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知財高等裁判所 平成26年(行ケ)10238号 判決 2015年8月05日

原告

X1

原告

X2

上記2名訴訟代理人弁理士

大島泰甫

稗苗秀三

小羽根孝康

藤原清隆

被告

特許庁長官

指定代理人

冨永保

星野紹英

井上猛

内山進

主文

1  特許庁が不服2011-20954号事件について平成26年9月22日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

主文と同旨

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯等(証拠等を摘示しない事実は,当事者間に争いがない。)

原告らは,発明の名称を「活性発泡体」とする発明について,平成17年5月16日に国際出願(日本国内出願番号は,特願2006-536494号である。以下「本願」という。請求項の数は6である。)をしたが,平成23年6月23日付け(起案日)で拒絶査定を受けたため,同年9月28日,これに対する不服の審判を請求するとともに,平成26年1月27日,手続補正書を提出した(甲9。これに係る手続補正を,以下「本件補正」という。)。

特許庁は,この審判請求を,不服2011-20954号事件として審理した上,平成26年9月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,審決の謄本を,同年10月7日,原告らに送達した。

原告らは,同年11月3日,審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。

2  特許請求の範囲

本件補正後の本願の特許請求の範囲における請求項1の記載は次のとおりである(甲9。この発明を,以下「本願発明」という。また,本件補正後の本願の明細書を,以下「本願明細書」という。)。

【請求項1】

天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シートを備えた活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物を含有し,薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いることを特徴とする活性発泡体。

3  審決の理由

別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願明細書は,本願発明について当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されたものとすることができないから,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないというものである。

第3原告らの主張する取消事由

本願明細書の記載が特許法36条4項1号の要件を満たしていない旨の審決の判断には,次のとおり誤りがあるから,審決は違法であり取り消されるべきである。

1  技術分野の誤認

審決は,本願明細書には,本願発明に係る活性発泡体と薬剤との併用効果について,当業者が理解し認識できるように記載されていないことを理由に,実施可能要件を満たしていないと判断した。

しかしながら,審決には,本願発明を医薬分野の発明と誤認し,いくつかの種類の異なる薬剤についての薬理試験結果の記載が必須であると認定した点で,誤りがある。

すなわち,本願発明に係る活性発泡体は医療機器の一種であるから,物品に関連する発明として,その実施可能要件については,当業者が,本願明細書に記載された事項と出願時の技術常識に基づき,その物を作ることができ,かつ,その物を使用できる程度に明確かつ十分な記載が,本願明細書にあることが必要となる。

そして,本願明細書には,活性発泡体の製造方法が記載され([0031],[0033]),その使用方法として,活性発泡体を小型の三角形状ハンディタイプ,敷きマット,掛けマットなどの寝具状形態,衣服等の一部分又は全部に使用する形態として,人体に直接又は間接的に接触させて使用すればよい(ただし使用方法はこれに限定されない)こと([0016]),<試験1>として,実際に,椅子の上に活性発泡体を敷き,その上に被験者が座った状態で30分経過後の太もも上部の体圧及び血流量の測定結果から,何も敷かなかった場合よりも血流量が約1.5倍に増加するという優れた効果があること([0035]ないし[0037])が記載されている。なお,<試験1>では,薬剤投与は行われていないが,当業者であれば,通常の用法によって薬剤を投与する際に,<試験1>の態様で活性発泡体を用いればよいことは,本願明細書から容易に理解することができる。

また,本願発明の「薬剤投与の際に」との構成要件は,「人体に直接又は間接的に接触させて用いる」との構成要件を時期的に限定しているにすぎず,それによって,当業者が,活性発泡体をどのように使用するかを理解することが困難になるものではない。

したがって,本願明細書には,本願発明に係る活性発泡体の製造方法,使用方法及び活性発泡体と薬剤との併用効果が記載されているから,本願発明は実施可能要件を満たしており,審決にはこのことを看過した誤りがある。

2  活性発泡体の作用・機能についての記載の看過

審決は,「本願発明に係る「活性発泡体」と称する物がどのような作用・機能に基づいて,in vitro 試験において酪酸ナトリウムの有する前立腺癌細胞の増殖抑制作用を増強させたのかが明らかとはいえない」と認定した。

しかしながら,本願明細書には,独立気泡構造の気泡シートにジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物を含有させた活性発泡体を人体に直接又は間接的に接触させることで,活性発泡体から人体に向けて波長4~25ミクロンの赤外線が放射され,この特定波長の赤外線が人体に対して血行促進作用,代謝促進作用等を及ぼすことが記載されている。

さらに,本願明細書には,<試験2>の in vitro 試験において,活性発泡体から放射される特定波長の赤外線の癌細胞に対する影響を試験した結果,活性発泡体は癌細胞弱体化作用を有することが記載されている。

そうすると,本願明細書の<試験3>の in vitro 試験においては,活性発泡体の血行促進作用は直接的には関係ないとしても,代謝促進作用,癌細胞弱体化作用等によって,酪酸ナトリウムの有する前立腺癌細胞の増殖抑制作用を増強させたことは明らかである。

よって,審決の上記認定は誤りである。活性発泡体が血行を促進させ体質改善や病気の治癒を促進させるメカニズムが解明されていないからといって,活性発泡体の作用・機能(代謝促進作用,癌細胞の増殖抑制作用を増強させる機能)が記載されていないわけではない。

3  活性発泡体の適用態様についての記載の看過

審決は,in vitro 試験について,「あくまで「培養プレートを上下から挟んだ」とするものであり,実際に人体に適用するに際して,「酪酸ナトリウムの作用を増強した」という試験結果を再現させるためには,具体的にどのような適用態様とすればいいのか・・・が未だ不詳といわざるを得ない」と認定した上,「本願発明に係る『活性発泡体』が,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いること」により「癌等の病気の治癒を促進することができる」・・・とすることについて,本願明細書の記載では,当業者が理解し認識できるように記載されているものとはいえない」と判断した。

確かに,本願明細書の<試験2>及び<試験3>は,in vitro 試験であり,活性発泡体を培養プレートの上下から挟んだ状態で試験している。しかし,<試験1>では,椅子の上に活性発泡体を敷き,この上に被験者が座った状態で30分経過後の太もも上部の体圧及び血流量を測定した結果,著しく血行が促進されるという結果を得ている。

また,本願明細書には,活性発泡体の形態として,ハンディタイプ,敷きマット,掛けマットなどの寝具状形態,衣服等の一部分又は全部に使用する形態が記載されている。

そうすると,人体に適用するに際しては,適当な形態の活性発泡体を患部直近の皮膚に接触させればよく,これにより,in vitro 試験と同様に,特定波長の赤外線の影響が患部に及ぶ,すなわち,血行促進作用,代謝促進作用及び癌細胞弱体化作用が患部に及ぶことは明らかである。

以上によれば,本願明細書には,当業者であれば,活性発泡体が,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いること」により「癌等の病気の治癒を促進することができる」ことについて,理解し認識することができる程度の記載があるということができ,審決の上記判断は誤っている。

4  薬剤の記載についての誤った認識

審決は,単に「薬剤」といっても,個々の薬剤が有する作用・機能が増強されるか否かを一律に論じられないことは技術常識であり,酪酸ナトリウムの細胞増殖抑制効果という,ただ一例の結果の記載に基づいて,「薬剤」という用語で表現される全範囲にわたって同様であるとすることが技術的な妥当性に欠けることは,当業者にとって明らかであると認定した。

しかしながら,本願明細書には,活性発泡体が血行促進作用,代謝促進作用及び癌細胞弱体化作用などを有すること,すなわち,活性発泡体は薬剤に作用するのではなく人体に作用して種々の効果を奏し,薬剤がより薬効を発揮しやすいように環境を整えることが記載されている。したがって,たとえ薬剤が変わったとしても,活性発泡体が人体に対して同様の効果を奏することは明らかであり,酪酸ナトリウム以外の薬剤では同様の効果を奏しないという合理的推論は成り立たない。

さらに,審決では,酪酸ナトリウムの代わりに他の薬剤を用いた場合に,本願発明を実施することができない具体的理由については,何ら述べられていない。よって,この点を無視し,薬剤を用いた試験例が一例のみであることを理由に実施可能要件を満たさないとするのは誤りである。

第4被告の反論

1  技術分野の誤認について

本願発明が実施可能要件を満たすというためには,本願明細書の発明の詳細な説明において,「本願発明に用いる『活性発泡体』が,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いること」により「癌等の病気の治癒を促進することができる」こと,すなわち,活性発泡体と薬剤とを併用することで薬剤の効果が上がることを当業者が理解し認識できるように記載されていることが必要である。

そうすると,本願発明においては,薬剤の効果が実際に上がるのかどうかが問題となるから,本願明細書に当業者がその物を「使用できる」ように記載されているというためには,医薬用途に関する発明に準じて,併用することによる効果を当業者が具体的に理解し認識できるように記載されていることが必要であり,そのためには,併用効果に関する薬理作用を裏付ける必要があると解するべきである。

よって,審決の判断に,原告らが指摘するような誤りはない。

2  活性発泡体の作用・機能についての記載の看過について

審決は,活性発泡体が生体内でも同様な増強作用を有するであろうことを当業者をして予測させるに十分なものであるかどうかを判断するために,「本願発明に係る「活性発泡体」と称する物がどのような作用・機能に基づいて,invitro 試験において酪酸ナトリウムの有する前立腺癌細胞の増殖抑制作用を増強させたのかが明らかとはいえない」とした。そして,本願明細書の記載では,当該作用・機能は明らかとはいえないため,そのことを理由の一つとして,生体内での増強作用は予測できないとしたのである。

すなわち,本願明細書の,活性発泡体から放射される特定波長の赤外線が人体に対して血行促進作用,代謝促進作用等を及ぼし,人間が本来有している自然の治癒力が増進されるとの記載は,単なる推測にすぎず,実証されていない。

また,<試験2>は,活性発泡体単独,かつ in vitro での試験で,活性発泡体を実際に人体に適用するにはおよそ不可能な条件下で試験がされているから,この試験から,生体内で酪酸ナトリウムと併用する場合に活性発泡体がどのように作用・機能するかは,当業者であっても理解できない。

さらに,<試験3>についても,仮に,この試験で確認された増強作用が,<試験2>で示された癌細胞弱体化作用によるものであるとしても,当該試験もまた,人体において再現することのおよそ不可能な条件下でされているから,人体においても同様の効果が得られるとは到底いうことができない。

よって,審決の判断に,原告らが指摘するような誤りはない。

3  活性発泡体の適用態様についての記載の看過について

審決は,本願明細書において活性発泡体と薬剤とを併用した<試験3>における試験条件・試験態様が,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」という,本願発明において特定された適用態様と相当に大きな隔たりがあって,このような隔たりがあったとしてもなお,当業者をして,当該試験の結果に基づいて,本願発明に係る併用効果を予測させるに十分であるとする技術的に合理性のある根拠がないことを指摘したのである。

そして,<試験1>は,あくまで活性発泡体を単独で使用する場合についてのものであり,その試験結果をもって,薬剤を併用する場合の効果を示したものとはいえないし,in vitro 試験である<試験3>の結果が,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」場合の効果を予測させるに十分であるとする技術的根拠が見当たらない以上,<試験1>で示された効果を考慮しても,本願発明に係る併用効果が示されたとはいえない。

したがって,原告らの指摘する本願明細書の記載からは,「活性発泡体」が,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いること」により「癌等の病気の治癒を促進することができる」ことについて,当業者が理解し認識することができる程度に記載されているとはいえず,審決の判断に,原告らが指摘するような誤りはない。

4  薬剤の記載についての誤った認識について

一般に「薬剤」とは,病気や傷を治療・予防するために服用,塗布,注射などによって適用されるものであり,その形態も経口投与剤,注射剤,外用剤等があり,その用途も抗菌,抗ウイルス,ワクチン,腫瘍,腹膜透析,免疫抑制,アレルギー,解熱鎮痛消炎,偏頭痛,糖尿病,抗不安,麻酔,血圧降下,整腸,眼科,造影等の多岐にわたり,それら薬剤の作用点も臓器レベル,細胞レベルにおいて種々であり,作用機序も薬剤の種類によって異なる。

そして,本願明細書に,活性発泡体の血行促進作用,代謝促進作用及び癌細胞弱体化作用が記載されていたとしても(なお,代謝促進作用は具体的に確認されていない。),それらの作用が上記用途の全てに共通して有効な作用であるとはいえない(例えば,抗菌,偏頭痛,造影と,血行促進作用,代謝促進作用,癌細胞弱体化作用との関連は不明である。)から,活性発泡体があらゆる薬剤の効果を増強するということはできない。

審決は,以上を前提に,酪酸ナトリウムの癌細胞増殖抑制効果というただ一例の結果のみの記載に基づいて,本願明細書に,活性発泡体が薬剤全般に対する増強作用を有することが示されているとはいえないとしたのであり,このような審決の判断に誤りはない。

第5当裁判所の判断

当裁判所は,審決には,本願発明に係る活性発泡体の薬剤との併用効果について,当業者が理解し認識できるような記載がないことを理由に,本願明細書が特許法36条4項1号の要件を満たしていないと判断した点に誤りがあり,この誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取消しを免れないと判断する。

その理由は,次のとおりである。

1  本願明細書の記載について

原告らは,本願明細書には当業者が本願発明を実施できるような明確かつ十分な記載がないとの審決の判断に,誤りがあると主張するところ,本願明細書には,本願発明について,次の記載がある(甲1)。

「技術分野

[0001]

本発明は,天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製の活性発泡体に関し,血行を促進し,体質改善や,癌等の病気の治癒を促進することができる活性発泡体に関するものである。」

「発明が解決しようとする課題

・・・

[0007]

本発明は,・・・副作用がなく,血行を促進し,体質改善や,癌等の病気の治癒を促進することができる活性発泡体を提供することを目的とする。」「課題を解決するための手段

[0008]

上記目的を達成するため,鋭意研究した結果,本発明を完成させた。すなわち,本発明は,ジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物を含有する天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製の活性発泡体であって,独立気泡構造を有し,薬物投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いることを特徴とする活性発泡体である。

[0009]

本活性発泡体は,人体に直接又は間接的に接触させて用いるが,さらに,活性発泡体と人体との間で摩擦を起こせば,より効果的である。本活性発泡体は,血行を促進させ,体質改善や病気の治癒を促進させるが,そのメカニズムは解明されていない。

[0010]

ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物は,活性気泡体内に太陽等からの赤外線を集める。そして,赤外線が活性発泡体内部の多数の気泡の壁にぶつかり,乱反射と集約を繰り返すことで,人体に好影響を与える波長4~25ミクロンの赤外線を,活性気泡体外へ発生する。この赤外線と,人体の波長とが共振することにより,体の中の水分子やタンパク質分子が活性化され,代謝促進作用によって人間が本来有している自然の治癒力が増進されると推測される。したがって,癌,高血圧,糖尿病,心臓病,肩こり,腰痛,アレルギー性疾患等の病気の治癒や,老化防止,育毛等の体質改善が促進されるものと推測される。また,本活性発泡体は,繰り返し使うことができる。

[0011]

本活性発泡体は,薬剤投与の際に,人体に直接又は間接的に接触させて用いれば,その薬剤の効果を上げることができる。また,大量に使えば副作用のある薬剤であっても,本活性発泡体を併用すれば少量ですむので,副作用を抑えることができる。

[0012]

薬剤の種類としては,例えば,注射用剤,皮膚外用剤,経粘皮用剤,経鼻腔用剤又は経口剤等が挙げられるが,これらに限定されるものではない。さらに具体的には,抗癌剤,抗生物質等が挙げられるが,これらに限定されるものではない。また,薬剤は,ヒト由来の物質であるのが好ましい。・・・

[0013]

ヒト由来の物質の中でも毒性が限りなく少ない物質を用いれば,通常量での使用では副作用がないので好ましい。例えば,その例として,ヒトの腸管内にある酪酸ナトリウム(sodium butyrate 以下,SBと称す),酪酸エステルナトリウムが挙げられる。これらの物質は,クロマチンを非活性化するヒストン脱アセチル化酵素阻害物質(histone deacetylase inhibitor。・・・以下,HDACIと称す。)であり,クロマチンを活性化し,癌抑制遺伝子を立ち上げ,癌細胞の細胞周期(分裂周期。細胞分裂を完了してから次の細胞分裂に至るまでの,細胞の生活環)を止める働き,すなわち,抗腫瘍剤としての働きがある。・・・これらの物質の服用と本活性発泡体の使用とを組み合わせれば,癌遺伝子の働きを抑え,癌抑制効果を上げることができる。」

「[0016]

活性発泡体の形態としては,例えば,持ち運びしやすい小型の三角形状ハンディタイプ,敷きマット,掛けマットなどの寝具状形態,衣服等の一部分又は全部に使用する形態としてもよいが,人体に直接又は間接的に接触できるものであれば,これらに限定されるものではない。また,活性発泡体は,人体の一部に局部的に集中して病気治癒等の効果を与えたい場合は,厚み約8mm~5cmのシート状に形成すればよい。また,衣服の素材にする場合には,厚み約0.3~5mmのシート状に形成すれば衣服に製造しやすい。

[0017]

ゴム成分としては,天然ゴム又は合成ゴムのいずれでもよい。合成ゴムとしては,クロロプレンゴム(CR),スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR),アクリルニトリルゴム(NRP),ブタジエンゴム(BR),イソプレンゴム(IR)などのゴム系高分子,またはこれらを複数種混合したものが挙げられるが,これらに限定されるものではない。

[0018]

また,合成樹脂成分としては,塩化ビニル樹脂(PVC),ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE)等が挙げられるが,これらに限定されるものではない。

[0019]

発泡剤としては,公知の発泡剤を使用することができるが,セロゲンOTI(ユニロイヤル社製,米国)又はユニセル(ドンジン社製,韓国)が好ましい。

[0020]

ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物は,両方含有させる形態としてもよいし,いずれか一方のみを含有させる形態としてもよい。癌治療には,ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物の両方を含有させると,癌の治癒を促進させる効果が向上するので好ましい。

[0021]

ジルコニウム化合物としては,ジルコニウム錯化合物を用いるのが好ましい。ジルコニウム錯化合物としては,ジルコニウムとフッ素等との錯体が挙げられ,具体的には,ヘキサフルオロジルコニウム酸カリ(K2ZrF6)又はオクタフルオロジルコニウム酸カリ(K2ZrF8)が挙げられるが,これに限定されるものではない。ジルコニウム化合物の含有量は,ゴム成分100重量部に対して,10~80重量部含有させるのが好ましい。いずれも下限値よりも少ないと効果が乏しく,上限値よりも多くしても効果に顕著な差異は見られないため経済性の点から望ましくない。

[0022]

また,ゲルマニウム化合物としては,ゲルマニウム鉱物またはゲルマニウム錯化合物を用いるのが好ましい。ゲルマニウム鉱物としては,硫ゲルマニウム銀鉱(Ag8GeS9,Argyrodite)や,レニエル鉱((Cu,Zn)11Fe4(Ge,As)2S16,Renierite)等が挙げられるが,これに限定されるものではない。また,ゲルマニウム錯化合物としては,ゲルマニウムと,ジカルボン酸又はアミン等との錯体が挙げられるが,これに限定されるものではない。ゲルマニウム化合物の含有量は,ゴム成分100重量部に対して,5~10重量部含有させるのが好ましい。いずれも下限値よりも少ないと効果が乏しく,上限値よりも多くしても効果に顕著な差異は見られないため経済性の点から望ましくない。」

「発明の効果

[0024]

本発明によると,本活性発泡体は,薬剤投与の際に,人体に直接又は間接的に接触させて用いれば,その薬剤の効果を上げることができる。また,大量に使えば副作用のある薬剤であっても,本活性発泡体を併用すれば少量ですむので,副作用を抑えることができる。」

「実施例

・・・

[0031]

まず,気泡シート1を作成する。ゴム又は合成樹脂をベースとし,表1の配合に従って配合し,ロールで混練する。なお,材料を混合する方法は特に制限はなく,一般のゴム又は合成樹脂の配合物に対して使用される混合方法を採用することができる。次に,得られた混練物を押出機によってシート状に成形する。このシートを加熱空気で加硫及び発泡する(加硫工程)。この加硫工程は,1次と2次の2段階に分けて行う。2段階で加硫を行うことにより,気泡が気泡シート全体に均一に形成される。以上の工程により,気泡シート1が製造される。

[0032]

そして,気泡シート1の表裏面に,カバーシート2をゴム系又は合成樹脂系の接着剤で貼着する。次に,表面となる側に,高電圧を印加する。電流が1万アンペア~80万アンペア,電圧が200~3300V,0.1~0.3秒の時間の条件で電圧を印加する。なお,電流は高いほど好ましい。活性発泡体は,赤外線等の電磁波を発生している。メカニズムは解明されていないが,活性発泡体の一面に高電圧を印加することにより,電磁波の方向が電圧を印加した面側へ指向性を示すように方向づけられると推測される。したがって,その面を人体に当てれば,その当てた面に集中的に電磁波を当てることができ,より病気の治癒効果等を上げることができる。以上の工程により,本活性発泡体が完成する。」

「[0033][表1]」

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<試験1>

次に,活性発泡体を用いて,それが人間の体圧及び血流に与える影響について測定試験を行った。まず,体圧及び血流測定の試験方法について説明する。

[0036]

[試験対象]

50代の女性1名を被験者とする。

[0037]

[試験方法]

血流及び体圧測定機器(AMI3037-2,株式会社エイエムアイテクノ製)を用いて試験を行った。体圧及び血流センサーを太もも上部に取り付け,室温23℃,湿度55%RHの環境で,以下の2つの条件下で測定を行った。条件1では,椅子の上に活性発泡体を敷き,その上に30分間静止状態で座った後に,血流量・・・,血液量・・・,血流速度・・・及び体圧・・・を10分間測定した。条件2では,対照例として,活性発泡体を敷いていない椅子の上に30分間静止状態で座った後,血流量等を10分間測定した。その結果を表2・・・に示す。表2は,10分間の血流量等の測定値の平均値を示す。・・・なお,血流量は,人体組織100g中当たり1分間に流れる血流量のことであり,毛細血管中の赤血球に反射した光量から計測する。血液量は,人体組織100gの断面積当たりの血液量のことであり,血液量と血流速度との積がほぼ血流量となる関係にある。

[0038]

[試験結果]

[0039]

[表2]

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上記表2・・・より,本活性発泡体を使用すれば,血行がよくなり,体圧が下がることが分かる。

[0041]

<試験2>

[試験対象]

ヒト由来の培養前立腺癌細胞(Du145,PC3,LNCap)を用いた。・・・

[0042]

[試験方法]

培養液15mlが入れられた直径10cmの培養皿に,各前立腺癌細胞(Du145,LNCap,PC3)を105cell/plateずつ散布し,37℃,5%CO2の条件下で7~10日間培養した後に(準備期間),試験を始めた。・・・

[0043]

そして,試験開始後,実験群は,各培養皿を上下から活性発泡体で挟んだ状態で培養した。対照群は,活性発泡体無しの状態で培養した。・・・

[0044]

試験開始直前を0日とし,開始後1,2,3週目に細胞を回収し,培養3週目の細胞を固定した後に電顕的に観察した(a)。

[0045]

また,培養3週目の細胞からmRNA・・・を抽出した。抽出したmRNAは,・・・ハイブリダイズし,その結果を・・・解析した。・・・(b)。

[0046]

[試験結果]

各前立腺癌細胞の増殖は,次のような特徴が実験群に認められた。

[0047]

(a) 実験群と対照群の3週目の電子顕微鏡像では,形態的な違いが認められた。すなわち,活性発泡体に3週間接触していた各ガン細胞では,対照群・・・に比較して細胞質の空胞が多く,ミトコンドリアの内部構造の不鮮明化,核膜の不明瞭化が生じていた・・・。すなわち,活性発泡体を用いた細胞では,アポトーシス・・・が起こっていることが分かる。

[0048]

なお,アポトーシスとは,遺伝子にプログラムされた細胞死,すなわち,細胞の自殺のことである。このアポトーシスのシステムが狂い,増殖し続けるのが癌細胞である。

[0049]

(b) また,cDNAマイクロアレイの3週目の結果について,・・・

[0050]

Du145では,実験群は対照群と比較してFasL(2.3倍),Fas(1.4倍),TRADD(1.4倍),CASP1,4,10(1.7,1.2,1.7倍),DFF40(1.7倍)にup-regulation(増加)が認められた。PC3では,実験群は対照群と比較してCD40(1.4倍),TNF(1.4倍)にup-regulationが認められた。LNCapでは,実験群は対照群と比較してFas(1.6倍),CASP8(1.6倍),CASP3(1.3倍)にup-regulationが認められた。なお,FasL,Fas,TRADD,CASP1,4,10,DFF40,CD40,TNFは,アポトーシスの回路を立ち上げる遺伝子群である。以上から,活性発泡体を用いた実験群では,対照群と比較してアポトーシスが促進されていることが分かる。

[0051]

[考察]

上記の試験から次のことが言える。活性発泡体は,ガン細胞のアポトーシス回路を立ち上げ,ガン細胞の働きを弱体化する作用を促進する。

[0052]

<試験3>

ヒト前立腺癌細胞に対して,活性発泡体と,HDACIであるSBとを用いて,癌細胞増殖抑制試験を行った。この試験は,革命的な前立腺癌の治療方法,予防方法を具体的に示すものであるとともに,原理的に全ての癌に有効である可能性を示唆するものである。・・・

[0053]

SBを代表とするHDACIは,このHDACによる脱アセチル化を防ぎ,クロマチンを不活性化しない。このために,HDACIは,働きが弱体化している癌抑制遺伝子などが活性化し,ガン細胞の増殖を抑えるように働くのである。

[0054]

[試験対象]

ヒト由来の培養前立腺癌細胞(Du145,PC3,LNCap)を用いた。・・・

[0055]

[試験方法]

各々103cell/100μlの濃度の各前立腺癌細胞(Du145,LNCap,PC3)を96穴マイクロプレート(96well Plate)で培養した。活性発泡体を用いる実験群では,プレートに0,1,2,3mMのSBを6μl添加し,プレートを活性発泡体で上下から挟んだ。このSB入り培養液は,2日毎に培養液を交換した。対照群では,活性発泡体を用いずに培養し,0,1,2,3mMのSBを6μl添加した。・・・」

「[0058]

[試験結果]

活性発泡体を用いると,各ヒト前立腺癌細胞ではホルモン依存性の有無にかかわらず,活性発泡体を用いた群ではSBが低濃度(1mM)でも,活性発泡体を用いない高濃度(3mM)のSB以上に,有意に前立腺癌細胞の増殖を抑制した・・・。すなわち,活性発泡体は,SBと共同して働き,ヒト前立腺癌細胞の増殖を明確に抑制した。

[0059]

[考察]

上記の試験から次のことが言える。・・・活性発泡体とHDACIとを同時に用いることにより,活性発泡体は,HDACIのヒト前立腺癌細胞の増殖抑制効果を促進することができる。原理的には,この方法は全ての癌に有効な治療法と考えられる。また,SBは,元来,ヒト体内の腸管内に存在するものであって,アレルギー反応などを起こさない物質である。したがって,本試験で有効性が証明された1mMの濃度では,生体に対する毒性が極めて少なく,アレルギーなどの副作用がない。」

「産業上の利用可能性

[0061]

本活性発泡体は,薬剤投与の際に,人体に直接又は間接的に接触させて用いれば,その薬剤の効果を上げることができる。また,大量に使えば副作用のある薬剤であっても,本活性発泡体を併用すれば少量ですむので,副作用を抑えることができる。」

2  本願明細書が実施可能要件を充足しているか否か

(1)  実施可能要件の内容

特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。

特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条4項1号が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことにあると解される。

そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を使用できることであり,物の発明については,明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用できるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。

さらに,ここにいう「使用できる」といえるためには,特許発明に係る物について,例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど,少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することができることを要するというべきである。

これを本願発明についてみると,本願発明は,前記第2の2に記載のとおりの活性発泡体であるから,本願発明は物の発明であり,本願発明が実施可能であるというためには,本願明細書及び図面の記載並びに本願出願当時の技術常識に基づき,当業者が,本願発明に係る活性発泡体を作ることができ,かつ,当該活性発泡体を使用できる必要があるとともに,それで足りるというべきである。

(2)  活性発泡体を作ることができるかについて

まず,当業者において,本願明細書の記載に基づいて,本願発明に係る活性発泡体を作ることができるかどうかを検討する。

前記1によれば,本願明細書には,実施例1ないし6として,ゴム(天然ゴム,クロロプレンゴム,アクリルニトリルゴム),合成樹脂(クロロスルホーネテットポリエチレン,塩化ビニル樹脂),ジルコニウム化合物(ジルコニウム錯化合物,ジルコン),ゲルマニウム化合物(ゲルマニウム錯化合物)などを組み合わせて製造された6種類の活性発泡体が,それらの製造工程とともに記載されている([0031]ないし[0033])。また,本願明細書には,活性発泡体の製造に用いるゴム成分7種類及び合成樹脂3種類が具体的に記載され([0017],[0018]),活性発泡体に含有させるジルコニウム化合物2種類及びゲルマニウム化合物2種類が,ゴム成分に対する含有量とともに具体的に記載されている([0021],[0022])。さらに,本願明細書には,活性発泡体の形態として,小型の三角形状ハンディタイプ,敷きマット,掛けマットなどの寝具状形態,衣服等の一部分又は全部に使用する形態が例示されている([0016])。

これらの記載に接した当業者であれば,本願明細書に記載された各種のゴム又は合成樹脂と,各種のジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物とを組み合わせ,実施例に記載された製造方法に従って,本願発明の「天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シートを備えた活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物を含有」する活性発泡体を製造することができるというべきであり,また,当該活性発泡体を,例えば,敷きマットのような,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことができる形態とすることもできるというべきである。

(3)  活性発泡体を使用できるかについて

次に,当業者において,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術常識に基づいて,本願発明に係る活性発泡体を使用できるかどうかについては,活性発泡体を前記(2)のとおりの形態とすることができる以上,当該活性発泡体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと自体は当然にできると考えられることから,かかる用い方にどのような技術上の意義があるのかについて検討する。

ア 本願明細書には,本願発明が解決しようとする課題として,「血行を促進し,体質改善や,癌等の病気の治癒を促進することができる活性発泡体を提供すること」との記載がある([0007])。しかしながら,これらの効果については「そのメカニズムは解明されていない」とあり([0009]),その作用機序に関しても,ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物によって活性発泡体外へ発生させた特定波長の赤外線と人体の波長とが共振する結果,人間の自然の治癒力が増進される旨の記載はある([0010])ものの,これも本願明細書自体が認めるとおり,推測の域を出るものではない。

イ そして,本願明細書では,<試験1>として,被験者1名が活性発泡体を敷いた椅子の上に30分間静止状態で座った後の血流量,血液量,血流速度及び体圧を,活性発泡体を敷いていない椅子の上に30分間静止状態で座った後のそれらと比較した結果を踏まえ,「本活性発泡体を使用すれば,血行がよくなり,体圧が下がることが分かる。」と結論付けている([0035]ないし[0040])。

しかしながら,この試験は,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接触させて用いる」態様で行われた試験ではあるものの,この試験において用いられた活性発泡体がどのようなものであるのか(特に,ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物のどちらを,あるいはその両方を,どの程度含有するのか)については,本願明細書に記載がなく定かではない。また,本願出願当時の当業者の技術常識に照らしても,被験者は50代の女性1名のみであるから,その試験結果を人体一般に妥当する客観的なものとして評価することが可能であるともいい難いし,試験条件の詳細も明らかではないから,この試験における血流量や体圧の計測結果から導かれるとされる「本活性発泡体を使用すれば,血行がよくなり,体圧が下がる」との効果が,活性発泡体を使用したことによるものであるのか,それ以外の要因に基づくものであるのかどうかについても,直ちに検証することはできない。

そうすると,<試験1>の結果のみから,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことに,人体の血行を促進することが期待できるという技術上の意義があるというのには疑問がある。とはいえ,例えば,<試験1>に係る諸条件の説明や,他の試験結果の存否及びその内容次第では,本願発明に係る活性発泡体の使用に,かかる技術上の意義があることが裏付けられたということのできる余地もあるというべきである。

ウ また,本願明細書は,<試験2>に基づき,「活性発泡体は,ガン細胞のアポトーシス回路を立ち上げ,ガン細胞の働きを弱体化する作用を促進する。」とする([0051])。

しかしながら,<試験2>は,前立腺癌細胞を培養した培養皿を上下から活性発泡体で挟んだ状態で培養し,活性発泡体なしの状態で培養したものとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体に直接又は間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様とはおよそ異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常識を踏まえても,かかる試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことに,癌細胞の弱体化を期待できるという技術上の意義があるということはできない。

エ さらに,本願明細書には,本願発明の効果や産業上の利用可能性に関して,「本活性発泡体は,薬剤投与の際に,人体に直接又は間接的に接触させて用いれば,その薬剤の効果を上げることができる。また,大量に使えば副作用のある薬剤であっても,本活性発泡体を併用すれば少量ですむので,副作用を抑えることができる。」との記載がある([0024],[0061])。そして,これらの効果に関して,<試験3>に基づき,「活性発泡体とHDACIとを同時に用いることにより,活性発泡体は,HDACIのヒト前立腺癌細胞の増殖抑制効果を促進することができる。原理的には,この方法は全ての癌に有効な治療法と考えられる。」とする([0059])。

しかるに,<試験3>についても,前立腺癌細胞を培養したマイクロプレートにSB(酪酸ナトリウム)を添加し,プレートを活性発泡体で上下から挟んだものと,活性発泡体を用いずに前立腺癌細胞を培養し,SBを添加したものとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体に直接又は間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様とはおよそ異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常識を踏まえても,これらの試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことに,薬剤の効果を増強させることが期待できるという技術上の意義があるということはできない。

(4)  審決の判断について

以上を踏まえて,審決の判断の適否を検討する。

審決は,活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し認識できるような記載がないことを理由に,本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たしていないと結論付けている。

しかしながら,本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その文言からして,活性発泡体を用いる時期を特定するものにすぎず,その請求項において,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を促進するなどの目的ないし用途が特定されているものではない。よって,本願明細書に,活性発泡体の薬剤との併用効果についての開示が十分にされていないとしても,活性発泡体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことに,それ以外の技術上の意義があるということができるのであれば,少なくとも実施可能要件に関する限り,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術常識に基づき,本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」というべきである。そして,検討次第では,少なくとも,本願発明に係る活性発泡体を,血行促進効果を発揮させることができるような形で「使用できる」と認める余地があり得ることは,前記(3)イにおいて説示したとおりである。

よって,審決には,かかる点についての検討を十分に行うことなく,上記のような理由により本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たしていないと結論付けた点で,誤りがあるといわざるを得ず,審決は,取消しを免れない。

3  被告の主張について

(1)  被告は,本願明細書に,当業者が本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」ように記載されているというためには,医薬用途に関する発明に準じて,活性発泡体の薬剤との併用効果が当業者が具体的に理解し認識できるように記載されていること,すなわち,併用効果に関する薬理作用を裏付ける必要があると主張する(前記第4の1)。

しかしながら,本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その文言からして,活性発泡体を用いる時期を特定するものにすぎず,その請求項において,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を促進するなどの目的ないし用途が特定されているものではないのは前記2(4)のとおりである。よって,実施可能要件を満たすか否かを判断するに際し,医薬用途に関する発明に準じて,活性発泡体の薬剤との併用効果に関する薬理作用を裏付ける必要があるということはできない。

(2)  被告は,本願発明に係る活性発泡体が,どのような作用・機能に基づいて生体内で酪酸ナトリウムの有する前立腺癌細胞の増殖抑制効果を増強するのかが,本願明細書の記載からは明らかとはいえない旨の審決の判断に,誤りはないと主張する(前記第4の2)。また,被告は,薬剤には様々なものが存在するから,本願明細書に活性発泡体の血行促進作用,代謝促進作用及び癌細胞弱体化作用が記載されていたとしても,活性発泡体があらゆる薬剤の効果を増強するということはできないと主張する(前記第4の4)。

しかしながら,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を促進するなどの目的ないし用途が,本願発明の請求項において特定されていないのは前述のとおりであるし,本願発明が目的とする作用効果は,薬剤の効果の増強だけに限られるものではなく,血行の促進,体質改善等も含まれる。よって,本願明細書の記載から,活性発泡体を薬剤投与の際に用いることにより薬剤の効果がどのように増強されるのかが明らかではなく,また,活性発泡体があらゆる薬剤の効果を増強する効果を有するかどうかが明らかではないとしても,そのことから直ちに,本願明細書の記載が実施可能要件を満たしていないと結論付けることはできない。

(3)  被告は,本願明細書の<試験1>ないし<試験3>の結果によっても,活性発泡体の適用態様について当業者が理解し認識することができる程度に記載されているとはいえないと主張する(前記第4の3)。

しかしながら,活性発泡体の適用態様それ自体については,本願明細書に,寝具状の形態や衣服の一部分又は全部に使用する形態が記載されていることや,<試験2>及び<試験3>はともかくとしても<試験1>には,活性発泡体を敷いた椅子の上に座るとの使用態様が記載されていることからすれば,活性発泡体の適用態様,すなわち「人体に直接又は間接的に接触させて用いる」の内容については,これらの使用態様あるいはこれに類似する使用態様が当然に考えられる。よって,本願明細書には,活性発泡体の適用態様について,当業者が理解し認識することができる程度の記載がされていないとはいえないものというべきである。

(4)  したがって,被告の上記各主張を採用することはできない。

4  結論

以上によれば,原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅)

裁判長裁判官 鶴岡稔彦は,差し支えのため署名押印することができない。 裁判官 田中正哉

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