識する ALEXATM488 ファロイジン等の細胞骨格マーカで染色することができる。・・・
【0184】
実施形態10 神経突起成長・・・
【0185】
・・・本発明は,神経突起成長を解析するための,自動化された方法,キットおよびコンピュータで解読可能な媒体を提供する。この実施形態の方法は,-細胞を含む位置のアレイを提供し,ここでの細胞は,細胞数を報告する少なくとも1つの第1の発光標識したレポータ分子,および,神経突起成長を報告する少なくとも1つの第2の発光標識したレポータ分子を有し,
-複数の細胞を含む各位置における複数の細胞を画像化または走査して,第1および第2の発光標識したレポータ分子から発光シグナルを得,
-発光シグナルを,デジタルデータに変換し,そして
-デジタルデータを使用して,自動的に測定を行ない,ここでの測定を使用して,細胞上または細胞内の,第1および第2の発光標識レポータ分子の分布,環境または活性の変化を自動的に計算し,ここでの計算した変化は,神経突起成長の測定値を提供することを含む。
【0189】
本明細書に使用したような「細胞は,1つ以上の発光レポータ分子を有する」なる語は,発光レポータ分子は,細胞により,発光レポータ分子として発現させ得るか,発光レポータ分子として細胞に加え得るか,または,細胞を,レポータ分子に結合する,色素または抗体などのレポータ分子に結合する発光標識分子と接触させることにより,発光標識し得ることを意味する。発光レポータ分子は,試験物質で処理する前,同時,または後に,発現または添加できる。
【0191】
好ましい実施形態において,第1の発光標識レポータ分子は,DNA結合化合物を含む。さらなる好ましい実施形態において,第2の発光標識レポータ分子は,細胞質,膜および細胞タンパク質からなる群から選択した細胞成分を選択的に検出する化合物を含む。・・・
【0198】
ニューロンの同定
1つの実施形態において,試料中の全細胞を,発光レポータ分子マーカで標識して,その位置を同定する。一旦細胞の位置が同定されると,細胞を計測できる。典型的には,核酸色素ヘキスト33342を発光レポータ分子として使用して,全細胞の核を同定する。・・・さらに,ニューロンを低密度で蒔いた場合,細胞質などの細胞の他の部分を標識して,培養液中の全ての細胞を同定できる。好ましい実施形態において,核標識を使用する。いくつかの細胞質染色の例を以下に示す。
【0201】
(1) 細胞質染色:細胞質を,任意の標準的な細胞質染色で染色できる。かかる染色の例は,CMFDA・・・である。別法として,細胞を工学して,緑蛍光タンパク質(GFP)などの自己蛍光タンパク質を発現させ得る。細胞質中に発現された GFP により,ニューロンのプロセスを可視化できる。
【0202】
(2) 膜染色・・・
【0203】
(3) 細胞タンパク質の染色・・・
【0204】
(4) 全てのこれらの染色戦略の組合せを使用して,ニューロンプロセスおよび成長している神経突起をより良く同定できる。
上記によれば,生きたままの細胞において,細胞面積を測定したり,ニューロンプロセスを観察するために,核と細胞質をそれぞれ異なる蛍光試薬により染色したりすること,具体的には,核酸色素ヘキスト 33342 等のDNA標識と組み合わせて,緑色蛍光タンパク質等のサイトゾル容量マーカ等により,全細胞体又は細胞質を標識することが記載されている。
(ウ) 甲42の2及び乙3(特表2000-509827号公報)には,以下の記載がある。
【特許請求の範囲】
1. 細胞を解析するための下記のステップを含む方法:
(a) 細胞が1種以上の蛍光レポーター分子を含有するときに複数の細胞を含有する場所の配列を提供するステップ,
(b) 細胞内の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを入手するために細胞を含有する場所各々に含まれる多数の細胞をスキャンするステップ,
(c) 蛍光シグナルをデジタルデータに変換するステップ,及び
(d) 細胞内の蛍光レポーター分子の分布,環境又は活性を測定するためにデジタルデータを利用するステップ。
・・・・
6. コンピューター手段がデジタルデータを平均細胞質レポーター分子蛍光強度と平均核蛍光レポーター分子強度との差分に変換する請求項1に記載の方法。
「発明の分野
本発明は,新薬発見を目的とした蛍光に基づく細胞及び分子の生化学的アッセイの分野にある。」(8頁)
「生きている細胞のアッセイは,必要な試薬を含有している生きている細胞の配列を経時的並びに空間的にスクリーニングできるので,より洗練されたかつ強力なアッセイである。経時的な多重蛍光測定のためには細胞の生理学的健康状態を維持しなければならないので,測定中には細胞の環境調節(温度,湿度及び二酸化炭素)が必要とされる。」(14頁)
「最も好ましい実施態様では,細胞プロセスにはタンパク質の核トランスロケーション,細胞肥大,アポトーシス(断片化),及びタンパク質のプロテアーゼ誘発性トランスロケーションが含まれるが,これらに限定されない。」(19頁)
「蛍光レポーター分子
新薬発見範例の主要構成要素は,細胞内イオン,代謝物,高分子及びオルガネラの時間的及び空間的分布,含量及び活性を測定するために使用される,持続的に増え続けている蛍光及び発光試薬ファミリーである。これらのクラスの試薬には,生きている細胞及び固定化細胞中の分子の分布及び量を測定する標識試薬,時間及び空間におけるシグナルトランスダクションイベントを報告するための環境指示薬,及び生きている細胞内のターゲット分子活性を測定する蛍光タンパク質バイオセンサーが含まれる。単一細胞内で数種の試薬を組み合わせる多重パラメーターアプローチは,新薬発見にとって新規の強力なツールである。・・・発光プローブは小分子,標識高分子,又は緑色蛍光タンパク質キメラ類を含むがこれらに限定されない遺伝子工学によって作り出されたタンパク質であってよい。」(30~31頁)
上記によれば,新薬発見を目的とした蛍光に基づく生きている細胞を解析するための方法において,細胞質蛍光レポーター分子と核蛍光レポーター分子を用いることが記載され,当該蛍光レポーター分子として,緑色蛍光タンパク質キメラ類等の遺伝子工学によって作り出されたタンパク質が例示されている。
(エ) 甲43の2及び乙4の2(国際公開02/037944号に対応する公表特許公報)には,以下の記載がある。
【請求項1】 多重細胞実験を実施するためのシステムであって,検出可能に明瞭な第1のコードをそれぞれが有する第1のマイクロキャリヤー・クラスと,検出可能に明瞭な第2のコードをそれぞれが有する第2のマイクロキャリヤー・クラスとを含むマイクロキャリヤー・セットを含み,第1のマイクロキャリヤー・クラスが第1の細胞集団を担持し,第2 のマイクロキャリヤー・クラスが第2の細胞集団を担持し,そのため,それぞれのマイクロキャリヤー上のコードに従って細胞集団を識別することによって,マイクロキャリヤー・セットを同じ多重実験で分析することができるシステム。
【請求項21】細胞の形態変化を検出するために,少なくとも1つの細胞集団が少なくとも2種類の異なる標識を有する,請求項1に記載のシステム。
【請求項22】 細胞質分裂モジュレーションの指標として細胞当たりの核数を検出するために,1つまたは複数の細胞集団が細胞質標識および核標識で標識される,請求項1に記載のシステム。
【0079】
i.DNAおよびRNA標識
染料などの任意の適当な標識を使用して,細胞中の完全なDNAまたはRNAの分布および存在量を測定することができる。一般に染料は,2重らせんへのインターカレーションによって,または副溝(minor groove)の中での相互作用によって2本鎖DNAまたはRNAに結合する。適当な染料は,米オレゴン州 Eugene の Molecular Probes 社から販売されており,これには例えば,DAPI,Hoechst 33258,臭化エチジウム,ヨウ化プロピジウムおよび/またはエチジウム・ホモダイマーなどが含まれる。
【0122】
細胞特性は直接にまたは間接的に検出することができる。直接に検出される細胞特性は,例えば位相差顕微鏡,蛍光顕微鏡などの光学的手段によって測定することができ,このような細胞特性には例えば,細胞数,細胞分布,細胞形態,細胞外基質構造,GFP 信号,または直接に測定される細胞の他の態様が含まれる。直接に測定される細胞特性を使用すると,細胞を生きたまま分析することができる。対照的に,間接的に検出される細胞特性は,検出可能な信号を提供しまたは生成する1種または数種の標識で細胞を標識した後に測定することができる。使用する標識の型に応じて,標識化は,生きた細胞,あるいは固定しかつ/または膜透過性にした細胞に実施することができる。
【0124】
・・・本発明で使用するのに適した直接に検出可能なレポーターの例は緑色蛍光タンパク質(GFP)である。適当な GFP 変異体も,・・・市販されている。これらの GFP 変異体は,青色,黄色および赤色光の優勢な放射を含む,GFP とは大幅に異なった発光スペクトルを有することがある。
【0127】
・・・異なった光学的特性を有する標識,例えば実質的に重なり合わない励起および/または発光スペクトルを有する蛍光染料を適当に選択することによって,コード付き細胞集団の2つ以上の細胞特性を測定することができる。
上記によれば,生きた細胞において細胞分裂モジュレーションを観察するに当たり,細胞質標識及び核標識で細胞を標識することが開示され,Hoechst 33258 や緑色蛍光タンパク質(GFP)を標識に用いることが記載されているといえる。
(オ) 乙12の2(国際公開01/094528号に対応する公表特許公報)には,以下の記載がある。
【0062】
発明の詳細な説明
本発明は,細胞種間の差異を知識ベースで発見および最適化するための方法および装置を提供する。・・・。本発明は,数百の個々の生細胞を経時的に詳しくモニターする手段;多チャネルにおける動的生理学的反応の定量化;リアルタイムのデジタル画像分割および分析;・・・を提供する。
【0065】
・・・この状況下で,個々の細胞を検出しかつデジタル画像内で分割するという細胞ごとの形態学的測定も可能であるため,形状,面積,テクスチャ,および核-細胞質比など細胞の形態学的な特徴をモニターすることもできる。
【0081】
3.蛍光フォーマット・・・
【0082】
染料と蛍光試薬とによる細胞の処理および細胞の撮像・・・,ならびに,レポーター分子として修飾緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光タンパク質を生成させるための細胞の遺伝子操作は有用な検出方法である。・・・
【0119】
・・・ 前述のように,核および細胞質の自動描写は,細胞反応を特定の細胞区画にマッピングする上で重要な段階である。
【0120】
多チャネル画像の分析では,・・・このシナリオでは,細胞の異なる構成要素を強調するため,異なる蛍光プローブを用いかつ異なる励起フィルタを使用して細胞が撮像される。・・・
【0121】
・・・理想的な条件下では,M個の異なる様式(例えば,青,緑,および赤の蛍光発光にそれぞれ対応する3つの蛍光画像)でZを観察することにより,画像システム中の種々のノイズにより破損されるデータの理想的な表現Xiが特定される。・・・ある分類が細胞質としてラベル付けされるのであれば,緑チャネル(すなわち細胞質)および青チャネル(すなわち核)の理想的反応は互いに影響しないので,これは妥当である。・・・
上記によれば,生きている細胞を経時的にモニターするに当たり,核を青色,細胞質を緑色で蛍光標識することが記載されている。
(カ) 以上によれば,細胞診検査に用いるために細胞を固定化して蛍光色素で染める手法(パパニコロウ染色法)だけでなく,生きたままの細胞において様々な事象を観察するために,細胞核と細胞質を異なる色とする手法は,本願優先日当時,広く行われていたものということができる。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,審決で上記課題が周知であることの根拠として指摘した「パパニコロウ染色法」は,色素で細胞を着色し,エタノール等で細胞を固定化して,死んだ細胞を観測する細胞診という技術分野における周知・慣用技術であり,蛍光タンパク質で標識して細胞を生きたまま観測する技術分野に属する本願発明とは異なるものであるから,技術分野が異なる周知技術を根拠として「課題が周知」とすることはできないと主張する。
しかし,後記のとおり,「細胞を生かしたままリアルタイムで研究」する場合に最適なベクターを紹介する引用例6において,固定化処理した画像である図3等を掲載しているように,固定化して撮像し観察するか,あるいは,生きたままの細胞を撮像し観察するかは,必要に応じて選択可能なものであり,細胞観察の各々の目的ごとに技術分野が個別に存在するという原告の主張に合理的な根拠は見出せない。
また,審決は,パパニコロウ染色を,生細胞,死細胞を問わず,その両者を含めた細胞観察の技術分野における一例として挙げたにすぎないものである。
そして,乙2~4,乙12は,パパニコロウ染色法とは異なり,生きた細胞を観察することに関する文献であるが,上記に示されるように様々な目的に応じた「細胞観察」という技術分野において,細胞核と細胞質を異なる色として観察することが裏付けられている。
したがって,細胞を固定化するか生きたまま用いるかは,検査や観察の目的等により,必要に応じて選択されるものであり,原告の主張には理由がない。
(イ) 原告は,乙2~4,12は,審査・審判手続において一度も引用文献として挙げられておらず,訴訟において提出することは許されないものであると主張する。
しかし,審判で審理判断されなかった公知事実を当該審決の取消訴訟で主張することは許されないとしても,審決において示された,細胞核と細胞質をそれぞれ異なる複数の物質で染め分けるとの周知の課題について,取消訴訟において,当該周知の事実の存在を立証するために,審判での審理に供された証拠以外の証拠の申し出をすることは,当然許されるものであるから,原告の主張は失当である。
(ウ) 原告は,乙2~4,12を参酌するとしても,乙2~乙4の全文にあたる甲41~43には,「生きた細胞において,細胞核と細胞質を異なる二つの物質で染め分けること」は記載されておらず,まして,本願発明のように「安定的に」染められているものでもないと主張する。
しかし,前記アに摘記したとおり,上記各文献には,生きた細胞において,細胞核と細胞質を異なる色で着色したことが記載されていることが明らかであるし,上記の周知の課題の認定において,安定的にトランスフェクトされているか否かは無関係であるから,上記主張は採用できない。
ウ 以上によれば,種々の目的を有する細胞観察という技術分野において,細胞核と細胞質を異なる色とするという課題は周知であったとの審決の認定に誤りはない。
(2) 審決の「引用例1(甲3),2(甲4)及び6(甲6)に示されるように,2色の蛍光タンパク質を,細胞の異なる部位に標的化することで,細胞を固定化させずに,生きたままの細胞の動態を観察するという手法は周知」(a4,a7 ア)との認定について
ア 引用例1(甲3)について
(ア) 甲3には,以下の記載がある。
「オルガネラを標的とした GFP変異体を用いた細胞内構造の生体内における二重標識」(1頁)「結果:ここで,我々は,生体内での細胞生物学の研究にとっての GFP 突然変異体の有用性を,野生型の GFP,『蛍光の強い』GFP 突然変異体(S65T)及び青色にシフトした励起光及び照射スペクトルを有する GFP 突然変異体(Y66H/Y145F)の使用によって証明した。我々は,ミトコンドリアをターゲティングする2つの GFPキメラ,mtGFP(S65T)及び mtGFP(Y66H/Y145F)を,以前に mtGFP 用に使用したと同じストラテジーを用いて構築した。さらに,核をターゲティングする2つの GFP キメラ uGFP と nuGFP(S65T)を,野生型の GFP 又は S65T 突然変異体を,ラットのグルココルチコイド受容体に融合させることによって構築した。mtGFP(Y66H,Y145F)とnuGFPとをコトランスフェクトすることによって,核とミトコンドリアとが,生きている細胞中で同時に可視化される。」(日本語訳文の1頁。以下,外国語文献の日本語訳文の摘記箇所末尾に記載された頁数は,日本語訳文の頁数を指す。)
「はじめに・・・・
適当なキメラを構築することによって,我々は,損傷のない(intact)生きている細胞内で,異なる細胞内構造を同時に標識した。生きている真核細胞中における突然変異体の発現の成功は,GFP 及びその改変体を「二重標識」実験又は蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)実験に使用できること,及び多くの生理学的事象を直接的にモニタリングするための強力なツールであることを示すであろう。」(1,2頁)
file_3.jpg「図3 nuGFP と mtGFP と(Y66H/Y145F)を同時導入し,紫外光を照射した,生きている HeLa細胞の蛍光画像。細胞は図2と同じように分析した。スケールバーは 10μm。」(8頁)
(イ) 以上のとおり,核を標的とする青色蛍光タンパク質である nuGFPと,ミトコンドリアを標的とする緑色蛍光タンパク質である mtGFP(Y66H,Y145F)を,同時にトランスフェクトした生細胞が記載されるとともに,核とミトコンドリアを同時に可視化することで,多くの生理学的事象を直接的にモニタリングするためのツールとなることが記載されている。
イ 引用例2(甲4)について
(ア) 甲4には,以下の記載がある。
「GFP 変異体を用いた二色イメージング」(1頁)
「緑色蛍光タンパク質(GFP)は,細胞生物学における重要なツールとなり,生きている細胞内のタンパク質及び構造をイメージングするレポーターとして広く使用されている。近年,赤色及び青色にシフトした光を有する GFP のスペクトル変異体が特徴付けされ,2つの異なる色のGFP 融合タンパク質を用いた二重標識の可能性を開いた。本稿は,この技術の最近の進展を,生きている細胞のコマ撮りイメージングの応用への特別な注目とともにレビューした。」(1頁)
file_4.jpg#1 -LHPRBRGFPT A—-Y VV FM —N4* xX | GFPs Fi AUR RURR (+/-) Li 15 | wtGFP (®t), | BRASH (CFEBLL | -wtGPPIL RAE, POH PAIRED rsGFP4 (it) TWDKBBRUCHOM | 5, FAMREE y bT y TILRBEIC HAD H—O — RR | MHA OB RAK LRT Sd» ABILIEL & METER 13 |P 4-3 (), | BRASH ICHRL + 3A RBI FT HE ZRGFPDT W(YTY), | CWSKMBBO1WD= | —-vav S65T (#*) HECHT LR FADER ARA CHANCE PATS ; WEY ORBO RBA 17 |P 4-3 (#), |RARUShAY RY | + BAER wtGFP (ik) TEBE LEGPER BELECMICHBAT S, RAT (5 & FRR SERLL TWD HeLa Mia H—o — Pam LR EV); BOSE AREfile_5.jpgSRIF IS UM “HITE WD S 2IWFZIS 8 0G 2-4-1 BE > CLOWNS AY CHER CAPS Meee 4 Me ‘MIRE “Et Be An KR BS ‘dio: Ba T0297: MAT 1 SE SWSTOS HOG ‘SA ‘+ eB A BES EIU A Se By 2 SE Sa EB ‘Sil G WE = ORM L ZRIMGILG | 8009271 BES LN 6A OBWBUULACEERUD | HERA] 2 HS (®) 901 + MANA Bove | (ALA) LN} 8% ) ml “Hadise “1 BH | a co — OMY HACE (CS SED BE) BH £60S 121 eS (&) s23s GW AW ANSTOMEM + | HS WBeD WU T-ATH]| * (H) 098s | Tz “RR ASCWSIUUR YAR REA CTY MIL GAY “EDIE Sal 6 aco SOME? L4A0L. HVE AEBS BAW (anrze2s0430Iq) BH) aegis um EAD (&)_ Is98 BAREIS + | VMI EMM) “(KL4) GH] 6T Lo Ap§) aD 02% BACB WLE AN GALAG-— 4 ERB WSL d-e RB) d€ * Hat 1 BK CO RES BBOWIWL IAA SH 2 Bl CROWES Letach | oy = & fet tb BE C&) Ls9s BUMS D SH APTS + | PPHZUDLSyo—w] ‘(#) t-td| stfile_6.jpgPEARCE SIVICM OAD GFP BRAKRUEN SOMAfile_7.jpgCNET EAA Ge SEREMOL CS LY MBTICHUMMA P AMURY AGHHUD OSLER (i ORTLUR VHETIAS “EIS CALBE AWBRAW Gee ENERO D CULAR BBO F “CLARE AT OUR BLO LE DIL? (ddd PUe dHOS1) FAVE CO VN HI (ddd HB (AUER BRT) ) WOAN EAN A SEI ROT CTR HOS DN SDR — Co UB CORTE ELE OE i AREA Ox —a4g OS GLELOO TRALEE DIANA LOS WLeEVEC A CEK BGK} EA OO: BW CB OA GKRBE ‘dd! G-ARM ‘WIS C-ARM ‘xa: eH e(以上,5~6頁)
「Fig.3 は,LBR-10C 及び H2B-ECFP で標識した NRK 細胞の低速度撮影の像を示している。最初の像は,前中期にある細胞を示しており,ヒストン標識が凝縮した染色体を明確に可視化している一方,LBR-10C は ER(合議体注:小胞体)全体に拡散している。細胞の有糸分裂が進行するにつれ,核膜が再構成され,染色体が脱凝縮する。共焦点顕微鏡により,数百の連続的な二重標識の対を得ることができた。そのような共焦点の一連のものを得るに際し,両方の蛍光色素分子が UV 光を用いることなく,撮像された。有糸分裂(光傷害に対して非常に感受性であるプロセス)の完了が見られたように,このような撮像条件は,細胞に害を及ぼさないと思われた。」(3頁)
file_8.jpgvoo-ccre BS bt「FIGURE 3 核膜の再構築の二重標識のコマ撮り画像。
緑色蛍光タンパク質の10C変異体に融合された,核膜マーカーであるラミンB受容体(LBR-10C,左側のカラム),及び ECFP に融合されたクロマチンマーカーである,ヒストン 2B(H2B-ECFP,中央のカラム)を同時発現している,生きている NRK 細胞のコマ撮り撮影,及びこれらの重ね合わせ画像(右側のカラム);各段は,ある時点の同じ細胞を表わす。・・・in vivo でのクロマチンと核膜との共局在化により,核膜再構築における厳格な細胞周期のイベントのタイミングを可能にする。・・・」(10頁)
(イ) 以上のとおり,生きている細胞に,2つの異なる色の GFP 融合タンパク質を用いて二重標識する技術について,先行文献及び最近の進展が網羅的にまとめられており,具体的には,クロマチンを標的とする赤色蛍光タンパク質である H2B-ECFP と,核膜を標的とする緑色蛍光タンパク質である LBR-10C を同時に発現している生きた細胞を用いて,有糸分裂を時系列的に観察したことが記載されている。
ウ 引用例6(甲6)について
(ア) 甲6には,以下の記載がある。
「弊社 Living Colors Subcellular Localization Vector は細胞内における細胞骨格ネットワークやオルガネラの動態を,固定化や化学染色を用いずに細胞を生かしたまま,リアルタイムで研究したい場合に最適です。
図1はクロンテックのベクターが標的とする各細胞内要素(アクチン,チューブリン,ミトコンドリア,核,小胞体,ゴルジ体,細胞膜,そして新たに加わったペルオキシソーム)を示しています。これらのベクターを利用して,各オルガネラが時間経過や様々な処理に応じてどのように変化するかを観察でき,また,任意のタンパク質を各構造体へ局在化させることも可能です。・・・
file_9.jpgミトコンドリアを赤く染める
新発売の pDsRed1-Mito Vector は,DsRed を生きた細胞のミトコンドリアへと運びます。この製品は優れた in vivo 透化特性を有する新たな赤色蛍光タンパク質,DsRed を利用した最初の局在化ベクターであり,正常状態と疾患状態のミトコンドリアの形態的・機能的相違の解析や,細胞分裂時におけるミトコンドリアの分離の観察といった生細胞中のミトコンドリア動態の研究に有用です。・・・
多彩な局在化ベクターシリーズ
表1には,細胞内構造を望みの蛍光タンパク質で標識するのを可能にする広範かつ多彩な弊社細胞内局在ベクター製品群をまとめました。異なる色の標識を持つベクターを複数用いることで,細胞内構造同士あるいは細胞内構造と蛍光標識タンパク質との相対的な位置関係を観察できます。・・・
Living Colors のタンパク質は多重標識への応用時にも極めて有用です(図3)。二重標識を行なう際には,はっきりとした放射スペクトルを有し,最も鮮やかなタンパク質である EGFPと DsReD の組みあわせによる使用をお奨めしています。このペアはタンパク質の重なり部分が黄色に見えるという利点も有しており,個々の色と重複部分とを明確に区別できます。・・・」(以上,24頁)
「
A B
file_10.jpg図3.Living ColorsTMタンパク質による二重標識と三重標識。HeLa細胞を pDsRed1-Mito,pEYFP-Tub,pECFP-Nuc で一過的にトランスフェクトし,図2と同様に固定しました。・・・パネルA.pDsRed1—Mito と pECFP-Nuc。パネルB.pDsRed1-Mito,pEYFP-Tub およびpECFP-Nuc。」(25頁)
(イ) 以上によれば,平成12年4月には,核,細胞膜,アクチン,ミトコンドリア,小胞体,ゴルジ体等様々な細胞の部位に,赤,緑,青,黄色等の蛍光体タンパク質で標識するためのベクターが市販されており(図1),このようなベクターを用いれば,細胞内における細胞骨格ネットワークやオルガネラの動態を,固定化や化学染色を用いずに細胞を生かしたまま,リアルタイムで研究できることが記載され,また,図3には,ミトコンドリアと核を二重標識した細胞,及びミトコンドリアと核とチューブリンを三重標識した細胞を固定化した後,重ね合わせ処理,色彩処理を施した画像が記載されている。
エ 以上の各記載に照らせば,核,細胞質,アクチン,ミトコンドリア,小胞体,ゴルジ体等様々な細胞の部位に着色するためのベクターが市販されており(引用例6),核とミトコンドリア(引用例1,引用例6),核膜とクロマチン(引用例2)等の細胞の異なる部位に複数の蛍光タンパク質で色を付ける「多重標識」を行うことにより,細胞の様々な生理学的事象を生きたまま観察することは周知であったということができる。
したがって,審決の「2色の蛍光タンパク質を,細胞の異なる部位に標的化することで,細胞を固定化させずに,生きたままの細胞の動態を観察するという手法は周知である」との認定に誤りはない。
オ 原告の主張について
(ア) 一過性に発現している点について
原告は,引用例1の nuGFP 及び mtGFP(Y66H,Y145F)は,一過性に発現されたものであるし,引用例2で観察している有糸分裂は1時間もあれば終了するため,一過性に発現できれば十分であり,安定的に GFP を発現したとはどこにも記載はされておらず,引用例6の図2及び図3における標識は,いずれも一過的なものであり安定的に発現されるようにはなっていないことから,「生きたままの細胞の動態を観察する」という細胞のダイナミズムの観察(マルチカラーイメージング)に適するものではなく,これらを周知技術とするのは誤りであると主張する。
しかし,上記の周知例は,2色の蛍光タンパク質を,細胞の異なる部位に標的化することで,細胞を固定化させずに,生きたままの細胞の動態を観察するという手法が周知であるという周知技術を認定するに必要な限りにおいて摘示されたものであるから,本願発明における蛍光タンパク質との相違点(本願発明は,安定的にトランスフェクトされている点)をすべて充足する必要がないことは明らかである。そして,一般に「細胞の動態を観察する」とは,その字義どおり,細胞の動く様や変化を観察するという非常に広い概念であり,生体外における細胞増殖等を含むものであって,一過性に蛍光タンパク質を発現したものすべてが観察対象として不適当とはいえないから,原告の上記主張は失当である。
(イ) 引用例1について
原告は,引用例1では,「UV 領域で励起され,それぞれ緑色及び青色の光を発する」キメラが使用されているが,「コトランスフェクトしたときに,両方のタンパク質が発現し,ミトコンドリアの蛍光は,GFP と GFP(Y66H/Y145F)との中間の『アクアマリン』色を示した(図4(a)」とあり,それぞれが本来有している蛍光色は観察されないようなキメラが使用されており,このようなキメラでは,二重標識をする意味がないと主張する。
しかし,引用例1の図3においては,核とミトコンドリアの二つの構造が鮮明に解像されたことが明確に記載されており,上記周知技術が裏付けられている。原告が指摘する図4は,「第2の例」に係るものであり,ミトコンドリアに2つの蛍光タンパク質を利用したものであって,図3の例とは異なるから,原告の指摘は,上記認定を左右するものではない。
また,原告は,nuGFP が核へ移行するためにデキサメサゾン補助を必要とすることや,細胞をカバースリップ上に付着させていることなどを指摘するが,上記の周知技術の認定には関係がない。
したがって,原告の主張にはいずれも理由がない。
(ウ) 引用例2について
原告は,引用例2の図2を見ると,LBR-10C,GT-W7,H2B-ECFP を別々に観察した像(図2の(a)及び(b)の左側及び中央の写真)では,蛍光の発色は見られず,別々に撮影した結果を重ね合わせて処理した後に,はじめて赤と緑に標識されたことが分かるようになっていると主張する。
しかし,一度に励起することにより同時に赤と緑の発色を見ることができないとしても,「2色の蛍光タンパク質を,細胞の異なる部位に標的化することで,細胞を固定化させずに,生きたままの細胞の動態を観察するという手法は周知」である点に変わりがなく,当該周知技術の認定には問題がない。
また,原告は,図3では,それぞれの GFP が発した蛍光を,所定の時間ごとに別々にコマ撮り撮影しており,「生きたままの細胞の動態」のうち,有糸分裂を十分単位でコマ撮り撮影はできても,細胞の動きを連続的に捉える「マルチカラーイメージング」ができるとはいえないと主張する。
しかし,本願明細書の実施例4においても「2時間毎に,フラスコを蛍光ステレオ顕微鏡下に置き,リアルタイム像を各時点で記録した。」と記載されていることからみて,引用例2で有糸分裂を十分単位でコマ撮りすることも,本願明細書でいう「リアルタイム観察」に包含されると解されるから,細胞の動きを連続的に捕らえていなければ「生きたままの動態の観察」でないということはない。
したがって,原告の主張にはいずれも理由がない。
(エ) 引用例6について
原告は,図3は,細胞の固定化処理がなされており,また,重ね合わせ処理及び彩色処理を施さないと観察できないということは,蛍光強度が低く鮮明な観察が得られていないことを示すものであるから,引用例6には,「生きたままの細胞の動態(ダイナミズム)を観察するマルチカラーイメージング」は記載されているとはいえないと主張する。
しかし,同引用例には,「固定化や化学染色を用いずに細胞を生かしたまま,リアルタイム研究したい場合に最適です。」と記載され,「細胞生物現象の in vivo 解析を支援する新たなベクター」として紹介されているものであることからすると,細胞を固定化せず,生かしたまま観察できることが記載されていることは明らかである。確かに,引用例6の図2及び図3には固定化処理した旨の記載があるが,これは,細胞に固定化処理を施すことにより,紙面上において標識化が顕著に現れるようにしたにすぎないものと考えられ,図2及び図3の存在から,同引用例を生きたままの細胞の動態を観察するものではないと認定することはできないから,原告の主張は採用できない。
(オ) さらに,原告は,本願優先日当時の教科書,参考書等(甲38の1~4)に上記周知技術の掲載がなく,周知であったともいえないと主張する。
しかし,上記周知技術の周知性は,引用例1,2及び6によって十分に裏付けられているのであり,しかも,引用例6によれば,平成12年4月には,核,細胞膜,アクチン,ミトコンドリア,小胞体,ゴルジ体等様々な細胞の部位に,赤,緑,青,黄色等の蛍光体タンパク質で標識するためのベクターが市販されていることが認められているのだから,周知であったことは明らかである。原告の指摘する特定の文献に記載がないことは,周知性に関する判断を左右するものではなく,原告の主張は採用できない。
(3) 「引用例7,8及び10に示されるように,局在化の配列を有さない赤色蛍光タンパク質を発現させることで細胞質を染色することは周知」(a5,a7 イ)との認定について
ア 引用例7(甲7)について
(ア) 甲7には,以下の記載がある。
「今回 Living ColorsTMシリーズに加えられた新製品,DsRed2 は蛍光タンパク質の有用性をさらに拡張するレポーターです。DsRed2 はオリジナルの蛍光タンパク質(DsRed1)にいくつかの点変異を加えて改良した変異体タンパク質です。これらの変異により,タンパク質凝集の傾向が抑えられ,DsRed2 の可溶性が高められていると同時に,トランスフェクションから検出までの待ち時間もわずか24時間に短縮されています。・・・
DsRed2 は転写効率の測定や細胞内タンパク質局在の分析,試験対象のタンパク質を特異的に産生する細胞の分離などに単独で利用できます。また,DsRed2 を EGFP・・や他の GFP 変異体と組み合わせることにより,混在する細胞集団のフローサイトメトリー分析・・・や異なるプロモーターからの遺伝子発現の観察などにも使用できます。また,数種の蛍光レポーターを組み合わせて,単一の細胞内における複数の融合タンパク質の同時局在を観察することも可能です。
・・・図1は細胞質または核を標的として DsRed1を発現させた場合,細胞で凝集塊が生じることを明瞭に示しています。対照的に,DsRed2 を細胞質または核に発現させた細胞では,タンパク質の凝集はまったく確認されません。・・・
file_11.jpg図1 DsRed2 は検出可能な凝集塊を形成しません。トランスフェクションから 72 時間後にNIH3T3 細胞における DsRed1 および DsRed2 発現の顕微鏡写真を撮影しました。核局在試験ではNIH3T3 細胞に pDsRed1-Nuc または pDsRed2-Nuc をトランスフェクトし,細胞質局在試験ではNH3T3 細胞に pDsRed1-N1 または pDsRed2-N1 をトランスフェクトしています。DsRed1 を発現する核および細胞質の画像ではタンパク質の凝集が見られているのに対し,DsRed2 発現細胞の画像ではタンパク質の凝集は見られません。」
(以上,2頁)
(イ) 以上によれば,赤色蛍光タンパク質である DsRed1 又は DsRed2 を発現させるベクターにより細胞質を標識すること,及び DsRed2 を発現させるベクターが市販されていることが記載され,数種の蛍光レポーターを組み合わせて,単一の細胞内における複数の融合タンパク質の同時局在を観察することにも用いることができることが記載されている。また,細胞質局在試験において,局在化配列を有するものでないベクターpDsRed2-N1 を使用し,DsRed2 により細胞質を含めた細胞全体が赤色に標識されていることが記載されている。
イ 引用例8(甲8)について
(ア) 甲8には,以下の記載がある。
「クロンテックは新たに Discosoma の赤色蛍光タンパク質のバリアント DsRed-Express を発売します(DsRed;1)。DsRed Express は9種類のアミノ酸が置換されており,これによってトランスフェクションから赤色蛍光検出までの時間を劇的に短縮し,緑色放射のレベルを低下させています(2)。・・・
file_12.jpg図2 pCMV-DsRed-Expressをトランスフェクションして14時間後のHeLa細胞の顕微鏡写真HeLa 細胞に一時的に pCMV-DsRed-Express(#6995-1)0.7μgをトランスフェクションし,14時間生育させました。・・・」
(以上,16頁)
(イ) 以上によれば,赤色タンパク質である DsRed-Express を発現させるベクターが市販されていることが記載され,図2には, DsRed-Express を発現させて赤色に標識された細胞の画像が記載されている。
ウ 引用例10(甲10)について
(ア) 甲10には,以下の記載がある。
「クロンテックの新製品 pDsRed1-C1 Vector により,DsRed の C 末端融合タンパクの作製が可能になりました。・・・
file_13.jpg図1.DsRed1 の蛍光。HEK 293 細胞を pDsRed1-C1 で一過性にトランスフェクトした。37℃で24時間培養した後に3.7%ホルムアルデヒド(PBS 中の溶液)で細胞を固定し,・・・を用いて蛍光顕微鏡観察を行ったところ,明るい蛍光が認められた。」
(以上,20頁)
(イ) 以上のとおり,赤色蛍光タンパク質である DsRed1を発現させるベクターが市販されていることが記載され,図1には,DsRed1 を発現させて赤色に標識された細胞の画像が記載されている。
エ 以上の各文献の記載によれば,引用例7,8及び10において発現させた DsRed1,DsRed2 又は DsRed-Express は,特定のタンパク質と融合させたものではないことから,「局在化の配列を有さない(すなわち標的とするアミノ酸配列を欠く)赤色蛍光タンパク質」に相当し,また,引用例7の図1の DsRed1 又は DsRed2 を発現させた画像,及び引用例8の図2の DsRed-Express を発現させた画像は,いずれも細胞質を含んだ細胞全体を赤色に標識されていると認められ,引用例10は引用例7と同じ DsRed1 を発現させていること,しかも,引用例7の DsRed2 及び引用例10の DsRed1 をそれぞれ発現させるベクターは市販されていることが認められるから,「局在化の配列を有さない赤色蛍光タンパク質を発現させることで細胞全体を標識すること」は,当業者の周知技術であったということができる。
したがって,この点に係る審決の認定に誤りはない。
オ 原告の主張について
原告は,引用例7及び8に記載の赤色蛍光タンパク質は,本願発明の第2蛍光タンパク質のように細胞質のみに色を付けるものではないから,審決の上記周知技術の認定は誤りであると主張する。
しかし,本願発明において,第2蛍光タンパク質は,「標的とするアミノ酸配列を欠く」ものであるが,細胞質のみに色を付ける,すなわち,細胞核や他のオルガネラには色を付けないことを特定しているわけではない。また,審決で認定した周知技術は,細胞質のみを染めると限定しているものでもなく,「局在化の配列を有さない赤色蛍光タンパク質を発現させることで細胞質を染色する」手法であるから,原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,引用例10の図1は色が付いている部分が細胞のどの部分であるのか記載されていないから,引用例10には細胞質を染めることは記載されていないと主張する。
しかし,引用例10に記載の DsRed1 は,引用例7の DsRed1 と同じ局在化のための配列を有しない赤色蛍光タンパク質であるところ,標的とするアミノ酸配列を欠くものである結果,特定のオルガネラを標識するのではなく,細胞全体を標識化していることが明らかであるから,上記主張は採用できない。
さらに,原告は,引用例7,8及び10は,蛍光タンパク質を一過的に発現させたものであり,審決の上記周知技術の認定は,本願発明の「安定的にトランスフェクトされた」の文言を無視していると主張する。
しかし,前記(2)オ(ア)において述べたとおり,引用例7,8及び10は,上記の周知技術を認定するのに必要な限りで摘示されているものであり,本願発明との間に含まれる相違点をすべて包含しなければならないものではない。審決の周知技術の認定において蛍光タンパク質を安定的にトランスフェクトしたか否かを認定していないことは,当該認定自体が誤りであることの根拠となるものではなく,原告の主張は採用できない。
(4) 小括
以上によれば,審決において認定した周知の課題及び周知技術には,いずれも誤りはない。
3 容易想到性判断について
(1) 引用発明について
ア 引用例5(甲5)には,以下の記載がある。
「ヒストン-GFP 融合タンパク質は,生きている哺乳細胞中における染色体のダイナミクスの感度のよい分析を可能にする」
「背景:癌細胞における癌遺伝子の増幅は,しばしば,対になった無動原体染色体(二重微小染色体(DMs)と呼ばれる)によってメディエートされる。DMs は,細胞周期におけるDNA合成期の間の自律的複製と,有糸分裂の間の娘細胞への不均等な分配とのために,高コピー数になることがある。DM分離を制御する機構を調査することは難しいが,生細胞中での DMs の直接可視化は,それらが正常な染色体よりも非常に小さいためにできなかった。我々は,生細胞中における染色体のダイナミクスを観察するための高感度の方法を開発することによって,DMsを可視化した。
結果:ヒトヒストンH2B遺伝子をオワンクラゲ(Aequorea victoria)の緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子と融合させ,ヒト HeLa 細胞中にトランスフェクトして構造的に H2B-GFPを発現する安定な株を作製した。H2B-GFP 融合タンパク質は,細胞周期の進行に影響を与えることなく,ヌクレオソーム中に取り込まれた。共焦点顕微鏡の使用により,H2B-GFP が,分裂期染色体及び間期染色体の両方の高解像度画像化が可能となり,間期クロマチンの高解像度像は,生細胞中における様々なクロマチンの凝集状態を明らかにした。H2B-GFP を使用することによって,我々は,生癌細胞中における DMs を直接観察;DMs がしばしば後期にクラスターを形成すること,及び分離された娘細胞の間に染色体の「橋」を形成することを観察した。細胞分裂は,DMs を娘細胞中へ不均等に分配しながら,DM 橋を切断した。
結論:H2B-GFP系は,核及び染色体の構造を含むことなく,DMs を含めた染色体の高解像度の画像化を可能にし,有糸分裂中の細胞における DMs の独特のクラスタリング挙動(娘細胞中への非対称な分布への関与)を明らかにした。」
(以上,1頁)
「結果
HeLa 細胞中での H2B-GFP の安定な発現
ヒトの H2B をコードしている cDNA は,そのカルボキシ末端にコドン最適化された,増強されたGFPをコードする DNA をタグ付けし[18](図1),キメラ遺伝子を哺乳類の発現ベクター中にサブクローニングした。構築物は一過性の形質転換によってヒトの HeLa 細胞株へ導入した。蛍光顕微鏡の観察により,H2B-GFP タンパク質は間期の核と有糸分裂染色体(データ非掲載)とに局在していることが示された。細胞周期の進行における構成的な H2B-GFP 発現の効果を分析するために,我々は,HeLa 細胞に形質導入を行い,薬剤(ブラスチシジン)選択の下でそれらを培養し,H2B-GFP 導入遺伝子を安定して発現するクローンを得た。ブラスチシジン耐性コロニーの約 10%がGFP 陽性コロニーとなっていたが,他のコロニー(~約 90%)は,理由は不明であるが,GFP 陰性であった。我々は,H2B-GFP を発現するいくつかの安定な細胞株を得た。H2B-GFP を均一かつ高レベルに発現する細胞株を,さらなる分析によって選択した(図2)。この細胞株における H2B-GFP の発現レベルは,継続的なブラスチシジン選択を行わなくとも,3か月以上安定であった。選択なしで組み込まれた H2B-GFP 遺伝子の高度な安定は,構成的なH2B-GFP の発現によって染色体の安定が損なわれていないことを強く示唆していた。この細胞株の分裂指数と増殖速度は親の HeLa 細胞のそれらと似ていた(データ非掲載)。我々はまた,アミノ末端で GFP と融合した H2B の融合タンパク質を安定して発現する細胞株を使用し,本質的に同じ結果を得た(データ非掲載)。」(2~3頁)
「H2B-GFP は生きた細胞の染色体を彩る
H2B-GFP 発現細胞を,共焦点顕微鏡で観察し,間期及び有糸分裂におけるクロマチンの染色パターンを決定した。図5に示されるように,H2B-GFP により,細胞周期の全てのフェーズにおいて,クロマチンの高感度検出が可能となった。細胞内構造の人工的な破壊を引き起こしかねない細胞の固定及び膜透過処理は,そのような像を得るためには不要であった。細胞質において蛍光が全く観察されなかったように,H2B-GFP は,核クロマチンに対して非常に特異的であった。
さらに,H2B-GFP は,驚くべきレベルの感度を提供した。例えば,セントロメアのくびれ(constriction)を有するラギング娘クロマチドの対と思われるクロマチン構造が,容易に観察された(図5e)。H2B-GFPで可視化された間期の核における小さな核内クロマチン構造は,4’,6'-ジアミノ-2-フェニルインドール(DAPI)染色によって得られた固定された核について,以前に報告された・・・。H2B-GFP発現細胞の染色体スプレッドもまた,GFP の蛍光パターンがDAPIを用いて得られたパターンと同一であることを示した(図5i,j)。
我々は,H2B-GFP で濃く染色された核周辺領域が,間期の核内での染色体中心と似ていることも観察した(図5a)。すでに報告された染色体中心の特徴は,それらがヘテロクロマチン様であり,しばしばセントロメアを含むということである[21,22]。セントロメア抗体と H2B-GFPとによる二重染色により,濃く H2B-GFP で染色されたある領域は多数のセントロメアを含むことが示された(図6)。この結果から,H2B-GFP 染色及び DAPI 染色の一致と関連して(図 5i,j),我々は,H2B-GFP 染色が核内の異なる領域中の DNA の詰め込みの密度を反映しているという結論に達した。こうして,固定された細胞中でしか以前は試験されなかった染色体のドメインが,生きている細胞中で,H2B-GFP を用いてモニターされた。
我々は,生細胞における DMs の分析に,我々の高感度 H2B-GFP クロマチン標識技術を応用した。・・・我々は,共焦点顕微鏡を使用して,H2B-GFP を発現している COLO320DM 生細胞のシリアルセクショニング像(試料の断片と顕微鏡観察を繰り返して,得られた画像から構築された三次元画像)を撮像した。我々は,小さな蛍光の点がしばしば有糸分裂細胞中で観察されることに気付いた(図7a,b)。・・・
これらの点様クロマチンが DMs であることを確認するために,有糸分裂期の COLO320DM 細胞をコルセミド処理なしで固定し,DM 分布を c-myc コスミドプローブを用いた蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)で分析した。コルセミド処理した細胞の染色体では,DMs は通常分散されていた(図7c)が,未処理の有糸分裂期の細胞中では DMs はクラスターを形成していることが観察された(図7d,e)。・・・これらの結果は,上記の生細胞中で観察された点様クロマチンが DMs であることを強く示唆した。我々は,観察された有糸分裂細胞の多くが,細胞によって個数にばらつきがあるものの,DMs のクラスターを含んでいることを見出した。約30%の後期の細胞が,DMs を含む架橋形成を示した。このため,我々は,DMs のクラスター形成と,分裂中の娘細胞中でのそれらのアンバランスな分配は,この細胞系では非常に普通に起こるイベントであると結論付けた。」(4~5頁)
「議論
我々は,生きている細胞中において蛍光標識した染色体に対する新規な戦略を記載し,この戦略をうまく応用して生きている細胞中における DMsを観察した。・・・
本稿に記載した戦略は,他のクロマチン標識法を超える有意な利点を提供する。生きている細胞中における哺乳の染色体の蛍光標識はヘキスト 33342 で示された・・・Hoechst33342 は,ほぼ350nm付近で最大に励起され,高い紫外線(UV)照射強度によって細胞が傷害され,細胞周期が遅れるか止まるため,UV励起のレベルを注意深く制御しなければならない。加えて,ヘキスト 33342 は,細胞周期の進行に影響を与え,G2期で細胞を停止させる〔29〕。・・・この方法と対照的に,この研究で用いられた増強された GFP[18]は,青色光(490nm)で励起され,ヘキストで要求される UV 光励起よりもダメージが少ない。さらに,統合された導入遺伝子からの H2B-GFP の構成的な発現は,細胞周期の進行を乱すことなく,長時間の分析を可能にした(図4)。・・・
この報告で記載した H2B-GFP の戦略には,染色体のダイナミクスを研究するための広範な応用がある。例えば,トランスフェクションマーカーとして使用し,蛍光顕微鏡を使用して有糸分裂細胞の同定を可能にした。・・・本方法は,生きている細胞中におけるクロマチンの断片化及び過剰凝集の可視化を可能にすることによる,アポトーシスのリアルタイム分析,及び腫瘍の進行中の染色体の安定性に対する癌遺伝子の効果の研究に,特に有用であるかもしれない[31]。」(5~6頁)
「結論
我々は,ヒストン H2B と GFP との融合タンパク質を用いる,生きている細胞中におけるクロマチンの標識のための新規な系を確立した。この H2B-GFP 系は,DMs を含む染色体を,細胞周期の制御又は細胞内の構造を乱すことなく高い解像度で撮像することを可能にする。この系の応用は,生きている有糸分裂細胞中における DMs の特徴的なクラスター形成の挙動を明らかにした。我々は,DM のクラスター形成が娘細胞中へのそれらの非対照な分配に至る重要なファクターであるということを提案する。」(7頁)
「
file_14.jpg239aa GFP図 1 H2B–GFP キメラタンパク質。 H2B タンパク質の C 末端に GFP でタグ付けした;各領域の長さ,及び H2B と GFP との間のジャンクションの長さは,アミノ酸(a. a)長で示す。融合タンパク質のアミノ末端(N)及びカルボキシ末端(C)を示す。
file_15.jpg図 2 H2B–GFP を発現している細胞。構成的に H2B–GFP を発現している,生きている HeLa 細胞の共焦点顕微鏡画像;GFP の蛍光(緑色)を,微分干渉顕微鏡像に重ねた。この図は,H2B-GFP が細胞周期の全てのフェーズで非常に効率よく検出されたこと,及び H2B-GFP が 1 つの核を含んでいたことを示す。スケールバーは 25μm。」(9頁)
file_16.jpg「図 5 H2B-GFP タンパク質の局在化。(a-h)さまざまな細胞周期の段階において H2B-GFP を発現している,生きている HeLa 細胞の共焦点顕微鏡像。(a,c,e,g)GFP の蛍光と,(b,d,g,h)対応する微分干渉コントラスト像は,(a,b)間期と,(c,d)前期と,(e,f)中期と,(g,h)後期の細胞を示している。H2B-GFP の核周辺領域の濃く着色された領域を,(a)において矢印の頭で示す。セントロメアの狭窄を有するラギング姉妹染色体を,(e)の矢印で示す。スケールバーは 10μm である。H2B-GFP を発現している HeLa 細胞の(i)GFP の局在,(j)固定された染色体の広がりの DAPI 染色。
file_17.jpg図6 H2B-GFP で濃く着色された核周辺領域には,多数のセントロメア(動原体)がある。H2B-GFPを発現している HeLa 細胞中におけるセントロメアの立体画像。セントロメアは,ヒト抗セントロメア抗血清を用いた免疫染色によって検出された。セントロメアの局在(赤)及びH2B–GFP(緑)を示す。核周辺領域のヘテロクロマチンドメインを,矢印の頭で示す。スケールバーは 10μm。
file_18.jpg図7 後期細胞中の DMs クラスター。
(a,b) H2B–GFPを発現している,生きている COLO320DM 細胞の立体画像。クラスター化した点様のクロマチン本体 (矢印の頭で示す) と分離している娘染色体を,GFP の蛍光(緑色)で可視化した。スケールバーは 5μm。
(c) DMs を,ビオチン化 c-myc コスミドプローブ及びフルオレセイン-イソチオシアネート-アビジンを用いた in situ ハイブリダイゼーション(FISH)で,蛍光によって,コルセミド処理した COLO320DM 細胞の間期スプレッド(metaphase spread,訳者注:間期細胞分裂で,染色体が赤道板状に並んだ時期間期の拡散)で検出した。染色体を,PI で対比染色した。
(d,e) 同調せずに生長している COLO320DM を,コルセミド処理(訳者注:コルセミドによって細胞周期を M 期で停止させ,M 期の細胞数を増加させる処理。処理時間が長いと染色体が縮んで解析ができなくなる。)せずに,チャンバースライドグラス上に直接固定し,c-myc コスミドプローブで FISH 分析した。クラスター化した DMs (矢印の頭)及び分離している娘染色体(PI 染色;赤色)を示す。蛍光画像は,落射蛍光顕微鏡で撮像した。」(12~13頁)
イ 以上によれば,引用例5には,引用発明に関して,以下のように記載されている。
従来,無動原体染色体(二重微小染色体(DMs))のような非常に小さいものについて,生細胞内で直接可視化することはできなかったことから,生細胞中における染色体のダイナミクスを観察するために高感度の方法を開発することが望まれていた。そこで,引用発明は,生きている細胞中において染色体を蛍光タンパク質で標識する新規な手段として,ヒストン H2B とオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質(H2B-GFP)を安定して発現する HeLa 細胞株を樹立した。これにより,引用発明においては,当該 HeLa 細胞株を用いて,DMs を含む染色体を細胞周期の制御又は細胞内の構造を乱すことなく高い解像度で撮像することができ,生細胞中における様々なクロマチンの凝縮状態を明らかにするという効果を奏する。当該HeLa 細胞株は,染色体のダイナミクスを研究するために,アポトーシスのリアルタイム分析など広範に応用することができる。
(2) 引用発明からの容易想到性について
原告は,引用例5においては,細胞全体の形状を観察することは想定されておらず,細胞全体の形状を更に観察しやすくするという必要性がないから,細胞全体の形状を更に観察する目的で,細胞質を何らかの手段で可視化しようとする動機付けがない旨主張する。
しかし,引用例5には,上記のとおり,生きている細胞中において染色体を蛍光標識する新規な手段である,H2B-GFP を安定的に産生する HeLa 細胞株を樹立したとの発明が開示されている。そして,当該生細胞を用いて,図7等において主に DMsを観察することが記載されているが,他にも,図5において有糸分裂の細胞周期における染色体全体の様子を観察することや,アポトーシスのリアルタイム分析等の「染色体のダイナミクスを研究するための広範な応用」ができることも記載されている。この引用例5において,蛍光タンパク質による識別化がなされたのは,クロマチンのみであるが,図5には,GFP の蛍光(a,c,e,g)にそれぞれ対応する微分干渉コントラスト像(b,d,g,h)が示されているほか,図6には,セントロメアがヒト抗セントロメア抗血清を用いた免疫染色によって赤色に着色された様子が示されているように,当業者が,染色体のダイナミクスを観察するに際して,染色体のみを着色して観察するだけではなく,その一部分を別の色で着色したり,別の方法で撮像したりするなど,様々な方法を用いて,その動態を把握したいと考えるのは極めて自然に想起されることである。
そして,前記2(2)のとおり,蛍光タンパク質を用いて細胞を観察するに当たり,本件優先日当時,核,細胞質,アクチン,ミトコンドリア,小胞体,ゴルジ体等の様々な細胞の部位に色つけるためのベクターが市販されており(引用例6),核とミトコンドリア(引用例1,引用例6),核膜とクロマチン(引用例2)等の細胞の異なる部位に複数の蛍光タンパク質で色を付ける「多重標識」を行うことにより,細胞の様々な生理学的事象を生きたまま観察することは周知であった。
そうすると,引用例5の記載に接した当業者であれば,H2B-GFP を安定的に産生する生細胞を用いて,染色体の様々なダイナミクスを観察する際に「多重標識」を行う,すなわち,染色体を標識する緑色の H2B-GFP に加えて,他の色の蛍光タンパク質を細胞の適当な部位に発現させることは,容易に試みることであるといえる。
一方,前記2(1)のとおり,細胞核と細胞質を異なる色として様々な目的で細胞を観察することは一般的であり,また,前記2(3)のとおり,細胞質に色を付けるための手段として,標的化アミノ酸配列を有さない赤色蛍光タンパク質である DsRed 変異体を発現させるためのベクターが市販され(引用例7,8及び10),細胞質を含めて細胞全体を赤色蛍光タンパク質で標識することは周知となっており,特に引用例7には多重標識への応用も記載されている。
そうすると,引用発明の生細胞を「多重標識」するに当たり,細胞核を標的とする緑色蛍光タンパク質である H2B-GFP に加えて,かかる周知の標的化配列を有しない赤色蛍光タンパク質 DsRed 変異体を発現させることにより,細胞質と細胞核を異なる色で多重標識することは,当業者が容易に想到することができたものといえる。
そして,実験プロトコールを開示する乙11によれば,蛍光タンパク質を安定的に発現させるか否かは,その使用目的との関係で,適宜選択できるものであるところ,引用発明の生細胞においては H2B-GFP を安定的に発現させるようにしており,生細胞における染色体の様々なダイナミズムを核と同時に観察しようとすれば,赤色蛍光タンパク質についても安定的に発現させることは,当業者が当然に行う技術的事項にすぎない。そして,本願明細書に「蛍光タンパク質を産生する形質転換細胞を得るための方法は,現在当技術分野で周知である。」(【0025】)と記載されていることや,引用例7の DsRed 変異体のトランスフェクト方法から,安定的に発現している生細胞を得ていることが窺われることに照らすと,DsRed 変異体を,H2B-GFP と同様に安定的に発現させた生細胞とすることには,格別の困難性はないといえる。
以上によれば,本願発明は,引用発明及び上記の周知技術に基づいて,相違点に係る構成を容易に発明することができたものである。
そして,本願発明の効果は,引用発明に相違点に係る構成を組み合わせることにより当然に予測可能なものにすぎず,当業者が予測できない格別の効果が導かれるものではない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,染色体を GFP で緑色に蛍光標識し,細胞質を赤色で蛍光標識すると,染色体の背景が黒ではなく赤色となり,小さな DMs の観察が非常に難しくなるから,細胞質を蛍光標識することは DMs を観察する上での阻害要因となる旨主張する。
しかし,上記に認定したとおり,引用発明は,DMs のみを観察するものではなく,アポトーシスのリアルタイム分析等の染色体の様々なダイナミクスの観察に応用できるものであるから,DMs の観察に支障が生じることが直ちに阻害要因となるとはいえない。また,蛍光観察は,励起波長等の調整により,観察したい分子のみを選択的に見ることができるものであり,バックグラウンドを黒にすることも可能であるから(乙13参照),DMs のみを観察することも容易であり,常に阻害要因が生じるとはいえない。
したがって,原告の主張は採用できない。
イ 原告は,引用例5において,核孔を通過できる引用例7と引用例8に記載の蛍光タンパク質を用いると,核内の第1の蛍光タンパク質の蛍光強度が十分でない限り,第1蛍光タンパク質で標識された核を観察することはできないから,細胞核を第1の蛍光タンパク質で標識し,細胞質のみを第2の蛍光タンパク質で標識するという本願発明は,容易になし得るものではない旨を主張する。
しかし,そもそも「細胞質のみを第2の蛍光タンパク質で標識する」ことは本願発明の発明特定事項ではない。本願発明の第2の蛍光タンパク質と引用例7,8及び10に記載の DsRed 変異体は,ともに「標的とするアミノ酸配列を欠く」点で同じであり,本願発明の第2の蛍光タンパク質は,核孔を通過しないとは特定されていないため,細胞核に第1と第2の蛍光タンパク質が共存する場合も含まれる。
よって,上記原告の主張は,本願発明の発明特定事項に基づかない主張であり,その根拠を欠く。
ウ 原告は,本願明細書には,本願発明の生細胞を用いると,「様々な薬剤が細胞周期に及ぼす効果を観察でき,そこから得られる情報が細胞核と細胞質を別々に標識することによって増大する」,「生存および様々な細胞周期のステージを経ている間の細胞を観察できる」,「アポトーシスでのリアルタイムでの視覚化ができる」という優れた効果を奏し,甲48~50に示されているように,細胞質のみならず細胞核までもが,組織の中や血管内でドラスティックに変形していることが分かるのであり,蛍光色素で染色した細胞等ではこのような状態を見ることは決してできないなどと主張する。
しかし,上記主張は,いずれも,「異なる波長で可視光を放出する」,「細胞核を標的とする第1蛍光タンパク質と標的とするアミノ酸配列を欠く第2蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクト」したことに付随するものであり,この効果は,引用発明に相違点に係る構成を組み合わせることにより,当業者が予測可能なものにすぎない。この点,原告は,「細胞の増殖のモニタリング」と「細胞の生涯のモニタリング」とは異なると主張するが,ある細胞が数回の細胞分裂を繰り返し,最終的にはアポトーシスを起こして死滅するまでの過程を観察するという「細胞の生涯のモニタリング」が可能となるのは,一過性ではなく,安定的にトランスフェクトしたことによるものであるから,やはり,上記の組合せから予測可能であって,顕著な効果と見ることはできない。
さらに,生体内(マウス等の生存動物中の細胞)においても,細胞周期位置の特定やアポトーシス過程などを含む細胞核-細胞質ダイナミクスのリアルタイム観察を行うことができるとの点については,同時観察が可能かどうかは,当該蛍光タンパク質の観察に必要となる励起光の波長やフィルターによって異なるものと解されるところ,本願明細書中の請求項5である本願発明は,蛍光タンパク質の種類を何ら特定するものではないから,上記の点が本願発明の顕著な効果であるということはできない。
その他,原告は縷々主張するが,上記の主張を含めて取消事由を理由付けるものではないか,又は上記認定に反するものであるから,いずれも採用することができない。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由には理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)