知財高等裁判所 平成26年(行ケ)10073号 判決 2014年9月11日
原告
株式会社アクセル
訴訟代理人弁理士
濱田百合子
同
北島健次
同
小栗昌平
被告
特許庁長官
指定代理人
小林裕和
同
橘崇生
同
内山進
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2013-12136号事件について平成26年2月18日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
原告は,意匠に係る物品を「携帯情報端末」とする意匠について,平成23年11月17日に意匠登録出願(意願2011-26657号。以下「本願」という。)をしたが,平成25年3月22日付け(同月26日発送)で拒絶査定を受けたので,同年6月26日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,この審判を,不服2013-12136号事件として審理した結果,平成26年2月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,審決の謄本を,同年3月4日,原告に送達した。
原告は,同月28日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。
2 本願意匠の形態
別紙審決書写しの「別紙第1」の記載及び図面に記載されたとおりのものである(以下,原告が部分意匠として意匠登録を受けようとする画像部分を,審決に倣い,「本願画像部分」ということがある。)。
3 審決の理由
(1) 別紙審決書写しのとおりであり,要するに,本願意匠は,当業者が下記の各画像の形態等の公知の形状の結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠に該当するから,意匠法3条2項の規定により,意匠登録を受けることができないというものである。
ア 「週刊アスキー」2007年2月27日628号47頁所載の「Sansa e260」と記載された携帯音楽プレーヤーの画像(別紙審決書写しの「別紙第2」のとおり。以下「画像1」という。)
イ 「Goods Press〔グッズ プレス〕」2010年8月10日8号91頁左上所載の「BeoSound5」と記載されたデジタルオーディオプレーヤーの画像(別紙審決書写しの「別紙第3」のとおり。以下「画像2」という。)
ウ 大韓民国意匠商標公報09-09号(2009年4月30日発行)所載の登録番号30-0526948号のテレビ受像機に表示された画像(別紙審決書写しの「別紙第4」のとおり。以下「画像3」という。)
エ 特開2008-204402号公報(平成20年9月4日公開)の【図6】に表された画像及びこれに関連する記載(別紙審決書写しの「別紙第5」のとおり。以下「画像4」という。)
(2) 審決は,上記結論を導くに当たり,本願意匠に関して次のとおり認定した。
「本願画像部分は,携帯情報端末正面の縦長長方形画面の表示部分で,その中に,動画メニュー選択のための縮小動画を表示する矩形部が複数個配置されており,それらの矩形部を指で触ることによって,動画メニューの選択操作を行うものであり,その態様は,
(A) 縦長長方形画面に,選択対象動画表示枠として5個の横長長方形枠を,左凸円弧状の軌跡に沿って相互に間隔をおいて配置しており,
(B) 5個の横長長方形枠は,相似形であり,右辺近くの上下辺付近に,小さいものを各1個,これらより左寄りで上下辺より中央寄りに,中間の大きさを各1個,そして,左辺近くの上下中央位置に,最も大きいものを1個としており,5個の横長長方形枠は,枠内に指をあてスライド操作すると,それぞれが,これらの位置及び大きさに次第に変化する態様で,
(C) 選択対象動画表示枠に表示された動画を選択することにより,その動画が縦長長方形画面の表示部分に拡大表示されるものである。」
(以下,審決が摘記した上記(A)ないし(C)の各態様を,順次,「態様(A)」,「態様(B)」などと特定する。)
第3原告主張の取消事由
審決には,①引用意匠の認定の誤り(取消事由1),②本願意匠の創作容易性の判断の誤り(取消事由2)及び③手続違背(取消事由3)があり,これらは,いずれも審決の結論に影響するものであるから,審決は取消しを免れない。
1 取消事由1(引用意匠の認定の誤り)
本願意匠は,一覧表示される複数動画の画像自体が,拡大表示及び上下の移動のための操作画面となっているという,操作性に係る構成態様に特徴付けられたものである。
これに対し,画像1ないし4は,いずれもこのような構成態様を備えたものではなく,表示された画面を選択操作するために,画面の外に設けられたボタン類(画像1及び2)や画面から離れたリモコン(画像3),画面両側に設けられた操作部(画像4)を用いるものである。
また,画像2は,画面の右に操作用のホイールが設置されている点で,画像4は,表示枠全体の縦横比率や左右対称に配置された凸状の線の構成,横長長方形枠の数等が本願意匠と異なる点で,いずれも見た目の印象や美感が本願意匠と大きく異なる。さらに,画像3に係るテレビ受像機は,手に把持して自由に操作できるようなものではないし,表示枠に表示されるのは動画の代表イメージである静止画にすぎない。
このように,画像1ないし4は,その操作性に鑑みても,見た目の印象や美感に関しても,本願意匠とは大きく異なるから,当業者が本願意匠の創作に当たり基礎にするようなものとは到底想定できない。
よって,審決がこれらを引用意匠として認定したのは誤りである。
2 取消事由2(本願意匠の創作容易性の判断の誤り)
(1) 態様(A)についての判断の誤り
審決は,態様(A)について,画像1及び2を引用して創作容易であると判断した。
しかしながら,これらの画像は,いずれも動画がそのまま動画として一覧表示されて操作画面とされるという操作性に係る態様を備えたものではない。
また,見た目においても,画像1では,横長長方形ではない5個の模様の形態が規則性なしに変化するものであり,本願意匠の横長長方形のイメージが規則的に変化している態様とは異なる。画像2についても,矩形の形や数,大きさの点で本願意匠とは異なるし,画面左側に円弧状の表示形態があり,右側の矩形は画面の右のホイールに邪魔されるように円弧状に配置されているから,この画像から矩形の配置のみを恣意的に切り取ることは,当業者の想起し得ないことである。
さらに,操作性に係る態様を欠いた,相互に全く関連のないこれらの画像を組み合わせる動機付けもない。
よって,審決の上記判断は誤りである。
(2) 態様(B)についての判断の誤り
審決は,態様(B)について,画像1,2及び4を引用して創作容易であると判断した。
しかしながら,これらの画像は,いずれも動画がそのまま動画として一覧表示されて操作画面とされるという操作性に係る態様を備えたものではなく,相互に全く関連のないこれらの画像を組み合わせる動機付けもない。
特に,画像4は,画面両側に設けられた操作部を用いてスライド操作をするものであり,本願意匠とはその構成態様が全く異なり,見た目の印象や美感も全く異なるため,当業者が画像4を基礎として本願意匠を想起することは不可能である。
また,審決は,この種物品の画像は,指をあてる操作によって,画像そのものの大きさを拡大縮小したり,位置を変化させたり,順送りしたりすることはごく普通に行われていると判断しているが,何の証拠も示しておらず,根拠のない誤った判断である。
よって,審決の上記判断は誤りである。
(3) 態様(C)についての判断の誤り
審決は,態様(C)について,この種物品分野において広く知られた手法であるとして創作容易であると判断した。
しかしながら,かかる態様は,この種物品分野において広く知られた手法ではない。審決の上記判断は,何の証拠も示しておらず,根拠のない誤った判断である。
(4) 「動画表示枠に動画を表示する点」についての判断の誤り
審決は,本願意匠が横長長方形枠内に動画が表示されるという新規な機能を有するとしても,そこに表示される動画そのものは意匠の対象とはならないし,その技術的な革新性はともかく,機能に関わる事項に対する評価であって画像部分そのものの意匠的評価とは異なるものであり,本願画像部分の横長長方形枠は,動画を表示するための単なる表示枠であるとして,新規な機能を有することを理由に創作容易ではないとすることはできない旨判断した。
しかるに,本願意匠は,審決も認める「新規な機能」や「技術的な革新性」を意匠的に実現した,新規にして創作性のある操作性に係る態様を含む意匠である。意匠法に,「動画が表示される」形態が意匠の対象にならないとの規定はないこと,同法2条2項は操作画像が意匠の対象になると規定することなどからすれば,本願意匠の創作容易性の判断に当たっては,動画が動画のまま表示される操作性に係る態様についての本願意匠の着想の新しさないし独創性を判断対象とすべきである。
そして,本願画像部分の複数の動画表示枠は,単なる表示枠にととまらず,画像自体が操作画面となっており操作のための操作画像の表示が別途に必要ではないことから,極めて簡潔で均整のとれた美感を見る者に与えるとともに,誤作動を防止することができる形態を備えるなど,使用感につながる視覚的な印象を異ならしめるといえる創作性を有しており,引用意匠から容易に創作することができるものではない。
よって,審決には,これらの点についての判断の誤りがある。
3 取消事由3(手続違背)
(1) 審決は,態様(B)のうち「5個の横長長方形枠は,枠内に指をあてスライド操作すると,それぞれが,これらの位置及び大きさに次第に変化する態様」,並びに態様(C)について,何らの証拠を示すことなく,この種物品分野において広く知られた手法であるとして創作非容易性を否定しており,上記の各態様を含む本願意匠について,拒絶理由を通知することなく審決をした違法及び実質的な審理判断をしなかった判断遺脱の違法がある。
(2) 審決は,画像4について,事前に拒絶理由として通知することなく,審決において引用して本願意匠を創作容易と判断しており,拒絶理由を通知することなく審決をした違法がある。
第4被告の反論
1 取消事由1について
本願画像部分において意匠として保護対象となる「物品の操作の用に供される画像」は矩形部(横長長方形枠)であり,矩形部内に表示される動画自体の態様については,その動画自体の態様(動画の中に映っているもの)には操作を行わないし,矩形部内には何の画像も表されていないので,保護対象に含まれない。
審決による本願意匠の認定はこれに沿うものであり,動画の内容や,動画の中に映っているものは本願意匠とは無関係である。
そして,審決は,このことを前提に,態様(A)や(B)に係る本願画像部分の形態が記載された画像1ないし4を引用したのであり,審決における引用意匠の認定に誤りはない。
本願意匠は操作性に係る態様を備えた構成態様であると審決が認定した旨の原告の指摘は,操作画面の対象が動画自体であることをことさら強調するものであって,操作の用に供される画像が表示枠であり,動画自体を含むものではないことからすれば,理由がない。
2 取消事由2について
(1) 態様(A)及び(B)についての判断の誤りについて
審決による本願意匠の認定に動画自体の態様が含まれないこと,審決による引用意匠の認定に誤りはないことは,いずれも前記1のとおりである。
そして,審決は,原告の主張する操作性に係る態様の有無にかかわらず,引用意匠に基づいて態様(A)及び(B)の創作容易性を肯定したのであり,かかる審決の判断に誤りはない。
態様(A)に関する原告の主張は,態様(A)に関わらない画像1及び2の形態を理由に審決を批判する点は誤りであり,画像2から矩形の配置を恣意的に切り取ったとの点については,審決は選択対象画像を矩形枠に表すことに関して画像2を示したにすぎないから,誤りである。また,これらの画像と本願意匠との印象や美感の相違を主張する点については,創作容易性の判断が,当業者の観点から見て意匠の創作が容易であるかの判断であり,需要者の観点から見た意匠の美感の異同についての判断ではないことからすれば,失当である。
態様(B)に関する原告の主張は,態様(B)に関係しない画像4の操作部に関する美感の相違を主張する点については,上記と同様,創作容易性の判断が,需要者の観点から見た意匠の美感の異同についての判断ではないことからすれば,失当である。また,指をあてる操作による画像の拡大縮小や順送り等に関する判断の誤りを主張する点については,表示枠内のコンテンツを選択して拡大表示させたり,コンテンツを上下左右に移動させたりすることが,携帯情報端末の分野では本願の出願前に広く知られた手法であることなどからすれば,誤りである。
(2) 態様(C)についての判断の誤りについて
表示枠内の画像が静止画であるか動画であるかにかかわらず,表示枠内のコンテンツを選択して拡大表示させることは,本願の意匠に係る物品である携帯情報端末の分野では本願の出願前に広く知られた手法である。
審決は,このような広く知られた手法によれば,態様(C)は特段創意を要するものではないと判断したのであり,誤りはない。
(3) 「動画表示枠に動画を表示する点」についての判断の誤りについて
ア 本願意匠において操作に使用される画像は,動画を表示する横長長方形枠であり,枠内に表示される動画自体の態様は保護対象に含まれない。複数の横長長方形枠内に動画を動画のまま表示させ,移動させたり拡大表示させたりすることは,ソフトウェア技術上の創作であって,意匠法が保護対象としている物品の部分の形態の創作ではない。よって,本願画像部分には動画自体は含まれないものとして本願意匠を認定し,その創作容易性を判断した審決の認定判断に誤りはない。
イ 画像一覧表示部に複数の静止画やアイコンを並べ,複数のそれらを移動させる仕組みや,それらの一つを選択するとその静止画が拡大表示されたり,アプリケーションが起動したりする仕組みは,携帯情報端末の分野においては,本願出願前から普通に実現している仕組みである。
一方,テレビ番組において,スタジオを映した画面の中に現場を映した画面を細い枠線を使ってはめ込むことや,細い境界線で画面を上下二つに分けてそれぞれに異なる映像を表示すること,並んでいる画像から一つを選び,それを画面一杯に拡大して表示することは,いずれも本願出願前からごく普通に行われている視覚効果である。
これらの従来からある視覚効果の組合せによれば,画像一覧表示部に複数の動画を並べて,一つの動画を選択すると動画が拡大表示されたり,複数の動画を移動させたりする仕組みは,容易に思いつくものと認められる。
よって,本願画像部分が創作容易であるとした審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3について
(1) 当業者にとってある手法がありふれたものであることが,審査官にとって顕著な事実と認められる場合には,拒絶理由においてその手法の提示を要しない。そして,指をあてる操作によって,画像そのものの大きさを拡大縮小したり,位置を変化させたり,順送りしたりすること,また,複数表示された静止画や動画等の選択表示枠をクリックすることにより当該画像等を拡大表示することは,携帯情報端末の当業者にとって本願の出願前に極めて広く知られた手法であるから,審決がこれを顕著な事実と認め,その手法を理由中に提示しなかった点に,拒絶理由を通知しなかった違法や判断遺脱の違法はない。
(2) 審決は,相似形の横長長方形枠を配置した態様が,本願出願前にごく普通に行われている手法であることを立証する補助的証拠として,画像4を挙げたにすぎない。そして,審判手続において拒絶理由通知に示されていない周知例を加えて創作非容易性がないとする審決をした場合であっても,原則的には新たな拒絶理由には当たらないと解すべきであるから,審決に拒絶理由を通知することなく審決をした違法はない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張する取消事由は理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 本願意匠の構成について
(1) 原告は,本願意匠が,一覧表示される複数動画の画像自体が操作画面となっているという操作性に係る構成態様を有すると主張し,このような操作性に係る態様を備えていない画像1ないし4を引用意匠に認定したことの誤り(取消事由1),これらを引用意匠とするなどして本願意匠が創作容易であるとした判断の誤り(取消事由2)を主張する。
かかる原告の主張は,要するに,本願画像部分において再生されながら表示される複数の動画の画像自体が「物品の操作の用に供される画像」として意匠を構成するにもかかわらず,審決が引用意匠の認定や本願意匠の創作容易性の判断に当たり,これを無視したとの主張であると解される。
そこで,上記各取消事由の判断に先立ち,本願意匠が原告の主張する構成態様を有するか否かについて検討する。
なお,原告が,審決による本願意匠の認定自体の誤りを主張するのか否かは定かではないものの,その主張内容に照らして,審決による本願意匠の認定の当否についても併せて検討することとする。
(2) 本願の願書(平成24年9月7日付け手続補正後のもの。甲1,4)によれば,本願意匠に係る物品は,携帯電話機能,インターネット機能,データ記憶機能,メディア再生機能,ゲーム機能などの複合機能を有する携帯情報端末であり,本願画像部分は,同端末の縦長長方形の表示部に表示された同形の画像であり,画像の構成は,縦長長方形画面に,相似形の横長長方形の動画表示枠が左凸円弧状の軌跡に沿って5個配置されており,これらの動画表示枠は,右辺近くの上下辺付近にそれぞれ1個ずつ配置されたものが最も小さく,これらより左寄りで上下辺よりも中央寄りにそれぞれ1個ずつ配置されたものが中間の大きさで,これらよりさらに左寄りで上下中央の位置に1個配置されたものが最も大きく表示されており,それぞれの動画表示枠に選択メニューとしての動画が縮小動画として表示されるというものである。
そして,本願画像部分の操作方法は,操作者が視聴を希望する縮小動画の表示された動画表示枠を指で触ると,その動画が表示部上半分に拡大表示され,また,動画一覧表示部に表示された縮小動画は,指を画面に当てたままスライドさせることにより,その大きさを上記表示枠の大きさに変化させつつ上下に移動させることができるというものである。この縮小動画の移動機能は,動画コンテンツの数が5の動画表示枠数を超えて存在する場合であっても,動画一覧表示部に縮小動画を順次表示させることにより,動画の検索及び選択を容易にすることを可能にするためのものであると考えられる。
本願画像部分中に表示される動画については,本願の願書にはその内容が特定されておらず,動画の表示態様が参考図に示されているにすぎないことからすれば,その内容自体は当該物品の操作の用に供されるものではなく,当該物品とは独立した内容のものとして操作者による視聴の対象になるものであると認められる。
(3) 意匠法2条2項は,「物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であつて,当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるもの」について,「物品の部分の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」に含まれるものとして,これを意匠法の保護対象としており,これによれば,ある意匠に含まれる画像が,意匠法2条2項の規定する画像を構成するためには,当該物品の機能を発揮できる状態にするための操作に用いられる画像であることが必要である。
そうすると,意匠法2条2項の画像を含む意匠として出願された画像中に,当該物品とは独立した内容の画像が表示されている場合,当該画像の表示部の配置や形状については,当該物品の操作の用に供される画像の一部を成すものとして意匠の対象となり得るとしても,その内容については,当該物品の操作の用に供されるものということはできないから,意匠を構成するものではないこととなる。そして,このことは,画像の内容が静止画であると再生中の動画であるとを問わないから,「表示部に表示される画像が再生中の動画であること」は,意匠の構成要素を成すものではないというべきである。
また,意匠法上の意匠として保護されるためには,当該意匠が具体的なものとして特定されていることが必要であると考えられるところ,物品とは独立した内容の画像については,それ自体としては静止画であれ動画であれ具体的なものとして特定されていないから,当該画像については,この点においても意匠の構成要素を成すものではないと考えられる。
これを本願画像部分についてみると,動画一覧表示部に表示される動画は,意匠に係る物品である携帯情報端末とは独立した内容のものである上,それ自体としては具体的なものとして特定されたものではないから,意匠の構成要素を成すものではなく,画像の選択及び拡大や上下への移動の操作の用に供されているのは,動画一覧表示部に表示された個々の縮小動画というよりも,むしろ,個々の動画コンテンツを表象する枠(矩形部)であると考えるのが相当であり,かかる用に供される枠と動画の表示部とを一致させたからといって,本来意匠法の保護対象としての意匠を構成しない動画それ自体が意匠を構成することとなるものではないというべきである。
よって,本願画像部分において,動画一覧表示部に表示された個々の縮小動画は意匠を構成せず,したがって,「表示部に表示される画像が再生中の動画であること」が,本願意匠の構成要素を成すものということはできない。
(4) 以上によれば,本願意匠が,一覧表示される複数動画の画像自体が操作画面になっているという操作性に係る構成態様を有するとの原告の主張は採用することができない。
そして,審決は,本願意匠について前記第2の3(2)のとおり認定し,その構成態様を態様(A)ないし(C)のとおり認定するところ,かかる審決の認定は,動画表示枠に表示される再生中の動画自体が意匠の対象とはならないとの趣旨を含む限り,その点において誤りはなく,また,本願の願書の記載に照らし,その余の点においても誤りがあるとは認められない。
よって,以下,本願意匠の構成態様については,態様(A)ないし(C)のとおりの構成を有するものとして判断することとする。
2 取消事由1(引用意匠の認定の誤り)について
原告は,本願意匠が,一覧表示される複数動画の画像自体が操作画面になっているという操作性に係る構成態様を有するにもかかわらず,かかる構成態様を備えたものではない画像1ないし4を引用意匠として認定したのは誤りであると主張する(前記第3の1)。
しかしながら,本願意匠が原告の主張するような構成態様を有するということはできないのは前記1のとおりである。そして,画像1ないし4は,いずれも,後記3において検討するとおり,本願意匠の態様(A)や(B)と構成上の共通点を有するものであるから,本願意匠の創作容易性の有無を検討するに当たり,これらの画像を引用意匠として用いることが不適切であるということはできない。
なお,原告は,画像1ないし4について,本願意匠との相違として,表示された画面を選択操作するための操作手段の存在や,見た目の相違を指摘する(同上)。しかるに,原告の指摘する点は,画像1ないし4の組合せから本願意匠の態様(A)や(B)を創作することが容易か否かを判断するに当たり考慮される余地はあるものの,そのこと自体が,これらの画像を引用意匠として用いることが不適切であることを裏付けるものではない。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由2(本願意匠の創作容易性の判断の誤り)について
(1) 画像1ないし4の態様について
審決が引用意匠として挙げた画像1ないし4は,いずれも操作画面の画像であり,画像が表示される物品は,画像1は携帯音楽プレーヤー,画像2はデジタルオーディオプレーヤー,画像3はテレビ受像機,画像4はデジタルカメラである。そうすると,画像1ないし4は,いずれも電子情報機器に用いられる操作画面であるという点で共通し,更に,画像1,2及び4は,携帯型のものに用いられるという点で共通する。
そして,審決が認定した画像1ないし3の態様は下記アないしウのとおりであり,別紙審決書写しの「別紙第2」ないし「別紙第4」の記載内容に照らして,これらの認定に誤りがあるとは認められない。
また,画像4の構成態様は,別紙審決書写しの「別紙第5」の記載内容及び証拠(甲13)に照らすと,下記エのとおりであると認められる。
ア 画像1
(あ) 縦長長方形画面に,選択対象図形として,5個の模様を,左凸円弧状の軌跡に沿って相互に間隔をおいて配置しており,
(い) 5個の模様は,右辺近くの上下辺付近に,小さいものを各1個,これらより左寄りで上下辺より中央寄りに,中間の大きさを各1個,そして,左辺近くの上下中央位置に,最も大きいものを1個と,上下端部から中央に向かって次第に大きくした態様である。
イ 画像2
(う) 横長長方形の右辺の中間部を左凸円弧状に切り欠いた画面の右寄りに,選択対象図形として,7個のやや横長の長方形を,左凸円弧状の軌跡に沿って相互に間隔をおいて配置しており,
(え) 7個の横長長方形は,略相似形であり,右辺近くの上下辺付近に各1個,これらより左寄りで上下辺より中央寄りに各1個,さらに左寄りで上下辺より中央寄りに各1個,そして,さらに左寄りの上下中央位置に,他の6個より大きいものを1個とした態様である。
ウ 画像3
(お) 横長長方形画面に,動画をサムネール表示した複数の横長長方形部が配置されており,
(か) 横長長方形部は,画面の縦中央に同形同大のもの数個を横一列に,この列の左寄りに,左凸円弧状の軌跡に沿って横列に被さるように,7個の横長長方形部を配置しており,
(き) 7個の横長長方形部は,画面上下辺付近に各1個,これらより左寄りで上下辺より中央寄りに各1個,さらに左寄りで上下辺より中央寄りにやや大きなものを各1個,そして,さらに左寄りの上下中央位置に,他の6個より大きいものを1個と,順に重ねたように配したもので,
(く) そのうちの中間の最大横長長方形部の下方の横一列の横長長方形部直下には,帯状部を,画面の横幅一杯に設けた態様である。
エ 画像4
(け) 横長長方形画面の右寄りに,選択対象画像表示枠として7個の横長長方形枠を,左凸円弧状の軌跡に沿って相互に間隔を置いて配置しており,
(こ) 7個の横長長方形は,相似形であり,右辺近くの上下辺付近に,最も小さいものを各1個,これらより左寄りで上下辺よりやや中央寄りに,これらより大きなものを各1個,さらに左寄りで上下辺よりさらに中央寄りに,さらに大きなものを各1個,さらに左寄りの上下中央位置に,最も大きなものを1個としており,
(さ) 画面の左寄りに,選択対象日付表示枠として5個の隅丸横長長方形枠を,右凸円弧状の軌跡に沿って相互に間隔を置いて配置しており,
(し) 5個の隅丸横長長方形は,相似形であり,左辺近くの上下辺付近に,最も小さいものを各1個,これらより右寄りで上下辺よりやや中央寄りに,中間の大きさを各1個,さらに右寄りの上下中央位置に,最も大きなものを1個とした態様である。
(2) 態様(A)の創作容易性について
ア 態様(A)は,縦長長方形画面に,選択対象動画表示枠として5個の横長長方形枠を,左凸円弧状の軌跡に沿って相互に間隔をおいて配置している態様である。
この点,画像2(う)は,選択対象図形として7個のやや横長の長方形を,左凸円弧状の軌跡に沿って相互に間隔を置いて配置したものであり,また,画像1(あ)は,縦長長方形画面に選択対象図形として5個の模様を,左凸円弧状の軌跡に沿って相互に間隔を置いて配置したものである。そして,画像1及び2は,いずれも携帯型の電子情報機器に用いられる操作画面であるという点で共通するから,当業者であれば,上記各画像を組み合わせることにより,態様(A)を容易に創作することができたと認められ,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
イ 原告は,画像1及び2はいずれも動画がそのまま動画として一覧表示されて操作画面とされるという操作性に係る態様を備えたものではないし,これらの画像の態様(A)との形態の相違や画面に隣接する操作部の存在等に照らすと,これらの画像から態様(A)は想起し得ない,また,相互に全く関連のないこれらの画像を組み合わせる動機付けもない,と主張する(前記第3の2(1))。
しかしながら,本願意匠が,原告の主張する操作性に係る構成態様を有するとはいえず,一覧表示部に動画が表示されることが本願意匠を構成するものではないことは前記1のとおりであるから,この点について引用意匠からは創作が容易ではない旨の原告の主張は失当である。
また,原告の指摘するこれらの画像の態様(A)との形態の相違や,画像2の画面の右に操作のための円形のホイールがあり,画面内の横長長方形枠の配置はこの円形ホイールに沿ったものであることは,態様(A)の創作に当たり画像1(あ)や画像2(う)の形態に注目することを阻害するものではない。
さらに,画像1及び2は,いずれも携帯型の電子情報機器の操作画面という点で共通し,その画面構成にも共通するところがあるから,同一ないし類似の物品に属すると考えられる携帯情報端末の操作画面を創作するに当たり,これらを組み合わせる動機付けがないとはいえない。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 態様(B)の創作容易性について
ア 態様(B)は,5個の横長長方形枠が相似形であり,右辺近くの上下辺付近に,小さいものを各1個,これらより左寄りで上下辺より中央寄りに,中間の大きさを各1個,そして,左辺近くの上下中央位置に,最も大きいものを1個としており(これらの態様を,以下「態様(B)-1」という。),5個の横長長方形枠は,枠内に指をあてスライド操作すると,それぞれが,これらの位置及び大きさに次第に変化する態様(これらの態様を,以下「態様(B)-2」という。)である。
イ 態様(B)-1については,選択対象画像表示枠である複数の横長長方形を相似形とすることは,画像2(え)に見られる態様であり,また,選択対象画像表示枠の個数,配置位置,その大きさを配置位置に応じて変化させることは,画像1(い)に,5個の選択対象図形を,右辺近くの上下辺付近に,小さいものを各1個,これらより左寄りで上下辺より中央寄りに,中間の大きさを各1個,左辺近くの上下中央位置に,最も大きいものを1個と,上下端部から中央に向かって次第に大きくした態様が見られる。
そして,画像1及び2は,いずれも携帯型の電子情報機器に用いられる操作画面であるという点で共通するから,当業者であれば,上記各画像を組み合わせることにより,態様(B)-1を容易に創作することができたと認められる。
ウ 態様(B)-2については,「iPhoneユーザガイド」(乙4の1及び2)には,スマートフォン端末の操作画面上に表示された目次やウェブページを,指でドラッグすることにより上下又は左右にスクロールする(順次移動させる)ことや,画面上に拡大表示された静止画(静止画で表された動画コンテンツを含む。)の表示枠を,画面を指でフリック(スライドさせることを意味するものと解される。)することにより順送りすることができることが示され,また,「Android2.3ユーザーガイド」(乙5)には,スマートフォン端末の操作画面上に複数表示された静止画(静止画で表された動画コンテンツを含む。)の表示枠を左右にスワイプ(指で触れたまま横に滑らせることを意味すると解される。)することによりスクロールすることができることが示されている。
これらの証拠によれば,この種の物品の分野において,操作画面上に一覧表示された選択対象となる複数の静止画の枠をスライド操作により移動可能とすることは,本願出願当時,広く知られた手法であったと認められ,その際,表示枠の大きさを表示される位置に応じて変化させることも,当業者において適宜行うことができるということができる。
そして,表示枠に表示される画像が再生中の動画であることが本願意匠を構成するものではないことは前記1のとおりであるから,この点を捨象すると,態様(B)-2は,携帯情報端末を含む携帯型の電子情報機器の当業者において,上記の広く知られた手法から容易に創作することができたものであると認められる。
エ 以上によれば,態様(B)は,画像1及び2並びに上記の広く知られた手法から容易に創作することができたと認められ,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
オ 原告は,画像1,2及び4はいずれも動画がそのまま動画として一覧表示されて操作画面とされるという操作性に係る態様を備えたものではないし,画像4は態様(B)との構成態様の相違等からすればこれを基礎として本願意匠を想起し得ない,また,態様(B)-2はこの種物品分野において広く知られた手法ではなく,これについての審決の判断は根拠がなく誤っていると主張する(前記第3の2(2))。
しかしながら,本願意匠が,原告の主張する操作性に係る構成態様を有するとはいえず,一覧表示部に動画が表示されることが本願意匠を構成するものではないことは前記1のとおりであるから,この点について引用意匠からは創作が容易ではない旨の原告の主張は失当である。
また,態様(B)-2が携帯情報端末の当業者にとって広く知られた手法であったと認められること,態様(B)-2の創作容易性について検討する際,表示枠に表示される画像が再生中の動画であること自体は捨象すべきであることは,いずれも前記ウのとおりである。
なお,画像4について原告の指摘するところは,前記イないしエの説示によれば態様(B)に関してはこれを引用意匠とするまでもないから,判断を要しない。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 態様(C)の創作容易性について
ア 態様(C)は,選択対象動画表示枠に表示された動画を選択することにより,その動画が縦長長方形画面の表示部分に拡大表示されるというものである。
この点,遅くとも本願出願時にはインターネット上で公開されていたと認められる「iPhoneユーザガイド」(乙4の1及び2)及び「Android2.3ユーザーガイド」(乙5)には,スマートフォン端末の操作画面上に複数表示された静止画(静止画で表された動画コンテンツを含む。)の表示枠をタップ(指先等で軽くたたくことを意味するものと解される。)して選択することにより,当該画像を拡大表示するとの態様が示されており,これらの証拠によれば,かかる態様は,本願出願当時,この種の物品の分野において広く知られた手法であったと認められる。
そして,表示枠に表示される画像が再生中の動画であることが本願意匠を構成するものではないことは前記1のとおりであるから,この点を捨象すると,態様(C)は,携帯情報端末を含む携帯型の電子情報機器の当業者において,上記の広く知られた手法から容易に創作することができたものであると認められ,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
イ 原告は,態様(C)は,この種物品分野において広く知られた手法ではなく,これについての審決の判断は根拠がなく誤っていると主張する(前記第3の2(3))。
しかしながら,態様(C)が携帯情報端末の当業者にとって広く知られた手法であったと認められること,態様(C)の創作容易性について検討する際,表示枠に表示される画像が再生中の動画であること自体は捨象すべきであることは,前記アのとおりであり,原告の上記主張は採用することができない。
(5) 「動画表示枠に動画を表示する点」についての判断の誤りについて
原告は,本願意匠の創作容易性の判断に当たっては,動画が動画のまま表示される操作性に係る態様についての本願意匠の着想の新しさないし独創性を判断対象とすべきであり,本願画像部分の複数の動画表示枠は,単なる表示枠にとどまらない視覚的な創作性を有すると主張する(前記第3の2(4))。
しかしながら,表示枠に表示される画像が再生中の動画であることが本願意匠を構成するものではなく,本願意匠の創作容易性について判断する際にはその点は捨象されることは前記(2)ないし(4)のとおりである。
また,原告の指摘する本願画像部分の視覚的な創作性を踏まえても,その態様は当業者が容易に創作できることも前記(2)ないし(4)のとおりである。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由3(手続違背)について
(1) 原告は,審決が,態様(B)-2及び(C)について何らの証拠を示すことなく,この種物品分野において広く知られた手法であるとして創作非容易性を否定した点で,拒絶理由を通知することなく審決をした違法及び判断遺脱の違法があると主張する(前記第3の3(1))。
しかるに,当該物品分野において広く知られた手法については,発明の属する技術の分野における周知技術と同様,当業者が熟知している事項であるため,本来,審決においてその認定根拠を示すまでもないのであり,このような認定根拠となる文献を示さなかったとしても,意匠法50条3項の準用する特許法50条に違反するということはできない。
そして,態様(B)-2及び(C)に係る手法が携帯情報端末の当業者にとって広く知られた手法であると認められることは,前記3(3)ウ及び同(4)のとおりであるから,審決において,特段の証拠を示すことなく同旨の判断を示したことは,意匠法50条3項の準用する特許法50条に違反するものではない。また,この点に関して判断の遺脱があったということもできないから,意匠法52条の準用する特許法157条に違反するということもできない。
(2) 原告は,審決が,事前に拒絶理由として通知することなく,画像4を引用して本願意匠の創作非容易性を否定した点で,拒絶理由を通知することなく審決をした違法があると主張する(前記第3の3(2))。
この点,周知意匠については,その分野において一般的に知られ,当業者であれば当然知っているべき意匠をいうにすぎないから,審判手続において拒絶理由通知に示されていない周知例を加えて創作容易であるとした審決をした場合であっても,原則的には新たな拒絶理由には当たらないと解すべきである。
もっとも,審決は,態様(B)-1に関し,「相似形の横長長方形枠を配置した態様」が「画像2(え)及び画像1(い)以外にも」見られることを示すために,画像4を挙げており(審決書5頁26行目ないし29行目),かかる態様が周知意匠であることを示すために画像4を挙げたものとは認め難い。
しかしながら,審決は,画像2(え)及び画像1(い)に加えて補助的に画像4を用いたにすぎず,かかる態様については,前記3(3)イのとおり,画像4を引用するまでもなく容易に創作することができたものということができる。よって,審判手続において,態様(B)-1との関係で画像4を新たな拒絶理由として通知しなかったとしても,審決の結論に影響する違法があるということはできない。
(3) よって,原告の上記主張は採用することができない。
5 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井忠雄 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅)