知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10230号 判決 2014年2月26日
原告
X
原告補助参加人
Z
被告
特許庁長官
指定代理人
内藤順子
内山進
堀内仁子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用中,補助参加によって生じた費用は原告補助参加人の,その余の部分は原告の各負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が不服2009-16036号事件について平成25年6月20日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,商標登録出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,①引用商標との同一性又は類似性(商標法4条1項11号)及び②審判における手続違反の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 商標登録出願
原告は,平成20年6月10日,下記本願商標につき商標登録出願(商願2008-50378号)をした。
(2) 拒絶理由通知
審査官は,平成20年11月21日,原告に対し,次の拒絶理由を通知した。
① 本願商標は,商標法4条1項16号に該当する。
② 本願商標は,下記引用商標と同一又は類似であって,引用商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法4条1項11号に該当する。
(3) 拒絶査定
審査官は,平成21年5月15日,上記①の理由に基づき,拒絶査定をした。
(4) 審判
原告は,平成21年8月12日,上記拒絶査定に対する不服の審判請求をした(不服2009-16036号)。
特許庁は,平成25年6月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月14日に原告に送達された。
(以上につき,甲13,14,16,17)
【本願商標】
「 桃苺 」(標準文字)
指定商品
第31類 いちご
2 審決の理由の要点
【引用商標】
「file_2.jpg」
① 登録番号 第4323578号
② 出願日 平成10年4月10日
③ 登録日 平成11年10月8日
④ 商品及び役務の区分並びに指定商品
第31類 いちご
(1) 商標の同一性又は類似性
本願商標は,それぞれ果実の一種を指称する漢字として親しまれている「桃」と「苺」の各文字からなるものと容易に理解されるものであるから,構成文字に相応して「モモイチゴ(.....)」の称呼を生じ,「桃と苺」程の意味合いを想起させる。
引用商標を構成全体として一体不可分とすべき特段の事情は認められず,上段の「ももいちご」の文字部分も独立して自他商品識別機能を有するものであり,「モモイチゴ(.....)」の称呼を生じ,「桃と苺」程の意味合いを想起させる。
そうすると,本願商標と引用商標とは,外観上相違する点があるとしても,「モモイチゴ(.....)」の称呼及び「桃と苺」の観念を共通にするものであるから,両者は,相紛れるおそれのある類似の商標である。
(2) 指定商品の同一性又は類似性
本願商標の指定商品は,引用商標の指定商品と同一のものである。
(3) 審決判断まとめ
以上から,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する。
第3原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用商標の認定誤り)
引用商標の上段の「ももいちご」は,下段の「百壱五」の7割程度の大きさであるから,「百壱五」に振られたルビにすぎず,引用商標は,「ももいちご」というルビの振られた「百壱五」との商標である。したがって,引用商標は,全体が不可分一体となっているか又はその要部を下段の「百壱五」とみるべきであり,引用商標から生じる観念は,100,1,5といったものであり,桃や苺ではない。
2 取消事由2(本願商標の認定誤り)
① 本願商標は,奈良県で使用されていたことのある「大和桃苺」との苺に係る商標を参考に,原告方で生産している苺の登録品種「あかねっ娘」のブランド名として,海外の漢字語圏国でも通用するような音読みの「ト-マイ(....)」と読む商標として考案されたものである。「桃苺」に「モモイチゴ(.....)」という称呼が発生するとしても,「ト-マイ(....)」との称呼も生じない理由はない。今後,海外輸出が活発になれば,「ト-マイ(....)」との称呼しか生じないことになる。原告は,「桃苺」の文字を含む商願2009-04396号に係る商標に「TOMAI」を付す補正をし(甲30),また,原告方のホームページでも同商標は「TOMAI」を付す態様で用いられているから(甲24),本願商標は「ト-マイ(....)」と読まれる。
② 「苺」を「マイ(..)」と読むことは国民の間にも十分に浸透して親しまれており,「桃源(トウゲン(....))」「桃李(トウリ(...))」「桃花(トウカ(...))」「白桃(ハクトウ(....))」など(乙3)のように,「桃」は他の漢字と組み合わされて熟語となった場合,「トウ(..)」と読むのが普通である。
3 取消事由3(手続違反)
上記第2,1(2)の拒絶理由の①と②とは,本願商標の自他識別能力の捉え方が排斥関係に立っているから,拒絶査定が同①の理由でされた以上,同②の理由は否定され,結局,拒絶理由としては発見されなかったことになる。したがって,本件審判で同②の理由を取り上げることは,新たな拒絶理由の発見に当たるところ,それまでの間(審判請求は平成21年8月12日)に商標法16条,商標法施行令2条1項に定める1年6月の期間が経過しているから,同②の理由で審決が拒絶査定を維持することは違法である。
第4被告の反論
1 取消事由1(引用商標の認定誤り)に対して
引用商標の構成は,上下二段に異なる文字種でいずれも大きく顕著に表され,かつ,「ももいちご」及び「百壱五」は,「桃と苺」及び「百と一と五」という明らかに異なる意味合いを理解させるものであって両者に観念的なつながりはないのであるから,「ももいちご」と「百壱五」は,それぞれ,独立して自他商品識別標識としての機能を有する。
したがって,引用商標の構成中の「ももいちご」が,「百壱五」のルビであるということはできない。
2 取消事由2(本願商標の認定誤り)に対して
① 商標の類否判断は,対比される商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきである。したがって,商標の称呼は,これを採択した者の主観によって定められるべきものではなく,一般取引社会の通念に従って客観的に定めるべきである。
② 本願商標の構成各文字は,いずれも,「モモ(..)」及び「イチゴ(...)」と読まれて親しまれているものである。また,「苺」には,「マイ..()」と読む一般的に親しまれた語は見当たらず,熟語を成す場合でも,「木苺(キイチゴ(....))」「野苺(ノイチゴ(....))」「蛇苺(ヘビイチゴ(.....))」など(乙7~10)のように,「イチゴ(...)」と読む場合の多い漢字である。そうすると,本願商標は,その構成各文字について親しまれた読みに照らして,「モモイチゴ(.....)」と称呼されるとみるのが,極めて自然である。
一方,「桃苺」の文字が「トーマイ(....)」と称呼されて,その指定商品の取引者・需要者に広く知られているというような事情を理解することはできない。
したがって,本願商標から生ずる自然な称呼は,「モモイチゴ(.....)」である。
3 取消事由3(手続違反)に対して
審査官は,通知した複数の拒絶理由のうち,いずれか一の理由が商標法15条の拒絶事由に該当すれば拒絶査定をすることを妨げられないから,拒絶査定の理由に記載されていなかったその他の拒絶理由について,当然にその理由が解消されたことになるものではない。
そして,審査手続と審判手続とは,出願から登録又は拒絶査定の確定に至るまでの手続として継続性を有し(商標法56条,特許法158条参照),審査において通知した商標法4条1項11号に該当する拒絶理由は,本件審判においても,なお効力を有する。審判手続でされた審尋は,原告に対し,商標法4条1項11号に該当する旨の拒絶理由について意見を述べる機会を与えたものにすぎない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(引用商標の認定誤り)について
引用商標は,「ももいちご」との平仮名及び「百壱五」との漢字を,二段に横書きしてなるものであり,平仮名1文字は漢字1文字の約7割の大きさであるが,上段の平仮名5文字部分と下段の漢字3文字部分の左右の幅は同一であり,外観上,平仮名部分と漢字部分のどちらか一方のみが強い印象を与えるものではない。そして,引用商標の指定商品が「いちご」であることをも考慮すると,その一般取引者・需要者は,「百壱五」の漢字を「ももいちご」の平仮名に対する当て字として構成されたものと認識することが多いと考えられ,そうである以上,両者は一体的に把握され,「ももいちご」の平仮名から「モモイチゴ(.....)」の称呼を生じるものと認められる。また,「もも」と「いちご」が,いずれも広く親しまれている果実であることから,引用商標に接する者は,「モモイチゴ(.....)」の称呼に応じて,桃と苺の観念を生じることが明らかである(この桃と苺の観念の組合せから,引用商標は,指定商品との関係において,桃のような苺,桃色の苺などの観念を更に生じさせるものと認められる。)。
ただし,引用商標は,「ももいちご」と「百壱五」とが不可分一体に結合しているとまではいえないから,両者を個別に自他識別標章として把握することも可能であると解され,上段の「ももいちご」の平仮名からは,「モモイチゴ(.....)」の称呼を生じ,桃と苺の観念を生じるものと認められる。これに対し,「百壱五」の漢字は,平仮名の当て字ではあるものの,一応,「ヒャクイチゴ(......)」の称呼が生じ,数字の100,1,5,又は115のような観念が生じるものと認められる。
原告は,引用商標は,全体が不可分一体となっているか又はその要部を下段の「百壱五」とみるべきであり,桃や苺の観念は生じないと主張する。しかしながら,「百壱五」のみが引用商標の要部とはいえないこと,及び引用商標から「モモイチゴ(.....)」の称呼を生じ,桃と苺の観念を生じることは,上記説示に照らして明らかであり,原告の主張は,採用することができない。
以上から,いずれにしても審決の引用商標の認定に誤りがあったとはいえず,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願商標の認定誤り)について
本願商標は,「桃苺」の漢字を標準文字で表してなるものである。
「桃苺」なる語が一般の辞書に収録されているなど熟語として確立していること又は社会一般に広く知られていることをうかがわせるに足りる証拠はないから,一般取引者・需要者には,「桃 苺」として,果実の「桃」と「苺」とを組み合わせた構成であると理解される。そして,「桃」と「苺」がいずれも広く親しまれた漢字であり,また,桃と苺がいずれも広く親しまれている果実であることから,「桃苺」からは「モモイチゴ(.....)」との称呼を生じ(そのこと自体は原告も否定していない。),少なくとも桃と苺の観念を生じることは明らかである(この桃と苺の観念の組合せから,本願商標は,指定商品との関係において,桃のような苺,桃色の苺などの観念を更に生じさせる。)。
原告は,本願商標が「トーマイ(....)」と称呼される旨を主張し,原告が,本願商標を「トーマイ(....)」と読む商標として考案し,「桃苺」を実際に「トーマイ(....)」と称呼していたなどと述べるが,仮にそのような事実が認められるとしても,原告自身に係る極めて主観的な事情にすぎず,本願商標に接した一般の取引者・需要者が,本願商標を「トーマイ(....)」とのみ称呼し,「モモイチゴ(.....)」とのごく自然な称呼をしないなどといえないことは,上記説示のとおりであり,その主張は失当である。
また,原告は,「苺」を「マイ(..)」と読むこと及び「桃」が他の漢字と組み合わされて熟語となった場合に「トウ(..)」と読むことは,いずれも普通であると主張するところ,そのような称呼が生じる場合があることは否定できないが,「苺」を「イチゴ(...)」と称呼すること及び「桃」を「モモ(..)」と称呼する(例えば,「桃色」は「モモイロ(....)」と称呼される。)ことよりも一般的であるとは到底認められないから,原告の主張は採用できない。
以上から,いずれにしても審決の引用商標の認定には誤りがあったとはいえず,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(手続違反)について
本願商標の登録出願は,上記第2の1(1)(2)に認定のとおり,平成20年6月10日になされているところ,審査官は,その1年6か月以内の同年11月21日までに,本願商標が引用商標と同一又は類似であって引用商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法4条1項11号に該当する,との拒絶理由を発見しており,本件審決はこれと同一の理由に基づくものであるから,審決に商標法16条に反する違法があるとする余地はない。
原告は,事実上・法律上排斥関係にある複数の理由の一方を採用した場合には,他は撤回されたことになるとの趣旨を主張する。しかしながら,商標法4条1項11号(他の登録商標との類似)と同条同項16号(品質等の誤認のおそれ)とが互いに排斥関係にあるとするのは,原告の独自の見解にすぎない上,拒絶査定において拒絶理由通知に示した理由の一つを記載した場合に,他に示された理由を撤回したこととなるわけではないから,原告の上記主張は,いずれにしても失当である。
以上から,取消事由3は理由がない。
4 小括
以上のとおり,本願商標と引用商標とは,その全体として称呼・観念を全く共通にするものであり,本願商標と引用商標との文字としての外観上の差異を考慮するとしても,上記共通点を凌駕するにはほど遠いから,両商標は,類似する商標である。この点についても,審決の判断に誤りはない。
そのほか,原告がるる主張するところも,すべて失当である。
したがって,審決の認定判断及び審判手続には,誤りはない。
第6結論
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)