知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10261号 判決 2014年3月05日
原告
株式会社けやき
訴訟代理人弁理士
中井宏行
沖本周子
被告
特許庁長官
指定代理人
高橋幸志
村上照美
堀内仁子
山田和彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2011-23026号事件について平成25年8月13日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,商標登録出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,引用商標との類否(商標法4条1項11号)である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,「けやき」の文字を横書きして成り,第45類「新聞記事情報の提供,葬儀に関する新聞記事情報の提供,葬儀の執行,通夜・葬儀・法要の執行及びそれらの取次ぎ,火葬・火葬に関する相談その他の葬儀の執行,葬儀の運営・企画又は執行,葬儀・法要・故人の感謝の会・故人を偲ぶ会・生前葬に関する相談・企画及び執行,通夜・葬儀・法要のための施設の提供,葬儀料理及び法要料理の飲食のための施設の提供,葬儀・法要の執行に関するインターネットによる情報の提供を含む葬儀・法要の執行に関する情報の提供,通夜・葬儀・法要に関するマナー及び返礼の助言,霊柩車による遺体の移送,墓地又は納骨堂の提供,墓地又は納骨堂の提供の斡旋・媒介又は取次ぎ,墓地又は納骨堂に関する相談,施設の警備,身辺の警備,葬儀に関する施設の警備,葬儀に関する身辺の警備,衣服の貸与,葬儀・法要のための衣服又は装身具の貸与,衣服の貸与の媒介又は取次ぎ,衣服の貸与およびそれに関する情報の提供,祭壇の貸与,葬儀のための祭壇・花輪・テント・仏具・その他葬祭用具の貸与,葬儀・通夜・納骨および法要のための祭壇・花輪・黒白幕・テント・仏具・その他物品の貸与,装身具の貸与,装身具の貸与及びこれに関する情報の提供,装身具の貸与又はその契約の媒介」を指定役務とする本願商標について,平成23年3月23日に商標登録出願(甲2)をしたが,特許庁から平成23年7月19日付けで拒絶査定(甲4)を受けたので,同年10月26日,これに対する不服の審判(不服2011-23026号)を請求した。
特許庁は,平成25年8月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月27日,原告に送達された。
2 審決の理由の要点
審決の理由の要点は,本願商標と下記引用商標は,外観が異なるとしても,称呼及び観念を共通にする類似の商標であって,指定役務も同一又は類似であるから商標法4条1項11号に該当する,というものである。
【引用商標】(登録第4713602号)
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・指定役務
第45類「婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,祭壇の貸与」
・出願 平成15年1月20日
・登録 平成15年9月26日
・商標権者 中央式典株式会社
第3原告主張の審決取消事由(商標の類否判断の誤り)
1 外観
本願商標は,ひらがなの「けやき」のみから構成されているのに対し,引用商標は,左側に「中央式典」と「町田駅前会堂」の文字を2段に書し,その右側に「けやき」の文字を縦方向に筆書きにして成るものであり,両商標が外観において異なるところは明らかである。外観の相違については,審決でも認定されており,争いはない。
審決は,両商標の外観は異なるとしながらも,「引用商標は,その外観において,「けやき」の文字部分が,他の文字より大きく顕著に表され,分離して看取される」と認定した。
しかし,引用商標における「けやき」の文字部分は,文字は大きいが,書体は細筆で書されたような華奢な細い書体から成るため,他の文字部分と比べて顕著に目立つ構成ではない。それに加え,引用商標の「中央式典」の文字部分は,商標の出所表示機能,自他識別機能を発揮する文字部分といえ,他の文字部分より小さい文字であるが,太字で明瞭に書され,真っ先に称呼される先頭位置に配されている。さらに,「町田駅前会堂」の文字部分は,指定役務との関係からサービスが提供される場所を暗示する商標機能を担っており,決して付記的な構成ではない。
引用商標は,「中央式典」,「町田駅前会堂」,「けやき」の三つの要素から成る結合商標である。その三つの要素は,それぞれが商標の機能を果たしながらも,「中央式典」と「町田駅前会堂」は近接して2段併記され,けやきの文字は他の文字部分と調和する配置になっており,全体として一つの商標として一体的に看取されるようにデザインされている。
審決は,「けやき」の文字部分が,他の文字より大きく表されていることを分離して看取される理由にしているが,「けやき」の文字部分が他の文字部分と比べて強く支配的な印象を与えるものと認められるほどの態様とはいえず,需要者が「けやき」の文字部分を独立した出所識別標識として認識することは有り得ない。
以上より,本願商標と引用商標とでは,外観上共通する要素も見当たらず,両者は全体の印象が大きく異なるので,外観上の差異は明らかである。
2 観念
本願商標は,樹木の1種と認識する観念,又は「欅(ニレ科の落葉高木)」(広辞苑第六版)の観念を生じるものである。
引用商標は,上記三つの要素を含んだ商標であるため,観念を特定することは難しいが,例えば,引用商標の商標権者(以下「引用商標権者」という。)の変更前の名称が「中央式典」株式会社であるところ,「中央式典」からは識別力のある社名であるとの観念が生じる。また,「町田駅前会堂」からは,東京の西郊にある町田市にある駅前の会堂(集会などに使う目的で建てた大きな建物),町田駅という駅前にある会堂などの観念が生じる。そして,「けやき」という語からは,「欅(ニレ科の落葉高木)」の観念が生じ,東京都町田市に住む住民であれば市木であるとの観念も生じ得る。
したがって,一部に共通する「欅(ニレ科の落葉高木)」の観念が生じても,「中央式典」,「町田駅前会堂」の表示からも観念が生じ,「けやき」から市木であるとの観念も生じ得る引用商標と,本願商標とは,観念上も相紛れるおそれはない。
引用商標の指定役務は,「婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,祭壇の貸与」である。よって,サービスの提供を受ける需要者にとっては,サービスの提供を行う営業主体がだれなのか,また,そのサービスが提供される場所がどこなのかが重要要素になる。「葬儀の執行」という指定役務は,全国に流通するような商品ではなく,葬儀が執り行われる場合,その葬儀会場がどの葬儀会社が執り行うのか,葬儀会場はどこにあるのかは,喪主サイドにとっても極めて重要な事項であり,葬儀に参列する参列者サイドにとっても重要であるが,審決はこの点を考慮していない。
引用商標から,サービスの提供者を表示する「中央式典」及びサービスが提供される場所を表示する「町田駅前会堂」を無視して,「けやき」のみを抽出して観念を捉えても意味はなく,需要者がサービスを選択する際には,引用商標を一体のものとして観念すると考えるのが合理的であり,自然なものといえる。
3 称呼及び称呼の一体性
本願商標からは,「ケヤキ」のみの称呼が生じる。
引用商標は,「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」,「チュウオウシキテンケヤキ」,「マチダエキマエカイドウケヤキ」,「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウ」,又は「チュウオウシキテンノケヤキ」,「マチダエキマエカイドウノケヤキ」などと称呼される。
審決は,引用商標全体から生じる「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」の称呼が22音と冗長であるので,この称呼の中から「ケヤキ」のみの称呼が生じ得ると認定している。
しかし,一個の商標から二個以上の称呼,観念の生じることがあるのは,経験則の教えるところである。引用商標は,市場を流通し消費されるような商品に付される商標ではなく,葬儀の執行という特異なサービスの提供に付される商標であるから,需要者が「けやき」の文字部分のみを捉えて自他役務の出所標識と理解することは考えられず,引用商標は一体のものとして理解されるべき商標である。
よって,引用商標が単に「ケ」,「ヤ」,「キ」とのみ称呼されることはなく,上記のように「チュウオウシキテンケヤキ」,「マチダエキマエカイドウケヤキ」等と称呼されると考えるのが自然であるし,22音といささか長いと感じたとしても,指定役務との関係から引用商標を看た看者が「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」と称呼し使用していると考えても何ら不思議はなく,むしろ自然であるといえるので,称呼上も本願商標と引用商標が相紛れるおそれはない。
4 取引の実情
(1) 引用商標の使用の実情
引用商標権者である中央式典株式会社(現・株式会社コムウェル)は,東京,神奈川,埼玉など関東圏で複数の葬儀及び婚礼の式場を所有し運営している。インターネットで公開されている株式会社コムウェルのホームページの「会社情報沿革」をみると,中央式典株式会社として業務を行っているときから,町田駅前以外にも複数の式場を所有し運営していたことが分かる。引用商標中の「町田駅前会堂」という表示は,他社との識別だけでなく,需要者に対して,複数ある自社の式場のうちから「町田駅前会堂」を区別し,訴えるためにも,重要な要素であり,現実の使用の実情から「けやき」のみが単体で使用されるといった使用状況もうかがえない。
また,引用商標に対する登録取消審判事件(取消2011-301086号)において,引用商標権者が提出した書面等からは,引用商標が一体として使用されている実情,「けやき」が東京都町田市の市木であること,引用商標は引用商標権者が運営する「町田市」にある式場のみで使用される商標であること,社名変更後も引用商標を使用し続ける理由として地域住民からの要請があることを知ることができ,これによれば,引用商標権者が,引用商標から「けやき」を他の部分と独立して自他役務の出所標識として認識されることを期待して使用しているものとは考えられない。
このように,引用商標が権利範囲とする葬儀の執行という指定役務は,サービスを提供する土地,そこに住む地域住民とも密接に関係する特殊性が内在している。また,需要者にとっても,葬儀会場はどこの会社が主催して,どこにあるのかが重要な情報であり,この点は,宅配便を扱う運送サービスや,金融商品を扱う銀行などのサービスとは全く異なる。
よって,引用商標は,指定役務との関係において,「中央式典町田駅前会堂」という語の称呼が冗長だからといって,省略されては意味をなさず,「中央式典町田駅前会堂けやき」と一体把握されるべき商標といえる。
(2) 本願商標の使用の実情
本願商標は, ※にて,家族葬を中心に葬儀を執り行う原告が出願した商標である。
平成16年7月に有限会社セレモニーホールけやきとして設立され,平成23年5月に株式会社けやきに社名組織変更を行った。他府県からの依頼による葬儀も受け付けてはいるが,地域に根ざした運営を行っている。
5 まとめ
以上のとおり,本願商標と引用商標とは,外観,観念及び称呼において類似せず,取引の実情,つまり葬儀の執行というサービスの特異性を考慮すれば,両者間に出所の誤認混同を生じるおそれはない。
第4被告の反論
1 本願商標について
(1) 外観について
本願商標は,「けやき」の平仮名を横書きして成るものである。
(2) 観念について
「けやき」の文字は,「欅(ニレ科の落葉高木)」(乙1)の意味を有する語であるから,本願商標は,「欅」の観念を生じるものである。
(3) 称呼について
本願商標は,「けやき」の文字に相応して,「ケヤキ」の称呼を生じるものである。
2 引用商標について
(1) 外観について
引用商標は,「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字を組み合わせて成り,その構成中,「けやき」の文字は,引用商標中に大きく顕著に筆書き風の書体で表したものであり,2画目を右方に伸ばした「け」の文字,その斜め右下に「や」の文字,さらに,そのやや右上に「き」の文字を,それぞれ近接させてバランスよく配するという,極めて特徴的な態様で,まとまりよく表されている。そして,その左側に,通常の書体で小さく「中央式典」の文字を横書きし,その下段にやや特徴的な細字で「町田駅前会堂」の文字を横書きしたものである。
してみると,引用商標は,各構成文字の異なる書体,大きさ及び位置からみて,直ちに,三つの構成部分から成るものと認識し得るものであり,また,「けやき」の文字部分は,上記したとおり,他の構成文字部分に比して,大きく顕著に表されている上に,3文字の配置に特徴を有した表記であることから,各構成文字を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないものであり,また,特徴的な「けやき」の文字部分が,最も強く,看る者の注意を引く部分ということができる。
(2) 観念について
引用商標の構成中,「けやき」の文字部分は,上記1(2)と同様に,「欅」の観念を生じるものであり,葬祭業の分野において,その役務の提供の場所や質を表すものであるなどの事情は見いだせない。
「中央式典」の文字は,一般に親しまれた特定の意味合いを認識させるものではないが,「式典」の文字は,「儀式」等の意味を有する語(乙2)であり,該文字が他の文字と組み合わされて,「○○式典」のように表示され,葬祭業者の名称を表すものとして,一般に使用されている実情がうかがえる(乙3~11)ことから,葬祭業の分野において,「中央式典」の文字部分は,「中央式典という葬祭業者」の意味合いを表したものと理解することができる。
「会堂」の文字は,「集会のために設けた建物」等の意味を有する語(乙12)であることから,「町田駅前会堂」の文字部分は,「町田駅前にある集会を行う建物」の意味合いを容易に理解させるものである。
そして,引用商標は,「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字が一体となって,全体として,親しまれた特定の観念を生じ得るものとはいえない。
さらに,各構成文字から生じる意味合いを踏まえれば,「けやき」の文字と「中央式典」ないし「町田駅前会堂」の文字が結び付くことにより,特定の観念を生じるという事情も見いだせない。
したがって,引用商標は,各構成文字において,互いに,観念的なつながりはなく,全体が一体不可分のものとして認識されるものではないから,構成中の「けやき」の文字部分に相応して「欅」の観念を生じるものである。
(3) 称呼について
引用商標は,(1)及び(2)のとおり,その構成中の各構成文字が,分離して把握されるものであり,観念的な関連性もないものであるから,特徴的な態様で大きく顕著に表された「けやき」の文字部分が,取引者,需要者に対し,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるというべきであり,加えて,その構成文字全体から生じる「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」の称呼は,22音と極めて冗長であり,その指定役務との関係から,簡易,迅速を尊ぶ日常の商取引において,必ずしも全体の称呼をもって取引されるというものではなく,その一部のみをもって称呼される場合があることから,引用商標構成中の「けやき」の文字に相応して「ケヤキ」の称呼を生じるものである。
(4) 小括
以上を踏まえれば,引用商標は,外観において,視覚上分離して看取されるものであり,また,観念においても,各構成文字が相互に結合して特定の観念を生じるものではないことから,各構成文字を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。そして,引用商標は,極めて特徴的な態様で,大きく顕著に表されて,看者の注意を強く引く「けやき」の文字部分が,強く支配的な印象を与えるものであり,該文字部分が,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たす部分であるといえる。
してみれば,引用商標に接する取引者,需要者は,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「けやき」の文字部分を記憶にとどめ,該文字部分をもって取引に資するものということができるから,引用商標から「けやき」の文字部分を抽出し,他人の商標と比較して商標の類否を判断することは許される。
よって,引用商標は,「けやき」の文字部分から「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。
3 本願商標と引用商標の類否について
(1) 本願商標と引用商標の外観,観念及び称呼の比較
本願商標は,上記1のとおり,「けやき」の文字から成り,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。
他方,引用商標は,上記2のとおり,「けやき」,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の文字から成り,その構成中の,「けやき」の文字部分から,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。
してみれば,本願商標と引用商標は,その全体の外観構成において相違するとしても,「けやき」の構成文字において同一であって,外観において共通する部分があり,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を同一にするものである。
(2) 取引の実情について
葬祭業の分野においては,葬祭業者が自己の業務を宣伝広告する際に,式場の所在地名と建物を表す語(会堂,会館,式場など)を組み合わせた表示を使用している事実が見受けられる(乙13~23)。かかる広告の実情から,単独でも用いられることがある役務の出所識別標識として理解される部分に併記される,式場の所在地名等と建物を表す語を組み合わせた表示は,それ以外の,式場の所在地やアクセスの記載と相俟って,その役務の提供場所を取引者,需要者に認識させるものであり,自他役務の識別標識としての機能は,弱いものである。
そこで,この葬祭業の分野における取引の実情を,引用商標に照らし検討すると,引用商標に接する取引者,需要者は,その構成中の「町田駅前会堂」の文字部分を「町田駅前にある建物」ほどの意味合いとして理解するにとどまるものであり,「役務の提供場所」を表示している部分と認識するにすぎず,それ以外の「中央式典」の文字部分及び「けやき」の文字部分が,役務の出所識別標識として強く認識される部分である。
そして,葬祭業の分野において,「中央式典」の文字部分と「けやき」の文字部分とが,常に一体不可分のものとして認識され,特定の意味合いを理解されるものであるということもできない。
また,その取引者,需要者には,これらの役務について取引する専門業者のほか,広く一般の消費者も含まれるものであり,役務に対する注意力は,決して高いものということができないものであるばかりか,それらの役務については,時間をかけて,慎重に検討して,商標に接するというよりは,むしろ,迅速に取引されることの多いものであるから,引用商標に接する者は,その構成中に特徴的に表された「けやき」の文字を記憶,連想し,取引に当たる場合も少なくないというべきである。
(3) 小括
以上のことから,引用商標は,外観,観念及び称呼を総合的に考察し,葬祭業の分野における取引の実情を考慮すると,「けやき」の文字部分が,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るといえる。
したがって,本願商標と引用商標は,その全体の外観構成において相違するとしても,「けやき」の構成文字において同一であって,外観において共通する部分があり,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を同一にするものであるから,これを同一又は類似の役務に使用したときは,その出所について紛れるおそれのある類似の商標である。
4 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務の類否について
本願商標の指定役務中の「葬儀の執行,通夜・葬儀・法要の執行及びそれらの取次ぎ,火葬・火葬に関する相談その他の葬儀の執行,葬儀の運営・企画又は執行,葬儀・法要・故人の感謝の会・故人を偲ぶ会・生前葬に関する相談・企画及び執行,通夜・葬儀・法要のための施設の提供,葬儀料理及び法要料理の飲食のための施設の提供,葬儀・法要の執行に関するインターネットによる情報の提供を含む葬儀・法要の執行に関する情報の提供,通夜・葬儀・法要に関するマナー及び返礼の助言,霊柩車による遺体の移送,祭壇の貸与,葬儀のための祭壇・花輪・テント・仏具・その他葬祭用具の貸与,葬儀・通夜・納骨および法要のための祭壇・花輪・黒白幕・テント・仏具・その他物品の貸与」は,引用商標の指定役務中の「葬儀の執行,祭壇の貸与」と同一又は類似の役務といえる。
5 まとめ
以上のとおり,本願商標は,引用商標に類似する商標であり,かつ,その指定役務は,引用商標の指定役務と同一又は類似の指定役務を有するものであるから,商標法4条1項11号に該当する。
第5当裁判所の判断
1 本願商標について
本願商標は,「けやき」の平仮名を横書きして成り,構成文字に相応して,「ケヤキ」の称呼を生じ,「欅」の観念を生じるものである(乙1)。
2 引用商標について
(1) 外観
引用商標は,「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字を組み合わせて成り,その構成中,左側下段に,やや特徴的な細字で「町田駅前会堂」の文字を横書きし,その上段左側に接して,太目のゴシック体で小さく付記するように「中央式典」の文字を横書きし,これらの右側に,やや離して,「けやき」の文字を,毛筆手書き風の特徴のある字体で,顕著に,特に大きく表された「け」の文字の引き延ばされた第2画の下に,「や」と「き」の文字を大きく,3文字まとまりよく配するという,特徴的な態様で表されており,各構成文字の異なる書体,大きさ及び位置からみて,外観上,三つの構成部分が不可分一体に認識されるものとはいえず,分離して看取し得るものである。
そして,左側の上下二段の構成文字部分は,下段の「町田駅前会堂」がやや特徴的な字体ではあるものの,いずれも漢字のみから成り,互いに接して横書きされていることから,一体的に把握されるのに対し,「けやき」の文字部分は,左側の構成文字部分からやや離れて,特徴のある字体で,大きく顕著に,まとまりよく表されており,「け」と「や」と「き」の配置に特徴があることからすると,「けやき」の文字部分が,最も強く,看る者の注意を引く部分ということができる。
(2) 観念
引用商標中,「けやき」の文字部分からは,「欅」の観念を生じる(乙1)。
「中央式典」の文字部分のうち「式典」の文字は,「儀式」等の意味を有する語であり(乙2),葬祭業者の名称として「○○式典」なるものが多数使用されている実情がうかがえる(乙3~11)ことからすると,「中央式典」の文字部分からは,「中央式典という葬祭業者」との意味を表したものと理解できる。
「町田駅前会堂」の文字部分のうち「会堂」の文字は,「集会のために設けた建物」等の意味を有する語である(乙12)ことから,「町田駅前会堂」の文字部分は,「町田駅前にある集会を行う建物」との意味を表したものと理解できる。
そして,引用商標の「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字は,前記(1)のとおり,分離して看取されることから,全体として特定の観念を生じるとは認められないが,左側の上下二段の漢字部分は,一体的に把握されることから,「中央式典という葬祭業者と関連する町田駅前にある集会を行う建物」との観念を生じるものと認められる。
したがって,引用商標は,各構成文字において,互いに,観念的なつながりはなく,全体が一体不可分のものとして認識されるものではないが,前記のとおり,構成中の「けやき」の文字部分に相応して「欅」の観念を生じるとともに,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の文字部分に対応して,「中央式典という葬祭業者と関連する町田駅前にある集会を行う建物」との観念も生じるものである。
(3) 称呼について
引用商標は,(1)のとおり,その構成中の各構成文字が,外観上分離して把握されるものであり,(2)のとおり,左側の上下二段の漢字から成る構成部分を除いて,各構成文字における観念的な関連性も認められない。そして,その構成文字全体から生じる「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」の称呼は,22音と長く,一気に称呼するのは困難である上,引用商標の指定役務中の葬儀の執行が,人の死亡という突然に生じることが多い出来事に伴って短期間に済ませなければならないものであり,遺族,関係者等の精神的混乱の中でも執り行われ得ることからすると,簡易,迅速が尊ばれる引用商標の上記指定役務の取引において,引用商標に接する取引者,需要者は,「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウケヤキ」の22音を常に全体として称呼するとみることはできず,外観上,看る者の注意を最も強く引く部分である「けやき」の文字部分から「ケヤキ」の称呼を生じることもあるというべきである(なお,左側の上下二段の構成部分から生じる「チュウオウシキテンマチダエキマエカイドウ」の称呼も,同様に冗長なものと認められる。)。
(4) 小括
以上によれば,引用商標は,外観において,視覚上分離して看取されるものであり,観念においても,左側の上下二段の構成部分を除いて,各構成文字が相互に結合して特定の観念を生じるものではなく,各構成文字を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず,外観上,看者の注意を引く「けやき」の文字部分が,強く支配的な印象を与えるものであることからすると,当該文字部分が,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たす部分であるとみるのが相当である。
したがって,引用商標に接する取引者,需要者は,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「けやき」の文字部分をもって取引するものということができ,引用商標は,「けやき」の文字部分から「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。
3 対比
(1) 本願商標と引用商標の外観,観念及び称呼の比較
本願商標は,上記1のとおり,「けやき」の文字から成り,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。
引用商標は,上記2のとおり,「けやき」,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の文字から成り,その構成中,「けやき」の文字部分から,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を生じるものである。
そうすると,本願商標と引用商標は,その全体の文字構成において相違するとしても,「けやき」の構成文字において同一であるから,外観において共通する部分があり,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を同一にするものである。
(2) 取引の実情
乙13~23によれば,葬祭業者が自己の業務を宣伝広告するに当たり,式場の所在地名と,会堂,会館,式場等の建物を表す語を組み合わせた表示を使用していることが多いものと認められ,その表示は,式場の所在地や役務の提供場所を取引者,需要者に認識させるものであるから,自他役務の識別標識としての機能は弱いということができる。引用商標においても,その構成中,「町田駅前会堂」の文字部分は,「町田駅前にある(葬儀のための)建物」との意味を有し,引用商標に接する取引者,需要者は,「役務の提供場所」の表示と認識することが一般であるから,出所識別標識として認識されることが少ないものと認められ,「中央式典」の文字部分及び「けやき」の文字部分が,役務の出所識別標識として認識され得る部分といえる。
そして,指定役務中の葬祭業の分野における取引者,需要者は,これらの役務についての専門業者に限らず,広く一般の消費者が含まれるから,役務に対する注意力は必ずしも高いものではなく,上記2(3)のとおり,簡易,迅速な取引が尊ばれることからすると,引用商標に接する取引者,需要者は,その構成中,最も強く看る者の注意を引く部分である「けやき」の文字をもって取引に当たる場合も少なくないものというべきである。
(3) まとめ
以上によれば,本願商標と引用商標は,その全体の外観構成において相違するとしても,「けやき」の構成文字において同一であって,外観において共通する部分があり,「欅」の観念及び「ケヤキ」の称呼を同一にするものであるから,これを同一又は類似の役務に使用したときは,その出所について紛れるおそれのある類似の商標である。したがって,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。
(4) 原告の主張について
原告は,引用商標は全体として一つの商標として一体的に看取されるようにデザインされており,本願商標と引用商標とでは、外観上共通する要素も見当たらず、両者は全体の印象が大きく異なるので、外観上の差異は明らかであると主張する。しかし,引用商標が,一体的に看取されず,「けやき」の文字,「中央式典」の文字及び「町田駅前会堂」の文字に分離して看取し得るものであり,とりわけ「けやき」の文字部分が看る者の注意を引くことは,上記2(1)に判示したとおりである。
原告は,引用商標中の「中央式典」及び「町田駅前会堂」の表示からも観念が生じるから,引用商標と本願商標とは観念上も相紛れるおそれはないと主張する。確かに,「中央式典」及び「町田駅前会堂」の表示から一定の観念は生じるものの,引用商標に接する取引者,需要者は,その構成中,最も強く看る者の注意を引く部分である「けやき」の文字をもって取引に当たる場合が少なくないことは,上記(2)に判示したとおりである。
原告は,引用商標の称呼が22音と冗長だからといって、引用商標の複雑な構成から「ケヤキ」のみの称呼が生じ得るとの認定は失当であると主張する。しかし,引用商標全体からの称呼が冗長なことは明らかであり,引用商標の「けやき」の文字部分が注目されて「ケヤキ」のみの称呼を生じることもあることは,上記2(3)に判示したとおりである。
原告は,引用商標権者は関東圏で複数の葬儀及び婚礼の式場を所有し運営しているが,原告は ※にて地域に根ざした運営を行っているから,葬儀の執行というサービスの特異性を考慮すれば,本願商標と引用商標とは出所の誤認混同を生じるおそれはないと主張する。しかし,葬儀の執行を中心とする当該指定役務であっても,商標を使用しての広告宣伝がインターネットを通じて全国的に行われることは明らかであるから(乙3~11,13~23),これを利用する一般の取引者,需要者が,類似する商標の使用によって出所の誤認混同を生じるおそれは否定し難く,しかも,引用商標権者における原告主張の事業運営状況が今後変動しないものと認めるに足りる証拠はない。
原告は,引用商標から「けやき」の部分のみを抽出して類否を検討するのは誤りであると主張する。しかし,審決は,結合商標である引用商標から複数の観念及び称呼が生じることを前提として,そのうち出所識別機能の強い「けやき」の部分から生じる観念及び称呼が本願商標から生じる観念及び称呼と同一であるため,外観上の相違及び「けやき」以外の部分から生じる観念及び称呼の相違にもかかわらず,両商標は類似すると判断したものと解され,「けやき」の部分のみを抽出して類否を検討したものではなく,その判断に誤りはない。
したがって,原告の主張は,いずれも理由がない。
第6結論
以上によれば,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 池下朗 裁判官 新谷貴昭)
<編注:『※』部分は原文のとおり>