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知財高等裁判所 平成26年(行ケ)10166号 判決 2016年6月23日

原告

日本ファイリング株式会社

訴訟代理人弁護士

鮫島正洋

小栗久典

和田祐造

被告

株式会社岡村製作所

訴訟代理人弁護士

三村量一

訴訟復代理人弁護士

澤田将史

近藤正篤

訴訟代理人弁理士

重信和男

堅田多恵子

小椋正幸

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2011-800009号事件について平成26年6月3日にした審決のうち,「特許第2851237号の請求項1,2及び7に記載された発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯等

(1)  原告は,平成6年4月20日,発明の名称を「図書保管管理装置」とする発明について特許出願(特願平6-81398号。以下「本件出願」という。)をし,平成10年11月13日,特許第2851237号(請求項の数7。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受けた。

(2)  被告は,平成23年1月19日,本件特許のうち特許請求の範囲の請求項1,2及び7に係る発明についての特許を無効とすることを求めて無効審判請求(無効2011-800009号。以下「本件無効審判請求事件」という。)をした。

原告は,平成23年5月16日,本件無効審判請求事件において,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求(以下,この請求に係る訂正を「第1次訂正」という。)をした。

特許庁は,平成23年12月21日,第1次訂正を認めた上で,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件第1次審決」という。)をした。

被告は,平成24年1月27日付け訴状により,本件第1次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10038号事件)を提起した。

知的財産高等裁判所は,同年12月11日,本件第1次審決を取り消す旨の判決(以下「本件第1次判決」という。)をし,その後,同判決は確定した。

(3)  特許庁は,平成25年4月23日,本件無効審判請求事件について,第1次訂正を認めた上で,「特許第2851237号の請求項1,2及び7に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件第2次審決」という。)をした。

原告は,平成25年5月29日,本件第2次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10153号事件)を提起し,また,同年8月23日,本件特許について,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判請求(訂正2013-390119号。以下,「本件訂正審判請求」といい,これに係る訂正を「本件訂正」という。また,本件訂正後の明細書(甲57)を「本件訂正明細書」という。)をした。

知的財産高等裁判所は,平成25年10月7日,平成23年法律第63号による改正前の特許法181条2項の規定により,本件第2次審決を取り消す旨の決定をした。

(4)  原告は,平成25年10月23日付け訂正請求のための期間指定通知で指定された期間内に訂正請求をしなかったので,平成23年法律第63号による改正前の特許法134条の3第5項の規定により,当該期間の末日に,本件訂正審判請求の審判請求書に添付された特許請求の範囲,明細書を援用した訂正請求がされたものとみなされた。

特許庁は,平成26年6月3日,本件無効審判請求事件について,本件訂正を認めた上で,「特許第2851237号の請求項1,2及び7に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月12日,原告に送達された。

(5)  原告は,平成26年7月10日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2  特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし7からなり,その請求項1,2及び7の記載は,次のとおりである(甲57。以下,本件訂正後の請求項1,2及び7に係る発明を,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」及び「本件発明3」という。なお,下線部が第1次訂正に係る訂正箇所であり,これに二重下線部を加えたものが本件訂正に係る訂正箇所である。)。

「【請求項1】

図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと,この複数のコンテナの前記書庫内における収容位置と,各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに搬送する搬送手段と,この搬送手段により前記ステーションに搬送されて,前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナに対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備し,前記書庫の複数の棚領域には,前記搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられていることを特徴とし,前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用することを特徴とする図書保管管理装置。

【請求項2】

前記移載手段は,前記手前側のコンテナを前記棚領域から取り出す取り出し機構と,前記奥側のコンテナを手前側に移動させる移動機構とを備え,前記奥側のコンテナは,前記移動機構によって手前側に移動させた状態で,前記取り出し機構によって棚領域から取り出されることを特徴とする請求項1記載の図書保管管理装置。

【請求項7】

前記移載手段は,前記手前側のコンテナ及び前記奥側のコンテナを選択的に取り出して保持可能な第1及び第2の取り出し手段を備え,前記第1の取り出し手段で前記手前側のコンテナを取り出し保持させた状態で,前記第2の取り出し手段で前記奥側のコンテナを取り出して前記ステーションへの搬送に供させることを特徴とする請求項1記載の図書保管管理装置。」

3  本件審決の理由

(1)  本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであるが,その要旨は,次のとおりである。

ア 本件発明1は,①本件出願前に頒布された刊行物である特開平5-151233号公報(甲4)に記載された発明(以下「甲4発明」という。)と,②カリフォルニア州立大学オアビット図書館第ⅠⅠ期プロジェクト仕様書(甲1の3)に記載された事項,③特開昭49-80780号公報(甲5)に記載された事項,④特開平4-256607号公報(甲17),実願昭63-58087号(実開平1-162410号)のマイクロフィルム(甲18),特開昭59-172306号公報(甲24)及び実願昭58-161944号(実開昭60-72405号)のマイクロフィルム(甲25)に記載された周知技術(以下「周知技術1」という。)並びに⑤甲5,特開昭50-8270号公報(甲6),特開昭49-134075号公報(甲7),特開昭57-72503号公報(甲8),特開昭56-56402号公報(甲9),実願昭47-112063号(実開昭49-67379号)のマイクロフィルム(甲10)及び実願平3-45857号(実開平5-19210号)のCD-ROM(甲11)に記載された周知技術(以下「周知技術2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2は,甲4発明と,甲1の3及び甲5に記載された事項並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件発明3は,甲4発明と,甲1の3,甲5及び甲8に記載された事項並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ したがって,本件発明1ないし3についての特許は,特許法29条2項に違反してなされたものであり,無効とすべきものである。

(2)  本件審決が認定した甲4発明,本件発明1と甲4発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 甲4発明

「書棚11を有する書庫と,書庫内に設置された書棚11に複数の図書33をケース13とともに収容する複数のコンテナ12と,この複数のコンテナ内の図書33の前記書庫内における格納ロケーションと,各コンテナ12に収容された複数の図書に付されたバーコード35のデータとをケース13のデータとともに対応させて記憶するハードディスク47と,貸し出しが要求された図書33のコードを入力することにより,前記ハードディスク47の記憶内容に基づいて,該要求図書33がケース13とともに収容されているコンテナ12を前記書庫から取り出してステーション(例えば,図10の26,30,31)にスタッカークレーン75,搬送コンベア77,搬送コンベア80,搬送コンベア82により搬送するとともに,返却が要求された際に複数の前記コンテナの中から所望のコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送し,返却が要求された図書に付されたバーコード35のデータとを任意のケース13のデータとともに入力することにより,前記返却図書がケース13とともに収容されたコンテナを書棚11内における格納ロケーションにスタッカークレーン75,搬送コンベア77,搬送コンベア80,搬送コンベア82により搬送する手段と,この搬送する手段により前記ステーションに搬送されて,前記要求図書33に対する格納ロケーションや各コンテナ12に収容されたケースと図書のデータを対応させて記憶していた前記ハードディスクの記憶内容を削除し,または,前記返却図書を収容したケース13の書棚11内における格納ロケーションをハードディスク47へ新たに記憶させることにより,前記ハードディスクの記憶内容を更新する手段とを具備する図書入出庫管理装置。」

イ 本件発明1と甲4発明の一致点・相違点

(ア) 一致点

「複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容された複数の図書を収容する複数のコンテナと,書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された際に,返却が要求された図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送する搬送手段と,この搬送手段により,前記ステーションに搬送されて,前記要求図書または前記返却が要求された図書の情報を入力することにより,前記要求図書または前記返却図書に関する前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備する図書保管管理装置。」である点。

(イ) 相違点

(相違点1)

書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナに関して,本件発明1においては,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」と「それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」とを採用しているのに対し,甲4発明においては,このような図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域や棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナを用いていない点。

(相違点2)

要求図書の取り出し搬送や返却図書の返却搬送と書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段に関して,本件発明1においては,要求図書の取り出しに際しては「要求図書が取り出されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」とともに,返却図書の返却に際しては「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送し,前記返却図書が収容されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」ものであるのに対し,甲4発明においては,このような図書の寸法情報の入力により返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出す構成と図書の寸法に対応するコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する構成とを具備していない点。

(相違点3)

本件発明1においては,「書庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている」のに対して,甲4発明においては,書庫の複数の棚領域から,搬送手段によってコンテナを取り出すものではあるが,奥行き方向に複数のコンテナを収容し,搬送手段には,コンテナを取り出す間口に対して手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段を備えたものであるかは不明である点。

(相違点4)

返却時の空きのあるコンテナ使用の優先規則について,本件発明1においては,「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」のに対して,甲4発明においては,優先規則が不明である点。

(3)  本件審決が認定した周知技術1及び周知技術2は,以下のようなものである。

ア 周知技術1

「収容物の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する倉庫とそれぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の収容物を収容する複数のコンテナを備えた自動倉庫」

イ 周知技術2

「倉庫の分野において,物品等を載置するパレットなどの容器を取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の容器が収容されている場合の容器の取り出し方として,容器を取り出す間口に対して間口を塞いでいる手前側の容器を取り出してから奥側の容器を取り出すこと」

第3原告の主張

以下に述べるとおり,本件発明1について,甲4発明と,甲1の3及び甲5に記載された事項並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判断は誤りである。

また,本件発明2及び3は,いずれも本件発明1の従属項に係る発明であるから,本件発明1の場合と同様の理由により,これらの発明について,当業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判断は誤りである。

したがって,本件審決は,取り消されるべきものである。

1  取消事由1(本件発明1と甲4発明の一致点の認定の誤り・相違点の看過)

本件審決は,「返却が要求された際に,返却が要求された図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送する搬送手段」を本件発明1と甲4発明の一致点として認定している。

しかし,本件審決の上記認定には,以下に述べるとおりの誤りがあり,その誤りは,本件審決の取消事由を構成する。

(1)  甲4発明は固定ロケーション方式であること

ア 甲4発明は,図書とケースの対応関係をフリーとするものではあるが,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係は,以下に述べるとおり,固定されたものと認められる。そうすると,甲4発明においては,図書の返却処理に当たって,返却するケースによって取り出すコンテナは決まっており,複数のコンテナの中から選択する余地はないから,本件審決が,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点を本件発明1と甲4発明の一致点と認定したことは誤りである。

(ア) 本件審決は,甲4の記載(段落【0026】ないし【0034】,【0042】及び【0043】並びに【図1】ないし【図10】)から,甲4発明においては,ケースと格納ロケーションの対応関係に係る記憶内容を返却の都度更新(前とは異なる新たな対応関係を設定)する旨認定したが,当該記載部分から,このような事実は認定できず,当該記載部分以外にも,この点を明示ないし示唆する記載は存在しない。

かえって,甲4の記載等からすれば,甲4発明において,ケースと格納ロケーションの対応関係は固定されているとしか考えられない。すなわち,甲4発明において,ケースと格納ロケーションの対応関係がフリーであり,図書館員が,図書の返却の都度ケースと格納ロケーションの対応関係を新たに設定するのであるとすれば,図書館員は,図書の返却作業に際し,当該図書を入れたケースを収容すべきコンテナの空きの有無を認知している必要がある。そして,図書館員がコンテナの空きの有無を認知するためには,①図書館員がコンテナの空きを目視により確認するか,②コンテナの空き状況を検出するシステムが図書館員に空きの有無を知らせることが必要である。これに対し,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定であれば,当該固定された格納ロケーションには,必ず当該ケースを収容するスペースがあるから,図書館員がコンテナの空きの有無を認知している必要はない。

しかるところ,甲4発明においては,カウンターステーション30と異なる階にある入庫用ラックステーション17でケース13がコンテナ12に収容されるのであり,カウンターステーション30にはコンテナ12が存在しないのであるから,カウンターステーション30において,図書館員がコンテナ12に空きがあるか否かを目視により確認することはできない。

また,コンテナの空き状況を検出するシステムが図書館員に空きの有無を知らせる構成について,甲4には一切記載されていない。

このように,甲4発明は,①図書館員がコンテナの空きを目視により確認することもできないし,②コンテナの空き状況を検出するシステムも具備していないものであるから,図書館員が,図書の返却作業に際し,当該図書を入れたケースを収容すべきコンテナの空きの有無を認知することができないものであり,そうである以上,ケースと格納ロケーションの対応関係は,フリーではなく,固定されているとしか考えられない。

(イ) 被告は,甲4の段落【0034】に,図書の返却動作について,「そのケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録する。」と記載されていることを根拠として,甲4発明では,ケースと格納ロケーションの対応関係は固定的なものではない旨主張する。

しかし,以下に述べるとおり,甲4の段落【0034】における格納ロケーションの設定登録は,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定の場合であっても,格納対象のケースを特定するために必要な処理であるから,被告の上記主張は成り立たない。

すなわち,甲4発明において,図書館員が複数冊(例えば,図書A~Eの5冊)の図書の返却を受けた場合,まず図書A~Eとこれらを収納するケースA~Eのバーコードを読み取りハードディスクに登録し(段落【0033】,【図7】のS21,S22),次に,そのうちのどれか(例えば,ケースC)を搬出口にセットしたとき,そのケースCと固定の関係にある格納ロケーションを設定しなければ,複数のケースA~Eのどれが書棚11に返却されるものかが不明となり,ケースのステーションへの搬送処理を行えない。

また,ケースの格納ロケーションをハードディスクに登録するのは,次の貸出しの際に,書棚11に返却されたケースCを取り出すために必要だからである。

したがって,甲4発明において,図書の返却の際に,ケースの格納ロケーションの設定登録がされることは,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定であることの根拠とはなり得ても,フリーであることの根拠とはならない。

(ウ) また,被告は,甲4の段落【0005】に記載された従来技術(以下「甲4従来技術」という。)において,ケースとコンテナの位置との対応関係が固定されていないことから,甲4発明についても,あえて上記対応関係を固定的にした発明と解すべき合理的理由はない旨主張する。

しかし,甲4従来技術は,ケースと図書の関係が固定であることの課題を指摘するためのものにすぎず,以下に述べるとおり,甲4発明とは,自動化書庫の本質的機能において相違する別発明であるから,前者の延長として後者を認定すべきではない。

すなわち,まず,甲4従来技術に係る特公昭61-4723号公報(甲74)の記載によれば,甲4従来技術においては,押し棒32のようにケース格納用空き空間をつくる技術が採用されているため,任意の空きのあるコンテナにケースを収容できるが,甲4発明ではそのような技術の記載がない。

また,甲4従来技術では,ケースのコンテナへの入庫時に,そのコンテナに収容された全てのケースのバーコードが読み取られ,ケースの位置(ロケーション)を示す記憶内容が更新されるが(甲4の段落【0005】),甲4発明では,ケースがステーションに向かう前(コンテナへの収納前)に,格納ロケーションが設定されるのであり,格納手順に本質的な相違が存在する。

さらに,甲4発明では,複数の厚さのケースがあるため(段落【0012】,【図2】参照),返却するケースの厚みによってはコンテナに返却できないという不都合が生ずるから,これを防止するために,ケースの厚みやコンテナの空き管理等の制御が必要になるが,甲4には,ケースの厚みやコンテナの空き管理等の制御にかかる記載も示唆もない。

したがって,甲4従来技術において,ケースとコンテナの位置との対応関係が固定されていないからといって,甲4発明についても,同様のものであると認定することはできない。

イ 本件審決は,上記アのとおり一致点の認定を誤った結果,甲4発明に甲1の3記載の事項を適用することにより,相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得るとの誤った判断をしたものであるから,上記の一致点の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものであって,審決の取消事由を構成する。

(2)  甲4には,「図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」すことの記載も示唆もないこと

甲4の記載(段落【0033】,【0034】)によれば,甲4発明の図書の返却処理においては,「返却が要求された図書の情報を入力する」ことが行われ,また,「コンテナを書庫から取り出」すことが行われているが,入力された図書の情報は,それが収容されるべきコンテナの取出しには用いられておらず,コンテナの取出しは,入力された図書の情報とは関係なく,図書館員が格納ロケーションを設定することにより行われている。

したがって,甲4発明においては,「返却が要求された図書の情報を入力する」ことと「コンテナを書庫から取り出」すこととの間に因果関係はないから,「図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点について,本件発明1と甲4発明の一致点であるとした本件審決の認定は誤りであり,ひいては,相違点を看過するものである。

そして,上記相違点については,甲1の3その他のいかなる先行技術文献にも開示がなく,甲4発明とこれらの文献を組み合わせたとしても,当該相違点に係る本件発明1の構成とすることはできないから,上記の一致点の認定の誤り・相違点の看過は,審決の結論に影響を及ぼすものであって,審決の取消事由を構成する。

2  取消事由2(相違点2についての容易想到性判断の誤り)

(1)  甲4発明に甲1の3記載の事項を適用できるとした判断の誤り

本件審決は,相違点2に係る本件発明1の構成について,甲4発明に周知技術1の構成を適用するに際して,甲1の3記載の技術的事項に基づき,当業者が容易に想到し得るものと判断した。

しかし,甲4発明と甲1の3記載の図書館における自動保管取り出しシステム(以下「甲1システム」という。)とは,以下に述べるとおり,基本的構成,課題及び作用・機能が相違し,そもそも両者を組み合わせることはできないから,甲4発明に甲1システムを適用することによって,相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得るとした本件審決の判断は誤りである。

ア 前記1(1)アで述べたとおり,甲4発明は,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されたものと認められ,この点において,アイテムと容器の関係がフリーである甲1システムとは,基本的構成を異にするから,甲4発明に甲1システムを適用することはできない。

イ また,甲4発明では,図書館員がカウンターステーション30において図書33をケース13に収容し,当該ケース13はステーションから入庫用ラックステーション17まで搬送コンベア29で搬送され,入庫用ラックステーション17では,搬送されたケース13が,1ケースごとに,ピッキング装置19により設定済みの格納ロケーションに対応するコンテナ12に収納され,当該ケース13を収納したコンテナ12は,書棚11に搬送され格納される。このように,甲4発明は,図書館員がカウンターステーション30から1ケースごとピッキング装置19等の構成により書棚11に収容するものであり,コンテナ12は書棚11と入庫用ラックステーション17との間を移動するのみであって,貸出し・返却処理において図書館員の手元にはコンテナ12は届かないものである。

一方,甲1システムは,甲4発明のコンテナに相当する容器が図書館員の手元にあり,図書館員が当該容器にアイテムを収容することで返却作業が行われるものである。

したがって,甲4発明と甲1システムとでは,返却処理の技術思想が根本的に異なり,その結果,両者の作用・機能も全く異なるものであるから,甲4発明に甲1システムを適用する動機付けたり得るものがない。

ウ さらに,甲4発明は,ケースの存在が不可欠なものであり,この点において甲1システムとは本質的に構成が相違しているから,甲4発明に甲1システムを適用することはできない。

すなわち,甲4発明は,「図書は,その寸法や形状が様々であるため,このままでは書庫に対する入出庫動作を自動化することができない」(甲4の段落【0002】)ため,ケースを採用した発明であり,「図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際にケースに入れることにより,ハンドリングやロケーションの管理が容易にな」る(段落【0003】)ように,ケースを採用したものであるから,ケースの存在を不可欠とするものである。

他方,甲1システムでは,ケースは用いられず,コンテナに収容される対象は図書そのものであるから,甲4発明に甲1システムを適用するには,ケースをなくし,図書そのものを収容対象にする着想が必要であるが,ケースを不可欠とする甲4発明において,ケースをなくすことはできない。

したがって,甲4発明に甲1システムを適用することはできない。

(2)  甲4発明に甲1の3記載の事項を適用することによって相違点2に係る本件発明1の構成とすることができるとした判断の誤り

本件審決は,甲1システムについて,「アイテムのサイズ情報(寸法情報)を使って制御を行うものと解するのが合理的である。」と認定した上で,甲4発明に甲1システムを適用することによって相違点2に係る本件発明1の構成とすることができる旨判断した。

しかし,以下に述べるとおり,甲1システムは,「返却が要求された図書の寸法情報を入力する」ものでも,そのことにより,「該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出す」ものでもない。

すなわち,甲1システムにおいては,図書の返却時に,アイテムに付されたバーコードナンバーをスキャンすることによって図書情報が入力されるところ,このバーコードナンバーは,「Label type(最初の1桁)」,「Library identifier(次の4桁)」,「Sequential number(次の8桁)」,「Modulus 10 Complementary Check Digit(最後の1桁)」の4つから構成されるが,この中に図書の寸法情報は含まれていない(甲1の3・12頁)。

他方,甲1システムにおいても,図書のサイズに関するコードが存在するが,それは図書の上端に付され,返却作業に先立ち,図書を手作業でソートする際に参照されるものであり,図書の取り出しのために容器が来ると,取り出された図書と同じサイズの図書を返却することが示されているのみであって(甲1の3・13頁),図書の寸法情報がバーコード化され,返却の際に読み取られたり,空きのあるコンテナの取り出しのために用いられることについては,記載も示唆もされていない。

このように,甲1システムは,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出す」ものではないから,甲4発明に甲1システムを適用しても,相違点2に係る本件発明1の構成とすることはできないのであり,本件審決の前記判断は誤りである。

3  取消事由3(相違点3についての容易想到性判断の誤り)

(1)  本件審決は,「物品等を載置するパレットなどの容器を取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の容器が収容されている場合の容器の取り出し方として,容器を取り出す間口に対して間口を塞いでいる手前側の容器を取り出してから奥側の容器を取り出すことは,甲第5号証に記載され,更に甲第6号証ないし甲第11号証にも記載されているように,倉庫の分野では慣用的に行われている従来周知の技術的事項(周知技術2)である。」とした上で,甲4発明と甲5記載の多段積層棚(「多段積層棚の複数の棚空間には,伸縮フォーク3によって載荷パレットを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数(2個)の載荷パレットが収容された多段積層棚」。以下「甲5積層棚」という。)とは,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する点で共通することから,周知技術2を甲4発明に適用することは,当業者が容易になし得たことであり,したがって,甲4発明並びに甲5積層棚及び周知技術2に基づき,相違点3に係る本件発明1の構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである旨判断した。

しかし,他方で,本件審決は,相違点4に係る判断において,「手前側に空きのある容器があるにもかかわらず,奥側の空きのある容器を取り出すことは,明らかに出納効率を低下させる取り出しである」と判断しており,これを前提とすれば,収容効率と出納効率がトレードオフの関係にある自動化書庫に係る甲4発明において,収容効率を向上させるために,明らかに出納効率を低下させる甲5積層棚の構成を適用することには阻害要因があるというべきである。

したがって,この点に言及することなく,甲4発明並びに甲5積層棚及び周知技術2に基づき,相違点3に係る本件発明1の構成を得ることは,当業者が容易になし得たことであるとした本件審決の判断は誤りである。

(2)  被告は,本件審決の上記判断は,本件第1次判決の拘束力に従ったものであるから,取り消されるべき違法はない旨主張する。

しかし,本件第1次判決の前提とした事項に変更があるなどの特段の事情がある場合には,当該判決の拘束力は生じないと解すべきところ,本件第1次判決は,相違点2につき甲4発明の認定を本質的に誤っており,そのため,相違点3に係る容易想到性判断の前提に誤りがあったものであるから,本件第1次判決の相違点3に係る判断については,上記特段の事情があり,拘束力は生じないというべきである。

したがって,被告の上記主張は理由がない。

4  取消事由4(相違点4についての容易想到性判断の誤り)

本件審決は,「出納効率を向上させることとともに,収容効率を向上させることは,書棚や倉庫の分野において周知の課題である」とした上で,「奥行き方向に複数の容器が収容されていることに係る周知技術2に照らせば,…荷物等の搬入に係る返却及び入庫については,空きのある容器に荷物等を収容する態様であるから,搬入に係る装置の自動化などによる出納効率の向上とともに,空きのある容器の位置に対応した出納効率の向上をも検討することは,当業者の当然の発意であ」り,「そうすると,搬入に際して,手前側に空きのある容器があるにもかかわらず,奥側の空きのある容器を取り出すことは,明らかに出納効率を低下させる取り出しであるから,上記した出納効率の向上という周知の課題に基づけば,手前側の容器を空きのある容器として優先的に使用することは,書棚や倉庫等の分野において,当業者が通常採用し得る技術的事項である」として,甲4発明,甲1システム,甲5積層棚並びに周知技術1及び2に基づき,相違点4に係る本件発明1の構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである旨判断した。

しかし,以下に述べるとおり,本件審決の上記判断は誤りである。

(1)  本件審決は,書棚や倉庫における荷物等の搬入に係る返却及び入庫について,空きのある容器の位置に対応した出納効率の向上をも検討することは当業者の当然の発意である旨を認定し,この点をもって,甲4発明から相違点4に係る本件発明1の構成に至る動機付けとする。

しかし,上記のような課題は,本件出願前のいかなる先行技術文献にも記載されておらず,その存在については何ら立証されていない。

甲4発明は,「ケースと図書とが常に固定した対応関係にあると,図書が返却された場合その相当数のケースの中から返却された図書に対応するケースを探し出さなければならず作業の効率が悪くなる」(段落【0006】)という課題に対し,「返却された図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化する」(段落【0009】)ようにしたものである。このように,甲4に示されているのは,図書館員のカウンターステーション30における図書の返却作業の容易化に係る課題であり,図書館員が図書の返却作業を終えた後,当該図書が返却されたコンテナを書庫へ入庫する際の処理効率の向上に係る「空きのある容器の位置に対応した出納効率の向上」とは,効率化する対象(前者が作業員の返却作業であるのに対し,後者は書庫へのコンテナの格納処理)が全く異なるものであるから,甲4から,書棚への格納(返却)効率の向上の課題を着想し得るものではなく,そのほかに上記課題の存在を示す文献もない。

したがって,本件審決の上記認定は誤りである。

(2)  また,仮に,書棚や倉庫における荷物等の搬入に係る返却及び入庫について,空きのある容器の位置に対応した出納効率の向上をも検討することが当業者の当然の発意であるとしても,本件審決は,そのような発意を実現する解決手段として,相違点4に係る本件発明1の構成(「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」構成)を示す文献等を何ら提示することなく,相違点4についての容易想到性を認める判断をしたものであり,このような判断は,いわゆる後知恵に基づく判断であって,誤りである。

(3)  さらに,甲4発明において,相違点4に係る本件発明1の構成とすることには阻害要因がある。

すなわち,甲4発明において,相違点4に係る本件発明1の構成とするには,返却が要求された図書を入れたケースがカウンターステーションにある段階で,図書館員が当該ケースの格納ロケーションを設定するに当たり,手前側のコンテナを優先的に使用できるものでなければならない。ところが,前記1(1)アで述べたとおり,甲4発明では,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定されており,特定のケースが収容されるコンテナは一義的に定まるから,そもそもケースの収容先として「いかなるコンテナを優先するか」という発想そのものが生じない。

したがって,甲4発明において,相違点4に係る本件発明1の構成を採用することには阻害要因があるから,当該構成について,甲4発明に基づき当業者が容易に想到し得るものではない。

5  取消事由5(本件発明の効果に顕著性を認めなかった判断の誤り)

本件審決は,本件発明1の効果について,図書保管管理装置における図書の収容効率の向上と出納効率の向上を両立させることにあることを認めながら,「収容効率の向上」と「出納効率の向上」各々の効果が周知であるとの理由で,「当業者が予測できる程度のものであって,格別のものではない。」と判断し,効果顕著性を否定するが,その判断は誤りである。

すなわち,個々に捉えればそれぞれの課題が周知である場合であっても,それらの課題がトレードオフの関係にある場合は,かかる2つの課題を両立的に解決し,それによる効果を両立させた場合,原則として,効果顕著であると認定されるべきである。しかるところ,本件発明1は,図書保管管理装置において,サイズ別配架及び手前側・奥側コンテナ配置によって収容効率を向上させつつ,フリーロケーション方式を採用し,かつ,手前側コンテナを優先的に使用することにより出納効率をも向上させたものであり,トレードオフの関係にある「収容効率」と「出納効率」という2つの課題を両立して解決したところに効果顕著性があることは明らかであるから,これを認めなかった審決の判断は誤りである。

第4被告の主張

1  取消事由1(本件発明1と甲4発明の一致点の認定の誤り・相違点の看過)に対し

(1)  原告は,甲4発明においては,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されたものと認められるから,本件審決が,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点を本件発明1と甲4発明の一致点と認定したことは誤りである旨主張する。

しかし,甲4発明においては,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係は,固定的なものではなく,フリーであることが明らかであるから,原告の上記主張は誤りである。

すなわち,甲4には,ケースとコンテナとの対応関係が固定である旨の記載はなく,むしろ,その段落【0005】には,従来技術について,「図書が返却された場合,図書館員は,返却された図書を元のケースに収容し,そのケースを任意の空きのあるコンテナに自動入庫させる。すると,コンテナの入庫時に,そのコンテナに収容された全てのケースのバーコードが読み取られ,ケースの位置(ロケーション)を示す記憶内容が更新されて,ここに図書の返却が行なわれる。」として,コンテナとケースの位置(ロケーション)との対応関係を固定的とはしないものとすることが記載されている。そして,甲4発明は,上記従来技術における「図書」と「ケース」との対応関係が固定されていることによる作業の非効率性を解決するために,「図書」と「ケース」の対応関係を固定的とはしないものとすることを特徴とする発明であるところ,上記従来技術で課題とされていない「ケース」と「コンテナ」の対応関係が固定的でなかった点をあえて固定的にした発明と解すべき合理的理由はない。

また,原告が主張するように,甲4発明において,「ケース」と「コンテナ」との対応関係が固定的であるならば,甲4の段落【0034】に「ケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録する。」とあるように,わざわざ,ケースの書棚内における格納ロケーション(コンテナ)を設定しハードディスクに登録する必要はないと解されるから,この点からも,「ケース」と「コンテナ」との対応関係が固定的なものであるとは考えられない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(2)  また,原告は,甲4発明の図書の返却処理においては,入力された図書の情報は,それが収容されるべきコンテナの取出しには用いられておらず,コンテナの取出しは,入力された図書の情報とは関係なく,図書館員が格納ロケーションを設定することにより行われているから,「図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点について,本件発明1と甲4発明の一致点であるとした本件審決の認定は誤りである旨主張する。

しかし,甲4発明では,図書館員が図書及びケースに付されたバーコードを読み取ることにより格納ロケーションが設定され,当該格納ロケーションに基づいて図書を収納するコンテナが書庫からステーションに搬送されるものであるから,原告の上記主張は誤りである。

すなわち,甲4の段落【0032】ないし【0034】の記載によれば,甲4発明の図書の返却処理においては,ステップS21で,図書に付されたバーコード35のデータを(ケース13に付されたバーコード34とともに)読み取ることで入力し,ステップS22で,図書に付されたバーコード35のデータを(ケース13に付されたバーコード34とともに)ハードディスク47に格納登録している。そして,ステップS23では,図書館員が,図書を収容したケースを返却のためにカウンターステーション30の搬出口に置くこととされ,次のステップS24では,ケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定してハードディスク47に登録するとされているところ,ステップS24については,格納ロケーションを設定してハードディスクに登録する主体は明記されていない。ステップS23の前には,「図書館員は」という記載があるが,ステップS23とステップS24は異なるステップであるから,両ステップの主体を同一と解すべき必然性はない。

他方,甲4の特許請求の範囲の請求項1には,次の記載がある(下線は被告による。)。

「【請求項1】識別情報の付された図書と,この図書を収容する識別情報の付された自動搬送用のケースと,このケースを複数収容し得る書庫と,この書庫に収容された図書に対する収容位置情報を含む図書情報を,前記図書に付された識別情報と該図書が収容される前記ケースに付された識別情報とを組み合わせた情報とともに記憶する記憶手段と,この記憶手段の記憶内容に基づいて前記書庫から出庫すべき図書の収容されたケースを自動的に取り出して出庫する自動搬出手段と,前記書庫に入庫すべき図書に付された識別情報と該図書を収容し得る任意の前記ケースに付された識別情報とを読み取って,該図書に対する新たな図書情報を生成する生成手段と,この生成手段で生成された図書情報に基づいて前記書庫に入庫すべき図書の収容されたケースを自動的に前記書庫に入庫する自動搬入手段とを具備してなることを特徴とする図書入出庫管理装置。」

このように,上記請求項1には,「この書庫に収容された図書に対する収容位置情報を含む図書情報」という文言が存在しており,「図書情報」には図書の収納位置情報が含まれるとされている。また,「前記書庫に入庫すべき図書に付された識別情報と該図書を収容し得る任意の前記ケースに付された識別情報とを読み取って,該図書に対する新たな図書情報を生成する生成手段と,この生成手段で生成された図書情報に基づいて前記書庫に入庫すべき図書の収容されたケースを自動的に前記書庫に入庫する自動搬入手段」との記載によれば,書庫に入庫すべき図書及びケースに付された識別情報(実施例における図書及びケースのバーコードのデータ)を読み取ることによって,当該図書について新たな収納位置情報を含む「図書情報」が生成され,当該「図書情報」に基づいてケースに収容された図書が自動的に書庫に入庫されることが読み取れる。そして,甲4発明において,図書及びケースに付された識別情報を読み取ることによって生成される収納位置情報とは,実施例における書棚11内における格納ロケーションであるから,甲4発明においては,図書及びケースに付されたバーコードを読み取ることによって格納ロケーションが設定され,当該格納ロケーションに基づいて図書を収納するコンテナが書庫からステーションに搬送されるものであることは明らかである。

したがって,「図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点について,本件発明1と甲4発明との一致点であるとした本件審決の認定に誤りはなく,原告の前記主張は理由がない。

2  取消事由2(相違点2についての容易想到性判断の誤り)に対し

(1)  甲4発明に甲1の3記載の事項を適用できるとした判断の誤りについて

ア 原告は,甲4発明は,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の関係が固定的なものと認められ,アイテムと容器の関係がフリーである甲1システムとは基本的構成を異にするから,甲4発明に甲1システムを適用することはできない旨主張するが,甲4発明において,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の関係が固定的なものでないことは,前記1(1)で述べたとおりであるから,原告の上記主張は理由がない。

なお,仮に,甲4発明におけるケースとコンテナの対応関係が固定的なものであるとする原告の主張を前提としたとしても,甲4発明では,図書とケースとの対応関係は固定的なものではなく任意であり,図書は,毎回任意のケースを介して任意の書棚の収容位置あるいはコンテナに収納されることになるのであるから,図書とコンテナとの対応関係がフリーな関係にあることに変わりはなく,原告の上記主張は理由がない。

イ また,原告は,甲4発明は,図書を収容したケースをピッキング装置19等の構成により書棚に収容するもので,図書館員の手元にコンテナが届かないのに対し,甲1システムは,図書館員が,その手元にある容器に図書を収容するものであり,両者の返却処理の技術思想は根本的に異なり,作用・機能も全く異なるものであるから,甲4発明に甲1システムを適用する動機付けたり得るものがない旨主張する。

しかし,甲4には,【図1】及び【図2】に示されたピッキング装置を用いる実施例だけでなく,段落【0042】ないし【0044】,【図10】及び【図11】に示されているように,ピッキング装置を用いないで,コンテナをカウンターステーションに搬送する他の実施例も記載されており,返却図書の図書コードを入力することにより,空きのあるコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送し,最終的に返却図書をコンテナに収納し,書棚に保管することも記載されている。

そして,甲1システムにおける返却処理も,アイテムのスキャニングにより開始され,図書館員の手元に容器があれば,その容器にアイテムを自動的に割り当てているが,図書館員の手元に容器がなければ,その他の場合として,所定の優先順位規則によるランダムロケーション割り当てアルゴリズムに従って,返却アイテムを「フルではない」状態の容器へ割り当てるようにしており,甲1システムにおいても,アイテムがスキャニングされ,返却が要求された後に,容器を割り当てて取り出すことが記載されている。

したがって,甲4発明と甲1システムのいずれにおいても,返却図書の図書コードを入力することにより,空きのあるコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送することに変わりがないから,原告の上記主張は理由がない。

ウ さらに,原告は,甲4発明は,ケースの存在が不可欠なものであり,この点において甲1システムとは本質的に構成が相違しているから,甲4発明に甲1システムを適用することはできない旨主張する。

しかし,甲4発明では,単にケースに収容して図書の貸出しと返却を行っているだけであり,甲4発明が,複数の書棚領域を有する書庫と複数の図書を収納するコンテナとを備え,図書コードに基づいてコンテナの出し入れをすることにより図書の貸出しと返却を行うものであることに変わりはない。

また,甲4には,「ケース」を用いる理由として,「図書は,その寸法や形状が様々であるため,このままでは書庫に対する入出庫動作を自動化することができない。」(段落【0002】),「図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際にケースに入れることにより,ハンドリングやロケーションの管理が容易になり,個別にて搬送する際にも図書を保護することができる。」(段落【0003】)との記載があるが,甲4発明におけるコンテナ単位の入出庫管理システム(段落【0042】,【図10】)では,上記の理由が妥当するものではない。

そうすると,甲4発明に対し,甲1システムにおける寸法別に分類された図書に対応する寸法の複数種類のコンテナ(容器)などの技術的事項を適用するに際して,甲4発明における「ケース」を不可欠のものとする必要はなく,「ケース」を使用しない構成とすることが,当業者にとって格別困難であったとはいえない。

したがって,甲4発明がケースを使用していることは,甲4発明に甲1システムを適用することを妨げる要因とはならないから,原告の上記主張は理由がない。

(2)  甲4発明に甲1の3記載の事項を適用することによって相違点2に係る本件発明1の構成とすることができるとした判断の誤りについて

原告は,甲1システムにおいて,図書の返却時にスキャンされるバーコードナンバーには図書の寸法情報が含まれておらず,他方,図書のサイズに関するコードは,図書の上端に付され,返却作業に先立ち,図書館員が図書を手作業でソートする際に参照されるにすぎないことから,甲1システムは,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出す」ものではないから,甲4発明に甲1システムを適用しても,相違点2に係る本件発明1の構成とすることはできない旨主張する。

確かに,甲1の3には,図書のサイズコードについて,返却の際に,図書を手動で事前仕分けするために,各アイテムの上端にマークされていることが記載されているが,このサイズコードは,事前仕分けのみに利用されているのではなく,サイズ別に分類された容器にアイテムを収容するためにも利用されていると考えられる。すなわち,甲1システムは,サイズ別に分類された容器に,これに対応するサイズのアイテムを収容するものである以上,容器を取り出す際,それがアイテムのサイズに適合する容器でなければ,アイテムを収容できないことが生じるから,図書のサイズコードを利用して,それに対応した容器を取り出して,アイテムを収容しているものと考えるのが自然である。

そして,甲1の3には,自動保管取り出しシステム(AS/RS)がコンピュータシステムからなること(抄訳文4頁6行),容器が容器(コンテナ)アドレスを有すること(抄訳文4頁21行,24頁14行,27頁2行),アイテム(図書)がバーコードナンバーやサイズコードを有すること(抄訳文13頁16及び17行,14頁下から3行ないし15頁下から5行,16頁下から5行ないし17頁1行,24頁14行及び28頁8及び9行),アイテムに付されたバーコードナンバー(図書コード)を光学的にスキャンすること(抄訳文28頁3ないし15行),AS/RS(自動保管取り出しシステム)は,要求された図書(アイテム)を伴うコンテナ(容器)の取り出しを自動的に開始すること(抄訳文24頁1ないし4行),ランダムに返却保管される図書(アイテム)を,図書がちょうど取り出された容器セクターに自動的に割り当てること(抄訳文28頁下から1行ないし29頁5行),オペレータのオプションとして,アイテムを取り出さないで返却する場合に,システムは,第2.02.D章(抄訳文17頁7行ないし18頁下から5行)に記載された優先順位を用いて,収容スペースが利用可能な(フルではない)容器を取り出すこと(抄訳文29頁下から5行ないし下から1行)が記載されているところ,これらの記載からすると,本件審決が,「甲第1号証の3らには,図書入出庫管理装置において,自動保管取り出しシステム(ASRS)らに使用されるコンピュータシステムが,複数の容器に関する『容器アドレス』,及び,複数の図書(アイテム)に関する『図書コード』(バーコードやサイズコード)等の情報を利用することが記載されているといえる」と認定していることに誤りはない。

したがって,甲1の3には,図書のサイズコードを含む「図書コード」等の情報を利用することが記載されているから,原告の主張は理由がない。

3  取消事由3(相違点3についての容易想到性判断の誤り)に対し

原告は,甲4発明並びに甲5積層棚及び周知技術2に基づき,相違点3に係る本件発明1の構成を得ることは当業者が容易になし得たことであるとの本件審決の判断について,甲4発明に甲5積層棚の構成を適用することには阻害要因があることを理由に,誤りがある旨主張する。

しかし,この点については,確定した本件第1次判決(甲48)が,第1次訂正後の請求項1に係る発明について,本件審決と同様の判断をしている。

したがって,本件審決の上記判断は,本件第1次判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)に従ったものであるから,取り消されるべき違法はなく,原告の上記主張は失当である。

4  取消事由4(相違点4についての容易想到性判断の誤り)に対し

(1)  原告は,本件審決が,「空きのある容器の位置に対応した出納効率の向上をも検討することは,当業者の当然の発意である」と認定したことについて,そのような課題は,本件出願前のいかなる先行技術文献にも記載されておらず,また,甲4から着想し得るものでもないから,本件審決の上記認定は誤りである旨主張する。

しかし,以下に述べるとおり,空きのある容器の位置に対応した出納(返却)効率の向上という課題は,従来から存在したものであり,また,甲4においても存在するものであるから,原告の上記主張は理由がない。

ア 甲15(特開平2-70603号公報)には,「貯蔵所の管理方法及び装置」に関する発明について,その管理対象の物体として「書籍」や「ビデオテック,ディスコテック」等が記載され,物体はその寸法を考慮して入りうる最初の空き場所に貯蔵され,各貯蔵所毎に物体が貯蔵された位置及びまだ利用しうる貯蔵容量の位置及び寸法が記録されること(2頁左下欄9~16行)が記載されるとともに,「つまり物体の搬入及び搬出は完全に自動化しうる。物体を貯蔵所内へ搬入するには,コンピュータは物体を持定し,その寸法を及び貯蔵所の充満についてのデータを得た後に,物体を貯蔵しうる様々な場所を突き止める。これが第1のソーティングアルゴリズムである。可能性が複数ある場合には,少なくとも1つの他のソーティングアルゴリズムの関数として1つが選択される。例えば物体は,最初に利用される場所への最短経路により又は搬出の頻度を考慮して貯蔵される。自動装置は案内する位置にあり,物体を選択された位置に位置決めする。」(3頁右上欄8行~同左下欄1行)と記載されている。このように,甲15には,空きのある位置に対応した書籍の搬入(返却)時に貯蔵場所を決定する際に,最短経路や搬出の頻度を考慮することが記載されている。

また,甲1の3発明における返却処理も,通常の手順として,アイテムを容器から取り出したときに,他の返却するアイテムがある場合には,返却アイテムのバーコードナンバーをスキャンし,この返却するアイテムを,別のアイテムがちょうど取り出された容器セクターに自動的に割り当てる制御を行っている。すなわち,アイテムが容器から取り出されたときに同時に返却する処理を通常の手順として行うことで,容器を取り出す際の書庫から取り出し口までの往復の搬送をなるべく省略し,返却効率の向上を図るようにしている。

さらに,乙7(特開平6-56204号公報)に記載された「図書入出庫装置」においては,図書館員が上昇したサブコンテナに図書を返却するものとされているところ(段落【0042】),段落【0045】及び【図8】には,既に上昇しているサブコンテナに優先的に図書を収容し,返却効率の向上を図ることが記載されている。

以上のような本件出願前の公知文献の記載からすれば,空きのある容器の位置に対応した出納効率の向上という課題は,従来から存在したものである。

イ 原告は,甲4に示されているのは,図書館員のカウンターステーション30における図書の返却作業の容易化に係る課題であり,図書が返却されたコンテナを書庫へ入庫する際の処理効率の向上に係る「空きのある容器の位置に対応した出納効率の向上」とは効率化する対象が異なるから,甲4から書棚への格納(返却)効率の向上の課題を着想し得るものではない旨主張する。

しかし,甲4発明においても,図書のフリーロケーションを採用することで貸出し及び返却の自動化を図っており,自動化による作業の容易化,効率化という課題が内在している。

また,甲4においては,【図1】及び【図2】に示されたピッキング装置を用いる実施例だけでなく,段落【0042】ないし【0044】,【図10】,【図11】に示されているように,ピッキング装置を用いないでコンテナ単位でカウンターステーションに搬送する他の実施例も記載されており,コンテナの入出庫における自動化についても記載されているのであって,コンテナの書棚への入出庫を自動化することによる作業の容易化,効率化という課題が存在している。

(2)  また,原告は,本件審決は,相違点4に係る本件発明1の構成(「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」構成)を示す文献等を何ら提示することなく,相違点4についての容易想到性を認める判断をした点において,誤りがある旨主張する。

しかしながら,奥行き方向に2個収容されたコンテナにおいて,奥側のコンテナを搬出する方が手前側のコンテナを搬出するよりも出納効率が低下することは,以下のアないしウの文献に記載されているとおり,技術常識であるから,出納効率を低下させないために,間口を塞いでいる手前側の容器を奥側の容器よりも優先的に使用することは自然なことであり,したがって,当業者であれば,相違点4に係る本件発明1の構成とすることは容易に想到し得ることであって,本件審決の判断に誤りはない。

ア 甲9(特開昭56-56402号公報)には,奥行き方向に2個のパレット(コンテナ)を収納した倉庫内設備において,奥側に格納された荷物を棚から取り出す時は,格納効率が悪くなること,また,奥側の荷物を出庫口へ卸した後に,手前側の荷物を置き換え位置から元の棚区画へ戻すという残作業を行う必要性があるため,直ちに次の荷物の取り出し作業や格納作業に向かうことができず効率が悪くなり,出納効率が低下することが記載されている(1頁右下欄8行~2頁右上欄2行)。

イ また,甲26(実公昭63-12085号公報)には,複数のコンテナを収納する棚を設けた物品収納設備について,「押し込まれたコンテナを運び出す場合は,取出側にあるコンテナを他の空いた棚に移動したのち,運び出す」こと(2頁第4欄15~17行),「先ず搬出入扉を開け荷物をコンテナ2に入れる。次いで操作盤11で格納の指示をすると,自動的に空いている棚まで前記コンテナを運び,既に格納されているコンテナを押し込んで格納する」こと(2頁第4欄8~12行)が記載されているところ,これらの記載によると,コンテナを搬出する際には手前側のコンテナを取り出し,また,当該コンテナを収納する際には,既に格納されているコンテナを押し込んで収納棚の手前側に格納すること,すなわち,手前側のコンテナを優先して使用することにより,出納効率を向上できることが記載ないし示唆されている。

ウ さらに,甲65(特開昭58-100003号公報)には,コンテナ格納装置について,「本発明においては,奥行き方向に並んで連結されたコンテナが1個づつ搬出されても,搬出されたコンテナに続くコンテナは引出されて常に棚間口に位置しているため,コンテナの搬出入に要する時間が短かく,さらに搬出入頻度の高いものが棚間口側に同頻度の低いものが棚奥行側に収納され,かくしてコンテナの搬出入能率が高い。」(2頁右上欄11~17行)として,奥行き方向に2個収容されたコンテナ格納装置において,棚間口に位置しているコンテナの方が,コンテナの搬出入に要する時間が短くなることが記載されている。

(3)  さらに,原告は,甲4発明では,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定されており,そもそもケースの収容先として「いかなるコンテナを優先するか」という発想そのものが生じないから,甲4発明において,相違点4に係る本件発明1の構成を採用することには阻害要因がある旨主張する。

しかし,前記2(1)アで述べたとおり,甲4発明においては,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定的なものとは認められないから,原告の上記主張は理由がない。

5  取消事由5(本件発明の効果に顕著性を認めなかった判断の誤り)に対し

原告は,本件発明1は,図書保管管理装置において,トレードオフの関係にある「収容効率」と「出納効率」という2つの課題を両立して解決したところに効果顕著性があることは明らかであるから,これを認めなかった審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら,本件発明1においては,奥行き方向に2個配置したコンテナのうち,奥側のコンテナを使用しなければ収容効率の向上は望めず,他方,奥側のコンテナを使用した際には必然的に出納効率は低下するものであるから,収容効率と出納効率とは常にトレードオフの関係にあるのであって,そのことは本件発明1においても何ら解決されていない。

すなわち,本件発明1は,「収容効率と出納効率を同時に大幅に向上」させるようなものではなく,奥行き方向に2個のコンテナを配置した従来周知の構成に,手前側のコンテナを優先的に使用するという構成を単純に付加したものにすぎないのであって,この組合せによる何らかの相乗効果を奏するようなものではないから,従来周知の技術から当業者が当然に予測できる程度の効果を奏するものにすぎない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

第5当裁判所の判断

1  本件発明1について

本件特許に係る本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,前記第2の2のとおりである。

そして,本件訂正明細書(甲57)の「発明の詳細な説明」の記載も総合すれば,本件訂正明細書には,本件発明1に関し,次のような開示があることが認められる。

(1)  近時,多量の蔵書を有する大規模図書館等にあっては,図書の取り出しや返却に要する作業の能率向上を図るために,利用者が貸し出しを要求した図書を書庫から取り出して利用者カウンターまで搬送するとともに,その図書が貸し出されたことを記録する作業や,図書が返却されたことを記録しその図書を書庫まで戻して収容位置を記録する作業等を自動化する自動入出庫システムが導入されてきている(段落【0002】)。

(2)  一方,現在の図書館においては,図書の保管管理手段として,図書を分野別に分類して書庫に収容する分類別固定ロケーション配架方式が採用され,一般の図書館では,この分類別固定ロケーション配架方式に上述した自動入出庫システムが組み合わされる形態となっている(段落【0005】)。

しかし,分類別固定ロケーション配架方式による図書の保管管理を行なう場合,1つの分類の中に種々の寸法の図書が混在するために,各分類毎に最大寸法の図書に合わせて書棚の高さや奥行きを設定することが必要となるなど,図書の収容効率が悪化するという問題があり,さらに,図書を返却する場合,その図書の分類に対応するコンテナを書庫から利用者カウンターまで取り出す必要があるため,互いに分類の異なる複数の図書が返却されると,1冊毎に別のコンテナを書庫から利用者カウンターに取り出す必要が生じ,図書の取り出し及び返却作業の能率向上が十分に図れないという不都合も生じている(段落【0006】ないし【0008】)。

(3)  そこで,近時では,多量の図書をそれらの内容には無関係に,寸法のみによって分類して,保管するようにしたサイズ別フリーロケーション方式が考えられてきている。このサイズ別フリーロケーション方式は,収容する図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類のコンテナを用意しておき,それぞれのコンテナを大きさ別に分類して書庫に収容するようにしたものであり,各コンテナの書庫内における収容位置は固定され,各コンテナの番号と収容されている図書のコードとが対応付けられて記憶され,この記憶内容に基づいて必要なコンテナが利用者カウンターに取り出されるとともに,利用者カウンターで図書の取り出しや返却が行なわれたコンテナが書庫に戻される際に,コンテナとそのコンテナに収容されている図書とを対応付けた記憶内容が更新されるようになっている。(段落【0009】,【0010】)

このようなサイズ別フリーロケーション方式による図書の保管管理手段を採用することにより,書庫内における無駄な空間を極力削減し図書の収容効率を向上させることができ,また,同一寸法の図書ならば,その寸法の図書を収容するためのコンテナ内に任意に返却することが可能となるので,コンテナを搬送する搬送機構の稼働回数も少なくすることができ,自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的に向上させることができる(段落【0011】)。

しかし,サイズ別フリーロケーション方式による図書の保管管理手段は,まだ開発途上にある段階であって,図書の書庫内における収容効率の点や,取り出し及び返却作業の点等において,より一層の改良を施すことが強く要望されている(段落【0012】,【0013】)。

(4)  本件発明1は,サイズ別フリーロケーション方式による図書の保管管理手段において,書庫内における図書の収容効率を向上させるとともに,自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率も効果的に向上させ得る極めて良好な図書保管管理装置を提供することを目的としたものであり,そのための当該装置の構成として,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと,この複数のコンテナの前記書庫内における収容位置と,各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに搬送する搬送手段と,この搬送手段により前記ステーションに搬送されて,前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナに対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備し,前記書庫の複数の棚領域には,前記搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられていることを特徴とし,前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用することを特徴とする」構成を採用したものである(特許請求の範囲請求項1,段落【0014】,【0015】)。

(5)  そして,本件発明1は,上記の構成により,従来の分類別固定ロケーション方式に比して図書の収容効率を向上させることが可能なサイズ別フリーロケーション方式を採用した図書の保管管理手段において,さらに,その書庫のコンテナを出し入れするための間口に対して奥行き方向に,複数のコンテナを収容させるようにしたので,書庫内における図書の収容効率をより一層向上させることができ,また,優先的に手前側のコンテナを使用する管理方法を用いることにより,図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的に向上させることができるのであり,書庫内における図書の収容効率を向上させるとともに,自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率も効果的に向上させ得るという作用効果を奏するものである(段落【0016】,【0089】)。

2  取消事由1(本件発明1と甲4発明の一致点の認定の誤り・相違点の看過)について

(1)  甲4の記載事項

甲4(特開平5-151233号公報)には,次の記載がある(下記記載中に引用する図面のうち,図1ないし4,6,7,10及び11については別紙を参照)。

ア 【特許請求の範囲】

【請求項1】識別情報の付された図書と,この図書を収容する識別情報の付された自動搬送用のケースと,このケースを複数収容し得る書庫と,この書庫に収容された図書に対する収容位置情報を含む図書情報を,前記図書に付された識別情報と該図書が収容される前記ケースに付された識別情報とを組み合わせた情報とともに記憶する記憶手段と,この記憶手段の記憶内容に基づいて前記書庫から出庫すべき図書の収容されたケースを自動的に取り出して出庫する自動搬出手段と,前記書庫に入庫すべき図書に付された識別情報と該図書を収容し得る任意の前記ケースに付された識別情報とを読み取って,該図書に対する新たな図書情報を生成する生成手段と,この生成手段で生成された図書情報に基づいて前記書庫に入庫すべき図書の収容されたケースを自動的に前記書庫に入庫する自動搬入手段とを具備してなることを特徴とする図書入出庫管理装置。

イ 【発明の詳細な説明】

【0001】

【産業上の利用分野】この発明は,例えば大型図書館等において多量の図書の貸し出し及び返却の管理を容易に行なえるようにした図書入出庫管理装置に関する。

【0002】

【従来の技術】周知のように,多量の蔵書を有する大型図書館等においては,利用者が貸し出しを要求した図書を,正確かつ迅速に書庫から取り出して利用者カウンターまで搬送するとともに,その図書が貸し出されたことを記録する作業や,図書が返却されたことを記録するとともに,その図書を書庫まで戻し収容位置を記録する作業等を自動化するために入出庫管理システムが提案されている。この場合,図書は,その寸法や形状が様々であるため,このままでは書庫に対する入出庫動作を自動化することができない。

【0003】 そこで,従来では,例えば特公昭61-4723号公報に示されるように,図書を1冊単位で規格化された大きさのケースに収容し,このケースを複数個コンテナに収容してコンテナ単位で自動入出庫させることが考えられている。このように,図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際にケースに入れることにより,ハンドリングやロケーションの管理が容易になり,個別にて搬送する際にも図書を保護することができる。この場合,各ケースには,バーコードが付されており,どのケースがどのコンテナに収容されているかが全て記憶されている。

【0004】 そして,図書の取り出しが要求されると,その図書の入ったケースを収容するコンテナが書庫から自動出庫され,さらにそのコンテナから所望の図書の入ったケースが自動出庫される。すると,図書館員は,自動出庫されたケースから図書を取り出して利用者に渡し,ここに図書の貸し出しが行なわれる。

【0005】 また,図書が返却された場合,図書館員は,返却された図書を元のケースに収容し,そのケースを任意の空きのあるコンテナに自動入庫させる。すると,コンテナの入庫時に,そのコンテナに収容された全てのケースのバーコードが読み取られ,ケースの位置(ロケーション)を示す記憶内容が更新されて,ここに図書の返却が行なわれる。

【0006】 しかしながら,上記のような従来の入出庫管理システムでは,図書とケースとが1対1に対応しているので,図書が返却される毎に大量の空きケースの中からその図書を収容すべきケースを探さなければならず,作業が非能率的になるという問題が生じている。すなわち,図書の貸し出しには,館内貸し出し(当日貸し出し当日返却)と館外貸し出し(当日貸し出し後日返却)とがあり,貸し出し件数が多いと空ケースも相当数になる。このため,ケースと図書とが常に固定した対応関係にあると,図書が返却された場合その相当数のケースの中から返却された図書に対応するケースを探し出さなければならず作業の効率が悪くなるとともに,多量の空ケースを常時カウンター付近に保管する必要も生じる。

【0007】 また,ケースを間違えた場合には,その図書を後から探し出すことが実質的に不可能になる。一般に,図書自体にバーコードを付すことが考えられるが,ケースに収容された図書のバーコードを読み取るようにすることは不可能に近い。なお,貸し出し時に図書とケースとを両方貸すことは,ケースの破損や紛失を招くとともに,2冊以上貸し出した際にケースと図書とを入れ違えて返却される等の問題を招くため得策ではない。

ウ 【0008】

【発明が解決しようとする課題】以上のように,従来の入出庫管理システムでは,図書とケースとの対応関係を保持する必要があり,そのためにせっかく自動化を図りながらも,その利点を十分に活かしきれないという問題を有している。

【0009】そこで,この発明は上記事情を考慮してなされたもので,図書とケースとの対応関係を固定的なものとせずに,返却された図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することができる極めて良好な図書入出庫管理装置を提供することを目的とする。

【0010】

【課題を解決するための手段】この発明に係る図書入出庫管理装置は,識別情報の付された図書と,この図書を収容する識別情報の付された自動搬送用のケースと,このケースを複数収容し得る書庫と,この書庫に収容された図書に対する収容位置情報を含む図書情報を,図書に付された識別情報と該図書が収容されるケースに付された識別情報とを組み合わせた情報とともに記憶する記憶手段と,この記憶手段の記憶内容に基づいて書庫から出庫すべき図書の収容されたケースを自動的に取り出して出庫する自動搬出手段と,書庫に入庫すべき図書に付された識別情報と該図書を収容し得る任意のケースに付された識別情報とを読み取って,該図書に対する新たな図書情報を生成する生成手段と,この生成手段で生成された図書情報に基づいて書庫に入庫すべき図書の収容されたケースを自動的に書庫に入庫する自動搬入手段とを備えるようにしたものである。

【0011】

【作用】上記のような構成によれば,ケースと図書との対応関係を固定的なものとせずに,ケースに付された識別情報と図書に付された識別情報との組み合わせで新たな図書情報を生成して入出庫管理を行なうようにしているので,入庫すべき図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することができ(ママ)とともに,作業時の間違いを除き得る。

エ 【0012】

【実施例】以下,この発明の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。図1は,この実施例で説明する図書入出庫管理システムの全体的な構成を示している。すなわち,図中11は例えば図書館の3階の書庫内に設置された書棚で,複数のコンテナ12,12,……が収容されている。これらコンテナ12,12,……には,それぞれ複数個のケース13,13,……が収容されている。各ケース13,13,……には,それぞれ1冊の図書が収容される。また,各ケース13,13,……は,規格化された一定の大きさのものが基準となっており,この基準の大きさに対して収納する図書の厚みによって幾種類かの厚みを有するものが用意されている。

【0013】ここで,上記書棚11の前面には,レール14に案内されて走行するスタッカークレーン15が設置されている。このスタッカークレーン15は,図書の出庫時に,書棚11からコンテナ12を取り出して出庫用ラックステーション16に移送するとともに,出庫用ラックステーション16に置かれたコンテナ12を,書棚11の元の位置に移送して入庫する動作を行なうものである。また,スタッカークレーン15は,図書の入庫時に,書棚11からコンテナ12を取り出して入庫用ラックステーション17に移送するとともに,入庫用ラックステーション17に置かれたコンテナ12を,書棚11の元の位置に移送して入庫する動作とを行なうものである。

【0014】これら出庫用及び入庫用ラックステーション16,17に沿って,エンドレスの搬送レール18が設置されている。この搬送レール18上には,複数のピッキング装置19,19,……が走行自在に支持されている。これらピッキング装置19,19,……は,出庫用ラックステーション16に設置されたコンテナ12から所望のケース13を取り出し,搬送レール18上を移動して2階向搬出口20及び1階向搬出口21のいずれかに移送する動作と,2階向搬入口22及び1階向搬入口23のいずれかに搬送されたケース13を,入庫用ラックステーション17に置かれたコンテナ12の空きスペースに収容する動作とを行なうものである。

【0016】さらに,1階向搬出口21に移送されたケース13は,図示しない垂直搬送機を介して図書館の1階に設置されたケース搬入口28に搬送され,搬送コンベア29を介してカウンターステーション30または1階ステーション31に移送される。そして,カウンターステーション30では,図書館員によってケース13から図書が取り出されて利用者への貸し出しに供され,1階ステーション31では,図書館員によってケース13から図書が取り出され利用者に渡されて閲覧に供される。この場合,空ケース13は,カウンターステーション30及び1階ステーション31にそれぞれ保管される。

【0017】また,返却された図書及び閲覧後の図書は,カウンターステーション30及び1階ステーション31で図書館員によってケース13に収容され,搬送コンベア29を介してケース搬出口32に移送された後,図示しない垂直搬送機を介して3階の1階向搬入口23に移送され,出庫と逆の過程によって書棚11へ返却される。

【0018】図2は,上記出庫用ラックステーション16に運ばれたコンテナ12からピッキング装置19にケース13を取り出す状態を示している。すなわち,コンテナ12は,その図中前面及び上面の開放された略箱状に形成されており,それぞれ図書33を収容した複数のケース13,13,……が縦置きに配列されて収容されている。ここで,各ケース13,13,……は,図3に示すように,図中上面の開放された略箱状に形成されており,図書33を完全に覆うように形成されている。そして,各ケース13,13,……及び各図書33には,それぞれバーコード34,35が付されている。また,コンテナ12の側面には,スタッカークレーン15による書棚11に対しての入出庫動作のための把持手36が設けられている。さらに,上記ケース13の前面には,ピッキング装置19によるコンテナ12に対しての入出庫動作のための把持手37が設けられている。

オ 【0020】ここで,図4は図1に示した図書入出庫管理システムの制御システムを示している。すなわち,図中39は中央処理装置で,例えばマイクロプロセッサ等を内蔵している。この中央処理装置39には,…バスライン40を介して,…ファイルアダプタ46を経て図書情報の記憶されたハードディスク47…が接続されている。

【0021】また,上記中央処理装置39には,バスライン40を介して,シリアルインターフェースアダプタ50を経て統括制御盤51と定置式検出器52とが接続されている。この統括制御盤51は,…前記スタッカークレーン15,ピッキング装置19,垂直搬送機及び搬送コンベア25,29等の動作を統括的に制御するもので,ケース13の位置を検出する定置式検出器52の検出結果に基づいて制御動作を行なうものである。

【0022】さらに,上記中央処理装置39には,バスライン40を介して,シリアルインターフェースアダプタ53を経てコンソール54,ディスプレイ55,バーコードリーダ56及びシリアルプリンタ57が接続されている。そして,これらコンソール54,ディスプレイ55,バーコードリーダ56及びシリアルプリンタ57は,カウンターステーション30に設置されている。

【0023】また,上記中央処理装置39には,バスライン40を介して,シリアルインターフェースアダプタ58を経てディスプレイ59,バーコードリーダ60,シリアルプリンタ61及びバーコードプリンタ62が接続されている。そして,これらディスプレイ59,バーコードリーダ60,シリアルプリンタ61及びバーコードプリンタ62は,1階及び2階ステーション31,26にそれぞれ設置されているものとする。

カ 【0026】上記のような構成となされた図書入出庫管理システムにおいて,以下,その動作を説明する。まず,図6は,図書33の貸し出し動作を説明するためのフローチャートである。すなわち,図書33の貸し出し動作は,利用者が貸し出しを要求する図書33を,カウンターステーション30の図書館員に伝えることから開始(ステップS1)される。すると,カウンターステーション30の図書館員は,ステップS2で,コンソール54を操作して要求された図書33のコードを入力する。

【0027】要求図書33のコードが入力されると,中央処理装置39は,ステップS3で,ハードディスク47に記憶された図書情報から要求図書33が書棚11に在庫しているか否か,つまり現在貸し出し中であるか否かを判別し,判別結果をディスプレイ55に表示する。そして,要求図書33が書棚11に在庫していない(NO)旨の表示がディスプレイ55になされると,図書館員は,ステップS4で,利用者に要求図書33が在庫していないことを説明して終了(ステップS16)される。

【0028】また,要求図書33が書棚11に在庫している(YES)場合には,中央処理装置39は,ステップS5で,統括制御盤51に要求図書33を書棚11から取り出すための搬出指令を発生する。すると,統括制御盤51の制御によって,詳細な動作は後述するが,各スタッカークレーン15,ピッキング装置19,垂直搬送機65及び搬送コンベア25,29等が動作され,ステップS6で,要求図書33がケース13に収容された状態で書棚11からカウンターステーション30まで搬出されて,カウンターステーション30内に設定された搬入口から図書館員の手元に運ばれる。

【0029】そして,カウンターステーション30の図書館員は,ステップS7で,バーコードリーダ56により搬出されてきたケース13に付されたバーコード34を読み取る。すると,中央処理装置39は,ステップS8で,読み取られたバーコード34が要求図書33のコードに対応しているか否かを判別する。そして,対応していなければ(NO),図書館員は,ステップS9で,要求図書33のコードを再確認し,ステップS10で,コンソール54を操作して要求図書33の再出庫指令を発生し,ステップS5の処理に戻される。

【0030】また,読み取られたケース13のバーコード34が要求図書33のコードに対応していれば(YES),図書館員は,ステップS11で,バーコードリーダ56により利用者の持つ利用者カードに付されたバーコードを読み取った後,ステップS12で,ケース13から図書33を取り出しバーコードリーダ56によりその図書33に付されたバーコード35を読み取る。すると,中央処理装置39は,ステップS13で,例えばハードディスク47内に設定された図書貸し出しリスト記憶領域に,利用者カードのバーコードデータと貸し出す図書33のバーコード35データとを登録するとともに,その図書33に対してハードディスク47内に記憶されているロケーションやケース13と図書33との対応コード等の図書情報を削除する。

【0031】その後,図書館員は,ステップS14で,図書33と利用者カードとを利用者に渡し,ステップS15で空ケース13を所定場所に保管して,ここに,貸し出し動作が終了(ステップS16)される。

【0032】次に,図7は,図書33の返却動作を説明するためのフローチャートである。すなわち,図書33の返却動作は,利用者が返却する図書33と利用者カードとをカウンターステーション30に持ってくることから開始(ステップS17)される。すると,カウンターステーション30の図書館員は,ステップS18で,利用者の持ってきた図書33と利用者カードとを受け取り,ステップS19で,コンソール54を操作してその図書33のコードを入力する。このコード入力がなされると,中央処理装置39は,ハードディスク47内に設定された図書貸し出しリスト記憶領域から,その図書33の貸し出し登録を削除する。

【0033】そして,図書館員は,ステップS20で利用者カードを利用者に返却した後,ステップS21で,ケース保管場所から返却された図書33を収容するのに相応しい任意のケース13を選んで取り出し,バーコードリーダ56によりそのケース13に付されたバーコード34と図書33に付されたバーコード35とを読み取る。すると,中央処理装置39は,ステップS22で,ケース13から読み取ったバーコード34データと図書33から読み取ったバーコード35データとを組み合わせて,ハードディスク47に格納登録する。

【0034】次に,図書館員は,ステップS23で,図書33をケース13に収容しカウンターステーション30内に設定された搬出口にセットした後,ステップS24で,そのケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録する。すると,中央処理装置39は,ステップS25で,統括制御盤51にケース13を書棚11に返却するための格納指令を発生する。そして,統括制御盤51の制御によって,詳細な動作は後述するが,各スタッカークレーン15,ピッキング装置19,垂直搬送機65及び搬送コンベア25,29等が動作されて,ステップS26で,図書33がケース13に収容された状態で所定のコンテナ12に入れられ書棚11に入庫され,ここに,返却動作が終了(ステップS27)される。

キ 【0035】ここで,図8は,図書33の貸し出し時に,要求図書33を書棚11からカウンターステーション30まで搬出する動作を説明するためのフローチャートである。まず,開始(ステップS28)され,ステップS29で,統括制御盤51が中央処理装置39からの搬出指令を受信すると,統括制御盤51は,ステップS30で,スタッカークレーン15に書棚11から所望のコンテナ12を取り出す指令を与え,ステップS31で,スタッカークレーン15によって取り出されたコンテナ12が出庫用ラックステーション16に載置される。

【0036】次に,統括制御盤51は,ステップS32で,ピッキング装置19を出庫用ラックステーション16まで移動させ,ステップS33で,移送機構38によりコンテナ12内の指定されたケース13をピッキング装置19に移送させる。そして,統括制御盤51は,ステップS34で,ケース13を搭載したピッキング装置19を搬送レール18上を移動させて1階向搬出口21まで移送し,ステップS35で,垂直搬送機によりケース13をケース搬入口28まで垂直移送し,ステップS36で,搬送コンベア29によりケース13をカウンターステーション30の搬入口まで移送する。

【0037】その後,統括制御盤51は,ステップS37で,出庫用ラックステーション16に載置されたケース13の取り出されたコンテナ12を,スタッカークレーン15によって書棚11の元の位置に入庫させ,ステップS38で,中央処理装置39に出庫作業の完了したことを報告して終了(ステップS39)される。

【0038】また,図9は,図書33の返却時に,図書33をカウンターステーション30から書棚11まで搬送する動作を説明するためのフローチャートである。まず,開始(ステップS40)され,ステップS41で,統括制御盤51が中央処理装置39からの格納指令を受信すると,統括制御盤51は,ステップS42で,カウンターステーション30の搬出口にセットされたケース13を,搬送コンベア29を介してケース搬出口32まで移送し,ステップS43で,垂直搬送機によりケース13を1階向搬入口23まで垂直移送する。

【0039】そして,統括制御盤51は,ステップS44で,ピッキング装置19を1階向搬入口23まで移動させ,ステップS45で,移送機構38により1階向搬入口23のケース13をピッキング装置19に移送させる。その後,統括制御盤51は,ステップS46で,スタッカークレーン15に書棚11から所望のコンテナ12を取り出す指令を与え,ステップS47で,スタッカークレーン15によって取り出されたコンテナ12が入庫用ラックステーション17に載置される。

【0040】次に,統括制御盤51は,ステップS48で,ケース13を搭載したピッキング装置19を搬送レール18上を移動させて入庫用ラックステーション17まで移動させ,ステップS49で,移送機構38によりピッキング装置19上のケース13をコンテナ12内に移送する。そして,統括制御盤51は,ステップS50で,入庫用ラックステーション17に載置されたケース13の収容されたコンテナ12を,スタッカークレーン15によって書棚11の元の位置に入庫させ,ステップS51で,中央処理装置39に入庫作業の完了したことを報告して終了(ステップS52)される。

【0041】したがって,上記実施例によれば,ケース13と図書33との対応関係を固定的なものとせずに,ケース13に付されたバーコード34データと図書33に付されたバーコード35データとの組み合わせで入出庫管理を行なうようにしているので,返却された図書33を任意のケース13に収容して書棚11に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することができる。

ク 【0042】次に,図10は,上記実施例の入出庫管理システムに付加して好適する,コンテナ12単位の入出庫管理システムを示している。すなわち,書棚74からスタッカークレーン75によって出庫されたコンテナ12は,出庫用ラックステーション76,搬送コンベア77,コンテナ搬出口78及び図示しない垂直搬送機を介した後,2階向コンテナ搬入口79及び搬送コンベア80を介して2階ステーション26に搬送されるとともに,1階向コンテナ搬入口81及び搬送コンベア82を介してカウンターステーション30または1階ステーション31に搬送される。

【0043】また,カウンターステーション30または1階ステーション31のコンテナ12は,搬送コンベア83を介して1階向コンテナ搬出口84に搬送され,2階ステーション26のコンテナ12は,搬送コンベア85を介して2階向コンテナ搬出口86に搬送される。そして,1階向コンテナ搬出口84または2階向コンテナ搬出口86に搬送されたコンテナ12は,図示しない垂直搬送機を介して3階のコンテナ搬入口87に移送され,搬送コンベア88を介して入庫用ラックステーション89に移送された後,スタッカークレーン75により書棚74に入庫される。

ケ 【0044】このようなコンテナ12単位の入出庫管理システムと,図1に示したケース13単位の入出庫管理システムとを並設した状態を,図11に示している。このように,ケース13単位の入出庫管理システムに加えてコンテナ12単位の入出庫管理システムを付加することにより,例えば通常の図書33の貸し出し及び返却作業は,ケース13単位の入出庫管理システムを使用して行ない,棚卸しや在庫整理のように大量の図書33を移動させるようなときには,コンテナ12単位の入出庫管理システムを使用する等,十分に実用的なシステムを構成することができる。なお,この発明は上記実施例に限定されるものではなく,この外その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。

コ 【0045】

【発明の効果】以上詳述したようにこの発明によれば,図書とケースとの対応関係を固定的なものとせずに,返却された図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することができる極めて良好な図書入出庫管理装置を提供することができる。

(2)  検討

原告は,本件審決が,「返却が要求された際に,返却が要求された図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送する搬送手段」を本件発明1と甲4発明の一致点と認定したことには誤りがあり,その認定の誤りは本件審決の取消事由を構成する旨を主張し,その根拠として,甲4発明においては,①ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係は固定されており,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」すものではないこと,②「返却が要求された図書の情報を入力する」ことと「コンテナを書庫から取り出」すこととの間に因果関係がないことを指摘する。

そこで,前記(1)のとおりの甲4の記載事項を前提として,甲4発明について,原告がその主張の根拠とする上記①及び②の事実が認められるか否かについて,以下検討する。

ア ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているとの点について

(ア)a 甲4の段落【0033】,【0034】及び【図7】によれば,甲4発明においては,図書が返却された際,当該図書は図書館員によって任意のケースに収容された後,書棚に入庫されることになるが,この間の処理手順は,次のようなものとされている。

すなわち,まず,図書館員は,ケース保管場所から任意のケースを取り出し,そのケースに付されたバーコードと返却された図書に付されたバーコードとをバーコードリーダで読み取るが,これによって,両者のバーコードデータが組み合わされて,ハードディスクに格納登録される(ステップS21,S22)。次に,図書館員は,図書をケースに収容しカウンターステーションの搬出口にセットした後,当該ケースの書棚内における格納ロケーションを設定しハードディスクに登録する(ステップS23,S24)。すると,中央処理装置が,統括制御盤に格納指令を発し,その後,統括制御盤の制御によって,スタッカークレーン,ピッキング装置,垂直搬送機及び搬送コンベア等が動作されて,図書を収容したケースが所定のコンテナに入れられ書棚に入庫されることになる(ステップS25ないしS27)。

以上のような甲4の記載からすると,甲4発明において,図書を収容したケースが,書棚にある複数のコンテナのうちのいずれのコンテナに収容され,書庫内のいずれのロケーションに格納されるかについては,図書が返却された際に,図書館員が,当該図書を収納したケースの書棚内における格納ロケーションを設定・登録することによって定まるものであることを自然に理解することができる。そして,このような理解からすれば,図書を収容したケースとそれを収容するコンテナとの対応関係は,図書の返却が行われる都度,上記格納ロケーションの設定・登録によって新たに定まるものであって,原告が主張するように,特定のケースが特定のコンテナに収容されるようあらかじめ定められたもの(固定されたもの)ではないというべきである。

b これに対し,原告は,上記格納ロケーションの設定・登録は,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されている場合であっても,複数の図書が返却され,格納対象となるケースが複数ある場合に,搬送処理を行うケース(したがって,そのケースを収容すべきコンテナ)を特定するために必要な処理であるから,甲4発明において,上記格納ロケーションの設定登録が行われることは,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されていないことの根拠とはならない旨主張する。

しかし,仮に,甲4発明において,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているとすれば,原告主張のように,格納対象となるケースが複数ある場合に搬送処理を行うケースを特定するための処理としては,搬送処理を行うケースのバーコードを読み取るなどして当該ケースを特定すれば足りることであって,当該ケースに対応した格納ロケーションの設定を行う必要はないはずであり,更には,その格納ロケーションをハードディスクに登録することは,およそ意味のない処理手順ということになる。この点,原告は,ケースの格納ロケーションのハードディスクへの登録は,次の貸出しの際に当該ケースを取り出すために必要である旨主張するが,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定されている以上,改めてケースの格納ロケーションをハードディスクに登録する処理など行わなくとも,次の貸出しの際に特定のケースを取り出すことに支障はないはずである。

したがって,原告の上記主張には理由がない。

(イ) また,上記(ア)aの認定は,甲4の次の記載からも裏付けられる。

すなわち,甲4の段落【0030】及び【図6】には,図書を貸し出す際の処理手順について,図書館員は,要求図書を取り出した後,利用者カードのバーコードと貸し出す図書のバーコードをそれぞれバーコードリーダで読み取ること(ステップS12,S13),すると,中央処理装置は,両者のバーコードデータをハードディスク内の図書貸し出しリスト記憶領域に登録するとともに,当該図書に対してハードディスク内に記憶されているロケーションやケースと図書との対応コード等の図書情報を削除することが記載されている。

しかるところ,上記のとおり,図書の貸し出しの際に,ハードディスクから削除される図書情報として,ケースと図書との対応コードに加え,これと並列して「ロケーション」が挙げられていることからすれば,甲4発明において,図書の「ロケーション」の情報は,ケースと図書との対応関係に係る情報とは別個の情報としてハードディスクに記憶されるものであると理解するのが自然である。そして,ケースと図書との対応関係に係る情報とは異なる図書の「ロケーション」情報とは,図書(ケース)が収容されているコンテナの情報であるとしか考えられないから,上記の記述は,甲4発明においては,図書のロケーション(コンテナ)がケースとの対応関係によって一義的に定まるものではないこと,すなわち,ケースと格納ロケーション(コンテナ)の対応関係が固定されたものではないことを示しているということができる。

(ウ) 甲4には,コンテナの空きの有無を認知できる構成の記載がないとする原告の主張について

a 原告は,甲4発明において,図書館員が,図書の返却の都度ケースと格納ロケーションの対応関係を新たに設定するのであるとすれば,図書館員は,図書の返却作業に際し,図書を収容したケースを収容すべきコンテナの空きの有無を認知している必要があるが,甲4には,図書館員が,目視又はシステムによりコンテナの空きの有無を認知できる構成についての記載はないから,甲4発明では,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係は固定されているとしか考えられない旨主張する。

確かに,原告が主張するとおり,甲4発明が,図書館員によって図書の返却の都度ケースと格納ロケーションの対応関係が新たに設定・登録されるものであるとすれば,図書館員は,書棚にある複数のコンテナのうち,返却された図書を収容したケースを収容することができるだけの空きスペースのあるコンテナを格納ロケーションとして設定・登録しなければならず,そのためには,図書館員において,その設定・登録の際に,書棚にあるコンテナの空き状況を認知していることが必要であることは明らかである。また,甲4をみても,甲4発明において,図書館員が,上記格納ロケーションの設定・登録の際に,書棚にあるコンテナの空き状況をどのようにして認知するのかについて,具体的に説明する記載は見当たらないものといえる。

b しかしながら,以下のような甲4の記載等を総合すれば,甲4発明において,図書館員が,図書の返却の際に図書が収容されたケースの格納ロケーションを設定・登録するに当たり,コンテナの空き状況を認知し得る構成を備えていることは,当業者において当然に理解し得ることというべきである。

(a) まず,甲4の段落【0030】及び【0034】の記載によれば,甲4発明において,図書を収容した各ケースが書棚のいずれのコンテナに収容されているかという情報,すなわちケースの格納ロケーションの情報は,図書の返却時に,当該図書を収容したケースの格納ロケーションとして図書館員によって設定され,ハードディスク47に登録されることになり,当該図書が貸し出されることにより削除されるまで,ハードディスク47内に記憶されていることになる。

このように,ハードディスク47には,書棚に存在する全てのケースについて,いずれのコンテナに収容されているかという情報が記憶されていることになるが,これをコンテナの側から見れば,書棚にある各コンテナについて,どのケースが収容されているかという情報が記憶されていることになるから,ハードディスク47には,各コンテナについて,どれだけの空きがあるかという情報が記憶されているものといえる。なお,甲4発明において,各ケースは,規格化された一定の大きさのものとされるが,厚みについては,図書の厚みに応じた幾種類かのものがあるとされるところ,このような場合に,各ケースのバーコード情報の中に,当該ケースの厚みに関する情報も含まれるようにすることは,当然に行われるべきことといえる。

したがって,甲4発明においては,ハードディスク47内に,書棚にある各コンテナについて,どの程度の厚みの空きがあるかという点を含めた空き状況に関する情報が記憶されているものということができる。

(b) 他方,甲4の段落【0020】ないし【0023】及び【図4】の記載によれば,甲4発明の図書入出庫管理システムにおいては,マイクロプロセッサ等を内蔵する中央処理装置に,上記ハードディスク47が接続されており,また,上記中央処理装置には,図書館員が貸出し及び返却の作業を行うカウンターステーションに設置されたコンソール,ディスプレイ及びバーコードリーダ等の装置が接続されている。

そして,図書館員は,カウンターステーションに設置された上記各装置を使用して,図書の貸出し及び返却時の作業を行うものであるところ,図書の返却の際に図書が収容されたケースの格納ロケーションを設定・登録するに当たっても,図書館員は上記各装置を使用した入力を行い,それに応じた中央処理装置の処理によって,ハードディスク47への格納ロケーションの登録が行われるものと考えられる。

(c) 以上で述べたとおり,甲4発明においては,図書館員が図書の返却の際に図書を収容したケースの格納ロケーションを設定・登録するために使用するコンソール,ディスプレイ及びバーコードリーダ等の装置とハードディスク47とが中央処理装置を介して接続されているところ,ハードディスク47には書棚にある各コンテナについての空き状況に関する情報が記憶されているのであり,他方,前記(a)で述べたとおり,図書館員が,図書の返却の際に図書を収容したケースの格納ロケーションとして,当該ケースを収容することができるだけの空きスペースのあるコンテナを設定・登録するためには,図書館員において,書棚にあるコンテナの空き状況を認知していることが必要であることは明らかであることからすると,当業者からみれば,甲4発明においては,図書館員は,図書の返却の際に図書を収容したケースの格納ロケーションを設定・登録するに当たって,コンソールやディスプレイ等の装置を操作することにより,中央処理装置を介しハードディスク47に記憶された各コンテナについての空き状況に関する情報を参照するなどして,コンテナの空き状況を認知することが予定されているものと当然に理解し得るというべきである。

c 以上によれば,甲4において,図書館員がコンテナの空きの有無を認知できる構成についての具体的な記載がないからといって,甲4発明ではケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているとしか考えられないとはいえないのであり,この点に関する原告の主張には理由がない。

(エ) 以上で述べたところを総合すれば,甲4発明においては,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているものとは認められないというべきであるから,このことを根拠として,本件審決による本件発明1と甲4発明の一致点の認定に誤りがあるとする原告の主張は理由がない。

イ 「返却が要求された図書の情報を入力する」ことと「コンテナを書庫から取り出」すこととの間に因果関係がないとの点について

甲4の段落【0033】,【0034】及び【図7】の記載によれば,甲4発明において図書が返却された際の処理手順では,図書館員が,ケース保管場所から任意のケースを取り出し,そのケースに付されたバーコードと返却された図書に付されたバーコードとをバーコードリーダで読み取ることによって,返却が要求された図書の情報の入力が行われており,その結果,ケースと図書のバーコードデータが組み合わされて,ハードディスクに格納登録されることになる(ステップS21,S22)。

他方,甲4発明において,返却された図書を収容したケースを収容するためのコンテナの取出しは,図書館員が,当該ケースの格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録すること(ステップS23,S24)により,中央処理装置から統括制御盤への格納指令が発せられ,その後,統括制御盤の制御によって,スタッカークレーン等の装置が動作されて,所定のコンテナが取り出される(ステップS25ないしS27)という手順で行われることになる。

このような甲4発明における図書の返却時の処理手順からすれば,書棚にある複数のコンテナの中から,返却された図書を収容したケースを収容するコンテナを選定し,これを取り出す処理は,図書館員による格納ロケーションの設定・登録によって行われていることが明らかである。

そして,図書館員が上記格納ロケーションを設定・登録するに当たっては,前記ア(ウ)b(c)で述べたとおり,図書館員が,コンソールやディスプレイ等の装置を操作することにより,中央処理装置を介しハードディスク47に記憶された各コンテナについての空き状況に関する情報を参照するなどして,当該ケースを収容するのに適した空きのあるコンテナを選定しているものと考えられるのであり,甲4には,この選定に,先に入力された返却図書のバーコードデータが用いられていることをうかがわせる記載はなく,また,技術的に見ても,上記の選定に返却図書に関する情報が用いられるべき理由は見当たらないというべきである。

してみると,甲4発明においては,「返却が要求された図書の情報を入力すること」によって,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す処理が行われるものとはいえない。

(イ) これに対し,被告は,甲4の段落【0034】の記載において,「ステップS24で,そのケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録する」処理を行う主体は,図書館員ではないとの前提に立った上で,甲4発明においては,返却図書及びケースに付されたバーコードを読み取ることによって,収容位置情報(すなわち,格納ロケーション)が生成(設定)されるから,「返却が要求された図書の情報を入力すること」によって,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す処理が行われている旨主張する。

しかしながら,甲4の段落【0034】の記載は,「次に,図書館員は,ステップS23で,図書33をケース13に収容しカウンターステーション30内に設定された搬出口にセットした後,ステップS24で,そのケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録する。」というものであり,この記載からすれば,ステップS23及びステップS24を行う共通の主体が「図書館員」とされていることが,文言上明らかであるから,被告の前記主張は,その前提において誤りであって,採用できない。

(ウ) 以上によれば,本件審決が,「返却が要求された際に,返却が要求された図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送する搬送手段」を本件発明1と甲4発明の一致点と認定したことには,誤りがあるものといえる。

しかるところ,原告は,誤って認定された一致点に対応する相違点について,甲1の3その他いかなる先行文献にも開示がなく,甲4発明とこれらの文献を組み合わせたとしても,当該相違点に係る本件発明1の構成とすることはできないから,上記の一致点の認定の誤り・相違点の看過は,審決の結論に影響を及ぼすものであり,審決の取消事由を構成する旨主張する。

しかしながら,本件審決は,上記の点において本件発明1と甲4発明の一致点の認定を誤りながらも,相違点の認定においては,前記第2の3(2)イ(イ)のとおり,甲4発明は「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出」す構成を具備しない点を相違点2として認定した上で,当該相違点に係る本件発明1の構成については,甲4発明に,周知技術1の寸法別のコンテナ等の構成を適用するに際して,甲1の3記載の技術的事項に基づき当業者が容易に想到し得たものと判断している。そして,本件審決の上記判断に誤りがないことは,後記3の取消事由2についての判断において述べるとおりである。

してみると,本件審決における上記一致点の認定の誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼすものとはいえないから,本件審決の取消事由となるものではない。

(3)  小括

以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。

3  取消事由2(相違点2についての容易想到性判断の誤り)について

(1)  甲1の3の記載事項

ア 甲1の3(カリフォルニア州立大学オビアット図書館第ⅠⅠ期プロジェクト仕様書)には,「図書館設備―自動保管取り出しシステム(ASRS)」(訳文4頁2行)の見出しに続いて,次の事項が記載されている。

(ア) 「パート1 一般」の章のうち「1.01業務の内容」(訳文4ないし6頁)の項目中には,以下の記載がある。

a 「A.含まれる業務

機器供給者は,

1.6基のミニロードスタッカクレーン。スタッカクレーンは,…容器挿入/引き出し機構を備えなければならない。…

2.棚の構造は,全部で13,260個の容器の収容位置を含む6通路分から構成される。…

5.仕切り,容器アドレス,及びセクターラベルを含む容器。…

7.6つのAS/RS通路端ワークステーション。…

9.コンピュータシステム,コントローラ,周辺機器,及びソフトウエアを含む,在庫チェック(インベントリ)コントロール,コンベヤコントロール,及び図書館コンピュータシステムとのインターフェイスを供給するためのASRSコントローラ。…

からなる,自動保管取り出しシステム(AS/RS)を設計,製作,据付するための,全ての必要なエンジニアリングサービス,労務,材料及び機器を供給しなければならない。」(訳文4頁8行ないし5頁17行)

b 「C.本章の用語の定義

1.本仕様書で文字「LCS」が用いられる場合は常に,LCSは「図書館コンピュータシステム」を意味すると理解されなければならない。

2.本仕様書で文字「ASRS」が用いられる場合は常に,ASRSは「自動保管取り出しシステム」を意味すると理解されなければならない。

3.本仕様書で文字「EAWS」が用いられる場合は常に,EAWSは「通路端ワークステーション」を意味すると理解されなければならない。」(訳文6頁9ないし18行)

(イ) 「パート2 製品」の章のうち「2.02 ASRSシステムの一般的記載」(訳文11ないし18頁)の項目中には,以下の記載がある。

a 「A.AS/RSシステムのパラメータ…

6.標準システム構成

a. 6通路ミニロードシステム…

c.段の数:34段 段の高さ:容器の深さ+次の容器の底面まで最大1.0インチ

7.24インチ×48インチの容器(内側寸法)の底面図を用いる。容器の要求数の分配は下記のようになる。

容器サイズ                      要求個数

24インチ幅×48インチ長×6.0インチ深さ      390

24インチ幅×48インチ長×10.0インチ深さ    7020

24インチ幅×48インチ長×12.0インチ深さ    5070

24インチ幅×48インチ長×15.0インチ深さ     390

24インチ幅×48インチ長×18.0インチ深さ     390

全容器数   13260

10.システムに保管される標準的なマテリアル:本,雑誌,印刷物…といった図書館マテリアル…

12.保管されるパートの数

形式       全個数       個数/容器  容器の高さ

1.本と雑誌   950,000    96    10インチ

64    12インチ

64    15インチ

3.児童向図書   8,115    140    12及び

15インチ

4.テキスト    17,095    60   12インチ」

(訳文11頁2行ないし12頁22行)

b 「B.マテリアルフロー…

1.…AS/RSアイテムの要求が,図書館コンピュータシステム(LCS)になされたとき,オーダー要求入力手順が,6つのAS/RSワークステーションの1つで開始される。

2.ワークステーションのオペレータは,要求されたアイテムを,自動的に取り出された容器から取り出し,もし,要求されたアイテムがランダムに保管される場合には,ASRSへ返却するアイテムをインプットする。

不変ロケーションアイテムは,それらが不変に割り当てられた容器に返却されなければならない。

3.要求が入力されたときには,利用者名と識別番号,アイテムのバーコードナンバー…といった情報を含んだスリップが作られる。このスリップに印刷された情報を用いて,オペレータはETV配送車上のコンテナの中に,取り出されたアイテムを入れ,この配送車を図書館内の様々な届け先へ送り出す。

4.通常の要求と返却オペレーションに加えて,LCSとASRSとの間のアイテムの移送が可能である。…

5.ASRSアイテムが,サーキュレイションエリアで図書館へ返却されるとき,それらのアイテムは,AS/RSワークステーションへ返却するため,サイズのカテゴリーごとに(例えば,ランダム保管アイテム),及び通路ごとに(不変保管アイテム),手動で棚載用台車に事前に格納される。次に,アイテムは,要求が入力されたとき,またはキューに要求がない時点で,AS/RS保管容器に返却される。…

7.ASRSに保管されるアイテムは,(1)LCS上で記録され,追跡され,管理される「通常」保管アイテムと(2)ASRS上でのみ保管され,追跡される「非LCS」保管アイテムの2つの分類からなる。通常アイテムは,ランダム保管と専用保管の両方からなり,一方,非LCSアイテムは,専用の容器保管ロケーションのみが割り当てられる。」(訳文13頁4行ないし14頁20行)

c 「C.AS/RSアイテムの識別…

ASRSに保管される全てのアイテムは,各種レベルにおける識別手段として,下記を用いる。

1.簡潔図書目録記録

図書整理番号,著者,及びタイトルが,図書目録の識別用に用いられ,各々は,最大37文字の英数字文字列からなる。バーコードナンバーが第1次的なキーフィールドであり,図書整理番号,著者,及びタイトルは,単なる第2次的な識別手段である。…

b.バーコードナンバー

バーコードナンバーは,下記のように,14桁の番号のキーフィールドである。

30700 1014742 0(判決注:甲1の3には,これらの数字の意味について,次のとおり記載されている。

「3」 ラベルタイプ(アイテムについては,常に‘3’)

「0700」 図書館識別番号(CSUNについては,常に‘0700’)

「1014742」 連番

「0」 モジュラス10補完チェック桁)

1.このバーコードナンバーは,個々のアイテムを一意的に識別するため,LCSシステムによっても,ASRSシステムによっても両方に用いられる。このバーコードナンバーのラベルは,アイテムの内側カバー上に位置する。…

c.サイズ/通路コード

サイズコード,または通路コードが,各々のアイテムの上端にマークされる。ランダム保管アイテムは,サイズコード(例えば,A,B,またはC)を有し,一方,不変ロケーションアイテムは,通路コード…を有する。サイズ/通路コードは,保管のためAS/RSへ返却する前に,図書館マテリアルを手動で事前仕分けするために用いられる。

d.バーコードの最後の2桁

サイズコード,または通路コードに加えて,アイテムバーコードの最後の2桁が,各々のアイテムの上端にマークされる。これらの2桁は,ASRSオペレータが,マテリアルを容器から出すオーダーをするのを容易にするために提供される。」(訳文14頁下から3行ないし17頁6行)

d 「D.フルの容器とフルのセクターの定義…

2.最も低いレベルの保管の階層は,セクターである。次に高い保管の階層は,容器である。例えば,複数のセクターが容器を構成する。

3.セクターは「フル」,「フルではない」,または「空」の3つの状態のうち,1つの状態をとることができる。

4.オペレータが,例えば,キーボードを打って,セクターがフルであるとシステムに宣言したときは,ASRSは,このセクターが「フル」であると判断する。ランダムロケーション保管においては,オペレータによってセクターがフルであると宣言されるまで,ASRSは,返却アイテムを,「フルではない」状態のセクターへ割り当てるようにする。…

7.容器の全てのセクターがフルであるとき,ASRSは,容器が「フル」であると判断する。この定義によれば,「部分的にフル」の容器は,少なくとも1つの「フルでない」または「空」のセクターを有し,「空」の容器は,容器のセクターが全て空になっている。

8.ランダムロケーション保管においては,ASRSによって,以下の優先規則が用いられる。

a.「フルでない」セクターは,「空」のセクターよりも高い優先順位を有する。

b.同じ容器の中の全ての「フルでない」セクターは,同等の優先順位を有する。

c.「部分的にフル」の容器は,「空」の容器よりも,高い優先順位を有する。

d.「空」のセクターの数が少ない「部分的にフル」の容器は,「空」のセクターの数が多い「部分的にフル」の容器よりも,高い優先順位を有する。

e.「空」のセクターの数が同じである「部分的にフル」の容器は,同等の優先順位を有する。

9.要求されたアイテムがセクターから取り出されたときには,いつでも,要求されたアイテムが取り出される前は,「フル」と宣言されていたとしても,システムは,代わりのランダム保管アイテムを,このセクターへ入れることを許容する。」(訳文17頁7行ないし18頁19行)

(ウ) 「パート2 製品」の章のうち「2.03 ソフトウエアの仕様」(訳文18ないし30頁)の項目中には,次の記載がある。

a 「B.ソフトウエア…

1.本章では,AS/RSコントロールシステム(ASRS)のための機能仕様を記載する。ASRSは,専用のコンピュータシステムであって,…その機能は,6つのAS/RSワークステーションにおけるオペレーションコントロール:つまり,オーダーの書き込みを要求,アイテムの返却,アイテムの移送,在庫チェック,及びセキュリティである。このシステムは,図書館のコンピュータシステム(LCS)とインターフェイスを取るようになっている。」(訳文22頁下から10行ないし最終行)

b 「C.要求手順…

1.オンライン公共アクセスカタログ(OLPAC)を用いる利用者は,貸し出しのため,ASRSにロケーションがあるアイテムを要求することができる。全てのASRSアイテム要求は,ASRSターミナルを通して要求される非LCSアイテムを除いて,LCSを通して生じる。LCSは,借り手のIDナンバーを入力させて,利用者の要求を確認する。…確認プロセスが完了すると,アイテム要求のトランザクションが,インターフェイスを介して,ASRSへ送信される。

2.オーダー入力手順…

a.LCS要求に対するAS/RSの応答

何れかのAS/RSに関して,確認された利用者のアイテム要求トランザクションを,インターフェイスを介して受け取ると,直ちに,AS/RSは,要求されたアイテムを伴う容器の取り出しを自動的に開始する。…

3.要求された容器の配送…

a.通路端ワークステーション(EAWS)において,中に入った1以上の要求アイテムを伴って容器が配送される。…

4.要求アイテムの選択…

a.EAWSオペレータは,アイテムを識別するため,アイテムナンバーの最後の2桁(各アイテムの上端にマークされている)を用いて,アイテムを容器から取り出す。…

5.ランダム保管アイテムの交換…

a.もし,要求アイテムが,ランダムに保管される(ランダムに保管されるアイテムは,上端にサイズコード,例えば,A,B,またはC,がマークされる)場合には,ASRSは,通常,AS/RS要求を満たすためにアイテムが取り除かれたごとに,AS/RSへ返却されるアイテムのインプット(第2.03.D章)…を予期する。

b.オペレータが,代替アドレスをインプットしない限り,ちょうどアイテムを取り除いた容器とセクターのアドレスが,保管されるアイテムに自動的に割り当てられる。」(訳文23頁9行ないし27頁3行)

c 「D.マテリアル返却手順…

1.EAWSにおける返却アイテムのスキャニング…

a.AS/RSへの返却は,アイテムの光学的スキャニングで開始され,通常,アイテムを容器から取り除いた後に行われる。各EAWSでは,AS/RSの中へ積載されるのを待っているアイテムのグループが,棚載台車上に保管されている。

ランダムに保管されるアイテムは,サイズグループ(例えば,A,B,またはC)によって分類され,…サイズグループは,アイテムナンバーの最後の2桁と共に,アイテムの上端に記載される。

b.同様のスキャニングによって,インターフェイスを介する,LCSへのアイテム返却トランザクションの送信が開始される。…

3.ランダムロケーションの割り当て…

a.インターフェイスを介したアイテム返却トランザクションの送信の開始と共に,同じスキャニング(第2.03.D.1章)によって,現在,EAWSにいる容器に対して,正しいサイズグループのランダムに保管されるアイテムを,アイテムがちょうど取り出された容器セクターに自動的に割り当てることを開始する。その他の場合には,ロケーション割り当てアルゴリズムが,第2.02.D.章に記載された優先順位規則を用いる。…

c.オペレータがアイテムを挿入した後,ASRSは,オペレータに容器をその保管ロケーションへ返却するように促す。…

e.オペレータのオプションとして,容器が配送されたときに,アイテムを取り出さないで,アイテムをAS/RSへ返却することができる。この場合には,システムは,第2.02.D章(判決注:上記(イ)dを指す。)に記載された優先順位を用いて,収容スペースが利用可能な(フルでない)容器を取り出す。」(訳文28頁2行ないし29頁最終行)

イ 以上によれば,甲1の3には,本件審決が認定したとおりの技術的事項(本件審決50頁下から7行ないし52頁19行)が開示されていることが認められる。

(2)  甲4発明に甲1の3記載の事項を適用できるとした判断の誤りについて

原告は,甲4発明と甲1システムとは,基本的構成等を異にしており,両者を組み合わせることはできないから,甲4発明に甲1の3記載の事項を適用することによって相違点2に係る本件発明1の構成とすることを当業者が容易に想到し得るとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。

そこで,以下では,原告が甲4発明と甲1システムとの基本的構成等が異なる根拠として主張する事由ごとに,その主張の当否を検討することとする。

ア 原告は,甲4発明は,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されている点において,アイテムと容器の関係がフリーである甲1システムと基本的構成を異にする旨主張する。

しかし,甲4発明において,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているものといえないことは,前記2(2)アで述べたとおりであるから,原告の上記主張に理由がないことは明らかである。

イ また,原告は,甲4発明は,図書を収容したケースをピッキング装置19等の構成により書棚に収容するもので,図書館員の手元にコンテナが届かないのに対し,甲1システムは,図書館員が,その手元にある容器に図書を収容するものであり,両者の返却処理の技術思想は根本的に異なり,作用・機能も異なる旨主張する。

しかし,甲4の段落【0042】,【0043】及び【図10】の記載によれば,甲4には,原告が主張する,図書を収容したケースをピッキング装置19等により書棚に収容するもので,図書館員の手元にコンテナが届かない構成の実施例(段落【0012】ないし【0041】)のほか,コンテナ単位の入出庫管理システムに係る実施例,すなわち,【図10】に示されたとおり,書棚とステーションとの間において,スタッカークレーン,出庫用及び入庫用ラックステーション,搬送コンベア並びに垂直搬送機によって,コンテナ単位で図書の入出庫を行う構成の実施例が開示されている。そして,本件審決は,前記第2の3(2)アのとおり,当該実施例に基づき,「貸し出しが要求された図書33のコードを入力することにより,前記ハードディスク47の記憶内容に基づいて,該要求図書33がケース13とともに収容されているコンテナ12を前記書庫から取り出してステーション(例えば,図10の26,30,31)にスタッカークレーン75,搬送コンベア77,搬送コンベア80,搬送コンベア82により搬送するとともに,返却が要求された際に複数の前記コンテナの中から所望のコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送」する構成のものを甲4発明として認定したものである(なお,原告は,本件審決によるこのような甲4発明の認定自体に誤りがあることを取消事由として主張するものではない。)。

以上のような甲4発明の認定を前提とすれば,甲4発明は,図書館員の手元にコンテナが届かないものではないから,原告の前記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。

ウ さらに,原告は,甲4発明は,ケースの存在が不可欠なものであり,この点において甲1システムとは本質的に構成が相違している旨主張する。

この点,甲4の段落【0002】及び【0003】の記載によれば,甲4の図書入出庫管理装置において,図書をケースに収容することとされるのは,図書は,その寸法や形状が様々であるため,このままでは書庫に対する入出庫動作を自動化することができなかったところ,1冊単位で規格化された大きさのケースに収容することにより,図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際に,ハンドリングやロケーションの管理が容易になり,個別にて搬送する際にも図書を保護することができるからであるとされている。

他方,本件審決が認定した甲4発明は,前記イのとおり,書棚とステーションとの間において,スタッカークレーン,出庫用及び入庫用ラックステーション,搬送コンベア並びに垂直搬送機によって,コンテナ単位で図書の入出庫を行う構成のものであるところ,このような構成においては,図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却するものではなく,図書の個別搬送を行うものでもないから,甲4において図書をケースに収容することとされる理由がそのまま当てはまるものではなく,甲4発明について,ケースの存在が不可欠であるとはいえないというべきである。

したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。

エ 以上のとおり,甲4発明と甲1システムとが基本的構成等を異にする旨の原告の主張はいずれも理由がなく,したがって,これを根拠として,甲4発明に甲1の3記載の事項を適用できるとした本件審決の判断に誤りがあるとする原告の主張は,採用できない。

(3)  甲4発明に甲1の3記載の事項を適用することによって相違点2に係る本件発明1の構成とすることができるとした判断の誤りについて

原告は,甲1システムにおいて,図書の返却時にスキャンされるバーコードナンバーには図書の寸法情報が含まれておらず,他方,図書のサイズに関するコードは,図書の上端に付され,返却作業に先立ち,図書館員が図書を手作業でソートする際に参照されるにすぎないことから,甲1システムは,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」すものではなく,甲4発明に甲1システムを適用しても,相違点2に係る本件発明1の構成とすることはできない旨主張する。

そこで,前記(1)のとおりの甲1の3の記載を前提として,甲1システムが,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」す処理を行うものといえるか否かについて検討する。

ア 前記(1)のとおりの甲1の3の記載によれば,甲1システムにおいて保管される図書等のアイテムには,取出し・返却によっても保管先の容器が変わらない不変ロケーションアイテムと,取出し・返却の都度,ランダムに保管先の容器が割り当てられるランダム保管アイテムが存在するところ,ランダム保管アイテムについての返却手順(前記(1)ア(ウ)c)においては,AS/RSへの返却は,アイテムの光学的スキャニングで開始され,通常,アイテムを容器から取り除いた後に行われるものとされる(前記(1)ア(ウ)cのD.1.a)。すなわち,返却するアイテムのバーコードをスキャニングすると,その時点でEAWS(通路端ワークステーション)に存在し,アイテムがちょうど取り出された容器セクターに,当該返却アイテムのロケーションが自動的に割り当てられることなる(前記(1)ア(ウ)cのD.3.a)。

そして,このような返却手順においては,アイテムの取出しのためにEAWSに配送され,ちょうどアイテムが取り出された容器に返却アイテムが返却されているのであるから,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」す処理が行われるものでないことは明らかといえる。

イ 他方,甲1システムにおける返却手順には,オペレータのオプションとして,上記とは異なる返却手順も存在する。そして,この手順では,アイテムの取出しのためにEAWSに配送された容器の存在は前提とされず,第2.02.D章に記載された優先順位規則(容器を,全てのセクターがフルである「フル」,少なくとも1つのフルでないセクターを有する「部分的にフル」,全てのセクターが空である「空」に分け,これらに一定の優先順位を付けたもの)を用いて,収容スペースが利用可能な(フルでない)容器を取り出すものとされている(前記(1)ア(ウ)cのD.3.e)。

しかるところ,甲1システムにおいては,上記容器として,24インチ幅×48インチ長の底面のサイズを共通にするが,高さが異なる(6.0ないし18.0インチ)5種類のサイズのものが用いられ(前記(1)ア(イ)a),アイテムをサイズ別に分類し,そのサイズに対応したサイズの容器に収容して保管するものとされている。そうすると,上記オプションに係る返却手順において,返却アイテムを収容するのに適切な容器を取り出すに当たっては,収容スペースが利用可能な容器を取り出すことのみならず,当該返却アイテムのサイズに対応したサイズの容器を取り出すことが必要であることは明らかである。そして,そのためには,オペレータが上記オプションに係る返却手順を行うに当たり,当該返却アイテムのサイズ情報が入力されるようにし,その情報に基づいて適切なサイズの容器を取り出すようにすることが自然な方法というべきところ,甲1システムにおいては,ランダム保管アイテムに,例えばA,B,Cといったサイズコードが付され,返却前の手動での事前仕分けに用いられていること(前記(1)ア(イ)cのC.1.c)からすれば,このサイズコードに応じた情報の入力により,当該サイズに対応したサイズの容器を取り出す処理が行われているものと理解するのが合理的というべきである。

ウ この点,確かに,原告主張のとおり,甲1の3においては,上記サイズコードの使用について,アイテムの上端に付されたサイズコードが返却前の手動での事前仕分けに用いられることが記載されるのみであり,容器の取出しのために用いられることについて,具体的に説明する記載はない。しかし,上記イで述べたとおり,甲1システムが,複数のサイズの容器を用い,アイテムをそのサイズに対応したサイズの容器に収容して保管するものであり,上記オプションに係る返却手順における適切な容器の取出しにはアイテムのサイズ情報の使用が必要と認められる以上,甲1システムにおいては,サイズコードを入力する具体的態様は明らかではないものの,その入力によって容器の取出しの制御が行われていること自体は否定し難いし,このことは当業者にとっても十分に理解可能というべきである。

なお,特開平3-264396号公報(甲13)及び実願昭63-150289号(実開平2-72225号)のマイクロフィルム(甲14)によれば,図書管理システムにおいて,アイテムのサイズ情報を特定する方法としては,システム内に図書コード単位で図書管理データを持たせ,これを参照して当該図書に関するデータを特定する方法(甲13)やサイズ情報に対応する情報を直接入力する方法(甲14)が,本件出願前から知られていたから,当業者であれば,甲1システムにおいても,これらの方法を適宜選択して,アイテムのサイズ情報を特定・入力していることも当然に理解し得るものといえる。

エ 以上によれば,甲1システムは,返却アイテムのサイズコードに応じた情報を入力することにより,当該サイズに対応したサイズの容器を取り出す処理を行うものであり,また,その際,所定の優先順位規則を用いて,収容スペースが利用可能な容器を取り出す処理を行うものであるから,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」す処理を行うものといえる。

したがって,原告の前記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。

(4)  小括

以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。

4 取消事由3(相違点3についての容易想到性判断の誤り)について

原告は,本件審決が,甲4発明並びに甲5積層棚及び周知技術2に基づき,相違点3に係る本件発明1の構成を得ることは当業者が容易になし得たことであるとした点について,収容効率と出納効率がトレードオフの関係にある自動化書庫に係る甲4発明において,収容効率を向上させるために,明らかに出納効率を低下させる甲5積層棚の構成を適用することには阻害要因があるから,審決の判断は誤りである旨主張する。

他方,被告は,本件審決の上記判断は,確定した本件第1次判決の拘束力に従ったものであるから,取り消されるべき違法はない旨主張するので,以下検討する。

(1)  本件第1次審決(甲41)は,第1次訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「第1次訂正発明1」という。)について,甲4発明と甲1の3に記載された発明,甲5に記載された発明及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえないとして,特許法29条2項違反の無効理由の存在を否定した。

その際,本件第1次審決は,第1次訂正発明1と甲4発明の一致点として,本件審決が認定した本件発明1と甲4発明の一致点と同様のもの(前記第2の3(2)イ(ア))を認定し,また,相違点1ないし3として,本件審決が認定した本件発明1と甲4発明の相違点1ないし3とほぼ同様のもの(前記第2の3(2)イ(イ)。相違点3に係る本件発明1又は第1次訂正発明1の構成において,書庫の複数の棚領域に,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に収容されるコンテナの数について,本件審決では「2個」と特定されているのに対し,本件第1次審決では「複数」とされている点のみが異なる。)を認定した上で,相違点1及び3に係る第1次訂正発明1の構成について,いずれも当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない旨判断した。

(2)  これに対し,本件第1次判決(甲48)は,上記相違点1及び3に係る第1次訂正発明1の構成は,いずれも当業者が容易に想到し得たものであると判断し,この点についての判断の誤りを理由として,本件第1次審決を取り消したものであるが,上記相違点3に係る容易想到性については,次のとおり判示している。

「物品等を載置するパレットなどの容器を取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の容器が収容されている場合の容器の取り出し方として,容器を取り出す間口に対して,間口を塞いでいる手前側の容器を取り出してから奥側の容器を取り出すことは,甲第5号証に記載され,審決でも認定しているように,倉庫の分野では慣用的に行われている従来周知の技術的事項である。そして,甲4発明と甲5発明とは,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通するから,この周知の技術的事項を甲4発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである。」,「被告は,甲4発明は,「貸し出し及び返却時の作業を容易化する」こと,すなわち,出納効率の向上という技術的課題を克服するためになされた発明であるから,出納効率を低下させる甲5発明を適用することは阻害要因があると主張する。しかし,甲4発明と甲5発明は,上記のとおり,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通しており,その主たる相違は,収容物が図書であるか一般的な荷物であるかの点にあるといえるところ,出納効率を向上させることとともに,収容効率を向上させることは,書棚や倉庫の分野において周知の課題である…。したがって,甲4発明において,収容効率を向上させるために,甲5発明を適用することは,当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。よって,被告の主張は採用することができない。」(44頁)

(3)  しかるところ,本件第1次判決における上記相違点3に係る容易想到性の判断は,本件第1次審決を取り消すものとした判決主文が導き出されるのに必要な事実認定又は法律判断にわたるものであるから,取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により,本件審決を行う審判官は,上記判断に抵触する判断をすることは許されないものというべきである。

なお,本件第1次判決は,本件第1次訂正後の第1次訂正発明1を前提としたものであるのに対し,本件審決は,本件訂正後の本件発明1を前提としたものであるところ,本件訂正によって第1次訂正発明1から変更された構成は,前記第2の2記載の請求項1のうち,二重下線が付された部分(すなわち,①書庫の複数の棚領域に,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して奥行き方向に収容されるコンテナの数について,「複数」とされていたのを「2個」と特定する点,及び②「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」との構成を付加した点)のみであり,本件第1次判決における上記相違点3に係る容易想到性の判断は,これらの訂正によって影響を受けるものではないというべきであるから,当該判断の拘束力は,本件審決の判断にも及ぶものと考えられる。

(4)  これに対し,原告は,本件第1次判決の前提とした事項に変更があるなどの特段の事情がある場合には,当該判決の拘束力は生じないとした上で,本件第1次判決は,相違点2につき甲4発明の認定を本質的に誤っており,そのため,相違点3に係る容易想到性判断の前提に誤りがあったものであるから,本件第1次判決の相違点3に係る判断については,上記特段の事情があり,拘束力は生じない旨主張する。

しかしながら,原告の上記主張は,結局のところ,確定した本件第1次判決の判断内容に誤りがあることを根拠として,当該判決に拘束力が生じない旨を主張するものであり,取消判決に拘束力が認められる趣旨に照らし,失当というべきである。

また,原告が上記主張の前提とする本件第1次判決における相違点2についての甲4発明の認定の本質的な誤りとは,甲4発明においてケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されたものであることを看過していることを指すものと考えられるところ,このような事実が認められないことは,前記2(2)アにおいて述べたとおりである。

したがって,原告の上記主張に理由がないことは明らかである。

(5)  以上によれば,甲4発明と甲5積層棚及び周知技術2に基づき,相違点3に係る本件発明1の構成を得ることは当業者が容易になし得たことであるとした本件審決の判断は,本件第1次判決の拘束力に従い,その判断に沿った判断をしたものであるから,当該判断に取り消すべき違法がないことは明らかである。

したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。

5 取消事由4(相違点4についての容易想到性判断の誤り)について

原告は,相違点4に係る本件発明1の構成(前記奥行方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する構成)は,甲4発明,甲1システム,甲5積層棚並びに周知技術1及び2に基づいて容易に想到し得るものとした本件審決の判断には誤りがあるとし,その根拠として,①甲4に示されているのは,図書館員のカウンターステーションにおける図書の返却作業の容易化に係る課題にすぎないから,甲4からは,図書が返却されたコンテナの書棚への返却効率の向上に係る課題を着想し得ないこと,②本件審決には,相違点4に係る本件発明1の構成を示す文献等が何ら提示されていないこと,③甲4発明においては,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されており,そもそもケースの収容先として「いかなるコンテナを優先するか」という発想が生じないから,甲4発明において相違点4に係る本件発明1の構成を採用することには阻害要因があることを主張するので,以下検討する。

(1)  原告は,甲4に示された課題の内容に照らせば,甲4からは,図書が返却されたコンテナの書棚への返却効率の向上に係る課題を着想し得ない旨主張する。

この点,確かに,甲4には,従来の図書の入出庫管理システムでは,図書とケースとが固定した対応関係にあったため,図書の返却時に当該図書に対応したケースを探し出さねばならず,作業の効率が悪くなるという問題等があったことに鑑み,図書とケースとの対応関係を固定的なものとせず,ケースに付された識別情報と図書に付された識別情報との組み合わせで新たな図書情報を生成して入出庫管理を行なうようにすることにより,入庫すべき図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することができるものとした発明であることが記載されており(段落【0006】ないし【0011】),これからすると,甲4において解決しようとする直接の課題が,図書館員のカウンターステーションにおける図書の返却作業の容易化に係るものであることは,原告主張のとおりといえる。しかしながら,書棚や倉庫の分野において,出納効率と収容効率の双方を向上させることが周知の課題であることは,本件第1次判決が判示するとおりであり(前記4(2)),また,甲4にも,図書の貸出し及び返却時における書棚からのコンテナの取出し及び返却を,統括制御盤の制御に基づき,スタッカークレーン等を用いて自動的に行うシステムが記載されていること(段落【0013】,【0017】,【0028】,【0034】,【0035】,【0037】,【0039】,【0040】,【0042】,【0043】)からすれば,甲4においても,図書が返却されたコンテナの書棚への返却効率の向上に係る課題は内在するものというべきである。

そして,甲4発明に甲5積層棚及び周知技術2を適用することにより,相違点3に係る本件発明1の構成(書庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている構成)とすることが当業者において容易に想到し得たことは,本件第1次判決が判示するとおりであるところ(前記4(2)),このような構成を前提とすれば,書庫の棚領域に,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に1個のコンテナのみを収容する構成に比べ,奥側のコンテナを使用しこれを取り出す際に,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出すという手順が付加されることになって,出納効率が低下することは自明であるから,当業者であれば,上記構成を採用するに当たり,出納効率と収容効率の双方を向上させるという書棚や倉庫の分野における周知の課題及び甲4に内在する上記課題を踏まえ,上記構成から生じる出納効率の低下をできるだけ軽減させようとすることは,当然の発意ということができる。

さらに,上記のような発意に基づき,相違点3に係る本件発明1の構成の下で,そこから生じる出納効率の低下をできるだけ軽減させようとするのであれば,手前側のコンテナと奥側のコンテナの双方に空きがある場合に,取出しの手順がより簡易な手前側のコンテナを優先的に取り出すようにすること,すなわち相違点4に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が通常行い得ることであって,必ずしもこのような構成を示す技術文献等の記載によらなくとも認定し得る技術常識であるということができる。

したがって,上記①及び②の点を根拠として,本件審決の判断に誤りがあるとする原告の主張は理由がない。

(2)  また,甲4発明において,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されていると認められないことは,前記2(2)アにおいて述べたとおりであるから,このことを前提とする上記③に係る原告の主張に理由がないことは明らかである。

(3)  以上によれば,原告主張の取消事由4は理由がない。

6 取消事由5(本件発明の効果に顕著性を認めなかった判断の誤り)について

原告は,本件発明1は,図書保管管理装置において,サイズ別配架及び手前側・奥側コンテナ配置によって収容効率を向上させつつ,フリーロケーション方式を採用し,かつ,手前側コンテナを優先的に使用することにより出納効率をも向上させたものであり,トレードオフの関係にある「収容効率」と「出納効率」という2つの課題を両立して解決したところに効果顕著性があることは明らかであるから,これを認めなかった審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら,まず,原告が上記で主張する本件発明1の構成のうち,図書保管管理装置において,サイズ別配架及びフリーロケーション方式を採用することは,本件訂正明細書の従来技術として示されている(本件訂正明細書(甲57)の段落【0009】ないし【0012】)ほか,前記3(1)のとおり,甲1の3にも記載されているところであり,本願出願前の公知技術であったものと認められる。

したがって,原告が上記で主張する本件発明1の構成のうち,発明としての特徴的部分といえる構成は,①手前側・奥側に2個のコンテナを配置する構成及び②手前側コンテナを優先的に使用する構成というべきところ,このうち,①の構成は,これによって,1個のコンテナを配置する従来の構成に比して図書の収容スペースが増え,収容効率を向上させるものであることは明らかである。しかし,①の構成を採用した場合,奥側のコンテナを使用することにより,これを取り出す際には,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出すという手順が付加されることになるから,そのぶん出納効率が低下することは避けられないことといえる。そして,このような出納効率の低下は,②の構成を採用することによっても解消されるものではなく,②の構成は,奥側のコンテナが使用される頻度をできるだけ少なくすることにより,上記出納効率の低下の程度を軽減させるというものにすぎない。

以上によれば,本件発明1は,図書保管管理装置において,上記の構成を採用することにより,トレードオフの関係にある「収容効率」と「出納効率」という2つの課題を両立して抜本的に解決するというものではなく,①の構成によって収容効率の向上を図る一方で,その結果生じる出納効率の低下という弊害について,②の構成を採用することによって軽減を図るものにすぎないというべきであり,このような本件発明1の効果は,当業者の予測の範囲を超えるものではなく,顕著なものということはできない。

したがって,原告主張の取消事由5は理由がない。

7 結論

以上の次第であるから,本件発明1についての本件審決の判断に誤りがあるとして原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。

また,原告は,本件発明1の従属項に係る発明である本件発明2及び3についての本件審決の判断についても,本件発明1の場合と同様の理由により誤りがある旨主張するが,当該主張にも同様に理由がないこととなる。

したがって,本件審決に取り消すべき違法は認められず,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 大西勝滋 裁判官 杉浦正樹)

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