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知財高等裁判所 平成25年(行ケ)10298号 判決 2014年8月07日

原告

ベロシティーアパレルズカンパニー

訴訟代理人弁理士

小谷武

木村吉宏

伊東美穂

長谷川綱樹

永露祥生

被告

特許庁長官

指定代理人

山田啓之

渡邉健司

堀内仁子

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1請求の趣旨

特許庁が不服2013-650006号事件について平成25年6月25日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯等(争いがない)

原告は,平成23年5月10日,別紙1の商標目録1記載の内容の商標(以下「本願商標」という。)につき国際商標登録出願(優先権主張・2011年4月20日,国際登録第1084012号)をしたが,平成24年11月1日付けで拒絶査定を受けたため,平成25年2月1日,同拒絶査定に対する不服審判請求をした。

特許庁は,上記審判請求を不服2013-650006号事件として審理し,平成25年6月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年7月8日,原告に送達された。

2  審決の理由

審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。審決は,要するに,本願商標は,別紙2の商標目録2記載1ないし8の各商標(以下,それぞれ「引用商標1」ないし「引用商標8」といい,これらを併せて「引用商標」という。)と類似し,かつ,引用商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用をするものであるから,本願商標は商標法4条1項11号の規定により登録を受けることができないというものである。

第3原告の主張

審決には,本願商標と引用商標との類否についての判断の誤りがあり,この判断の誤りは審決の結論に影響するから,審決は取り消されるべきである。

1  本願商標について

本願商標は,上段に丸文字風に装飾された欧文字で「MAGGIE」と横書きし,かつ,下段にアラビア文字で「file_2.png」と横書きした構成から成る。上段の「MAGGIE」の欧文字部分からは,その構成文字に相応して「マギー」という称呼が生じ,下段に表されたアラビア文字は上段の欧文字に相応しており,アラビア語で「マギー」と発音するものである。

審決は,本願商標から特定の観念は生じないと判断したが,本願商標下段のアラビア文字部分は,その形状が特殊なため,我が国の一般需要者が本願商標に接した際,同部分に着目し,「これがアラビア文字である」ということを認識し,したがって,「本願に係る商品がアラブ圏に関連するものである」ということは認識する。我が国の一般需要者がアラビア文字に馴染みがないとしても,「被服」をはじめとするアパレル関連商品は,どこの国の何というブランドかが重視される傾向が強いため,商品の出所を想起させる部分が観念から捨象されることはない。

一方,「MAGGIE」は,「Margaret」(マーガレット)や「Magdalena」(マグダレーナ)という名前の愛称として使用されている。そして,我が国において,「マギー(Maggie)」という名前の有名人は,米国女優「マギー・ジレンホール」,香港女優「マギー・Q」,英国女優「マギー・スミス」,香港女優「マギー・チャン」など,数多く知られているところ,いずれも英語圏の人物である。したがって,本願商標の「MAGGIE」の欧文字部分からは,「マギー」という英語圏の人物(主に女性)というイメージが想起される。なお,MAGGIEという人名が中学基本語等に含まれていないとしても,中学基本語等は人名をその対象としておらず,当該人名が一般に親しまれていないことの根拠にはなり得ない。

このように,「マギー」という名前は英語圏の人物(主に女性)に関するものであるが,アラビア文字部分からは,本願に係る商品がアラブ圏に関連するものであると示唆されるのであるから,本願商標は,相反する内容が並列された非常に珍しい構成態様である。我が国でもアラブ圏に関するブランドは珍しく,当該文字部分は,本願商標の構成要素中,需要者の目を惹きやすい要素といえる。

したがって,本願商標からは,少なくとも「アラブ圏と関連のあるマギーという人物」といった程度の観念が想起される。

2  引用商標について

(1)  引用商標の観念について

ア 引用商標の商標権者はいずれも株式会社銀座マギーであるが,「銀座マギー」は,昭和31年創業以来,銀座を代表する高級婦人服メーカーであり,銀座の代表的な高級婦人服ブランドとして我が国の一般需要者等の間で周知である。

イ このように「銀座マギー」が周知であることから,引用商標2,3,4及び7のように,商標中に「銀座/GINZA」及び「マギー/MAGGY/Maggy」の両要素を含む場合,「銀座マギー」の周知性に影響を受け,「銀座/GINZA」と「マギー/MAGGY/Maggy」の各要素が結合されて一体的に認識,把握される。その結果,「マギー」単独の称呼が生ずることはなく,周知である「ギンザマギー」の称呼と「高級婦人服ブランドとして周知な銀座マギー」の観念が生ずる。

この点,審決は,「銀座」の文字部分が商品の産地,販売地を表したものと認識されると判断しているが,これは誤りである。そもそも,これらの商標権者は「株式会社銀座マギー」であり,「銀座マギー」は,高級婦人服ブランドとして周知となっており,それ自体が一体不可分のものとして認識されている。しかも,仮に当該商標中の「銀座」部分が産地又は販売地であるとするならば,その指定商品は「銀座で生産された被服」若しくは「銀座で販売される被服」といったような限定がされていなければならないところ,これらの引用商標の指定商品は何ら限定されていないのであるから,引用商標「銀座マギー」の「銀座」という表示が,審決で判断されたような純粋な産地,販売地としては認識されていないことを示している。したがって,これらの引用商標は,審決の判断のように分離観察されるものではない。

ウ また,引用商標5及び6を構成する「Maggy」の欧文字ロゴや「マギー」の片仮名ロゴも,その特徴的な書体と,商標権者による長年の使用が相俟って,「銀座マギー」の商号商標とともに需要者に広く認識されているから,これらについても,商標権者が株式会社銀座マギーであることと,周知商標としての外観的印象の強さから,上記イの各引用商標と同様,「高級婦人服ブランドとして周知な銀座マギー」の観念が想起される。

エ そして,引用商標1及び8は,その商標中に「銀座」又は「GINZA」といった文字はないが,その商標権者が株式会社銀座マギーであって,引用商標1は周知な「銀座マギー」と片仮名部分が同一であり,引用商標8は,欧文字部分のスペリングが同一であることからすれば,いずれも株式会社銀座マギー自身が使用する以上,少なくとも同社と何らかの関連があるブランド(例えば,セカンドライン等のバリエーションブランド)であると需要者等に認識され得るものである。

(2)  引用商標の称呼について

引用商標1は,上段に欧文字で「MAGI」と,下段に片仮名文字で「マギー」と横書きした構成から成るところ,上段の「MAGI」を我が国で一般に慣れ親しまれている英語で称呼すると「マギ」と発音されるのが普通なので,下段の片仮名文字「マギー」は,上段部分の振り仮名として認識されることはない。したがって,引用商標1は,その構成要素各々に相応して「マギー」及び「マギ」の称呼を生ずるものである。

引用商標2,3,4及び7からは,「ギンザマギー」の称呼が生じる。また,引用商標5,6及び8からは,「マギー」の称呼が生じる。

3  本願商標と引用商標との類否について

(1)  引用商標2,3,4及び7について

以上によれば,引用商標2,3,4及び7については,外観,観念,称呼のいずれについても本願商標と非類似である。

(2)  引用商標1,5,6及び8について

ア 引用商標1,5,6及び8については,称呼については本願商標と共通しているが,観念については,上記1,2(1)のとおり本願商標と非類似である。

イ 外観については,本願商標はその構成中にアラビア文字が併記されている点において非常に特徴的であって,「MAGGIE」の欧文字部分が独立した要部とはならない。したがって,引用商標と同欧文字部分中の3文字又は4文字が共通するとしても,それは本願商標の一部に関する事情に過ぎず,本願商標全体と引用商標とを比較すれば,明確に区別することができるものであり,外観上相紛れるおそれは全くない。また,欧文字部分のみをとってみても,その文字数,書体,引用商標1については片仮名の有無,引用商標5及び6については特徴的な書体の片仮名文字や筆記体調の欧文字等,外観上明らかな差異を有している。

ウ そもそも,商標の類否判断を左右するのは「現実に混同を生ずるおそれがあるか否か」から判断されるべきものである。そして,本願商標と引用商標1,5,6及び8は,上記のとおり,その外観及び観念が著しく相違し,称呼における類似性を凌駕しており,日本の高級婦人服ブランドとして周知な「銀座マギー」に関連するこれらの引用商標と,一見して外国発祥のブランドと認識される本願商標との間で,出所混同のおそれが生じることは現実的にはあり得ない。

また,アパレル業界における取引の実情として,デザイナーの名前をそのままブランド名とするケースなど,ブランド名の一部に同一の文字が使用されていたり,称呼の一部又は全体が共通することは少なくないが,たとえ称呼が共通するとしても,それのみをもって画一的に出所混同が判断されることはなく,その他の識別要素を考慮して具体的,実際的な判断がなされるのが通常であり,実際の需要者層には,各々の特徴を把握した上で明確に異なるブランドとして理解されている。「マギー」についても,本願商標以外にも,「MAGGIE MAY」(マギー・メイ),「Maggie Coulombe」(マギー・コロンビー),「MAGGY LONDON」(マギー・ロンドン),「MAGEE」(マギー),「MIMI&MAGGIE」(ミミ・アンド・マギー),「MAGGIE WARD」(マギー・ワード)という多数のブランドが存在するが,実際,需要者がこれらのブランドについてその出所を混同することはない。アパレル関連商品について,このような近似した商標が用いられていることはもはや一般的に認識されており,需要者は,その名称の細かな違い,商品の系統や対象とする世代,価格帯等を総合して,個々のブランドを異なるものとして把握しているからである。

なお,被告は,被服の一般需要者について「商品の選択,購入の際に払われる注意力も決して高いとはいえない」と主張するが,個々のアパレルブランドにとって,その需要者は明確なセグメント分けに基づいてグループ化されているものであり,一般需要者と一括りにすることはできないし,需要者側にしても,被服等は自身の嗜好を強く反映・表現するものであり,同時に,ブランド,価格,持っている服とのコーディネート等,購入の際に考慮する要素も多いから,商品の選択,購入の際には相応の注意力を払うものであり,被告の主張は誤っている。

エ このように,商標の外観上の差異や,取扱商品の傾向の違い,需要者層の違いによって,「マギー」の称呼を有する複数の商標が市場において異なるものとして需要者に認識されているという取引の実情を考慮しても,称呼が共通していることのみをもって需要者等が出所混同することはあり得ない。

したがって,本願商標と引用商標1,5,6及び8も非類似である。

第4被告の主張

本願商標は,以下のとおり,引用商標と類似するものであって,審決の認定,判断に何ら違法はなく,審決が取り消されるべき理由はない。

1  本願商標について

(1)  本願商標は,外観において,上段部分と下段部分とに視覚上明確に分離して観察されるものである。また,本願商標の下段部分は,アラビア文字と思われる文字で表されているところ,アラビア文字は,我が国の「被服」等の需要者である一般消費者にとっては,馴染みのない意味不明な文字であるため,それが何を意味する語であるかを理解することは一般に困難であるから,上段部分と下段部分とを観念上結びつけて把握することはない。そうとすると,本願商標は,上段部分と下段部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえない。また,本願商標に接する需要者が,その商品についてアラブ圏に関連付けて認識するということはないというべきである。

そして,本願商標の指定商品は,「被服」等であるところ,これらの商品の需要者は,老若男女を含む一般の消費者で,「被服」等は,店頭,インターネット等を通じて,比較的気軽に購入し得るものであり,簡易かつ迅速に取引が行われているものである。このような取引の実際にあっては,商標に接する取引者,需要者は,その構成中に顕著に表された読みやすい文字(語)に着目して,当該文字(語)より生ずる称呼によって,取引することも決して少なくないというべきであるから,「MAGGIE」の欧文字部分が,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるというべきである。

そうとすれば,本願商標の指定商品の一般的な取引者,需要者は,その構成中の「MAGGIE」の欧文字部分に着目し,この部分から生ずる「マギー」の称呼によって取引に当たることも相当程度あるというべきであるから,本願商標と引用商標との類否判断の際には,本願商標の構成中「MAGGIE」の欧文字部分と引用商標とを比較することも許される。

(2)  本願商標の構成中「MAGGIE」の欧文字は,「マギー(女性の名)」を意味する語であるとしても,一般需要者の英語力は中学校で習う程度のレベルというべきところ,該語は,中学最重要語(97語),中学重要語(407語)及び中学基本語(約780語)には含まれていないため,一般に親しまれている語とはいえない。そして,本願商標の指定商品は,「被服」等であり,その需要者は,老若男女を含む一般の消費者であることからすると,本願商標の構成中「MAGGIE」の欧文字部分に接する取引者,需要者は,「マギー(女性の名)」の意味までも理解することは,一般的には困難であるというべきである。

したがって,本願商標は,その構成中「MAGGIE」の文字部分から「マギー」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものというべきである。

2  引用商標について

(1)  引用商標1の構成中「MAGI」の文字(語)は,「マギ,東方の博士」等の意味を有する語であるとしても,一般に知られ馴染まれている語とは言い得ないものである。また,下段の「マギー」の片仮名は,上段の「MAGI」の欧文字の読みを特定したものと,無理なく理解されるものである。

したがって,引用商標1は,「マギー」の称呼を生じ,特定の観念を生じない。

(2)  引用商標2の構成中,「GINZA TOKYO」の文字部分及び引用商標3,4及び7の構成中,「銀座」の文字部分は,いずれも商品の産地,販売地を表したものと認識されるから,出所識別標識としての機能を果たし得ない。したがって,これらの文字部分からは,出所識別標識としての称呼,観念が生じないものといえ,その結果として,引用商標2については「MAGGY」の文字部分が,引用商標3,4及び7については「マギー」の文字部分が取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえるから,この文字部分だけを他の商標と比較して商標の類比を判断することが許されるというべきである。

そして,これらの引用商標は,「マギー」の称呼を生じ,「MAGGY」や「マギー」は,特定の語義を有しない造語であるから,特定の観念を生じない。

(3)  引用商標5,6,8は,いずれも「マギー」の称呼を生じ,「マギー」又は「MAGGY」は,英語の辞書に掲載されておらず,造語であるから,特定の観念を生じない。

(4)  なお,原告は,引用商標の商標権者である株式会社銀座マギーが,銀座を代表する高級婦人服メーカーであり,「銀座マギー」は,銀座の代表的な高級婦人服ブランドとして我が国の一般需要者等の間で周知であることを前提に,引用商標2,3,4及び7が「ギンザマギー」の称呼を生じ,これらの引用商標並びに引用商標5及び6については「高級婦人服ブランドとして周知な銀座マギー」との観念が生じ,引用商標1及び8については,銀座マギーと関連があるブランドであると認識されると主張している。

しかし,原告が,その根拠として提出している各書証からは,同銀座マギーが,銀座を代表する高級婦人服メーカーであると直ちにいうことはできない。また,銀座マギーのウェブサイトによれば,1万円未満のさほど高価ともいえない商品も販売されているものであり,銀座マギーが,我が国の一部の需要者の間にある程度知られているとしても,我が国の一般需要者等の間で銀座の代表的な高級婦人服ブランドとして周知されているとまではいえない。また,そもそも,商標の出所表示機能は,当該商標自体が有するのであって,取引者,需要者は,商標権者が誰であるかに注意を払って商品を購入するものではない。したがって,原告の主張は前提において誤りがあるから,失当である。

3  本願商標と引用商標の類似性について

(1)  本願商標の要部である「MAGGIE」と引用商標1及び8とを比較すると,両者は,4文字ないし6文字中,語頭からの3文字又は4文字を共通にするものであるから,外観において,近似した印象を与えるものである。また,本願商標の要部と引用商標2とを比較すると,外観においては,全体として相違するものの,両者の欧文字部分については,5文字ないし6文字中,語頭からの4文字「MAGG」を共通にするものであるから,近似した印象を与えるものである。

そして,本願商標とこれらの引用商標は,称呼「マギー」を共通にするものであり,また,いずれも特定の観念を生じないものであるから,観念において区別することはできないので,商品又は役務の出所について誤認混同を生じるおそれのある類似の商標というべきである。

(2)  本願商標の要部である「MAGGIE」と引用商標3,4及び7の構成中「マギー」の文字部分並びに引用商標5及び6とを比較すると,外観においては,両者は相違する。しかし,本願商標とこれらの引用商標は,称呼「マギー」を共通にするものであり,また,両者はいずれも特定の観念を生じないものであるから,観念において区別することはできない。

そして,特定の観念を有しない文字商標においては,観念において商標を記憶することができないため,称呼を記憶し,その称呼を頼りに取引にあたることが少なくないものといえるから,そのような商標の類否判断においては,称呼が重要な役割を果たすというべきである。また,本願商標及び引用商標の指定商品等の需要者は,一般の消費者であり,必ずしも商標やブランドについて詳しい知識を持たない者も多数含まれており,商品の選択,購入の際に払われる注意力も決して高いとはいえない。このような取引の実情を踏まえれば,外観において相違するとしても,観念において明確に区別できず,取引上重要な役割を果たす称呼を共通にする両者は,商品の出所について誤認混同を生じるおそれのある類似商標というべきである。

なお,原告は,「マギー」を含むブランドが多数存在することを示し,需要者がその出所を混同することはないと主張しているが,これらは,その構成全体をもって不可分一体の語句として理解されているものというべきであり,構成中の一部の文字部分を分離,抽出して判断することが許される本件とは事案を異にする。

第5当裁判所の判断

当裁判所は,本願商標は,引用商標1及び3ないし8と類似するから,本願商標は商標法4条1項11号に該当するから出願登録を受けることができないとした審決に取り消されるべき違法はないものと判断する。その理由は次のとおりである。

1  本願商標について

(1)  本願商標は,別紙1の商標目録1記載のとおり,上段の「MAGGIE」との文字及び下段の「file_3.png」との表示から成る商標である。

(2)  本願商標の上段の「MAGGIE」の部分は,大文字のやや図案化された字体によって表記されており,一般的な英語の発音方法に倣って「マギー」の称呼が生じる(争いがない。)。

「MAGGIE」は,「マギー」という女性の名又は愛称を意味し(甲1,乙10,13),我が国において流通する映画等に出演する英米や香港の女優やモデルにも,「MAGGIE」という名を有する女性が複数いることが認められる(ただし,「MAGGIE」という名前を有する女優やモデルが我が国において広く一般的に親しまれているとまでは認められない。)(甲30,32ないし35)。なお,「MAGGIE」は,我が国の中学英語教育において学ぶ単語ではない(乙10)けれども,上記認定の事実及び我が国における英米の映画やドラマの普及度からすれば,本願商標の上段部分は,指定商品である被服の取引者,需要者を基準とすれば,「マギー」という女性の名又は愛称と理解されるものと認められる。そうすると,本願商標の「MAGGIE」からは,「マギー」という女性の名又は愛称との観念が生じるものと認められる。

(3)  本願商標の下段の「file_4.png」の表示部分は,「MAGGIE」に対応するアラビア文字である(甲21)。しかし,アラビア語は,我が国において一般的に知られた言語であるとはいえず,アラビア文字自体一般的に親しまれているとはいえない上,「file_5.png」の表示は短く,上段の「MAGGIE」とは約1行分の間隔を空けて,中央右寄りのやや離れた位置に配置され,上段部分との関連性(上段部分の読みを併記する言語かどうか)や結び付き自体も明らかでないため,本願商標の指定商品である被服に関する一般の取引者,需要者が同表記に接しても,「file_6.png」の発音や意味内容はもちろんのこと,これがアラビア文字であること自体も明確に認識し得ないというべきである。したがって,同表示部分からは,称呼も特段の観念も生じない。

(4)  本願商標においては,上記のとおり,下段部分は,何ら特定の称呼や観念が生じず,上段部分との関連性や結び付きも明確ではなく,またその外観もアラビア文字を知らない者にとっては記憶するのが困難な形状であるところ,そのような部分は取引者,需要者の注意を惹く部分ということはできず,本願商標においては,取引者,需要者にとって読むことが容易であり,記憶にも残りやすい欧文字である上段部分の「MAGGIE」が,指定商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。

(5)  以上に対し,原告は,需要者は,本願商標の下段部分が「アラビア文字である」ことは認識するし,アパレル関連商品は,どこの国のブランドかが重視される傾向が強いため,商品の出所を想起させる部分が観念から捨象されることはなく,我が国でもアラブ圏に関するブランドは珍しいから,下段部分は本願商品の構成要素中,需要者の目を惹きやすい要素といえ,本願商標からは「アラブ圏と関連のあるマギーという人物」といった観念が想起されると主張する。

しかし,上記判示のとおり,我が国においては,本願商標の下段部分がアラビア文字による表記であること自体を一般的には認識し得ないというべきであり,その意味内容や上段部分との関連性も不明である下段部分が取引者,需要者の目を惹きやすい要素とはいえない。したがって,原告の主張はその前提を欠くものであり,採用することができない。

2  引用商標について

(1)  外観及び称呼について

引用商標1は,別紙2の商標目録2の1のとおり,上段部分が「MAGI」の欧文字を個々の文字が独立した大文字で横書き表記したもの,下段部分が「マギー」と片仮名で横書き表記した構成(外観)から成る。「MAGI」単体からは「マギ」との称呼も生じ得るが,「マギー」との発音も可能なものであり,上段と下段が近接し,対応する位置関係にあることからすれば,下段部分が上段部分の称呼を特定する役割を果たすものと無理なく認識できるから,引用商標1からは「マギー」との称呼が生じる。

引用商標3は,別紙2の商標目録2の3のとおり,横書きで「銀座」と漢字表記された部分と,その右側に,漢字表記部分よりも大きく,ややデザイン化された書体で「マギー」と片仮名で横書き表記した部分との構成(外観)から成るものであり,「ギンザマギー」との称呼が生じる。もっとも,「銀座」は地名を表す表記である上,漢字部分は片仮名部分より小さい字で表記されているから,「マギー」の部分の方が商品の出所表示として看る者の注意を惹くといえるし,一般消費者を需要者とする被服の取引においては名称が略して称呼されることも珍しくないと考えられるから,略称として「マギー」との称呼も生じるものと認められる。

引用商標4及び7は,別紙2の商標目録2の4及び7のとおり,いずれも,引用商標3の片仮名部分と同様のややデザイン化された書体で「マギー」と片仮名で横書き表記した部分と,その右上に「銀座」と小さい活字体調に表記した文字部分との構成(外観)から成るものであり,「ギンザマギー」との称呼が生じる。もっとも,「銀座」は地名を表す表記である上,漢字部分は片仮名部分に比して相当に小さい字で表記されているから,「マギー」の部分が看る者の注意を惹くといえるし,一般消費者を需要者とする被服の取引においては名称を略して称呼することも珍しくないと考えられるから,略称として「マギー」との称呼も生じるものと認められる。

引用商標5は,別紙2の商標目録2の5のとおり,上段部分に,「maggy」という欧文字を小文字の筆記体調でデザイン化した表示部分と,下段部分に,上段部分とほぼ同じ大きさで,引用商標3の片仮名部分と同様のややデザイン化された書体で「マギー」と片仮名で横書き表記した部分との構成(外観)から成るものであり,上段部分,下段部分のいずれからも「マギー」との称呼が生じる。

引用商標6は,別紙2の商標目録2の6のとおり,引用商標3の片仮名部分と同様のややデザイン化された書体で「マギー」と片仮名で横書き表記する構成(外観)から成り,「マギー」との称呼が生じる。

引用商標8は,別紙2の商標目録2の8のとおり,「MAGGY」という欧文字をいずれも個々の文字が独立した大文字で記載し,うち「GG」の部分は,やや丸文字風に表記されている構成(外観)から成り,一般的な英語の発音方法に倣って,「マギー」との称呼が生じる。

以上のとおり,引用商標1及び3ないし8からは「マギー」との称呼が生じるものと認められ(なお,引用商標3,4,7からは「ギンザマギー」との称呼も生じる。),その外観は上記のとおりである。

(2)  観念について

引用商標1のうち上段部分の「MAGI」は,英語で「マギ,東方の博士」を意味するものの(乙11),当該単語が我が国において一般的に知られているとは認められない。そして,引用商標1の下段部分の「マギー」からは,上記1(2)認定の事実からすると,「マギー」という女性の名又は愛称との観念が生じる。そうすると,引用商標1は,上段部分の「MAGI」が,英語で「マギ,東方の博士」を意味するものであることは知られていないため,むしろこれを下段部分の「マギー」と同じ意味のものと理解するのが自然であり,全体としてみると,「マギー」という女性の名又は愛称との観念が生じるものと認められる。

引用商標3,4,7からは「銀座」の地名と「マギー」という女性の名又は愛称との観念が生じるが,前記(1)のとおり,「銀座」は地名を表す表記である上,漢字部分は片仮名部分より小さい字で表記されているから,「マギー」という女性の名又は愛称との観念も生じるものと認められる。

引用商標5,6,8は,「マギ-」又は「MAGGY」との単語のみから構成されており,上記のとおり,これらからは,「マギー」という女性の名又は愛称との観念が生じる。

以上のとおり,引用商標1及び3ないし8からは,いずれも「マギー」という女性の名又は愛称との観念を生じるものと認められる(なお,引用商標3,4,7からは「銀座」の地名と「マギー」という女性の名又は愛称との観念も生じる。)。

3  取引の実情等について

(1)  本願商標について

原告は,2009年(平成21年)にイタリアの女性向けジーンズブランド「Maggie Jeans」を買収し,2012年(平成24年)からイタリア,フランス及びスペインで若い女性向けのジーンズの販売を開始し,2013年(平成25年)2月時点でヨーロッパの約40店舗で,若い女性向けのカジュアルファッションブランドを展開している者であるが,本願商標に係る被服ブランドは,未だ日本において店舗展開を一切行っていない(甲7ないし9,弁論の全趣旨)。

(2)  引用商標について

引用商標の商標権者は,いずれも株式会社銀座マギーである(甲22ないし29)。株式会社銀座マギーは,昭和31年に婦人服地の「銀座マギー」を創業して,翌32年に銀座に第1号店を開店し(甲10),いわゆる熟年層を対象とする高級婦人服を中心とした店舗を展開しており(甲13),平成25年12月時点では「銀座マギー」又は「maggy(右上に小さく「ginza」との表示が付されたロゴ)」のブランド名で,東京を中心として関東,北海道,東北,中部,関西に約50店舗を展開している(甲31)。同社の婦人服専門店343社売上高ランキングは,昭和56年度及び57年度が10位,昭和58年度が18位であり(甲37),平成21年度の同社の国内女性衣料専門店売上高ランキングは22位,売上高は101億円であり(甲12),平成23年8月時点の同社の売上高は92.9億円である(甲10)。なお,株式会社銀座マギーは,平成19年頃にはインターネット上のオンラインショップも出店し(甲10),オンラインショップ上では,「銀座マギー【MAGGY】」などと表示した商品として,1,2万円前後の価格帯の女性向け衣服も販売している(乙16ないし18)。

以上によれば,株式会社銀座マギーは,「銀座マギー」又は「maggy(右上に小さく「ginza」との表示が付されたロゴ)」のブランド名を,主にいわゆる熟年層向けの高級婦人服ブランドを表示するものとして,長年使用してきたものであり,その販売年数,売上高及び国内女性衣料市場に占める順位に照らせば,そのブランドは,「銀座マギー」又はその略称である「maggy(マギー)」として,本願商標の査定時には,少なくともいわゆる熟年層世代の需要者には広く知られていたものと認められる。

4  本願商標と引用商標の類否について

(1)  類否の判断

ア 本願商標と引用商標1及び3ないし8の称呼を比較すると,前記のとおり,本願商標からは「マギー」との称呼が生じるものであり,上記引用商標からも「マギー」との称呼が生じる(ただし,引用商標3,4,7からは「ギンザマギー」との称呼も生じる。)のであるから,両者の称呼は,同一ないし類似である。

イ 本願商標と引用商標1及び3ないし8の観念を比較すると,前記のとおり,本願商標は「マギー」という女性の名又は愛称との観念が生じるものであり,上記引用商標からも「マギー」という女性の名又は愛称との観念が生じる(ただし,引用商標3,4,7からは「銀座」の地名と「マギー」という女性の名又は愛称との観念も生じる。)のであるから,両者の観念は,同一ないし類似である。

ウ 本願商標と引用商標1及び3ないし8の外観を比較すると,以下のとおりである。

本願商標の上段部分の「MAGGIE」と引用商標8の「MAGGY」を比較すると,引用商標8は,いずれも個々の文字が独立した大文字で記載され,本願商標の上段部分の6文字中,冒頭からの4文字(MAGG)が共通するものの,本願商標の末尾2文字の「IE」と引用商標8の末尾1文字の「Y」が異なっている。また,本願商標と引用商標8はそれぞれ標準文字とは異なり,やや図案化された字体によって表記されているものの,いずれも大きく目を惹く特徴を備えているものとはいえず,全体としての印象が大きく異なるものとはいえない。そうすると,両者の外観は,本願商標には,下段部分にアラビア文字が存在することも考慮すると,全体として類似するとまではいえないものの,近似する。

本願商標の上段部分の「MAGGIE」と引用商標1の上段部分の「MAGI」を比較すると,引用商標1の上段部分の欧文字は,いずれも個々の文字が独立した大文字で記載され,本願商標の上段部分の6文字中,冒頭からの3文字(MAG)が共通しており,それに続く文字中に「I」を有する点で共通しているものの,本願商標の末尾3文字の「GIE」と引用商標1の末尾1文字の「I」が異なっている。また,引用商標1の2段構成の下段部分は片仮名であるのに対し,本願商標の下段部分はアラビア文字であるから,引用商標1と本願商標との外観は,全体としては相違する。

本願商標の上段部分の「MAGGIE」と引用商標5の上段部分の「maggy」を比較すると,引用商標5の上段部分の欧文字は,本願商標の上段部分の6文字中,冒頭からの4文字(MAGG)と共通するものであるが,同上段部分は,小文字で筆記体調にデザイン化されており,本願商標の上段部分とは印象が異なるものといえ,また,引用商標5の下段部分は片仮名であるのに対し,本願商標の下段部分はアラビア文字であるから,全体として,本願商標と引用商標5の外観は相違する。

本願商標の上段部分の「MAGGIE」と引用商標3,4,7(「銀座マギー」)及び同6(「マギー」)を比較すると,これらの引用商標は,いずれも片仮名の表記の「マギー」が看る者の注意を惹く部分となっているものであるから(引用商標6は,同片仮名表記のみ),本願商標と引用商標3,4,6,7の外観は相違する。

以上のとおり,本願商標と引用商標1及び3ないし8の外観を比較すると,類似するとまではいえない。

エ 以上によれば,本願商標と引用商標1及び3ないし8は,いずれも同一ないし類似の称呼及び観念が生じるものである。そして,本願商標と引用商標1及び3ないし8の外観は類似するとまではいえないが,本願商標と引用商標8の外観は近似するし,引用商標1及び3ないし7は,いずれも本願商標の上段部分の欧文字表記と同じ称呼の片仮名又は欧文字表示に変更した表記から成る商標又は同表記部分が需要者の目を惹きやすい構成から成る商標であり,全体として,その書体に,本願商標との差異を取引者,需要者に特段印象づけるほどの著しい特徴があるものではないから,外観の差異は,称呼及び観念の同一性ないし類似性をしのぐものではない。

したがって,本願商標とこれらの引用商標とは,互いに商品の出所につき誤認混同が生じるおそれのある類似する商標に当たるものと認められる。

(2)  以上に対し,原告は,①アラビア文字部分を含めた本願商標全体と引用商標とを比較すれば,両者が外観上相紛れるおそれは全くないし,両者の観念も著しく相違し,称呼における類似性を凌駕しているから,日本の銀座マギーに関連する引用商標と,外国発祥のブランドと認識される本願商標との間で出所混同のおそれが生じることは現実的にはあり得ない,②アパレル業界における取引の実情として,称呼の一部又は全部が共通することは少なくないが,実際の需要者がこれらのブランドについてその出所を混同することはなく,需要者は,商品の外観上の差異や取扱商品の傾向の違い,需要者層の違いによって,個々のブランドを異なるものとして把握するということを考慮すれば,称呼が共通していることのみをもって需要者等が出所混同することはあり得ないと主張する。

しかし,①については,本願商標においては,下段部分のアラビア文字が需要者の注意を惹く部分ということはできず,上段部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであることは前記のとおりであるから,アラビア文字部分を含めた本願商標全体と引用商標1及び3ないし8とが外観上相紛れるおそれが全くなく,称呼における類似性を凌駕している旨をいう原告の主張は理由がない。

また,原告は,引用商標のみから日本の銀座マギーとの観念が生じることを前提として,本願商標と引用商標との観念が相違する旨主張する。この点,前記3認定に係る取引の実情等によれば,引用商標の商標権者である株式会社銀座マギーのブランド名である「銀座マギー」やその略称である「maggy(マギー)」は,本願商標の査定時には,少なくともいわゆる熟年層世代の需要者には広く知られていたものと認められる。このような取引の実情等を考慮すると,「ギンザマギー」や「マギー」との称呼や,前記認定の観念が生じ得る引用商標3,4,7のみならず,「マギー」との称呼や前記認定の観念が生じる引用商標1,5,6,8も,いずれも「銀座マギー」あるいはその略称である「maggy(マギー)」ブランドを想起させる商標であるといえる。一方で,本願商標も,同じく「マギー」との称呼や前記認定の観念を生じさせるから,「銀座マギー」あるいはその略称である「maggy(マギー)」ブランドを想起させる商標であるといえる。そうすると,上記取引の実情等を考慮しても,本願商標とこれらの引用商標とは類似するものであり,出所識別標識として区別することは困難である。原告の主張は採用することができない。

また,②については,称呼が同一又は類似である場合にも,商品の取引の実情によって,需要者等が出所の誤認混同を生じるおそれがない場合には類似性が否定されることは原告の主張するとおりであるけれども,前記3(1)認定の取引の実情のとおり,本願商標は,未だ日本において店舗における被服販売に一切利用されておらず,我が国においては,本願商標が特定の需要者層に向けて使用された事実や,需要者によって特定の被服の趣向や価格帯と関連付けて認識されているという事実は認められないし,仮に本願商標に係る若い女性向けのカジュアルファッションブランドを展開する予定であるとしても,株式会社銀座マギーにおいてもインターネット上において1,2万円前後の価格帯の女性向け商品を販売しており,双方の対象とする需要者層がまったく異なるとも認められない。そうすると,アパレル業界における需要者が商品を選択,購入する際に払う注意力を前提としても,称呼及び観念が同一ないし類似であり,外観が顕著に異なっているわけでもない本願商標について,引用商標1及び3ないし8との関係において,商品の出所の誤認混同を生じるおそれがないということはできない。したがって,この点についての原告の主張も採用することができない。

(3)  以上によれば,本願商標は引用商標1及び3ないし8と類似する。そして,本願商標の指定商品と引用商標1及び3ないし8の指定商品又は指定役務とが類似することは当事者間に争いがないから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する。

5  結論

以上のとおりであり,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張する取消事由は理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 大須賀滋 裁判官 大寄麻代)

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