知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10270号 判決 2014年5月28日
原告
バンドー化学株式会社
訴訟代理人弁理士
前田弘
同
竹内祐二
同
長谷川雅典
被告
特許庁長官
指定代理人
冨岡和人
同
森川元嗣
同
窪田治彦
同
山田和彦
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2012-20790号事件について平成25年8月21日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,発明の名称を「Vリブドベルト」とする発明について,平成20年8月27日,特許出願(特願2008-218620号。以下「本願」という。)をした。
原告は,平成24年9月7日付けの拒絶査定を受けたため,同年10月22日,拒絶査定不服審判を請求した。
(2) 特許庁は,上記請求を不服2012-20790号事件として審理を行い,原告に対し,平成25年5月9日付けの拒絶理由通知をした。
そこで,原告は,同年6月19日付けで本願の願書に添付した特許請求の範囲について手続補正(甲8)をした。
その後,特許庁は,同年8月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年9月3日,その謄本が原告に送達された。
(3) 原告は,平成25年10月3日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。甲8)。
「【請求項1】
ベルト内周側に,各々,ベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブを有するベルト本体と,該ベルト本体の該複数のVリブ表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布と,を備えたVリブドベルトであって,上記リブ側ニット補強布は,融着接続されたジョイント部を有し,3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向について150~500%であることを特徴とするVリブドベルト。」
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である米国特許第3981206号明細書(以下「刊行物1」という。甲1の1)及び特開2006-125426号公報(以下「刊行物2」という。甲2)に記載された事項と周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものであるというものである。
(2) 本件審決が認定した刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」という。),本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明
「ベルト内周側に,各々,ベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のリブ26を有する,テンション部21,耐荷重部22,及び圧縮部23からなる部分と,該部分の該複数のリブ26を被覆するように設けられたニット繊維30と,を備えたベルト20。」
イ 本願発明と引用発明の一致点
「ベルト内周側に,各々,ベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブを有するベルト本体と,該ベルト本体の該複数のVリブ表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布と,を備えたVリブドベルト。」である点。
ウ 本願発明と引用発明の相違点
本願発明は,「上記リブ側ニット補強布は,融着接続されたジョイント部を有し,3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向について150~500%である」のに対し,引用発明は,ニット繊維30がかかる構成を備えるか不明である点。
第3当事者の主張
1 原告の主張
(1) 相違点の容易想到性の判断の誤り
ア 「融着接続」に関する相違点の判断の誤り
本件審決は,相違点に係る本願発明の構成のうち,「リブ側ニット補強布は,融着接続されたジョイント部」を有するとの部分(「融着接続」に関する構成)に関し,引用発明のニット繊維30を円筒形にするために,刊行物2に記載された事項を適用して,「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることは,当業者が容易になし得たことである旨判断した。
しかしながら,以下に述べるとおり,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する動機付けがあるものとはいえず,かえって阻害要因があるから,本件審決の判断は誤りである。
(ア) 刊行物1(甲1の1)には,ベルト20の外側の表面の被覆に,リブ26の表面を被覆するニット繊維30と同一材料を適用し得ることを記載した部分があるが(訳文2頁5行~8行),刊行物1の記載事項全体をみれば,上記の記載部分は,リブ26の表面を被覆する繊維材料とベルト20の外側の表面を被覆する繊維材料とが互換性を有することを開示するものではなく,また,リブ26の表面の被覆に,ベルト20の外側の表面を被覆する繊維材料と同一材料を適用し得ることについては記載も示唆もない。
また,一般に,Vリブドベルトでは,ベルトの内側のVリブがプーリに接触する動力伝達部を構成するものであり,ベルトの外側(背面)が平プーリに巻き掛けられて動力伝達の一端を担う場合があるとしても,ベルトの内側のVリブの表面の方がベルトの外側の表面に比べてより厳しい条件を強いられるため,ベルトの内側のVリブの表面を被覆する繊維材料には,ベルトの外側の表面を被覆する繊維材料に比べて,耐摩耗性や強度等に関して高いパフォーマンスが要求され,大きな伸縮性も要求される。ベルトの外側(背面)の表面とベルトの内側のVリブの表面がプーリと常時接触する点で共通する場合があるからといって,ベルトの外側の表面を被覆する繊維材料についての技術的課題の解決手段によりベルトの内側のVリブの表面を被覆する繊維材料についての技術的課題を解決できるということにはならない。
さらに,刊行物1及び刊行物2のいずれにも,ベルトの内側のVリブの表面を被覆する繊維材料についてベルトの外側の表面を被覆する繊維材料に関する事項を適用できることについての記載も示唆もない。
したがって,刊行物1及び刊行物2に接した当業者において,引用発明のリブ26側のニット繊維30に刊行物2に記載されたベルトの外側の表面を被覆する背面帆布の繊維材料に関する事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ) 本件審決は,刊行物1のニット繊維30は,「複数の合成のプラスティックの材料から成る糸」で作られるものであるが,刊行物2には「ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成した帆布」を用いることが記載されているから,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する阻害要因はない旨判断した。
しかしながら,刊行物2の段落【0005】には,「この点,ジョイント強度を確保するために,ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着を行うことが考えられている。しかしこの方法では継ぎ合わせ部が完全に溶着してしまうため,ウーリーナイロン糸が本来有する伸び効果がほとんど減殺されてしまい,伝動ベルトの一定走行後には帆布の継ぎ合わせ部においてクラックを生じる確率が高くなってしまうという問題がある。」との記載がある。上記記載は,100%合成繊維の帆布を融着(溶着)した場合,本来有する伸び効果がほとんど減殺され,その結果,伝動ベルトの一定走行後に帆布の継ぎ合わせ部においてクラックを生じる確率が高くなるという問題があることを開示するものであり,これは,当業者が,刊行物1記載の100%合成繊維の帆布に,刊行物2記載の融着接続の技術を組み合わせて本願発明に想到することを妨げる理由に該当し,阻害要因に当たるから,本件審決の上記判断は,誤りである。
(ウ) 被告は,これに対し,乙1(実公昭57-1159号公報)及び乙2(特開2001-50352号公報)を根拠として挙げて,歯付きベルトの歯側の補強帆布を融着接続することは周知であり,刊行物1記載のニット繊維に刊行物2記載の融着接続の技術を適用することも周知である旨主張する。
しかしながら,乙1及び乙2に開示されているのは,歯付きベルトであって,Vリブドベルトではない。歯付きベルトとVリブドベルトは,伝動ベルトであるという点で共通するものの,歯付きベルトは歯部の噛み合いにより動力を伝達する噛み合い伝動ベルトに,VリブドベルトはVリブの表面の摩擦により動力を伝達する摩擦伝動ベルトにそれぞれ分類されるものであって(甲11),動力伝達の形態が大きく異なり,それぞれの動力伝達の形態に対応した材料や加工技術が採用されるから,歯付きベルトの歯側の補強帆布を融着接続する技術をVリブドベルトに用いる繊維材料にも適用し得るものではなく,乙1及び乙2から,刊行物1記載のニット繊維に刊行物2記載の融着接続の技術を適用することが周知であるとはいえない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
また,被告は,仮に刊行物2の段落【0005】の記載から,「ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着を行うこと」が好適でないと当業者が理解するとしても,刊行物2の段落【0009】の記載事項から,引用発明がニット繊維を刊行物2記載の綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸を材料として作ることによっても成り立ち,100%合成繊維により形成した帆布の不具合を回避できることは,当業者が容易に把握し得ることであるから,引用発明のニット繊維30を円筒形にするために,刊行物2に記載された事項を適用して,「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることは,当業者が容易になし得たことである旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,本件審決の内容から乖離しており,本件審決における認定及び判断とは何ら関係がないものである。また,仮に被告の上記主張が成立するとすれば,当業者が,引用発明のニット繊維30を円筒形にするために,刊行物2に記載された事項を適用して,「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることに想到するのは,リブ26側の表面を被覆するニット繊維30が綿繊維及び熱可塑性合成繊維の混紡糸で形成された帆布の場合に限られるはずであるが,本願発明は,このような混紡糸で形成された帆布の場合に限定するものではないから,当業者がそのように想到することはあり得ない。
(エ) 以上によれば,引用発明のニット繊維30を円筒形にするために,刊行物2に記載された事項を適用して,「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることは,当業者が容易になし得たことであるとした本件審決の判断は誤りである。
イ 「伸び率」に関する相違点の判断の誤り
本件審決は,相違点に係る本願発明の構成のうち,「伸び率」に関し,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用したものにおいて,ニット繊維の伸縮性を「3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向について150~500%である」と設定することに格別の困難性はない旨判断した。
しかしながら,前記アで述べたとおり,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する動機付けがあるものとはいえず,かえって阻害要因があるから,本件審決の上記判断は,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用することを前提としている点で,その前提において誤りがある。
(2) 小括
以上のとおり,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する動機付けがあるものとはいえず,かえって阻害要因があるから,当業者が引用発明に相違点に係る本願発明の構成を適用することを容易に想到することができたものではない。
したがって,本願発明は,引用発明,刊行物2に記載された事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判断は誤りであり,本件審決は,違法であるから,取り消すべきものである。
2 被告の主張
(1) 相違点の容易想到性の判断に誤りがないこと
ア 「融着接続」に関する相違点について
(ア) 刊行物1には,「ベルト20は,また,ベルト20の外側の表面を定義し,図1において36で示されるテンション部の外側の表面に結合したニットカバーの繊維を有する。ベルトの外側の表面を定義するために用いられるニット繊維は,リブ26に結合したニット繊維30と同じ材料で作ることができ,この例では,類似の繊維30が,ベルト20の外側の表面を定義するのに用いられる。」との記載(訳文2頁4行~8行)がある。
この記載及び図面からみて,刊行物1において,リブ26の表面の被覆に,ベルト20の外側の表面を被覆する繊維材料と同一材料を適用することが開示されていることは明らかである。
また,刊行物1のベルト20のリブ26側及び外側のニット繊維30は,いずれも製造時に円筒形であり,円筒形とするためにベルトの外周長に相当する長尺反の両端を接合することが周知である。ベルト20のリブ26側及び外側のニット繊維30をそれぞれ円筒形にするに当たって,リブ26側及び外側のいずれについても同一の接合手法を用いると解することが自然,かつ,合理的であるから,刊行物1には,ベルト20の表面の被覆に関し,ベルト20のリブ26側及び外側のニット繊維30は,接合方法も含め同じものを適用できることが開示されているといえる。
一方で,刊行物2の段落【0002】には,「走行中の帆布の継ぎ合わせ部が背面プーリとの接触を繰り返す」との記載がある。この記載及び図5(符号15の背面プーリを参照)からみて,刊行物2の背面帆布はプーリと常時接触するものであるから,刊行物1のリブ26側のニット繊維30と刊行物2の背面帆布とは,プーリと常時接触する点で共通し,プーリとの常時接触によって生じる技術的課題においても共通性がある。
そして,刊行物2記載の背面帆布は,刊行物1のベルト20の外側のニット繊維30に対応し,しかも,刊行物2に記載された100%合成繊維は,ニット繊維30の材料である複数の合成のプラスティックの材料から成る糸,具体的には,ナイロン-スパンデックスの二成分の単繊維を包含するものであるから,刊行物1のベルト20の外側のニット繊維30を円筒形にするに当たり刊行物2の背面帆布に関する事項を適用する動機付けがある。のみならず,前述のとおり,刊行物1には,ベルト20の表面の被覆に関し,ベルト20のリブ26側及び外側のニット繊維30は,接合方法も含め同じものを適用できることが開示されており,しかも,刊行物1のリブ26側のニット繊維30と刊行物2の背面帆布とは,プーリと常時接触する点で共通し,プーリとの常時接触によって生じる技術的課題においても共通性があることからすると,刊行物1のリブ26側のニット繊維30を円筒形にするに当たり刊行物2の背面帆布に関する事項を適用することについても動機付けがある。
以上のとおり,刊行物1のリブ26側のニット繊維30に刊行物2の背面帆布に関する事項を適用することについての動機付けがあるから,引用発明において,リブ26側のニット繊維30に上記事項を適用して「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることは,当業者が容易に想到することができたものであり,この点に関する本件審決の判断に誤りはない。
(イ) 原告は,これに対し,刊行物2の段落【0005】の記載を根拠として挙げて,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用することには,阻害要因がある旨主張する。
しかしながら,刊行物2の段落【0005】の記載は,ラップジョイントやミシンジョイントから,レゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理を施した帆布の熱圧着を経て,100%合成繊維により形成した帆布の溶着に至る技術開発の変遷を述べた部分であり,100%合成繊維により形成した帆布を溶着して接合することが技術的に成立しないことを示唆したものではない。また,刊行物2の段落【0005】の記載は,刊行物1のニット繊維30に刊行物2に記載された溶着という接合手法を適用することが技術的に不可能であることを予見させるものでない。
これが技術的に可能であることは,本願の出願前に,歯付きベルトの歯側の補強帆布を溶着することが周知技術(例えば,乙1,2)であったことからみても明らかであり,また,刊行物1のニット繊維30に刊行物2に記載された溶着という接合手法を適用することは,従来より広く行われていた周知技術であるといえるから,刊行物2の段落【0005】の記載は,上記適用の阻害要因に当たらない。
また,仮に刊行物2の段落【0005】の記載から,「ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着を行うこと」が好適でないと当業者が理解するとしても,刊行物2の段落【0009】には,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を用いることで,帆布の継ぎ合わせ部において,互いの熱可塑性合成繊維同士が溶着する一方,綿繊維は糸の形状を保ちつつ熱可塑性合成繊維の溶着部に入り込み,帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなるという利点と,帆布継ぎ合わせ部における相応の伸び効果を維持できるという利点とを併せ持つことが可能になることが記載されており,引用発明がニット繊維を刊行物2記載の綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸を材料として作ることによっても成り立ち,100%合成繊維により形成した帆布の不具合を回避できることは,当業者が容易に把握し得ることであるから,引用発明のニット繊維30を円筒形にするために,刊行物2に記載された事項を適用して,「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 以上によれば,本件審決における「融着接続」に関する相違点の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
イ 「伸び率」に関する相違点について
前記アのとおり,刊行物1のベルト20のリブ26側のニット繊維30に刊行物2の背面帆布に関する事項を適用する動機付けがあり,その適用の際における阻害要因もないから,本件審決における「伸び率」に関する相違点の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は,その前提において誤りがあり,理由がない。
(2) 小括
以上のとおり,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する動機付けがあり,当業者が引用発明に相違点に係る本願発明の構成を適用することを容易想到することができたものであるから,原告主張の取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断
1 相違点の容易想到性の判断の誤りについて
(1) 本願の願書に添付した明細書の記載事項等
ア 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとおりである。
イ 本願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本願明細書」という。甲10)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1」ないし「図6」,「図8」,「図9」及び「表2」については別紙1を参照)。
(ア) 「【技術分野】
本発明は,Vリブドベルトに関する。」(段落【0001】)
「【背景技術】
Vリブドベルトがリブプーリに巻き掛けられて使用されるとき,プーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持するために,Vリブ表面を補強布で被覆することが行われている。」(段落【0002】)
「特許文献1には,VリブドベルトのVリブ表面が摩擦係数低下剤を含浸させた不織布で被覆された構成が開示されており,これによって優れた耐屈曲性,静音性,及び耐摩耗性が得られると記載されている。」(段落【0003】)
「特許文献2には,Vリブ表面が布帛層で被覆されたVリブドベルトについて,リブと布帛層との間にポリフッ化ビニリデンフィルム等の熱可塑性樹脂が設けられた構成が開示されている。」(段落【0004】)
「特許文献3には,Vリブ表面が布帛層で被覆されたVリブドベルトについて,布帛層のプーリ接触側表面にポリフッ化ビニリデンフィルムが設けられていると共に,任意でリブと布帛層との間に不飽和カルボン酸エステルグラフト化水素化ニトリルブタジエンエラストマーの亜鉛塩を含有するバリヤー層が設けられた構成が開示されている。
【特許文献1】特公平2-42344号公報
【特許文献2】特開2002-122187号公報
【特許文献3】特開2002-5238号公報」(段落【0005】)
(イ) 「【発明が解決しようとする課題】
ところで,エンジンルームのコンパクト化の要請から,自動車の補機駆動ベルト伝動装置として,クランクシャフトプーリ(駆動リブプーリ)及びパワーステアリングプーリ,エアコンプーリ(従動リブプーリ)の3つ以上のプーリに1本のVリブドベルトが巻き掛けられたサーペンタインドライブ方式のものが広く普及している。」(段落【0006】)
「自動車の高機能化に伴って,エンジンルームの収容部品が増加し,補機駆動ベルト伝動装置のプーリレイアウトにも,例えば,相互に隣接してVリブドベルトが巻き掛けられた一対のプーリのベルトスパン長を狭くせざるを得ない,あるいは,プーリのアライメントの公差を大きくせざるを得ないといった制約が生じてきた。そのため,補機駆動用ベルト伝動装置において,隣接する一対のリブプーリのミスアライメントが生じやすくなり,結果として,そのミスアライメントに起因して異音が発生するという問題が生じてきた。」(段落【0007】)
「また,Vリブドベルトのプーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持するためにVリブ表面が補強布で表面被覆されている場合,補強布のジョイント部からベルト本体ゴムが浸みだしてプーリ接触部分の摩擦係数を上げてしまう問題がある。特に,ジョイント部がミシンジョイントによるものである場合,ミシン糸等の存在によって早期にニット布のジョイント部に割れが生じてベルト走行不能になりやすい傾向がある。また,ジョイント部がラップジョイントされたものである場合,その重なり部分から早期にニット布がめくれてしまってベルト走行不能になりやすい傾向がある。」(段落【0008】)
「本発明の目的は,Vリブドベルトの異音発生抑制効果を維持しつつ,ジョイント部の強度を高めて本体ゴムの浸み出しを防ぎ,その結果として,長期に亘って安定した状態でベルト走行を可能にすることである。」(段落【0009】)
(ウ) 「【課題を解決するための手段】
本発明のVリブドベルトは,ベルト内周側に,各々,ベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブを有するベルト本体と,該ベルト本体の該複数のVリブ表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布と,を備えたものであって,
上記リブ側ニット補強布は,融着接続されたジョイント部を有し,3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向について150~500%であることを特徴とする。」(段落【0010】)
(エ) 「【発明の効果】
本発明によれば,リブ側ニット補強布は,ジョイント部が融着接続されており,3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向の伸び率が150~500%であるので,ジョイント部における強度が優れている。そのため,ジョイント部におけるベルト本体ゴムの浸み出しを抑制することができプーリ接触部分を低摩擦係数の状態に維持することができると共に,ジョイント部におけるリブ側ニット補強布のめくれやジョイント部の割れの発生が抑制され,また,ミスアライメントによる異音の発生が抑制される。そして,結果として,本発明によれば,異音抑制効果を維持した状態で長期に亘って安定してベルト走行することができる。」(段落【0013】)
(オ) 「図1は,本実施形態に係るVリブドベルトBを示す。このVリブドベルトBは,例えば,自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置に用いられるものであり,ベルト周長700~3000mm,ベルト幅10~36mm,及びベルト厚さ4.0~5.0mmに形成されている。」(段落【0015】)
「このVリブドベルトBは,ベルト外周側の接着ゴム層11とベルト内周側の圧縮ゴム層12との二重層に構成されたベルト本体10を備えている。そして,そのベルト本体10のベルト外周側表面に背面側補強布17が貼設されている。ベルト本体10のベルト内周側の表面にはリブ側ニット補強布14が設けられている。また,接着ゴム層11には,心線16がベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。」(段落【0016】)
「接着ゴム層11は,断面横長矩形の帯状に形成され,例えば,厚さ1.0~2.5mmに形成されている。接着ゴム層11は,原料ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。…」(段落【0017】)
「心線16は,接着ゴム層11にベルト長さ方向に伸びると共に,ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。…心線16は,例えば外径が0.7~1.1mmである。心線16は,ベルト本体10に対する接着性を付与するために,成形加工前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。」(段落【0018】)
「圧縮ゴム層12は,複数のVリブ13がベルト内周側に垂下するように設けられている。これらの複数のVリブ13は,各々がベルト長さ方向に延びる断面略三角形の突状に形成されていると共に,ベルト幅方向に並設されている。各Vリブ13は,例えば,リブ高さが2.0~3.0mm,基端間の幅が1.0~3.6mmに形成されている。また,リブ数は,例えば,3~6個である(図1では,リブ数が6)。」(段落【0019】)
「圧縮ゴム層12は,原料ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。…」(段落【0020】)
「接着ゴム層11と圧縮ゴム層12とは,別々のゴム組成物で形成されていても,また,全く同じゴム組成物で形成されていても,いずれでもよい。」(段落【0022】)
(カ) 「ベルト本体10のVリブ13側表面はリブ側ニット補強布14で表面被覆されている。」(段落【0023】)
「リブ側ニット補強布14は,例えば,ポリアミド繊維,ポリエステル繊維,綿,ナイロン繊維,アラミド繊維等を高捲縮に仮撚加工(ウーリー加工)して得られるウーリー加工糸を編布としたものである。リブ側ニット補強布14は,例えば厚さが0.2~1.0mmである。リブ側ニット補強布14は,例えば,縦方向の編み目の数が55~80コース/インチ,及び横方向の編み目の数が40~60ウェール/インチである。リブ側ニット補強布14は,JIS L1018に準じて3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したとき,ベルト長さ方向についての伸び率が100~500%,及び,ベルト幅方向についての伸び率が150~500%であり,好ましくは,ベルト長さ方向についての伸び率が200~300%,及び,ベルト幅方向についての伸び率が200~300%である。」(段落【0024】)
「リブ側ニット補強布14のベルト長さ方向の伸び率が100%未満であれば,逆方向に曲げられたときにVリブ13側の彎曲に追いつけなくなってリブ側ニット補強布14がVリブ13から剥離してしまう。リブ側ニット補強布14のベルト幅方向の伸び率が150%未満であれば,Vリブ13の形成時にリブ側ニット補強布14の伸びが不十分となって,リブ側ニット補強布14をVリブ13に沿って形成することができなくなってしまう。リブ側ニット補強布14がVリブ13に沿っていない場合には,リブ側ニット補強布14を超えて圧縮ゴム層12のゴム成分がプーリ接触部分に浸みだしてしまい,プーリ接触部分の摩擦係数が大きくなることによる異音が発生する。」(段落【0025】)
「また,リブ側ニット補強布14のベルト長さ方向,ベルト幅方向のそれぞれの伸び率が500%を超えていると,VリブドベルトBの製造の過程において,未架橋ゴム成分を加熱することによって架橋するときにゴム成分が流動し,それによってプーリ接触部分に皺が発生してしまい不良品となる。」(段落【0026】)
「リブ側ニット補強布14は,RFL水溶液によるRFL被膜で表面が被覆されている。」(段落【0027】)
「リブ側ニット補強布14には,2つのニット布の接続端が連続するように接続された部分であるジョイント部(図示せず)を有する。ジョイント部は,ベルト長さ方向に対して斜め方向であってもよく,ベルト幅方向と一致していてもよい。ジョイント部は,熱圧着されることによって融着接続されたものである。」(段落【0030】)
(キ) 「背面側補強布17は,例えば,綿,ポリアミド繊維,ポリエステル繊維,アラミド繊維などの糸で形成された平織,綾織,朱子織などに製織した布材料17’で構成されている。背面側補強布17は,例えば厚さが0.4mmである。背面側補強布17は,ベルト本体10に対する接着性を付与するために,成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理及び/又はベルト本体10側となる表面にゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理が施されている。なお,背面側補強布17の代わりにベルト外周側表面部分がゴム組成物で構成されていてもよい。また,背面側補強布17は,編物や不織布で構成されていてもよい。」(段落【0031】)
(ク) 「以上の構成によれば,リブ側ニット補強布14は,ジョイント部が融着接続されており,3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向の伸び率が150~500%であるので,ジョイント部における強度が優れている。そのため,ジョイント部におけるベルト本体ゴムの浸み出しを抑制することができプーリ接触部分を低摩擦係数の状態に維持することができると共に,ジョイント部におけるリブ側ニット補強布14のめくれやジョイント部の割れの発生が抑制され,また,ミスアライメントによる異音の発生が抑制される。結果として,本発明によれば,異音抑制効果を維持した状態で長期に亘って安定してベルト走行することができる。」(段落【0032】)
(ケ) 「次に,上記の構成を備えたVリブドベルトBの製造方法を説明する。」(段落【0033】)
「-ベルト本体の材料の準備-
公知の方法によって,接着ゴム層11及び圧縮ゴム層12を形成するための接着ゴム材料11a’,11b’,及び圧縮ゴム材料12’を作製し,また,心線16となる撚り糸16’,及び背面補強布17となる布材料17’に公知の接着処理を行う。なお,布材料17’は,公知の方法によって筒状に成形する。」(段落【0034】)
「-ニット布の調製-
まず,ニット布14’にRFL接着処理を行うためのPTFE含有RFL水溶液を調製する。PTFE含有RFL水溶液は,レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物にラテックスを混合したものに,さらにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の摩擦係数低下剤を配合して調製する。RFL水溶液の固形分については,例えば,10~30質量%である。レゾルシン(R)とホルマリン(F)とのモル比については,例えばR/F=1/1~1/2である。ラテックスとしては,例えば,エチレンプロピレンジエンモノマーゴムラテックス(EPDM),エチレンプロピレンゴムラテックス(EPR),クロロプレンゴムラテックス(CR),クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM),水素添加アクリロニトリルゴムラテックス(X-NBR)等が挙げられる。レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物(RF)とラテックス(L)の質量比については,例えば,RF/L=1/5~1/20とする。摩擦係数低下剤は,例えば,配合量がRFL固形分100質量部に対して10~50質量部である。」(段落【0035】)
「このRFL水溶液にニット布14’を浸漬した後,乾燥炉を用いて120~170℃で加熱乾燥する。このとき,RFL水溶液の水分が飛散すると共にレゾルシンとホルマリンとの縮合反応が進行し,ニット布14’の表面を被覆するようにRFL被膜が形成される。RFL付着量は,例えば,ニット布14’の100質量部に対して5~30質量部である。」(段落【0036】)
「続いて,RFL被膜で表面被覆されたニット布14’を,筒状に成形する。」(段落【0037】)
「まず,ニット布14’を公知の方法によって所定長毎に切断し,その切断片の両端辺同士を揃えるようにして折りたたんで重ね,それらの両端辺の位置を超音波加熱装置の上にセットすると共に,それらの上方にカッターを取り付ける。そして,超音波加熱装置によって高周波数(例えば,10~30KHz)の振動を与えると共に熱圧着し,同時にカッターでその熱圧着した部分を切断し,折りたたまれた状態のニット布14’を広げて筒状のニット布14’を形成する。」(段落【0038】)
「なお,複数のニット布14’の切断片を上記の融着接続によって一体化させたものを,その両端辺同士を揃えるようにして折りたたんでさらに融着接続し,筒状のニット布14’としてもよい。」(段落【0039】)
(コ) 「-Vリブドベルトの成形-
VリブドベルトBの製造方法を,図2及び図3に基づいて説明する。ここでは,ベルト成形装置20を使用する。」(段落【0040】)
「ベルト成形装置20は,円筒状のゴムスリーブ型21と,それを嵌合する円筒状外型22と,からなるものである。ゴムスリーブ型21は,例えばアクリルゴム製の可撓性のものであり,円筒内側から高温の水蒸気を送りこむ等の方法によってゴムスリーブ型21を半径方向外方に膨らませ,円筒状外型22に圧接させることができる。ゴムスリーブ型21の外周面は,例えば,VリブドベルトBの背面側となる面を平滑に成形するための形状となっている。ゴムスリーブ型21は,例えば,外径が700~2800mm,厚さが8~20mm,及び高さが500~1000mmである。円筒状外型22は,例えば金属製のものであり,内側面に,VリブドベルトBのVリブ13を形成するための断面略三角形の突条部22aが,周方向に伸びると共に高さ方向に並ぶようにして設けられている。突条部22aは,例えば,高さ方向に140本並べて設けられている。円筒状外型22は,例えば,外径が830~2930mm,内径(突条部22aを含まない)が730~2830mm,高さが500~1000mm,突条部22aの高さが2.0~2.5mm,及び突条部22aの一つ当たりの幅が3.5~3.6mmである。」(段落【0041】)
「このベルト成形装置20に順次ベルト材料をセットする。筒状の布材料17’をゴムスリーブ型21に嵌めた後,シート状の接着ゴム材料11a’を巻き付けると共に撚り糸16’を周方向に伸びるように複数巻き付ける。このとき,ゴムスリーブ型21の高さ方向にピッチを有する螺旋を形成するように撚り糸16’を巻き付ける。次いで,撚り糸16’の上からシート状の接着ゴム材料11b’を巻き付け,さらに,シート状の圧着ゴム材料12’を巻き付ける。そして,圧着ゴム材料12’の上から筒状のニット布14’を嵌めこむ。このとき,図2に示すように,ゴムスリーブ21の方から順に数えて,布材料17’,接着ゴム材料11a’,撚り糸16’,接着ゴム材料11b’,圧縮ゴム材料12’,及びニット布14’が積層された状態となっている。そしてさらに,それらの外側に円筒状外型22を取り付ける。」(段落【0042】)
「続いて,円筒状外型22をゴムスリーブ型21に取り付けた状態でゴムスリーブ型21に,例えば高温の水蒸気を送りこんで熱及び圧力をかけ,ゴムスリーブ型21を膨らませて円筒状外型22に圧接させ,ゴムスリーブ型21と円筒状外型22とでベルト材料を挟み込む。このときベルト材料は,例えば,温度が150~180℃となっており,半径方向外方に0.5~1.0MPaの圧力がかかった状態となっている。そのため,ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し,ニット布14’,撚り糸16’及び布材料17’のゴム成分への接着反応も進行し,さらに,Vリブ13形成部である円筒状外型22の内側面の突条部22aによってVリブ13の間のV溝が成形される。このようにしてVリブ付ベルトスラブ(ベルト本体前駆体)が成形される。」(段落【0043】)
「最後に,Vリブ付ベルトスラブを冷却してからそれをベルト成形装置20から取り外す。そして,取り外したVリブ付ベルトスラブを例えば10.68~28.48mmの幅に輪切りしてから,それぞれの表裏を裏返す。これによってVリブドベルトBが得られる。」(段落【0044】)
「なお,本実施形態では布材料17’を筒状にしたものをゴムスリーブ型21に嵌めてセットしたが,所定の接着処理を施した布材料17’をシート状のままゴムスリーブ型21に巻き付けるようにしてもよい。また,シート状の接着ゴム材料11’及び圧縮ゴム材料12’をゴムスリーブ型21に巻き付けてセットしたが,予め筒状に成形したものをゴムスリーブ型21に嵌めてセットしてもよい。」(段落【0045】)
「なお,ベルト成形装置20は,円筒状外型22の内側面にVリブドベルトBのVリブ13を形成するためのV溝が設けられたものとして説明したが,特にこれに限られるものではなく,例えば,ゴムスリーブ型の外周側面にVリブドベルトBのVリブ13を形成するための突条部が設けられると共に円筒状外型22の内周面はVリブドベルトBの背面を成形するために平滑に設けられたものであってもよい。この場合,ニット布14’,圧縮ゴム材料12’,接着ゴム材料11’,撚り糸16’,接着ゴム材料11’,布材料17’,の順にゴムスリーブ型21への巻き付けを行う。」(段落【0046】)
(サ) 「次に,上記VリブドベルトBを用いた自動車のエンジンルームに設けられる補機駆動ベルト伝動装置40について説明する。」(段落【0047】)
「図4は,その補機駆動ベルト伝動装置40のプーリレイアウトを示す。この補機駆動ベルト伝動装置40は,4つのリブプーリ及び2つのフラットプーリの6つのプーリに巻き掛けられたサーペンタインドライブ方式のものである。」(段落【0048】)
「…これらのうち,平プーリであるテンショナプーリ43及びウォーターポンププーリ44以外は全てリブプーリである。そして,VリブドベルトBは,Vリブ13側が接触するようにパワーステアリングプーリ41に巻き掛けられ,次いで,ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ43に巻き掛けられた後,Vリブ13側が接触するようにクランクシャフトプーリ45及びエアコンプーリ46に順に巻き掛けられ,さらに,ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ44に巻き掛けられ,そして,Vリブ13側が接触するようにACジェネレータプーリ42に巻き掛けられ,最後にパワーステアリングプーリ41に戻るように設けられている。この補機駆動ベルト伝動装置40においては,例えば,パワーステアリングプーリ41とACジェネレータプーリ42との間のベルトスパン長が150mm,及び,クランクシャフトプーリ45とエアコンプーリ46との間のベルトスパン長が180mmである。ここで,ベルトスパン長とは,相互に隣接してVリブドベルトが巻き掛けられた一対のプーリにおける共通接線の接点間距離である(養賢堂発行「新版 ベルト伝動・精密搬送の実用設計 ベルト伝動技術懇話会編」第39頁)。」(段落【0049】)
「以上のような構成の補機駆動ベルト伝動装置40では,本発明のVリブドベルトBが巻き掛けられて使用されているので,リブ側ニット補強布13のジョイント部からベルト本体ゴムが浸みだすことがなく,低摩擦係数の状態を維持してベルト走行することが可能である。また,補機駆動ベルト伝動装置40がコンパクト化されるのに伴って,ベルトスパン長が小さくなると共にプーリ間のミスアライメントが生じやすくなるが,VリブドベルトBが巻き掛けられて使用されることにより,ミスアライメントに起因する異音の発生を抑制することができる。さらに,VリブドベルトBが補機駆動ベルト伝動装置40に巻き掛けられた場合,120℃程度の高温環境下で使用されても,-40℃程度の低温環境下で使用されても,VリブドベルトBが耐熱性及び耐寒性に優れているので,長期に亘ってベルト走行することができる。」(段落【0050】)
「なお,ミスアライメントは,一対のリブプーリP1,P2の一方の他方に対する図5に示すようなプーリずれや図6(a)及び(b)に示すようなプーリ倒れが原因となって生じる。…」(段落【0051】)
(シ) 「(試験評価用ベルト)
<実施例>
-ベルト本体の材料の準備-
接着ゴム層を形成するための接着ゴム材料として,EPDM(JSR社製,商品名:JSR EP123)を原料ゴムとして,この原料ゴム100質量部に対して,カーボンブラック(旭カーボン社製,商品名:旭#60)50質量部,可塑剤(日本サン石油社製,商品名:サンフレックス2280)15質量部,架橋剤(日本油脂社製,商品名:パークミルD)8質量部,老化防止剤(川口化学工業社製,商品名:アンテージMB)3質量部,酸化亜鉛(堺化学工業社製,商品名:酸化亜鉛二種)6質量部,及びステアリン酸(花王社製,商品名:ステアリン酸)1質量部を配合して混練した未加硫ゴム組成物を調製した。この未架橋ゴム組成物を,ロールを用いて厚さ0.4mmのシート状に加工した。」(段落【0053】)
「また,圧縮ゴム層を形成するための圧縮ゴム材料として,EPDMを原料ゴムとして,この原料ゴム100質量部に対して,カーボンブラック55質量部,可塑剤15質量部,架橋剤8質量部,老化防止剤3質量部,酸化亜鉛6質量部,及びステアリン酸1質量部を配合して混練した未加硫ゴム組成物を調製した。この未架橋ゴム組成物を,ロールを用いて厚さ1mmのシート状に加工した。」(段落【0054】)
「心線を形成するための撚り糸としては,ポリエステル繊維のものを準備し,これにRFL水溶液に浸漬して加熱乾燥する処理を行った。」(段落【0055】)
「背面側補強布を形成するための布材料としては,ポリエステル/綿混紡糸を平織りしたものを準備し,これにRFL水溶液に浸漬して加熱乾燥する処理を行った。」(段落【0056】)
「-ニット布の調製-
以下の手順に従って,リブ側ニット補強布となるニット布を調製した。」(段落【0057】)
「まず,ニット布としては,ウーリー加工を行ったポリエステル繊維の撚り糸で構成された天竺組織の編布を使用した。このニット布は,1インチ当たりの編み目数が縦64本及び横39本であり,3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は,ベルト長さ方向250%及びベルト幅方向250%であった。」(段落【0058】)
「このニット布にRFL接着処理を行うためのPTFE含有RFL水溶液を調製した。具体的には,レゾルシン(R)とホルマリン(F)とを混合し,水酸化ナトリウム水溶液を加えて攪拌し,RF初期縮合物(R/Fモル比=1/1.5)を得た。そして,RF初期縮合物にVPラテックス(L)をRF/L質量比=1/8となるよう混合し,さらに,水を加えて固形分濃度20%となるよう調整した後,さらに,RFL固形分100質量部に対してPTFE(AGC社製,商品名:フルオンPTFE AD911,PTFE平均粒子径0.25μm,PTFE60質量%含有)30質量部を配合し,24時間攪拌を行ってPTFE含有RFL水溶液を調製した。このPTFE含有RFL水溶液にニット布を浸漬して加熱乾燥する処理を行うことにより,ニット布の表面にRFL被膜を形成した。」(段落【0059】)
「続いて,RFL接着処理済みのニット布の端部と端部とを,超音波振動(振動数約80KHz)を与えながら熱圧着して,ニット布を筒状に成形した。」(段落【0060】)
「-Vリブドベルトの成形-
ベルト成形装置20のゴムスリーブ型21に,背面側補強布となる布材料,接着ゴム層を形成するための未架橋ゴム材料,撚り糸,を順に巻き付け,次いで,接着ゴム層を形成するための未架橋ゴム材料,圧縮ゴム層を形成するための未架橋ゴム材料,及び,上記の接着処理を行った筒状のニット布を巻き付けた。」(段落【0061】)
「次いで,V溝が設けられた円筒状外型22をベルト材料の上からゴムスリーブ型に嵌めて膨張させ,ゴムスリーブ型21側に押圧すると共にゴムスリーブ型21を高熱の水蒸気などにより加熱した。このとき,ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し,加えて,撚り糸,背面側補強布,リブ側ニット補強布のゴムへの接着反応も進行した。これによって,筒状のベルト前駆体が得られた。」(段落【0062】)
「最後に,このベルト前駆体をベルト成形装置20から取り外し,長さ方向に,幅10.68mmとなるように幅切りし,それぞれの表裏を裏返すことによってVリブドベルトを得た。このようにして得られたVリブドベルトを実施例1とした。」(段落【0063】)
(ス) 「<比較例1>
リブ側ニット補強布のジョイント部を,溶融接続ではなく,ミシンジョイントによって接続したことを除いて実施例と同一構成のVリブドベルトを作製し,比較例1とした。ミシン糸としては,ナイロン糸を使用した。」(段落【0064】)
「<比較例2>
リブ側ニット補強布のジョイント部を,溶融接続ではなく,ラップジョイントによって接続したことを除いて実施例と同一構成のVリブドベルトを作製し,比較例2とした。ラップジョイントの重ね幅は,3mmであった。」(段落【0065】)
「<比較例3>
リブ側ニット補強布を設けないことを除いて実施例の同一構成のVリブドベルトを作製し,比較例3とした。」(段落【0066】)
(セ) 「(試験評価方法)
<ベルト耐久走行試験>
図8は,ベルト耐久走行試験におけるベルト走行試験機80のプーリレイアウトを示す。」(段落【0068】)
「このベルト走行試験機80は,上下に設けられた大径のリブプーリ81,82(上側が従動プーリ及び下側が駆動プーリ,共にプーリ径120mm)と,それらの上下方向中間に設けられたアイドラプーリ83(プーリ径70mm)と,アイドラプーリの右方に設けられた小径従動リブプーリ84(プーリ径45mm)と,で構成されており,アイドラプーリ83におけるVリブドベルト背面の巻き掛け角度が90°となるように,また,小径従動リブプーリ84におけるVリブドベルトBの巻き掛け角度が90°となるように,それぞれ配されている。そして,VリブドベルトBは,Vリブ側がリブプーリ81,82及びリブプーリ84に接すると共に背面側がアイドラプーリ83に接するようにして,このベルト走行試験機80に巻き掛けられる。」(段落【0069】)
「実施例及び比較例1~3のそれぞれのVリブドベルトのうちリブ数が3のものについて,上記ベルト走行試験機80にセットし,686Nのベルト張力が負荷されるように小径従動リブプーリ84に側方にデッドウェイトを負荷し,そして,雰囲気温度120℃の下で,駆動リブプーリ82を4900rpmの回転数で回転させてベルトを走行させた。Vリブドベルトの走行が不能になるまでの走行時間を測定し,この走行時間をベルト耐久走行寿命とした。」(段落【0070】)
「<ミスアライメント異音耐久試験>
図9は,ミスアライメント走行試験におけるベルト走行試験機90のプーリレイアウトを示す。」(段落【0071】)
「このベルト走行試験機90は,上下に設けられた上側の小径従動リブプーリ91(プーリ径61mm)及び下側のアイドラプーリ92(プーリ径80mm)と,アイドラプーリ92の左方に設けられた駆動リブプーリ93(プーリ径80mm)と,アイドラプーリ92の右方に配された樹脂製の大径従動リブプーリ94(プーリ径130mm)と,から構成されている。そして,VリブドベルトBは,Vリブが小径従動リブプーリ91,駆動リブプーリ93及び大径従動リブプーリ94に接すると共に背面側がアイドラプーリ92に接するようにして,このベルト走行試験機90に巻き掛けられる。」(段落【0072】)
「実施例及び比較例1~3のそれぞれのVリブドベルトのうちリブ数が6のものについて,上記ベルト走行試験機90にセットし,アイドラプーリ93との間のミスアライメント量が3°となるように大径リブプーリ92を手前にオフセットしてプーリずれによるミスアライメントを生じさせ,雰囲気温度5℃の下,駆動リブプーリ93を750rpmで反時計回りに回転させて,異音が聴覚によって観測されるまでベルトを走行させた。なお,ベルト走行時間が500時間を越えたときには,そこで試験を打ち切った。」(段落【0073】)
「(試験評価結果)
表2は,試験評価の結果を示す。」(段落【0074】)
「【表2】…」(段落【0075】)
「表2によれば,Vリブドベルトのリブ表面にリブ側ニット補強布を設けた実施例及び比較例1・2と,リブ側ニット補強布を設けなかった比較例3と,を比較すると,リブ側ニット補強布を設けることによってミスアライメント走行時に異音の発生の抑制が可能であることが分かる。」(段落【0076】)
「また,リブ側ニット補強布のジョイント部を融着接続によって接続した実施例と,ミシンジョイント及びラップジョイントによって接続した比較例1及び2と,を比較すると,前者は後者よりもベルト耐久寿命が著しく長く,しかも,ベルト走行負荷となった原因がリブ側ニット補強布のジョイント部の存在によるものではないことが分かる。」(段落【0077】)
ウ 前記ア及びイの記載を総合すれば,本願明細書には,次の点が開示されていることが認められる。
(ア) 従来から,Vリブドベルトがリブプーリに巻き掛けられて使用されるときにプーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持するために,Vリブ表面を補強布で被覆することが行われている。
ところで,自動車の補機駆動ベルト伝動装置として,クランクシャフトプーリ(駆動リブプーリ),パワーステアリングプーリ及びエアコンプーリ(従動リブプーリ)の3つ以上のプーリに1本のVリブドベルトが巻き掛けられたサーペンタインドライブ方式のものが広く普及しているが,自動車の高機能化に伴って,エンジンルームの収容部品が増加し,補機駆動ベルト伝動装置のプーリレイアウトにも,例えば,相互に隣接する一対のプーリのベルトスパン長を狭くせざるを得ない,プーリのアライメントの公差を大きくせざるを得ないといった制約が生じてきたため,補機駆動用ベルト伝動装置において,隣接する一対のリブプーリのミスアライメントが生じやすくなり,結果として,そのミスアライメントに起因して異音が発生するという問題が生じてきた。
また,Vリブドベルトのプーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持するためにVリブ表面が補強布で表面被覆されている場合,補強布のジョイント部からベルト本体ゴムが浸みだしてプーリ接触部分の摩擦係数を上げてしまう問題がある。特に,ジョイント部がミシンジョイントされたものである場合には,ミシン糸等の存在によって早期にニット布のジョイント部に割れが生じてベルト走行不能になりやすい傾向があり,ジョイント部がラップジョイントされたものである場合には,その重なり部分から早期にニット布がめくれてしまってベルト走行不能になりやすい傾向がある。
(イ) 本願発明は,上記の問題点(課題)を解決し,Vリブドベルトの異音発生抑制効果を維持しつつ,ジョイント部の強度を高めて本体ゴムの浸み出しを防ぎ,その結果として,長期に亘って安定した状態でベルト走行を可能にすることを目的とするものであり,その解決手段として,ベルト内周側に,各々,ベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブを有するベルト本体と,該ベルト本体の該複数のVリブ表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布とを備え,リブ側ニット補強布は,融着接続されたジョイント部を有し,3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向について150~500%とする構成を採用した。
本願発明は,リブ側ニット補強布のジョイント部が融着接続され,ジョイント部における強度が優れているため,ジョイント部におけるベルト本体ゴムの浸み出しを抑制し,プーリ接触部分を低摩擦係数の状態に維持することができるとともに,ジョイント部におけるリブ側ニット補強布のめくれやジョイント部の割れの発生を抑制し,また,ミスアライメントによる異音の発生を抑制するので,結果として,異音抑制効果を維持した状態で長期に亘って安定してベルト走行することができるという効果を奏する。
(2) 刊行物1の記載事項
刊行物1(甲1の1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1」ないし「図6」については別紙2を参照)。
ア 「図1には,符号20で示される,この発明の無限のパワートランスミッションベルト構造或いはベルト自体の代表的な具体例を例示している。ベルト20は,テンション部21,テンション部に隣接する耐荷重部22,および耐荷重部22に隣接する圧縮部23を構成する。この例の圧縮部23は,耐荷重部に隣接するリブ付き部24を構成し,この例では,リブ付き部は耐荷重部22に隣接するプラットホーム層25に対して外側に配置され,プラットホーム層25は,後でより詳細に述べられる。
リブ付き部24は,同じ符号26によって示され複数のリブで定義され,リブ26は例えば27で示される複数の交互の突起と凹所によって定義される。ベルト20は,リブ26に結合され,ベルトの内側の表面を定義するニットカバーの繊維を持ち,ニット繊維は,符号30で示され,図2で詳細に例示される。
ニット繊維30は,複数の方向に伸張性を有し,実際に,平面図である図2において一群の対の矢印によって概略的に示されるように,複数の平面において無数の方向に伸張性を有する。ニット繊維の複数の方向への伸張性は,ベルト20が,繊維30及び実際にベルト20に課される最小圧力で,シーブ(示されてはいない)と連携して操作されることに特に適用できることを保証する。さらに,ベルト20は,小さい直径のシーブで作動されても,ニットカバー30はそのベルトから剥離する可能性が最小,あるいは実質的には全く無い。
ニット繊維30は,複数の合成のプラスティックの材料から成る糸で作られ,この例では,そのような糸は,符号32で示される。糸32は,図3において符号33で示されるナイロンと符号34で示されるスパンデックスを使った,ナイロン-スパンデックスの二成分の単繊維で作られる。この例の糸32のナイロンとスパンデックスの構成部分は,各々,実質的には半円形の横断的な形を持ち,部分33及び34は,35で示されるように,隣接する直径において統一した構造となるように共に結合される。
ナイロンとスパンデックスの二成分の単繊維の糸32を特徴づけるために,何らかの適当な技術を使うことが出来る。しかしながら,発明のこの例では,糸は,構成材料を同じ押し出し成形の口を通じて押し出し成形することで,またその技術分野においてよく知られている技術を伴って作られる。
ベルト20は,また,ベルト20の外側の表面を定義し,図1において36で示されるテンション部の外側の表面に結合したニットカバーの繊維を有する。ベルトの外側の表面を定義するために用いられるニット繊維は,リブ26に結合したニット繊維30と同じ材料で作ることができ,この例では,類似の繊維30が,ベルト20の外側の表面を定義するのに用いられる。」(原文2欄30行~3欄22行・訳文1頁~2頁)
イ 「ベルト20は,その技術分野において知られている技術と,上記した米国特許番号3,839,116で開示され,うまく用いられてきた方法とを用いて作ることができる。上記の特許で詳細に開示され,図4,5,及び6で基本的に示されているように,図6の符号45で示されるベルトスリーブは,それからこの発明のベルト20が適切に切り出されるもので,適切な母型スリーブ46を用いて作成できる。
図4に示されるように,母型スリーブ46は,円筒形のドラムまたはその他同種のものの上で適切に支えられ,完成したベルト20において簡素化のために同じ符号で示された,複数の材料層によって周囲を囲まれる。特に,ニット繊維30は,母型スリーブ46に接する位置で包まれ,以下に述べられる順番,すなわち,24で示されるリブのストックの材料,プラットホームのストックの材料25,ボトムクッションの材料41,らせん状に曲がった耐荷重コード40,トップクッションの材料41,テンション層の材料21,そして最後に外側の繊維の層30など全て図5で示される物が続く。
図5で図解される組立品は,その技術でよく知られているように適切に矯正され,冷却され,その結果,ベルトのスリーブの処理は,米国特許番号3,839,116に開示された処理に基本的に類似している。そしてそれによって,矯正したベルトのスリーブ45はその母型から除去され,複数のベルト20を定義するためにカットされる。」(原文3欄58行~4欄16行・訳文2頁)
(3) 刊行物2の記載事項
刊行物2(甲2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1」ないし「図8」については別紙3を参照)。
ア 「【技術分野】
本発明は,伝動ベルト用帆布,これを用いた伝動ベルト,及び伝動ベルト用帆布の製造方法に関する。」(段落【0001】)
「【背景技術】
自動車用補機駆動に用いられるVリブドベルト等の伝動ベルトには,その背面材料として繊維の織物,編み物を使用するのが一般的である。かかるベルトのサイズ(周長)は任意であり,故に帆布の長さも適宜に調節する必要がある。これまで,伝動ベルトに一般的に用いられている綿,または綿-ポリエステル混紡帆布は,バイヤスカットした2枚の帆布の端部をラップさせて重ね継ぎによりジョイントするか,あるいは2枚の帆布の端面を突き合わせ状態にし,ミシン糸で縫い合わせてジョイントして形成していた。しかし前者は,帆布ラップ部がラップしてない部位との間につくる段差により,背面プーリ上で異音や振動が発生するという問題があった。また後者は,走行中の帆布の継ぎ合わせ部が背面プーリとの接触を繰り返すことによりミシン糸が摩耗し,切断するため,一定走行後は帆布がジョイントされていない状態となり,帆布の剥離の問題があった。」(段落【0002】)
「このような点を顧慮して,ベルトの背面に被着させる伝動ベルト用帆布としてレゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理を施した帆布を重ね合わせ,その端部を超音波振動により熱圧着させながら,その近傍を溶融切断して所定周長の円筒状帆布を得る方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開第2003-97648号公報」(段落【0003】)
イ 「【発明が解決しようとする課題】
しかし,レゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理を施しただけの帆布を用いた上記方法では,帆布の繊維同士が溶着されないので,帆布の継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が非常に低いという問題がある。」(段落【0004】)
「この点,ジョイント強度を確保するために,ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着を行うことが考えられている。しかしこの方法では継ぎ合わせ部が完全に溶着してしまうため,ウーリーナイロン糸が本来有する伸び効果がほとんど減殺されてしまい,伝動ベルトの一定走行後には帆布の継ぎ合わせ部においてクラックを生じる確率が高くなってしまうという問題がある。」(段落【0005】)
「本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,伝動ベルト用帆布の継ぎ合わせ部に関し,背面プーリ上で異音や振動を生ずることなく,また一定走行後にも帆布の剥離を生ずることなく,同時に帆布の継ぎ合わせ部においてジョイント強度が高く,かつ継ぎ合わせ部でクラックを生じにくい構造を有する帆布を提供することにある。また,このような帆布を背面帆布として用いた伝動ベルトを提供することにある。さらに,上記のごとき伝動ベルト用帆布の製造方法を提供することにある。」(段落【0006】)
ウ 「【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は,上記目的を達成するために,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成した帆布を用い,以下のような発明を行った。」(段落【0007】)
「すなわち,請求項1に係わる発明は,
綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された伝動ベルト用帆布であって,
複数枚の帆布を長尺となるように継ぎ合わされてなり,
該継ぎ合わせ部において,相隣る両帆布は互いの熱可塑性合成繊維が溶着し,かつ互いの綿繊維が糸の形状を保ちつつ係わり合っていることを特徴とする伝動ベルト用帆布である。」(段落【0008】)
「上記発明の場合,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を用いるので,2枚の帆布の継ぎ合わせ部において,互いの熱可塑性合成繊維同士が溶着する一方,綿繊維は糸の形状を保ちつつ熱可塑性合成繊維の溶着部に入り込み,相手方帆布の綿繊維と係わり合っているという構造の伝動ベルト用帆布を創出しうる。かかる構造によれば,熱可塑性合成繊維が溶着することによって繊維そのものがジョイントするので,帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなるという利点と,熱可塑性合成繊維の溶着部においても綿繊維が糸の形状を保っているので,帆布継ぎ合わせ部における相応の伸び効果を維持できるという利点とを併せ持つことが可能になる。」(段落【0009】)
「また,伝動ベルトの形状が所定周長の筒状となるような伝動ベルトを形成する場合にも,筒状帆布を形成するのに付随して必要となる継ぎ合わせ部を,上記したものと同様に,相隣る両帆布の互いの熱可塑性合成繊維を溶着させ,かつ該溶着部において互いの綿繊維が糸の形状を保ちつつ係わり合うように形成することにより,上述した作用効果,すなわち,継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなるという利点と,継ぎ合わせ部で相応の伸び効果を維持できるという利点とを併せ持つという作用効果を得ることができる。」(段落【0016】)
エ 「【発明の効果】
本発明に係わる伝動ベルト用帆布,またこれを用いた伝動ベルト,及び当該伝動ベルト用帆布の製造方法が有する効果として以下の三点を挙げることができる。」(段落【0017】)
「第一に,継ぎ合わせる2枚の帆布の各端部をラップさせて重ね継ぎによりジョイントするわけではなく,各帆布の端面を突き合わせたのと同等の状態を創出してジョイントするので,帆布ラップ部がラップしてない部位との間につくる段差により背面プーリ上で異音や振動が発生するという問題が生じない。」(段落【0018】)
「第二に,2枚の帆布の各端面を突き合わせ,ミシン糸で縫い合わせてジョイントするわけではなく,帆布の熱可塑性合成繊維同士を溶着させることによりミシン糸を用いずにジョイントするので,ミシン糸が摩耗,切断して一定走行後に帆布が剥離するという問題が生じない。」(段落【0019】)
「第三に,上記した通り,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を用い,熱可塑性合成繊維が溶着することによって繊維そのものがジョイントするから,レゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理を施しただけの綿帆布を用いた場合と比較して帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなるし,また同時に,熱可塑性合成繊維の溶着部のなかに綿繊維が糸の形状を保ちつつ入り込むことにより溶着した熱可塑性合成繊維を介して互いの綿繊維が接着しており,帆布継ぎ合わせ部において相応の伸び効果を維持できるため,ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着する場合と比較して帆布継ぎ合わせ部でクラックを生じにくい。」(段落【0020】)
オ 「【発明を実施するための最良の形態】
以下,本発明に係わる伝動ベルト用帆布,これを用いた伝動ベルト,及び伝動ベルト用帆布の製造方法の実施例を図面を用いて具体的に説明する。」(段落【0023】)
「<構造>
まず,本発明に係わる伝動ベルト用帆布,及びこれ用いた伝動ベルトとして,図1に示すVリブドベルト1を例に挙げつつ,その構造を説明する。」(段落【0024】)
「符号1はVリブドベルト本体を示し,このVリブドベルト1は,ベルト長手方向に延びる心線2が埋設された接着ゴム層3と,ベルト本体の底面においてベルト長手方向へ互いに平行に延びる複数のリブ部4,4,・・・と,ベルト本体の背面を一体に被う,綿-ポリエステル混紡糸7により形成した背面帆布5とを備えている。」(段落【0025】)
「ここで,背面帆布5にはレゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理が施されており,帆布継ぎ合わせ部6においてレゾルシン-ホルマリン-ラテックス及びポリエステルが溶着することによって2枚の背面帆布5,5がジョイントしている。」(段落【0026】)
「また,図2は,上記継ぎ合わせ部6をミクロに見た場合において,ジョイントする2枚の背面帆布5,5を織成する綿-ポリエステル混紡糸7,7の綿繊維7a,7a同士が,帆布継ぎ合わせ部6において互いに係わり合っている状態を観念的に示す説明図である。本図ではポリエステル繊維を明示的に描いていないが,ポリエステル繊維は背面帆布5,5の継ぎ合わせ部6の範囲において熱溶着している(符号8)。そして綿繊維7a,7a,・・・は,継ぎ合わせ部6において密に隙間なく溶着したポリエステルの中に糸の形状を保ちつつ埋没しており,故にそれぞれの綿繊維7a,7a,・・・同士は溶着したポリエステルを介して(一部接触しながら)互いに接着している。」(段落【0027】)
「<製造方法>
次に,本発明に係わる伝動ベルト用帆布の製造方法を図3を用いて説明する。」(段落【0028】)
「まず,綿-ポリエステル混紡糸7を,縦糸と横糸とが交差角度90°となるように織成し,かつその表面一体にレゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理が施された平織りの帆布5aを用意し,これを図外のバイアスカッターを用いて縦糸が帆布幅方向に対して45°となるようにバイアス状にカットして複数枚のバイアスカット帆布5b,5b,・・・を作成する。」(段落【0029】)
「そうして得られたバイアスカット帆布2枚5b,5bを,それぞれの非カット側端部の一方同士が揃うようにしながら,かつ帆布表面同士が接するように重ね合わせ,この揃えた非カット側端部に沿って一定幅で直線に高周波振動を加え,互いのバイアスカット帆布5b,5bのレゾルシン-ホルマリン-ラテックス及びポリエステル繊維を熱溶着させる。次に重ね合わせていた上記バイアスカット帆布5b,5bを開いて1枚の結合帆布とし,溶着部における余り部5cを切断除去して帆布継ぎ合わせ部6aを平らに仕上げる。以下このバイアスカット帆布5b,5bを結合させる手順を繰り返すことにより1枚の長尺バイアス帆布5dを得る。なお,重ね合わせていた上記バイアスカット帆布5b,5bを開く前に溶着部における余り部5cを切断除去してもよい。」(段落【0030】)
「次に,上記方法で得られた長尺バイアス帆布5d,5dを2枚上下に揃えて重ね合わせ,図外の自動送り機を用いて定寸カットし,円筒状のVリブドベルト用帆布12を得る。」(段落【0031】)
「この工程を図4を用いて詳述すると以下のようになる。すなわち,上下に揃えて重ね合わせた2枚の長尺バイアス帆布5d,5dの所定の箇所で,ホーン部9及び受け治具10を用いて帆布幅方向へ垂直に高周波振動を加え,上下の長尺バイアス帆布5d,5dのレゾルシン-ホルマリン-ラテックス及びポリエステル繊維を互いに熱溶着させつつ,同時にその溶着部略中央を帆布幅方向へ切断して行き,溶融切断部11を得る。ここで,溶融切断部11は,この部位において上下に重ね合わせた2枚の長尺バイアス帆布5d,5d同士をジョイントしながら,かつ幅方向へ切断して形成されている。このことは,重ね合わせていた2枚の長尺バイアス帆布5d,5dを,切り離されて対となった長尺帆布ごとに開いたときに,ちょうど溶融切断部11において,切断した帆布の端面同士を溶着したのと同様の状態を形成していることを意味し,従って溶融切断部11は図3に示す継ぎ合わせ部6bを形成していることになる。この溶融切断部11を,上下に揃えて重ね合わせた2枚の長尺バイアス帆布5d,5dの帆布長手方向に所定の間隔を置いた2カ所において形成することにより,円筒状のVリブドベルト用帆布12を得ることができる。なお,長尺バイアス帆布を作成する場合と同様に,継ぎ合わせ部6bを平らに仕上げる必要がある場合は,溶着部の余り部を切断除去するものとする。」(段落【0032】)
カ 「<クラック耐久テスト>
まず,図5は本発明に係わる伝動ベルト用帆布に関するクラック耐久テストをどのようにして行ったのかを示す説明図である。すなわち,背面帆布5を被着させた円筒状のVリブドベルト1を,駆動プーリ13及び従動プーリ14,14に掛け渡し,背面プーリ15,15にて75kgfのテンションをかけた状態で走行させている状態を示す。」(段落【0033】)
「本クラック耐久テストは,この状態でVリブドベルト1を走行させたときに,背面帆布の継ぎ合わせ部6がクラックを生じる(より詳しく言えば,継ぎ合わせ部6において生じたクラックが心線2層にまで到達する)までの走行時間が,背面帆布の素材の種類によってどのように変じるのかをみたものである。その結果を図6,図7,図8に示す。」(段落【0034】)
「まず,図6は,各素材の背面帆布の継ぎ合わせ部におけるジョイント強度と伸び率(帆布縦糸方向で強度測定時の破断伸び測定),さらに継ぎ合わせ部にクラックが生じるまでの走行時間の3点を数値で示したものである。」(段落【0035】)
「この図6から,ジョイント強度,伸び率ともに,綿のみを用いた帆布をミシンにより継ぎ合わせたものが最も優れているということができるが,この綿のみを用いた帆布では継ぎ合わせ部にミシン糸を用いているため,ベルトの走行に伴い背面プーリ上でミシン糸が摩耗し,切断するという問題があり,それに起因してクラック耐久力が低い。従ってクラックが生じるまでの走行時間は,綿/ポリエステル比が40%/60%である素材の背面帆布の場合と比較して半分以下の数値となっていることがわかる。クラックが生じるまでの走行時間からみて,綿/ポリエステル比が60%/40%ないし40%/60%である素材の背面帆布が最も優れていると結論づけることが可能である。また逆に,綿あるいはポリエステルの含有比率がどちらかへ偏った場合は十分なクラック耐久力を示さないことも読みとれる。」(段落【0037】)
「図7は図6における各素材の背面帆布のジョイント強度及び伸び率を参考のためにグラフ化したものである。ここではクラックが生じるまでの走行時間は示されていない。」(段落【0038】)
「図8は図6における各素材のクラックが生じるまでの走行時間をグラフ化して示しており,特に綿-ポリエステル混紡糸で形成した帆布について綿/ポリエステル比の変化に応じて耐クラック走行時間がどのように変じるかを明示したものである。この図8からも,上記した通り,綿/ポリエステル比が60%/40%ないし40%/60%であるときに帆布継ぎ合わせ部においてクラックが生じるまでの走行時間は最も長くなるということができる。」(段落【0039】)
「以上のテストから,綿/ポリエステル比がおよそ50%/50%の時に,走行中の帆布のクラック寿命は最も優れるということができる。これは次のような事情によるものと考えられる。」(段落【0040】)
「すなわち,綿含有比率が増大するとともにポリエステル含有比率が減少し,従って帆布継ぎ合わせ部における溶着部分の体積が減るためジョイント強度が弱くなり,早期破損につながる。また逆にポリエステル含有比率が増加すると,溶着部分の体積が増えるため帆布のジョイント強度は高くなるが,他方綿含有比率が減少するため帆布継ぎ合わせ部における伸び率が低下して割れやすくなり,同様に早期破損してしまう。」(段落【0041】)
「ジョイント強度及び伸び率という両方の観点からみて最も適当な綿/ポリエステル比がおよそ50%/50%の時であるということである。」(段落【0042】)
キ 「<作用効果>
本来Vリブドベルトに用いられる背面帆布材料は,周方向への柔軟性を付与するためにバイヤス加工されており,周方向に対し各糸は規定の角度を持っている。従ってバイヤス加工により周方向への柔軟性を有するが,ジョイント部はポリエステル成分が溶着されているため,ほとんど伸びを持たない。よってナイロン,ポリエステルなどの合成繊維は走行中に帆布継ぎ合わせ部の早期破損を引き起こす。」(段落【0043】)
「綿帆布は,繊維自体が溶着しないためジョイント強度が非常に弱く,走行初期から帆布継ぎ合わせ部が破損してしまう。またミシンによる継ぎ合わせでは,ジョイント強度は高いが,ベルトの走行に伴いミシン糸が摩耗,切断し,継ぎ合わせ部においてクラックが発生する。」(段落【0044】)
「以上の素材の帆布に比較して,綿-ポリエステル混紡帆布は,ポリエステル成分が高周波加振時に溶着し,物理的に合成繊維を介してジョイントしている。ここで,合成繊維は溶着時に溶けてしまうため,繊維に糸の形状がなくなり,伸びをほとんど維持しないが,綿繊維はポリエステル成分の溶着部のなかに糸の形状を保ちつつ埋没しているため,糸そのものの持つ伸びを維持している(図2参照)。よって綿/ポリエステル比が約50%/50%の時に帆布は必要なジョイント強度と伸びを有しており,帆布継ぎ合わせ部における耐クラック性が最も向上する。」(段落【0045】)
「また,帆布の素材として綿-ポリエステル混紡糸により形成した帆布を示したが,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸で形成したものであればその種類は問わない。」(段落【0047】)
(4) 相違点の容易想到性について
原告は,本件審決は,相違点に係る本願発明の構成のうち,「リブ側ニット補強布は,融着接続されたジョイント部」を有するとの部分(「融着接続」に関する構成)に関し,引用発明のニット繊維30を円筒形にするために,刊行物2に記載された事項を適用して,「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることは,当業者が容易になし得たことである旨判断し,さらに,相違点に係る本願発明の構成のうち,「伸び率」に関し,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用したものにおいて,ニット繊維の伸縮性を「3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向について150~500%である」と設定することに格別の困難性はない旨判断したが,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する動機付けがあるものとはいえず,かえって阻害要因があるから,本件審決の上記判断は,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用することを前提としている点において,誤りがある旨主張するので,以下において判断する。
ア 刊行物1について
(ア) 刊行物1(甲1の1)に前記第2の3(2)アのとおりの引用発明が記載されていること,本願発明と引用発明が同イのとおりの一致点を有することは,当事者間に争いがない。
前記(2)認定の刊行物1の記載事項によれば,刊行物1記載のベルト20(Vリブドベルト)は,ベルトの内側の表面に,リブ26を被覆する「符号30」で示されるニット繊維を有し,また,ベルトの外側の表面に,別紙2の図1,5及び6に示すように,テンション部21を被覆する「符号30」で示されるニット繊維を有するものである。
そして,刊行物1には,「ニット繊維30は,複数の合成のプラスティックの材料から成る糸で作られ,この例では,…ナイロン-スパンデックスの二成分の単繊維で作られる。」(訳文1頁20行~23行),「ベルトの外側の表面を定義するために用いられるニット繊維は,リブ26に結合したニット繊維30と同じ材料で作ることができ,この例では,類似の繊維30が,ベルト20の外側の表面を定義するのに用いられる。」(訳文2頁5行~8行)との記載がある。
(イ) 次に,前記(2)認定の刊行物1の記載事項及び別紙2の図1,4ないし6によれば,刊行物1には,刊行物1記載のベルト20は,円筒形のドラムに,ニット繊維の層30,リブ26の材料24,プラットホームの材料25,ボトムクッションの材料41,らせん状に曲がった耐荷重コードの材料40,トップクッションの材料41,テンション部の材料21及びニット繊維の層30を順に積層し,硬化させて製造されたものであり,これらの積層された材料層は,製造時に円筒形である。
そして,特開2004-19894号公報(甲3)には,「本発明は動力伝動用ベルトに係り,詳しくはVリブドベルト,Vベルトのような動力伝動用ベルトであり,ベルト背面に伸縮性に富んだ補強カバー材を使用することによって,ベルトの屈曲性が向上してベルト走行寿命が向上し,更には背面駆動時における粘着による発音を軽減した動力伝動用ベルトに関する。」(段落【0001】),「従来,Vリブドベルトの背面帆布として広く使用されている織布は,経糸と緯糸の交叉角90°の平織帆布を機械的に処理,即ちテンター処理して両糸をベルト長手方向に対して120°に交叉した広角度処理したものがある。…」(段落【0003】),「このようにして得られた広角度帆布(バイアス帆布)をゴム糊でソーキング処理した後,バイアス45°に切断して切尺反とし,この切尺反を作業台上で他の切尺反との両端部を突き合わせてオーバーロックなどのミシンがけによりジョイントしてベルトの外周長を越える長さが得られるまで接合を繰り返し長尺反にしていた。そして,この長尺反はベルトの外周長に相当する長さにバイアス45°に切断し,これをミシンがけによりジョイントして円筒状のカバー帆布に仕上げていた。更には,このようにして切り取られた長尺反の最後には,長尺反の長手方向に対して直角方向になるように両端を切断し,この両端をミシンがけによりジョイントして円筒状のカバー帆布にしていた。」(段落【0004】),「また,他の方法として長尺反の一端を長手方向に対して直角方向になるように切断した後,他端も長手方向に対して直角方向になるように切断し,この両端をミシンがけによりジョイントして円筒状のカバー帆布に仕上げていた。…」(段落【0005】)との記載がある。上記記載によれば,本願の出願当時,Vリブドベルト,Vベルトのような動力伝動用ベルトの表面に帆布として使用される織物や編物を円筒形とするための手法として,ベルトの外周長に相当する長尺反の両端を接合することは,周知であったことが認められる。
そうすると,刊行物1に明示の記載はないものの,刊行物1記載のベルト20におけるベルトの外側の表面のニット繊維とベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維は,いずれもベルトの外周長に相当する長尺反の両端を接合して円筒形に形成されたものであり,それぞれ接合部(ジョイント部)を有することは自明である。
イ 刊行物2について
前記(3)認定の刊行物2(甲2)の記載事項によれば,刊行物2には,次の点が開示されていることが認められる。
(ア) 自動車用補機駆動に用いられるVリブドベルト等の伝動ベルトには,繊維の織物,編み物の背面帆布を使用するのが一般的である。これまで背面帆布として一般的に用いられている綿,または綿-ポリエステル混紡帆布は,バイヤスカットした2枚の帆布の端部をラップさせて重ね継ぎによりジョイントするか,あるいは2枚の帆布の端面を突き合わせ状態にし,ミシン糸で縫い合わせてジョイントして形成しているが,前者は,帆布ラップ部がラップしてない部位との間につくる段差により,背面プーリ上で異音や振動が発生するという問題があり,また,後者は,走行中の帆布の継ぎ合わせ部が背面プーリとの接触を繰り返すことによりミシン糸が摩耗し,切断するため,一定走行後は帆布がジョイントされていない状態となり,帆布の剥離の問題があった。このような点を顧慮して,ベルトの背面に被着させる伝動ベルト用帆布としてレゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理を施した帆布を重ね合わせ,その端部を超音波振動により熱圧着させながら,その近傍を溶融切断して所定周長の円筒状帆布を得る方法が提案されているが,この方法では,帆布の繊維同士が溶着されないので,帆布の継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が非常に低いという問題があるため,ジョイント強度を確保するために,ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着を行うことが考えられている。
しかし,上記方法では継ぎ合わせ部が完全に溶着してしまうため,ウーリーナイロン糸が本来有する伸び効果がほとんど減殺されてしまい,伝動ベルトの一定走行後には帆布の継ぎ合わせ部においてクラックを生じる確率が高くなってしまうという問題がある。
(イ) 「本発明」は,上記の問題点(課題)を解決し,伝動ベルト用帆布の継ぎ合わせ部に関し,背面プーリ上で異音や振動を生ずることなく,また一定走行後にも帆布の剥離を生ずることなく,同時に帆布の継ぎ合わせ部においてジョイント強度が高く,かつ継ぎ合わせ部でクラックを生じにくい構造を有する帆布,このような帆布を背面帆布として用いた伝動ベルト及びその製造方法を提供することを目的とするものであり,その解決手段として,伝動ベルト用帆布の材料として綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を用い,帆布の継ぎ合わせ部において熱可塑性合成繊維を溶着(熱溶着)することによって繊維そのものをジョイントする構成を採用した。
「本発明」は,①継ぎ合わせる2枚の帆布の各端部をラップさせて重ね継ぎによりジョイントするわけではなく,各帆布の端面を突き合わせたのと同等の状態を創出してジョイントするので,帆布ラップ部がラップしてない部位との間につくる段差により背面プーリ上で異音や振動が発生するという問題が生じない,②継ぎ合わせる2枚の帆布の各端面を突き合わせ,ミシン糸で縫い合わせてジョイントするわけではなく,帆布の熱可塑性合成繊維同士を溶着させることによりミシン糸を用いずにジョイントするので,ミシン糸が摩耗,切断して一定走行後に帆布が剥離するという問題が生じない,③伝動ベルト用帆布の材料として綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を用い,熱可塑性合成繊維が溶着することによって繊維そのものがジョイントするから,レゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理を施しただけの綿帆布を用いた場合と比較して帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなり,また,熱可塑性合成繊維の溶着部の中に綿繊維が糸の形状を保ちつつ入り込むことにより溶着した熱可塑性合成繊維を介して互いの綿繊維が接着しており,帆布継ぎ合わせ部において相応の伸び効果を維持できるため,ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着する場合と比較して帆布継ぎ合わせ部でクラックを生じにくいという効果を奏する。
ウ 「融着接続」に関する相違点について
(ア) 前記イの認定事実によれば,刊行物2には,①Vリブドベルト等の伝動ベルトの背面帆布を円筒形に形成する方法として,継ぎ合わせる帆布の各端部を超音波振動により熱圧着させて,溶着(熱溶着)する方法が,継ぎ合わせる帆布の各端部をラップさせて重ね継ぎによりジョイントし,あるいは継ぎ合わせる帆布の端面を突き合わせ状態にし,ミシン糸で縫い合わせてジョイントする方法と比べて,背面プーリ上で異音や振動を生ずることなく,また,一定走行後にも帆布の剥離を生ずることがない点で優れていること,②かかる溶着(熱溶着)の方法に使用する帆布の材料として,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布が,綿帆布だけを用いた場合と比較して帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなり,また,ナイロン帆布等,100%合成繊維により形成された帆布と比較して,帆布継ぎ合わせ部でクラックが生じにくいという点で優れていることが記載されている。その一方で,刊行物2には,Vリブドベルトのベルトの内側(リブ側)の表面に帆布を使用することやその帆布を円筒形に形成する方法について述べた記載はないが,上記①及び②がベルトの内側(リブ側)の表面の帆布に当てはまらないことをうかがわせる記載もない。
そうすると,刊行物1及び刊行物2に接した当業者においては,刊行物1記載のベルト20におけるベルトの外側の表面のニット繊維とベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維をそれぞれ円筒形に形成するに当たり,刊行物2に記載された,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を材料として使用し,継ぎ合わせる帆布の各端部を超音波振動により熱圧着させて,溶着(熱溶着)する方法を適用することの動機付けがあるものと認められる。
そして,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本願発明の「リブ側ニット補強布」の材料を限定する記載はなく,本願明細書においてもこれを限定する記載はないから,刊行物2記載の綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布は,本願発明の「リブ側ニット補強布」に含まれるものと認められる。
また,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本願発明の「融着接続されたジョイント部」にいう「融着接続」について規定する記載はないが,一方で,本願明細書には,「リブ側ニット補強布14には,2つのニット布の接続端が連続するように接続された部分であるジョイント部(図示せず)を有する。ジョイント部は,ベルト長さ方向に対して斜め方向であってもよく,ベルト幅方向と一致していてもよい。ジョイント部は,熱圧着されることによって融着接続されたものである。」(段落【0030】),「…超音波加熱装置によって高周波数(例えば,10~30KHz)の振動を与えると共に熱圧着し,同時にカッターでその熱圧着した部分を切断し,折りたたまれた状態のニット布14’を広げて筒状のニット布14’を形成する。」(段落【0038】),「なお,複数のニット布14’の切断片を上記の融着接続によって一体化させたものを,その両端辺同士を揃えるようにして折りたたんでさらに融着接続し,筒状のニット布14’としてもよい。」(段落【0039】)との記載がある。本願明細書の上記記載によれば,刊行物2記載の継ぎ合わせる帆布の各端部を超音波振動により熱圧着させて,溶着(熱溶着)する方法は,本願発明の「融着接続」に該当するものと認められる。
以上によれば,刊行物1及び刊行物2に接した当業者は,刊行物1記載のベルト20におけるベルトの外側の表面のニット繊維とベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維をそれぞれ円筒形に形成するに当たり,刊行物2に記載された,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を材料として使用し,継ぎ合わせる帆布の各端部を超音波振動により熱圧着させて,溶着(熱溶着)する方法を適用する動機付けがあるから,引用発明(ベルト20)において,ベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維30が「融着接続されたジョイント部」を有する構成(「融着接続」に関する相違点に係る本願発明の構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,引用発明のニット繊維30を円筒形にするために,刊行物2に記載された事項を適用して,「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることは,当業者が容易になし得たことである旨の本件審決の判断は,結論において誤りがない。
(イ)a 原告は,①刊行物1の記載事項全体をみれば,リブ26の表面を被覆する繊維材料とベルト20の外側の表面を被覆する繊維材料とが互換性を有することの開示はなく,また,リブ26の表面の被覆に,ベルト20の外側の表面を被覆する繊維材料と同一材料を適用し得ることについては記載も示唆もない,②一般に,Vリブドベルトでは,ベルトの内側のVリブがプーリに接触する動力伝達部を構成するものであり,ベルトの内側のVリブの表面の方がベルトの外側(背面)の表面に比べてより厳しい条件を強いられるため,ベルトの内側のVリブの表面を被覆する繊維材料には,ベルトの外側の表面を被覆する繊維材料に比べて,耐摩耗性や強度等に関して高いパフォーマンスが要求され,大きな伸縮性も要求されるから,ベルトの外側(背面)の表面とベルトの内側のVリブの表面がプーリと常時接触する点で共通する場合があるからといって,ベルトの外側の表面を被覆する繊維材料についての技術的課題の解決手段によりベルトの内側のVリブの表面を被覆する繊維材料についての技術的課題を解決できるということにはならない,③刊行物1及び刊行物2のいずれにも,ベルトの内側のVリブの表面を被覆する繊維材料についてベルトの外側の表面を被覆する繊維材料に関する事項を適用できることについての記載も示唆もないとして,刊行物1及び刊行物2に接した当業者において,引用発明のリブ26側のニット繊維30に刊行物2に記載されたベルトの外側の表面を被覆する背面帆布の繊維材料に関する事項を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
しかしながら,刊行物1及び刊行物2に接した当業者において,ベルト20におけるベルトの外側の表面のニット繊維とベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維をそれぞれ円筒形に形成するに当たり,刊行物2に記載された,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を材料として使用し,継ぎ合わせる帆布の各端部を超音波振動により熱圧着させて,溶着(熱溶着)する方法を適用することの動機付けがあるものと認められることは,前記(ア)認定のとおりである。
また,刊行物2の段落【0002】の「自動車用補機駆動に用いられるVリブドベルト等の伝動ベルトには,その背面材料として繊維の織物,編み物を使用するのが一般的である。…走行中の帆布の継ぎ合わせ部が背面プーリとの接触を繰り返す…」との記載及び別紙3の図5の記載によれば,刊行物2には,同図5に示すように,5つのプーリ(符号13ないし15)に1本のVリブドベルトが巻き掛けられた,自動車用補機駆動に用いられるVリブドベルトが開示され,そのベルトの外側の背面帆布は「背面プーリ」(符号15)と常時接触していることの開示があるものといえる。上記開示事項によれば,刊行物2記載のVリブドベルトにおいては,ベルトの内側のVリブがプーリに接触して動力伝達機能を有するのみならず,ベルトの外側の背面帆布も,プーリに接触して動力伝達機能を有するものと認められる。もっとも,Vリブドベルトでは,プーリに接触するベルトの内側のVリブの表面の方がベルトの外側(背面)の表面に比べてより厳しい条件を強いられ,ベルトの内側のVリブの表面を被覆する繊維材料には,ベルトの外側の表面を被覆する繊維材料に比べて,耐摩耗性や強度等に関して高いパフォーマンスが要求され,大きな伸縮性も要求される傾向があるとしても,Vリブドベルトに求められる要求性能は,具体的な用途において様々であることは自明であり,ベルトの外側の表面を被覆する繊維材料(背面帆布)の構成をベルトの内側のVリブの表面を被覆する繊維材料に適用することが必ずしもできないものではない。
したがって,引用発明のリブ26側のニット繊維30に刊行物2に記載されたベルトの外側の表面を被覆する背面帆布の繊維材料に関する事項を適用する動機付けがあるとはいえないとの原告の主張は,理由がない。
b 原告は,刊行物2の段落【0005】の記載は,100%合成繊維の帆布を融着(溶着)した場合,本来有する伸び効果がほとんど減殺され,その結果,伝動ベルトの一定走行後に帆布の継ぎ合わせ部においてクラックを生じる確率が高くなるという問題があることを開示するものであり,これは,当業者が,刊行物1記載の100%合成繊維の帆布に,刊行物2記載の融着接続の技術を組み合わせて本願発明に想到することを妨げる理由に該当し,阻害要因に当たる旨主張する。
しかしながら,前記aで述べたとおり,当業者においては,刊行物1記載のベルト20におけるベルトの外側の表面のニット繊維とベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維をそれぞれ円筒形に形成するに当たり,刊行物2に記載された,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を材料として使用し,継ぎ合わせる帆布の各端部を超音波振動により熱圧着させて,溶着(熱溶着)する方法を適用することの動機付けがあるものと認められ,原告が挙げる刊行物2の段落【0005】の記載は刊行物1記載のベルト20におけるベルトの外側の表面のニット繊維とベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維をそれぞれ円筒形に形成するに当たり刊行物2に記載された上記技術事項を適用する阻害要因に当たるものとはいえないから,原告の上記主張は理由がない。
なお,原告は,この点に関し,引用発明におけるベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維について,刊行物1記載の100%合成繊維により形成した帆布ではなく,刊行物2記載の綿繊維及び熱可塑性合成繊維の混紡糸で形成された帆布を適用することは,本件審決の内容から乖離しており,本件審決における認定及び判断とは何ら関係がないなどと主張する。
しかしながら,本件審決は,引用発明のニット繊維30を円筒形にするために,刊行物2に記載された事項を適用して,「融着接続されたジョイント部」を有するようにすることは,当業者が容易になし得たことである旨判断したものであり,引用発明におけるベルトの内側(リブ側)の表面のニット繊維に,刊行物2に記載された綿繊維及び熱可塑性合成繊維の混紡糸で形成された帆布を適用することは,本件審決における認定及び判断とは関係がないものと断ずることはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 以上のとおり,本件審決における「融着接続」に関する相違点の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
エ 「伸び率」に関する相違点について
原告は,本件審決は,相違点に係る本願発明の構成のうち,「伸び率」に関し,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用したものにおいて,ニット繊維の伸縮性を「3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向について150~500%である」と設定することに格別の困難性はない旨判断したが,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する動機付けがあるものとはいえず,かえって阻害要因があるから,本件審決の上記判断は,引用発明に刊行物2に記載された事項を適用することを前提としている点で,その前提において誤りがある旨主張する。
しかしながら,前記ウで説示したとおり,引用発明のリブ26側のニット繊維30に,刊行物2に記載された,綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を材料として使用し,継ぎ合わせる帆布の各端部を超音波振動により熱圧着させて,溶着(熱溶着)する方法を適用することの動機付けがあり,これを適用することに阻害要因があるものとは認められず,引用発明に上記事項を適用して「融着接続されたジョイント部」を有する構成とすることは当業者が容易に想到することができたものであるから,原告の上記主張は,まず,この点において理由がない。
そして,①本願出願前に,伝動用ベルトの歯部を被覆する布の伸縮性を,伸び率として規定することは,周知であったこと(例えば,特開昭55-63038号公報(甲4)の5頁左下欄10行~右下欄9行),②本願明細書には,「3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100~500%で且つベルト幅方向について150~500%」としたリブ側ニット補強布と上記数値範囲外のリブ側ニット補強布とを対比した試験評価結果の記載はなく,本願明細書の記載から本願発明の伸び率を上記数値範囲とすることに臨界的意義があるものと認めることはできないこと,③Vリブドベルトにおけるリブ側ニット補強布の伸縮性を実験的に最適化又は好適化することは,当業者が普通に行うことであることからすると,当業者が,引用発明のリブ26側のニット繊維30を「融着接続されたジョイント部」を有する構成としたものにおいて,ニット繊維30の伸び率を上記数値範囲とすることは格別困難なことではなく,容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件審決における「伸び率」に関する相違点の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
(5) 小括
以上によれば,本件審決における相違点の容易想到性の判断に誤りはなく,本願発明は,引用発明,刊行物2に記載された事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,原告主張の取消事由は理由がない。
2 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
(裁判長裁判官 富田善範 裁判官 大鷹一郎 裁判官 平田晃史)
file_2.jpg別紙