知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10249号 判決 2014年4月24日
原告
X
訴訟代理人弁理士
松田真
同
慶田晴彦
同
太田恵一
被告
特許庁長官
指定代理人
仲間晃
同
浜岸広明
同
稲葉和生
同
小林大介
同
内山進
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2011-21850号事件について平成25年4月9日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。)
原告は,発明の名称を「ウェブ上の情報源およびサービスにアクセスする方法および装置」とする発明につき,平成12年12月29日を国際出願日とする特許出願(特願2001-550631号。パリ条約に基づく優先権主張・平成11年12月30日(以下「優先日」という。),フランス国。以下「本願」という。)をした。原告は,平成22年9月13日付けで拒絶理由の通知を受けたので,平成23年3月18日付けの手続補正書により,特許請求の範囲の補正をした。原告は,同年5月31日付けで拒絶の査定を受け,同年10月7日,拒絶査定に対する不服の審判(不服2011-21850号)を請求するとともに,同日付けの手続補正書により,特許請求の範囲の補正をした(この補正後の明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)。
特許庁は,平成25年4月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年5月8日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲の記載(甲8)
補正後の本願の特許請求の範囲(請求項の数11)の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。)。
「通信ネットワークを介してインターネットに接続された通信装置からウェブ上の情報源およびサービスにアクセスする方法であって:
-ツリー状メニュー構造の中に構築され前記通信装置の中にローカル的に予め記憶された複数の選択ページ(各選択ページは1組のアイコンを有する)のうちの一の選択ページを表示する一以上の段階と,
-表示中の選択ページ内の一のアイコンの選択に応じて,選択された当該アイコンに対応する情報源のアドレスを通信ネットワークに発信する段階,とを包含し,
その特徴は,各選択ページ毎に,前記1組のアイコンは遠隔情報源に直接アクセスするための一以上のアイコン,および,前記ツリー状メニュー構造の中の他の選択ページにローカル的にアクセスするための一以上の選択用アイコンを有し,
前記遠隔情報源は表示段階および選択段階の際にローカル的に生成されたアドレスを有することからなる方法。」
3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平11-259496号公報(甲1。以下「引用文献」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(1) 引用発明の内容
「各ユーザ端末にセットアップされているブラウザから,LAN回線およびルータを経由しインターネット上のホームページに容易にアクセスする方法であって,
ホームページのURLを登録したブックマークファイルをブラウザに表示し,前記URLを呼び出してホームページにアクセスすることを含む,方法。」
(2) 一致点
「通信ネットワークを介してインターネットに接続された通信装置からウェブ上の情報源およびサービスにアクセスする方法であって:
-前記通信装置の中にローカル的に予め記憶された選択用表示情報(選択用表示情報は1組の情報アクセスのための表示を有する)を表示する一以上の段階と,
-表示中の選択用表示情報内の一の情報アクセスのための表示の選択に応じて,選択された当該情報アクセスのための表示に対応する情報源のアドレスを通信ネットワークに発信する段階,
とを包含することからなる方法。」
(3) 相違点
ア 相違点1
「選択用表示情報について,本願発明が,「ツリー状メニュー構造の中に構築」された「複数」の「選択ページ」としているのに対し,引用発明は,「ブックマークファイル」に関し,そのような構成となっていない点。」
イ 相違点2
「選択用表示情報の表示方法について,本願発明が,ツリー状メニュー構造の中に構築された複数の選択ページの「うちの一」の選択ページを表示することとしているのに対し,引用発明は,表示方法について明りょうでない点。」
ウ 相違点3
「選択用表示情報中の情報アクセスのための表示について,本願発明が,「アイコン」であるのに対し,引用発明は,具体的に言及されていない点。」
エ 相違点4
「選択用表示情報の特徴について,本願発明が,各選択ページ毎に,「前記1組のアイコンは遠隔情報源に直接アクセスするための一以上のアイコン,および,前記ツリー状メニュー構造の中の他の選択ページにローカル的にアクセスするための一以上の選択用アイコンを有」することとしているのに対し,引用発明は,そのような構成となっていない点。」
オ 相違点5
「本願発明が「遠隔情報源は表示段階および選択段階の際にローカル的に生成されたアドレスを有する」としているのに対し,引用発明は,そのような構成になっていない点。」
第3原告主張の取消事由
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)
(1) 特許庁審査基準の「第Ⅱ部特許要件 第2章新規性・進歩性」の「2.4進歩性判断の基本的な考え方」の(2)には,「具体的には,請求項に係る発明及び引用発明(一又は複数)を認定した後,論理付けに最も適した一の引用発明を選び,」と記載されている。
しかし,審決は,引用文献【0003】に記載された「引用文献から見た従来技術である発明」(審決において技術的事項Aとされたもの。)と引用文献【0012】ないし【0014】に記載された「引用文献に記載の発明」(審決において技術的事項Bとされたもの。)の,それぞれ異なる二つの発明を混在させて引用発明の認定を行っており,このような認定は誤りである。
(2) 引用文献の図2(判決注・別紙参照)には,ユーザ端末1内のブラウザA11のURL登録ファイルであるブックマークファイルであるBookmark.htm ファイル,ユーザ端末2内のブラウザB12のURL登録ファイルであるブックマークファイルすなわち Favorites ファイル,及び,図2の中央部に記載されている共有ブックマークファイル17の3つが記載されている。しかし,審決は,審決の用いる「ブックマークファイル」が上記のいずれを指すのかを明示していない。
(3) 引用文献において,ブラウザに表示されるブックマークファイルは,共有ブックマークファイル17であって, Bookmark.htm ファイルや Favorites ファイルではないから,審決が,引用発明において,「ホームページのURLを登録したブックマークファイルをブラウザに表示し,」と認定したブックマークファイルは,【従来の技術】のブックマークファイルではなく,【発明の実施の形態】のブックマークファイルである。そして,【従来の技術】記載の発明に共有ブックマークファイル17は存在せず,審決は二つの発明を混在させている。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り)
審決は,引用発明の「各ユーザ端末にセットアップされているブラウザから,LAN回線およびルータを経由しインターネット上のホームページにアクセスする方法」は,本願発明の「通信ネットワークを介してインターネットに接続された通信装置からウェブ上の情報源およびサービスにアクセスする方法」に相当する,と認定判断している。しかし,引用発明においてはブラウザが構成要素とされているものの,本願発明においてはブラウザが構成要素として記載されていない。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)
(1) 相違点1ないし4について
ア 引用発明における課題は,複数のブラウザが個々に格納した格納データを共有利用することであるが,これは,引用発明の構成により,既に解決済みである。したがって,引用発明に再公表特許第99/17229号公報(甲2,以下「参考文献1」という。),欧州特許出願公開第847019号明細書(甲3,以下「参考文献2」という。),「山田 祥平,山田祥平のWebブラウザ活用術 第5回,インターネットASCII,日本,株式会社アスキー ASCII Corporation,1999年10月1日,第 4 巻,第10号,p.132」(甲4,以下「参考文献3」という。)及び特開平11-212998号公報(甲5,以下「参考文献4」という。)に記載されている技術を適用しようとする動機付けが存在しない。
イ 引用文献に記載の発明から出発して,審決の論理付けに従って相違点1ないし4に係る構成とするには,引用発明に対して,多くの引用文献に記載されていない技術を非常に複雑に組み合わせることが必要となる。しかし,このような複雑な組み合わせを,優先日時点の当業者が行うのは極めて困難である。
ウ 審決は,「当該ツリー状構造であるブックマークの,各フォルダのリンク情報の表示において,・・・(2)上記リンク情報表示画面を,ホームページへのリンク表示に加えて,ツリー構造上の他のリンク情報表示画面へアクセスするリンク表示も有するよう構成すること・・・は,いずれも本願の優先日前に周知構成と言えるものであり(例えば,・・・(2)については参考文献2の上記J及びKの記載,参考文献3の上記Lの記載・・・をそれぞれ参照。)」と認定している。
しかし,上記参考文献の記載は,いずれも「当該ツリー状構造であるブックマークの,各フォルダのリンク情報の表示」に係る技術ではなく,上記認定は誤っている。
また,参考文献3に記載されているのは,「お気に入りファイルをWebサーバ(通常,遠隔地にある)に置いておけば,どこからでもネットワーク経由でそのお気に入りファイルを参照できる」という技術であって,参考文献3の画面12に表示されているファイル群及びフォルダは,その実体データは遠隔地であるWebサーバに存在するものであるから,本願発明のように,ローカル側ではなくネットワーク側に存在するものである。しかも,ローカル処理ではなくWebサーバへのアクセスが先に行われていることが必要であるから,引用発明のブラウザのブックマークとは使い方が異なる。
エ 審決は,相違点2について,引用発明は,選択用表示方法の表示方法について明瞭でないとしているが,明瞭でない表示方法に基づいて,審決の認定するような構成変更を行うのは,優先日時点の当業者にとって極めて困難である。
オ 「CRAIG STINSON,CARL SIECHERT,Windows NT Workstation Version4.0 オフィシャルマニュアル,株式会社アスキー,1999年7月11日,第1版第9刷発行,pp.107-113」(甲6,以下「参考文献5」という。)記載の技術はフォルダについての技術であり,ブックマークファイルの表示についての技術ではないし,引用発明においては,上記エ記載のとおり,表示方法も明瞭ではないから,参考文献5記載の技術を引用文献に適用する動機付けがない。
また,仮に,参考文献5記載の技術を適用して,一の画面のみを表示するように構成を変更すると,ブラウザ上に表示されるブックマークの階層関係がブラウザのユーザにとって分かりにくくなってしまう不都合があるので,あえて,ブックマークファイルの表示のための構成に,参考文献5記載の技術を適用して,一の画面のみを表示するように構成を変更しようとする動機はない。
したがって,審決の,「一般に,コンピュータ装置上で情報にアクセスするための,ツリー状構造にある複数の画面表示のうち,一の画面のみを表示するようにすることは,普通に行われる事項(必要であれば,参考文献5の上記N及びP参照)であるから,上記ブックマークの表示において同様に構成することに格別困難性は認められない。」との認定は誤りである。
(2) 相違点5について
ア 本願発明における「遠隔情報源は表示段階および選択段階の際にローカル的に生成されたアドレスを有する」という記載は,遠隔情報源が,URLアドレス等のアドレスを有しており,このアドレスが,本願発明に係る方法における表示段階と選択段階の進行に伴いローカル的に(つまり,ネットワークの向こうではなく手元の通信装置側で)生成されることを意味する。
これに対し,審決は,引用発明において,ホームページのURL(情報源のアドレスに相当)は,登録時に,ユーザ端末側のファイル中に生成されていると認定しているが,この登録時とは,ネットワークにアクセスしている時である。したがって,引用発明におけるホームページのURLの生成はローカル的に行われていない。
そして,優先日時点の当業者が,引用発明において登録時に行われているホームページのURLの生成を,登録時とは違うタイミングで生成するように構成変更しようとする動機付けは存在しないし,上記の構成変更をする必要性も不明である。
イ したがって,引用発明のブックマークファイルにおける,ホームページのURL(情報源のアドレスに相当)は,登録時に,ユーザ端末側のファイル中に生成されており,これは局地的に生成されているといえるものであるとの審決の認定判断,及び,当該アドレスをいずれの時点で生成するかにおいて,技術上格別なる困難性が生じるものとは認められず,必要により適宜行う程度の事項であるので,相違点5は格別なものではない,との審決の認定判断は誤りである。
4 取消事由4(手続違背)
(1) 拒絶理由通知及び拒絶査定では,引用文献の【発明の実施の形態】の記載に基づいて引用発明を認定している。したがって,仮に被告の主張するように審決が引用文献の【0003】以前の従来技術の記載に基づき引用発明を認定しているとすると,審決は,異なる発明に基づいて引用発明を認定して拒絶をしていることとなる。よって,特許法159条2項の「拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当するため,同項が準用する同法50条の規定に従い,審判合議体は,特許出願人(原告)に対し,査定時に用いた発明ではなく,別の発明をもって引用発明を新たに認定し直して行ったことを明示する新たな拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,特許出願人(原告)に意見書を提出する機会を与えなければならなかった。しかし,そのような新たな拒絶の理由が,審判段階において通知されていない。
よって,審決には特許法159条2項違反の手続上の違法がある。
(2) 審決は,査定時とは全く異なる本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定に基づいて判断されている。よって,特許法159条2項の「拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当するため,同項が準用する同法50条の規定に従い,審判合議体は,特許出願人(原告)に対し,査定時に用いた発明ではなく,別の発明をもって引用発明を新たに認定し直して行ったことを明示する新たな拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,特許出願人(原告)に意見書を提出する機会を与えなければならなかった。しかし,そのような新たな拒絶の理由が,審判段階において通知されていない。
5 取消事由5(判断の遺漏)
原告は,審査及び審判時に,意見書及び審判請求書において,本願発明と,引用文献に記載の発明とでは,発明の課題も,解決手段も,全く異なっていることを主張したが,審査官も審判合議体もこれを無視して拒絶査定及び審決を行っている。したがって,審決は,課題及び解決手段が相違していることについての判断を遺漏しており,手続に違法がある。
第4被告の反論
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1) 審決は,引用文献に【従来の技術】として記載される,端末内のブラウザに備えられたブックマーク等を用いてインターネットにアクセスという,一般的な従来技術をもって引用発明と認定したものである。そして,これについては,引用文献の全体的な記載を引用するものであるが,基本的には引用文献【0003】以前の従来技術の記載を基に認定をしており,また図2にもユーザ端末1,2内にはブラウザの備えるブックマーク等が示されており,従来技術を含む構成が明示されている。また,ブックマークの表示に関して,審決ではあくまで従来の技術である一般的なブックマークに対し,「URLを呼び出すために,「ブックマークファイル」を「ブラウザ」に表示させることは明かである」としたものであり,引用文献【0012】以降の引用はあくまでその例示として引いたものであって,特定の共有ブックマークファイル等を認定したものではない。あえて対応させるならば,端末側に有するBookmark.htm ファイル及び Favorites ファイルがこれに当たる。
(2) 一般にブラウザのブックマークが,URLを容易に呼び出し,操作上インターネットへのアクセスを容易にする機能を果たすものであることは技術常識として明らかである。また,審決は,引用発明のこの点の認定をもって本願発明との対比・判断を行っていないことから,当該認定は審決の結論に影響を及ぼすものでもない。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り)について
一般にブラウザを用いてインターネット上の情報又はサービスにアクセスすることは技術常識であり,本願発明の請求項の記載もあえてブラウザを用いることを排除しておらず,また本願明細書の記載をみてもブラウザを用いてインターネットにアクセスする以外の方法を実施形態として記載もしていないので,審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)について
(1) 相違点1ないし4について
ア 引用発明は,「複数のブラウザが個々に格納した格納データを共有利用すること」という課題を解決した発明ではなく,インターネットアクセス技術における極めて一般的な課題を当然に有する一般的な従来技術である。また,周知技術等が引用発明と同様のブックマークに関する技術分野に属するものであるから,当業者であれば,ブックマークの表示の構成として上記周知技術等を採用することは容易である。
イ 参考文献1ないし5はそれらの事項を例示するため挙げたもので,直接引用発明と組み合わせることが容易に想到することができるとしたものではない。また,単に相違点や副引用例の参考文献が多いことをもって進歩性があるとはいえず,審決は,相違点1ないし4となる事項は,技術的観点からブックマークの表示に関するものとしていずれも容易に想到することができると判断している。
ウ 参考文献2は,各サブメニューにおいてブラウザを介してインターネットを通じてHTMLページにアクセスするためのメニュー構造に関するもので,また図1からも明らかなようにメニュー構造はツリー状構造といえ,これは審決で認定した周知の構成と同等の機能を果たすものであり,参考文献3もツリー状構造であるといえる。
エ 参考文献5は,フォルダ表示に関する技術で,情報にアクセスするためのツリー状構造にある複数の画面表示のうち,一の画面のみを表示することは周知であることを示すために例示したものであり,審決では,引用発明と,参考文献5の技術とが,コンピュータ装置上で情報にアクセスするための画面表示に係る同じ技術に属するもので共通することから,適用することに格別困難性はないとしたものである。
(2) 相違点5について
本願発明は,アドレスの生成をする情報処理が,表示段階及び選択段階の際に,ローカルすなわち手前の通信装置側で行われていることを特定しているにとどまり,アドレスの生成に必要なデータが,いつの時点で,どこから取得されたものであることまでを規定したものではない。引用発明も,一旦端末内に事前に登録されたブックマークのデータから,本願発明と同様,表示段階及び選択段階の際に端末側すなわちローカルでアドレスを生成(取得)しており,このことを審決では,「引用発明のブックマークファイルにおける,ホームページのURL(情報源のアドレスに相当)は,登録時に,ユーザ端末側のファイル中に生成されており,」「これは局地的に生成されていると言える」ことから,格別なものではないとしたものである。
本願発明は,表示段階及び選択段階の進行に併せてアドレスを通信装置側において取得することを規定しているにすぎず,この点においては引用発明と何ら変わるものではない。
4 取消事由4(手続違背)及び取消事由5(判断の遺漏)について
原告の主張はいずれも争う。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告の各取消事由の主張には理由がなく,その他,審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1) 引用文献について
引用文献には以下の記載があることが認められる(甲1)。
ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,複数の異なる形式のブラウザ間のブックマーク統一管理方法に関し,特に,インターネット・イントラネットシステムを開発・利用・運用管理する際に個々のユーザによって用いられる複数のブラウザ間のブックマーク統一管理方法に適用して有効な技術に関するものである。
【0002】【従来の技術】通常,インターネット・イントラネットシステムを利用するにあたり,クライアントツールであるブラウザはユーザが自由に選択できる。現在使われているブラウザとしては,例えば,Netscape 社の Netscape Navigator(Communicator)(以下,Netscape と略す)と Microsoft 社の Internet Explorer(以下,IEと略す)が挙げられる。
【0003】それぞれのブラウザにおいて,頻繁に使用するホームページについては,URL(Uniform Resource Locator)を「ブックマーク」(Netscape)や「お気に入り」(IE)として登録することにより,以後容易に呼び出してアクセスが可能となる。また,IEにはブックマークのインポート機能があり,インストール時には Netscape のブックマークを取り込むこともできる。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかし,上述したブラウザではURLのデータの格納形式が各々に違うため,それぞれ独立したデータとして保持されており,相互間のデータのリンク付けが行えてないので,共有利用ができないという問題点があった。
【0005】このため,インストール時に他のブラウザの「ブックマーク」の格納データを取り込むことができるが,ブラウザの複数使用を続けている場合,例えばあるホームページを Netscape の「ブックマーク」に追加したり,ホームページのURL変更にともない Netscape の「ブックマーク」を編集した場合には,IEの「お気に入り」には反映されないため,IEで見たい時には直接URLを指定しなければならないのが現状である。・・・
【0008】本発明は上記問題点を解決する為に成されたものであり,その目的は複数のブラウザが個々に格納した格納データを共有利用することが可能な技術を提供することにある。」
イ 「【課題を解決するための手段】・・・
【0010】インターネット・イントラネットシステムにおける複数のブラウザ間のブックマーク統一管理方法であって,前記複数のブラウザで共有利用するURLを格納する共有ブックマークファイルを設定し,前記複数のブラウザで共有利用するURLを所定形式で前記共有ブックマークファイルに格納し,前記共有ブックマークファイルに格納されたURLを各ブラウザが利用する場合は,そのURLを各ブラウザに対応した形式に変換して利用することにより,複数のブラウザのURL格納形式が異なる場合でも,共通格納形式に変換してURLを保持しておくことで,複数のブラウザが個々に格納した格納データを共有利用することが可能となる。
【0011】【発明の実施の形態】・・・
【0012】図1は,本発明の一実施形態であるWWWブラウザ間のブックマーク統一管理方法を実施するインターネット・イントラネットシステムの構成を示した例である。図1に示すように,本実施形態のインターネット・イントラネットシステムは,複数のユーザ端末1,2と,各ユーザ端末と接続するLAN回線14と,インターネット15と,それらLAN回線14とインターネット15の接続を行うためのルータ16とから構成される。
【0013】ユーザ端末1にはブラウザA11,ブラウザB12の複数のブラウザと,各ブラウザのブックマークの統一管理を行うブックマーク統一管理プログラム13とが格納され,ユーザ端末2ではブラウザA11とブックマーク統一管理プログラム13とが格納されている。また,ユーザ端末1には共有ブックマークファイル17をハードディスク上に設定し,ブラウザA11とブラウザB12の共有ファイルとしている。
【0014】そして,各ユーザ端末1,2にセットアップされているブラウザA11あるいはブラウザB12から,LAN回線14およびルータ16を経由しインターネット15上のホームページにアクセスする接続形態となっている。
【0015】ユーザは複数のブラウザで頻繁に使いそうなホームページが見つかった時には,各ブラウザA11,B12の操作方法によってそのURLをブックマークに登録する操作を行うが,その情報はブラウザ起動時にPlug-Inとして読み込まれるブックマーク統一管理プログラム13により,共有ブックマークファイル17に登録される。そのブックマークファイル17に登録された情報は,ブラウザA11,B12からは勿論,ユーザ端末1,2のどちらからも参照・更新ができ,統一されたブックマーク管理が可能となる。
【0016】次に,上述したブックマーク統一管理プログラム13と共有ブックマークファイル17とについて図2を用いて説明する。なお,本実施形態では,上述した二つのブラウザA11,B12を用いたものを取り挙げ,それぞれブラウザA11のURL登録ファイルであるブックマークファイルは,HTMLリンク形式で示した Bookmark.htm ファイルを用い,ブラウザB12ではインターネットのショートカット形式で示したFavorites ファイルを用いるとして説明する。
【0017】ブックマーク統一管理プログラム13は,図2に示すように,ブラウザを起動している間にバックグラウンドで起動され,ブラウザの独自のURL登録ファイル22,23内における,共有利用ブックマーク登録部21a,21bにURLが登録されるという指示を受けると,ブラウザ独自のブックマークへの登録されたアクセスデータを,テキスト形式など(このデータ形式は,テキスト形式に限らず,システム設計時に最適な形式に決定する)へのデータ変換を行い,共有ブックマークファイル17として登録する。
【0018】その共有ブックマークファイル17は,図2に示すように,フォルダ別にテキスト形式でURLが格納される構成をとる。
【0019】各ブラウザA11,B12が共有利用ブックマーク登録部21a,21bにアクセスする場合には,ブックマーク統一管理プログラム13によりブラウザは独自のURL登録ファイル22,23にはアクセスされず,共有ブックマークファイル17へアクセスすることとなる。
【0020】共有ブックマークファイル17からURLを取得するときは,ブックマーク統一管理プログラム13により,各ブラウザA11,B12の登録形式に変換し,各ブラウザA11,B12に表示する。例えば,ブラウザA11の場合は,テキスト形式からHTMLリンク形式に変換される。この変換は,例えば図3に示すように,ブラウザ種別31と登録形式32とから構成される変換テーブル30を設け,それを用いて行う。」
ウ 「【0030】【発明の効果】・・・
【0031】複数のブラウザのURL格納形式が異なる場合でも,共通格納形式に変換してURLを格納しておくことで,複数のブラウザが個々に格納した格納データを共有利用することが可能となる。」
(2) 引用発明の認定について
ア 上記(1)認定のとおり,引用文献の【従来の技術】(【0002】及び【0003】)には,ユーザがクライアントツールであるブラウザを自由に選択でき,例えば,ブラウザとして Netscape やIEがあること,それぞれ,頻繁に使用するホームページのURLをブックマークやお気に入りとして登録することにより,以後容易に呼び出してアクセスが可能となることが記載されている。
そうすると,上記記載からは,ブラウザのホームページのURLを登録したブックマークから,URLを呼び出してホームページにアクセスする方法が記載されていることを認識できる。
イ 他方,引用文献の上記部分には,クライアントツールであるそれぞれのブラウザのブックマークやお気に入りがクライアント端末(ユーザ端末)にどのように登録されているのか,また,ブックマークやお気に入りがブラウザに表示されるのかどうかについて,明示的な記載はない。
しかし,前記(1)認定のとおり,引用文献には,【発明が解決しようとする課題】として,【従来の技術】では,Netscape やIEのブラウザではURLのデータの格納形式が各々に違うため,それぞれ独立したデータとして保持されており,相互間のデータのリンク付けが行えていないので,共有利用ができないという問題点があること(【0004】),その問題点を解決するために複数のブラウザで共有利用するURLを格納する共有ブックマークファイルを設定すること(【0010)】),その【発明の実施の形態】として,図2に,ユーザ端末1がブラウザAとURL登録ファイル22,ユーザ端末2がブラウザBとURL登録ファイル23を備え,それとは別に,共有ブックマークファイル17を備えることにより,複数の異なる形式のブラウザ間のブックマークを統一管理することが記載されている(【0016】ないし【0020】)。
以上によれば,引用文献に記載された,ブラウザAとURL登録ファイル22を備えたユーザ端末1及びブラウザBとURL登録ファイル23を備えたユーザ端末2は,いずれも【従来の技術】におけるブラウザ及びブラウザのブックマークやお気に入りの構成が記載されたものと認められる。
そして,上記記載に照らすと,【従来の技術】におけるブラウザ及びブラウザのブックマークやお気に入りは,それぞれユーザ端末1及びユーザ端末2に独立して登録されていると認められる。
また,証拠(甲2(参考文献1)(10頁24行目ないし11頁1行目,第1図),甲19(参考文献1に係る特許協力条約に基づいて公開された国際出願)(明細書4頁12行目ないし同頁19行目,第1図),乙1(88頁))によれば,ブックマークやお気に入りがブラウザに表示されることは技術常識であると認められる。
さらに,上記(1)認定のとおり,引用文献においては,インターネット・イントラネットシステムは,複数のユーザ端末1,2と,各ユーザ端末と接続するLAN回線14と,インターネット15と,それらLAN回線14とインターネット15の接続を行うためのルータ16とから構成される(【0012】及び【0014】)ところ,引用文献における【従来の技術】における問題点は,ブラウザ相互間のブックマークやお気に入りの共有利用ができないことであって(【0004】及び【0005】),【発明の実施の形態】では,共有ブックマークファイル17を備えることでその問題点を解決しており,ユーザ端末がホームページにアクセスするためのLAN回線及びルータを変更することにより問題点を解決したことは記載されていない。そうすると,【発明の実施の形態】の図2におけるユーザ端末1及びユーザ端末2がホームページにアクセスするためのLAN回線及びルータは,【従来の技術】におけるユーザ端末も同様に備えているものと理解できる。
なお,上記の【従来の技術】の構成に照らすと,ブラウザからホームページに容易にアクセスできることは明らかである(もっとも,審決は,この点について一致点でも相違点でも認定しておらず,いずれにしても審決の結論に影響を及ぼすものではない。)。
ウ 上記ア及びイにおいて認定したところに照らすと,引用文献の【従来の技術】として記載された事項及び技術常識から前記第2の3(1)記載の引用発明を認定することができる。
なお,上記イにおいて認定したところに照らすと,審決が引用文献のうち【発明の実施の形態】に記載された箇所を引用した部分は,引用発明認定の基礎となる【従来の技術】と共通する事項を示したにすぎないものと理解できる。
したがって,審決の引用発明の認定に誤りはない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,審決は,引用文献【0003】に記載された「引用文献から見た従来技術である発明」(審決において技術的事項Aとされたもの。)と引用文献【0012】ないし【0014】に記載された「引用文献に記載の発明」(審決において技術的事項Bとされたもの。)の,それぞれ異なる二つの発明を混在させて引用発明の認定を行っている旨主張する。
しかし,上記(2)認定のとおり,審決の認定した引用発明は,引用文献に【従来の技術】として記載された事項及び技術常識により認定できるものであるので,原告の上記主張を採用することはできない。
イ 原告は,審決は,審決の用いる「ブックマークファイル」がBookmark.htm ファイル,Favorites ファイル又は共有ブックマークファイル17のいずれを指すのかを明示していない旨主張する。
しかし,上記(2)認定のとおり,審決は,引用文献の【従来の技術】に基づいて,引用発明を認定しているところ,引用発明におけるブックマークファイルは,図2の共有ブックマークファイル17ではなく,ユーザ端末が保持する Bookmark.htm ファイルや Favorites ファイルであると理解できる。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ 原告は,引用文献において,ブラウザに表示されるブックマークファイルは,共有ブックマークファイル17であって, Bookmark.htm ファイルや Favorites ファイルではないから,審決が,引用発明において,「ホームページのURLを登録したブックマークファイルをブラウザに表示し,」と認定したブックマークファイルは,【従来の技術】のブックマークファイルではなく,【発明の実施の形態】のブックマークファイルである旨主張する。
しかし,上記(2)認定のとおり,ブックマークやお気に入りがブラウザに表示されることは技術常識であるので,原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 以上によれば,取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り)について
原告は,引用発明においてはブラウザが構成要素とされているものの,本願発明においてはブラウザが構成要素として記載されていないので,この点を一致点とした審決の認定には誤りがある旨主張する。
確かに,本願発明にはブラウザが構成要素として記載されていない。
しかし,本願発明の特許請求の範囲の請求項1は,「通信ネットワークを介してインターネットに接続された通信装置からウェブ上の情報源およびサービスにアクセスする方法」と規定しているにすぎない上に,ウェブ上の情報源及びサービスにアクセスする際に,ブラウザを用いないことを特定しているわけでもない。加えて,本願明細書【0025】には,「ユーザが,次に,アイコン ADn2“サポーターズクラブ”を選択し,このアイコンをアクティブにすると,このサイトのウェルカムページの完全なアドレス(非限定的な例としてhttp://site.com./-/-/-/-.htm)が生成される(II)。」と記載されており,本願発明の【発明の実施の形態】として,ウェブサーバとウェブブラウザ間のプロトコルであるHTTPプロトコルを用いていることも併せ考えると,本願発明がブラウザを用いる構成を排除するものとは認められない。
そして,引用発明において,ブラウザを用いることにより,本願発明のように,通信ネットワーク(LAN回線及びルータ)を介してインターネットに接続された通信装置(ユーザ端末)からウェブ上の情報源及びサービス(ホームページ)にアクセスできることは明らかである。
したがって,審決が,前記第2の3(2)記載の事項を一致点と認定したこと自体には誤りはなく,取消事由2に係る原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)について
(1) 相違点1ないし4の判断について
ア 相違点1について
引用文献の図2の記載によれば,ブラウザが備えるURL登録ファイル23である Favorites ファイルがツリー状メニュー構造に形成され,Favorites フォルダ中に,ホームページのURLを格納する複数のフォルダ(フォルダ1,フォルダ2,フォルダ3)や,複数のホームページのURL(E社,F社,G社)を格納しており,ユーザはそれぞれ選択することができることが理解できるから, Favorites ファイルをブラウザに表示し,フォルダを選択した場合,上記ツリー状メニュー構造の Favorites ファイルは,複数の選択ページを表示できる構成であるといえる。
そうすると,引用文献には本願発明との相違点1に係る構成が記載されていることが認められる。そして,上記構成は,同一の技術分野に関するものであるし,同一の文献に記載されたものである以上,当業者において,上記構成を採用し,相違点1に係る構成とすることは容易に想到することができたものと認められる。
イ 相違点2について
証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,参考文献5には,コンピュータシステムの管理を行うために,フォルダをツリー状構造にして(109頁),フォルダの中にファイルやその他のフォルダを格納し(110頁),フォルダウィンドウを表示する場合,新しいフォルダウィンドウを作ることなく,別のフォルダを開くこと,すなわち,複数のフォルダウィンドウを開くことなく,複数のフォルダウィンドウの「うちの一」のフォルダウィンドウを開くことが記載されており,コンピュータシステムにおいて,フォルダの表示を行う際に,このような表示制御を行うことは周知技術であると認められる。
そして,ブラウザはコンピュータシステムで使用されるものであるから,ブラウザに関する技術の当業者であれば,コンピュータシステムに関する上記表示制御に関する技術的な知識を有しているものと解される。
そうすると,引用発明において,上記周知技術を採用し,相違点2に係る構成とすることは,当業者において容易に想到することができたものと認められる。
ウ 相違点3について
証拠(甲2(参考文献1)(20頁28行目ないし22頁8行目),甲5(参考文献4)(【0029】,【0031】,図4),甲19(18頁1行目ないし20頁10行目))に照らすと,ホームページのURLをアイコンで表示することは,ブラウザの技術分野において周知技術であると認められる。
そうすると,引用発明において,同一の技術分野における上記周知技術を採用し,相違点3に係る構成とすることは,当業者において容易に想到することができたものと認められる。
エ 相違点4について
前記ア認定のとおり,引用文献の図2には,ブラウザが備えるURL登録ファイル23である Favorites ファイルがツリー状メニュー構造に形成され,Favorites フォルダ中に,ホームページのURLを格納する複数のフォルダ(フォルダ1,フォルダ2,フォルダ3)や,複数のホームページのURL(E社,F社,G社)を格納しており,それぞれ選択することができることが記載されている。そして,証拠(甲4(参考文献3),乙1(88頁))によれば,フォルダと,ホームページのURLに対応するアイコンを表示することは周知技術であると認められる。
そうすると,引用発明において,同一の技術分野に関するもので,かつ,同一の文献に記載された上記の構成及び同一の技術分野に関する周知技術を採用し,相違点4に係る構成とすることは,当業者において容易に想到することができたものと認められる。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は,引用発明における課題は,複数のブラウザが個々に格納した格納データを共有利用することであるが,これは,引用発明の構成により既に解決済みであるので,引用発明に参考文献1ないし4に記載されている技術を適用しようとする動機付けが存在しない旨主張する。
しかし,前記1認定のとおり,引用文献から審決が認定した引用発明は,引用文献において【従来の技術】として記載された事項及び技術常識から認定されたものである。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠き採用することができない。
かえって,証拠(甲2(参考文献1),5(参考文献4),乙1,3)によれば,引用発明は,本願の出願日(優先日)以前に既に周知技術であった,ブラウザにブックマークやお気に入りを表示する一般的技術であると認められる。
そして,上記のようなブラウザについて,上記アないしエにおいて認定した引用文献に記載された事項や同じ技術分野の周知技術等を適用して設計変更をすることは,当業者であれば適宜行い得ることであるといえ,引用発明に上記アないしエにおいて認定したように引用文献に記載された事項や周知技術等を適用して相違点1ないし4に係る構成とする動機付けが存在するものと認められる。
よって,原告の上記主張を採用することはできない。
(イ) 原告は,引用文献に記載の発明から出発して,審決の論理付けに従って相違点1ないし4に係る構成とするには,引用発明に対して多くの引用文献に記載されていない技術を非常に複雑に組み合わせることが必要となるが,このような複雑な組み合わせを,優先日時点での当業者が行うのは極めて困難である旨主張する。
しかし,上記(ア)認定のとおり,引用発明は,優先日以前に既に周知技術であった,ブラウザにブックマークやお気に入りを表示する一般的技術にすぎない。そして,相違点1及び4に係る構成は,いずれも引用文献に記載されたものであるし,相違点2及び3に係る構成は,いずれも周知技術を適用したものにすぎない。しかも,それぞれの相違点に係る構成を他の構成と関連付けることなく別個に適用でき,相違点に係るある構成を適用しそれを前提としてさらに他の構成を適用するなどといった組み合わせが要求されるものではないので,引用文献に相違点1ないし4に係る周知技術等を組み合わせることが困難であるともいえない。
よって,原告の上記主張を採用することはできない。
(ウ) 原告は,審決は,「当該ツリー状構造であるブックマークの,各フォルダのリンク情報の表示において,・・・(2)上記リンク情報表示画面を,ホームページへのリンク表示に加えて,ツリー構造上の他のリンク情報表示画面へアクセスするリンク表示も有するよう構成すること・・・は,いずれも本願の優先日前に周知構成と言えるものであり(例えば,・・・(2)については参考文献2の上記J及びKの記載,参考文献3の上記Lの記載・・・をそれぞれ参照。)」と認定しているところ,上記参考文献の記載は,いずれも「当該ツリー状構造であるブックマークの,各フォルダのリンク情報の表示に係る技術」ではない旨主張する。
確かに,参考文献2にはブラウザのブックマークに関する記載はない。しかし,フォルダと,ホームページのURLに対応するアイコンを表示することが周知技術であることは前記エ認定のとおりであり,原告の上記主張は審決の結論に影響を及ぼすものではない。
また,原告は,参考文献3は,「お気に入りファイルをWebサーバ(通常,遠隔地にある)に置いておけば,どこからでもネットワーク経由でそのお気に入りファイルを参照できる」という技術であって,参考文献3の画面12に表示されているファイル群及びフォルダは,その実体データは遠隔地であるWebサーバに存在するものであるから,本願発明のように,ローカル側ではなくネットワーク側に存在するものであり,しかも,ローカル処理ではなくWebサーバへのアクセスが先に行われていることが必要であるから,引用発明のブラウザのブックマークとは使い方が異なると主張する。
しかし,参考文献3は,「複数台のパソコンのお気に入りを同一の状態に保つのは,けっこうたいへんな作業ではある」という課題を,「自分のお気に入りを,自分のWebサイトに登録」することにより解決するものであるから(甲4),前提として,画面12に表示するための実体データは自分の,すなわちローカル側のパソコンに登録可能なものであると解される。
そうすると,参考文献3に記載された技術につき,引用発明のユーザ端末において本願発明同様の使い方が可能であることは明らかであるから,原告の上記主張を採用することはできない。
(エ) 原告は,審決は,相違点2について,引用発明は,選択用表示方法の表示方法について明瞭でないとしているが,明瞭でない表示方法に基づいて,審決の認定するような構成変更を行うのは,優先日時点の当業者にとっては極めて困難である旨主張する。
しかし,審決の記載内容及び前記イ認定の周知技術の存在に照らすと,審決が明瞭でないと認定したのは,ブックマークファイルの性格上,これが表示されることは明らかであることを前提に,その表示方法は明示されていないというにすぎないものと解される。そして,当業者において相違点2に係る構成を採用することは容易であることは前記イ認定のとおりである。
よって,原告の上記主張を採用することはできない。
(オ) 原告は,参考文献5記載の技術はフォルダについての技術であり,ブックマークファイルの表示についての技術ではないし,引用発明においては,上記(エ)記載のとおり,表示方法も明瞭ではないので,参考文献5記載の技術を引用文献に適用する動機付けがない,仮に,参考文献5記載の技術を適用して,一の画面のみを表示するように構成を変更すると,ブラウザ上に表示されるブックマークの階層関係がブラウザのユーザにとって分かりにくくなってしまう不都合があるので,あえて,ブックマークファイルの表示のための構成に,参考文献5記載の技術を適用して,一の画面のみを表示するように構成を変更しようとする動機はない旨主張する。
しかし,前記イに認定したところに加え,参考文献5記載の技術が周知技術であることからすれば,一の画面のみを表示することがユーザにとって必ずしも不都合であるとも認め難いことも併せ考えると,原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 相違点5について
ア 本願の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,相違点5に係る本願発明の構成である「遠隔情報源は表示段階および選択段階の際にローカル的に生成されたアドレスを有する」につき,「表示段階」は「-ツリー状メニュー構造の中に構築され前記通信装置の中にローカル的に予め記憶された複数の選択ページ(各選択ページは1組のアイコンを有する)のうちの一の選択ページを表示する一以上の段階」と,「選択段階」は「-表示中の選択ページ内の一のアイコンの選択に応じて,選択された当該アイコンに対応する情報源のアドレスを通信ネットワークに発信する段階」と,それぞれ規定されている。
そうすると,「遠隔情報源は表示段階および選択段階の際にローカル的に生成されたアドレスを有する」といえるためには,上記の表示段階を経た選択段階において,選択された当該アイコンに対応する情報源のアドレスを通信ネットワークに発信する際に,ローカル的,すなわち本願発明を実施する手元の通信装置内に(原告平成25年10月16日付け準備書面24頁5行目ないし同頁6行目参照)アドレスが生成されていれば足りる。
これに対し,前記1認定のとおり,引用発明は,各ユーザ端末にセットアップされているブラウザから,LAN回線及びルータを経由しインターネット上のホームページに容易にアクセスする方法であって,ホームページのURLを登録したブックマークファイルをブラウザに表示し,上記URLを呼び出してホームページにアクセスすることを含むものである。そうすると,ユーザ端末のブラウザでは,ホームページにアクセスする際に,ブックマークファイルから選択されたURLが,LAN回線及びルータを経由しインターネットへ発信するために生成されているといえる。
したがって,引用発明も,ユーザ端末において,すなわち,ローカル的に,アドレス(URL)の選択に応じて,選択された情報源(ホームページ)のアドレスを通信ネットワーク(LAN回線及びルータを経由しインターネット)に発信しているものといえ,相違点5に係る構成を有していると認められる。
以上によれば,本願発明と引用発明との間に相違点5が存在するとした審決の認定は誤りである。
もっとも,審決は,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると判断しているので,上記の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない。
イ 原告は,審決は,引用発明において,ホームページのURL(情報源のアドレスに相当)は,登録時に,ユーザ端末側のファイル中に生成されていると認定しているが,この登録時とは,ネットワークにアクセスしている時であり,引用発明におけるホームページのURLの生成はローカル的に行われていない旨主張する。
しかし,上記アにおいて認定したところに照らすと,原告の上記主張は,取消事由の主張たり得ず,これを採用することはできない。
(3) そして,上記(1)及び(2)において認定したところに照らすと,本願発明の奏する効果は,引用発明に周知技術等を組み合わせた構成が奏する効果から予想される範囲内のものにすぎないものと認められる。
(4) 以上によれば,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると認定判断した審決の結論に誤りはない。
よって,取消事由3に係る原告の主張は理由がない。
4 取消事由4(手続違背)について
(1) 原告は,拒絶理由通知及び拒絶査定では,引用文献の【発明の実施の形態】の記載に基づいて引用発明を認定しており,審決は,異なる発明に基づいて引用発明を認定して拒絶をしている旨主張する。
しかし,拒絶理由通知書(甲12)には,「引用文献1には,「ブラウザのブックマークファイルとして,Favorites ファイルが用いられ,該Favorites ファイルは,複数のフォルダおよびインターネットのショートカットからなる階層構造によって構成され,フォルダは他のフォルダ及びインターネットのショートカットファイルを含むことができる」ことが記載されている(特に,図2等を参照のこと。)。」との記載があるほか,拒絶査定(甲15)には,「平成22年9月13日付け拒絶理由通知書において引用した引用文献1(図2等参照のこと。)における「E社等のインターネットショートカット」「フォルダ1等のフォルダ」」との記載があるにとどまり,引用文献に記載された【従来の技術】における課題に対応する共有ブックマークファイル17についての記載はない。むしろ,上記各記載に照らすと,拒絶理由通知及び拒絶査定においては,引用文献におけるURL登録ファイル23の Favorites ファイルについて言及しているものと認められる。そして,前記1において認定したところを併せ考えると,拒絶理由通知書及び拒絶査定における引用文献の記載事項の認定も,審決同様,引用文献の【従来の技術】に記載された事項によりなされているものというべきである。
よって,原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 原告は,審決は,査定時とは全く異なる本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定に基づいて判断している旨主張する。
しかし,前記1及び上記(1)認定のとおり,査定時と審決時において同一の引用文献の記載事項に基づき発明の認定がなされている上に,適用条文も同一である以上,査定時と審決時において本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定に異なる部分があったとしても,拒絶の理由が異なるものとはいえない。
よって,原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 以上によれば,取消事由4に係る原告の主張は理由がない。
5 取消事由5(判断の遺漏)について
原告は,審査及び審判時に,意見書及び審判請求書において,本願発明と引用文献に記載された発明とでは,発明の課題も,解決手段も,全く異なっていることを主張したが,審査官も審判合議体もこれを無視して拒絶査定及び審決を行っているので,審決は,「課題及び解決手段が相違していること」についての判断を遺漏しており,手続に違法がある旨主張する。
しかし,容易想到性の判断は,本願発明と引用発明の課題及び解決手段の共通性の有無のみではなく,技術分野の関連性や作用・機能の共通性など,種々の要素を考慮して行うことが可能なものであり,審決においてもそれらの要素の全てに言及することが求められるものではない。審決が原告の主張に対して応答していなかったからといって,当該主張に係る事項が審決の結論に影響を及ぼすものではないのであれば,審決が直ちに違法となることはない。したがって,審決に原告の上記主張に係る「課題及び解決手段が相違していること」に対する認定判断が記載されていないからといって,そのことが直ちに審決の違法を基礎付けるものとはいえない。
そして,審決の判断の結論に誤りがないことは,前記1ないし3認定のとおりである。
よって,取消事由5に係る原告の主張は理由がない。
6 まとめ
以上のとおり,原告主張の各取消事由はいずれも理由がない。また,他に審決に取り消すべき違法もない。
第6結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 西理香 裁判官 神谷厚毅)
file_2.jpg別紙