知財高等裁判所 平成26年(ネ)10073号 判決 2015年1月27日
控訴人(一審原告)
株式会社マーメード
控訴人(一審原告)
X
両名訴訟代理人弁護士
小宮圭香
小宮清
熊崎誠実
多田津雪
小宮司
小宮憲
被控訴人(一審被告)
NKリレーションズ株式会社
被控訴人(一審被告)
NKメディコ株式会社
両名訴訟代理人弁護士
加本亘
山田広毅
村田晴香
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従い,原判決で付された略称に「原告」とあるのを「控訴人」に,「被告」とあるのを「被控訴人」と読み替えるほか,適宜これに準じる。
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人Xと被控訴人リレーションズとの間について
(1) 控訴人Xが本件特許権1について専用実施権の設定登録をする義務を負担していないことを確認する。
(2) 被控訴人リレーションズが本件特許権1について通常実施権を有していないことを確認する。
3 控訴人Xと被控訴人メディコとの間について
被控訴人メディコは,控訴人Xに対し,原判決別紙専用実施権目録記載1の専用実施権設定登録の抹消登録手続をせよ。
4 控訴人会社と被控訴人リレーションズとの間について
(1) 控訴人会社が本件特許権2~本件特許権6についていずれも専用実施権の設定登録をする義務を負担していないことを確認する。
(2) 被控訴人リレーションズが本件特許権2~本件特許権6についていずれも通常実施権を有していないことを確認する。
5 控訴人会社と被控訴人メディコとの間について
被控訴人メディコは,控訴人会社に対し,原判決別紙専用実施権目録記載2~6の各専用実施権設定登録の各抹消登録手続をせよ。
第2事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本件請求の要旨
本件は,①本件特許権1の特許権者である控訴人Xが,[1]被控訴人リレーションズに対し,<1>本件特許権1に係る専用実施権設定登録手続義務の不存在及び<2>本件特許権1に係る通常実施権の不存在を,[2]被控訴人メディコに対し,本件特許権1に係る専用実施権設定登録の抹消登録手続を求め,②本件特許権2~本件特許権6の特許権者である控訴人会社が,[1]被控訴人リレーションズに対し,<1>本件特許権2~本件特許権6に係る専用実施権設定登録手続義務の不存在及び<2>本件特許権2~本件特許権6に係る通常実施権の不存在を,[2]被控訴人メディコに対し,本件特許権2~本件特許権6に係る専用実施権設定登録の抹消登録手続を求める事案である。
控訴人Xは,控訴人会社の前代表者であり,被控訴人らは,ノーリツ鋼機の子会社である。控訴人らは,原審において,本件各特許権に係る専用実施権の設定登録手続義務を定めた本件契約が,公序良俗違反により無効である,詐欺により取り消された,錯誤により無効である,又は控訴人会社の取締役の過半数の決定を欠き無効であると主張した。
(2) 原審の判断
原判決は,本件契約は,公序良俗に反せず,かつ,欺罔及び錯誤も認められず,取締役の過半数の決定を欠くものでもないとして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。
2 前提となる事実
本件の前提となる事実は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2(事案の概要)の「1 前提事実」に記載のとおりである。
原判決8頁10行目の次に次のとおり加える。
「ク 控訴人X及び控訴人会社は,被控訴人リレーションズに対し,平成24年10月2日到達の内容証明郵便にて,本件契約を詐欺により取り消すとの意思表示をした。」
3 争点
(1) 本件契約における公序良俗違反の有無
(2) 本件契約におけるノーリツ側(ノーリツ鋼機及び被控訴人リレーションズ)による詐欺の有無
(3) 本件契約における控訴人らの錯誤の有無
(4) 借入金の返済による担保権(専用実施権設定登録)消滅の有無(当審における新たな争点)
(5) 本件契約の解除の当否(当審における新たな争点)
第3当事者の主張
当事者の主張は,下記1に当審における控訴人らの新たな主張を,同2にこれに対する被控訴人らの反論をそれぞれ加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2(事案の概要)の3(争点に関する当事者の主張)の(1)~(3)に記載のとおりである。なお,控訴人会社において本件契約締結について取締役の決定を欠いている,との控訴人らの主張(争点4)は,当審において撤回されたものと認める。
1 当審における控訴人らの新たな主張
(1) 担保権消滅(争点(4))
① 控訴人らは,被控訴人メディコに対し,控訴人ら・被控訴人リレーションズ間の本件金銭消費貸借契約から生じる債務の返済の担保として,それぞれ,その有する本件特許権1~本件特許権6について原判決別紙専用実施権目録記載のとおりの専用実施権を設定し,同目録記載のとおりの設定登録を経由した。
② 控訴人らは,平成24年11月27日,控被控訴人リレーションズに対し,前項の債務の弁済として,2550万円を被控訴人リレーションズの指定する銀行口座に振り込んだ。
③ よって,本件金銭消費貸借契約から生じる債務は弁済されたから,被担保債権が消滅しており,被控訴人メディコは,控訴人らに対し,原判決別紙専用実施権目録記載の各専用実施権設定登録の各抹消登録手続をする義務がある。
(2) 本件契約解除(争点(5))
① 仮に,原判決別紙専用実施権目録記載の専用実施権の設定が無償でされ,実施料については別途定めるとの合意が控訴人らと被控訴人らとの間に存在したとしても,被控訴人らは,上記合意に基づく対価の協議に必要な合理的期間(遅くとも,本件金銭消費貸借契約に基づく債務の返済期限である平成24年11月27日)を超えても一向に協議に応じていない。
② 控訴人らは,被控訴人らに対し,平成26年10月8日の本件口頭弁論期日において,本件契約を解除するとの意思表示をした。
2 被控訴人らの反論
(1) 担保権消滅(争点(4))に対して
原判決別紙専用実施権目録記載の専用実施権は,本件契約締結の条件として設定されたものであり,控訴人マーメイドの急な資金需要に応じた融資を目的とした本件金銭消費貸借契約とは,何ら関係がない。
(2) 本件契約解除(争点(5))に対して
控訴人らの主張は,争う。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,当審における控訴人らの主張を踏まえても,控訴人らの請求は,いずれも棄却すべきものと判断する。
その理由は,下記1のとおり原判決を補正し,同2に当審における控訴人らの新たな主張に対する判断を示すほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3(当裁判所の判断)の1及び同2(1)~(3)に記載のとおりである。
1 原判決の補正
① 原判決11頁15行目の「,被告ら及びワークスの代表取締役」を「及び被控訴人らの代表取締役」に,同16~17行目の「,被告リレーションズ及びワークスの取締役」を「及び被告リレーションズの取締役」にそれぞれ改め,同25行目の「本件合意をし,」を次のとおり改める。
「本件合意をし,同日,被控訴人リレーションズは,控訴人会社に対し,1000万円の貸付けをした。控訴人会社は,この1000万円を,同日,株式会社ビッグバードに対する債務の返済に充てた。」
② 原判決12頁7行目末尾に次のとおり加える。
「また,本件各特許権に対する専用実施権の設定登録は,本件金銭消費貸借契約に基づく融資の実行の条件であることが合意されており,本件契約書の案(後記のような一部訂正が行われる前のもの)も同月24日に控訴人会社へ送信された。」
③ 原判決12頁8行目の「35,」の次に「54,」を,同行目の「乙」の次に「2ないし4,」をそれぞれ加える。
③ 原判決14頁9行目の次に次のとおり加える。
「(5)の2 平成23年11月28日月曜日,被控訴人リレーションズから控訴人会社に対し,本件金銭消費貸借契約に基づく2500万円が貸し付けられた。控訴人会社は,同日,これを東日本銀行に担保預金として預け入れ,これにより,同年12月13日,公庫から5000万円の融資を受けることができた。一方,被控訴人メディコは,同年11月28日,同月25日までに控訴人らから交付を受けた書類を用いて,特許庁に対し,本件各特許権に係る専用実施権設定登録手続をした。
(甲6の1及び2,21,22)」
④ 原判決15頁4行目から5行目にかけての「許諾」を削る。
⑤ 原判決16頁10行目の次に次のとおり加える。
「(10) 平成24年1月12日ころ,被控訴人メディコによる前記専用実施権設定登録手続は,控訴人ら側作成の書類の不備のために却下された。そのため,控訴人ら側から,再度,関係書類の提出がされ,この再度の申請手続により,同月20日から26日ころにかけて,本件特許権1~本件特許権4に係る専用実施権,又は本件特許権5・本件特許権6に係る仮専用実施権の設定登録がされた。
(弁論の全趣旨)」
⑥ 原判決16頁21行目冒頭から同17頁4行目の「できない。」までを次のとおり改める。
「 本件契約の2条3項及び4項は,本件各特許権について,控訴人らが被控訴人リレーションズに対して『無償』の専用実施権を設定するというものであるが,前記までに認定のとおり,ここでいう『無償』とは,要するに,ロイヤリティ(実施料)について固定ロイヤリティ又は初期ロイヤリティを支払わず,ランニングロイヤリティのみの支払にするという選択をしたという趣旨であり,その語義のとおりにライセンス料を一切支払わないという趣旨ではない。ライセンス料をどのような基準で定め,どのような支払方法を選択するかは,当事者間の協議により種々の選択がされるのであり,専用実施権の設定自体の対価としての支払がないという約定が,そのことゆえに不合理・不公平であるとはいえない。」
⑦ 原判決17頁12行目の「さらに,」から同16行目末尾までを,改行の上,次のとおり改める。
「 本件契約の10条は,いわゆる存続条項として,本件契約が終了した場合にも本件各特許権に係る専用実施権が存続し続けるような体裁となっている。しかしながら,契約終了の帰責者,原因,時機などによっては,在庫品の処分,投下資本の回収等のために一定期間契約を存続させておくとの合理性があるのであり,存続させる範囲,期間などについて上記条項について合理的制限を加える余地があるとしても,それは,契約の個別条項の解釈の問題であり,そのような条項があること自体が,契約全体の効力を左右するものではない。」
⑧ 原判決17頁24行目の「そして,」の次に次のとおり加える。
「本件契約書案は事前に送付されていたのであり(送信された案を事前に見る時間的余裕がなかった旨の控訴人らの主張は,この案がメールで控訴人X宛に送信された後に同控訴人が別途メールの作成,送信操作を行っているという経過〔乙4〕や,特定の条項のかなり詳細な部分に絞って反対の意思を表明した同控訴人の態度〔甲32,乙7〕にかんがみて,採用することができない。),」を加える。
2 控訴人らの新たな主張に対する判断
(1) 争点(4)(担保権消滅の有無)について
控訴人らは,本件特許権1~本件特許権6についての原判決別紙専用実施権目録記載の専用実施権は,控訴人ら・被控訴人リレーションズ間の本件金銭消費貸借契約から生じる債務の返済の担保として設定された旨を主張する。
しかしながら,前記認定の事実経過によれば,上記専用実施権が担保として設定されたものでないことは明白である。
控訴人らの上記主張は,採用することができない。
(2) 争点(5)(本件契約解除の当否)について
控訴人らは,本件契約は,被控訴人らの履行遅滞により解除された旨を主張する。
しかしながら,本件契約中に実施料を確定するまでの期限の定めはなく,これが存在することを認めるに足りる証拠もない。そして,平成25年3月22日に被控訴人リレーションズから控訴人会社に対し,販売金額に応じた1~6%のロイヤルティの提案があったのに対し(乙13),控訴人らは,固定ロイヤリティ又は初期ロイヤリティの支払はしないという当初の約定とは大幅に異なり,控訴人会社の株式を被控訴人ら側が150億円で買い取るとの提案をしたのである(乙14)。このように,当事者間の提案は,双方で著しくかい離しており,およそ直ちに合意形成ができるような状況ではなく,また,実施料額の確定の合意が得られないことについて,専ら被控訴人らのみに責めがあるとはいえない。さらに,実施料確定に当たっては,当事者間の実施料額確定前の過去分のロイヤリティの請求の可否も含めて協議をすることができるから,現時点で被控訴人ら側から実施料の支払が全くないとしても,このことが直ちに債務不履行としての解除事由を構成するともいえない。控訴人らの解除は,解除事由がなく,無効であるというべきである。
控訴人らの上記主張は,採用することができない。
3 まとめ
以上のとおりであるから,本件各請求は,いずれも理由がない。
第5結論
よって,本件各請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)