知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10288号 判決 2014年7月17日
原告
株式会社名南製作所
訴訟代理人弁護士
高橋譲二
訴訟代理人弁理士
石田喜樹
同
石田正己
同
園田清隆
被告
橋本電機工業株式会社
訴訟代理人弁護士
三木浩太郎
同
小川晶露
同
早川尚志
訴訟代理人弁理士
長谷部善太郎
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2012-800014号事件について平成25年9月19日にした審決を取り消す。
第2前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯(争いがない。)
原告は,発明の名称を「板状体のスカーフ面加工方法及び装置」とする特許(特許第4460618号。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,平成10年6月16日に出願された特願平10-186866号(原出願)の一部を平成21年1月9日に特願2009-3911号(本件出願)として分割出願し,平成22年2月19日に設定登録されたものである(請求項の数は2である。)。
被告は,平成24年2月23日,特許庁に対し,本件特許を無効とすることを求めて審判の請求をし,特許庁は上記請求を無効2012-800014号事件として審理をした上,平成25年9月19日,「特許第4460618号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は同月28日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載(甲1)
本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明1」,請求項2に係る発明を「本件特許発明2」という。
これらを併せて「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
刃物受台の板状体を支持する支持面に対し傾斜して備えられた回転切削刃物を,当該回転切削刃物の刃先と前記刃物受台の刃先当接部とを当接させ乍ら,前記板状体に対して相対的に直線移動させることにより,前記板状体の端部をスカーフ面に切削加工し,前記刃先当接部から突出した前記板状体端部を切削屑として排除する方法において,前記回転切削刃物と一体化して相対的直線移動する押圧部材によって,前記回転切削刃物の前記相対的直線移動方向下手側で且つ当該回転切削刃物の刃先近傍における前記板状体の表面のうち,切削屑として排除されることになる部分を前記刃物受台に向けて押圧し,当該切削屑として排除されることになる部分を当該押圧部材と前記刃物受台とによって挟持し乍ら切削加工することを特徴とする,板状体のスカーフ面加工方法。
【請求項2】
刃物受台の板状体を支持する支持面に対し傾斜して備えられた回転切削刃物を,当該回転切削刃物の刃先と前記刃物受台の刃先当接部とを当接させ乍ら,前記板状体に対して相対的に直線移動させることにより,前記板状体の端部をスカーフ面に切削加工し,前記刃先当接部から突出した前記板状体端部を切削屑として排除する板状体のスカーフ面加工装置において,前記回転切削刃物の前記相対的直線移動方向下手側で且つ当該回転切削刃物の刃先近傍における前記板状体の表面のうち,切削屑として排除されることになる部分を前記刃物受台に向けて押圧可能で,而も前記回転切削刃物と一体化して相対的直線移動する押圧部材を設け,前記押圧部材と前記刃物受台とによって,前記切削屑として排除されることになる部分を挟持し乍ら切削加工することを特徴とする,板状体のスカーフ面加工装置。」
3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,要するに,①甲9号証の1のビデオ(証拠として提出されているのはビデオから編集したDVD)の映像は,宮崎県日向市<以下略>所在の株式会社サンテック(現商号『株式会社大三商行サンテック事業部』。以下「サンテック」という。)に納入されたスカーフカッター(以下「サンテック用スカーフカッター」という。)の映像であるところ,同映像のうち後切部の(b)の映像は,本件特許発明1及び2の構成要件を充足するスカーフカッターの映像であり,②サンテック用スタッフカッターは,本件特許の原出願日より前の平成9年7月24日,住商リース株式会社(以下「住商リース」という。)からサンテックに譲渡され,かつ,譲渡に際しサンテックは同スカーフカッターの構成につき秘密保持義務を負っていなかったから,公然と譲渡されたものであり,③よって,本件特許発明1,2は,原出願の出願前に公然実施されたものであるから,無効であるというものである。
第3原告主張の取消事由
1 取消事由1(甲9号証の1のビデオ映像の証拠価値の評価及び撮影日認定の誤り)について
(1) 甲9号証の1のビデオ映像の証拠価値の評価の誤り
甲9号証の1のビデオ映像に関しては次の2つの疑問があり,証拠価値が認められない。
第1に,甲9号証の1には,合板工場と思われる場所での撮影部分(第 1 の映像)とその他の場所での撮影部分(第2の映像)が含まれており,全く別の場所で別の機械を撮影してこれらを一つのビデオ映像に編集している。被告は,本件訴訟に先行する特許権侵害訴訟(東京地裁平成23年(ワ)第29049号事件。以下,「先行侵害訴訟」という。)において,当初,このような編集の事実に全く触れずに甲9号証の1の映像を証拠として提出していたものであり,甲9号証の1は,重要な部分に関し編集された疑いが強く,大きな疑念がある。
第2に,原告が被告に対して侵害の事実を警告したのが平成23年の初めであり,その後,同年3月頃代理人間で話合いがされ,仮処分を経て平成23年9月に先行侵害訴訟の提訴に至ったという経緯があるのに,被告が,先行侵害訴訟において,甲9号証の1と同一の証拠(先行侵害訴訟における乙45号証)を提出したのは平成23年9月の提訴後半年を経過した平成24年1月のことである。被告は,審判(無効2012-800014号事件)においても,甲9号証の1を請求当初には提出せず,請求から約1年後の平成25年1月17日に提出した。侵害訴訟や審判における甲9号証の1の提出経緯は不自然である。
このように甲9号証の1は,その映像が編集されていることや先行侵害訴訟,審判における提出経緯の不自然さからみて,証拠価値に疑問がある。
(2) 甲9号証の1の撮影日認定の誤り
審決は,甲9号証の1が本件特許発明1,2の原出願の出願日前に撮影されたものとしている。確かに,甲9号証の1の最後には,「橋本電機工業株式会社 9705」という映像が表示されている。しかし,被告が甲9号証の1の映像に含まれているとする甲45号証ないし48号証の映像は,当時のテープの映像そのものではなく,当該映像を処理したものである。映像処理においてタイムコードを容易に挿入することができるから,甲45号証ないし48号証がそのタイムコードで示す日時に撮影されたか否か不明である。したがって,甲9号証の1の少なくとも一部の映像の撮影日時は不明であり,甲9号証の1の撮影日を,審決が認定したように,本件特許の原出願の出願日前であると認めることはできない。
2 取消事由2(甲9号証の1のビデオ映像に基づいて公然実施を認めた誤り)について
(1) スカーフカッターの青色部材を押圧部材であると認定した誤り本件特許発明に係る押圧部材が板を押圧し刃物受台との間で挟持しているという構成要件を充足するかを判断するためには,①板を平坦な状態になるまで押さえ挟んでいるのか,②板を平坦でない(あばれや折れ曲がりや屑による変形等が残ったままの)状態で押さえ挟んでいるのか,③一見板を押圧しているように見えるが実際は板を押さえず単に接触しているのか,④板から離れているのか,という事象を互いに区別して看ることが必要である。
したがって,これらの事象を見分けることが可能である証拠に基づいて,詳細かつ綿密な判断をする必要がある。
ところが,甲9号証の1のビデオは,サンテック用スカーフカッターを含むスカーフジョインターの作動状況を概括的に観察し,製品の態様を取引相手に説明する目的で全体的に撮影されたものにすぎない。特に,後切部の(b)のビデオは不鮮明であり,青色の部材(審決が本件特許発明1,2の押圧部材であるとするもの)が極めて小さく写っているにすぎない。そのため,後切部の(b)のビデオから看取できるのは,「青色の部材が左から右方向に移動するとき,青色の部材が板か茶色の台の何れかの部分にぶつかり,極くわずかに下方向に移動するとともに,茶色の台の下方に板がある場合,青色の部材は板の下面をガイドしている」という構成にすぎず,青色の部材が板を押圧し挟持しているとは到底いえない。押圧部材といえるためには,刃物受台(茶色の台)からの距離が板厚より小さく,押圧する圧力が板が平坦な状態になるまで押え込み挟むほど大きいという2つの条件が満たされる必要があるが,甲9号証の1の映像は,アイレベルの設定や撮影距離,解像度等の撮影状況が悪く,青色部位の周辺が拡大されていない同映像からは,上記2つの条件を満たすか否かを確認できない。
むしろ,甲9号証の1に撮影されている青色部材の構成の把握に際しては,サンテック向けに描かれた組立用の設計図(甲8の3~8)を用いるべきである。これらの設計図によれば,製作仕様書(甲8の1)記載の板厚が3.2mmであるのに対し,プレートと刃物受台の隙間は4mmとして作図されており(甲8の7),ガイド部材として設計されている。
被告は,甲8号証の7のピストンの位置は最下限ではないと主張するが,シリンダのピストンが移動途中であれば,ピストンと一体のガイドロッドがシリンダ上端部において突出していなければならないのに対し,甲8号証の7の図面,さらには甲50号証の2の図面においても,ピストンと一体のガイドロッドはシリンダ上端部において突出しておらず,ピストンの移動途中が描かれていないことから明らかである。
本件特許の原出願当時,板における悪影響の発生を避けるため,板の中央部はともかく,板の端部に対しては,弱く押圧するか,部材が板厚以上に離れるようにするのが常識であった(甲144~146参照)。したがって,このような技術常識から見ても,青色部材は,弱く押圧するか,板の端部から板厚以上に離れているガイド部材とみるのが合理的である。
以上によれば,青色部材はガイド部材であることが明らかであり,これを本件特許発明1,2の押圧部材であるとした審決の認定は誤りである。
(2) 甲9号証の1の装置とサンテック用スカーフカッターが同一であるとする判断の誤り
甲9号証の1のビデオは編集されており,特に切削機構の主要部は甲46号証のビデオ映像である。甲9号証の1の装置と甲46号証の装置の相違を説明した甲100号証によれば,甲9号証の1の装置とサンテックに譲渡したとされる甲46号証の装置には種々の相違点が存在し,これらの装置は同一の装置ではない。
したがって,甲9号証の1のスカーフカッターとサンテック用スカーフカッターが同一の装置であるとした審決の判断は誤りである。
(3) 甲9の1の装置の実施に公然性を認めた誤り
サンテックと住商リース株式会社との間の延払条件付売買契約書(甲7の1)には秘密保持条項はないが,社会通念上又は商慣習上,秘密扱いにすることが暗黙のうちに求められ,期待される場合には,秘密を保つべき関係が生じる(東京高裁平成12年12月25日判決)。平成10年2月26日,27日に日本木材学会等の主催で行われたツアーにおけるサンテックの工場見学会について,サンテックが原告らの参加を断っているのはそのような社会通念上又は商慣習上の秘密扱いの表われである。
また,被告が,甲9号証の1の装置の全体的な構成について,サンテックへの譲渡後の出願日に係る複数の特許出願を行っていることも,後切部を含む甲9号証の1の装置の全体について守秘義務が課せられていることを裏付けている。
甲7号証の3,4の記事や写真は,写真が工場内部の全体写真に限定されていることや記事の内容からみて,甲9号証の1の後切部の様子が分かるようなものではなく,かえってサンテックに秘密保持義務が課されていたことを示すものである。
したがって,甲9の1の装置の実施に公然性を認めた審決の判断は誤りである。
第4被告の反論
1 取消事由1(甲9号証の1のビデオ映像の証拠価値の評価及び撮影日認定の誤り)について
(1) 甲9号証の1のビデオ映像の証拠価値の評価の誤りについて
甲9号証の1のビデオ映像は,平成9年10月29日から同年11月2日まで開催された第33回名古屋国際木工機械展において上映する目的及び取引先に対する販売促進用資料として上映する目的で製作されたものである。
甲9号証の1のビデオ映像は,平成9年5月に撮影したサンテック用スカーフジョインターのビデオ映像を基に,同一の装置を撮影した複数のビデオ映像の中から,上記の目的に適う鮮明な映像等を選択して編集したものであって,編集の事実によって,その証拠力,信用性が失われるものではない。
被告は,先行侵害訴訟の第3回口頭弁論期日(平成24年1月24日)に甲9号証の1を証拠として提出したものであり,その提出時期に不自然な点はない。その後,原告が,第5回口頭弁論期日(平成24年5月24日)に陳述した書面で「甲9号証の1は編集された疑いがある」と主張したが,同事件は第6回口頭弁論期日において終結され,原告の請求を棄却する旨の判決が言い渡され,原告が控訴したため,被告は控訴審の答弁書において,甲9号証の1の作成経緯について説明したものである。原告が指摘した後,初めて編集の事実を説明したことには訴訟法上格別の問題はない。
甲9号証の1の証拠価値を認めた審決の判断に誤りはない。
(2) 甲9号証の1の撮影日認定の誤りについて
甲9号証の1のビデオ映像は,平成9年5月に撮影されたサンテック用スカーフジョインターの映像(以下「甲9の1本体映像」という。)に,被告工場内で実施されたサンテック用スカーフジョインターの新製品内覧会の際に撮影された同装置の映像(甲45,46)並びに同年6月17日及び18日にサンテック工場内で撮影されたサンテック用スカーフジョインターの映像(甲47,48)を挿入して編集したものであるから,甲9号証の1の撮影日を本件特許の原出願の出願日前と認定した審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(甲9号証の1のビデオ映像に基づいて公然実施を認めた誤り)について
(1) スカーフカッターの青色部材を押圧部材であると認定した誤りについて原告は,審決が認定した原告にとって都合の悪い部分(押圧挟持との認定)については,画像が不鮮明であるから審決は誤りであると主張し,原告が主張し審決が認定しなかった部分(青色部材は極くわずかに下方向に移動する)については画像が鮮明に判るから審決は誤りであると主張しているに等しく,不合理である。原告が主張する青色部材の動きは,およそ推測の域にとどまるものであって,合理的,客観的な理由に基づくものではない。甲9号証の1のビデオ映像から,青色部材が単板を押圧していることは明らかである。
原告は,甲8号証の7の図面に描かれたプレート(青色部材)の位置が最下限であることを前提として,青色部材は押圧部材でないと主張する。しかし,甲50号証の2に描かれたMGQM50-25のシリンダの標準ストロークは25mmであるから,シリンダープレートの上面Aは最大限25mmシリンダ下面Bとの距離を保つまで刃物受台との間隔を縮めることができるところ(甲51),甲50号証の2の図面では,上記AとBの間隔は21mmであることが示されているから,プレートは甲50号証の2の状態からさらに4mm刃物受台に向けて降下し,刃物受台との間隔を0mmとすることが可能である。したがって,甲8号証の7に記載されたプレート(青色部材)の位置が最下限であるとする原告の主張は誤りである。
原告は,本件特許の原出願の出願日当時,板の端部に対しては,弱く押圧するか,板の端部から板厚以上に離れるようにするのが常識であったと主張する。しかし,本件特許の原出願の出願日当時において,ベニヤ単板の切断面の近傍を押圧してあばれを押さえた状態でスカーフ切断を行うことは周知であった(乙1,2)。原告の挙げる甲144,145号証はベニヤ単板にあばれがあることを示すもので自明のことであり,他方,甲146号証はスカーフ切削する前処理に関する方法及び装置であり,スカーフ切削装置ではないから本件に適切でない。原告の主張には理由がない。
(2) 甲9号証の1の装置とサンテック用スカーフカッターが同一であるとする判断の誤りについて
原告は,甲9の1本体映像の装置と甲46号証の映像の装置に相違点があると指摘する。しかし,甲46号証の映像の装置は,サンテックに納入された甲9の1本体映像の装置を他の製造ラインとすり合わせ,現場において試運転をしながら取付位置を変更し,又は微調整を行う等により改造等を加えたものにすぎず,両者は同一の装置である。甲46号証のビデオに撮影された装置は,サンテックに納入された甲9号証の1のビデオに撮影された装置を,他の製造ラインをすり合わせ,また,現場において試運転しながら,取付位置を変更し,もしくは微調整を行う等により改造等を加えたものであって,両者は同一の装置であるから,原告の主張は誤りである。
(3) 甲9号証の1の装置の実施に公然性を認めた誤りについて
本件において,サンテックが社会通念上又は商慣習上守秘義務を負うべき特段の事情は存しない。原告が挙げる裁判例は,開発がらみの引き合いの相談において図面を見せたり,説明をした事案に関するものであって,本件の事案とは異なる。
サンテックは,日本木材学会事業委員会からの工場見学申し込みに対しては,「原告をはじめ一部企業の参加者」について見学をご遠慮願いたい旨回答したものであって,それ以外の者による工場見学を拒絶したものではない。
また,サンテックは,木材工業業界誌にLVL工場の見学及び写真撮影を許可し,同誌にはスカーフジョインターに関する記事が掲載されている。
公然実施とは,守秘義務を負わない者が「発明の内容を知り得る状態で」実施行為が行われれば足り,守秘義務を負わない者が現に発明の内容を知ったことを要しないと解されるから,甲7号証の3,4の記事中に後切部の具体的記載がないことによって,サンテックのスカーフカッターが公然実施されたことが否定されるものではない。
公然実施を認めた審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告の各取消事由の主張にはいずれも理由がなく,その他,審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 取消事由1(甲9号証の1のビデオ映像の証拠価値の評価及び撮影日認定の誤り)について
(1) 甲9号証の1のビデオ映像の証拠価値の評価の誤りについて
ア 甲9号証の1の構成及び内容について
甲4号証,甲9号証の1,甲13号証の1,甲45ないし47号証,甲106号証,甲119号証によれば,以下の事実が認められる。
甲9号証の1のビデオ映像は,甲9の1本体映像と甲45ないし47号証のビデオ映像を組み合わせた映像から成る。甲9号証の1の映像は18のシーンから構成されており,各シーンの内容,そのタイムライン及び甲45ないし47号証との関係は別紙のとおりである。
シーン1は,タイトルである。シーン18はエンディングテロップである。
シーン2ないし5,シーン8,9,シーン12ないし14,シーン17は,甲9の1本体映像であり,平成9年5月に,サンテック工場内においてサンテック用スカーフカッターを含むスカーフジョインターを撮影したものである。スカーフジョインターと呼ばれる一連の流れ作業による装置は,オートフィーダーから供給され,整合装置で左右及び先端後端を整合された単板の両端を,スカーフカッターで斜めに切断してスカーフ面を形成し,そのうちの上向きのスカーフ斜面に糊付けして,スカーフ面を正確に重ね合わせ冷却接合し,連続帯状の接合単板を設定寸法ごとに切断して,オートスタッカーに堆積するという装置である(甲4)。被告のサンテック用スカーフカッターは,上記のとおり,スカーフジョインターと呼ばれる一連の装置の一部を成すものである。
シーン6,7及び10,シーン15,16は,平成9年3月13日又は14日に,被告工場で撮影されたサンテック納入前のサンテック用スカーフカッターを含むスカーフジョインターの映像である(甲45,46)。
シーン11は,サンテックに納入後の平成9年6月18日に,サンテック工場内でサンテックに納入した糊付装置を撮影したものである(甲47)。
なお,甲48号証の映像は,甲34号証のスライド写真に用いられているものであって,甲9号証の1には用いられていない。
イ 原告の主張について
原告は,甲9号証の1のビデオ映像は重要な部分に関し編集された疑いがあり,その提出経緯も不自然であるから,甲9号証の1には証拠価値が認められないと主張する。
しかし,甲49号証によれば,甲9号証の1のDVDに収録された映像は,もともとビデオカセットに撮影された映像であるところ,甲45号証の映像が収録されていたのは8ミリビデオテープカセットであり,カセットの背面には,「スカーフジョインタ DATE:97.3.14 サンテック用」とのラベルが貼り付けられている。甲46,47号証の映像が収録されていたのはデジタルビデオカセットであり,カセットの表面には,それぞれ「97.3.14①サンテックスカーフ」等,「97.6.17 サンテック No.1」と記載されたラベルが貼り付けられている。
また,被告の説明によれば,甲9号証の1のビデオ映像は,平成9年10月29日から同年11月2日まで開催された第33回名古屋国際木工機械展において上映する目的等で製作したものであり,甲9の1本体映像には,不鮮明な部分があったため,甲45ないし47号証の映像を差し込んで,甲9号証の1の映像を作成したものとされている(甲119)。
これらの作成経緯,差し込まれた甲45ないし47号証の原映像の保存状況,甲9号証の1の内容に照らせば,甲9号証の1の証拠価値を疑わせるような事情は見当たらず,原告の主張を採用することはできない。
原告は,先行侵害訴訟や審決における提出経緯が不自然であると主張するが,原告の主張する事情が訴訟や審決の進行に照らして特段不自然なものとは認められないし,先行侵害訴訟において最初に証拠として提出した際に,編集の経緯について説明していなかったことをもって,証拠価値を疑わせる事情とは認められない。
(2) 甲9号証の1のビデオ映像の撮影日認定の誤りについて
甲9号証の1のエンディングには,「橋本電機工業株式会社 9705」との記載があり,甲9の1本体映像は,平成9年5月に撮影されたものと認められる。甲45ないし47号証のビデオ映像には,それぞれその撮影日時が表示されており,それによれば,甲45ないし47号証の映像に表示された撮影年月日である平成9年3月13日,同月14日,同年6月18日は,上記(1)のとおり,実際の撮影年月日を記載したものと認められる。
原告は,映像処理においてタイムコードを容易に挿入できると主張するが,そのような疑いを生じさせるような事情は認められない。
しがって,甲9号証の1の作成日が,本件特許の原出願の出願日である平成10年6月16日より前であるとした審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(甲9号証の1のビデオ映像に基づいて公然実施を認めた誤り)について
(1) スカーフカッターの青色部材を押圧部材と認定した誤りについて
ア 甲9号証の1の映像
甲9号証の1のビデオ映像には,青色部材(プレート)が撮影されている。その映像によれば,板が送り込まれる前においては,青色部材と刃物受台との間には空隙が存在するものの(甲35号証の2・12頁下段の写真),板が送り込まれた後には,板と青色部材との間の空隙はなくなり,刃が通り過ぎた後のスカーフ切削面は斉一に保たれていることが認められる(同13頁下段,14頁下段の写真)。そして,スカーフ切削面にガイドがあるにすぎない場合は,あばれのある切削面にかなりの凹凸が生じるのに対し,切削面が押圧されている場合には安定した切削面が得られるところ(甲77),甲35号証の2・14頁下段の上記写真と甲77号証を対比すると,甲35号証の2・14頁下段の写真は,押圧されている場合の切削面を示しているものと認められる。
したがって,青色部材が押圧部材であるとの審決の判断に誤りはない。
イ 原告の主張について
原告は,甲9号証の1に撮影されている装置の構成を把握するに際しては,サンテック向けに描かれた組立用の設計図(甲8の3~7)を用いるべきであるとし,甲8の7の図面においては,青色部材(プレート)と茶色の台(刃物受台)の隙間は出限(シリンダ上部にガイドロッドが描かれていない状態)で4mmとされているのに,製作仕様書記載の板厚は3.2mmであるから,青色の部材は板を押圧挟持していないと主張する。
しかし,甲8号証の7の図面において示されている4mmの隙間は,端縁押さえプレートと刃物受台の隙間の距離を示したものであり,青色部材と刃物受台の隙間の距離を示したものではないから,これをもって青色部材と刃物受台の隙間を示したものとする原告の主張は失当である。
また,原告は,シリンダ上部にガイドロッドが描かれていないから,甲8号証の7はシリンダからの青色部材の出限を示しているとするが,甲8号証の7はその体裁からみて,シリンダ部分及びガイドロッドが精密に描かれているものとは認められないし,甲50号証の2,甲51号証によれば,むしろ,シリンダの標準ストロークからみて青色部材は4mmよりもさらに刃物受台に接近し得るものと認められるから,甲8号証の7の記載から青色部材と刃物受台との隙間の距離を把握することができるとする原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,青色部材をガイド部材とみるべきであると主張するが,原告が挙げる甲144ないし146号証の記載から,原告が主張するようなガイド部材とみるべき根拠が導かれるものではないし,他に,青色部材をガイド部材とみるべき技術的意義も明らかではなく,原告の主張を採用することはできない。
(2) 甲9号証の1の装置とサンテック用スカーフカッターが同一であるとする判断の誤りについて
前記1(1)アで認定したとおり,甲9号証の1のビデオ映像の装置は,いずれもサンテックに譲渡されたサンテック用スカーフカッターと同一のものであると認められるから,その同一性を認めた審決の判断に誤りはない。
原告は,甲9号証の1の装置とサンテックに譲渡したとされる甲46号証の装置には種々の相違点が存在し,同一の装置ではないと主張する。甲100号証で原告が示す相違点(うち1枚目は甲46との相違点,2,3枚目は甲47との相違点である。)のうち,1枚目はオートフィーダー,2枚目は整合装置に関するものであって,3枚目がスカーフカッターに関するものである。しかし,それぞれの装置における相違点は,シリンダーの追加,光電管の取付位置の変更,補強リブの追加,ショックアブソーバーの追加,ごみ検知センサーのカバーの追加等,いずれも顧客の工場の実態や顧客の要望に基づくカスタマイズの範囲での相違点にすぎないと認められるから(甲132),それらの相違点があるからといって,甲9号証の1の装置と甲46号証又は甲47号証の装置が同一でないとはいえない。
(3)甲9号証の1の装置の実施に公然性を認めた誤りについて
ア 住商リースとサンテックとの間のサンテック用スカーフカッターを含むLVL製造装置についての平成9年5月1日付け延払条件付売買契約書(甲7の1)に秘密保持条項がないことは当事者間に争いがない。
そして,本件全証拠によっても,サンテックがサンテック用スカーフカッターを譲り受けるに当たり,サンテック用スカーフカッターの構成を秘密として保護すべき義務又は社会通念上あるいは商慣習上秘密を保つべき関係が発生するような事情は認められない。
したがって,サンテックへのサンテック用スカーフカッターの譲渡が公然と行われたものであるとした審決の判断に誤りはない。
イ 原告の主張について
原告は,サンテックには社会通念上又は商慣習上,秘密扱いにすることが暗黙に求められていたとして,いくつかの事実を挙げる。
しかし,原告が挙げる事実のうち,日本木材学会事業委員会からの見学申込みについて,サンテックが平成10年2月原告らの参加を断ったとする事実については,原告及び一部企業の参加者の見学を拒絶したのみであり(甲98),他の参加者の見学まで断ったものではないから,これをもって秘密扱いをしていたと認めることはできない。
また,原告は,被告がサンテックへの譲渡後の出願日に係る特許として甲102号ないし104号証の公開特許公報に記載された特許の出願をしていることを秘密保持関係が必要であることの根拠として挙げる。しかし,甲102号証は,先行して搬送される単板と後続の単板とを接合する方法に関する技術,甲103号証は,ベニヤ単板を整合装置により整合姿態に整合し,その整合姿態を崩すことなくスカーフ切削し,正確な接合を行う技術,甲104号証は,ベニヤ単板を整合装置による整合姿態に整合し,その整合姿態を崩すことなくスカーフ切削し,その後一対の規正ローラで搬送しながら接着剤を塗布する技術であって,いずれもベニヤ単板の接合に特徴を有する技術であるから,スカーフ面の加工に関する技術である本件特許発明とは異なる。
むしろ,被告の開発部次長の職にあったAは,平成9年11月13日に東京の木材会館で行われた合板技術講習会で,サンテック用のスカーフジョインターを例として「最新型の単板縦つぎ機」というテーマ講演を行い,サンテック用スカーフジョインターの概要を示した資料,サンテックに納入したシステムの写真のスライドを示し,さらにはビデオも上映して50分間の講演をしている(甲25)。その写真には,スカーフカッターも撮影されている(甲34の写真38)。この講演は,甲102,103号証の特許出願より後であるものの,甲104号証の特許出願よりは前である。この講演内容からみても,被告が自らの特許出願に配慮して,サンテックに対し,スカーフカッターを含むスカーフジョインターの設備について守秘を求めていたような様子はうかがえない。
したがって,後続の特許出願のために秘密保持関係が必要であったとする原告の主張を採用することはできない。
原告は,甲7号証の3,4の記事や写真は,工場内部の全体写真に限定されていることからみても,サンテックに秘密保持義務が課されていたことを示すものであると主張する。確かに,甲号証7の4には,取材した記者がサンテックから「工場内部の写真は,遠慮してほしい」と要望されたことが記載され,甲7号証の3,4のいずれにも工場内部の機械の詳細な写真は掲載されていない。しかし,記事の内容によれば,見学通路から生産ラインを見た写真及び見学通路から小割ラインを見た写真は掲載されており,また,記者が工場内の装置全体を見学した様子がうかがわれる。そうすると,甲7号証の3,4の記載からサンテックに秘密保持が課されていたことを認めることは困難であるといわざるを得ない。
(4) 原告は,サンテック用スカーフカッターの青色部材が本件特許発明1,2の押圧部材を充足しないこと以外については,サンテック用スカーフカッターが本件特許発明1,2のその他の構成要件を充足することを争っておらず,サンテック用スカーフカッターは本件特許発明1,2の技術的範囲に含まれるものと認められる。
したがって,サンテック用スカーフカッターのサンテックへの譲渡により公然実施を認めた審決の判断に誤りはなく,他に審決を取り消すべき違法もない。
3 結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 設楽隆一 裁判官 大須賀滋 裁判官 大寄麻代)
file_2.jpg別紙