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知財高等裁判所 平成26年(行ケ)10184号 判決 2015年3月19日

原告

株式会社コムスクエア

訴訟代理人弁護士

鮫島正洋

高見憲

溝田宗司

被告

ITホールディングス株式会社

被告

TIS株式会社

被告

株式会社インテック

3名訴訟代理人弁護士

升永英俊

江口雄一郎

弁理士

佐藤睦

大石幸雄

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

特許庁が無効2013-800087号事件について平成26年6月16日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,特許無効審決に対する取消訴訟である。争点は,進歩性判断(相違点の認定・判断)の誤りの有無である。

1  特許庁における手続の経緯

(1)  本件特許

原告は,名称を「架電接続装置,架電接続方法,架電接続プログラム,及び架電受付サーバ」とする発明についての本件特許(特許第4077866号)の特許権者である。

本件特許は,平成17年8月3日に出願した特願2005-225325号(優先権主張国・日本)及び平成17年12月28日に出願した特願2005-378512号(優先権主張国・日本)を基礎とする優先権を主張して,平成18年8月2日に出願した特願2007-529516号に係るものであり,平成20年2月8日に設定登録(請求項の数26)がされた。

(甲5)

(2)  無効審判請求

被告らは,平成25年5月20日付けで本件特許の請求項1,3,8,15及び20に係る発明について無効審判請求をし(無効2013-800087号),原告は,平成26年1月29日付けで請求項1,2,4,5,6,9~13,15~18,21~24を訂正する訂正請求(本件訂正)をしたが,特許庁は,平成26年6月16日,「請求のとおり訂正を認める。特許第4077866号の請求項1,3,8,15,20に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。

(甲6,7の1~3)

2  本件発明の要旨

本件訂正後(本件訂正後の明細書及び図面を「本件訂正明細書」という。)の本件特許の請求項1,3,8,15及び20の発明に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。(甲7の2)

なお,以下,上記各発明の略称を次のとおりとする。

①  請求項1の発明  「本件訂正発明1」

②  請求項3の発明  「本件訂正発明2」

③  請求項8の発明  「本件訂正発明3」

④  請求項15の発明 「本件訂正発明4」

⑤  請求項20の発明 「本件訂正発明5」

⑥  本件訂正発明1~5 「本件訂正発明」

(1) 本件訂正発明1

「 いずれの広告情報に基づいて架電してきたかを識別するための識別番号と連絡先番号とを関連情報として有するデータベースと,

該データベースを内部に保持する記憶装置と,

第1の電話機から前記識別番号を含む電話番号宛に架けられた架電を受付けるとともに該電話番号の中から前記識別番号を抽出する架電受付部と,

該抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する連絡先抽出部と,

該抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架電を該連絡先番号に対応する第2の電話機へと接続する接続処理部と,

前記連絡先番号に係る広告主に対し,前記広告情報に基づく架電である旨のメッセージを提供するメッセージ提供手段と,

を有する架電接続装置。」

(2) 本件訂正発明2

「 前記データベースが,複数の前記識別番号と1又は複数の前記連絡先番号とを関連情報として有する請求項1に記載の架電接続装置。」

(3) 本件訂正発明3

「 前記架電の履歴又は前記接続処理部により接続された通話の履歴のうち少なくともいずれか一方を前記識別番号に関連付けて前記記憶装置内に記録する履歴記録部をさらに有する請求項1に記載の架電接続装置。」

(4) 本件訂正発明4

「 データベース内に連絡先番号と関連付けられて格納され,いずれの広告情報に基づいて架電してきたかを識別するための識別番号を含む電話番号宛に第1の電話機から架けられた架電を受付けるステップと,

該電話番号の中から前記識別番号を抽出するステップと,

該抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出するステップと,

該抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架電を該連絡先番号に対応する第2の電話機へと接続するステップと,

前記連絡先番号に係る広告主に対し,前記広告情報に基づく架電である旨のメッセージを提供するメッセージ提供ステップと,

を有する架電接続方法。」

(5) 本件訂正発明5

「 前記架電の履歴又は前記接続処理部により接続された通話の履歴のうち少なくともいずれか一方を前記識別番号に関連付けて前記記憶装置内に記録するステップをさらに有する請求項15に記載の架電接続方法。」

3  審決の理由の要点

(1)  甲1発明の認定

特開2004-171105号公報(甲1)には,次の発明(甲1発明)が記載されている(審決が認定した本件訂正発明1に相当する構成要素を,該当部分に括弧書きで加えた部分がある。)。

「 広告種別情報とアクセス先電話番号(連絡先番号)とを対応付けて記憶する解釈テーブル(データベース)と,

該解釈テーブル(データベース)を内部に記憶する記憶部(記憶装置)とを有し,電話3(第1の電話機)から前記広告種別情報を含む問い合わせ先の電話番号(電話番号)宛に架けられた架電を受付け,

該問い合わせ先の電話番号(電話番号)の中の前記広告種別情報に基づいて,前記解釈テーブル(データベース)から該広告種別情報に対応する前記アクセス先電話番号(連絡先番号)を抽出し,

該抽出されたアクセス先電話番号(連絡先番号)に基づいて,前記電話3(第1の電話機)からの架電を該アクセス先電話番号(連絡先番号)に対応するアクセス先の電話(第2の電話機)へと接続を仲介する,サーバ(架電接続装置)。」

(2)  本件訂正発明1について

ア 一致点の認定

本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,次の点で一致する。

「 いずれの広告情報に基づいて架電してきたかを識別するための識別番号と連絡先番号とを関連情報として有するデータベースと,

該データベースを内部に保持する記憶装置と,

第1の電話機から前記識別番号を含む電話番号宛に架けられた架電を受付ける架電受付部と,

抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する連絡先抽出部と,

該抽出された連絡先番号に基づいて,前記第1の電話機からの架電を該連絡先番号に対応する第2の電話機へと接続する接続処理部と,を有する架電接続装置。」

イ 相違点の認定

本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,次の点が相違する。

(ア) 相違点1

本件訂正発明1の「架電受付部」が「該電話番号の中から前記識別番号を抽出する」のに対し,甲1発明では明らかでない点。

(イ) 相違点2

本件訂正発明1が「前記連絡先番号に係る広告主に対し,前記広告情報に基づく架電である旨のメッセージを提供するメッセージ提供手段」を有するのに対し,甲1発明では明らかでない点。

ウ 相違点の判断

(ア) 相違点1について

甲1発明において,問い合わせ先の電話番号の中から「広告種別情報」を「抽出」することをサーバ内のどの部分で行わせるかは,適宜選択すべき事項であり,「問い合わせ先の電話番号宛に架けられた架電を受付け」る手段にこれを行わせることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る。

(イ) 相違点2について

電話転送システムにおいて,転送先に対して転送される呼に関するメッセージを提供することは,周知技術である。甲1発明にこの周知技術を単に付加することにより,転送先である「前記連絡先番号に係る広告主」に対して転送される呼に関するメッセージを提供するメッセージ提供手段を設けることは,当業者が必要に応じて適宜なし得るものである。そして,この周知技術を付加する際に,転送される呼に関するメッセージとして「広告情報に基づく架電である旨のメッセージ」を選択することは自然なことである。

したがって,甲1発明に「前記連絡先番号に係る広告主に対し,前記広告情報に基づく架電である旨のメッセージを提供するメッセージ提供手段」を設けることは,上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得た。

エ 小括

本件訂正発明1は,甲1発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができた。

(3)  本件訂正発明2について

ア 相違点の認定

本件訂正発明2と甲1発明とを対比すると,相違点1・2に加え,次の点で相違する。

【相違点3】

「データベース」が「関連情報」として有する「識別番号と連絡先番号と」が,本件訂正発明2では,「複数の前記識別番号と1又は複数の前記連絡先番号と」であるのに対し,甲1発明では,単に,「広告種別情報(識別番号)とアクセス先電話番号(連絡先番号)と」である点。

イ 相違点3の判断

甲1の【図2】に記載された「解釈テーブル8c」には,5つの広告種別情報と5つのアクセス先電話番号とを有することが記載されているから,相違点3は,実質的な相違とはいえない。

ウ 小括

本件訂正発明2は,甲1発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができた。

(4)  本件訂正発明3について

ア 相違点の認定

本件訂正発明3と甲1発明とを対比すると,相違点1・2に加え,次の点で相違する。

【相違点4】

本件訂正発明3は,「前記架電の履歴又は前記接続処理部により接続された通話の履歴のうち少なくともいずれか一方を前記識別番号に関連付けて前記記憶装置内に記録する履歴記録部をさらに有する」のに対し,甲1発明では明らかでない点。

イ 相違点4の判断

甲1の【0025】には,サーバが,電話3から架電を受け付けた際の処理として,「電話番号に付加された広告種別情報『01-11-31-41-77-33』から『広告の掲載内容』として『01:新型TV○○』,『広告の依頼者』として『11:×電器』,『広告請負業者』として『31:×新聞広告社』,『広告の提供状態』として『41:媒体(B新聞),77:掲載場所(7面),33:掲載期日(7月3日~9日)』と解釈され,これら広告種別情報の符号が表す各種別の受付け回数がカウントされてサーバ7に記録される。」とあり,ここで,上記「受付け回数」は「架電の履歴」にほかならず,これが「広告種別情報」である符号「01」に関連付けてサーバに記録される。

そして,そのような記録を,サーバが有する「記憶部」にて行い,「履歴記録部」とすることは,甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 小括

本件訂正発明3は,甲1発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができた。

(5)  本件訂正発明4について

本件訂正発明4は,本件訂正発明1の装置を方法として特許請求するものであるから,本件訂正発明1と同様に,甲1発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得た。

(6)  本件訂正発明5について

本件訂正発明5は,本件訂正発明3の装置を方法として特許請求するものであるから,本件訂正発明3と同様に,甲1発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得た。

(7)  審決判断まとめ

本件訂正発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(相違点の認定の誤り)

(1)  「電話番号」について

審決は,「甲1発明の『問い合わせ先の電話番号』は,呼の発信時に用いられる番号であるから,本件訂正発明1の『電話番号』に相当し,両者は『電話番号』の点で一致する。」と認定する(22頁7~9行目)。

しかしながら,本件訂正発明1の「電話番号」は,「広告情報」に記載される番号であり(本件明細書【0055】),本件訂正発明1の「連絡先番号」は,「広告主」の「第2の電話機」に対応する番号であるところ,上記「電話番号」は,上記「連絡先番号」を含まない。すなわち,①「電話番号」に「連絡先番号」を含むとすると,「連絡先番号」には識別機能がない以上,新たに識別機能を有する番号を「連絡先番号」に付加して「電話番号」としなければならなくなるが,これによって,架電の際,ユーザが識別機能を有する番号を余計にプッシュする必要が生じ,本件訂正発明1の課題(本件明細書【0010】)を解決できなくなる。また,②「電話番号」に「連絡先番号」を含むとすると,「電話番号」の中に「連絡先番号」があるのだから,わざわざ,「該抽出された前記識別番号に基づいて,前記データベースから該識別番号に関連付けられた前記連絡先番号を抽出する」とする構成をとった技術的な意義がなくなる。

他方,甲1発明は,「アクセス先電話番号」に「広告種別情報」を付加して「問い合わせ先の電話番号」としているから,「問い合わせ先の電話番号」には,必ず「アクセス先電話番号」が含まれている。

そうすると,仮に,審決が22頁4~6行目で認定しているとおり,甲1発明の「アクセス先電話番号」が,本件訂正発明1の「連絡先番号」に相当するとしても,上記のとおり,本件訂正発明1の「電話番号」は,「連絡先番号」(アクセス先電話番号)を含まないのであるから,甲1には,本件訂正発明1の「電話番号」に相当する構成が開示されておらず,相違点を構成する。

したがって,審決は上記相違点を看過しており,その相違点の認定には,誤りがある。

(2)  「識別番号」について

審決は,甲1発明の「広告種別情報」が,本件訂正発明1の「いずれの広告情報に基づいて架電したかを識別するための識別番号」に相当すると認定する(22頁9~19行目)。

しかしながら,①[1]本件訂正発明1は,入力番号の全部又は一部(識別番号)と連絡先番号とを関連付けたデータベースを作成し,識別番号をキーとしてデータベースを検索し,連絡先番号を抽出する方法であるのに対し,[2]甲1発明は,データベースによる検索・抽出を経ず,問い合わせ先の電話番号の一部をアクセス先電話番号として特定するだけで,識別番号に関連付けられた連絡先番号を抽出する機能がない。また,②[1]本件訂正発明1において抽出されるのは,広告主の連絡先番号であるのに対し,甲1発明において抽出されるのは,アクセス先電話番号であって広告依頼者11の電話番号ではない。さらに,①及び②の点で相違するため,③本件訂正発明1においては,ユーザから広告主の連絡先番号に対する架電の中には,広告情報を見ていないユーザからの架電も可能であって,広告情報を見たユーザとそうでないユーザの区別ができ,それによって,広告効果を測定できる作用効果があるのに対し(本件明細書【0080】),甲1発明においては,アクセス番号は,問い合わせ先の番号の一部であるから,ユーザからアクセス先電話番号に対する架電は,すべて広告情報を見たユーザであり,このため,甲1発明では,架電したユーザの広告情報の視聴の有無を区別できない。

そうすると,甲1には,本件訂正発明1の「識別番号」に相当する構成が開示されておらず,相違点を構成する。

したがって,審決は上記相違点を看過しており,その相違点の認定には,誤りがある。

2  取消事由2(相違点2の判断の誤り)

(1)  周知技術との相違について

相違点2に係る本件訂正発明1の構成であるメッセージ提供手段が提供するメッセージの内容は,「『前記』広告情報に基づく架電である」であるところ,この「前記」が指す「いずれの『広告情報』に基づいて架電してきたかを識別するための識別番号」からみて,その内容は,「識別番号により,いずれの広告情報に基づいて架電してきたかを識別された広告情報」といえ,複数の広告情報のうちのいずれの広告情報に基づく架電であるかという,具体的な広告媒体を含むメッセージである(本件明細書【0035】【0039】【0147】~【0149】【0151】【0152】【0156】【図6】参照)。

他方,周知技術は,「○○(電話番号)から転送されました」「フリーダイヤルです」とのメッセージを転送先に通知するというものであり,複数の広告情報のうちのいずれの広告情報に基づき架電してきたかをメッセージとして伝えるためのものではない。また,甲3は,広告とは全く関係のないサービスに係るものである上に,受信者の利便に資することを目的としており,発信者の利便性に資することを目的とする本件訂正発明1とは,その目的とするところが正反対である。

そうすると,甲1発明に上記周知技術を組み合わせたとしても,転送元の電話番号を通知するメッセージシステム,あるいは,フリーダイヤルであることを通知するメッセージシステムしか構成できず,相違点2に係る本件訂正発明1の構成にはならない。

(2)  容易想到性

甲1発明は,架電がすべて広告情報を視聴した者からされるから,アクセス先に対し,架電が広告情報に基づくものである旨のメッセージの提供をする実益はない。

そうすると,甲1発明に相違点2に係る本件訂正発明1の構成を組み合わせる動機付けがない。

また,相違点2に係る本件訂正発明1の構成により,着信応答時に,直ちに広告効果があったか否かを広告主に伝えることが可能となるから,本件訂正発明1は,甲1発明が想定していない顕著な効果を奏する。

(3)  小括

以上のとおり,審決の相違点2の判断には,誤りがある。

3  取消事由3(相違点3の判断の誤り)

審決は,甲1の【図2】に記載された「解釈テーブル8c」をデータベースと認定し,相違点3を実質的な相違点ではないとする(24頁33行~25頁17行目)。

しかしながら,「解釈テーブル8c」は,1つの広告種別情報と1つのアクセス先電話番号とが1:1で対応する形で複数格納されているものである(1対1が複数)。そうすると,「解釈テーブル8c」は,本件訂正発明2の「前記データベースが,複数の前記識別番号と1…の前記連絡先番号とを関連情報として有する」(複数対1)又は「前記データベースが,複数の前記識別番号と…複数の前記連絡先番号とを関連情報として有する」(複数対複数)に相当する構成を有していない。

したがって,審決の相違点3に係る認定・判断には,誤りがある。

第4被告らの反論

1  取消事由1(相違点の認定の誤り)に対して

(1)  「電話番号」について

本件明細書には,「電話番号」を,「前記識別番号を含む電話番号」とする記載はあるものの,「連絡先番号」を含まない番号であるとする記載はない。本件訂正発明1の「電話番号」が「連絡先番号」を含まない番号であるとの原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。

甲1発明の「問い合わせ先の電話番号」は,任意の数値が当てはまる記号として開示されており,本件訂正発明1の「電話番号」に相当する。

そうすると,甲1発明の「問い合わせ先の電話番号」は,本件訂正発明1の「電話番号」に相当し,この点は一致点である。

したがって,審決の相違点の認定には,誤りはない。

(2)  「識別番号」について

甲1発明の「広告種別情報」は,本件訂正発明1の「識別番号」に相当する。したがって,審決の相違点の認定には,誤りはない。

2  取消事由2(相違点2の判断の誤り)に対して

(1)  周知技術との相違について

① 本件訂正発明1は,メッセージ提供手段が提供するメッセージを,単に,「広告情報に基づく架電である旨のメッセージ」としている。そうすると,本件訂正発明1のメッセージ提供手段が提供するメッセージを,複数の広告情報のうちのいずれの広告情報に基づき架電してきたかを伝えるためのメッセージとする原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。

② 仮に,本件明細書の記載を参酌するとしても,次の記載のとおり,本件訂正発明1のメッセージ提供手段が提供するメッセージは,単に,「広告情報に基づく架電である」旨のメッセージにすぎない。

「 …広告主に対して”○○からの入電です。”等の案内メッセージを提供することもできる。それにより,広告主が広告情報に接したユーザからの電話であることを容易に把握することができる。」(【0039】)

「 …応答検知部623Cが,CTI記録部621に内の音声応答データ,例えば「広告情報を閲覧した利用者からの入電です。」との音声データを,店舗電話機ヘ向けて出力する(ステップS105)。」(【0156】)

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本件訂正発明1のメッセージ提供手段が提供するメッセージの内容が,複数の広告情報のうちのいずれの広告情報に基づく架電であるか,であると仮定しても,特開2001-274910号公報(甲4)又は「フリーダイヤル・インテリジェントサービスの新機能提供について エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社,2002年1月24日」(乙2)には,発信者の識別情報等様々な情報を音声で通知することが開示されており,相違点2に係る本件訂正発明1の構成は,容易に想到できる。

3  取消事由3(相違点3の認定判断の誤り)に対して

原告の主張は,争う。

第5当裁判所の判断

1  認定事実

(1)  本件訂正発明について

本件訂正明細書(甲7の3)の記載によれば,本件訂正発明は,次のとおりのものと認められる。

本件訂正発明は,所定の電話番号宛の架電をその電話番号に対応する別の連絡先に接続する架電接続装置及び架電接続方法に関するものである(【0001】)。

従来,雑誌等に掲載されていた広告情報に基づいて,利用者が広告主に電話を架けることにより,その電話の頻度に応じた料金を雑誌の発行者が店舗主に請求するペイ・パー・コールシステムという方式があったが(【0002】),利用者と広告主との電話が繋がるまでに,利用者がプッシュボタン操作により広告主を特定する必要があり,操作が煩わしいという問題や(【0007】),広告主が複数の広告を行った場合に,いずれの広告に効果があったかを識別することができないという問題があった(【0008】)。

そこで,本件訂正発明は,①提供された広告情報に接した利用者が,自動応答により面倒な操作に煩わされることなく広告主と通話でき,②広告主が複数の広告情報の提供を行った場合に,それらが発揮する広告効果を広告情報ごとに管理・把握することができる架電接続装置及び架電接続方法を提供しようとするものである(【0010】)。

① 本件訂正発明1又は本件訂正発明4の構成により,広告主への着信応答時に,広告主が広告情報に接したユーザからの電話であることを容易に把握することを可能とし(【0039】),②また,本件訂正発明2の構成により,広告主の,複数の広告情報に対する情報管理を広告情報ごとに行いつつ,電話の応答を一の電話機で行いたいという要求を満足させ(【0037】),③さらに,本件訂正発明3又は本件訂正発明5の構成により,ユーザ電話機(第1の電話機)と広告主の電話機(第2の電話機)との接続によって生成された通話履歴情報が,識別番号に関連付けられて履歴記録部によって記録され,この通話履歴情報に記録された情報によって,広告主において,自身が提供した複数の広告のうちのいずれの広告に基づいてユーザから架電されたかを確認することができ(【0046】」【0047】),もって,本件訂正発明の構成は,上記課題を解決できるとする(【0035】)。

(2)  甲1発明について

甲1の記載によれば,甲1発明は,次のとおりのものと認められる。

甲1発明は,コンピュータシステムに係り,特に,広告効果解析方法に関するものである(【0001】)。

TVや雑誌,新聞,電車の中吊り広告などの広告の費用は,「視聴率や購読者数,乗客数などの広告の視聴者数を限定する数値」以外の情報を用いて,広告を掲載する場所や時間などに応じてああかじめ決められているが,広告の視聴者数を特定できる場合と比べて,どの程度の宣伝効果があるのかを数値的に把握することが難しいという問題点を有していた。また,広告依頼者は,実際にどの程度の広告視聴者に広告の効果があったのかを把握することができないので,費用対効果の点で効率的な宣伝活動を行うことが難しいという問題点を有していた。(以上【0004】)

そこで,甲1発明は,広告視聴者から直接的に広告を視聴したことを表す情報を受け付けて,広告の効果を数値的に把握する機能を備えた広告効果解析方法及び広告システムを提供することを目的とした(【0004】)。

そのために,甲1発明は,①広告種別情報(広告の掲載内容,広告依頼者,広告請負業者,広告提供状態等)とアクセス先電話番号(広告種別情報が表わす広告の詳細情報にアクセスできる電話番号)とを対応付けて記憶する解釈テーブル(サーバ7の記憶部に記憶された解釈テーブル8a~8d)と,②解釈テーブルを内部に記憶する記憶部とを有し,③広告視聴者の電話(電話3)から広告種別情報を含む問い合わせ先の電話番号(広告種別情報とアクセス先電話番号で構成される。)宛に架けられた架電を受け付け,④解釈テーブルから広告種別情報に対応するアクセス先電話番号を抽出し,⑤抽出されたアクセス先電話番号に基づいて,電話3からの架電をアクセス先電話番号に対応するアクセス先の電話へと接続を仲介する,⑥サーバを用いる構成をとった(【0020】~【0022】【0025】)。

これにより,甲1発明は,広告の効果を数値的に算出することができるなどの効果を奏する(【0047】)。

2  取消事由1(相違点の認定の誤り)について

(1)  「電話番号」について

原告は,本件訂正発明1の「電話番号」は「連絡先番号」を含まないのに対し,甲1発明の「問い合わせ先の電話番号」は「アクセス先電話番号」が含まれるから,甲1発明の「問い合わせ先の電話番号」は,本件訂正発明1の「電話番号」に相当しない旨の主張をする。

しかしながら,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載においては,「電話番号」が「連絡先番号」を含まないとの限定はされていないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲に基づかない主張である。本件訂正発明1は,自動応答を採用して転送された電話の着信時におけるユーザの操作軽減によって,ユーザの操作の煩わしさを解決しようとするものであり(【0007】【0035】),「電話番号」の桁数や構成方法を限定するものではない。本件訂正発明1においては,識別番号に基づいて,識別番号に関連付けられた「連絡先番号」をデータベースから抽出できればよいのであって,「電話番号」の構成は任意なものとして,「連絡先番号」を含むものでもよいと認められる(【0103】及び【図7】には,「電話番号」が21桁である実施形態が例示されており,甲1の【0025】に記載された23桁の実施形態と比較して,格別短いものではない。)。

そうであれば,本件訂正発明1の広告情報に掲載された電話番号が連絡先番号を含むこともあるのであり,原告の主張は,その前提を欠くものである。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

(2)  「識別番号」について

原告は,①甲1発明は,アクセス先電話番号につき,データベースにおける関連付け・検索を要しない,また,②特定されたアクセス先電話番号も広告主の連絡先番号に相当する番号ではなく,さらに,③架電したユーザの広告情報の視聴の有無も区別できず,広告効果を測定できる作用効果もないから,甲1発明の「広告種別情報」は,本件訂正発明1の「識別番号」に相当しない旨を主張する。

しかしながら,甲1の【0021】及び【0025】の記載によれば,甲1には,ある広告視聴者が,B新聞に掲載された新型TV○○の広告を見て,問い合わせ先の電話番号(0120-xxx-xxxx-01-11-31-41-77-33)を入手した後,電話3を用いて,この問い合わせ先の電話番号に電話をかけることにより,サーバ7と接続され,サーバ7では,広告種別情報(「01-11-31-41-77-33」等;例えば,「01:新型TV○○」,「41:媒体(B新聞)等」)とアクセス先電話番号(「0120-xxx-xxxx-01」等)とを対応付けて記憶している解釈テーブル8cを用いて,問い合わせ先の電話番号に含まれる広告種別情報である「01-11-31-41-77-33」の「01」から,アクセス先電話番号である「新型TV○○」の電話番号(0120-xxx-xxxx-01)を抽出し,サーバ7を介して,オペレータ9に接続することが記載されている。

上記記載によれば,甲1発明は,データベースである解釈テーブル8cを用いて,問い合わせ先の電話番号の中から「広告種別情報」を抽出するとともに,この「広告種別情報」と結び付けられ構成されていることにより,「広告種別情報」と関連付けられているアクセス先電話番号を抽出しているといえるから,本件訂正発明1と同様に,データベースから「識別番号」に関連付けられた「連絡先番号」を抽出する機能を有していると認められる。そして,一般的に,広告主が,自身で製品紹介を行うことも普通に行われることであり,オペレータ9と広告依頼主11とは同視できる場合があることは明らかであるから,アクセス先電話番号は,広告主の連絡先番号を含むものと解される。また,広告情報を見なくても広告主の連絡先番号を知っている者が,広告主の連絡先番号に架電できるのは当然のことであるところ,上記(1)のとおり,本件訂正発明1の「電話番号」には「連絡先番号」を含んでもよいのであるから,広告情報を見たユーザとそうでないユーザを区別し,広告効果を測定できることは,「識別番号」と「連絡先番号」とを関連付けたことによる作用効果ではない。

以上のとおりであって,原告の上記主張は,採用することができない。

(3)  小括

以上から,取消事由1は,理由がない。

2  取消事由2(相違点2の判断の誤り)について

(1)  周知技術との相違について

審決は,相違点2を「本件訂正発明1が『前記連絡先番号に係る広告主に対し,前記広告情報に基づく架電である旨のメッセージを提供するメッセージ提供手段』を有するのに対し,甲1発明では明らかでない点」と認定する(23頁29~31行目)。

原告は,上記認定それ自体は積極的に争わないものの,その解釈として,本件訂正発明1のメッセージ提供手段が提供するメッセージは,複数の広告情報のうちのいずれの広告情報に基づく架電であるか,という,具体的な広告媒体を含むメッセージである旨を主張するので,以下,検討する。

ア 特許請求の範囲の記載

本件訂正発明1のメッセージ提供手段は,特許請求の範囲(甲7の2)の記載によれば,「前記連絡先番号に係る広告主に対し,前記広告情報に基づく架電である旨のメッセージを提供するメッセージ提供手段」というものである。

ここに,「前記広告情報」とあるのは,「いずれの広告情報に基づいて架電してきたかを識別するための識別番号と連絡先番号とを関連情報として有するデータベース」との発明特定事項中の「広告情報」を指すものであるから,この広告情報は,識別番号を有する「いずれの広告情報」を意味することとなる。すると,「前記広告情報に基づく架電である旨」は「いずれの広告情報に基づく架電である旨」と解することができる。このことは,①本件訂正発明1が,識別番号に基づいて接続処理をするにもかかわらず,一転して,メッセージ提供手段が提供するメッセージのみがその識別番号を利用しないことが不自然なこと,②メッセージ提供手段が提供するメッセージが,「広告情報に基づく架電である」それ自体を通知するものであるとした場合,「いずれの広告情報に基づいて架電してきたかを識別するための識別番号」と,広告情報と識別番号との関連付けを明示した意味がなくなってしまうことからみても,肯定することができる。

したがって,特許請求の範囲の記載からは,メッセージ提供手段が提供するメッセージは,「いずれの広告情報に基づく架電である旨」すなわち「複数の広告情報のうちのいずれの広告情報に基づく架電である旨」と解することができる。

イ 本件訂正明細書の記載

本件訂正明細書(甲7の3)には,次の記載がある。

「 広告主の着信応答を検知してからユーザと広告主との電話を接続すれば,両者の通話を確実に接続することができる。広告主が着信応答できない状態にもかかわらずユーザと広告主との電話を接続してしまうこともない。また,広告主が着信応答したときに,広告主に対して”○○からの入電です。”等の案内メッセージを提供することもできる。それにより,広告主が広告情報に接したユーザからの電話であることを容易に把握することができる。」(【0039】)

「 …広告電話番号710宛ての架電は,まず電気通信事業者が特定され,サーバシステム600及びCTIサーバ装置620が特定されてCTIサーバ装置620の架電受付部623Aによって受付けられる。そして,識別番号の情報611A1に基づいて,データベース610から識別番号に関連付けられた連絡先番号の情報611A2Bが特定されるのである。」(【0106】)

「 …連絡先抽出部623Bは,架電受付部623Aで取得した広告電話番号710の中に含まれる識別番号に基づいて,データベース610の広告関連情報記録領域611から接続要求先の広告主400に対応する広告特定情報611Aを検索し,この広告特定情報611Aの連絡先番号情報611A2Bを取得する。この連絡先番号情報611A2Bは,応答検知部623Cへ出力される。」(【0110】)

「 店舗電話機が着信応答し通話可能な状態となったとき,応答検知部623Cは,CTI記録部621に予め記録された所定の応答音声データ,例えば『広告情報を閲覧した利用者からの入電です。』等の音声データを出力させ,ユーザからの架電である旨を広告主400に対して報知する。」(【0113】)

「 …CTI演算部623は,架電受付部623Aで取得した広告電話番号710に含まれる識別番号を認識し,データべース610内の広告関連情報記録領域611から識別番号に関連付けられた広告主400の広告特定情報611Aを検索し,広告特定情報611Aの連絡先番号情報611A2Bを取得し,応答検知部623Cヘ出力する。」(【0152】)

「 このステップS103におけるダイヤルアップによりCTIサーバ装置620から出力される呼出信号に基づいて広告主電話機が着信応答すると(ステップS104),応答検知部623Cが,CTI記録部621に内の音声応答データ,例えば『広告情報を閲覧した利用者からの入電です。』との音声データを,店舗電話機ヘ向けて出力する(ステップS105)。」(【0156】)

これらの記載によれば,CTI演算部は,あらかじめ記録された所定の応答音声データを応答検知部623Cから出力できるところ,その音声データを,識別番号に従った音声データとすることを妨げる記載はないから,本件訂正明細書の記載を参酌しても,上記特許請求の範囲の記載の検討結果を左右するものとまではいえない。

ウ 被告らの主張について

被告は,本件訂正発明1のメッセージ提供手段が提供するメッセージは,本件訂正明細書の【0039】【0156】【図10】の記載からみて,「広告情報に基づく架電である」旨であると主張する。

しかしながら,当該メッセージの内容についての特許請求の範囲の記載は,前記のとおり解釈され,明細書における上記各記載のメッセージの内容は,例示にすぎないほか,その記載における「○○からの入電です。」の「○○」も,「広告情報を閲覧した利用者からの入電です。」の「広告情報」も,「いずれの広告情報」と解釈する余地があるから,被告ら主張の記載が,メッセージ提供手段が提供するメッセージが,単に,「広告情報に基づく架電である」旨の通知であることを積極的に根拠付けるものとまではいい難い。

被告らの上記主張は,採用することができない。

エ 小括

以上のとおり,本件訂正発明1のメッセージ提供手段が提供するメッセージは,広告主に対して,「複数の広告情報のうちのいずれの広告情報に基づき架電したきたか」を通知するものであり,その広告情報の具体的な内容を広告主に通知することと特定するものと認められる。

(2)  周知技術の認定

ア 甲2

「フリーダイヤル」と題する,NTTコミュニケーションズ社のウェブページ(アーカイブ),2005年2月4日,インターネットアーカイブ社(甲2)には,次の記載がある。

「 電話をかけていただいたお客さまの発信地域を着信側へガイダンスでお知らせするサービスです(通話の冒頭にガイダンスを送出)。」

「 案内内容は以下の5つから契約時に選択します。

発信者へのガイダンス

『フリーダイヤル です。』」

「 ・フリーダイヤル通話と一般通話の識別ができます。」

イ 甲3

「転送サービス「ボイスワープ」のサービス開始について」と題する記事,1996年5月14日,日本電信電話株式会社(甲3)には,次の記載がある。

「 転送サービス『ボイスワープ』のサービス開始について」

「・転送先での転送通話の識別

1.アナウンス送出

転送先へは,着信の都度,転送された通話である旨のアナウンスを送出します。

『この電話は△△△△△△-△△△△から転送されました。』」

ウ 甲4

特開2001-274910号公報(甲4)には,次の記載がある。

「 従来のシステムにおいて,外線電話や内線電話がかかってきた場合,該当者が外出や会議で不在のときはその電話を受けた人が手動で転送先に転送していた。…そして,転送が2度3度と行われる場合はその間発信者は,同じ内容をその都度電話を受けた人に説明を行っていた。」(【0002】)

「 また,商品発注のために,発注用のフリーダイヤル(登録商標)にかけた場合,まず相手先から発注に関する質問内容が音声メッセージで流され,発信者がそのメッセージに従って必要な情報を入力し,その後その製品の担当者と通話が行われる。」(【0003】)

「 以上説明したように,従来のシステムでは,かかってきた外線電話等を転送する場合に予め発信者の情報を音声で通知することができないめ,転送先でその外線電話を受ける場合は,どこから発信されたのかわからなかった。また,その外線電話の該当者が受ける時点までの発信者との通話内容等の情報を予め受け取ることは,従来のシステムでは実現されていなかった。このように,転送を行う前に行った通話内容等の発信者に関する情報は,転送先では把握することができないため,発信者は,通話が転送された後に同じ内容の通話をもう一度繰り返さなければならないという問題があった。」(【0004】)

「 本発明は,これらの課題を解決するためになされたもので,本発明の目的は,転送先に対して発信者の識別情報等様々な情報を通知することができ,また,そのときに入力を行ったデータ等の情報を音声で通知することができるようなマルチメディア情報通信システムを提供することにある。」(【0005】)

「 図5は,発信者の識別情報やそれに関連する情報を音声で転送先に通知する場合のシステム構成を示す図である。」(【0039】)

「 まず,図5に基づいて,本発明に係る第1の実施形態である発信者の識別情報を音声で通知する場合について説明する。」(【0040】)

file_3.jpgIVR 8 LT oT cE ae Q eam ste ren Ui eas tron 4 4 mn LAN a s eB「 公衆網INWに接続されている電話機TEL4から,着信先として音声自動応答装置IVR(図5のIVRに03-1234-5000と記している。)に対して発信すると,音声自動応答置IVRでは着信動作が行われる。このとき音声自動応答装置IVRは,発信者の識別情報を取得した後,音声ガイダンスをTEL4に対して送信する。電話機TEL4では,このガイダンスに従い転送の要求を入力し,PB信号を用いて音声自動応答装置IVRに送信する。音声自動応答装置IVRは,転送前に発信者の識別情報を音声データ合成部24で音声データに変換する。その後,音声自動応答装置IVRはハブ装置H1に接続されている転送先の電話機TEL1に対して発信動作を起こし,電話機TEL1が応答し変換された識別情報の音声データが送信された後に,TEL4への転送処理が行われる。」(【0041】)

「 このようにすることにより,電話機TEL1,TEL5では,発信者の識別情報を音声で聞いた後に転送処理が行われるので,通話状態となった電話機TEL1,TEL5では誰からの通話かが即座に判別でき,その後の通話をスムーズに行うことができる。」(【0042】)

エ 小括

上記ア~ウの記載によれば,発信者からの呼を受けた転送元が,その呼を転送先に転送する際に,呼に関するメッセージを提供しているといえ,このような架電接続方式は周知技術であったと認められる。

原告は,甲3は,広告に関するものではなく,受信者の利便を目的とするので,甲1発明とは分野,目的を異にする旨を主張する。しかしながら,相違点2は通話の転送の際のメッセージ提供に係るものであり,原告主張の上記の相違点が,転送の際のメッセージの提供に係る甲3に記載の事項を,相違点2に係る周知技術の認定資料とすることを妨げることはない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

(3)  容易想到性

甲1発明は,電話3からの呼を受けたサーバが,その呼をアクセス先の電話に接続(転送)する架電接続方式であるといえる。また,上記(2)のとおり,発信者からの呼を受けた転送元が,その呼を転送先に転送する際に,呼に関するメッセージを提供する架電接続方式は周知技術である。

そうすると,甲1発明と周知技術は,ともに呼の転送を行う架電接続方式であるから,甲1発明において,周知技術を採用し,呼をアクセス先の電話に転送する際に,呼に関するメッセージを提供するように設計変更することに格別の困難性は認められない。そして,甲1発明のサーバは,受けた呼が,どのような種類の広告を見た発信者からの呼であるかを認識できるのであるから(甲1の【0025】),呼をアクセス先の電話に転送する際に,呼に関するメッセージとして,どのような種類の広告を見た発信者からの呼である旨,すなわち,いずれの広告情報に基づく架電である旨のメッセージを提供するように構成することは,当業者であれば容易に想到し得るものであり,その構成をとったことによる効果も,甲1発明及び周知技術から,当業者が予測し得る範囲内のものである。

(4)  原告の主張について

① 原告は,甲1発明は,架電がすべて広告情報を視聴した者からされるため,アクセス先に対して広告情報に基づく架電である旨のメッセージの提供をする実益はなく,甲1発明に相違点2に係る構成を組み合わせる動機付けがない旨を主張する。

しかしながら,甲1発明の構成は,広告を視聴せず「アクセス先電話番号」に架電するユーザの存在を排除するものではなく,このことは,本件訂正発明1と全く同様である。

原告の上記主張は,その前提に誤りがあり,採用することができない。

② 原告は,相違点2に係る本件訂正発明1の構成により,着信応答時に,直ちに広告効果があったか否かを広告主に伝えることを可能とする顕著な効果を奏する旨を主張する。

しかしながら,相違点に係る本件訂正発明1の構成,すなわち,広告主に対しいずれの広告情報に基づく架電である旨のメッセージを提供する構成が,当業者にとって容易に組み合わせられることは,前記のとおりであり,そのような構成を採用した場合,着信応答時に広告効果があったか否かが分かるのは当然の帰結であるから,原告主張の上記効果は,甲1発明及び周知技術から,当業者が予測し得る範囲内のものである。

原告の上記主張は,採用することができない。

(5)  小括

以上のとおり,審決の相違点2の判断には,誤りはない。

したがって,取消事由2は,理由がない。

3  取消事由3(相違点3の判断の誤り)について

原告は,甲1発明の「解釈テーブル」(解釈テーブル8c)は,広告種別情報とアクセス先電話番号とが1対1対応となっているから,相違点3に係る本件訂正発明2の構成は,実質的な相違点である旨を主張する。

しかしながら,広告識別情報とアクセス先電話番号とをどのように関連付けるかは,広告主の数,電話回線の数,広告の数など広告の目的に従い,当業者が適宜に決定することのできる設計的事項である。そうすると,複数の広告種別情報(「識別番号」に相当する。)と1又は複数のアクセス先電話番号(「連絡先番号」に相当する。)を関連付けることは,実質的な相違点を構成するものとはいえない。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

4  まとめ

以上のとおり,取消事由1~3は,いずれも理由がない。また,原告は,審決の相違点1に係る認定・判断並びに本件訂正発明3~4に係る認定判断について,具体的な取消事由を主張しないところ,審決の説示に照らして,審決に誤りがあるとは認められない。そのほか,原告がるる主張するところも,いずれも採用することはできない。

第6結論

よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)

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