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知財高等裁判所 平成26年(行ケ)10141号 判決 2015年6月30日

原告

カンパニョロ ソチエタ ア レスポンサビリタ リミタータ

訴訟代理人弁理士

正林真之

東谷幸浩

髙野芳徳

訴訟復代理人弁理士

小野寺隆

被告

アイヒャー モーターズ リミテッド

訴訟代理人弁理士

松原伸之

村木清司

関口一秀

納戸慶一郎

訴訟復代理人弁理士

河田哲哉

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

特許庁が取消2011-301176号事件について平成26年1月28日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,被告の登録商標(登録第4344344号商標。本件商標)に関する商標法50条1項に基づく商標登録取消審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,①被告への本件商標に関する商標権(本件商標権)の承継の有無,及び,②被告による指定商品に係る本件商標の使用の有無である。

1  特許庁における手続の経緯等

アイヒャー リミテッドは,平成8年5月29日,下記の「BULLET」の欧文字を横書きしてなる商標(本件商標)について,第12類「二輪自動車・自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」を指定商品(本件指定商品)として出願し,平成11年12月17日に登録を受けた(第4344344号)(甲2,29)。

本件商標は,平成25年10月10日付けでアイヒャー リミテッドから被告へ一般承継を原因として商標権者の移転登録が申請され,同月24日,被告が商標権者として登録された(甲29)。

原告は,継続して3年以上,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が本件商標を使用した事実がないから,商標法50条1項により,本件商標の登録は取り消されるべきであると主張して,平成23年12月27日に取消審判請求をした(取消2011-301176号)。

特許庁は,平成26年1月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同年2月6日に原告に送達された。

(本件商標)

file_2.jpgBULLET2  審決の要旨

審決は,被告が,本件商標権をアイヒャー リミテッドから一般承継し,通常実施権者であるウイングフットが,本件指定商品である「二輪自動車」につき,本件商標と社会通念上同一の商標を使用したと認められるから,本件商標の登録を取り消すことはできないと判断した。

理由の要点は,以下のとおりである。

(1)  本件商標

本件商標は,上記のとおり,「BULLET」の文字を横書きしてなり,第12類「二輪自動車・自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」を指定商品として,平成8年5月29日に登録出願され,平成11年12月17日に「インド国,マドラス<以下略>」に所在する「アイヒャー リミテッド」を商標権者として設定登録されたものであり,その後,商標権の存続期間の更新登録がなされた。

なお,本件審判の請求の登録は,平成24年1月19日である(同登録前3年以内の期間である,平成21年1月20日から平成24年1月19日を,「本件要証期間」という。)。

(2)  商標権者及び通常使用権者について

ア ニューデリー高等裁判所の合併命令(注:甲5の1,2)では,「Eicher Ltd.」が「Transferor Company」(被承継会社),「Eicher Motors Ltd.」が「Transferee Company」(承継会社)と表記され,「1.本文書に添付した目録-Ⅱの第一,第二および第三部に明記する被承継会社の自動車事業に関するすべての財産,権利および権能,ならびに上記被承継会社の自動車事業に関するその他すべての財産,権利および権能を,これ以外の行為または証書がなくとも承継会社に移転し,・・・被承継会社の財産および利益のためにこれらを承継会社に移転し,承継会社に帰属させるよう命じ」と記載されている。また,宣誓供述書(注:甲5の3,4)には,「『アイヒャー リミテッド』は,指定商品『二輪自動車・自転車並びにその附属品(タイヤ及びチューブを除く。)』(注:正確には,『二輪自動車・自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)』が正しい。)に係る日本国の登録商標『BULLET』を獲得した。そして,2004年統合計画の取り決めを原因として『アイヒャー リミテッド』は,インド国のニュー・デリーの裁判所の命令に従って,2004年に一部の事業部門(自動車事業)を『アイヒャー モーターズ リミテッド』へ会社分割によって移転しました。同法廷は,総合計画の取り決めを許可しました。」旨の記載がある。これらの記載からすれば,被告は,平成16年7月以降にアイヒャー リミテッドから一般承継によって本件商標権の移転を受けた商標権者であると認められる。

イ 販売代理店契約(注:甲7)によれば,その契約中に,株式会社ウイングフットに対し,「Bullet」商標の使用を許諾する旨の記載が存在し,実際には有限会社であるウイングフット(以下,単に「ウイングフット」という。)は,本件商標についての通常使用権者と認めて差し支えない。

(3)  本件商標の使用及び使用時期

本件要証期間内である平成23年11月4日及び同月28日に,アイヒャー モーターズ リミテッドは,商品名に「BULLET」の文字を含む二輪自動車を,「ウイングフット」を荷受人として我が国に輸出し,また,ウイングフットは,その二輪自動車を輸入したものと認められる。

そして,「ROYAL ENFIELD BULLET 500 FEI(注:EFIの誤記,以下同じ。)」の名称を有する「二輪自動車」(本件商品)には,本体部分のステッカーに「BULLET」の商標(使用商標1)が付されている。

(判決注:使用商標1)

file_3.jpg“Wi sunerz” 500また,商標権者の販売代理店であるウイングフットは,同人のウェブサイトにおいて,輸入した本件商品について,「ROYAL ENFIELD BULLET500 FEI」の商標(使用商標2)を表示し,本件商品の譲渡のため,本件要証期間内にその広告を行ってきたものと認めることができる。

(判決注:使用商標2)

file_4.jpgROYAL ENFIELD BULLET 500 EFI(4)  本件商標と使用商標の同一性について

使用商標1は,本件商標と同じ「BULLET」の欧文字よりなるから,同一の商標といえる。

また,使用商標2は,「ROYAL ENFIELD BULLET 500 FEI」の文字よりなるが,構成中の「ROYAL ENFIELD」は,旧社名から派生した二輪自動車のブランド名であり,また,「500」及び「FEI」は,規格及び略語として理解されるから,「BULLET」の文字部分は,別個の要部として理解され,認識される。そして,本件商標と該「BULLET」の文字部分は,その文字綴りを同一にするものであるから,使用商標2がその他の文字を伴っている構成であるとしても,「BULLET」を別個の要部とする使用商標2は,本件商標と社会通念上同一の商標と認め得る。

(5)  使用商品について

使用商品は,「二輪自動車」であるから,第12類「二輪自動車・自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」の範ちゅうに含まれる。

(6)  結論

通常使用権者であるウイングフットは,本件要証期間内に,商標権者から商品名に「BULLET」の文字を含む二輪自動車を我が国に譲渡のために輸入したと認められ,また,二輪自動車の本体部分のステッカーに「BULLET」の使用商標1が付されている本件商品の譲渡のために,同社のウェブサイトにおいて,本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標2を使用し,広告していたと認められる。よって,通常使用権者の当該行為は,「商品に標章を付したものを譲渡のために輸入する行為」(商標法2条3項2号)及び「商品に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(同8号)に該当するものと認められる。

被告は,本件要証期間内に日本国内において,通常使用権者がその請求に係る指定商品中の第12類「二輪自動車」について,本件商標を使用したことを証明したから,本件商標の登録は,商標法50条により取り消すことはできない。

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(被告への一般承継の不存在)

本件商標権が被告に一般承継されたとする審決の認定は,誤りである。

(1)  ニューデリー高等裁判所の合併命令(甲5の1,2)は,譲渡人会社(被承継会社)の自動車事業についてのすべての財産,権利及び権能を,譲受人会社(承継会社)である被告へ移転し,同会社に帰属させるように命じるものである。

しかしながら,本件商標権は,「自動二輪車・自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」を指定商品とするものである。「自動二輪車」は「二輪車」であり,上記合併命令にいう「自動車事業」に属するものと認められるが,「自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」は「自動車事業」に属するとは解されない。

よって,「自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」をも指定商品に含む本件商標権は,上記合併命令にいう「自動車事業についてのすべての財産,権利及び権能」に当然に含まれるものではない。本件商標権は「自動車事業以外」の権利を含んでいるから,むしろ,上記合併命令による移転の対象からは除外されたと考えるのが自然である。

また,商標法は,指定商品ごとの商標権分割制度を用意しており(24条),分割登録を効力発生要件としているから(35条,98条1項1号),指定商品の一部である「自動二輪車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」に関して,上記合併命令の内容と商標登録の内容が合致しているとしても,当該部分についてのみ,一般承継の効力が生じることはない。

したがって,被告は,本件商標権のうち,「自転車に関するもの」についての移転の効力を主張できない。

(2)  処分証書において,法律行為の内容が記載されるのが通常と考えられる場合には,記載のない事項は,特段の事情がない限り,法律行為の内容となっていないと認めるべきである。これと同じように,上記合併命令において,積極的に自転車事業が承継事業として記載されていないことは,承継事業に自転車事業が含まれていないことを指し示すものというべきである。

また,被告は,上記合併命令の基礎となった事業承継に関する合意に関し,自転車事業をも対象とするのが,両当事者の意思であったと主張するが,被告は,事業承継の対象についての両当事者間の取決め内容の具体的根拠を示していない。

上記合併命令以前に,アイヒャー リミテッドが自転車に関する事業を行っていた事実はなく,両当事者が自転車事業を承継の対象としたはずがない。

(3)  本件商標に関するインドでの商標登録の指定商品は,「PARTS,FITTINGS AND COMPONENTS THEREOF ALL BEING GOODS INCLUDED IN CLASS 12」であるが,これは,「第12類に属する全ての商品」が含まれるという趣旨ではなく,「それらの附属品及び部品」が第12類に属するものに限定されることを示すものである。したがって,同文言は,「第12類に属する全ての商品」が事業承継の対象となったことを示すものではない。また,指定商品中の「TWO WHEELERS」という文言も,その前後の「MOTORCYCLES,SCOOTERS」,「MOPEDS,ENGINES,CARBURETORS」と並んで示されているからすれば,自転車という意味ではなく,モータのある二輪自動車を示すものである。

2  取消事由2(本件商標の使用に関する証拠評価の誤り)

(1)  「INVOICE」の写し(甲6の1,2)(平成23年11月4日付及び同月28日付)の発行の事実をもって,本件要証期間内に,実際に,当該二輪自動車が我が国に輸入されたと認定することは,不当である。

(2)  使用商標2が記載されているウイングフットのウェブサイトの写し(甲9の2)の抽出日は,平成24年4月24日で,本件要証期間内にない。この書証のみをもって,本件要証期間内に当該広告がなされたとは,認定できない。

第4被告の主張

審決の認定,判断は正当であって,審決に原告主張の違法はない。

1  取消事由1に対し

(1)  ニューデリー高等裁判所の合併命令(甲5の1,2)において,積極的に「自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」に関する事業を事業承継の対象から除外する記載は見当たらない。なお,上記合併命令の添付文書(乙2)には,「Assets in Automobile Undertaking(自動車事業における財産)」に「Vehicle(乗り物)」という記載があり,「自転車」が含まれる記載となっている。また,同じく「Brands, trademarks, registrations・・・and other intellectual property rights(ブランド,商標,登録,・・・他の知的財産権)」という記載もあり,このことからも,本件商標権も事業承継の対象となっていることがわかる。

インドにおける商標登録の内容からしても,指定商品に「二輪車(two wheelers)」や「第12類に属する全ての商品」が含まれており,被告に対する事業対象の範囲に自転車事業が含まれていることがわかる。

(2)  事業承継の対象が何かは,当事者間の取決めによって決まる事項である。「自動車事業(Automobile undertaking)」をどのように定義するかは,合併当事者の自由であり,積極的に「自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」を承継対象から除外する理由も想定できない。

「自転車」の販売事業者が「自動二輪車」を販売するケースや逆のケースも見受けられる。自動二輪車製造事業者である「ヤマハ発動機」が「電動アシスト付き自転車」を,フランスの自動車製造事業者である「プジョー」が「マウンテンバイク」を製造販売していることは,よく知られているところである。被告においても,自転車事業を承継しない理由はない。

2  取消事由2に対し

(1)  ウイングフットは,被告との販売代理店契約に基づき,本件商標を本件指定商品に使用して,販売,広告,輸出,輸入等を行っている(甲7)。そして,現在も継続して本件商標が使用されており,本件要証期間内においても使用されていたことは容易に推認される(甲8)。

(2)  ウイングフットのウェブサイトの写し(甲9の2)には,印刷日しか記載されていないが,同じウェブサイトを構成する甲9の3には,ウイングフットがメディア協力をしたことを示す「掲載誌一覧」の記録が表示されている。そこにある「ちょっと上を目指したい!初心者応援サイト「バージンバイク」/バイクの総合Webマガジン バイクブロス・マガジンズ/Moto RIDE 試乗インプレ/ROYAL ENFIELD BULLET 500EFI/取材車両協力」という記事のリンク先には,ウイングフットが販売する「ROYAL ENFIELD BULLET 500EFI」が紹介され,「掲載日 2011年07月07日」「価格73万2900円」という記載が確認できる。さらに,平成24年10月31日まで運営されていた「株式会社ボストン」のウェブサイト「MOTONAVIPLUS」の写し(甲16)には,「BULLET 500EFI」が掲載され,平成23年6月4日及び同年7月15日の日付が確認できる。したがって,総合的に見れば,ウイングフットが本件要証期間内に本件商標を使用していた事実が,理解できる。

第5当裁判所の判断

1  本件商標について

(1)  本件商標は,上記第2の1記載のとおり,ゴシック調の「BULLET」の欧文字を横書きしてなるものであり,本件商標を構成する「B」「U」「L」「L」「E」「T」という6文字のフォント,大きさや文字間隔はすべて同じである。

(2)  本件商標の指定商品は,第12類「二輪自動車・自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」である。

2  商標権者及び通常使用権者

(1)  商標権者

ア 証拠によれば,以下の事実が認められる。

インド国の会社法に基づくニューデリー高等裁判所の合併命令(甲5の1,2)は,「Eicher Ltd.」を「Transferor Company」(被承継会社),「Eicher Motors Ltd.」を「Transferee Company」(承継会社)として,「1.本文書に添付した目録-Ⅱの第一,第二および第三部に明記する被承継会社の自動車事業に関するすべての財産,権利および権能,ならびに上記被承継会社の自動車事業に関するその他すべての財産,権利および権能を,これ以外の行為または証書がなくとも承継会社に移転し,・・・被承継会社の財産および利益のためにこれらを承継会社に移転し,承継会社に帰属させるよう命じ」るものである。上記目録Ⅱ(乙2)には,「アイヒャー リミテッド」の財産目録として「自動車事業における財産」と記載されているが,具体的には「ブランド,商標,登録,特許,製品設計,プロトタイプ,著作権及びその他の知的財産権,乗物,固定資産,現在の運営資金,流動資産,引当,資金,ライセンス,借用権,分割払い購入,年間メンテナンス及び賃貸の準備,コンピューター,オフィス用品,通信機器,設備及び装置,合意書・契約書並びに契約及び協定上の利益,権限,権能,許可,登録,割り当て,承認,同意,特権,特典,利点,地役権及び全ての権利,権利(タイトル),利益,信用,住宅用商業用敷金,前払い金,満期保証債権及びその他の回収可能資金,現金,銀行預金残高,在庫車,試乗車,部品,附属品,部品の反対売買の在庫品を除いた中古車,積送在庫及びその他の全ての権利,要求及び権限,会社によって支払われた保証金を含む手付金及び/又は預入金」を指す。

また,アイヒャー モーターズ リミテッドのチーフ エグゼクティブ オフィサーであるAは,公証人の面前において,「宣誓供述書」(甲5の3,4)のとおり,「『アイヒャー リミテッド』は,指定商品『二輪自動車・自転車並びにその附属品(タイヤ及びチューブを除く。)』に係る日本国の登録商標『BULLET』を獲得した。そして,2004年統合計画の取り決めを原因として『アイヒャー リミテッド』は,インド国のニュー・デリーの裁判所の命令に従って,2004年に一部の事業部門(自動車事業)を『アイヒャー モーターズ リミテッド』へ会社分割によって移転しました。同法廷は,総合計画の取り決めを許可しました。」旨供述した。

上記命令及び宣誓供述書は,いずれも,「アイヒャー リミテッド」と「アイヒャー モーターズ リミテッド」等の組織統合計画を前提とするものであるが,同計画(甲19)では,「アイヒャー リミテッド」が合意の時点で営んでいる,トラクター事業,二輪車事業(Two wheeler business),エンジン事業及びギア事業を総称した「自動車事業」を「アイヒャー リミテッド」から「アイヒャー モーターズ リミテッド」へ移転すると明記されている。そして,同計画の「定義」の項目には,「アイヒャー リミテッド」の「自動車事業」について,「アイヒャー リミテッド」のトラクター,二輪車(two wheelers),エンジン,ギアの製造及び販売事業に係る確立した「アイヒャー リミテッド」の事業を意味し,具体的には,①トラクター,二輪車(two-wheelers),エンジン及びギアの製造及び販売時用に関係する「アイヒャー リミテッド」の全資産と負債,②「自動車事業の全体,継続事業体として,全ての負債,債務,責務及び義務,及び全ての資産,そして財産,動産又は不動産,本質又は個人的,所有財産又は復帰財産,有体又は無体,有形又は無形,必然又は偶然の,そしてブランド,商標,特許,著作権及び他の知的財産権,乗り物(Vehicle),固定資産,在庫,流動資産,引当,資金を含むが,これらに限定されることなく,自動車事業に関する賃借,ライセンス,借用権,施設,分割払い購入及び賃貸の準備,コンピューター,事務機器,オフィス用品,建物,家具,電話,テレックス,ファクシミリの接続,通信機器,設備及び機械類,および電気設備・その他の装置,合意書・契約書及び契約及び協定上の利益,権限,権能,産業及びその他のライセンス,登録,分配,承認,割り当て,同意,特権,特典,利点,地役権および全ての権利,権利(タイトル),利益,信用,恩恵,権利及び利点,その他の資産,預金,引当金,前払い金,債権,資金,現金,銀行預金残高,為替手形,ローン及びEL(注:アイヒャー リミテッド)の会計帳簿に記載された増額分,勘定,どのような性質のものであれ,どこにあろうとELによって享受されている,および/またはELが権限を有し,自動車事業に関する,いかなる種類の,後日獲得する可能性もある,その他の権利及び要求,自動車事業に関する全ての書籍・書類・資料及び記録,さらに,自動車事業に関連してELによって支払われた保証金を含む手付金及び/又は預入金を含む。」の2つを含むものとされている。このように,事業譲渡の対象である自動車事業には,「Two wheeler business」が含まれているが,「Two wheeler business」を含めて自動車事業と称しているだけであるから,ここにいう「Two wheeler」は,自動車の中で二輪の車種に限定したものとは解されず,自転車を含めて広く二輪車一般を意味するものと解される。

本件商標権は,我が国では,「インド国 マドラス<以下略>」所在の「アイヒャー リミテッド」が権利者として登録されていたが,本件指定商品すべてにつき,平成25年10月10日付けで,「アイヒャー リミテッド」から「インド国 ニューデリー<以下略>」所在の「アイヒャー モーターズ リミテッド」,すなわち被告に対して,一般承継による移転登録がなされた(甲2,29)。

他方,本件商標の構成文字である「BULLET」を構成の一部に含む商標について,インドでは上記合併命令を理由に,被告に対して一般承継による移転登録がなされた(乙1の1~10)。その指定商品は,「二輪自動車(MOTORS),スクーター(SCOOTERS),二輪車,モペット(MOPEDS),エンジン,気化器,ケーブル,サドル,緩衝器,クラッチ,クラッチ板,ブレーキ,ブレーキライニング,車輪及びリムの部品,前記商品の附属品及び構成部品,第12類の属する全ての商品」,「二輪自動車を含む陸上用のモータービークル(MOTORLANDVEHICLES),スクーター,モペット及び二輪車,第12類に属する前記商品の部品・附属品及び構成部品」,「二輪自動車,スクーター,モペット及び二輪車,第12類に属する前記商品の部品・附属品及び構成部品」,「二輪自動車,スクーター,モペット及び他の二輪車(OTHER TWO WHEELERS),第12類に属する前記商品の部品・附属品及び構成部品」などである。ここで使用されている「TWO WHEELERS」という用語は,一般的に二輪車や自転車を指すものであるところ,「MOTORS,SCOOTERS,・・・MOPEDS」,「MOTORLAND VEHICLES」等の動力付きの二輪車とは別に,これと並列してわざわざ指定商品として挙げられていることからすると,動力のない二輪車を指し,自転車を含む趣旨と解するのが相当である。

イ 以上によれば,本件商標権は,平成16年7月28日,ニューデリー高等裁判所の合併命令によって,自転車を含む「二輪車事業」に関する「商標」権として,「アイヒャー モーターズ リミテッド」から被告に移転したものと認められる。

(2)  通常実施権者

「DISTRIBUTOR AGREEMENT(販売代理店契約)」(甲7)及び上記Aが公証人の面前でした「宣誓供述書」(甲5の20)によれば,平成22年12月2日に,「アイヒャー モーターズ リミテッド」と「有限会社ウイングフット」との間で,販売店代理契約が締結され,ウイングフットは,「Bullet」商標の使用を許諾する権利を取得したと認められる(上記販売代理店契約書中の「ウイングフット株式会社」との記載は「有限会社ウイングフット」の誤記と認める。)。

したがって,ウイングフットは,本件商標の通常実施権者と認められる。

3  ウイングフットの使用商標及び使用時期

(1)ア  輸出貨物の送り状の記載

平成23年11月4日付けの「INVOICE」(甲6の1)には,「EXPOTER」(輸出者)欄に「EICHER MOTORS LIMITED」の表記が,「CONSIGNEE」(荷受人)欄に「WING FOOT」の表記が認められ,「DESCRIPTION OF GOODS」(出荷対象商品)欄には,二輪自動車を示す「MOTORCYCLES」の記載があり,さらに,「BULLET 350CC CLASSIC BLACK」,「BULLET 500CC CLASSIC EFI BLACK」,「BULLET 500CC EFI BLACK」など,「BULLET」という標章の記載と,排気量,種類,色彩等の記載がある。

また,平成23年11月28日付けの「INVOICE」(甲6の2)にも,同様の輸出者,荷受人,出荷対象商品,「BULLET 350CC CLASSICBLACK」,「BULLET 500CC CLASSIC EFI BLACK」,「BULLET 500CC EFI BLACK」等の記載がある。

イ  ウェブサイトの記載

平成24年4月13日の時点で,「ウイングフット」のウェブサイト(甲9の1,2)には,「ロイヤルエンフィールド専門店のウイングフットです。」との紹介のほか,「ROYAL ENFIELD BULLET 500 EFI」の表示(使用商標2)と商品の二輪自動車の画像,さらに,当該商品のツールボックス部分に関する「ツールボックスにはBULLET 500,・・・のステッカーが貼られています。」との記載と使用商標1を含むツールボックスの画像が確認された。同ウェブサイトの「Media List」(甲9の3)には,「ROYAL ENFIELD BULLET 500 EFI」の試乗インプレ・レビューが掲載され,掲載日として「2011年7月7日」という記載があるほか,同ウェブサイトの「BULLET パーツリスト」(甲9の4)には,注文方法の説明を受けて「※PDFファイルに表示されている価格は2011年4月4日より税込価格となりました。」とも記載されている。そうすると,平成23年4月又は同年7月当時から,「ウイングフット」のウェブサイトは,「ROYAL ENFIELD BULLET 500EFI」を初めとした「BULLET」シリーズの二輪自動車を広告販売する内容であったとうかがわれる。

また,平成24年9月4日の時点で,同ウェブサイトの「NEWS CLIP」には,「2009年6月28日」の記事として,「NEW MODEL」として,「BULLET 500 CLASSIC EFI」を入荷したことが記載され,併せて車両の写真が掲載されている(甲18の4)。また,エンフィールド・ポテローサ2日記というブログの「2009年7月2日」付けの記事では,ウイングフットによる新型の「BULLET 500 CLASSIC」の国内販売開始の告知について,言及されている(甲18の5)。そうすると,平成21年6月又は同年7月当時においても,「ウイングフット」のウェブサイトは,「BULLET 500 CLASSIC EFI」を初めとした「BULLET」シリーズの二輪自動車を広告販売する内容であったとうかがわれる。

(2)  以上によれば,平成23年11月4日及び同月28日に,被告は,商品名に「BULLET」の文字を含む二輪自動車を,「ウイングフット」を荷受人として我が国に輸出し,また,ウイングフットは,その二輪自動車を輸入したと認められる。このうち,「ROYAL ENFIELD BULLET 500 EFI」の名称を有する「二輪自動車」(本件商品)には,本体部分のステッカーに「BULLET」の商標(使用商標1)が付されている。

さらに,商標権者の販売代理店であるウイングフットは,そのころ,同人のウェブサイトにおいて,輸入した本件商品について,「ROYAL ENFIELD BULLET 500 EFI」の商標(使用商標2)を表示し,本件商品の譲渡のため,本件要証期間内にその広告を行ってきたものと認めることができる。

4  本件商標と使用商標の同一性について

(1)  使用商標1

使用商標1は,「BULLET」の文字よりなるから,本件商標と構成文字が同一であり,社会通念上同一の商標といえる。

(2)  使用商標2

使用商標2は,「ROYAL ENFIELD BULLET 500 EFI」の文字よりなる。

構成中の「ROYAL ENFIELD」は,旧社名から派生した二輪自動車のブランド名であり(甲4),「500」は排気量の数字,「EFI」はエンジンにおける燃料噴射の電子制御システムである「Electronic Fuel Injection」の略語(甲11)等として理解されるから,外観上常に一体不可分のものとして認識されるとはいえず,「BULLET」の文字部分が,独立して要部として認識され得る。

本件商標と「BULLET」の文字部分は,その文字綴りを同一にするものであるから,使用商標2は,その他の文字を伴っている構成であるが,「BULLET」を要部として認識され得る以上,本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。

(3)  使用商品について

本件商品は,「二輪自動車」であるから,第12類「二輪自動車・自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」の範ちゅうに含まれる商品といえる。

(4)  小括

以上によれば,通常使用権者であるウイングフットは,本件要証期間内に,商標権者から商品名に「BULLET」の文字を含む二輪自動車である本件商品を輸入し,本件商品には,本体部分のステッカーに「BULLET」の使用商標1が付されるとともに,自社のウェブサイトにおいて本件商品を宣伝・販売し,商品の説明において「BULLET」と社会通念上同一といえる使用商標2が付されていたと認められるから,通常使用権者の行為は,商標法2条3項2号の「商品に商標を付したものを譲渡のために輸入する行為」及び同8号の「商品に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当するものと認められ,本件商標は,商標法50条により取り消すことができない。

5  原告の主張に対する判断

(1)  原告は,「自転車並びにその部品及び附属品(タイヤ及びチューブを除く。)」に関する事業は「自動車事業」と解することはできず,当該事業についての本件商標権が,被告に一般承継された事実はないと主張する。

しかしながら,上記2(1)で説示したとおり,原告の主張するように,被告に対する事業承継の対象として,自転車事業を除外した事実は認められない。

確かに,ニューデリー高等裁判所の合併命令が判断の基礎としている組織統合計画書(甲19)では,事業譲渡の対象として,「自動車事業における財産」と記載されているところ,一般的な用語として,「自転車」は「自動車」の範ちゅうに入らず,また,同計画書において,自転車という用語を用いた明示的な規定はない。

しかしながら,既に述べたとおり,上記組織統合計画書が,アイヒャー リミテッドの行う自動車事業には,「two wheeler」,すなわち,動力を必ずしも必要としない二輪車に関する事業も含まれることを前提として成立したものであることは,自動車事業に関する定義の文言上,明らかである。そして,自転車は,自動車ではないが,二輪車には含まれると解されるから,自転車に関する財産等も当該計画書における「自動車」に関するものに含まれるという前提で,被告への一般承継が行われたと解するのが,当然である。このように解することは,事業対象財産の具体的な内容として「Vehicle(乗り物)」という車両の種類を問題としない用語が用いられたこととも整合的である。

また,電動アシスト付き自転車の例を挙げるまでもなく,自動車事業に関する知識や経験が,新たな自転車の技術研究,開発にも資することは明らかであり,自動車や自転車は,その素材や部品等に共通性や関連性があると考えられるから,自動車事業の主体が,自転車事業に関する種々の財産や権利を取得することは,経済的に見ても,合理的なものである。

実際,上記組織統合計画書に基づいてなされたと推認される,我が国やインドにおける本件商標を含む商標権の移転が,「自転車」を含む「二輪車」についてまでなされているのは,両当事者が,同計画書で「自転車」に関する事業をも被告に移転する意思を有していたことを強く推測させるものである。そして,これらの商標登録の移転に関する被告の主張に対し,事業譲渡者であるアイヒャー リミテッドが異議を唱えていることをうかがわせる証拠は全くない。したがって,アイヒャー リミテッドの認識する事業承継の対象は,被告主張のとおりと認められる。

以上のとおりであって,原告の主張は理由がない。

(2)  また,原告は,審決には,本件商標の使用に関する証拠の評価に誤りがあるとも主張する。

しかしながら,原告は,「INVOICE」(甲6の1,2)が信用性を欠くといえる具体的な根拠を示しておらず,また,原告の主張は,ウイングフットのウェブサイトの写しの抽出日が,本件要証期間内にないというだけであり,ウェブサイト上日付を付した記事のタイムスタンプの信用性を疑わしめるような事情を指摘するものではないから,本件各証拠に基づいてなされた上記3の認定を左右するものではない。

したがって,原告の主張は理由がない。

第6結論

以上より,原告の請求は理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 片岡早苗 裁判官 新谷貴昭)

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