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知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10262号 判決 2014年9月17日

原告

ザジェネラルホスピタルコーポレイション

訴訟代理人弁理士

渡邊隆

阿部達彦

増本要子

赤井吉郎

被告

特許庁長官

指定代理人

藤田年彦

森林克郎

相崎裕恒

堀内仁子

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1原告が求めた判決

特許庁が不服2010-28631号事件について平成25年5月13日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,特許出願拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,①特許請求の範囲の記載要件(サポート要件,明確性要件)についての判断の当否及び②新規性についての判断の当否である。

1  特許庁における手続の経緯

原告は,平成14年4月30日(優先権主張平成13年4月30日・米国)を国際出願日とし,発明の名称を「焦点特性とコヒーレンス・ゲートを制御するために動的フィードバックを用いた,光干渉トモグラフィにおける写像性と感度を改善するための方法及び装置」とする発明につき,特許出願をしたが(特願2002-585939号,甲3),平成22年8月11日付けで拒絶査定を受けたので,同年12月17日,これに対する不服の審判を請求した(不服2010-28631号)。

原告は,平成24年6月22日付けで拒絶理由の通知を受け,同年12月26日付け手続補正書(甲4。以下「本件補正書」という。)により,特許請求の範囲の変更を内容とする手続補正をした(以下,「本件補正」という。)。

特許庁は,平成25年5月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。

2  本願発明の要旨

本件補正後の請求項の記載は以下のとおりである(甲3,甲4)。なお,請求項1及び請求項8の分節は当裁判所が付した。

【請求項1】

A 少なくとも1つの構造に関連する情報を得るための干渉装置であって,

B 前記少なくとも1つの構造からの少なくとも1つの第1の光,及び基準からの少なくとも1つの第2の光を受信するように構成される少なくとも1つの第1の光カップラ部と,

C 少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定するように構成される少なくとも1つの第2のコンピュータと,を備え,

D 前記少なくとも1つの第2のコンピュータは,距離の関数として,第3の光の光路長を制御するように更に構成され,

E 前記第3の光は,

i)前記少なくとも1つの構造に送信する光又は前記少なくとも1つの構造から受信される光の少なくとも1つ,であるか,又は,

ii)前記基準に送信する光又は前記基準から受信される光の少なくとも1つ,の少なくとも1つであり,

F ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて,前記距離を決定する,干渉装置。

【請求項2】

前記少なくとも1つの部位は,前記少なくとも1つの構造の表面である,請求項1に記載の干渉装置。

【請求項3】

前記少なくとも1つの構造は,生体構造を含む,請求項1に記載の干渉装置。

【請求項4】

前記少なくとも1つの第2のコンピュータは,(i)前記制御された光路長に関する前記少なくとも1つの構造に関連する情報を得て,(ii)前記情報の関数として前記少なくとも1つの部位における少なくとも1つの画像を生成する,請求項1に記載の干渉装置。

【請求項5】

前記少なくとも1つの第2のコンピュータは,前記少なくとも1つの部位の画像が生成されるときに,前記光路長を制御する,請求項1に記載の干渉装置。

【請求項6】

前記少なくとも1つの第2のコンピュータは,前記少なくとも1つの第1の光に基づく前記少なくとも1つの部位からの長さを決定するように更に構成され,

ここで,前記少なくとも1つの第2のコンピュータは,

前記少なくとも1つの構造に送信する少なくとも1つである前記少なくとも1つの第3の光又は前記少なくとも1つの構造から受信される少なくとも1つである前記少なくとも1つの第3の光の少なくとも1つの焦点距離を,前記長さの関数として,制御するように更に構成される,請求項1に記載の干渉装置。

【請求項7】

前記少なくとも1つの第2のコンピュータは,

少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの部位内における光の侵入深さを決定するように更に構成され,

ここで,前記少なくとも1つの第2のコンピュータは,前記光路長の範囲を,前記侵入深さの関数として,制御するように更に構成される,請求項1に記載の干渉装置。

【請求項8】

A 少なくとも1つの構造に関連する情報を得るための干渉方法であって,

B 前記少なくとも1つの構造からの少なくとも1つの第1の光,及び基準からの少なくとも1つの第2の光を受信すること,

C 少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定すること,を含み,

D 前記距離の関数として,第3の光の光路長を制御すること,を更に含み,

E 前記第3の光は,

i)前記少なくとも1つの構造に送信する光又は前記少なくとも1つの構造から受信される光の少なくとも1つ,であるか,又は,

ii)前記基準に送信する光又は前記基準から受信される光の少なくとも1つ,の少なくとも1つであり,

F ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて,前記距離を決定する,干渉方法。

(以下,請求項1に記載された発明を「本願発明1」といい,請求項8に記載された発明を「本願発明8」という。本願発明1から本願発明8までをすべて併せて「本願発明」という。)

3  審決の理由の要点

(1)  特許請求の範囲の記載要件違反(サポート要件違反,明確性要件違反)

ア 本願発明1のA,B,C,Eⅰ)(以下「A等」という。)

本願発明1のAにおいては,「少なくとも1つの構造に関連する情報」と特定されているのに対し,本願明細書(甲3,甲4)の発明の詳細な説明においては,「構造」につき,「2次元にマップ化された生体組織構造の情報」(two-dimensionalmapped information of tissue structure)と記載されているにとどまり,それ以外の記載はない。

本願発明1のA等の「少なくとも1つの構造」が上記「生体組織構造」以外のものを含むことは明らかであるから,本願発明1は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

イ 本願発明1のC及び本願発明8のC

(ア) 本願発明1のC及び本願発明8のCにおいては,「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定する」と特定されているが,①「前記装置の少なくとも1つの部位」,すなわち,「本願発明1に記載された干渉装置の少なくとも1つの部位」の同干渉装置における具体的箇所及び②「基準」からの「第2の光」のみに基づいて「前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離」を決定する方法は,発明の詳細な説明及び技術常識を参酌しても不明である。したがって,本願発明1は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(イ) ①につき,発明の詳細な説明(本願明細書【0007】)には「本発明は,生体組織表面に対するプローブの距離(これは表面トポグラフィーとプローブ長さの設計/構成により変わる)をより正確に特定するための時間遅延走査の方法を提供する。」などと記載されているが,「前記装置の少なくとも1つの部位」は,必ずしも「プローブ」を意味するとはいえず,「プローブ」以外のものを含むことは明らかである。また,本願発明において,「プローブ」は全く特定されていない。

②につき,発明の詳細な説明には,本願発明1の「第1の光」,「第2の光」にそれぞれ相当する「検出光ビーム」と「基準光ビーム」とを干渉させて(本願明細書【0003】参照。),すなわち,「検出光ビーム」及び「基準光ビーム」に基づいて「距離」を決定する技術が記載されており,「検出光ビーム」又は「基準光ビーム」に基づいて,すなわち,いずれか一方の「ビーム」に基づいて「距離」を決定する技術は記載されていない。

ウ 本願発明1のE

本願発明1のEにおいては,「前記第3の光は,i)前記少なくとも1つの構造に送信する光又は前記少なくとも1つの構造から受信される光の少なくとも1つ,であるか,又は,ii)前記基準に送信する光又は前記基準から受信される光の少なくとも1つ,の少なくとも1つであり,」と特定されているが,本願発明1のDの光路長が制御される「第3の光」が,上記ⅰ)の「前記少なくとも1つの構造に送信する光」又は「前記少なくとも1つの構造から受信される光」であることについては,発明の詳細な説明に記載されておらず,また,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,その技術的意味が不明である。

したがって,本願発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(2)  新規性の欠如

前述したとおり,本願発明1は必ずしも明確なものとはいえないが,発明の詳細な説明中,実施例に関する記載内容を参酌することにより善解して,新規性の有無を検討する。

ア 引用発明

引用例(国際公開00/43730号,甲1。なお,「特表2002-535637号公報」〔甲2〕は,甲1に対応する日本語の公開特許公報である。甲1は全文が英文で記載されていることから,以下,引用例の記載は,原則として甲2による。以下では,甲1,甲2を特に区別することなく,「引用例」という。)には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。分節は当裁判所が付した。

A ブロードバンド光を受け取り,基準出力信号および試料戻り信号を生成する試料に向けられるプローブ信号を出力する干渉計と,

B 前記基準出力信号を受け取り,前記干渉計に基準戻り信号を出力するOPSユニットであって,前記干渉計が前記基準戻り信号と前記試料戻り信号とを組み合わせ干渉計出力信号を出力する,OPSユニットと,

C 前記干渉計出力信号を受け取り,検出器出力信号を出力する検出器ユニットと,

D 前記基準出力信号および基準戻り信号のパス長を調整し,目標領域トラッキングを可能にするコンピュータ制御の粗パス長調整機構と,

E を備える光干渉性断層撮影イメージングシステム。

イ 本願発明1と引用発明との対比

以下のとおり,本願発明1と引用発明との間に相違点はなく,両者は同一である。したがって,本願発明1は,引用例に記載された発明といえる。

(ア) 本願発明1のA等の「少なくとも1つの構造」,A及びFの「干渉装置」は,それぞれ,「生体組織試料」,「光干渉トモグラフィ(OCT: opticalcoherence tomography)(光干渉断層計)」であるといえる。

他方,引用発明のA,Bの「試料」には生体組織の一種である「心血管」が含まれており,また,引用発明のEの「光干渉性断層撮影イメージングシステム」は,OCTであるから,本願発明1のAの「少なくとも1つの構造に関連する情報を得るための干渉装置」に相当する。

(イ) 引用発明においては「前記干渉計が前記基準戻り信号と前記試料戻り信号とを組み合わせ干渉計出力信号を出力」(引用発明のB)しているのであるから,その「試料戻り信号」,「基準戻り信号」及び「干渉計」は,それぞれ,本願発明1のBの「少なくとも1つの構造からの少なくとも1つの第1の光」,「基準からの少なくとも1つの第2の光」及び「第1の光カップラ部」に相当する。

(ウ) 引用発明は,①「(判決注:試料)表面の境界を検出」,すなわち,「基準戻り信号」と「試料戻り信号」を組み合わせた「検出器出力信号」(引用発明のB,C)に基づいてOCTプローブと試料表面との距離を測定しており,また,②引用発明のDの「コンピュータ」は,「検出器出力信号」の入力を受けて「粗パス長調整機構」を制御していることから,OCTプローブと試料表面との距離を決定しているということができる。

そうすると,引用発明は,本願発明1のCのいう「少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定するように構成される少なくとも1つの第2のコンピュータ」を「備え」ているといえる。

(エ) 引用例の「発明の実施の形態」において,「基準アームモジュール40は,点線のボックスとして大まかに示されている粗パス長調整機構45を備えており,これはコンピュータ110によって制御される。粗パス長調整機構45は,目標領域トラッキングの特定の実施例であり,試料内での測定位置の修正や,異なる光学遅延を有し得る異なるタイプのプローブモジュールを収容することを可能にする。」と記載されていることから,引用発明においては,「コンピュータ110」は目標領域トラッキングを可能とするために,OCTプローブと試料表面との距離に基づいて,「基準戻り信号」のパス長を調整,すなわち,「基準戻り信号」の光路長を制御しており,「基準戻り信号」は本願発明1のEⅱ)「基準から受信される光」に相当するものといえる。

そうすると,引用発明においても,本願発明1のD,Eⅱ)のいう「前記少なくとも1つの第2のコンピュータは,距離の関数として,第3の光の光路長を制御するように更に構成され,前記第3の光は,前記基準に送信する光又は前記基準から受信される光の少なくとも1つ,の少なくとも1つ」であるといえる。

(オ) 引用例の「発明の実施の形態」において,「しかしながら,腔壁を検出するための検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズムあるいは他の画像処理アルゴリズム)を用いることによって,信号補正プロセッサ100(図1A,1B,1D)が粗パス長調整機構45を調整することができ,したがって走査中心を調整することができる。」と記載されていることから,引用発明においては「検出器出力信号」を「しきい値を用いたアルゴリズムあるいは他の画像処理アルゴリズム」により処理し,OCTプローブと試料表面との距離を決定しているところ,「他の画像処理アルゴリズム」に「一次導関数処理」等が含まれていることは,例えば,特開平9-305766号公報(甲5。以下「平成9年公報」という。)の【0007】に記載されているように,本願発明の優先権主張日(以下「本願優先日」という。)において技術常識であった。

したがって,引用発明においても,「検出器出力信号」を本願発明1のFのいう「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて」処理しているといえる。

(カ) 引用例の「発明の実施の形態」において,「目標領域のトラッキングは,血管の壁のような特徴を検出することにより試料内の目標領域内に走査範囲を保つように自動的に走査の中心を動的に調整する。」という記載からみて,引用発明は,本願明細書の【0005】に記載された「走査の開始位置を異なる場所に調整するために,生体組織表面を特定することを使うことが望ましかろう。表面を特定すれば,サンプリングアーム内での焦点位置を調整するのにも利用できよう。走査範囲を調整するのに生体組織内での光の減衰を特定することを使えれば,さらに望ましかろう。この減衰の特定は,最適の焦点深度ないし共焦点パラメータを決定するのにも用いることができよう。」という課題を解決するものである。

(3)  小括

以上によれば,本願発明1は,特許法36条6項1号及び2号の要件を満たしておらず,また,同法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないから,ほかの請求項に言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(特許請求の範囲の記載要件についての判断の誤り)

(1)  本願発明1のA等について

当業者は,本願発明1のA等の「構造」という用語に接すれば,それが「生体組織構造」を包含するとともに,それのみに限定されないものであることを理解するはずである。

他方,発明の詳細な説明は,全体において「生体組織構造」に言及しているものの,当業者がこれに接すれば,①本願発明の名称からも,本願発明1のいう「干渉装置」が「光干渉トモグラフィ(OCT:optical coherence tomography)」に関するものであること,②光干渉トモグラフィが生体のみならず広く対象物の表面性状を検出するものであることを理解するはずである。現に,OCTの原型となる技術の発明に係る特公平6-35946号公報(甲6。以下「平成6年公報」という。)によれば,OCT技術は,本来的に,生体診断に適用が限定されるものではなく,半導体等の材料測定等にも適用されることが意図されているものといえる。

以上によれば,本願発明1は発明の詳細な説明に記載されたものでないという本件審決の認定は誤りである。

(2)  本願発明1のC及び本願発明8のCについて

ア 当業者であれば,本願発明1のC及び本願発明8のCのいう「前記装置の少なくとも1つの部位」が発明の詳細な説明に記載されている「プローブ」を含む「センシングを行うための部位」を意味することを,直ちに理解する。

したがって,本願発明においてプローブは特定されておらず,「前記装置の少なくとも1つの部位」の具体的箇所が不明であり,本願発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではないという本件審決の認定は誤りである。

イ 当業者は,本願発明1のC及び本願発明8のCのいう「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定する」との記載が,第1の光又は第2の光のどちらか一方の光路長を固定する,すなわち,第1の光又は第2の光のどちらか一方に基づいて,他方の光路長を最適な干渉が得られる光路長に調整する,すなわち「少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定する」旨を意味することを理解するはずである。

したがって,本願発明1のC及び本願発明8のCのいう「第1の光」又は「第2の光」いずれか一方の「ビーム」に基づいて「距離」を決定するという技術は発明の詳細な説明に記載されておらず,本願発明1は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないという本件審決の認定は誤りである。

(3)  本願発明1のEについて

当業者であれば,前述のとおり,本願発明1のいう「干渉装置」が「光干渉トモグラフィ」に関するものであり,光路長が制御される「第3の光」が本願発明1のEⅰ)の「前記少なくとも1つの構造に送信する光」又は「前記少なくとも1つの構造から受信される光」でなければ,「光干渉トモグラフィ」として成立しない旨を直ちに理解するはずである。

また,光路長が制御される「第3の光」は,本願発明1のEⅱ)の「基準に送信する光又は基準から受信される光」とするのが一般的であるものの,本願発明1のEⅰ)の「1つの構造に送信する光又は1つの構造から受信される光」を「第3の光」としてその光路長を制御することも可能である。

以上によれば,「第3の光」が,本願発明1のEⅰ)の「前記少なくとも1つの構造に送信する光」又は「前記少なくとも1つの構造から受信される光」であることが,発明の詳細な説明に記載されておらず,また,その技術的意味が不明であるという本件審決の認定は誤りである。

2  取消事由2(新規性についての判断の誤り)

前記第2の3(2)イ(ウ)及び(オ)は誤りであり,本願発明1と引用発明は同一であるという本件審決の認定は誤りである。

(1)  上記(オ)については,本願発明1のFにおいては,「干渉装置」につき,「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて,前記距離を決定する」と特定されているところ,引用例においては,「距離を決定する」ことについて直接の言及はなく,上記発明特定事項が何ら開示されていない。

(2)  平成9年公報が,本願発明1において特定されているような処理を開示しているとしても,同公報記載の処理は,画像の濃淡強度変化を検出するためのものであって,本願発明1のように,「構造の少なくとも1つの部位と装置の少なくとも1つの部位との間の距離」を決定するために用いられるものではないから,同公報は,距離の決定に関しては何も開示していないといえる。したがって,同公報記載の処理をもって,本願発明1のFのいう「前記距離を決定する」,すなわち,「構造の少なくとも1つの部位と装置の少なくとも1つの部位との間の距離を決定する」際の技術常識と認定することはできず,上記処理を引用発明に適用したとしても,引用発明は,本願発明1のFの前記発明特定事項を欠くといわざるを得ない。

また,平成9年公報においては,OCT装置への適用は示唆されていない。

第4被告の反論

1  取消事由1(特許請求の範囲の記載要件についての判断の誤り)について

(1)  本願発明1のA等について

本願発明1のA等の「少なくとも1つの構造」は,「生体組織構造」に限定されず,それ以外の「構造」を含むものであるが,これは,発明の詳細な説明に記載されておらず,本件審決の認定に誤りはない。

ア 本願発明1のA等の「構造」には,生体組織構造以外の,例えば,半導体等の組成分布や形状等も含まれる。

他方,発明の詳細な説明において,「構造」は,「2次元にマップ化された生体組織構造」(本願明細書【0003】)のように,生体組織に限定する修飾が付された「構造」としてのみ記載され,ほかに「構造」という記載は全く見当たらない。また,「構造」は,本願発明1の干渉装置が情報を得る(測定する)対象であるところ,発明の詳細な説明に記載された干渉装置の測定対象は,一貫して,専ら生体組織である(本願明細書【0002】から【0006】,【0012】,【0019】,【0034】,【0035】及び【0041】)。

そうしてみると,本願発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

イ(ア) 本願発明1の特許請求の範囲には,本願発明1の「干渉装置」がOCTに関するものであることが,記載されていない。すなわち,OCTが他の干渉計と相違する本質は,光のコヒーレンスが不完全である(部分コヒーレントである)ことにあるが,本願発明1の特許請求の範囲には,「光」とのみ記載されている。

本願発明1の特許請求の範囲は,マイケルソン干渉計(乙1)に対しても適用可能なように記載されているから,例えば,乙1号証に接した当業者が本願明細書(甲3,甲4)を読めば,発明の詳細な説明にはOCTのみが記載されているのに対し,特許請求の範囲には,マイケルソン干渉計における走査範囲の制御や,初期設定時の位相合わせに適用できる発明が記載されていることを理解するはずである。

(イ) 発明の詳細な説明にはOCTについての記載が見られるが,それをもって,本願発明1の「干渉装置」の測定対象が,OCTの原理からは測定可能といえるものの,発明の詳細な説明に記載されておらず,示唆もされていない測定対象にまで拡張されることにはならない。加えて,発明の詳細な説明においては,OCTの定義につき,「一つのイメージング技術であり,この技術は,標的の生体組織領域に入射してから生体組織内で散乱により反射されて検出器へと戻る検出光ビームと,基準光ビームとの間の干渉を測定するものである。」(本願明細書【0003】)と記載されており,測定対象を生体組織に限定している。

(2)  本願発明1のC及び本願発明8のCについて

「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定する」については,以下の点において,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず,また,発明の詳細な説明の記載の内容に対応しておらず,不明確であり,本件審決の結論に誤りはない。

ア 「前記装置の少なくとも1つの部位」という記載のみでは,文理上,発明の詳細な説明に記載されている「プローブ」を含む「センシングを行うための部位」以外の部位も含まれることは明らかである。

イ 「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定する」という記載のみでは,文理上,「第1の光」又は「第2の光」のいずれか一方のみで,距離を決定することが含まれることは明らかである。他方,発明の詳細な説明には,いずれか一方のみによって距離を決定する技術は記載されていない。

(3)  本願発明1のEについて

「前記第3の光は,i)前記少なくとも1つの構造に送信する光又は前記少なくとも1つの構造から受信される光の少なくとも1つ,であるか,又は,ii)前記基準に送信する光又は前記基準から受信される光の少なくとも1つ,の少なくとも1つであり」について,発明の詳細な説明には,本願発明1の「距離の関数として」「光路長を制御」される「第3の光」につき,「ii)前記基準に送信する光又は前記基準から受信される光の少なくとも1つ」であることに対応する「参照アームの遅延」が開示されているものの,本願発明1の「i)前記少なくとも1つの構造に送信する光又は前記少なくとも1つの構造から受信される光の少なくとも1つ」であることは開示されておらず,したがって,上記ⅰ)は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないというべきであり,また,発明の詳細な説明の記載と対応しておらず不明確ともいえ,本件審決の認定に誤りはない。

2  取消事由2(新規性についての判断の誤り)について

前記第2の3(2)イ(ウ)及び(オ)に誤りはなく,本願発明1と引用発明を同一であるとした本件審決の認定に誤りはない。

上記(オ)につき,本件審決が,引用例の「発明の実施の形態」に記載された「他の画像処理アルゴリズム」の趣旨を解釈するに当たり,平成9年公報に記載されている画像処理アルゴリズムを技術常識として参酌し,引用発明においても,「検出器出力信号」を本願発明1のFのいう「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて」処理していると認定した点に誤りはない。

(1)ア  発明の詳細な説明に開示された実施例において,①本願発明1のFの「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて,前記距離を決定する」構成及び②本願発明1のDの「距離の関数として,第3の光の光路長を制御する」構成に対応する構成は,「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定又は当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて,画像データから生体組織表面を見つけることにより,生体組織表面までの距離を決定し,走査範囲を制御する」構成である(本願明細書【0019】から【0025】等)。

他方,引用発明は,「前記基準出力信号および基準戻り信号のパス長を調整し,目標領域トラッキングを可能にするコンピュータ制御の粗パス長調整機構」の構成(引用発明のD)を具備するところ,引用例には,この構成に関し,①動脈の表面の境界を検出して,基準アームのパス長をそれに従って調整することにより,走査の効率を劇的に向上させることができること,②腔壁を検出するための検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズム又は他の画像処理アルゴリズム)を用いることによって,信号補正プロセッサが粗パス長調整機構を調整することができ,したがって,走査中心を調整することができることが開示されている。また,引用発明は,光干渉性断層撮影イメージングシステム(OCT)であるから,動脈等の表面の境界は,原理的に,光の強度の急激な変化,すなわち,濃淡の大きな変化として観測される。

イ  引用例のいう「画像処理アルゴリズム」において,濃淡強度変化を一次導関数や二次導関数によって検出することは技術常識である(平成9年公報【0007】)。

したがって,当業者がこの技術常識を踏まえて引用例に接すれば,引用例には,画像処理アルゴリズムを用いて一次導関数や二次導関数によって前記のとおり濃淡の大きな変化として観測される動脈等の表面の境界を検出し,これにより,信号補正プロセッサが粗パス長調整機構を調整することができ,走査中心を調整できることが記載されていると理解するはずである。

以上によれば,引用例に,本願発明1のFの「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて,前記距離を決定する」構成が記載されているとした本件審決の認定に誤りはない。

(2)  原告は,平成9年公報につき,①距離の決定について何ら開示していないこと,②同公報に記載されている処理は画像の濃淡強度変化を検出するためのものであることを指摘し,上記処理をもって,本願発明1の「構造の少なくとも1つの部位と装置の少なくとも1つの部位との間の距離を決定する」際の技術常識と認定することはできない旨主張する。

ア ①の点については,動脈等の表面の境界までの距離を決定する構成それ自体は,引用例に記載されている。

すなわち,引用例の記載から,引用発明において,「基準戻り信号」と「試料戻り信号」を組み合わせた「検出器出力信号」に基づいてOCTプローブと試料表面との距離を測定していることは明らかである。そして,引用発明の「コンピュータ」には「検出器出力信号」が入力され,「粗パス長調整機構」を制御しているのであるから,「コンピュータ」は,OCTプローブと試料表面との距離を決定しているといえる。

イ ②の点については,前述したとおり,引用発明において,動脈等の表面の境界は,濃淡が大きく変化する場所として観測されるものであるから,画像処理アルゴリズムとしては,引用例記載のもの及び平成9年公報記載のもののいずれも,同じ信号処理にすぎないといえる。したがって,引用例に記載された「他の画像処理アルゴリズム」の趣旨の解釈に際し,平成9年公報に記載された処理を技術常識として参酌したことに誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(特許請求の範囲の記載要件についての判断の誤り)について

(1)  本願発明1のA等について

ア 本願明細書には,以下の記載がある。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

・・・

【0002】

本発明は,試料表面から反射され,基準光ビームと比較される低干渉性光ビームを用いた光学的イメージング(光学的な撮像)のための方法であって,参照点を基準にした生体組織試料の表面位置と必要な遅延走査範囲(delay scan range)を検出するために実時間動的光学的フィードバックを用いる方法に関する。また,本発明は,この方法を実施するための撮像プローブ装置に関する。

【背景技術】

【0003】

光干渉トモグラフィ(OCT ; optical coherence tomography)(光干渉断層計)は,一つのイメージング技術であり,この技術は,標的の生体組織領域に入射してから生体組織内で散乱により反射されて検出器へと戻る検出光ビームと,基準光ビームとの間の干渉を測定するものである。血管をOCT撮像する際には,撮像プローブを血管内に挿入し,血管壁を予め設定された一連の弧からなるセグメントで360度周方向走査し,これにより,一つの断層イメージを得る。このプローブ先端部は,軸線周りに生体組織断面を周方向走査するように,そして縦方向に血管を区分した長さを走査するように回され,こうして,2次元にマップ化された生体組織構造の情報が得られるようになっている。管腔内のプローブの軸線方向位置は,管腔の軸線方向中心に対して変わらない。しかしながら,壁の表面は,局所的様相や幾何学形状の点で変化することがあり,プローブ先端部と表面との間の距離が変わることになる。従来のOCT撮像は,所定高さからなる概ね矩形の「ウィンドウ(window)」の中に入射光ビームを生成するのに,決められた波形を用いているため,壁の表面高さが変わると,血管壁の所定領域における生体組織データを収集するのに誤差が生じる可能性がある。波形を変調させて,これによりプローブが何処にあって何を見ているかに基づきウィンドウをシフトさせるようなフィードバック機構を設けることが望ましいと考えられる。

【0004】

典型的なOCTシステムの場合,走査する線(scanning line)の長さとその初期位置は,常に一定でありかつ固定されていた。上記問題を克服するための一つのやり方は,ウィンドウをより大きくすることであるが,その際の問題は,同じ時間の間により大きな面積(エリア)に亙って情報を集めるせいで,信号対ノイズ比ならびにそれに伴う感度が悪くなるということにある。

【発明の開示】

【発明が解決しようとする課題】

【0005】

走査の開始位置を異なる場所に調整するために,生体組織表面を特定することを使うことが望ましかろう。表面を特定すれば,サンプリングアーム内での焦点位置を調整するのにも利用できよう。走査範囲を調整するのに生体組織内での光の減衰を特定することを使えれば,さらに望ましかろう。この減衰の特定は,最適の焦点深度ないし共焦点パラメータを決定するのにも用いることができよう。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明は,試料表面から反射されて基準光ビームと比較される低干渉性光ビームを用いる光学的イメージングを提供する。その際,参照点を基準にした生体組織試料の表面位置及び必要な遅延走査範囲(delay scan range)を見つけるために実時間動的光学的フィードバックが用いられる。また,本発明は,この方法を実施するための撮像プローブ装置に関する。このプローブは,生体組織表面を見つけるまで,最初に一本の線に沿って走査を行う。生体組織表面は,信号無しの状態からより大きな信号への鋭い推移として特定することができる。次に,該プローブが次の線を走査するときには,前回の走査に応じて波形を調整する。

【0007】

本発明は,以下に記載されるような時間遅延走査ユニットを提供する。また,本発明は,光学的走査システムのための焦点調整機構をも提供する。また,本発明は,生体組織表面に対するプローブの距離(これは表面トポグラフィーとプローブ長さの設計/構成により変わる)をより正確に特定するための時間遅延走査の方法を提供する。

【0008】

本発明では,遅延線を作り出すための幾つかの新しい機構の一つとして,ロッキングミラー(rocking mirror)が設けられる。ロッキングミラーは,コンピュータならびに走査プローブと同期させたまま,遥かに素早くかつより正確に動かすことができる。本発明は,位置を特定するための一つのアルゴリズムを提供し,これにより,プローブ先端部から生体組織までの距離に合わせるようにして,ガルバノメータのDCオフセット角に対する変化が決定されるようになっている。加えて,本発明は,有用/有効な画像情報だけが含まれるようにコヒーレンス・ゲート走査深さ(coherence gate scan depth)を調整するため,ガルバノメータのAC角を変更するための動的なアクティブ・フィードバックを提供する。また,最終的に,本発明は,動的なアクティブ・フィードバック用いて,カテーテルの集光特性(焦点距離,スポットサイズ,及び共焦点パラメータ)を調整することが可能である。

・・・

【発明を実施するための最良の形態】

・・・

【0036】

本発明の鍵となる特徴は,位置が分かっていれば,焦点をどこに動かすべきか算出することができるという点である。毎回焦点が最適となるまで焦点を修正変更する必要はなく,1回だけしかも一旦S(判決注:生体組織表面)が算出されれば,その後は,走査に関する前のもしくは現在のSを用いて焦点が修正変更される。本発明により,不規則な表面を有する生体組織を撮像し,概ね全画像を視野に置くことが可能になる。さらに,有用な画像情報しか含まないように走査範囲が削減され,そのため,信号の帯域幅が減り,場合によっては3~5倍程までも画像感度が向上する。・・・感度を増加させることは,精度を保ちつつ速度を上げるということ(と)等価である。この点は,心血管システムを撮像する際に重要である。さらに,速度を増やすことによって,管腔の拡張を伴う心拍ならびに血圧に起因したモーション・アーティファクト(motion artifact)と,それに付随したアーム-試料距離の修正変更が低減する。オートフォーカスにより,どの走査位置に対しても,素早く生体組織上に最適な焦点を位置決めすることが可能になり,こうして,画像がより鮮明になる。また,本発明は,プローブ長さの変動を補償するという利点も有している。

・・・

イ(ア) 本願発明1のA等の「少なくとも1つの構造」についてみると,Aには「少なくとも1つの構造に関連する情報を得るための干渉装置」と記載されているところ,本願発明の名称及び前記アの本願明細書の記載によれば,本願発明は光干渉トモグラフィ(OCT: optical coherence tomography)に関する発明であり,上記「干渉装置」とは,OCT装置を意味するものと解され,したがって,上記「構造」は,OCT装置によって測定される対象を指すものと解される。

そして,「構造」には何らの限定も付されておらず,また,本願発明の【請求項3】には「前記少なくとも1つの構造は,生体構造を含む」と記載されていることから,生体組織構造など特定の測定対象のみに限定する趣旨ではないものと解するのが相当である。

(イ)a そこで,上記測定対象に関し,発明の詳細な説明の内容を検討する。

前記アのとおり,本願明細書中【背景技術】【0003】においては,「光干渉トモグラフィ」の説明として,「標的の生体組織領域に入射してから生体組織内で散乱により反射されて検出器へと戻る検出光ビームと,基準光ビームとの間の干渉を測定するものである。血管をOCT撮像する際には,撮像プローブを血管内に挿入し,血管壁を予め設定された一連の弧からなるセグメントで360度周方向走査し,これにより,一つの断層イメージを得る。このプローブ先端部は,軸線周りに生体組織断面を周方向走査するように,そして縦方向に血管を区分した長さを走査するように回され,こうして,2次元にマップ化された生体組織構造の情報が得られるようになっている。」と記載され,従来のOCT撮像の問題点として,「・・・壁の表面高さが変わると,血管壁の所定領域における生体組織データを収集するのに誤差が生じる可能性がある。」と記載されている。

本願明細書中【発明が解決しようとする課題】【0005】において「生体組織表面を特定することを使うことが望ましかろう。」,「走査範囲を調整するのに生体組織内での光の減衰を特定することを使えれば,さらに望ましかろう。」と記載されており,【課題を解決するための手段】において「参照点を基準にした生体組織試料の表面位置及び必要な遅延走査範囲(delay scan range)を見つけるために実時間動的光学的フィードバックが用いられる。」,「このプローブは,生体組織表面を見つけるまで,最初に一本の線に沿って走査を行う。生体組織表面は,信号無しの状態からより大きな信号への鋭い推移として特定することができる。」(【0006】),「本発明は,生体組織表面に対するプローブの距離(中略)をより正確に特定するための時間遅延走査の方法を提供する。」(【0007】),「プローブ先端部から生体組織までの距離に合わせるようにして,ガルバノメータのDCオフセット角に対する変化が決定される」,「本発明は,(中略)カテーテルの集光特性(中略)を調整することが可能である。」(【0008】)と記載されている。

本願明細書中「発明を実施するための最良の形態」【0036】においては,「本発明の鍵となる特徴」に関し,「本発明により,不規則な表面を有する生体組織を撮像し,概ね全画像を視野に置くことが可能になる。」,「この点は,心血管システムを撮像する際に重要である。さらに,速度を増やすことによって,管腔の拡張を伴う心拍ならびに血圧に起因したモーション・アーティファクト(motion artifact)と,それに付随したアーム-試料距離の修正変更が低減する。オートフォーカスにより,どの走査位置に対しても,素早く生体組織上に最適な焦点を位置決めすることが可能になり」との記載が見られる。

b 以上によれば,発明の詳細な説明においては,「背景技術」,「発明が解決しようとする課題」,「課題を解決するための手段」,「発明を実施するための最良の形態」を通じ,一貫して,生体組織構造を測定対象とするOCT技術について記載されており,添付の図表などその余の部分も含め,生体組織構造以外の測定対象についての記載は全く見られない。なお,添付の図表も,その多くについて,例えば「図2Aは,1回の外形輪郭走査波形による血管壁オフセット輪郭のグラフを示す。」(【0012】)など,明らかに生体組織構造を測定対象とすることを前提とした説明が付されている。

(ウ)a 以上のとおり,本願発明1の特許請求の範囲の記載中,A等の「構造」は,OCT装置によって測定される対象を指すものであるところ,それは,特定の測定対象に限らず,生体組織構造以外のものも含む趣旨と解すべきであるが,発明の詳細な説明においては,OCT装置による測定対象,すなわち,「構造」につき,専ら生体組織構造についての記載に終始しており,それ以外の測定対象に関する記載は見られない。

b この点に関し,発明の詳細な説明は,当該発明の内容を公開するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲を明らかにするという役割を担うものというべきである。そして,特許法36条6項1号の趣旨は,上記役割を前提として,発明の詳細な説明に記載されていない発明が特許請求の範囲に記載されることによって,公開されていない発明につき独占的,排他的な特許権が発生するという事態を防止することにあるものと解される。

以上の点を考慮すると,発明の詳細な説明の記載は,出願時において,当業者が同記載のみをもって,特許請求の範囲に記載された当該発明の内容を理解し得るものか,又は,当業者が出願時の技術常識を参酌して同記載から,特許請求の範囲に記載された当該発明の内容を理解し得るものであることを要するというべきである。

(エ) そこで,本願優先日当時の技術常識について検討する。

a 平成6年公報は,OCT技術を用いた「光波反射像測定装置」の発明に係るもので,本願優先日である平成13年4月30日よりも前の平成6年5月11日に公告されているところ,〔実施例〕において「この発明の原理を用いることにより,生体,結晶,半導体,複合物質等等の多層断層像の観測を無侵襲で迅速に行うことができ,医療診断をはじめ工学的材料構造測定などに適用することが可能である。」(6頁右欄)と記載されている。

しかしながら,平成6年公報は,A元山形大学教授がOCT原理を発明してほか2名と連名で平成2年11月6日に出願した特許発明に係るものであり,日本国内におけるOCT原理の公的記録として最初のものである(甲6,乙2,乙3)ことに鑑みると,同公報の上記記載は,OCT原理の発明当初において将来的に適用を期待し得る分野を挙げたにすぎないといえる。しかも,同公報は,OCT原理を生体組織構造以外の測定対象に適用することにつき,その可否の検討や実例の有無など,具体的事項には何ら言及していない。

このことから,平成6年当時においては,いまだ,OCT技術が生体組織構造以外の測定対象にも適用されることが当業者に周知されていたとまではいい難い。

b もっとも,引用例は,後述するとおり,光干渉断層撮影イメージングシステム,すなわち,OCT装置に係るものであり,本願優先日の前である平成12年7月27日に国際公開されているところ,その【発明の詳細な説明】中,【従来の技術】において「OCT技術は光ファイバベースであり,広範囲の医学,顕微鏡への応用,あるいは産業への応用に結びつけられ得る。」,【発明の実施の形態】において,「プローブモジュールの例には,(中略)射出成型機用のプローブ,ウェブインスペクション機などが含まれる。」,「試料は,ウェブインスペクションでのポリマーフィルムの製造におけるように走査されることもできる。」などと記載されている。これらの記載内容によれば,遅くとも引用例が国際公開された平成12年当時においては,OCT技術が生体組織構造以外の測定対象にも適用されることが当業者に周知されていたものと認められ,したがって,本願優先日当時,OCT技術が生体組織構造以外の測定対象にも適用されることは技術常識であったものと推認できる。

(オ) 本願優先日当時,当業者は,上記技術常識を参酌すれば,発明の詳細な説明において生体組織構造以外の測定対象に言及されていなくても,OCT装置に係る発明である本願発明1が生体組織構造以外のものについても測定対象とすること,すなわち,本願発明1のA等の「構造」が生体組織構造以外の測定対象を含むことを当然に理解し得たといえる。

したがって,本件審決が,本願発明1のA等の「構造」に関し,本願発明1は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないと判断した点は誤りである。

ウ 被告は,本願発明1の特許請求の範囲には,「干渉装置」がOCTに関するものであることが記載されておらず,マイケルソン干渉計に対しても適用可能なように記載されているなどと主張するが,本願発明1がOCT装置に関するものであることは,前述のとおり,発明の名称自体からも明らかといえるから,上記主張は採用できない。

(2)  本願発明1のC及び本願発明8のCについて

ア 「前記装置の少なくとも1つの部位」の「前記装置」は,「干渉装置」,すなわち,OCT装置を指すものと解されるが,「少なくとも1つの部位」が具体的に上記OCT装置のどの箇所,部位を指すのかは特定されておらず,発明の詳細な説明,図面を参酌しても明らかではない。

これに対し,原告は,当業者であれば,「前記装置の少なくとも1つの部位」が発明の詳細な説明に記載されている「プローブ」を含む「センシングを行うための部位」を意味することを直ちに理解するはずである旨主張するが,OCT装置は,甲3号証の図16(後掲)のとおり,光走査プローブのほか,低干渉性光源,シングルモードファイバ,光カップラ部,光ロータリジョイント,コンピュータ等により構成されており,「プローブ」以外の部位を含むことは明らかといえるから,当業者において,原告主張のとおり一義的に理解することは考え難いというべきであり,同主張は採用できない。

以上によれば,「前記装置の少なくとも1つの部位」の「干渉装置における具体的箇所」は不明であるとした本件審決の認定に誤りはないというべきである。

イ(ア)a 「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定する」は,形式的に文言どおり読めば,「前記第1の光又は第2の光のいずれか一方のみに基づいて(中略)距離を決定する」を意味するものと解され,これには,「第2の光」のみに基づいて「距離を決定する」ことも含まれる。

b 他方,前記のとおり,発明の詳細な説明は,OCT装置につき,「標的の生体組織領域に入射してから生体組織内で散乱により反射されて検出器へと戻る検出光ビームと,基準光ビームとの間の干渉を測定するもの」(本願明細書【0003】)と定義しているところ,生体組織領域に入射した後,反射されて検出器へ戻るという「検出光ビーム」は,「少なくとも1つの構造からの少なくとも1つの第1の光」(本願発明1のB)に,「基準光ビーム」は,「基準からの少なくとも1つの第2の光」(本願発明1のB)に,それぞれ相当すると解される。したがって,上記定義中「検出光ビームと,基準光ビームとの間の干渉を測定するもの」は,「第1の光と,第2の光との間の干渉を測定するもの」であり,これは,第1の光及び第2の光の両方に基づく測定を行う趣旨であることが明らかである。「課題を解決するための手段」においても,「本発明は,試料表面から反射されて基準光ビームと比較される低干渉性光ビームを用いる光学的イメージングを提供する。」(同【0006】)と記載されており,基準光ビームと,「第1の光」に相当する「低干渉性光ビーム」を比較するというのであるから,これも両方の光を用いることは明らかといえる。これに対し,「第1の光」又は「第2の光」のいずれか一方のみを用いることについては,発明の詳細な説明に何ら記載されていない。

(イ) しかしながら,そもそも,OCT技術は,光源からの光を2つに分け,うち一方の光(物体光)を測定対象物に照射し,反射されて戻ってきたものをもう一方の光(参照光)と互いに干渉させながら光検知器に至らせ,物体光情報(上記照射から反射されて戻ってくるまでの過程において物体光に反映された情報)から測定対象物内部の層構造を表示する技術であり(甲6,乙2,乙3),2つの光の干渉作用は,OCT技術の本質というべきものである。1つの光のみに基づいて距離を決定する方法は,正に上記本質に反するものであるから,OCT技術に関するものにおいてはおよそあり得ないといえる。そして,以上の点は,本願優先日当時,技術常識として広く当業者に周知されていたものと認められる。

したがって,当業者であれば,前記の「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて」は,「少なくとも1つの前記第1の光及び前記第2の光に基づいて」の明白な誤記である旨を理解するものと認められる。このことから,本願発明1のC及び本願発明8のCには,実質的に,「前記第1の光及び前記第2の光」に基づいて「距離を決定」することが記載されているものというべきである。

(ウ) 以上によれば,本件審決が,本願発明1のC及び本願発明8のCの記載に「基準」からの「第2の光」のみに基づいて「距離を決定」することが含まれていることを前提として,本願発明1は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない旨認定した点は誤りである。

(3)  本願発明1のEについて

ア 本願発明1のEの「第3の光」は,本願発明1のC及びDによれば,「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定するように構成される少なくとも1つの第2のコンピュータ」によって光路長を制御されるものである。

イ(ア) 「第2のコンピュータ」は,本願発明の一実施形態による装置の概略図である甲3号証の図16(後掲)の「コンピュータ」に相当し,本願明細書の【0027】に「図9(判決注:甲3号証の図9,後掲)に戻って,ブロック16において参照アーム遅延波形を修正/調整する。コンピュータによって収集されたデータと参照アーム位置との間には,既知の1:1の関係がある。光遅延線を制御する波形を修正/調整するために,S(判決注:表面位置)及びR(判決注:走査範囲)を用いることができる。」と記載されているところ,「参照アーム」は「参照光」に関わるものであることに鑑みると,発明の詳細な説明には,参照光,すなわち,基準光が「第2のコンピュータ」に光路長を制御される対象として記載されているものと認められる。

そして,基準光は,本願発明1のEのうち「ii)前記基準に送信する光又は前記基準から受信される光の少なくとも1つ」に相当する。

(イ) 他方,本願発明1のEのうち「i)前記少なくとも1つの構造に送信する光又は前記少なくとも1つの構造から受信される光の少なくとも1つ」は,検出光を指すものと解されるところ,これを「第2のコンピュータ」に光路長を制御される対象とすることについては,発明の詳細な説明においてそのような趣旨の記載は見当たらず,また,本件証拠上,本願優先日当時において技術常識であったとも認められない。

したがって,本願発明1のEⅰ)は,発明の詳細な説明に記載されておらず,技術的意味も不明である旨の本件審決の認定に誤りはない。

ウ(ア) 原告は,当業者であれば,光路長が制御される「第3の光」が本願発明1のEⅰ)の「少なくとも1つの構造に送信する光」又は「少なくとも1つの構造から受信される光」でなければ,「光干渉トモグラフィ」として成立しない旨を直ちに理解するはずである旨主張する。

しかしながら,原告の主張は,光路長を制御される対象が検出光でなければ「光干渉トモグラフィ」として成立しないことを前提としているが,本件証拠上,同前提の根拠は不明である上,前述したとおり,発明の詳細な説明においては,基準光が上記対象として記載されているのであるから,同前提によれば,発明の詳細な説明に記載された内容が「光干渉トモグラフィ」として成立しないことになる。

したがって,原告の前記主張は前提自体が誤りといえ,採用できない。

(イ) また,原告は,「1つの構造に送信する光又は1つの構造から受信される光」を「第3の光」としてその光路長を制御することも可能である旨主張する。

しかしながら,原告主張の事実は客観的裏付けを欠き,仮にそのとおりの事実が存在するとしても,本件において,本願優先日当時に同事実が技術常識であったことを認めるべき証拠はないことから,原告の前記主張は前記結論を揺るがすものとはいえない。

file_2.jpgavoten 35a: 9file_3.jpg2 6 i 3 \__7, arse r\ ‘ eo I 1 AOI! = 5 12 22 2328 25 4 i 20-4 awe aaa |{o}-foens | # abe 27 id 26-1 Sos FIG. 16【符号の説明】

【0052】1A・・・光干渉トモグラフィ

2・・・低干渉性光源

3,5,7,10・・・シングルモードファイバ

4・・・光カップラ部

6・・・光ロータリジョイント

8・・・光走査プローブ

9・・・コネクタ部

11・・・生体組織

12・・・フォトダイオード

13・・・回転駆動ユニット

14・・・光路長の可変機構

16・・・グレーティング(回折格子)

18・・・1軸ステージ

19・・・ガルバノメータミラー

20・・・ガルバノメータコントローラ

23・・・復調器

25・・・コンピュータ

S・・・表面位置

R・・・走査範囲

(4) 小括

以上のとおり,本件審決の判断は,本願発明1のA等の「構造」並びに本願発明1のC及び本願発明8のCのいう「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて」に関し,本願発明1が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず,特許法36条6項1号の要件を満たしていないと判断した点は誤りであるものの,その余の争点について同法36条6項1号,2号の要件を満たしていない旨判断した点に誤りはないといえるから,前記誤りは,本件審決の結論に影響するものではない。

したがって,本願発明には,特許請求の範囲の記載要件違反が認められ,原告の請求は理由がないものといえる。

2  取消事由2(新規性についての判断の誤り)について

本件事案の性質に鑑み,取消事由2についても判断する。なお,本願発明1においては,前述したとおり,①本願発明1のC及び本願発明8のCのいう「少なくとも1つの前記第1の光又は前記第2の光に基づいて,前記少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定する」のうち,「前記装置の少なくとも1つの部位」,すなわち,「本願発明1に記載された干渉装置の少なくとも1つの部位」の同干渉装置における具体的箇所,②本願発明1のEのいう「前記第3の光は,i)前記少なくとも1つの構造に送信する光又は前記少なくとも1つの構造から受信される光の少なくとも1つ」につき,その趣旨が不明である。

そこで,本件審決による新規性についての判断の当否を検討するに当たり,①の点については,「前記装置の少なくとも1つの部位」は特定できないものの,「距離の決定」の具体的意義を発明の詳細な説明の記載を参酌しながら認定し,②の点については,「前記第3の光」につき,趣旨が明らかではない本願発明1のEⅰ)と選択的関係にある,Eⅱ),すなわち,「前記基準に送信する光又は前記基準から受信される光の少なくとも1つ」として検討を進めることとする。

(1)  引用発明

ア 引用例には,以下の記載がある。

【特許請求の範囲】

【請求項1】

ブロードバンド光を受け取り,試料戻り信号を生成する試料に向けられる基準出力信号およびプローブ信号を出力する干渉計と,

前記基準出力信号を受け取り,前記干渉計に基準戻り信号を出力する光学パスレングススキャニングユニットであって,前記干渉計は前記基準戻り信号と前記試料戻り信号とを組み合わせ,干渉計出力信号を出力する,光学パスレングスユニットと,

前記干渉計出力信号を受け取り,検出器出力信号を出力する検出器ユニットと,

前記検出器ユニットと連結されており,前記検出器出力信号を受け取る光学パスレングス位置決めユニットを有するスキャンアナライザおよび補正ユニットと,

前記光学パスレングススキャニングユニットに連結されており,前記光学パスレングススキャニングユニットを制御し,前記スキャンアナライザおよび補正ユニットに制御信号を出力するスキャニングユニットコントローラとを備えており,前記スキャンアナライザおよび補正ユニットは,前記制御信号および前記検出器出力信号を解析し,操作補正情報を決定する,装置。

・・・

【発明の詳細な説明】

【発明の属する技術分野】

本発明は,光学遅延の高速走査に関する。特に本発明は,光干渉性断層撮影イメージングシステム(OCT)のための光学遅延の高速走査を行う方法および装置に関する。

・・・

【課題を解決するための手段】

・・・

本発明は,装置が駆動されるときに,所定の(かつ固定された)パス長補正をリアルタイムで適用することによって,縦方向スキャナの光学表面あるいは他の部分の作製における不具合を補正するための走査補正プロセッサを提供することを他の目的とする。

・・・

【発明の実施の形態】

・・・

図1Cは,本発明の一実施形態によるイメージングシステム2の他の特徴を示している。光源10が光源ファイバ34を通してブロードバンド光を発する。ブロードバンド光は,システム2に関してZ方向において望ましい解像度を与える帯域を有する光として定義される。ブロードバンド光のコヒーレンス長が小さければ,システムの計測の解像度は高くなる。

光源10は,光源ファイバ34を介してスプリッタ21にブロードバンド光を与える。スプリッタ21はブロードバンド光を分割入力光の第一の部分180と分割入力光の第二の部分190とに分ける。第一の部分180は,プローブアームファイバ36によってプローブモジュール30に与えられる。第二の部分190は,基準アームファイバ35によって基準アームモジュール40に与えられる。基準アームモジュール40は,点線のボックスとして大まかに示されている粗パス長調整機構45を備えており,これはコンピュータ110によって制御される。粗パス長調整機構45は,目標領域トラッキングの特定の実施例であり,試料内での測定位置の修正や,異なる光学遅延を有し得る異なるタイプのプローブモジュールを収容することを可能にする。焦点を変える方法には様々なものがあるが,そのいくつかは後述する。粗パス長調整は,OPSユニット175に対して速いことは必要とされない。粗パス長調整の方法には,例えば,図1Cに示されているようにレンズ44またはレンズ42を左右に動かすことによってパス長を変化させることが含まれる。一般的には,ファイバ35からレンズ42までの距離を固定し,これらを一体として左右に動かし,それによってレンズ42および46の間の距離を変えることが有用である。本例では,第一のレンズ42は基準光190を平行光とし,第二のレンズ44は光をOPSユニット175の表面上で焦点を結ばせる。光は2つのレンズの間で平行光化されているので,レンズ間距離が調整されていれば,パワーの損失は最小である。あるいは,ファイバ35,36の特性は,当該分野で知られているように,例えば,一方または両方の屈折率を微修正する,あるいはファイバのスプールを伸ばす等によって修正することができ,得られる光学パス長が結果的に変更される。また,基準アームモジュール40のプリズム対46を光学パス長を変えるために用いてもよい。当該分野では他にも粗パス長の変更の方法が知られており,この結果を実現するためにいずれを用いることもできる。また,粗パス長調整の特徴は,後のセクションで説明するように,目標領域トラッキングを行う能力を可能にする。

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図1Eは,本発明の一実施形態による高速の調整可能なレートでの縦方向走査OCTシステム5を得るための一実施形態を示している。

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基準アームモジュール40は,粗パス長調整機構を用いて2つのレンズ42,44の間の距離を調整することによって,パス長を調整する能力を有している。他の利点の中で,この特徴は,後のセクションで説明するように,目標領域トラッキングを可能にする。本実施形態においては,第一のレンズ42が基準アームファイバ35の出力を平行光化し,第二のレンズ44がCAM50’の表面上に光を集光させる。光は2つのレンズの間で平行光化されているので,レンズ間距離が調整されていれば,パワーの損失は最小である。先に述べた通り,用いることのできる代替可能なパス長調整がある。

試料アーム31と基準アーム41との間で分散のバランスが取れていることは重要である。基準アームにおける基準アームモジュール40(あるいは試料アーム31におけるプローブモジュール30)は,プリズムの対46または分散をつりあわせるための他の適切な装置を含み得る。あるいは,レシーバにおいて位相感知型の同期検出を行えば,当該分野で知られているように分散を電子的に補償することができる。

CAMの表面51は,CAMが回転すると Michelson ビームスプリッタ21からCAMの表面までの距離が線形に増加するように構成されている。さらにこの表面は,CAM表面51上に正確に向けられている光ビーム195(図1D)の主光線が入射光に対して一定の角度で反射されるような(例えば再帰反射される,あるいは他の目標に向けて反射されるような)幾何学形状を有している。CAM50’が回転するとき,光学パス長はほぼ直線状に走査されることに留意されたい。CAM表面51はまた,回転されると略一定の反射率が維持されるように光学的になめらかな特性を有している。

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(2)  本願発明1と引用発明との対比

ア 原告は,本件審決が,引用発明においても,①本願発明1のCのいう「少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定するように構成される少なくとも1つの第2のコンピュータ」を「備え」ていると認定した点及び②「検出器出力信号」を,本願発明1のFのいう「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて」処理していると認定した点は誤りである旨主張する。

イ 本願発明1のCと引用発明との対比

(ア) まず,本願発明1のCの「少なくとも1つの構造の少なくとも1つの部位から前記装置の少なくとも1つの部位までの距離を決定」の意義を検討する。

上記意義については,本願発明の特許請求の範囲の記載のみによって一義的に明確に理解できるとはいい難いことから,発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈する。

a この「距離を決定」に関しては,本願発明1のFにおいて,「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて,前記距離を決定する」と記載されていることから,「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理」(以下「ゼロ次処理等」ともいう。)に関する発明の詳細な説明の記載内容を検討する。

(a) ゼロ次処理等につき,本願明細書には以下の記載が存在する。

【0019】

〔方法〕

図9(判決注:甲3号証の図9)は,本発明の一実施形態によるアルゴリズムの流れ図を示す。比較的大きな走査範囲(ブロック14)(例えば,約3~10mmであるが,他の範囲を適切なものとして用いてもよい)で,ブロック12において生体組織表面「S」を十分に見つけるために,ブロック10において最初の走査線が調べられる。表面を見つけるために,少なくとも3つの方法の一つを用いることができる。第1の方法は,アダプティブ閾値(「T」)を用いることである。第2の方法は,1次の導関数dI(z)/dz=D1を用いる。第3の方法は,ゼロを横切る2次の導関数d2I(z)/dz2=D2を用いる。

【0020】必要な幾つかの規則A,B及びCがある。第1の方法の場合,規則「A」は,もしI(z1)>TならばS=z1というものである。第2の方法の場合,規則「B」は,もしdI(z2)/dz>TならばS=z2というものである。第3の方法の場合,規則「C」は,もしd2I(z3)/dz2=0ならばS=z3というものである。

・・・

表面が見つからない場合には,ブロック10を繰り返すが,ただしブロック12における結果に基づいて範囲オフセット(range offset)を変更する。例えば,信号が無い場合には,オフセットと範囲をランダムに変えればよい。信号はあるが弱く,アダプティブ閾値を超えなかった場合には,オフセットを調整する(すなわち,シグナルに対してゲート及びSを動かして再度試行する)。その際のオフセットは,検出器によって検出される反射光の強度に基づいて設定される。

・・・

【0022】

このような場合には,上記規則A,B及びCを解析して,どれが生体組織表面に対応するか決定する。図10は,考えられる4つの当たりを示している。生体組織表面に対応する。

・・・

【0025】

別の統計的な手法も可能である。走査範囲Rの外側では最小限の信号を,そして内側ではできるだけ大きな信号が欲しいとするのが,基本的な操作パラメータである。これは,0次,もしくは1次の導関数,2次の導関数,確率分布関数の統計(例えば標準偏差),指数関数によるフィッティング,及びこの分野で周知のその他の標準的なデータ解析処理によって実現することができる。

・・・

(b) 以上の記載及び甲3号証の図9からは,「距離の決定」に関し,「生体組織」の「表面位置」を「検出する」,すなわち,構造(生体組織)の表面の境界(表面位置)を検出していることを読み取ることができる。

b さらに,発明の詳細な説明中,「距離の決定」に関する記載として,「走査の開始位置を異なる場所に調整するために,生体組織表面を特定することを使うことが望ましかろう。」(本願明細書【0005】),「プローブ先端部(判決注:前記装置,すなわち,OCT装置の一部)から生体組織(判決注:構造)までの距離に合わせるようにして,ガルバノメータのDCオフセット角に対する変化が決定されるようになっている。」(同【0008】),「「D」,初期オフセット,ならびにΔz,有効な走査範囲が観測され,次の走査に対して波形をどのように変更するかが決定される。」(同【0016】),「DCオフセットは,図8Bにおけるように,生体組織表面外形輪郭を表す曲線をなぞる。」,「現在の走査線(軸線走査)ないし幾つかの走査線におけるデータを調べることにより,続くN本の走査線に対して,生体組織表面までのオフセットならびに最適のコヒーレンス・ゲートが決定される。」(同【0018】),「ブロック16(判決注:甲3号証の図9)において参照アーム遅延波形を修正/調整する。」(同【0027】),「ブロック20(判決注:甲3号証の図9)よりコンピュータメモリーに蓄えられてそこから呼び出される修正参照アーム遅延波形と表面S情報とを用いて,ブロック28において画像を再マップ化する。次いでブロック30において画像を保存ないし再表示する。」(同【0032】)が存在する。

これらの記載からは,「距離の決定」に関し,構造の表面に対する走査の開始位置をオフセット調整するための情報を求めていることが読み取れる。

c a,bを併せ考えれば,「距離の決定」とは,①構造の表面の境界を検出し,②その位置を特定することにより,構造の表面に対する走査の開始位置をオフセット調整するための情報を求めることをいうものと解される。

(イ) 次に,引用発明について検討する。

a 引用例には,【発明の実施の形態】において,下記の記載が存在する。

目標領域のトラッキング

図2Aおよび2Bは,心血管のアプリケーションにおいて見られ得るような円周上の走査システムあるいはプローブについて,目標領域のトラッキングを示している。目標領域のトラッキングは,CAM50’の走査深度内において目標領域内の試料の位置決めである。前述したように,いかなる回転素子50(図1D)を用いることもでき,CAM50’は例として用いられる。図2Aは走査範囲を示す。これは,縦方向の走査の全体の増加する距離であり,R1(内側)とR2(外側)との間の濃い黒の円として示される。したがって,走査の中心はR1とR2との間の中間点である。目標領域のトラッキングは,血管の壁のような特徴を検出することにより試料内の目標領域内に走査範囲を保つように自動的に走査の中心を動的に調整する。

図2Aにおいて,OCTプローブは,走査されるべき目標領域,本実施例では動脈に対してずれている。表面の境界を検出して,基準アームのパス長をそれにしたがって調整することにより,走査の効率を劇的に向上させることができる。図2Bは補正後の目標領域のトラッキングの例を示している。

目標領域のトラッキングは,カテーテルが腔内でずれるかもしれず,CAM50’によって提供される走査深度は腔壁へのオフセットプラス所望の計測距離をカバーするには十分でないようなカテーテル/内視鏡の処置等のアプリケーションにおいては重要である。図2Aにおいて,示されている走査深度は,試料壁の右側を失い,試料壁の左側には突出しすぎるであろう(管表面を逃してしまう)。しかしながら,腔壁を検出するための検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズムあるいは他の画像処理アルゴリズム)を用いることによって,信号補正プロセッサ100(図1A,1B,1D)が粗パス長調整機構45を調整することができ,したがって走査中心を調整することができる。カテーテルは腔内で回転するので,腔壁内の走査距離は,図2Bに示すように一定に保つことができる。CAMがより広い走査範囲を有するように設計され得るアプリケーションにおいてであっても,より広い領域の画像を得ることは,信号対雑音,あるいは得られるまでの時間の見通しからは効率的ではないであろう。ゆえに目標領域のトラッキングは,(例えば,調整可能な走査光学遅延ラインのような)粗い走査範囲を調整することができる縦方向の走査機構を有するOCTシステムにおいては決定的に重要である。

file_6.jpgw Eo (pace (secniny ene we . =A HQGEE BZA (4), BCT)甲2号証 図2A(上),B(下)

b 上記記載内容,特に,「目標領域のトラッキングは,血管の壁のような特徴を検出することにより試料内の目標領域内に走査範囲を保つように自動的に走査の中心を動的に調整する」ものであること,「腔壁を検出するための検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズムあるいは他の画像処理アルゴリズム)を用いることによって(中略)走査中心を調整することができる。カテーテルは腔内で回転するので,腔壁内の走査距離は,図2Bに示すように一定に保つことができる」ことに鑑みれば,引用発明においては,①’構造の表面(血管の壁,腔壁等)の境界を検出し,②’構造の表面に対する走査中心をオフセット調整するための情報を求めているものと解される。

(ウ) 以上を前提として,本願発明1のCと引用発明を対比する。

a(a) 本願発明1のCの「距離の決定」とは,前述したとおり,①構造の表面の境界を検出し,②その位置を特定することにより,構造の表面に対する走査の開始位置をオフセット調整するための情報を求めることをいうものと解される。

他方,引用発明においては,前記のとおり,①’構造の表面の境界を検出し,②’その位置を特定することにより,構造の表面に対する走査中心をオフセット調整するための情報を求めているものと解される。

したがって,両者の間には,本願発明1のCにおいては「構造の表面に対する走査の開始位置をオフセット調整するための情報を求めることをいう」のに対し,引用発明においては「構造の表面に対する走査中心をオフセット調整するための情報を求めている」という相違がある。

(b) この点に関し,本願発明1のCのいう「構造の表面に対する走査の開始位置のオフセット調整」は,「所定高さからなる概ね矩形の「ウィンドウ(window)」の中に入射光ビームを生成するのに,決められた波形を用いているため,壁の表面高さが変わると,血管壁の所定領域における生体組織データを収集するのに誤差が生じる可能性がある。」という「従来のOCT撮像」の問題を克服するために,「走査する線(scanning line)の長さとその初期位置は,常に一定でありかつ固定されていた」「典型的OCTシステム」につき,「走査の開始位置を異なる場所に調整」するものと解される(本願明細書【0003】から【0005】)。

他方,引用例における目標領域のトラッキングに関する前記記載によれば,引用発明は,カテーテルのずれにより,走査深度が試料壁の中心から外れて左右いずれか一方の側を失い,他方の側に突出しすぎて管表面を逃すという事態の発生を防止するために,目標領域のトラッキング,すなわち,試料内の目標領域内に走査範囲を保つように走査の中心を調整するというものである。

これらの点に鑑みると,本願発明1のCのいう「構造の表面に対する走査の開始位置をオフセット調整する」及び引用発明のいう「構造の表面に対する走査中心をオフセット調整する」は,いずれも適切なOCT撮像を得られるよう走査範囲を調整するために行われるものであるから,両者は,実質において同様の技術を示しているものというべきである。

したがって,引用発明においても,本願発明1と同じく,「距離の決定」を行っているものと認められる。

b そして,引用発明は,「粗パス長調整機構」を制御する「コンピュータ」を備えているところ(引用発明のD),「粗パス長調整」については,引用例において前記のとおり,「粗パス長調整機構45は,目標領域トラッキングの特定の実施例であり,試料内での測定位置の修正や,異なる光学遅延を有し得る異なるタイプのプローブモジュールを収容することを可能にする。」,「目標領域のトラッキングは,血管の壁のような特徴を検出することにより試料内の目標領域内に走査範囲を保つように自動的に走査の中心を動的に調整する。図2Aにおいて,OCTプローブは,走査されるべき目標領域,本実施例では動脈に対してずれている。表面の境界を検出して,基準アームのパス長をそれにしたがって調整することにより,走査の効率を劇的に向上させることができる。」,「腔壁を検出するための検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズムあるいは他の画像処理アルゴリズム)を用いることによって,信号補正プロセッサ100(図1A,1B,1D)が粗パス長調整機構45を調整することができ,したがって走査中心を調整することができる。」という記載が見られる。これらの記載によれば,「粗パス長調整」は,検出された構造の表面の境界に基づき,走査中心を調整するものと解される。

前記のとおり,引用発明においては,①’構造の表面の境界を検出し,②’その位置を特定することにより,構造の表面に対する走査中心をオフセット調整するための情報を求めることによって,本願発明1と同じく「距離の決定」を行っているものと認められることから,走査中心を調整する「粗パス長調整」は,正に,「距離の決定」の中核的作用というべきである。

以上に鑑みれば,引用発明における「粗パス長調整機構」を制御する「コンピュは,本願発明1のCのいう「コンピュータ」と同じく,「距離を決定するように構成される」ものということができる。

c したがって,引用発明は,本願発明1のCのいう「コンピュータ」を備えているという,本件審決の認定に誤りはない。

ウ 本願発明1のFと引用発明の対比

(ア)a 前記イの内容によれば,本願発明1のFは,①ゼロ次処理等,すなわち,「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて」構造の表面の境界を検出し,②その位置を特定することにより,構造の表面に対する走査の開始位置をオフセット調整するための情報を求め,③その情報(位置情報)に基づき,構造の表面に対する走査の開始位置をオフセット調整するOCT装置を意味するものと解される。

他方,前記の引用例の「目標領域のトラッキング」に関する記載内容,特に,「腔壁を検出するための検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズムあるいは他の画像処理アルゴリズム)を用いることによって」の記載によれば,引用発明は,①’「検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズムあるいは他の画像処理アルゴリズム)を用い」て構造の表面の境界を検出し,②’構造の表面に対する走査中心をオフセット調整するための情報を求め,③’その情報(位置情報)に基づき,構造の表面に対する走査中心をオフセット調整するOCT装置を意味するものと解することができる。

b(a) この点に関し,本願優先日前である平成9年11月28日に公開された平成9年公報中に,「【0007】・・・画像の濃淡強度変化を検出するについては,強度変化を1次導関数にてピーク値とし,2次導関数にてゼロクロスさせ,このピーク値やゼロクロスを効率良く検出する場合▽2Gフィルタが利用され得る。・・・」と記載されていることから,「画像処理アルゴリズム」に「一次導関数処理,二次導関数処理」が含まれることは,本願優先日当時において技術常識であったものと認められる。

したがって,引用発明は,「検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズム,一次導関数処理,二次導関数処理を含む他の画像処理アルゴリズム)を用いて」構造の表面の境界を検出するものと解することができる。そして,引用発明において構造の表面の境界を検出する方法のうち,「一次導関数処理,二次導関数処理」を用いる点は,本願発明1のFにおいて構造の表面の境界を検出する方法とされる「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて」に含まれることが明らかである。

本願発明1のFは,検出方法の選択肢として「一次導関数処理,二次導関数処理」のほかにも,「ゼロ次処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理」も挙げているが,これら自体はいずれも既知の手法であり,選択肢に加えることにより,本願発明1が引用発明と比較して顕著な効果を奏することになるともいえない。したがって,この点は,引用発明との間において,実質的な相違点とは認められない。

(b) 本件審決は,引用発明においても,「ゼロ次処理,一次導関数処理,二次導関数処理,確率統計関数(例えば標準偏差)の決定,又は,当てはめ処理の,少なくとも1つを用いて」処理している旨認定しているところ,引用発明において「ゼロ次処理,確立統計関数(例えば標準偏差)」が用いられていることは本件証拠上,認めるに足りず,その限度において本件審決の認定には誤りが存するといえるものの,この誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすようなものではない。

(イ)a 原告は,①引用例においては,「距離を決定する」ことに直接言及しておらず,この点に関する発明特定事項を欠く,②平成9年公報は,距離の決定に関して何も開示していないことから,同公報記載の処理をもって,本願発明1のFのいう「前記距離を決定する」際の技術常識と認定することはできない,③平成9年公報においては,OCT装置への適用は示唆されていない旨主張する。

b ①の点については,前記のとおり,引用例の記載によれば,引用発明は,①’検出アルゴリズム(例えば,しきい値を用いたアルゴリズムあるいは他の画像処理アルゴリズム)を用いて構造の表面の境界を検出し,②’構造の表面に対する走査中心をオフセット調整するための情報を求め,③’その情報(位置情報)に基づき,構造の表面に対する走査中心をオフセット調整するOCT装置を意味するものと解され,うち,①’及び②’は本願発明1のいう「距離の決定」に対応するものといえる。

したがって,引用例は,「距離を決定する」ことについて直接言及はしていないが,上記のとおり,この点に関する発明特定事項を実質的に開示しているものと認められるから,原告の主張は採用できない。

c ②及び③の点については,確かに,平成9年公報は,距離の決定について開示するものではないが,本件審決が平成9年公報によって認定したのは,一般的に「画像処理アルゴリズム」の技術内容に「一次導関数,二次導関数」による処理が含まれることが本願優先日当時において技術常識であったことであり,距離の決定方法に関する技術常識を認定したものではない。

また,上記公報は,OCT技術に言及していないものの,引用発明における画像処理アルゴリズムとして一次導関数,二次導関数を用いることにつき,特に障害があるとは認められない。

以上によれば,原告の主張は採用できない。

(ウ) 小括

以上によれば,本願発明1と引用発明との間に実質的な相違点はなく,両者は同一のものといえるから,本願発明1は引用例に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当するという本件審決の結論に誤りはない。

第6結論

以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 新谷貴昭 裁判官 鈴木わかな)

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