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知財高等裁判所 平成26年(行ケ)10181号 判決 2015年3月19日

原告

沖マイクロ技研株式会社

訴訟代理人弁護士

永島孝明

安國忠彦

朝吹英太

安友雄一郎

訴訟代理人弁理士

久米川正光

若山俊輔

被告

パナソニック株式会社

訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

川端さとみ

森本純

山崎道雄

中原明子

訴訟代理人弁理士

阿部伸一

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2013-800177号事件について平成26年6月30日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯等

(1)  被告は,平成11年12月28日,発明の名称を「遮断弁」とする特許出願(特願平11-373873。以下「本件出願」という。)をし,平成22年7月16日,設定の登録(特許第4547751号)を受けた(請求項数4。甲28。以下,この特許を「本件特許」という。)。

(2)  原告は,平成25年9月18日,本件特許の全てである請求項1ないし4に係る発明についての特許無効審判を請求した(甲29)。

(3)  特許庁は,上記審判請求を無効2013-800177号事件として審理を行い,平成26年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月10日,原告に送達された。

(4)  原告は,平成26年7月24日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2  特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。以下,請求項1ないし4に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」といい,併せて「本件発明」という。また,本件発明に係る明細書(甲28)を「本件明細書」という。

【請求項1】

励磁コイルを有するステータと,前記ステータの内側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁と,流体室に取り付け可能で前記隔壁の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記隔壁の円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記隔壁の内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,

前記隔壁は,開放端につばを有し,前記つばを前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した遮断弁。

【請求項2】

前記隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段と,前記隔壁の開放端に嵌挿され中心に軸受を配設した合成樹脂製のふたを有し,前記ふたの外周部を前記つばと前記取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した請求項1記載の遮断弁。

【請求項3】

前記付勢手段は前記隔壁と前記ステータの軸方向の相対位置を規制するように形成され,前記隔壁の開放端と前記取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部に,変形することによって前記ふたの前記取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成した請求項2記載の遮断弁。

【請求項4】

前記ステータと前記シール部材との間に配設され,前記シール部材が前記取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを有する請求項1~3のいずれか1項に記載の遮断弁。

3  本件審決の理由の要旨

(1)  本件審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,①本件発明は,本件出願前に頒布された,下記アの甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と,下記イ~オの甲2~5に記載された発明(以下「甲2発明」ないし「甲5発明」という。)又は周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,特許法29条2項(同法123条1項2号)に係る無効理由を有しない,②本件発明1は,甲1発明と相違し,新規性を有しないとはいえないから,特許法29条1項3号(同法123条1項2号)に係る無効理由を有しない,というものである。

ア 甲1:特開平5-71655号公報

イ 甲2:特開平11-2352号公報

ウ 甲3:特開平11-2351号公報

エ 甲4:特開平11-2353号公報

オ 甲5:特開平10-38126号公報

(2)  本件審決が認定した甲1発明は,次のとおりである。

ア 電磁コイル36とコイルボビン35を配置するロータ回転手段34と,前記ロータ回転手段34のステータヨーク37と接するように嵌装された黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38と,流通路に取り付けられた前記薄板パイプ38の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状の段差部を形成された剛体性の取付板23と,前記薄板パイプ38の円筒部外周と前記取付板23の段差部内周との間に円周方向に圧縮されて嵌装された弾性体製のシール材としてのOリング39と,前記薄板パイプ38の内側に前記ロータ回転手段34に対向して配設されたロータ29と,前記ロータ29と一体の回転軸28に配設された弁体移動手段25と弁体22とで構成され,

前記薄板パイプ38は,両端部38aを有し,前記端部38aを前記Oリング39と共に前記取付板23の段差部に挿入して構成したモータ駆動双方向弁装置。(以下「甲1発明1」という。)

イ 電磁コイル36とコイルボビン35を配置するロータ回転手段34と,前記ロータ回転手段34のステータヨーク37と接するように嵌装された黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38と,流通路に取り付けられた前記薄板パイプ38の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状の段差部を形成された剛体性の取付板23と,前記薄板パイプ38の円筒部外周と前記取付板23の段差部内周との間に円周方向に圧縮されて嵌装された弾性体製のシール材としてのOリング39と,前記薄板パイプ38の内側に前記ロータ回転手段34に対向して配設されたロータ29と,前記ロータ29と一体の回転軸28に配設された弁体移動手段25と弁体22とで構成され,

前記薄板パイプ38は,両端部38aを有し,前記端部38aを前記Oリング39と共に前記取付板23の段差部に挿入して構成したモータ駆動双方向弁装置であって,

前記薄板パイプ38の端部38aに嵌装され中心に軸受31を配設した軸受保持盤32を有する,モータ駆動双方向弁装置。(以下「甲1発明2」という。)

(3)  本件審決が認定した本件発明1と甲1発明1との一致点,相違点は次のとおりである。

ア 一致点

励磁コイルを有するステータと,前記「ステータの内側に同軸に配設されたもの」と,流体室に取り付け可能で前記「ステータの内側に同軸に配設されたもの」の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記「ステータの内側に同軸に配設されたもの」の円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記「ステータの内側に同軸に配設されたもの」の内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,

前記「ステータの内側に同軸に配設されたもの」は,開放端を有し,前記開放端を前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した遮断弁。

イ 相違点

(ア) 相違点1

「ステータの内側に同軸に配設されたもの」に関し,本件発明1では,「貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁」であるのに対し,甲1発明1では,「黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38」である点。

(イ) 相違点2

「「ステータの内側に同軸に配設されたもの」は,開放端を有し,前記開放端をシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して」いる点に関し,本件発明1では,「隔壁は,開放端につばを有し,つばをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して」いるのに対し,甲1発明1では,「薄板パイプ38は,両端部38aを有し,端部38aをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して」いる点。

(4)  本件審決が認定した本件発明2と甲1発明2との一致点,相違点は次のとおりである。

ア 一致点

励磁コイルを有するステータと,前記ステータの内側に同軸に配設されたものと,流体室に取り付け可能で前記ステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記ステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記ステータの内側に同軸に配設されたものの内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,

前記ステータの内側に同軸に配設されたものは,開放端を有し,前記開放端を前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した遮断弁であって,

前記隔壁の開放端に嵌挿され中心に軸受を配設したふたを有する遮断弁。

イ 相違点

前記(3)イの相違点1及び2に加えて,以下の点で相違する。

相違点3

本件発明2では,「隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段と,合成樹脂製のふたを有し,前記ふたの外周部をつばと取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した」のに対し,甲1発明2では,「ふた(保持盤)」を有するものの,その他について特定されていない点。

(5)  本件審決が認定した本件発明3と甲1発明2との一致点,相違点は次のとおりである。

ア 一致点

前記(4)アの本件発明2と甲1発明2との一致点と同じ。

イ 相違点

前記(3)イ及び(4)イの相違点1~3に加えて,以下の点で相違する。

相違点4

本件発明3では,「付勢手段は隔壁とステータの軸方向の相対位置を規制するように形成され,前記隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部に,変形することによって前記ふたの前記取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成した」のに対し,甲1発明2では,そのように特定されていない点。

(6)  本件審決が認定した本件発明4と甲1発明1との一致点,相違点は次のとおりである。

ア 一致点

前記(3)アの本件発明1と甲1発明1との一致点と同じ。

イ 相違点

前記(3)イの相違点1及び2に加えて,以下の点で相違する。

相違点5

本件発明4では,「ステータとシール部材との間に配設され,前記シール部材が取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを有する」のに対し,甲1発明1では,そのように特定されていない点。

4  取消事由

(1)  本件発明1の容易想到性の認定判断の誤り(取消事由1)

(2)  本件発明2の容易想到性の認定判断の誤り(取消事由2)

(3)  本件発明3の容易想到性の認定判断の誤り(取消事由3)

(4)  本件発明4の容易想到性の認定判断の誤り(取消事由4)

第3当事者の主張

1  取消事由1(本件発明1の容易想到性の認定判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 相違点1及び2の一体性の認定判断の誤り

本件審決は,本件発明1と甲1発明1との相違点として,相違点1及び2を個別に認定しながら,単純に端部に補強機能としての周知の外向きフランジを設けるとすると,両方の端部に設けることになり,シール材を配設する際,フランジの外径以上にシール材の径を広げる必要が生じ望ましくないのに対し,なべ状の隔壁であれば,一方の端部である開放端に外向きフランジを設けて両端部の強度を確保してもシール材配設・強度確保に支障がないことを踏まえると,本件発明1において,①なべ状の隔壁であること,②その開放端につばがあること,③隔壁の円筒部弾性体製のシール部材を配設することとは,技術的に密接な関連があるものと理解すべきであるから,相違点1及び2は併せて検討すべきである旨判断した。

ア しかし,甲1発明1の薄板パイプ38は,ステータ内への挿入・配設を前提とした挿入型円筒体であるから,本件審決がシール材配設に支障があるとする円筒体の両端に外向きフランジを設ける構成は本来的に想定し得えず,その構造上,挿入側の端部がストレート形状でなければならないという特有の制約を必然的に伴うのであって,単純に周知の外向きフランジを設けるとしても,その位置は挿入側とは反対の端部に自ずと限定される。

したがって,挿入型円筒体においては,挿入側の端部は,それが開口しているか,なべ状に塞がれているかを問わず,必ずストレート形状にすべきことから,本件審決が指摘するシール材配設に関する問題はそもそも生じないのであって,周知の外向きフランジやなべ状の隔壁を用いることと,隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設することとは何ら関係がない。

そうすると,本件審決は,上記の挿入型円筒体に特有の制約を何ら考慮することなく,単に強度の確保という観点のみに着目して,両端フランジの構成を導き出した点で誤謬がある上,シール材配設の点を考慮しても,本件審決が着目する上記①~③の構成について,それぞれが密接な技術的関連性があると解すべき理由はない。

被告は,この点について,挿入時に,挿入側の端部がストレート形状である必要があるとしても,パイプ両端の強度確保のためにフランジが必要であれば,挿入後にストレート形状を拡管してフランジを形成することも技術的に可能である旨主張する。しかし,ガス遮断弁の実製品においては,薄板パイプに相当する部材として,ステンレス等を主体とした剛性の高い金属部材が汎用的に使用されていることは公知であり,また,ストレート形状の薄板パイプに金属加工を施して外向きフランジを形成する場合,フランジが全周に亘って正確に屈曲していること,フランジの突出高が全周に亘って均一であること,金属加工の際に薄板パイプの真円が変形しないことなどが工業製品の品質として当然に要求されるのであって,このような品質上の要求を満たすためには,治具を用いることが必要不可欠であるところ,薄板パイプをステータ内に挿入した場合,薄板パイプの外周近傍に配置されたステータが障害になって,薄板パイプの周りに治具を配置することができない。そうすると,挿入後にストレート形状を拡管してフランジを形成するなどということは,金属加工に関する技術常識を無視した机上の空論にすぎない。

さらに被告は,挿入側と反対の端部にのみフランジを設けた構成では,パイプの挿入側の端部にフランジがないため,変形しやすく組立性の悪いパイプ開放端が残るとともに,Oリングの挿入時に,薄板パイプのフランジのない側の開放端のエッジでOリングを傷つける危険性があるから,本件発明の作用効果を奏することができない旨主張する。しかし,上記のとおり,ガス遮断弁の実製品においては,薄板パイプに相当する隔壁として,ステンレス等を主体とした剛性の高い金属部材が汎用的に使用されているため,ガス遮断弁であるからとの理由で,隔壁の変形やそれに起因した組立性が殊更問題になるわけではない。また,ガス遮断弁用途の隔壁の軸方向の寸法は短いので,一方の端部のみにフランジを設けるだけでも,全体的な強度は十分に確保することができる。さらに,隔壁も工業製品である以上,これを取り扱う際の負傷の防止のために,エッジのバリ取りが当然行われるから,フランジのない側の開放端のエッジでOリングを傷つける危険性は生じ得ない。したがって,被告の上記主張は理由がない。

イ むしろ本件審決の着目する前記①~③の構成は,以下のとおり,互いに技術的関連が希薄であり,単なる独立した構成の寄せ集めにすぎない。

まず,隔壁(円筒体)の後端側の形状を「なべ状」とすることと,前端側の形状を「つば」を設ける構造とすることとは,対象となる部位が異なるばかりか,技術的にも無関係であって,両者はそれぞれ独立して任意に採用し得る構造である。また,後端側を「なべ状」にすることと,前端側を「つば」を設ける構造にすることとは,隔壁の内部を気密にして外部へのガス漏洩を防止する点で目的が共通するとしても,両者が相俟ってかかる目的を達成するものではなく,単に同一の目的のために設けられた別個の構成にすぎず,両者が一体不可分の構成というものでもない。

さらに,前端側に「つば」を設ける構造にすることのみに着目しても,「つば」及び「シール部材」を一体で捉えるべき理由はない。そもそも「シール部材」を円筒体に配設し,これを円周方向(判決注:径方向と同じ。以下,証拠を引用する記載を除き,「円周方向」の用語を用いる。)に圧縮することは,甲1発明1の特徴であって,前記①~③の各構成には相互に密接な技術的関連性がない以上,「シール部材」に関する前記③の構成は,本件発明1と甲1発明1との一致点にすぎず,動機付けの有無を含め相違点の判断で考慮すべき事項ではない。また,なべ状の隔壁の開放端に「つば」を有することは,甲7~9から明らかなように周知技術にすぎない。加えて,つばをシール部材と共に取り付けて板段差部に挿入すること(相違点2)は,甲1発明1に上記周知技術を適用した結果として必然的に得られる構成にすぎない。

また,シール部材を「円周方向」に圧縮する場合,経年劣化を抑制すべく,「円周方向」の圧縮によって生じる軸方向の弾性変形(膨張)を許容する必要がある。ところが,軸方向に配置された「つば」をシール部材に密着させてしまうと,軸方向の弾性変形が規制され,シール部材が過度に圧縮された状態になるので,経年劣化が促進されてしまう。そのため,軸方向上の「つば」は,シール部材が軸方向に弾性変形しても,シール部材と密着しない程度に離して配置するのが通常である。そうすると,「円周方向」のシール圧縮と,「つば」とを一体で捉えるべき理由はなく,むしろ隔壁の開放端の強度を高めることがフランジの本来的な用途にすぎないこと及び軸方向に配置された「つば」は「円周方向」のシールに関与しないことに照らせば,気密性につき高度の信頼性を確保する点で共通するとしても,両者は分離して捉えるべきものである。

以上のとおり,前記①~③の構成は,互いに技術的関連が希薄であり,単なる独立した構成の寄せ集めにすぎない。それゆえ,後端側の形状については相違点1,前端側の構造については相違点2として,それぞれを別個の相違点として個別に判断すべきである。しかるに,本件審決は,前記①~③の構成に密接な技術的関連性があるとしている点で,判断の前提において誤りがあり,かかる誤りに基づいて相違点1及び2を併せて検討し,容易想到性を否定しているから,取消しを免れない。

(2) 各甲号証に基づく容易想到性の判断の誤り

ア 甲2~4の記載内容について

(ア) 本件審決は,相違点1及び2を併せて検討すべきとの立場から,前記①以外の前記②及び③の構成をも併せて斟酌し,「つば」については,甲2~4の「鍔付きカップ状のケーシング6」が有する「鍔」は,いずれも段付フランジ2と平板フランジ7とでシールドリング8と共に固定するために必要なものであるのに対し,甲1発明1において取付板23,33をステータヨーク37に螺着することによって,薄板パイプ38を一体に固定しており,薄板パイプ38の固定にはつばを必要としないから,その端部38aに甲2~4にあるような固定するためのつばを設ける動機がないこと,さらに,甲2~甲4において,ケーシング6をシールするシールドリング8は弾性体製のシール部材を隔壁の円筒部に配設したものではなく,したがって,有底円筒部材の開口端部に鍔を設け円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有するものではないとして,甲1発明1からは,甲2~4記載事項を考慮しても,本件発明1を当業者が容易に想到し得たとはいえないと判断した。

(イ) しかし,本件審決の認定判断は,相違点1及び2を併せて検討すべきとする誤った理解に基づくものであって,「なべ状」の隔壁を開示する甲2~4を検討するに当たっては,「なべ状」の隔壁のみに着目すべきである。

そもそも甲2には,甲1に記載された遮断弁が従来技術として挙げられ(甲2の段落【0003】~【0005】),その問題を解決するために,甲1の薄板パイプ38を「カップ状のケーシング6」に変更するものであるから(甲2の段落【0006】~【0008】),甲1発明1について,後端をなべ状に変更することが否定される理由はなく,相違点1に係る構成は,甲2~4の記載事項から当業者が容易に想到し得るものである。

すなわち,本件発明1は,「前記隔壁の円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に『円周方向』に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材」を発明特定事項とするものであるが,シール部材の圧縮方向が「円周方向」であることについて,甲1発明1との間に差異はない。当該構成は,あくまで本件発明1と甲1発明1との一致点にすぎず,動機付けの有無を含め相違点の判断で考慮すべき事項ではない。次に,甲2には,「前記ステータ(4)の内側に同軸に配設され貫通孔のないカップ状のケーシング(6)」が開示されている。また,甲1発明1及び甲2は,モータ駆動双方向弁である点で技術分野が共通し,モータ駆動双方向弁の基本構成も共通し,さらに甲1発明1の「薄板パイプ38」及び甲2の「カップ状のケーシング6」の作用・機能も共通する。したがって,甲1発明1及び甲2の記載事項を組み合わせることには動機付けがある。そして,甲1発明1において,「薄板パイプ38」の作用・機能は,内部を気密にして外部へのガス漏洩を防止することにあり,かかる作用・機能を奏するためには,「薄板パイプ38」の後端側を開口したままの状態とすることは許されず,別部材としての取付板33によって必ず塞ぐ必要がある。一方,甲2において,「カップ状のケーシング6」の作用・機能は,甲1発明1の「薄板パイプ38」のそれと同様,内部を気密にして外部への流体流出を防止することにある。なお,この点は,甲2と同様の構成を有する甲3,4についても該当する。そうすると,甲1発明1の「薄板パイプ38」について,最終的に塞がれるべき後端側の開口を,それ自体が形状的に塞がれている「カップ状」に変更することに格別の困難性はなく,相違点1に係る構成は,甲2~4記載事項を適用することによって,当業者が容易に想到し得る。

イ 甲7~9の記載内容について

(ア) 本件審決は,相違点1及び2を併せて検討すべきとの立場から,甲7~9の「つば」は,いずれも隔壁を固定するための機能を有するものであるのに対し,甲1発明1においては,「薄板パイプ38」の固定にはつばを必要としないから,その端部38aに甲7~9にあるような固定するためのつばを設ける動機がなく,さらに,甲7及び9はシールのための鍔であり(シールの圧縮方向も円周方向ではなく異なる。),甲8もシールのための鍔であり(シールの圧縮方向は円周方向というより傾斜方向であって,いわゆる三角シール構造をなす。),いずれも有底円筒部材の開口端部に鍔を設け円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有するものではないとして,甲1発明1からは,甲7~9記載事項を考慮しても,本件発明1を当業者が容易に想到し得たとはいえない,と判断した。

(イ) しかし,本件審決の認定判断は,相違点1及び2を併せて検討すべきとする誤った理解に基づくものであって,周知技術の「つば」を開示する甲7~9を検討するに当たっては,「つば」のみに着目すべきである。

そうすると,相違点2に係る構成は,甲7~9の記載事項(周知技術)から当業者が容易に想到し得るものであり,甲1発明1の構成において,「薄板パイプ38」の開放端に外向きフランジを設ければ,必然的に相違点2に係る構成に至るのであるから,相違点2に係る構成は,甲7~9記載の周知技術を適用することによって,当業者が容易に想到し得る。

ウ 甲21~23の記載内容について

(ア) 本件審決は,甲21~23は,いずれも段差部様の部分に,なべ状のものの開放端のフランジ様のものと,周方向シール様のものとが挿入されているような構造を有し,本件発明1のなべ状の隔壁であること,その開放端につばがあること,さらに隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設することと同様の構造を有することが理解できるが,なべ状のものの開放端のフランジ様のもの,シール様のものと段差部様のものに係る構造について,甲21~23に詳細な記載がなく,その技術的意義については不明であるから,甲21~23記載事項から,有底円筒部材の開口端部に鍔を設け円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有するような構成が明らかであるとはいえず,そのような構成が周知であるともいえない,また,甲1発明1においては,薄板パイプ38の厚さがモータのエアギャップの大きさに直接関わるからこそ,その開放端を補強する動機があると理解できるものであるが,甲21の「なべ状のスリーブ26」,甲22の「なべ状のもの」及び甲23の「なべ状のケース38」は,いずれも電磁弁に関わるものであって,その円筒部の厚さはモータのエアギャップとは無関係であり,必ずしも甲1発明1における薄板パイプ38のように開放端を補強しなければならない程度の薄さが求められるものとはいえないから,円筒部の開放端の補強が必ずしも要求されず,甲21~23記載事項に係る上記構成を,甲1発明1に適用する動機があるとはいえず,さらに,電磁弁に係る技術分野の構成をモータ駆動の遮断弁である甲1発明1に適用することが一般的に行われているともいえないとして,甲1発明1において,甲21~23記載事項に係る周知技術から,本件発明1を当業者が容易に想到し得たとはいえない,と判断した。

(イ) しかし,ソレノイドチェック弁45の一部を構成するスリーブ26が前記①~③の構成の全てを具備していることは,甲21の図1に図示された構成から明らかである。また,甲21~23の電磁ソレノイドにおいて,電磁コイル22と可動子25との隙間は,電磁ソレノイドの磁気特性に多大な影響を及ぼすパラメータであって,可能な限り狭い方が好ましいという点において,モータのエアギャップと何ら異なるところはない。モータのエアギャップに介装される薄板パイプ38と同様,スリーブ26も可能な限り薄くすることが求められるから,その開放端を補強する動機は充分に存在する。さらに本件明細書の段落【0003】にあるように,ガスメータなどのガス遮断装置としては,電磁ソレノイド駆動式の遮断弁が先に使用され,その後にモータ駆動式の遮断弁が主流になったという技術的経緯に照らせば,甲21~23の電磁ソレノイド駆動式の遮断弁に関する技術を甲1発明1のモータ駆動式の遮断弁に適用することに格別の困難性はない。電磁ソレノイド駆動式の遮断弁とモータ駆動式の遮断弁とでは,前者が可動子による直線運動,後者がロータによる回転運動であるという点で相違するとしても,電磁力を機械運動に変換するという点において機能的に差異はなく,磁気特性との関係で要求される隔壁の仕様についても差異はないから,スリーブ26と薄板パイプ38とが異なるものとすべき理由はない。

以上のとおりであるから,本件審決が,モータと電磁ソレノイド(電磁弁)との構造上の差異及び開放端を補強する動機の有無を根拠として,甲21~23記載事項を甲1発明1に適用する動機付けがないとした認定判断は誤りである。

エ なお,本件審決は,本件発明1の効果として,被告が意見書(甲19)で主張した,①隔壁の開放端につばを設けることにより強度を確保できるので,隔壁の変形を防止して「真円度が確保」できる点,②組立ての際に,シール部材を押し込むことで,同時に隔壁を取り付け板段差部に挿入できるため「組立作業が容易」になる点を認めている。

しかし,上記①の効果は,周知のフランジの本来的な用途が補強である以上,甲1発明1に周知技術を適用した結果として必然的に得られる効果にすぎず,また,上記②の効果も,甲1発明1に前記周知技術を適用した結果として必然的に得られる効果にすぎない。

オ 前記ア~エのとおり,本件発明1は,甲1発明1,甲2~4,甲7~9,甲21~23の各記載事項等に基づいて,当業者が容易に想到し得るものである。

(3) 以上のとおり,本件審決は,個別に判断すべき相違点1及び2を併せて検討すべきとした点で認定判断の誤りがあり,かかる誤りにより,相違点1及び2の構成を充たすための各甲号証の技術的位置付け,記載内容を不当に狭く認定し,本件発明1は容易想到ではないとの結論を導き出すものとして誤っており,取消しを免れない。

〔被告の主張〕

(1) 本件発明の技術的特徴点

甲2発明は,甲1発明を従来技術として,信頼性及び生産効率を高めて品質を改善するという課題に対し,課題解決手段を提供したものであり(甲2の段落【0002】~【0008】),さらに本件発明は,甲2発明を従来技術として,長期間の使用中に気密性が劣化することを防止するという課題に対し,ロータの収容部として,貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁を設けるとともに,隔壁の開放端につばを設け,つばを弾性体製のシール部材と共に取り付け板段差部の内周に挿入することによって,シール部材が,隔壁の外周と取り付け板段差部の内周との間で,円周方向に圧縮されて,シール機能を奏する構成を採用するという課題解決手段を提供したものである(本件明細書の段落【0005】~【0012】)。このように,本件発明は,甲1発明を改良した甲2発明を踏まえて,さらにガス遮断装置に求められる高度の気密性を実現するために改良した発明である。

以上の本件発明の従来技術に対する位置付けから明らかなとおり,本件発明の固有の技術的特徴点は,

ⅰ)甲2発明の「弾性シール部材8と合成樹脂製のアウターブッシュ3とケーシング6とを,段付きフランジ2と平板フランジ7との間に挟み込んで,かしめ工法により固着する構成」では,長期間の使用中に気密性が劣化してくることがあるという問題があったため,段付きフランジと平板フランジとをかしめ工法により固着する構成,及び段付きフランジと平板フランジとの間に弾性シール部材を挟み込んで軸方向に圧縮する構成は採用せず,段付きフランジの内周面となべ状の隔壁の外周面との間にシール部材を設け,円周方向に圧縮する構成を採用するとともに,

ⅱ)開放端に円周方向に圧縮するシール部材を設けると,シール部材から加わる圧力により,組立時又は使用中に板薄である隔壁が変形し,気密性を確保することができない危険性があったが,なべ状の隔壁の開放端側につばを設ける構成によって,隔壁の開放端の強度を高め,変形を防止して隔壁の真円度を確保し,これにより気密性につき高度の信頼性を確保することを可能とし,かつ,

ⅲ)シール部材を嵌着するなべ状の隔壁の開放端につばを設ける構成によって,つばをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入することができ,組立作業を容易にした

ことにあると認められる。

(2) 相違点1及び2が一体的に判断されるべきことについて

前記(1)の本件発明の技術的特徴点ⅰ)~ⅲ)は,高度の気密性の確保が要求されるガス遮断弁において,①なべ状の隔壁であること,②なべ状の隔壁の開放端につばがあること,③隔壁の円筒部の開放端側に弾性体製のシール部材を配設すること,の三点が全て具備されることによってはじめて実現するものである。したがって,これらの要素となる相違点1及び2の構成は,容易想到性の判断においても,区々別々に検討するのでなく,一体的に把握されるべきである。

ア 原告の主張(1)アについて

仮に,原告が主張するように,薄板パイプ38の両端に外向きフランジを設ければ,ステータ内に隔壁を挿入することができなくなるというのであれば,これは,薄板パイプ38の両端の構成を併せて検討しなければならないことを意味しており,かえって薄板パイプの開放端の一端の構成と他端の構成とを別個に検討することは許されないはずである。また,挿入時に,挿入側の端部がストレート形状である必要性があるとしても,パイプ両端の強度確保のためにフランジが必要であれば,挿入後にストレート形状を拡管してフランジを形成することも,技術的に可能である。したがって,挿入側の端部がストレート形状であるからといって,最終的な完成品における形状が,必然的にストレート形状に制約されることにはならない。挿入型円筒体のフランジの位置が,挿入側とは反対側の端部に構造上自ずと限定されるものでないことは明らかである。

そして,本件発明のつば(フランジ)は,前記(1)のとおり,ⅱ)隔壁の開放端側の端部(シール部材の近傍)の変形を防止し,ⅲ)組立性を容易にする作用効果を奏するものである。原告が主張するような,挿入側と反対側の端部のみにフランジを設けた構成では,パイプの挿入側の端部にフランジがないため,変形しやすく組立性の悪いパイプ開放端が残ってしまい,本件発明の上記作用効果を奏することができない。また,挿入側と反対側の端部のみにフランジを設けた構成では,甲1発明1と同様,Oリング挿入時に,薄板パイプのフランジのない側の開放端のエッジでOリングを傷つける危険性があり,気密性について高い信頼性を持った遮断弁を実現することができない。したがって,甲 1 発明1には,本件発明の解決課題の想定自体がないばかりか,パイプの端部にフランジを設ける動機もなく,ましてやパイプの片端だけにフランジを設ける発想・動機さえも存在しない。これに対し,本件発明は,隔壁の一端をなべ底状にし,他端を開放端とすると共に外側向きのつばを設け,その開放端側の隔壁の円筒部に円周方向に圧縮するシール部材を配設することによって,隔壁の気密構造を一体的に実現して,本件発明の前記(1)のⅰ)~ⅲ)の技術的特徴点を実現したものである。原告の主張は,ガス遮断弁に求められる本質的機能である10年という長期にわたる耐久性を維持する確実な機密性を実現するための隔壁にかかる気密構造を,1個ずつ区々別々に検討するものでしかなく,理由がない。

イ 原告の主張(1)イについて

原告は,①なべ状の隔壁であること,②その開放端につばがあること,③さらに隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設すること,の技術的関連性が希薄であり,独立した構成の寄せ集めにすぎないと主張するが,以下のとおり,原告の上記主張には理由がない。

「なべ状」に構成した隔壁の一端と,「つば」を設けた隔壁の他端とは,対象となる部位が異なっていても,これらは同じ1個の部材である隔壁の両端部の構成である。ガス遮断弁においては,高度の気密性を確保するために,多数の部品を具体的にどのように組み合わせて1個の構成体とするのか,部品を相互に固着・嵌着するために具体的にいかなる構成を採用するのかなどの部品相互の有機的な関連性が,技術的事項として重要である。したがって,高度の気密性確保のために必要な同じ1個の部材の構成を区々別々に論じることはできない。

また,本件発明は,前記(1)のⅱ)及びⅲ)の固有の技術的特徴点を有するのに対し,甲1発明1は,これらの技術的特徴点を備えていない。そのため,形式的に見れば,本件発明と甲1発明1とは,シール部材を円筒体に配設する構成が共通していても,シール構造にかかる技術的意義は全く異なる。したがって,本件発明の「つば」とシール部材の配設位置とは一体となって,ⅱ)及びⅲ)の技術的特徴点を形成しているのであり,これらを区々別々に捉えることは許されない。

また,本件審決は,甲7~9記載事項が技術分野が相違することを前提として,抽象的に,隔壁の開放端につばを設ける構成が周知技術と解せるとしても,と仮定的な考え方を示したものにすぎず,ガス遮断弁の具体的技術分野について,なべ状の隔壁の開放端につばを有する構成が周知の構成であると認定したものではない。そして,仮に抽象的に,隔壁の開放端につばを設ける構成が周知の構成であったとしても,これを,具体的な技術分野であるガス遮断弁において,前記(1)のⅱ)及びⅲ)の技術的特徴点をなす具体的な構成として採用することは周知ではない。形式的に部品単体でみれば,「つば」が周知であったとしても,「ロータの収容部としての隔壁をなべ状にして開放端につばを有する」ことが周知であるとはいえない。ロータの収容部としての隔壁を,新たな技術的意義のもと,シール部材とともに新たな構成として採用することは,新たな発明をなすものである。したがって,「つば」を設けるとの一事を以て周知技術とし,相違点2が甲1発明1に周知技術を適用した結果として必然的に得られる構成にすぎないとすることはできない。

さらに,本件発明の隔壁開放端の「つば」は,隔壁の変形や取り付け板やふたのずれなどによってシール部材に軸方向の圧縮が加わり過圧縮状態になることを防止し,シール部材の適切な円周方向への圧縮を確保する効果があり,これにより,気密性につき高度の信頼性を確保することを可能とするものである。したがって,本件発明の「つば」は,「円周方向」のシール圧縮の適正を維持し,シール部材による気密性を長期間維持する構成を形成するに密接な関係性を有するものである。

原告は,この点について,「ガス遮断弁の実製品においては,薄板パイプに相当する部材として,ステンレス等を主体とした剛性の高い金属部材が汎用的に使用されていることは公知である」として,薄板パイプの剛性は高いとの前提の下に,薄板パイプの端の加工性が悪い旨の主張をする。しかし,甲1発明の特許請求の範囲の請求項1には,単に「非磁性材の薄板パイプ」としか記載されておらず,また,甲1の発明の詳細な説明においても,薄板パイプの材質については「黄銅等」(段落【0006】),「黄銅など」(段落【0010】)と記載されているだけであり,剛性の高いステンレスに関連付けるような記載はない。また,ガス遮断弁の実製品において,隔壁にステンレスを用いているのは,原告及び被告といった一部のメーカーのみであって,原告の上記主張は,甲1発明の明細書の記載やガス遮断弁の実製品の実情から離れたものである。ここで,剛性の定数であるヤング率を比較すると,ステンレスの方が黄銅に比し,約2倍変形が困難である。甲1発明の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例のとおり,薄板パイプが黄銅製であれば,ステンレスに比し,容易にフランジを形成することが可能である。したがって,原告の上記主張は,ガス遮断弁の実製品ではステンレス製の隔壁が汎用的であるとの誤った前提の下,明細書の記載を離れて,薄板パイプの端を拡管してフランジを形成することが必要以上に困難であるかのような主張をするものであり理由がない。

また,原告は,金属製の薄板パイプの端に外向きフランジを形成する場合,薄板パイプをステータ内に挿入すると,薄板パイプの外周近傍に配置されたステータが障害になって,薄板パイプの周りに治具を配置することができない旨主張する。しかし,パイプの端にフランジを形成する工法のうち,最も単純で広く用いられている工法はフレア加工であり,この工法であれば,甲1発明のような遮断弁について,ストレート形状の端をステータに挿入した後であっても,ステータから端部を突出させた上で,少なくとも黄銅程度の剛性の金属であれば,比較的容易に拡管しフランジを形成することができるから,原告の上記主張は誤りである。

さらに原告は,ガス遮断弁の実製品では,薄板パイプに相当する隔壁として,ステンレス等を主体とした剛性の高い金属部材が汎用的に使用されているから,隔壁の変形やそれに起因した組立性が殊更問題になるわけではない旨主張する。しかし,そもそも同主張の前提が誤りであることは前記のとおりである上,甲1発明の実施例に例示されているような黄銅製の薄板パイプの場合,剛性は,ステンレス製の約1/2であるから,隔壁の変形やそれに起因した組立性は問題となり得るし,仮に隔壁がステンレス製であったとしても,つばと底のない隔壁の降伏荷重は,つばと底がある隔壁の降伏荷重の1/3以下であるから,つばを具備していることと有底の隔壁であることが技術的に相互に関連し合って,隔壁の強度を確保していることは明らかである。

(3) 各甲号証記載の構成との組合せについて

ア 原告の主張(2)ア(甲2~4記載の構成との組合せ)について

原告の主張は,相違点1の構成について,他の部品・構成との技術的関連性を捨象して,単なる構成の置き換えを主張するものであって理由がない。

また,原告は,「なべ状」の隔壁のみに着目すべきと主張するが,仮にかかる原告の主張を前提としても,甲1発明1に甲2発明を適用することによって本件発明1に至ることはできない。

すなわち,甲1発明1に対し,甲2発明の「なべ状」の隔壁の構成を適用して,「パイプ」の一端を閉じて貫通穴のない「なべ状」の隔壁に置き換えた場合,シール部材は,「円周方向」に圧縮するシール部材を備えたままとなり,「軸方向」に圧縮するシール部材は具備しないことになる。その結果,開放端につばのないなべ状の隔壁に「円周方向」シールを組み合わせた構成となるが,かような構成では,組立時などにパイプを変形させたり,Oリングを挟み込む危険性を軽減することはできない。さらに,Oリング挿入時に,パイプのフランジのない側の開放端のエッジでOリングを傷つける危険性も解決されない。

これに対し,甲2発明のケーシング(6)の鍔は,あくまでも「軸方向」にシール部材を圧縮するための部材であるから,甲1発明1に甲2の「なべ状」の隔壁の構成を適用しても,「つば」を隔壁の開放端に形成する動機はない。したがって,甲1発明1に甲2発明を適用しても,本件発明の前記ⅱ)及びⅲ)の技術的特徴点に至ることはできない。

加えて,そもそも,甲1発明1には,開放端につばを設ける必然となる上記課題の開示もなく,また,それを示唆する記載もない。

また,甲1発明1では,薄板パイプ38の弁側の開放端が取付板23の底部に当接し,軸受保持盤32と取付板23の段差部の内周面との間に,軸受保持盤32,薄板パイプ38,Oリング39が挟まれていて,Oリングが円周方向に圧縮される構成となっているのに対し,甲2発明では,平板フランジ7と段付きフランジ2が固着されていて,段付きフランジ2の段差部において,平板フランジ7と段付きフランジ2の間に,アウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部,シールドリング8が挟み込まれていて,シールドリング8が,軸方向に圧縮される構成となっており,両者のシールド構造にかかる具体的な構成は全く異なる。したがって,甲1発明1の「薄板パイプ38と取付板33」を,甲2発明の「ケーシング6」に変更するというのであれば,単純な部品の変更にとどまらず,相当の範囲にわたって構成全体を置き換えることになるが,そのような構成の変更に容易想到性を認め得る余地はない。

したがって,相違点1が容易想到であるとする原告の主張に理由はない。

イ 原告の主張(2)イ(甲7~9記載の構成との組合せ)について

本件発明1は,前記(1)のⅰ)~ⅲ)を固有の技術的特徴点とするものであり,「つば」は,この技術的特徴点を実現するために不可欠な構成の一つである。

これに対し,甲7では,圧力ケース30のつば部33とハウジング10の段部14の平坦面を溶接することによって既に気密性が確保されているため,Oリング49は,圧力ケースのつば部33とコネクタケース40との間で寸法を吸収する構成でしかなく,また,円周方向に圧縮するシール部材ではない。また,甲8のOリング11は,いわゆる三角シールであって,本件発明1のつばの意義,作用効果を阻害する部材であり,高度の気密性確保が求められる遮断弁ではおよそ採用されないものである。さらに甲9の発明のパッキン15も,円周方向に圧縮するシール部材ではなく,シールフランジ6とその一部である6aとの間でパッキン15,ヨーク1の鍔部1a,ワッシャー16を挟み,かしめて固着する構成であり,むしろ,本件発明1の従来技術である甲2発明のシール構造に近似する。

このように甲7~9には,隔壁の開放端に「つば」が設けられた構成が開示されているが,本件発明1の「つば」とは技術的意義が全く異なるものであって,本件発明1が具備する「つば」が周知技術であることを基礎付けるものではない。

したがって,本件発明2の相違点2に係る構成は,甲7~9記載事項に基づき当業者が容易に想到し得たものではない。

ウ 原告の主張(2)ウ(甲21~23の構成との組合せ)について

(ア) 甲21~23は,いずれも自動車のブレーキ油圧を制御するアンチロックブレーキシステム(ABS)に関する発明であり,隔壁の内側にロータを配設するものでもなく,具体的な技術分野及び前提となる構成が全く異なる。

そして,甲21~23では,原告主張のフランジ様なるものが図面に記載されてはいるものの,フランジ様なるものの部材に関する記載があるのは,甲21の「スリーブ26」のみであるが,甲21の発明の詳細な説明に,段落【0010】も含め,フランジ様なるものについての記載は全くない。したがって,甲21~23の記載では,これら各甲号証の図面に記載されたフランジ様なるものが,スリーブの開放端を補強する用途で設けられているとは,一義的に明確に理解することができない。

かえって甲21~23記載の各発明は,電磁弁に関する発明であり,その具体的な構成に照らせば,甲21~23記載のフランジ様なるものには,補強の用途・目的を認める余地はない。すなわち,甲21~23記載の各発明では,スリーブの開放端に設けられた固定子は,可動子の変位端を規制するための位置決めの機能を有する(甲21の段落【0010】)。したがって,これらの発明では,スリーブ内における固定子の位置決めを正確に行う必要があり,スリーブの開放端側に固定子を圧入又は挿入した後にカシメることが必要となるから,スリーブ26の開放端側の強度の確保は,スリーブ内に固定子が圧入又は挿入した後にカシメて装着されることによって,既に十分に果たされている。そのため,これらの発明の具体的な構成において,スリーブの開放端側の強度を補強する目的で,フランジ様の構成を設ける必要は認められず,むしろ固定子の挿入を容易にするために設けられたものと理解するのが自然である(外向きフランジを設けることによって,開口内周面にコーナーRが生じ,これにより,固定子の挿入が容易となる。)。

また,ガスモータ遮断弁では,永久磁石に減磁作用が生じることを防止するため,ロータは,隔壁にシール部材を装着した後に隔壁内に挿入されるのが通常である。そのため,隔壁にシール部材を装着する際,隔壁の内側は他の部材が何も挿入されていない状態であり,隔壁が変形する危険性が高い。これに対し,甲21~23の電磁弁では,まず,可動子をスリーブに入れて,固定子を圧入又は挿入した後にカシメて固定し,これにシール部材を装着して,電磁コイル内に挿入した上で,これらをハウジング内に挿入して組立てを行うのが,当業者の理解として自然かつ合理的である。このように,甲21~23記載の発明では,先にスリーブの開放端側に固定子を装着して固定するため,本件発明とは異なり,スリーブにシール部材を装着する際にスリーブの端縁部が変形する危険性が想定されない。したがって,これらの発明のフランジ様なるものについては,本件発明にかかるガスモータ遮断弁との組立工程の相違からも,スリーブの開放端を補強する用途・技術的意義が認められない。

以上のとおり,甲21~23は,本件発明と具体的な技術分野が異なるばかりか,これらの発明の具体的な構成・組立工程に照らし,フランジ様なるものに,スリーブの開放端を補強する用途・技術的意義が認められる余地はない。したがって,甲21~23記載の発明は,いずれも本件発明の技術的特徴点である「つば」を開示するものではなく,甲21~23を基礎として,「フランジの本来的な用途が補強であること」が技術常識であるとする原告の主張には理由がない。

(イ) 原告は,この点について,電磁ソレノイド駆動式の遮断弁とモータ駆動式の遮断弁とでは,電磁力を機械運動に変換するという点において機能的に差異はなく,磁気特性との関係で要求される隔壁の仕様についても差異はないから,スリーブ26と薄板パイプ38とが異なるものとすべき理由はない旨主張する。

しかし,甲21~23記載の発明は,前記(ア)のとおり,いずれも自動車のブレーキ油圧を制御するアンチロックブレーキシステム(ABS)に使用される電磁ソレノイド式の逆止弁に関する発明であり,隔壁の内側にロータを配設するものではないから,本件発明1又は甲1発明1のようなガスメータに内蔵されるモータ式の遮断弁とは,具体的な技術分野及び前提となる構成が全く異なる。

また,モータも電磁ソレノイドも,磁気回路の一部に設けられた空隙(エアギャップ)における磁束を変化させることで,電気エネルギーを機械エネルギーに変換する機械である。空隙の磁束変化を大きくすることがエネルギー変換の効率を上げることになるため,一般論としては,空隙の距離は小さいほうが効率が高い。そして,モータについては,このエネルギー変換が行われる空隙がステータとロータの間であるため,この間に挿入される薄板パイプ38等は薄いことが当然に要求される。しかし他方,甲21等の電磁ソレノイドにおいては,電磁コイル22の磁界による磁気回路は,固定子27,ハウジング21,ヨーク(符号なし),可動子25とで形成される(甲21の段落【0011】,【0012】)。そのため,エネルギー変換が行われる空隙は,固定子27と可動子25との間の隙間であり,電磁コイル22と可動子25との隙間は電磁ソレノイドの効率にはほとんど影響を及ぼさない。そのため,スリーブ26は,モータにおける薄板パイプ38等のような薄さは要求されない。

さらに,製品が使用される条件からみても,ガスメータに内蔵されるモータ式の遮断弁の場合には,ロータは,運動時に薄板パイプ38等に接触しないため,磨耗による減肉を考慮する必要がなく,薄板パイプ等は,可能な限り薄くすることが望ましい(被告製の遮断弁のなべ状隔壁も,約0.2mmの薄いステンレス製である)。他方,甲21等のアンチロックブレーキシステム(ABS)に使用される電磁ソレノイド式の逆止弁の場合には,可動子25がスリーブ26に接触しながら摺動するため,機械的強度・磨耗を考慮した厚さが必要となり,スリーブ26にも充分な厚みが必然的に必要となる。そのため,スリーブ26については,モータにおける薄板パイプ38等のような薄さは要求されない。

このように,電磁ソレノイド駆動式の電磁弁とモータ駆動式の遮断弁とでは,要求される隔壁の仕様が大きく異なっているのであるから,原告の上記主張には理由がない。

(ウ) 以上のとおりであるから,本件発明1の相違点2に係る構成は,甲21~23記載事項に基づき当業者が容易に想到し得たものではない。

2  取消事由2(本件発明2の容易想到性の認定判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,本件発明2の容易想到性について,前記相違点1及び2に加え,相違点3を認定した上で,相違点1~3のいずれも当業者が容易に想到し得るものではないと判断したが,前記1の取消事由1〔原告の主張〕のとおり,相違点1及び2に係る構成は当業者が容易に想到し得るものである。

(2) 本件審決は,相違点3に係る構成について,甲1発明2は,取付板23,33をステータヨーク37に螺着することによって,薄板パイプ38を取付板23方向に付勢しつつ一体に固定していると解せるものの,甲1には温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるむことの記載も示唆もなく,甲1発明2は本件発明2の隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段に相当するものを有するとはいえないから,甲1発明2において,隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段を設けることは,当業者が容易に想到し得たものとすることはできない,と判断した。

しかし,本件発明2は,付勢手段について,単に「前記隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段」としか特定しておらず,温度変化に起因した組付けのゆるみについては何ら発明特定事項とされていない。したがって,甲1発明2について,「取付板23,33をステータヨーク37に螺着することによって,薄板パイプ38を取付板23方向に付勢しつつ一体に固定している」ことをもって,甲1発明2は「付勢手段」に相当するものを有するといえるから,相違点3に係る構成について容易想到ではないとした本件審決の認定判断は誤っており,取消しを免れない。

〔被告の主張〕

(1) 前記1の取消事由1の〔被告の主張〕のとおり,本件発明1は進歩性が認められるから,請求項1の従属項の発明である本件発明2に進歩性が認められることは当然である。

(2) 本件発明2は,ふたを「合成樹脂製」とし,隔壁のつばと取り付け板段差部の底面とで挟んで保持したため,合成樹脂の温度に対する線膨張係数が大きいという影響が,シール部材の圧縮率や,隔壁と取り付け板の組付けに影響を及ぼさないよう,隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段を配設したものであり(本件明細書の段落【0016】,【0055】,【0069】,【0072】),特に,気密信頼性を確保するために,シール部材が軸方向に圧縮を受けることによって過圧縮状態にならないように隔壁を付勢するものである。これに対し,甲1発明2では,薄板パイプ38は取付板23側の保持盤(符号なし)を挟み込んでいないので,仮に保持盤(符号なし)が線膨張係数の大きな合成樹脂製であったとしても,そもそも軸方向のゆるみが発生しないから,パイプ38を取付板23方向に付勢する理由がない。また,甲1には,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるむことの記載も示唆もない。さらに,甲10記載の「バンド11」,甲11記載の「バンド13」,甲12記載の「取付金具4」及び甲13記載の「取付金具」は,いずれも隔壁を付勢するものではない。したがって,甲1発明2は,本件発明2の「隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段」に相当する構成を具備するものではなく,同構成は,原告が提出した各甲号証にも開示されていない。

また,相違点3のうち「前記ふたの外周部をつばと取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した」構成は,ふたの外周部をつばと取り付け板段差部の底面とで挟んで保持することによって,ふたと一体的に隔壁の開放端側の軸受を容易に配置することを可能とし,温度変化によるふたの膨張収縮でシール部材の圧縮率が影響を受けず,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができるという技術的意義を有する構成である(本件明細書の段落【0015】,【0016】,【0023】,【0024】,【0055】,【0072】)。かかる構成は,単なる設計事項ではなく,また,甲1発明2のステータの内側に同軸に配設された薄板パイプ38の円筒部外周と取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有する構造は,甲2~4記載の段付きフランジ2及び平板フランジ7が互いに固着される構造を付加することを阻害し,両構造は相容れないものである。

以上より,本件発明2は,原告提出に係る各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

3  取消事由3(本件発明3の容易想到性の認定判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,本件発明3の容易想到性について,前記相違点1~3に加え,相違点4を認定した上で,相違点1~4のいずれも当業者が容易に想到し得るものではないと判断したが,前記1及び2の取消事由1及び2〔原告の主張〕のとおり,相違点1~3に係る構成は当業者が容易に想到し得るものである。

(2) 本件審決は,相違点4に係る構成について,前記2の取消事由2の〔原告の主張〕(2)で記載した本件審決の判断と同様に,甲1発明2において,本件発明3に係る付勢手段を設けることは当業者が容易に想到し得たものとすることはできない,甲5記載の寸法吸収部は,その形成位置や具体的形状からして,甲1発明2に甲5記載の寸法吸収部を適用することにより,「隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部に,変形することによって前記ふたの前記取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成」することが,当業者に直ちに想起できるものではないとして,甲1発明2において,相違点4に係る本件発明3の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものではない,と判断した。

しかし,相違点4に係る構成のうち,「付勢手段」に関する事項について,本件審決が容易想到ではないとする根拠は,前記相違点3と同様であるところ,前記2の取消自由2の〔原告の主張〕(2)のとおり,相違点3に係る構成の容易想到性の認定判断は誤りである。

さらに,相違点4の「寸法吸収部」に関する事項についても,甲35に記載されているように,樹脂製の突起を変形させることによって軸方向(スラスト方向)のガタつき等を吸収することは周知技術であり,かかる周知技術を「前記隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部」に適用したものにすぎないから,当業者にとって格別の困難性はない。

したがって,本件審決の認定判断は誤っており,取消しを免れない。

〔被告の主張〕

(1) 前記1の取消事由1の〔被告の主張〕のとおり,本件発明1は進歩性が認められるから,請求項1の従属項の発明である本件発明3に進歩性が認められることは当然である。

(2) 相違点4に係る構成の容易想到性について,甲35は,防水型の電磁弁として使用される電磁石の防水構造に関わるもので,本件発明のガスメータに内蔵されるモータ式の遮断弁とは技術分野が異なる。

また,本件発明3の隔壁の開放端と取付板段差部底面とに挟まれるフタの挟持部に設けられた突起又は円周リブ状の寸法吸収部は,付勢手段で隔壁とステータの軸方向の長さが規制され,組付けの際に軸方向に大きな応力を受けることで肉厚の薄い隔壁が変形し,シール部材に無理な圧縮が加わることで気密性が劣化することを防止するため,また,フタの寸法吸収部以外の特に軸受部が変形することで動作特性が劣化することを防止するために設けられたものであり,組付けの際に軸方向に先端だけが選択的に変形して寸法を吸収することで,そのほかの部分に大きな応力が加わらず,気密性と動作特性の信頼性を保つことができるものである(本件明細書の段落【0026】,【0064】,【0065】,【0073】等)。そして,本件発明3では,上記目的のため,本件発明3の寸法吸収部は突起又は円周リブ状のどちらでも選択可能である(【請求項3】及び【図5】)。

これに対し,甲35には,まず,隔壁,シール部材,フタ,取り付け板,付勢手段等が存在していない。シール部15の先端の突起17は,防水カバー18に挟まれ,側壁18aにより潰され,その潰された面と側壁18aの内面との密着面Aによりシール作用をなすことを目的としている(甲35の段落【0031】)。防水カバー18の挟み込む寸法は,ステータ4の螺合状態で変わるので,寸法吸収の効果はなく,むしろシール作用に必要十分なだけ突起17が潰れるよう,肉付け部16で潰し代を制御している(甲35の段落【0032】)。そして,突起17は漏水防止のシールを目的としているので,高さが高精度に均一な,例えば環状の連続する突起であることが必須であり,本件発明3の図5(a)のような非連続の突起の形態はとり得ない。

以上より,本件発明3は,原告提出に係る各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

4  取消事由4(本件発明4の容易想到性の認定判断の誤り)について

〔原告の主張〕

本件審決は,本件発明4の容易想到性について,前記相違点1及び2に加え,相違点5を認定した上で,相違点5は当業者が容易に想到し得るものであるとしつつ,相違点1及び2は当業者が容易に想到し得るものではないとして進歩性を有すると判断した。

しかし,前記1の取消事由1〔原告の主張〕のとおり,相違点1及び2に係る構成は当業者が容易に想到し得るものである。また,請求項2又は請求項3を引用する本件発明4について,相違点3及び4にかかる構成は当業者が容易に想到し得るものであることは,前記2及び3の取消事由2及び3の〔原告の主張〕のとおりである。そして,相違点5は当業者が容易に想到し得るものである点は,本件審決が正当に認定している。

したがって,本件審決の認定判断は誤っており,取消しを免れない。

〔被告の主張〕

(1) 前記1の取消事由1の〔被告の主張〕のとおり,本件発明1は進歩性が認められるから,請求項1の従属項の発明である本件発明4に進歩性が認められることは当然である。

(2) 本件審決は,本件発明4と甲1発明1との相違点5につき,Oリングと共にバックアップリングを装着して使用することは周知技術(常套手段)であり,甲1発明1のOリングを使用する箇所にバックアップリングを装着する上記周知技術を適用して,相違点5に係る本件発明4の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものである旨判断しており,同判断は妥当である。

しかし,本件発明4は,気密信頼性と,組立容易性の両立を目的とするものであり,本件発明1の効果をより高めるためにバックアップリングを組み合わせることで,本件明細書の段落【0056】に記載された格別に優れた作用効果を奏するものである。

したがって,本件発明4の相違点5に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。

第4当裁判所の判断

1  本件発明について

(1)  本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲28)の発明の詳細な説明には,概ね,次の内容の記載がある。

「【0001】

【発明の属する技術分野】

本発明は,ガス遮断装置の遮断機構として使用される遮断弁に関し,さらに詳しくは,流路に形成された弁座に対し弁体を前進または後退移動させることによって流路の遮断復帰動作を行うモータを動力源とした遮断弁に関するものである。

【0002】

【従来の技術】

ガス事故を未然に防ぐため,従来より種種の安全装置が利用されており,中でもガスメータに内蔵され流量センサによりガスの流量を監視しマイクロコンピュータによりガスの使用状態を異常使用と判断した場合や,地震センサ,ガス圧力センサ,ガス警報器,一酸化炭素センサなどのセンサの状況を監視し危険状態と判断した場合は,ガスメータに内蔵された遮断弁によりガスを遮断する電池電源によるマイクロコンピュータ搭載ガス遮断装置内蔵ガスメータ(以下マイコンメータと省略する)は,安全性,ガス配管の容易性,低価格等の優位性のため,普及が促進され,近年ほぼ全世帯普及が実施されるに至っている。また,流量センサによって計測されたガス流量情報を電話回線などを利用して集中監視するテレメータ機能を有した,集中監視型マイコンメータの比率も増加し,ますます,情報端末として利便性の向上が求められている。この集中監視型マイコンメータなどにおいては,簡単な電気スイッチ操作や電話回線などによる遠隔操作でガスの遮断,復帰が可能なよう,マイコンメータに搭載した電池による電気エネルギーでガス遮断もガス復帰も可能で開弁状態と閉弁状態の保持はエネルギーを必要としない遮断弁が要求されている。

【0003】

この遮断弁の駆動方式としては,従来電磁ソレノイドを使用したものが主流であったが,近年比較的強い閉止力,復帰力を実現でき,非通電時は状態保持可能なPM型ステッピングモータを駆動源とする遮断弁が注目されており,なかでもロータをガス流路内,ステータをガス流路外とする気密隔壁を持った遮断弁が,ガス流路への取り付けが容易なため主流である。

【0004】

以下に従来の遮断弁について説明する。

【0005】

従来のこの種の遮断弁は,特開平9-60752号公報,特開平11-2352号公報(判決注:甲2)に示すようなものが一般的であった。この特開平11-2352号公報記載の遮断弁は図6に示されているように,鍔付きカップ状のケーシング6を有し,このケーシング6の外周にステータ4を装着し,前記ケーシングの開口部に合成樹脂製のアウターブッシュ3を嵌着し,このアウターブッシュ3にスタッド5を偏心させて前方に突設し,前記ケーシング6内にインナーブッシュ12を挿設し,前記アウターブッシュ3および前記インナーブッシュ12にリードスクリュー17をその先端の雄ネジ部17aが当該アウターブッシュ3より前方に突出した状態で正逆方向に回転自在に支持し,このリードスクリュー17にロータ16を前記ステータ4に対向する形で取り付け,このロータ16と前記アウターブッシュ3との間にスラスト荷重用ころがり軸受18を介挿し,前記スタッド5に係合し雄ネジ部17aに螺合して弁体25を配されている。弾性シール部材8とアウターブッシュ3とケーシング6は,段付きフランジ2と平板フランジ7とで挟み込まれていて,段付きフランジ2と平板フランジ7とはかしめによって固着されている。

【図6】

file_2.jpg【0006】

以上のように構成された遮断弁について,以下その動作について説明する。

【0007】

ガスの異常使用時などには,図示していない制御部からの通電により,ロータ16を正転させ,リードスクリュー17が正方向に回転し,弁体25がリードスクリュー17側から弁座26側に前進して弁座26に当接することにより,流体経路を閉塞して流体を遮断する。また,これを復元するときには,外部入力によってリードスクリュー17を逆方向に回転させ,弁体25を弁座26側からリードスクリュー17側に後退させ,流体経路を開放して流体の供給を再開していた。

【0008】

【発明が解決しようとする課題】

この種の遮断弁は,ガスメータに取り付けられた場合ケーシング8(判決注:6の誤記)の外側が空気側になり,ガスメータが屋外に設置された場合,高い湿度やオゾン,温度変化などの過酷な環境にさらされることになる。そして,その中で,ガスメータの使用期間(一般に10年間)中特にメンテナンスしなくても,ガス漏れなどが発生しない高い信頼性が要求されている。

【0009】

上記の従来の遮断弁では,弾性シール部材8を段付きフランジ2と平板フランジ7とでスラスト方向に挟み込んでいて,弾性シール部材8の圧縮率は段付フランジ2の段深さに頼っているが,段付きフランジ2と平板フランジ7とが充分にかしめられていることが前提になっている。しかしながら,かしめ工法においては時にかしめ前の加圧が不充分で,かしめ部に隙間が生じることがあり,このとき従来の遮断弁のように弾性シール部材8がスラスト方向に圧縮されている場合は圧縮率が不充分になり,長期間の使用中に気密性が劣化してくることがあるという課題を有していた。

【0010】

また,かしめ部は母材が大きく変形されるため,かしめ時に表面処理膜が剥離したり,ひび割れている場合が多く,さらには,段付きフランジ2と平板フランジ7との接触部などは水分が残存しやすく,長期の使用中に段付きフランジ2と平板フランジ7とのかしめ部や接触部が腐食して,段付フランジ2から平板フランジ7が浮き上がり,弾性シール部材8の圧縮率が不充分になり,長期間の使用中に気密性が劣化してくることがあるという課題を有していた。

【0011】

また,弾性シール部材8と合成樹脂製のアウターブッシュ3とケーシング6とを,同時に段付きフランジ2と平板フランジ7とで挟み込んでいるため,温度変化によるアウターブッシュ3の膨張収縮で段付きフランジ2と平板フランジ7とのかしめが緩み弾性シール部材8の圧縮率が不充分になったり,アウターブッシュ3が径方向に膨張して弾性シール部材8を過圧縮状態にして圧縮永久ひずみを促進し,長期間の使用中に気密性が劣化してくることがあるという課題を有していた。

【0012】

本発明はかかる従来の課題に鑑み,長期の使用においてシール部材の圧縮率がほとんど変化せず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することを目的とする。

【0013】

【課題を解決するための手段】

本発明は上記課題を解決するために,貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁と,流体室に取り付け可能でこの隔壁の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,この隔壁の円筒部外周とこの取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮して弾性体製のシール部材を配したものである。

【0014】

このため,シール部材の圧縮率は剛体製の隔壁の円筒部外径と剛体製の取り付け板の段差部内径で決定され,隔壁と取り付け板の軸方向の位置の微小な変動にはほとんど影響されない。そして,組立時にかしめ部の隙間発生などによる隔壁と取り付け板との若干の軸方向の位置ずれが発生した場合や,長期間使用している間に腐食や熱膨張などによって隔壁と取り付け板との固着のゆるみなどが発生した場合でも,シール部材の圧縮率はほとんど影響を受けず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0015】

また,隔壁の開放端に中心に軸受を配された合成樹脂製のふたを嵌挿し,このふたの外周部を隔壁の開放端と取り付け板段差部の底面とで挟んで保持し,この隔壁を付勢手段で取り付け板の方向に付勢したものである。

【0016】

これによって,ふたと一体的に隔壁の開放端側の軸受を容易に配置できるとともに,温度変化によるふたの膨張収縮でシール部材の圧縮率が影響を受けず,かつ,隔壁は付勢手段で付勢されているので,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるまず,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0017】

また,付勢手段は隔壁とステータの軸方向の相対位置を規制するよう形成され,前記ふたの挟持部に変形することによってふたの取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成したものである。

【0018】

これによって,隔壁とふたとステータと付勢手段の組み付けの際に,付勢手段で隔壁とステータの軸方向の相対位置が規制されて隔壁の円筒部外周でステータから突出する部分の長さが規制され,シール部材が軸方向に圧縮を受けることによって過圧縮状態になり気密性が劣化することを防止できる。また,組付け時に,ふたの挟持部の突起またはリブ状の寸法吸収部が,付勢手段の付勢力で選択的に変形し,ふたのほかの部分や隔壁に大きな応力をつたえないために,シール部材の入る部分の寸法を確保したまま,取り付け板と隔壁の開放端でふたを強固に挟持でき,ふた全体やふたに配された軸受,隔壁を変形させず,気密性と動作特性の信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0019】

また,シール部材が取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを,ステータとシール部材との間に配したものである。

【0020】

隔壁とステータとの組立品と取り付け板の組立の際に,通常,隔壁の円筒部外周にシール部材をはめた後,取り付け板の円筒段差部にシール部材を挿嵌する。

このとき,取り付け板の円筒段差部コーナーにシール部材が巻き込まれたり,前記コーナーのR部にシール部材が食い込んで気密性が低下する危険があるが,ステータの取り付け板側面にバックアップリングを形成することによって,取り付け板円筒段差部の前記コーナーのR部より深くシール部材を挿入することが可能で,かつ,はみ出し隙間も小さくすることができるため,組立時にシール部材が取り付け板の円筒段差部コーナーに巻き込みまれたり,前記コーナーRに食い込むことを防止でき,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0021】

【発明の実施の形態】

本発明の遮断弁は,励磁コイルを有するステータと,前記ステータの内側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁と,流体室に取り付け可能で前記隔壁の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記隔壁の円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記隔壁の内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,前記隔壁は,開放端につばを有し,前記つばを前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成されたものである。

【0022】

そして,シール部材の圧縮率は剛体製の隔壁の円筒部外径と剛体製の取り付け板の段差部内径で決定され,隔壁と取り付け板の軸方向の位置の微小な変動にはほとんど影響ず,組立時にかしめ部の隙間発生などによる隔壁と取り付け板との若干の軸方向の位置ずれが発生した場合や,長期間使用している間に腐食や熱膨張などによって隔壁と取り付け板との固着のゆるみなどが発生した場合でも,シール部材の圧縮率はほとんど影響を受けず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0023】

また,本発明の遮断弁は,上記特徴に加え,隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段と,前記隔壁の開放端に嵌挿され中心に軸受を配設した合成樹脂製のふたを有し,前記ふたの外周部を前記つばと前記取り付け板段差部の底面とで挟んで保持したものである。

【0024】

そして,ふたと一体的に隔壁の開放端側の軸受を容易に配置できるとともに,温度変化によるふたの膨張収縮でシール部材の圧縮率が影響を受けず,かつ,隔壁は付勢手段で付勢されているので,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるまず,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0025】

また,本発明の遮断弁は,上記ふたつの特徴に加え,付勢手段は隔壁とステータの軸方向の相対位置を規制するよう形成され,隔壁の開放端と取り付け板段差部底面と挟まれるふたの挟持部に,変形することによってふたの取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成されたものである。

【0026】

そして,隔壁とふたとステータと付勢手段の組み付けの際に,付勢手段で隔壁とステータの軸方向の相対位置が規制されて隔壁の円筒部外周でステータから突出する部分の長さが規制され,シール部材が軸方向に圧縮を受けることによって過圧縮状態になり気密性が劣化することを防止できる。また,組付け時に,ふたの挟持部の突起またはリブ状の寸法吸収部が,付勢手段の付勢力で選択的に変形し,ふたのほかの部分や隔壁に大きな応力をつたえないために,シール部材の入る部分の寸法を確保したまま,取り付け板と隔壁の開放端でふたを強固に挟持でき,ふた全体やふたに配された軸受,隔壁を変形させず,気密性と動作特性の信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0027】

また,本発明の遮断弁は,上記特徴に加え,ステータとシール部材との間に配され,前記シール部材が取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを有するものである。

【0028】

そして,隔壁とステータとの組立品と取り付け板の組立の際に,通常,隔壁の円筒部外周にシール部材をはめた後,取り付け板の円筒段差部にシール部材を挿嵌する。このとき,取り付け板の円筒段差部コーナーにシール部材が巻き込まれたり,前記コーナーのR部にシール部材が食い込んで気密性が低下する危険があるが,ステータの取り付け板側面にバックアップリングを形成することによって,取り付け板円筒段差部の前記コーナーのR部より深くシール部材を挿入することが可能で,かつ,はみ出し隙間も小さくすることができるため,組立時にシール部材が取り付け板の円筒段差部コーナーに巻き込みまれたり,前記コーナーRに食い込むことを防止でき,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0029】

【実施例】

以下,本発明の実施例について図面を用いて説明する。

【0030】

(実施例1)

図1,図2,図3はそれぞれ本発明の実施例1の遮断弁の開弁状態,遮断動作中,閉弁状態の断面図である。

【図1】

file_3.jpgMONG 42 a 635 Sate a wet 7] 8 E i] wrist of shy be 49 BRIA $8 ULERY 40 ATS 89 RAL (ABR 47 Fase 0 Myo et Ee 49 ate 1 Babee (PBR) 5s 9 62 sth RAEI 56 atk st YE Sle at【図2】

file_4.jpg【図3】

file_5.jpgUh =【0031】

図1において,概ね糸巻き状のコイルボビン41に導線42が巻線された励磁コイル43と,外周に円筒部を有し内周に櫛歯状の磁極を持った第1の電磁ヨーク44と,この電磁ヨーク44との間で励磁コイル43を挟持するように配された概ね円盤状で内周に櫛歯状の磁極を持った第2の電磁ヨーク45とのセットが2組,互いの第2の電磁ヨーク45の円盤部を接触させて配されステータ46を形成している。コイルボビン41は合成樹脂製でポリブチレンテレフタレート(PBT)のような耐熱性があり電気絶縁性の良好なものが望ましい。

【0032】

第1の電磁ヨーク44および第2の電磁ヨーク45は,低炭素鋼板,電磁軟鉄板または硅素鋼板製などの鋼板製で,表面に亜鉛メッキやアルミニウムメッキ,クロム酸処理膜等の防錆処理を施されているか,もしくは電磁ステンレス鋼板製で,経済的には亜鉛メッキ鋼鈑などのプリメッキ鋼鈑が望ましい。第1の電磁ヨーク44と第2の電磁ヨーク45の櫛歯状の磁極は所定の隙間を持って噛合し,また2組のセットの櫛歯は,回転方向に他のセットの櫛歯のほぼ隙間部に位置するよう配置されている。

【0033】

ステータ46の内側に同軸に,2段の底47a,47bと,大小の円筒部47c,47d,大径の円筒部47cの開放端につば47eを有するなべ状に絞り成形された嵌通孔のない金属性の隔壁47が配されている。隔壁47の材料は,非磁性ステンレス鋼鈑,銅合金,アルミニウム合金,合成樹脂,セラミックスなどの剛体が選択可能であるが,耐腐食性,強度,耐クリープ,薄肉加工性などの理由から,オーステナイト系ステンレス鋼鈑を絞り加工したものが最適であり,絞り加工後固溶化熱処理を施し,残留する内部応力と結晶粒の微細化を除去したものが望ましい。

【0034】

隔壁47の小径の円筒部47dなべ側面内側には,中心孔48aを有する合成樹脂製の第1の軸受48が嵌挿されている。隔壁47の円筒部47dと第1の軸受48は締まり嵌めで嵌合している。第1の軸受48の嵌挿部48bと中心孔48aとの間には,薄肉化した波紋状の応力緩和部48cが形成されている。

【0036】

隔壁47の大径の円筒部47cのなべ側面の開放端側には,第2の軸受け49a,側面に円筒部49b,外周につば部49cを同軸に有する合成樹脂製のふた49が,つば部49cを隔壁47のつば47eに当接して嵌挿されている。隔壁47の円筒部47cとふた49の嵌挿部49eは締まり嵌めで嵌合している。ふた49の嵌挿部49eと第2の軸受け49aとの間には,薄肉化した波紋状の応力緩和部49dが形成されている。

【0037】

このふた49の材料としては第1の軸受48同様ポリアセタールが最適である。隔壁47の円筒部47cとふた49の嵌挿部49eとの締まり嵌めの嵌め合いは,後述する別の固定手段があるため,また円盤部49fの波打ちを防止するために比較的ゆるめでよく,例えば隔壁47の円筒部47cの内径が18mm である場合はふた49の嵌挿部49eの外径は18.02~18.08程度が適切である。ふた49の円筒部49bの内面には中心軸に平行な凸状のリブ50が,円周上で180°離れた2カ所に形成されている。

【0038】

隔壁47の内側には,円周方向に分極着磁された円筒形の永久磁石51と,一方の端に送りネジ52を形成された回転軸53と永久磁石51と回転軸53を同軸に保持するスリーブ54とで構成されたロータ55が,回転軸53の送りネジ52側端をふた49の第2の軸受け49aに,逆の端を第1の軸受48の中心孔48aに回転可能に緩挿されて配されている。

【0039】

流体室56に取り付け可能な取り付け板57は,中央に中心孔57aと隔壁47の大径の円筒部47cの外径より若干大きな内径を持った円筒状段差部57bを形成され,外周部の2カ所に爪状の嵌合部57cを形成されている。段差部57bには隔壁47の大径の円筒部47cの端部が挿入され,ふた49の円筒部49bが中心孔57aを貫通して流体室56側に突出し,円筒部47cの外周と段差部57bの内周との間には,合成ゴム製Oリングなどの弾性体シール部材58が隔壁47の中心軸に対して円周方向に圧縮されて配されている。ふた49のつば部49cは,取り付け板57の段差部57bの底面57dと隔壁47のつば47eとに挟まれて保持されている。

【0040】

取り付け板57の隔壁47側平面にはステータ46が当接して配されていて,このステータ46と隔壁47を押しつけて取り付け板57との間に挟み込んで,両端を取り付け板57の嵌合部57cに嵌合されて,概ねコの字形状の支持フレーム59(付勢手段)が配されている。支持フレーム59にはステータ46に係合可能な係合部59bが形成され,ステータ46の回転を防止している。

【0041】

なお,この例では係合部59bは背面から見ると凸字形状であり,先端部を電磁ヨーク44に開口した孔に差し込んで係合し,凸字の段差部で電磁ヨーク44を取り付け板57側へ付勢している。ステータ46とシール部材58との間には,シール部材58が取り付け板57の段差部57bから脱落することを防止するバックアップリング60が配されている。取り付け板57,支持フレーム59の材質は表面処理された鋼板,ステンレス鋼板,銅合金板,アルミニウム合金板など耐ガス性,耐腐食性と,強度を持った剛体材料であり,経済的理由から表面処理された鋼板が選択しやすい。

【0042】

流体室56内に配された移動体61は,中心孔61aが回転軸53の送りネジ54に螺合し,ステータ46側に概ね円盤状のバネ受け61bを形成され,他端に径の太い係合リング部61cを形成され,それらの間に径の細い円筒部61dを形成されている。バネ受け61bの外周には,ふた49のリブ50と係合可能な凹状部61e(図示せず)が,円周上で90°の間隔に4カ所に成形されている。この凹状部61eがリブ50と係合することで,移動体61と軸受49との回転が防止され,送りネジ54の回転動作が移動体61の前後動作に変換される。移動体61の材料は,ポリアセタール(POM),ポリアミド(PA)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末や黒鉛粒子を配合された各種合成樹脂などの,自己潤滑性を有する合成樹脂が選択可能であるが,摩擦係数の低さや経済的理由からポリアセタールが最適である。

【0043】

弁体62は,流体室56内に形成された弁座65に当接可能な概ね円盤状で合成ゴムなどの可撓体性の弁シート63と,弁シート63のステータ46側面に当接して配された合成樹脂など剛体製の弁シート保持部材64とで構成されている。弁シート63は貫通孔がなく,外周に係合リング部63aを形成し,弁シート保持部材64を抱き込むようにして遊嵌している。

【0046】

そして,この移動体61と弁体62とで弁機構を構成している。

【0048】

次にこの実施例1の遮断弁の動作,作用について説明する。

【0049】

ガスの使用状態が異常でなく,各種センサーからの信号が危険を示していない時,マイコンメータの制御部(ここまで図示せず)からの通電はなく,遮断弁は図1に示したように移動体61はステータ46側にあり,弁体62は弁座65から離れた開弁状態を保持し,ガスが流通可能である。

【0050】

ガスの使用状態が異常であるか,各種センサーからの信号が危険を示している時,マイコンメータの制御部は励磁コイル43の各導線42に位相差を持ったパルス状電流を印加し,ロータ55を正回転させる。移動体61は凹状部61eがリブ50と係合し回転を防止されているため,ロータ55に連動した送りネジ54の回転動作は移動体61の前後動作に変換され,移動体61と係合している弁体62は,弁シート63が弁座65に当接する位置に移動し,図2に示した状態になる。さらに移動体61が弁座65側に前進すると,コイルスプリング66がより圧縮され,弁シート保持部材64の円筒部64b先端と移動体61のバネ受け61bとが当接し,弁シート63が撓み,圧縮され,ついに移動体61の反発力が送りネジ54の推力より大きくなり,ロータ55の回転が停止する。こうして,弁体62は弁座65にコイルスプリング66で付勢され,ガスが遮断される。この閉弁状態の遮断弁を図3に示した。

【0051】

この後,マイコンメータの制御部が通電を停止しても,ロータ55は保持トルクのため状態を保持し,したがって弁体62は弁座65にコイルスプリング66で付勢された閉弁状態を保持する。

【0052】

各種センサーからの信号から危険が解除され復帰可能とマイコンメータの制御部が判断した場合や,ガス利用者が危険状態を復旧し,メータやリモートコントロール盤に設けられた復帰スイッチを操作した場合,ガス供給業者などが通信による遠隔復帰命令を発信した場合などには,マイコンメータの制御部は励磁コイル43の各導線42に逆位相差を持ったパルス状電流を印加し,ロータ55を逆回転させる。すると送りネジ54に送られて移動体61はステータ46側に移動し,弁体62は弁座65から離脱し,ガスが流通可能になる。移動体61はさらにステータ46側に移動し,ついに移動体61がふた49に当接し移動下死点となってロータ55の回転が停止する。この後マイコンメータの制御部が通電を停止しても,ロータ55は保持トルクのため状態を保持し,図1に示した開弁状態を保持する。

【0054】

本実施例の遮断弁は,弾性体シール部材58を隔壁47の円筒部47c外周と取り付け板57段差部57b内周との間に円周方向に圧縮して配しているため,シール部材58の圧縮率は隔壁47の円筒部47c外径と取り付け板57の段差部57b内径で決定され,隔壁47と取り付け板57の軸方向の位置の微小な変動にはほとんど影響されない。そして,組立時に嵌合部57cの隙間発生などによる隔壁47と取り付け板57との若干の軸方向の位置ずれが発生した場合や,長期間使用している間に腐食によって嵌合部57cがゆるみ隔壁47と取り付け板57との固着のゆるみなどが発生した場合や,ふた49のつば部49cのクリープ変形によって,取り付け板57の段差部57bの底面57dと隔壁47のつば47eとに隙間を生じた場合でも,シール部材58の圧縮率はほとんど影響を受けず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0055】

また,隔壁47の大径の円筒部47cの開放端に中心に軸受49aを配された合成樹脂製のふた49を嵌挿し,このふた49の外周のつば部49cを隔壁47の開放端のつば47eと取り付け板57段差部57bの底面57dとで挟んで保持し,この隔壁47を支持フレーム59(付勢手段)で取り付け板57の方向に付勢しているので,ふた49と一体的に隔壁47の開放端側の軸受49aを容易に配置できるとともに,温度変化によるふた49の膨張収縮でシール部材58の圧縮率が影響を受けず,かつ,隔壁47は支持フレーム59(付勢手段)で取り付け板57の方向へ付勢されているので,温度変化によるふた49の膨張収縮で隔壁47と取り付け板57との組付けがゆるまず,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0056】

また,シール部材58が取り付け板57段差部57bから脱落することを防止するバックアップリング60を,ステータ46とシール部材58との間に配しているので,取り付け板57段差部57bのコーナー57eのR部より深くシール部材58を挿入することが可能で,かつ,取り付け板57の段差部57bとバックアップリング60との径方向の隙間すなわちはみ出し隙間も小さくすることができるため,組立時にシール部材60が取り付け板57の段差部57bコーナー57eに巻き込みまれたり,コーナー57eのR部に食い込むことを防止でき,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0057】

なお,図1において,励磁コイル43,第1の電磁ヨーク44,第2の電磁ヨーク45のセットは2セットとしたが,3セットでも,より多数でもよい。また,ステータ46,隔壁47は支持フレーム59で取り付け板57に嵌着するとしたが,支持フレームがなく相互に溶接で固定されていてもよい。ただし,この場合はふた49のつば部49cが熱ストレスによる膨張を吸収してクリープ変形するので注意が必要である。また,ふた49にリブ50を設け,移動体61に凹状部61eを設けるとしたが,第2の軸受に溝を設け,移動体に凸状部を設けて係合させ回転防止手段としてもよく,取り付け板もしくは第2の軸受に中心からオフセットした棒を突出させ,移動体に穴もしくは溝を形成し係合させることによって回転防止手段としてもよい。また,スラスト軸受は滑り軸受であるスラストワッシャ67,68としたが,ボールベアリングなどの転がり軸受でもよい。ただし,マイコンメータの遮断弁の場合は,長期間にわたって開弁静止状態で放置されることが多いため,潤滑油の使用は好ましくない。また,直動機構は送りネジ52と移動体61の係合部とのネジ機構としたが円筒カム機構でもよく,送りネジ52は回転軸53に形成しているが,回転軸から減速機構を経て直動機構へ入力してもよい。また,弁体62と移動体61とは別部品としたが,一体的に構成されてもよい。弁シート63は弁シート保持部材64を抱き込んでいるとしたが,中央で嵌合してもよく,弁シート保持部材に中心軸を形成して弁シートを気密に貫通させ別の固定部材で締結してもよい。

【0058】

(実施例2)

図4は本発明の実施例2の遮断弁の開弁状態の断面図である。

【図4】

file_6.jpg【0059】

ステータ46の内側に,2段の底と,大小の円筒部47c,47dと,大径の円筒部47cの開放端につば47eを有する貫通孔のないなべ状に成形された隔壁が47配されている。隔壁47の小径の円筒部47d内面に転がり軸受である第1の軸受73が配されている。隔壁47の大径の円筒部47cの開放端には中央に転がり軸受である第2の軸受71を有する合成樹脂製のふた74が嵌挿されている。ふた74には中心軸からオフセットしてピン75が配されている。隔壁47の内部には,送りネジ77をふた74から突出させて,ロータ76が配されている。

【0060】

流体室56に取り付け可能な取り付け板78は,中央に中心孔78aと隔壁の大径の円筒部47cの外径より若干大きな内径を持った円筒状段差部78bを形成され,段差部78bには隔壁47の大径の円筒部47cの端部が挿入され,ふた74の円筒部74bが流体室56側に中心孔78aを貫通して,円筒部47cの外周と段差部78bの内周との間には,合成ゴム製Oリングなどの弾性体シール部材58が隔壁47の中心軸に対して円周方向に圧縮されて配されている。ふた74のつば部74cには,取り付け板78の段差部78bの底面78dに向かって突出した小さい突起状の寸法吸収部79が形成され,つば部74cは,取り付け板78の段差部78bの底面78dと隔壁47のつば47eとに挟まれて保持されている。

【0061】

図5に本発明の実施例2の遮断弁のふた74の斜視図を示した。(a)は寸法吸収部79aが複数の小さい突起である場合,(b)は寸法吸収部79bが細い円周リブである場合の例である。

【図5】

file_7.jpg【0062】

ステータ46の外側に隔壁47がステータ46の外側に突出しすぎないよう,軸方向の相対位置を規制して形成された金属性の支持板72(付勢手段)が配され,取り付け板78とステータ46の各電磁ヨークと支持板72(付勢手段)とは,それぞれ相互に溶接で固着されている。ステータ46とシール部材58との間には,シール部材58が取り付け板78の段差部78bから脱落することを防止するバックアップリング60が配されている。そして,前記支持板72(付勢手段)によって軸方向の寸法が規制されたとき,このバックアップリング60と隔壁47のつば47eとの間に一定の軸方向寸法を有するシール部材58を収納可能なハウジングが形成される。

【0063】

このため,シール部材58が軸方向に無理な圧縮を受けることがなく過圧縮状態になりにくいため,圧縮永久ひずみを発生して気密性が劣化することを防止できる。

【0064】

隔壁47とふた74とシール部材58とバックアップリング60とステータ46と支持板72(付勢手段)を組み立てたとき,ステータ46の取り付け板78との当接面46aからふた74の寸法吸収部79までの軸方向長さは,取り付け板78の段差部78bの深さより若干長くなっていて,前記隔壁47等の組立品をふた74に挿入した際に,この寸法吸収部79の先端だけが選択的に変形しながら組み付けられ,その他の部分に大きな応力を伝えない。

【0065】

このため,シール部材58の入る部分の寸法を確保したまま,取り付け板78と隔壁47の開放端でふた74を強固に挟持でき,ふた74の寸法吸収部79以外の部分や隔壁47に大きな応力をつたえないために,ふた74全体やふた74に配された第2の軸受71,隔壁47を変形させず,気密性と動作特性の信頼性を持った遮断弁を実現できる。

【0066】

弁体80は弁シート81と弁シート保持部材82で構成され,弁体80の凹部に弁シート保持部材82の凸部が挿着されている。弁シート保持部材82のロータ46側には送りネジ77と螺合可能な雌ねじ82aと,ピン75と係合可能なガイド溝82bが形成されている。

【0069】

このように,実施例2の遮断弁は,シール部材58が軸方向に圧縮を受けることによって過圧縮状態になり気密性が劣化することを防止でき,また,シール部材58の入る部分の寸法を確保したまま,取り付け板78と隔壁47の開放端でふた74を強固に挟持でき,ふた74全体やふた74に配された第2の軸受71,隔壁47を変形させず,気密性と動作特性の信頼性を持った遮断弁を提供することができる。

【0070】

なお,図4において,第1の軸受73,第2の軸受71は転がり軸受としたが,滑り軸受でもよく,第2の軸受71はふた74と一体的に成形されていてもよい。また,支持板72(付勢手段)は金属性としたが合成樹脂製でもよく,ステータ46に溶接されているとしたが,嵌合でもよく,取り付け板78に係合してもよい。取り付け板78とステータ46の各電磁ヨークと支持板72(付勢手段)とは,それぞれ相互に溶接で固着されているとしたが,互いに嵌合していてもよく,支持板72などの付勢手段が取り付け板78に嵌合することによって保持されていてもよい。また,回転防止手段であるピン75は第2の軸受72と一体に形成してもよい。

【0071】

【発明の効果】

以上のように本発明によれば,貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁と,流体室に取り付け可能でこの隔壁の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,この隔壁の円筒部外周とこの取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮して弾性体製のシール部材を配したため,シール部材の圧縮率は剛体製の隔壁の円筒部外径と剛体製の取り付け板の段差部内径で決定され,隔壁と取り付け板の軸方向の位置の微小な変動にはほとんど影響されない。そして,組立時にかしめ部の隙間発生などによる隔壁と取り付け板との若干の軸方向の位置ずれが発生した場合や,長期間使用している間に腐食や熱膨張などによって隔壁と取り付け板との固着のゆるみなどが発生した場合でも,シール部材の圧縮率はほとんど影響を受けず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することができるといった有利な効果を有する。

【0072】

また,隔壁の開放端に中心に軸受を配された合成樹脂製のふたを嵌挿し,このふたの外周部を隔壁の開放端と取り付け板段差部の底面とで挟んで保持し,この隔壁を付勢手段で取り付け板の方向に付勢したため,ふたと一体的に隔壁の開放端側の軸受を容易に配置できるとともに,温度変化によるふたの膨張収縮でシール部材の圧縮率が影響を受けず,かつ,隔壁は付勢手段で付勢されているので,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるまず,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができるといった有利な効果を有する。

【0073】

また,付勢手段は隔壁とステータの軸方向の相対位置を規制するよう形成され,前記ふたの挟持部に変形することによってふたの取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成したため,隔壁とふたとステータと付勢手段の組み付けの際に,付勢手段で隔壁とステータの軸方向の相対位置が規制されて隔壁の円筒部外周でステータから突出する部分の長さが規制され,シール部材が軸方向に圧縮を受けることによって過圧縮状態になり気密性が劣化することを防止できる。また,組付け時に,ふたの挟持部の突起またはリブ状の寸法吸収部が,付勢手段の付勢力で選択的に変形し,ふたのほかの部分や隔壁に大きな応力をつたえないために,シール部材の入る部分の寸法を確保したまま,取り付け板と隔壁の開放端でふたを強固に挟持でき,ふた全体やふたに配された軸受,隔壁を変形させず,気密性と動作特性の信頼性を持った遮断弁を提供することができるといった有利な効果を有する。

【0074】

また,シール部材が取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを,ステータとシール部材との間に配したため,取り付け板円筒段差部の前記コーナーのR部より深くシール部材を挿入することが可能で,かつ,はみ出し隙間も小さくすることができるため,隔壁とステータとの組立品と取り付け板の組立の際に,シール部材が取り付け板の円筒段差部コーナーに巻き込みまれたり,前記コーナーRに食い込むことを防止でき,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができるといった有利な効果を有する。」

(2)  前記第2の2の本件発明の特許請求の範囲及び前記(1)の本件明細書の発明の詳細な説明によれば,本件発明は,以下のようなものであるということができる。

従来の遮断弁(甲2)は,鍔付きカップ状のケーシング6の外周にステータ4を装着し,弾性シール部材8は,アウターブッシュ3とケーシング6と共に,段付きフランジ2と平板フランジ7とでスラスト方向に挟み込まれていて,弾性シール部材8の圧縮率は段付フランジ2の段深さに頼っているが,段付きフランジ2と平板フランジ7とが充分にかしめられていることが前提になっているため,

① かしめ工法においては,時にかしめ前の加圧が不充分で,かしめ部に隙間が生じることがあり,弾性シール部材8がスラスト方向に圧縮されている場合は圧縮率が不充分になり,長期間の使用中に気密性が劣化してくることがあるという課題(段落【0009】),

② かしめ部は母材が大きく変形されるため,かしめ時に表面処理膜が剥離したり,ひび割れている場合が多く,さらには,段付きフランジ2と平板フランジ7との接触部等は水分が残存しやすく,長期の使用中に段付きフランジ2と平板フランジ7とのかしめ部や接触部が腐食して,段付フランジ2から平板フランジ7が浮き上がり,弾性シール部材8の圧縮率が不充分になり,長期間の使用中に気密性が劣化してくることがあるという課題(段落【0010】),

③ 弾性シール部材8と合成樹脂製のアウターブッシュ3とケーシング6とを,同時に段付きフランジ2と平板フランジ7とで挟み込んでいるため,温度変化によるアウターブッシュ3の膨張収縮で段付きフランジ2と平板フランジ7とのかしめが緩み弾性シール部材8の圧縮率が不充分になったり,アウターブッシュ3が円周方向に膨張して弾性シール部材8を過圧縮状態にして圧縮永久ひずみを促進し,長期間の使用中に気密性が劣化してくることがあるという課題(段落【0011】),

を有していたところ,本発明はかかる従来の課題に鑑み,長期の使用においてシール部材の圧縮率がほとんど変化せず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することを目的とする(段落【0012】)。この目的を達成するため,請求項1ないし4に記載された構成とすることにより,

ア 本件発明1の効果として,シール部材の圧縮率は剛体製の隔壁の円筒部外径と剛体製の取り付け板の段差部内径で決定され,隔壁と取り付け板の軸方向の位置の微小な変動にはほとんど影響されず,組立時にかしめ部の隙間発生等による隔壁と取り付け板との若干の軸方向の位置ずれが発生した場合や,長期間使用している間に腐食や熱膨張などによって隔壁と取り付け板との固着のゆるみなどが発生した場合でも,シール部材の圧縮率はほとんど影響を受けず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる(段落【0013】,【0014】,【0071】),

イ 本件発明2の効果として,ふたと一体的に隔壁の開放端側の軸受を容易に配置できるとともに,温度変化によるふたの膨張収縮でシール部材の圧縮率が影響を受けず,かつ,隔壁は付勢手段で付勢されているので,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるまず,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる(段落【0015】,【0016】,【0072】),

ウ 本件発明3の効果として,隔壁とふたとステータと付勢手段の組付けの際に,付勢手段で隔壁とステータの軸方向の相対位置が規制されて隔壁の円筒部外周でステータから突出する部分の長さが規制され,シール部材が軸方向に圧縮を受けることによって過圧縮状態になり気密性が劣化することを防止でき,また,組付け時に,ふたの挟持部の突起またはリブ状の寸法吸収部が,付勢手段の付勢力で選択的に変形し,ふたのほかの部分や隔壁に大きな応力を伝えないために,シール部材の入る部分の寸法を確保したまま,取り付け板と隔壁の開放端でふたを強固に挟持でき,ふた全体やふたに配された軸受,隔壁を変形させず,気密性と動作特性の信頼性を持った遮断弁を提供することができる(段落【0017】,【0018】,【0073】),

エ 本件発明4の効果として,取り付け板円筒段差部の前記コーナーのR部より深くシール部材を挿入することが可能で,かつ,はみ出し隙間も小さくすることができるため,隔壁とステータとの組立品と取り付け板の組立の際に,シール部材が取り付け板の円筒段差部コーナーに巻き込みまれたり,前記コーナーRに食い込むことを防止でき,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができる(段落【0019】,【0020】,【0074】),

という効果を奏するものであるということができる。

2  甲1発明について

(1)  甲1(特開平5-71655号公報)には,以下の記載がある。

「【請求項1】 回転軸(28)の左端部にリードスクリュー(28a)を形成し,ロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するように非磁性材の薄板パイプ(38)を配設した正逆回転可能なモータDと,このモータDの取付板(23)との間に装着されたスプリング(24)により付勢されて弁座(21)に密着する弁体(22)と,先端部(25a)がこの弁体(22)の保持板(22a)に固定され,前記リードスクリュー(28a)と螺合して,左右に移動する弁体移動手段25とからなることを特徴とするモータ駆動双方向弁。

【請求項2】 請求項1記載のモータ駆動双方向弁において,外面に操作用溝(140b)を有するとともに,内面には回転軸(28)の先端溝(28b)との係合用突起(140a)を有し,外周面にはパッキン溝(140C)を備えた外部操作手段(40)を設け,この手段(40)を取付板(33)に延設した段差部(33a)に内接させるとともに,パッキン溝(140C)にOリング(41)を嵌装し,かつ,スプリング(42)を介して軸受保持盤(32)に弾性連結したことを特徴とするモータ駆動双方向弁。

【請求項3】 弁体移動手段(25)が,その中央貫通孔(25g)の内周面後端部にモータ回転軸(28)のリードスクリュー(28a)と螺合する雌形スクリューねじ(25e)を有し,そのフランジ部(25C)にモータ取付板(23)に直立する回り止め棒(27)の挿通孔(25f)を有するフランジ付円筒体であることを特徴とする請求項1又は2記載のモータ駆動双方向弁。

【請求項4】 請求項2記載のモータ駆動双方向弁において,気密用薄板パイプ(38)を,その内外面がそれぞれモータDの軸受保持盤(32)外周面及びステータヨーク(37)の内周面に接するように配設し,パイプ(38)両端部,両側取付板(23),(33)及びステータヨーク(37)により形成される空隙をOリング等のシール材(39)で嵌装することにより,薄板パイプ(38)を気密固定するとともに,外部操作手段(40)の外周面(140C)に設けたパッキン溝(140d)にOリング(41)を嵌着することにより,モータ(D)外部へのガス漏出を防止したことを特徴とするモータ駆動双方向弁のシール構造。

【発明の詳細な説明】

【0001】

【産業上の利用分野】この発明は,正逆回転可能なモータによる回転運動を,弁体移動手段によって左右双方向の直線運動に変換し,弁体を弁座に密着又は弁座から離隔せしめるモータ駆動双方向弁における流体特にガス雰囲気に対するシール構造に関する。

【0002】

【従来の技術】従来,この種の装置のシール構造としては図3に示される構成例のものがある。すなわち,図3はガス遮断時のガス遮断装置の要部断面を示すもので,1はガス供給管路中の弁座で,弁体2の保持板2aとゴム材等の弾性材で形成したシール弁2bから構成されている。そして,弁体2は,ガス通路の側壁の開口(図示していない)に外側から取り付けられたホルダ3に,スプリング4を介して取り付けられており,該スプリング4は弁2を弁座1に押し付ける方向に付勢されている。また,弁体2の中央部にはリードスクリュー5の先端部6が貫通した後,Eリング7,7で挟持するようにして連結されている。リードスクリュー5は前記ホルダ3の貫通孔8を貫通して流体通路外側に延設され,その中程にはスクリューねじ9が形成されている。10はロータで内周面の雌形スクリューねじ10aがスクリューねじ9と螺合する。11は永久磁石,12は電磁コイル,12aはボビン,13はステータヨーク,14は軸受で15はホルダ3にねじ等で固定されたモータの取付板である。また,15は弾性材で成形されたOリングで,シール板17と共に,ホルダ3に形成された貫通孔8とリードスクリュー5との隙間からのガスの漏出を防止するためのものである。

【図3】

file_8.jpg【0003】上記のように構成されているため,ステータヨーク13とこれに内装されている電磁コイル12とを備えたロータ回転手段Aの制御により,ロータ10と永久磁石11とよりなる回転手段Bが正逆回転し,この回転手段Bと螺合しているリードスクリュー5と弁体2からなる弁体移動手段Cが左右にリニア移動する。これにより,弁体2は弁座1と密着又は弁座1から離隔する。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記のように構成された貫通孔8とリードスクリュー5との間のシール構造では,シール材としてのOリング16は密着状態にあるリードスクリュー5が左右に移動するため,摩擦熱等による経年変化を起して,リードスクリュー5と粘着状態になってしまう。このため,流体遮断装置の負荷が増大し,緊急時におけるガス遮断に即応することができなくなるという問題点が生じる。

【0005】本発明は,このような従来の技術の有していた問題点を解消するため,非磁性材の薄板パイプをステータヨーク内周面及び軸受保持板外周面に接するように配設し,このパイプとその幅方向の両端に嵌装したOリングと,モータの軸端部に設けたOリングとによるシール構造によって,負荷の安定と信頼性の向上を図ったモータ駆動双方向弁とそのシール構造を提供することを目的とする。

【0006】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,第1の発明に係るモータ駆動双方向弁装置は,回転軸28の左端にリードスクリュー28aを形成した正逆回転可能なモータDと,このモータDの取付板23との間に装着されたスプリング24により弁座21に密着する弁体22と,先端部25aがこの弁体22の保持板22aに固定され,前記リードスクリュー28aと螺合して左右に移動する弁体移動手段25とより構成される。また,第2の発明に係る外部操作用円盤装置は,第1の発明に係るモータ駆動双方向弁装置を停電時等の緊急時に,外部から手動等の操作により,弁体22と弁座21に密着し又は弁座21から離隔させるために,この弁体移動手段25とは反対側にモータに外部操作手段40を付属させたものである。さらに,第3の発明は,第1又は第2の発明における弁体移動手段25の実施態様である。そして,第4の発明は,第1の発明のモータ駆動双方向弁装置におけるシール構造において,その両端縁が軸受保持盤22aの外周面に接するとともに,残りの部分はステータヨーク37の内周面に接するように,黄銅等の非磁性材の薄板パイプ38を配設し,この薄板パイプ38の両端縁においてモータの取付板23,33及びステータヨーク37,37とにより包囲される隙間にOリング等のシール材39,39を嵌装したものである。

【0007】

【作用】上記構成の弁体移動手段25により,弁体22は弁座21に密着されてガス通路等を遮断してガス流を停止させるとともに,弁座21から離隔保持してガス通路を開放する。また,弁体移動手段25のみがガス通路隔壁内に配置され,他のモータ構成部分はガス通路隔壁外に配置されているから,このモータのステータヨーク37内周面及び軸受保持盤32の外周面に接する薄板パイプ38と,これらにより形成される隙間にOリング等のシール材39を嵌装するシール構造のため,シール材39は移動部分との接触がなくなるので,双安定弁の負荷が安定する。さらには,外部操作手段としての円盤40を備えたことにより,停電中の緊急時には,工具(ドライバ等)により,円盤40を押し込んで,その突起140aを回転軸28の先端溝28bに係合することにより,弁体22と弁座21の開閉を手動操作により行うことが可能になる。

【0008】

【実施例】以下,本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は第1の発明及び第2の発明の実施例を示す要部断面図であって,開弁時を示している。弁体22は,略灰皿状で中央に透孔22bのある弁体保持板22aと,ゴム材等の弾性材で形成され,前記弁体保持板22aに嵌着されたシール板22Cとから構成されている。そして,弁体22は,流通路の側壁の開口(図示していない)に外側から取り付けられた取付板23に,スプリング24を介して取り付けられており,該スプリング24は弁体22を弁座21に押し付ける方向(図面上,左右)に付勢している。また,弁体22の保持板22aの中央孔22bには弁体移動手段25の先端部25aが貫通した後,Eリング26で連結されている。

【図1】

file_9.jpg8 MP Satta ene / ral) (J [ Pat talk c 32 il Ve He: VE g _ ki 7 i【0009】図2は弁体移動手段25の一実施例の要部断面及び上面を示しており,円筒状本体25bの先端部25aには段差部25Cが形成され,下端部(図面上,右端部)にはフランジ部25dが延設されている。そして,該フランジ部25dの凹部には環状盤25eが支持板25hによってねじ25iにて固定支持されている。なお,25fは雌形スクリューねじで,弁体移動手段25の中央貫通孔25gとの連通孔125e内周面に設けられている。

【図2】

file_10.jpg【0010】また,図1において,27は取付板23に固定されている弁体移動手段25の回り止め棒であり,弁体移動手段25のフランジ部25dにおいて,ねじ25iの固定位置に対して直角をなす位置に設けられた透孔125dに遊嵌されている。28は丸棒状の回転軸で,取付板23を左側に貫通して,その先端部のリードスクリュー28aは弁体移動手段25の中央貫通孔25gに設けられている,環状盤25eの雌形スクリューねじ25f(図2参照)と螺合している。したがって,弁体移動手段25はリードスクリュー28aの回転に従動して左右に移動する。29は前記回転軸28と一体のロータで,30はロータ29外周面に配設された分極着磁された永久磁石である。そして,31は回転軸28のための軸受で,この軸受の環状保持盤32を介して取付板23,33に取り付けられている。ここで,取付板33は,第1の発明では一点鎖線にて閉結されており,図の実線部は第2の発明を示している。さらに,34は,環状の永久磁石30の外周面から僅かに離隔するように環装されているロータ回転手段である。該ロータ回転手段34は次のように構成されている。すなわち,コイルボビン35,35に巻回された電磁コイル36,36が前記永久磁石30に対向して環装するように配置され,各電磁コイル36,36はそれぞれステータヨーク37内に収納されている。なお,図示していないが,図3と同様に,ステータヨーク37は,内周縁に複数枚の磁極歯を有する環状内ヨーク板と,この磁極歯と交互に配設される磁極歯を内周縁に有する円筒状外ヨークが上下(図面上,左右)から接合され溶着されている。さらにまた,38は黄銅などの非磁性材の薄板パイプで,その幅方向の両端部38a,38aは前記軸受保持盤32,32の外周面に接し,かつ,その中央部38bがステータヨーク37と接するように嵌装されており,このパイプ38の両端部38a,38aと取付板23,33及びステータヨーク37,37とで包囲される空隙はOリング等のシール材39により嵌装シールされている。そして,取付板23,33をステータヨーク37,37に螺着することによって,軸受31,保持盤32,パイプ38,Oリング39,ステータヨーク37,取付板23,33は一体に固定されて組立てられる。

【0012】本発明に係る上記構成の実施例は次のように動作する。電磁コイル36に所定の制御パルス電圧を印加することにより磁束が発生し,ステータヨーク37,37内に導かれる。これにより発生する磁界とロータ29の外周に環装されている永久磁石30間の電磁作用により,ロータ29がステップ回転させられる。したがって,このロータ29と一体の回転軸28も同時にステップ回転し,そのリードスクリュー28aのスクリューねじと螺合している雌形スクリューねじのある弁体移動手段25がステップ移動する。このため,弁体移動手段25の先端部25aとEリング26により固定されている保持板22aと共に,弁体22が左方向に移動し,弁座21に密着する。また,逆に,上記と反対の制御パルスでリードスクリュー28aを右方向に移動させることにより,スプリング24の付勢力に対抗して弁体22を移動させ,ガス通路を開放して双方向弁を復帰させることができる。

【0013】また,停電時などには,上述のように制御パルスを印加して双方向弁を作動させることができないから,外部操作手段40を,その溝140bにドライバ等の工具又は治具を当てて内部に押し込み,その突起140aを回転軸28の右端溝28bに係合し,回転軸28を回動することにより,弁体22を直接回転して双方向弁を作動させることができる。

【0014】さらに,この双方向弁を開放したとき,ロータ内部にガスの漏入があっても,薄板パイプ38とOリング39及びOリング41によって,モータ駆動双方向弁装置は気密が確保され,装置を通して流通路以外の外部へのガス漏洩が防止される。外部操作手段40のない第1の発明の場合は取付板33が一点鎖線で示されるように閉結されているから,この場合には,薄板パイプ38とOリング39によって,装置外へのガス漏洩が防止されるのである。

【0015】

【発明の効果】以上詳細に説明したように,本発明によれば,次に記載する効果を奏する。弁体移動手段はモータの外側に設け,モータのステータヨーク内周面を非磁性材の薄板パイプで覆うとともに,このパイプの幅方向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定したので,静止部分でのシール構造が得られるようになり,弁体移動手段との摩擦を避けることが可能となったので,Oリングの劣化により負荷が増大するという従来シール構造の問題点が解消されるため,負荷の安定性を保持できるとともに,高い信頼性を実現できる。また,外部操作手段を設けることにより,停電時でも,工具等の使用により,手動で双方向弁の開閉が可能になる。」

(2)  そして,甲1には,前記第2の3(2)ア及びイのとおり,以下の甲1発明1及び甲1発明2の発明が記載されていることは,当事者間に争いがない。

ア 甲1発明1

電磁コイル36とコイルボビン35を配置するロータ回転手段34と,前記ロータ回転手段34のステータヨーク37と接するように嵌装された黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38と,流通路に取り付けられた前記薄板パイプ38の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状の段差部を形成された剛体性の取付板23と,前記薄板パイプ38の円筒部外周と前記取付板23の段差部内周との間に円周方向に圧縮されて嵌装された弾性体製のシール材としてのOリング39と,前記薄板パイプ38の内側に前記ロータ回転手段34に対向して配設されたロータ29と,前記ロータ29と一体の回転軸28に配設された弁体移動手段25と弁体22とで構成され,

前記薄板パイプ38は,両端部38aを有し,前記端部38aを前記Oリング39と共に前記取付板23の段差部に挿入して構成したモータ駆動双方向弁装置。

イ 甲1発明2

電磁コイル36とコイルボビン35を配置するロータ回転手段34と,前記ロータ回転手段34のステータヨーク37と接するように嵌装された黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38と,流通路に取り付けられた前記薄板パイプ38の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状の段差部を形成された剛体性の取付板23と,前記薄板パイプ38の円筒部外周と前記取付板23の段差部内周との間に円周方向に圧縮されて嵌装された弾性体製のシール材としてのOリング39と,前記薄板パイプ38の内側に前記ロータ回転手段34に対向して配設されたロータ29と,前記ロータ29と一体の回転軸28に配設された弁体移動手段25と弁体22とで構成され,

前記薄板パイプ38は,両端部38aを有し,前記端部38aを前記Oリング39と共に前記取付板23の段差部に挿入して構成したモータ駆動双方向弁装置であって,

前記薄板パイプ38の端部38aに嵌装され中心に軸受31を配設した軸受保持盤32を有する,モータ駆動双方向弁装置。

3  取消事由1(本件発明1の容易想到性の認定判断の誤り)について

(1)  相違点1及び2の一体性の認定について

ア 原告は,本件審決が,シール材配設の観点から,本件発明1において,①なべ状の隔壁であること,②その開放端につばがあること,③隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設することとは,技術的に密接な関連があるものと理解すべきであるから,相違点1及び2は併せて検討すべきである旨判断したことについて,本件審決の着目する上記①~③の構成は,互いに技術的関連が希薄であり,単なる独立した構成の寄せ集めにすぎないのであって,なべ状隔壁の後端側の形状については相違点1,前端側の構造については相違点2として,それぞれを別個の相違点として個別に判断すべきである旨主張する。

イ 甲2ないし4について

(ア) 証拠(甲2)によれば,甲2(特開平11-2352号公報)には,概略,次の記載がある。

「【請求項1】 鍔付きカップ状のケーシング(6)を有し,このケーシングの外周にステータ(4)を装着し,前記ケーシングの開口部にアウターブッシュ(3)を嵌着し,このアウターブッシュにスタッド(5)を偏心させて前方に突設し,前記ケーシング内にインナーブッシュ(12)を挿設し,前記アウターブッシュおよび前記インナーブッシュにリードスクリュー(17)をその先端の雄ネジ部(17a)が当該アウターブッシュより前方に突出した状態で正逆方向に回転自在に支持し,このリードスクリューにロータ(16)を前記ステータに対向する形で取り付け,このロータと前記アウターブッシュとの間にスラスト荷重用ころがり軸受(18)を介挿した双方向流体弁モータ(1)において,弾性シール部材(8,28),前記アウターブッシュおよび前記ケーシングを段付きフランジ(2)と平板フランジ(7)とで挟み込んだことを特徴とする双方向流体弁モータのシールド構造。

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,一般家庭のガス供給管路に設置されたガス緊急遮断装置その他の流体遮断装置に適用するに好適なステッピングモータ等の双方向流体弁モータのシールド構造に関し,さらに詳しくは,流体経路上に形成された弁座に対して弁体を移動(前進または後退)させることによって流体経路の開閉動作を行う弁機構に適用しうる双方向流体弁モータのシールド構造に関する。

【0002】

【従来の技術】図9は従来の流体遮断装置の一例を示す断面図である。

【図9】

file_11.jpg【0003】 従来この種の流体遮断装置としては,例えば特開平5-71655号公報(判決注:甲1)に開示されているように,双方向流体弁モータによるリードスクリューの回転運動を弁体の直線運動に変換する機構を具備したものが多用されている。

【0004】 この流体遮断装置では,図9に示すように,ロータ16と一体化されたリードスクリュー17がすべり軸受14,34を介して回転自在に支持されており,リードスクリュー17の先端に弁体25がスプリング33によって常に前方,すなわち弁座26側に付勢された形で取り付けられている。そして,地震発生時などの異常時には,外部入力(通常は電池)によってステータ4の各マグネットワイヤ9に通電してロータ16を正回転させると,リードスクリュー17が正方向に回転し,弁体25がリードスクリュー17側から弁座26側に前進して弁座26に当接することにより,流体経路を閉塞して流体を遮断する。また,これを復元するときには,外部入力によってリードスクリュー17を逆方向に回転させ,弁体25を弁座26側からリードスクリュー17側に後退させ,流体経路を開放して流体の供給を再開する。

【0005】 ところで,この流体遮断装置では,ガス等の流体が外部に漏れないようにするため,要所にOリング35,36,37を嵌着して双方向流体弁モータの流体シールド性を確保していた。

【0006】

【発明が解決しようとする課題】しかし,これではOリング35,36,37を多用することとなるので,部品点数が増えて製造コストが高騰すると同時に,機密性評価箇所が増加して信頼性に乏しくなる。

【0007】 また,双方向流体弁モータを組み立てるには,Oリング35,36,37をその径方向に変形させて嵌着する必要があるので,生産効率を向上させる上での障害となるばかりか,双方向流体弁モータの組立精度が落ちて品質の低下につながる恐れがあるという不都合があった。

【0008】 本発明は,上記事情に鑑み,製造コストを抑制しつつ信頼性および生産効率を高め,品質を改善することが可能な双方向流体弁モータのシールド構造を提供することを目的とする。

【0009】

【課題を解決するための手段】すなわち,本発明は,鍔付きカップ状のケーシング(6)を有し,このケーシングの外周にステータ(4)を装着し,前記ケーシングの開口部にアウターブッシュ(3)を嵌着し,このアウターブッシュにスタッド(5)を偏心させて前方に突設し,前記ケーシング内にインナーブッシュ(12)を挿設し,前記アウターブッシュおよび前記インナーブッシュにリードスクリュー(17)をその先端の雄ネジ部(17a)が当該アウターブッシュより前方に突出した状態で正逆方向に回転自在に支持し,このリードスクリューにロータ(16)を前記ステータに対向する形で取り付け,このロータと前記アウターブッシュとの間にスラスト荷重用ころがり軸受(18)を介挿した双方向流体弁モータ(1)において,弾性シール部材(8,28),前記アウターブッシュおよび前記ケーシングを段付きフランジ(2)と平板フランジ(7)とで挟み込むようにして構成される。

【0015】

【発明の実施の形態】以下,本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。

【0016】図1は本発明が適用された双方向流体弁モータの第1の実施形態を示す断面図…である。

【図1】

file_12.jpgEs a【0017】本発明が適用された双方向流体弁モータ1は,図1…に示すように,鍔付きカップ状のケーシング6を有しており,ケーシング6の外周にはステータ4が装着されている。このステータ4は2個のコイル状のマグネットワイヤ9を具備しており,各マグネットワイヤ9にはそれぞれ外ヨーク10および内ヨーク11が周設されている。また,ケーシング6の開口部には,自己潤滑性のある合成樹脂(例えば,ポリアセタール等)を一体成型したアウターブッシュ3が内接する形で嵌着されており,このアウターブッシュ3は本体31およびスタッド5から構成されている。すなわち,アウターブッシュ3は鍔付きカップ状の本体31を有しており,本体31の円形底面の中心から偏心した部位にはスタッド5が前方(図1左方)に突出する形で一体に形設されている。一方,ケーシング6内には,自己潤滑性のある合成樹脂(例えば,ポリアセタール等)からなるインナーブッシュ12が挿設されている。

【0018】また,アウターブッシュ3およびインナーブッシュ12にはリードスクリュー17がその先端をアウターブッシュ3より前方に突出させた状態で正逆方向に回転自在に支持されており,リードスクリュー17の先端には雄ネジ部17aが形成されている。リードスクリュー17には,マグネットコア15を樹脂13でモールドしたロータ16がステータ4の内側に対向する形で取り付けられており,ロータ16とアウターブッシュ3との間にはスラスト荷重用ころがり軸受としてスラスト玉軸受18が介挿されている。さらに,ロータ16とインナーブッシュ12との間には螺旋バネ30がその前後に位置する2枚のワッシャ22,23に挟まれた形で介挿されている。

【0019】また,アウターブッシュ3の外周には円盤状の段付きフランジ2が嵌合しているとともに,ケーシング6の外周には円環状の平板フランジ7が嵌合しており,これら段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着されて,アウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいる。さらに,段付きフランジ2と平板フランジ7との間には,弾性のある合成樹脂からなる断面円形のシールドリング8が弾性シール部材として前後方向(図1左右方向)に押圧された状態で組み付けられている。

【0020】ところで,この双方向流体弁モータ1は次のようにして簡単に組み立てることができる。なお,この組立作業は軸方向が上下方向(鉛直方向)に一致するようにして行う。

【0021】まず,アウターブッシュ3内にスラスト玉軸受18を載置し,リードスクリュー17を取り付けたロータ16をリードスクリュー17の雄ネジ部17aがアウターブッシュ3より突出するようにスラスト玉軸受18に載置する。その後,ロータ16上にワッシャ22,螺旋バネ30,ワッシャ23を順に載置する。次いで,前記組立品を予めインナーブッシュ12を挿設しておいたケーシング6内に挿設し,ロータ組立品を完成させる。

【0022】一方,平板フランジ7を予め取り付けておいた外ヨーク10および他の外ヨーク10にそれぞれコイル組立品(マグネットワイヤ9とコイルボビンなどからなるもの)を挿設し,この挿設品に内ヨーク11を嵌着し,内ヨーク11同士が背中合わせになるように嵌着(溶接など)し,ステータ4を完成させる。

【0023】最後に,ステータ4にロータ組立品を装着し,ケーシング6の鍔部にシールドリング8を載置し,次に段付きフランジ2を載置し,平板フランジ7と段付きフランジ2を固定すれば,双方向流体弁モータ1が出来上がる。

【0024】このように,双方向流体弁モータ1はその構成部品を単一の方向(軸方向)に組み付けていくだけで組立が完了し,しかも,これをロータ16を中心としたロータ部組立作業とマグネットワイヤ9を中心としたステータ部組立作業とに分け,これらの組立作業を同時に並行して進めることにより,組立に要する時間を大幅に短縮できることから,双方向流体弁モータ1の生産効率を高めることができるとともに,その組立精度ひいては品質を改善することが可能となる。

【0025】本発明が適用された双方向流体弁モータ1は以上のような構成を有するので,この双方向流体弁モータ1をガス緊急遮断装置などの流体遮断装置に適用するには次の手順による。

【0026】まず,図1に示すように,双方向流体弁モータ1に弁体25を螺着し,これを流体遮断装置の筺体27の所定位置に取り付ける。すると弁体25は,筺体27に形成された弁座26に対して所定の間隔をおいて対向するように位置決めされる。そして,正常時においては弁座26と弁体25との隙間を通ってガス等の流体が供給される。この際,段付きフランジ2と平板フランジ7との間にはシールドリング8が設けられているので,流体シールド性は高く,流体が段付きフランジ2と平板フランジ7との隙間を通って外部に漏出してしまうことはない。

【0035】さらに,上述の実施形態においては,段付きフランジ2と平板フランジ7との間に1個の断面円形のシールドリング8を組み付けた双方向流体弁モータ1について説明したが,シールドリング8の個数や形状はこれに限るわけではない。例えば,…2個のシールドリング8を同心円上に配置して組み付けることにより,流体シールド性を一層向上させることもできる。或いはまた,…断面瓢箪形のシールドリング28を採用することにより,2個の断面円形のシールドリング8と同程度の流体シールド性を単一部品で発揮させることも可能である。

【0036】

【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,鍔付きカップ状のケーシング6を有し,このケーシング6の外周にステータ4を装着し,前記ケーシング6の開口部にアウターブッシュ3を嵌着し,このアウターブッシュ3にスタッド5を偏心させて前方に突設し,前記ケーシング6内にインナーブッシュ12を挿設し,前記アウターブッシュ3および前記インナーブッシュ12にリードスクリュー17をその先端の雄ネジ部17aが当該アウターブッシュ3より前方に突出した状態で正逆方向に回転自在に支持し,このリードスクリュー17にロータ16を前記ステータ4に対向する形で取り付け,このロータ16と前記アウターブッシュ3との間にスラスト玉軸受18等のスラスト荷重用ころがり軸受を介挿した双方向流体弁モータ1において,シールドリング8,28等の弾性シール部材,前記アウターブッシュ3および前記ケーシング6を段付きフランジ2と平板フランジ7とで挟み込むようにして構成したので,1箇所の機密性評価箇所を1個の弾性シール部材でシールするだけで済むため,製造コストを抑制しつつ信頼性を高めることができることに加えて,双方向流体弁モータ1の組立はその構成部品を単一の方向に組み付けていくだけで完了し,しかも,この組立作業を分割して所要時間を大幅に短縮できることから,双方向流体弁モータ1の生産効率を高めることができるとともに,その組立精度ひいては品質を改善することが可能となる。」

(イ) そして,甲2には,以下の甲2発明が記載されていることは当事者間に争いがない。

甲2発明

モータ駆動双方向弁装置において,ロータ16を流体シールする,1つの部品で構成された鍔付きカップ状のケーシング6を用い,ケーシング6の鍔部にシールドリング8を載置し,次に段付きフランジ2を載置し,平板フランジ7と段付きフランジ2を固定することで,段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着され,段付きフランジ2と平板フランジ7との間にはシールドリング8が設けられてアウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいること。

(ウ) 甲3発明,甲4発明について

甲3(特開平11-2351号公報)及び甲4(特開平11―2353号公報)には,甲3発明及びこう4発明として,前記3(2)の甲2発明と同様の発明が記載されていることは当事者間に争いがない。

ウ そこで検討するに,まず,甲2発明は,甲1発明が,Oリング等のシール部材を多用することとなるので,部品点数が増えて製造コストが高騰すると同時に気密性評価箇所が増加して信頼性に乏しくなること(甲2の段落【0006】),Oリング等のシール部材を円周方向に変形させて嵌着させる必要があるので生産効率を向上させる上での障害となるばかりか,双方向流体弁モータの組立精度が落ちて品質の低下につながるおそれがあるとの不都合があったこと(甲2の段落【0007】)に鑑みて,鍔付きカップ状のケーシング6を用い,シール箇所を1カ所として,弾性シール部材8を段付きフランジ2と平板フランジ7とで挟み込む(軸方向に圧縮する)構成を採用したものであることが認められる(甲2の段落【0008】,【0009】)。

その上で,本件発明1は,前記1(2)のとおり,甲2発明が,長期間の使用中に,段付きフランジ2と平板フランジ7とのかしめ部や接触部に隙間が生じるなどして,スラスト方向(軸方向)に圧縮されている弾性シール部材8の圧縮率が不充分になり,あるいはアウターブッシュ3が円周方向に膨張して弾性シール部材8を過圧縮状態にして圧縮永久ひずみを促進するなどして,気密性が劣化するとの課題があったこと(本件明細書の段落【0009】~【0011】)に鑑み,長期の使用においてシール部材の圧縮率がほとんど変化せず,気密性に関して高い信頼性を持った遮断弁を提供すべく,シール部材の圧縮方式を軸方向ではなく,円周方向への圧縮方式とし,シール部材58の圧縮率が,隔壁47の円筒部47cの外径と取り付け板57の段差部57bの内径とで決定され,隔壁と取り付け板の軸方向の位置の微少な変動等による影響をほとんど受けないようにし,かつ,隔壁47の開放端につば47eを設け,このつば47eをシール部材58と共に取り付け板段差部57bに挿入したものである(本件明細書の段落【0013】,【0014】,【0021】,【0039】)。

そして,本件明細書,甲19及び27によれば,本件発明1は,上記のとおり,甲2発明において軸方向に圧縮されている弾性シール部材8の圧縮率が不充分になるとの課題を解決するために,シール部材の圧縮方向を円周方向とし,そのためになべ状隔壁(円筒部)と取り付け部材段差部の配置構成を工夫したものであること,なべ状隔壁の開放端につばを設けることによって隔壁開放端の強度が確保できること,さらに,なべ状隔壁の開放端のつばが,遮断弁の組立工程においてOリング等のシール部材の位置を仮決めするストッパーとして機能し,シール部材を適切な位置にセットするのが容易となることや,当該つばが,取り付け板段差部に隔壁開放端を挿入する際に挿入時のガイドとして機能し,隔壁と取り付け板の同軸のずれを規制し,取り付け板段差部への挿入をスムースにするなど,なべ状隔壁(円筒部)及びシール部材の取り付け板段差部への挿入による組立作業が容易となるとの効果を奏するものであることが認められる。このように,本件発明1は,ⅰ)シール部材の円周方向圧縮のためのなべ状隔壁(円筒部)と取り付け部材段差部の配置構成,ⅱ)隔壁開放端へのつばの設置による開放端の強度の確保,ⅲ)隔壁開放端のつば及びシール部材の取り付け板段差部への挿入による組立作業の容易化,との技術的意義を有するものであることが認められる。

そして,つばを設けることによって隔壁開放端部の強度を確保するかどうかという観点と,隔壁開放端のつばの有無によって,シール部材を隔壁と取り付け部材との関係でどのように配設するかの観点とは技術的に関連しているということができる。また,隔壁の形状がパイプ形状の場合にはパイプ両端の強度の確保を考慮する必要があるが,隔壁がなべ形状の場合には,なべ底部分については十分な強度が確保されているとみるべきであり,開放端の端部の強度の確保のみを考慮すれば足りるから,隔壁の形状をどのようにするかの観点と,シール部材をどのように配設するかの観点とは技術的に関連しているということができる。そうすると,本件発明1において,①なべ状の隔壁であること,②その開放端につばがあること,③隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設することとは,技術的に密接な関連があるというべきである。

さらに,前記のとおり,甲2発明は,甲1発明の有する課題を解決するために,甲1発明の薄板パイプ38に代えて,鍔付きカップ状のケーシング6(なべ状隔壁)を用いたものであり,さらに本件発明1は,甲2発明の課題を解決するために,甲2発明のなべ状隔壁を前提として,なべ状隔壁の開放端につばを設置するとともに,隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設し,これらを取り付け板段差部に挿入することによって,シール部材の円周方向への圧縮,なべ状隔壁開放端の強度の確保,組立作業の容易化という,前記ⅰ)~ⅲ)の本件発明1の技術的意義ないし作用効果を有するものであるということができる。そうすると,相違点1に係る本件発明1の構成と相違点2に係る本件発明1の構成は,一体として本件発明1の上記技術的意義を有するものということができるから,本件審決が,本件発明1において,①なべ状の隔壁であること,②その開放端につばがあること,③隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設することとは,技術的に密接な関連があり,相違点1及び2を併せて検討すべきである旨判断したことに誤りはないというべきである。

(2)  容易想到性について

ア 原告は,「なべ状」の隔壁を開示する甲2~4を検討するに当たっては,「なべ状」の隔壁のみに着目すべきであるところ,相違点1に係る構成は,甲2~4記載事項を適用することによって当業者が容易に想到し得るものであること,周知技術としての「つば」を開示する甲7~9を検討するに当たっては,「つば」のみに着目すべきであるところ,相違点2に係る構成は,甲7~9記載の周知技術を適用することによって当業者が容易に想到し得るものであること,甲21~23は,本件審決が認定した本件発明1の前記(1)アの①~③の構成の全てを具備するものであって,甲21~23の電磁ソレノイド駆動式の遮断弁と甲1発明1及び本件発明1のモータ駆動式の遮断弁との技術分野の共通性に鑑みれば,甲1発明1に甲21~23記載事項を適用する動機付けがあるとして,本件発明1は,甲1発明1,甲2~4,甲7~9,甲21~23の各記載事項等に基づいて,当業者が容易に想到し得るものである旨主張する。

イ 相違点1について

前記2のとおり,甲1発明1においては,シール部材であるOリング39は,薄板パイプ38と取付板23によって円周方向に圧縮されており,前記(1)ウでみた本件発明1の技術的特徴であるⅰ)シール部材の円周方向圧縮のためのなべ状隔壁(円筒部)と取り付け部材段差部の配置構成に係る構成が開示されており,また,前記(1)イでみた甲2~4発明の内容に照らすと,隔壁をなべ状にすること自体は,本件出願当時,周知技術であったものと認められる。

したがって,相違点1に係る本件発明1に係る構成は,甲1発明1に上記周知技術を適用することによって,当業者が容易に想到することができるものというべきである。

ウ 相違点2について

(ア) 甲7の記載内容

a 証拠(甲7)によれば,甲7(特開平11-295174号公報)には,概略,以下の記載がある。

「【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,圧力センサに関し,特にセンサエレメントを収容したハウジングとコネクタケースとを具備するとともに,電磁ノイズの影響をなくした絶対圧方式もしくはシールドゲージ圧方式による圧力センサに関する。

【0002】

【従来の技術】本出願人は,流体の圧力を検出する圧力センサとして,圧力検出空間に連通する内部空間と上端に肉薄の立上部を有する金属製のハウジングと,内部空間と内部空間を上下に分離する隔壁と上端に肉薄の立上部を有する円筒形の金属製の圧力ケースと,絶縁性材料からなるコネクタケースとからなり,ハウジングと圧力ケースとコネクタケースを積み重ね,それぞれの立上部をかしめて一体化して形成した内部空間に圧力検出用のセンサエレメントと電気回路とを収容した圧力センサにおいて,ハウジングは内部空間の底部に開口する圧力検出空間に連通する流体導入孔と,底部の圧力導入孔の開口の周囲に設けた環状の突起とを有し,センサエレメントは半導体基板に形成した圧力検出素子とガラス製の上部台座とシリコン製の下部台座と金属製のヘッダとを積み重ねて構成され,圧力ケースは貫通コンデンサを嵌挿する開口を有し,前記センサエレメントのヘッダの底面を前記環状突起上に載置し両者を電気抵抗溶接して気密に溶着固定した圧力センサを特願平9-185141号として出願している。

【0003】このような圧力センサを車載用空気調和機の冷凍サイクルに用いるときには,標高差に基づく大気圧の変動が圧力検出に影響を及ぼし検出圧力に微妙な偏差が生じるそれがあることから,大気圧力の影響を受けない絶対圧方式もしくは参照圧力側が密封されこれを基準として計測するシールドゲージ圧方式などを採用した圧力センサへの要請が高まっている。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】本発明は,このような要請に応えるために,絶対圧力方式もしくはシールドゲージ圧力方式の圧力センサの構造を提供することを目的とする。さらに,本発明は参照圧力側の空間を確実に気密に封止した構造を有する圧力センサを提供することを目的としている。

【0011】

【発明の実施の形態】以下,本発明の第1の実施の形態にかかる圧力センサの構成を図を用いて説明する。本発明にかかる圧力センサの第1の実施の形態について,図1を用いて説明する。図1は圧力センサの構成を示す縦断面図である。

【図1】

file_13.jpg【0012】本発明の第1の実施の態様にかかる圧力センサ1は,ハウジング10と,センサエレメント20と,圧力ケース30と,コネクタケース40と,回路基板50と,ターミナルホルダ70等から構成されている。ハウジング10と,圧力ケース30およびコネクタケース40からなる容器内に,センサエレメント20,回路基板50,回路基板保持部材60,リード52,ターミナルホルダ70,Oリング49等が収納されている。

【0013】ハウジング10は,センサエレメント20,回路基板50,圧力ケース30等を組み込む円筒形状の金属製のケースとして構成され,測定する流体を内部に導入する流体導入孔11と,内部空間の底部13と,該底部に開口した流体導入孔11の周辺に設けた環状の突起12と,内部空間の上方に設けた平坦な上面を有する段部14と,周辺上縁に設けた肉薄の立上部15とを有している。

【0014】センサエレメント20は,圧力を検出する機能を有しており,金属製のヘッダ21と,半導体基板の上面に複数の抵抗をブリッジを形成するように設けたピエゾ素子からなる圧力検出素子22と,ヘッダ21の上面に気密に固定されたシリコン製の下部台座23と,該下部台座23の上面に気密に載置固定されたガラス製の上部台座24とから構成される。ヘッダ21の上面に,前記下部台座23が載置固定され,下部台座23の上面に上部台座24が気密に載置固定され,抵抗が配置された面が上面となるように圧力検出素子22が上部台座24の上面に載置固定されている。ヘッダ21の下部周囲にはつば状の肉薄部が設けられている。

【0020】圧力ケース30は,鉄もしくはステンレス鋼から形成され,ハウジングなどによって構成される内部空間に配置されたセンサエレメント20を外部ノイズから保護するシールド部としての働きと,気密な内部空間を形成する部材としての働きを有している。圧力ケース30は,円板状の底部31と,その周辺から立ち下がる周壁32と,周壁32の先端部を外側に折り曲げたつば部33と,リード引出部を構成する立上部34とを有している。この形状の圧力ケース30には内部に空間35が形成される。さらに,立上部34は中心にリード36が配置されガラス37によって封止されたハーメチックシールを形成している。

【0022】コネクタケース40は,ターミナル71を差し込み固定する樹脂製ケースであり,上部に設けたソケット部41と,下方にたれ下がった周壁42と,周壁42の外側下方に設けた肩部43と,周壁の下端の平坦面44と,ソケット部41の下方に設けたターミナルホルダ用空間45と,ターミナル71を挿通するためのターミナル貫通孔46を有し,空間45内に圧力ケース30の底部と共同してターミナルホルダ70を保持している。このコネクタケース40は,その形状を変更することによって,種々の異なる形状のコネクタに対応することができる。

【0026】シリコンゴムなどからなるOリング49は,外部からの水や湿気等の浸入を防ぐものであり,圧力ケース30のつば部33の上面ととおよびコネクタケース40の平坦面44との間に設けられている。

【0028】次に,リード52を,圧力ケース30のハーメチックシール部のリード36に位置合わせして接続固定し,圧力ケース30のつば部33をハウジング10の段部14の平坦面に載置した後,例えば,電子ビーム溶接によって,つば部33と段部14の平坦面を溶接する。この溶接は高度の真空中で行われるので,内部空間35は真空に保たれる。

【0029】次いで,圧力ケース30上にターミナルホルダ70を配置し,リード36の先端をターミナル71の開口に挿入した後,両者を半田付けする。その後,Oリング49を圧力ケース30のつば部33上に配置し,その上にコネクタケースのターミナル貫通孔46にターミナル71を通してコネクタケース40を載置し,かしめ受部43側へハウジング10の立上部15の上端をかしめてハウジング10とコネクタケース40を固定する。このかしめ部16の境界に接着剤を塗布して確実な固定とする。

【0030】以上の工程によって,圧力センサ1が組み立てられる。この実施の形態では,センサエレメント20のヘッダ21をハウジング11の内部空間の底部13に設けた環状突起12上に載置し,プロジェクション溶接によって溶着固定しているので,ヘッダ21と突起12との溶着が極めて強固なものとなり,気密性に優れた圧力センサを提供することができる。

【0031】また,本実施の形態によれば,ターミナルホルダ70を,圧力ケース30の底部31上に載置し,ターミナル71をリード36へハンダ付けすることによって位置を固定することができ,製造時の工数がかからず,コスト的にも安くすることができる。

【0032】また,本実施の形態によれば,電気回路部を圧力ケース30とハウジング10で完全に遮閉しているので,電源ノイズや電磁ノイズが電気回路部に入り込まない構造にすることができ,これによって,誤動作をなくすことができる。

【0033】なお,かしめ部にOリング49を使用することに加えて,かしめ部の外周をシリコン系接着剤等の防水剤で覆ったので,確実な防水性を持たせることが可能となる。

【0040】図6を用いて本発明の第3の実施の形態を説明する。この実施の形態は,第2の実施の形態に比較して,以下の点に特徴を有している。

① 電子回路基板50のほかに第2の電子回路基板55を設け,この基板55上に基板50から送られてきた電気信号を,PWM信号として出力する信号変換回路を配置した点。

② 圧力ケース30とハウジング10との固着を,圧力ケースのつば部33の平面とハウジング10の段部14に設けた環状突起12’を用いてプロジェクション溶接するようにした点。

③ ターミナルホルダ70を省略してターミナル71をコネクタケース40の貫通孔46に直接埋め込んで保持した点。

④ ターミナル71の下端部と,電子回路基板50に設けたリード52の貫通コンデンサを通過して圧力ケース30上に突出した上端部とを,表面にプリント配線を設けたフレキシブルプリント配線基板76を用いて接続するとともに該フレキシブルプリント配線基板76には基板55から得られるPWM信号を処理する回路が設けられ,リード52の先端とフレキシブルプリント配線基板76の配線および該配線とターミナル71の下端部とを半田付けした点。

⑤ ハウジング10と圧力ケース30の組立体にコネクタケース40を,下端部を内側に折れ曲げたハウジング支持部66を有する円筒状のかしめ部材65を用いてかしめ固着した点。

【図6】            【図7】

file_14.jpg【0042】以下,図7を用いて本発明の第4の実施の形態を説明する。

図7は第4の実施の形態にかかる圧力センサの構成を示す縦断面図である。この実施の形態は,参照内部空間35を,ハウジング10を利用せずに形成した点,および,ハーメチックシールの形状を他の実施の形態に示した形状と異ならせた点に特徴を有している。

【0048】圧力ケース30自体は,図1に示した第1の実施の形態の圧力ケース30と同様に形成されている。しかしながら,内部空間35は,圧力ケース30およびセンサエレメント支持底板37とを溶接することによって形成される。圧力ケース30は,円板状の底部31と,その周辺から立ち下がる周壁32と,周壁32の先端部を外側に折り曲げたつば部33と,リード引出部を構成する立上り部64とを有している。この形状の圧力ケース30には内部に空間35が形成される。さらに,立上り部34には,内管状部材341とつば部を有する外管状部材342の間をガラス37によって封止されたハーメチックシールが嵌め込まれ,外周と立上り部34とをはんだによって気密に封止している。さらに,内管状部材342の貫通穴にはリード52が挿通され,リード52と貫通穴の内壁との間に半田39を流し込んで気密に封止している。

【0052】この後,立上り部34にハーメチックシール部を取り付けた圧力ケース30を,前記リード52に位置が合うようにセンサエレメント支持底板37上に配置し,つば部33と底板37の周辺に設けた平坦面に溶接して圧力センサ本体を組み立てる。この溶接は,電子ビーム溶接,プロジェクション溶接など任意の溶接方法を採用することができる。このようにして得た圧力センサ本体は,ヘッダ21とセンサエレメント支持底板37の管状突起12”との溶接部分を引き剥がす力が働かないので,異なる材質の溶接であっても溶接部分が剥がれることがなくなり,信頼性の高い気密構造を得ることができる。

【0053】次いで,Oリング収容溝212にOリング49bを嵌めた圧力センサ本体の垂下部211を,ハウジング10の流体導入穴11に挿入して位置決めし,圧力センサ本体の上にコネクタケース40をOリング49aを介して載置した後,ハウジング10の立上部15の上端をかしめてハウジング10とコネクタケース40を一体化して圧力センサを組み立てる。」

b そして,甲7には,以下の発明が記載されていることは当事者に争いがない。

「なべ状の圧力ケース30の周壁32の先端部を外側に折り曲げたつば部33を有し,つば部33のハウジング10側を溶接し,つば部33とコネクタケース40の段状部の間でOリング49,49aが押圧された状態で,かしめによりハウジング10の段状部に圧力ケース30の周壁32の先端部を固定すること。」

(イ) 甲8の記載内容

a 証拠(甲8)によれば,甲8(特開平8-183418号公報)には,概略,以下の記載がある。

「【0001】

【産業上の利用分野】本発明は,衝撃から乗員を保護するエアバッグ用ガス発生器に係り,特にその点火手段のシール構造に関する。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】…従来のシール構造においては,スリーブ内周面とスクイブ・エンハンサ外周面間の間隙が狭いために,この部分にシーリング材を均一に流すことが困難であった。そのために,シーリング材中に空洞を生じる虞があり,最悪の場合この空洞が互いに連通し,その結果ガス発生器の気密が保持できなくなるという問題点を有していた。気密が不完全な場合,ガス発生器内部のガス発生剤などが吸湿し,そのためガス発生器の初期の性能が維持できず,ガス発生器の作動時に所望する性能が発揮できなくなるなどの不具合が生じる。

【0004】よって,本発明は,上記従来技術の有する問題点を解消する新規なエアバッグ用ガス発生器を提供することを目的とする。

【0015】図2は,…本ガス発生器の要部拡大断面図である。前記ハウジング2は,ハウジングの外側に開放された点火手段取付用の孔部9を有している。この孔部9は,Oリング11配設のための段部10を有している。またこの孔部9は,後述する筒状部材12の外径よりも僅かに大きな内径を有する小径部13と,スクイブ・エンハンサ14のカラー15が係止する係止部16と,この係止部16に係止されるカラー15を介してスクイブ・エンハンサ14を孔部9に固定するかしめ部17とを有している。係止部16は,筒状部材12と段部10の間でOリング11が弾縮されるような位置に形成される。Oリングは,耐熱性を有することが好ましく,本実施例ではニトリルゴムより構成されたものを使用した。

【図2】

file_15.jpg【0017】またスクイブ・エンハンサ14は,一端が閉鎖され他端が開放された筒状部材12を具備している。この筒状部材12は,前記スクイブ・エンハンサ14が嵌入するとき,スクイブ・エンハンサのカラー15が係止するフランジ19をその開放端に備えている。筒状部材は,耐食性のある薄肉の金属,好ましくはアルミニウム,ステンレス鋼などからプレス加工によって成形することができる。筒状部材の肉厚は,0.1~2mmの間で選ばれる。フランジ19は,スクイブ・エンハンサ14が筒状部材12内に嵌入するとき,スクイブ・エンハンサ14の先端面と筒状部材12の天井面との間に所定の空間が形成されるような位置に形成される。カラー15は,フランジ19と前記段部10の間でOリング11が押圧された状態で,かしめ部17により前記孔部9に固定される。

【0021】図6に,固定手段をねじにより構成した例を示す。カラー15″は円筒部26を備え,この円筒部26におねじ27が形成され,これに螺合するめねじ28が孔部9の対応する位置に形成されている。

螺合の際に,筒状部材のフランジ19がOリング11を押圧し,カラー15″は,フランジ19と段部10の間でOリング11が押圧された状態で,孔部9に固定される。

【図6】

file_16.jpgb そして,甲8には,以下の発明が記載されていることは当事者に争いがない。

「一端が閉鎖され他端が開放されたなべ状の筒状部材12の開放端にフランジ19を備え,かしめや螺合によりフランジ19と段部10の間でOリング11が押圧された状態で,段部10に筒状部材12の開放端を固定すること。」

(ウ) 甲9の記載内容

a 証拠(甲9)によれば,甲9(特開昭62-56678号公報)には,概略,以下の記載がある。

「2 特許請求の範囲

常時は弁ゴムを一端に持つプランジャーを吸着してガス通路を開状態にする永久磁石と,異常時には永久磁石の磁界と逆向きの磁界を励起してプランジャーをコアピースより離脱させガス通路を閉状態にさせる電磁コイルと,この電磁コイル,永久磁石,コアピースを有底筒部に内装したヨークと,このヨークの上端外周に設け,ヨークの内と外気とを気密にするパッキンとを備えたガス遮断弁。」(1頁左欄下段5~13行)

「3 発明の詳細な説明

産業上の利用分野

本発明はガス燃料を供給する配管システィムの安全装置として使用するガス遮断弁に関するものである。」(1頁左欄下段15~18行)「本発明は…磁気的動作点のあるプランジャーとコアピースの吸着面に流れる磁束のロスをなくし磁気効率を向上させるとともにプランジャーとコアピースの直径を小さくして小型になるガス遮断弁を提供するものである。」(2頁右欄上段9~13行)

「問題点を解決するための手段

上記問題点を解決するために本発明のガス遮断弁は,常時は弁ゴムを一端に持つプランジャーを吸着してガス通路を開状態にする永久磁石と,異常時には永久磁石の磁界と逆向きの磁界を励起してプランジャーをコアピースより離脱させガス通路を閉状態にさせる働きをする電磁コイルと,この電磁コイル,永久磁石,コアピースを有底筒部に内装したヨークと,このヨークの上端外周に設け,ヨークの内と外気とを気密にするパッキンとを有するものである。」(2頁右欄上段14~左欄下段4行)

「作用

本発明は上記した構成によって,ヨークの有底筒部で,ガス洩れを防止し,さらにヨークの内と外気とがパッキンで気密されるため,ヨーク内へのガスの流入があっても外部へガスが漏れることはない。従って,従来例の永久磁石とプランジャー間と,コイルとプランジャー問の非磁性体金属のガイドパイプ及びオーリングは不必要なこととなる。

実施例

以下本発明の一実施例のガス遮断弁について,図面を参照しながら説明する。

第1図は本発明の一実施例におけるガス遮断弁の縦断面図を示すものである。第1図において,1は円筒状に絞った筒部及び鍔1aのある磁性体金属のヨークで,その中央底部に永久磁石5を固着させ,さらに永久磁石5のヨーク1と反対側である上面にはコアピース2を固定させている。14は永久磁石5及びコアピース2の外周に位置してヨーク1の円筒部に装着し,かつ電磁コイル4の巻いてある合成樹脂製のボビンである。そして,上記ヨーク1の鍔1aの裏にパッキン15をあてがい,また磁性体のワッシャー16を鍔1aの表面およびボビン14の鍔14aにあてがって,さらにワッシャー16の上面にのせたシール部材6の一部6aをかしめて鍔1aの全周にわたってかしめられている。また,電磁コイル4のリード線17はヨーク1とハーメチックシール等により絶縁されている。」(2頁左欄下段5行~右欄下段13行)

file_17.jpg「以上のように構成されたガス遮断弁について,以下第1図を用いてその動作を説明する。第1図は正常時にガス遮断弁の弁ゴム8が開きガス通路が開状態になっている場合の縦断面図を示すものである。まず,プランジャー7をセット用ロッド11で押し込むと,移動してプランジャー7がコアピース2に接し,スプリング12の反力よりも大きい吸着力が,ヨーク1,ワッシヤー16,プランジャー7及びコアピース2中を流れる永久磁石5の磁束により,プランジャー7とコアピース2間の吸着面に生じ,そのまま吸着保持される。この状態で弁ゴム8は弁座13から離れ,弁開状態となり,ガスが矢印の方向に流れるようになる。この場合ガスは,ボビン14とプランジャー7,コアピース2,永久磁石5間のすきま及びボビン14とワッシャー16間のすきまを通って,ヨーク1の筒部内に流れ込むのであるが,気密用パッキン15が装着してあるため,外部へガスが漏れることはない。」(2頁右欄下段18行~3頁左欄上段16行)

「以上のように本実施例によれば,ヨーク1内と外気とを気密にする気密用パッキン15をヨーク1の鍔1aの裏面に設け,かつ前記鍔1aの表面に磁性体のワッシャー16を設け,さらにシールフランジ6でパッキン15,ワッシャー16を鍔1aに気密に固定し,そしてヨーク1は筒部にしたので従来例にある磁気特性のロスを生じさせる非磁性体の金属性のガイドパイプ及びオーリングを廃止することができる。

発明の効果

以上のように本発明はヨーク内と外気とを気密にするパッキンを設けることにより,磁気的ロスの少ない磁路を形成することができるので磁気効率のよいガス遮断弁ができる。また従来よりも小さな径のプランジャー及びコアピースで磁路を形成できるので小型のガス遮断弁を作ることができる。」(3頁右欄上段6行~左欄下段2行)

b そして,甲9には,以下の発明が記載されていることは当事者に争いがない。

「円筒状に絞った筒部及び開放端に鍔1aのあるなべ状のヨーク1の鍔1aの裏にパッキン15をあてがい,シール部材6の一部6aをかしめて鍔1aの全周にわたってかしめてシール部材6の段差状部にヨーク1の開放端を固着すること。」

(エ) 甲7~9の周知性

原告が周知技術としての「つば」を開示する旨主張する甲7及び8は,前記(ア)及び(イ)のとおり,それぞれ「圧力センサ」,「エアバッグ用ガス発生器」に係る技術を開示するものであり,本件発明1の「遮断弁」とは,技術分野が相違するものと認められる。また,同じく原告が周知技術としての「つば」を開示する旨主張する甲9は,前記(ウ)のとおり,「ガス遮断弁」に係る技術を開示するものではあるが,つば部材を有するとされるのは,電磁コイル,永久磁石及びコアピースを有底筒部に内装したヨーク1であり,本件発明1のように,励磁コイルを有するステータの内側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁ではなく,甲9記載の発明と本件発明1とでは,つばを付ける対象が相違しているものと認められる。したがって,甲7~9の記載事項から,ガス遮断弁において,なべ状隔壁の開放端につば部を設けることが周知であると認定することはできない。

(オ) 甲21の記載内容

a 証拠(甲21)によれば,甲21(特開平8-189576号公報)には,概略,以下の記載がある。

「【請求項1】 筒状部及び弾性体からなる傘状部を有するカップシールと,流体通路内で該カップシールを保持する逆止弁本体とを備え,該傘状部の弾性変形により該流体通路の正流方向の流れを許容し,且つ逆流方向の流れを阻止する逆止弁において,前記筒状部の内側と前記流体通路側とを連通する連通部を前記筒状部に設けたことを特徴とする逆止弁。

【発明の詳細な説明】

【0001】

【産業上の利用分野】本発明は逆止弁に係り,特に流体通路内に弾性体からなる傘状部を有するカップシールを配設し,流体圧力の発生方向に応じて傘部が開閉することを利用して当該流体通路を連通又は閉塞する逆止弁に関する。

【0009】

【実施例】図1は,本発明の一実施例である逆止弁10と電磁弁20とを組み合わせてなるソレノイドチェック弁45の側面断面図を示す。電磁弁20は,ハウジング21の内部に電磁コイル22を有し,この電磁コイル22への電流を通電,遮断することに対応してニードル23を変位させて開弁又は閉弁状態を形成する電磁弁である。

【図1】

file_18.jpgDes【0010】ニードル23は,一端側が円錐形状とされ,その先端部を半球状とされて弁24が形成されると共に,その他端には磁性体からなる可動子25が固定されている。可動子25は,電磁コイル22に挿入された非磁性体からなるスリーブ26内に,その内部を摺動可能に挿入されている。また,スリーブ26の開口端には,その中央にニードル23を摺動可能に支持する固定子27が配設され,可動子25の変位端を規制している。

【0011】ここで,電磁弁20のハウジング21及び固定子27は磁性体で構成されており,電磁コイル22に電流が流れると,電磁コイル22の内外を還流すべく発生する磁束が,可動子25,固定子27,ハウジング21からなるループ内を流通する。

【0012】この場合,可動子25と固定子27との間に形成されるギャップが小さいほど磁気抵抗が小さく安定であるため,可動子25が固定子27と密着する方向に変位する。この結果,ニードル23は図1中左方向(Xa方向)に変位することになる。

【0013】また,電磁弁20には,ニードル23を図1中右方向(Xb方向)へ付勢するスプリング28が配設されている。従って,電磁コイル22への通電が停止し,磁束が消滅して可動子25に対する電磁引力が消滅すると,スプリング28の付勢力に従ってニードル23が図中右方向(Xb方向)へ変位する。

【0014】ところで,ニードル23の延長線上には,流体の流入通路29が設けられている。この流入通路29は,一端がハウジング21のXa方向の先端に開口部を有し,他端がオリフィス30を介してニードル23の先端部付近に連通している。そして,このオリフィス30は,弁24の軸方向延長線上に配置されているため,ニードル23が図中右側(Xb方向)の変位端に位置している場合は開放され,またニードル23が図中左側(Xa方向)の変位端に位置している場合は閉塞された状態となる。

【0015】ハウジング21には,ニードル23先端部付近から軸直方向に延びてその側面(図中上方)に開口する流出通路31が設けられている。従って,オリフィス30がニードル23に閉塞されている場合は,流入通路29と流出通路31は遮断され,ニードル23がオリフィス30を開放している場合は,流入通路29と流出通路31が連通した状態となる。

【0016】すなわち,電磁弁20によれば,電磁コイル22に通電させることで流入通路29と流出通路31とを遮断し,その通電を停止することで流入通路29と流出通路31とを連通させることができる。尚,上記の如き構成の電磁弁20にあっては,弁24,オリフィス30との間に異物等が流入すると,動作不良の原因となる。このため,かかる構成の電磁弁20においては異物の流入を防ぐことが重要である。従って,異物の流入を防止するフィルタを設けることが一般に慣用されており,本実施例においては,流入通路29の開口部,及び流出通路31の開口部に,それぞれフィルタ32,33を設けて異物の流入防止を図っている。」

b そして,甲21には,以下の発明が記載されていることは当事者に争いがない。

「電磁弁20は,電磁コイル22に挿入され,その内部に固定子27と可動子25を挿入したなべ状のスリーブ26の開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したスリーブ26外周に周方向シール様のものがあり,ハウジング21の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であること。」

(カ) 甲22の記載内容

a 証拠(甲22)によれば,甲22(特開平7-239053号公報)には,概略,以下の記載がある。

「【0001】

【産業上の利用分野】本発明は電磁弁に係り,特に流体の流量制御に適用しうる電磁弁に関する。

【0018】

【実施例】図1は本発明の一実施例になる電磁弁40を示す。

【図1】

file_19.jpg【0032】電磁弁40は,ハウジング60,コイル61,プランジャ62,ヨーク63,シャフト64,弁体65,弁座66を有する。

【0033】67は油圧通路である。油圧通路67の途中に,弁体65,弁座66が設けてある。

【0034】マスタシリンダ52からのブレーキフルードは,流入通路68より油圧通路67内に流れ込み,油圧通路67を経て流出通路69に流れ出る。」

b そして,甲22には,以下の発明が記載されていることは当事者に争いがない。

「電磁弁40は,コイル61に挿入され,その内部にヨーク63とプランジャ62を挿入したなべ状のものの開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したなべ状のものの外周に周方向シール様のものがあり,ハウジング60の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であること。」

(キ) 甲23の記載内容

a 証拠(甲23)によれば,甲23(特開平7-260037号公報)には,概略,以下の記載がある。

「【0001】

【産業上の利用分野】本発明は流体制御用電磁弁に係り,特に流体の流れを遮断する流体制御用電磁弁に関する。

【0011】

【実施例】図1には本発明の第1実施例に係る流体制御用の電磁弁10の全体構成が断面図にて示されている。

【図1】

file_20.jpgPy YUN . in =< a gafea 7, \ v4 14 36% Qo 12 16 Bho bt 20 dp 4 i fermen Aus—varvoy amemam anrags th【0014】シートバルブ12の図中右にはヨーク(コア)20が本体16に固定されている。ヨーク20も円筒形に形成されており,軸心部にはガイド孔22が形成されている。このガイド孔22には,開口面積制御機構を構成するスリーブ24が軸線に沿って移動可能に支持されている。スリーブ24も略円筒形に形成されており,一端部(図1の紙面右側端部)は図2に詳細に示す如くヨーク20の端部よりも更に外方へ突出されている。このスリーブ24は,図1のようにヨーク20に設けられたテーパー部により図中右方への移動を規制されており,後述するシャフト28と共にこれ以上図中右方向には移動しないようになっている。また,スリーブ24の他端部と本体16内壁との間には,開口面積制御機構を構成する外リターンスプリング26が配置されており,常にスリーブ24を前記一端部が突出する方向(シートバルブ12から離間する方向)へ付勢している。これにより,通常は図2に示す如くスリーブ24はヨーク20の端部から寸法a突出している。

【0017】スリーブ24から突出するシャフト28の端部には,ヨーク20に対向してプランジャ34が固定されており,プランジャ34とシャフト28は常に一体的に移動する。プランジャ34の軸心部には嵌入孔36が形成されており,この嵌入孔36内に,ケース38から突出固定されたロッド40が嵌入し,プランジャ34が移動可能に支持される構成である。

【0018】前述の如きヨーク20及びプランジャ34を収容するケース38の周囲には,インナヨーク42及びコイル44を内蔵したヨーク46が配置されており,これにより,コイル44に通電されることによりプランジャ34が図中左方に吸引されて移動する構成である。この場合,プランジャ34の移動初期においては,プランジャ34はシャフト28と共に内リターンスプリング32の付勢力に抗してヨーク20の側へ移動して弁体30が流路18に次第に接近して流路18が次第に閉鎖され,プランジャ34が寸法b移動した時点でプランジャ34がスリーブ24に当接し,その後はプランジャ34はシャフト28及びスリーブ24と共に内リターンスプリング32及び外リターンスプリング26の付勢力に抗してヨーク20の側へ移動して最終的に弁体30が流路18に当接して流路18が閉鎖される構成である。」

b そして,甲23には,以下の発明が記載されていることは当事者に争いがない。

「電磁弁10は,周囲にインナーヨーク42及びコイルを内蔵したヨーク46を配置し,その内部にヨーク20とプランジャ34を収容したなべ状のケース38の開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したケース38外周に周方向シール様のものがあり,本体16の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であること。」

(ク) 甲21~23の評価

前記(オ)のとおり,甲21には,電磁コイル22と可動子25の間になべ状のスリーブ26が配置され,スリーブ26の開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したスリーブ26の外周に周方向シール様のものがあり,ハウジング21の段差部様の箇所に,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成が,前記(カ)のとおり,甲22には,コイル61に挿入され,その内部にヨーク63とプランジャ62を挿入したなべ状のものの開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したなべ状のものの外周に周方向シール様のものがあり,ハウジング60の段差部様の箇所に,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成が,前記(キ)のとおり,甲23には,周囲にインナーヨーク42及びコイルを内蔵したヨーク46を配置し,その内部にヨーク20とプランジャ34を収容したなべ状のケース38の開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したケース38外周に周方向シール様のものがあり,本体16の段差部様の箇所に,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成が,それぞれ記載されていることが認められる。

しかしながら,甲21におけるスリーブ26,フランジ様のもの,周方向シール様のもの,甲22におけるなべ状のもの,外向きフランジ様のもの,周方向シール様のもの,甲23におけるなべ状のケース38,外向きフランジ様のもの,周方向シール様のものについて,各文献において,上記各部材に係る構成等について詳細な記載がないために,これらの部材の技術的意義,機能,作用効果を一義的・明確に把握することができない。したがって,甲21~23には,フランジ様のものが開示されているものの,甲21~23の記載から,フランジ様のもの(外向きフランジ様のもの)が,スリーブ26(なべ状のもの,なべ状のケース38)の強度の確保を目的としているかどうかは明らかでないというべきである。

また,甲21~23は,本件発明1のようなモータ駆動式のガス遮断弁ではなく,いわゆるソレノイド式電磁弁に係るものであるため,駆動方式が相違している。そして,本件発明1が,モータ駆動式であり,モータの効率の面からステータとロータの間の隙間を小さくするために,ステータとロータの間に位置する隔壁を薄くする必要性があると認められるのに対して,甲21~甲23は,ソレノイド式であり,固定子と可動子の間の隙間の大きさが駆動力に影響があると認められるものの,電磁コイルと可動子との隙間を小さくする必要性,すなわちスリーブ26(なべ状のもの,なべ状のケース38)を薄くする必要性があるとは必ずしも認め難い。かかる観点からも,スリーブ26(なべ状のもの,なべ状のケース38)におけるフランジ様のもの(外向きフランジ様のもの)が,スリーブ26(なべ状のもの,なべ状のケース38)の強度の確保のために形成されたものであるということはできない。

そうすると,少なくとも甲21~甲23には,本件発明1の相違点2に関する技術的特徴である前記(1)ウのⅱ)隔壁開放端へのつばの設置による開放端の強度の確保,及び,ⅲ)隔壁開放端のつば及びシール部材の取り付け板段差部への挿入による組立作業の容易化に係る技術思想が記載されているとは認められない。

(ケ) 動機付けについて

さらに,甲1には,「取付板23,33をステータヨーク37,37に螺着することによって,軸受31,保持盤32,パイプ38,Oリング39,ステータヨーク37,取付板23,33は一体に固定されて組立てられる。」(甲1の段落【0010】)と記載されていることからすれば,甲1発明1は,取付板23,33をステータヨーク37に螺着することによって,パイプ38を一体に固定しており,この取り付けに係る構成に鑑みると,パイプ38にあえてつば部を設ける動機付けがあるということはできない。

(コ) 小括

以上の点を総合的に考慮すると,相違点2に係る本件発明1の構成は,甲1発明1,甲2~4,甲7~9,甲21~23の各記載事項等に基づいて,当業者が容易に想到し得るものということはできない。したがって,本件発明1について容易想到性を否定した本件審決の判断は,結論において誤りはなく,原告主張に係る取消事由1は理由がない。

4  取消事由2(本件発明2の容易想到性の認定判断の誤り)について

(1)  相違点1及び2について

前記3のとおり,相違点1及び2の本件発明1に係る構成は,原告の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。そして,本件発明2は,本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明1の従属項であるから,前記3において説示した判断は,本件発明2についても妥当する。

(2)  相違点3について

原告は,本件発明2は,付勢手段について,単に「前記隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段」としか特定しておらず,温度変化に起因した組付けのゆるみについては何ら発明特定事項とされていないから,甲1発明2について,「取付板23,33をステータヨーク37に螺着することによって,薄板パイプ38を取付板23方向に付勢しつつ一体に固定していると解せる」ことをもって,甲1発明2の構成が「付勢手段」に相当するものを有するといえるとして,相違点3に係る構成について容易想到ではないとした本件審決の認定判断は誤りである旨主張する。

しかし,本件発明2の「隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段」は,本件明細書の段落【0072】に,「隔壁は付勢手段で付勢されているので,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるまず」と記載されているように,付勢手段により「温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるま」ないものとする作用効果を奏するものと認められる。これに対し,甲1発明2においては,「取付板23,33をステータヨーク37,37に螺着することによって,軸受31,保持盤32,パイプ38,Oリング39,ステータヨーク37,取付板23,33は一体に固定されて組立てられる。」(甲1の段落【0010】)と記載されているように,取付板23,33とステータヨーク37は,単なる「螺着」で固定され,その間に存在するパイプ38もこれに伴って一体に固定され組み立てられているだけであり,上記「螺着」をもって,パイプ38を取付板23,33方向に付勢する「付勢手段」であると認めることはできない。そして,甲1には温度変化によるふた(保持盤32)の膨張収縮で隔壁(パイプ38)と取り付け板(取付板23,33)との組付けがゆるむことについての記載も示唆もないのであるから,甲1発明2は,本件発明2の隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段に相当するものを有しないというほかない。

さらに,甲1における保持盤32が本件発明2のふたに該当するとしても,前記3(2)ウ(ケ)のとおり,甲1の「パイプ38」にはつば部を設ける動機付けがないから,「ふたの外周部を前記つばと前記取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した」構成を容易に想到することはできない。

そうすると,相違点3の本件発明2に係る構成は,甲1発明1,甲2~4,甲7~9,甲21~23の各記載事項等に基づいて,当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(3)  以上によれば,本件発明2について容易想到性を否定した本件審決の判断に誤りはなく,原告主張に係る取消事由2は理由がない。

5  取消事由3(本件発明3の容易想到性の認定判断の誤り)について

(1)  相違点1ないし3について

前記3及び4のとおり,相違点1ないし3の本件発明1及び2に係る構成は,原告の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。そして,本件発明3は,本件発明1及び2の発明特定事項を全て含む本件発明2の従属項であるから,前記3及び4において説示した判断は,本件発明3についても妥当する。

(2)  相違点4について

原告は,相違点4に係る構成のうち,「付勢手段」に関する事項について,本件審決が容易想到ではないとする根拠は,前記相違点3と同様であるところ,同認定判断は誤りであり,さらに相違点4の「寸法吸収部」に関する事項についても,甲35に記載されているように,樹脂製の突起を変形させることによって軸方向(スラスト方向)のガタつき等を吸収することは周知技術であり,かかる周知技術を「前記隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部」に適用したものにすぎないから,当業者にとって格別の困難性はない旨主張する。

しかし,前記4のとおり,甲1発明2は,隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段に相当するものを有しないから,「付勢手段は隔壁とステータの軸方向の相対位置を規制するように形成され」の構成を有するものではなく,かかる付勢手段を採用する動機付けもない。

また,原告主張に係る甲35(特開平7-283024)は,電磁弁における弁装置又はその他の機械装置を作動させるために用いる電磁石に関する発明が記載されているところ,その明細書中には,隔壁,シール部材,フタ,取り付け板,付勢手段がいずれも記載されていないから,甲35の「樹脂製の突起17」は,相違点3に係る本件発明3の「寸法吸収部」に相当するものではない。そして,仮に樹脂製の突起を変形させることによって軸方向(スラスト方向)のガタつき等を吸収することが周知技術であるとしても,本件発明3のように遮断弁の構造中「隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部」という特定箇所に寸法吸収部を形成するように上記周知技術を適用することが容易に想到し得ると認めることはできない。

(3)  以上によれば,本件発明3について容易想到性を否定した本件審決の判断に誤りはなく,原告主張に係る取消事由3は理由がない。

6  取消事由4(本件発明4の容易想到性の認定判断の誤り)について

前記3~5のとおり,本件発明1~3は,原告の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。そして,本件発明4は,本件発明1~3の発明特定事項を全て含む本件発明1~3の従属項であるから,前記3~5で説示した判断は,本件発明4についても妥当する。

そうすると,本件発明4も,原告の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

したがって,原告主張に係る取消事由4は理由がない。

7  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。

よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富田善範 裁判官 大鷹一郎 裁判官 田中芳樹)

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