大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成26年(行ケ)10124号 判決 2014年11月19日

原告

訴訟代理人弁理士

小林博通

富岡潔

鵜澤英久

山口幸二

被告

株式会社ロッテ

訴訟代理人弁理士

稲岡耕作

川崎実夫

京村順二

主文

1  特許庁が無効2012-800207号事件について平成26年1月7日にした審決中,「特許第4976547号の請求項1ないし12に係る発明についての特許を無効とする。」部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

主文同旨

第2事案の概要

本件は,特許無効審判請求について請求項の一部を無効とした審決の取消訴訟である。争点は,①訂正に関しての新規事項の追加の有無,②進歩性の有無である。

1  特許庁における手続の経緯

原告は,平成20年6月16日,名称を「製品保持手段を有する改善されたパケット」とする発明につき,特許出願をし(特願2010-512793号。優先権主張日:平成19年6月18日),平成24年4月20日,特許登録を受けた(特許第4976547号。請求項の数13。甲11。以下,この特許を「本件特許」といい,この特許権を「本件特許権」という。)。

被告は,同年12月17日,請求項1~13に係る本件特許権につき特許無効審判請求をした(無効2012-800207号。甲13)ところ,原告は,平成25年4月22日付けで訂正請求をした(本件訂正。甲12)。

特許庁は,平成26年1月7日,「特許第4976547号の請求項1ないし12に係る発明についての特許を無効とする。特許第4976547号の請求項13に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし(附加期間90日),その謄本は,同月17日,原告に送達された。

2  特許請求の範囲の記載

(1)  本件訂正前

本件特許の特許公報に記載された明細書,特許請求の範囲又は図面(甲11。以下,まとめて「本件明細書」という。)によれば,本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1ないし13に係る発明を,それぞれ「本件発明1」というように呼称し,これらを総称して「本件発明」という。)。

【請求項1】

各々の個包装(11)中に包装されるスティック状の製品についてのパケットであって,上記個包装(11)は製品周囲で折り畳んだシートからなり,上記パケットは,少なくとも1つの外箱(41)を備え,この外箱(41)は,製品を少なくとも部分的に収容する複数の面と,製品を取り出すための1つの開口面と,を有し,さらに,上記製品を該パケット内に保持するために上記個包装(11)の少なくとも一部を該パケットの少なくとも一部に接着する永久接着手段(80)を備えてなるパケットにおいて,

上記永久接着手段(80)は,上記個包装(11)の切離し部分(170)上に与えられ,この個包装(11)の切離し部分(170)は,製品をパケットから引き出したときに上記切離し部分(170)に覆われていた製品の部分(9)が剥き出されるように,個包装(11)に設けられた切取線(171)を介して個包装の残部(170b)につながっているとともに,上記個包装(11)上の上記切取線(171)が,個包装された製品の両端縁の間に位置しており,

上記個包装(11)上の切取線(171)と個包装された製品の一端縁との間の上記切離し部分(170)の長さが,上記切取線(171)と個包装された製品の他端縁との間の残部(170b)の長さよりも短いことを特徴とするパケット。

【請求項2】

上記外箱(41)は,該外箱(41)の面の一つに接続されて製品(10)を取り出すための開口面を閉じるように設計された蓋(43)を有することを特徴とする請求項1に記載のパケット。

【請求項3】

上記外箱(41)内に配置された少なくとも1つのシート(110)を備え,上記永久接着手段(80)は,個包装(11)の少なくとも一部をシート(110)の少なくとも一部に接着することを特徴とする請求項1または2に記載のパケット。

【請求項4】

上記シート(110)は,個包装された製品のグループの少なくとも5つの面を取り囲むことを特徴とする請求項3に記載のパケット。

【請求項5】

上記シート(110)と上記外箱(41)との間にさらに永久接着手段(140)を有することを特徴とする請求項3または4に記載のパケット。

【請求項6】

上記個包装(11)は,紙,パラフィン紙,金属フォイル,プラスチックフォイルまたはこれらの材料の種々の組み合わせから形成されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のパケット。

【請求項7】

上記製品は,チューインガムであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のパケット。

【請求項8】

隣り合わせに配置された製品のグループを収容している請求項1~7のいずれかに記載のパケット。

【請求項9】

隣り合わせに配置された製品のグループを2つ以上重ねて収容している請求項8に記載のパケット。

【請求項10】

上記切取線(171)は,少なくとも一部は,個包装(11)を形成している材料中に形成された穴あき線の形態であることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のパケット。

【請求項11】

上記切取線(171)は,少なくとも一部は,個包装(11)を形成している材料中に押圧された非穴あき刻み目線の形態であることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のパケット。

【請求項12】

製品を箱詰めする方法であって,

切取線によって区画された切離し部分を有する各々の個包装で各製品を包装し,

上記切離し部分においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し,

上記シートを外箱内に挿入するとともに該外箱に永久的に固定し,

消費者が切離し部分を引き裂くことによって上記製品を掴んで小出しすることができるように上記外箱の形成を完了すること,を含む方法。

【請求項13】

製品を箱詰めする方法であって,

切取線によって区画された切離し部分を有する各々の個包装で各製品を包装し,外箱内にシートを挿入し,

上記切離し部分において上記シートに上記個包装製品を永久的に接着し,

消費者が切離し部分を引き裂くことによって上記製品を掴んで小出しすることができるように上記外箱の形成を完了すること,

を含む方法。

(2)  本件訂正後

平成25年4月22日付け訂正請求書(甲12。なお,この明細書を「訂正明細書」という。)によれば,本件訂正に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(下線部は,訂正箇所。請求項2,4及び6ないし11について,文言上の訂正はなく,請求項番号の繰上りもない。なお,以下,訂正請求後の請求項1ないし4,請求項6ないし11に係る発明を,それぞれ「訂正発明1」,「訂正発明2」というように呼称し,これらを総称して「訂正発明」という。なお,請求項1の分説は,審決にならい,アルファベットを付した。)。

【請求項1】

A 各々の個包装(11)中に包装されるスティック状の製品についてのパケットであって,

B 上記個包装(11)は製品周囲で折り畳んだシートからなり,

C 上記パケットは,少なくとも1つの外箱(41)を備え,この外箱(41)は,製品を少なくとも部分的に収容する複数の面と,製品を取り出すための1つの開口面と,を有し,

D さらに,上記製品を該パケット内に保持するために上記個包装(11)の少なくとも一部を該パケットの少なくとも一部に接着する永久接着手段(80)を備えてなるパケットにおいて,

C1  上記スティック状の製品は,上記製品の取り出し方向に沿った幅の広い2つの主要面と,同じく取り出し方向に沿った幅の狭い2つの側面と,2つの端縁と,を有する偏平形状をなし,複数の製品が上記側面同士が隣り合わせとなるように並べて配置されており,

E 上記永久接着手段(80)は,上記個包装(11)の切離し部分(170)上に与えられ,この個包装(11)の切離し部分(170)は,製品をパケットから引き出したときに上記切離し部分(170)に覆われていた製品の部分(9)が剥き出されるように,個包装(11)に設けられた切取線(171)を介して個包装の残部(170b)につながっているとともに,上記個包装(11)上の上記切取線(171)が,個包装された製品の両端縁の間に位置しており,

E1  上記永久接着手段(80)は,上記切離し部分(170)の中で,上記主要面の一方において上記切取線(171)と上記端縁との間に配置されており,この永久接着手段(80)によって個包装されたスティック状の製品が上記主要面の一方においてパケットに個々に固定されている一方,隣接する製品同士は互いに接着されておらず,

F 上記個包装(11)上の切取線(171)と個包装された製品の一端縁との間の上記切離し部分(170)の長さが,上記切取線(171)と個包装された製品の他端縁との間の残部(170b)の長さよりも短いことを特徴とするパケット。

【請求項3】

上記外箱(41)内に配置された少なくとも1つのシート(110)を備え,上記永久接着手段(80)は,上記主要面において個包装(11)の上記切離し部分の一部をシート(110)の一部に接着し,

上記シート(110)と上記外箱(41)との間にさらに永久接着手段(140)を有することを特徴とする請求項1または2に記載のパケット。

【請求項5】

(削除)

3  被告の主張

(1)  本件訂正の違法性

被請求人(原告)が行った平成25年4月22日付け訂正請求の請求項1に係る訂正は,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項又は同条6項の規定に反するものであり,不適法であるから,請求項1に係る一群の請求項の訂正は認められるべきでない。

(2)  本件発明1,6,7,10及び11の新規性欠如

本件発明1,6,7,10及び11は,以下の甲1に記載された発明(甲1発明)と実質的に同一であり,特許法29条1項3号に該当するから,上記特許は,特許法29条1項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。

(3)  本件発明の進歩性欠如

本件発明1ないし13は,甲1発明に,以下の甲2又は甲3に記載された発明(それぞれ「甲2発明」,「甲3発明」という。)を適用することにより,あるいは,甲2発明に甲1発明又は甲3発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その特許は同法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。

甲1:実願平5-45394号(実開平7-11569号)のCD-ROM

甲2:米国特許出願公開第2003/0080020号明細書(その訳文は甲24)

甲3:米国特許出願公開第2005/0255199号明細書

(4)  訂正発明の進歩性欠如

仮に,本件訂正が認められたとしても,訂正発明は,上記(3)に記載した引用発明の組合せにより,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。

4  審決の理由の要点

審決は,本件訂正は新規事項の追加に当たるとして訂正を認めないとした上で,上記の無効事由(2)~(4)について,以下のとおり判断し,本件発明1~12に係る特許を無効とし,本件発明13に係る特許について無効請求不成立とした(なお,本件の取消事由と関連しない部分については記載を省略した。)。

(1)  本件訂正の適否について

ア 請求項1についての訂正は,「上記永久接着手段(80)は,上記切離し部分(170)の中で,上記主要面の一方において上記切取線(171)と上記端縁との間に配置されており,この永久接着手段(80)によって個包装されたスティック状の製品が上記主要面の一方においてパケットに個々に固定されている一方,隣接する製品同士は互いに接着されておらず,」という発明特定事項(以下「訂正事項2」という。)を付加する訂正を含んでおり,これは,「主要面の一方においてのみ」永久接着手段を設ける構成(以下「本件訂正事項」という。)を含んでいる。

イ 本件明細書の図7~9は斜視図であり,製品の外箱(41)の図示上面の一部に切取線(82)を形成して,外箱(41)の図示上面の一部を切離し部分(81,81a,81b)とし,該切離し部分のみを製品(10)に永久接着手段(80)で接着したことを示している。これは,図7~9では,外箱(41)の形状が,図示上面と図示下面で異なっていること,及び,本件明細書の【0026】~【0031】の記載から明らかといえる。

図12も斜視図であり,「図12に示すパケットにおいては,シート(110)の一端縁に沿って配置されたシート(110)の切離し部分(130)に,永久接着手段(80)が与えられている。」(【0039】)とあり,シート(110)の形状が,図示上面と図示下面で同一であると認められる。

図15は,図12の断面図ではないが,シート(110)の形状が,図12と同様であって,上面と下面で同一であると認められ,また,図15では,製品(10)はシート(110)の上下両面と,永久接着手段(80)で接着されている。

そうすると,図12の斜視図で示されたものにおいては,製品(10)は,シート(110)の上下両面と,永久接着手段(80)で接着されていると解することが自然であるといえるし,少なくとも,図12が,製品(10)は,シート(110)の上面のみと永久接着手段(80)で接着され,下面が接着されていない構成を明示しているとはいえない。

すると,「本件特許の図面では,主要面の双方に接着手段を設けた実施例については,積極的に断面表示とすることで,双方の接着手段を明示」し,断面表示がない図面は,主要面の一方のみ固定していることを示しているということはできないから,斜視図である図17及び18について,これらの断面表示がないからといって,これら図面の図示下面となる製品(10)の主要面が「接着されていない」ことを示しているとはいえない。

また,図示することが可能であれば,図示しなければならないものではないから,図17及び18では,透視図の形で,図の下面側に永久接着手段(80)が図示されていないからといって,図の下面側に永久接着手段(80)が存在しないことを示していることにはならない。

以上によれば,図の下面側に永久接着手段(80)が存在するか否かは,図17及び18の記載からは,不明というべきである。

したがって,切離し部分の中で主要面の一方のみが永久接着手段によりパケットに固定されている構成が,本件明細書に記載されているということはできない。

ウ 被請求人(原告)の主張によれば,訂正発明1では,切離し部分の中で主要面の一方のみが永久接着手段によりパケットに固定されていることにより,永久接着手段により固定された主要面部分に引張力Fが集中し比較的小さな力Fでもって,容易かつ確実に,切離し部分の切り離しが可能になり,また,消費者が引っ張っている途中で急に切れたりせずに,安定した形で切り離しを行うことができるという作用効果を奏するものである。

しかし,そのような作用効果を奏することは,本件明細書に記載も示唆もされておらず,自明であるとも認めるべき理由もない。

エ したがって,本件訂正事項は,本件明細書に記載されているということはできないから,「主要面の一方においてのみ」永久接着手段(80)を設ける構成を付加する訂正事項2は,当業者によって,本件明細書に記載されているすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正ではない。

以上から,訂正事項2は,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項又は6項の規定に違反する。

オ また,請求項2ないし請求項11は,請求項1を直接又は間接に引用しているから,請求項1とともに一群の請求項を構成している。そして,請求項1を訂正する事項である訂正事項2が,上記のとおり,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項又は6項の規定に違反するから,請求項1に係る一群の請求項に関する他の訂正事項について検討するまでもなく,請求項1ないし請求項11についての訂正は認めない。

(2)  無効理由(新規性)について

ア 甲1発明

「a 包装体2中に包装される板状のチューインガム等の被包装物についての容器入り包装体1であって,

b 上記包装体2は被包装物の周囲で折り畳んだシートからなり,

c 上記容器入り包装体1は,収納容器3を備え,この収納容器3は,包装体2で包まれた被包装物を少なくとも部分的に収容する5つの面と,包装体2で包まれた被包装物を取り出すための1つの開口面と,を有し,

d さらに,上記包装体2で包まれた被包装物を該収納容器3内に保持するために,上記包装体2の端部2aを該収納容器3の内部底面3bに接着する接着剤等を備えてなる容器入り包装体1において,

e 上記接着剤等は,上記包装体2の切目線4より下部である包装体2の端部2aに与えられ,この切目線4は,包装体2で包まれた被包装物を収納容器3から引き出したときに,上記包装体2に覆われていた,被包装物の切目線4より下部の部分が露出した形態になるように,包装体2に設けられた切目線4を介して,包装体2の上部につながっているとともに,上記切目線4が,包装体2で包まれた被包装物の包装体の端部2aと,その反対の端部の間に位置しており,

f 上記切目線4と包装体の端部2aとの長さが,上記切目線4と被包装物の反対の端部との間の長さよりも短い容器入り包装体1。」

イ 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点について

【一致点】

A 各々の個包装中に包装されるスティック状の製品についてのパケットであって,

B 上記個包装は製品周囲を折り畳んだシートからなり,

C 上記パケットは,少なくとも1つの外箱を備え,この外箱は,製品を少なくとも部分的に収容する複数の面と,製品を取り出すための1つの開口面と,を有し,

D さらに,上記製品を該パケット内に保持するために上記個包装の少なくとも一部を該パケットの少なくとも一部に接着する永久接着手段を備えてなるパケットにおいて,

E 上記永久接着手段は,上記個包装の切離し部分上に与えられ,この個包装の切離し部分は,製品をパケットから引き出したときに上記切離し部分に覆われていた製品の部分が剥き出されるように,個包装に設けられた切取線を介して個包装の残部につながっているとともに,上記個包装上の上記切取線が,個包装された製品の両端縁の間に位置しており,

F 上記個包装上の切取線と個包装された製品の一端縁との間の上記切離し部分の長さが,上記切取線と個包装された製品の他端縁との間の残部の長さよりも短いパケット。

【相違点】

なし

ウ したがって,本件発明1は,甲1発明であるから,新規性を欠き,特許を受けることができない発明である。

また,本件発明6,7及び10も甲1に記載があるから,新規性を欠き,特許を受けることができない発明である。

よって,本件発明1,6,7及び10の特許は,特許法123条1項2号の規定に該当し,無効とすべきものである。

(3)  無効理由(本件発明の進歩性)について

ア 本件発明2~5,8,9及び11は進歩性を欠く(理由は省略。)。

イ 本件発明12の進歩性について

(ア) 甲2発明A(本件発明12を前提とする甲2に記載された発明)「

a1 消費用製品を箱詰めする方法であって,

a2 個々の個包装で各製品を包装し,

a3 シートに上記個包装製品を接着し,

a4 上記シートを箱内に挿入するとともに該箱に結合し,

a5 消費者が上記製品を掴んで個別に取り出せることができるように上記箱を構成すること,含む方法。」

(イ) 本件発明12と甲2発明Aとの一致点及び相違点

【一致点】

A1 消費用製品を箱詰めする方法であって,

A2’ 各々の個包装で各製品を包装し,

A3’ シートに上記個包装製品を接着し,

A4’ 上記シートを外箱内に挿入するとともに該外箱に固定し,

A5’ 消費者が上記製品を掴んで小出しすることができるように上記外箱の形成を完了すること,含む方法。」

【相違点1】

本件発明12は,個包装が「切取線によって区画された切離し部分を有」し,「上記切離し部分においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し」,「消費者が切離し部分を引き裂くことによって」,上記製品を掴んで小出しすることができるのに対し,甲2発明Aは,このような構成ではない点。

【相違点2】

本件発明12は,シートを外箱に「永久的に」固定するのに対し,甲2発明Aは,「永久的に」とは特定していない点。

(ウ) 進歩性の判断

a 相違点1について

甲1には,チューインガム等の被包装物を,収納容器から包装体(個包装)を取り出す際,包装体を片手で引っ張ることにより,包装体の一部を剥離し,被包装物の一部を露出させながら包装体を取り出すことのできる容器入り包装体(【0001】)であって,包装体下方部を収納容器底面又は側面に固着し,かつ,包装体に収納容器底面に略平行となるような切目線を設けることにより,包装体を収納容器から取り出す際,片手で包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができる容器入り包装体の技術(【0005】)が記載されている。

甲1の上記技術は,片手で包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができるので,被包装物が食品の場合,露出した被包装物をそのまま口にくわえて,残りの包装体を引っ張るだけで簡単に残りの包装体が剥離され,両手を使わなくても被包装物を喫食することができる(【0005】)という,消費者にとって有用な作用効果を奏するものである。

そして,甲2発明Aに,甲1のこの技術を適用すると,適用後の発明は,この消費者にとって有用な作用効果を奏することが,当業者に明らかであるから,甲2発明Aに,甲1のこの技術を適用する動機付けは存在する。

そうすると,甲1のこの技術を,甲2発明Aに適用して,相違点1に係る本件発明12の構成とすることは,当業者が容易に推考し得たことである。

b 相違点2について

甲2発明Aにおいて,シートと外箱との接着力が,個別包装された製品とシートとの接着力より弱ければ,消費者が個別包装された製品を掴んで個別に取り出す際,シートと外箱との接着が剥がれてしまい,製品を掴んで個別に取り出すことが困難になることは,当業者に自明であるから,シートと外箱との接着力は,個別包装された製品とシートとの接着力よりも強くすることは,当業者が当然行うべきことである。

そうすると,甲2発明Aに甲1に記載の上記技術を適用する際に,シートと外箱との接着力を,個別包装された製品とシートとの接着力よりも強くするため,シートと外箱との接着方法として「永久的に」固定することは,技術の適用に際して,当業者が適宜採用すべき単なる設計変更である。

c 本件発明12を全体として見ても,その作用効果は,甲2発明A及び甲1に記載の事項から,当業者が予測できる範囲内のものであって,格別顕著なものとはいえない。

d したがって,本件発明12は,甲2発明A及び甲1に記載の事項から,当業者が容易に発明することができたものである。

(4)  無効理由(訂正発明の進歩性)について

上記(1)のとおり,本件訂正は認めないが,念のため判断する。

ア 甲2発明B(訂正発明を前提とする甲2に記載された発明)

「aa 個包装されるスティック状の製品についてのパッケージであって,

bb 上記個包装は製品周囲で折り畳んだシートからなり,

cc 上記パケットは,1つの箱を備え,この箱は,製品を収容する複数の壁と,製品を取り出すための1つの開口部と,を有し,

dd さらに,上記製品を該パッケージ内に保持するために上記個包装をシートに接着する接着手段を備えてなるパッケージにおいて,

cc1 上記スティック状の製品は,上記製品の取り出し方向に沿った幅の広い2つの主要面と,同じく取り出し方向に沿った幅の狭い2つの側面と,2つの端縁と,を有する偏平形状をなし,複数の製品が上記側面同士が隣り合わせとなるように並べて配置されており,

ee 上記接着手段は,上記個包装上に与えられ,

ee1 上記接着手段は,上記主要面の一方に配置されており,この接着手段によって個包装されたスティック状の製品が上記主要面の一方においてシートに個々に接着されている一方,隣接する製品同士は互いに接着されていない,

ff パッケージ。」

イ 訂正発明1と甲2発明Bとの一致点及び相違点

【一致点】

A 各々の個包装中に包装されるスティック状の製品についてのパケットであって,

B 上記個包装は製品周囲で折り畳んだシートからなり,

C 上記パケットは,少なくとも1つの外箱を備え,この外箱は,製品を少なくとも部分的に収容する複数の面と,製品を取り出すための1つの開口面と,を有し,

D’ さらに,上記製品を該パケット内に保持するために上記個包装の少なくとも一部を該パケットの少なくとも一部に接着する接着手段を備えてなるパケットにおいて,

C1 上記スティック状の製品は,上記製品の取り出し方向に沿った幅の広い2つの主要面と,同じく取り出し方向に沿った幅の狭い2つの側面と,2つの端縁と,を有する偏平形状をなし,複数の製品が上記側面同士が隣り合わせとなるように並べて配置されており,

E’ 上記接着手段は,上記個包装上に与えられ,

E1’ この接着手段によって個包装されたスティック状の製品が上記主要面の一方においてパケットに個々に固定されている一方,隣接する製品同士は互いに接着されていない,

F’ パケット。

【相違点】

構成要件D,E,E1及びFに関して,訂正発明1では,

D-:「製品を該パケット内に保持するため」「個包装」「の少なくとも一部を該パケットの少なくとも一部に接着する」手段が「永久接着手段」であり,

E-:「上記永久接着手段は,上記個包装の切離し部分上に与えられ,この個包装の切離し部分は,製品をパケットから引き出したときに上記切離し部分に覆われていた製品の部分が剥き出されるように,個包装に設けられた切取線を介して個包装の残部につながっているとともに,上記個包装上の上記切取線が,個包装された製品の両端縁の間に位置しており」,

E1-A:「上記永久接着手段は,上記切離し部分の中で,上記主要面の一方において上記切取線と上記端縁との間に配置されており」,

E1-B:「この永久接着手段によって個包装されたスティック状の製品が上記主要面の一方においてパケットに個々に固定され」ており,

F-:「上記個包装上の切取線と個包装された製品の一端縁との間の上記切離し部分の長さが,上記切取線と個包装された製品の他端縁との間の残部の長さよりも短い」のに対し,

甲2発明Bでは,このような構成を備えていない点。

ウ 相違点に対する判断

甲1には,上記D-,E-,E1-A及びF-の構成が記載されている。

そして,甲2発明Bに,甲1のこの技術を適用すると,適用後の発明は,前記(3)イ(ウ)a記載の消費者にとって有用な作用効果を奏することが,当業者に明らかであるから,甲2発明Bに,甲1のこの技術を適用する動機付けは存在する。

そうすると,甲1の上記技術を甲2発明Bに適用して,相違点に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に推考し得たことである。

また,甲1の接着位置(固着する部分)は,「被包装物を包装してなる包装体を有底収納容器に収納する際,包装体下方部を収納容器底面もしくは側面に固着」(【0005】)するものであり,「包装体2は,例えば,上記収納容器3の底面に固着していることが必要である。・・・固着する部分は,包装体2端部の一部でも全面でもよく,固着する強度に応じて適宜設定すればよい。また,包装体を収納容器下方側面部に固着させるようにしてもよい。」(【0010】)ものであるから,接着位置は,適宜設定すればよいものであることが,甲1に示唆されている。そして,甲2発明Bは,「個包装されたスティック状の製品が主要面の一方において接着されている」(構成ee1)ものである。

そして,「取り出し方向に沿った幅の広い2つの主要面と,取り出し方向に沿った幅の狭い2つの側面と,2つの端縁と,を有する偏平形状の製品を,側面同士が隣り合わせとなるように並べて配置する構成」(構成 cc1)では,接着位置を主要面にすることが,接着剤の分量や,接着面積の調整などを行うことにより技術的に容易であることが,当業者に自明である。

そうすると,甲1の上記技術を甲2発明Bに適用するに際し,接着位置を,スティック状の製品の主要面の一方として,訂正発明1のE1-B の構成とすることは,甲2発明Bに甲1の上記技術を適用するに際して,当業者が適宜なすべき単なる設計変更であり,当業者が容易に推考し得たことである。

そして,訂正発明1を全体として見ても,その作用効果は,当業者の予測の範囲内であり,格別顕著なものではない。

したがって,訂正発明1は,甲2発明B及び甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

本件訂正後の請求項2~11(請求項5を除く。)は,請求項1を直接又は間接に引用して,発明特定事項を規定しており,訂正発明1の構成を備える発明であるが,上記のとおり,訂正発明1は,甲2発明B及び甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるし,訂正前の請求項2ないし請求項11に直接記載されている発明特定事項,すなわち,他の請求項を引用する部分ではない記載によって規定されている発明特定事項は,甲1若しくは甲2(甲24)に記載されている事項又は周知の技術的事項である。

また,請求項3は,「個包装(11)の少なくとも一部」を「上記主要面において個包装(11)の上記切離し部分の一部」に限定するとともに,「シート(110)の少なくとも一部」を「シート(110)の一部」に限定し,さらに,訂正前の請求項3に従属していた請求項5の発明特定事項を加える訂正が請求されているが,これよって導入される技術的事項も,甲2(甲24)に記載されている事項又は周知の技術的事項である。

したがって,仮に,本件訂正が認められたとしても,訂正発明2~4及び6~11は,甲2発明B,甲1に記載された発明,及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(訂正要件の判断の誤り)

本件訂正は,本件明細書の記載の範囲を超えた,新規事項を追加する訂正に該当しないものであるのに,審決が,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項に違反するとして,訂正を認めなかったのは違法である。

(1)  主要面の一方に永久接着手段(80)が配置され,主要面の他方に永久接着手段が存在しない構成は,図17及び18に記載されており,図18を見れば,切離し部分(170)が主要面の一方(上側の面)の一点のみで接着されていることが明白である。

すなわち,図17及び18を予断なく客観的に見れば,図1に示す様式でもって個包装(11)を折り畳んでなる製品(10)が4個並んで外箱(41)内に配置されており,各製品(10)は,主要面の一方(上側の面)において個包装(11)の切離し部分(170)が永久接着手段(80)によって外箱(41)に接着され,かつ,主要面の他方(下側の面)には永久接着手段(80)が存在しない構成が開示されている。図18では,外箱(41)内に残った切離し部分(170)が図示されており,下側の面に永久接着手段(80)が存在しないことが明らかである。本件特許は,複雑な機械装置ではないから,図17及び18のような比較的簡単な図であっても,訂正事項2を含む訂正発明1の構成要素がすべて開示されており,これに接した当業者が容易に実施可能である。断面表示などがなくとも,当業者であれば,主要面の一方に永久接着手段(80)が設けられ,他方には永久接着手段(80)が存在しないものと一義的に理解することができる。

(2)  審決は,シート(110)の形状が,図12と同様であって,上面と下面で同一であると認められる図15には,製品(10)がシート(110)の上下両面と永久接着手段(80)で接着されていることが示されていることからすれば,図15は図12の断面図ではないものの,同様に,図12の斜視図で示されたものにおいては,製品(10)は,シート(110)の上下両面と永久接着手段(80)で接着されていると解することが自然であるとし,図12と同様に,図17及び18は斜視図であることから,これらの断面表示がないからといって,これら図面の図示下面となる製品(10)の主要面が接着されていないことを示しているとはいえないとした。

しかし,上記判断は,以下のとおり,誤りである。

すなわち,図12よりも前の図番を有し,本件明細書の図12に関する【0039】よりも前の【0026】で説明されている図7の例では,外箱(41)の切離し部分(81)に与えられている永久接着手段(80)は,明らかに,主要面の一方(上側の面)のみにあり,下側の主要面には永久接着手段は存在しない。図8の例及び9の例においても同様であり,いずれも永久接着手段(80)が主要面の一方(上側の面)のみにある構成が開示されている。

そして,図12は,【0039】に,「図12に示すパケットにおいては,シート(110)の一端縁に沿って配置されたシート(110)の切離し部分(130)に,永久接着手段(80)が与えられている。」と記載されているように,図7~9の例の外箱(41)の切離し部分(81)に代えてシート(110)に切離し部分(130)を設けるようにしたものであるから,図示されているそのままに,永久接着手段(80)が主要面の一方(上側の面)のみにある構成と理解すれば足りる。

これに対し,図15は,【0045】に「図15の断面図に示すパケットの他の好ましい実施例」と記載されているとおり,図12等とは異なる実施例であることが明らかである。しかも,図15は,図12の例よりも後段で説明されているものであるから,審決のように,図15の記載を根拠として図12の構成ひいては図17及び18の構成を解釈することは誤りである。

(3)  審決は,図示することが可能であれば,図示しなければならないものではないから,図17及び18では,透視図の形で,図の下面側に永久接着手段(80)が図示されていないからといって,図の下面側に永久接着手段(80)が存在しないことを示していることにはならないとした。

しかし,上記の認定は,積極的な断面表示がないことから下面側の永久接着手段(80)の有無が不明であるとする上記(2)の判断と矛盾する。図17及び18は,下面側に永久接着手段(80)が存在しないがゆえに,当該永久接着手段(80)が図示されていないのである。

(4)  訂正発明1では,切離し部分(170)の中で主要面の一方のみが永久接着手段(80)によりパケットに固定されているため,スティック状の個包装製品(10)を引っ張ったときに,全周360°の中の一部(つまり永久接着手段(80)により固定された主要面部分)に引張力が集中し,この部分から切取線(171)に沿った裂け目が生じ,徐々に裂け目が全周に拡大し,最終的に切離し部分(170)が切り離される(甲14の参考図2参照)との効果が生じることになる。このような作用効果は,本件明細書に記載されていないが,図17及び18に開示された主要面の一方のみで永久接着された構成から必然的に生じる作用効果である。

したがって,かかる作用効果によって,新たな技術的事項を導入することにはならない。

(5)  作用効果に関し,被告が示す参考図である下記の「展開して示した力の作用を示す参考図」に示されている状態は,個包装11を拡げて両側から引っ張った場合にのみ該当するものであって,被告の主張は,技術的に誤りである。

当業者には自明なように,下記の「参考図」のように個包装製品10を手指で引っ張ると,紙やパラフィン紙などからなる個包装11のみならず個包装製品10の中身(例えばガムスティック)が引き出されるから,上方の参考図でJ字形をなす距離ℓ2の区間が,そのまま図の左側へ移動しようとする。したがって,下方の展開図のように引張力fを伝達することはできない。すなわち,上方の参考図のように手指で個包装製品10を摘んで引っ張ることにより個包装製品10が図の左側へ動くと,個包装11の上面側部分には,永久接着手段80と手指との間で直線的に引張力fが作用し,切取線171にこの引張力fが集中的に作用する。しかし,個包装11の下面側部分では,紙やパラフィン紙などからなる個包装11は,図の永久接着手段80の右端で固定されているものの,個包装製品10の中身(ガムスティック)が左側へ動く結果,固定点(永久接着手段80の右端)から斜めに延びるように弛んでしまう。したがって,下面側部分の切取線171には引張力fは集中しない。

file_2.jpgeen BAL TRLEAOPRERTESR 171 80 174 pod ni 02 F 7+ — a eal2  取消事由2(本件発明12の引用発明との相違点の認定の誤り及びこれに伴う進歩性判断の誤り)

(1)  相違点の認定の誤り

審決の相違点の認定(【相違点1】及び【相違点2】)は,本件発明12及び甲2発明Aの技術的な本質を看過した恣意的なものであり,誤りである。

本件発明12は,方法発明であるから,構成要素ごとに正しく比較検討すべきであり,正しくは,相違点は次のとおり認定されるべきである。

相違点① 本件発明12は,切取線によって区画された切離し部分を有する各々の個包装で各製品を包装するのに対し,甲2発明Aは,切取線及び切離し部分を具備しない各々の個包装で各製品を包装する点。

相違点② 本件発明12は,切離し部分においてシートに個包装製品を永久的に接着するのに対し,甲2発明Aは,長手方向の中間部においてシートに個包装製品を容易に剥離するように接着する点。

相違点③ 本件発明12は,シートを外箱に永久的に固定するのに対し,甲2発明Aは,必ずしも永久的か否か不明である点。

相違点④ 本件発明12は,消費者が切離し部分を引き裂くことによって製品を小出しできるようにするに対し,甲2発明Aは,消費者が個包装を破ることなく製品を小出しできるようにする点。

(2)  進歩性の判断

これらの相違点①~④に関し,甲1は,切目線4を有する包装体2の下部を収容容器3に直接に固着した構成であり,包装体2と収容容器3との間にシートを介在させることは記載がないから,相違点②及び③について,何ら示唆を与えるものではない。

すなわち,本件発明12では,相違点②及び③のように,シートに個包装製品の切離し部分を永久接着し,次いで,このシートを外箱に永久接着することで,初めて相違点④のように切取線に沿った引き裂きが可能となる。

甲1は,個包装製品をシートに永久接着すること及びシートを外箱に永久接着することを示唆していない。甲1では,包装体2は,あくまでも,外箱に相当する収容容器3に直接に固着されている。

したがって,本件発明12は,甲2発明A及び甲1に記載の事項から当業者が容易に発明することができたとする審決の判断は誤りである。かかる誤りは,審決の結論に影響を及ぼすから,審決は違法として取り消されるべきである。

3  取消事由3(本件発明12の進歩性判断の誤り)

(1)  相違点1についての判断の誤り

ア 甲2発明Aは,各ピースを自由に動かないように緩く保持し,消費者が取り出そうとした際には容易に取り外せるようにすることを目的とし,そのために,蝋(ワックス)のような材料を用いて,個々の製品を剥離ないし離脱可能なようにシートに接着(「releaseably attached」ないし「removably attached」)したものである。周知のように,蝋は加熱することで溶融するが,冷却して固化した状態では,極めて弱い力でもって,粘着性を伴わずにパリッと容易に剥離する。

甲2には,「releaseably attached」なる記載及びこれに類似した表現の記載が数十箇所に亘って存在する。そもそも発明の名称が「Package having releaseablysecured consumable products」(剥離可能に保持された消費製品を有するパッケージ)である。しかも,【0059】には,蝋の面積を変更することで保持力を調節することが記載されている。さらに,【0035】には,甲2発明Aの利点の一つとして,パッケージが再利用可能であることが挙げられている。

このように,甲2発明Aの技術的な本質は,容易に剥離するように製品を保持することにある。そして,甲2には,ガムなどの製品を無包装で,つまり,無垢のままシートに保持する実施例と,個包装した製品をシートに保持する実施例とが記載されており,個包装した製品の場合には,包装紙を破くことなく製品がシートから離脱する。

これに対し,甲1に記載の技術は,被包装物10を露出させるために,包装体2が切目線4で破れるように包装体2の一端部を堅固に永久接着する技術であり,取出し後に,永久接着された包装体2の端部が収容容器3内に残るものである。

このような堅固な永久接着を伴う甲1に記載の技術は,蝋などで剥離可能(releaseably attached)とする甲2発明Aの技術的な本質とは相反するものであるから,当業者が甲2発明Aへの適用を試みることはあり得ない。

イ また,甲2発明Aが,いくつかの製品が取り出された後においても製品を保持するとともに,パッケージ内で製品に容易にアクセスできるようにすることを技術課題とするのに対し,甲1は,喫食などのために包装物を露出させることを技術課題とするものであるから,両者の課題は共通しない。甲2(甲24)には,個包装した製品を露出させたい,という課題の示唆はない。むしろ,無垢の製品を剥離可能に保持することが開示されているから,個包装した製品については,個包装がきれいなまま取り外されるようにしているのである。

したがって,この点からも,甲2発明Aに,甲1の技術を適用する動機付けはない。

ウ 審決の「甲2発明Aに,甲1のこの技術を適用すると,適用後の発明は,この消費者にとって有用な作用効果を奏することが,当業者に明らかである」との理由付けは,本件発明12を参照して甲2発明Aと甲1記載の技術とを組み合わせてみた後のいわゆる「後知恵」である。本件明細書に接することがなければ,当業者が甲2発明Aに甲1記載の技術を適用することを試みる動機付けは存在しない。

(2)  相違点2についての判断の誤り

審決は,相違点2について,甲2発明Aに甲1に記載の技術を適用することを前提として,単なる設計変更であると認定した。

しかし,甲2(甲24)には,シートをハウジングに接着する接着領域40として蝋が例示されており(【0051】),これは明らかに剥離可能な非永久接着である。甲2(甲24)にはシートをハウジングに永久接着することは記載がない。仮に永久接着したとすると,甲2発明Aの利点の一つであるパッケージの再利用(【0035】)は不可能である。

これに対し,本件発明12は方法発明であるが,最終的に箱詰めが完了した状態において製品を引っ張ることで切離し部分が引き裂かれるようにするためには,相違点1の構成を満たすと同時に,相違点2の構成(シートを外箱に永久的に固定すること)を満たす必要がある。

したがって,相違点1と相違点2とは一体不可分の関係にあり,甲2発明Aを出発点として本件発明12に想到するためには,相違点1についての変更と相違点2についての変更とを同時に加える必要があり,この点で甲2発明Aと本件発明12との隔たりは大きいのである。

切取線があっても個包装の引き裂きに必要な引張力は,甲2発明Aが想定する蝋の剥離に必要な力よりも遙かに大きい。このような大きな引張力に耐えるようにシートを外箱に永久接着することは,甲2(甲24)には記載がない。そして,甲1は,むしろ,このような大きな引張力のために個包装を外箱に直接に固定することを教示するものである。

したがって,相違点2について,相違点1が満たされることを前提として単なる設計変更であるとする審決の認定は誤りである。

4  取消事由4(訂正発明1の進歩性判断の誤り)

(1)  審決では,甲2発明Bと訂正発明1との相違点D-(「製品を該パケット内に保持するため」「個包装」「の少なくとも一部を該パケットの少なくとも一部に接着する」手段が「永久接着手段」であるのに対し,甲2発明Bでは,このような構成を備えていない点)について,甲1記載の技術を甲2発明Bに適用して訂正発明1の構成とすることが容易と判断した。しかし,これは,「接着」という用語のみに拘泥し,甲2発明B及び甲1の技術的な本質を看過した判断であって,誤りである。

すなわち,甲2発明Aと同じく,甲2発明Bは,各ピースを自由に動かないように緩く保持し,消費者が取り出そうとした際には容易に取り外せるようにするために,無垢の製品ないしは個包装した製品を「releaseably attached」することが技術的な本質である。甲2(甲24)における「attach」や「adhere」を「接着」と訳すとしても,甲1のように剥がれることのない「永久接着」が「releaseablyattached」に含まれないことはもちろんであり,甲2(甲24)の文脈に沿えば,「releaseably attached」に代えて「永久接着」を用いることはできない。

しかも,甲2(甲24)は,無垢の製品又は個包装した製品をシート上に保持するために「releaseably attached」するのであり,甲2発明Bとして個包装を具備する実施例では,製品表面が個包装で覆われているために個包装がシートに「接着」(releaseably attached)されているのである。個包装を破るために個包装を固定しているわけではない。つまり,甲2発明Bの接着の技術的意義は,個包装端部を固定することではなく,内部の製品そのものを全体として所定位置に保持することにある。

一方,甲1に記載の技術は,包装体2を切り裂くことに技術的な本質があり,切裂きに必要な引張力が切目線4に集中するように,切目線4を挟んで手指と反対側となる包装体2の端部を堅固に固着するのである。ここでは,固定すべき対象物は,内部の製品ではなく,切り裂かれる包装体2である。

このように,両者の技術的意義が異なるから,甲2発明Bの「releaseablyattached」に代えて,甲1記載の永久接着を適用することはできず,少なくとも,当業者が適用を試みることはない。

(2)  また,前記3で述べたように,両者の課題は共通せず,甲2(甲24)には,個包装した製品を露出させたいという課題の示唆はなく,甲2発明Bに,甲1の技術を適用する動機付けはない。

(3)  以上から,審決のした訂正発明1に係る進歩性判断は誤りである。これにより,訂正発明1を構成として含む訂正発明2~4,6~11についての進歩性判断も誤りであるから,上記に係る部分についても取り消されるべきである。

5  取消事由5(訂正発明3の進歩性判断の誤り)

訂正発明3においては,個包装(11)の切離し部分(170)とシート(110)との接着及びこのシート(110)と外箱(41)の接着が,双方ともに,個包装(11)の切裂きに必要な引張力に耐え得る「永久接着」となっており,個包装(11)に作用した引張力は,永久接着手段(80)を介してシート(110)に伝わり,このシート(110)から永久接着手段(140)を介して外箱(41)に伝わる。そして,外箱(41)を消費者が一方の手で固定していることで,切取線(171)に有効に引張力が作用し,切取線(171)に沿った切裂きが行われることになる。

したがって,訂正発明3を甲2発明Bと比較すると,訂正発明1に加えて更に下記の点で相違する。

【相違点⑤】

訂正発明3では,切取線(171)を有する個包装(11)がシート(110)に永久接着され,このシート(11)が更に外箱(41)に永久接着されているのに対し,甲2発明Bでは,切取線を具備しない個包装がシートに剥離可能に接着(releaseably attached)され,このシートが外箱におそらく剥離可能に接着している点。

このような構成の差異により,訂正発明3では,消費者が引き抜いたときに,永久接着手段(80)ないし(140)が剥がれたりシート(110)が破れたりする前に,個包装(11)が切取線(171)に沿って切り裂かれる。これに対し,甲2発明Bでは,最初に,シートから個包装が剥離する。

したがって,訂正発明3の相違点及びこれに伴う作用の相違を看過した審決の進歩性判断は誤りである。これにより,訂正発明3を構成として含む訂正発明4,6~11についての進歩性判断も誤りであるから,訂正発明3のみならず,訂正発明4,6~11についても取り消されるべきである。

第4被告の反論

1  取消事由1に対し

訂正事項2は,当業者によって,本件明細書に記載されているすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,本件明細書の範囲内においてする訂正とはいえないから,審決の判断に誤りはない。

(1)  原告の主張1(1)に対し

図17及び18に関し,本件明細書の【0048】に「図18,19,20,21に示すパケットの他の特定の実施例においては,永久接着手段は,個包装(11)の切離し部分(170)に与えられる。」と記載されるほかに,永久接着手段が与えられる部分に関する記載はない。

そうすると,図17及び18の下面側に永久接着手段(80)が存在するかどうかは不明であるから,その旨の認定した審決には誤りがない。

(2)  原告の主張1(2)に対し

原告は,図17及び18において,主要面の他方(下側の面)に永久接着手段が存在しないことの根拠を図7~9の構成に求める。しかし,図7~9は,製品の外箱(41)の一部に切取線(82)を形成して,外箱(41)の一部を切離し部分とする構成を示しており,かかる構成においては,外箱(41)の形状が図示上面と図示下面では異なっているものであり,本件発明1の実施例を示すものではない。

したがって,図7~9において,主要面の一方のみに永久接着手段(80)が配置されているからといって,図17及び18の構成において,主要面の他方に永久接着手段が存在しないことを根拠付けるものではない。

(3)  原告の主張1(5)に対し

原告の主張1(5)の「参考図」及び被告の示す参考図である「展開して示した力の作用を示す参考図」にあるとおり,個包装製品10の一端を上下につまみ,力Fで引っ張ると,個包装製品10の上面側及び下面側は,底面を介して繋がっているから,双方の面に引張力fがかかり,この引張力fにより切取線171に沿った裂け目が生じる。上面側において,永久接着手段80から切取線171までの距離 ℓ1は短く,下面側において,永久接着手段80から切取線171までの距離 ℓ2は長いが,距離 ℓ1,ℓ2の長短は,切取線171に加わる引張力fの大小には無関係である。

したがって,主要面部分に引張力fが集中し,この部分から切取線171に沿った裂け目が生じてゆく旨の原告の説明は,作用効果を正しく説明するものではない。また,仮に原告の説明する作用効果が正しいとしても,原告も認めるとおり,そのような作用効果は本件明細書に記載も示唆もされていない。

よって,審決のした訂正要件の判断に誤りはない。

2  取消事由2に対し

(1)  審決の相違点の認定には,原告の主張するような誤りはない。

(2)  たとえ,本件発明12と甲2発明Aとの間に,原告の主張する相違点①~④があったとしても,これら相違点①~④は,甲1に記載の技術を甲2発明Aに適用することにより解消できるものである。

すなわち,相違点①に関し,甲1には,包装体(個包装)の一部を剥離し,被包装物の一部を露出させながら包装体を取り出すことのできる構成が開示されているから,その前提として,切取線によって区画された切離し部分を有する個包装で製品を包装することが開示されている。

また,相違点②に関し,甲1には,包装体を収納容器から取り出す際,包装体が切目線の部分で切離され,切離し部分である包装体下方部は収納容器底面又は側面に固着することが開示されているから,相違点②に係る事項は,甲1に開示されている。本件発明12との差異は,切離し部分を,「シート」に接着するか,「収納容器」に接着するかの違いにすぎない。

さらに,相違点③は,審決において【相違点2】と認定されている事項である。この【相違点2】(原告のいう相違点③)は,審決が認定しているとおり,「甲2発明Aに甲1に記載の技術を適用する際に,シートと外箱との接着力を,個別包装された製品とシートとの接着よりも強くするため,シートと外箱との接着方法として「永久的に」固定することは,技術の適用に際して,当業者が適宜採用すべき単なる設計変更である。

また,相違点④に関し,甲1に同等のことが記載されているから,甲1に記載の技術を甲2発明Aに適用することにより解消できる。

そして,甲2発明Aに対し,甲1に記載の技術を適用するに際し,甲2発明Aに開示のシートを介して個包装された製品をシートに接着し,かつ,そのシートを外箱に接着することは,当業者にとって容易に採用することができる事項であり,本件発明12は,甲2発明A及び甲1に記載の事項から,当業者が容易に発明することができたものである。

3  取消事由3に対し

(1)  進歩性についての特許庁審査基準によれば,動機付けとなり得るものとして,「技術分野の関連性」が挙げられ,「発明の課題解決のために,関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは,当業者の通常の創作能力の発揮である。」とされ,「両者の具体的な技術的課題(目的)が同一でないことは,引用発明1に対する引用発明2の技術手段の適用が,当業者にとってきわめて容易であったことを否定する論拠にはならない。」(東京高判平9.6.10(平成8(行ケ)21))と説明されている。

甲2発明Aは,「包み(パッケージ)に関する発明であり,消耗品,特に菓子製品を保管および分配するための包みに関する」(【0001】)発明であり,その課題は「多数の製品が取り外された後でさえ,製品を保持することのできる消耗品包みを提供すること」(【0008】)であり,また「製品を保持し個別に取り出せる改良されたパッケージを提供する。」(【0010】)ことである。

一方,甲1に記載の技術は,「チューインガム等の被包装物を,紙等の包装体で包装し,これを,更に収納容器に収納した形態の容器入り包装体に係り,更に詳しくは,収納容器から包装体を取り出す際,包装体を片手で引っ張ることにより,包装体の一部を剥離し,被包装体の一部を露出させながら包装体を取り出すことのできる容器入り包装体に関する。」(【0001】)ものである。

このように,甲2発明Aと甲1に記載の技術は,明らかに同一の技術分野に属している。そして,甲2発明Aの技術的課題は,「製品を保持し,個別に取り出せ,残った製品の保持は維持すること」であり,甲1発明は,「包装体の取り出しを便利にすること」である。そうすると,両者の技術的課題は同一とはいえないが,製品(包装体)をパッケージ(容器)から取り出す点においは共通の技術である。

したがって,甲2発明Aに甲1に記載の技術の適用を試みることは,当業者の通常の創作能力の発揮であり,適用についての動機付けがある。

しかも,甲1には,片手で包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができる(【0005】)という,消費者にとって有利な作用効果が説明されている。それゆえ,甲2発明Aに,甲1の技術を適用すると,適用後の発明は,消費者にとって有用な作用効果を奏することは,当業者にとって明らかである。

この有用な作用効果は,甲1に明記されており,本件発明12を参照して甲2発明Aと甲1記載の技術とを組み合わせてみた後の「後知恵」ではない。

したがって,「後知恵」を理由に甲2発明Aに甲1記載の技術を適用する動機付けが存在しない旨の原告主張は失当である。

(2)  「相違点1と相違点2とは一体不可分の関係にある」とは原告の誤った思い込みにすぎない。相違点2に関し,「甲2発明Aに甲1に記載の上記技術を適用する際に,シートと外箱との接着力を,個別包装された製品とシートとの接着力よりも強くするため,シートと外箱との接着方法として「永久的に」固定することは,技術の適用に際して,当業者が適宜採用すべき単なる設計変更である。」とした審決の判断に誤りはない。

4  取消事由4に対し

甲2発明Bに対する甲1記載の技術の適用及びその動機付けについては,上記3で述べたとおりであり,この点に関する審決の認定に誤りはない。

5  取消事由5に対し

甲2発明Bに甲1に記載の技術を適用する際に,シートと外箱との接着力を,個別包装された製品とシートとの接着力よりも強くするため,シートと外箱との接着方法として「永久的に」固定することは,技術の適用に際して,当業者が適宜採用すべき単なる設計変更である。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について

(1)  本件発明について

ア 本件発明の概要

本件明細書によれば,本件発明について,以下のとおり認められる。

本件発明は,パケットに関し,詳しくは,食品,菓子,薬品又は他の種類の製品の箱詰めに使用されるパケットに関するものである(【0001】)。

スティックの何本かが取り出された後にもその形状が保たれる形式のパケットは,周知である。従来,パケット内あるいはパケットに収められる中間の包装内にスティックを非永久的に保持させるように,ロウなどの非永久的接着剤を塗布するものがあるが,製品を取り出すのに要求される力の大きさと,製品をパケット内に保持しておくために要求される力の大きさとの間で折合いをつける必要があり,接着剤の量が過剰である場合,製品は正しく保持されるが,取り出しにくくなり,接着剤が不十分である場合,隣の製品が取り出された後に残りの製品が動いてしまうという課題があった。他の従来技術として,パケット内における摩擦力拘束手段からなり,この手段は,製品を保持するのに適度な力を与え,これによって,製品を容易に取り出すことができるとともに,隣の製品が除かれたときにも残りの製品が動かないようにすることができるものがあるが,パケットの生産コストが著しく増えてしまうだけでなく,高い生産速度を達成することが難しく,摩擦の作用を利用する場合,使用される材料,温度及び不規則な形状によって摩擦力の大きさが変化してしまうので,製品を取り出すのに必要な力の大きさを較正することができない,という課題があった。(以上【0003】~【0010】)

このような課題に鑑みて,本件発明は,個別の包装に包まれた製品についてのパケットであって,該パケット内に製品を保持するとともに所定の大きさの力を及ぼす手段を備えるパケットを提供することを目的とする(【0011】)。

このため,本件発明は,少なくとも1つの個包装をパケットの少なくとも一部に接着する永久接着手段を採ることとし,当該接着手段は,所定の様式で個包装又はパケットから切り離すことができる部分に配置することにより,生産の複雑性やコストを著しく増やすことなく,パケットから製品を分離させるための所定の大きさの力が保証されるようにしたものである(【0012】,【0013】)。

これにより,パケット又は製品包装の一部分を介して保持力を与え,この部分を,ユーザが必要に応じて引き裂くようにしたことで,製品を簡単に箱詰めできるとともに,隣の製品が取り出された後でも,残りの製品を,使用される瞬間まで適切に保持することができるとの効果を奏する(【0069】)。

イ 本件発明の実施例等

本件明細書(甲11)に示された図面には,シートを含む構成(図12~16,21),シートを含まない構成(図7~9,17,18),切離し部分が外箱にある構成(図7~9),切離し部分がシートにある構成(図12~14),切離し部分が個包装にある構成(図17~20)など,様々な実施例が示されている。

また,本件明細書には,実施例に関し,次の記載がある。

【図面の簡単な説明】

【0014】

・・・

【図12】シートの切離し部分の第1の実施例を示す図。

【図15】個包装製品,1枚のシートおよび1つの外箱からなるパケットの第1の実施例の断面図。

【図17】個包装の切離し部分の第1の実施例を示す図。

【図18】図17の実施例で,パケットから製品が1個取り出されたときを示す図。

【発明を実施するための形態】

【0019】

外箱は,製品の少なくとも一部を収容するように設計されており,第1の好ましい実施例においては,外箱の後方面に永久接着手段(80)が与えられ,この永久接着手段(80)によって,製品(10)が所定の位置に保持される。

【0026】

図7は,外箱(41)の切離し部分(81)に永久接着手段(80)が与えられているパケットを示す。この実施例においては,外箱の切離し部分(81)は,外箱(41)自体に形成された切取線(82)を介して,該外箱にくっ付いている。切取線(82)は,少なくとも一部は,外箱(41)を形成している材料中に形成された穴あき線の形態である。

【0028】

切取線(82)は,所定の大きさの引裂力を要求するように設計されている。切取線の長さ,深さおよび方向を変えることによって,製品を取り出すために引き裂くのに必要な力の大きさを予め決めることができる。

【0029】

特定の一実施例においては,外箱の切離し部分は,タブ(81)の形態であって,このタブ(81)は,外箱の一つの面における端縁の一つから突出している。タブは,種々の形状とすることができ,特には,ほぼ円形の形状とすることができる。

【0030】

図8に示す第2の実施例においては,タブ(81a)は,製品の端部から長手方向に突出しており,これによって,人が製品に触ることなく,製品を取り出すことができる。

【0031】

図9に示す第3の実施例においては,外箱の切離し部分(81b)は,外箱の一つの面の内側面に設けられる。

【0032】

また,パケットの他の好ましい実施例においては,外箱の内側にシートが配置される。

【0033】

シート(110)は,第1の好ましい実施例においては,製品(10)を支持するように設計されており,このシートの後方面に,製品(10)を所定の位置に保持するための永久接着手段(80)が与えられる。

【0039】

図12に示すパケットにおいては,シート(110)の一端縁に沿って配置されたシート(110)の切離し部分(130)に,永久接着手段(80)が与えられている。

【0045】

図15の断面図に示すパケットの他の好ましい実施例においては,シート(110)と外箱(41)との間に,永久接着手段(140)が与えられている。この手段によって,個包装製品が取り出されている間にも,シートは外箱内にしっかりと保持されている。

【0046】

この実施例での特定の一形態においては,永久接着手段は,永久両面接着性フォイル支持体の形態であり,間に挟まれた分離可能な支持体がシート(110)を構成するとともに,パケットに面している接着面が永久接着手段(140)を構成し,製品包装に面している接着面が永久接着手段(80)を構成している。

【0047】

図16の断面図に示すパケットのさらなる好ましい実施例においては,対応するシート内に封入された個包装製品のグループが2つ重ねられ,外箱(41)内に配置されたシート(110)間に永久接着手段(170)が与えられる。この手段は,2層よりも多くの層とした場合にも,各シートをしっかりと保持することができるが,外箱と接していない中央の製品グループのシートを固定することはできない。

【0048】

図18,19,20,21に示すパケットの他の特定の実施例においては,永久接着手段は,個包装(11)の切離し部分(170)に与えられる。個包装の切離し部分(170)は,個包装自体に形成された切取線(171)を介して,該個包装にくっ付いている。切取線(171)は,個包装(11)を形成している材料中に形成された穴あき線の形態にすることができる。

【0052】

図18に示す第2の実施例においては,個包装製品を取り出すことによって剥き出される製品の部分(9)の大きさが,指で触ることなく口を使って直接的に個包装の残部(11b)から製品自体を引き出すのに十分な大きさとなるように,切取線(171)が個包装上に配置される。

【0053】

これを簡単に行うためには,切取線と,剥き出される製品の端部との間の距離が3mmよりも長いことが必要であり,すなわちパケットから製品を取り出したときに剥き出される製品の部分(9)は,少なくとも3mmの長さがなければならない。

【0054】

製品がチューインガムのスティックである場合,パケットから分離した個包装の一部を使って,噛み終わったチューインガムを捨てることができるように,切取線と,製品の縁端との間の距離が,製品自体の長さの半分よりも長くてはいけない。すなわち,パケットから製品を取り出したときに剥き出される製品の部分(9)は,製品自体の長さの半分よりも短くなければいけない。

【0055】

また,図21の断面図に示すパケットのさらなる実施例においては,パケットは,重ねられた製品のグループを収容する。製品のグループをパケット内に正しく保持するために,最後の個包装(11)とシート(110)との間には永久接着手段(80)が与えられ,単一の製品を包んでいる各個包装(11)の間には非永久接着手段が与えられる。

【0056】

これらの接着手段は,2つの主要面の少なくとも一方つまり包装製品の2つの大きな面の1つ,側面あるいは端面に与えることができる。

【0058】

これまで説明した実施例のすべてにおいて,永久接着手段は,永久的接着剤または他の永久的な機械的固着システムによって実施することができる。

【0059】

接着剤としては,ホット・メルト・グルー,コールドグルーおよびコンタクトグルー(接触糊)を使用することができる。

【0060】

一般に,接着手段は,製品が接着されている面の一部を引き裂くのに必要な力よりも製品を剥がすのに必要とする力の方が大きいときに,永久的であるとみなすことができる。

【0061】

非永久接着手段は,ロウないし着脱可能接着剤によって実施することができる。

【0062】

本発明の箱詰め原理は,多様な製品,例えば,チューインガム,板チョコ,ビスケットまたはスナックなどの食品に適用することができる。

【0065】

本発明のパケットを形成する方法は,第1の好ましい方法によると,シートに個包装製品を永久的に接着し,このシートを外箱中に挿入し,消費者が切離し部分(シートの部分あるいは個包装の部分のいずれとしてもよい)を引き裂くことによって製品を掴んで小出しすることができるように外箱の形成を完了することを含む。

【0066】

第2の好ましい方法によると,外箱にシートを挿入し,このシートに個包装製品を永久的に接着し,消費者が切離し部分(シートの部分あるいは個包装の部分のいずれとしてもよい)を引き裂くことによって製品を掴んで小出しすることができるように外箱の形成を完了することを含む。

【0067】

本発明のパケットを形成する方法は,第3の好ましい方法によると,外箱に個包装製品を永久的に接着し,消費者が切離し部分(シートの部分あるいは個包装の部分のいずれとしてもよい)を引き裂くことによって製品を掴んで小出しすることができるように外箱の形成を完了することを含む。

【0068】

第4の好ましい方法によると,弱くした線つまり切取線を包装材料中に形成し,この材料で包装した製品および該包装材料の一部をパケット内に永久的に接着することを含む。

【0069】

本発明は,以上のように,パケットまたは製品包装の一部分を介して保持力を与え,この部分を,ユーザが必要に応じて引き裂くようにしたことで,製品を簡単に箱詰めできるとともに,隣の製品が取り出された後でも,残りの製品を,使用される瞬間まで適切に保持することができるパケットを提供する。

file_3.jpgFIG. 12 FIG. 18 eo 140 110 _ SS 80 doa? "file_4.jpg(2)  本件訂正に関しての新規事項の追加の有無について

本件訂正は,前記のとおり,「上記永久接着手段(80)は,上記切離し部分(170)の中で,上記主要面の一方において上記切取線(171)と上記端縁との間に配置されており,この永久接着手段(80)によって個包装されたスティック状の製品が上記主要面の一方においてパケットに個々に固定されている一方,隣接する製品同士は互いに接着されておらず,」という発明特定事項を付加する訂正(訂正事項2)を含み,永久接着手段は,切り離し部分(170)の中で,「主要面の一方においてのみ」切取線(171)と端縁との間に配置される構成(本件訂正事項)に限定するものである。

そこで,上記の本件訂正事項が,本件明細書に記載した範囲のものといえるか否かについて検討する。

本件明細書の本文の記載を見るに,本件発明の課題,課題解決から見て,永久接着手段(80)が,製品の主要面の両面にある場合に限られる旨の記載も,一方に限る旨の記載もない。

そして,訂正発明1は,シート(110)を構成要件として含まない発明であり,かつ,個包装に切離し部分がある構成であるところ,これに対応した実施例に係る図面は,図17及び18である。図18は,図17の実施例で,パケット(外箱)から個包装された製品が1個取り出された状態を示す斜視図であるが,製品の主要面の上面に永久接着手段(80)が図示されているものの,主要面の下面には永久接着手段(80)が図示されていない。同図が透視図であることに照らすと,当該記載に触れた当業者は,主要面の下面に永久接着手段(80)が示されていない以上は,下面には永久接着手段(80)は存しないと理解するのが自然である。

また,接着手段は,「所定の様式で個包装またはパケットから切り離すことができる部分に配置され」る(【0012】)ものであり,【0060】に示すように,永久接着手段と切離し部分とは密接に関連しているところ,外箱に切離し部分を有する構成に関するものであるが,【0029】,【0031】には,「外箱の一つの面」に切り離し部分がある構成が記載され,シートを有する構成に関するものであるが,【0033】には,「シートの後方面」に永久接着手段が与えられる構成が記載されており,「切離し部分」が両面ではなく,一側面にある構成についての記載がある。さらに,【0056】には,「これらの接着手段は,2つの主要面の少なくとも一方つまり包装製品の2つの大きな面の1つ,側面あるいは端面に与えることができる。」との記載があり,これは,実施例全体に係るものなのか,図21の実施例に係るものなのかは,必ずしも明らかではないが,少なくとも,本件発明において,包装製品の主要面の両面に接着手段を有する構成のみが,本件明細書に記載されているわけではないものと理解することができる。

以上を考え合わせると,図18について,主要面の下面にも永久接着手段(80)が存在するにもかかわらず,その記載を省略したものとして,主要面の両面に永久接着手段を有する構成のみが開示されているものと限定して捉えるのは相当でなく,同図は,主要面の上面にのみ接着手段を有する構成を開示しているものと認められるから,「主要面の一方においてのみ」切取線(171)と端縁との間に配置される構成(本件訂正事項)が本件明細書に記載されていると認められる。

(3)  審決の判断について

ア 審決は,図15と図12とは,シート(110)の形状が同様であり,図15の断面図では,永久接着手段(80)が製品の主要面の両面にあることが示されていることからすれば,図12の斜視図には,主要面の下面の接着手段が図示されていないとしても,製品とシートの上下両面とが永久接着手段で接着していると解するのが自然であるとし,これと同様に,図17及び18においても,実際の実施例では製品の主要面の両面が永久接着手段で接着しているのに,下面の接着手段が図示されなかったにすぎないと判断する。

しかし,図12と図15は,シート(110)を有する点で共通するものの,図12と図15の対応関係は明らかではなく,図12の断面図が図15であるとする根拠はないから,図15で示された主要面の両面に配置された永久接着手段が,図12では下面のものが省略されていると断定することはできない。そうすると,透視図である図18の図面において上記のように上面にのみ接着手段が施されている構成が記載されているにもかかわらず,これを無視して,図12の下面に接着手段が記載されていないことを理由として,図17及び18の構成について,推し量るのは合理的でなく,採用できない。

イ また,審決は,「主要面の一方においてのみ」永久接着手段(80)を設ける構成それ自体は,本件明細書の記載から,当業者にとって自明であるといえるとしても,「切離し部分の中で主要面の一方のみが永久接着手段によりパケットに固定されていることにより,比較的小さな力Fでもって,容易にかつ確実に,切離し部分の切り離しが可能になり,また,消費者が引っ張っている途中で急に切れたりせずに,安定した形で切り離しを行うことができるという作用効果を奏する構成」という技術的思想が,当業者にとって自明であるとまではいえないとする。そして,この点につき,被告は,「参考図」及び「展開して示した力の作用を示す参考図」において,「上面側において,永久接着手段80から切取線171までの距離 ℓ1は短く,下面側において,永久接着手段80から切取線171までの距離 ℓ2は長いが,距離ℓ1,ℓ2の長短は,切取線171に加わる引張力fの大小には無関係である。」と主張する。

しかし,前記「参考図」において,個包装製品10をFの力で水平方向に引っ張った場合,永久接着手段80に接着された上面側の包装紙の切取線171部分と接着されていない下面側の包装紙の切取線171部分には,同じ引張力fが働くが,包装紙は,紙,パラフィン紙,金属フォイル,プラスチックフォイル又はこれらの材料の種々の組合せから形成される(【0017】参照)ことから,引張力fにより包装紙に伸びが生じることは自明である。そして,永久接着手段80で接着された部分から切取線171までの上面側の包装紙の距離 ℓ1は,永久接着手段80で接着された部分から下面側の切取線171までの包装紙の距離 ℓ2より短く,上面側の包装紙と下面側の包装紙は,同じ材質であり,伸びの割合は同じであることから,破断に至るまでに包装紙が伸び得る長さは,前記 ℓ1の長さに係る包装紙の方が,前記ℓ2の長さに係る包装紙より短くなる。

したがって,切取線部分171に同じ引張力fが加わった場合,切取線部分において破断まで許容される伸びを超えた場合に,他の部分より弱い切取線部分において破断が生じることから,前記 ℓ2の長さに係る包装紙の切取線部分(下面側)より早く前記 ℓ1の長さに係る包装紙の切取線部分(上面側)が破断することとなる,すなわち,永久接着手段80により接着されている上面側の包装紙の切取線部分の方が下面側のそれより切り離れやすくなるものと認められる。

以上によれば,永久接着手段(80)が,主要面の一方のみにあれば,原告主張の作用効果を奏することはその構成自体から,当業者にとって自明であると認められ,当該作用効果によって新たな技術的事項が導入されたとすることはできない。

(4)  以上のとおりであるから,請求項1を訂正する事項である訂正事項2は,いわゆる新規事項とは認められず,訂正事項2が,特許法134条の2第9項で準用する同法126条第5項又は6項の規定に違反するということはできない。

よって,取消事由1には,理由がある。

2  取消事由2(本件発明12の引用発明との相違点の認定の誤り及びこれに伴う進歩性判断の誤り)

(1)  本件発明12について

本件明細書によれば,本件発明12は,「切離し部分においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し,上記シートを外箱内に挿入するとともに該外箱に永久的に固定し,消費者が切離し部分を引き裂くことによって上記製品を掴んで小出しすることができるように上記外箱の形成を完了する」ことを構成要件としており,①切離し部分においてシートに個包装製品を「永久的に」接着すること,②シートを外箱内に挿入するとともに該外箱に「永久的に」固定すること,の2つの要件によって,消費者が製品を掴んで小出ししようとした場合,個包装製品がシートを介して外箱に「永久的に」接着(固定)されていることにより,製品の包装が切離し部分で引き裂かれて,個包装製品が一部露出される形で小出しすることができるようにしたものである。

これにより,「パケットまたは製品包装の一部分を介して保持力を与え,この部分を,ユーザが必要に応じて引き裂くようにしたことで,製品を簡単に箱詰めできるとともに,隣の製品が取り出された後でも,残りの製品を,使用される瞬間まで適切に保持することができるパケットを提供する。」(【0069】)という効果を奏する。すなわち,個包装製品とシート間,シートと外箱間の接着(固定)が「永久的」なものであるため,消費者が製品を掴んで小出ししようとした場合の消費者の取り出し力が,個包装製品からシートを経て外箱まで伝達し,包装が強度の弱い部分である切離し部分で引き裂かれて,個包装製品が一部露出され,包装の一部がシートに残る形で個包装製品が小出しされるものである。

(2)  甲2発明について

甲2(甲24)によれば,甲2発明は,以下のとおりのものである。

甲2発明は,消費製品,とりわけ,菓子の貯蔵及び取出しのためのパッケージングに関するものである(【0001】)。ガム製品のような一度に製品の一部のみが消費されるような製品については,パッケージから数個の製品を取り出した後に残りの製品がパッケージから落ちやすいという問題や,開けたばかりのパッケージでは,パッケージのかなりの部分まで破らないと製品を取り出すことが困難であるという問題があり,製品を保持するためにきつく詰めると,製品へのアクセスが犠牲となる問題があった(【0005】~【0007】)。

そこで,甲2発明は,いくつかの製品が取り出された後においても消費用製品を保持することができ,消費用製品に容易にアクセスでき,取り出すことのできるパッケージの提供を目的として,消費用製品をシートに取り外し可能に結合し,当該シート及び結合した製品を箱内へ挿入し,消費者が当該消費用製品の1つを掴み,結合を取り外して容易に取り出せるように,製品をシートに剥離可能に接着して配置したものである(【0008】~【0010】。そのうち,甲2発明Aは,前記第2,4(3)イ(ア)記載のとおりの構成を有する(請求項21,【要約】【0014】~【0025】,【0044】,【0049】~【0051】,【0057】)。

(3)  審決の相違点の認定について

審決は,本件発明12と甲2発明Aを対比して,以下の2点を相違点として認定した。

【相違点1】本件発明12は,個包装が「切取線によって区画された切離し部分を有」し,「上記切離し部分においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し」,「消費者が切離し部分を引き裂くことによって」,上記製品を掴んで小出しすることができるのに対し,甲2発明Aは,このような構成ではない点。

【相違点2】本件発明12は,シートを外箱に「永久的に」固定するのに対し,甲2発明Aは,「永久的に」とは特定していない点。

これに対し,原告は,原告主張の相違点①ないし④のとおり認定すべきと主張する。

しかし,原告主張の相違点③は,上記【相違点2】と実質的に同じである。また,原告主張の相違点①,②及び④は,【相違点1】と比較すると,前者は,相違点を細分化し,甲2発明Aについて特定の構成を記載したにすぎないものである。そうすると,審決において検討すべき相違点は,【相違点1】及び【相違点2】において挙げられているものであるから,この点に関する審決の認定が取消事由に該当するということはできない。

したがって,取消事由2には理由がない。

3  取消事由3(本件発明12の進歩性判断の誤り)について

(1)  甲1発明について

甲1によれば,甲1発明について,以下のとおり認められる。

甲1発明は,包装体で包装し,さらに,容器に収納されている形態の被包装物を,片手で簡便に取り出すことを可能とする容器入り包装体を提供することを目的として,包装体とそれを収納する有底収納容器とからなり,包装体下方部を前記収納容器に固着するとともに,包装体の適宜位置に収納容器底面と略平行な切目線を設けたことを特徴とする容器入り包装体とすることによって,被包装物を包装してなる包装体を有底収納容器に収納する際,包装体下方部を収納容器底面又は側面に固着し,かつ,包装体に収納容器底面に略平行となるような切目線を設けることにより,包装体を収納容器から取り出す際,片手で包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができ,被包装物が食品の場合には,露出した被包装物をそのまま口にくわえて,残りの包装体を引っ張るだけで簡単に残りの包装体が剥離され,両手を使わなくても被包装物を喫食することができ,被包装物を包装した包装体が容器に固着されているので,包装体と収納容器との間に空間が生じても,輸送中ばらばらになることなく整列した状態を保つことができるという作用効果を奏するものである(【0001】~【0005】,【0017】)。すなわち,甲1発明は,①包装体下方部を収納容器に永久的に固着すること,②包装体の適宜位置に収納容器底面と略平行な切目線を設けること,の2つの要件により,包装体を収納容器から取り出す際,片手で包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができる,被包装物を包装した包装体が収納容器に固着されているので,包装体と収納容器との間に空間が生じても,輸送中ばらばらになることなく整列した状態を保つことができるという作用効果を達成したものと認められる。

(2)  相違点1の進歩性判断について

ア 審決は,甲2発明Aに,甲1の技術を適用すると,適用後の発明は,甲1に記載された上記の消費者にとって有用な作用効果を奏することが,当業者に明らかであるから,甲2発明Aに甲1の技術を適用する動機付けは存在するとした。

しかし,これは,両発明を組み合わせることについての動機付けの判断に当たり,具体的な動機や示唆の有無について検討することなく,単に,組合せ後の発明が消費者にとって有用な作用効果を奏するとの理由で動機付けを肯定しているものであり,事後分析的な不適切な判断といわざるを得ない。

イ そこで,甲2発明Aに甲1発明の技術を適用する動機付けについて検討すると,以下のとおりである。

すなわち,両発明とも,ガムなどの製品(包装体)を箱(収納容器)に収納するパッケージ(容器入り包装体)であり,同じ技術分野に属するものであって,製品(包装体)が取り外された後においても箱(収納容器)内で製品(包装体)を保持することができるようにするという点で課題(効果)を同じくする部分があるものと認められる。

しかし,甲2発明Aは,前記2(2)のとおり,消費者が製品をシート及びハウジングから掴んで容易に取り出すことができ,かつ,多数の製品が取り外された後でも製品を保持することができることを目的とし,そのために,製品とシートの間の結合(接着)は,製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成をとったものである。

これに対し,甲1発明は,容器に収納されている形態の被包装物を,片手で簡便に取り出すことを可能とする容器入り包装体を提供することを目的として,包装体下方部を収納容器に永久的に固着すること,及び包装体の適宜位置に収納容器底面と略平行な切目線を設けること,の2つの要件により,包装体を収納容器から取り出す際,包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができるとの構成をとったものである。

そうすると,当業者は,製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成をとった甲2発明Aにおいて,製品とシート間及びシートと箱間の「接着」を「永久的」なものとすることによって,包装体が切目線の部分で切り離されるように構成した甲1発明を組み合わせることはないというべきである。

よって,甲1の技術を,甲2発明Aに適用して,相違点1に係る本件発明12の構成とすることは,当業者が容易に推考し得たことである,との審決の認定は誤りである。

(3)  以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,取消事由3には理由がある。

4  取消事由4(訂正発明1の進歩性の判断の誤り)について

本件訂正は,取消事由1で述べたとおり適正であるから,進んで,訂正発明1の進歩性について検討する。

甲2発明Bは,前記2(2)に記載した甲2発明の実施例として,前記第2,4,(4),アのとおりの構成を有するものであるから,前記2(2)において述べた甲2発明Aと同様,製品とシートを取り外し可能に接着することによって,消費者が製品をシート及びハウジングから掴んで容易に取り出すことができ,かつ,多数の製品が取り外された後でも製品を保持することのできるようにしたものと認められる。

したがって,当業者は,上記3に述べたのと同様に,製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成をとった甲2発明Bにおいて,製品とシート間及びシートと箱間の「接着」を「永久的」なものとすることによって,包装体が切目線の部分で切り離されるように構成した甲1発明を組み合わせることはないというべきである。

よって,「訂正発明1は,甲2発明B及び甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」との審決の認定は誤りであり,取消事由4は,理由がある。

5  取消事由5(訂正発明3の進歩性の判断の誤り)について

訂正発明3は,訂正発明1を技術的に限定するものあって,訂正発明1と同様に相違点1を含むものであるから,前記4において述べたのと同様,甲2発明B及び甲1に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないしたがって,審決の認定は誤りであり,取消事由5は,理由がある。

第6結論

よって,原告の主張する取消事由1,3~5にはいずれも理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例