知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10295号 判決 2015年1月29日
原告
ジャス ワールドワイド エス アー エール エル
訴訟代理人弁護士
山本健策
同
井髙将斗
訴訟代理人弁理士
山本秀策
同
森下夏樹
同
飯田貴敏
同
石川大輔
同
砂金伸一
同
見方良二
被告
日本航空株式会社
訴訟代理人弁護士
大月雅博
同
牧恵美子
同
梶並彰一郞
訴訟代理人弁理士
鈴木康仁
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2012-300215号事件について平成25年6月26日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は,以下の商標(登録第3102318号。以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,2,乙11)。
(本件商標)
file_2.jpg登録出願:平成4年9月30日
設定登録:平成7年11月30日
更新登録:平成17年9月27日
指定役務:第39類
「鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の輸送の媒介,船舶の貸与・売買又は運航の委託の媒介,船舶の引揚げ,水先案内,主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。)の代理・媒介又は取次ぎ,寄託を受けた物品の倉庫における保管,他人の携帯品の一時預かり,ガスの供給,電気の供給,水の供給,倉庫の提供,駐車場の提供,コンテナの貸与,パレットの貸与,自動車の貸与,船舶の貸与,航空機貨物・手荷物・機内食の積み降ろし,誘導路から駐機場までの航空機の誘導」
(2) 原告は,平成24年3月16日,本件商標は,その全ての指定役務(以下「本件指定役務」という。)について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないから,商標法50条1項の規定により取り消されるべきであるとして,本件商標の商標登録(以下「本件商標登録」という。)の取消しを求めて審判(以下「本件審判」という。)を請求し,同年4月3日にその旨の予告登録がされた(甲2)。
(3) 特許庁は,本件審判の請求を取消2012-300215号事件として審理し,平成25年6月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月4日に原告に送達された。
(4) 原告は,平成25年10月31日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,その要旨は以下のとおりである。
株式会社日本エアシステム(以下「日本エアシステム」という。)は,国内航空会社の一つとして,白塗り横長方形内に青色,赤色,橙色及び黄色に彩色された帯で形成した平行四辺形と,その右にやや図案化された「JAS」の欧文字が紺色で顕著に表示された商標(以下「審決使用商標」という。)を含む,いわゆる「JAS」商標を航空機,貨物空輸用コンテナなどの機材に表示して「航空機による輸送」に係る役務を行っていたが,その後,日本エアシステムが被告に合併されたことに伴い,被告は,日本エアシステムから上記貨物空輸用コンテナなどの機材を引き継いだものと推認することができる。そして,被告が審決使用商標の表示された貨物空輸用コンテナを,平成21年5月29日にセントレア空港において機外に搬出した事実(甲25),同年10月1日に熊本空港において機外に搬出した事実(甲26)及び平成22年11月30日羽田空港において牽引運搬した事実(甲29),並びに,遅くとも平成23年2月8日以前に羽田空港において(甲30),審決使用商標の表示された貨物空輸用コンテナに作業を施した事実が認められる。これらの事実から,被告は,審決使用商標を表示した貨物空輸用コンテナを,平成21年5月29日から平成23年2月8日の間に,セントレア,熊本及び羽田の各空港内において,上記貨物空輸用コンテナを航空機の機外に搬出,若しくは,牽引するなどして,審決使用商標を航空機の輸送に係る役務に使用していたことが認められる。
審決使用商標は,本件商標と社会通念上同一と認められるものであり,また,貨物空輸用コンテナは,「航空機による輸送」に係る役務の提供の用に供するものであると認められる。
そうすると,被告は,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という場合がある。)に日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる標章を受託手荷物若しくは貨物用のコンテナに表示し,これを航空機による輸送に係る役務に使用することにより,本件商標を本件指定役務中の「航空機による輸送」に使用したことを証明したというべきであるから,本件商標は,商標法50条の規定に基づき,その登録を取り消すべきでない。
3 取消事由
本件商標の使用の有無に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1 被告の主張する使用行為について
(1) 被告は,本件使用行為として,平成23年6月16日の羽田空港から新千歳空港へのコンテナの輸送(被告の主張に係る後記本件使用行為1。以下同じ。),平成22年10月19日の羽田空港から那覇空港へのコンテナの輸送(被告の主張に係る後記本件使用行為2。以下同じ。),平成21年5月29日の那覇空港から中部国際空港へのコンテナの輸送(被告の主張に係る後記本件使用行為3。以下同じ。)の事実が存するとし,これらの行為が商標法2条3項3号ないし5号に該当する商標の使用行為に該当する旨主張する。
(2) 被告の主張する使用事実について立証がないこと
ア 被告は,本件使用行為1ないし3の事実に関する証拠として,インターネット上のブログに掲載された写真(甲25,29,32)を挙げる。
しかしながら,上記各証拠は,単に,空港の管理区域周辺に「JAS」と付された筐体が存在していたことを示すのみであって,被告が業として本件商標を要証期間内に本件指定役務に使用していたことを証明するものではない。
すなわち,仮に,上記筐体が貨物空輸用コンテナであったとしても,上記各写真がコンテナを航空機の機外に搬出又は牽引する光景を撮影したものであるかどうかは,証拠上明らかではないし,上記各証拠の記載内容等の真実性について検証することはできないから,上記各写真の撮影日が要証期間内であることは,証拠上不明である。
イ また,被告は,本件使用行為1ないし3の事実に関する証拠として,コンテナの使用履歴に係るデータ(乙1)を挙げる。
しかしながら,上記データは,訴訟当事者である被告が作成したものであり,一般論として,偽造,変造のおそれがあり,客観性の担保されないものである。
仮に,上記データの内容が,信用性のあるものであるとしても,これは,せいぜい「JAS」の付された筺体が存在する事実を証明するものにすぎず,需要者のために,「JAS」の付された筺体が本件指定役務に供されたことについては何ら記載がない。
ウ 以上のとおり,被告が挙げる証拠は,被告が,要証期間に本件指定役務のうちのいずれかの役務について本件商標を使用したことを証明するに足るものではない。
被告が,本件指定役務の提供について本件商標を使用していたのであれば,当該役務に関し,本件商標が付された領収書,請求書,カタログ,パンフレット,その他の資料を保有していてしかるべきであり,これらを証拠として提出すれば足りるはずである。
それにもかかわらず,被告は,これらの証拠を一切提出することができず,出所不明であり,その真実性を客観的に検証することもできないようなインターネット上のブログに掲載された写真数点のみに依拠して本件商標の使用事実の立証を試みている。このことは,被告が自己の業務に係る役務について本件商標を使用していた事実がないことを如実に示すものであるといえる。
(3) 被告の主張する使用事実が商標法2条3項の「使用」に該当しないこと
ア 3号及び4号に該当しないこと
商標法2条3項3号は,商標を付しただけで「使用」に該当すると規定しているが,商標は,その果たす機能からすれば需要者の目に触れることが前提とされているから,ここでも商標が当然に需要者の目に触れることが予定されている必要があるというべきであり,そのためには,役務の提供に当たり需要者が利用する物に商標が付されなければならず,商標法2条3項3号及び4号にいう「その提供を受ける者の利用に供する物」とは,「需要者が利用する物」のことを意味するものと解される。
役務を提供するに際して専ら役務の提供者が利用する物に商標が付されても,需要者の目に触れないか,又は目に触れるとしても一時的なものにすぎないことも多く,このような場合にも,商標を付しただけで「使用」に該当するとすれば,その範囲が広すぎると考えられることから,これらについては,そのような物が「展示」された場合に限り,同項5号の「使用」に該当することとされているのである。かかる解釈は,同項3号及び4号では「その提供を受ける者の利用に供する物」とされているのに対し,同項5号では「役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。)」として,条文上明確に文言が書き分けられていることとも整合する。
本件使用行為1ないし3は,空港においてコンテナを航空機に積み込み,それを航空機で輸送し,到着した空港でこれを積み下ろす行為である。コンテナの積み込みと積み下ろしは,被告によって行われており,需要者(荷物を預けた者)の関与の余地はない。また,コンテナの航空機による輸送についても,これが被告によって行われることは明らかである。したがって,コンテナは「需要者が利用する物」ではないから,同項3号及び4号の「その提供を受ける者の利用に供する物」には該当しない。
以上によれば,本件使用行為1ないし3は,いずれも同項3号及び4号の「使用」には該当しない。
なお,被告は,貨物代理店が被告からコンテナの貸出しを受け,自らコンテナに荷物を詰め込む場合には,貨物代理店は「航空機による輸送」という役務の提供を受けるに当たり,自らコンテナに荷物を詰め込んで,コンテナを利用しているから,「需要者が利用する物」に該当する旨主張する。しかしながら,上記行為がされたことを裏付ける客観的な証拠は存せず,また,本件使用行為1ないし3には含まれない行為を問題とする点で時機に後れた主張であって,失当である。
イ 5号に該当しないこと
(ア) 商標法2条3項5号の趣旨は,役務を提供するに際して,専ら役務の提供者が利用する物については,それに標章が付されても需要者の目に触れないか,又は目に触れるとしても一時的なものにすぎないことも多いことから,これらについてはそのような物が「展示」された場合に限って「使用」を認める点にある。
そうすると,需要者の目に触れないか,又は目に触れるとしても一時的なものにすぎないような状態を「使用」から除外するという同項5号の趣旨及び同項2号の商品の展示との関係から,同項5号の「展示」とは,役務の提供の用に供する物を「店頭又は店内等に並べていわゆる客待ちにある状態」をいうものと解される。
被告は,本件使用行為1ないし3において,被告の主張に係る後記本件使用商標1(以下同じ。)又は被告の主張に係る後記本件使用商標2(以下同じ。)の付されたコンテナは,空港の上屋等から航空機へと運搬され,航空機に積み込まれる作業の過程,あるいはその逆の作業の過程において,需要者(乗客又は貨物代理店)の目に触れる状態にあった旨主張するが,コンテナは,「店頭や店内等に並べていわゆる客待ちにある状態」にはなかったから,コンテナが「展示」されたとはいえない。むしろ,被告が証拠として挙げるブログの写真(甲25,29,32)は,本件使用商標1及び2が需要者(荷物を預けた者)の目に触れないか,又は目に触れたとしても一時的なものにすぎないことを示すものであるといえる。
したがって,本件使用行為1ないし3は,いずれも「展示」に該当せず,同項5号の「使用」には該当しない。
また,被告は,本件使用行為1ないし3の前後においてされた被告の「コンテナを上屋に並べて貨物代理店による利用を待つ行為」は,同号の「展示」に該当する旨主張するが,上記行為がされたことを裏付ける客観的な証拠は存せず,また,本件使用行為1ないし3には含まれない行為を問題とする点で時機に後れた主張であって,失当である。
(イ) 仮に,同項5号の「展示」が,被告の主張するように「需要者の目に触れること」を意味するとしても,被告が証拠として挙げるブログの写真(甲25,29,32)は,「JAS」の付されたコンテナが需要者の目に触れたとの事実を示すものではない。すなわち,上記各写真には,人目につかず,空港の展望台等までわざわざ行かなければ目にすることのできない風景が納められているにすぎず,需要者において,展望台等まで行って,コンテナを見るということは想定しがたいし,展望台等まで行ったところで,「JAS」の付されたコンテナの数はかなり少ないと考えられるから,これを見ることのできる機会はほとんどないといえる。
したがって,需要者は,見ようと思っても「JAS」の付されたコンテナを見ることはできなかったから,本件使用行為1ないし3は,同項5号の「展示」には該当しない。
(4) 小括
以上のとおり,本件使用行為1ないし3は,いずれもその事実が認められないか,又は商標法2条3項3号ないし5号の「使用」には該当しないから,被告が要証期間内に日本国内において,本件商標を本件指定役務のいずれかに使用したことを証明したとはいえない。
2 本件商標が被告の業務に係る役務について使用されていないこと
商標は,「業として役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用をするもの」(商標法2条1項2号)であるから,同法50条2項により商標権者が立証責任を負うべき登録商標の使用は,自己の業務に関するものでなければならないが,被告は,以下のとおり,自己の業務に係る「航空機による輸送」の役務について本件商標を使用したとはいえない。
(1) 業として「航空機による輸送」の役務を提供するためには,国土交通大臣から航空運送事業の許可を受けなければならないが(航空法100条1項),要証期間における国土交通省の航空輸送サービスに係る情報公開(甲39)によれば,許可を受けた航空運送事業者の中に,「JAS」なる航空運送事業者は存在しない。
したがって,そもそも,要証期間内に「JAS」との名称で「航空機による輸送」の業務を提供する者は存在しなかった。
(2) 「JAS」が表象する日本エアシステムと被告の前身である日本航空株式会社は,平成14年10月,共同持株会社である株式会社日本航空システムを設立し,日本エアシステムはその子会社となった。そして,平成16年4月,日本航空株式会社と日本エアシステムは,「JAL・日本航空」の統一ブランドの下に完全統合され,その結果,「JAS」の名称による「航空機による輸送」の業務は完全に終了し,日本エアシステムは株式会社日本航空ジャパンに商号変更された。さらに,平成18年10月,株式会社日本航空インターナショナルによる株式会社日本航空ジャパンの吸収合併により,日本エアシステムは完全に消滅した。
以上の経緯に照らせば,要証期間の前に,「JAS」が表象する日本エアシステムは「JAS」ブランドとともに既に完全に消滅していたのであって,要証期間内に,本件商標が「航空機による輸送」等の業務に関して使用されるということはおよそ考えられない。
被告自身,「JAL・日本航空」ブランドへの統一のために,「JAS」ブランドを消滅させ,これを自己の業務に関して使用しないことを公言しており(甲41,45),被告の取引者,需要者も,被告が自己の業務に係る役務を提供するにあたり,出所識別表示として「JAS」との表示を使用することはないものと認識していたのであって,もはや本件商標は被告の業務を表象するものではなく,本件商標は被告の役務との関連を示すものでもない。
3 本件商標が商標的に使用されていないことについて
商標法50条2項の「登録商標の使用」は,商品・サービスとの具体的関係において,他者から自己を識別させる機能を果たす態様において用いられること,すなわち,商標的に使用されることを要する。
したがって,被告が,要証期間内に日本国内において本件使用商標1又は2を表示したコンテナをその業務に用いていたとしても,かつて日本エアシステムが活動していたときに自己を表示するために「JAS」と表示したコンテナを,被告が引き継いでそのまま流用しているというにすぎず,日本エアシステムという会社が存在したことの,いわば歴史的な名残にすぎないから,「JAS」との表示が,被告の提供する「航空機による輸送」に係る役務について,被告を他者から識別させる機能を果たす態様において用いられていた,すなわち,商標的に用いられていたとはいえない。
インターネット上のブログに掲載された各写真(甲25,29,32)がコンテナを航空機の機外に搬出又は牽引する光景を撮影したものであったとしても,かかる作業が被告の従業員により被告の運搬車及びベルト車を使用して行われていたことを示すにすぎず,被告が「JAL」商標を使用して役務を提供していたことを示すのみであり,「JAS」商標を使用していたことを示すものではない。
被告は,取引者,需要者が直接目にする取引書類などには「JAS」との商標を使用しないこととして,「JAL」ブランドへの統一を図っていることからも,「JAS」との表示は,あまり一般人の目に触れないところに名残として残っているにすぎないものであることが明らかである。
そもそも登録商標の不使用取消審判請求の趣旨は,長期間使用されていない商標は,権利として特定人に独占させておく理由が存在しないだけでなく,かえって他人の取引を阻害する場合もあるので,その使用を欲する第三者のためにこれを開放するという点にある。本件審決の判断は,被告が,「JAS」ブランドを消滅させてもはや自己の業務に関してこれを使用しない意思を公言しているにもかかわらず,日本エアシステムから引き継いだコンテナを一つでも「JAS」との表示を変更することなく使用してさえいれば,本件商標の不使用取消は半永久的に認められないとするに等しいものであり,上記の制度趣旨に照らしても不合理である。
また,被告がその提供する全サービスを「JAL」ブランドに統一し,本件商標についてはもはや業務上の信用の維持を図る必要がなくなったといえるのに対し,原告は「JAS」を含む社名で,広く世界で航空輸送を含む事業活動を行っており,日本においても,その社名の一部である「JAS」の商標を登録した上で事業活動を行うにつき正当な利益を有していること,日本エアシステムが消滅したにもかかわらず本件商標が残存することは,取引者,需要者に混乱を生じさせることになり,公益上も問題があること等の観点からしても,原告の不利益の下で,被告に本件商標についての排他的独占権を与えることが適切な事案ではない。
4 まとめ
被告は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,本件商標を本件指定役務のいずれかに使用したことを証明していないから,この証明があったとする本件審決の判断は誤りであり,本件審決は取り消されるべきものである。
〔被告の主張〕
1 被告による本件商標の使用
(1) 使用行為
被告は,要証期間中,本件指定役務のうち「航空機による輸送」に係る役務を提供するについて,以下のとおり,本件商標を使用した。
ア 被告は,平成23年6月16日,羽田空港において,「JL0519」の航空機に,荷物の入ったULD番号「AKN4408JD」のコンテナを積み込み,同航空機により新千歳空港へと輸送し,新千歳空港に到着した同航空機から,荷物の入った同コンテナを搬出した(以下「本件使用行為1」という。甲32の1頁の写真,乙1)。
上記コンテナには,その外側側面に,上部に図形,下部に図案化された「JAS」の欧文字を組み合わせた商標(以下「本件使用商標1」という。)が表示されていた。
イ 被告は,平成22年10月19日,羽田空港において,「JL0913」の航空機に,荷物の入ったULD番号「AKN4525JD」のコンテナを積み込み,同航空機により那覇空港へと輸送し,那覇空港に到着した同航空機から,荷物の入った同コンテナを搬出した(以下「本件使用行為2」という。甲29の3頁上段の写真,乙1)。
上記コンテナには,その外側側面に本件使用商標1が表示されていた。
ウ 被告は,平成21年5月29日,那覇空港において,「JL3252」の航空機に,荷物の入ったULD番号「AKN5500JD」のコンテナを積み込み,同航空機により中部国際空港(通称「セントレア空港」)へと輸送し,中部国際空港に到着した同航空機から,荷物の入った同コンテナを搬出した(以下「本件使用行為3」という。甲25の5頁の写真。乙1)。
上記コンテナには,その外側側面に図形とその横に図案化された「JAS」の欧文字とを組み合わせた商標(以下「本件使用商標2」という。)が表示されていた。
(2) 商標法2条3項の「使用」該当性
本件使用行為1ないし3は,以下のとおり,商標法2条3項の「使用」に該当する。
ア 3号該当性
「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に標章が付されていれば,商標法2条3項3号の「使用」に該当する。
同号の「その提供を受ける者の利用に供する物」とは,役務の提供者が需要者の利用に供する物であればよく,実際に需要者が利用する物に限られないし,物に付された商標が需要者の目に触れる態様で利用される場合に限られない。
本件使用行為1ないし3において,コンテナは,「航空機による輸送」(これに含まれる「航空機による貨物の輸送」)という役務の提供に当たり,その提供を受ける者である荷物を預けた者(乗客及び貨物代理店)の利用に供する物であるから,同号の「その提供を受ける者の利用に供する物」に該当する。
そして,本件使用商標1及び2は,本件商標と社会通念上同一と認められるもの(商標法50条1項括弧書き)であり,本件使用商標1又は2を荷物の入ったコンテナに表示しているから,本件使用行為1ないし3は商標法2条3項3号の「使用」に該当する。
なお,仮に,原告が主張するように「その提供を受ける者の利用に供する物」を「需要者が利用する物」を意味するものと解したとしても,貨物代理店が被告からコンテナの貸出しを受け,自らコンテナに荷物を詰め込む場合には,貨物代理店は「航空機による輸送」という役務の提供を受けるに当たり,自らコンテナに荷物を詰め込んで,コンテナを利用しているから,コンテナは,同号の「その提供を受ける者の利用に供する物」に該当する。
イ 4号該当性
本件使用行為1ないし3において,被告は,本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標1又は2を表示したコンテナを用いて「航空機による輸送」の役務を提供しているから,本件使用行為1ないし3は商標法2条3項4号の「使用」に該当する。
ウ 5号該当性
(ア) 商標法2条3項5号の「展示」とは「需要者の目に触れること」を意味すると解すべきである。
本件使用行為1ないし3において,本件使用商標1又は2の付されたコンテナは,空港の上屋等から航空機へと運搬され,航空機に積み込まれる作業の過程,あるいはその逆の作業の過程において,需要者(乗客又は貨物代理店)の目に触れる状態にある。
したがって,本件使用行為1ないし3は,同号の「展示」に該当する。
(イ) 仮に,同号の「展示」を原告が主張するように「役務の提供の用に供する物を店頭又は店内等に並べていわゆる客待ちにある状態」と解したとしても,本件使用行為1ないし3は,同号の「展示」に該当する。
すなわち,本件使用行為1ないし3は,本件使用商標1又は2の付されたコンテナを,空港の上屋等から航空機へと運搬し,航空機に積み込む作業の過程,あるいはその逆の作業の過程において,需要者(乗客又は貨物代理店)の目に触れる状態にするものである。被告は,本件使用商標1又は2を付したコンテナを需要者に見せることで,需要者に対して役務を提供する新たな機会を待っているといえる。したがって,本件使用行為1ないし3は,「役務の提供の用に供する物を店頭又は店内等に並べていわゆる客待ちにある状態」に該当し,同号の「展示」に該当する。
また,被告は,本件使用行為1ないし3の前後において,本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標1又は2の付されたコンテナを上屋に並べて,需要者たる貨物代理店に利用されるのを待っていた。貨物代理店が荷物を上屋に持ち込めば,かかる荷物をコンテナに詰め込み,「航空機による貨物の輸送」という役務を提供できる状態にあった(乙17参照)。本件使用行為1ないし3の前後においてされた被告の「コンテナを上屋に並べて貨物代理店による利用を待つ行為」は,「役務の提供の用に供する物を店頭又は店内等に並べていわゆる客待ちにある状態」に該当し,同号の「展示」に該当する。
(3) 小括
以上のとおり,本件使用行為1ないし3の事実が認められ,本件使用行為1ないし3は商標法2条3項3号ないし5号の「使用」に該当する。
2 原告の主張について
(1) 本件商標が被告の業務に係る役務について使用されていないとの主張について
原告は,商標権者が立証責任を負うべき登録商標の使用は自己の業務に関するものでなければならないが,国土交通大臣により「JAS」の名において航空運送事業を行うことを許可された事業者は存在せず,また,要証期間前に「JAS」が表象する日本エアシステムは消滅していたから,要証期間内に本件商標が「航空機による輸送」等の業務に関して使用されたとはいえない旨主張する。
しかしながら,商標の表示と実際の業務の遂行主体とを合致させなければならない必要性はなく,商標法においてもこのような制限はないから,本件商標を用いた「航空機による輸送」の業務が「JAS」と称する航空運送事業者により行われなければならないかのような原告の上記主張は,その前提に誤りがある。
被告と日本エアシステムとの企業統合は,当時,国際線に強い営業力を有していた被告と,国内線に強い営業力を有していた日本エアシステムとが企業統合することで,両社のシナジー効果を最大限に発揮し,国際事業と国内事業とのバランスのとれた世界トップクラスの航空輸送企業グループとして徹底的な強化を図ることを企図して行われたものである。上記の企業統合の目的からも明らかなとおり,日本エアシステムが企業統合により消滅した後も,同社が築き上げてきた業務上の信用(グッドウィル)は,失われることなく被告に承継されている。被告の内部においても,本件商標及びこれと社会通念上同一の商標は「重要商標」として管理されており,被告は,本件商標の承継者として,本件商標によって表象される日本エアシステムの信用を保持する意思を有している。被告の顧客ないし利用者の側においても,日本エアシステムと被告が経営統合し,日本エアシステムが消滅したことを知りながら,日本エアシステムを表象する本件使用商標1及び2を被告が自己の業務に係る役務に供する物に使用していることを認識しており(甲30等),このことは,本件商標が現在においても被告の役務の提供の用に供する物に使用されており,しかも,被告以外の他者との自他識別機能(「JASを引き継いでいるJAL」を認識させる機能)を果たしていることの証左でもある。
なお,原告は,甲第41号証を挙げ,被告自身も「JAL・日本航空」ブランドへの統一のために,「JAS」ブランドを消滅させ,これを自己の業務に関して使用しないことを公言している旨主張する。しかし,甲第41号証は,単なる中間決算に係る書類にすぎず,「JAS」ブランドを消滅させ,被告の業務に使用しないことを公言するものではないし,被告において,このようなことを公言したことは一度もない。
以上のとおり,原告の上記主張は失当であり,被告が自己の「航空機による輸送」の業務に関して本件商標を使用していることは明らかである。
(2) 本件商標が商標的に使用されていないとの主張について
原告は,商標法50条2項の「登録商標の使用」は,商品・サービスとの具体的関係において,他者から自己を識別させる機能を果たす態様において用いられることを要するところ,被告は,本件使用商標1又は2の表示のある貨物空輸用コンテナを日本エアシステムから引き継いでそのまま流用しているにすぎず,「JAS」との表示が,本件指定役務について被告を他者から識別させる機能を果たす態様において用いられていたとはいえない旨主張する。
しかしながら,被告は,本件使用商標1及び2を自己の役務の提供の用に供する物に表示して使用しているのであり,現実に,本件使用商標1及び2は,他社との関係で自他識別機能を有し,顧客ないし利用者からもそのように認識されている(甲30等)。
また,被告は,数多くの物品及びコンテナについて本件使用商標1又は2を表示しているのであって,本件商標を取り消さないことが,商標の不使用取消審判制度が設けられた趣旨に反するなどという批判は当たらない。
以上のとおり,原告の上記主張は失当であり,被告は自他識別機能を果たす態様で本件商標を使用している。
3 まとめ
以上のとおり,本件商標の商標権者である被告が,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,本件指定役務のうち「航空機による輸送」に係る役務の提供について本件商標(本件商標と社会通念上同一と認められる商標)を使用した事実が認められるから,本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1 証拠(甲1,2,21,25,29,32,40ないし42,45,乙1,2,8ないし10,13)及び弁論の全趣旨によれば,次の(1)ないし(3)の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 被告と日本エアシステムの統合の経緯等について
被告の前身である日本航空株式会社と日本エアシステムは,経営統合に向けて,平成14年10月,共同持株会社である株式会社日本航空システムを設立し,日本エアシステムは同社の子会社とされた。平成16年4月,日本エアシステムは株式会社日本航空ジャパンに,日本航空株式会社は株式会社日本航空インターナショナルにそれぞれ商号変更された。平成18年10月,株式会社日本航空ジャパンは,株式会社日本航空インターナショナルに吸収合併され,平成23年4月1日,株式会社日本航空インターナショナルは,被告の現商号である日本航空株式会社に商号変更された。
(2) 本件商標の出願後の経緯等について
ア 本件商標は,日本エアシステムが平成4年9月30日出願し,平成7年11月30日設定登録されたものであるが,上記(1)の商号変更や合併に伴い,平成17年8月10日登録名義人の表示が株式会社日本航空ジャパンに変更され,平成18年12月26日株式会社日本航空インターナショナルに一般承継による本件商標登録の移転登録がされ,平成23年8月31日登録名義人の表示が日本航空株式会社に変更された。
イ 日本航空株式会社と日本エアシステムとの経営統合に当たっては,経営統合により誕生する新たな企業グループの名称は,「日本航空グループ」(英文表示「Japan Airlines Group」)とし,グループ統一ブランドとして,「日本航空」,「Japan Airlines」,「ジャル」,「JAL」を用いることとされ,同旨の内容が平成14年1月29日プレスリリースされた。
その後,平成16年1月7日には,JALグループは,事業会社再編により完全統合する平成16年4月以降の営業・サービスについて,予約発券・空港システムの統合を実施し,全ての商品・サービスをJALブランドに統一することにより,各種サービスを更に深化させるとし,従来JAL便名・JAS便名で運航していた便を,全てJAL便名に統一すること,全ての国内空港で,貨物及び郵便取扱いサービスの統一化を図り,貨物及び郵便受付,引渡し窓口を一元化することなどがプレスリリースされた。
ウ 被告は,平成18年10月の株式会社日本航空ジャパンの合併後である平成20年4月1日実施に係る「重要商標の使用に関する規程」(平成24年2月24日一部改定)において,「JAL6本線」,「JAL長方形」,「日本航空」,「日航」,「Japan Airlines」,「鶴丸」,「JALアーク・オブ・ザ・サン」とともに,「JAS」,「レインボーロゴ」(青色,赤色,橙色及び黄色に彩色された帯で形成した平行四辺形と,その右側に配置された図案化された紺色の「JAS」との欧文字から構成される標章等),「日本エアシステム」を重要商標と位置付け,このような重要商標は,JALグループの長年の信用と名声の蓄積によって極めて高い評価を受けるに至っている重要な無体財産であるので,その価値を維持し,かつ,効率的に運用するものとする旨規定している。
(3) 「JAS」との表示のあるコンテナの使用について
ア 被告は,要証期間内である平成21年5月29日,那覇空港において,その運航する航空機(那覇空港発中部国際空港着のJL3252便)に,荷物の入った貨物空輸用コンテナ(ULD番号:AKN5500JD)を積み込み,同航空機により中部国際空港へと輸送し,同日,中部国際空港に到着した同航空機から,同コンテナを搬出した(本件使用行為3)。
中部国際空港における搬出作業は,背中側にJAL標章を表示した作業服を着用した2名の作業員により,JAL標章が表示された機材を用いて行われた。機体にJAL標章が表示された航空機内から機体外に搬出されたコンテナの外側側面上部中央には,白塗り横長方形内に,青色,赤色,橙色及び黄色に彩色された帯で形成した平行四辺形と,その右側に図案化された「JAS」との欧文字を横一列に配して構成される標章(本件使用商標2)が表示されており,他方,同側面には,上記標章のほかには「JAL」商標などは付されていなかった。
中部国際空港における上記コンテナの搬出作業を写した写真は,作成者不明のブログ(甲25)に掲載された。
(以上につき,甲25,乙1,10,13)
イ 被告は,要証期間内である平成22年10月19日,羽田空港において,その運航する航空機(羽田空港発那覇空港着のJL0913便)に,荷物の入った貨物空輸用コンテナ(ULD番号:AKN4525JD)を積み込み,同航空機により那覇空港へと輸送し,同日,那覇空港に到着した同航空機から,同コンテナを搬出した(本件使用行為2)。
羽田空港における積込作業の過程で,同コンテナは,背中側にJAL標章を表示した作業服を着用した作業員の運転する車両により牽引された。牽引される同コンテナの外側側面上部中央には,青色,赤色,橙色及び黄色に彩色された帯で形成した長方形と,その下側に横一列に配置された図案化された「JAS」との欧文字から構成される標章(本件使用商標1)が表示されていた。同側面には,本件使用商標1の下側に「日本エアシステム」との表示が,本件使用商標1の上側に「JAL CARGO」との表示があったものの,「JAL CARGO」との表示は,本件使用商標1や「日本エアシステム」との表示の大きさに比べると相当に小さいものであった。
羽田空港における上記コンテナの牽引作業を写した写真は,作成者不明のブログ(甲29)に掲載された。
(以上につき,甲29,乙1,10,13)
ウ 被告は,要証期間内である平成23年6月16日,羽田空港において,その運航する航空機(羽田空港発新千歳空港着のJL0519便)に,荷物の入った貨物空輸用コンテナ(ULD番号:AKN4408JD)を積み込み,同航空機により新千歳空港へと輸送し,同日,新千歳空港に到着した同航空機から,同コンテナを搬出した(本件使用行為1)。
新千歳空港における搬出作業の過程で,同コンテナは,車両により牽引された。牽引される同コンテナの外側側面上部中央には,青色,赤色,橙色及び黄色に彩色された帯で形成した長方形と,その下側に横一列に配置された図案化された「JAS」との欧文字から構成される標章(本件使用商標1)が表示されていた。同側面には,本件使用商標1の下側に「日本エアシステム」との表示が,本件使用商標1の上側に「JAL CARGO」との表示があったものの,「JAL CARGO」との表示は,本件使用商標1や「日本エアシステム」との表示の大きさに比べると相当に小さいものであった。
新千歳空港における上記コンテナの牽引作業を写した写真は,作成者不明のブログ(甲32)に掲載された。
(以上につき,甲32,乙1,10,13)
(4) 原告の主張について
ア 原告は,インターネット上のブログに掲載された写真(甲25,29,32)は,単に,空港の管理区域周辺に「JAS」と付された筐体が存在していたことを示すのみであって,上記筐体が貨物空輸用コンテナであったとしても,上記各写真がコンテナを航空機の機外に搬出又は牽引する光景を撮影したものであるかどうかは証拠上明らかではなく,上記各証拠の記載内容等の真実性について検証することはできないから,上記各写真の撮影日が本件審判の請求の登録前3年以内であることは証拠上不明であるなどとして,被告が業として本件商標を要証期間内に本件指定役務に使用していたことを証明するものではない旨主張する。
しかしながら,被告は業として航空運送事業を行うものであるところ(甲20,21,39,43,44等),被告のコンテナ使用履歴(乙1)や貸与履歴(乙2)に照らせば,前記(3)アないしウの認定事実に係るブログ掲載写真(甲25,29,32)に写されたコンテナは,いずれも,被告が業として行う「航空機による輸送」の役務の提供に使用していた貨物空輸用コンテナであり,上記ブログ掲載写真は,これらの貨物空輸用コンテナが,被告の運航する航空機による輸送に実際に使用されている場面を写したものであると認められる。特に,甲第25号証のブログに掲載された写真には,JAL標章を表示した作業服を着用した作業員により本件使用商標2の付されたコンテナが航空機内から機体外へ搬出されている状況が,甲第29号証のブログに掲載された写真には,同じくJAL標章を表示した作業服を着用した作業員が運転する車両に本件使用商標1の付されたコンテナが牽引されている状況がそれぞれ示されており,これらの写真は,被告が,業として,「航空機による輸送」に係る役務を提供する際に,本件使用商標1又は2が付された貨物空輸用コンテナを使用していたことをより明確に示すものであるといえる。
そして,甲第25号証のブログには,中部国際空港における上記写真を撮影したのが平成21年5月29日である旨記載され,甲第29号証のブログには,羽田空港における上記写真を撮影したのが平成22年10月19日であると記載され,甲第32号証のブログの記載内容からは,新千歳空港における上記写真を撮影したのは平成23年6月16日と推認されるところ,これらの撮影日は,いずれも各写真に写された貨物空輸用コンテナに係る被告の使用履歴(乙1)と符合しているから,上記各ブログにおけるその撮影日の記載の信用性は高いというべきである。原告は,ブログは事後的にその内容を修正することが容易であるとして,ブログに記載された内容やブログに掲載された写真(甲25,29,32)の信用性を問題視するものの,抽象的に事後的な修正の可能性を指摘するのみであり,かかる指南のみでは,前記(3)アないしウの認定を左右するには足りないといわざるを得ない。
イ 原告は,コンテナの使用履歴に係るデータ(乙1)は,訴訟当事者である被告が作成したものであって,一般論として,偽造,変造のおそれがあり,客観性の担保されないものであるから,信用性は低い旨主張する。
しかしながら,コンテナの使用履歴に係るデータ(乙1)は,被告における日々の業務遂行過程において,一定の事由が生じる度に入力,記録されたデータであることに加え,前記(3)アないしウで認定したコンテナの使用に係るデータ部分については,他の証拠(甲25,29,32)の内容とも整合していることに照らせば,上記データ(乙1)の証拠としての信用性が低いとはいえない。
ウ 原告は,被告が本件指定役務について本件商標を使用していたのであれば,当該役務に関し,本件商標が付された領収書,請求書,カタログ,パンフレット,その他の資料を証拠として提出すれば足りるにもかかわらず,被告がこれらの証拠を提出できないことは,被告が自己の業務に係る役務について本件商標を使用していた事実がないことを示すものである旨主張する。
しかしながら,商標の不使用取消審判及びその審決の取消訴訟において,商標権者がその登録商標を使用していることの証明に用いる証拠に特段の制限はなく,原告が指摘するような取引書類が提出されなければ,被告が本件指定役務について本件商標を使用したことの証明をなし得ないというものではない。原告が指摘するような取引書類に商標を付して展示し,若しくは頒布する行為は,商標法2条3項8号に該当する行為であるところ,もとより,同法50条1項の登録商標の使用は,同法2条3項8号に該当する行為に限られるものではないから,仮に,被告が,要証期間内にこれらの取引書類に本件商標を付して展示し,又は,頒布した事実がなかったとしても,このことから被告による本件商標の使用が当然に否定されるわけではない。
エ 以上のとおり,掲記した証拠によれば,前記(3)アないしウの事実が認められ,原告が指摘する点は,いずれも同認定を左右するに足りない。
2 被告による使用行為の商標法2条3項該当性について
(1) 前記1(3)アないしウの認定事実によれば,本件使用行為1ないし3において使用された貨物空輸用コンテナには,その外側側面に本件使用商標1又は2が表示されていた。
本件使用商標2は,白塗り横長方形内に,青色,赤色,橙色及び黄色に彩色された帯で形成した平行四辺形と,その右側に図案化された「JAS」との欧文字を横一列に配して構成される標章であり,本件商標と同一の商標である。
また,本件使用商標1は,青色,赤色,橙色及び黄色に彩色された帯で形成した長方形と,その下側に横一列に配置された図案化された「JAS」との欧文字から構成される標章であるが,その図形及び文字部分には,本件商標の識別性が明確に維持されているといえる。
したがって,本件使用商標1は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認めるのが相当である。
(2) 3号及び4号該当性について
被告は,業として航空運送事業を行うものであるところ,前記1(3)アないしウの認定事実によれば,被告が要証期間内に,その運航する航空機による荷物の輸送に,本件使用商標1又は2の表示された貨物空輸用コンテナを使用したことが認められる。
貨物空輸用コンテナは,被告が「航空機による輸送」の役務を提供するに当たり,その役務の提供を受ける者である航空機の乗客や貨物代理店から預かった荷物を入れるために利用するものであるから,被告が役務を提供するに当たり「その提供を受ける者の利用に供する物」に該当するものと認められる。
そして,本件使用行為1ないし3において使用された貨物空輸用コンテナには本件使用商標1又は2が付されており,被告は,かかる貨物空輸用コンテナを用いて「航空機による輸送」の役務を提供したから,本件使用行為1ないし3は,商標法2条3項3号及び4号の「使用」に該当する。
(3) 5号該当性について
被告は,業として航空運送事業を行うものであるところ,前記1(3)アないしウの認定事実によれば,被告が要証期間内に,その運航する航空機による荷物の輸送に,本件使用商標1又は2の表示された貨物空輸用コンテナを使用したこと,空港におけるコンテナの機体への積み込み又は機体からの搬出作業の過程で,上記コンテナは,「航空機による輸送」の役務の取引者・需要者である航空機の乗客や貨物代理店の従業者により,本件使用商標1又は2の表示を含め視認することが可能な状態に置かれていたことが認められる。
貨物空輸用コンテナは,本件指定役務のうちの「航空機による輸送」の「役務の提供の用に供する物」に該当する。
そして,被告が「航空機による輸送」の役務の提供に使用する貨物空輸用コンテナは,空港内において,車両に牽引されて移動し,若しくは機体に搬入又は機体から搬出される過程で,同役務の取引者・需要者である航空機の乗客や貨物代理店の従業者により,本件使用商標1又は2の表示を含め視認することが可能な状態に置かれていたから,被告は,貨物空輸用コンテナに本件使用商標1又は2を表示したものを,「航空機による輸送」の「役務の提供のために展示」したものと認められる。
したがって,本件使用行為1ないし3は,商標法2条3項5号の「使用」に該当する。
(4) 以上によれば,本件商標の商標権者である被告は,要証期間内に日本国内において,本件指定役務のうち「航空機による輸送」について本件商標を使用したものと認められる。
3 原告の主張について
(1) 本件使用行為1ないし3は商標法2条3項の「使用」に該当しない旨の主張について
ア 原告は,商標法2条3項3号及び4号にいう「その提供を受ける者の利用に供する物」とは,「需要者が利用する物」のことを意味するものと解すべきであるが,本件使用行為1ないし3で使用される貨物空輸用コンテナは「需要者が利用する物」ではないから,同項3号及び4号の「その提供を受ける者の利用に供する物」には該当しない旨主張する。
しかしながら,同項3号及び4号が,役務の提供に当たり「その提供を受ける者の利用に供する物」と規定し,「その提供を受ける者が利用する物」とは規定していないことに照らせば,標章が付される対象物は,役務を提供する者が,その役務を提供するに当たり,その役務の提供を受ける者(需要者)の利用に供する物であればよく,需要者が直接に利用する物に限られないというべきである。
そもそも,3号は「標章を付する行為」をすれば,実際に役務の提供に当たって用いられるか否かに関わらず,直ちに商標の「使用」に該当するとするものであるから,標章を付する物が需要者が直接に利用する物に限られるとする必然性はない。
また,同項5号は,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」を含むが,これに限られない「役務の提供の用に供する物」について規定するものであって,かかる規定が存するからといって,同項3号及び4号において,標章を付する物は需要者が直接に利用する物に限られるとする必然性もない。
本件使用行為1ないし3において,貨物空輸用コンテナは,被告が「航空機による輸送」の役務を提供するに当たり「その提供を受ける者の利用に供する物」に該当するものと認められることは,前記2(2)記載のとおりである。
よって,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,商標法2条3項5号の「展示」とは,役務の提供の用に供する物を「店頭又は店内等に並べていわゆる客待ちにある状態」を意味するが,本件使用行為1ないし3において,本件使用商標1又は2の付されたコンテナは,需要者(荷物を預けた者)の目に触れないか,又は目に触れたとしても一時的なものにすぎず,「店頭や店内等に並べていわゆる客待ちにある状態」にはないから,コンテナが「展示」されたとはいえない旨主張する。
しかしながら,商標法2条3項5号の「役務の提供のために展示する行為」とは,役務の提供のために一般に示す行為を意味するものと解され,原告が主張するような「店頭又は店内等に並べていわゆる客待ちにある状態」のみに限られないというべきである。
そして,本件使用行為1ないし3において,被告が「航空機による輸送」の役務の提供に使用する貨物空輸用コンテナは,空港内で,車両に牽引されて移動し,若しくは機体に搬入又は機体から搬出される過程で,同役務の取引者・需要者である航空機の乗客や貨物代理店の従業者により,本件使用商標1又は2の表示を含め視認することが可能な状態に置かれていたから,被告は,貨物空輸用コンテナに本件使用商標1又は2を表示したものを,「航空機による輸送」の「役務の提供のために展示」したものと認められることは,前記2(3)記載のとおりである。
よって,原告の上記主張は理由がない。
(2) 本件商標は被告の業務に係る役務について使用されていない旨の主張について
ア 原告は,国土交通大臣から「航空機による輸送」の役務の提供について許可を受けた航空運送事業者の中に「JAS」なる者は存在しないから,「JAS」との名称で「航空機による輸送」の業務を提供する者も存在せず,被告の業務に係る役務について本件商標が使用されたとはいえない旨主張する。
しかしながら,航空運送事業者が「航空機による輸送」の業務を行うに当たり,自社の商号と符合する商標しか使用することができないというものではないから,被告が事業主体として航空運送事業を行うにつき「JAS」との文字から構成される商標を使用することも可能であり,許可を受けた航空運送事業者の中に「JAS」との名称の事業者が存在しないからといって,被告がその業務に係る役務について本件商標を使用したことが否定されるべき理由はない。
イ 原告は,被告と日本エアシステムの統合の経緯に照らせば,要証期間より前に「JAS」が表象する日本エアシステムは「JAS」ブランドとともに完全に消滅していたから,要証期間内に本件商標が「航空機による輸送」の業務に関して使用されることはない,被告は「JAL・日本航空」ブランドへの統一のために,「JAS」ブランドを消滅させ,これを自己の業務に関して使用しないことを公言していたから,本件商標は被告の業務を表象するものではない旨主張する。
しかしながら,日本エアシステムが被告に吸収合併されて,法人として消滅したからといって,本件商標に蓄積された業務上の信用(グッドウィル)が消滅するというものではなく,日本エアシステムから本件商標の商標権を承継した被告が,その業務に関し本件商標を使用することは何ら妨げられない。
また,原告は,甲第41号証や甲第45号証を挙げて,被告が「JAS」ブランドを消滅させ,これを自己の業務に関して使用しないことを公言していたなどとするものの,これらの証拠中には,被告が「JAS」ブランドを消滅させ,自己の業務に使用しないことに言及する部分は見当たらない。むしろ,被告は,日本航空株式会社と日本エアシステムとの経営統合に当たっては,経営統合により誕生する新たな企業グループの名称を「日本航空グループ」とし,グループ統一ブランドとして「日本航空」,「JAL」を用いること,統合後は全ての商品・サービスをJALブランドに統一することなどを表明する一方で,要証期間当時,「JAS」,「レインボーロゴ」,「日本エアシステム」も被告の重要商標であると位置付け,その価値を維持し,かつ,効率的に運用するとの方針を取っていたことは,上記1(2)認定のとおりである。
そして,本件商標の商標権者である被告は,要証期間内に本件商標を使用したものと認められることは,前記2記載のとおりであり,これに反する原告の上記主張は理由がない。
(3) 本件商標が商標的に使用されていない旨の主張について
ア 原告は,被告が本件使用商標1又は2を付した貨物空輸用コンテナをその業務に用いていたとしても,被告が「JAL」商標を使用して役務を提供していたことを示すのみであり,被告が「JAS」商標を使用していたことを示すものではないのであって,上記コンテナに付された「JAS」との表示は,かつて日本エアシステムという会社が存在したことの歴史的な名残にすぎず,被告の提供する「航空機による輸送」に係る役務について,被告を他者から識別させる機能を果たす態様において用いられたとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件使用行為1ないし3が,「航空機による輸送」の役務の提供について,商標法2条3項3号ないし5号の「使用」に該当することは,前記2で述べたとおりであり,特定の役務の提供について,一つの商標しか用いることができないというわけではないから,被告が「航空機による輸送」の役務の提供について,「JAL」商標を用いるのみならず,本件商標を併用することもできるのであって,被告が「JAL」商標を使用していたからといって,このことにより,被告による本件商標の使用が否定されるわけではない。
そして,本件商標を構成する文字が吸収合併により消滅する会社に係る商号である日本エアシステムとの名称に由来するものであるからといって,本件商標が,日本エアシステムの消滅に伴って,当然にその商標としての機能を失うものではない。
また,被告が,要証期間当時,「JAS」,「レインボーロゴ」,「日本エアシステム」も被告の重要商標であると位置付け,その価値を維持し,かつ,効率的に運用するとの方針を取っていたことは,前記1(2)認定のとおりであり,被告が本件商標を商標として使用する意思を有していなかったともいえない。
さらに,前記1(3)アないしウ認定の本件使用商標1及び2の表示態様に照らせば,本件使用商標1及び2は,貨物空輸用コンテナを用いて役務を提供する者が被告(日本エアシステムの承継人たる被告)であることを示す態様において,すなわち,被告の役務を第三者の提供する役務から識別し,その出所を表示する機能を果たし得る態様において用いられていたというべきである。
よって,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,本件審決の判断は,被告において「JAS」ブランドを消滅させて自己の業務に関してこれを使用しない意思を公言しているにもかかわらず,被告が日本エアシステムから引き継いだコンテナについて一つでも「JAS」との表示を変更することなく使用していれば,本件商標の不使用取消が半永久的に認められないとするに等しく,不使用取消審判制度の趣旨に照らして不合理である旨主張する。
しかしながら,被告が「JAS」ブランドを消滅させ,これを自己の業務に関して使用しないことを公言していたとの事実を認めるに足りる証拠はなく,むしろ,被告は,要証期間当時,「JAS」や「レインボーロゴ」等も被告の重要商標であると位置付け,効率的に運用するとの方針を取っていたものと認められること,本件商標の商標権者である被告が,要証期間内に本件商標を本件指定役務のうち「航空機による輸送」について使用したものと認められることは既に述べたとおりである。
不使用取消審判制度は,一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないか,又は発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなるものと解されることに基礎を置く制度であるが,本件商標の商標権者である被告が,要証期間内に本件商標を本件指定役務のうち「航空機による輸送」について使用している以上,本件商標について保護すべき信用が発生していないとも,又は発生した信用が消滅したともいえない。
よって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,被告において,本件商標について業務上の信用の維持を図る必要がなくなったのに対し,原告においては,「JAS」の商標を登録した上で事業活動を行うにつき正当な利益があり,日本エアシステムが消滅したにもかかわらず,本件商標が残存することは取引者,需要者に混乱を生じさせることになり公益上も問題があるなどと主張する。
しかしながら,被告が「JAS」ブランドを消滅させ,これを自己の業務に関して使用しないことを公言していたとの事実を認めるに足りる証拠はなく,むしろ,被告は,要証期間当時,「JAS」や「レインボーロゴ」等も被告の重要商標であると位置付け,効率的に運用するとの方針を取っていたものと認められることは既に述べたとおりであり,これらの事情に照らせば,被告において,本件商標について業務上の信用の維持を図る必要がなくなったものと直ちに認めることはできない。
また,被告が本件商標を使用することにより,取引者,需要者の間に混乱が生じているとの事実を認めるに足りる証拠はなく,本件商標の登録を取り消さないことが公益に反するものであると認めることはできない。
よって,原告の上記主張は理由がない。
4 結論
以上の次第であるから,原告の主張する取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富田善範 裁判官 大鷹一郎 裁判官 柵木澄子)