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知財高等裁判所 平成25年(行コ)10004号 判決 2014年2月26日

控訴人

ビーエーエスエフ,カタリスツ,

エルエルシー

特許管理人弁理士

高見和明

被控訴人

代表者法務大臣

処分行政庁

特許庁長官

指定代理人

中野康典

加藤誠一

駒﨑利徳

上田智子

古閑裕人

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  特許庁長官が,控訴人のした国際特許出願(特願2010-545819号)に係る手続について,平成23年3月15日付けで控訴人に対してした,平成22年8月4日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分,及び平成23年3月15日付けで控訴人に対してした,平成22年10月8日付け提出の翻訳文に係る手続の却下の処分を,いずれも取り消す。

3  特許庁長官が,平成23年10月26日付けで控訴人に対してした,同年5月20日付けでされた異議申立てについて,異議申立てを棄却するとの決定を取り消す。

第2事案の概要

本件は,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下「特許協力条約」という。)に基づいて外国語でされた国際特許出願(PCT/NL2009/050051。特願2010-545819号)をした控訴人が,特許法(以下「法」という。)184条の5第1項に規定する書面(以下「国内書面」という。)を同項所定の国内書面提出期間内に提出した後,平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「旧法」という。)184条の4第1項に規定する明細書,請求の範囲及び要約の日本語による翻訳文(以下「明細書等の翻訳文」という。)を提出したが,特許庁長官から,明細書等の翻訳文に係る手続については同項ただし書所定の翻訳文提出特例期間経過後の翻訳文の提出であることを理由に,国内書面に係る手続については翻訳文提出特例期間内に翻訳文の提出がなかったため同条3項の規定により国際特許出願が取り下げられたものとみなされ,国内書面が不要となったことを理由に,それぞれ手続の却下処分(以下,併せて「本件各却下処分」という。)を受け,これに対して行政不服審査法による異議申立てをしたが,特許庁長官から,異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件異議決定」という。)を受けたことから,被控訴人に対し,本件各却下処分及び本件異議決定の取消しを求めた事案である。

控訴人は,原審において,明細書等の翻訳文の提出について控訴人に対して補正を命ずることなく行われた本件各却下処分及び本件異議決定は違法なものである旨主張したが,原判決は,控訴人の主張は理由がないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。

そこで,控訴人は,原判決を不服として控訴した。

1  前提となる事実

次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁25行目から末行にかけての「特許法(平成23年法律第63号による改正前のもの。以下,単に「法」という。)」を「旧法」と改める。

(2)  原判決3頁4行目から5行目にかけて,7行目及び9行目の各「法184条の4」をいずれも「旧法184条の4」と改める。

(3)  原判決3頁8行目の「,図面」を削る。

(4)  原判決4頁2行目から3行目にかけての「といい,本件翻訳文提出書却下処分と併せて「本件各却下処分」という。)」を「という。)」と,同頁8行目の「決定(甲10の1。以下「本件異議決定」という。)」を「本件異議決定(甲10の1)」と改める。

2  争点及び争点に対する当事者の主張

各「法184条の4」をいずれも「旧法184条の4」と改め,次のとおり,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  当審における控訴人の主張

ア 法184条の5第2項は,特許庁長官は,手続の補正をすべきことを命ずることができると規定しているが,この規定は,特許庁長官に手続の補正をすべきことを命ずることを義務付けたものと解すべきである。国際特許出願について瑕疵ある国内移行手続がされた場合に,特許庁長官が当該国際特許出願を法184条の5第3項で却下するためには,その前提として,同条2項により補正を命じておかなければならないが,仮に同条2項が特許庁長官に手続の補正を命ずることを義務付けたものではなく,補正を命ずるか否かを特許庁長官の自由な裁量に委ねるものであるとすると,特許庁長官が裁量権を行使して補正を命じない場合に同条3項で却下することができない事態が生じ,瑕疵ある手続が残存し続けるという不合理な結果を招来することになり,妥当でない。

イ 旧法184条の4第3項は,国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に,明細書等の翻訳文の提出がないときは,国際出願を取り下げたものとみなす旨を定めているが,この規定は,特許協力条約22条及び24条に準拠するものである。

すなわち,特許協力条約24条(1)(ⅲ)は,出願人が22条に規定する行為を該当する期間内にしなかった場合には,国際出願の効果が指定国において国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅すると規定している。

一方で,条約規則49.6(a)は,出願人が特許協力条約22条に規定する行為を適用される期間内に行わなかったことにより国際出願の効果が消滅した場合において,指定官庁は,出願人の請求により,条約規則49.6(b)から(e)までの規定に従うことを条件として,期間が遵守されなかったことが故意ではないと認めるとき又は指定官庁がその選択により,状況により必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず期間が遵守されなかったものであると認めるときは,国際出願についての出願人の権利を回復する旨を規定し,条約規則49.6(f)は,2002年10月1日に同(a)から(e)までの規定が指定官庁によって適用される国内法令に適合しない場合には,当該指定官庁がその旨を2003年1月1日までに国際事務局に通告することを条件として,これらの規定は,その国内法令に適合しない間,当該指定官庁について適用しない旨を規定している。

しかるところ,2002年(平成14年)10月1日の時点において条約規則49.6(a)から(e)までの規定は我が国の国内法令に適合しており,同(f)の要件を欠いていたのであるから,本件国際特許出願については,権利の回復を定める条約規則49.6を考慮すべきである。

また,旧法184条の4第1項で規定する翻訳文の提出期間については,法121条2項等のように「その責めに帰することのできない理由」がある場合にその提出期間を猶予する旨の規定は存在しないが,出願人が翻訳文の提出期間を徒過した場合,特許協力条約の理念に照らして,ユーザーフレンドリーの観点から,諸外国特許庁の運用をも勘案しつつ,特許庁長官は補正を命じ,その裁量によって救済を図るべきである。

したがって,外国語特許出願に係る翻訳文が未提出の場合には,法184条の5第2項を優先して適用すべきであり,その限りにおいては,旧法184条の4第3項は劣後すると解釈すべきである。

そうすると,本件国際特許出願について,出願人である控訴人に対し,法184条の5第2項による補正を命ずることにより権利の回復の機会を与えることなく,旧法184条の4第3項により直ちに取下擬制があったものと解釈することは,特許協力条約の要請に反する誤った解釈であるというべきである。

ウ 以上によれば,特許庁長官が,本件国際特許出願に係る明細書等の翻訳文の提出について,控訴人に対し,法184条の5第2項による補正を命ずることにより権利の回復の機会を与えることなく行った本件各却下処分は,違法なものとして,取消しを免れない。

(2)  当審における被控訴人の主張

ア 法184条の5第2項は,手続の補正をすべきことを命ずることができると規定しており,この規定は,その文言に照らして,特許庁長官に手続の補正を命ずることを義務付けたものでない。また,そもそも,法184条の5第2項は,前条第1項の規定により提出すべき翻訳文のうち,「要約」の翻訳文については,国内書面提出期間の徒過を補正命令の対象としているが(法184条の5第2項4号),明細書の翻訳文を含むその他の翻訳文については,補正命令の対象としていないのであるから,国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に明細書等の翻訳文の提出がないときに当該国際特許出願を取り下げられたものとみなす旧法184条の4第3項が法184条の5第2項と対立・矛盾することはあり得ない。

そして,本件国際特許出願については,控訴人から旧法184条の4第1項ただし書所定の期間内に明細書等の翻訳文の提出がなかったことから,同条3項の規定により取り下げられたものとみなされたことにより,特許庁に係属していないことになる。そうすると,本件国際特許出願について,もはや手続の補正が問題となる余地はない。

したがって,本件国際特許出願に法184条の5第2項が適用されるべきであるとの控訴人の主張は,失当である。

イ 本件国際特許出願について,条約規則49.6が適用される余地はない。

すなわち,我が国においては,外国語特許出願の翻訳文提出期間を徒過した場合の救済制度自体を設けておらず,条約規則49.6(a)から(e)までの規定が国内法令に適合しなかったことから,日本国特許庁は,平成14年12月4日付けで,国際事務局に対し,条約規則49.6(f)に規定する通告(乙7)を行った。その後,平成23年法律第63号による特許法の一部改正法(以下「平成23年改正法」という。)により,条約規則49.6(a)から(e)までの規定が国内法令に適合することとなったため,日本国特許庁は,平成24年1月16日付けで,国際事務局に対し,上記通告を撤回し,同年4月1日より条約規則49.6(a)から(e)までの規定が我が国について効力を生じる旨の通告(乙5)を行った。

一方で,平成23年改正法は,附則2条25項において,改正後の特許法184条の4第4項及び5項の規定は,同改正法の施行日(平成24年4月1日)前に旧法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされた国際特許出願には適用しないとの経過規定を設けた。

しかるところ,本件国際特許出願については,平成23年改正法の施行日前の平成22年10月4日までに明細書等の翻訳文が提出されなかったことから,旧法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものであり,上記経過規定により,改正後の特許法184条の4第4項及び5項の規定は適用されない。

そうすると,本件国際特許出願は,条約規則49.6(a)から(e)までの規定が我が国について効力を生じる前に取り下げられたものとみなされたのであるから,本件国際特許出願に条約規則49.6が適用される余地はない。

したがって,本件国際特許出願について,出願人である控訴人に権利の回復の機会を与えることなく,旧法184条の4第3項により直ちに取下擬制があったものと解釈することは,特許協力条約の要請に反する誤った解釈であるとの控訴人の主張は,失当である。

ウ 以上によれば,特許庁長官が控訴人に対して法184条の5第2項による補正を命ずることなく行った本件各却下処分は違法であるとの控訴人の主張は,理由がない。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がなく,棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  本件異議決定の違法性について

本件異議決定の違法性についての判断は,原判決の「事実及び理由」の第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  本件翻訳文提出書却下処分の違法性について

本件翻訳文提出書却下処分の違法性についての判断は,次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の2に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決10頁21行目から13頁1行目までを次のとおり改める。

「(1) 旧法184条の4第1項は,外国語特許出願(外国語でされた国際特許出願)の出願人は,特許協力条約2条(ⅹⅰ)の優先日から2年6月の国内書面提出期間内に,国際出願日における特許協力条約3条(2)に規定する明細書,請求の範囲,図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならない旨規定し,同項ただし書において,国内書面提出期間満了前2月から満了の日までの間に,次条第1項に規定する国内書面を提出した外国語特許出願については,国内書面の提出の日から2月の翻訳文提出特例期間内に,当該翻訳文を提出することができる旨規定し,同条3項は,国内書面提出期間(同条1項ただし書の外国語特許出願にあっては,翻訳文提出特例期間)内に,明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなす旨規定している。

また,法184条の5第1項は,国際特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に,同項1号から3号に掲げる事項を記載した国内書面を特許庁長官に提出しなければならない旨規定し,同条2項は,同項1号から5号に掲げる場合には,特許庁長官は,相当の期間を指定して,手続の補正をすべきことを命ずることができる旨規定し,同条3項は,特許庁長官は,同条2項により指定した期間内に補正をしないときは,当該国際特許出願を却下することができる旨規定している。

法184条の5第2項は,国際特許出願についての手続の補正の特例について規定したものであり,法17条3項の補正に加えて,特別の補正事由を設けたものである。そして,法184条の5第2項は,1号において,国内書面を国内書面提出期間内に提出しないときを,4号において,要約の翻訳文を国内書面提出期間(前条1項ただし書の外国語特許出願にあっては翻訳文提出特例期間)内に提出しないときを補正の対象として掲げているが,明細書,請求の範囲又は図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文を国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に提出しないときを補正の対象に掲げていない。

これらの規定を総合すれば,平成23年改正法施行前の特許法の下における翻訳文が未提出の場合の外国語特許出願の取扱いについては,①明細書の翻訳文又は請求の範囲の翻訳文のうちいずれかが国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に提出されなかったときは,補正の対象とすることなく,その国際特許出願は取り下げられたものとみなされるものとし(旧法184条の4第3項),②明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文のいずれもが上記期間内に提出されている場合において,要約の翻訳文が上記期間内に提出されなかったときは,補正の対象とし,出願人が補正命令に応じた補正をしないときは,特許庁長官がその国際特許出願を却下することができることとしたもの(法184条の5第2項4号,3項)と解される。

このように明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文と要約の翻訳文とで未提出の場合の取扱いが異なるのは,①明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文については,旧法184条の4第3項が,出願人が特許協力条約22条に規定する翻訳文の提出等の行為を該当する期間内にしなかった場合には国際出願の効果は指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅する旨を規定した特許協力条約24条(1)(ⅲ)及び39条(2)の規定に準拠して定められたこと,②特許協力条約26条が国内出願について国内法令に定める範囲内で国内出願の補充をする機会をあらかじめ出願人に与えることなく,特許協力条約及び特許協力条約規則に定める要件を満たしていないことを理由としてその国際出願を却下してはならない旨を規定していることを踏まえ,国内出願について,明細書(特許請求の範囲を含む。)を添付しないで特許出願をしたときは,法17条3項による補正命令の対象とせずに,出願書類を不受理とする運用がされていたこと(特許庁・旧「特許・実用新案審査便覧10.21A」参照),平成2年改正法(平成2年法律第30号)により願書に要約書の添付を義務づけた際に(法36条2項),要約書を添付しないで特許出願をしたときは,方式違反として法17条3項による補正命令の対象とし,補正命令に応じない場合に法18条1項により手続を却下する運用をすることとしたことに対応させたことによるものと解される。

(2)  以上を前提に,特許庁長官が控訴人に補正の機会を与えることなく行った本件翻訳文提出書却下処分が違法なものであるかどうかについて検討するに,本件国際特許出願については,控訴人は,国内書面の提出期間内である平成22年8月4日に国内書面を提出した後,翻訳文提出特例期間の満了日(同年10月4日)の4日後である同月8日に明細書,請求の範囲及び要約の日本語による翻訳文に係る本件翻訳文提出書を特許庁長官に提出したこと,特許庁長官は,同年12月20日付け本件翻訳文提出書却下理由通知書をもって,控訴人に対し,本件翻訳文提出書の提出に係る手続は,本件翻訳文提出書が翻訳文提出特例期間経過後の提出であることを理由に却下すべきである旨の通知をしたこと,特許庁長官は,控訴人から平成23年2月4日付けで弁明書の提出を受けた後,同年3月15日付けで,本件翻訳文提出書却下処分をしたことは,前記前提となる事実記載のとおりである。

上記認定事実によれば,控訴人は,翻訳文提出特例期間の満了日である平成22年10月4日までに明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文を提出しなかったのであるから,本件国際特許出願は,旧法184条の4第3項により,同日の経過をもって取り下げられたものとみなされたものと認められる。

そして,明細書の翻訳文又は請求の範囲の翻訳文が国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に提出されなかったときに法184条の5第2項による補正の対象とならないことは,前記(1)で述べたとおりであり,本件翻訳文提出書についても,これと同様に,そもそも補正の対象となる余地はない。

そうすると,控訴人がした本件翻訳文提出書の提出は,翻訳文提出特例期間の満了日が経過した時点で既に取り下げられたものとみなされた本件国際特許出願についてされた不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,法18条の2第1項の規定により,その手続を却下すべきものである。

したがって,特許庁長官が控訴人に補正の機会を与えることなく行った本件翻訳文提出書却下処分は,適法である。

(3)  控訴人の主張について

ア 当審における控訴人の主張について

控訴人は,①2002年(平成14年)10月1日の時点において条約規則49.6(a)から(e)までの規定は我が国の国内法令に適合しており,同(f)の要件を欠いていたのであるから,本件国際特許出願については,出願人が特許協力条約22条に規定する行為を適用される期間内に行わなかったことにより国際出願の効果が消滅した場合における権利の回復について定める条約規則49.6を考慮すべきであること,②旧法184条の4第1項で規定する翻訳文の提出期間を猶予する旨の規定は存在しないが,出願人が翻訳文の提出期間を徒過した場合,特許協力条約の理念に照らして,ユーザーフレンドリーの観点から,諸外国特許庁の運用をも勘案しつつ,特許庁長官は補正を命じ,その裁量によって救済を図るべきであることからすると,外国語特許出願に係る翻訳文が未提出の場合には,法184条の5第2項を優先して適用すべきであって,その限りにおいては,旧法184条の4第3項は劣後すると解釈すべきであり,特許庁長官が,控訴人に対し,法184条の5第2項による補正を命ずることにより権利の回復の機会を与えることなく行った本件翻訳文提出書却下処分は,違法である旨主張する。

しかしながら,まず,2002年(平成14年)10月1日の時点において条約規則49.6(a)から(e)までの規定は我が国の国内法令に適合しており,同(f)の要件を欠いていたとの控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠(乙5ないし7)及び弁論の全趣旨によれば,日本国特許庁は,平成14年12月4日付けで,国際事務局に対し,条約規則49.6(a)から(e)までの規定が同年10月1日の時点において国内法令に適合せず,これらの規定を適用しない旨の条約規則49.6(f)に規定する通告を行ったこと,その後,日本国特許庁は,平成24年1月16日付けで,国際事務局に対し,上記通告を撤回し,平成23年改正法施行日である同年4月1日より条約規則49.6(a)から(e)までの規定が我が国について効力を生じる旨の通告(乙5)を行ったことが認められる。

次に,前記(2)で述べたとおり,平成23年改正法施行前の特許法の下においては,外国語特許出願に係る明細書の翻訳文又は請求の範囲の翻訳文のうちいずれかが国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に提出されなかったときは,法184条の5第2項による補正の対象とすることなく,旧法184条の4第3項により,その国際特許出願は取り下げられたものとみなされるものと解されるから,その点において,法184条の5第2項と旧法184条の4第3項との間に対立・矛盾はなく,控訴人が主張するような両条項の優先劣後が問題となる余地はない。

以上によれば,特許庁長官が控訴人に補正の機会を与えることなく行った本件翻訳文提出書却下処分が違法である旨の控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。」

(2)  原判決13頁5行目,同頁11行目,14頁24行目及び15頁18行目の各「法184条の4第3項」をいずれも「旧法184条の4第3項」と改める。

3  本件国内書面却下処分の違法性について

本件国内書面却下処分の違法性についての判断は,原判決の「事実及び理由」の第3の3に記載のとおりであるから,これを引用する。

4  結論

以上の次第であるから,控訴人の主張はいずれも理由がなく,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富田善範 裁判官 大鷹一郎 裁判官 齋藤巌)

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