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知財高等裁判所 平成27年(ネ)10015号 判決 2015年5月27日

控訴人

株式会社ユアビジネス

訴訟代理人弁護士

石川幸吉

被控訴人

昭和飛行機工業株式会社

訴訟代理人弁護士

直江孝久

直江俊弐

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,控訴人に対し,3000万円及びこれに対する平成25年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,控訴人が,被控訴人に対し,(1)主位的に,被控訴人が,詐欺により控訴人の営業秘密である技術情報を取得し,これを第三者に開示して,控訴人の営業上の利益を侵害した,仮に,上記技術情報が営業秘密に当たらないとしても,被控訴人が詐欺によりこれを取得することが不法行為を構成する旨主張して,不正競争防止法4条又は民法709条に基づき,被控訴人が上記技術情報により金型の制作費等の支出を免れたことにより受けた利益の額に相当する損害金4000万円のうち3000万円及びこれに対する不法行為の後である平成25年10月24日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)予備的に,被控訴人が控訴人に対し金型製作の発注をしないことが債務不履行を構成するとして,民法415条に基づき,損害金4000万円及び控訴人が技術情報の開示のために支出した費用に相当する損害金402万円の合計4402万円のうち3000万円及びこれに対する訴状の送達をもって支払を催告した日の翌日である平成25年10月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審が控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が控訴した。

2  前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決を次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1ないし3記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁18行目の「(甲7)」を「(甲1の1ないし3,乙1の1ないし3)」に改める。

(2)  原判決3頁8行目の「被告は,」の次に「平成25年9月,」を,同10行目の「11」の次に「,26,32」をそれぞれ加える。

(3)  原判決3頁14行目の「不正競争防止法6項」を「不正競争防止法2条6項」に改める。

(4)  原判決4頁6行目の「コーナーヒルガイド」を「コーナーヒールガイド」に,7行目の「絞りビート」を「絞りビード」にそれぞれ改める。

(5)  原判決4頁17行目から18行目にかけての「タンクローロー」を「タンクローリ」に改める。

(6)  原判決5頁7行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。

「 すなわち,被控訴人は,控訴人が被控訴人に対して技術情報を開示した後に,大丸鐵興に対して見積りの依頼をし,その際,金型の仕様を控訴人の開示した技術情報を基礎としたものに変更している。」

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  主位的請求(争点(1))について

(1)  不正競争防止法2条1項4号の不正競争の成否(争点(1)ア)について

原判決6頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」の第3の1(1)記載のとおりであるからこれを引用する。

「 この点,控訴人は,他の顧客との間で秘密保持契約を締結しているとしてその契約書(甲15の1,2)を提出する。しかし,これらは,いずれも他の顧客との間のものであり,被控訴人との関係におけるものではないし,本件において控訴人が営業秘密に該当すると主張する技術情報に関する契約であるかどうかも判然としない以上,上記甲号証の記載は,上記認定を左右するものではない。

また,控訴人代表者作成の陳述書(甲16)にも,控訴人の取引する業界では,お互いにそれぞれの有する技術ノウハウを尊重しており,契約の成約時に秘密保持契約を締結していること,成約までの過程で技術資料の交換を行うことはあるが,その際,いちいち秘密保持契約を締結するわけにはいかないため,成約時に契約すること,その間は当事者同士が互いに秘密を守ってきていることが記載されているにとどまっている。上記陳述書の記載は,本件において,控訴人が被控訴人に開示した技術情報について,これに接する者が営業秘密であることが認識できるような措置を講じていたとか,これに接する者を限定していたなど,上記情報が具体的に秘密として管理されている実体があることを裏付けるものではない。」

(2)  不法行為の成否(争点(1)イ)について

ア 前記前提事実,証拠(甲1の1ないし3,甲3ないし7,甲9の1,甲10,16,乙1の1ないし3,乙3の1,乙4の1の1ないし3,乙14,乙16の1,乙18,28,30の1ないし3,乙31,32)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

(ア) 被控訴人は,平成25年1月頃,24キロリットル超短尺タンクトレーラの本格量産化を計画した。そして,これに伴い,鏡板の製作方法を簡易型によるプレス方法から,恒久型を製作し,量産に適したプレス方法を採ることに変更して,鏡板の精度向上と原価低減を図ることを企図し,金型の設計,製作について概算見積りを依頼することにした(甲1の1ないし3,乙1の1ないし3,乙31)。

(イ) 被控訴人は,同年2月4日,控訴人に対し,「弊社では,タンクローリを製造しており,このたび新たな断面形状のタンクローリを開発し量産する事となりました。新たな断面形状のタンクの為,鏡板(タンクの前後と内側に数枚使用)についても新たな成形型が必要になりました。そこで,以前弊社の車両プレス技術に在籍していた菅谷に相談したところ,御社の紹介があり,この度,ご連絡させて頂きました。もし,お時間を頂く事が出来れば,お会いして詳細をご説明させて頂きたく存じます。」と記載した電子メールを送信した(甲1の1)。

(ウ) 控訴人と被控訴人は,同月8日,打合せの機会を持った。その際,被控訴人は,控訴人に対し,同月14日までに,予算獲得のための仮見積りとして,上記(イ)の金型の概算見積りを出すことを求めた。控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が現在使用している金型の材質やプレス機の仕様について質問し,被控訴人は,同月8日,これに回答した(甲1の1,甲4)。

(エ) 控訴人は,同月10日,被控訴人に対し,被控訴人が当時使用していた金型について,製品の寸法のプラス,マイナスの公差があるところ,金型はその中間値を採っているのか,金型のスプリングバックの状況を確認したい等の内容の質問等をする電子メールを送信し,被控訴人は,同日,これに回答した。なお,被控訴人の回答中には,大丸鐵興にも金型の見積りを依頼している旨の記載があった(甲4)。

(オ) 控訴人は,同月11日,被控訴人に対し,「更に質問が有ります 型構造 ①現在の型構造は実におかしな構造です,下型ブランクホルダーがポンチを外さないと抜けない構造です,今後の型は下型ポンチに対して普通にセットできる構造にしたいと考えます。②ブランクホルダーの均圧化のためのディスタンスブロックを設定したいと考えます,③型図ではクッションが200mmのピッチになっています,150mmに変更します,④ブランクの位置決めは調整式の物が必要と考えます,⑤型のガイドはNO1にも関係しますがスライドプレートを使い,コーナーヒールガイドにしたいと考えます。⑥現在の上型の払いのウレタンは回転してしまいます,構造の変更が必要と考えます,」,「私の考えはできるだけ絞り型で精度の出せる見込みを入れたいと考えます,このために金型の製造も,特に見込み寸法が大切と考えます,大丸鐵興殿でも見積もりを出されるとのことですが,これは相見積もりでしょうか? 先日のお話しでは予算のための仮見積もりと言われたと考えます,上記を含めたもろもろの内容をはっきりさせて行かないと難しく思います,単にいただいた型図での見積もりでは問題が多すぎます。」などと記載した電子メールを送信した(甲5,乙18)。

これに対し,被控訴人は,同月12日,控訴人に対し,「精度良い鏡板の成形が可能で,コストを抑えた型であれば特に構造はお任せします。」,「ディスタンスブロックとはどのようなものでしょうか?上下のブランクホルダーの間に入れ,隙間を均一化するブロックでしょうか?鏡表面の歪発生と鏡板精度の向上が図れれば,お任せ致します。」,「私も,できれば絞り型で精度を出し,成形コスト削減のため,可能ならばリトライク工程は止めたいと考えています。」,「今回は,あくまで予算枠取りの超概算見積もりなので,大丸鐵興殿にも正式に見積もりを依頼した訳ではありません。」などと記載した電子メールを送信した(甲5)。

(カ) 控訴人は,同月14日,被控訴人に対し,金型製作のための概算見積りを提出するに際し,金額算出の詳細として,部品の精度を高めるには,当初計画のリストライク型の制作費をなくして絞り型にオーバークラウンなどの見込みを入れて製作したい,現在の金型は強度的に弱く問題がある,トリム型成立性のため絞り型の絞りビードは下向きに変更する,4方向カムカット,4個のスクラップカムカットで成立させたいなどと説明した(甲6)。

(キ) 控訴人は,同月20日,被控訴人に対し,金型製作の日程から,同年3月から正式設計,特に面データの作成,スプリングバックの見込みシミュレーション,ダイレイアウト図の作成に入る時期であるとして,トリム型の考え方,絞り型の考え方についての打合せ等の各種打合せと,ディスタンスブロックを20個設定すること等合計22項目の確認事項についての金型の現地調査が必要である旨記載した電子メールを送信した(乙28)。

(ク) 被控訴人は,同年2月21日,控訴人に対し,金型投資の予算枠が承認されていないこと,被控訴人の調達手続は,製造部門における予算取得,調達部門から製作仕様を発注候補に送付,見積(相見積),調達部門による交渉及び発注先決定,経営部門による経営判断,調達部門による発注という段階を経ること,費用発生が伴う正式設計作業は発注後の方が良いことを伝える電子メールを送信した(甲7)。

これに対し,控訴人は,同日,被控訴人に対し,今回の案件は,予算取りからいろいろな手続があることは十分承知しているとしながら,現在,被控訴人が使用している金型は「失礼ですがひどいものだ」と考えており,見積りを行っていく上では技術的な検討が必要であるが,相見積りではそのような検討をすることは困難であり,「何も考えないで今と同じ金型を安く見積もるだけ」になってしまうなどと指摘し,さらに,「私もこれ以上は何も検討はしないことにします」,「今後の成り行きでは1円にもならないという可能性も有るということでしょうか」などと記載した電子メールを送信した(甲3)。

その後,被控訴人は,控訴人に対し,予算を獲得できず,金型の製作は先送りとなった旨の連絡をした(甲16,乙31,32)。

(ケ) 被控訴人は,控訴人に対し,同年4月16日,再度プレス型の金型製作の検討をすることになった旨の連絡をする電子メールを送信し(乙14),さらに,同月24日,見積りの提出を依頼する電子メールを送信した(乙3の1)。

控訴人は,同年4月25日,被控訴人に対し,被控訴人の見積り依頼には,控訴人のようなメーカー側がリスクを負うことができない事柄が含まれており,これらは,本来被控訴人側が自らの予算でテスト等をすべきであることや,被控訴人の見積り依頼には,相見積りの対象にすることに無理がある内容が含まれていることなどを指摘し,5月10日までに見積書を提出するが,その見積書には,各種の条件を書かせてもらうことになると記載した電子メールを送信した(甲9の1)。そして,控訴人は,同年5月8日,金型製作のための概算見積り(乙4の1の1,2)を提出するに当たり,その条件について,控訴人が製造しようとする金型についてスプリングバックの見込みを絞り型に盛り込んで製作すること,トリム型について全周の縦壁を吊りカム構造の金型1型でカットする構造とし,コーナーにはカムカットでスクラップを4分割する旨説明をした(乙4の1の3)。

(コ) 控訴人は,同年6月6日,被控訴人に対し,控訴人はスプリングバックを見込み,外周の長さは現行と同一の金型を製造するつもりであると伝えた(甲10)。

(サ) その後,控訴人は,同年6月11日,同年7月31日にも見積書を提出しているが,最終的に被控訴人から金型製作の発注を受けたのは大丸鐵興であったことなどは前記第2の1(3)ないし(5)(原判決2頁19行目から同3頁10行目まで)に記載のとおりである。

イ 上記認定の事実によると,控訴人は,被控訴人からの見積りの依頼に応じ,製作しようとする金型について,スプリングバックを絞り型に見込む,ブランクホルダー均圧化のためのディスタンスブロックを設定する,ブランクの位置決めを調整可能にするため,型のガイドにスライドプレートを用い,コーナーヒールガイドとする,絞り型の絞りビードを下向きにし,4方向カムカット,4個のスクラップカットとすることなどを被控訴人に告げたということができるが,被控訴人がこれらの情報を不正に取得し,控訴人に損害を与えたとの事実を認めることは困難であるといわざるを得ない。その理由は,次のとおりである。

(ア) まず,電子メール等の客観的証拠から認められる本件交渉の経過の概要は,前記ア(ア)ないし(コ)に記載したとおりであって,被控訴人は,控訴人に対し,初めての打合せを行った平成25年2月8日の2日後である同月10日には,大丸鐵興にも見積りを依頼していることを告げている(前記ア(エ)。なお,この時点までは,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が使用していた金型の内容について質問をしていたのみで,控訴人のいう技術情報を開示していた節はうかがわれない。)。そして,控訴人が被控訴人に対し,その後の打合せ等に関連して送信した電子メールの中には,被控訴人が相見積りという形で手続を進めていることを認識した上で,そのような形で手続を進めることに疑問や不満を表明しているものが少なくない(前記ア(オ),(ク),(ケ))。さらに,前記アに認定した経過からもうかがわれるとおり,控訴人が開示したと主張する情報の多くは,控訴人が,疑問点の提起や提案という形で進んで開示したものであることがうかがわれる一方,被控訴人は,むしろ費用発生を伴う正式設計は発注後がよいと伝えるなど(前記ア(ク)),中身の検討に立ち入っていこうとする控訴人を制限しようとしていた節もうかがわれる。

そして,仮に,控訴人の主張するとおり,被控訴人が控訴人に対し,必ず控訴人に金型を発注するなどといった虚偽の事実を告げ,控訴人から技術情報を聞き出そうとしていたのだとすると,それにもかかわらず,何故被控訴人は,控訴人に対し,相見積りを行っている事実を告げたのか(前記アで認定したとおり,相見積もりの事実は,平成25年2月中にも,また,いったん交渉が中断し,再開した後である同年4月以降にも告げられているもので,控訴人もこのことを認識した電子メールを発信している。)が疑問になってこざるを得ない。また,控訴人の側も,必ず発注すると告げられ,それを信じていたのであるとすれば,相見積りが行われていることを知った場合には,これに抗議をしたり,相見積りの方針が撤回され,控訴人への受注が確約されるまでは技術情報の提供に応じられないと主張したり,情報提供をする場合には,控訴人に受注がされることを前提に情報提供するものである旨釘を刺すなどといった対応をするのが通常であると考えられるにもかかわらず(前記アの(エ)(オ)記載のとおり,控訴人は,平成25年2月10日の時点で既に,少なくとも相見積りの動きがあることを認識しているのであるから,上記のような対応は十分に可能であったはずである。),見積りに関するやりとりが本格的に行われていた,平成25年2月及び同年4月から6月にかけて控訴人が送信した電子メール等の上では,そのような対応がされた節はうかがわれず,相見積りは相当ではないなどといった指摘がされるのにとどまっていることも疑問であって,これらの事実に照らしてみると,被控訴人が,控訴人に対し,必ず控訴人に発注すると述べるなどの欺罔行為を行い,控訴人から技術情報を不正に取得したと認めることは困難であるといわざるを得ない(控訴人は,控訴人代表者と被控訴人担当者の尋問を行わないことについて不満を述べているが,交渉の経過を記載した電子メールや,上記両名の陳述書の記載を検討すれば,上記のような認定判断は十分に可能なのであって,上記両名の尋問の必要性は認められない。)。

(イ) また,控訴人は,控訴人が提供した情報は,財産的価値のある技術情報であり,これを被控訴人に提供したことによって営業上の利益を侵害されたと主張するのであるが,上記の情報は,金型の概算見積りを依頼した被控訴人とこれを受けた控訴人とが,控訴人において概算見積りを行う前提として,見積り対象となる金型の仕様を確定するための打合せのやりとりの中で出たものであり,控訴人が見積りを行う際の前提となる事項を控訴人において示したものすぎないのであって,このような見積りの前提となる打ち合わせの中で,真に財産的価値のある技術情報(対価の支払がなければ提供されないような情報)が提供されることがあり得るのかという点も疑問であるといわざるを得ない(控訴人は,必ず発注するという被控訴人の発言を信じたから情報を提供したと主張するのであるが,その前提に疑問があることは前記(ア)において説示したとおりである。)。

さらに,本件証拠上,上記情報の全部又は一部が控訴人独自のものであるとか,上記情報を用いて製作した金型が控訴人のものとして一定の評価を受けているなどの事情はうかがえないのであるから,この点からしても,上記の情報が財産的価値のある情報であったと認定することは困難である。このほか,控訴人は,上記情報を告げた結果,被控訴人が余分な金型制作費等の支出を免れる利益を得た旨主張するが,そのことが直ちに控訴人の損失に結び付くものではなく,その営業上の利益が侵害されたといえるものではない。

そして,他に,本件証拠上,上記情報を告げたことと相当因果関係のある控訴人の営業上の利益の侵害の内容を具体的に示す事情もうかがえない。

そうすると,被控訴人が上記情報を取得したことにより,控訴人がその営業上の利益を侵害されたと認めることはできない。

ウ なお,控訴人は,被控訴人が,控訴人が技術情報を開示した後に,大丸鐵興に対して見積りの依頼をし,その際には,金型の仕様を控訴人の開示した技術情報を基礎としたものに変更している旨主張する(前記第2の3(1)イ(ア))。

しかし,仮に,控訴人の上記主張を前提としたとしても,そのことをもって,控訴人がその営業上の利益を侵害されたと認めることはできないのは前記イにおいて説示したとおりである。

エ よって,不法行為に係る控訴人の主位的請求は,理由がない。

2  予備的請求(争点(2))について

前記1(2)アにおいて認定したところに照らすと,確かに,被控訴人は,控訴人に対して金型製作費用の概算見積りの提出を依頼し,控訴人が被控訴人に対し概算見積りを提出しているところ,その際,被控訴人は,控訴人に対し,製作する金型の仕様について希望や概要を説明している。

しかし,前記1(2)イにおいて説示したとおり,上記やりとりは,見積りの前提としての打合せのやりとりにすぎないし,被控訴人が控訴人に対し,相見積りを行っていることも告げていたこと(前記1(2)ア(エ)等)も併せ考えると,上記の事情をもって,控訴人,被控訴人間に,明示的又は黙示的に本件契約が成立したということはできず,他にこれを認めるに足りる的確な客観的証拠はない。

よって,債務不履行に係る控訴人の予備的請求も,理由がない。

3  その他,控訴人が種々主張する点は,上記1及び2の認定を左右するものではない。また,原審の審理及び原判決の説示につきに何ら違法な点はない。

4  結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がない。

よって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 大西勝滋 裁判官 神谷厚毅)

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