大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10290号 判決 2014年8月28日

原告

有限会社ナプラ

訴訟代理人弁理士

阿部美次郎

被告

特許庁長官

指定代理人

大橋賢一

山田靖

瀬良聡機

内山進

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2012-24309号事件について平成25年9月10日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない。)

原告は,平成24年3月5日,発明の名称を「微小球状金属粒子の製造方法」として,特許出願(特願2012-048426号。特願2001-118342号(平成13年4月17日出願)の分割出願。以下「本願」という。)をした。

原告は,平成24年5月17日付けで拒絶理由通知を受け,同年7月10日付けで意見書及び手続補正書を提出して特許請求の範囲について補正をしたが,同年9月18日付けで拒絶査定を受け,同年12月7日付けで拒絶査定不服審判(不服2012-24309号)を請求するとともに,手続補正書を提出して特許請求の範囲について補正をした。

特許庁は,平成25年9月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月25日,その謄本を原告に送達した。

本件は,原告が上記審決の取消しを求めたものである。

2  特許請求の範囲の記載

平成24年12月7日付け手続補正書(甲2)による補正後の特許請求の範囲(請求項の数は3である。)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の発明を「本願発明」という。また,本願の明細書(甲1)を「本願明細書」という。)。

「【請求項1】

粒状化室と,炉と,ノズルと,回転ディスクと,ガス供給管とを含み,溶融金属から金属/合金粒子を製造する粒状化装置であって,

前記炉は,金属を溶融するものであり,

前記ノズルは,一端が前記炉に接続され他端が前記粒状化室内に導かれており,

前記回転ディスクは,モータによって高速回転し,前記ノズルの前記他端の直下の前記粒状化室内に設けられており,

前記ガス供給管は,酸素含有雰囲気ガスが供給され,前記酸素含有雰囲気ガスを前記粒状化室内に放出する,

粒状化装置。」

3  審決の理由

(1) 審決の理由は別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は次のとおりである。

本願発明は,特開平7-179912号公報(「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開平10-85583号公報(以下「引用例2」という。)に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(2) 審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。

ア 引用発明の内容

「チャンバーと,るつぼと,開口部と,回転ディスクと,ガス供給ラインを備えた,球状金属粒子を生産する装置であって,

前記るつぼが,金属を溶融し,

前記開口部は,るつぼに備えられてチャンバー内に開口し,

前記回転ディスクは,モータにより回転するとともに,チャンバー内で前記開口部の直下で対向し,

前記ガス供給ラインは,窒素ガスと,酸素ガスがそれぞれ別に供給され,各ガスを前記チャンバーに放出して,チャンバー内に窒素と酸素の組成物からなる冷媒ガスを満たす装置。」

イ 一致点

「粒状化室と,炉と,ノズルと,回転ディスクと,ガス供給管とを含み,溶融金属から金属/合金粒子を製造する粒状化装置であって,

前記炉は,金属を溶融するものであり,

前記ノズルは,一端が前記炉に接続され他端が前記粒状化室内に導かれており,

前記回転ディスクは,モータによって高速回転し,前記ノズルの前記他端の直下の前記粒状化室内に設けられている粒状化装置。」

ウ 相違点

「本願発明のガス供給管は,酸素含有雰囲気ガスが供給され,前記酸素含有雰囲気ガスを前記粒状化室内に放出するのに対し,引用発明のガス供給ラインは,窒素ガスと,酸素ガスがそれぞれ別に供給され,各ガスを前記チャンバーに放出して,チャンバー内に窒素と酸素の組成物からなる冷媒ガスを満たす点。」

第3原告主張の取消事由

審決には,引用発明の認定の誤り(取消事由1),本願発明と引用発明との相違点の看過(取消事由2),相違点についての容易想到性判断の誤り(取消事由3)があり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。

1  取消事由1(引用発明の認定の誤り)

審決は,引用発明1を,「・・・前記ガス供給ラインは,窒素ガスと,酸素ガスがそれぞれ別に供給され,各ガスを前記チャンバーに放出して,チャンバー内に窒素と酸素の組成物からなる冷媒ガスを満たす装置。」と認定している。

しかし,引用例1の図1(判決注:本判決別紙【引用例1の図1】)を参照すると,引用発明は,正確には,「・・・前記ガス供給ラインは,窒素ガス供給ラインと,酸素ガス供給ラインとの合計2本を有し,窒素ガスと,酸素ガスがそれぞれ別に供給され,各ガスを前記チャンバーに窒素ガス出口と,酸素ガス出口との合計2つの出口から放出して,チャンバー内に窒素と酸素の組成物からなる冷媒ガスを満たす装置。」(判決注:下線は原告が付したもの)と認定されるべきものである。

審決の引用発明の認定は,ガス供給ラインが,①窒素ガス供給ラインと,酸素ガス供給ラインとの合計2本を有する構成,及び,②各ガスをチャンバーに窒素ガス出口と,酸素ガス出口との合計2つの出口から放出する構成を有している点の認定を欠くものであり,誤りである。

2  取消事由2(本願発明と引用発明との相違点の看過)

審決は,本願発明と引用発明との相違点を,「・・・引用発明のガス供給ラインは,窒素ガスと,酸素ガスがそれぞれ別に供給され,各ガスを前記チャンバーに放出して,チャンバー内に窒素と酸素の組成物からなる冷媒ガスを満たす点。」と認定している。

しかし,引用発明は,上記1のとおり,①窒素ガス供給ラインと,酸素ガス供給ラインとの合計2本を有する構成,及び,②各ガスをチャンバーに窒素ガス出口と,酸素ガス出口との合計2つの出口から放出する構成を有しているから,本願発明と引用発明とは,審決が認定した相違点のほかに,以下の相違点2及び3においても相違するというべきである。

(相違点2)

本願発明のガス供給管は,1本で足りる構造となっているのに対して,引用発明のガス供給ラインは,窒素ガス供給ライン,及び,酸素ガス供給ラインの合計2本を有する点。

(相違点3)

本願発明のガス供給管は,その出口が1つで足りる構造となっているのに対して,引用発明のガス供給ラインは,窒素ガス出口,及び,酸素ガス出口の合計2つの出口を有する点。

そして,引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用したとしても,相違点2及び3に係る本願発明の構成が導かれることはない。

審決は,相違点2及び3を看過し,その結果,本願発明の容易想到性判断を誤ったものである。

3  取消事由3(相違点についての容易想到性判断の誤り)

審決は,相違点について,①引用発明においても,意図する粒度の粒子を生産するため,回転ディスクを取り巻くガス噴射用の環状ノズルを設けることは,引用例2に記載の事項に基づき,当業者が容易になし得たことであり,②その際,該環状ノズルへのガス供給ラインには,窒素と酸素の組成物である冷媒ガスに相当する酸素含有雰囲気ガスが供給されることは,当業者にとって自明なことであると判断している。

しかし,以下のとおり,①引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用する動機付けは存在しない。また,②引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用しても,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」に到達することはない。さらに,③本願発明は引用発明及び引用例2に記載の事項からは予測し得ない顕著な作用効果を有する。

したがって,審決の相違点についての容易想到性判断は誤りである。

(1) 環状ノズルを適用する動機付けについて

引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用する動機付けは存在しない。

その理由は以下のとおりである。

ア 引用発明は,遠心アトマイザーから冷媒ガス中に放出された溶融物がチャンバーの内壁に到達するまでの間に雰囲気により冷却され完全に凝固することが必要であり,凝固が不充分な場合は収得された金属粒子が相互に付着していたり,形状がきわめて不ぞろいでつぶの揃った球状の金属粒子を得ることは難しい(甲3・2頁1欄16行~22行)という問題に鑑み,冷却凝固の過程における金属粒子の表面状態を改善することにより,表面が滑らかでさらさらした球状の金属粒子を低コストにおいて量産する手段を提供しようとするものである(甲3・2頁1欄10行~14行)。

これに対して,引用例2(甲4)に記載の事項は,回転デスク径と回転数は第一義的な要因であり,大きい遠心力程微細化に有利なことは勿論であるが,さりとて40,000~50,000rpmという高速回転で,しかも径が10cm以上もあるような回転デスクの採用は遠心力に対抗する材質強度やモ-タ-への負荷の大きさに制限されて実用的ではないとされている(【0004】)という在来技術の問題点を解決し,意図する粒度の微粒子を作製する方法とそのための装置を提供する(【0005】)というものである。

このように,引用発明と引用例2に記載の事項とは課題を異にし,また,課題解決手段も相違する。したがって,引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用する動機付けは存在しない。

イ 引用発明によれば,チャンバー内において遠心アトマイザーにより撒布される溶融物の粒子の表面は低濃度の酸素による適度な厚みの酸化皮膜により被覆され,粒子がこの皮膜により物理的に保護されるので,粒子が相互に付着し難く,また粒子相互間やチャンバー内壁へ衝突する際も最終的には粒子の形状に変化を蒙ることが少ない(甲3・3頁3欄20行~26行)。

これに対して,引用例2に記載の事項は,膜状に広がる液膜または液滴膜を作る第1段階とこの膜流に対し高速で不活性ガスを衝突させる第2段階の二つの過程から成り,それによって従来工法では得られない粒度範囲の微粉体を高収率で作製することができる(【0038】)という作用効果を奏する。このような作用効果は,最終的には粒子の形状に変化を蒙ることが少ないようにしようとする引用発明では,全く益のないことであり,剪断による粒子形状の変化が予想されるから,むしろ有害である。

ウ 引用例2には,液膜流又は液滴膜流に衝突させるガスは不活性ガスであることが記載されており(【0012】,【0032】),空気についての言及はあるが,活性が低いことを念頭に置いたものであり,酸素含有ガスを用いる引用発明への組合せの動機付けは否定される。

(2) 環状ノズルに供給されるガスについて

引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用しても,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」に到達することはない。その理由は以下のとおりである。

ア(ア) 本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」とは,雰囲気ガス中に酸素ガスが含有されているガス又は混在しているガスを意味する。本願発明は,酸素含有雰囲気ガスによって,「内部構造は,金属の微小粒子の集合体であって,個々の微小粒子が金属酸化物,或いは空隙により相互に隔離されているナノコンポジット構造を有する金属粒子」(本願明細書【0016】)を得ることが可能となっている。また,本願発明は,酸素含有雰囲気ガスによって,金属粒子を均一,均質に形成することができ,物理的特性が等方的な導電体を実現することができる。

これに対し,引用発明の「窒素と酸素との組成物からなる冷媒ガス」は,雰囲気ガスである窒素中に酸素が含有されているガス又は混在しているガスではなく,酸素の比重が窒素の比重よりも大きいことから,酸素と窒素がチャンバー内で混在することはなく,チャンバーの上下方向において分離した状態になることが想定される。したがって,引用発明の「窒素と酸素との組成物からなる冷媒ガス」は,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」に相当するとはいえない。

(イ) 本願発明では,「ガス供給管は,酸素含有雰囲気ガスが供給」されるから,粒状化室内に放出される前に,ガス供給管の内部で,既に酸素と雰囲気ガスとが混ざり合った酸素含有雰囲気ガスが生成され,この酸素含有雰囲気ガスが「粒状化室内に放出」される。

これに対して,引用発明では,「窒素ガスと,酸素ガスがそれぞれ別に供給され,各ガスをチャンバーに放出する」ため,窒素ガスと,酸素ガスとは,ガス供給管内では別々であり,粒状化室内に放出されて初めて混在し始める。

したがって,粒状化室内で見た場合,引用発明の窒素と酸素とが混在したガスの形態は,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」とは異なったものとなっている。

(ウ) また,引用例2においては,環状ノズルとガス供給源との関係が明らかでないから,引用例2に記載の事項から,ガス供給源から送られたガスが,「酸素含有雰囲気ガス」として,環状ノズルに供給されることを導くことはできない。

(エ) 以上によれば,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」は,引用発明及び引用例2に記載の事項から導き出すことはできない。

イ(ア) 本願発明は,酸素含有雰囲気ガスによって,「ナノコンポジット構造を有する金属粒子」(甲1【0016】)を得ようとするものである。したがって,酸素含有雰囲気ガスにおいて,酸素ガスが雰囲気ガスであるアルゴンガスと均一化されていなければ,溶融金属が固化して真球に近い状態になる極短時間の間に,ナノコンポジット化することはできない。

(イ) これに対して,引用例1は,酸素ガスの供給が,ナノコンポジット構造を有する金属粒子の生成に寄与することまで開示するものではない。引用発明は,その目的が,「表面が滑らかでさらさらした球状の金属粒子を低コストにおいて量産する手段を提供すること」にあるから,金属粒子の表面が酸化されれば良く,ナノコンポジット構造のように,金属粒子の内部まで酸化する必要はない。

(ウ) また,引用例2は,酸素ガスを供給して,ナノコンポジット構造を有する金属粒子を生成することまで開示するものではない。

(エ) したがって,引用発明に引用例2を組み合わせることによって,相違点に係る構成に到達することはない。

(3) 本願発明の効果について

本願発明は,酸素含有雰囲気ガスによって,「内部構造は,金属の微小粒子の集合体であって,個々の微小粒子が金属酸化物,或いは空隙により相互に隔離されているナノコンポジット構造を有する金属粒子」(甲1【0016】)を得ることが可能となり(作用効果a),また,金属粒子を均一,均質に形成することができ,物理的特性が等方的な導電体を実現することができるものである(作用効果b)。これらの作用効果は,引用発明及び引用例2に記載の事項から予測することはできず,本願発明に特有の顕著な作用効果である。

第4被告の主張

1  取消事由1(引用発明の認定の誤り)について

審決は,引用発明のガス供給ラインが,「窒素ガスと,酸素ガスがそれぞれ別に供給され,各ガスをチャンバーに放出する」(判決注・下線は被告が付したもの)ことを認定しており,ガス供給ラインとチャンバーへのガス出口が複数であることは,当該認定から把握できる技術的事項である。また,引用発明の認定は,本願発明との対比に必要な範囲で行えば十分であり,本願発明で発明特定事項とされていないガス供給ラインの本数やガス出口の個数を別途認定する必要はない。したがって,審決の引用発明の認定に誤りはない。

2  取消事由2(本願発明と引用発明との相違点の看過)について

本願発明は,ガス供給管の本数や,ガス出口の個数を特定するものではないから,その本数や個数を引用発明との相違点にすることはできない。そして,引用発明が別々のガス供給ラインでガスをチャンバーに放出している点については,審決は相違点として判断している。したがって,審決に相違点の看過はない。

3  取消事由3(相違点についての容易想到性判断の誤り)について

(1) 環状ノズルを適用する動機付けについて

ア 遠心噴霧法を用いた粉末製造装置の技術分野において,球状の微粉末を収率良く得ることは周知の課題であり,遠心噴霧法を用いることで,一定程度それらの課題が達成されることも周知の技術的事項である(乙6・2頁左上欄1行~14行,乙7・90頁左欄3行~右欄9行,乙8・2頁右上欄2行~左下欄13行,乙9・1頁右欄4行~2頁左上欄3行,乙10・1頁右欄3行~17行)。したがって,当業者が上記の周知の課題や周知の技術的事項を前提として引用発明や引用例2に記載の技術的事項を理解するのは当然のことである。

引用発明においても,別々に供給されるとはいえ,酸素を添加した窒素ガスを雰囲気ガスとすることで,溶融金属粒子の表面酸化により,金属粒子の相互付着や形状変化を抑制できるのであり,粒の揃った球状の微細な粒子が得られている(甲3・表1)。

一方,微細化に重点をおいた記載になっている引用例2においても,球状の微粉末を収率良く得ることが周知の課題であることを前提とした記載であることは明らかであり,審決は,さらなる微粉化のために環状ノズルから雰囲気ガスとなるガスを供給することが解決手段として明記されている例として引用例2を挙げたものである。

引用発明に接した当業者であれば,周知の課題のうち,球状の粒の揃った粒子という点では課題を十分達成した引用発明において,別々の供給管を用いて酸素を添加した窒素ガスを供給するものに換えて,引用例2の記載に基づき,微細化を高いレベルで達成するため,一つの供給管から環状ノズルを通して酸素を添加した窒素ガスを供給するようにする程度のことは容易になし得ることであり,審決の判断に誤りはない。

イ 引用例2に記載の環状ノズルを用いてガスを供給し,さらなる微粉化を達成することは,溶融した液膜流の段階でガスと接触させるのであるから,剪断により形成された液相粒子は表面張力により速やかに球状化する。そして,引用発明における酸化皮膜の形成が,チャンバー内壁に到達する時点で,液相粒子に生じる現象であるのに対し,引用例2に記載の環状ノズルによる液膜の剪断は,回転ディスクの近傍で,当該液相粒子の形成のために生じる現象である。したがって,両者の作用機序は,場所的にも役割上も両立可能なものであって,引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用する阻害要因になるものではない。むしろ,引用発明に接した当業者であれば,酸化膜を形成し,金属粒子の相互付着や塊粒化などの粗大化につながる現象が回避されることは,引用例2に記載の環状ノズルを適用することで生じる,より微細な液相粒子においてこそ有益なものであることを理解するといえる。

(2) 環状ノズルに供給されるガスについて

ア 原告は,引用発明の「窒素と酸素との組成物からなる冷媒ガス」が,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」に相当するものではないことを前提として,審決の容易想到性判断に誤りがある旨主張する。

しかし,本願明細書(甲1)には「酸素含有雰囲気ガス」という用語も定義に当たる記載もないのであるから,文字どおり「酸素が含有され雰囲気として機能するガス」としてその意味を解するほかない。そうすると,引用発明の冷媒ガスも,回転ディスクから撒布される溶融物粒子の表面に薄い酸化皮膜を形成するために必要な酸素がその周囲の雰囲気中に混在している以上,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」に該当するものである。

したがって,原告の上記主張は,前提において失当である。

イ 原告は,本願発明がナノコンポジット構造を有する金属粒子を得るためのものであることを前提として,審決の容易想到性判断に誤りがある旨主張する。

しかし,ナノコンポジット構造は,本願明細書全体の記載からみて特定の条件(【0008】及び実施例2)においてしか得られていないものである。

したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲における請求項1の記載に基づくものではなく,前提において失当である。

(3) 本願発明の効果について

原告の主張する作用効果a及びbは,いずれも特許請求の範囲に基づかないか,当業者の予測の範囲内のものである。

したがって,作用効果a及びbが本願発明に特有な顕著な作用効果であるとの原告の主張は理由がない。

第5当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はないものと判断する。その理由は以下のとおりである。

1  取消事由1(引用発明の認定の誤り)について

原告は,審決の引用発明の認定は,ガス供給ラインが,①窒素ガス供給ラインと,酸素ガス供給ラインとの合計2本を有する構成,及び,②各ガスをチャンバーに窒素ガス出口と,酸素ガス出口との合計2つの出口から放出する構成を有している点の認定を欠くものであり,誤りであると主張する(前記第3の1)。

しかし,ある発明の進歩性を判断する前提としてなされる引用発明の認定は,進歩性判断の対象である発明との対比に必要な範囲で行えば足りる。本願発明は,ガス供給管の本数を特定するものではなく,また,酸素含有雰囲気ガスを粒状化室内に放出する出口についても特定するものではないから,引用発明のガス供給ラインが上記①及び②の構成を有している点について認定する必要はなく,審決の引用発明の認定に誤りはない。

したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(本願発明と引用発明との相違点の看過)について

原告は,引用発明は,①窒素ガス供給ラインと,酸素ガス供給ラインとの合計2本を有する構成,及び,②各ガスをチャンバーに窒素ガス出口と,酸素ガス出口との合計2つの出口から放出する構成を有しているから,本願発明と引用発明とは,審決が認定した相違点のほかに,相違点2及び3,すなわち,本願発明のガス供給管は,1本で足りる構造となっているのに対して,引用発明のガス供給ラインは,窒素ガス供給ライン,及び,酸素ガス供給ラインの合計2本有する点(相違点2),及び,本願発明のガス供給管は,その出口が1つで足りる構造となっているのに対して,引用発明のガス供給ラインは,窒素ガス出口,及び,酸素ガス出口の合計2つの出口を有する点(相違点3)においても相違するとして,審決は,相違点2及び3を看過していると主張する(前記第3の2)。

しかし,前記1において説示したとおり,審決の引用発明の認定に誤りはないから,本願発明と引用発明とは,原告の主張する相違点2及び3において相違するとはいえず,審決に相違点2及び3の看過はない。

したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。

3  取消事由3(相違点についての容易想到性判断の誤り)について

原告は,①引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用する動機付けはない,②引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用しても,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」に到達することはない,③本願発明は引用発明及び引用例2に記載の事項からは予測し得ない顕著な作用効果を有するとして,審決の相違点についての容易想到性判断は誤りであると主張する(前記第3の3)ので,以下順次検討する。

(1) 環状ノズルを適用する動機付けについて

ア 引用発明について

(ア) 引用発明は,球状金属粒子を生産する装置に関するものであり,チャンバーと,金属を溶融するためのるつぼと,るつぼに備えられた開口部と,開口部の直下で対向する回転ディスクと,ガス供給ラインを備えたものである。

引用例1(甲3)には,①金属の溶融物をチャンバー内に設けた遠心アトマイザーにより撒布して冷却凝固させ,金属の粒子を生産する方法においては,遠心アトマイザーから冷媒ガス中に放出された溶融物が,チャンバーの内壁に到達するまでの間に十分に凝固しなかった場合,金属粒子が相互に付着したり,形状がきわめて不ぞろいで,つぶの揃った球状の金属粒子を得ることが難しかったこと(2頁1欄14~22行),②冷却凝固の過程における金属粒子の表面状態を改善することにより,表面が滑らかでさらさらした球状の金属粒子を低コストにおいて量産する手段を提供することを目的とすること(2頁1欄10~14行),③冷媒ガスとして窒素と酸素の組成物からなるものを用いることにより,チャンバー内において遠心アトマイザーにより撒布される溶融物の粒子の表面が,適度な厚みの酸化皮膜により被覆されるので,粒子が相互に付着し難く,また,粒子相互間やチャンバー内壁へ衝突する際も,最終的には粒子の形状に変化を蒙ることが少ないため,球状の金属粒子を低コストにおいて量産することが可能となること(2頁2欄3行~5行,3頁3欄20~26行,4欄18~19行)が記載されており,また,「遠心アトマイザーの溶融物撒布用回転ディスク」(2頁2欄36~37行)との記載もある。

引用例1の上記記載及び図1に照らせば,引用発明の装置が,高速回転する回転ディスクの上に溶融金属を供給し,溶融金属に遠心力を作用させて液滴として飛散させ,冷却凝固させる方法,すなわち,周知の遠心噴霧法(乙4~10)により球状金属粒子を生産するものであることは,当業者にとって明らかである。

(イ) また,遠心噴霧法において,生産する金属粒子の粒度を調整することは,周知の課題であることが認められる(乙6の2頁左上欄12~13行,3頁右上欄最下行~左下欄1行,表2,乙7の90頁左欄15~19行,95頁右欄4~7行,乙8の2頁左下欄6~13行)。

(ウ) そうすると,遠心噴霧法により球状金属粒子を生産するものである引用発明においても,金属粒子の粒度を調整するという課題が存在することは,当業者にとって自明のことであるといえる。

イ 引用例2に記載の事項について

引用例2(甲4)には,①ペイント用顔料や射出成形に適する金属微粉体の製造に関して,意図する粒度の微粒子を作製する方法とそのための装置を提供することを目的とすること(【0005】),②容器内の溶融金属等の融体は,注湯ノズルから回転ディスク面の中心部に供給され,③回転ディスクは回転され,供給された融体は,ディスク回転の遠心力で回転ディスク周端から放出され,④ガス供給源から供給されたガスは,回転ディスク周辺に接近して配置された環状ノズルから噴射され,回転ディスクからの液滴の集合体からなる液滴膜流と衝突させることにより,液滴をさらに微粉化(微粉砕)すること(請求項1及び2,【0005】,【0015】,【0016】,【0033】)が記載されている。

引用例2の上記記載によれば,引用例2に記載の金属微粉体の作製は,意図する粒度の微粒子を作製するために,すなわち,微粒子の粒度を調整するために,高速回転する回転ディスクの上に溶融金属を供給し,溶融金属に遠心力を作用させて液滴として飛散させ,その飛散させた液滴にガスを噴射して衝突させることにより,液滴をさらに微粉化(微粉砕)するものと解することができ,これは,周知の遠心噴霧法を改良して,さらなる微粉化を図るものといえる。

ウ 環状ノズルを適用する動機付けについて

以上によれば,引用発明と引用例2に記載の事項とは,いずれも,遠心噴霧法により金属粒子を生産する点で共通するものであり,また,金属粒子の粒度を調整するという課題が存在する点でも共通するものである。

そうすると,引用発明において,金属粒子の粒度を調整するために,引用例2に記載の環状ノズル(本願発明における「ガス供給管」に相当する。)を回転ディスク周辺に接近して配置するとともに,ガス供給源から環状ノズルに供給されたガスを環状ノズルからチャンバー内に噴射して,遠心力の作用により飛散させた液滴と衝突させることにより,液滴をさらに微粉化(微粉砕)することは,当業者が容易に想到するところであり,動機付けはあるといえる。

エ 原告の主張について

(ア) 原告は,引用発明と引用例2に記載の事項とは課題を異にし,また,課題解決手段も相違するので,引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用する動機付けは存在しないと主張する(前記第3の3(1)ア)。

しかし,前記アないしウのとおり,引用発明と引用例2に記載の事項とは,いずれも,遠心噴霧法により金属粒子を生産する点で共通するものであり,また,金属粒子の粒度を調整するという課題が存在する点でも共通するものであるから,引用発明に引用例2に記載の事項を適用する動機付けはあるというべきである。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(イ) 原告は,引用例2に記載の事項は,膜状に広がる液膜または液滴膜を作る第1段階とこの膜流に対し高速で不活性ガスを衝突させる第2段階の二つの過程から成り,それによって従来工法では得られない粒度範囲の微粉体を高収率で作製することができる(【0038】)という作用効果を奏するものであるが,このような作用効果は,最終的には粒子の形状に変化を蒙ることが少ないようにしようとする引用発明では,全く益のないことであり,剪断による粒子形状の変化が予想されるから,むしろ有害であると主張する(前記第3の3(1)イ)。

しかし,前記アのとおり,引用発明の装置は,周知の遠心噴霧法により球状金属粒子を生産するものであるところ,前記イのとおり,引用例2に記載の金属微粉体の作製は,高速回転する回転ディスクの上に溶融金属を供給し,溶融金属に遠心力を作用させて液滴として飛散させ,その飛散させた液滴にガスを噴射して衝突させることにより,液滴をさらに微粉化(微粉砕)するものであって,このようにして粒度が小さくなった液滴が,表面張力により真球になりやすいものであることは,技術常識である。したがって,原告が指摘する引用例2に記載の事項が奏する作用効果は,引用発明の目的に沿うものといえこそすれ,引用発明において有害となるものではない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(ウ) 原告は,引用例2には,液膜流又は液滴膜流に衝突させるガスは不活性ガスであることが記載されており(【0012】,【0032】),空気についての言及はあるが,活性が低いことを念頭に置いたものであり,酸素含有ガスを用いる引用発明への組合せの動機付けは否定されると主張する(前記第3の3(1)ウ)。

しかし,引用発明に引用例2に記載の事項を適用する動機付けがあることは,先に説示したとおりである。引用例2に,「ガスは不活性ガスを使用」(【0012】)と記載されていることは,上記判断を左右するものではない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(エ) 以上のとおり,引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用する動機付けは存在しないとの原告の主張は,いずれも理由がない。

(2) 環状ノズルに供給されるガスについて

ア 本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」の用語については,本願明細書に使用例がなく,定義もされていないため,文字どおり,雰囲気ガス中に酸素が混在しているものをいうと解するのが相当である。

引用発明は,チャンバー内を窒素と酸素の組成物からなる冷媒ガスで満たすものであるところ,このチャンバー内を満たす冷媒ガスは,以下のとおり,窒素と酸素が混在した状態のものと認められる。

すなわち,引用発明においては,窒素ガスと酸素ガスはそれぞれ別に供給され,各ガスがチャンバーに放出されるが,このような場合でも,チャンバー内では,通常,乱流が生じて窒素と酸素が混合することは,技術常識である。また,引用例1(甲3)には,「不活性の冷媒ガスに酸素を添加する」(2頁1欄最下行),「冷媒ガス組成における酸素の配合にあたっては必ずしも純酸素であることを要せず,圧縮空気の使用が許される。」(2頁2欄26行~28行),「酸素に代えて圧縮空気を用いても前記した適量範囲の酸素を含み,他は不活性ガスである冷媒ガスが容易に得られる」(2頁2欄31行~33行)と記載されており,引用発明においては,窒素,酸素及びその他のガスの混合物である空気の使用が許容されている。これらの点に照らせば,引用発明のチャンバー内を満たす冷媒ガスは,窒素と酸素が混在した状態のものと認められる。

上記のとおり,引用発明のチャンバー内を満たす冷媒ガスが,窒素と酸素が混在した状態のものであるとすれば,環状ノズルからチャンバー内に噴射するガスも,この冷媒ガスと同じ状態のもの,すなわち,窒素と酸素が混在した状態のものを用いることが自然である。

また,この環状ノズルからチャンバー内に噴出するガスを,ガス供給源から環状ノズルに供給する際に,窒素と酸素をそれぞれ別に供給するか,あるいは,あらかじめ窒素と酸素を混合し,上記の冷媒ガスのように,窒素と酸素が混在した状態のものを供給するかは,当業者が適宜選択しうる設計的事項である(いずれの方法を採用しても,環状ノズルからチャンバー内に噴出されるガスが,窒素と酸素が混在した状態のものであることに変わりはない。)。

そうすると,引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用するに当たり,ガス供給源から環状ノズルに供給され,かつ,環状ノズルからチャンバー内に噴射するガスとして,冷媒ガスと同じように,窒素と酸素が混在した状態のもの,すなわち,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」を用いることは,当業者にとって自然な選択である。

イ 原告の主張について

(ア)a 原告は,引用発明の「窒素と酸素との組成物からなる冷媒ガス」は,雰囲気ガスである窒素中に酸素が含有されているガス又は混在しているガスではなく,酸素の比重が窒素の比重よりも大きいことから,酸素と窒素がチャンバー内で混在することはなく,チャンバーの上下方向において分離した状態になることが想定されるとして,引用発明の「窒素と酸素との組成物からなる冷媒ガス」は,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」に相当するとはいえないと主張する(前記第3の3(2)ア(ア))。

しかし,前記アのとおり,引用発明においては,チャンバー内を満たす冷媒ガスは,窒素と酸素が混在した状態のものであり,チャンバーの上下方向において分離した状態になるものではない。

したがって,原告の上記主張は,その前提において理由がなく,採用することができない。

b 原告は,本願発明では,「ガス供給管は,酸素含有雰囲気ガスが供給」されるから,粒状化室内に放出される前に,ガス供給管の内部で,既に酸素と雰囲気ガスとが混ざり合った酸素含有雰囲気ガスが生成され,この酸素含有雰囲気ガスが「粒状化室内に放出」されるのに対して,引用発明では,「窒素ガスと,酸素ガスがそれぞれ別に供給され,各ガスをチャンバーに放出する」ため,窒素ガスと,酸素ガスとは,ガス供給管内では別々であり,粒状化室内に放出されて初めて混在し始めるから,粒状化室内で見た場合,引用発明の窒素と酸素とが混在したガスの形態は,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」とは異なったものとなるとも主張する(前記第3の3(2)ア(イ))。

しかし,先に説示したとおり,引用発明においては,窒素ガスと酸素ガスはそれぞれ別に供給され,各ガスがチャンバーに放出されるが,このような場合でも,チャンバー内では,通常,乱流が生じて窒素と酸素が混合することは,技術常識であり,また,引用例1において,窒素,酸素及びその他のガスの混合物である空気の使用が許容されていることも踏まえると,チャンバー内を満たす冷媒ガスは,窒素と酸素が十分に混合され,両者が混在した状態のものといえる。したがって,引用発明のチャンバー内を満たす冷媒ガスと,本願発明の粒状化室内に放出される「酸素含有雰囲気ガス」とを区別することは困難である。

したがって,原告の上記主張も採用することができない。

c 原告は,引用例2においては,環状ノズルとガス供給源との関係が明らかでないから,引用例2に記載の事項から,ガス供給源から送られたガスが,「酸素含有雰囲気ガス」として,環状ノズルに供給されることを導くことはできないと主張する(前記第3の3(2)ア(ウ))。

しかし,先に説示したとおり,引用例2においては,引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用するに当たり,ガス供給源から環状ノズルに供給され,かつ,環状ノズルからチャンバー内に噴射するガスとして,冷媒ガスと同じ,窒素と酸素が混在した状態のものを用いることは,当業者が容易に想到することであり,ガス供給源から送られたガスが,「酸素含有雰囲気ガス」として,環状ノズルに供給されることを導くことができる。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(イ) 原告は,本願発明は,酸素含有雰囲気ガスによって,「ナノコンポジット構造を有する金属粒子」(甲1【0016】)を得ようとするものであるから,酸素含有雰囲気ガスにおいて,酸素ガスが雰囲気ガスであるアルゴンガスと均一化されていなければ,溶融金属が固化して真球に近い状態になる極短時間の間に,ナノコンポジット化することはできないのに対して,引用例1は,酸素ガスの供給が,ナノコンポジット構造を有する金属粒子の生成に寄与することまで開示するものではなく,引用発明は,その目的が,「表面が滑らかでさらさらした球状の金属粒子を低コストにおいて量産する手段を提供すること」にあるから,金属粒子の表面が酸化されれば良く,ナノコンポジット構造のように,金属粒子の内部まで酸化する必要はなく,また,引用例2は,酸素ガスを供給して,ナノコンポジット構造を有する金属粒子を生成することまで開示するものではないとして,引用発明に引用例2を組み合わせることによって,相違点に係る構成に到達することはないと主張する(前記第3の3(2)イ)。

しかし,本願発明が,ナノコンポジット構造の金属粒子を得ることを目的とするものであるか否かにかかわらず,また,引用例1及び2に,ナノコンポジット構造の金属粒子を得ることについて記載されているか否かにかかわらず,本願発明が,引用発明に引用例2に記載の事項を適用することにより,本願発明の「酸素含有雰囲気ガス」に到達することができることは,先に説示したとおりである。

したがって,原告の上記主張も理由がない。

(3) 本願発明の効果について

原告は,本願発明は,酸素含有雰囲気ガスによって,「内部構造は,金属の微小粒子の集合体であって,個々の微小粒子が金属酸化物,或いは空隙により相互に隔離されているナノコンポジット構造を有する金属粒子」(甲1【0016】)を得ることが可能となり(作用効果a),また,金属粒子を均一,均質に形成することができ,物理的特性が等方的な導電体を実現することができるものであり(作用効果b),これらの作用効果は,引用発明及び引用例2に記載の事項から予測することはできず,本願発明に特有の顕著な作用効果であると主張する(前記第3の3(3))。

しかし,まず,原告のいう作用効果aについては,先に説示したとおり,引用発明に引用例2に記載の環状ノズルを適用するに当たり,ガス供給源から環状ノズルに供給され,かつ,環状ノズルからチャンバー内に噴射するガスとして,冷媒ガスと同じ,窒素と酸素が混在した状態のものを用いることは,当業者が容易に想到することであるから,酸素含有雰囲気ガスによって,ナノコンポジット構造を有する金属粒子を得ることが可能となるとの原告の主張を前提とすれば,作用効果aは,引用発明に引用例2に記載の事項を適用することにより自ずと奏されるものである。

また,原告のいう作用効果bについても,金属粒子を均一,均質に形成できるという点は程度問題であり,引用例1や引用例2においても,金属粒子は少なからず均一,均質に形成されていると解されるから,格別のものとはいえない。また,物理的特性が等方的な導電体を実現できるという点については,本願明細書に何ら記載されておらず,本願明細書の記載に基づく主張ではないから,この点をもって,本願発明が進歩性を有するということはできない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(4) 小括

以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。

4  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。

よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井忠雄 裁判官 西理香 裁判官 田中正哉)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例