知財高等裁判所 平成26年(行ケ)10157号 判決 2015年9月16日
原告
日亜化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士
宮原正志
同
松本優子
訴訟代理人弁理士
津国肇
同
柳橋泰雄
同
川田秀美
被告
Y
訴訟代理人弁理士
矢田歩
同
大石敏弘
同
岡上悦男
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2013-800023号事件について平成26年5月26日にした審決のうち,「特許第4608294号の請求項1ないし23に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,平成16年11月30日,発明の名称を「樹脂成形体及び表面実装型発光装置並びにそれらの製造方法」とする発明について特許出願(特願2004-345195号。以下「本件出願」という。)をし,平成22年10月15日,特許第4608294号(請求項の数17。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受けた(甲31,38)。
(2) 被告は,平成25年2月15日,本件特許に対して特許無効審判を請求した。
特許庁は,上記請求を無効2013-800023号事件として審理を行い,同年11月25日付けで審決の予告をした(甲30)。
これに対し原告は,平成26年1月28日付けで,本件特許に係る特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消を目的とする訂正請求(以下「本件訂正」という。本件訂正後の請求項の数23)をした(甲32)。
その後,特許庁は,同年5月26日,本件訂正を認めた上で,「特許第4608294号の請求項1ないし23に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年6月5日,原告に送達された。
(3) 原告は,平成26年7月3日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件特許の請求項1ないし23の記載は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,本件訂正後の請求項1に係る発明を「訂正発明1」,請求項2に係る発明を「訂正発明2」などという。下線部は本件訂正による訂正箇所である。甲32)。
【請求項1】
発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,
発光素子は,発光波長が420nm以上490nm以下にあり,
第1の樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有されており,
第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のリードが露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,
第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出されており,
第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂であり,
第1の樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されていることを特徴とする表面実装型発光装置。
【請求項2】
発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,
発光素子は,発光波長が420nm以上490nm以下にあり,
第1の樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有されており,
第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第1のインナーリード部は発光素子が載置されており,かつ,発光素子が持つ第1の電極と電気的に接続されており,並びに第1のアウターリード部は第1の樹脂成形体から露出されており,
第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,第2のインナーリード部は発光素子が持つ第2の電極と電気的に接続されており,並びに第2のアウターリード部は第1の樹脂成形体から露出されており,第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,
第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のインナーリード部が露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,
第1のインナーリード部の発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出されており,
第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂であり,
第1の樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されており,
凹部の底面を上方から見る平面視において,第1のリード及び第2のリードは,凹部の底面から外側に互いに反対の方向に延びており,その延びる方向に沿って延在する側面が凹凸を有する形状とされ,その凹凸に第1の樹脂成形体が接触していることを特徴とする表面実装型発光装置。
【請求項3】
発光素子と電気的に接続された部分と反対の第2のリードの裏面側は,第1の樹脂成形体から露出されていることを特徴とする請求項1に記載の表面実装型発光装置。
【請求項4】
発光素子と電気的に接続された部分と反対の第2のインナーリード部の裏面側は,第1の樹脂成形体から露出されていることを特徴とする請求項2に記載の表面実装型発光装置。
【請求項5】
第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側の露出部分と,第2のリードの裏面側の露出部分とは,実質的に同一平面上にあることを特徴とする請求項1記載の表面実装型発光装置。
【請求項6】
第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側の露出部分は,放熱部材が接触するように配置されていることを特徴とする請求項1記載の表面実装型発光装置。
【請求項7】
第1のリード及び第2のリードは,金属メッキが施されていることを特徴とする請求項1記載の表面実装型発光装置。
【請求項8】
発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,
発光素子は,発光波長が420nm以上490nm以下にあり,
第1の樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有されており,
第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のリードが露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,
第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出されており,
第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂であり,
第1の樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されており,
第1の樹脂成形体は,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種により形成されてなり,第2の樹脂成形体はシリコーン樹脂又は変性シリコーン樹脂により形成されてなることを特徴とする,表面実装型発光装置。
【請求項9】
第1の樹脂成形体は,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質,遮光性物質からなる群から選択される少なくとも1種が混合されていることを特徴とする請求項1記載の表面実装型発光装置。
【請求項10】
第2の樹脂成形体は,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質からなる群から選択される少なくとも1種が混合されていることを特徴とする請求項1記載の表面実装型発光装置。
【請求項11】
第1のリードと第2のリードとを一体成形してなる表面実装型発光装置用の樹脂成形体であって,
第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第1のインナーリード部は樹脂成形体中に配置されており,第1のアウターリード部は樹脂成形体から露出されており,
第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,第2のインナーリード部は樹脂成形体中に配置されており,第2のアウターリード部は樹脂成形体から露出されており,
樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,樹脂成形体の凹部の底面から第1のインナーリード部及び第2のインナーリード部が露出されており,
露出されている第1のインナーリード部に発光素子の載置領域が含まれ,
露出されている第1のインナーリード部及び第2のインナーリード部の裏面側は,樹脂成形体から露出されており,
樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有された熱硬化性樹脂であり,
樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されており,
露出されている第1のインナーリード部の発光素子の載置領域の裏面側が樹脂成形体から露出されていることにより,表面実装型発光装置としたときに発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項12】
第1のリードの裏面側の露出部分と第2のリードの裏面側の露出部分とは,実質的に同一平面上にあることを特徴とする請求項11に記載の樹脂成形体。
【請求項13】
熱硬化性樹脂は,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項11に記載の樹脂成形体。
【請求項14】
第1のリードと第2のリードとを一体成形してなる表面実装型発光装置用の樹脂成形体であって,
第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第1のインナーリード部は樹脂成形体中に配置されており,第1のアウターリード部は樹脂成形体から露出されており,
第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,第2のインナーリード部は樹脂成形体中に配置されており,第2のアウターリード部は樹脂成形体から露出されており,
樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,樹脂成形体の凹部の底面から第1のインナーリード部及び第2のインナーリード部が露出されており,
露出されている第1のインナーリード部に発光素子の載置領域が含まれ,
露出されている第1のインナーリード部及び第2のインナーリード部の裏面側は,樹脂成形体から露出されており,
樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有された熱硬化性樹脂であり,
樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されており,
露出されている第1のインナーリード部の発光素子の載置領域の裏面側が樹脂成形体から露出されていることにより,表面実装型発光装置としたときに発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱でき,
凹部は,開口方向に広口となるように傾斜が設けられており,凹部の底面を上方から見る平面視において,第1のリード及び第2のリードは,凹部の底面から外側に互いに反対の方向に延びており,その延びる方向に沿って延在する側面が凹凸を有する形状とされ,その凹凸に樹脂成形体が接触していることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項15】
樹脂成形体は,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質,遮光性物質からなる群から選択される少なくとも1種が混合されていることを特徴とする請求項11に記載の樹脂成形体。
【請求項16】
第1のリードと第2のリードとを一体成形してなる,底面と側面とを持つ凹部が形成されている表面実装型発光装置用の樹脂成形体の製造方法であって,
上金型は樹脂成形体の凹部に相当する凹みを形成しており,第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,
樹脂成形体の凹部の底面に相当する発光素子の載置領域を含む第1のインナーリード部と第2のインナーリード部並びに第1のアウターリード部と第2のアウターリード部は,第1のインナーリード部の発光素子の載置領域の裏面側を,表面実装型発光装置としたときに発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,樹脂成形体から露出させるため,上金型と下金型とで挟み込まれる第1の工程と,
上金型と下金型とで挟み込まれた凹み部分に酸化チタン顔料が含有された熱硬化性樹脂をトランスファ・モールド工程により流し込まれる第2の工程と,流し込まれた熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,樹脂成形体が成形される第3の工程と,を有する樹脂成形体の製造方法。
【請求項17】
第1のリードと第2のリードとを一体成形してなる,底面と側面とを持つ凹部が形成されている第1の樹脂成形体と,第1のリードに載置される発光波長が420nm以上490nm以下にある発光素子と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置の製造方法であって,
上金型は第1の樹脂成形体の凹部に相当する凹みを形成しており,第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,
第1の樹脂成形体の凹部の底面に相当する第1のインナーリード部と第2のインナーリード部並びに第1のアウターリード部と第2のアウターリード部は,第1のインナーリード部の発光素子の載置領域の裏面側を,表面実装型発光装置としたときに発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出させ,かつバリの発生を低減するため,上金型と下金型とで挟み込まれる第1の工程と,
上金型と下金型とで挟み込まれた凹み部分に酸化チタン顔料が含有された第1の熱硬化性樹脂がトランスファ・モールド工程により流し込まれる第2の工程と,
流し込まれた第1の熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,第1の樹脂成形体が成形される第3の工程と,
上金型が取り外される第4の工程と,
発光素子は第1のインナーリード部に載置されるとともに,発光素子が持つ第1の電極と第1のインナーリード部とが電気的に接続され,発光素子が持つ第2の電極と第2のインナーリード部とが電気的に接続される第5の工程と,
発光素子が載置された凹部内に第2の熱硬化性樹脂が配置される第6の工程と,
第2の熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,第2の樹脂成形体が成形される第7の工程と,
を有する表面実装型発光装置の製造方法。
【請求項18】
第1のインナーリード部の発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側の露出部分は,放熱部材が接触するように配置されていることを特徴とする請求項2記載の表面実装型発光装置。
【請求項19】
第1の樹脂成形体は,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質,遮光性物質からなる群から選択される少なくとも1種が混合されていることを特徴とする請求項2記載の表面実装型発光装置。
【請求項20】
第2の樹脂成形体は,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質からなる群から選択される少なくとも1種が混合されていることを特徴とする請求項2記載の表面実装型発光装置。
【請求項21】
発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,
発光素子は,発光波長が420nm以上490nm以下にあり,
第1の樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有されており,
第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第1のインナーリード部は発光素子が載置されており,かつ,発光素子が持つ第1の電極と電気的に接続されており,並びに第1のアウターリード部は第1の樹脂成形体から露出されており,
第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,第2のインナーリード部は発光素子が持つ第2の電極と電気的に接続されており,並びに第2のアウターリード部は第1の樹脂成形体から露出されており,
第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のインナーリード部が露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,
第1のインナーリード部の発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出されており,
第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂であり,
第1の樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されており,
凹部の底面を上方から見る平面視において,第1のリード及び第2のリードは,凹部の底面から外側に互いに反対の方向に延びており,その延びる方向に沿って延在する側面が凹凸を有する形状とされ,その凹凸に第1の樹脂成形体が接触しており,
第1のインナーリード部の発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側の露出部分と,第2のインナーリード部の発光素子と電気的に接続された部分と反対の裏面側の露出部分とは,実質的に同一平面上にあることを特徴とする表面実装型発光装置。
【請求項22】
発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,
発光素子は,発光波長が420nm以上490nm以下にあり,
第1の樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有されており,
第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第1のインナーリード部は発光素子が載置されており,かつ,発光素子が持つ第1の電極と電気的に接続されており,並びに第1のアウターリード部は第1の樹脂成形体から露出されており,
第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,第2のインナーリード部は発光素子が持つ第2の電極と電気的に接続されており,並びに第2のアウターリード部は第1の樹脂成形体から露出されており,第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,
第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のインナーリード部が露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,
第1のインナーリード部の発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出されており,
第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂であり,
第1の樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されており,
凹部の底面を上方から見る平面視において,第1のリード及び第2のリードは,凹部の底面から外側に互いに反対の方向に延びており,その延びる方向に沿って延在する側面が凹凸を有する形状とされ,その凹凸に第1の樹脂成形体が接触しており,
第1のインナーリード部及び第2のインナーリード部は,表面を平滑にするように金属メッキが施されていることを特徴とする表面実装型発光装置。
【請求項23】
発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,
発光素子は,発光波長が420nm以上490nm以下にあり,
第1の樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有されており,
第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第1のインナーリード部は発光素子が載置されており,かつ,発光素子が持つ第1の電極と電気的に接続されており,並びに第1のアウターリード部は第1の樹脂成形体から露出されており,
第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,第2のインナーリード部は発光素子が持つ第2の電極と電気的に接続されており,並びに第2のアウターリード部は第1の樹脂成形体から露出されており,第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,
第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のインナーリード部が露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,
第1のインナーリード部の発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出されており,
第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂であり,
第1の樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されており,
凹部の底面を上方から見る平面視において,第1のリード及び第2のリードは,凹部の底面から外側に互いに反対の方向に延びており,その延びる方向に沿って延在する側面が凹凸を有する形状とされ,その凹凸に第1の樹脂成形体が接触しており,
第1の樹脂成形体は,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種により形成されてなり,第2の樹脂成形体は,シリコーン樹脂又は変性シリコーン樹脂により形成されてなることを特徴とする表面実装型発光装置。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,訂正発明1ないし23は,当業者が本件出願前に頒布された刊行物である特開2004-274027号公報(甲3)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当する旨の請求人(被告)主張の「無効理由Ⅲ,Ⅳ及びⅤ」は理由があるというものである。
(2) 本件審決が認定した甲3に記載された発明(以下,このうち,甲3記載の半導体発光装置の発明を「甲3-1発明」といい,甲3記載の樹脂部材の発明を「甲3-2発明」という。),訂正発明1と甲3-1発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 甲3-1発明
「第1の領域と,前記第1の領域の周縁に沿って延在する第2の領域とが規定された主表面を有するリードフレームと,
前記第1の領域に設けられた半導体発光素子と,
前記半導体発光素子から発せられた光に対して第1の反射率を有し,前記半導体発光素子を完全に覆うように前記第1の領域に設けられた第1の樹脂部材と,
前記半導体発光素子から発せられた光に対して前記第1の反射率よりも大きい第2の反射率を有し,前記半導体発光素子を囲むように前記第2の領域に設けられた第2の樹脂部材とを備え,
前記第1の樹脂部材は,第1の頂面を含み,
前記第2の樹脂部材は,前記主表面からの距離が前記主表面から前記第1の頂面までの距離よりも大きい位置に設けられた第2の頂面と,前記半導体発光素子が位置する側において前記主表面から離隔する方向に延在し,前記第2の頂面に連なる内壁とを含み,
前記主表面に平行な面上において前記内壁によって規定される形状の面積が,前記主表面から離れるに従って大きくなるように形成されている,半導体発光装置であって,
前記リードフレームは,同一平面上に延在する板形状に形成され,スリット状の溝によって離間した部分を含み,前記部分は他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成されており,
前記第2の樹脂部材の内壁と前記主表面とによって形成された凹部には,露出した前記リードフレームの主表面に前記半導体発光素子が銀ペーストを介して設けられ,前記半導体発光素子の頂面に設けられた電極と,前記半導体発光素子が設けられた前記主表面とは前記スリット状の溝によって離間している前記主表面とが金線によって接続され,
また,前記リードフレームは,前記主表面と反対側の面に前記スリット状の溝を挟んで形成され,かつ樹脂が充填される第1の凹部を含み,前記反対側の面には,前記第1の凹部の両側に位置して実装基板に電気的に接続される端子部が設けられており,
前記第1の樹脂部材は,エポキシ樹脂であり,
前記第2の樹脂部材は,反射率が高い白色の樹脂から形成され,また,前記第2の樹脂部材は,前記リードフレームが樹脂にインサート成型されることによって設けられ,樹脂が前記リードフレームの反対側の面に回り込んで第1の凹部に充填され,
前記第2の樹脂部材に埋め込まれた前記リードフレームの端部は第2の樹脂部材から突出するとともに,前記リードフレームの前記主表面と反対側の面は,樹脂が充填される凹部を除いて露出している半導体発光装置。」
イ 甲3-2発明
「リードフレームが樹脂にインサート成型されることによって設けられ,反射率が高い白色の樹脂から形成された,半導体発光装置に用いられる樹脂部材であって,
前記リードフレームは,同一平面上に延在する板形状に形成され,スリット状の溝によって離間した部分を含み,その内壁とリードフレームの主表面とによって形成された凹部に露出した前記リードフレームの主表面に半導体発光素子が銀ペーストを介して設けられ,前記半導体発光素子の頂面に設けられた電極と,前記半導体発光素子が設けられた前記主表面とは前記スリット状の溝によって離間している前記主表面とが金線によって接続され,
前記主表面に平行な面上において前記内壁によって規定される形状の面積が,前記主表面から離れるに従って大きくなるように形成されており,
また,前記リードフレームは,前記主表面と反対側の面に前記スリット状の溝を挟んで形成され,かつ樹脂が充填される第1の凹部を含み,前記反対側の面には,前記第1の凹部の両側に位置して実装基板に電気的に接続される端子部が設けられており,
前記樹脂部材は,樹脂が前記リードフレームの反対側の面に回り込んで第1の凹部に充填され,前記樹脂部材に埋め込まれた前記リードフレームの端部は前記樹脂部材から突出するとともに,前記リードフレームの前記主表面と反対側の面は,樹脂が充填される凹部を除いて露出している樹脂部材。」
ウ 訂正発明1と甲3-1発明の一致点及び相違点
(一致点)
「発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,
第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のリードが露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,
発光素子が載置されている主面側と反対の第1のリードの裏面側は,第1の樹脂成形体から露出されている表面実装型発光装置」である点。
(相違点51)
発光素子の発光波長が,訂正発明1では,「420nm以上490nm以下」にあるのに対して,甲3-1発明では,発光波長は特定されない点。
(相違点61)
訂正発明1では,第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂であり,第1の樹脂成形体は,酸化チタン顔料が含有されているのに対して,甲3-1発明では,第2の樹脂部材(第1の樹脂成形体)は,反射率が高い白色の樹脂から形成され,第1の樹脂部材(第2の樹脂成形体)は,エポキシ樹脂である点。
(相違点71)
第1の樹脂成形体が,訂正発明1では,「トランスファ・モールドにより成形されている」のに対して,甲3-1発明では,成形方法は特定されない点。
(相違点81)
第1のリードの裏面側の露出について,訂正発明1では,「第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出されており」と特定されるのに対して,甲3-1発明では,そのように特定されない点。
第3当事者の主張
1 原告の主張
(1) 取消事由1(訂正発明1の容易想到性の判断の誤り)
本件審決は,甲3-1発明において,相違点51ないし81に係る訂正発明1の構成は,いずれも当業者が設計上適宜なし得る程度のことであり,訂正発明1は,甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断した。
しかしながら,以下のとおり,本件審決には,相違点61ないし81の容易想到性の判断に誤りがあり,その結果,訂正発明1は甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした判断の誤りがある。
ア 訂正発明1の技術的意義(相違点61ないし81の相互関連性)
高寿命で量産性に優れた表面実装型発光装置を提供するためには,発光装置に使用する材料,成形方法及び形状についての相互関連を念頭に置いて検討する必要があり,ある一つの要素だけに着目したのでは,それによって他の要素の選択が制限され,適切な作用効果が得られない。
そこで,訂正発明1は,第1の樹脂成形体に使用する材料として,第1の樹脂成形体の耐光性・密着性の見地から,特に熱硬化性樹脂を選択し(相違点61),その選択の結果,従前の成形法であった射出成形では著しく成形が困難であったため,「トランスファ成形」(「トランスファ・モールド」による成形。以下同じ。)を採用し(相違点71),さらに,熱硬化性樹脂の採用に伴って,従来技術の構成における半導体発光装置においては想定されていなかったバリ抑制という課題が新たに生じたため,従前の構成とは異なる,バリ発生を抑制できる形状として発光素子載置領域のリードの裏面露出構成を見出して採用したものであり(相違点81),相違点61ないし81は相互に関連して,従来技術における半導体発光装置にはなかった課題を提示すると同時に,その課題解決手段を提供する点に訂正発明1の技術的意義がある。
このような訂正発明1の技術的意義を踏まえて,相違点61ないし81について,各相違点の相互の関係を考慮して,容易想到性の判断を行うべきである。
イ 相違点61の容易想到性の判断の誤り(取消事由1-1)
本件審決は,甲3-1発明において各樹脂部材としてどのような樹脂を用いるかは,当業者が設計上適宜定めるべき事項であるところ,甲1(国際公開2003/038912号)には,ケーシングボディ用の材料として,通常では熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料が使用され,TiO2充填剤を用いて白色に着色されている旨記載されていること,カバー材料5は熱によって完全に硬化されるエポキシ樹脂を含有する旨記載されていることに照らせば,各樹脂部材を熱硬化性樹脂とし,第2の樹脂部材にTiO2充填剤を用いて,相違点61に係る訂正発明1の構成とすることに格別の困難があるものとは認められないから,甲3-1発明において相違点61に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことである旨判断したが,上記判断は,以下のとおり誤りである。
(ア) 本件訂正後の明細書(以下,図面を含めて,「本件明細書」という。甲32)の記載事項によれば,従来技術における表面実装型発光装置の成形体の遮光性樹脂に用いられていた熱可塑性樹脂は,耐熱性に優れるものの分子内に芳香族成分を有するため耐光性に乏しく,また,分子末端に接着性を向上させる水酸基等を有しないためにリードフレーム及び透光性封止樹脂との密着が得られないという問題を抱えていた上に,本件出願当時の発光素子の出力向上はめざましく,発光素子の高出力化が図られるにつれて成形体の光劣化が顕著となり,特に透光性封止樹脂と熱可塑性樹脂の接着界面が密着性に乏しいこともあって容易に破壊され剥離に至り,あるいはまた,剥離に至らずとも光劣化による変色が進行して発光装置の寿命が大幅に短縮化されるという課題があったことから,訂正発明1は,熱可塑性樹脂に代えて,熱硬化性樹脂の構成(相違点61に係る訂正発明1の構成)を採用したものである。
(イ) 甲3には,甲3-1発明の「第2の樹脂部材」(訂正発明1の「第1の樹脂成形体」に相当)に熱硬化性樹脂を用いることについて,記載も示唆もない。
もっとも,甲3の段落【0057】には,「第2の樹脂部材」に関し,「製造時におけるリフロー工程を考慮して,樹脂部3および8は,耐熱性に優れた樹脂から形成されている。具体的には,上述の両方の条件を満たす液晶ポリマーまたはポリアミド系樹脂などが使用されている。なお,これ以外の樹脂およびセラミックなどについても,樹脂部3および8を形成する材料として使用することができる。」との記載があり,「第2の樹脂部材」(樹脂部3及び8)に熱可塑性樹脂である「液晶ポリマーまたはポリアミド系樹脂」が使用されていることが具体的に摘示され,「これ以外の樹脂」を使用することができることも記載されている。
しかしながら,段落【0057】の直後の段落【0058】には,甲3-1発明の「第1の樹脂部材」(訂正発明1の「第2の樹脂成形体」に相当)について熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を用いることが明記されているにもかかわらず,段落【0057】には,「第2の樹脂部材」に関し,熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の記載がないことからすれば,同段落の「これ以外の樹脂」として念頭に置かれているのは,専ら従来技術における熱可塑性樹脂であって,熱硬化性樹脂ではない。
また,本件審決は甲1の記載事項を引用しているが,その引用の趣旨は不明であるし,甲1のみから相違点61に係る訂正発明1の構成が周知であると認めることもできない。
(ウ) 甲3には,甲3-1発明の「第2の樹脂部材」について耐熱性に対する配慮の記載はあるが,耐光性についての記載はなく,甲3-1発明において,相違点61に係る訂正発明1の構成を採用する動機付けが存在しない。
(エ) 以上によれば,甲3-1発明において,相違点61に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことであるとはいえず,容易に想到することができたものとはいえないから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
ウ 相違点71の容易想到性の判断の誤り(取消事由1-2)
本件審決は,甲3-1発明において,「第2の樹脂部材」(訂正発明1の「第1の樹脂成形体」に相当)をどのような成形方法により形成するかは,当業者が設計上適宜定めるべき事項であるところ,甲1に,ケーシングボディ2の主成分を形成するジャケット材料は,トランスファ成形を用いて所定の形状にすることができる材料を意味することが記載されていることに照らせば,甲3-1発明において,「第2の樹脂部材」を「トランスファ・モールドにより成形されている」ものとし,相違点71に係る訂正発明1の構成とすることに格別の困難があるものとは認められず,当業者が設計上適宜なし得る程度のことである旨判断したが,上記判断は,以下のとおり誤りである。
(ア) 本件明細書の記載事項によれば,従来は,量産性の観点から,「第1の樹脂成形体」について,熱可塑性樹脂を用いた射出成形が使用されていたが,訂正発明1における発光装置の高寿命化という課題を解決し,同時に量産性をも実現させるためには,樹脂の選択だけでなく,成形方法及び形状も含めて,従来技術とは全く異なる設計思想を採用しなければならなかったため,訂正発明1は,数多くの樹脂成形方法の中から,射出成形に比してもコストが嵩み,また,樹脂の均一を図り難い「トランスファ成形」をあえて選択し,相違点71に係る訂正発明1の構成を採用したものである。
(イ) 甲3には,「第2の樹脂部材」(訂正発明1の「第1の樹脂成形体」に相当)の成形方法を特に限定する記載はないが,具体的に開示されているのは,金属部品又はその他の材質の部品を埋め込む射出成形法である「インサート成型」(段落【0054】)のみである。
また,甲3には,成形方法の選択についての特段の思想及び課題の記載はない。
(ウ) 甲3-1発明において,相違点71に係る訂正発明1の構成を採用する動機付けが存在しない。
すなわち,甲3に甲3-1発明の「第2の樹脂部材」の成形方法として具体的に開示されている射出成形法(前記(イ))は,高速かつ安価な成形が可能であるから,甲3-1発明において,射出成形法を量産性に劣るトランスファ成形に置換するには,強い動機が必要であり,具体的には,射出成形することが不可能ないし著しく困難であるという事情が必要であるが,甲3には,そのような事情の開示がない。
(エ) 以上によれば,甲3-1発明において,相違点71に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことであるとはいえず,容易に想到することができたものとはいえないから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
エ 相違点81の容易想到性の判断の誤り(取消事由1-3)
本件審決は,①甲3-1発明において,半導体発光素子をリードフレームのどの位置に設けるか,また,第2の樹脂部材が回り込んで充填される第1の凹部をリードフレームのどのような領域に形成するかは,当業者が設計上の必要に応じて適宜定めるべき事項である,②甲3-1発明は,「露出した前記リードフレームの主表面に前記半導体発光素子が銀ペーストを介して設けられ,前記半導体発光素子の頂面に設けられた電極と,前記半導体発光素子が設けられた前記主表面とは前記スリット状の溝によって離間している前記主表面とが金線によって接続」されるものであるから,例えば,離間しているリードフレームの主表面同士が短絡しないように,半導体発光素子はスリット状の溝とはある程度離れた位置に配されることが想定される,③甲3には,甲3-1発明における「樹脂が前記リードフレームの反対側の面に回り込んで第1の凹部に充填され」との構成に関し,樹脂がリードフレームの主表面と反対側の面を広く覆うとリードフレームと樹脂との接着強度を増大させることができる(段落【0054】)との記載がある一方で,LEDチップから発生する熱はリードフレームに伝わり,リードフレームから外部に放熱される(段落【0050】)との記載があるところ,「前記第2の樹脂部材に埋め込まれた前記リードフレームの前記主表面と反対側の面は,樹脂が充填される凹部を除いて露出している」ことに照らすならば,当業者は,甲3-1発明において,第2の樹脂部材から露出しているリードフレームの主表面と反対側の面から放熱し得ることを理解し得るというべきであり,このことは,甲4(特開2003-174200号公報)の段落【0052】の「発光素子1を動作させたときに発生する熱を,前記反射部の底面202Aを介して発光装置の外部に放熱することができ」との記載に照らしても,明らかである,④甲3の特許請求の範囲の請求項1においては,「樹脂が前記リードフレームの反対側の面に回り込んで第1の凹部に充填され」との構成は記載されていないことに照らして,甲3においては,上記構成は付加的に採用し得る構成として説明されているものと理解できるから,甲3-1発明を実施するに際し,放熱を考慮してリードフレームの露出面を比較的広いものとし,第1の凹部はある程度狭い領域とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことであり,かかる設計の結果として,第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側が第1の樹脂成形体から露出されているとの構成を得ることに格別の困難を要するものとは認められないし,甲3-1発明において,第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側が露出されてはならないとする特段の事情も見当たらない,⑤被請求人(原告)主張の接着強度,短絡防止あるいは第1の凹部が大きく設けられ,第2の樹脂部材が回り込んで充填されていることで放熱させるといった観点を考慮して甲3の記載をみても,発光素子が載置されている領域との関係において,裏面側が露出されてはならないとする特段の事情は見当たらないとして,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことである旨判断したが,上記判断は,以下のとおり誤りである。
(ア) 本件明細書の記載事項(段落【0034】,【0035】等)によれば,訂正発明1は,相違点81に係る訂正発明1の構成を採用したことによって,第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側が第1の樹脂成形体から露出され,これによって,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱することができ,発光素子の急激な発光出力の増大による熱害への対処を可能とし,また,少なくとも発光素子が載置されている領域の第1のリードの主面側及びその直下の裏面側が第1の樹脂成形体から露出されているため,製造工程において,露出されている部分が上金型と下金型とで挟み込まれ,リードの主面側の発光素子が載置されている領域のバリの発生を抑制し,バリによる放熱性の阻害を抑制することができる。
(イ) 甲3には,甲3-1発明において第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側の直下の裏面側が第1の樹脂成形体から露出されている構成についての記載はない。かえって,具体的に開示された実施形態(本件明細書記載の「実施の形態1ないし6」,図1,7,8(別紙2参照)等)は,第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側の直下の裏面側が第1の樹脂成形体から露出されていない構成のものである。
また,甲3には,放熱を効率良く行う手段としてリードフレームの厚みを大きくすることが記載されているが(段落【0029】,【0050】),これによって放熱効率が向上するのはリードフレームの横方向への放熱のみであって,リードの底面からの放熱効率を向上させて熱害対策に用いる技術的思想の開示はない。
すなわち,甲3には,「また好ましくは,リードフレームは,スリット状の溝によって離間した部分を含む。その部分は他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成されている。このように構成された半導体発光装置によれば,スリット状の溝の幅を小さくして離間した部分の加工を行なうことができる。これにより,その他の部分を相対的に大きい厚みで形成することができるため,リードフレームによる放熱の効率を向上させることができる。」(段落【0029】),「LEDチップ4から光が発せられると熱が発生する。この熱はリードフレーム1に伝わり,リードフレーム1から外部に放熱される。本実施の形態では,リードフレーム1の部分1tを小さい厚みで形成することによって,スリット状の溝1mを,溝幅を小さくして加工することができる。このため,リードフレーム1の他の部分の厚みを大きくすることによって,リードフレーム1による放熱を効率良く行なうことができる。」(段落【0050】)との記載がある。上記記載は,リードフレームの外部に近い部分の厚みを大きく,LEDチップに近い部分の厚みを小さくすることによって,半導体素子に発生する熱を,半導体素子の直下ではなく,リードフレームの横方向(厚み方向と直交する方向)に熱伝導させ,半導体素子から離れた領域から放熱させることを示すものである。
さらに,甲3には,甲3-1発明の「第2の樹脂部材」として熱硬化性樹脂の採用に伴うバリの発生という課題やバリの抑制に関する特段の考慮についての記載もない。
(ウ) 前記(ア)のとおり,甲3は,リードフレームの横方向への放熱のみを考慮し,リードの底面からの放熱効率を向上させて熱害対策に用いる技術的思想を開示するものではなく,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成を採用する動機付けが存在しない。
また,本件審決は相違点81の判断に際し,甲4の記載事項を引用しているが,その引用の趣旨は不明である。
もっとも,甲4には,発光素子が載置された第1リードの一端を平坦な底面をカップ状に成形して反射部の底面と対向する面を絶縁体の表面に露出することによって,装置の薄型化を可能とし,従来の表面実装型の発光装置に比べ,製造工程の簡略化を可能とすると同時に,発光素子から生じる熱を発光装置の外部に効率よく放熱することができるようにした発明の記載がある。
しかしながら,甲3には,放熱性が不十分な場合の解決手段として,リードフレームの主表面の平面図で見た面積を大きくするという解決手段が開示されているから,甲3-1発明において,甲4記載の従来の技術下における表面実装型発光装置(図24(a)及び(b)(別紙3参照))における折り曲げ構造のリードフレームにおける放熱特性の改善という課題は全て解決されている。
したがって,甲3-1発明においては,甲4記載の発明の課題が存在しない以上,甲3-1発明に甲4記載の発明の構成を組み合わせる動機付けは存在しない。
(エ) かえって,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成を採用することには,以下のとおり阻害事由が存在する。
a 甲3-1発明は,「樹脂が前記リードフレームの反対側の面に回り込んで第1の凹部に充填され」る構成(甲3の図1(別紙2参照)記載の「樹脂部8」の構成。以下「樹脂部8の構成」という場合がある。)によって,①「樹脂部3」と一体となってリードフレームの上下からの挟み込み及び包み込みによる「リードフレームの固定・保持作用」,②リードフレームの基板への実装時のはんだ付けに伴うアノード・カソード(陽極端子及び陰極端子の2つの端子)間の「短絡防止作用」,③「はんだ熱からの発光素子保護作用」を奏するものであるから,別紙2の図1記載の発光素子(LEDチップ4)の載置領域の裏面を覆う樹脂部8の構成は,甲3-1発明における必須の構成である。
この点に関し,本件審決が,樹脂部8の構成は,甲3-1発明の付加的構成であると判断したのは誤りである。
(a) リードフレームの固定・保持作用
甲3の記載事項(段落【0009】,【0054】,【0106】,図1,16(別紙2参照)等)によれば,甲3-1発明は,リードフレームの外側を折り曲げていた従来技術に対し,発光装置の全体の厚さを変えずに「樹脂部3」の十分な高さを確保するためにリードフレームを折り曲げずに一枚板にするという思想を達成するに際し,従来技術において,プレス機を用いてリードフレームを切断する際にリードフレームにプレス機による大きな外力が加わって,リードフレームが反り樹脂部から剥離しようとする大きな力が生じることになるため,この剥離を防止し,「耐剥離性」を達成するための「リードフレームの形状を固定する役割」を果たしていた「樹脂部103」(段落【0009】)に代わる構成として,「樹脂部8」をリードフレームの裏面側に配置し,「樹脂部3」及び「樹脂部8」が「リードフレームの形状を保持する役割」(段落【0054】)を果たしているのであるから,樹脂部8の構成は,「耐剥離性」を達成するための「樹脂部103」に代わる必須の構成として採用されたものである。
そして,甲3には,別紙2の図1に示すとおり,リードフレームの形状を「固定」及び「保持」するために十分な幅を有する樹脂部8の構成が具体的に開示されている。
したがって,甲3-1発明において,リードフレームの固定・保持作用を奏する樹脂部8の構成は,必須の構成である。
この点に関し,被告は,乙20(特開平11-145361号公報),乙21(特開平8-204091号公報)及び乙22(特開平6-232307号公報)を挙げて,切断部以外の部分にはプレス時の応力がかからないようにすることができるから,プレス切断でありさえすればプレス時に大きな外力が加わりリードフレームの剥離が生じると結論付けることができない旨主張する。
しかしながら,乙20ないし22は,いずれも,発光素子の搭載を予定していない,黒樹脂等によって封止されたICチップに関する発明であり,光半導体デバイスに関するものではなく,従来の黒樹脂を用いたICチップ等においては,プレス時において樹脂部を上から押さえつけておくという態様も一応考え得るものの,樹脂部に対する微少な傷が致命傷となり得る光半導体デバイスにおいては,リードフレームの切断時において,そのような手法を用いることはしない。ましてや,甲3-1発明においては,光を制御するために,断面で見て高い樹脂部3が重要な構成となっているが,このような高さのある微細な形状の樹脂部品である樹脂部3を,上から押さえつけた上で,プレスして大きな力を加えると,樹脂部3が破損する危険があることは当然である。
したがって,被告の上記主張は失当である。
(b) アノード・カソード間の短絡防止作用
甲3の段落【0055】に「樹脂部8の両側に位置する端子部9は,絶縁体である樹脂部8によって隔てられている。このため,端子部9を実装基板にはんだ付けする場合に,たとえば,アノード・カソード間,または複数のLEDチップ間などにおいて短絡が発生することを防止できる。」との記載があるように,甲3-1発明においては,リードフレームの端子部9を実装基板にはんだ付けする場合に,樹脂部8の構成の作用として,リードフレームが実装基板とはんだによる接触をしないことによって,アノード・カソード間の短絡を防止している。
したがって,甲3-1発明において,アノード・カソード間の短絡防止作用を奏する樹脂部8の構成は,必須の構成である。
(c) はんだ熱からの発光素子保護作用
甲3には,甲3-1発明におけるリードフレームの基板への実装は端子部9をはんだ付けすることによって行われること(段落【0055】)が記載されている。
そして,甲3の段落【0051】には,樹脂部8が大きくとられ,はんだ付けされるリードフレームの裏面直上にLEDチップ4が存在しない「実施の形態1」に関し,「リードフレーム1を形成する金属の熱伝導率が400(W/m・K)よりも大きい場合,リードフレーム1を実装する際に発生する熱がLEDチップ4に伝わることによって,LEDチップ4の信頼性が低下するおそれが生じる。」との記載があり,はんだ付けによる実装の際のLEDチップ4に対するダメージを問題視し,熱伝導率の上限値を厳密に画定している。甲3の段落【0033】にも,段落【0051】の上記記載と同一の熱伝導率の上限値を画定する記載がある。
他方で,はんだ付けされるリードフレームの裏面直上にLEDチップ4が存在する場合には,LEDチップ4がはんだ付けの際に発生する熱を最短距離で受けることになり,「実施の形態1」の構成で想定した熱伝導率の上限値によっては,はんだ付けの際に発生する熱によるLEDチップ4に対するダメージを回避できないか,少なくとも回避できないおそれがあることは明らかである。
そして,発光素子であるLEDチップ4に最もダメージを生じる可能性のある構成を回避するのは当然であるから,発光素子が載置された領域のリードフレームの裏面直下に樹脂部8の構成が存在していることは,甲3に開示された全ての発明(甲3-1発明を含む。)の本質的要素であるといえる。
したがって,甲3-1発明において,はんだ熱からの発光素子保護作用を奏する樹脂部8の構成は,必須の構成である。
b 甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成を採用するには,甲3-1発明の樹脂部8が発光素子の載置領域のリードフレームの裏面を覆うことがないように樹脂部8の構成における第1の凹部の幅(距離)を小さくする必要があるが,これによって樹脂部8の構成による前記a記載の①ないし③の各作用が失われるか,少なくとも阻害されるから,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成を採用することには阻害事由がある。
(オ) 以上によれば,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことであるとはいえず,容易に想到することができたものとはいえないから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
オ 小括
以上によれば,甲3-1発明において相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成を採用することは当業者が設計上適宜なし得る程度のことであるとした本件審決の判断は誤りであるから,訂正発明1は当業者が甲3-1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(訂正発明2ないし23の容易想到性の判断の誤り)
本件審決は,訂正発明2ないし23と甲3-1発明又は甲3-2発明との各相違点は,相違点61ないし81と同様の内容を含むものであり,相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成は当業者が設計上適宜なし得る程度のことであること,訂正発明2ないし23に付加された発明特定事項についても当業者が設計上適宜なし得る程度のことであることからすると,訂正発明2ないし23はいずれも甲3-1発明又は甲3-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断した。
しかしながら,前記(1)のとおり,相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成を採用することは当業者が設計上適宜なし得る程度のことであるといえないから,その余の点について検討するまでもなく,本件審決の上記判断は誤りである。
2 被告の主張
(1) 取消事由1(訂正発明1の容易想到性の判断の誤り)に対し
ア 訂正発明1の技術的意義(相違点61ないし81の相互関連性)に対し
原告は,相違点61ないし81は相互に関連して,従来技術における半導体発光装置にはなかった課題を提示すると同時に,その課題解決手段を提供する点に訂正発明1の技術的意義があり,このような訂正発明1の技術的意義を踏まえて,相違点61ないし81について,各相違点の相互の関係を考慮して,容易想到性の判断を行うべきである旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,本来は無関係であるはずの相違点61ないし81が,あたかも,相互の関連性ゆえに切り離し得ないものであるかのように主張するものであって,失当である。
すなわち,「第1の樹脂成形体」の耐光性・密着性の観点から「熱硬化性樹脂」(相違点61)を選択することは,公知樹脂材料の中からの選択でしかなく,何ら特別なことではなく,当業者が適宜選択し得る程度のことであり,「トランスファ成形」(相違点71)の採用も,公知成形法の中からの一成形法の選択でしかなく,当業者が適宜選択し得る程度のことであるから,「熱硬化性樹脂」の選択及び「トランスファ成形」の採用は,当業者が適宜選択し得る程度の組合せにすぎない。上記組合せの結果,熱硬化性樹脂の採用に伴って「バリ抑制」という課題が生じたとしても,「バリ抑制」は,本件出願の20年も前から知られていた課題であり,また,そもそも「バリ抑制」は,熱硬化性樹脂に限られる課題ではなく,熱可塑性樹脂においても同様の課題があることが知られており,「バリ抑制」を解決するための手法自体が周知慣用技術であるから(例えば,甲5(特開昭60-170982号公報)参照),「熱硬化性樹脂」の採用に伴う「バリ抑制」は,客観的にみて新規な課題とはいえない。
したがって,訂正発明1における「第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側が第1の樹脂成形体から露出」する構成(相違点81)の採用は,「バリ抑制」という新規な課題の解決のためのものではなく,相違点81は,相違点61及び相違点71と切り離して評価すべきものであるから,相違点61ないし81には相互関連性は認められない。
イ 取消事由1-1(相違点61の容易想到性の判断の誤り)に対し
(ア) 甲3の段落【0057】には,「第2の樹脂部材」に関し,「製造時におけるリフロー工程を考慮して,樹脂部3および8は,耐熱性に優れた樹脂から形成されている。具体的には,上述の両方の条件を満たす液晶ポリマーまたはポリアミド系樹脂などが使用されている。なお,これ以外の樹脂およびセラミックなどについても,樹脂部3および8を形成する材料として使用することができる。」との記載がある。熱硬化性樹脂が耐熱性を有していることは自明であるから,上記記載は,「樹脂部3および8」を形成する際に,「これ以外の樹脂」すなわち液晶ポリマー又はポリアミド系樹脂「以外の樹脂」として,「熱硬化性樹脂」を使用することを示唆するものといえる。
(イ) 甲3の図16(別紙2参照)に示されている従来の半導体発光装置の代表的な構造は,甲1の図1(FIG1)(別紙3参照)に示されている半導体発光装置の構造そのものであることに照らすと,甲3-1発明は,甲1記載の半導体発光装置を所与の従来技術として位置づけ,放熱性を向上させるとともに,光の指向性を適切に制御させることを目的とするもの(段落【0021】)といえる。
甲1には,「このデバイスのケーシングボディ用の材料として,通常では熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料が使用される。…これはTiO2充填剤を用いて白色に着色されている。」,「特に有利なカバー材料5は,UVにより又は光により硬化を開始するエポキシ樹脂を含有し,…かつ後の時点で熱によって完全に硬化される。」との記載がある。上記記載は,従来から,「熱硬化性樹脂」がケーシングボディ用の材料として通常用いられてきたこと,TiO2充填剤がケーシングボディ用の材料に用いられることを開示するものである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,甲3-1発明において,「樹脂部3および8」を形成する際に,液晶ポリマー又はポリアミド系樹脂「以外の樹脂」として,従来からケーシングボディ用の材料として通常用いられてきた「熱硬化性樹脂」を用いることは自然な選択であるといえるから,当業者にとっては,甲3-1発明の「第2の樹脂部材」を「熱硬化性樹脂」とし,「第2の樹脂部材」にTiO2充填剤を用いること(相違点61に係る訂正発明1の構成)は,必要に応じて適宜選択し得る設計的事項にすぎない。
したがって,甲3-1発明において相違点61に係る訂正発明1の構成を採用することは当業者が設計上適宜なし得る程度のことであるとした本件審決の判断に誤りはなく,上記判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
ウ 取消事由1-2(相違点71の容易想到性の判断の誤り)に対し
(ア) 甲3に甲3-1発明の「第2の樹脂部材」の成形方法として具体的に開示されている「インサート成型」は,射出成形法に分類される手法であるが,射出成形は,熱可塑性樹脂のみならず,熱硬化性樹脂にも用いられる成形方法である(甲7)。
また,甲11(特開平11-340378号公報)に「本実施の形態では熱可塑性樹脂を使用したインサート成形によってリフレクタアレイ(22)を形成したが,エポチシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を使用したインサート成形(トランスファモールド成形)(に)よっ(て)形成してもよい。」(段落【0024】)との記載があるとおり,トランスファ成形は,インサート成形と同一視される程度の成形方法にすぎない。
(イ) 甲3-1発明の従来技術として位置づけられる甲1記載の半導体発光装置に関し,甲1には,「「ジャケット材料」の概念は,本発明の関連で,特に注型成形,注入成形,射出成形又はトランスファー成形を用いて所定の形状にすることができる材料を意味する。この材料には,特に反応性樹脂,例えばエポキシ樹脂,…が属する。」との記載がある。
そうすると,甲1に接した当業者は,熱硬化性樹脂(例えば,エポキシ樹脂)のトランスファ成形により「ジャケット」を成形することを,適宜選択し得る組合せの一つとして理解するものといえる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,当業者にとっては,甲3-1発明の「第2の樹脂部材」を「トランスファ・モールドにより成形されている」ものとすること(相違点71に係る訂正発明1の構成)は,適宜選択し得る設計的事項にすぎない。
したがって,甲3-1発明において相違点71に係る訂正発明1の構成を採用することは当業者が設計上適宜なし得る程度のことであるとした本件審決の判断に誤りはなく,上記判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
エ 取消事由1-3(相違点81の容易想到性の判断の誤り)に対し
(ア) 甲3には,甲3-1発明が「放熱性に優れる」半導体発光装置を実現することを目的とし(段落【0021】),「リードフレーム1から外部に放熱される」こと(段落【0050】)が記載されている。
また,甲3の図1(別紙2参照)には,リードフレームの主面側と反対の裏面側が樹脂部3から露出している態様が開示されている。
そして,外部への放熱部となる露出部分がありさえすれば,その露出部分がリードフレーム1の左右方向にあろうが,上下方向にあろうが,リードフレーム1内の熱がその露出部分に向かう伝熱経路を伝わって外部に放熱されること,外部への放熱は,露出面全部から行われ,リードフレームの裏面が露出していれば当該裏面からも放熱されることは,自明である。
この点に関し,原告は,甲3には,放熱を効率良く行う手段としてリードフレームの厚みを大きくすることが記載されているが(段落【0029】,【0050】),これによって放熱効率が向上するのはリードフレームの横方向への放熱のみであって,リードの底面からの放熱効率を向上させて熱害対策に用いる技術的思想の開示はない旨主張する。
しかしながら,甲3には,リードフレームの横方向へのみ放熱されることについて述べた記載はないし,外部への放熱は,露出面全部から行われることは,自明である。また,甲3記載の「放熱思想」は,リードフレーム自体の「厚み」を「大きい厚み」とすることで「リードフレームによる放熱の効率を向上させる」というものであり,それを具現化するに際し,スリット状の溝の幅を小さくして離間した部分の加工を行うこととするため,そのスリット状の溝によって離間した部分が結果的に他の部分の厚みよりも小さい厚みに「なった」というにすぎず(段落【0029】),リードフレームの横方向への放熱のために,スリット状の溝によって離間した部分の厚みを小さい厚みとしたものではない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(イ) 甲4の記載事項(段落【0028】,【0029】,【0052】,【0082】,図1(別紙3参照))によれば,甲4には,「発光素子が接着された前記反射部の底面と対向する面が,前記絶縁体の表面に露出することにより,前記発光素子から生じる熱を前記発光装置の外部に効率よく放熱することができる」ことが記載され,発光素子の載置領域のリードフレームの裏面から放熱する態様が具体的に開示されている。
そして,甲3と甲4は,発光装置という発明が属する技術分野が同一であるというだけではなく,発光装置の放熱性向上という発明の解決課題(目的)も共通する発明を開示する文献であることからすると,当業者は,リードフレームからの放熱を行おうとする甲3-1発明において,その放熱の一つの態様を示す甲4を参酌し,発光素子の載置領域のリードの裏面から放熱する態様を採用することに十分な動機があるといえる。
したがって,発光素子の載置領域のリードの裏面から放熱する態様は,当業者にとって格別な技術的思想ではない。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,当業者は,甲3-1発明において,甲4に開示された発光素子の載置領域のリードフレームの裏面から放熱する態様の構成を適用し,「第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出され」る構成とすること(相違点81に係る訂正発明1の構成)を容易に想到することができたものである。
したがって,甲3-1発明において相違点81に係る訂正発明1の構成を採用することは当業者が設計上適宜なし得る程度のことであるとした本件審決の判断に誤りはない。
(エ) これに対し原告は,甲3-1発明は,「樹脂が前記リードフレームの反対側の面に回り込んで第1の凹部に充填され」る構成(甲3の図1記載の「樹脂部8の構成」)によって,①「リードフレームの固定・保持作用」,②アノード・カソード間の「短絡防止作用」,③「はんだ熱からの発光素子保護作用」を奏するものであり,発光素子(LEDチップ4)の載置領域の裏面を覆う樹脂部8の構成は,甲3-1発明における必須の構成であり,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成を採用するには,甲3-1発明の樹脂部8が発光素子の載置領域のリードフレームの裏面を覆うことがないように樹脂部8の構成における第1の凹部の幅(距離)を小さくする必要があるが,これにより上記①ないし③の各作用が失われるか,少なくとも阻害されるから,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明の構成を採用することには阻害事由がある旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
a 樹脂部8の構成は,甲3-1発明において必須の構成ではないこと
甲3には,甲3記載の発明の解決課題は,「放熱性に優れるとともに,光の指向性を適切に制御すること」(甲3の段落【0021】)にあり,かかる課題を解決するための構成は,甲3の特許請求の範囲記載の「第1の樹脂部材よりも反射率の大きい第2の樹脂部材を第1の頂面よりも高い位置に設ける」(請求項1),「リードフレームは,スリット状の溝によって離間した部分を含み,その部分は他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成する」(請求項7),「リードフレームは,同一平面上に延在する板形状に形成されている」(請求項8)との構成であり,一方,「樹脂部8の構成」(第1の凹部の構成)は,甲3の特許請求の範囲の請求項9に記載されている発明特定事項であり,付加的に採用し得る構成であることが開示されている。
したがって,甲3-1発明の基本的な構成は,請求項1,7及び8記載の上記構成であって,請求項9記載の「樹脂部8の構成」(第1の凹部の構成)は,甲3-1発明の必須の構成ではないから,原告主張の樹脂部8の構成による①リードフレームの保持・固定作用,②アノード・カソード間の短絡防止作用,③はんだ熱からの発光素子保護作用は,いずれも甲3-1発明の基本的な構成とは直接の関連性を有しない作用である。
b リードフレームの固定・保持作用について
原告は,プレス機を用いてリードフレームを切断する際にリードフレームにプレス機による大きな外力が加わって,リードフレームが反り樹脂部から剥離しようとする大きな力が生じることになるため,この剥離を防止し,「耐剥離性」を達成するための樹脂部8の構成は,甲3-1発明において必須の構成である旨主張する。
しかしながら,甲3には,「樹脂部3および8」は,所定のパターン形状に形成されたリードフレーム1の形状を保持する役割を果たしていること,「樹脂部8」がリードフレーム1の反対側の面1bを広く覆っている態様とすれば,リードフレーム1と「樹脂部8」との接着強度を増大させることができることが記載されているにすぎず,「樹脂部8」がプレス時の剥離防止のために設けられていることについての記載がない。
また,甲3には,リードフレームの幅を切断箇所において小さくする態様が開示され,切断時に必要とされる力を低減させることを意図しているものといえるし,プレスによる切断に当たっては,リードフレームを上型と下型で狭持した状態で,その狭持した部分の外側をプレス切断することとし,切断部以外の部分にはプレス時の応力がかからないようにすることができること(例えば,乙20ないし22)からすると,別紙2の図1記載の樹脂部8の構成を発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側が露出するように構成したとしても,プレス時にリードフレームに大きな力がかからないように切断することは可能である。
したがって,プレス切断のために別紙2の図1記載の樹脂部8の構成が必須であるということはできないから,原告の上記主張は理由がない。
c アノード・カソード間の短絡防止作用について
原告は,甲3-1発明においては,リードフレームの端子部9を実装基板にはんだ付けする場合に,樹脂部8の構成の作用として,リードフレームが実装基板とはんだによる接触をしないことによって,アノード・カソード間の短絡を防止しているから,樹脂部8の構成は,甲3-1発明において必須の構成である旨主張する。
しかしながら,甲3-1発明においてはんだ付けされるのは,樹脂部3から外側に延在する部分のリードフレームの箇所においてであり,樹脂部8はスリット状の「溝1m」をも充填されるように設けられ,第1の凹部の幅が小さくても短絡防止効果が得られるのであるから,別紙2の図1記載の樹脂部8の構成を発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側が露出するように構成したとしても,アノード・カソード間の短絡を防止することができる。
したがって,アノード・カソード間の短絡防止のために別紙2の図1記載の樹脂部8の構成が必須であるということはできないから,原告の上記主張は理由がない。
d はんだ熱からの発光素子保護作用について
原告は,甲3-1発明において,発光素子が載置された領域のリードフレームの裏面直下に樹脂部8の構成が存在していることを前提に,リードフレーム1を形成する金属の熱伝導率の上限値を設定し,はんだ付けの際に発生する熱によるLEDチップ4に対するダメージを回避しているから,樹脂部8の構成は,甲3-1発明において必須の構成である旨主張する。
しかしながら,甲3には,はんだ付けの際の熱によるダメージ回避のために樹脂部8を設けたとの記載はなく,リードフレームの熱伝導率についての記載が樹脂部8の存在を考慮して規定されたとの記載や示唆もない。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
オ 小括
以上によれば,訂正発明1は甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1(1-1~1-3)は理由がない。
(2) 取消事由2(訂正発明2ないし23の容易想到性の判断に誤り)に対し
原告は,本件審決が,訂正発明2ないし23と甲3-1発明又は甲3-2発明との各相違点は,相違点61ないし81と同様の内容を含むものであり,相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成は当業者が設計上適宜なし得る程度のことであること,訂正発明2ないし23に付加された発明特定事項についても当業者が設計上適宜なし得る程度のことであることからすると,訂正発明2ないし23はいずれも甲3-1発明又は甲3-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断したが,相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成は当業者が容易に想到することができたものとはいえないから,本件審決の上記判断は,その前提において誤りがある旨主張する。
しかしながら,前記(1)で述べたとおり,相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成を採用することは当業者が設計上適宜なし得る設計的事項であるから,原告の上記主張は理由がない。
したがって,本件審決における訂正発明2ないし23の容易想到性の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
第4当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正発明1の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 本件明細書の記載事項等について
ア 訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとおりである。
本件明細書(甲32)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図1,2,10及び11については別紙1を参照)。
(ア) 【技術分野】
【0001】
本発明は,照明器具,ディスプレイ,携帯電話のバックライト,動画照明補助光源,その他の一般的民生用光源などに用いられる表面実装型発光装置及びそれに適した樹脂成形体並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子を用いた表面実装型発光装置は,小型で電力効率が良く鮮やかな色の発光をする。また,この発光素子は半導体素子であるため球切れなどの心配がない。さらに初期駆動特性が優れ,振動やオン・オフ点灯の繰り返しに強いという特徴を有する。このような優れた特性を有するため,発光ダイオード(LED),レーザーダイオード(LD)などの発光素子を用いる発光装置は,各種の光源として利用されている。
【0003】
図11に従来の表面実装型発光装置を示す。従来の表面実装型発光装置は,発光素子210と,これを搭載する搭載用リードフレーム220と,発光素子210に導線を介して接続される結線用リードフレーム230と,各リードフレームの大部分を覆う成形体240とを備えている(例えば,特許文献1参照)。この表面実装型発光装置は,その量産性を優先するあまり,液晶ポリマー,PPS(ポリフェニレンサルファイド),ナイロン等の熱可塑性樹脂を遮光性樹脂として成形体240に用いる場合が多い。また,一般に,成形体240に用いられる熱可塑性樹脂はリフロー半田熱に耐えうる耐熱性が必要なため,半芳香族ポリアミド,液晶ポリマー,PPSと言ったエンジニアリングポリマーが使用されている。一般に,熱可塑性樹脂は,射出成形により生産されている。この射出成形する手法は生産性の良さから,安価に高出力の表面実装型発光装置を提供するための主流となっている。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の表面実装型発光装置の成形体240に用いられるこれら熱可塑性エンジニアリングポリマーは,耐熱性に優れるものの分子内に芳香族成分を有するため耐光性に乏しい。また,分子末端に接着性を向上させる水酸基等を有しないため,リードフレーム220,230ならびに透光性封止樹脂250との密着が得られない問題を抱えている。さらに,近年の発光素子の出力向上はめざましく,発光素子の高出力化が図られるにつれ,成形体240の光劣化が顕著となってきている。特に透光性封止樹脂250と熱可塑性エンジニアリングポリマー240の接着界面は,密着性に乏しいことも伴い容易に破壊され剥離に至る。また,剥離に至らずとも光劣化による変色が進行し,発光装置の寿命が大幅に短縮化される。
【0006】
これらの問題を解決するため,成形体を光劣化のない無機材料,例えばセラミックス,とする技術もある。しかし,このセラミックスを用いた成形体は,熱伝導性良好なリードフレームをインサートすることが難しく,熱抵抗値を下げることができない。また透光性封止樹脂との膨張係数が1オーダー以上異なるため信頼性を得るに至っていない。
【0007】
以上のことから,本発明は,高寿命で量産性に優れた表面実装型発光装置及びその表面実装型発光装置に用いる成形体を提供することを目的とする。また,製造容易なそれらの製造方法を提供することを目的とする。
(ウ) 【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題点を解決すべく,本発明者は鋭意検討を重ねた結果,本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は,発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のリードが露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂である表面実装型発光装置に関する。この熱硬化性樹脂は可能な限り分子内に芳香族成分を有しないものが好ましい。
【0011】
発光素子が載置されている主面側と反対の第1のリードの裏面側は,第1の樹脂成形体から露出されていることが好ましい。
【0015】
第1の樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されている。
【0016】
第1の樹脂成形体は,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種により形成されてなることが好ましい。
【0017】
第1の樹脂成形体は,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質,遮光性物質からなる群から選択される少なくとも1種が混合されていてもよい。
(エ) 【発明の効果】
【0027】
本発明は,以上説明したように構成されているので,以下に記載されるような効果を奏する。
【0028】
本発明は,発光素子と,発光素子を載置するための第1のリードと発光素子と電気的に接続される第2のリードとを一体成形してなる第1の樹脂成形体と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置であって,第1の樹脂成形体は,底面と側面とを持つ凹部が形成されており,第1の樹脂成形体の凹部の底面から第1のリードが露出されており,その露出部分に発光素子が載置されており,第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とは熱硬化性樹脂である表面実装型発光装置に関する。
【0029】
これにより耐熱性,耐光性等に優れた表面実装型発光装置を提供することができる。
【0030】
また,第1の樹脂成形体を熱硬化性樹脂にすることにより第2の樹脂成形体との界面の剥離を防止することができる。これは熱可塑性樹脂と異なり,熱硬化性樹脂が表面に多数の反応性官能基を有しているので第2の樹脂成形体と強固な接着界面を形成することができるからである。そして第2の樹脂成形体を熱硬化性樹脂とすることにより第1の樹脂成形体と同様な等方性の熱膨張・収縮挙動を得ることができるため,温度変化による接着界面の熱応力を更に低減することができる。ついで第2の樹脂成形体を第1の樹脂成形体と同種の熱硬化性樹脂とすることにより界面張力の低減による接着力の改善だけでなく,界面にて硬化反応が進行し極めて強固な密着性を得ることが可能となる。耐光性については3次元架橋している熱硬化性樹脂が耐熱性を損なうことなく容易に組成を変更できるため耐光性の劣悪な芳香族成分を簡単に排除できる。かたや熱可塑性樹脂では耐熱性と芳香族成分は事実上同義語であり,芳香族成分なくしてリフロー半田熱に耐えうる成形体を得ることができない。従って,第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体を熱硬化性樹脂にすることにより本来強固な接着界面を有し,かつ光劣化の少ない耐剥離性に優れ,また経年変化の少ない表面実装型発光装置を得ることができる。
【0031】
第2の樹脂成形体は,発光素子が載置された凹部内に配置される。これにより容易に発光素子を被覆することができる。また,発光素子の屈折率と空気中の屈折率とは大きく異なるため,発光素子から出射された光は効率よく外部に出力されてこないのに対し,第2の樹脂成形体で発光素子を被覆することにより,発光素子から出射された光を効率よく外部に出力することができる。また,発光素子から出射された光は凹部の底面及び側面に照射され,反射して,発光素子が載置されている主面側に出射される。これにより主面側の発光出力の向上を図ることができる。さらに,第1の樹脂成形体で凹部底面を覆うよりも,第1のリードは金属であるため発光素子からの光の反射効率を高めることができる。
【0032】
例えば,第1の樹脂成形体にエポキシ樹脂を用い,第2の樹脂成形体に硬質のシリコーン樹脂を用いることができる。
【0034】
発光素子が載置されている主面側と反対の第1のリードの裏面側は,第1の樹脂成形体から露出されていることが好ましい。表面実装型発光装置に電流を投入すると発光するとともに発光素子は発熱する。本構成にすることにより,この熱を効率よく外部に放出することができる。特に,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるため,極めて効率よく放熱することができる。
【0035】
発光素子が載置されている主面側と反対の第1のリード及び第2のリードの裏面側は,第1の樹脂成形体から露出されていてもよい。これにより,発光素子から発生する熱を効率よく外部に放熱することができる。また,第1のリード及び第2のリードは電極として機能しているため,外部電極と極めて容易に接続することができる。特に厚肉の第1のリード及び第2のリードを用いた場合,これらのリードの折り曲げが容易でないものであっても,実装容易な形態である。また,製造工程において,第1のリード及び第2のリードを所定の金型で挟み込むため,バリの発生を低減することができ,量産性を向上させることができる。ただし,第1のリード及び第2のリードの裏面側の全面が露出している必要はなく,バリ発生を抑制したい部位のみの露出でもよい。
【0036】
第1のリードの裏面側の露出部分と第2のリードの裏面側の露出部分とは,実質的に同一平面上にあることが好ましい。これにより,表面実装型発光装置の実装時の安定性を向上することができる。また,露出部分が同一平面上にあることから,平板上の外部電極に半田を用いて表面実装型発光装置を載置して実装すればよく,表面実装型発光装置の実装性を向上させることができる。さらに,金型による成形が極めて容易となる。
【0038】
第1の樹脂成形体は,トランスファ・モールドにより成形されている。射出成形では複雑な形状を形成することができないのに対し,トランスファ・モールドでは複雑な形状の成形体を成形することができる。特に凹部を持つ第1の樹脂成形体を容易に成形することができる。
【0039】
第1の樹脂成形体は,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種により形成されてなることが好ましい。このうちエポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂が好ましく,特にエポキシ樹脂が好ましい。これにより耐熱性,耐光性,密着性,量産性に優れた表面実装型発光装置を提供することができる。また,第1の樹脂成形体に熱可塑性樹脂を用いる場合よりも,第1の樹脂成形体に熱硬化性樹脂を用いる方が,第1の樹脂成形体の劣化を低減することができるため,表面実装型発光装置の寿命を延ばすことができる。
【0040】
第1の樹脂成形体は,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質,遮光性物質からなる群から選択される少なくとも1種が混合されていてもよい。第1の樹脂成形体の要求に応じて種々の物質を添加する。例えば,透光性の高い樹脂を第1の樹脂成形体に用い,第1の樹脂成形体に蛍光物質を混合する場合である。これにより発光素子の側面若しくは底面側に出射された光を蛍光物質が吸収して波長変換して出射するため,表面実装型発光装置全体として所望の発光色を実現することができる。例えば,出射された光を均一に分散するために,発光素子の側面若しくは底面側にフィラーや拡散剤,反射性物質等を添加しておいてもよい。例えば,表面実装型発光装置の裏面側から出力される光を低減するために,遮光性樹脂を混合しておいてもよい。特に,第1の樹脂成形体はエポキシ樹脂中に酸化チタン及びシリカ,アルミナを混合しているものが好ましい。これにより耐熱性に優れた表面実装型発光装置を提供することができる。
【0041】
第2の樹脂成形体は,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質からなる群から選択される少なくとも1種が混合されていてもよい。第2の樹脂成形体の要求に応じて種々の物質を添加する。例えば,第2の樹脂成形体に蛍光物質を混合することにより,発光素子から射出される発光色と異なる発光色を実現することができる。例えば,青色に発光する発光素子と,黄色に発光する蛍光物質とを用いることにより,白色光を実現することができる。また,光を均一に出射するために,フィラーや拡散剤などを混合しておくこともできる。
(オ) 【0048】
本発明は,第1のリードと第2のリードとを一体成形してなる,底面と側面とを持つ凹部が形成されている樹脂成形体の製造方法であって,上金型は樹脂成形体の凹部に相当する凹みを形成しており,第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,樹脂成形体の凹部の底面に相当する第1のインナーリード部と第2のインナーリード部並びに第1のアウターリード部と第2のアウターリード部は上金型と下金型とで挟み込まれる第1の工程と,上金型と下金型とで挟み込まれた凹み部分に熱硬化性樹脂をトランスファ・モールド工程により流し込まれる第2の工程と,流し込まれた熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,樹脂成形体が成形される第3の工程と,を有する樹脂成形体の製造方法に関する。
【0049】
これにより,第1の工程で第1のインナーリード部と第2のインナーリード部とを上金型と下金型で挟み込むため,トランスファ・モールド成形する際の,これらリードのばたつきを抑制することができ,バリの発生がない樹脂成形体を製造することができる。また,発光素子が載置する部分に相当する第1のインナーリード部を露出することができる。さらに,凹部の底面に相当する第1のインナーリード部の主面側及び裏面側が露出するため,発光素子を載置したとき裏面側から放熱することができ,放熱性を向上させることができる。
【0050】
また,熱硬化性樹脂をトランスファ・モールド成形するため,複雑な形状の凹部を有する樹脂成形体を製造することができる。また,量産性,耐熱性,耐光性,密着性等に優れた樹脂成形体を製造することができる。なお,熱可塑性樹脂は,溶融する温度まで加熱して,冷却することにより固化される。よって,熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とは,冷却の工程が異なり,可逆的に硬化が行えるかどうかも異なる。また,熱可塑性樹脂は加工時の粘度が高く複雑な形状を成形することができない。
【0051】
本発明は,第1のリードと第2のリードとを一体成形してなる,底面と側面とを持つ凹部が形成されている第1の樹脂成形体と,第1のリードに載置される発光素子と,発光素子を被覆する第2の樹脂成形体と,を有する表面実装型発光装置の製造方法であって,上金型は第1の樹脂成形体の凹部に相当する凹みを形成しており,第1のリードは第1のインナーリード部と第1のアウターリード部とを有しており,第2のリードは第2のインナーリード部と第2のアウターリード部とを有しており,第1の樹脂成形体の凹部の底面に相当する第1のインナーリード部と第2のインナーリード部並びに第1のアウターリード部と第2のアウターリード部は上金型と下金型とで挟み込まれる第1の工程と,上金型と下金型とで挟み込まれた凹み部分に第1の熱硬化性樹脂がトランスファ・モールド工程により流し込まれる第2の工程と,流し込まれた第1の熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,第1の樹脂成形体が成形される第3の工程と,上金型が取り外される第4の工程と,発光素子は第1のインナーリード部に載置されるとともに,発光素子が持つ第1の電極と第1のインナーリード部とが電気的に接続され,発光素子が持つ第2の電極と第2のインナーリード部とが電気的に接続される第5の工程と,発光素子が載置された凹部内に第2の熱硬化性樹脂が配置される第6の工程と,第2の熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,第2の樹脂成形体が成形される第7の工程と,を有する表面実装型発光装置の製造方法に関する。これにより量産性の良い表面実装型発光装置を製造することができる。特に第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とに熱硬化性樹脂を用いるため,熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを用いた場合よりも,第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体との密着性を向上することができる。また,トランスファ・モールド成形で第1の樹脂成形体を製造する際,樹脂流動性が良好なためバリ発生が問題となるが上金型と下金型でこれらリードをしっかり挟み込むためバリが発生しない。そして,挟み込んだリードは露出するので,この露出部分に発光素子を載置したり,発光素子が持つ電極とリードとをワイヤ等で接続したりすることができる。
【0052】
熱硬化性樹脂,第1の熱硬化性樹脂,第2の熱硬化性樹脂は,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。これにより量産性の良い表面実装型発光装置を製造することができる。また,流動性に富み,加熱,硬化し易いため,成形性に優れ耐熱性,耐光性に優れた表面実装型発光装置を提供することができる。
(カ) 【0054】
<第1の実施の形態>
<表面実装型発光装置>
第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置について図面を用いて説明する。図1は,第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置を示す概略断面図である。図2は,第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置を示す概略平面図である。図1は,図2のI-Iの概略断面図である。
【0055】
第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置は,発光素子10と,発光素子10を載置する第1の樹脂成形体40と,発光素子10を被覆する第2の樹脂成形体50とを有する。第1の樹脂成形体40は,発光素子10を載置するための第1のリード20と,発光素子10と電気的に接続される第2のリード30と,を一体成形している。
【0057】
第1のリード20は第1のインナーリード部20aと第1のアウターリード部20bとを有している。発光素子10は,第1のインナーリード部20a上にダイボンド部材を介して載置されている。第1のインナーリード部20aは,発光素子10が持つ第1の電極11とワイヤ60を介して電気的に接続されている。第1のアウターリード部20bは第1の樹脂成形体40から露出している。第1のリード20は,第1の樹脂成形体40の側面外側に第1のアウターリード部20bを有しているだけでなく,第1の樹脂成形体40の裏面側に露出している部分を第1のアウターリード部20bと呼ぶ場合もあり,第1のアウターリード部20bは,外部電極と電気的に接続される部分であればよい。第1のリード20は外部電極と接続するため,金属部材を用いる。
【0058】
第2のリード30は第2のインナーリード部30aと第2のアウターリード部30bとを有している。第2のインナーリード部30aは,発光素子10が持つ第2の電極12とワイヤ60を介して電気的に接続されている。第2のアウターリード部30bは第1の樹脂成形体40から露出している。第2のリード30は,第2の樹脂成形体40の側面外側に第2のアウターリード部30bを有しているだけでなく,第2の樹脂成形体40の裏面側に露出している部分を第2のアウターリード部30bと呼ぶ場合もあり,第2のアウターリード部30bは,外部電極と電気的に接続される部分であればよい。第2のリード30は外部電極と接続するため,金属部材を用いる。第1のリード20と第2のリード30とが短絡しないように,裏面側における第1のリード20と第2のリード30との近接する部分に絶縁部材90を設ける。
【0059】
第1の樹脂成形体40は,底面40aと側面40bとを持つ凹部40cを形成している。第1のリード20の第1のインナーリード部20aは,第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aから露出している。この露出部分にダイボンド部材を介して発光素子10を載置している。第1の樹脂成形体40は,トランスファ・モールドにより成形する。第1の樹脂成形体40は,熱硬化性樹脂を用いている。凹部40cの開口部は,底面40aよりも広口になっており,側面40bには傾斜が設けられていることが好ましい。
【0060】
第2の樹脂成形体50は,発光素子10を被覆するように凹部40c内に配置している。第2の樹脂成形体50は,熱硬化性樹脂を用いている。第2の樹脂成形体50は蛍光物質80を含有する。蛍光物質80は,第2の樹脂成形体50よりも比重の大きいものを使用しているため,凹部40cの底面40a側に沈降している。
【0061】
本明細書において,発光素子10が載置されている側を主面側と呼び,その反対側を裏面側と呼ぶ。
【0062】
第1の樹脂成形体40と第2の樹脂成形体50とは熱硬化性樹脂を用いており,膨張係数などの物理的性質が近似していることから密着性が極めて良い。また,上記構成にすることにより,耐熱性,耐光性等に優れた表面実装型発光装置を提供することができる。
(キ) 【0068】
こうした発光素子10は,適宜複数個用いることができ,その組み合わせによって白色表示における混色性を向上させることもできる。例えば,緑色系が発光可能な発光素子10を2個,青色系及び赤色色系が発光可能な発光素子10をそれぞれ1個ずつとすることが出来る。なお,表示装置用のフルカラー発光装置として利用するためには赤色系の発光波長が610nmから700nm,緑色系の発光波長が495nmから565nm,青色系の発光波長が430nmから490nmであることが好ましい。本発明の表面実装型発光装置において白色系の混色光を発光させる場合は,蛍光物質からの発光波長との補色関係や透光性樹脂の劣化等を考慮して発光素子の発光波長は400nm以上530nm以下が好ましく,420nm以上490nm以下がより好ましい。発光素子と蛍光物質との励起,発光効率をそれぞれより向上させるためには,450nm以上475nm以下がさらに好ましい。なお,比較的紫外線により劣化されにくい部材との組み合わせにより400nmより短い紫外線領域或いは可視光の短波長領域を主発光波長とする発光素子を用いることもできる。
【0070】
<第1の樹脂成形体>
第1の樹脂成形体40は,底面40aと側面40bとを持つ凹部40cを有している。第1の樹脂成形体40は,凹部40cの底面aから外側に延びる第1のリード20及び第2のリード30を一体成形している。第1のリード20の第1のインナーリード部20aは,凹部40cの底面40aの一部を形成している。第2のリード30の第2のインナーリード部30aは,凹部40cの底面40aの一部を形成しており,第1のインナーリード部20aと所定の間隔離れている。凹部40cの底面40aに相当する第1のインナーリード部20aに発光素子10を載置する。凹部40cの底面40aに相当する第1のインナーリード部20aと,凹部40cの底面40aに相当する第2のインナーリード部30aと,第1のアウターリード部20b,第2のアウターリード部30bは,第1の樹脂成形体40から露出している。裏面側の第1のリード20及び第2のリード30は露出している。これにより裏面側から電気接続することができる。
【0073】
第1の樹脂成形体40の材質は熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂のうち,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種により形成することが好ましく,特にエポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂が好ましい。例えば,トリグリシジルイソシアヌレート(化1),水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル(化2)他よりなるエポキシ樹脂と,ヘキサヒドロ無水フタル酸(化3),3-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(化4),4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(化5)他よりなる酸無水物とを,エポキシ樹脂へ当量となるよう溶解混合した無色透明な混合物100重量部へ,硬化促進剤としてDBU(1,8-Diazabicyclo(5,4,0) undecene-7)(化6)を0.5重量部,助触媒としてエチレングリコール(化7)を1重量部,酸化チタン顔料を10重量部,ガラス繊維を50重量部添加し,加熱により部分的に硬化反応させBステージ化した固形状エポキシ樹脂組成物を使用することができる。
【0081】
第1の樹脂成形体40は,パッケージとしての機能を有するため硬質のものが好ましい。また,第1の樹脂成形体40は透光性の有無を問わないが,用途等に応じて適宜設計することは可能である。例えば,第1の樹脂成形体40に遮光性物質を混合して,第1の樹脂成形体40を透過する光を低減することができる。一方,表面実装型発光装置からの光が主に前方及び側方に均一に出射されるように,フィラーや拡散剤を混合しておくこともできる。また,光の吸収を低減するために,暗色系の顔料よりも白色系の顔料を添加しておくこともできる。このように,第1の樹脂成形体40は,所定の機能を持たせるため,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質,遮光性物質からなる群から選択される少なくとも1種を混合することもできる。
【0082】
<第1のリード及び第2のリード>
第1のリード20は,第1のインナーリード部20aと第1のアウターリード部20bとを有する。第1のインナーリード部20aにおける第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aは露出しており,発光素子10を載置する。この露出された第1のインナーリード部20aは,発光素子10を載置する面積を有していればよいが,熱伝導性,電気伝導性,反射効率などの観点から広面積の方が好ましい。第1のインナーリード部20aは,発光素子10の第1の電極11とワイヤ60を介して電気的に接続されている。第1のアウターリード部20bは,発光素子10が載置されている部分を除く,第1の樹脂成形体40から露出している部分である。第1のアウターリード部20bは,外部電極と電気的に接続されるとともに熱伝達する作用も有する。
【0084】
第1のリード20及び第2のリード30は,鉄,リン青銅,銅合金等の電気良導体を用いて構成することができる。また,発光素子10からの光の反射率を向上させるため,第1のリード20及び第2のリード30の表面に銀,アルミニウム,銅や金等の金属メッキを施すこともできる。また,第1のリード20及び第2のリード30の表面の反射率を向上させるため,平滑にすることが好ましい。また,放熱性を向上させるため第1のリード20及び第2のリード300の面積は大きくすることができる。これにより発光素子10の温度上昇を効果的に抑えることができ,発光素子10に比較的多くの電気を流すことができる。また,第1のリード20及び第2のリード30を肉厚にすることにより放熱性を向上することができる。この場合,第1のリード20及び第2のリード30を折り曲げるなどの成形工程が困難であるため,所定の大きさに切断する。また,第1のリード20及び第2のリード30を肉厚にすることにより,第1のリード20及び第2のリード30のたわみが少なくなり,発光素子10の実装をし易くすることができる。これとは逆に,第1のリード20及び第2のリード30を薄い平板状とすることにより折り曲げる成形工程がし易くなり,所定の形状に成形することができる。
【0086】
<第2の樹脂成形体>
第2の樹脂成形体50は,外部環境からの外力や埃,水分などから発光素子10を保護するために設ける。また,発光素子10から出射される光を効率よく外部に放出することができる。第2の樹脂成形体50は,第1の樹脂成形体40の凹部40c内に配置している。
【0087】
第2の樹脂成形体50の材質は熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂のうち,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種により形成することが好ましく,特にエポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂が好ましい。第2の樹脂成形体50は,発光素子10を保護するため硬質のものが好ましい。また,第2の樹脂成形体50は,耐熱性,耐候性,耐光性に優れた樹脂を用いることが好ましい。第2の樹脂成形体50は,所定の機能を持たせるため,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質からなる群から選択される少なくとも1種を混合することもできる。第2の樹脂成形体50中には拡散剤を含有させても良い。具体的な拡散剤としては,チタン酸バリウム,酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化珪素等を好適に用いることができる。また,所望外の波長をカットする目的で有機や無機の着色染料や着色顔料を含有させることができる。さらに,第2の樹脂成形体50は,発光素子10からの光を吸収し,波長変換する蛍光物質80を含有させることもできる。
(ク) 【0120】
<表面実装型発光装置の製造方法>
本発明に係る表面実装型発光装置の製造方法について説明する。本製造方法は,上述の表面実装型発光装置についてである。図10(a)~(e)は,第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置の製造工程を示す概略断面図である。
【0121】
第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aに相当する第1のインナーリード部20aと第2のインナーリード部30a並びに第1のアウターリード部20bと第2のアウターリード部30bとを,上金型120と下金型121とで挟み込む(第1の工程)。
【0122】
上金型120は第1の樹脂成形体の凹部に相当する凹みを形成している。第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aに相当する上金型120の部分は,第1のインナーリード部20a及び第2のインナーリード部30aとを接触するように形成されている。
【0123】
上金型120と下金型121とで挟み込まれた凹み部分に第1の熱硬化性樹脂がトランスファ・モールド工程により流し込む(第2の工程)。
【0124】
トランスファ・モールド工程は,所定の大きさを有するペレット状の第1の熱硬化性樹脂を所定の容器に入れる。その所定の容器に圧力を加える。その所定の容器から繋がる上金型120と下金型121とで挟み込まれた凹み部分に,溶融状態の第1の熱硬化性樹脂が流し込む。上金型120と下金型121とを所定の温度に温め,その流し込まれた第1の熱硬化性樹脂を硬化する。この一連の工程をトランスファ・モールド工程という。
【0125】
第1のインナーリード部20a及び第2のインナーリード部30aを挟み込むため,第1の熱硬化性樹脂を流し込む際に第1のインナーリード部20a及び第2のインナーリード部30aがばたつくことがなく,バリの発生を抑制できる。
【0126】
流し込まれた第1の熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,第1の樹脂成形体40を成形する(第3の工程)。
【0127】
これにより,熱硬化性樹脂を用いた第1の樹脂成形体40を成形する。これにより耐熱性,耐光性,密着性等に優れたパッケージを提供することができる。また,底面40aと側面40bとを持つ凹部40cを有する熱硬化性樹脂を用いた第1の樹脂成形体40を提供することができる。
【0128】
上金型120及び下金型121を取り外す(第4の工程)。
【0129】
発光素子10を載置するため,上金型120及び下金型121を取り外す。硬化が不十分な場合は後硬化を行い作業上問題が発生しない程度に樹脂成形体40の機械強度を向上させる。
【0130】
発光素子10は第1のインナーリード部20aに載置する。発光素子10が持つ第1の電極11と第1のインナーリード部20aとを電気的に接続する。発光素子10が持つ第2の電極12と第2のインナーリード部20bとを電気的に接続する(第5の工程)。
【0131】
第1の電極11と第1のインナーリード部20aとはワイヤ60を介して電気的に接続する。ただし,発光素子10が上面と下面に電極を持つ場合は,ワイヤを用いず,ダイボンディングのみで電気的接続をとる。次に第2の電極12と第2のインナーリード部30aとはワイヤ60を介して電気的に接続する。
【0132】
発光素子10が載置された凹部40c内に第2の熱硬化性樹脂を配置する(第6の工程)。
【0133】
この第2の熱硬化性樹脂を配置する方法は,滴下手段や射出手段,押出手段などを用いることができるが,滴下手段を用いることが好ましい。滴下手段を用いることにより凹部40c内に残存する空気を効果的に追い出すことができるからである。第2の熱硬化性樹脂は,蛍光物質80を混合しておくことが好ましい。これにより表面実装型発光装置の色調調整を容易にすることができる。
【0134】
第2の熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,第2の樹脂成形体を成形する(第7の工程)。
【0135】
これにより容易に表面実装型発光装置を製造することができる。また,第1の樹脂成形体40と第2の樹脂成形体50とを熱硬化性樹脂で成形することができ,密着性の高い表面実装型発光装置を提供することができる。また,第1の樹脂成形体40と第2の樹脂成形体50との界面の剥離が生じず,耐熱性,耐光性,密着性性等に優れた表面実装型発光装置を提供することができる。
イ 前記アによれば,本件明細書には,訂正発明1に関し,次のような開示があることが認められる。
(ア) 従来の表面実装型発光装置の成形体に遮光性樹脂として用いられる熱可塑性エンジニアリングポリマーは,耐熱性に優れるものの分子内に芳香族成分を有するため耐光性に乏しく,発光素子の高出力化に伴う成形体の光劣化が顕著となっており,また,分子末端に接着性を向上させる水酸基等を有しないため,リードフレーム及び透光性封止樹脂との密着が得られないという問題があった(段落【0003】,【0005】)。
(イ) 訂正発明1は,高寿命で量産性に優れた表面実装型発光装置を提供することを目的とするものであり(段落【0007】),上記課題を解決するための手段として,請求項1記載の構成を採用した。
訂正発明1では,第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体を熱硬化性樹脂にすることにより両者の接着界面が強固になるため,光劣化が少なく,耐剥離性に優れ,経年変化の少ない表面実装型発光装置を得ることができ(段落【0030】),また,第1のリードの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側は,発光素子からの熱を最短距離で外部に放熱できるように,第1の樹脂成形体から露出されているため,極めて効率よく放熱することができ(段落【0034】),さらには,第1の樹脂成形体は,複雑な形状の成形体を成形できるトランスファ・モールドにより成形されているため,凹部を持つ第1の樹脂成形体を容易に成形することができ(段落【0038】,【0050】),その際に,第1のリード及び第2のリードを所定の金型(上金型と下金型)で挟み込んでリードのばたつきを抑制するため,樹脂流動性が良好な熱硬化樹脂を用いても,バリの発生を抑制し,量産性を向上させることができる(段落【0035】,【0049】,【0051】,【0125】)という効果を奏する。
ウ この点に関し,原告は,訂正発明1は,第1の樹脂成形体に使用する材料として,第1の樹脂成形体の耐光性・密着性の見地から,特に熱硬化性樹脂を選択し(相違点61),その選択の結果,従前の成形法であった射出成形では著しく成形が困難であったため,「トランスファ成形」(「トランスファ・モールド」による成形)を採用し(相違点71),さらに,熱硬化性樹脂の採用に伴って,従来技術の構成における半導体発光装置においては想定されていなかったバリ抑制という課題が新たに生じたため,従前の構成とは異なる,バリの発生を抑制できる形状として発光素子載置領域のリードの裏面露出構成を見出して採用したものであり(相違点81),相違点61ないし81は相互に関連して,従来技術における半導体発光装置にはなかった課題を提示すると同時に,その課題解決手段を提供する点に訂正発明1の技術的意義がある旨主張する。
(ア) そこで検討するに,本件明細書には,第1の樹脂成形体に使用する材料として熱硬化性樹脂を採用し,第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体を熱硬化性樹脂にすることにより両者の接着界面が強固になるため,光劣化が少なく,耐剥離性に優れ,経年変化の少ない表面実装型発光装置を得ることができること(前記イ(イ))の開示があるが,第1の樹脂成形体に使用する材料として熱硬化性樹脂を採用した結果,従前の成形法であった射出成形では著しく成形が困難であったため,「トランスファ成形」を採用したことについての記載はない。
すなわち,本件明細書には,「トランスファ成形」に関し,「射出成形では複雑な形状を形成することができないのに対し,トランスファ・モールドでは複雑な形状の成形体を成形することができる。特に凹部を持つ第1の樹脂成形体を容易に成形することができる。」(段落【0038】),「熱硬化性樹脂をトランスファ・モールド成形するため,複雑な形状の凹部を有する樹脂成形体を製造することができる。また,量産性,耐熱性,耐光性,密着性等に優れた樹脂成形体を製造することができる。」(段落【0050】)との記載があり,上記記載から,トランスファ成形が「凹部を持つ第1の樹脂成形体」あるいは「複雑な形状の凹部を有する樹脂成形体」を成形するのに適していることを理解することはできるが,上記記載は,樹脂成形体の材料が熱硬化性樹脂であることと関連づけて述べたものではない。また,本件明細書全体の記載事項をみても,熱硬化性樹脂を用いることと第1の樹脂成形体が凹部の形状であることとの直接の関連性について述べた記載はない。
(イ) また,本件明細書には,熱硬化性樹脂の採用に伴って,従来技術の構成における半導体発光装置においては想定されていなかったバリ抑制という課題が新たに生じたため,従前の構成とは異なる,バリの発生を抑制できる形状として発光素子載置領域のリードの裏面露出構成を見出して採用したことについての記載もない。もっとも,本件明細書の段落【0051】には,「特に第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体とに熱硬化性樹脂を用いるため,熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを用いた場合よりも,第1の樹脂成形体と第2の樹脂成形体との密着性を向上することができる。また,トランスファ・モールド成形で第1の樹脂成形体を製造する際,樹脂流動性が良好なためバリ発生が問題となるが上金型と下金型でこれらリードをしっかり挟み込むためバリが発生しない。」との記載があり,上記記載は,樹脂流動性が良好な熱硬化性樹脂の採用に伴って,バリの発生が問題となることをうかがわせるものではあるが,上記記載から,バリ抑制が従来技術の構成における半導体発光装置においては想定されていなかった新たに生じた課題であるとまで理解することはできない。また,本件明細書全体の記載事項をみても,バリ抑制が従来技術の構成における半導体発光装置においては想定されていなかった新たに生じた課題であることについて述べた記載はない。
かえって,下記aの甲5(特開昭60-170982号公報)の記載事項及び下記bの乙6(特開平11-307669号公報)の記載事項によれば,バリ抑制は,熱硬化性樹脂に限られた課題ではなく,本件出願当時,熱可塑性樹脂においても同様の課題があることが知られており,その課題を解決する手段として,バリの発生を回避する必要のある領域のリードフレームの表面及び裏面の両側を上下の金型で挟み込む方法があることは,周知であったことが認められる。
記
a 甲5
甲5には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については別紙3を参照)。
「〔発明の技術的背景〕
…樹脂ケース1を有するホトセンサは次のような手順で形成される。すなわち,リードフレーム4を第4図に示すような上金型10上に固定し,上下金型10,10′のキヤビテイ(中空部)に遮光性樹脂2を注入,充填し,硬化させて遮光性樹脂2とリードフレーム4とが一体となつたものを形成する。…
〔背景技術の問題点〕
…リードフレーム4の背面側はキヤビテイになつているため,例えばリードフレーム4の変形等により少しでもリードフレーム4と金型との接触が悪い場合には遮光性樹脂2がリードフレーム4のマウントボンデイング面(第4図のBで示す)側に入り込み,リードフレーム4に樹脂バリが形成される。この傾向は遮光性樹脂2が熱可塑性のものに比らべ熱硬化性のものである場合に特に顕著となる。」(1頁左欄最終行~2頁右上欄6行目)
「〔発明の目的〕
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので,素子がマウントボンデイングされるリードフレーム面における樹脂バリの発生の恐れのない光半導体装置を提供することを目的とする。
〔発明の概要〕
すなわち本発明による光半導体装置では,リードフレームに配設された光半導体素子を封止する樹脂ケースを,上記光半導体素子を囲む第1の樹脂部材と,上記第1の樹脂部材に囲まれた領域内に充填された透光性の第2の樹脂部材とで構成し,上記リードフレームの素子のマウントボンデイング面を金型で挟み込むことができるように上記第1の樹脂部材の形状をリードフレームのマウントボンデイング面の裏面に第1の樹脂が及んでいない部分を有したものにしたものである。」(2頁右上欄10行目~左下欄6行目)
「〔発明の実施例〕
…第5図に示すように,リードフレーム44の素子のマウント面およびボンデイング面は下金型11および上金型11′で挾まれる。従つて素子のマウント面およびボンデイング面と,金型との間に間隙ができず,遮光性樹脂の注入によりリードフレームのマウント,ボンデンイング面に樹脂バリが形成される恐れがない。」(2頁左下欄7行目~右下欄9行目)
b 乙6
乙6には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については別紙3を参照)
「【0003】…前記リードフレーム2を図2に示す上型11および下型10よりなるモールド中に保持し,エポキシ樹脂等の熱硬化型樹脂をトランスファー法等により注入することにより,前記樹脂パッケージ本体4が形成される。」
「【0005】しかし…図2のモールドにより樹脂パッケージ本体4を成形する際に,前記リードフレーム2の下側にモールド10の大きな凹部10Aが位置するため,樹脂の注入に際してリードフレーム2が変形することがあり,その結果リードフレームが上型11から離れてしまい,図3に示すように,リードフレーム2の上側に樹脂が回り込んでしまう問題が生じていた。」
「【0006】この問題を解決するため…上型11および下型10として図4に示す構成のものを使い,樹脂注入の際にリードフレームを上下からしっかりと保持する…。…その結果,形成される樹脂パッケージ4は,図5(A),(B)に示すように,下側に上側の枠部に対応した枠部が形成される。」
(ウ) 以上によれば,原告の上記主張は,本件明細書の記載に基づかない主張であって,採用することができない。
(2) 甲3の記載事項について
甲3には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については別紙2を参照)。
ア 特許請求の範囲
【請求項1】
第1の領域と,前記第1の領域の周縁に沿って延在する第2の領域とが規定された主表面を有するリードフレームと,
前記第1の領域に設けられた半導体発光素子と,
前記半導体発光素子から発せられた光に対して第1の反射率を有し,前記半導体発光素子を完全に覆うように前記第1の領域に設けられた第1の樹脂部材と,
前記半導体発光素子から発せられた光に対して前記第1の反射率よりも大きい第2の反射率を有し,前記半導体発光素子を囲むように前記第2の領域に設けられた第2の樹脂部材とを備え,
前記第1の樹脂部材は,第1の頂面を含み,
前記第2の樹脂部材は,前記主表面からの距離が前記主表面から前記第1の頂面までの距離よりも大きい位置に設けられた第2の頂面と,前記半導体発光素子が位置する側において前記主表面から離隔する方向に延在し,前記第2の頂面に連なる内壁とを含む,半導体発光装置。
【請求項7】
前記リードフレームは,スリット状の溝によって離間した部分を含み,前記部分は他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成されている,請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項8】
前記リードフレームは,同一平面上に延在する板形状に形成されている,請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項9】
前記リードフレームは,前記主表面と反対側の面に形成され,かつ樹脂が充填される第1の凹部を含み,前記反対側の面には,前記第1の凹部の両側に位置して実装基板に電気的に接続される端子部が設けられている,請求項8に記載の半導体発光装置。
【請求項11】
前記リードフレームは,熱伝導率が300(W/m・K)以上400(W/m・K)以下の金属によって形成されている,請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
イ 発明の詳細な説明
(ア) 【技術分野】
【0001】
この発明は,一般的には,半導体発光装置,その製造方法および電子撮像装置に関し,より特定的には,発光ダイオード(LED)などの半導体発光素子を用いた半導体発光装置,その製造方法および電子撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図16は,従来の半導体発光装置の代表的な構造を示す断面図である。図16を参照して,半導体発光装置は,主表面101aを有するリードフレーム101を備える。リードフレーム101は,所定のパターン形状に形成されており,主表面101aにはスリット状の溝101mが形成されている。リードフレーム101が折り曲げられることによって,主表面101aと離れた位置に端子部101nが形成されている。端子部101nは,半導体発光装置を実装する基板などに接続される。
【0003】
リードフレーム101の周囲にはインサート成型などによって樹脂部103が設けられている。樹脂部103は,主表面101a上において凹部103mを規定している。凹部103mの内部に位置するように,主表面101a上には,銀(Ag)ペースト107を介してLEDチップ104が搭載されている。LEDチップ104の頂面側に形成された電極とリードフレーム101の主表面101aとが,ボンディングワイヤ105によって接続されている。
【0004】
主表面101a上には,LEDチップ104およびボンディングワイヤ105を覆い,凹部103mの内部を完全に充填するようにエポキシ樹脂106が設けられている。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体発光装置の高輝度化を図るにあたって,図16中の半導体発光装置では以下に説明する問題が生じた。
【0009】
樹脂部103は,所定のパターン形状に形成されたリードフレーム101の形状を固定する役割のほかに,LEDチップ104から発せられる光を凹部103mの側壁で反射することによって光の指向性を制御するという役割も果たしている。しかし,LEDチップ104から発せられた光の進行方向は,エポキシ樹脂106の頂面側から出射する際に屈折によって変化する。このため,従来技術では,光の指向性を十分に制御することができず,さらには半導体発光装置の高輝度化を図ることができなかった。
【0010】
また,半導体発光装置が実装される基板とリードフレーム101とが意図しない箇所において接触し,短絡が発生することを防止するため,リードフレーム101を折り曲げることによって端子部101nを形成している。しかし,半導体発光装置の製品高さには制限があるため,このような折り曲げ構造を有するリードフレーム101によっては,樹脂部103の高さを十分に確保することができない。このことも,従来技術において半導体発光装置の高輝度化を図ることができない一因となっていた。
【0011】
また,半導体発光装置の高放熱化を図るにあたって,図16中の半導体発光装置では以下に説明する問題が生じた。
【0012】
まず,半導体発光装置の高放熱化を図る必要性について簡単に説明する。搭載されているLEDチップ104が発光する際に熱が発生するが,LEDチップ104に流れる電流が大きくなるほど発熱量は大きくなる。また,一般的には,LEDチップ104の温度が高くなるに従って,LEDチップ104の発光効率が低下し,また光劣化が著しくなる。すなわち,LEDチップ104に大きい電流を流しても,効果的に明るい光を取り出せなくなり,さらにはLEDチップ104の寿命を短くしてしまう。以上のような理由から,LEDチップ104から発生する熱を効果的に外部へ逃がすことが必要となる。
【0013】
そこで,半導体発光装置の高放熱化を図るためには,次に示すような方法が考えられる。
【0014】
(a) リードフレーム101の厚みを大きくする。
【0015】
(b) LEDチップ104から端子部101nまでの距離を小さくする。
【0016】
(c) リードフレーム101を形成する材料として,高熱伝導性の材料を使用する。
【0017】
しかし,従来技術では,半導体発光装置を製造する工程において,リードフレーム101に折り曲げ加工を行なう必要がある。所定の折り曲げ加工を行なうために,リードフレーム101の厚みを一定以上に大きくすることができない。
【0018】
また,金型で板材を打ち抜くことによって,リードフレーム101を所定のパターン形状に形成している。しかし,リードフレーム101の厚みを大きくした場合,板材を打ち抜く際に使用する金型の強度を確保するために,金型の厚みを大きくしなければならない。このため,金型によって打ち抜かれる部分,つまりスリット状の溝101mが形成される幅が広くなる。この場合,主表面1a上においてボンディングするための領域を十分に確保できなかったり,リードフレーム101の表面積が小さくなることによって放熱性が逆に低下するといった問題が発生する。このような理由から,半導体発光装置の高放熱化を図るために上述の(a)に示す方法を採ることができなかった。
【0019】
また,主表面101aから折り曲げられた位置に端子部101nが形成されたリードフレーム101の構造上,主表面101aに搭載されたLEDチップ104から端子部101nまでの距離を一定以上に小さくすることはできない。したがって,半導体発光装置の高放熱化を図るために上述の(b)に示す方法も採ることができなかった。
【0020】
さらに,リードフレーム101の同様の構造上の理由から,リードフレーム101を形成する材料として,折り曲げ加工性に優れた材料を選択しなければならない。このため,単純に高熱伝導性の材料を使用することができず,半導体発光装置の高放熱化を図るために上述の(c)に示す方法も採ることができなかった。
【0021】
そこでこの発明の目的は,上記の課題を解決することであり,放熱性に優れるとともに,光の指向性を適切に制御することができる半導体発光装置,その製造方法および電子撮像装置を提供することである。
(イ) 【課題を解決するための手段】
【0022】
この発明に従った半導体発光装置は,第1の領域と,第1の領域の周縁に沿って延在する第2の領域とが規定された主表面を有するリードフレームと,第1の領域に設けられた半導体発光素子と,半導体発光素子を完全に覆うように第1の領域に設けられた第1の樹脂部材と,半導体発光素子を囲むように第2の領域に設けられた第2の樹脂部材とを備える。第1の樹脂部材は,半導体発光素子から発せられた光に対して第1の反射率を有する。第2の樹脂部材は,半導体発光素子から発せられた光に対して第1の反射率よりも大きい第2の反射率を有する。第1の樹脂部材は,第1の頂面を含む。第2の樹脂部材は,主表面からの距離が主表面から第1の頂面までの距離よりも大きい位置に設けられた第2の頂面と,半導体発光素子が位置する側において主表面から離隔する方向に延在し,第2の頂面に連なる内壁とを含む。
【0023】
このように構成された半導体発光装置によれば,半導体発光素子から発せられた光は,相対的に小さい反射率を有する第1の樹脂部材を透過し,第1の樹脂部材の第1の頂面から外部へと出射する。本発明では,第2の樹脂部材は,第1の頂面よりも高い位置に設けられた第2の頂面を有するため,第1の頂面上においても第2の樹脂部材の内壁が存在する。このため,第1の頂面から出射した光を相対的に大きい反射率を有する第2の樹脂部材の内壁によって反射させることができる。これにより,光の指向性を適切に制御することができ,さらには半導体発光装置から高輝度な光を取り出すことができる。また,第2の頂面よりも低い位置に第1の頂面を設けているため,半導体発光素子から発せられた光が第1の樹脂部材を透過する際に減衰することを抑制できる。このため,半導体発光装置からさらに高輝度な光を取り出すことができる。
【0029】
また好ましくは,リードフレームは,スリット状の溝によって離間した部分を含む。その部分は他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成されている。このように構成された半導体発光装置によれば,スリット状の溝の幅を小さくして離間した部分の加工を行なうことができる。これにより,その他の部分を相対的に大きい厚みで形成することができるため,リードフレームによる放熱の効率を向上させることができる。
【0030】
また好ましくは,リードフレームは,同一平面上に延在する板形状に形成されている。このように構成された半導体発光装置によれば,リードフレームの高さを低く抑えることによって,主表面から第2の頂面までの距離を大きくして第2の樹脂部材を設けることができる。これにより,半導体発光素子から発せられる光の指向性をさらに制御しやすくできる。また,リードフレームの折り曲げ加工性を考慮せずにリードフレームを形成する材料を選択することができる。このため,熱伝導性に優れた材料からリードフレームを形成して,リードフレームによる放熱の効果を向上させることができる。
【0031】
また好ましくは,リードフレームは,主表面と反対側の面に形成され,かつ樹脂が充填される第1の凹部を含む。反対側の面には,第1の凹部の両側に位置して実装基板に電気的に接続される端子部が設けられている。このように構成された半導体発光装置によれば,実装基板がリードフレームの予定しない箇所に接触することによって発生する短絡を防止できる。これにより,端子部によって行なうリードフレームと実装基板との電気的な接続を適切に行なうことができる。
【0032】
また好ましくは,リードフレームは,第1の領域に形成された第2の凹部を含む。半導体発光素子は第2の凹部に設けられている。このように構成された半導体発光装置によれば,半導体発光素子から発せられた光は,第2の凹部を規定するリードフレームの側壁によっても反射される。このため,半導体発光素子から発せられる光の指向性をさらに制御しやすくできる。
【0033】
また好ましくは,リードフレームは,熱伝導率が300(W/m・K)以上400(W/m・K)以下の金属によって形成されている。リードフレームを形成する金属の熱伝導率が300(W/m・K)よりも小さい場合,リードフレームによる放熱の効果を十分に図ることができない。また,リードフレームを形成する金属の熱伝導率が400(W/m・K)よりも大きい場合,リードフレームを実装する際に発生する熱が半導体発光素子に伝わることによって,半導体発光素子の信頼性が低下するおそれが生じる。したがって,所定の熱伝導率を有する金属によってリードフレームが形成された本半導体発光装置によれば,半導体発光素子の信頼性を低下させることなく,リードフレームによる放熱を十分に図ることができる。
【0034】
また好ましくは,第2の樹脂部材は,主表面に平行な面上において内壁によって規定される形状の面積が,主表面から離れるに従って大きくなるように形成されている。このように構成された半導体発光装置によれば,光を効率良く前面に出射させることができる。これにより,半導体発光素子から発せられた光を高輝度で取り出すことができる。
(ウ) 【発明の効果】
【0042】
以上説明したように,この発明に従えば,放熱性に優れるとともに,光の指向性を適切に制御することができる半導体発光装置,その製造方法および電子撮像装置を提供することができる。
(エ) 【0044】
(実施の形態1)
図1は,この発明の実施の形態1における半導体発光装置を示す断面図である。図1を参照して,半導体発光装置は,所定のパターン形状に形成され,主表面1aを有するリードフレーム1と,主表面1a上に設けられたLEDチップ4と,LEDチップ4を覆うように主表面1a上に設けられたエポキシ樹脂6と,エポキシ樹脂6の周囲に設けられた樹脂部3とを備える。
【0045】
リードフレーム1は,同一平面上において延在する板形状を有する。リードフレーム1には,所定のパターンニング加工を行なうことによって,主表面1aから主表面1aと反対側の面1bにまで達するスリット状の溝1mが形成されている。
【0046】
リードフレーム1の反対側の面1bには,スリット状の溝1mに連なる溝15が形成されている。これにより,リードフレーム1においてスリット状の溝1mが形成された部分1tは,他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成されている。
【0047】
図2は,図1中の半導体発光装置を示す平面図である。図2では,リードフレーム1に形成されている一部の構造物が省略されている。図1および図2を参照して,主表面1aには,2点鎖線で描かれた円13の内部に位置する領域10と,円13の外部に位置し,領域10の周縁に沿って延在する領域20とが規定されている。円13の中心を通るように溝1mが形成されており,スリット状の溝1mによってリードフレーム1が離間している。
【0048】
LEDチップ4は,主表面1aの領域10に位置して設けられている。LEDチップ4は,銀(Ag)ペースト7を介して設けられている。LEDチップ4の頂面に設けられた図示しない電極と,領域10に位置し,LEDチップ4が設けられた主表面1aとはスリット状の溝1mによって離間している主表面1aとが,金線5によって接続されている。つまり,LEDチップ4は,銀ペースト7および金線5によって主表面1aに機械的および電気的に接続されている。
【0049】
LEDチップ4の電極に接続された金線5の一方端5pは,ボール状に形成されており,主表面1aに接続された金線5の他方端5qは,線状に形成されている。つまり,金線5を所定の位置に接続する際のワイヤボンディングは,まず金線5の一方端5pをLEDチップ4の電極にボールボンディングし,続いて金線5の他方端5qを主表面1aにウェッジボンディングすることによって行なわれている。
【0050】
LEDチップ4から光が発せられると熱が発生する。この熱はリードフレーム1に伝わり,リードフレーム1から外部に放熱される。本実施の形態では,リードフレーム1の部分1tを小さい厚みで形成することによって,スリット状の溝1mを,溝幅を小さくして加工することができる。このため,リードフレーム1の他の部分の厚みを大きくすることによって,リードフレーム1による放熱を効率良く行なうことができる。
【0051】
また,リードフレーム1から効率良く放熱を行うため,リードフレーム1は,熱伝導率が300(W/m・K)以上400(W/m・K)以下の金属によって形成されている。リードフレーム1を形成する金属の熱伝導率が300(W/m・K)よりも小さい場合,リードフレーム1による放熱の効果を十分に図ることができない。また,リードフレーム1を形成する金属の熱伝導率が400(W/m・K)よりも大きい場合,リードフレーム1を実装する際に発生する熱がLEDチップ4に伝わることによって,LEDチップ4の信頼性が低下するおそれが生じる。
【0052】
具体的には,主成分である銅(Cu)に対して,鉄(Fe),亜鉛(Ze),ニッケル(Ni),クロム(Cr),シリコン(Si),スズ(Sn),鉛(Pb)または銀(Ag)などの金属を適宜混ぜた合金によってリードフレーム1が形成されている。この場合,銅に加える金属の量を小さくするほど,リードフレーム1を形成する合金の熱伝導率を高くすることができる。
【0053】
また,本実施の形態では,リードフレーム1が折り曲げのない構造で形成されているため,リードフレーム1を形成する材料を選択する際に,その材料の折り曲げ加工性を考慮する必要がない。このため,幅広い種類の材料からリードフレーム1を形成するための材料を選択することができる。また,リードフレーム1は折り曲げのない構造で形成されているため,折り曲げ時に発生する割れおよびクラックなどを懸念する必要がない。
【0054】
リードフレーム1が,樹脂にインサート成型されることによって,主表面1a上には,領域20に位置する樹脂部3が設けられている。また,樹脂がリードフレーム1の反対側の面1bにまで回り込んで樹脂部8を形成している。樹脂部8は,スリット状の溝1mおよび溝15を充填するように設けられている。樹脂部3および8は,所定のパターン形状に形成されたリードフレーム1の形状を保持する役割を果たしている。特に,本実施の形態では,樹脂部8がリードフレーム1の反対側の面1bを広く覆っているため,リードフレーム1と樹脂部8との接着強度を増大させることができる。これにより,半導体発光装置の信頼性を向上させることができる。樹脂部8の両側に位置するリードフレーム1の反対側の面1bには,半導体発光装置を実装基板に接続するための端子部9が設けられている。
【0055】
樹脂部8の両側に位置する端子部9は,絶縁体である樹脂部8によって隔てられている。このため,端子部9を実装基板にはんだ付けする場合に,たとえば,アノード・カソード間,または複数のLEDチップ間などにおいて短絡が発生することを防止できる。
【0056】樹脂部3は,主表面1aにほぼ平行な平面上に延在する頂面3aと,LEDチップ4が設けられた主表面1aの領域10を囲み,主表面1aから離隔する方向に延在する内壁3bとを有する。内壁3bは,主表面1aと頂面3aとに連なっている。樹脂部3の内壁3bは,LEDチップ4から発せられた光を反射するための反射面として機能する。
(オ) 【0057】
樹脂部3および8は,LEDチップ4から発せられた光を樹脂部3で効率良く反射するために,反射率が高い白色の樹脂から形成されている。また,製造時におけるリフロー工程を考慮して,樹脂部3および8は,耐熱性に優れた樹脂から形成されている。具体的には,上述の両方の条件を満たす液晶ポリマーまたはポリアミド系樹脂などが使用されている。なお,これ以外の樹脂およびセラミックなどについても,樹脂部3および8を形成する材料として使用することができる。また,LEDチップ4から発せられた光をさらに効率良く反射させるために,内壁3bの表面にめっきを施しても良い。
【0058】
樹脂部3の内壁3bと主表面1aとによって形成された凹部には,LEDチップ4および金線5が位置している。その凹部には,LEDチップ4および金線5を覆うようにエポキシ樹脂6が設けられている。エポキシ樹脂6は,外部からの物理的または電気的な接触に対して,LEDチップ4および金線5を保護する役割を果たしている。エポキシ樹脂6は,内壁3bから中心部にかけてやや凹んだ形状の頂面6aを有する。エポキシ樹脂6は,主表面1aから頂面6aまでの距離が,主表面1aから樹脂部3の頂面3aまでの距離よりも小さくなるように形成されている。このため,エポキシ樹脂6の頂面6a上においても頂面3aに向かう方向に内壁3bが延在している。
【0059】
エポキシ樹脂6は,LEDチップ4から発せられる光に対して,樹脂部3が有する反射率よりも小さい反射率を有する材料で形成されている。具体的には,ポッティング方式で注型された透明または乳白色の樹脂が使用されている。なお,ポッティング方式以外にも,トランスファー成型またはインジェクション成型などによっても,エポキシ樹脂6を設けることが可能である。この場合は,エポキシ樹脂6を任意の形状(たとえばレンズ形状)に形成することができる。
【0060】
図3は,図1中のIII-III線上に沿った断面図である。図1および図3を参照して,主表面1aに平行な平面上において内壁3bによって規定される形状25が円形となっている。樹脂部3は,その内壁3bによって規定される形状25の面積が,主表面1aから離れるに従って大きくなるように形成されている。つまり,内壁3bは,頂点が下方に位置する円錐を想定した場合に,その円錐の底面から頂点に向かって延在する円錐の側壁の形状を有する。
【0061】
図4は,樹脂部の内壁によって光が反射される様子を模式的に表わした断面図である。図4を参照して,主表面1a上に光源22が設けられている場合を想定すると,光源22から発せられた光は放射状に進行する。半導体発光装置では,この光源22から発せられる光の指向性を適切に制御し,さらには,所定の方向に高輝度な光を取り出すことが重要となる。樹脂部3は,内壁3bによって規定される形状の面積が主表面1aから離れるに従って大きくなるように形成されているため,光源から主表面1aに近い方向に進行する光を内壁3bによって所定の方向に反射させることができる。これにより,光源から発せられた光を,半導体発光装置の前面,つまり矢印23に示す方向に取り出すことができる。また,主表面1aに平行な平面上において内壁3bによって規定される形状が円形となっているため,内壁3bの傾きを調整することによって光の指向性を容易に制御することができる。
【0062】
本実施の形態では,図1を参照して,LEDチップ4から発せられた光は,内壁3bによって所定の方向に反射され,エポキシ樹脂6を透過して頂面6aから外部へと出射する。この際,頂面6aにおいて屈折が生じることによって光の進行する方向が変化する。しかし,頂面6a上においても反射面として機能する内壁3bが存在するため,光を再び内壁3bに反射させて半導体発光装置の前面へと出射させることができる。
【0065】
この発明の実施の形態1に従った半導体発光装置は,第1の領域としての領域10と,領域10の周縁に沿って延在する第2の領域としての領域20とが規定された主表面1aを有するリードフレーム1と,領域10に設けられた半導体発光素子としてのLEDチップ4と,LEDチップ4を完全に覆うように領域10に設けられた第1の樹脂部材としてのエポキシ樹脂6と,LEDチップ4を囲むように領域20に設けられた第2の樹脂部材としての樹脂部3とを備える。
【0066】
エポキシ樹脂6は,LEDチップ4から発せられた光に対して第1の反射率を有する。樹脂部3は,LEDチップ4から発せられた光に対して第1の反射率よりも大きい第2の反射率を有する。エポキシ樹脂6は,第1の頂面としての頂面6aを含む。樹脂部3は,主表面1aからの距離が主表面1aから頂面6aまでの距離よりも大きい位置に設けられた第2の頂面としての頂面3aと,LEDチップ4が位置する側において主表面1aから離隔する方向に延在し,頂面3aに連なる内壁3bとを含む。
【0067】
半導体発光装置は,LEDチップ4に接続される一方端5pと,主表面1aに接続される他方端5qとを有する金属線としての金線5をさらに備える。エポキシ樹脂6は,金線5を完全に覆うように設けられている。
【0068】
リードフレーム1は,スリット状の溝1mによって離間した部分1tを含む。部分1tは他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成されている。
【0069】
リードフレーム1は,同一平面上に延在する板形状に形成されている。リードフレーム1は,主表面1aと反対側の面1bに形成され,かつ樹脂としての樹脂部8が充填される第1の凹部としての溝15を含む。反対側の面1bには,溝15の両側に位置して実装基板に電気的に接続される端子部9が設けられている。
【0070】
樹脂部3は,主表面1aに平行な面上において内壁3bによって規定される形状の面積が,主表面1aから離れるに従って大きくなるように形成されている。主表面1aに平行な面上において内壁3bによって規定される形状は,円形,楕円形および多角形のいずれかである。
【0071】
このように構成された半導体発光装置によれば,頂面6a上においてもLEDチップ4から発せられる光を反射させるための内壁3bが延在している。また,相対的に低い位置にエポキシ樹脂6の頂面6aが設けられているため,光がエポキシ樹脂6を透過する際に減衰することを抑制できる。さらに,板状に形成されることによってリードフレーム1の高さが低く抑えられているため,樹脂部3の高さを高くすることができる。これにより,LEDチップ4から発せられる光を反射させるための内壁3bをより高い位置まで延在させることができる。以上の理由から,LEDチップ4から発せられる光の指向性を適切に制御して,半導体発光装置から高輝度な光を取り出すことができる。
(カ) 【0111】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され,特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
(3) 相違点61の容易想到性の判断の誤り(取消事由1-1)について
原告は,本件審決が,甲3-1発明において,相違点61に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことである旨判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 甲3の開示事項について
(ア) 前記(2)の甲3の記載事項によれば,甲3には,甲3-1発明に関し,次のとおりの開示があることが認められる。
a 別紙2の図16に示す従来の半導体発光装置は,LEDチップ104が搭載された凹部103mの内部を完全に充填するようにエポキシ樹脂106(段落【0004】)が設けられていたため,LEDチップ104から発せられた光の進行方向は,エポキシ樹脂頂面側から出射する際に屈折によって変化し,光の指向性を十分に制御することができず(段落【0009】),また,折り曲げ構造のリードフレーム101を採用していたために,凹部103mを規定している樹脂部103(段落【0003】)の高さを十分に確保することができず,高輝度化を図ることができないという問題があった(段落【0010】)。
また,一般的には,LEDチップ104の温度が高くなるに従って,LEDチップ104の発光効率が低下し,光劣化が著しくなり,LEDチップ104に大きい電流を流しても,効果的に明るい光を取り出せなくなり,さらにはLEDチップ104の寿命を短くしてしまうことから,LEDチップ104から発生する熱を効果的に外部へ逃がすことが必要となるが(段落【0012】),従来の半導体発光装置は,折り曲げ構造のリードフレームを採用していたために,高放熱化を図るための方法として考えられる(a)リードフレームの厚みを大きくすること,(b)LEDチップから端子部までの距離を小さくすること及び(c)リードフレームに高熱伝導性の材料を用いることのいずれの方法を採ることもできず,高放熱化を図る上での問題となっていた(段落【0011】,【0013】ないし【0020】)。
「この発明」の目的は,上記課題を解決することにあり,「放熱性に優れるとともに,光の指向性を適切に制御することができる半導体発光装置」を提供することにある(段落【0021】)。
b 甲3-1発明は,エポキシ樹脂からなる第1の樹脂部材の第1の頂面上においても半導体発光素子から発せられる光を反射させるための第2の樹脂部材からなる内壁が延在し,第2の樹脂部材の第2の頂面よりも相対的に低い位置に第1の樹脂部材の第1の頂面が設けられているため,光が第1の樹脂部材を透過する際に減衰することを抑制でき,さらには,リードフレームは同一平面上に延在する板形状に形成され,その高さが低く抑えられているため,第2の樹脂部材の第2の頂面の高さを高くして,半導体発光素子から発せられる光を反射させるための内壁をより高い位置まで延在させることができることから,半導体発光素子から発せられる光の指向性を適切に制御して,半導体発光装置から高輝度な光を取り出すことができる(段落【0023】,【0030】,【0032】,【0062】,【0071】)。
次に,甲3-1発明では,リードフレームは,同一平面上に延在する板形状に形成され,スリット状の溝によって離間した部分を含む形状であり,リードフレームの折り曲げ加工性を考慮せずに熱伝導性に優れた材料を選択してリードフレームを形成することができ(段落【0029】,【0030】),また,このような形状のリードフレームを採用することにより,従来の折り曲げ構造のリードフレームと比較して,LEDチップから端子部までの距離は自ずから小さくなり,さらには,リードフレームのスリット状の溝によって離間した部分は,他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成されているため,スリット状の溝の幅を小さくして離間した部分の加工を行うことができるとともに,その他の部分を相対的に大きい厚みで形成することができるため,リードフレームによる放熱効率を向上させることができる(段落【0029】,【0050】)。
c 甲3-1発明では,スリット状の溝によって離間した部分の厚みを他の部分の厚みよりも小さく形成することによりリードフレームの主面側と反対の裏面側に形成された第1の凹部に樹脂が充填され,第1の凹部の裏面側の両側に実装基板に電気的に接続される端子部が設けられている構造を採用することにより,実装基板がリードフレームの予定しない箇所に接触することによって発生する短絡(段落【0031】)及び端子部を実装基板にはんだ付けする場合の短絡(段落【0055】)を防止することができる。
(イ) 甲3には,甲3-1発明の「第2の樹脂部材」(訂正発明1の「第1の樹脂成形体」に相当)に関し,段落【0057】に「樹脂部3および8は,LEDチップ4から発せられた光を樹脂部3で効率良く反射するために,反射率が高い白色の樹脂から形成されている。また,製造時におけるリフロー工程を考慮して,樹脂部3および8は,耐熱性に優れた樹脂から形成されている。具体的には,上述の両方の条件を満たす液晶ポリマーまたはポリアミド系樹脂などが使用されている。なお,これ以外の樹脂およびセラミックなどについても,樹脂部3および8を形成する材料として使用することができる。」との記載があり,「第2の樹脂部材」(別紙2の図1記載の樹脂部3及び8)に熱可塑性樹脂である「液晶ポリマーまたはポリアミド系樹脂」が使用されていることが具体的に摘示され,「これ以外の樹脂」を使用することができることも記載されている。
一方で,甲3には,「これ以外の樹脂」についての具体的な例示はなく,「これ以外の樹脂」に熱硬化性樹脂が含まれることを明示した記載はない。
また,甲3には,「第2の樹脂部材」に酸化チタン顔料が含有されていることについての記載もない。
イ 本件出願当時の技術事項について
(ア) 甲1(国際公開2003/038912号)
a 甲1には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図1については,別紙3を参照)。
(a) 「本発明は,請求項1の上位概念に記載されたオプトエレクトロニクスデバイス,特に放射線を発する,有利に表面実装可能なデバイスに関する。
「ジャケット材料」の概念は,本発明の関連で,特に注型成形,注入成形,射出成形又はトランスファー成形を用いて所定の形状にすることができる材料を意味する。この材料には,特に反応性樹脂,例えばエポキシ樹脂,アクリル樹脂及びシリコーン樹脂が属する。セラミック又はガラス状の材料の使用も考えられる。
…
この公知の表面実装タイプの場合に,凹所の側壁部が例えば適当に傾斜した又は湾曲した面として構成されていて,この面が半導体チップから横方向又は背後方向へ放射された放射線のためのリフレクタとして構成され,このリフレクタがこの放射線を所望の放射方向へ変向させることにより極めて指向性の放射を達成することができる。ケーシング形状もしくはリフレクタ形状に応じて,このデバイスはいわゆるトップルッカー(Toplooker)として,つまりデバイスの実装平面に対して垂直方向か又は傾斜角の方向に主放射方向を有するデバイスとして,又はいわゆるサイドルッカー(Sidelooker)として,つまりデバイスの実相平面に対して平行方向か又は平面的な角度方向に主放射方向を有するデバイスとして構成することができる。相応するケーシング形状を有するトップルッカー及びサイドルッカーの例は,例えばEP 0 400 175 A1の図2もしくは図3に示されている。
このデバイスのケーシングボディ用の材料として,通常では熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料が使用される。実際に使用される有利な実施態様の場合には,ケーシングボディ用のプラスチック材料として,ガラス繊維が充填されたポリフタルアミドが使用され,これはTiO2充填剤を用いて白色に着色されている。」(原文1頁7行目~2頁20行目・訳文1頁~2頁)
(b) 「青色スペクトル領域及び/又は紫外線スペクトル領域からなる放射線を発する半導体チップ,特に,放射線を発する活性層がGaN-,InGaN-,AlGaN-又はInAlGaN-材料を有するGaNベースの半導体チップを使用する場合には,デバイスからの発光効率が意外に低い。
本発明の根底をなす課題は,冒頭に記載した種類の,紫外線及び/又は青色の放射線を発光する及び/又は受光するチップを供えたオプトエレクトロニクスデバイスを,デバイスからの発光効率が改善されるように改良することである。」(原文2頁下から5行目~3頁7行目・訳文3頁)
(c) 「図1は,本発明に使用することができる表面実装可能なオプトエレクトロニクスデバイスの図式的な図を表す。
…図1中には,本発明において使用することができるオプトエレクトロニクスデバイスのケーシング-実装側7に対して垂直方向の図式的な断面図を表す。このケーシングボディ2は,適当なプラスチック材料でリードフレーム1を包囲し,同時にケーシングボディ2を成形することにより作成されている。このケーシングボディ2は有利にケーシングボディの中央に配置された凹所6を有する。その中に,例えばオプトエレクトロニク送信機又は受信機のような半導体チップ3,例えばGaN-,InGaN-,AlGaN-及び/又はInGaAlN-半導体材料をベースとする発光ダイオードチップが配置されている。このチップ3の電気的コンタクト面は,ボンディングワイヤ4によってもしくはチップ底部に対して導電性結合材によって,リードフレーム1の電気的端子1A,1Bと導電性に結合している。
ケーシングボディ2の凹所6の内面2Aは,チップ3から発せられた放射線の少なくとも大部分がチップ3の放射方向へ変向されるように傾斜して構成されている。オプトエレクトロニクスデバイスの放射効率もしくは受光感度を高めるために,高い反射能を有するケーシングボディ2のために適した材料を次に記載するように選択することによって傾斜した内面2Aがリフレクタとして用いられる。
オプトエレクトロニクス半導体チップ3は,このチップから発せられる電磁放射線の少なくとも一部に対して少なくとも部分的に透過性のカバー材料5中に埋め込まれている。カバー材料5の,半導体チップ3とは反対の表面は,この場合にほぼケーシングボディ2の表面に達している。しかしながら,本発明の範囲内で,必要に応じてもちろんキャリアボディ1の凹所6中のカバー材料5の他の充填高さを選択できることも指摘する。更に,デバイスの光学特性を特別な用途目的に合わせるために,こうして作成されたケーシングボディ2上にカバー材料5を用いて適当な光学装置,例えば光学レンズを取り付けることができる。」(原文5頁下から5行目~6頁最終行・訳文4頁~5頁)
(d) 「このカバー材料5のための材料として,通常では放射線透過性の材料が使用され,この材料は有利にUVにより又は光により硬化を開始する特性を有する。特に有利なカバー材料5は,UVにより又は光により硬化を開始するエポキシ樹脂を含有し,このエポキシ樹脂は光又はUV線を当てることにより数秒間で硬化し始めもしくは予備固定され,かつ後の時点で熱によって完全に硬化される。
ケーシングボディ2の材料の選択及びオプトエレクトロニクスデバイスの所望の光学特性に応じて,カバー材料5は主成分の前記したエポキシ樹脂の他に,ケーシングボディ材料との結合強度,硬化開始時間及び完全硬化時間,光透過性,屈折率,温度安定性,機械的強度を所望のように調節するために他の成分を含有する。
混合色光を放射する発光ダイオードデバイスを製造するため及び/又はチップの紫外線又は青色放射線成分をより長波長の放射線へ変換するために,このカバー材料5は蛍光体粒子と混合されている。この蛍光体粒子は,チップ3から発せられる電磁放射線の少なくとも一部,例えば紫外線及び/又は青色スペクトル領域からなる波長を有する部分を吸収し,次いでこの吸収された放射線と比較してより大きな,特に肉眼で見えるかもしくはより良好に見える波長を有する電磁放射線を放射する。」(原文7頁1行目~同頁下から7行目・訳文6頁)
(e) 「このデバイスのケーシングボディ2のために,所定の充填剤を含有するジャケット材料が使用される。ケーシングボディ2の主成分を形成するこのジャケット材料は,この場合に熱可塑性又は熱硬化性プラスチックから形成されるのが有利である。このために,例えばポリフタルアミドが特に適していて,これは機械的安定化のためにガラス繊維と混ぜることができる。
約5~15%,有利に8~12%,特に有利に約10%の体積割合で添加される充填剤として,有利に硫酸バリウム(BaSO4)が利用される。硫酸バリウムは,図2Aの反射スペクトルにおいて図示されているように,約350~800nmの間の波長領域において90%よりも高い反射能を示す材料である。
この500nmを下回る波長に対しても高い反射能に基づいて,ケーシングボディ2の内面2Aにより,青色光及びUV光も反射される。従って,この種のケーシングボディを備えたデバイスは,このスペクトル領域で利用する場合であっても,良好な効率を示す,それというのも半導体チップ3から生じる放射線の大部分がデバイスから放射されるか,もしくはデバイスにより受光された放射線の大部分が半導体チップ3によって検出できるためである。
更に,ケーシングボディ2に充填剤を添加することにより,従来のケーシングボディと比較して有利に老化安定性である,それというのもケーシングボディ中での吸収熱が少なくなるためである。硫酸バリウムは500nmより低い領域ばかりか,赤外線領域においても,極めて高い反射能を示すため,このようなケーシングボディを備えたオプトエレクトロニクスデバイスは普遍的に使用可能である。
別の適当な充填剤はテフロン(PTFE)であり,この反射能は図2Bのグラフに図示されている。図2Bの反射スペクトルから推知できるように,テフロンは約300~800nmの範囲内で明らかに90%を上回る極めて高い反射能を示す。
更に他の充填剤は例えば,TiO2の特別な変態であるアナターゼであり,この反射スペクトルは図2Cのグラフに示されている。図2のグラフでは,今まで使用されていたルチルの反射能と比較してプロットされている。アナターゼは,ルチルと同様にTiO2の特別な変態であり,その際,ルチルの場合にはチタン原子と酸素原子は,アナターゼよりもより密に充填されていて,ルチルはアナターゼよりも高い密度及び高い屈折率を示す。
本発明は,もちろん充填剤に対して前記の明確に示された材料に限定されないばかりか,プラスチック材料にも制限はない。青色領域及び/又はUV領域でも高い反射能を有する充填剤を使用するという認識から出発し,本発明の基本思想から離れることなしに,当業者は充填剤として相応する特性を有する他の材料を使用することもできる。」(原文7頁下から6行目~9頁最終行・訳文8頁~9頁)
b 前記aの甲1の記載事項及び図1(別紙3参照)によれば,甲1には,「プラスチック材料でリードフレーム1を包囲して成形することにより作成されたケーシングボディ2の中央に配置された凹所6に例えばGaN-,InGaN-,AlGaN-及び/又はInGaAlN-半導体材料をベースとする発光ダイオードチップである半導体チップ3が配置され,このチップ3の電気的コンタクト面は,ボンディングワイヤ4によってもしくはチップ底部に対して導電性結合材によって,リードフレーム1の電気的端子1A,1Bと導電性に結合し,オプトエレクトロニクス半導体チップ3は,このチップから発せられる電磁放射線の少なくとも一部に対して少なくとも部分的に透過性のカバー材料5中に埋め込まれている,表面実装可能なオプトエレクトロニクスデバイス」(審決書57頁19行目~28行目参照)が記載されていることが認められる。
そして,甲1には,リフレクタ(反射部材)として構成されたケーシングボディ2に関し,「このデバイスのケーシングボディ用の材料として,通常では熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料が使用される。」(前記a(a)),「ケーシングボディ2の主成分を形成するこのジャケット材料は,この場合に熱可塑性又は熱硬化性プラスチックから形成されるのが有利である。」(前記a(e))との記載がある。上記記載は,反射部材であるケーシングボディ用の材料として,「熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料」が通常使用されることを開示するものといえる。
また,甲1には,「実際に使用される有利な実施態様の場合には,ケーシングボディ用のプラスチック材料として,ガラス繊維が充填されたポリフタルアミドが使用され,これはTiO2充填剤を用いて白色に着色されている。」(前記a(a)),「別の適当な充填剤はテフロン(PTFE)であり,この反射能は図2Bのグラフに図示されている。図2Bの反射スペクトルから推知できるように,テフロンは…極めて高い反射能を示す。更に他の充填剤は例えば,TiO2の特別な変態であるアナターゼであり,この反射スペクトルは図2Cのグラフに示されている。…アナターゼは,ルチルと同様にTiO2の特別な変態であり,その際,ルチルの場合にはチタン原子と酸素原子は,アナターゼよりもより密に充填されていて,ルチルはアナターゼよりも高い密度及び高い屈折率を示す。」(前記a(e))との記載がある。上記記載は,ケーシングボディ用のプラスチック材料にTiO2充填剤を用いることを開示するものである。また,上記記載からTiO2充填剤は,ケーシングボディの「反射能」を向上させるために充填されることを理解することができる。
(イ) 甲11(特開平11-340378号公報)
a 甲11には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図6については,別紙3を参照)。
「【0015】リフレクタ(11)は,図6に示すように,リング部(11a)と,リング部(11a)の外周面の両端に設けられたフランジ部(11b)とを有し,白色粉末を配合した液晶ポリマーやABS樹脂等により構成される。…」
「【0024】…本実施の形態では熱可遡性樹脂を使用したインサート成形によってリフレクタアレイ(22)を形成したが,エポチシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を使用したインサート成形(トランスファモールド成形)(に)よっ(て)形成してもよい。」
b 前記aによれば,甲11は,リフレクタの材料として「エポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂」を使用してもよいことを開示するものといえる。
(ウ) 甲26(特開平10-261821号公報)
a 甲26には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図1については,別紙3を参照)。
「【0045】…本実施例では,図1に例示した半導体発光装置に用いられる樹脂ステム10の樹脂部10Aの組成を改善したものである。…」
「【0046】その製造方法について概説すると…リードフレーム上に,TiO2を主成分とする充填剤を含む…高耐熱性の熱可塑性樹脂を用いたインジェクション成形することにより,樹脂ステム10を形成する。…」
「【0047】半導体発光素子1は,その上面だけでなく,四方の側面からも発光する。そこで,四方の反射板(つまり,凹部7の反射面)の反射率を向上させるため,前述のように充填剤として,高反射性のTiO2等を使用する。…」
b 前記aによれば,甲26は,樹脂部10Aの側面(反射面)からの反射率を向上させるため,高反射性のTiO2等を充填剤として使用することを開示するものといえる。
(エ) 乙13(特開2001-168398号公報)
乙13には,次のような記載がある。
「【0022】(基板106)…基板106は,耐熱性や絶縁性を有するものが好適に用いられる。…またLEDチップからの光を効率よく反射させるために基板を構成する樹脂に酸化チタンなどの白色顔料などを混合させることができる。」
(オ) 検討
a 前記(ア)及び(イ)によれば,本件出願当時,LEDチップ等の半導体発光素子からの光を傾斜面で反射して半導体発光装置の前面へ出射させるための反射部材の材料として,熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料が通常使用される樹脂として認識されており,反射部材を熱硬化性樹脂材料で形成することは,周知技術であったものと認められる。
b 前記(ア)ないし(エ)によれば,本件出願当時,反射部材の反射率を向上させるために,反射部材にTiO2(酸化チタン)等の白色粉末を配合することは,周知技術であったものと認められる。
ウ 相違点61の容易想到性について
(ア) 半導体発光装置の設計に当たっては,反射部材と発光素子の封止部材との結合強度,光透過性,屈折率,温度安定性,機械的強度等が所望の性能となるように調整するため,反射部材と封止部材との部材相互間の接着性,反射部材の反射率等は当然に考慮すべき事項であるといえる。
そして,前記アによれば,甲3には,「第2の樹脂部材」(別紙2の図1記載の樹脂部3及び8)に使用することができる「これ以外の樹脂」についての具体的な例示はないが,段落【0057】には,「第2の樹脂部材」は,「LEDチップ4から発せられた光を樹脂部3で効率良く反射するために,反射率が高い白色の樹脂から形成されている」こと,「製造時におけるリフロー工程を考慮して…耐熱性に優れた樹脂から形成されている」ことの両方の条件を満たす必要があることが記載されている。
(イ) 前記イ(オ)a認定のとおり,本件出願当時,熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料が反射部材において通常使用される樹脂として認識されており,反射部材を熱硬化性樹脂材料で形成することは,周知技術であったものと認められる。
また,①甲15(「化学大事典」1989年10月20日発行)に「熱硬化性樹脂は一般に三次元構造をとるので,耐熱性,…接着性…が高いので塗料,接着剤として使用されることが多い。」(1719頁)との記載があること,②甲16(「新エポキシ樹脂」昭和60年5月10日発行)に「エポキシ樹脂硬化物の物性や接着性が他の樹脂より優れている」(246頁)との記載があること,③甲27(特開平10-163519号公報)に「【0006】エポキシ樹脂は成形時の流動性及び硬化後の第1のリードフレーム11及び第2のリードフレーム12との密着性に優れているため広く用いられている。…」との記載があることからすると,本件出願当時,エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が耐熱性及び接着性・密着性に優れていることは,技術常識であったことが認められる。
(ウ) 前記イ(オ)b認定のとおり,本件出願当時,反射部材の反射率を向上させるために,反射部材にTiO2(酸化チタン)等の白色粉末を配合することは,周知技術であったものと認められる。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)を総合すると,甲3に接した当業者には,甲3-1発明の半導体発光装置において,反射部材である「第2の樹脂部材」と封止部材である「第1の樹脂部材」との結合強度を高めるとともに,「第2の樹脂部材」の反射率を向上させるために,本件出願当時,反射部材に使用されることが周知であり,かつ,耐熱性及び接着性・密着性に優れている熱硬化性樹脂を「第2の樹脂部材」として採用し,これにTiO2(酸化チタン)の白色粉末を配合することの動機付けがあるものと認められるから,当業者は,甲3-1発明において,相違点61に係る訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
エ 原告の主張について
原告は,甲3の段落【0057】の直後の【0058】には,甲3-1発明の「第1の樹脂部材」について熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を用いることが明記されているにもかかわらず,段落【0057】には,「第2の樹脂部材」に関し,熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の記載がないことからすれば,同段落の「これ以外の樹脂」として念頭に置かれているのは,専ら従来技術における熱可塑性樹脂であって,熱硬化性樹脂ではなく,また,甲3-1発明の「第2の樹脂部材」について耐熱性に対する配慮の記載はあるが,耐光性についての記載はなく,甲3-1発明において,相違点61に係る訂正発明1の構成を採用する動機付けが存在しないなどと主張する。
しかしながら,「第2の樹脂部材」に関し,甲3の段落【0057】に熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の記載がないからといって直ちに同段落記載の「これ以外の樹脂」には熱硬化性樹脂が含まれないと断定することはできないし,また,甲3-1発明において,相違点61に係る訂正発明1の構成を採用する動機付けがあることは,前記ウで述べたとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
オ 小括
以上によれば,本件審決における相違点61の容易想到性の判断の誤りをいう原告主張の取消事由1-1は理由がない。
(4) 相違点71の容易想到性の判断の誤り(取消事由1-2)について
原告は,本件審決が,甲3-1発明において,相違点71に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことである旨判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 甲3の開示事項について
甲3には,「第2の樹脂部材」(訂正発明1の「第1の樹脂成形体」に相当)の成形方法に関し,「リードフレーム1が,樹脂にインサート成型されることによって,主表面1a上には,領域20に位置する樹脂部3が設けられている。」(段落【0054】)との記載があるが,「第2の樹脂部材」の成形方法を同段落記載の「インサート成型」に限定することについての記載はない。
イ 本件出願当時の技術事項について
(ア) 甲1
甲1には,反射部材であるケーシングボディの主成分を形成する「ジャケット材料」に関し,「特に注型成形,注入成形,射出成形又はトランスファー成形を用いて所定の形状にすることができる材料を意味する。この材料には,特に反応性樹脂,例えばエポキシ樹脂,アクリル樹脂及びシリコーン樹脂が属する。」(前記(3)イ(ア)a(a))との記載がある。
上記記載は,反射部材であるケーシングボディの成形方法は,特に限定されるものではなく,「注型成形,注入成形,射出成形又はトランスファー成形」のいずれをも用いることができることを開示するものといえる。
(イ) 甲11
甲11には,「…本実施の形態では熱可遡性樹脂を使用したインサート成形によってリフレクタアレイ(22)を形成したが,エポチシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を使用したインサート成形(トランスファモールド成形)(に)よっ(て)形成してもよい。」(前記(3)イ(イ)a)との記載がある。
(ウ) 甲28(特開平10-151794号公報)
甲28には,次のような記載がある。
「【0022】トランスファー成形は,熱硬化性プラスチック材料の成型法の一種である。材料をポット内で余熱軟化しこれをプランジャーによってオリフィスを通して密閉,加熱した金型に比較的高い成形圧で押し込む。プラスチック材料を金型内で熱硬化させ形成させる。そのため均一な硬化,寸法が正確であり本願発明の透光性支持体の一部をレンズに成形などした場合に好適に用いることができる。」
(エ) 甲33(「実用プラスチック成形加工事典」1997年3月24日発行)
甲33には,次のような記載がある。
「半導体の樹脂封止工程の概要
…封止に用いる樹脂はエポキシを主剤とする熱硬化性の複合材料であり,タブレット状に成形されたものを必要に応じて高周波加熱した後,ポット内に投入する。…」(343頁左欄下から7行目~右欄10行目)「なお,以前に高能率化を目的として,射出成形の検討が行われたことがある。しかし…微細な部品で構成される半導体の封止用途には適さないことが分かり…トランスファー成形方式が現在まで用いられている。」(343頁右欄最終行~344頁左欄5行目)
(オ) 検討
前記(ア)ないし(エ)によれば,本件出願当時,「トランスファ成形」(トランスファ・モールド」による成形)は,熱硬化性樹脂の成形方法として一般的に用いられており,また,トランスファ成形が射出成形よりも均一かつ正確な成形を行うことができる点において成形性に優れていることは周知であったものと認められる。
ウ 相違点71の容易想到性について
前記ア認定のとおり,甲3には,「第2の樹脂部材」の成形方法を特に限定する記載はないから,甲3-1発明において,「第2の樹脂部材」をどのような成形方法により形成するかは,当業者が設計上の必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるというべきである。
そして,本件出願当時,「トランスファ成形」は,熱硬化性樹脂の成形方法として一般的に用いられていたこと,トランスファ成形が射出成形よりも成形性に優れていることは周知であったことは,前記イ(オ)認定のとおりである。
そうすると,甲3に接した当業者は,甲3-1発明において,本件出願当時熱硬化性樹脂の成形方法として一般的に用いられ,成形性に優れた「トランスファ成形」を採用し,相違点71に係る訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
エ 原告の主張について
原告は,甲3に甲3-1発明の「第2の樹脂部材」の成形方法として具体的に開示されている射出成形法である「インサート成型」は,高速かつ安価な成形が可能であるから,甲3-1発明において,射出成形法を量産性に劣るトランスファ成形に置換するには,強い動機が必要であり,具体的には,射出成形することが不可能ないし著しく困難であるという事情が必要であるが,甲3には,そのような事情の開示がないから,甲3-1発明に相違点71に係る訂正発明1の構成を採用する動機付けがないなどと主張する。
しかしながら,前記ウのとおり,「第2の樹脂部材」をどのような成形方法により形成するかは,当業者が設計上の必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるというべきであるから,トランスファ成形を採用するには射出成形することが不可能ないし著しく困難であるという事情が必要であるということはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
オ 小括
以上によれば,本件審決における相違点71の容易想到性の判断の誤りをいう原告主張の取消事由1-2は理由がない。
(5) 相違点81の容易想到性の判断の誤り(取消事由1-3)について
原告は,本件審決が,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が設計上適宜なし得る程度のことである旨判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 甲3の開示事項について
甲3記載の半導体発光装置の「実施の形態1」を示した別紙2の図1には,板形状のリードフレーム1におけるスリット状の溝1mによって離間した部分が他の部分の厚みよりも小さい厚みで形成され,リードフレーム1は,半導体発光素子であるLEDチップ4が設けられている領域の主面側と反対の裏面側が第1の凹部に充填された樹脂部材で覆われ,露出していない構造が示されている。
甲3には,リードフレームの主面側の第1の領域に半導体発光装置を設けることについて記載があるが,半導体発光装置を第1の領域のどの位置に設けるかについての記載はなく,リードフレームの半導体発光素子が設けられている領域の主面側と反対の裏面側を露出させることについての記載もない。
他方で,甲3には,第1の凹部の範囲が半導体発光素子が設けられている領域の主面側と反対の裏面側まで及ぶ必要があるのかについて述べた記載もなく,リードフレームの半導体発光素子が設けられている領域の主面側と反対の裏面側を露出させる構造を採用することの可否についての明記はない。
イ 相違点81の容易想到性について
(ア) 甲4(特開2003-174200号公報)には,「…前記発光素子は,前記第1リードの前記カップ状に成形された反射部内の底面に接着されており,前記反射部の,前記発光素子が接着された面と対向する面が前記絶縁体の表面に露出している…。」(段落【0028】),「…前記発光素子が接着された前記反射部の底面と対向する面が,前記絶縁体の表面に露出することにより,前記発光素子から生じる熱を前記発光装置の外部に効率よく放熱することができる。そのため,従来の表面実装型の発光装置に比べ,放熱特性を向上させることができ,熱による前記発光素子の電気的特性の変化を低減し,発光効率を安定化させることができる。…」(段落【0029】),「図1(a)及び図1(b)において,1は発光素子,2は第1リード,201は第1リードの接続端子部,202は反射部,202Aは反射部の底面,202Bは反射部の側面(反射面),203は第1リードの突起部,3は第2リード,301は第2リードの接続端子部,303は第2リードの突起部,4は絶縁体,4Aは絶縁体の第1面,5はボンディングワイヤ…である。…」(段落【0049】)との記載があり,上記記載及び図1(a)及び図1(b)(別紙3参照)には,リードフレームの半導体発光素子が設けられている領域の主面側と反対の裏面側を露出させる構成が示されている。
(イ) 半導体発光装置において,発光素子から発生する熱を装置の外部に放熱させる必要があることは,その設計に当たって当然に考慮すべき事項であり,そのための一つの方法として,リードフレームの半導体発光素子が設けられている領域の主面側と反対の裏面側を露出させる構造とすることにより,リードフレームからの放熱効率を向上させることも,前記(ア)の甲4に記載があるように,本件出願当時,半導体発光装置の当業者において既に知られており,半導体発光装置の設計に当たって当然に考慮の対象となる技術的事項であると認められる。
そして,甲3-1発明の半導体発光装置において,高輝度の発光を得るために高出力・高発熱量の半導体発光素子を用いた場合,樹脂は金属よりも熱伝導性に劣るため,リードフレームの裏面を露出する構造とする方がリードフレームの裏面を樹脂で覆う構造とするよりも,リードフレームからの放熱効率が勝ることは当業者にとって自明であるから,リードフレームからの放熱効率を向上させるために,リードフレームの半導体発光素子が設けられている領域の主面側と反対の裏面側を露出させるように,半導体発光素子を配置する構成とする動機付けがあるものと認められる。
そうすると,当業者において,甲3-1発明において,これに組み込まれる半導体発光素子の発熱量に応じたリードフレームによる放熱効率の向上のために,リードフレームの半導体発光素子が設けられている領域の主面側と反対の裏面側を露出させ,その裏面側まで樹脂部材が充填された第1の凹部の範囲が及ばない構成を採用することは,半導体発光装置の設計上適宜行うことができる設計的事項であるというべきであるから,相違点81に係る訂正発明1の構成を容易に想到することができたものと認められる。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,甲3には,放熱を効率良く行う手段としてリードフレームの厚みを大きくすることが記載されているが(段落【0029】,【0050】),これによって放熱効率が向上するのはリードフレームの横方向への放熱のみであって,リードの底面からの放熱効率を向上させて熱害対策に用いる技術的思想の開示はないから,甲3-1発明において,リードフレームの半導体発光素子が設けられている領域の主面側と反対の裏面側を露出させる構成を採用する動機付けがない旨主張する。
しかしながら,甲3の「リードフレーム1の部分1tを小さい厚みで形成することによって,スリット状の溝1mを,溝幅を小さくして加工することができる。このため,リードフレーム1の他の部分の厚みを大きくすることによって,リードフレーム1による放熱を効率良く行なうことができる」(【0050】)との記載は,溝1mの溝幅を小さくするために,第1の凹部が存在する範囲のリードフレームの部分1tを小さい厚みで形成したとしても,リードフレーム1の他の部分の厚みを大きくすることで,放熱を効率良く行うことができることを述べるものにすぎない。また,厚みの薄い部分は細い溝の加工性を確保するために形成されたものであって,この部分に樹脂が充填されれば結果として横方向に放熱されることになるものの,樹脂が充填されない本来の厚みの部分では底面部分からも放熱されることになるから,甲3-1発明が放熱思想として横方向の放熱のみを想定していたということはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提において理由がない。
(イ) 原告は,甲3-1発明は,「樹脂が前記リードフレームの反対側の面に回り込んで第1の凹部に充填され」る構成(甲3の図1記載の「樹脂部8の構成」)によって,①「リードフレームの固定・保持作用」,②アノード・カソード間の「短絡防止作用」,③「はんだ熱からの発光素子保護作用」を奏するものであり,上記構成は,甲3-1発明における必須の構成であるが,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成を採用するには,甲3-1発明の樹脂部8が発光素子の載置領域のリードフレームの裏面を覆うことがないように樹脂部8の構成における第1の凹部の幅(距離)を小さくする必要があるが,これにより上記①ないし③の各作用が失われるか,少なくとも阻害されるから,甲3-1発明において,相違点81に係る訂正発明1の構成を採用することには阻害事由がある旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
a リードフレームの固定・保持作用について
(a) 原告は,甲3の図1(別紙2参照)に開示された樹脂部8の構成が甲3-1発明の必須の構成である旨主張する。
そこで検討するに,甲3には,「実施の形態1」に関して,「樹脂がリードフレーム1の反対側の面1bにまで回り込んで樹脂部8を形成している。…樹脂部3および8は,所定のパターン形状に形成されたリードフレーム1の形状を保持する役割を果たしている。特に,本実施の形態では,樹脂部8がリードフレーム1の反対側の面1bを広く覆っているため,リードフレーム1と樹脂部8との接着強度を増大させることができる。」(段落【0054】)との記載があり,図1や図7等には,このような記載に沿う形状すなわち発光素子(LEDチップ4)の載置領域の反対側の裏面を含むリードフレームの裏面を広く覆う形状の樹脂部8が示されている。
しかしながら,甲3の上記記載は,樹脂部材(樹脂部8)が充填された第1の凹部が,リードフレームの主表面に設けられる樹脂部材(樹脂部3)とともに,リードフレームの形状を保持する役割を有することを開示するものではあるが,第1の凹部の具体的な形状については,「特に,…樹脂部8がリードフレーム1の反対側の面1bを広く覆っている」態様,すなわちリードフレームの裏面を広く覆う形状にした場合には,リードフレームと第1の凹部に充填された樹脂部材との接着強度を増大させることができることを開示するにすぎず,第1の凹部を発光素子(LEDチップ4)の載置領域の反対側の裏面を覆う形状とすることが甲3-1発明の構成上必須であることを開示するものとはいえない。
そして,甲3には,他に,第1の凹部が発光素子(LEDチップ4)の載置領域の反対側の裏面を覆う形状が甲3-1発明の必須の構成であることを示す記載は見当たらない。
そうすると,甲3に接した当業者においては,第1の凹部がリードフレームの裏面を広く覆う形状とすることが,リードフレームと樹脂部材との接着強度を増大させるために好ましい一つの構成であるとは理解するものの,第1の凹部の具体的な形状については,そのような観点も考慮要素として,設計上適宜定めるべき事項であることを理解するというべきである。
したがって,発光素子(LEDチップ4)の載置領域の反対側の裏面を含むリードフレームの裏面を広く覆う形状の樹脂部8の構成が甲3-1発明の必須の構成であるとの原告の上記主張は採用することができない。
(b) 原告は,プレス機を用いてリードフレームを切断する際にリードフレームにプレス機による大きな外力が加わって,リードフレームが反り樹脂部から剥離しようとする大きな力が生じることになるため,この剥離を防止し,「耐剥離性」を達成するために,甲3-1発明において,別紙2の図1に開示された樹脂部8の構成が必要である旨主張する。
しかしながら,甲3には,製造時のプレス切断の際に,樹脂成形体からリードフレームが剥離するのを防止する必要がある旨の特段の記載は存在しない。
そうすると,甲3-1発明に係る半導体発光装置の製造や実装に当たり,樹脂成形体からリードフレームが剥離するのを防止する必要性があるとしても,かかる必要性に対処するために樹脂部材が充填された第1の凹部の具体的な形状をどのようなものとするかは,はんだ付けの態様やリードフレームのプレス切断の態様等を踏まえ,結局は当業者が設計上適宜定めるべき事項の域を出るものではないというべきであり,「耐剥離性」を達成するために,別紙2の図1に示された,発光素子(LEDチップ4)の載置領域の反対側の裏面を含むリードフレームの裏面を広く覆う形状の樹脂部8の構成が必須であるということはできない。
また,甲3には,プレス機を用いたリードフレーム基材の切断について,具体的な記載はないため,切断時にリードフレームに対していかなる程度の力が加わるのかは明らかではない。
さらに,下記の①ないし③の乙20ないし22の記載事項によれば,本件出願当時,リードフレーム自体を上下から挟持した状態でプレス切断する態様が周知であったことが認められ,甲3-1発明の半導体発光装置について,このような態様でリードフレームを切断することに特段の支障があるものとも認められず,このような態様でリードフレーム基材の切断を行えば,リードフレームに樹脂成形体から剥離しようとする大きな力が加わるということはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
記
① 乙20(特開平11-145361号公報)
乙20には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については別紙3を参照)。
「【0015】図1(a)~(c)は本発明の一実施の形態におけるリードフレームの切断除去方法を説明するための動作順に示すリードフレームの切断除去装置の部分断面図である。…」
「【0016】次ぎに,図1(a)に示すように,上型のパンチホルダ8を下降させ,ダイ2に載置されたリードフレームをパット3でダイ2にスプリング9の圧力で押し付け固定する。このとき,半導体装置の外郭体14はダイ2の窪みに挿入されている。また,半導体装置の外郭体14より導出する外部リード13は,外郭体14側の一部はパット3に押さえられ,それ以外の枠部の際までの外部リード13はダイ2の切断穴4の上にある。」
「【0017】次ぎに,図1(b)に示すように,パンチホルダ8の下降に伴ってパンチ1が下降しパンチ1の前刃部5が外郭体14側の外部リード13に切り込み切断する。…」
「【0018】次ぎに,図1(c)に示すように,パンチ1は撓んだ状態でさらに下降し,パンチ1の前刃部5と段差のある後刃部6で外部リード13と枠部の際を切断する。…」
② 乙21(特開平8-204091号公報)
乙21には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については別紙3を参照)。
「【0005】図4は外部リードをパンチとダイによって切断する従来の半導体装置用リード切断装置の概略構成を示す断面図…である。これらの図において,1は表面実装型半導体装置の外部リードで,この外部リード1は,図4において左側が樹脂封止部に連なっている。2はダイ,3はこのダイ2とともに外部リード1を狭圧保持するシェダー,4はポンチである。…」
「【0025】
【実施例】
…図1は第1の発明に係る半導体装置用リード切断装置の構成を示す断面図で,同図(a)は外部リードをクランプした状態を示し,同図(b)は切断中の状態を示す。…」
「【0027】13はダイ,14は前記ダイ13と共に前記外部リード12を狭圧保持するシェダーである。…」
「【0030】このように構成されたリード切断装置によって外部リード12を切断するには,先ず,図1(a)に示すようにダイ13とシェダー14に外部リード12を狭圧保持させる。…
【0031】その後,第1図(b)に示すように切断ポンチ15を下降させて切断を行う。…」
③ 乙22(特開平6-232307号公報)
乙22には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については別紙3を参照)。
「【0015】図7は,リード端子13をシャー切断するための切断金型40を示している。本実施例で用いられる切断金型40は,リード端子13を下方から切断する,いわゆるアッパーカット方式を採っており,パッケージ本体20が載置されるストリッパブロック41,カットダイ42,カットポンチ43等から構成されている。…」
(c) 以上によれば,甲3-1発明における第1の凹部に充填された樹脂部材にリードフレームの固定・保持作用があることは,リードフレームの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側を露出させる構成とすることを阻害すべき事由に当たるということはできず,この点に関する原告の主張は,採用することができない。
b アノード・カソード間の短絡防止作用について
原告は,甲3の段落【0055】に「樹脂部8の両側に位置する端子部9は,絶縁体である樹脂部8によって隔てられている。このため,端子部9を実装基板にはんだ付けする場合に,たとえば,アノード・カソード間,または複数のLEDチップ間などにおいて短絡が発生することを防止できる。」との記載があるように,甲3-1発明においては,リードフレームの端子部9を実装基板にはんだ付けする場合に,樹脂部8の構成の作用として,リードフレームが実装基板とはんだによる接触をしないことによって,アノード・カソード間の短絡を防止しているから,甲3-1発明において,アノード・カソード間の短絡防止作用を奏する甲3の図1記載の樹脂部8の構成は,必須の構成である旨主張する。
しかしながら,甲3-1発明の樹脂部8の構成を別紙2の図1に示すように発光素子(LEDチップ4)の載置領域の反対側の裏面を含むリードフレームの裏面を広く覆う形状とすることによって,端子部の間隔がより広くなり,端子部を実装基板にはんだ付けする場合における短絡が起こりにくくなるということはできるが,実際に端子間の間隔やその間にある樹脂部8が充填される第1の凹部の幅をどの程度とするかは,上記短絡のおそれやはんだ付けの態様等,あるいは放熱の効率の向上といった設計上の他の考慮要素をも勘案しつつ,当業者が設計上適宜定めるべき事項というべきであるから,短絡防止の観点のみから直ちに,樹脂部8が発光素子(LEDチップ4)の載置領域の反対側の裏面を覆う形状が必須であるということはできない。
したがって,甲3-1発明の樹脂部8が充填された第1の凹部に短絡を防止する作用があることは,リードフレームの発光素子が載置されている領域の主面側と反対側の裏面側を露出させる構成とすることを阻害すべき事由に当たるということはできず,この点に関する原告の主張は,採用することができない。
c はんだ熱からの発光素子保護作用について
原告は,甲3が規定するリードフレームの熱伝導率の上限値は,発光素子が載置された領域のリードフレームの裏面直下に樹脂部8の構成が存在することを前提とするものであり,発光素子が載置された領域の裏面直下を露出させると,はんだ付けの際の熱による発光素子に対するダメージを回避できないか,そのおそれがあるから,発光素子が載置された領域のリードフレームの裏面直下に樹脂部8の構成が存在することは,甲3-1発明の必須の構成である旨主張する。
そこで検討するに,甲3には,発光素子(LEDチップ4)の載置領域裏面が樹脂部8で覆われ,その裏面が露出していない態様(別紙2の図1)の「実施の形態1」についての段落【0051】記載中に,リードフレームを熱伝導率が300(W/m・K)以上400(W/m・K)以下の金属によって形成すること,熱伝導率が400(W/m・K)よりも大きい場合,リードフレームを実装する際に発生する熱がLEDチップ4に伝わることによって,LEDチップ4の信頼性が低下するおそれが生じることが記載されており,段落【0033】にも,上記と同様の記載がある。
しかるところ,甲3の段落【0033】においては,樹脂部材(樹脂部8)が充填された第1の凹部の形状は特に特定されていない。また,甲3の特許請求の範囲の記載において,リードフレームの熱伝導率を発明の構成とするのは,請求項11の「前記リードフレームは,熱伝導率が300(W/m・K)以上400(W/m・K)以下の金属によって形成されている,請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体発光装置。」であるところ,同請求項は,リードフレームの裏面に形成される第1の凹部を発明の構成とする請求項9の「前記リードフレームは,前記主表面と反対側の面に形成され,かつ樹脂が充填される第1の凹部を含み,前記反対側の面には,前記第1の凹部の両側に位置して実装基板に電気的に接続される端子部が設けられている,請求項8に記載の半導体発光装置。」だけでなく,これを発明の構成としない他の請求項をも引用するものである。
そうすると,甲3の段落【0033】及び【0051】記載のリードフレームの熱伝導率の上限値は,発光素子(LEDチップ4)の載置領域裏面が樹脂部8で覆われ,その裏面が露出していない構造のものに限ることなく,リードフレーム材料の選択に際しての好ましい範囲の値を一般的に示したものにすぎないものと認められる。
よって,リードフレーム材料の熱伝導率の上限値を示す甲3の上記記載は,発光素子(LEDチップ4)の載置領域の裏面が樹脂部8で覆われていることを必須の前提とするものとはいえないから,リードフレームの発光素子が載置されている領域の主面側と反対の裏面側を露出させる構成とすることを阻害すべき事由に当たるということはできず,この点に関する原告の主張は,採用することができない。
d 結び
したがって,甲3-1発明において相違点81に係る訂正発明1の構成を採用することには阻害事由があるとの原告の主張は,理由がない。
エ 小括
以上によれば,本件審決における相違点81の容易想到性の判断の誤りをいう原告主張の取消事由1-3は理由がない。
(6) まとめ
以上のとおり,訂正発明1は甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1(1-1~1-3)は理由がない。
2 取消事由2(訂正発明2ないし23の容易想到性の判断に誤り)について
原告は,本件審決は,訂正発明2ないし23と甲3-1発明又は甲3-2発明との各相違点は,相違点61ないし81と同様の内容を含むものであり,相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成は当業者が設計上適宜なし得る程度のことであること,訂正発明2ないし23に付加された発明特定事項についても当業者が設計上適宜なし得る程度のことであることからすると,訂正発明2ないし23はいずれも甲3-1発明又は甲3-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断したが,相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成は当業者が容易に想到することができたものとはいえないから,本件審決の上記判断は,その前提において誤りがある旨主張する。
しかしながら,前記1で述べたとおり,相違点61ないし81に係る訂正発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到することができたものと認められるから,原告の上記主張は理由がない。
したがって,本件審決における訂正発明2ないし23の容易想到性の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
(裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅)
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